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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002367
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】運搬システム
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
B25J13/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101513
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 克浩
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS10
3C707KS09
3C707KS11
3C707KS28
3C707KT01
3C707KT06
3C707LT08
3C707LU05
3C707LV01
(57)【要約】
【課題】作業者と協働ロボットとの協働で運搬物を運搬する運搬システムを安価で作業効率に優れたものとするのに有効な技術を提供する。
【解決手段】運搬システム1は、作業者Cと協働ロボット20との協働で運搬物10を運搬するものであり、運搬物10を保持する作業者Cと並行して運搬物10を保持するように協働ロボット20に設けられたロボットアーム21と、ロボットアーム21に入力された外部荷重Fに関する外部荷重情報IFを検出する検出装置30と、協働ロボット20を制御する制御装置40と、を備え、制御装置40は、外部荷重Fが作業者Cから運搬物10を介してロボットアーム21に入力されたものである場合に、検出装置30で検出された外部荷重情報IFに基づいてロボットアーム21の動きを作業者Cによる運搬物10の運搬動作に追従させる作業者追従制御を行うように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者と協働ロボットとの協働で運搬物を運搬する運搬システムであって、
上記運搬物を保持する上記作業者と並行して上記運搬物を保持するように上記協働ロボットに設けられたロボットアームと、
上記ロボットアームに入力された外部荷重に関する外部荷重情報を検出する検出装置と、
上記協働ロボットを制御する制御装置と、
を備え、
上記制御装置は、上記外部荷重が上記作業者から上記運搬物を介して上記ロボットアームに入力されたものである場合に、上記検出装置で検出された上記外部荷重情報に基づいて上記ロボットアームの動きを上記作業者による上記運搬物の運搬動作に追従させる作業者追従制御を行うように構成されている、運搬システム。
【請求項2】
上記ロボットアームは、アーム関節を構成する軸部と、上記軸部に内蔵された駆動モータと、を有し、
上記検出装置は、上記駆動モータのモータ電流を計測する電流計測部を有し、上記外部荷重の入力時に上記電流計測部で計測されたモータ電流の変動値を上記外部荷重情報として検出するように構成されている、請求項1に記載の運搬システム。
【請求項3】
上記制御装置は、上記作業者追従制御において、上記検出装置の上記電流計測部で計測された上記モータ電流の変動値から上記作業者による上記運搬物の作業者運搬速度を導出し、この作業者運搬速度に上記協働ロボットによる上記運搬物のロボット運搬速度を近づけるように上記ロボットアームの上記駆動モータをフィードバック制御する、請求項2に記載の運搬システム。
【請求項4】
上記作業者を撮影する撮影装置を備え、
上記制御装置は、上記撮影装置で取得した画像情報に基づいて上記作業者が上記運搬物の運搬動作を実行中であることが認識されたとき、上記外部荷重が上記作業者から上記運搬物を介して上記ロボットアームに入力されたものであると判定して上記作業者追従制御を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の運搬システム。
【請求項5】
上記制御装置は、上記撮影装置による画像情報に基づいて上記作業者が上記運搬物の運搬動作を実行中でないことが認識されたとき、上記作業者追従制御を実行することなくシステム異常を報知する異常報知制御を行う、請求項4に記載の運搬システム。
【請求項6】
上記協働ロボットは、上記ロボットアームによる可搬重量が上記運搬物の重量を下回るように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の運搬システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両部品を自動で組付けるための自動組付装置が開示されている。この自動組付装置は、ロボットに取付けた把持ハンドで車両部品を把持、運搬して車体に取付けるとともに、別のロボットに取付けた締結具締付装置でこの車両部品を車体に締付けるように構成されている。この自動組付装置によれば、作業者自らが行っていた車両部品の高度な組付け作業をロボットの使用により自動化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59-53275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記自動組付装置を採用すると、高重量の車両部品に対してロボットを大型化する必要がある。また、車両部品を車体の両側からロボットで組付けることを想定した場合には、複数のロボットを使用する必要がある。このため、いずれの場合も装置コストが高くなるという問題が生じ得る。
【0005】
そこで、このような問題に対しては、作業者による作業を補助することができる「協働ロボット」と称されるロボットを使用するのが有効である。この協働ロボットによれば、車両部品のような運搬物の運搬から組付けまでの作業を作業者と協働して行うことで、ロボット側の負荷を抑えることが可能になる。したがって、車両部品の運搬に小型のロボットを使用することができ、装置コストを低く抑えることができる。
【0006】
ところが、協働ロボットを使用すると、以下のような問題が起こり得る。すなわち、ロボットアームによる車両部品の運搬速度が低いと、この運搬速度に合うように作業者がゆっくりと或いは間欠的に動くことになり作業効率が低下する。かといって、ロボットアームによる車両部品の運搬速度を上げ過ぎると、今度は、作業者がロボットアームの動きに追従して動くことが難しくなる。この場合、運搬作業を継続して行うことができず、運搬速度が低い場合と同様に作業効率が低下する。このような作業効率の低下の問題は、車体への車両部品の組付け前の運搬時のみならず、車両部品のような各種の運搬物を単に運搬するときにおいても同様に起こり得る。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、作業者と協働ロボットとの協働で運搬物を運搬する運搬システムを安価で作業効率に優れたものとするのに有効な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
作業者と協働ロボットとの協働で運搬物を運搬する運搬システムであって、
上記運搬物を保持する上記作業者と並行して上記運搬物を保持するように上記協働ロボットに設けられたロボットアームと、
上記ロボットアームに入力された外部荷重に関する外部荷重情報を検出する検出装置と、
上記協働ロボットを制御する制御装置と、
を備え、
上記制御装置は、上記外部荷重が上記作業者から上記運搬物を介して上記ロボットアームに入力されたものである場合に、上記検出装置で検出された上記外部荷重情報に基づいて上記ロボットアームの動きを上記作業者による上記運搬物の運搬動作に追従させる作業者追従制御を行うように構成されている、運搬システム、
にある。
【発明の効果】
【0009】
上述の態様の運搬システムにおいて、協働ロボットのロボットアームは、運搬物を保持する作業者と並行して運搬物を保持するように使用される。すなわち、作業者とロボットアームが運搬物に別々にアクセスしてこの運搬物を保持するように作業者と協働ロボットが協働する。これにより、運搬物の重量負荷を作業者と協働ロボットで分担することができ、ロボットのみで運搬物を運搬する構造に比べて、小型で安価なロボットをその数を増やすことなく使用できるという利点がある。一方で、作動者とロボットアームが別々に動作し得るため、作動者の動きとロボットアームの動きに差が生じる場合が想定される。この場合、作業者がロボットアームの動きに追従して動くことになり、作業効率の低下が懸念される。
【0010】
そこで、本態様の運搬システムは、協働ロボットを作業者に追従させる作業者追従制御を行うように構成されている。この作業者追従制御は、外部荷重が作業者から運搬物を介してロボットアームに入力されたものである場合に、検出装置で検出された外部荷重情報に基づいてロボットアームの動きを作業者による運搬物の運搬動作に追従させる制御である。この作業者追従制御によれば、ロボットアームを作業者の動きに追従させることで、作業者の動きに合った運搬作業を協働ロボットと協働で実行でき、運搬物の運搬作業の作業効率を向上させることができる。
【0011】
以上のごとく、上述の態様によれば、作業者と協働ロボットとの協働で運搬物を運搬する運搬システムを安価で作業効率に優れたものとするのに有効な技術を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1の運搬システムの全体構成を示す斜視図。
図2図1中の制御装置の第1演算処理部のブロック図。
図3図1中の制御装置の第2演算処理部のブロック図。
図4図1の運搬システムによる運搬処理制御のフローチャート。
図5図4中の作業者追従制御のフローチャート。
図6図4中の異常報知制御のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0014】
上述の態様の運搬システムにおいて、上記ロボットアームは、アーム関節を構成する軸部と、上記軸部に内蔵された駆動モータと、を有し、上記検出装置は、上記駆動モータのモータ電流を計測する電流計測部を有し、上記外部荷重の入力時に上記電流計測部で計測されたモータ電流の変動値を上記外部荷重情報として検出するように構成されているのが好ましい。
【0015】
この運搬システムによれば、ロボットアームに入力された外部荷重に関する外部荷重情報を検出装置の電流計測部を利用してモータ電流の変動値として検出することができる。このため、外部荷重情報の検出構造を電流計測部によって簡素化できる。
【0016】
上述の態様の運搬システムにおいて、上記制御装置は、上記作業者追従制御において、上記検出装置の上記電流計測部で計測された上記モータ電流の変動値から上記作業者による上記運搬物の作業者運搬速度を導出し、この作業者運搬速度に上記協働ロボットによる上記運搬物のロボット運搬速度を近づけるように上記ロボットアームの上記駆動モータをフィードバック制御するのが好ましい。
【0017】
この運搬システムによれば、作業者による作業者運搬速度に協働ロボットによるロボット運搬速度を近づけるようにロボットアームの駆動モータをフィードバック制御することによって、ロボットアームの動きを作業者による運搬物の運搬動作に追従させる作業者追従制御を行うことができる。
【0018】
上述の態様の運搬システムは、上記作業者を撮影する撮影装置を備え、上記制御装置は、上記撮影装置で取得した画像情報に基づいて上記作業者が上記運搬物の運搬動作を実行中であることが認識されたとき、上記外部荷重が上記作業者から上記運搬物を介して上記ロボットアームに入力されたものであると判定して上記作業者追従制御を的確に行うのが好ましい。
【0019】
この運搬システムによれば、作業者を撮影する撮影装置を利用して作業者が運搬物の運搬動作を実行中であるか否かを認識したうえで、その認識結果に基づいて外部荷重が作業者から運搬物を介してロボットアームに入力されたものであるか否かを判定することができる。この場合、ロボットアームに入力された外部荷重の要因を判定する精度を高めることができ、作業者追従制御が不要にもかかわらず実行されるのを防ぐことができる。
【0020】
上述の態様の運搬システムにおいて、上記制御装置は、上記撮影装置による画像情報に基づいて上記作業者が上記運搬物の運搬動作を実行中でないことが認識されたとき、上記作業者追従制御を行うことなくシステム異常を報知する異常報知制御を行うのが好ましい。
【0021】
この運搬システムによれば、ロボットアームに入力された外部荷重の要因が作業者によるものではない場合に、この要因がシステム異常によるものであることを異常報知制御によって作業者に速やかに報知することができる。
【0022】
上述の態様の運搬システムにおいて、上記協働ロボットは、上記ロボットアームによる可搬重量が上記運搬物の重量を下回るように構成されているのが好ましい。
【0023】
この運搬システムによれば、ロボットアームによる可搬重量が運搬物の重量を下回るように協働ロボットを構成することで、協働ロボット自体を小型化することができる。
【0024】
以下、上述の態様の一実施形態である運搬システムの具体的な構造について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1の運搬システム1は、作業者Cと協働ロボット20との協働で運搬物10を運搬するためのものである。この運搬システム1は、協働ロボット20と、検出装置30と、制御装置40と、撮影装置70と、を主体に構成されている。これらの構成要素に別の要素が適宜に追加されてもよい。
【0026】
1.協働ロボット20の構成
協働ロボット(以下、単に「ロボット」ともいう。)20は、多関節ロボットである。このロボット20は、ロボットアーム21を有する。このロボットアーム21は、運搬物10を保持する作業者Cと並行して運搬物10を保持するようにロボット20に設けられている。つまり、ロボットアーム21は、そのアーム先端部である保持部21aで運搬物10を直に保持するように構成されており、保持部21aによる保持箇所は、運搬物10のうち作業者Cが手指Caで左右両側から掴んで直に保持する箇所とは別の箇所となっている。
【0027】
したがって、本形態でいう「協働」とは、作業者Cとロボットアーム21が運搬時に運搬物10にそれぞれ独立してアクセスして運搬物10を保持する態様をいう。この場合、作業者Cが運搬物10を直に保持する一方で、これと並行してロボットアーム21が運搬物10を直に保持する。これに対して、例えば、運搬物10を保持した状態のロボットアーム21を作業者Cが掴んで保持する態様は、ロボットアーム21が運搬物10を直に保持するものの作業者Cが運搬物10を直に保持するものではないため、ここでいう「協働」とは本質的に相違する態様である。
【0028】
運搬物10は、作業者Cとロボット20との協働によって、例えば、符号「10(A)」が付されているA地点から符号「10(B)」が付されているB地点まで運搬される。このとき、B地点は、運搬物10の単なる移し替え先であってもよいし、或いは、運搬物10を車両部品とするときこの車両部品を車体に組み付けるときの組付け先であってもよい。
【0029】
ロボット20は、そのロボットアーム21による可搬重量が運搬物10の重量を下回るように構成されているのが好ましい。この場合、運搬物10の重量分の荷重負荷を作業者Cとロボット20とで分担して受けるようにする。これにより、ロボットアーム21による可搬重量が運搬物10の重量を上回るような構造に比べて、ロボット20自体を小型化できるという利点がある。
【0030】
なお、作業者Cとロボット20とで分担して運搬を行うことができるものであれば、運搬物10の大きさや形状は特に限定されるものではない。車両部品をはじめ、各種の物品を運搬物10として使用できる。作業者Cは、運搬物10を掴んで保持したり、運搬物10を下方から支持して保持したりすることができる。
【0031】
ロボットアーム21は、そのアーム関節を構成する複数の軸部22と、各軸部22に内蔵された駆動モータ23と、を有する。各駆動モータ23は、保持部21aの位置及び向きを所望の状態に制御するようにロボットアーム21を駆動する機能を果たす。
【0032】
ロボットアーム21において、軸部22及び駆動モータ23の数は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更可能である。また、ロボットアーム21の保持部21aの構造は特に限定されるものではない。保持部21aの構造として、例えば、運搬物10を掴んで保持する構造、運搬物10を下方から支持して保持する構造、運搬物10を吸着保持する構造などを採り得る。
【0033】
2.検出装置30の構成
検出装置30は、ロボットアーム21にその保持部21aから入力された外部荷重Fに関する外部荷重情報IFを検出する機能を果たす。この機能を実現するために、検出装置30は、駆動モータ23に電気的に接続されており、この駆動モータ23のモータ電流を計測する電流センサとしての電流計測部31を有する。
【0034】
この検出装置30によれば、ロボットアーム21に対する外部荷重Fの入力時に電流計測部31で計測されたモータ電流の変動値を外部荷重情報IFとして検出することができる。すなわち、ロボットアーム21に外部荷重Fが入力されると、この外部荷重Fに対抗してロボットアーム21の姿勢を維持するのに駆動モータ23におけるモータ電流が増加する。このため、このときのモータ電流の増加分が外部荷重Fによるものであると判断できる。したがって、モータ電流の変動値は、外部荷重Fを間接的に示す外部荷重情報IFとされる。
【0035】
検出装置30によって検出された外部荷重情報IFは、この検出装置30に電気的に接続されている制御装置40へと伝送される。この場合、外部荷重Fは、運搬物10を把持している作業者Cから入力される入力荷重を対象としている。このため、運搬物10の重量分に相当する荷重は外部荷重Fから除外される。
【0036】
なお、検出装置30は、外部荷重情報IFを検出する機能を少なくとも有するものであればよく、電流計測部31に代えて或いは加えて、駆動モータ23のモータ電圧の変動値を検出する電圧センサや、駆動モータ23に作用するトルクの変動値を検出するトルクセンサ(力学センサ)などを構成要素としてもよい。また、検出装置30は、ロボット20や制御装置40に内蔵されてもよいし、或いはロボット20や制御装置40とは別体の装置として構成されてもよい。
【0037】
3.制御装置40の構成
制御装置40は、ロボット20を制御する機能を有する制御盤である。この制御装置40によれば、特に、運搬物10をロボットアーム21の保持部21aで保持して状態で運搬するようにロボットアーム21の動きが制御される。また、この制御装置40には、ロボット20の異常を報知するための報知器41が設けられている。
【0038】
4.撮影装置70の構成
撮影装置70は、作業者Cとのその周辺領域を撮影する機能を有するカメラによって構成されている。この撮影装置70によれば、撮影対象で反射した反射光を撮像素子で受光することで、この撮像素子に画像が撮像される。撮像素子として、典型的には、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサーや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサーが採用される。この撮影装置70によれば、作業者Cとのその周辺領域の様子を示す三次元画像データである画像情報IGを取得することができる。そして、撮影装置70によって取得された画像情報IGは、この撮影装置70に電気的に接続されている制御装置40へと伝送される。
【0039】
5.制御装置40の演算処理部の構造
制御装置40は、第1演算処理部50(図2を参照)と第2演算処理部60(図3を参照)を有する。この制御装置40は、各演算処理部における演算処理の実行のために、既知のCPU(Central Processing Unit)、ROM、RAM、外部機器との間での入出力を行うインターフェース等を搭載している。
【0040】
図2に示されるように、制御装置40の第1演算処理部50は、外部荷重情報取得部51,52と、データ入力部53と、ロボット運搬速度取得部54と、データ記憶部55と、モデル生成部56と、モデル記憶部57と、作業者運搬速度導出部58と、運搬速度評価部59と、を備えている。
【0041】
外部荷重情報取得部51は、検出装置30から外部荷重情報IFを取得して、この外部荷重情報IFをデータ記憶部55に入力する。これに対して、外部荷重情報取得部52は、検出装置30から外部荷重情報IFを取得して、この外部荷重情報IFを作業者運搬速度導出部58に入力する。
【0042】
データ入力部53は、運搬速度推定用モデルMaを生成するために必要となる各種のデータをデータ記憶部55に入力する。運搬速度推定用モデルMaは、外部荷重情報IFと作業者Cによる運搬物10の運搬速度(後述の「作業者運搬速度Va」)との関係性を規定したモデルである。この運搬速度推定用モデルMaは、設定済みパラメータを含む設定済みモデル(「訓練済みパラメータを含む訓練済みモデル」とも称される。)である。したがって、ここでいう「各種のデータ」には、作業者Cによる運搬物10の運搬速度を機械学習(一般的に「AI学習」と称される。)するために予め準備された作業データセット、作業用プログラム(作業前パラメータ)などが含まれている。
【0043】
ロボット運搬速度取得部54は、ロボット20からそのロボット運搬速度Vbを取得する。このロボット運搬速度Vbは、ロボット20による運搬物10の運搬速度であり、本形態では、ロボットアーム21の保持部21aの移動速度に相当する。例えば、駆動モータ23に回転の機械的変位量を検出可能に内蔵されたロータリエンコーダ(図示省略)等の検出手段を使用し、この検出手段によって検出されたデータに基づいてロボット運搬速度Vbを演算することができる。
【0044】
モデル生成部56は、データ記憶部55から読み出した作業データセットを使用した機械学習によって運搬速度推定用モデルMaを生成する。そして、このモデル生成部56は、生成した運搬速度推定用モデルMaをモデル記憶部57に出力する。なお、運搬速度推定用モデルMaを機械学習によって生成するのに代えて、モデル生成部56が、データ記憶部55に予め記憶されている相関モデル、回帰モデル、マッピングデータ等にしたがって運搬速度推定用モデルMaを生成するようにしても良い。
【0045】
作業者運搬速度導出部58は、外部荷重情報取得部52が取得した外部荷重情報IFを、モデル記憶部57から読み出した運搬速度推定用モデルMaに入力する。これにより、作業者運搬速度導出部58は、作業者Cによる運搬物10の運搬速度である作業者運搬速度Vaを導出する。この作業者運搬速度Vaは、本形態では、運搬物10と実質的に一体に動く作業者Cの手指Caの移動速度に相当する。
【0046】
運搬速度評価部59は、作業者運搬速度導出部58で導出された作業者運搬速度Vaと、ロボット運搬速度取得部54で取得されたロボット運搬速度Vbと、を比較し、必要に応じてロボット運搬速度Vbを補正したうえでロボット20にロボットアーム21の駆動モータ23の制御のための制御信号Saを出力する。このため、補正後のロボット運搬速度Vbで制御されたロボット20については、そのロボット運搬速度Vbがロボット運搬速度取得部54によって再度取得される。
【0047】
図3に示されるように、制御装置40の第2演算処理部60は、画像情報取得部61,62と、データ入力部63と、データ記憶部64と、モデル生成部65と、モデル記憶部66と、作業者状態評価部67と、を備えている。
【0048】
画像情報取得部61は、撮影装置70から画像情報IGを取得して、この画像情報IGをデータ記憶部64に入力する。これに対して、画像情報取得部62は、撮影装置70から画像情報IGを取得して、この画像情報IGを作業者状態評価部67に入力する。
【0049】
データ入力部63は、作業者状態推定用モデルMbを生成するために必要となる各種のデータをデータ記憶部64に入力する。作業者状態推定用モデルMbは、画像情報IGと作業者Cの運搬作業の状態との関係性を規定したモデルである。この作業者状態推定用モデルMbは、設定済みパラメータを含む設定済みモデル(「訓練済みパラメータを含む訓練済みモデル」とも称される。)である。したがって、ここでいう「各種のデータ」には、作業者Cの運搬作業の状態を機械学習するために予め準備された作業データセット、作業用プログラム(作業前パラメータ)などが含まれている。
【0050】
モデル生成部65は、データ記憶部64から読み出した作業データセットを使用した機械学習によって作業者状態推定用モデルMbを生成する。そして、このモデル生成部65は、生成した作業者状態推定用モデルMbをモデル記憶部66に出力する。なお、作業者状態推定用モデルMbを機械学習によって生成するのに代えて、モデル生成部65が、データ記憶部64に予め記憶されている相関モデル、回帰モデル、マッピングデータ等にしたがって作業者状態推定用モデルMbを生成するようにしても良い。
【0051】
作業者状態評価部67は、画像情報取得部62が取得した画像情報IGを、モデル記憶部66から読み出した作業者状態推定用モデルMbに入力する。これにより、作業者状態評価部67は、作業者Cの運搬作業の状態(作業者Cの有無、作業者Cの移動方向、作業者Cの移動軌跡などの情報)を導出し、これに基づいて作業者Cが実際に運搬物10の運搬作業を実施中であるか否かを判定する。
【0052】
6.運搬システム1による運搬処理制御
次に、特に、図4図6を参照しながら、上記構成の運搬システム1による運搬処理制御について説明する。
【0053】
実施形態1にかかる運搬処理制御は、図4中のステップS101からステップS108までのステップを順次実行することによって達成される。なお、必要に応じて、別のステップを追加したり、いずれかのステップを複数に分割或いは削除したり、ステップの順番を入れ替えたりしてもよい。
【0054】
ステップS101は、作業者Cが撮影装置70を起動することによって、この撮影装置70による撮影を開始するステップである。このステップS101によれば、撮影装置70から画像情報IGを常時に取得することで、作業者Cの運搬作業の状態を常時に認識することが可能になる。
【0055】
ステップS102は、作業者Cがロボット20を起動することによってロボット制御を開始するステップである。このステップS101によれば、ロボット20は作業者Cとの協働で運搬物10を運搬する準備が整う。
【0056】
ステップS103は、検出装置30の電流計測部31によって駆動モータ23のモータ電流を計測し、計測したこのモータ電流の変動値が予め設定されている閾値を上回るか否かを判定するステップである。このステップS103によれば、駆動モータ23において実測されたモータ電流の変動値が評価される。ステップS103においてモータ電流の変動値が閾値以下であると判定されたことを条件にステップS104にすすむ。このステップS103は、例えば、制御装置40の第1演算処理部50が実行する。
【0057】
ステップS104は、作業者Cが運搬作業を実施中であるか否かを判定するステップである。このステップS104では、制御装置40の作業者状態評価部67(図3を参照)による判定結果を使用する。このステップS104によれば、作業者Cが実際に運搬物10の運搬作業を実施中であるか否かを識別することができる。ステップS104において作業者Cが運搬作業を実施中であると判定された場合(図4中の「Yes」の場合)にステップS105にすすみ、そうでない場合(図4中の「No」の場合)にステップS106にすすむ。
【0058】
本形態では、ステップS104で撮影装置70による画像情報IGに基づいて作業者Cが運搬作業を実施中であることが認識されたとき、外部荷重F(図1を参照)が作業者Cから運搬物10を介してロボットアーム21に入力されたものであると判定して、ステップS105の「作業者追従制御」を実行する。作業者追従制御は、概して、検出装置30で検出された外部荷重情報IFに基づいてロボットアーム21の動きを作業者Cによる運搬物10の運搬動作に追従させる制御である。
【0059】
これに対して、ステップS104で撮影装置70による画像情報IGに基づいて作業者Cが運搬作業を実施中でないことが認識されたとき、運搬システム1の異常が発生していると判定して、ステップS105の「作業者追従制御」を実行することなく、ステップS106の「異常報知制御」を実行する。なお、ステップS104の「No」の場合に、ステップS106をスキップしてそのまま運搬処理制御を終了するように変更しても良い。
【0060】
ステップS107は、作業者Cがロボット20を停止させることによってロボット制御を終了するステップである。また、ステップS108は、作業者Cが撮影装置70を停止させることによって、この撮影装置70による撮影を終了するステップである。
【0061】
図5に示されるように、図4中のステップS105に相当する「作業者追従制御」は、ステップS105aからステップS105eまでのステップを有する。
【0062】
ステップS105aは、作業者運搬速度Vaを導出するステップである。このステップS105aでは、制御装置40の作業者運搬速度導出部58(図2を参照)を使用する。このステップS105aによれば、外部荷重情報IF(本形態では、駆動モータ23のモータ電流の変動値)を運搬速度推定用モデルMaに入力することによって、作業者Cの手指Caの移動速度に相当する作業者運搬速度Vaを導出することができる。
【0063】
ステップS105bは、ロボット運搬速度Vbを取得するステップである。このステップS105bでは、制御装置40のロボット運搬速度取得部54(図2を参照)を使用する。このステップS105bによれば、ロータリエンコーダ等の検出手段によって駆動モータ23に回転の機械的変位量を検出することで、ロボットアーム21の保持部21aの移動速度に相当するロボット運搬速度Vbを導出することができる。
【0064】
ステップS105cは、ステップS105aで導出した作業者運搬速度Vaと、ステップS105bで導出したロボット運搬速度Vbと、を比較するステップである。このステップS105cでは、制御装置40の運搬速度評価部59(図2を参照)を使用する。このステップS105cによれば、作業者運搬速度Vaとロボット運搬速度Vbの速度差が演算される。
【0065】
ステップS105dは、ロボット運搬速度Vbの補正の要否を判定するステップである。このステップS105dでは、ステップS105cの場合と同様に制御装置40の運搬速度評価部59を使用する。このステップS105dによれば、作業者運搬速度Vaとロボット運搬速度Vbの速度差が閾値を超える程度に大きい場合にロボット運搬速度Vbの補正が必要であると判定されて、ステップS105eにすすむ。これに対して、作業者運搬速度Vaとロボット運搬速度Vbの速度差が閾値を下回る程度に微小である場合にロボット運搬速度Vbの補正は不要であると判定されて、そのままステップS105の処理を終了する。
【0066】
ステップS105eは、ロボット運搬速度Vbを補正するステップである。このステップS105eでは、ステップS105c,105dの場合と同様に制御装置40の運搬速度評価部59を使用する。このステップS105eによれば、ロボット運搬速度Vbが作業者運搬速度Vaに近づくように補正される。そして、補正後のロボット運搬速度Vbを実現するための制御信号Saがロボット20に出力され、この制御信号Saに基づいてロボットアーム21の駆動モータ23が制御される。
【0067】
ステップS105eの実行後は、再びステップS105bに戻り、このステップS105bからステップS105eまでの一連の処理(フィードバック制御)が順次実行される。これにより、作業者運搬速度Vaにロボット運搬速度Vbを近づけるようにロボットアーム21の駆動モータ23がフィードバック制御される。
【0068】
このようなフィードバック制御によれば、ロボット運搬速度Vbを作業者運搬速度Vaに一致させるか、若しくはロボット運搬速度Vbを作業者運搬速度Vaに近似させることが可能になる。このため、作業者C側の運搬速度Vaにロボット20側の運搬速度Vbを近づけるようにロボットアーム21の動きを作業者Cによる運搬物10の運搬動作に追従させることができる。その結果、ロボット20に作業者Cの作業ペースに合わせた協働作業を実行させることができる。
【0069】
図6に示されるように、図4中のステップS106に相当する「異常報知制御」は、ステップS106a及びステップS106bを有する。
【0070】
ステップS106aは、運搬システム1の異常発生の判定結果に応じて、ロボット制御を強制終了するステップである。また、ステップS106bは、運搬システム1の異常発生の判定結果に応じて、報知器41に異常を報知するための制御信号を出力する。これにより、報知器41は、異常発生を報知するための異常報知状態を、音声出力、画面出力、印字出力などの出力態様を利用して出力する。
【0071】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0072】
実施形態1の運搬システム1において、ロボット20のロボットアーム21は、運搬物10を保持する作業者Cと並行して運搬物10を保持するように使用される。すなわち、作業者Cとロボットアーム21が運搬物10に別々にアクセスしてこの運搬物10を保持するように作業者Cと協働ロボット20が協働する。これにより、運搬物10の重量負荷を作業者Cとロボット20で分担することができ、ロボット20のみで運搬物を運搬する構造に比べて、小型で安価なロボット20をその数を増やすことなく使用できるという利点がある。一方で、作動者Cとロボットアーム21が別々に動作し得るため、作動者Cの動きとロボットアーム21の動きに差が生じる場合が想定される。この場合、作業者Cがロボットアーム21の動きに追従して動くことになり、作業効率の低下が懸念される。
【0073】
そこで、本態様の運搬システム1は、ロボット20を作業者Cに追従させる作業者追従制御を行うように構成されている。この作業者追従制御は、外部荷重Fが作業者Cから運搬物10を介してロボットアーム21に入力されたものである場合に、検出装置30で検出された外部荷重情報IFに基づいてロボットアーム21の動きを作業者Cによる運搬物10の運搬動作に追従させる制御である。この作業者追従制御によれば、ロボットアーム21を作業者Cの動きに追従させることで、作業者Cの動きに合った運搬作業をロボット20と協働で実行でき、運搬物10の運搬作業の作業効率を向上させることができる。
【0074】
したがって、実施形態1によれば、作業者Cとロボット20との協働で運搬物10を運搬する運搬システム1を安価で作業効率に優れたものとすることが可能になる。
【0075】
実施形態1の運搬システム1によれば、ロボットアーム21に入力された外部荷重Fに関する外部荷重情報IFを検出装置30の電流計測部31を利用してモータ電流の変動値として検出することができる。このため、外部荷重情報IFの検出構造を電流計測部31によって簡素化できる。
【0076】
実施形態1の運搬システム1によれば、作業者Cによる作業者運搬速度Vaにロボット20によるロボット運搬速度Vbを近づけるようにロボットアーム21の駆動モータ23をフィードバック制御することによって、ロボットアーム21の動きを作業者Cによる運搬物10の運搬動作に追従させる作業者追従制御を的確に行うことができる。
【0077】
実施形態1の運搬システム1によれば、作業者Cを撮影する撮影装置70を利用して作業者Cが運搬物10の運搬動作を実行中であるか否かを認識したうえで、その認識結果に基づいて外部荷重Fが作業者Cから運搬物10を介してロボットアーム21に入力されたものであるか否かを判定することができる。この場合、ロボットアーム21に入力された外部荷重Fの要因を判定する精度を高めることができ、作業者追従制御が不要にもかかわらず実行されるのを防ぐことができる。
【0078】
実施形態1の運搬システム1によれば、ロボットアーム21に入力された外部荷重Fの要因が作業者Cによるものではない場合に、この要因がシステム異常によるものであることを異常報知制御によって作業者Cに速やかに報知することができる。
【0079】
実施形態1の運搬システム1によれば、ロボットアーム21による可搬重量が運搬物10の重量を下回るようにロボット20を構成することで、ロボット20自体を小型化することができる。
【0080】
本開示は、上述の形態に準拠して記述されているが、本開示は当該形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0081】
上述の形態では、作業者追従制御において作業者C側の運搬速度Vaにロボット20側の運搬速度Vbを近づけるように追従させる場合について例示したが、作業者Cによる運搬物10の運搬動作にロボットアーム21の動きを追従させることができれば、作業者C側の運搬速度以外の運搬パラメータにロボット20側の運搬速度以外の運搬パラメータを近づけるように追従させても良い。運搬速度以外の運搬パラメータとして、例えば、運搬軌跡、運搬方向などを採用することができる。
【0082】
上述の形態では、外部荷重情報IFを駆動モータ23のモータ電圧の変動値とし、このモータ電圧の変動値から作業者運搬速度Vaを導出する場合について例示したが、これに代えて或いは加えて、駆動モータ23のモータ電圧の変動値や駆動モータ23に作用するトルクの変動値を外部荷重情報IFとして、この外部荷重情報IFから作業者運搬速度Vaを導出するようにしても良い。
【0083】
上述の形態では、作業者Cを撮影する撮影装置70を使用して作業者Cが運搬物10の運搬動作を実行中であるか否かを認識する場合について例示したが、例えば、撮影装置70に代わる手段を使用できる場合や、作業者Cが運搬物10の運搬動作を実行中であるか否かを認識する必要がない場合には、撮影装置70を省略することもできる。
【0084】
上述の形態では、ロボット20のロボットアーム21による可搬重量が運搬物10の重量を下回る場合について例示したが、必要に応じて、ロボットアーム21による可搬重量が運搬物10の重量と同程度かそれを上回るような構造を採用しても良い。
【符号の説明】
【0085】
1 運搬システム
10 運搬物
20 ロボット(協働ロボット)
22 軸部
23 駆動モータ
21 ロボットアーム
30 検出装置
31 電流計測部
40 制御装置
70 撮影装置
C 作業者
F 外部荷重
IF 外部荷重情報
IG 画像情報
Va 作業者運搬速度
Vb ロボット運搬速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6