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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023688
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】タシメルテオンを用いる障害の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20240214BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K31/343
A61P25/20
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212077
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2020570400の分割
【原出願日】2019-03-04
(31)【優先権主張番号】62/638,212
(32)【優先日】2018-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/675,687
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】313006588
【氏名又は名称】バンダ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】VANDA PHARMACEUTICALS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロプロス、ヴァシリオス
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロプロス、クリストス
(72)【発明者】
【氏名】シアオ、チャンフー
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロプロス、ミハエル
(57)【要約】
【課題】既定の就寝時刻の進みを体験している個人の睡眠を改善する方法を提供する。
【解決手段】個人の既定の就寝時刻における睡眠覚醒周期を混乱させる進みを体験している前記個人を治療する方法であって、生じた上記個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱による1又は複数の悪影響を減少させるために有効な量のタシメルテオンを、上記個人に投与することを含む、上記方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タシメルテオンを含み、個人の既定の就寝時刻の進みによる1又は複数の悪影響を減少させるために使用される医薬組成物であって、
前記使用は、少なくとも連続する3日間にわたって就寝時刻の前に、1日あたり20mgのタシメルテオンを前記個人に投与することを含み、初回の用量は、前記進みの後の最初の就寝時刻の前に投与される、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記個人の既定の就寝時刻の進みが、8時間の進みであり、東に向かうジェット機による移動により生じたものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
即放性剤形のタシメルテオンを20mg含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記悪影響の減少が、総睡眠時間、持続睡眠潜時、及び中途覚醒時間からなる群より選択される少なくとも1つの睡眠パラメーターの改善である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
改善した睡眠パラメーターが総睡眠時間である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
タシメルテオン投与後3日目の夜に、その夜の最初の3分の2における総睡眠時間が改善される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記悪影響の減少が、翌日の覚醒度の改善である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記翌日の覚醒度の改善が、カロリンスカ眠気尺度の改善、視覚的アナログ尺度の改善、又はそれらの両方を含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
飛行機による一晩の移動の間に、出発地から6~8つのタイムゾーンを通る到着地までの東に向かう移動を体験した個人の時差ぼけの治療薬であって、前記到着地への到着後であって、前記到着地での前記個人の就寝時刻に、又は就寝時刻の前に少なくとも連続する
3日間にわたって投与される即放性剤形の20mgタシメルテオンを含む、前記治療薬。
【請求項10】
前記到着地での前記個人の就寝時刻の前とは、前記個人の出発地での前記個人の通常の就寝時刻に相当する前記個人の就寝時刻の30分前から2時間前を意味する、請求項9に記載の治療薬。
【請求項11】
前記到着地での前記個人の就寝時刻の前とは、このような就寝時刻の1.5時間以内を意味する、請求項9に記載の治療薬。
【請求項12】
前記到着地での前記個人の就寝時刻の前とは、このような就寝時刻の1時間以内を意味する、請求項9に記載の治療薬。
【請求項13】
前記到着地での前記個人の就寝時刻の前とは、このような就寝時刻の0.5時間以内を意味する、請求項9に記載の治療薬。
【請求項14】
前記個人が、以前に同様の移動を体験した結果として時差障害を体験したことがあることに基づいて事前選定される個人である、請求項9に記載の治療薬。
【請求項15】
前記個人が、8つのタイムゾーンを通る東に向かう移動を体験する、請求項9に記載の治療薬。
【請求項16】
(a)時差障害の治療を受ける個体のための一連の治療を提供するのに充分な、20mgの即放性タシメルテオンをそれぞれ含む複数の個別タシメルテオン製剤、及び
(b)前記個別タシメルテオン製剤用の医薬的に許容可能な容器
を含む、時差障害治療用の包装済み調剤ユニット。
【請求項17】
前記調剤ユニット中の個別製剤の数が、3、4、又は5であり、前記調剤ユニット用の前記容器が、ブリスター当たり20mgタシメルテオン錠剤を1個含むブリスターパックである、請求項16に記載の調剤ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連案件の相互参照
本願は、同時係属中の2018年3月4日に出願された米国仮特許出願番号第62/638212号及び2018年5月23日に出願された同第62/675687号の利益を請求し、これらの仮特許出願の各々が完全に記載されているかのように本明細書中において援用される。
【背景技術】
【0002】
本発明は、障害、具体的には、個人の通常の就寝時刻の変化の結果として突然に概日リズムが進むことにより発生する障害を治療するためのタシメルテオンの臨床利用に関する。通常の就寝時刻のこのような変化は、新たな日出日没周期に適応する必要性(例えば、複数のタイムゾーンを通る移動により、移動した到着地で新しい現地時間に素早く適応する必要が生じる場合)から、又は例えば昼間勤務者が夜間勤務を開始する「勤務時間の変更」の場合のように、仕方なく就寝時刻を繰り上げること(例えば、その勤務者がいるタイムゾーンにおいて、この勤務者の既定の勤務開始時刻が午前8:00から真夜中の勤務開始時刻に変わり、就寝時刻が午後11:00から午後3:00に繰り上がることになる)に適応する必要性から生じる場合がある。
【0003】
複数のタイムゾーンを通る移動により発生する突然の概日リズムの進みの結果としてのこの障害は、一般的に「時差障害」又は「JLD」と呼ばれ、一般的に夜間の不眠及び昼間の注意力低下を特徴とする。JLDは、社会的且つ職業的な機能の混乱を伴い、年間で数百万人に影響を及ぼし、その症状は東に向かう移動の場合に、より重症であることが多い。世界的には毎年1億人の人々が5つ又はそれより多くのタイムゾーンを通って移動すると見積もられている。
【0004】
タシメルテオン(MA-1又はHETLIOZ(登録商標)とも呼ばれる)、並びにその医薬組成物及び使用法が、当技術分野において説明されている。タシメルテオンは、非24時間睡眠覚醒障害(Non-24)の治療用のヒト医薬品としての利用が承認されており、20mg単位の医薬剤形(カプセル剤)で利用可能であり、就寝前に毎晩同じ時間に使用されることが示されている。薬理学的には、タシメルテオンは、生物時計に関係する脳の領域である視交叉上核(SCN)中のMT1Rメラトニン受容体及びMT2Rメラトニン受容体のアゴニストである。メラトニンによるこれらの受容体の会合により、睡眠覚醒周期を含む概日リズムが調節されると考えられている。メラトニンの受容体結合プロファイルと合致して、タシメルテオンは急性位相変化及び長期再同調の前臨床モデルにおいて強力な体内時計調節活性を示す。
【0005】
タシメルテオン自体は、米国特許第5856529号の請求項7に記載されている。米国特許第5856529号は、タシメルテオンを一員として含む化合物群に係る請求項、並びに有効量のタシメルテオンの投与による、患者の睡眠障害及び概日リズム障害の治療におけるこの化合物群の使用に係る請求項をはじめとしたその他の請求項も含んでいる。この特許は、タシメルテオンをメラトニンアゴニストとして説明しており、さらにメラトニンアゴニスト類はメラトニン受容体相互作用の更なる研究及びメラトニン活性に影響を受ける症状の治療に有用となるであろうと推測している。この特許は、可能性のある治療用途の中でも、うつ、時差ぼけ、ワークシフト症候群、及び睡眠障害を挙げている。この特許の別の箇所には、タシメルテオンが一員として含まれる化合物群に含まれる化合物は、睡眠障害、季節性のうつ、概日周期の変化、うつ状態、ストレス、食欲制御、良性前立腺肥大症、及び関連の症状の治療において、メラトニン作動薬として有用であることが開示されている。
【0006】
就寝時刻前の毎日同じ時間の一日当たり20mgという承認されたタシメルテオンの投与に加え、国際公開第2007/137244号パンフレットは、タシメルテオンの有効ヒト用量は、睡眠障害及び概日リズム障害での考えられる使用については10~100mg/日の範囲であり得るという発見を報告しており、正確な投与はタシメルテオンの粒径及び治療を受けている患者の体格に依存し得る、とさらに記載している。この特許にはさらに、20mgのタシメルテオンの経口単位剤形、並びに10mg、20mg、50mg、及び100mgの一日用量のタシメルテオンを使用する治験も記載されている。
【0007】
米国特許出願公開第2009/0105333(A1)号明細書(国際公開第2007/137244号パンフレット)には、睡眠覚醒周期が5時間進んだ対象(すなわち、ニューヨークからロンドンまで大西洋を越えてジェット機により移動する対象が経験する可能性があるタイプの睡眠覚醒周期が進んだ対象)においてタシメルテオンを試験した前述の治験の結果が報告されており、プラセボと比較して、治療により薄暮下メラトニン分泌起始時刻及び睡眠有効率の変化について肯定的な結果が生じたことがその報告に含まれている。この治験及びその報告された結果の説明は、参照により完全に記載されているかのように本明細書中において援用される。
【発明の概要】
【0008】
本発明は特に、個人の既定又は通常の就寝時刻における睡眠覚醒周期を混乱させる進み(sleep-wake-cycle-disrupting advance)を体験している上記個人を治療する方法であって、生じた上記個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱による1又は複数の悪影響(untoward consequence)を減少させるために有効量のタシメルテオンを、上記個人に投与することを含む、上記方法を含む。したがって、本発明は、8時間以内の進み(例えば6~8時間の進み)では同様の混乱が起きる場合もあるが、個人の既定の就寝時刻を最大9時間進めることを含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
通常、タシメルテオンの投与量は一日当たり20mgである。上記進みの治療には、即放性剤形のタシメルテオンを、少なくとも連続する3日間にわたって投与することが理想的である。例えば、個人の既定の就寝時刻を8時間進めさせる混乱は、連続する5日間にわたってタシメルテオンを投与することで治療することが可能である。
【0010】
タシメルテオンは、就寝時刻の前、すなわち、個人の就寝時刻近くの時間に投与することが最適である。タシメルテオンを就寝時刻の30分前~1時間前に投与することが典型的であるが、その代わりに、就寝時刻の2時間前までに投与してもよい。上記進みを治療する際には、少なくとも3回分の用量のうちの初回の用量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻前に投与される。
【0011】
上記の投与計画に従ってタシメルテオンを投与する場合、悪影響の減少には、総睡眠時間、持続睡眠潜時(latency to persistent sleep)、及び中途覚醒時間(wake after sleep onset)からなる群より選択される少なくとも1つの睡眠パラメーターの改善、例えば、総睡眠時間の改善、具体的には、タシメルテオン投与後3日目の夜の最初の3分の2における改善、又は翌日の覚醒度の改善が含まれ、翌日の覚醒度の改善は、カロリンスカ眠気尺度の改善、視覚的アナログ尺度の改善、又はそれらの両方として測定され得る。
【0012】
したがって、本発明には、個人の既定の就寝時刻の進みが9時間以内(例えば、6~8時間)であり、且つ、タシメルテオンの投与量が一日当たり20mgであり、少なくとも連続する3日間にわたって就寝時刻の前に投与され、初回の用量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻の前に即放性剤形で投与される、個人の治療が含まれる。これに関し、本方法の一態様によって、東に向かうジェット機による移動の結果として、睡眠覚醒周期を混乱させる進みを体験している個人が治療される。例えば、このような個人は、タシメルテオンの3回目の用量の投与後の夜に、その夜の最初の3分の2における主観的睡眠尺度及び客観的睡眠尺度の両方について総睡眠時間の顕著な改善を経験し得る。
【0013】
本発明の別の態様は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みを以前に経験したことがあることが本人の病歴から既知であり、したがってそれ以後の既定の睡眠覚醒周期の混乱の1又は複数の悪影響を減少させるための治療を必要とすることが既知である個人を治療することである。例えば、個人は、東回りのジェット機による移動により、その個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱の悪影響を体験することが既知である場合がある。
【0014】
上記方法の一態様は、フライトの出発地の時刻に対して8時間以内(例えば、6~8時間)時刻が進んでいる到着地への東回りのジェット機によるフライトの後、睡眠覚醒周期を混乱させる進みが到着の際に起きる場合、発生する。具体的には、本発明には、個人の睡眠覚醒周期を混乱させる進みの既往歴から、後における上記個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱の1又は複数の悪影響を減少させるための治療を必要とすることが既知である個人の治療が含まれる。したがって、上記の方法によると、一日当たり20mgのタシメルテオンが即放性剤形でこのような個人に少なくとも連続する3日間にわたって就寝時刻の1時間以内前に投与され、初回の用量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻の前に投与される。
【0015】
本発明の一態様は、6~8時間の就寝時刻の進みを体験した後に、少なくとも一晩の不眠を体験している個人の治療である。例えば、米国の東海岸又は西海岸から一晩のフライト後にロンドンに到着した場合などに、正常なかつ進んでいない個人の夜間において少なくとも一回覚醒していれば、それが不眠の一例である。
【0016】
本発明の1つの具体的な態様は、飛行機による一晩の移動の間に出発地から6~8つのタイムゾーンを通って(例えば、サンフランシスコからロンドンへと東周りのフライトの際に経験するように8つのタイムゾーンを通って)到着地までの東に向かう移動を体験した個人の時差ぼけを治療する方法であって、到着地への到着後に、到着地での個人の就寝時刻に、又は就寝時刻の前に即放性剤形の20mgタシメルテオンを上記個人に経口投与することを含む、方法を含む。このような方法には、出発地での個人の通常の就寝時刻に対応する個人の就寝時刻(すなわち、現地時間)の30分前~2時間前まで(例えば、このような就寝時刻の30分の時点又は以内、60分の時点又は以内、90分の時点又は以内、又は120分の時点又は以内)の投与が含まれ、且つ、以前の類似の移動経験の結果として時差障害を経験したことがあることに基づいてタシメルテオン投与について予備選定され、少なくとも連続する3日間にわたって(例えば、連続する5日間以内にわたって)一日一回のタシメルテオン投与によって治療される個人への投与が含まれる。
【0017】
本発明の別の態様は、個人の既定の就寝時刻における睡眠覚醒周期を混乱させる進みが8時間以内である上記個人を治療する方法であって、一日当たり20mgのタシメルテオンを上記個人に少なくとも連続する3日間にわたって、上記個人の進んだ(すなわち、現地時間の)就寝時刻の1時間前までに投与することを含み、初回の用量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻の前に投与される、方法を提供する。
【0018】
したがって、本発明には、20mgのタシメルテオンを即放性剤形で上記個人に少なくとも連続する3日間にわたって上記個人の進んだ就寝時刻の前に投与することにより、個人の既定の就寝時刻における9時間以内(例えば、6~8時間)の進みの悪影響を減少させること、又は、個人の既定の就寝時刻における8時間以内の睡眠覚醒周期を混乱させる進みを体験している個人を治療することを含み得、ここで、初回の用量は最初の進んだ就寝時刻の前に投与される。
【0019】
本明細書において使用される場合、東に向かうジェット機による移動により発生する睡眠覚醒周期を混乱させる進みという文脈において、個人の「就寝時刻の進み(advanced bedtime)」とは、東方の新しい場所における個人の通常又は既定の就寝時刻のことである。例えば、ロサンゼルスにおける通常の就寝時刻が午後10:00である個人であれば、ロンドンにおいては午後10:00という「進んだ就寝時刻」を有することになる。
【0020】
概して本発明は、個人の既定の睡眠覚醒周期における睡眠覚醒周期を混乱させる進みに関し、その睡眠覚醒周期の進みは、個人の通常又は既定の就寝時刻が突然に進み、この種の個人の睡眠覚醒周期の混乱の公知の影響のうちの1又は複数の影響を上記個人が体験するのに充分なほど(上記個人の既定の24時間時計と比べて)早い時間への突然の進みであるときに発生する。
【0021】
例えば、サンフランシスコからロンドンへのジェット機による移動の際には、ロンドンに到着する個人は、上記個人が8つのタイムゾーンを通ることを考慮すると、上記個人の既定の睡眠覚醒周期が約8時間進むことを体験することになる。同様に、多少なりとも個人の既定の就寝時刻が進むことは、このような睡眠覚醒周期の混乱に由来する悪影響を生じることが知られている。このような進みは移動中期間(例えば、10~13時間)に起こることになる。
【0022】
上記方法において有効なタシメルテオンの量は、以前に報告されたタシメルテオンの臨床研究から当技術分野において知られている。例えば、20mgのタシメルテオンのカプセルが上記方法において有用であり、個人の進んだ就寝時刻に、又は好ましくはその就寝時刻の前に(例えば、進んだ就寝時刻の30分前~2時間前に)投与可能である。
【0023】
睡眠覚醒周期を混乱させる進みに由来する悪影響の減少は、治療に対する個人の反応によって判定されてよく、例えば、タシメルテオン治療を行わなかった場合に個人が体験したであろうものと比較したときの睡眠パラメーターの改善(総睡眠時間の改善、夜間の最初の3分の2における睡眠時間の改善、急速眼球運動(REM)睡眠の増加、及び/又は合計でREM睡眠時間が30分間になるまでの時間の減少など)によって判定されてよい。
【0024】
直接的な改善の尺度としては、例えばカロリンスカ眠気尺度又は視覚的アナログ尺度、又はそれらの両方での改善など、既定のツールを用いて測定可能な翌日の注意力の改善が含まれる。
【0025】
最後に、本明細書中の本発明は、時差障害の治療を受ける個人に一連の治療を提供するのに充分な個別タシメルテオン単位用量(例えば、錠剤)を複数(それぞれ20mgのタシメルテオンを含む)内包する包装済み調剤ユニットを含み、例えば、個々の調剤ユニット当たり3~5単位の20mgの即放性タシメルテオン錠剤を内包する包装済み調剤ユニットを含む。このような調剤ユニットは、調剤される医薬品用の従来の医薬品用容器のうちのいずれかを含むことができる。特定の好ましい調剤ユニットは3単位用量又は5単位用量のブリスターパックである。
【実施例0026】
以下に示すように、実施例1及び実施例2に記載される治験結果に基づいて本発明の態様がさらに充分に理解される。
【0027】
実施例1
318人の健康なボランティアからなる第III相臨床試験により、時差障害の治療におけるタシメルテオンの効力が示される。この治験中には、通常の就寝時刻が8時間進むという概日リズムへの負荷がボランティアに与えられ、これは、8つのタイムゾーン(例えば、ロサンゼルスからロンドンまで、又はワシントンDCからモスクワまで)を通る移動者において引き起こされ、かつ典型的に時差障害の原因となる概日リズムへの負荷と一致する。
【0028】
本試験の結果から、本試験の主要エンドポイント並びに複数の副次エンドポイントに対して20mg用量のタシメルテオンが非常に顕著で臨床的に意義深い効果を奏することが示される。この目的のために使用される事前に指定された主要エンドポイントは、夜の最初の3分の2における睡眠時間量である。副次エンドポイントには、様々な睡眠パラメーター(すなわち、総睡眠時間(TST)、持続睡眠潜時(LPS)、及び中途覚醒時間(WASO))の尺度、並びにカロリンスカ眠気尺度(KSS)及び視覚的アナログ尺度(VAS)を用いて測定される翌日の覚醒度が含まれる。下記の表1に主要エンドポイント及び副次エンドポイントの結果の概要が提示されている。
【0029】
【表1】


【0030】
これらの結果は、時差障害の治療におけるタシメルテオンの有効性を示している。総睡眠時間がプラセボに対して85分程度改善するという利益は、臨床的に非常に意義深い。KSS及びVASの両方の尺度での翌日の覚醒度の測定値も意義深く、夜間及び昼間の両方の時差障害の症状に対処するタシメルテオンの能力を強調している。
【0031】
タシメルテオンは、総急速眼球運動(REM)睡眠時間を著しく増加させる一方、REM睡眠時間の累積が30分間になるまでに必要な時間を著しく減少させることも示された。これらの結果は下記の表2に示されている。
【0032】
【表2】


【0033】
このように、タシメルテオンは、睡眠タイミングの位相が8時間進んでいる間に、概日リズムのペースメーカーにより強固に調節されているREM睡眠の累積に顕著な改善を示した。これらの結果は、概日リズムのタイミングが不調である間にタシメルテオンが少なくとも部分的には概日リズムのペースメーカーに影響することにより睡眠時間を増加させることを示唆しており、さらにJLDの治療のための概日リズムの調節因子としてのタシメルテオンを裏付けるものである。
【0034】
実施例2
25人の対象(タシメルテオン:n=13、プラセボ:n=12)からなる二相性大西洋横断旅行試験は、ベースラインデータを収集するための観察旅行試験である第1相と、治療相である第2相と、を含む。本試験の参加者は、ワシントンDCからロンドンまで(5つのタイムゾーン)か、又はサンフランシスコ若しくはロサンゼルスからロンドンまで(8つのタイムゾーン)、5つのタイムゾーン又は8つのタイムゾーンを移動する。参加者はそれぞれの到着地に3泊4日滞在し、ランダム化している間に連続3日間にわたって就寝時刻の前に20mgのタシメルテオンを受容する。睡眠ポリグラフ検査(PSG)及び睡眠覚醒質問票尺度により効力をモニターする。ベースライン相中では、下記の表3に示されているように、3日目の晩に睡眠が最も妨害されている。
【0035】
【表3】


【0036】
本試験の主要エンドポイントは、睡眠妨害される可能性が最も高い夜の最初の3分の2におけるTSTである。表2から、これらは3晩目であり、続いて1晩目及び2晩目である。
【0037】
下記の表4は、3晩目のTST2/3とTSTフル、並びに睡眠品質、睡眠潜時、及びWASOの尺度に対するタシメルテオンとプラセボの効果を報告している。
【0038】
【表4】


【0039】
表4から分かるように、タシメルテオンは、睡眠の客観的尺度及び主観的尺度の両方を著しく改善する。タシメルテオンによる治療を受けた患者は、ベースライン観察旅行と比較して、治療旅行において3晩目の最初の3分の2において76分長く睡眠し、3晩全ての最初の3分の2において合計で131分長く睡眠している。
【0040】
睡眠後質問票(PSQ)を用いて決定されたTST、睡眠品質、睡眠潜時、及びWASOの主観的尺度は、タシメルテオンによる治療を受けた参加者の間で同じような改善を示している。患者包括的重症度印象(PGI-S)及びKSSを含む包括的関数の尺度もタシメルテオンに有利な値である。
【0041】
本明細書において使用されている用語は、特定の実施形態を説明することだけを目的としており、本開示を限定することを意図したものではない。本明細書において使用される場合、文脈から明確に違うと指示されない限り、単数形の「a」、「an」、及び「the」には複数形も同様に含むことが意図されている。本明細書において使用される場合、「含む(comprises)」及び/又は「含んでいる(comprising)」という用語は、言及された特徴、整数、工程、操作、要素、及び/又は成分の存在を明言しているが、1又は複数の他の特徴、整数、工程、操作、要素、成分、及び/又はそれらの群の存在又は付加を排除していないことをさらに理解されたい。「所望の」又は「所望により」はその後に説明される出来事又は状況が起きても怒らなくてもよいこと、及びその出来事が起きる例と起こらない例がその説明に含まれることを意味している。
【0042】
以下の特許請求の範囲の中の全ての手段又は工程と機能の要素に対応する構造、材料、動作、及び同意義物は、具体的に請求されている他の請求要素と組み合わせて機能を実行するためのあらゆる構造、材料、又は動作も含むものとする。本開示の記載は、例示及び説明を目的として提示されており、その記載が網羅的であること、又は本開示を開示された形態に限定することを意図されてはいない。当業者には本開示の範囲と主旨から逸脱することなく多くの改変と変形が明らかになる。本明細書において選択及び説明されたあらゆる実施形態は、本開示の本質と実際の適用を最もよく説明するためのものであり、且つ、考慮されている特定の用途に合うように様々な改変を施した様々な実施形態のために当業者が本開示を理解できるようにするためのものである。
本発明は下記の態様を含む。
<1> 個人の既定の就寝時刻における睡眠覚醒周期を混乱させる進みを体験している前記個人を治療する方法であって、生じた前記個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱による1又は複数の悪影響を減少させるために有効な量のタシメルテオンを、前記個人に投与することを含む、前記方法。
<2> 前記個人の既定の就寝時刻の進みが、8時間の進みであり、東に向かうジェット機による移動により生じたものである、<1>に記載の方法。
<3> タシメルテオンの投与量が一日当たり20mgであり、即放性剤形で少なくとも連続する3日間にわたって就寝時刻の前に投与され、初回の容量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻の前に投与される、<2>に記載の方法。
<4> 前記悪影響の減少が、総睡眠時間、持続睡眠潜時、及び中途覚醒時間からなる群より選択される少なくとも1つの睡眠パラメーターの改善である、<3>に記載の方法。
<5> 改善した睡眠パラメーターが総睡眠時間である、<4>に記載の方法。
<6> タシメルテオン投与後3日目の夜に、その夜の最初の3分の2における総睡眠時間が改善される、<5>に記載の方法。
<7> 前記悪影響の減少が、翌日の覚醒度の改善である、<3>に記載の方法。
<8> 前記翌日の覚醒度の改善が、カロリンスカ眠気尺度の改善、視覚的アナログ尺度の改善、又はそれらの両方が含まれる、<7>に記載の方法。
<9> 前記個人の既定の就寝時刻の進みが、6~8時間の進みであり、タシメルテオンの投与量が一日当たり20mgであり、即放性剤形で連続する3日間にわたって就寝時刻の前に投与され、初回の用量は、睡眠覚醒周期の混乱後の最初の就寝時刻の前に投与され
る、<2>に記載の方法。
<10> 個人の既定の就寝時刻における睡眠覚醒周期を混乱させる進みが8時間以内である個人を治療する方法であって、即放性剤形で一日当たり20mgのタシメルテオンを少なくとも連続する3日間にわたって就寝時刻の1時間以内前に前記個人に投与することを含み、初回の用量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻の前に投与される、方法。
<11> 前記個人が、東回りのジェット機による移動の結果として睡眠覚醒周期を混乱させる進みを体験している、<10>に記載の方法。
<12> 前記個人が、タシメルテオンの3回目の用量の投与後の夜に、主観的睡眠尺度及び客観的睡眠尺度の両方についてその夜の最初の3分の2における総睡眠時間の顕著な改善を体験する、<11>に記載の方法。
<13> 前記個人が、前記個人の睡眠覚醒周期を混乱させる進みの既往歴から、後における前記個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱の1又は複数の悪影響を減少させるための治療を必要とすることが既知である、<10>に記載の方法。
<14> 前記個人が、東回りのジェット機による移動により前記個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱の悪影響を経験することが既知である、<13>に記載の方法。
<15> 睡眠覚醒周期を混乱させる進みが、フライトの出発地の時刻に対して8時間以内時刻が進んでいる到着地への東回りのジェット機によるフライトの後の到着の際に起きる、<10>に記載の方法。
<16> 前記個人が、前記個人の睡眠覚醒周期を混乱させる進みの既往歴から、後における前記個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱の1又は複数の悪影響を減少させるための治療を必要とすることが既知である、<15>に記載の方法。
<17> 前記個人に、一日当たり20mgのタシメルテオンが即放性剤形で連続する3日間にわたって就寝時刻の1時間以内前に投与され、初回の用量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻の前に投与される、<16>に記載の方法。
<18> 前記個人に、一日当たり20mgのタシメルテオンが即放性剤形で連続する3日間にわたって就寝時刻の1時間以内前に投与され、初回の用量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻の前に投与される、<15>に記載の方法。
<19> 前記個人が、総REM睡眠時間の増加、REM睡眠時間が累積30分間になるまでの時間の減少、又はそれらの両方を体験する、<11>に記載の方法。
<20> 飛行機による一晩の移動の間に、出発地から6~8つのタイムゾーンを通る到着地までの東に向かう移動を体験した個人の時差ぼけを治療する方法であって、前記到着地への到着後であって、前記到着地での前記個人の就寝時刻に、又は就寝時刻の前に即放性剤形の20mgタシメルテオンを前記個人に経口投与することを含む、方法。
<21> 前記到着地での前記個人の就寝時刻の前とは、前記個人の出発地での前記個人の通常の就寝時刻に相当する前記個人の就寝時刻の30分前から2時間前を意味する、<20>に記載の方法。
<22> 前記到着地での前記個人の就寝時刻の前とは、このような就寝時刻の1.5時間以内を意味する、<20>に記載の方法。
<23> 前記到着地での前記個人の就寝時刻の前とは、このような就寝時刻の1時間以内を意味する、<20>に記載の方法。
<24> 前記到着地での前記個人の就寝時刻の前とは、このような就寝時刻の0.5時間以内を意味する、<20>に記載の方法。
<25> 前記個人が、以前に同様の移動を体験した結果として時差障害を体験したことがあることに基づいて事前選定される個人である、<20>に記載の方法。
<26> タシメルテオンが前記個人に少なくとも3日間にわたって一日一回投与される、<20>に記載の方法。
<27> 前記個人が、8つのタイムゾーンを通る東に向かう移動を体験する、<20>に記載の方法。
<28> 個人の既定の就寝時刻における睡眠覚醒周期を混乱させる進みが8時間以内である前記個人を治療する方法であって、一日当たり20mgのタシメルテオンを即放性剤形で前記個人に少なくとも連続する3日間にわたって就寝時刻の1時間以内前に投与することを含み、初回の用量は、睡眠覚醒周期を混乱させる進みの後の最初の就寝時刻の前に投与される、方法。
<29> 個人の既定の就寝時刻における8時間以内の進みの悪影響を減少させる方法であって、20mgのタシメルテオンを即放性剤形で前記個人に少なくとも連続する3日間にわたって、前記個人の進んだ就寝時刻の前に投与することを含み、初回の用量は、最初の進んだ就寝時刻の前に投与される、方法。
<30> (a)時差障害の治療を受ける個体のための一連の治療を提供するのに充分な、20mgの即放性タシメルテオンをそれぞれ含む複数の個別タシメルテオン単位用量、及び
(b)前記単位用量用の医薬的に許容可能な容器
を含む、包装済み調剤ユニット。
<31> 前記調剤ユニット中の単位用量の数が、3、4、又は5であり、前記調剤ユニット用の前記容器が、ブリスター当たり20mgタシメルテオン錠剤を1個含むブリスターパックである、<30>に記載の調剤ユニット。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の既定の就寝時刻における睡眠覚醒周期を混乱させる進みを体験している前記個人を治療する方法であって、生じた前記個人の既定の睡眠覚醒周期の混乱による1又は複数の悪影響を減少させるために有効な量のタシメルテオンを、前記個人に投与することを含む、前記方法。