(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002369
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】Mg二次電池用負極材及び集電材、並びにこれを用いたMg二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20231228BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20231228BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20231228BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20231228BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20231228BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/46
H01M4/66 A
H01M4/1395
H01M10/054
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101515
(22)【出願日】2022-06-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「Mg金属組織学」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】染川 英俊
(72)【発明者】
【氏名】万代 俊彦
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017BB06
5H017EE05
5H017HH02
5H017HH03
5H017HH08
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL11
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ05
5H029HJ09
5H029HJ14
5H029HJ17
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA07
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA03
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA09
5H050HA14
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】Mg二次電池用負極材及び集電材を提供すること。
【解決手段】MgまたはMg基合金により構成されるMg層、及びAlまたはAl基合金により構成されるAl層からなるクラッド材であって、前記Mg-A
jmol%X
j(j=1、2、…、n;nは1以上の自然数)からなり、X
jはMgに対して0.05mol%以上固溶する元素を対象とし、X
j=Al、Ag、Bi、Ca、Sn、Mn、Li、RE(希土類)、Znのうちいずれか一種類の元素により構成されると共に、A
jの値は0.02mol%以上、1mol%以下であり、前記Al基合金はAl-B
kmol%Y
k(k=1、2、…、m;mは1以上の自然数)からなり、Y
k=Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn、Ti、Ag、Ga、Liのうちいずれか一種類の元素により構成されると共に、B
kの値は0.02mol%以上、1mol%以下であり、Mg層が負極材であり、Al層がAl集電体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgまたはMg基合金により構成されるMg層、及びAlまたはAl基合金により構成されるAl層からなるクラッド材であって、
前記Mg基合金はMg-Ajmol%Xj(j=1、2、…、n;nは1以上の自然数)からなり、XjはMgに対して0.05mol%以上固溶する元素を対象とし、Xj=Al、Ag、Bi、Ca、Sn、Mn、Li、RE(希土類)、Znのうちいずれか一種類の元素により構成されると共に、Ajの値は0.02mol%以上、1mol%以下であり、
前記Al基合金はAl-Bkmol%Yk(k=1、2、…、m;mは1以上の自然数)からなり、Yk=Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn、Ti、Ag、Ga、Liのうちいずれか一種類の元素により構成されると共に、Bkの値は0.02mol%以上、1mol%以下であり、
前記MgまたはMg基合金により構成されるMg層が負極材であり、
前記AlまたはAl基合金により構成されるAl層がAl集電体である、
ことを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材。
【請求項2】
請求項1に記載のMg二次電池用負極材及び集電材であって、
前記Mg層の厚みが100μm未満であり、前記Al層の厚みが100μm未満であることを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のMg二次電池用負極材及び集電材であって、
前記Mg層のMg母相の平均結晶粒サイズが50μm以下であり、
前記Al層のAl母相の平均結晶粒サイズが50μm以下であることを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のMg二次電池用負極材及び集電材であって、
光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡によって観察した断面において、AlとMg境界に50%未満の隙間が存在することを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のMg二次電池用負極材及び集電材であって、
二極式セルを用いたサイクル計測において、20回以上のサイクル特性を示すことを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のMg二次電池用負極材及び集電材であって、
Mg金属の電気化学的析出溶解試験において、過電圧30mV以下の特性を示すことを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のMg二次電池用負極材及び集電材であって、
Mg金属の電気化学的析出溶解試験において、電極電位±0.5Vのときに、±10mAcm-2以上の電流密度を示すことを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの記載したMg二次電池用負極材及び集電材を製造する方法であって、
MgまたはMg基合金により構成されるMg層、及びAlまたはAl基合金により構成されるAl層を重ね合わせ、塑性ひずみ付与として、300℃以上の温度で真ひずみが0.05以上、5未満となる展伸加工を施すことを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のMg二次電池用負極材及び集電材の製造方法であって、
塑性ひずみ付与方法が、押出加工、鍛造加工、圧延加工、引抜加工、双ロールキャストのうちのいずれかの加工法であることを特徴とするMg二次電池用負極材及び集電材の製造方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載のMg二次電池用負極材及び集電材と、電解質と正極によって構成されたMg二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学特性に優れたMgまたはMg基合金により構成されるMg層、及びAlまたはAl基合金により構成されるAl層からなるクラッド材を用いたMg二次電池用負極材及び集電材、並びにこれを用いたMg二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやノートパソコンをはじめとする移動用電子機器には、電源(バッテリー)が必要不可欠である。高い起電力と高いエネルギー密度に起因し、その大多数はリチウム二次電池が使用されている。一方、近年、マグネシウム(Mg)二次電池が注目されている。最大の要因は、カチオン数にあり、リチウムイオンは1価であるのに対し、マグネシウムイオンは2価イオンであり、理論的にはリチウム二次電池によりも二倍のエネルギー容量を呈する。加えて、地球埋蔵量が豊富であり、実用金属元素においてリチウムに次ぐ密度を示すとともに、Mgバルクは極めて安定で取扱に優れるなどの長所を有する。
【0003】
通常、二次電池をはじめとする蓄電池は、負極材、正極活物質と電解液によって構成される。発明者らは、負極材に注目し、以下の提案を行っている。圧延加工をはじめとする塑性加工法を活用し、添加した元素が結晶粒界に偏析していることを特徴とした負極材を特許文献1として開示している。元素添加量は各元素の固溶範囲内とし、添加元素は、Al、Ag、Bi、Ca、Sn、Mn、Li、RE(希土類)、ZnのMgに固溶する元素のうち1種類としている。
【0004】
また、発明者らは、Mg母相の結晶粒サイズを微細化することが、電気化学特性向上の可能性を有することを非特許文献1として提案している。通常、圧延や押出加工などによって創製した金属材料の内部微細組織は、温度や変形量をはじめとする塑性加工条件によって大きく変化する。特に、結晶粒微細化を図ったバルク材では、母相内に加工時に導入したひずみが残存することが多い。そのため、特許文献2では、残留転位密度と電圧電流サイクル特性の関係を調査し、Mg母相内に残留転位密度が小さく、電気化学特性に優れるMg基合金負極材を開示している。
【0005】
発明者らは、金属冶金学に基づくMg母相の内部組織構造を制御したMg基合金負極材だけでなく、更なる電気化学特性の向上を図るべく、特許文献3では、炭素、炭化物、窒化物、酸化物のうち1種類またはそれ以上を含むMg基複合材からなるMg基負極材を開示している。
【0006】
一方、二次電池をはじめとする蓄電池には、正極および負極から外部に電流を取り出す端子が必要であり集電体を使用する。これら集電体には、電子伝導性に優れること、蓄電池内で安定に存在すること、蓄電池内部で体積を収縮できること、正・負極材と密着性があることなどが要求される。
【0007】
そのため、特許文献4と5では、Cu、Al、ステンレス鋼、Niまたは炭素系物質からなる集電体にメッキ法によりMgをコーティングする負極材を開示している。Mgの厚さは、1μmから20μmが望ましいとし、そのメッキ方法は均質な薄膜構造でメッキ層を形成できるメッキ法であれば制限がないことを特徴としている。また、炭素、カーボン紙、炭素布または貴金属のメッシュもしくは箔からなる集電体に、ペースト材を堆積または必要に応じて熱処理することを特徴とする特許文献6が開示されている。特許文献7と8では、Cu、Ni、ステンレス鋼、Feのいずれかを集電体とし、Mg負極材とこれらの集電体の接合は、圧着を一事例とした二次電池を開示している。
【0008】
しかし、二次電池の軽量化の観点から、軽量材料を集電体とすることが望まれる。また、プロセスの簡略化や素材の大型化が要求されることは必須である。
【0009】
他方、特許文献9には、被加工材を重ね合わせ、圧延加工をはじめとする強ひずみ加工によってバルク体を創製する製造法が開示されている。ステンレス鋼、Al合金に代表される金属材料を対象とし、被加工材に導入するひずみを大きくすることで良好な界面接合と、母相サイズの微細化(結晶粒微細化)が達成されている。しかし、これらの圧延材の適合、使用部位は、強度や延性などが要求される構造用部材であり、創製材の肉厚を確保することが重要である。そのため、被加工材を幾度も重ね合わせ圧延することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】PCT/JP2021/4058号公報
【特許文献2】特願2021‐132315号公報
【特許文献3】特願2021‐85854号公報
【特許文献4】特開2012‐531725号公報
【特許文献5】特開2014‐179336号公報
【特許文献6】特開2013‐8671号公報
【特許文献7】特開2019‐169467号公報
【特許文献8】特開2019‐192632号公報
【特許文献9】特許第2961263号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】万代、染川、ChemComm 56 (2020) 12122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、軽量材料を集電体とすることで、二次電池の軽量化が可能であると共に、製造プロセスの簡略化や電池容量確保の観点から電池用素材の大型化の要請にも対応できるMg二次電池用負極材及び集電材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材は、MgまたはMg基合金により構成されるMg層、及びAlまたはAl基合金により構成されるAl層からなるクラッド材であって、前記Mg基合金はMg-Ajmol%Xj(j=1、2、…、n;nは1以上の自然数)からなり、XjはMgに対して0.05mol%以上固溶する元素を対象とし、Xj=Al、Ag、Bi、Ca、Sn、Mn、Li、RE(希土類)、Znのうちいずれか一種類の元素により構成されると共に、Ajの値は0.02mol%以上、1mol%以下であり、
前記Al基合金はAl-Bkmol%Yk(k=1、2、…、m;mは1以上の自然数)からなり、Yk=Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn、Ti、Ag、Ga、Liのうちいずれか一種類の元素により構成されると共に、Bkの値は0.02mol%以上、1mol%以下であり、前記MgまたはMg基合金により構成されるMg層が負極材であり、前記AlまたはAl基合金により構成されるAl層がAl集電体であるものである。
なお、組成比率が0.02mol%未満の元素に関しては、不可避的不純物とみなす。
【0014】
[2]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材[1]において、好ましくは、前記Mg層の厚みが100μm未満であり、前記Al層の厚みが100μm未満であるとよい。
[3]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材[1]又は[2]において、好ましくは、前記Mg層のMg母相の平均結晶粒サイズが50μm以下であり、前記Al層のAl母相の平均結晶粒サイズが50μm以下であるとよい。
[4]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材[1]乃至[3]において、好ましくは、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡によって観察した断面において、AlとMg境界に50%未満の隙間が存在するとよい。
【0015】
[5]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材[1]乃至[4]において、好ましくは、二極式セルを用いたサイクル計測において、20回以上のサイクル特性を示すとよい。
[6]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材[1]乃至[5]において、好ましくは、Mg金属の電気化学的析出溶解試験において、過電圧30mV以下の特性を示すとよい。
[7]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材[1]乃至[6]において、好ましくは、Mg金属の電気化学的析出溶解試験において、電極電位±0.5Vのときに、±10mAcm-2以上の電流密度を示すとよい。
【0016】
[8]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材の製造方法は、Mg二次電池用負極材及び集電材[1]乃至[7]を製造する方法であって、MgまたはMg基合金により構成されるMg層、及びAlまたはAl基合金により構成されるAl層を重ね合わせ、塑性ひずみ付与として、300℃以上の温度で真ひずみが0.05以上、5未満となる展伸加工を施すものである。
【0017】
[9]本発明のMg二次電池用負極材及び集電材の製造方法[8]において、好ましくは、塑性ひずみ付与方法が、押出加工、鍛造加工、圧延加工、引抜加工、双ロールキャストのうちのいずれかの加工法であるとよい。
【0018】
[10]本発明のMg二次電池は、Mg二次電池用負極材及び集電材[1]乃至[7]のいずれかに記載のMg二次電池用負極材及び集電材と、電解質と正極によって構成されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1を示すMg二次電池用負極材及び集電材の断面観察例で、走査型電子顕微鏡によって取得した画像を示している。
【
図2】実施例1を示すMg二次電池用負極材及び集電材の断面組織観察例で、電子線後方散乱回折手法によって取得した画像をIQ像として示している。
【
図3】実施例1を示すMg二次電池用負極材及び集電材の電気化学的析出溶解試験例で、サイクル電圧電流結果を示している。
【
図4】実施例2を示すMg合金負極材の微細組織観察例で、走査型電子顕微鏡によって取得した画像を示している。
【
図5】実施例2を示すMg二次電池用負極材及び集電材の断面組織観察例で、電子線後方散乱回折手法によって取得した画像をIQ像として示している。
【
図6】実施例2を示すMg二次電池用負極材及び集電材の電気化学的析出溶解試験例で、サイクル電圧電流結果を示している。
【
図7】本発明のMg二次電池用負極材及び集電材が使用されるMg二次電池の概略的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のMg二次電池用負極材及び集電材は、MgまたはMg基合金により構成されるMg層、及びAlまたはAl基合金により構成されるAl層からなるクラッド材を用いて構成される。本実施形態のMg層は純Mg層およびMg合金層を含むもので、Mg二次電池用負極材として用いられる。
クラッド材のMg層に用いられるMg基合金は、Mg-Ajmol%Xj(j=1、2、…、n;nは1以上の自然数)からなり、XjはMgに対して0.05mol%以上固溶する元素を対象とし、Xj=Al、Ag、Bi、Ca、Sn、Mn、Li、RE(希土類)、Znのうちいずれか一種類の元素である。希土類は、Y(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)、Ce(セリウム)、Sc(スカンジウム)などの同族元素を意味する。ここで、nが1であれば二元合金、2であれば三元合金を表す。
Ajの値は、Mgに対して最大固溶値以下であり、好ましくは0.02mol%以上、1mol%以下、より好ましくは0.02mol%以上、0.5mol%以下、更により好ましくは0.02mol%以上、0.3mol%以下である。Ajが0.02mol%未満の場合、添加した溶質元素は、力学特性や電気化学特性に影響を及ぼさず、不純物元素として存在する。また、純MgをMg基合金素材として扱う場合、鉄やニッケル、シリコン、銅をはじめとする不可避的成分と残部がMgからなり、通常、Mgの純度が99%以上であることが望ましい。
【0021】
クラッド材のAl層は集電体として使用される。本実施形態のAl層は純Al層およびAl合金層を含む。すなわちAl層は純Alであってもよいし、Al合金であってもよい。Al層は例えば99質量%以上のAlを含む。Al層は製造時に不可避的に混入する不純物を微量に含んでいてもよい。Al層は添加元素を含んでもよい。添加元素は例えば珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)等であり得、Ag(銀)、Ga(ガリウム)、Li(リチウム)でもよい。即ち、Al基合金はAl-Bkmol%Yk(k=1、2、…、m;mは1以上の自然数)からなり、Yk=Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn、Ti、Ag、Ga、Liのうちいずれか一種類の元素により構成されるとよい。ここで、mが1であれば二元合金、2であれば三元合金を表す。
Bkの値は0.02mol%以上、1mol%以下であり、組成比率が0.02mol%未満の元素に関しては、不可避的不純物とみなす。もちろん、集電体の加工性やMg基合金負極材との接合性を鑑みて、Alに固溶する元素が添加されたAl基合金でも構わない。
Al層として使用され得るAl合金は、例えば「JIS H 4160:アルミニウム及びアルミニウム合金はく」に規定される合金番号「1085」、「1070」、「1050」、「1N30」、「1100」、「3003」、「3004」、「8021」、「8079」等である。Al層は例えば5μm以上50μm以下の厚さを有してもよい。Al層は例えば10μm以上20μm以下の厚さを有してもよい。
【0022】
上記のMgまたはMg基合金により構成されるMg層とAlまたはAl基合金により構成されるAl層に対し、圧延加工をはじめとする展伸加工を活用して内部微細組織、クラッド材の厚さ、ならびに、AlとMgの接合を制御する。ここでは、圧延加工を例示しているが、圧延加工に限らず、双ロールキャスト法に代表されるように、凝固時に内部組織が制御され、厚さも同時に調整できる手法であればいずれであっても良い。重ね合わせは、MgとAlの二層、MgとAlとMgの三層、MgとAlとMgとAlの四層、またはそれ以上であっても良い。ただし、MgとAlの順であること。また、三層以上からなるクラッド材の場合、Mg層は、前記、MgまたはMg基合金により構成されるMg層を満たしていれば、異なるMgまたはMg基合金により構成されるMg層を用いてもかまわない。例えば、純MgとMg-Mn合金や、Mg-Mn合金とMg-Al合金の組み合わせであっても良い。
また、クラッド材のMg層とAl層に用いられるMg基合金とAl基合金は、AZ31合金で知られる商用Mg基合金や3000系合金で知られる商用Al基合金であっても良い。商用Mg基合金としては、Mg-Al-Zn系合金(AZ91、AZ31など)、Mg-Al-Mn系合金(AM50、AM60など)、Mg-Zn-Zr系(ZK61、ZK60など)、Mg-希土類元素系合金(EZ33、ZE41、WE43、EV31など)が知られている。なお、商用Mg基合金においては、厚さ数百μm程度の箔に加工するのが困難なAZ91のような合金は、Mg二次電池用負極材に適していないので、除く。Mg二次電池用負極材では、軽量化の為に、箔加工が可能な商用Mg基合金が望まれている。
【0023】
これらの手法によって創製したMg層とAl層の厚さは、いずれも0.5mm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.3mm以下、さらに好ましくは0.15mm以下である。負極材として使用する場合、電解液に接する表面積が大きいほど電気化学効率に優れるため、厚さが0.5mmを超えると、その効率低下を引き起こす。また、二次電池の重量が大きくなり、軽量化のメリットが低減する。
【0024】
次に、クラッド材の内部微細組織の特徴について記載する。Al層とMg層の各母相の平均結晶粒サイズは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。金属冶金学および電気学において、優れた電気化学特性を得るためには、結晶粒界を大量に導入する結晶粒微細化が望ましく、結晶粒サイズが微細であるほど、好ましい。しかし、試料厚さが薄い箔材の場合、断面(=厚さ)方向に存在する結晶粒が数個から数十個程度であり、10回以上のサイクル特性を確保するためには、結晶粒界の局所溶解を懸念する必要がある。ここで、サイクル特性は、サイクル計測にて取得した電位-電流相関を指し、一般的にはサイクル回数を尺度に優劣を評価する。サイクリックボルタンメトリー(電圧を一定速度・一定範囲で走査して電流応答を計測する手法)ではある電位における電流値が基準となる電流値以上を何サイクル維持したか、定電流析出溶解では低過電圧を何サイクル維持したか、という観点から評価する。
【0025】
また、結晶粒サイズの標準偏差は、平均結晶粒サイズと同サイズ以下(100%以下)であることが好ましく、より好ましくは75%以下であり、さらに好ましくは50%以下である。粗大な結晶粒と微細な結晶粒が混在する場合、負極表面全域で均一に充放電サイクルが起こりにくく、粗大または微細な結晶粒サイズからなる不均質な微細組織域が析出・溶解の短絡サイトになりやすく、所定のサイクル特性や電気化学特性を得ることができない。なお、結晶粒サイズの測定は、JIS規格に基づいた切片法(切断法ともいう。JIS H0501、G0551参照)を使用することが望ましい。ただし、結晶粒サイズが微細な場合や、結晶粒界が不鮮明な場合、切片法の使用が困難であるため、透過型電子顕微鏡によって得られる明視野像や電子線後方散乱回折像を用いて、測定してもかまわない。
【0026】
また、クラッド材の断面様相について、Al層とMg層の境界には隙間がないことが望ましい。光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて断面観察を実施し、隙間の割合が、好ましくは50%未満、より好ましくは40%未満、更に好ましくは30%未満である。50%以上の隙間が生じる場合、充放電特性にロスが生じ、集電体としての効果、機能が不十分である。また、隙間に電解液が入り込み、溶解・析出の反応サイトとなり、早期短絡を引き起こす可能性がある。
【0027】
上記のクラッド材を得るためには、被加工材に対して、ひずみを連続的に導入できる展伸加工法が望ましい。勿論、前記に記載のとおり、圧延加工に限らず、双ロールキャスト法に代表されるように、凝固時に内部組織が制御され、厚さも同時に調整できる手法であればいずれであっても良い。展伸加工時の温度は、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが更に好ましい。また、ひずみ付与は、真ひずみに換算して、0.05以上、5未満であることが好ましく、0.075以上、4未満であることがより好ましく、0.1以上、3未満であることが更に好ましい。加工温度が300℃未満の場合、結晶粒サイズの微細化が期待できるが、Mg母相内に加工時の残留ひずみが残存する。これらは、充放電時の短絡サイトになりやすく電気化学特性向上の観点から好ましくない。5以上の真ひずみを被加工材に付与することも類似であり、好ましくない。一方、0.05未満の真ひずみを付与する場合、AlとMgが良好に結合することが難しく、隙間の多いクラッド材創製となる。
【0028】
Mg合金の電気化学特性について説明する。二極式セルを用いたサイクル計測において、好ましくは5回以上、より好ましくは10回以上、更に好ましくは15回以上のサイクル特性を示す。サイクル特性が5回未満の場合、電解液との副反応の問題があるため、負極として適応することができない。ここで、サイクル計測は、ポテンショガルバノスタットを使用して、一定電流/電圧あるいは電流/電圧を一定速度・一定範囲で繰り返し符号を反転させながら一定時間印可した際に取得される電位と電流の関係をいう。
【0029】
また、電気化学的析出溶解試験に取得できる過電圧は、好ましくは50mV以下、より好ましくは30mV以下、さらに好ましくは20mV以下である。過電圧が50mV以上であると、電池電圧の損失が大きいため、負極として適応することができない。
電気化学的析出溶解試験において、電極電位±0.5Vのときに、電流値が好ましくは±10mAcm-2以上、より好ましくは±20mAcm-2以上、更に好ましくは±25mAcm-2以上の値を示す。電流値が±10mAcm-2未満の場合、電気反応が負極により律速されてしまうため、負極として適応することができない。ここで、電気化学的析出溶解試験は、サイクル計測での評価対象に該当するものである。そこで、本明細書に記載のサイクル計測は電気化学的析出溶解のサイクル計測、本明細書に記載のサイクル特性は電気化学的析出溶解のサイクル特性を意味するものである。
【実施例0030】
厚さが50μmからなる純Mg箔材(99.96mass%)と、厚さが50μmからなる市販の純Al箔材(99mass%)を用いた。また、圧延加工は、圧延ロールを300℃まで加熱できる圧延機を使用した。Mg箔材とAl箔材を重ね合わせ、圧延ロール温度:300℃にて2パス以上の圧延加工を実施し、クラッド材を創製した。圧延加工は大気中で実施し、1パスあたりの圧下率は10%とした。創製クラッド材を断面精密切削機により切断し、走査型電子顕微鏡および電子線後方散乱回折手法によって取得した微細組織観察例を
図1と
図2に示す。
図1より、MgとAlの境界でコントラストの違いが確認できる。境界には隙間がなく、当該観察倍率レベルではMgとAlが良好に接合している。
図2より、MgとAlの平均結晶粒サイズは、15μm、10μmであることが分かる。更に、各結晶粒内部のコントラストが均質であり、結晶粒内に残留ひずみが存在しないことを示唆している。
【0031】
実施例1の電気化学特性を評価するため、0.5mAcm
-2の電流密度で定電流電圧テストを行った。本試験では、テトラキス(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ほう酸マグネシウム塩をジエチレングリコールジメチルエーテルと配合した電解液を使用した。また、2極式セルにて電気化学特性を評価し、作用電極にはMg合金、対極にはガラス繊維フィルターをセパレータとして0.2mLの上記電解液を滴下した多孔質炭素材料を使用した。溶解析出反応の事例として、定電流電圧測定プロファイルを
図3に示す。
定電流電圧測定プロファイルにおいて、0Vvs.Mgを基準として、負の電圧が印可されている領域ではMg析出反応が、正の電圧が印可されている領域ではMg溶解反応が起きている。また析出、溶解いずれの反応も、0Vvs.Mgからの偏差が過電圧に対応する。析出-溶解の1サイクルにおいて、Mg析出に要した電流量とMg溶解に要した電流量の比を取ることでクーロン効率が算出できる。定電圧にてサイクル特性を示していることから、良好な溶解析出反応が起こっている。他方、45サイクル時において急激な電圧降下が確認できるが、短絡を示唆している。なお。電気化学試験に関する操作は、すべてアルゴン雰囲気のグローブボックスにおいて行った。
正極11においては、図示しない正極集電体によって、図示しない正極活物質が保持されている。正極集電体は、放電時に正極活物質に電子を供与する機能を有する。正極集電体として使用される物質は、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム等が、耐食性が比較的優れていることと、安価であることから好ましく用いられる。正極活物質として使用される物質は、Mgイオンを挿入及び脱離可能なものであれば特に制限されないが、MgFeSiO4、MgMn2O4、又はV2O5等が好ましく用いられる。正極11の具体的な構成としては、例えばステンレス上にV2O5を塗工した構成が挙げられる。
これら正極11、負極12、電解液13は、容器14に封入される。容器14の材質等は電解液の漏れがなく、耐食性を有するものであれば特に制限されないが、鉄等の金属板をプレス加工して形成され、内面及び外面の表面全体に耐食のためのニッケル等のめっき層が形成されたもの等が好ましく用いられる。
なお、上記の本発明の実施形態は、Mg二次電池の一例を説明したものにすぎず、制限的に解釈されるべきものではなく、Mg二次電池の技術分野において自明な技術的事項も含まれる。