(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023735
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】熱電変換システム、熱電変換方法
(51)【国際特許分類】
H10N 15/20 20230101AFI20240214BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H10N15/20
H01L29/82 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214458
(22)【出願日】2023-12-20
(62)【分割の表示】P 2019215283の分割
【原出願日】2019-11-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26~29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業総括実施型研究ERATO「核ダイナミクスに関する研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】岡安 悟
(72)【発明者】
【氏名】針井 一哉
(72)【発明者】
【氏名】家田 淳一
(57)【要約】
【課題】放射線による劣化が小さな熱電変換システムあるいは熱電変換方法を得る。
【解決手段】この熱電変換システム1においては、膜厚方向(z方向)に沿って、基板10の上に強磁性絶縁層20、金属層30が順次形成される。この熱電変換システム1に温度勾配を付与する熱源40は、基板10の下側に接続されている。スピンゼーベック効果による電位差は図中でy軸方向において発生するため、金属層30におけるy軸方向における両端部側にそれぞれ第1電極31、第2電極32が接続される。上記の熱電変換システム1は高いγ線耐性をもつため、γ線の遮蔽のための重金属層を必要としない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から付与された温度勾配によって第1電極と第2電極の間で起電力を生ずる熱電変換システムであって、
基板上に形成され、面内方向に磁場を有する強磁性体層と、
逆スピンホール効果を発現する金属材料で構成され、前記強磁性体層の上に形成され、前記第1電極及び前記第2電極が前記面内方向かつ前記磁場と交差する方向で離間した箇所に形成された厚さ50nm以下の金属層と、
を具備し、
前記温度勾配を付与する熱源は放射性物質を内部に収容したキャスクであり、
前記基板は、ガリウム・ガドリニウム・ガーネット(GGG)で構成され、かつホウ素(B)又はカドミウム(Cd)でコーティングされ、
前記温度勾配は前記強磁性体層の厚さ方向に付与されることを特徴とする熱電変換システム。
【請求項2】
前記強磁性体層及び前記金属層に前記磁場を印加する磁場印加層が前記強磁性体層及び前記金属層の前記面内方向の端部に接続されたことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換システム。
【請求項3】
前記強磁性体層はイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)、又はガリウム(Ga)が添加されたYIGで構成されたことを特徴とする請求項2に記載の熱電変換システム。
【請求項4】
前記金属層は白金(Pt)、金(Au)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、又はステンレス鋼を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱電変換システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の熱電変換システムを、各々における前記磁場が共通の向き、かつ各々における前記第1電極、前記第2電極がそれぞれ共通の側にあるように複数、前記温度勾配を付与する熱源の表面に配置し、直列接続することを特徴とする熱電変換方法。
【請求項6】
前記熱源は略円柱形状とされ、
複数の前記熱電変換システムを前記略円柱形状の外周面の周方向に沿って配列することを特徴とする請求項5に記載の熱電変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付与された温度勾配によって発電を行う熱電変換システム、熱電変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱(温度勾配)によって発電を行う熱電変換素子として、例えばゼーベック素子が知られている。ゼーベック素子は、ゼーベック係数の異なる2種類の半導体層とこれらに接続された電極とで構成される。こうした熱電変換素子は、外部からの電力の供給が困難であり、操作者から遠隔した様々な環境下での使用が可能である。こうした例として、例えば、特許文献1には、使用済み核燃料を内部に保有するキャスクの温度管理のための電源としてこうした熱電変換素子を用いることが記載されている。
【0003】
この場合には、キャスクを熱源として用い、キャスク内の核燃料の崩壊熱によって熱電変換素子によって自発的に発電が行われる。こうした構成とすることによって、放射線量が高いキャスクがある場所に外部から電力を供給することが不要となり、作業者が立ち入る頻度も低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来用いられたゼーベック素子において、使用される半導体材料には、この放射線によって結晶欠陥が発生する。この結晶欠陥によってゼーベック素子の特性が劣化し、その出力が徐々に低下した。このため、前記のようにキャスクを熱源として用いた場合には、ここから発せられる放射線によってこのような劣化が発生した。特にこのように結晶欠陥を発生させる放射線として、特にγ線がある。
【0006】
γ線を遮蔽するためには、厚い重金属層が必要となる。前記のようにキャスクを熱源として用いた場合には、このような劣化を抑制するためには、重金属層を熱電変換素子とキャスクとの間に設けることが必要となったが、この場合には、熱電変換素子側に流入する熱量が低下することによって、やはり出力が低下した。
【0007】
このため、放射線による劣化が小さな熱電変換システムあるいは熱電変換方法が望まれた。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の熱電変換システムは、外部から付与された温度勾配によって第1電極と第2電極の間で起電力を生ずる熱電変換システムであって、基板上に形成され、面内方向に磁場を有する強磁性体層と、逆スピンホール効果を発現する金属材料で構成され、前記強磁性体層の上に形成され、前記第1電極及び前記第2電極が前記面内方向かつ前記磁場と交差する方向で離間した箇所に形成された厚さ50nm以下の金属層と、を具備し、前記温度勾配を付与する熱源は放射性物質を内部に収容したキャスクであり、前記基板は、ガリウム・ガドリニウム・ガーネット(GGG)で構成され、かつホウ素(B)又はカドミウム(Cd)でコーティングされ、前記温度勾配は前記強磁性体層の厚さ方向に付与されることを特徴とする。
本発明の熱電変換システムは、前記強磁性体層及び前記金属層に前記磁場を印加する磁場印加層が前記強磁性体層及び前記金属層の前記面内方向の端部に接続されたことを特徴とする。
本発明の熱電変換システムにおいて、前記強磁性体層はイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)、又はガリウム(Ga)が添加されたYIGで構成されたことを特徴とする。
本発明の熱電変換システムにおいて、前記金属層は白金(Pt)、金(Au)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、又はステンレス鋼を含むことを特徴とする。
本発明の熱電変換方法は、前記熱電変換システムを、各々における前記磁場が共通の向き、かつ各々における前記第1電極、前記第2電極がそれぞれ共通の側にあるように複数、前記温度勾配を付与する熱源の表面に配置し、直列接続することを特徴とする。
本発明の熱電変換方法は、前記熱源は略円柱形状とされ、複数の前記熱電変換システムを前記略円柱形状の外周面の周方向に沿って配列することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放射線による劣化が小さな熱電変換システムあるいは熱電変換方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の熱電変換システムの構造を示す図である。
【
図2】本発明の実施例における出力電圧の磁場依存性を測定した結果である。
【
図3】γ線照射前(a)、高温かつ乾燥雰囲気におけるγ線被曝後(b)の、実施例における出力電圧の温度差依存性である。
【
図4】高温かつ蒸気中のγ線照射における、γ線被曝量毎の出力電圧の温度差依存性(a)、温度係数の被曝量依存性(b)をそれぞれ示す。
【
図5】本発明の実施の形態に係る熱電変換システムを複数組み合わせた構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る熱電変換システムについて説明する。この熱電変換システムは、付与された熱(温度勾配)によって発電が行われる点については従来の熱電変換システムと同様であるが、その構造及び発電のメカニズムが従来の熱電変換システムとは異なる。
【0013】
熱電変換のために用いられる従来のゼーベック素子においては、例えば、p型、n型の半導体層が用いられ、温度勾配が存在する場合におけるp型半導体中の正孔、n型半導体中の電子の流れに起因して起電力が発生する。
【0014】
一方、本発明の熱電変換システムは、例えば特開2009-130070号公報や特開2015-179746号公報に記載された、スピンゼーベック効果を利用する。スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子においては、強磁性体層に磁場が印加された場合、あるいは強磁性体層が磁化されている場合において、その磁場と平行な電子の流れ(アップスピン電子)、反平行のスピンをもつ電子の流れ(ダウンスピン電子)に差ができ、この差が、強磁性体層と接する常磁性金属層中の逆スピンホール効果によって電圧(起電力)として出力される。
【0015】
前記のような半導体におけるゼーベック効果を利用した熱電変換素子においては、起電力を発生する元となる正孔や電子の流れは、半導体中の結晶欠陥の影響を大きく受ける。この結晶欠陥は、特に放射線の照射によって発生するため、放射線量が高い環境下では時間経過と共に増大し、これに伴って出力電圧が低下する。
【0016】
これに対して、後述するように、強磁性体中のスピン流は、半導体中の正孔、電子の流れと比べて、放射線照射による悪影響を受けにくい。このため、このようなスピンゼーベック効果を用いた熱電変換システムは、放射線量の高い環境下での利用に特に適している。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係る熱電変換システム1の構造を示す断面斜視図である。この熱電変換システム1においては、膜厚方向(z方向)に沿って、基板10の上に強磁性絶縁層20、金属層30が順次形成される。
【0018】
また、この熱電変換システム1に温度勾配を付与する熱源40は、基板10の下側に接続されている。また、この構造に対するx方向の両側に磁場印加層51、52がそれぞれ接続される。金属層30が仮にそのシート抵抗が無視できる程度に厚くされた場合には金属層30は面内方向で同電位となるが、後述するように金属層30は充分に薄く形成されるために金属層30の面内方向で電位差が生ずる。スピンゼーベック効果による電位差は図中でy軸方向において発生するため、金属層30におけるy軸方向における両端部側にそれぞれ第1電極31、第2電極32が接続され、第1電極31・第2電極32間で起電力が取り出される。
【0019】
基板10としては、良質の強磁性絶縁層20をこの上に形成することができ、十分な機械的強度をもつものが用いられ、例えば1mm厚のGd3Ga5O12(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット:GGG)単結晶が用いられる。強磁性絶縁層(強磁性体層)20としては、磁性ガーネットであるY3Fe5O12(イットリウム・鉄・ガーネット:YIG)やガリウム(Ga)が添加されたYIG等のフェライト系磁性体が100nm程度の厚さで、塗布印刷法、スパッタリング法等によって形成される。強磁性絶縁層20の代わりに導電性(金属)の強磁性層を用いた場合においてもスピンゼーベック効果は得られるため、他の強磁性体を用いることもでき、例えばMnSb、MnBi等の光磁気材料や、SmCo等の希土類化合物等も用いることができる。ただし、厚い導電性の強磁性体層を用いた場合には、前記のように金属層30が厚い場合と同様に、第1電極31・第2電極32間で起電力を得ることが困難となるため、強磁性絶縁層20を用いることが好ましい。
【0020】
金属層30としては、スピン軌道相互作用が大きく逆スピンホール効果が強く表れる金属材料である白金(Pt)、金(Au)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼等が好ましく用いられる。前記のように、導電性の金属材料を用いた場合でもシート抵抗が十分に高くなるように、金属層30の膜厚は充分に薄く、50nm以下、例えば10nm程度とされる。金属層30は例えばスパッタリング法によって形成される。この熱電変換システム1において発生する起電力は、前記の通り第1電極31、第2電極32から取り出される。
【0021】
磁場印加層51、52は、それぞれが図示された向きの自発磁化を有する硬磁性体で構成され、絶縁性である、あるいは金属層30等と絶縁されるようにx方向における両側に設けられている。磁場印加層51、52によって、強磁性絶縁層20には、面内方向において
図1におけるx方向負側から正側に向かう磁場が印加される。
【0022】
熱源40は、この熱電変換システム1が使用される態様に応じて、様々なものが用いられる。ただし、後述するように、この熱電変換システム1は高い放射線耐性を有するため、特許文献1に記載されたキャスクのように、放射線量の高い環境下にあるものを、特に好ましく用いることができる。
【0023】
また、キャスクのように熱源自身が放射線を発する場合には、この放射線を基板10に吸収させて基板10自身も熱源として用いることができ、更に発電効率を高めることができる。例えば、熱源40がキャスクのように中性子を発する場合に、中性子捕獲断面積が大きなGdを含むGGGを基板10の材料とした場合には、このように基板10自身も熱源として機能する。この場合、例えば中性子との間の反応断面積が大きなホウ素(B)、カドミウム(Cd)で基板10をコーティングすることによって、発電効率を更に高めることができる。この場合においても、形成される温度勾配は
図1に示された通りとなる。
【0024】
上記の構造においては、前記の特開2009-130070号公報や特開2015-179746号公報に記載された構造と同様に、強磁性絶縁層20におけるスピンゼーベック効果と金属層30における逆スピンホール効果によって、温度勾配と磁場による起電力を金属層30から取り出すことができる。一方、金属層30が強磁性体である場合には、金属層30において、例えば特開2016-103535号公報に記載されたような異常ネルンスト効果が、強磁性絶縁層20の有無に関わらず発現する。この異常ネルンスト効果によって金属層30において発生する起電力(電界)の方向、向きはスピンゼーベック効果によるものと等しい。このため、実際には
図1の構造において金属層30から出力される起電力は、スピンゼーベック効果に起因する成分と異常ネルンスト効果に起因する成分の和となる。
【0025】
図1においては、基板10の下側(z方向負側)に熱源40が接続されたが、逆に、金属層30の上側(z方向正側)に熱源40を接続してもよい。この場合には、温度勾配の向きが
図1とは逆となるため、印加される磁場の向きが
図1と同一である場合には、第1電極31・第2電極32間で発生する起電力の向きが逆となる。また、この場合には、第1電極31・第2電極32は、金属層30と熱源40の間に設けられる。
【0026】
なお、上記のように強磁性絶縁層20として用いられる材料であるYIGは軟磁性材料であり、その保磁力及び残留磁化は非常に小さいため、強磁性絶縁層20中でx方向に沿った磁場Hを発生させるために磁場印加層51、52が用いられる。一方、上記のようなスピンゼーベック効果は、強磁性絶縁層20が硬磁性材料であっても発生する。この場合には、外部から印加された磁場が零となった場合の残留磁化を大きくすることができ、残留磁化によって
図1における磁場の強度を維持することができる。このため、強磁性絶縁層20を硬磁性材料で構成した場合には、予め熱電変換システム1において
図1に示されたような磁場を印加しておけば、磁場印加層51、52は不要である。
【0027】
この熱電変換システム1の特性を調べるために、
図1において磁場印加層51、52を除き、基板10、強磁性絶縁層20、金属層30のみからなる積層構造を形成し、z方向において温度勾配(温度差ΔT)、x方向に磁場Hをそれぞれ外部から印加して金属層30におけるy方向両側の電位差(出力電圧V0)を測定した。ここでは、基板10として厚さ1mmのGGG、強磁性絶縁層20として厚さ200nmのYIG、金属層30として厚さ10nmのPtを用い、ΔT=8Kとされた。
図2は、出力電圧V0の磁場H依存性を測定した結果である。ここで、磁場Hは正負両側で走査され、磁場Hが零近辺では強磁性絶縁層20における一定の残留磁化が
図1におけるx方向の磁場となるため、残留磁化の向きに応じたヒステリシスが生じている。この構成を具備する熱電変換システム1の出力電圧V0は、
図2における磁場Hの正側、負側における飽和値となり、20μV程度である。
【0028】
ここで、放射線として前記のように最も影響の大きなγ線を
図1におけるz方向で照射し、上記と同様の出力電圧(飽和値)のΔT依存性を、γ線のドーズ量(被曝量)毎に測定した。γ線源としては、
60Coを用い、被曝量は最大で1MGy程度とされた。
【0029】
また、照射の環境としては(1)室温かつ乾燥雰囲気、(2)高温(150℃)かつ乾燥雰囲気、(3)高温(150℃)かつ蒸気雰囲気、の3種類が選択された。
図3(a)は、γ線の照射前における出力電圧V0のΔT依存性(a)、(2)の環境下で0.86MGy照射後の同様の特性(b)をそれぞれ示す。これらの間に有意差はみられず、(2)の環境下で1MGy程度のγ線照射では、上記の原子力電池1の特性劣化は生じない。(1)の環境下においても、同様の結果が得られた。また、この場合の出力電圧はΔTに対して高い線形性を有している。
【0030】
一方、(3)の場合には、被曝量に伴って出力電圧がやや劣化した。
図4(a)に、この場合の被曝量毎の出力電圧のΔT依存性を、
図4(b)に、温度係数(
図4(a)における比例係数(V/K))の被曝量依存性をそれぞれ示す。上記の(1)(2)と比べるとγ線照射によって特性劣化が認められるが、その劣化は、1MGy程度で出力電圧が半減する程度である。このため、上記の熱電変換システム1は高いγ線耐性をもつため、γ線の遮蔽のための重金属層を必要としない。
【0031】
図2等に示されたように、この熱電変換システム1の出力電圧は、10
-6V程度であり、通常使用されている他の電池と比べて小さい。しかしながら、この熱電変換システム1は
図1のように厚さ方向の温度差によって面内方向で出力電圧が取り出されるため、この熱電変換システム1を複数直列に接続して各々の厚さ方向に温度差を付与することによって、大きな出力電圧を得ることができる。
【0032】
図5(a)は、このような形態の第1の例を示す。この場合には、支持基板(支持基体)100上に図中横方向にn個の熱電変換システム1が配列され、各熱電変換システム1において、磁場印加層51、52による磁場Hは図中下向きに印加されるように形成され、かつ熱源40による温度勾配ΔTは紙面垂直方向に付与される。この際、磁場Hの向きは全ての熱電変換システム1において共通とされるため、磁場Hの強度は面内で一様に高く維持される。また、温度勾配ΔTも面内で全体に一様に付与されるため、各熱電変換システム1において、安定した出力を得ることができる。この場合において、各熱電変換システム1が直列に接続されれば、単一の熱電変換システム1の出力電圧をV0とすると、n×V0の出力電圧を得ることができる。これによって、高い出力電圧を得ることができる。同様にこのような熱電変換システム1の配列を
図5(a)における縦方向にも並列に設け、2次元配列の出力を直列に接続することによって、更に出力電圧を高めることもできる。このような場合において、
図1における隣接するあるいは全ての熱電変換システム1において基板10を共通とすることもできる。
【0033】
また、
図5(b)に第2の例として示すように、円柱形状の熱源40の外周面に
図5(a)と同様に熱電変換システム1を円周上に配列することができる。ここでは、前記のように縦方向に2列の配列が形成されているが、配列の縦方向の数をより多くすることもできる。この場合には、特許文献1に記載されたように、円筒形状のキャスクを熱源40として好ましく用いることができる。こうした場合において、放射線(γ線)耐性の高い熱電変換システム1は特に有効である。
【0034】
なお、上記の例では、磁場Hの方向、温度勾配ΔTの方向、第1電極、第2電極が形成される方向(出力電圧が取り出される方向)はそれぞれ互いに直交するものとしたが、これらが厳密に直交する必要はなく、素子構成に応じてこれらの間の関係を直交からずらしてもよい。すなわち、十分な出力電圧が得られる限りにおいて、これらの方向は互いに交差すればよい。
【0035】
また、基板、強磁性体層、金属層を構成する材料は、上記の例以外でも適宜設定が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 熱電変換システム
10 基板
20 強磁性絶縁層(強磁性体層)
30 金属層
31 第1電極
32 第2電極
40 熱源
51、52 磁場印加層