(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023758
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】PBCの治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/423 20060101AFI20240214BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K31/423
A61P1/16
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215366
(22)【出願日】2023-12-21
(62)【分割の表示】P 2022067091の分割
【原出願日】2017-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2016164559
(32)【優先日】2016-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018536041
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成28年2月26日、Atherosclerosis 249(2016) p.36-43 (http://www.scinencedirect.com/science/article/pii/S0021915016300727)に公開
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 光幹
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 聡
(72)【発明者】
【氏名】谷川 亮平
(57)【要約】
【課題】PBCの治療に有用な、新たな治療剤を提供すること。
【解決手段】
本発明は、治療に有効な量の(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物を含む、原発性胆汁性肝硬変(PBC)を治療するた
めの医薬組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療に有効な量の(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物を含む、原発性胆汁性肝硬変を治療するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原発性胆汁性肝硬変(Primary biliary cirrhosis:PBC)の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
原発性胆汁性肝硬変(Primary biliary cirrhosis:PBC)は、慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患であり、慢性的な胆汁うっ滞に伴い肝実質細胞の破壊と線維化を生じる。症状が進行すると、最終的に、肝硬変や肝不全などの重篤な転帰に至ることがある(非特許文献1~3)。PBCは女性に好発する希少疾患であるが(有病率は10万人あたり、およそ1~40人)、その罹患率は年々増加傾向にある(非特許文献4および5)。また、現在、疾患名を「原発性胆汁性胆管炎」(Primary biliary cholangitis:PBC)に変更するべく議論が進められている(非特許文献26)。
【0003】
PBCの病態形成は、自己免疫学的機序によると考えられており、PBC患者のおよそ95%において自己抗体である抗ミトコンドリア抗体(Anti-mitochondrial antibody: AMA)が検出される(非特許文献6)。また、PBC患者の主な生化学検査所見の特徴として、アルカ
リフォスファターゼ(Alkaline Phosphatase:ALP)の高値があげられる(非特許文献6
)。PBC患者の多くは、臨床症状を認めず、AMA陽性やALP高値等の検査値異常に基づいて
診断される。PBC患者の代表的な臨床症状は、疲労および掻痒感であり、これら症状はPBC患者のQOLを著しく損ねる(非特許文献1、2、7、および8)。臨床上、掻痒感等の肝
障害に基づく自他覚症状を有する場合は症候性PBC(symptomatic PBC: sPBC)と呼ばれ、そのような症状を欠く場合は無症候性PBC(asymptomatic PBC: aPBC)と呼ばれる。
【0004】
PBCの治療は、根本的な治療法が確立しておらず、対症療法が中心となる。疾患が進行
すると、最終的に肝移植が行われる。PBC治療の第一選択薬として、ウルソデオキシコー
ル酸(ursodeoxycholic acid: UDCA)が広く用いられているが、約40%の患者はウルソデオキシコール酸による効果が十分に認められない(非特許文献9)。最近(2016年)、FXRアゴニストであるオベチコール酸(obeticholic acid)が米国においてPBC治療剤として承認されたが、オベチコール酸による治療は、掻痒感の発現を増加させる等、安全性に懸念がある(非特許文献10)。また、高脂血症治療剤として使用されているPPARαアゴニストであるフィブラート系薬物(フェノフィブラートおよびベザフィブラート)がPBCの治
療に有用であることが複数の臨床試験の結果から示唆されているが、いずれの国においてもPBCの治療剤として承認されていない(非特許文献11~23)。このように、現在まで、PBCの治療剤は十分に存在するとは言えず、有効かつ安全な新たな治療剤が望まれている。
【0005】
近年、約5000例のPBC患者を対象として臨床転帰(死亡や肝移植)とバイオマーカーの
関係を調査した研究結果から、ALPおよび総ビリルビンの低下は、PBC患者が肝移植をせずに生存可能な期間(transplant-free survival times)と強く関連することが報告され、PBC治療の予後を予測するバイオマーカーとして、ALPおよび総ビリルビンが有用であることが明らかとなった(非特許文献24)。したがって、ALPおよび総ビリルビンを低下さ
せる化合物は、PBCの治療剤として有用と考えられる。
【0006】
一方、特許文献1には、次式(1):
【0007】
【0008】
(式中、R1及びR2は同一又は異なって水素原子、メチル基又はエチル基を示し;R3a、R3b、R4a及びR4bは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、C1-4アルキル基、トリフルオロメチル基、C1-4アルコキシ基、C1-4アルキルカルボニル
オキシ基、ジ-C1-4アルキルアミノ基、C1-4アルキルスルフォニルオキシ基、C1-4ア
ルキルスルフォニル基、C1-4アルキルスルフィニル基、又はC1-4アルキルチオ基を示すか、R3aとR3bあるいはR4aとR4bが結合してアルキレンジオキシ基を示し;Xは酸素原子、硫黄原子又はN-R5(R5は水素原子、C1-4アルキル基、C1-4アルキルスルフォニル基、C1-4アルキルオキシカルボニル基を示す。)を示し;Yは酸素原子、S(O)l基(lは0~2の数を示す。)、カルボニル基、カルボニルアミノ基、アミノカルボニル基、スルフォニルアミノ基、アミノスルフォニル基、又はNH基を示し;ZはCH又はNを示し;nは1~6の数を示し;mは2~6の数を示す。)
で表される化合物、これらの塩又はこれらの溶媒和物が、選択的なPPARα活性化作用を有しており、ヒトを含む哺乳類における体重増加や肥満を伴わない、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、糖尿病合併症(糖尿病性腎症等)、炎症、心疾患等の予防及び/又は治療薬として有用であることが開示されている。
しかしながら、これらの化合物がPBCに対してどのような作用をするかについては記載
も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Selmi C, et al; Lancet. 2011;377(9777):1600-1609.
【非特許文献2】Carey EJ, et al;Lancet. 2015;386(10003):1565-1575.
【非特許文献3】Silveira MG, et al; Hepatology. 2010;52(1):349-359.
【非特許文献4】Boonstra K, et al;Journal of Hepatology. 2012; 56(5):1181-1188.
【非特許文献5】Boonstra K, et al; Liver International. 2014;34:e35.
【非特許文献6】Lindor KD , et al; Hepatology. 2009;50:291-308.
【非特許文献7】Huet PM, et al; Am J Gastroenterol. 2000 Mar; 95(3):760-7.
【非特許文献8】Bergasa NV, et al; J Hepatol. 2005 Dec; 43(6):1078-88.
【非特許文献9】Pares A, et al; Gastroenterology. 2006;130:715-720.
【非特許文献10】Nevens F, et al; N Engl J Med. 2016 Aug 18;375(7):631-43
【非特許文献11】Iwasaki S, et al; Hepatol Res. 1999;16:12-18.
【非特許文献12】Hazzan R, et al; J Clin Gastroenterol. 2010;44:371-373.
【非特許文献13】Kurihara T, et al; Am J Gastroenterol. 2002;97:212-214.
【非特許文献14】Kurihara T, et al; Am J Gastroenterol. 2000;95:2990-2992.
【非特許文献15】Nakai S, et al; Am J Gastroenterol. 2000;95:326-327.
【非特許文献16】Ohmoto K, et al; Liver. 2001;21:223-224.
【非特許文献17】Takeuchi Y, et al; J Gastroenterol Hepatol. 2011;26:1395-1401.
【非特許文献18】Dohmen K, et al; World J Gastroenterol. 2004;10:894-898.
【非特許文献19】Han XF, et al; J Dig Dis. 2012;13:219-224.
【非特許文献20】Levy C, et al; Aliment Pharmacol Ther. 2011;33:235-242.
【非特許文献21】Liberopoulos EN, et al;Open Cardiovasc Med J. 2010;4:120-126.
【非特許文献22】Ohira H, et al; Am J Gastroenterol. 2002;97:2147-2149.
【非特許文献23】Hosonuma K, et al; Am J Gastroenterol. 2015;110:423-431.
【非特許文献24】Lammers WJ, et al; Gastroenterology 2014;147(6): 1338-49.e5.
【非特許文献25】原発性胆汁性肝硬変(PBC)の診療ガイド 厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班編集 第1版
【非特許文献26】Angela C Cheung, et al; Can J Gastroenterol Hepatol Vol 29 No 6 August/September 2015; 293
【非特許文献27】European Association for the Study of the Liver; Journal of Hepatology 51 (2009); 237-267
【非特許文献28】Keith D. Lindor, et al; HEPATOLOGY, Vol. 50, No. 1, 2009; 291-308
【非特許文献29】「リピディル(登録商標)錠」添付文書.2017年2月改訂 第6版)
【非特許文献30】「ベザトール(登録商標)SR 錠」添付文書.2017年1月改訂(第14版)
【非特許文献31】「パルモディア(登録商標)錠」添付文書.2017年7月作成(第1版)
【非特許文献32】Nisanne S. Ghonem, et al; Hepatology 2015; 62: 635-43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、PBCの治療に有用な、新たな治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、全く意外にも前記特許文献1で実施例85として開示されている化合物、すなわち(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(以下、「化合物A」または「ペマフィブラート」と称する場合がある。)が、ALPおよび総ビリルビンを低下させ、PBCの治療に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
[1]治療に有効な量の(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物を含む、原発性胆汁性肝硬変を治療するための医薬組成物。
[2]治療に有効な量のウルソデオキシコール酸をさらに含む、[1]に記載の医薬組成物。
[3](R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分とする、原発性胆汁性肝硬変の治療剤。
[4]有効成分として、ウルソデオキシコール酸をさらに含む、[3]に記載の治療剤。[5](R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物を、それを必要とする患者に投与する、原発性胆汁性肝硬変の治療方法。
[6]ウルソデオキシコール酸を投与することをさらに含む、[5]に記載の治療方法。[7]原発性胆汁性肝硬変を治療するための、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物の使用。
[8]ウルソデオキシコール酸と組み合わせた、[7]に記載の使用。
[9]原発性胆汁性肝硬変を治療するための医薬組成物を製造するための、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物の使用。
[10]ウルソデオキシコール酸と組み合わせて原発性胆汁性肝硬変を治療するための医薬組成物を製造するための、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物の使用。
[11](R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分とする、アルカリフォスファターゼ低下剤。
[12](R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、その塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分とする、総ビリルビン低下剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、PBCの治療に有用な、新たな治療剤を提供する。本発明に従うと、現在の治
療剤では効果が十分に認められないPBC患者および現在の治療剤を使用することが困難なPBC患者に対して、新たな治療の選択肢を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、TG高値を示す脂質異常症患者に対して、化合物A(1日あたり0.05~0.4 mg)、フェノフィブラート(1日あたり100~200 mg)、またはプラセボを投与した時のALPの変化率を示す。
【
図2】
図2は、TG高値を示す脂質異常症患者に対して、化合物A(1日あたり0.05~0.4 mg)、フェノフィブラート(1日あたり100~200 mg)、またはプラセボを投与した時の総ビリルビンの変化率を示す。
【
図3】
図3は、TG高値を示す脂質異常症患者であってUDCAで治療中の患者に対して、化合物A(1日あたり0.05~0.4 mg)またはプラセボを投与した時のALPの変化率を示す。
【
図4】
図4は、TG高値を示す脂質異常症患者であってUDCAで治療中の患者に対して、化合物A(1日あたり0.05~0.4 mg)またはプラセボを投与した時の総ビリルビンの変化率を示す。
【
図5】
図5は、SDラットに対して、1日1回、溶媒(0.5% MC)、化合物A(1mg/kg)、またはフェノフィブラート(100mg/kg)を1週間投与した後の、肝臓における遺伝子(Cpt1aおよびCyp7a1)の発現量を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いる(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物A)は、以下の化学式(A):
【0017】
【0018】
によって示される。当該化合物は、例えば、国際公開第2005/023777号パンフレット等に記載の方法に従って製造することができる。また、文献に記載の方法に準じて製剤化することもできる。
【0019】
また、本発明の一実施態様において、化合物Aの塩または溶媒和物を用いることもできる。塩及び溶媒物は常法により、製造することができる。化合物Aの塩としては、薬学的に許容できるものであれば特に制限はないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩;塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。化合物A、若しくはその塩の溶媒和物としては、水和物、アルコール和物(例えば、エタノール和物)等が挙げられる。
【0020】
PPARα活性化作用を有するフィブラート系薬物のうち、フェノフィブラートおよびベザフィブラートはPBCの治療に有用であることが複数の臨床試験の結果から示唆されている
ところ、これらの排泄経路は腎臓であることが知られている(非特許文献29および30)。
一方、ペマフィブラート(化合物A)は、ほとんど腎から排泄されず、主に肝臓で代謝される(非特許文献31)。
【0021】
本発明の一態様において、PBC患者に、治療に有効な量の化合物A、その塩、またはそ
れらの溶媒和物を含む医薬組成物を投与することによって、PBCを治療することができる
。
【0022】
PBCの診断は、黄疸の有無に関わらず、以下の3つの項目;
(1)胆汁うっ滞所見、すなわち胆道系酵素であるALP・γ-GTPが上昇していること
(2)抗ミトコンドリア抗体(AMA)陽性所見(間接蛍光抗体法またはELISA法による)
(3)組織学的に慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)を含む特徴的所見(肝生検による
)
を基本とする。実地診療では肝生検は必須ではなく、以下の項目;
(1)胆道系酵素(ALP・γ-GTP)の異常が持続的に認められること
(2)ウイルス、薬物、アルコール等、他の原因による胆汁うっ滞を除外できていること(3)超音波、CT、またはMRIによる画像検査によって、胆外胆道閉塞を除外できている
こと
(4)AMAが陽性であること
が満たされればPBCと診断できるが、AMAが陰性である場合には
(5)肝生検にてPBCに典型的あるいは矛盾しない所見を呈していることが重要である。
日本、欧州、および米国の診療ガイドラインを参照すると、基本的には、ALPの上昇とAMA陽性の所見によって、PBCと診断され得る(非特許文献25、27、および28参照)。
【0023】
本明細書において、特に明示している場合を除き、「PBC」とは、肝障害に基づく自他
覚症状を有する症候性PBC(symptomatic PBC: sPBC)およびそのような症状を欠く無症候性PBC(asymptomatic PBC: aPBC)のいずれも意味する。
【0024】
本明細書において、「PBCの治療」とは、ALPおよび/若しくは総ビリルビンを低下させて正常値に近付けること、PBCの代表的な臨床症状である皮膚掻痒感および/若しくは疲
労を緩和すること、無症候性PBC(aPBC)から症候性PBC(sPBC)への移行を遅延させる若しくは防ぐこと、または、肝硬変や肝不全への進行を遅延させる若しくは防ぐことからなる群から選択される一つまたは複数を言う。
【0025】
ALPおよび総ビリルビンは、当業者であれば、適宜、測定することができる。
【0026】
ALPの正常値は、JSCC標準化対応法で測定した場合に100~325 IU/Lとされているところ、PBC診断時、PBC患者の約80%で異常高値を示していることが知られており、正常値の3
倍以上の数値を示すこともある。本発明の一実施態様において、PBC患者に化合物A、そ
の塩、またはそれらの溶媒和物を投与することによって、当該患者におけるALPの血中濃
度を低下させて、PBCを治療することができる。本発明に従うと、PBC患者において、ALP
を、例えば、正常値の2.5倍、2倍、1.8倍、1.5倍、1.2倍、1.1倍、または1.0倍の値以下
に低下させることができ、また、限定するものではないが、例えば、ALPの基準値上限の1.67倍未満とすることができる。または、PBC患者において、ALPを、例えば、診断時の値
から10%、15%、20%、25%、30%、50%、または75%低下させることができる。
【0027】
また、一般に、総ビリルビンの正常値は0.2~1.2 mg/dLとされているところ、PBC患者
においては、胆管消失に伴う胆汁うっ滞の進行および肝細胞機能低下により上昇することが知られている。本発明の一実施態様において、PBC患者に化合物A、その塩、またはそ
れらの溶媒和物を投与することによって、当該患者における総ビリルビンの血中濃度が上昇するのを防いで、PBCを治療することができる。本発明に従うと、PBC患者において、総ビリルビンの上昇を、例えば、1.5 mg/dL、1.75 mg/dL、2.0 mg/dL、2.5 mg/dL、3.0 mg/dL、または4.0 mg/dL以下に抑えることができる。または、PBC患者において、総ビリルビンを、例えば、投与前の値から10%、15%、20%、25%、30%、50%、または75%低下させることができる。
【0028】
本発明の一態様において、PBC患者に化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物を投
与することによって、皮膚掻痒感および/または疲労を緩和することができる。皮膚掻痒感は、多くのPBC患者において最初に現れる症状であり、原因の一つとして胆汁うっ滞に
よる胆汁酸の増加の関与が考えられているが、詳細な原因は不明である。一方、疲労症状は日本ではあまり注目されていないが、欧米ではPBCの最も一般的な症状と考えられてい
る。本発明に従うと、皮膚掻痒感および/または疲労を緩和することができるので、PBC
患者のQOLを向上させ得る。PBC患者における皮膚掻痒感および疲労は、疾患特異的QOL評
価尺度であるPBC-27またはPBC-40を用いて評価することが可能である。
【0029】
無症候性PBC(aPBC)患者の一部は、症候性PBC(sPBC)へ移行することが知られている。ここで、aPBCとsPBCとは、肝障害に基づく自他覚症状の有無によって区分され、当該自他覚症状としては、例えば、皮膚掻痒感、黄疸、食道動脈瘤、腹水、肝性脳症等が挙げられる。本発明の一態様において、PBC患者に化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物
を投与することによって、aPBCからsPBCへの移行を遅延させるまたは防ぐことができる。すなわち、本発明に従うと、aPBC患者において、皮膚掻痒感、黄疸、食道動脈瘤、腹水、肝性脳症等の自他覚症状の発現を、遅延させるまたは抑制することができる。
【0030】
PBCは進行すると、肝硬変や肝不全を呈し、最終的な治療として肝移植が行われる。本
発明の一態様において、PBC患者に化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物を投与す
ることによって、肝機能を改善させて、肝硬変や肝不全への進行を遅延させるまたは防ぐことができる。したがって、本発明の一態様において、PBC患者に化合物A、その塩、ま
たはそれらの溶媒和物を投与することによって、当該患者の肝移植をせずに生存可能な期間(transplant-free survival times)を延長し、肝移植を回避させ得る。
【0031】
本発明の一態様において、化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物を、PBCの第一
選択薬であるウルソデオキシコール酸と併用してもよい。具体的には、ウルソデオキシコール酸(UDCA)を投与しても改善が見られないUDCA抵抗性のPBC患者に対し、UDCAに替え
てまたはUDCAに併用して、化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物を投与することができる。化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物とUDCAとを併用する場合には、PBC
患者に対し、それぞれを単独に投与してもよいし、両成分を含有する医薬組成物等を用いて同時に投与してもよい。それぞれを単独に投与する場合は、どちらを先に投与しても構わない。
【0032】
本発明の一態様において、化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物を含む医薬組成物は、他の薬学的に許容される担体を用いて、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、ローション剤、軟膏剤、注射剤、坐剤等の剤型とすることができる。これらの製剤は、公知の方法で製造することができる。
【0033】
本発明の一態様において、化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物は、経口投与または非経口投与により投与され得るが、経口投与が好ましい。また、化合物A、その塩、またはそれらの溶媒和物の治療に有効な量および投与回数は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、当業者であれば適宜設定できる。例えば、通常成人の場合、化合物Aとして一日あたり0.05~0.8 mgを1~3回に分けて投与することができ、好ましくは一日あたり0.2~0.4 mgを1~2回に分けて、より好ましくは一日あたり0.1~0.8 mgを1回または2回に分けて投与する。
【0034】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て参照として本明細書に組み込まれる。また、本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2016-164559号(2016年8月25日出願)および国際出願PCT/JP2017/006982(2017年2月24日出願)の明細書および図面に記載の内容は全て参照として本明細書に組み込まれる。
【0035】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【実施例0036】
実施例1:化合物AのALPおよび総ビリルビンに対する作用の検討
トリグリセリド(TG)高値を示す脂質異常症患者を対象として実施した化合物Aの臨床試験(投与期間が12週以上の、8つの試験)で得られたデータ(合計1965例)を用いて、化合物AのALPおよび総ビリルビンに対する作用を検討した。化合物A群には、化合物A
を1日あたり0.05~0.4 mgを投与した。また、対照群にはプラセボまたはフェノフィブラ
ート(1日あたり100~200 mg)を投与した。化合物A群および対照群に、それぞれの化
合物を12週間投与し、投与前後のALPの変化を表1及び
図1に、総ビリルビン値の変化を
表2及び
図2に示した。なお、群間の比較は、ベースライン値を共変量とした共分散分析を用いて検討した。
【0037】
【0038】
【0039】
表1および2ならびに
図1および2に示すように、化合物Aは、プラセボと比較して用量依存的にALPおよび総ビリルビンを低下させることが確認された。さらに、化合物A群
と、PBCの治療への有用性が示唆されているフェノフィブラートを投与した対照群とを比
較すると、化合物Aは0.1 mg/日以上の用量において、フェノフィブラートの臨床最大用
量(1日あたり200 mg)よりも強力にALPを低下させることが明らかとなった。したがって、化合物Aは、PBCの治療剤として有用であることがわかった。
【0040】
実施例2:ウルソデオキシコール酸で治療中の患者における化合物AのALPおよび総ビリ
ルビンに対する作用の検討
TG高値を示す脂質異常症患者を対象として実施した化合物Aの臨床試験(投与期間が12週以上の、8つの試験)で得られたデータからウルソデオキシコール酸で治療中の患者(合計15例)のデータを抽出し、化合物AのALPおよび総ビリルビンに対する作用を検討し
た。化合物A群には、化合物Aを1日あたり0.05~0.4 mgを投与した。また、対照群にはプラセボを投与した。化合物A群および対照群に、それぞれの化合物を12週間投与し、投与前後のALPの変化を表3及び
図3に、総ビリルビン値の変化を表4及び
図4に示した。
なお、群間の比較は、ベースライン値を共変量とした共分散分析を用いて検討した。
【0041】
【0042】
【0043】
表3および4ならびに
図3および4に示すように、ウルソデオキシコール酸で治療中の患者において、化合物Aにより、ALP及び総ビリルビンが低下することが明らかとなった
。したがって、化合物Aは、ウルソデオキシコール酸で治療中の患者に対してもPBCの治
療剤として有用であることがわかった。
【0044】
以上、実施例1及び実施例2より、本発明の化合物Aは、PBC治療の予後を予測するバ
イオマーカーであるALPと総ビリルビンのいずれも低下させることから、本発明の化合物
AがPBCの治療薬として極めて有用であることが明らかとなった。
【0045】
実施例3:フェノフィブラートと化合物Aがラットの肝臓におけるCpt1aとCyp7a1の遺伝
子発現に及ぼす影響の検討
Cpt1aは代表的なPPARαの標的遺伝子であり、Cyp7a1は胆汁酸合成の律速酵素である。Ghonemらの報告(非特許文献32)には、PBC患者において胆汁酸が胆管内皮細胞を傷害すること、および、フェノフィブラートの作用機序として、Cyp7a1の発現抑制を介した胆汁酸合成抑制作用が示されている。そこで、本実施例において、フェノフィブラートと化合物Aの効果を比較するために、ラットの肝臓におけるCpt1aとCyp7a1の遺伝子発現に及ぼす
フェノフィブラートと化合物Aの影響について検討を行った。
【0046】
SDラット(チャールス・リバー、7週齢、雌)を実験に使用した。溶媒(0.5% メチルセルロース(MC)水溶液)、化合物A(1mg/kg)、またはフェノフィブラート(100mg/kg)を1日1回、午前中に経口投与した。ペントバルビタール麻酔下で開腹後、肝臓を摘出した。肝臓から、ISOGEN(登録商標)((株)ニッポンジーン)を用いてRNAを抽出し、発現
している遺伝子(Cpt1aおよびCyp7a1)をqRT-PCR法により測定した。
【0047】
薬物を1週間投与した後の遺伝子発現量を測定した結果を、
図5に示す。フェノフィブラートおよび化合物Aは、PPARαの標的遺伝子であるCpt1aの発現を、対照群と比較して
それぞれ13倍および4倍に増加させた。また、胆汁酸合成の律速酵素であるCyp7a1の発現は、対照群と比較してフェノフィブラート投与群で40%低下した。驚くべきことに、化合物A投与群では、対照群と比較してCyp7a1の発現が83%も低下し、フェノフィブラート投与群と比べても著明なCyp7a1発現低下が認められた。
【0048】
実施例3において得られた結果は、化合物Aが、PBCの治療に有用であることが示唆さ
れている既存薬物に比べて著明な作用を発揮することを示す。