(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023760
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞及び神経障害治療剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240214BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240214BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/28
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215423
(22)【出願日】2023-12-21
(62)【分割の表示】P 2020530111の分割
【原出願日】2019-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018130205
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】石川 格靖
(72)【発明者】
【氏名】堀内 陽子
(72)【発明者】
【氏名】瀧尻 崇史
(72)【発明者】
【氏名】黒木 輝
(72)【発明者】
【氏名】湯本 真代
(57)【要約】
【課題】本発明は、神経障害の新規治療剤を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するための本発明は、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2のいずれか一つ、または二つ以上が高発現であることを特徴とする、間葉系幹細胞である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2のいずれか一つ、または二つ以上が高発現であることを特徴とする、間葉系幹細胞。
【請求項2】
他家由来である、請求項1に記載の間葉系幹細胞。
【請求項3】
臍帯組織もしくは脂肪組織由来である、請求項1又は2に記載の間葉系幹細胞。
【請求項4】
浮遊培養法により調製される、請求項1から3のいずれか1項に記載の間葉系幹細胞。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の間葉系幹細胞を含有する神経障害治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞及び神経障害治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の進行に伴い、脳の神経細胞の障害である神経変性疾患が年々増加を続けている。神経変性疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄小脳変性症などが挙げられる。アルツハイマー病では、大脳皮質や海馬といった場所の神経細胞が脱落し、記憶能力が減退していく。また、パーキンソン病では、黒質と呼ばれる場所にある神経細胞が脱落し、運動機能に障害が出る。さらに、脳の神経細胞の障害によっておこる疾患としては、神経変性疾患の他にも脳卒中による脳梗塞や脳出血が知られている。
【0003】
また、周産期の新生児脳障害は出生1,000人に1~2人の頻度で発症し、その後の生涯にわたる脳性麻痺の原因となる。このような脳性麻痺の原因となる周産期脳障害には、低酸素性虚血性脳症、脳出血、脳室周囲白質軟化症などがあり、これらの主病態はミトコンドリア機能不全から生じる活性酸素の上昇、マクロファージの活性化とそれに伴う高サイトカイン血症という炎症病態である。上述の神経変性疾患や脳卒中、脳性麻痺は、疾患の原因及び症状は異なっているが、神経細胞の数が減るという一点においては共通していると言える。
【0004】
アルツハイマー病にはドネペジル、パーキンソン病にはレボドパなどの治療薬が用いられているが、これらの治療薬は神経細胞が減少したことによる神経ネットワークの情報処理機能を、化学伝達物質シグナルの補充によって回復させることを目的としたものであり、神経細胞の減少自身を抑えることはできない。また、神経変性疾患や脳卒中に対する既存の治療薬の中で、神経細胞を保護する作用を示すものはない。そのため神経細胞を保護する作用を有する新規治療薬の開発が望まれている。
【0005】
間葉系幹細胞は、1982年にFriedensteinによって初めて骨髄から単離された多分化能を有する前駆細胞である(非特許文献1参照)。間葉系幹細胞は、骨髄、臍帯、脂肪等の様々な組織に存在することが明らかにされており、間葉系幹細胞移植は、様々な難治性疾患に対する新しい治療方法として、期待されている(特許文献1~2参照)。最近では、脂肪組織、胎盤、臍帯、卵膜等の間質細胞に同等の機能を有する細胞が存在することが知られている。従って、間葉系幹細胞を間質細胞(Mesenchymal Stromal Cell)と称することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-157263号公報
【特許文献2】特表2012-508733号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pittenger F.M.et al.Science ,(1999),284,pp.143-147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような状況の中、神経障害の新規治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明者らは、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2のいずれか一つ、または二つ以上が高発現する間葉系幹細胞(mesenchymal stem(stromal) cell; MSC)が、神経障害の治療に有効であることを見出し、本発明を完成させた。本発明によれば、神経障害の治療のために有効な治療剤を提供できる。すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に関するものである:
[1]HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2のいずれか一つ、または二つ以上が高発現であることを特徴とする、間葉系幹細胞。
[2]他家由来である、[1]に記載の間葉系幹細胞。
[3]臍帯組織もしくは脂肪組織由来である、[1]又は[2]に記載の間葉系幹細胞。
[4]浮遊培養法により調製される[1]から[3]のいずれかに記載の間葉系幹細胞。
[5][1]から[4]のいずれかに記載の間葉系幹細胞を含有する神経障害治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、神経障害の新規治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、各種培地による培養で得られた間葉系幹細胞における、各種因子のmRNA発現量を比較した結果を示す図である。
【
図2】
図2は、間葉系幹細胞について、平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)における各種因子のmRNA発現量を比較した結果を示す図である。
【
図3】各種培養法による培養で得られた間葉系幹細胞の、ラット一過性脳虚血モデルへの投与効果を示す図である(体重)。
【
図4】各種培養法による培養で得られた間葉系幹細胞の、ラット一過性脳虚血モデルへの投与効果を示す図である(神経症状スコア)。
【
図5】各種培養法による培養で得られた間葉系幹細胞の、ラット一過性脳虚血モデルへの投与効果を示す図である(ステップ回数)。
【
図6】各種培養法による培養で得られた間葉系幹細胞の、ラット一過性脳虚血モデルへの投与効果を示す図である(テープ剥がしテスト)。
【
図7】神経細胞と間葉系幹細胞の細胞間相互作用の様子を示すタイムラプス画像である。
【
図8】無血清培地(Rohto社)による培養で得られた間葉系幹細胞の、神経細胞死抑制効果を示す図である。
【
図9】無血清培地(Rohto社)による培養で得られた間葉系幹細胞の、用量依存的な神経細胞賦活効果を示す図である。
【
図10】無血清培地(Rohto社)を用いて平面(ADH)もしくは浮遊(SUS)培養で得られた間葉系幹細胞の、神経細胞賦活効果を示す図である(線維芽細胞との比較)。
【
図11】無血清培地(Rohto社)による培養で得られた間葉系幹細胞の、神経細胞賦活効果を示す図である(他の培地で培養された細胞との比較)。
【
図12】無血清培地(Rohto社)による培養で得られた間葉系幹細胞の、神経細胞死抑制効果を示す細胞写真である(他の培地で培養された細胞との比較)。
【
図13】無血清培地(Rohto社)による培養で得られた間葉系幹細胞の、神経細胞死抑制効果を示す図である(他の培地で培養された細胞との比較)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の間葉系幹細胞、神経障害治療剤について詳細に説明する。
【0014】
[間葉系幹細胞]
本発明の間葉系幹細胞は、HGF(hepatocyte growth factor), SHH(sonic hedgehog), OLIG2(oligodendrocyte transcription factor 2), VEGFA(vascular endothelial growth factor A), NEUROG1(neurogenin 1), GRPR(gastrin releasing peptide receptor), IL1R1(interleukin-1 receptor 1), CRHR2(corticotropin releasing hormone receptor 2), CCKAR(cholecystokinin A receptor), APOE(apolipoprotein E), PAX3(paired box 3), PAX5(paired box 5), EGF(epidermal growth factor), CXCL1(C-X-C motif chemokine ligand 1), GDNF(glial cell derived neurotrophic factor), NRCAM(neuronal cell adhesion molecule), DLL1(delta like canonical Notch ligand 1), HEYL(hes related family bHLH transcription factor with YRPW motif-like), BMP2(bone morphogenetic protein 2), NTN1(netrin 1), ASCL1(achaete-scute family bHLH transcription factor 1), NRP2(neuropilin 2)のいずれか一つ、または二つ以上が高発現であることを特徴とする。
【0015】
HGFは成長因子の一種であり、神経保護作用を有することが知られている。SHHはヘッジホッグファミリーに属する遺伝子であり、酸化ストレスに対する神経細胞の保護に関与することが知られている。VEGFAは成長因子の一種であり、血管新生を誘導することで神経細胞の保護に関与することが知られている。IL1R1は炎症性サイトカインの一種であるIL1の受容体であり、炎症応答に関与することが知られている。DLL1はNotchリガンドであるDSLファミリーに属し、Notchシグナルの調節に関与することが知られている。
【0016】
なお、上記HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2が高発現であるとは、それぞれのmRNA発現が高発現であること、若しくはそれぞれのタンパク質が高発現であること、又はその両方が高発現であることを含む。
【0017】
また、本発明の間葉系幹細胞は、他の細胞に比べ、上記因子を高発現していればよいが、具体的には、本発明の間葉系幹細胞は、従来の培養条件下(例えば、10%FBS含有MEM-α培地による培養)で得られる間葉系幹細胞に比べて、上記因子を高発現していればよい。好ましくは従来の培養条件下で得られる間葉系幹細胞に比べ2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上、特に好ましくは100倍以上発現している。
【0018】
本発明の間葉系幹細胞は、線維芽細胞に比べて、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2のいずれか一つ、または二つ以上を高発現していればよい。好ましくは皮膚線維芽細胞に対して2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上、特に好ましくは100倍以上発現している。
【0019】
本発明において間葉系幹細胞とは、間葉系に属する一種以上の細胞(骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)への分化能を有し、当該能力を維持したまま増殖できる細胞を意味する。本発明において用いる間葉系幹細胞なる用語は、間質細胞と同じ細胞を意味し、両者を特に区別するものではない。また、単に間葉系細胞と表記される場合もある。間葉系幹細胞を含む組織としては、例えば、脂肪組織、臍帯、骨髄、臍帯血、子宮内膜、胎盤、羊膜、絨毛膜、脱落膜、真皮、骨格筋、骨膜、歯小嚢、歯根膜、歯髄、歯胚等が挙げられる。例えば脂肪組織由来間葉系幹細胞とは、脂肪組織に含有される間葉系幹細胞を意味し、脂肪組織由来間質細胞と称してもよい。これらのうち、神経障害疾患の治療に対する有効性の観点、入手容易性の観点等から、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、歯髄由来間葉系幹細胞が好ましく、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞がより好ましく、臍帯由来間葉系幹細胞が最も好ましい。
【0020】
本発明における間葉系幹細胞は、処置される対象(被検体)と同種由来であってもよいし、異種由来であってもよい。本発明における間葉系幹細胞の種として、ヒト、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラビット、マウス、ラットが挙げられ、好ましくは処置される対象(被検体)と同種由来細胞である。本発明における間葉系幹細胞は、処置される対象(被検体)に由来、すなわち自家細胞であってもよいし、同種の別の対象に由来、すなわち他家細胞であってもよい。好ましくは他家細胞である。
【0021】
間葉系幹細胞は同種異系の被験体に対しても拒絶反応を起こしにくいため、あらかじめ調製されたドナーの細胞を拡大培養して凍結保存したものを、本発明の疾患治療剤における間葉系幹細胞として使用することができる。そのため、自己の間葉系幹細胞を調製して用いる場合と比較して、商品化も容易であり、かつ安定して一定の効果を得られ易いという観点から、本発明における間葉系幹細胞は、同種異系であることがより好ましい。
【0022】
本発明において間葉系幹細胞とは、間葉系幹細胞を含む任意の細胞集団を意味する。当該細胞集団は、少なくとも20%以上、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、96%、97%、98%又は99%以上が間葉系幹細胞である。
【0023】
本発明において臍帯とは、胎児と胎盤を結ぶ白い管状の組織であり、臍帯静脈、臍帯動脈、膠様組織(ウォートンジェリー;Wharton's Jelly)、臍帯基質自体等から構成され、間葉系幹細胞を多く含む。臍帯は、本発明の疾患治療剤を使用する被験体(投与対象)と同種動物から入手されることが好ましく、本発明の疾患治療剤をヒトへ投与することを考慮すると、より好ましくは、ヒトの臍帯である。
【0024】
本発明において脂肪組織とは、脂肪細胞、及び微小血管細胞等を含む間質細胞を含有する組織を意味し、例えば、哺乳動物の皮下脂肪を外科的切除又は吸引して得られる組織である。脂肪組織は、皮下脂肪より入手され得る。後述する脂肪組織由来間葉系幹細胞の投与対象と同種動物から入手されることが好ましく、ヒトへ投与することを考慮すると、より好ましくは、ヒトの皮下脂肪である。皮下脂肪の供給個体は、生存していても死亡していてもよいが、本発明において用いる脂肪組織は、好ましくは、生存個体から採取された組織である。個体から採取する場合、脂肪吸引は、例えば、PAL(パワーアシスト)脂肪吸引、エルコーニアレーザー脂肪吸引、又は、ボディジェット脂肪吸引などが例示され、細胞の状態を維持するという観点から、超音波を用いないことが好ましい。
【0025】
本発明において骨髄とは、骨の内腔を満たしている柔組織のことをいい、造血器官である。骨髄中には骨髄液が存在し、その中に存在する細胞を骨髄細胞と呼ぶ。骨髄細胞には、赤血球、顆粒球、巨核球、リンパ球、脂肪細胞等の他、間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞等が含まれている。骨髄細胞は、例えば、ヒト腸骨、長管骨、又はその他の骨から採取することができる。
【0026】
本発明において、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞とは、それぞれ脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞を含む任意の細胞集団を意味する。当該細胞集団は、少なくとも20%以上、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、96%、97%、98%又は99%以上が、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞である各組織由来間葉系幹細胞である。
【0027】
本発明における間葉系幹細胞は、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2のいずれか一つ、または二つ以上を高発現することに加えて、例えば、成長特徴(例えば、継代から老化までの集団倍加能力、倍加時間)、核型分析(例えば、正常な核型、母体系統又は新生児系統)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)による表面マーカー発現、免疫組織化学及び/又は免疫細胞化学(例えば、エピトープ検出)、遺伝子発現プロファイリング(例えば、遺伝子チップアレイ;逆転写PCR、リアルタイムPCR、従来型PCR等のポリメラーゼ連鎖反応)、miRNA発現プロファイリング、タンパク質アレイ、サイトカイン等のタンパク質分泌(例えば、血漿凝固解析、ELISA、サイトカインアレイ)、代謝産物(メタボローム解析)、本分野で知られている他の方法等によって、特徴付けられてもよい。
【0028】
(間葉系幹細胞の調製方法)
HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2のいずれか一つ、または二つ以上が高発現の間葉系幹細胞の調製方法は特に限定されないが、例えば以下のようにして調製することができる。すなわち、脂肪、臍帯、骨髄等の組織から、当業者に公知の方法に従って、間葉系幹細胞を分離、培養し、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2に特異的に結合する抗体を用いて、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2高発現細胞をセルソーター、磁気ビーズ等で分離することにより取得することができる。また、特定の培地を用いた培養により、間葉系幹細胞におけるHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2の発現を誘導することで、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2高発現の間葉系幹細胞を取得することもできる。この誘導によって得られる細胞集団において、細胞集団の50%以上がHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2が高発現であることが好ましく、70%以上がHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2が高発現であることがより好ましく、80%以上がHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2を高発現であることがさらに好ましく、90%以上がHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2を高発現であることが特に好ましく、実質的にHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2の高発現の均一な細胞集団であることが最も好ましい。以下に、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2高発現の間葉系幹細胞の調製方法を具体的に説明する。
【0029】
間葉系幹細胞は、当業者に周知の方法により調製することができる。以下に、例として、臍帯組織由来間葉系幹細胞及び脂肪組織由来間葉系幹細胞の調製方法を説明する。
【0030】
臍帯は、経膣分娩および帝王切開にて娩出された胎盤および臍帯を含む産褥組織から適宜胎盤を取り除き回収することができる。回収した臍帯から臍帯血を除去した後、無菌または制菌処理を行っても良い。臍帯血の除去は、ヘパリン含有溶液などの抗凝固溶液ですすぐことによって行われる。無菌または制菌処理は、特に限定されるものではないが、ポピドンヨードの塗布、またはペニシリン、ストレプトマイシン、アムホテリシンB、ゲンタマイシン、およびナイスタチンなどの1種類以上の抗生剤および/または抗真菌剤を添加した培地またはバッファー中に浸漬してもよい。また、必要に応じて、赤血球を選択的に溶解する工程を含んでも良い。赤血球を選択的に溶解する方法として、例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地または低張培地中でのインキュベーションなど、当技術分野で周知の方法を使用することができる。
【0031】
本発明の臍帯由来細胞とは、臍帯を原材料として、調製された細胞集団を意味し、公知の製造方法によって得られれば良く、例えば、以下の工程(i)~(iii)を含む方法で製造することができる:
(i)臍帯を切断する工程;
(ii)(i)の工程で得られた臍帯を培養する工程;ならびに
(iii)継代する工程。
【0032】
また、他の当該細胞の調製方法として、(i)臍帯を切断する工程の代わりに、(i')臍帯を酵素処理することにより組織を解離させる工程を含んでもよい。さらに、(i)臍帯を切断する工程に加えて、(i')臍帯を酵素処理することにより組織を解離させる工程を含んでもよい。
【0033】
本発明の(i)臍帯を切断する工程では、上述の方法で入手した臍帯を、羊膜、血管、血管周囲組織およびワルトンジェリーを含む状態にて機械力(細断力または剪断力)によって切断することによって行い得る。特に限定されないが、切断により得られた臍帯切片は、1から10mm3、1から5mm3、1から4mm3、1から3mm3または1から2mm3の大きさが例示される。本発明の(i')臍帯を酵素処理することにより組織を解離させる工程では、上述の方法で入手した臍帯を、羊膜、血管、血管周囲組織およびワルトンジェリーを含む状態にて酵素処理にて、組織を解離させる工程にて行い得る。特に限定されないが、酵素処理には、コラゲナーゼ、ディスパーゼ及びヒアルロニダーゼなどの1種又は2種以上の酵素を用いた酵素処理が例示される。
【0034】
本発明の(ii)(i)の工程で得られた臍帯を培養する工程は、固体表面上で、適切な細胞培地を使用して、(i)の工程で得られた臍帯を適切な細胞密度及び培養条件で培養する。
【0035】
本工程で用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されないが、このような培地は、基礎培地に、血清を添加する、及び/又は、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コレステロール、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール等の1つ以上の血清代替物を添加して作製してもよい。これらの培地には、必要に応じて、さらに脂質、アミノ酸、タンパク質、多糖、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等の物質を添加してもよい。
【0036】
上記基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium(EMEM)培地、MEM-α培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、MCDB201培地及びこれらの混合培地等が挙げられる。
【0037】
上記血清としては、例えば、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清、仔ウシ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清等が挙げられるがこれらに限定されない。血清を用いる場合、基礎培地に対して、5v/v%から15v/v%、好ましくは、10v/v%を添加してもよい。
【0038】
上記脂肪酸としては、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸、パルミトイル酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等が例示されるが、これらに限定されない。脂質は、フォスファチジルセリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン等が例示されるが、これらに限定されない。アミノ酸は、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどを含むが、これらに限定されない。タンパク質は、例えば、エコチン、還元型グルタチオン、フィブロネクチン及びβ2-ミクログロブリン等が例示されるが、これらに限定されない。多糖は、グリコサミノグリカンが例示され、グリコサミノグリカンのうち特に、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸等が例示されるが、これらに限定されない。増殖因子は、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等が例示されるが、これらに限定されない。本発明において得られる臍帯由来間葉系幹細胞を細胞移植に用いるという観点から、血清等の異種由来成分を含まない(ゼノフリー)培地を用いることが好ましい。このような培地は、例えば、PromoCell社、Lonza社、Biological Industries社、Veritas社、R&D Systems社、Corning社及びRohto社などから間葉系幹細胞(間質細胞)用として予め調製された培地として提供されている。
【0039】
本発明において、「固体表面」とは、本発明における脂肪組織由来間葉系幹細胞の結合・接着を可能とする任意の材料を意味する。特定の態様では、このような材料は、その表面への哺乳類細胞の結合・接着を促すように処理されたプラスチック材料である。固体表面を有する培養容器の形状は特に限定されないが、シャーレやフラスコなどが好適に用いられる。非結合状態の細胞及び細胞の破片を除去するために、インキュベーション後に細胞を洗浄する。
【0040】
本発明では、最終的に固体表面に結合・接着した状態で留まる細胞を、臍帯組織由来間葉系幹細胞の細胞集団として選択することができる。
【0041】
本発明の臍帯組織由来間葉系幹細胞は、浮遊培養製造法を用いても、製造することができる。浮遊培養製造法として、細胞を凝集させてスフェア上の細胞塊として撹拌培養する方法、マイクロキャリア上に細胞を接着させてマイクロキャリアを撹拌することにより培養する方法などがある。なお、撹拌は容器内の撹拌翼をスターラーで回転させる方法、培養液と細胞の入ったバッグを振盪機に乗せてバッグごと揺らすことで培養液を懸濁する方法などがある。また、浮遊培養製造法で用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されず、上記のような培地が例示される。マイクロキャリアとしては、浮遊培養で用いることができるものであれば、特に限定されないが、ポリエステル、ポリスチレン、ガラス、デキストラン等が例示される。
【0042】
脂肪組織由来間葉系幹細胞は、例えば米国特許第6,777,231号に記載の製造方法によって得られれば良く、例えば、以下の工程(i)~(iii)を含む方法で製造することができる:
(i) 脂肪組織を酵素による消化により細胞懸濁物を得る工程;
(ii) 細胞を沈降させ、細胞を適切な培地に再懸濁する工程;ならびに
(iii) 細胞を固体表面で培養し、固体表面への結合を示さない細胞を除去する工程。
【0043】
工程(i)において用いる脂肪組織は、洗浄されたものを用いることが好ましい。洗浄は、生理学的に適合する生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))を用いて、激しく攪拌して沈降させることによって行い得る。これは、脂肪組織に含まれる夾雑物(デブリとも言い、例えば損傷組織、血液、赤血球など)を組織から除去するためである。したがって、洗浄及び沈降は一般に、上清からデブリが総体的に除去されるまで繰り返される。残存する細胞は、さまざまなサイズの塊として存在するので、細胞そのものの損傷を最小限に抑えながら解離させるため、洗浄後の細胞塊を、細胞間結合を弱めるか、又は破壊する酵素(例えば、コラゲナーゼ、ディスパーゼ又はトリプシンなど)で処理することが好ましい。このような酵素の量及び処理期間は、使用される条件に依存して変わるが、当技術分野で既知である。このような酵素処理に代えて、又は併用して、細胞塊を、機械的な攪拌、超音波エネルギー、熱エネルギーなどの他の処理法で分解することができるが、細胞の損傷を最小限に抑えるため、酵素処理のみで行うことが好ましい。酵素を用いた場合、細胞に対する有害な作用を最小限に抑えるために、適切な期間をおいた後に培地等を用いて酵素を失活させることが望ましい。
【0044】
工程(i)により得られる細胞懸濁物は、凝集状の細胞のスラリー又は懸濁物、ならびに各種夾雑細胞、例えば赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、及び線維芽細胞を含む。従って、続いて凝集状態の細胞とこれらの夾雑細胞を分離、除去してもよいが、後述する工程(iii)での接着及び洗浄により、除去可能であることから、当該分離、除去は割愛してもよい。夾雑細胞を分離、除去する場合、細胞を上清と沈殿に強制的に分ける遠心分離によって達成しえる。得られた夾雑細胞を含む沈殿は、生理学的に適合する溶媒に懸濁させる。懸濁状の細胞には、赤血球を含む恐れがあるが、後述する個体表面への接着による選択により、赤血球は除外されるため、溶解する工程は必ずしも必要ではない。赤血球を選択的に溶解する方法として、例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地又は低張培地中でのインキュベーションなど、当技術分野で周知の方法を使用することができる。溶解後、例えば濾過、遠心沈降、又は密度分画によって溶解物を所望の細胞から分離してもよい。
【0045】
工程(ii)において、懸濁状の細胞において、間葉系幹細胞の純度を高めるために、1回もしくは連続して複数回洗浄し、遠心分離し、培地に再懸濁してもよい。この他にも、細胞を、細胞表面マーカープロファイルを基に、又は細胞のサイズ及び顆粒性を基に分離してもよい。
【0046】
再懸濁において用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されないが、このような培地は、基礎培地に、血清を添加する、及び/又は、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コレステロール、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール等の1つ以上の血清代替物を添加して作製してもよい。これらの培地には、必要に応じて、さらに脂質、アミノ酸、タンパク質、多糖、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等の物質を添加してもよい。
【0047】
上記基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium(EMEM)培地、MEM-α培地、Dulbecco's modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、MCDB201培地及びこれらの混合培地等が挙げられる。
【0048】
上記血清としては、例えば、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清、仔ウシ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清等が挙げられるがこれらに限定されない。血清を用いる場合、基礎培地に対して、5v/v%から15v/v%、好ましくは、10v/v%を添加してもよい。
【0049】
上記脂肪酸としては、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸、パルミトイル酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等が例示されるが、これらに限定されない。脂質は、フォスファチジルセリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン等が例示されるが、これらに限定されない。アミノ酸は、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどを含むがこれらに限定されない。タンパク質は、例えば、エコチン、還元型グルタチオン、フィブロネクチン及びβ2-ミクログロブリン等が例示されるが、これらに限定されない。多糖は、グリコサミノグリカンが例示され、グリコサミノグリカンのうち特に、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸等が例示されるが、これらに限定されない。増殖因子は、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等が例示されるが、これらに限定されない。本発明において得られる脂肪由来間葉系幹細胞を細胞移植に用いるという観点から、血清等の異種由来成分を含まない(ゼノフリー)培地を用いることが好ましい。このような培地は、例えば、PromoCell社、Lonza社、Biological Industries社、Veritas社、R&D Systems社、Corning社及びRohto社などから間葉系幹細胞(間質細胞)用として予め調製された培地として提供されている。
【0050】
続いて、工程(iii)では、工程(ii)で得られた細胞懸濁液中の細胞を分化させずに固体表面上で、上述の適切な細胞培地を使用して、適切な細胞密度及び培養条件で培養する。本発明において、「固体表面」とは、本発明における脂肪組織由来間葉系幹細胞の結合・接着を可能とする任意の材料を意味する。特定の態様では、このような材料は、その表面への哺乳類細胞の結合・接着を促すように処理されたプラスチック材料である。固体表面を有する培養容器の形状は特に限定されないが、シャーレやフラスコなどが好適に用いられる。非結合状態の細胞及び細胞の破片を除去するために、インキュベーション後に細胞を洗浄する。
【0051】
本発明では、最終的に固体表面に結合・接着した状態で留まる細胞を、脂肪組織由来間葉系幹細胞の細胞集団として選択することができる。
【0052】
選択された細胞について、本発明における間葉系幹細胞であることを確認するために、表面抗原についてフローサイトメトリー等を用いて従来の方法で解析してもよい。さらに、各細胞系列に分化する能力について検査してもよく、このような分化は、従来の方法で行うことができる。
【0053】
本発明における間葉系幹細胞は、上述の通り調製することができるが、次の特性を持つ細胞として定義してもよい;
(1)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す、
(2)表面抗原CD73、CD90が陽性であり、CD45が陰性であり、及び
(3)培養条件にて骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞に分化可能。
【0054】
上記工程によって得られた間葉系幹細胞から、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2タンパクを高発現している細胞を、セルソータ―、磁気ビーズ等を用いた免疫学的手法により選択的に分離することで、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2タンパクを高発現している間葉系幹細胞を取得することができる。またHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2の発現を誘導できる特定の培地による培養を行うことにより、間葉系幹細胞におけるHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2発現を誘導し、効率的にHGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1もしくはNRP2高発現の間葉系幹細胞を取得することもできる。一例として、セルソータ―を用いた免疫学的手法による選択的分離の具体的方法を以下に説明する。
【0055】
上記調製した間葉系幹細胞をトリプシン・EDTA溶液等により処理して得られた細胞懸濁液を遠心(室温、400G、5分)して上清を除去する。細胞にStaining Buffer(1%BSA-PBS)を加え、1×106cells/500μLとなるように調製し、ピペッティングにより細胞懸濁液濃度を均一にした後、新しい1.5mLマイクロチューブに50μLずつ分注する。分注した細胞懸濁液に1次抗体(Mouse anti human TFPI、Sekisui diagnostics社製、ADG4903)を5~20μg/mLの濃度で添加し懸濁した後に、遮光・冷蔵下で30分間~1時間反応させる。Staining Buffer 1mLで3回洗浄を行った後に、Staining Bufferを加え50μLとし、2次抗体(Anti Mouse IgG alexar488、Thermofisher scientific社製、A21202)を1~10μg/mLの濃度で添加し懸濁した後に、遮光・冷蔵下で30分間~1時間反応させる。Staining Buffer 1mLで3回洗浄を行った後に、PI Buffer(Staining buffer 14.4mLにPropidium iodide solution(SIGMA社製、P4864)28.8μLを添加して調製)300μLを加えてよく懸濁し、セルストレーナ付チューブに通し、fluorescence activated cell sorting(FACS)で分離を行うことができる。
【0056】
(間葉系幹細胞の凍結保存)
本発明における間葉系幹細胞は、疾患治療効果を備えていれば、適宜、凍結保存及び融解を繰り返した細胞であってもよい。本発明において、凍結保存は、当業者に周知の凍結保存液へ間葉系幹細胞を懸濁し、冷却することによって行い得る。懸濁は、必要に応じて細胞をトリプシンなどの剥離剤によって剥離し、凍結保存容器に移し、適宜、処理した後、凍結保存液を加えることによって行い得る。
【0057】
凍結保存液は、凍害防御剤として、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を含有していてもよいが、DMSOは、細胞毒性に加えて、間葉系幹細胞を分化誘導する特性を有することから、DMSO含有量を減らすことが好ましい。DMSOの代替物として、グリセロール、プロピレングリコール又は多糖類が例示される。DMSOを用いる場合、5%~20%の濃度、好ましくは5%~10%の濃度、より好ましくは10%の濃度を含有する。この他にも、WO2007/058308に記載の添加剤を含んでもよい。このような凍結保存液として、例えば、バイオベルデ社、日本ジェネティクス株式会社、リプロセル社、ゼノアック社、コスモ・バイオ社、コージンバイオ株式会社、サーモフィッシャーサイエンティフィック社などから提供されている凍結保存液を用いてもよい。
【0058】
上述の懸濁した細胞を凍結保存する場合、-80℃~-100℃の間の温度(例えば、-80℃)で凍結することで良く、当該温度に達成しえる任意のフリーザーを用いて行い得る。特に限定されないが、急激な温度変化を回避するため、プログラムフリーザーを用いて、冷却速度を適宜制御してもよい。冷却速度は、凍結保存液の成分によって適宜選択しても良く、凍結保存液の製造者指示に従って行われ得る。
【0059】
保存期間は、上記条件で凍結保存した細胞が融解した後、凍結前と同等の性質を保持している限り、特に上限は限定されないが、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、1年以上、又はそれ以上が挙げられる。より低い温度で保存することで細胞障害を抑制することができるため、液体窒素上の気相(約-150℃以下から-180℃以上)へ移して保存してもよい。液体窒素上の気相で保存する場合、当業者に周知の保存容器を用いて行うことができる。特に限定されないが、例えば、2週間以上保存する場合、液体窒素上の気相で保存することが好ましい。
【0060】
融解した間葉系幹細胞は、次の凍結保存までに適宜、培養してもよい。間葉系幹細胞の培養は、上述した間葉系幹細胞を培養できる培地を用いて行われ、特に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃の培養温度で、CO2含有空気の雰囲気下で行われてもよい。CO2濃度は、約2~10%、好ましくは約5~10%である。培養において、培養容器に対して適切なコンフルエンシー(例えば、培養容器に対して、50%から80%を細胞が占有することが挙げられる)に達した後に、細胞をトリプシンなどの剥離剤によって剥離し、別途用意した培養容器に適切な細胞密度で播種して培養を継続してもよい。細胞を播種する際において、典型的な細胞密度として、100細胞/cm2~100,000細胞/cm2、500細胞/cm2~50,000細胞/cm2、1,000~10,000細胞/cm2、2,000~10,000細胞/cm2などが例示される。特定の態様では、細胞密度は2,000~10,000細胞/cm2である。適切なコンフルエンシーに達するまでの期間が、3日間から7日間となるように調整することが好ましい。培養中、必要に応じて、適宜、培地を交換してもよい。
【0061】
凍結保存した細胞の融解は、当業者に周知の方法によって行い得る。例えば、37℃の恒温槽内又は湯浴中にて静置又は振とうすることによって行う方法が例示される。
【0062】
本発明の間葉系幹細胞は、いずれの状態の細胞であってもよいが、例えば培養中の細胞を剥離して回収された細胞でもよいし、凍結保存液中に凍結された状態の細胞でもよい。拡大培養して得られる同ロットの細胞を小分けして凍結保存したものを使用すると、安定して同様の作用効果が得られる点、取扱い性に優れる点等において好ましい。凍結保存状態の間葉系幹細胞は、使用直前に融解し、凍結保存液に懸濁したまま輸液もしくは培地等の溶液に直接混合してもよい。また、遠心分離等の方法により凍結保存液を除去してから輸液もしくは培地等の溶液に懸濁してもよい。ここで、本発明における「輸液」とは、ヒトの治療の際に用いられる溶液のことをいい、特に限定されないが、例えば、生理食塩水、日局生理食塩液、5%ブドウ糖液、日局ブドウ糖注射液、リンゲル液、日局リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、1号液(開始液)、2号液(脱水補給液)、3号液(維持液)、4号液(術後回復液)等が挙げられる。
【0063】
[神経障害治療剤]
本発明の神経障害治療剤は、上述した本発明の、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOE, PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2のいずれか一つ、または二つ以上を高発現する間葉系幹細胞を含有する。本発明の神経障害治療剤によると、神経障害を効果的に保護することができる。本発明の神経障害治療剤を含む間葉系幹細胞については、上記間葉系幹細胞の項の説明を適用できる。
【0064】
本発明の神経障害治療剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記間葉系幹細胞以外に、その用途や形態に応じて、常法に従い、薬学的に許容される担体や添加物を含有させてもよい。このような担体や添加物としては、例えば、等張化剤、増粘剤、糖類、糖アルコール類、防腐剤(保存剤)、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、安定化剤、キレート剤、油性基剤、ゲル基剤、界面活性剤、懸濁化剤、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、発泡剤、流動化剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、溶解補助剤、抗酸化剤、甘味剤、酸味剤、着色剤、呈味剤、香料又は清涼化剤等が挙げられるが、これらに限定されない。代表的な成分として例えば次の担体、添加物等が挙げられる。
【0065】
担体としては、例えば、水、含水エタノール等の水性担体が;等張化剤(無機塩)としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が;多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が;増粘剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が;糖類としては、例えば、シクロデキストリン、ブドウ糖等が;糖アルコール類としては、例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等(これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい)が;防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、トロメタモール、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、塩酸ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアニド)等)、グローキル(ローディア社製商品名)等が;pH調節剤としては、例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、硫酸マグネシウム、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等が;安定化剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等が;油性基剤としては、例えば、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油、綿実油等の植物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が;水性基剤としては、例えば、マクロゴール400等が;ゲル基剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ガム質等が;界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、セスキオレイン酸ソルビタン等が;懸濁化剤としては、例えば、サラシミツロウや各種界面活性剤、アラビアゴム、アラビアゴム末、キサンタンガム、大豆レシチン等が;結合剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が;賦形剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が;滑沢剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が;崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等が;発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム等が;流動化剤としては、例えば、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、軽質無水ケイ酸等が、それぞれ挙げられる。
【0066】
本発明の神経障害治療剤は、目的に応じて種々の形態、例えば、固形剤、半固形剤、液剤等の様々な剤形で提供することができる。例えば、固形剤(錠剤、粉末、散剤、顆粒剤、カプセル剤等)、半固形剤[軟膏剤(硬軟膏剤、軟軟膏剤等)、クリーム剤等]、液剤[ローション剤、エキス剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤(輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射、用時調製型の注射剤を含む)、透析用剤、エアゾール剤、軟カプセル剤、ドリンク剤等]、貼付剤、パップ剤等の形態で利用できる。また、本発明の神経障害治療剤は、油性又は水性のビヒクル中の溶液又は乳液等の形態でも利用できる。さらに、本発明の神経障害治療剤は噴霧により、患部に適用することもでき、本発明の神経障害治療剤は噴霧した後に患部でゲル化もしくはシート化される形態でも利用できる。本発明の神経障害患治療剤は上記間葉系幹細胞をシート状または立体構造体とした後に、患部に適用することもできる。
【0067】
本発明の神経障害治療剤は、生理食塩水、日局生理食塩液、5%ブドウ糖液、日局ブドウ糖注射液、リンゲル液、日局リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、1号液(開始液)、2号液(脱水補給液)、3号液(維持液)、4号液(術後回復液)等の輸液、又は、DMEM等の細胞培養培地を用いて、懸濁もしくは希釈して用いることができ、好ましくは生理食塩液、5%ブドウ糖液、1号液(開始液)で、より好ましくは5%ブドウ糖液、1号液(開始液)で懸濁もしくは希釈して用いることができる。
【0068】
本発明の神経障害治療剤が液剤である場合、神経障害治療剤のpHは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、一例として、2.5~9.0、好ましくは3.0~8.5、より好ましくは3.5~8.0となる範囲が挙げられる。
【0069】
本発明の神経障害治療剤が液剤である場合、神経障害治療剤の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.7~5.0、より好ましくは0.8~3.0、さらに好ましくは0.9~1.4となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0070】
本発明の神経障害治療剤の対象への投与経路は、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、舌下投与、経直腸投与、経腟投与、眼内投与、経鼻投与、吸入、経皮投与、インプラント、臓器表面への噴霧及びシート等の貼付による直接投与等が挙げられるが、本発明の神経障害治療剤の有効性の観点から、好ましくは動脈内投与、静脈内投与、脳室内投与及び髄腔内投与であり、対象者の負担の軽減の観点から、より好ましくは静脈内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与であり、効果の観点からは脳室内投与及び髄腔内投与が好ましい。
【0071】
本発明の神経障害治療剤において、その用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の神経障害治療剤の剤形等によって異なりうるが、十分な経障害治療剤の治療効果を奏する観点からは、その量は多い方が好ましい傾向にあり、一方、副作用の発現を抑制する観点からはその量は少ない方が好ましい傾向にある。通常、成人に投与する場合には、細胞数として、1×103~1×1012個/回、好ましくは1×104~1×1011個/回、より好ましくは1×105~1×1010個/回、さらに好ましくは5×106~1×109個/回である。また、患者の体重あたりの投与量としては、1×10~5×1010個/kg、好ましくは1×102~5×109個/kg、より好ましくは1×103~5×108個/kg、さらに好ましくは1×104~5×107個/kgである。新生児に投与する場合には、細胞数として、1×103~1×1011個/回、好ましくは1×104~1×1010個/回、より好ましくは1×105~1×109個/回、さらに好ましくは5×105~5×108個/回である。また、患者の体重あたりの投与量としては、1×10~5×1010個/kg、好ましくは1×102~5×109個/kg、より好ましくは1×103~5×108個/kg、さらに好ましくは1×104~5×107個/kgである。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与してもよい。
【0072】
本発明の神経障害治療剤は、一又は二以上の他の薬剤と共に投与してもよい。他の薬剤としては、神経障害の治療薬として用いることができる任意の剤を薬剤が挙げられ、たとえば、レボドパ、アマンタジン、カルビドパ等の抗パーキンソン病薬、ブロモクリプチン、プルゴリド、ロピニロール、プラミペキソール等のドパミン作動薬、セレギリン、ラサリジン等の選択的B型モノアミン酸化酵素阻害剤(MAO-B)、エンタカポン、トルカポン等のカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬ベンズトロポン、トリヘキシフェニジル等の抗コリン薬、ジフェンヒドラミン、オルフェナドリン等の抗ヒスタミン薬、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、タクリン等のコリンエステラーゼ阻害薬、メマンチン等のN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬、ハロペリドール、チオリダジン、チオチキセン、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、クロザピン等の抗精神薬、プロプラノロール等のβ遮断薬、ベンゾジアゼピン等の鎮静薬、ヘパリン、低分子ヘパリン、ワルファリン等の抗凝固剤、カルバマゼピン、ガバペンチン、フェニトイン、プレガバリン、バルプロサン、ラモトリジン等の抗痙攣薬、三環系、ベンラファキシン、ブプロピオン、アミトリプチリン、デシプラミン、パロキセチン等の抗うつ薬、クロニジン、チザニジン等の中枢性α-2アドレナリン作用薬、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のコルチコステロイド、アマンタジン、デキストリメトロファン等のNMDA受容体拮抗薬、リドカイン、メキシレチン、カプサイシン等の局所麻酔薬、エトドラク、インドメタシン、スリン諾、トルメタチン、ナブメトン、ピロキシカム、アセトアミノフェン、フェノビプロン、フルルビプロン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、オキサプロシン、アスピリン、コリンマグネシウム三サリチル酸、ジフルニサル、メクロフェナム酸塩、メフェナム酸、フェニルブタゾン、ケトロラク、セレコキシブ、コデイン、ヒドロコデイン、プロポキシフェン、フェンタニル、ヒドロモルホン、レボファノール、メペリジン、メサドン、モルヒネ、オキシコドン、オキシモルホン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、ナルブフィン、ペンタゾシン等の鎮痛剤、プロポフォール等のラジカルスカベンジャー、抗炎症剤、セロトニン、ノルエピネフリン、NSAID、イチョウ葉エキス等が挙げられる。また、本発明の神経障害治療剤の投与とともに、低体温療法、脳低温療法、脳低体温療法等の低温療法を合わせて行う事もできる。
【0073】
本発明の間葉系幹細胞は様々な神経障害に用いることができるが、具体的疾患としては、自律神経障害、ホルネル症候群、多系統委縮症、純粋自律神経不全等の自律神経系障害、慢性疼痛、神経障害性疼痛、複合性局所疼痛症候群等の疼痛、虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作、低酸素-虚血、脳内出血・脳室内出血などの頭蓋内出血、クモ膜下出血等の脳卒中(脳血管事故)、アルツハイマー病、脳血管性認知症、レーヴィ体認知症、HIV関連認知症、前頭側頭型認知症等の認知症、痙攣性症候群、アテトーゼまたは運動異常症候群及び失調性症候群等の脳性麻痺症候群、低血糖、高ナトリウム血症、低ナトリウム血症、低マグネシウム血症、先天代謝異常等による、新生児痙攣性疾患、多発性硬化症等の脱髄性疾患、キランーバレー症候群、遺伝性ニューロパシー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む運動ニューロン疾患、重症筋無力症、モノニューロパシー、多発ニューロパシー、神経叢障害等の末梢神経系障害、急性横断性脊髄炎、動静脈奇形、脊髄梗塞(虚血性脊髄障害)等の脊髄障害、脊髄小脳失調症、脊髄小脳変性症等の小脳疾患、脳腫瘍、脳炎、髄膜炎、パーキンソン病等が挙げられる。また、新生児を対象とした、周産期脳障害、新生児脳症及び脳性麻痺等に用いることもできる。これらのうち、虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作、低酸素-虚血、脳内出血・脳室内出血などの頭蓋内出血、クモ膜下出血等の脳卒中(脳血管事故)、周産期脳障害、新生児脳症及び脳性麻痺等が好ましい。
【実施例0074】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
【0075】
[臍帯由来間葉系幹細胞の調製及び培養]
臍帯由来細胞は、Cytotherapy, 18, 229-241, 2016に記載の方法で採取した。簡潔には、東京大学医科学研究所の倫理委員会の承認を得た上で、提供者の同意を得て採取された臍帯を1から2mm3の断片に細断し、培養皿上へ播種し、セルアミーゴ(株式会社 椿本チエイン)を被せ、10% fetal bovine serum(FBS)と抗生物質を添加したα-minimal essential medium(MEM-α)中で培養する改良エクスプラント法により、臍帯由来間葉系幹細胞(以下「UCMSC」という)を得た。なお、臍帯組織から前述の改良エクスプラント法により得られた細胞を第一継代細胞(P1)とし、継代を行う事により継代数が進み、第二継代細胞(P2)のように記載する。
【0076】
得られたUCMSCを、トリプシン(TrypLE Select (1X))を用いて剥離し、遠沈管に移し、400×gで5分間、遠心分離し細胞の沈殿を得た。上清を除去した後、細胞凍結保存液(STEM-CELLBANKER(ゼノアック社))を適量加え懸濁した。当該細胞懸濁溶液を、クライオチューブに分注し、フリーザー内で-80℃にて保存した。その後、液体窒素上の気相に移し、保存を継続した。
【0077】
[mRNA発現]
UCMSCをP2からP4までそれぞれ間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社、無血清培地)、PromoCell培地(Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(PromoCell社製、C-28009, Lot.435M415)にSupplement mix(PromoCell社製, C-39809, Lot.435M126 )を添加)及びMEM-α培地(Thermo Fisher社製、#12571-063、Lot.18997009に血清を10%となるよう添加)でそれぞれ培養し、凍結ストックを作製した。線維芽細胞はMEM-α培地で培養後、凍結ストックを作製した。それぞれのP4細胞と、線維芽細胞(Fibroblast)を起眠し、6ウェルプレートに15,000cells/cm2で播種し、3種類それぞれの培地で1日間培養した後、Total RNAを回収した。HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOEのmRNA発現を、それぞれ定量PCRを用いて検出した。
【0078】
MEM-α培地に比べ、無血清培地で培養した細胞は、HGF, SHH, OLIG2, VEGFA, NEUROG1, GRPR, IL1R1, CRHR2, CCKAR, APOEのmRNA発現が有意に高いことが分かった。また、PromoCell培地で培養した細胞は、MEM-α培地で培養した細胞に比べ、有意に VEGFA, NEUROG1, GRPR, CRHR2, CCKARの mRNA発現量が高いことがわかった(
図1)。
【0079】
[浮遊培養細胞(SUS)と平面培養細胞(ADH)の調製]
前述の臍帯組織由来凍結細胞を起眠し、細胞培養フラスコに播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて培養した。培養4日目の細胞を回収して、必要細胞数を含んだ細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加、攪拌培養を開始した。3もしくは4日目に細胞/マイクロキャリア浮遊液を一部分取し、新しいマイクロキャリアを加えて3もしくは4日間培養する継代培養を2週間行い、浮遊培養細胞(以下、「SUS」と言う)を得た。前述の臍帯組織由来凍結細胞を起眠し、細胞培養フラスコにて播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて培養した。3もしくは4日に一度継代を行い、合計で2週間培養し、平面培養細胞(以下、「ADH」と言う)を得た。
【0080】
[平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の比較]
上記方法により得られた平面培養細胞(ADH)、または浮遊培養細胞(SUS)の凍結ストックからTotal RNAを回収した。PAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2, VEGFA, APOEのmRNA発現を、それぞれ定量PCRを用いて検出した。
【0081】
平面培養細胞(ADH)に比べ、浮遊培養細胞(SUS)で、有意にPAX3, PAX5, EGF, CXCL1, GDNF, NRCAM, DLL1, HEYL, BMP2, NTN1, ASCL1, NRP2, VEGFA, APOEのmRNA発現量が高いことがわかった(
図2)。
【0082】
[脂肪由来間葉系幹細胞の調製]
ヒトドナーから同意を得た後、脂肪吸引法で得た皮下脂肪組織を生理食塩液で洗浄した。細胞外基質の破壊、及び細胞の単離を達成するために、コラゲナーゼ(溶媒は生理食塩液)を添加し、37℃で90分間振倒し、分散した。続いて、この上記懸濁液を800gで5分間、遠心分離して間質血管細胞群の沈殿を得た。上記細胞の沈殿に間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を加え、当該細胞懸濁液を400gで5分間遠心分離し、上清除去後に間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)に再懸濁し、フラスコに細胞を播種した。細胞を37℃、5%CO2中で数日間培養した。数日後に培養物をPBSで洗浄して、培養液中に含まれていた血球や脂肪組織の残存等を除去し、プラスチック容器に接着している間葉系幹細胞(以下「ADMSC」と言う)を得た。
【0083】
[脂肪組織由来間葉系幹細胞の凍結保存]
得られたADMSCを、トリプシンを用いて剥離し、遠沈管に移し、400×gで5分間、遠心分離し細胞の沈殿を得た。上清を除去した後、細胞凍結保存液(STEM-CELLBANKER(ゼノアック社))を適量加え懸濁した。当該細胞懸濁溶液を、クライオチューブに分注し、フリーザー内で-80℃にて保存した。その後、液体窒素上の気相に移し、保存を継続した。
【0084】
[ラット一過性脳虚血モデル(小泉モデル)を用いた治療効果の確認]
ラット(Wistar、日本チャールズリバー社)の中大脳動脈(MCA)閉塞して、23.3~27.8時間後にADMSC、ADH及びSUSを、HBSS(Hank's Balanced Salt solution)に懸濁して、尾静脈内から投与した(8×106cells/kg)。なお、比較対象として、細胞を投与せずHBSSのみを投与した動物を設けた。手術前、及び手術14日後に、体重、及び神経症状の観察と、ステップテスト、及びテープ剥がしテストを行った。
【0085】
手術前および手術14日後にラットの体幹、後肢および右前肢を保定して持ち上げ、左前肢のみが実験台に触れるようにして、水平面を逆手方向に約5秒間で30cm移動させるステップテストを実施した。その際の左前肢の歩数を記録した。3回繰り返して行い、歩数の平均値を測定値とした(ステップテスト)。また、木全らの報告(薬理と治療,1991;19:4491-4503)を参考に神経症状の観察を行った。
【0086】
Leongらによって報告された測定方法(Leong et al. Stem Cells Translational Medicine、2012;1:177-187)に基づきテープ剥がしテストを行った。右(麻痺側)前肢の裏面に15mm2のテープをはり、ケージ内に入れテープを剥がそうとするまでの時間を計測した(Cut offは120秒、テープ剥がしテスト)。
【0087】
ADMSC、ADH及びSUSを投与することにより体重の減少度が軽減することが明らかとなった(
図3)。また、ADMSC、ADH及びSUSを投与することにより神経症状スコアが減少することが明らかとなった(
図4)。ADMSC、ADH、及びSUSを投与することによりステップ回数が上昇することが明らかとなった(
図5)。ADMSC、ADH、及びSUSを投与することによりテープを剥がすまでの時間が短縮されることが明らかとなった(
図6)。
【0088】
以上の結果より、脳血管障害後の神経傷害に対する改善効果が示された。
【0089】
[神経細胞と間葉系幹細胞の相互作用]
Vybrant DiO Cell-labeling solution (Thermo Fisher社製、#V22886)でDiD 蛍光染色を行ったSH-SY5Y(ヒト由来神経芽細胞腫;ECACC製、Lot.16E028、Acc Nc:94030304)を12 well plateに播種して、10% FBS(Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて培養した。培養1日後、各well内の細胞をD-PBS(-)で2回洗浄し、Pen-Strepを含むDMEM, no glucose(Thermo Fisher, # 11966025)培地で、37℃、N
2:95%、O
2:5%条件下で2時間培養した。その後、上記と同様に調製して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)で培養してDiO 蛍光染色したUCMSCを12 well plateに添加し、10% FBS (Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下で培養して、各時間経過後、タイムラプス画像を撮影した。なお、それぞれの写真においては、緑色はUCMSC(左下向きの矢印(柄の部分は点線)で指し示した細胞)を示し、赤色はSH-SY5Y(右上向きの矢印で指し示した細胞)を示している(
図7)。
【0090】
UCMSC及びSH-SY5Yが相互に突起を伸長して、細胞間相互作用することが観測された。
【0091】
SH-SY5Y(ヒト由来神経芽細胞腫;ECACC製、Lot.16E028、Acc Nc:94030304)を96 well plateに播種して、5% FBS(Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて培養した。培養1日後、Well内の培地を除去し、Pen-Strepを含むDMEM, No glucose(Thermo Fisher, # 11966025)培地で、37℃、N
2:95%、O
2:5%条件(以下、OGD条件)下で24時間培養した(OGD処理群)。同様に、培養1日後、SH-SY5Y細胞を培養しているWell内の培地を除去し、前述の方法で調整した臍帯由来間葉系幹細胞を間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)で培養したUCMSCを1,000cells/wellで添加して、OGD条件下で24時間培養した(MSC群)。なお、比較対象として、同様に、培養1日後、Well内の培地を除去し、新たな5% FBS(Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて24時間培養したものを対照群(Control群)とした。培養後、各培養上清中の乳酸脱水素酵素(LDH)活性を測定した(
図8)。
【0092】
OGD(Oxygen and glucose deprivation)条件下で培養することにより、SH-SY5Y細胞のLDH活性が上昇するが、UCMSCと共培養することにより、LDH活性の上昇が抑制され、虚血による神経細胞死が抑制されることが確認された。
【0093】
SH-SY5Y(ヒト由来神経芽細胞腫;ECACC製、Lot.16E028、Acc Nc:94030304)を12 well plateにぞれぞれ0.038×10
6cells/wellずつ播種して、10%FBS(Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて培養した。培養1日後、各well内の細胞をD-PBS(-)で2回洗浄後、前述と同様のOGD条件下で2時間培養した(細胞無投与群)。同様に、培養1日後、Well内の培地を除去し、前述の方法で調整した浮遊培養細胞(SUS)を、播種済みSH-SY5Y細胞の半量(半量群)、同量(同量群)及び2倍量(倍量群)播種したtranswell insertを載せ、OGD条件下で2時間培養した(MSC群)。その後、10% FBS(Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて48時間培養した。なお、比較対象として、同様に、培養1日後、各well内の細胞をD-PBS(-)で2回洗浄後、新たな10% FBS (Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて48時間培養した(Control群)。培養後、各SH-SY5Yの細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8)にて評価した(
図9)。
【0094】
OGD条件下で培養することにより、神経細胞の細胞活性は有意に下がるが、MSCと共培養することにより、細胞活性の低下を抑制できることが明らかとなった。
【0095】
SH-SY5Y(ヒト由来神経芽細胞腫;ECACC製、Lot.16E028、Acc Nc:94030304)を12 well plateにそれぞれ0.038×10
6cells/wellずつ播種して、10%FBS(Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて培養した。培養1日後、各well内の細胞をD-PBS(-)で2回洗浄後、前述と同様のOGD条件下で2時間培養した(細胞無投与群)。同様に、培養1日後、Well内の培地を除去し、前述の方法で調整した浮遊培養細胞(SUS、SUS群)、平面培養細胞(ADH、ADH群)及び線維芽細胞(Fibroblast、Fibroblast群)をSH-SY5Yと同量播種したtranswell insertを載せ、OGD条件下で2時間培養した。その後、10% FBS (Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて48時間培養した。なお、比較対象として、同様に、培養1日後、各well内の細胞をD-PBS(-)で2回洗浄後、新たな10% FBS (Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%%条件下にて48時間培養した(Control群)。培養後、各SH-SY5Yの細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8)にて評価した(
図10)。
【0096】
MSCと共培養することにより、OGD条件下で培養することによる神経細胞の細胞活性低下を抑制できるが、線維芽細胞(Fibroblast)によってはこの効果がなく、MSC特異的な効果であることが明らかとなった。
【0097】
SH-SY5Y(ヒト由来神経芽細胞腫;ECACC製、Lot.16E028、Acc Nc:94030304)を12 well plateにそれぞれ0.038×10
6cells/wellずつ播種して、10%FBS (Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて培養した。培養1日後、各well内の細胞をD-PBS(-)で2回洗浄後、前述と同様のOGD条件下で2時間培養した(細胞無投与群)。同様に、培養1日後、Well内の培地を除去し、臍帯由来間葉系幹細胞(PromoCell社製)を間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社、無血清群)、PromoCell培地(Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(PromoCell社製、C-28009、Lot.435M415)にSupplement mix(PromoCell社製、C-39809、Lot.435M126)を添加)、PromoCell群)及びMEM-α(Thermo Fisher社製、#12571-063、Lot.18997009、MEM-α群)でそれぞれ培養したUCMSC及び線維芽細胞(Fibroblast、Fibroblast群)をSH-SY5Yと同量培養したtranswell insertを載せ、OGD条件下で2時間培養した。その後、10% FBS (Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて48時間培養した。なお、比較対象として、同様に、培養1日後、各well内の細胞をD-PBS(-)で2回洗浄後、新たな10% FBS (Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて48時間培養した(Control群)。培養後、各SH-SY5Yの細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8)にて評価した(
図11)。
【0098】
MSCと共培養することにより、OGD条件下で培養することによる神経細胞の細胞活性低下を抑制できるが、無血清培地で培養したMSCでその効果がより顕著であることが明らかとなった。
【0099】
SH-SY5Y(ヒト由来神経芽細胞腫;ECACC製、Lot.16E028、Acc Nc:94030304)を12 well plateにそれぞれ0.038×10
6cells/wellずつ播種して、10%FBS(Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて培養した。培養1日後、各well内の細胞をD-PBS(-)で2回洗浄後、前述と同様のOGD条件下で2時間培養した(細胞無投与群)。同様に、培養1日後、Well内の培地を除去し、臍帯由来間葉系幹細胞(PromoCell社製、C-12971、Lot.427Z021)を間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社、無血清群)、PromoCell培地(Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(PromoCell社製、C-28009, Lot.435M415)にSupplement mix(PromoCell社製、C-39809、Lot.435M126)を添加、PromoCell群)及びMEM-α(Thermo Fisher社製、#12571-063、Lot.18997009、MEM-α群)でそれぞれ培養したUCMSC及び線維芽細胞(Fibroblast、線維芽細胞群)をSH-SY5Yと同量培養したtranswell insertを載せ、OGD条件下で2時間培養した。その後、10% FBS(Thermo Fisher社製、#10437-028、Lot.1658423)及びPen-Strepを含むDMEM/F12(Thermo Fisher、#11320-033、Lot.1930023)培地で、37℃、O
2:20%、CO
2:5%条件下にて24~48時間培養した。48H培養後、細胞画像を取得した(
図12)。なお、死細胞の染色はEthD-IIIを使用した。各画像の死細胞の数を計測後、死細胞率を「死細胞数/WST-8の吸光度」にて算出した(
図13)。
【0100】
無血清群では、細胞無投与群、線維芽細胞群、PromoCell群及びMEM-α群に比べ、細胞増殖活性が高いことが明らかとなった。また、無血清群では、細胞無投与群、PromoCell群群及びMEM-α群に比べ、全細胞数に対する、死細胞数が少ないことが明らかとなった。