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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023965
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】運転指標出力装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220876
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2019194926の分割
【原出願日】2019-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友二
(57)【要約】
【課題】事故リスクといった運転指標を出力することができる運転指標出力装置を提供する。
【解決手段】運転指標出力装置1は、周辺環境検出部5が車両の走行環境を取得し、速度感検出部8が前方に他の車両が存在しないときの速度感を取得し、車間時間検出部7が前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた運転者の車間時間を取得する。そして、対処可能距離検出部9が運転指標として、走行速度の統計値と車間時間の統計値とを乗じて対処可能距離を算出している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行環境を取得する走行環境取得部と、
前方に他の車両が存在しないときに統計的に得られた前記走行環境と速度との関係に基づいて運転者の走行速度の統計値を取得する走行速度情報取得部と、
前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた前記運転者の車間時間の統計値を取得する車間時間情報取得部と、
前記走行速度の統計値と前記車間時間の統計値とに基づいて前記運転者の運転指標を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする運転指標出力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の運転指標を出力する運転指標出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の事故リスク、安全運転評価、運転特性評価などの運転指標は、運転中の急制動を検出することにより行われていた。しかしながら、その方法では急制動を伴わない状態では事故リスクとしての検出がなされない。
【0003】
特許文献1には、先行車車速変動推定部106bによって先行車両の車速変動を推定し、先行車両が安定的に走行していると推定されたときのみ運転者の心理状態を判定する。心理状態の判定を行うに当たっては、走行シーン判定部cによって自車両の走行シーンが「加速シーン」、「定常走行シーン」、「減速シーン」のいずれであるかが判定され、心理状態判定部106aは、判定された走行シーンに従って処理を実行し、運転者の心理状態を判定することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、運転者心理判定手段31が、先行車が存在する場合の自車の走行状態と先行車が存在しない場合の自車の走行状態との比較に基づいて運転者の心理状態を判定することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、入力系10では、実際の運転において他の車両との間に確保される実車間距離をそのときの車速に対応づけて判定制御系30に入力し、判定制御系30では、データ管理系20から心理判定の基準になる基本車間距離を前記の入力系10にて取得した車速に対応させて読み出し、入力系10から入力された実車間距離と、データ管理系20から読み出された基本車間距離とを比較して、当該車間距離の差異に基づき運転者の心理状態を判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-230381号公報
【特許文献2】特開2007-133673号公報
【特許文献3】特開2003-51097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3は、運転者の心理状態を判定するまでであり、その結果事故リスクがどうなるかといった運転指標を出力することまでは行われていない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題としては、例えば事故リスクといった運転指標を出力することができる運転指標出力装置を提供することが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両の走行環境を取得する走行環境取得部と、前方に他の車両が存在しないときに統計的に得られた前記走行環境と速度との関係に基づいて運転者の走行速度の統計値を取得する走行速度情報取得部と、前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた前記運転者の車間時間の統計値を取得する車間時間情報取得部と、前記速度感の統計値と前記車間時間の統計値とに基づいて前記運転者の運転指標を出力する出力部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
請求項6に記載の発明は、運転者の運転指標を出力する運転指標出力装置で実行される運転指標出力方法であって、車両の走行環境を取得する走行環境取得工程と、前方に他の車両が存在しないときに統計的に得られた前記走行環境と速度との関係に基づいて運転者の走行速度の統計値を取得する走行速度情報取得工程と、前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた前記運転者の車間時間の統計値を取得する車間時間情報取得工程と、前記速度感の統計値と前記車間時間の統計値とに基づいて前記運転者の運転指標を出力する出力工程と、を備えることを特徴としている。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の運転指標出力方法をコンピュータにより実行させることを特徴としている。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の運転指標出力プログラムを格納したことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施例にかかる運転指標出力装置の機能構成図である。
図2図1に示された運転指標出力装置の統計データ及び学習データに係るデータの収集、学習動作のフローチャートである。
図3図1に示された運転指標出力装置のリスク検出動作のフローチャートである。
図4】本発明者らが行った仮想的な走行実験結果を示すグラフである。
図5図4に示された(a)群においてさらに分析した結果である。
図6図4に示された(b)群においてさらに分析した結果である。
図7】本発明の第2の実施例にかかる運転指標出力装置のリスク検出動作のフローチャートである。
図8】本発明の第3の実施例にかかる運転指標出力装置の機能構成図である。
図9図8に示された運転指標出力装置における運転者の心理方法を説明するグラフである。
図10図8に示された運転指標出力装置における運転者の心理方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態にかかる運転指標出力装置を説明する。本発明の一実施形態にかかる運転指標出力装置は、走行環境取得部が車両の走行環境を取得し、走行速度情報取得部が前方に他の車両が存在しないときに統計的に得られた走行環境と速度との関係に基づいて運転者の走行速度の統計値を取得し、車間時間情報取得部が前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた運転者の車間時間の統計値を取得する。そして、出力部が走行速度の統計値と車間時間の統計値とに基づいて運転者の運転指標を出力する。このようにすることにより、取得した統計値に基づいて運転指標を出力することができる。また、運転指標の出力にあたり運転者の心理状態の判定も不要となる。
【0015】
また、出力部は、運転指標として、走行速度の統計値と車間時間の統計値とを乗じて算出した対処可能距離を出力してもよい。このようにすることにより、これらの統計値に基づいて算出された値を運転指標として出力することができる。
【0016】
また、出力部は、運転指標として、対処可能距離に基づいて運転者の事故リスクを判定し出力してもよい。このようにすることにより、事故リスクといった具体的な情報として出力することができる。
【0017】
また、出力部は、対処可能距離が第1基準値以下の場合には事故リスクがあると判定してもよい。このようにすることにより、対処可能距離に応じて事故リスクの有無を判定することができる。
【0018】
また、出力部は、運転指標として、運転者の心理状態に関連する情報を出力してもよい。このようにすることにより、運転者の心理状態の変化等を検出して、運転者に警告等をすることができる。
【0019】
また、車両の急制動を検出する急制動検出部をさらに備え、出力部は、急制動検出が検出した急制動の回数が第2基準値以下の場合に、速度感の統計値と車間時間の統計値とに基づいて運転者の運転指標を出力してもよい。このようにすることにより、急制動が検出されない場合に、運転指標を出力することができ、急制動が検出されない場合における事故リスクの判定等を確実に行うことができる。
【0020】
また、本発明の一実施形態にかかる運転指標出力方法は、走行環境取得工程で車両の走行環境を取得し、走行速度情報取得工程で前方に他の車両が存在しないときに統計的に得られた走行環境と速度との関係に基づいて運転者の走行速度の統計値を取得し、車間時間情報取得工程で前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた運転者の車間時間の統計値を取得する。そして、出力工程で走行速度の統計値と車間時間の統計値とに基づいて運転者の運転指標を出力する。このようにすることにより、取得した統計値に基づいて運転指標を出力することができる。また、運転指標の出力にあたり運転者の心理状態の判定も不要となる。
【0021】
また、上述した運転指標出力方法を、コンピュータにより実行させている。このようにすることにより、コンピュータを用いて、取得した統計値に基づいて運転指標を出力することができる。
【0022】
また、上述した運転指標出力プログラムをコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納してもよい。このようにすることにより、当該プログラムを機器に組み込む以外に単体でも流通させることができ、バージョンアップ等も容易に行える。
【実施例0023】
本発明の第1の実施例にかかる運転指標出力装置を図1図6を参照して説明する。本実施例にかかる運転指標出力装置1は、図1に示したように、急制動検出部2と、車間距離検出部3と、走行速度検出部4と、周辺環境検出部5と、対象物接近有無検出部6と、車間時間検出部7と、速度感検出部8と、対処可能距離検出部9と、事故リスク検出部10と、統計データD1と、統計データD2と、地図データD3と、学習データD4と、事故リスク統計データD5と、を備えている。なお、図1に示した構成は、ハードウェアとして構成してもよいし、コンピュータプログラム(運転指標出力プログラム)として構成してもよい。コンピュータプログラムとして構成した場合は、当該プログラムをハードディスクやUSBメモリ等の記憶媒体に格納してもよい。
【0024】
急制動検出部2は、加速度センサ21で検出された対象とする運転者が運転している車両の加速度を示す信号に基づいて急制動を検出する。急制動の検出は、例えば検出された加速度が所定の閾値以上の場合に急制動として検出している。検出された急制動は統計データD1へ集計するために出力する。
【0025】
車間距離検出部3は、対象物測位センサ22で測位された例えば対象とする運転者が運転している車両の前方にある物体までの距離を示すデータを取得して、当該距離を車間距離として検出する。
【0026】
走行速度検出部4は、速度センサ23で検出された対象とする運転者が運転している車両の走行速度を取得する。
【0027】
周辺環境検出部5は、画像取得センサ24で取得された運転者が運転している車両の周囲の画像データと、地図データD3と、に基づいて運転者が運転している車両が位置する地点の周辺環境を検出する。周辺環境としては、例えば時間帯、天候、走行している道路に関する環境(道路種別、車線数、道路幅、カーブか否か等)、当該道路の周囲の状況(市街地か郊外か等)が挙げられる。即ち、周辺環境検出部5は、車両の走行環境を取得する走行環境取得部として機能する。
【0028】
対象物接近有無検出部6は、車間距離検出部3で検出された車間距離と、走行速度検出部4で検出された走行速度に基づいて対象物(前方車両)の接近の有無を検出する。本実施例では、例えば走行速度が10km/h以上のときに、対象物が前方200m未満の距離に検出された場合に接近していると検出する。別言すれば、自車両前方に車両が存在する状態で走行しているか否かを検出する。
【0029】
車間時間検出部7は、対象物接近有無検出部6が対象物の接近を検出した場合は、車間距離検出部3が検出した車間距離と走行速度検出部4が検出した走行速度とから車間時間を算出し、統計データD2へ集計するため出力する。また、車間時間検出部7は、事故リスクの検出を行う際には、統計データD2から車間時間を取得して対処可能距離検出部9へ出力する。即ち、車間時間検出部7は、前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた運転者の車間時間の統計値を取得する車間時間情報取得部として機能する。
【0030】
速度感検出部8は、対象物接近有無検出部6が対象物の接近を検出していない場合は、走行速度検出部4が検出した走行速度と周辺環境検出部5が検出した周辺環境とを、学習データD4に出力して機械学習させる。また、速度感検出部8は、事故リスクの検出を行う際には、周辺環境を学習データD4に出力して得られた速度感、つまり学習モデルが出力した速度感を対処可能距離検出部9へ出力する。
【0031】
ここで、速度感とは、統計的に得られた走行環境(周辺環境)と速度との関係に基づく運転者の走行速度の統計値であり、重回帰分析により、例えば以下のモデル式で求めることができる。(1)式において、Vは速度感、Eは時間帯や道路幅といった周辺環境、αはパラメータである。
【数1】
【0032】
即ち、速度感検出部8は、前方に他の車両が存在しないときに統計的に得られた周辺環境(走行環境)と速度との関係に基づいて運転者の走行速度の統計値を取得する走行速度情報取得部として機能する。
【0033】
対処可能距離検出部9は、車間時間検出部7から出力された車間時間と、速度感検出部8から出力された速度感と、から対処可能距離を算出して事故リスク検出部10へ出力する。対処可能距離は、車間時間と速度感とを乗じることで算出する。
【0034】
事故リスク検出部10は、対処可能距離検出部9で算出された対処可能距離と、事故リスク統計データD5から取得した統計データに基づいて対象とする運転者の事故リスクを検出(判定)する。また、事故リスク検出部10は、急制動検出部2において、急制動が所定回数以上検出された場合は、急制動の検出結果と、統計データD1と、に基づいて対象とする運転者の事故リスクを検出(判定)する。さらに、事故リスク検出部10は、対処可能距離検出部9で算出された対処可能距離を事故リスク統計データD5へ集計するため出力する。
【0035】
即ち、対処可能距離検出部9と事故リスク検出部10は、走行速度の統計値と車間時間の統計値とに基づいて運転者の運転指標を出力する出力部として機能する。
【0036】
統計データD1は、急制動検出部2で検出された急制動を集計する。統計データD2は、車間時間検出部7で検出された車間時間を集計する。即ち、統計データD2は、前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた運転者の車間時間の統計値となる。地図データD3は、ナビゲーション装置や自動運転車両等に搭載されているものと同じデータでよく、ノードやリンク及び車線数や道路幅等の情報を有する。
【0037】
学習データD4は、速度感検出部8から出力された速度と周辺環境を教師データとし、その教師データを用いて学習した学習モデルである。即ち、学習データD4は、前方に他の車両が存在しないときに統計的に得られた走行環境と速度との関係に基づいて運転者の走行速度の統計値となる。事故リスク統計データD5は、事故リスク検出部10で事故リスクを検出するための閾値が算出・設定されている。また、統計データD1、統計データD2、地図データD3、学習データD4、事故リスク統計データD5は外部サーバ等に設けられていてもよいし、運転指標出力装置1自身が有していてもよい。
【0038】
また、統計データD1、統計データD2、学習データD4は、運転者毎にデータの集計や学習が行われる。事故リスク統計データD5は、収集した全ての運転者のデータに基づいて閾値が算出される。なお、統計データD1、統計データD2、地図データD3、学習データD4、事故リスク統計データD5について、データの保存場所は装置内には限らず、一部または全てがサーバ上等に保存されていてもよい。また、統計データD1、統計データD2、学習データD4は、運転者個人ごとに統計・学習処理されたものでもよいし、運転傾向が近い運転者でモデル化して統計・学習処理されたものでもよい。
【0039】
加速度センサ21は、当該センサが設置された対象物(本実施例では車両)の加速度を検出する周知のセンサであり、半導体方式や光学的方式等、種類は限定されない。対象物測位センサ22は、対象物(本実施例では車両前方の物体)までの距離を測定するセンサであり、ライダ(LiDAR:Light Detection and Ranging)等の測距センサを用いることができる。速度センサ23は、当該センサが設置された対象物(本実施例では車両)の移動速度を検出する周知のセンサであり、車両に設けられている車速パルス等を利用してもよい。画像取得センサ24は、車両の周囲を撮像することができるセンサであり、車載カメラを利用することができる。
【0040】
次に、上述した構成の運転指標出力装置1における動作について図2図4を参照して説明する。図2は、統計データD2及び学習データD4にかかるデータの収集、機械学習動作のフローチャートである。なお、本フローチャートを実行する際には、運転指標出力装置1は、車両に搭載されていてもよいし、車外に設置された状態で車両から各センサの検出結果等をネットワーク等を介して取得するようにしてもよい。
【0041】
図2においては、まず、走行速度検出部4が、対象とする運転者が運転する車両が徐行速度を超える速度で走行しているか否か判断し(ステップS11)、徐行速度以下の速度で走行している場合は徐行速度を超える速度で走行するまで本ステップを繰り返す(ステップS11:NO)。ここで、徐行速度とは、直ちに車両が停止できるような速度であり、例えば10km/h等に設定することが挙げられる。
【0042】
対象とする運転者が運転する車両が徐行速度を超える速度で走行している場合は(ステップS11:YES)、後述するリスク検出時フローを実行(ON)する(ステップS12)とともに、対象物接近有無検出部6が、車間距離検出部3が検出した前方障害物までの距離に基づいて、前方障害物の有無を判断する(ステップS13)。前方障害物は、対象物接近有無検出部6が、予め定めた一定の距離以内に対象物が検出された場合に前方障害物が有ると判断する。
【0043】
前方障害物があると判断された場合は(ステップS13:有)、車間時間検出部7が、車間時間を収集する(ステップS14)。この収集は運転者毎に行う。収集された車間時間は統計データD2において集計、解析される。具体的には、例えば集計された車間時間の平均値を算出して、対象物接近有無検出部6における対処可能距離の算出に利用する。
【0044】
一方、前方障害物がないと判断された場合は(ステップS13:無)、速度感検出部8が、速度感の基となる統計データを収集する(ステップS15)。この収集は運転者毎に行う。本ステップでは上述したように、速度感検出部8が取得した走行速度と周辺環境とを学習データD4の教師データを収集している。
【0045】
そして、走行終了か否かを判断し(ステップS16)、走行終了の場合はフローチャートを終了し、走行終了でない場合はステップS11に戻る。走行終了か否かは例えば走行速度やイグニッションスイッチをOFFにされたこと等により判断すればよい。
【0046】
このようにして、運転指標出力装置1において統計データD2及び学習データD4におけるデータの収集や機械学習をすることができる。
【0047】
次に、本実施例におけるリスク検出動作(運転指標出力方法)について図3のフローチャートを参照して説明する。図3に示したフローチャートは、実際の走行が終了した後に解析する場合の動作である。そのため、走行中には、加速度センサ21、対象物即位センサ22、速度センサ23、画像取得センサ24の各センサ類が検出した結果をログとして記録する。そして、運転指標出力装置1は、その記録されたログを読み込んで以下のステップを実行する。したがって、本フローチャートを実行する際には運転指標出力装置1は車両に搭載されていなくてもよい。
【0048】
まず、車間時間検出部7が、事故リスクの判定対象となる運転者の統計データD2から車間時間のデータを取得し(ステップS21)、速度感検出部8が、事故リスクの判定対象となる運転者の学習データD4から速度感のデータを取得する(ステップS22)。この速度感の統計データとは、(1)式により算出された速度感Vを示す。なお、ステップS21とステップS22は、順序が逆であってもよい。
【0049】
車間時間と速度感を取得した後に、事故リスク検出部10が、リスクの有無を判定する(ステップS23)。本ステップでは、まず、取得した車間時間と速度感に基づいて対処可能距離検出部9が対処可能距離を算出し、算出された対処可能距離と、事故リスク統計データD5から取得した閾値(第1基準値)と、に基づいてリスクの有無を判定する。
【0050】
リスクの有無の判定方法について図4図6を参照して説明する。図4図6は、本発明者らがドライビングシミュレータを用いて仮想的な走行実験を行った結果である。
【0051】
まず、実験の条件等について説明する。実験には、車両を模したコックピットとドライビングシミュレータ用ソフトを用いて仮想実験環境を作製した。仮想空間上に縦0.6km、横1.3kmの道路環境を作製し用いた。建物オブジェクトは建物ごとの視覚顕著性の影響を排除するため、サイズ感だけは実際に近くなるように地図データを参考に生成した。道路にはセダンタイプの車両を複数台配置し、運転車両を中心として、ある範囲から外れた場合において再配置されるように設定した。
【0052】
また、見通しの差の影響を評価するため日時と天候を変化させた。日時は冬の日の8時からとし、2日分を15分で時間が進むようにした。天候は雨の強さや降水量、視程(見通し)をランダムに変化させた。また、高齢者を模した歩行者(歩行速度4.6km/h)の直前横断リスクを突発的に生じさせるため、道路に複数のトリガーを設置し、通過した際に70%の確率で歩行者が150m先に出現し、同一車線の歩行者に対しては50m以下、対向車線の歩行者に対しては100m以下になった際に 70%の確率で0.6秒後に飛び出しが生じるように調整した。また、被験者は、20代から50代までの男性22名とした。また、実験は、慣らし走行5分、休憩5分、本走行15分の計25分とした。
【0053】
このような条件により行った実験結果が図4である。図4は、縦軸が急減速回数(0.3G以上)、横軸が接触回数(自責他責を問わない)となっている。図4の結果を、急減速回数に対して7回以上の群(a)と7回未満の群(b)の2群に分けると、 (a)群では事故と急減速(急制動)の関係について強い相関がみられることが判明した。 また、(b)群に対しても衝突回数と弱い相関がみられることが判明した。
【0054】
そして、(a)群においては、図5に示したように、急減速回数が接触回数と線形な関係を有することが判明した。また、(b)群で急減速回数が一定以下の場合においては、図6に示したように、ロジスティック回帰で示されるような関係性に切り分けることが可能であることが判明した。
【0055】
図6によれば、上述した実験の条件下では、対処可能距離が約45m以下となると、接触の有無が“1”となり、事故のリスクが高くなることが明らかである。したがって、対処可能距離を算出することで、急制動が少ない場合であっても、事故リスクを判定することが可能となることが判明した。
【0056】
そこで、本実施例では、急制動の検出回数が少ない場合における事故リスク検出の有無を判定する対処可能距離の閾値が周辺環境や地点毎に事故リスク統計データD5として格納されている。事故リスク検出部10は、事故リスク統計データD5から対処可能距離の閾値を読み出して事故リスクを判定する。つまり、算出された対処可能距離が閾値未満の場合は事故リスク有と判定し、閾値以上の場合は事故リスク無と判定する。
【0057】
図3の説明に戻る。ステップS23でリスクの有無を判定した結果、リスク無と判定された場合は(ステップS23:無)、事故リスク検出部10は、安全運転であったことを示す情報を出力して、不図示の記録装置等に記録する(ステップS24)。一方、ステップS23でリスクの有無を判定した結果、リスク有と判定された場合は(ステップS23:有)、事故リスク検出部10は、リスクの高い運転であったことを示す情報を出力して、不図示の記録装置等に記録する(ステップS25)。
【0058】
図3のフローチャートでは、急制動の検出については考慮していなかったが、急制動の検出回数が少ない場合に実行するようにしてもよい。急制動の検出回数が少ない場合とは、例えば急制動の検出回数に閾値(第2基準値)を設定し、その閾値以下の場合にフローチャートを実行するようにすればよい。閾値は、上述した実験の7回に限らず適宜変更してよい。
【0059】
また、本実施例では、事故リスクの有無を運転指標として出力していたが、対処可能距離を運転指標として出力するようにしてもよい。この場合、事故リスクの有無は、他の装置等で判定すればよい。
【0060】
また、図3に示したフローチャートは、一度の走行について事故リスクの判定を行っているが、同一の経路について複数回走行したログから求めた対処可能距離を比較して悪化した或いは良化したなどを運転指標として出力するようにしてもよい。
【0061】
本実施例によれば、運転指標出力装置1は、周辺環境検出部5が車両の走行環境を取得し、速度感検出部8が前方に他の車両が存在しないときの速度感を取得し、車間時間検出部7が前方に他の車両が存在するときの車間距離と自車両の走行速度とから統計的に求めた運転者の車間時間を取得する。そして、対処可能距離検出部9が運転指標として、速度感と車間時間とを乗じて対処可能距離を算出している。このようにすることにより、取得した速度感や車間時間といった機械学習や統計値に基づいて算出された対処可能距離を運転指標として出力することができる。また、運転指標の出力にあたり運転者の心理状態の判定も不要となる。
【0062】
また、事故リスク検出部10は、運転指標として、対処可能距離に基づいて運転者の事故リスクを判定し出力している。このようにすることにより、事故リスクといった具体的な情報として出力することができる。
【0063】
また、事故リスク検出部10部は、対処可能距離が所定の閾値以下の場合には事故リスクがあると判定している。このようにすることにより、対処可能距離に応じて事故リスクの有無を判定することができる。
【0064】
また、事故リスクの判定をするための対処可能距離の閾値は、周辺環境や地点によって変化する。このようにすることにより、走行している地点に適切な閾値により事故リスクを判定することができる。
【0065】
また、運転指標出力装置1は、車両の急制動を検出する急制動検出部2を備え、事故リスク検出部10は、急制動検出部2が検出した急制動の回数が所定の閾値以下の場合に、速度感と車間時間とに基づいて運転者の事故リスクを出力している。このようにすることにより、急制動が少ない場合に、事故リスクといった運転指標を出力することができ、急制動が少ない場合における潜在的な事故リスクの判定等を確実に行うことができる。
【実施例0066】
本実施例の第2の実施例にかかる運転指標出力装置について、図7を参照して説明する。なお、前述した第1の実施例と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0067】
本実施例は、図1に示した構成は同様である。本実施例では、リスク検出動作が異なる。本実施例では、リアルタイムに取得(検出)された車間時間や走行速度を用いてリスクの有無を判定する。図7に本実施例にかかるリスク検出動作のフローチャートを示す。
【0068】
まず、ステップS31において、対象物接近有無検出部6が、車間距離検出部3が検出した前方障害物(例えば前方車両)までの距離に基づいて、前方障害物の有無を判断する(ステップS31)。このステップは、基本的に上述したステップS13と同様である。
【0069】
前方障害物があると判断された場合は(ステップS31:有)、車間時間検出部7は、車間距離検出部3が検出した車間距離と、走行速度検出部4が検出した走行速度と、に基づいて車間時間を取得する(ステップS32)。そして、速度感検出部8は、周辺環境に応じて学習データD4から速度感を取得する(ステップS33)。
【0070】
そして、ステップS32で取得した車間時間と、ステップS33で取得した速度感と、から対処可能距離検出部9が対処可能距離を算出し、算出された対処可能距離と、事故リスク統計データD5から取得した閾値と、に基づいてリスクの有無を判定する(ステップS36)。つまり、リアルタイムに取得した車間時間に基づいてリスクの有無を判定している。
【0071】
ステップS36でリスクの有無を判定した結果、リスク無と判定された場合は(ステップS36:無)、フローチャートを終了する。あるいはステップS31に戻ってもよい。一方、ステップS36でリスクの有無を判定した結果、リスク有と判定された場合は(ステップS36:有)、事故リスク検出部10は、運転者に注意・警告等の案内を通知する(ステップS37)。具体的には、事故リスク検出部10は、運転者に注意・警告や休憩等の案内を通知するための情報を生成して出力する。出力先としては、注意・警告や休憩等の案内を通知する表示手段や音声出力手段等が挙げられる。
【0072】
一方、前方障害物がないと判断された場合は(ステップS31:無)、速度感検出部8は、走行速度検出部4が検出した走行速度を取得する(ステップS34)。そして、車間時間検出部7は、統計データD2から車間時間を取得する(ステップS35)。そして、ステップS34で取得した走行速度と、ステップS35で取得した車間時間と、から対処可能距離検出部9が対処可能距離を算出し、算出された対処可能距離と、事故リスク統計データD5から取得した閾値と、に基づいてリスクの有無を判定する(ステップS36)。つまり、リアルタイムに取得した走行速度に基づいてリスクの有無を判定している。
【0073】
本実施例によれば、リアルタイムに取得した車間時間や走行速度に基づいて事故リスクの有無の判定をしているので、運転中に対処可能距離が短くなるような状態に変化した場合に、速やかに警告等をして、事故の発生を回避させることができる。
【0074】
なお、第2の実施例において、リアルタイムに取得した車間時間や走行速度に基づいて事故リスクを判定しているが、運転指標出力装置1は必ずしも車両に搭載されていなくてもよい。運転指標出力装置1は車外にあってもよく、例えば車両の各センサで検出された情報をリアルタイムに取得して、事故リスクをリアルタイムに判定して車両に送信する構成でもよい。
【0075】
また、第2の実施例において、事故リスクをリアルタイムに判定するとともに、各センサの検出結果のログを保存することで、第1の実施例のような走行後の事故リスク判定も行うようにすることが可能となる。
【実施例0076】
本実施例の第3の実施例にかかる運転指標出力装置について、図8図10を参照して説明する。なお、前述した第1の実施例と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0077】
本実施例は、走行速度の統計値(学習データD4)と車間時間の統計値(統計データD2)から運転者の心理状態を判定するものである。
【0078】
本実施例の機能構成を図8に示す。図8に示した構成は、図1に示した構成に対して、車間時間検出部7と速度感検出部8からそれぞれ事故リスク検出部10へ直接入力されるようになっている点が追加されている。即ち、車間時間検出部7から車間時間のデータ(車間時間の統計値)が入力され、速度感検出部8から速度感のデータ(車間時間の統計値)が入力される。そして、事故リスク検出部10では、これらのデータに基づいて運転者の心理状態を判定して、その判定結果に応じたリスクを警告する。
【0079】
本実施例にかかる運転者の心理状態の判定方法について図9及び図10を参照して説明する。図9は第1の実施例で説明した実験の結果得られたデータについて分析したグラフである。図9のグラフは、縦軸は走行速度の統計値、つまり、速度感の逆数とし、横軸は車間時間の統計値としたものである。また、図9のグラフにおいて、×印でプロットした点は接触がない被験者、〇印でプロットした点は接触があった被験者である。そして、□で囲まれているのは、接触があり急制動回数が閾値(7回)以下の被験者である。
【0080】
図9によれば、ラインL1及びラインL2に囲まれた領域は、接触がない運転者が多く、運転者の心理として安全運転を行える心理状態(平静な状態)であると考えられる。また、ラインL1及びラインL2に囲まれた領域以外の領域において、速度感の逆数の値が小さく、車間距離の値が小さい場合は、速く走行する傾向があり車間距離も短いので、心理状態として先急ぎであると考えられる。また、速度感の逆数の値が小さくなく、車間距離の値が小さい場合は、速く走行する傾向はないものの車間距離が短いので、心理状態として集中力低下であると考えられる。また、速度感の逆数の値が小さくなく、車間距離の値も小さくない場合は、速く走行する傾向がなく車間距離も短くないので、心理状態として不安であると考えられる。
【0081】
そして、図9においては、集中力低下の領域に、接触があり急制動回数が閾値以下の被験者が多いことが判明した。つまり、急制動回数が少ない場合において、集中力低下の心理状態の検出が可能であることが判明した。事故リスク検出部10は、例えば、図9に示したグラフを事故リスク統計データD5に格納し、車間時間検出部7と速度感検出部8から取得したデータを、事故リスク統計データD5から取得したグラフに相当するデータに基づいて上述した方法で心理状態や心理状態の変化を判定して、判定結果を示す情報を出力する。
【0082】
本実施例においては、例えば、図10に示したように、運転開始時には安全を示す領域にあったものが、例えば車間時間の変化により集中力低下を示す領域に移行した場合は、集中力が低下していると判定して運転者に警告することができる。図10は、運転開始時にSTに位置にあったものが運転継続によりSPの位置に移行した例である。この場合、安全を示す領域から集中力低下を示す領域に移動したこととなり、心理状態の変化を示す情報を出力することができる。出力先は、第2の実施例のように、注意・警告をする表示手段や音声出力手段が挙げられる。
【0083】
本実施例によれば、事故リスク検出部10は、運転指標として、運転者の心理状態に関連する情報を出力するので、運転者の心理状態の変化等を検出して、運転者に警告等をすることができる。また、心理状態を判定できることから、心理状態に応じた報知等を行うことで、運転者に対して適切な警告が可能となる。
【0084】
また、上述した3つの実施例において、走行終了後や走行中に事故リスクの判定をするに限らず、特定区間(高速道路のみ等)に限って事故リスクの判定を行ってもよい。
【0085】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の運転指標出力装置を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
1 運転指標出力装置
2 急制動検出部
3 車間距離検出部
4 走行速度検出部
5 周辺環境検出部(走行環境取得部)
6 対象物接近有無検出部
7 車間時間検出部(車間時間情報取得部)
8 速度感検出部(走行速度情報取得部)
9 対処可能距離検出部(出力部)
10 事故リスク検出部(出力部)
D1 統計データ
D2 統計データ
D3 地図データ
D4 学習データ
D5 事故リスク統計データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10