(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023978
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】セラミック組成物およびセラミック組成物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C04B35/80
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023221308
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2019174241の分割
【原出願日】2019-09-25
(31)【優先権主張番号】16/143,319
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】タブ・ハンター・クルックス
(72)【発明者】
【氏名】メアリーアン・エス・ミュエンチ
(57)【要約】
【課題】セラミック複合体、当該セラミック複合体を製造する方法、および当該セラミック複合体を強化する方法を提供する。
【解決手段】セラミック複合体を製造する方法は、複数の個々のセラミック成分と溶媒に溶解したフラックス剤とを含む湿潤セラミック組成物を形成するステップを含む。フラックス剤でコーティングされた複数の個々のセラミック成分を含む乾燥セラミック組成物を形成するために、溶媒の少なくとも一部が湿潤セラミック組成物から取り出される。セラミック複合体を形成するために乾燥セラミック組成物が焼結され、この焼結するステップが、フラックス剤でコーティングされた2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する場所に形成された架橋部位で、個々のセラミック成分を融解させるのに十分な焼結温度で実施される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック複合体(8)を製造する方法であって、前記方法が、
複数の個々のセラミック成分(12)と溶媒に溶解したフラックス剤とを含む湿潤セラミック組成物を形成するステップと、
前記フラックス剤でコーティングされた前記複数の個々のセラミック成分(12)を含む乾燥セラミック組成物を形成するために、前記湿潤セラミック組成物から前記溶媒の少なくとも一部を取り出すステップと、
前記セラミック複合体(8)を形成するために前記乾燥セラミック組成物を焼結するステップであって、焼結する前記ステップが、前記フラックス剤でコーティングされた2つ以上の前記個々のセラミック成分(12)が物理的に互いに接触する場所に形成された架橋部位(10)で、前記個々のセラミック成分(12)を融解させるのに十分な焼結温度で実施される、ステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記フラックス剤が、メタホウ酸リチウム、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記湿潤セラミック組成物中の可溶性フラックス剤の量が、個々のセラミック成分(12)の総重量を基にすると、約0.5~約2重量パーセントの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の個々のセラミック成分(12)がセラミック酸化物を含み、前記複数の個々のセラミック成分(12)が粒子状または繊維状である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記焼結温度が約2200°F~約2700°Fの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記湿潤セラミック組成物が不溶性フラックス剤を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記湿潤セラミック組成物が少なくとも1つの不溶性フラックス剤をさらに含み、前記湿潤セラミック組成物中の不溶性フラックス剤の量が、個々のセラミック成分(12)の総重量を基にすると、約0.3~約2重量パーセントの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(i)1つ以上のセラミック化合物と(ii)個々のセラミック成分(12)の少なくとも表面に組み込まれた1つ以上の可溶性フラックス剤原子とを含む複数の前記個々のセラミック成分(12)を含むセラミック複合体(8)であって、
前記個々のセラミック成分(12)が、2つ以上の前記個々のセラミック成分(12)が物理的に互いに接触する場所に配置された架橋部位(10)で互いに融合されているセラミック複合体(8)。
【請求項9】
前記フラックス剤原子がリチウムを含む、請求項8に記載のセラミック複合体(8)。
【請求項10】
前記複数の個々のセラミック成分(12)がセラミック酸化物を含み、前記複数の個々のセラミック成分(12)が粒子状または繊維(100)状である、請求項8に記載のセラミック複合体(8)。
【請求項11】
前記セラミック酸化物が、チタニア、シリカ、アルミナ、ジルコニア、およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む、請求項10に記載のセラミック複合体(8)。
【請求項12】
前記架橋部位(10)が、不溶性フラックス剤を使用することなく形成される、請求項8に記載のセラミック複合体(8)。
【請求項13】
前記湿潤セラミック組成物が、少なくとも1つの不溶性フラックス剤をさらに含む、請求項8に記載のセラミック複合体(8)。
【請求項14】
セラミック複合体(8)を強化する方法であって、前記方法が、
複数の個々のセラミック成分(12)と溶媒に溶解したフラックス剤とを含む湿潤セラミック組成物を形成するステップと、
前記フラックス剤でコーティングされた前記複数の個々のセラミック成分(12)を含む乾燥セラミック組成物を形成するために、前記湿潤セラミック組成物から前記溶媒の少なくとも一部を取り出すステップと、
前記セラミック複合体(8)を形成するために前記乾燥セラミック組成物を焼結するステップであって、焼結する前記ステップが、前記フラックス剤でコーティングされた2つ以上の前記個々のセラミック成分(12)が物理的に互いに接触する場所に形成された架橋部位(10)で、前記個々のセラミック成分(12)を融解させるのに十分な焼結温度で実施される、ステップと
を含み、
前記セラミック複合体(8)が、第2のセラミック複合体の第2の引っ張り強度よりも大きな第1の引っ張り強度を有し、前記第2のセラミック複合体が、前記第2のセラミック複合体の前記フラックス剤が不溶性であること、および前記第2のセラミック複合体の製造中に溶媒に溶解することなく固形のまま残っていることを除いて、前記第1の引っ張り強度を有する前記セラミック複合体(8)と同様の工程、同じ成分、同じ重量で製造され、前記第1の引っ張り強度が、前記第2の引っ張り強度と比較して10%~40%の範囲で増加し、前記第1の引っ張り強度と前記第2の引っ張り強度との両方が、厚さ方向(「TTT」)の向きにある試験試料を使用したASTM D-1623-type B試験手順によって測定される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミック複合体を製造する方法およびこの方法から製造されるセラミック複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック酸化物複合体等のセラミック複合体は、航空宇宙ビークルの断熱システムおよび熱防御システムを含む様々な用途で使用されていることがよく知られている。例えば、アルミナセラミックおよび/またはシリカ繊維ベースのセラミック等の、セラミック酸化物繊維から製造された複合体は、宇宙飛行ビークルの遮熱材として用いることができる軽量断熱タイルにおいて、ならびに迅速な放熱、断熱、および非常に高い温度で構造的一体性を維持する能力が役立つ他の用途において使用されていることがよく知られている。
【0003】
固体微粒子ホウ素供給源を使用してセラミック酸化物繊維を互いに結合することが知られている。固体微粒子ホウ素供給源により、高融点セラミック繊維を固体微粒子の近傍で融解させ互いに結合させることができる。固体微粒子ホウ素供給源は、セラミック複合体を製造する過程全体を通して焼結段階に至るまで固形のままであり、焼結段階において分解し、付近の酸化物繊維と反応する。
【0004】
メタホウ酸リチウムは、セラミック酸化物等のセラミック組成物の融点を下げることで知られるフラックス剤であり、化学分析のためにセラミックを溶液に分解することができる。このような化学分析の工程で使用されるメタホウ酸リチウム等のフラックス剤は、一般に、セラミック酸化物を完全に溶融させるか、またはセラミック酸化物の機械的構造を破壊するために使用される。
【0005】
一般に、セラミック材料は脆く、強度に欠ける場合がある。セラミック材料の強度を高めるための新たな材料および技術は、当技術分野における貴重な一歩になると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、セラミック複合体を製造する方法に関する。この方法は、複数の個々のセラミック成分と溶媒に溶解したフラックス剤とを含む湿潤セラミック組成物を形成するステップを含む。フラックス剤でコーティングされた複数の個々のセラミック成分を含む乾燥セラミック組成物を形成するために、溶媒の少なくとも一部が湿潤セラミック組成物から取り出される。セラミック複合体を形成するために乾燥セラミック組成物が焼結され、この焼結するステップが、フラックス剤でコーティングされた2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する場所に形成された架橋部位で、個々のセラミック成分を融解させるのに十分な焼結温度で実施される。
【0007】
本開示はまた、セラミック複合体に関する。このセラミック複合体は、(i)1つ以上のセラミック化合物と(ii)セラミック成分の表面に組み込まれた1つ以上の可溶性フラックス剤原子とを含む複数の個々のセラミック成分を含み、このセラミック成分が、2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する場所に配置された架橋部位で互いに融合されている。
【0008】
本開示はまた、セラミック複合体を強化する方法に関する。この方法は、複数の個々のセラミック成分と溶媒に溶解したフラックス剤とを含む湿潤セラミック組成物を形成するステップを含む。フラックス剤でコーティングされた複数の個々のセラミック成分を含む乾燥セラミック組成物を形成するために、溶媒の少なくとも一部が湿潤セラミック組成物から取り出される。セラミック複合体を形成するために乾燥セラミック組成物が焼結され、この焼結するステップが、フラックス剤でコーティングされた2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する場所に形成された架橋部位で、個々のセラミック成分を融解させるのに十分な焼結温度で実施される。セラミック複合体は、第2のセラミック複合体の第2の引っ張り強度よりも大きな第1の引っ張り強度を有し、第2のセラミック複合体が、第2のセラミック複合体の唯一のフラックス剤が不溶性であること、および第2のセラミック複合体の製造中に焼結するステップに至るまで固形のまま残っていることを除いて、
第1の引っ張り強度を有するセラミック複合体と同様の工程、同じ成分、同じ重量で製造される。
【0009】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、両方とも単なる例示および説明であり、特許請求されたもののように本教示を限定するわけではないことを理解されたい。
【0010】
本明細書に組み込まれ、かつ本明細書の一部を構成する添付の図面は、本教示の態様を示しており、説明と共に本教示の原理を明らかにする役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一態様による、セラミック複合体を製造する方法のフローチャートである。
【
図2】本開示の一例による焼結セラミック複合体のSEM顕微鏡写真である。
【
図3】本開示の一例による、フラックス剤を含むように改質された繊維の断面図である。
【
図4】本開示の一例による、過剰に溶融した領域がある焼結セラミック複合体のSEM顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図の詳細は幾分簡略化されており、厳密な構造の正確性、詳細、および規模を維持するためではなく、理解を容易にするために描かれていることに留意されたい。
【0013】
次に本教示を詳細に参照する。本教示の例を添付の図面に示す。図面では、同一の要素を示すために全体を通して同様の参照番号が使用される。以下の説明では、説明の一部をなす添付図面を参照する。添付図面では、本教示を実施する特定の例を実例として示す。したがって、以下の説明は単なる例示である。
【0014】
本開示の発明者らは、従来からセラミックを融解させるために使用されてきた不溶性固体微粒子ホウ素供給源が、セラミック繊維または他のセラミック微粒子のネットワークを結合するのに十分な節部位を生じさせず、結果としてセラミック複合体の引っ張り強度が低くなることを発見した。本開示では、焼結後に得られるセラミック複合体の微細構造に結合部位を増加させるために可溶性フラックス剤を用いている。この新たな技術は、不溶性の固体フラックス剤のみを用いる工程で製造された複合体と比較して引っ張り強度が向上し、かつ複合体の熱性能特性が維持された複合体を提供するために示される。
【0015】
本開示は、セラミック複合体を製造する方法に関する。
図1の工程2に示されるように、この方法は、複数の個々のセラミック成分と溶媒に溶解した可溶性フラックス剤とを含む湿潤セラミック組成物を形成するステップを含む。本明細書に記載されているように、可溶性フラックス剤は、不溶性フラックス剤と共にまたは不溶性フラックス剤なしで使用することができる。「個々のセラミック成分」という用語は、例えば、本明細書で以下に記載されているように、セラミック繊維または他のセラミック粒子を指す。工程4を参照すると、乾燥セラミック組成物を形成するために、溶媒の少なくとも一部が湿潤セラミック組成物から取り出される。乾燥セラミック組成物は、フラックス剤でコーティングされた複数の個々のセラミック成分を含む。工程6に示されるように、乾燥セラミック組成物は、引っ張り強度を損なう恐れがある過剰な溶融を引き起こすことなく、架橋部位を形成するために、個々のセラミック成分を融解させるのに十分な焼結温度で焼結される。架橋部位では、フラックス剤でコーティングされた2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触している。
【0016】
可溶性フラックス剤には、内部に組み込まれるとセラミック成分の表面でセラミック材料の溶融温度を下げる能力がある。さらに、可溶性フラックス剤は、セラミック成分の表面で材料を軟化させる、または部分的に融解させる場合がある。可溶性フラックス剤は、例えば、
図1の方法に適合するいかなる水性溶媒または非水溶媒等の溶媒に溶ける。水性溶媒および非水溶媒については、以下でさらに詳しく説明する。用いられる特定の可溶性フラックス剤は、特に、個々のセラミック成分に使用される材料によって決まる。例えば、適切なフラックス剤は、ホウ酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、およびこれらの組み合わせから選択することができる。具体例としては、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、および他のアルカリ金属ホウ酸塩またはアルカリ土類金属ホウ酸塩等のホウ酸塩、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および他のアルカリ金属炭酸塩)およびアルカリ土類金属炭酸塩等の炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩またはアルカリ土類金属リン酸塩等のリン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩およびアルカリ土類金属ケイ酸塩等のケイ酸塩、ならびに上記のホウ酸塩、炭酸塩、リン酸塩、およびケイ酸塩のいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0017】
可溶性フラックス剤の濃度を制御することにより、個々のセラミック成分にコーティングされるフラックス剤の総量を調整して、個々のセラミック成分の表面の溶融温度を十分に下げることができる。使用されるフラックス剤の量は、個々のセラミック成分の構造を破壊することなく、個々のセラミック成分の表面の溶融温度を下げるのに十分なものである。可溶性フラックス剤または不溶性フラックス剤のいずれかまたは両方が多すぎると、過剰な溶融が発生した繊維接合部に節または小節が生じる恐れがある。繊維接合部での過剰な溶融は、複合体の引っ張り強度を高めず、脆化または機械的な性能もしくは熱的な性能の低下等の望ましくない効果をもたらす可能性がある。そのような焼結複合体の例が
図4に示されており、過剰に溶融した領域が丸で囲まれている。
図4の複合体は、2つのフラックス剤(メタホウ酸リチウムおよび炭化ホウ素)を使用して製造された。フラックス剤(可溶性または不溶性のいずれでも)が多すぎるか、焼結温度が非常に高いか、またはその両方の組み合わせの結果、望ましくない過剰な溶融が起こる場合がある。使用する可溶性フラックス剤が少なすぎると、個々のセラミック成分の融解が不十分になり、引っ張り強度の望ましい増加が得られない。一例では、可溶性フラックス剤(例えば、メタホウ酸リチウムまたは本明細書の任意の他の可溶性フラックス剤)の量は、湿潤組成物中の個々のセラミック成分の総重量を基にすると、約0.6~約1.2重量パーセントまたは約0.9~約1.0重量パーセントといったように約0.5~約2重量パーセントの範囲にある。一例では、不溶性フラックス剤(例えば、炭化ホウ素または本明細書の任意の他の不溶性フラックス剤)の量は、湿潤組成物中の個々のセラミック成分の総重量を基にすると、約0.3~2重量パーセントの範囲にある場合がある。すべてのフラックス剤が反応で使い果たされた場合、最終製品にはごく微量しか残っていないか、全く残っていない可能性もあるが、セラミックを形成し乾燥させた後の最終製品には全フラックス剤の約0.01重量%~約0.5重量%の量が残ると見積もられる。上記範囲外の量のフラックス剤を用いてもよい。
【0018】
可溶性フラックス剤は、
図1の方法の前または間に溶媒に溶解させることができる。一例では、可溶性フラックス剤が粉末状でスラリーに直接添加され、スラリー溶媒に部分的にまたは完全に溶解される。一例では、90重量%~100重量%または95重量%~100重量%といったように、80重量%~100重量%の可溶性フラックス剤を溶媒に溶解させてもよい。
図1の方法で用いられた溶媒には、個々のセラミック成分を溶解させることなくフラックス剤を溶解させる能力がある。溶媒は、水性溶媒、非水溶媒、またはこれらの組み合わせであってもよい。水性溶媒の例には、水または主に水で構成されるいかなる溶媒も含まれる。非水溶媒の例には、アルコール等の極性溶媒が挙げられる。
【0019】
セラミック酸化物が作られる複数の個々のセラミック成分は、粒子状もしくは繊維状、またはいかなる他の適切な形態であってもよい。適切な粒子の例には、薄片、管、ウィスカ、または他の粒子等の球形顆粒または非球形顆粒が挙げられる。いかなる適切なセラミック繊維を用いることもできる。セラミック成分が繊維状である場合、繊維のアスペクト比は、2~10,000または約5~約1000といったように、約1:10と同程度に小さいか、または10,000以上と同程度に大きい。繊維には、固体繊維、ナノチューブ等の管状繊維、またはこれらの混合物を挙げることができる。本明細書に列挙された粒子および繊維のいずれかの組み合わせを用いることができる。
【0020】
複数の個々のセラミック成分は、いかなる適切なセラミック材料も含むことができる。適切な材料の例には、チタニア、シリカ、アルミナ、ジルコニア、およびこれらの組み合わせから選択される材料等のセラミック酸化物が挙げられる。これらの酸化物の組み合わせの例には、ゼオライトを含むシリカアルミナがある。粘土および非酸化物セラミック等の他の種類のセラミックを用いることもできる。
【0021】
図1の方法の実施する間、可溶化されたフラックス剤は、乾燥工程中に溶媒が取り除かれると個々のセラミック成分をコーティングする。乾燥工程は、空気乾燥、加熱、および/または溶媒を蒸発させるための減圧等、いかなる適切な技法によっても達成することができる。乾燥工程は、
図1の方法における焼結工程に用いられる加熱工程とは別々に、または同時に実施することができる。
【0022】
図1の工程2および工程4の間に個々のセラミック成分をフラックス剤と接触させることにより、未処理の個々のセラミック成分の溶融温度と比較して、個々のセラミック成分の少なくとも表面部分の溶融温度が下がる。後続の焼結中に、個々のセラミック成分のうちの溶融温度が低いセラミック表面部分が互いに溶融または「焼結」し、架橋部位を形成する可能性がある。架橋部位は、2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する箇所でセラミック成分を結合させる。これにより十分な架橋部位の形成が促され、セラミック繊維のネットワークまたは他の個々のセラミック成分が結合し、焼結複合材料の引っ張り強度が高まる。個々のセラミック成分12を互いに結合させる架橋部位10を含む焼結セラミック複合体8の例を
図2に示す。
【0023】
図1の方法で用いられる焼結温度および焼結時間は、個々のセラミック成分に使用される材料および用いられるフラックス剤の種類によって決まる。焼結温度および焼結時間は、個々のセラミック成分が互いに接触する点で、所望の溶融度または融解度を提供するように選択することができる。焼結のしすぎは、硬すぎるまたは脆すぎる複合体につながる等の問題を生じさせる恐れがある。例えば、適切な焼結温度は、約2200°F~約2600°Fまたは約2300°F~約2500°F等、約2000°F~約2700°Fの範囲にある。ピーク焼成温度は、例えば約1時間~約5時間または約2時間~約3時間等、セラミック成分を所望の量だけ融解させる適切な時間にわたって維持することができる。
【0024】
既に説明した可溶性フラックス剤、溶媒、および個々のセラミック成分に加えて、
図1の方法の工程2の間に任意の成分を追加することができる。任意成分の例には、セラミック複合体の光学特性を変更するための着色剤または放射剤、界面活性剤、および粒状フラックス剤が挙げられる。いかなる他の所望の任意成分も用いることができる。
【0025】
一例では、本開示の方法において、セラミック組成物を形成するために不溶性フラックス剤(例えば、粒状フラックス剤が挙げられる。工程温度で目につくほど溶媒に溶解しないため、この不溶性フラックス剤のうち80重量%~100重量%は焼結前においては固形のままである)を用いない。別の例では、組成物は、可溶性フラックス剤に加えて不溶性フラックス剤を含む。不溶性フラックス剤は、例えば、粒状フラックス剤である場合がある。粒状フラックス剤は、目につくほど溶媒に溶解しないため、不溶性フラックス剤のうち80重量%~100重量%は焼結前においては固形のまま残っている。適切な不溶性フラックス剤の例には、とりわけ、炭化ホウ素(B4C)、窒化ホウ素粉末、およびアルミノホウケイ酸塩繊維を挙げることができる。一例では、1つ以上の開示された可溶性フラックス剤と1つ以上の開示された不溶性フラックス剤との両方が用いられる。本明細書に記載の「架橋部位」は、不溶性(例えば、粒状)フラックス剤の使用の有無にかかわらず、可溶性フラックス剤を使用して形成することができる。
【0026】
本開示はまた、セラミック複合体に関する。セラミック複合体は、複数の個々のセラミック成分を含む。個々のセラミック成分は、(i)1つ以上のセラミック化合物および(ii)1つ以上の可溶性フラックス剤原子を含む。可溶性フラックス剤原子は、セラミック成分の表面に組み込まれ、それにより、個々のセラミック成分の表面の溶融温度を効果的に下げる。「可溶性フラックス剤原子がセラミック成分の表面に組み込まれる」という表現で使用されるような「組み込まれる」という用語は、可溶性フラックス剤コーティングからの原子が個々のセラミック複合体の表面に注入されるか、または混じるか、もしくは結合することを意味する。例えば、フラックス剤原子は、全表面の50%~100%、70%~100%、または90%~100%といったように、個々のセラミック成分の全表面の40%~100%に組み込むことができる。フラックス剤が個々のセラミック成分の表面に組み込まれるため、個々のセラミック成分は互いに融合して、2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触している箇所に架橋部位を形成することができる。例えば、架橋部位は、2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する接点のうち30%~100%に形成することができる。
【0027】
個々のセラミック成分に組み込まれるフラックス剤原子は、フラックス剤化合物に由来するいかなる原子または原子の組み合わせであってもよい。例えば、フラックス剤がメタホウ酸リチウムである場合、個々のセラミック成分に組み込まれる原子には、リチウム原子、ホウ素原子、および/または酸素原子を挙げることができる。原子は、フラックス剤を組み込む前の個々のセラミック成分の融点と比べて融点が低い改質セラミック化合物を形成するために、個々のセラミック成分を構成する材料に対して、イオンによって、または共有結合によって結合させるといったように、いかなる方法でも結合させることができる。
【0028】
本明細書に記載された複数の個々のセラミック成分材料のうちいずれであれ用いることができる。例えば、個々のセラミック成分がチタニア、シリカ、アルミナ、ジルコニア、またはこれらの組み合わせから選択されるセラミック酸化物を含む場合、フラックス剤を導入し焼結した後の改質セラミックは、リチウムが内部に組み込まれたチタニアセラミック、シリカセラミック、アルミナセラミック、および/またはジルコニアセラミックであってもよい。
図3は、フラックス剤を含むように改質された繊維の一例を示す。繊維100は、セラミック酸化物による内部コア102を含む。この繊維は、フラックス剤(例えば、チタニアセラミック、シリカセラミック、アルミナセラミック、および/またはジルコニアセラミック)の導入前にセラミック酸化物から製造されたものである。コーティング104が内部コアを囲んでいる。コーティング104は、上述のように、元のセラミック繊維材料と混合させたフラックス剤原子を組み込む改質繊維材料を含む。コーティング104の改質材料の例には、リチウムアルミナケイ酸塩が挙げられ、ここではメタホウ酸リチウムがフラックス剤として使用されており、個々のセラミック成分はアルミナケイ酸塩繊維である。改質された個々のセラミック成分は繊維に限定されるものではなく、本明細書に記載されているように、粒子等のいかなる所望の形態であってもよい。個々のセラミック成分は、
図2で示し上述したように、1つ以上の架橋部位で互いに結合している。一例では、焼結セラミック組成物は、本明細書で上述したように、不溶性フラックス剤から形成された少なくとも1つの小節を含む。
【0029】
結果的に得られる複合体は、本明細書に記載されたいかなる任意の成分、または複合体製造中のこれらの成分と他の成分との間の任意の反応の産物である結果的に得られるいかなる化合物を含んでもよい。着色剤、放射剤、界面活性剤、および不溶性フラックス剤を含む例示的な任意の成分は、当業者によって決定され得るようないかなる有効量でも用いることができる。
【0030】
本開示の複合体は、粒状フラックス剤のみで製造された複合体と比較して、引っ張り強度が増している。例えば、セラミック複合体の引っ張り強度は、焼結前に溶媒に溶解しない粒状フラックス剤を使用して製造された第2のセラミック複合体の引っ張り強度と比較して、例えば10%~40%以上の範囲で増加させることができる。本明細書に記載されたような引っ張り強度は、厚さ方向(「TTT」)または面内方向(IP)の向きにある試験試料を使用したASTM D-1623-type B試験手順(引っ張り試験)によって測定される。一例では、本開示のセラミック複合体の単位体積当たりの架橋部位の数は、第2のセラミック複合体の場合よりも多く、第2のセラミック複合体は、第2のセラミック複合体に用いられる唯一のフラックス剤が不溶性フラックス剤であることを除いて、第1のセラミック複合体と同様の工程、同じ成分、同じ重量で製造される。
【0031】
実施例
試験試料は、焼成およびトリミングされたセラミックフォーム全体を代表するものとして、選択された領域から取り出され機械加工された。試料は、セラミックフォームの厚さ方向(TTT)および面内(IP)方向に沿った向きに製造された。最初の荒削りを行うために帯鋸を使用した。表面の傷の発生を最小限に抑えるために、すべての最終的な機械加工に、刃先がダイヤモンドコーティングされた放射状腕付き鋸および/またはディスクサンダを使用した。エポキシ接着剤を使用して引っ張り荷重ブロックに各試験試料を結合させた。接着剤が周囲条件下において一晩で硬化したら、ASTM E-4の要求に従い、各試料を可動クロスヘッド型のインストロン機に投入した。ASTM D 1623,Type Bにより室温引っ張り試験を行った。
【0032】
【0033】
基準線に対する実施例1のセラミックの%強度は、厚さ方向(TTT)方向の向きの試料では約29%増加し、面内方向(IP)の向きの試料では37%増加し、改善が見られた。
【0034】
さらに、本開示は、以下の項に記載の実施例を含む。
第1項.セラミック複合体を製造する方法であって、方法が、複数の個々のセラミック成分と溶媒に溶解したフラックス剤とを含む湿潤セラミック組成物を形成するステップと、フラックス剤でコーティングされた複数の個々のセラミック成分を含む乾燥セラミック組成物を形成するために、湿潤セラミック組成物から溶媒の少なくとも一部を取り出すステップと、セラミック複合体を形成するために乾燥セラミック組成物を焼結するステップであって、焼結するステップが、フラックス剤でコーティングされた2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する場所に形成された架橋部位で、個々のセラミック成分を融解させるのに十分な焼結温度で実施される、ステップとを含む方法。
第2項.フラックス剤が、メタホウ酸リチウム、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、およびこれらの組み合わせから選択される、第1項に記載の方法。
第3項.フラックス剤がメタホウ酸リチウムである、第1項または第2項に記載の方法。
第4項.湿潤セラミック組成物中の可溶性フラックス剤の量が、個々のセラミック成分の総重量を基にすると、約0.5~約2重量パーセントの範囲にある、第1項~第3項のいずれか一項に記載の方法。
第5項.溶媒が、水、非水溶媒、およびこれらの混合物から選択される化合物を含む、第1項~第4項のいずれか一項に記載の方法。
第6項.複数の個々のセラミック成分がセラミック酸化物を含む、第1項~第5項のいずれか一項に記載の方法。
第7項.セラミック酸化物が、チタニア、シリカ、アルミナ、ジルコニア、およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む、第6項に記載の方法。
第8項.複数の個々のセラミック成分が粒子状または繊維状である、第1項~第7項のいずれか一項に記載の方法。
第9項.焼結温度が約2200°F~約2700°Fの範囲にある、第1項~第8項のいずれか一項に記載の方法。
第10項.湿潤セラミック組成物が不溶性フラックス剤を含まない、第1項~第9項のいずれか一項に記載の方法。
第11項.湿潤セラミック組成物が少なくとも1つの不溶性フラックス剤をさらに含む、第1項~第10項のいずれか一項に記載の方法。
第12項.湿潤セラミック組成物中の不溶性フラックス剤の量が、個々のセラミック成分の総重量を基にすると、約0.3~約2重量パーセントの範囲にある、第11項に記載の方法。
第13項.(i)1つ以上のセラミック化合物と(ii)個々のセラミック成分の少なくとも表面に組み込まれた1つ以上の可溶性フラックス剤原子とを含む複数の個々のセラミック成分を含むセラミック複合体であって、個々のセラミック成分が、2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する場所に配置された架橋部位で互いに融合されているセラミック複合体。
第14項.フラックス剤原子がリチウムを含む、第13項に記載のセラミック複合体。
第15項.複数の個々のセラミック成分がセラミック酸化物を含む、第13項または第14項に記載のセラミック複合体。
第16項.セラミック酸化物が、チタニア、シリカ、アルミナ、ジルコニア、およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む、第15項に記載のセラミック複合体。
第17項.フラックス剤原子が、セラミック酸化物に結合したリチウム原子を含む、第15項または第16項に記載のセラミック複合体。
第18項.複数の個々のセラミック成分が粒子状または繊維状である、第15項~第17項のいずれか一項に記載のセラミック複合体。
第19項.架橋部位が、不溶性フラックス剤を使用することなく形成される、第13項~第18項のいずれか一項に記載のセラミック複合体。
第20項.湿潤セラミック組成物が少なくとも1つの不溶性フラックス剤をさらに含む、第13項~第19項のいずれか一項に記載のセラミック複合体。
第21項.第1のセラミック複合体の単位体積当たりの架橋部位の数が、第2のセラミック複合体の場合よりも多く、第2のセラミック複合体が、第2のセラミック複合体で用いられる唯一のフラックス剤が不溶性フラックス剤であることを除いて、第1のセラミック複合体と同様の工程、同じ成分、同じ重量で製造される、第13項~第20項のいずれか一項に記載のセラミック複合体。
第22項.セラミック複合体を強化する方法であって、方法が、複数の個々のセラミック成分と溶媒に溶解したフラックス剤とを含む湿潤セラミック組成物を形成するステップと、フラックス剤でコーティングされた複数の個々のセラミック成分を含む乾燥セラミック組成物を形成するために、湿潤セラミック組成物から溶媒の少なくとも一部を取り出すステップと、セラミック複合体を形成するために乾燥セラミック組成物を焼結するステップであって、焼結するステップが、フラックス剤でコーティングされた2つ以上の個々のセラミック成分が物理的に互いに接触する場所に形成された架橋部位で、個々のセラミック成分を融解させるのに十分な焼結温度で実施される、ステップとを含み、セラミック複合体が、第2のセラミック複合体の第2の引っ張り強度よりも大きな第1の引っ張り強度を有し、第2のセラミック複合体が、第2のセラミック複合体のフラックス剤が不溶性であること、および第2のセラミック複合体の製造中に溶媒に溶解することなく固形のまま残っていることを除いて、第1の引っ張り強度を有するセラミック複合体と同様の工程、同じ成分、同じ重量で製造される、方法。
第23項.第1の引っ張り強度が、第2の引っ張り強度と比較して10%~40%の範囲で増加し、第1の引っ張り強度と第2の引っ張り強度との両方が、厚さ方向(「TTT」)の向きにある試験試料を使用したASTM D-1623-type B試験手順によって測定される、第22項に記載の方法。
【0035】
本開示の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示される数値は可能な限り精密に報告されている。しかし、いかなる数値にも、それぞれの試験測定において見出された標準偏差から必然的に生じる特定の誤差が本質的に含まれる。さらに、本明細書に開示されたすべての範囲は、すべての範囲に含まれるありとあらゆる部分的範囲を包含するものと理解されるべきである。
【0036】
本教示は1つ以上の実装形態に関して説明されてきたが、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、説明された例に対して変更および/または修正を行うことができる。さらに、本教示の特定の形態は、いくつかの実装形態のうちの1つのみに関して開示されてきた可能性があるが、そのような形態は、いかなる所与のまたは特定の機能にとって望ましくかつ有利になるように、他の実装形態の1つ以上の他の形態と組み合わせることができる。さらに、詳細な説明および特許請求の範囲のいずれかで「含んでいる」、「含む」、「有している」、「有する」、「共にある」という用語、またはこれらの用語の変形が使用される範囲において、このような用語は、「備える」という用語と同様に包括的であることが意図されている。さらに、本明細書の説明および特許請求の範囲において、「約」という用語は、変更が本明細書に記載の意図する目的に対して工程または構造の不適合をもたらさない限り、記載された値が多少変更される可能性があることを示す。最後に、「例示的」とは、説明が理想であることを意味するのではなく例として使用されていることを示す。
【0037】
上記および他の形態および機能の変形形態、またはこれらの代替形態を、他の多くの互いに異なるシステムまたは用途と組み合わせてもよいことを理解されたい。様々な現在予見できないまたは予想外の代替、修正、変形、またはこれらにおける改良が当業者によって後になされてもよく、これらもまた以下の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0038】
8 セラミック複合体
10 架橋部位
12 セラミック成分
100 繊維
102 内部コア
104 コーティング
【外国語明細書】