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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024016
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】澱粉含有食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240214BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240214BHJP
   A21D 8/04 20060101ALI20240214BHJP
   A23L 19/12 20160101ALI20240214BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20240214BHJP
   A23L 33/125 20160101ALN20240214BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L5/00 N
A23L7/10 B
A21D8/04
A23L19/12 A
A23L29/212
A23L33/125
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222544
(22)【出願日】2023-12-28
(62)【分割の表示】P 2020510846の分割
【原出願日】2019-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2018058931
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】赤本 和人
(72)【発明者】
【氏名】杉野 多美
(72)【発明者】
【氏名】横山 典子
(57)【要約】
【課題】酵素を用いた新規食品製造方法の提供。
【解決手段】コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法。
【請求項2】
放線菌がコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
放線菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・シンナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)、及び、ストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)からなる群から選択される、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
澱粉含有食品が、ショ糖を含有していることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項6】
原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法であって、アミロマルターゼが、配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼである、製造方法。
【請求項7】
原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の物性改質方法。
【請求項8】
放線菌がコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
放線菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・シンナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)、及び、ストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)からなる群から選択される、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、請求項7~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
澱粉含有食品が、ショ糖を含有していることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の物性改質方法であって、アミロマルターゼが、配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼである、方法。
【請求項13】
放線菌由来のアミロマルターゼを含む、澱粉含有食品の物性改質剤。
【請求項14】
放線菌がコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属である、請求項13記載の剤。
【請求項15】
放線菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・シンナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)、及び、ストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)からなる群から選択される、請求項13又は14記載の剤。
【請求項16】
澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、請求項13~15のいずれか一項記載の剤。
【請求項17】
澱粉含有食品が、ショ糖を含有していることを特徴とする、請求項13~16のいずれか一項記載の剤。
【請求項18】
配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼを含む、澱粉含有食品の物性改質剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉含有食品の製造方法等に関し、詳細には、コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
食品産業分野には様々な課題が存在する。例えば、消費者の嗜好はますます多様化・高度化しており、これに伴って従前には存在しない新しい食感や風味を有した食品の開発が求められている。また、多くの食品は経時的にその品質が劣化してしまうため、かかる品質の経時劣化を低減させる手段の構築も大きな課題の一つとして挙げられる。さらには、食品原料は有限であるから、製造工程において少しでもロスの少ない製造手法の確立もまた重要な課題として認識されている。
【0003】
上述のような食品産業分野における課題の解決のための一つの選択肢として、食品の物性を酵素により改質することを特徴とする手段が報告されている。例えば、特許文献1には、β-アミラーゼを利用した食品の改質方法が開示されている。また、特許文献2には、トランスグルコシダーゼを利用した米飯食品または小麦加工食品の製造方法が開示されている。さらに特許文献3には、4-α-グルカノトランスフェラーゼを利用した、老化しにくい酵素処理澱粉粒の製造方法が開示されている。
【0004】
食品の製造に用い得る酵素の一つにアミロマルターゼが知られている。アミロマルターゼ(以下、本明細書において「AM」と称することがある)は、澱粉中のアミロースの分解およびアミロペクチン糖鎖の伸長を触媒する酵素であり、自然界に広く存在していることが知られている。アミロマルターゼを生産する生物には大腸菌などの微生物が挙げられるが、特に食品加工に利用されるものとしては、サーマス・フラバス(Thermus flavus)、サーマス・アクアティクス(Thermus aquaticus)またはサーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus(以下、本明細書において「Tt」と称することがある))などのサーマス属細菌由来の耐熱性アミロマルターゼが一般的である(特許文献3、特許文献4、非特許文献1)。
【0005】
コリネバクテリウム属に分類されるコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum、以下、本明細書において「Cg」または「コリネ菌」と称することがある)もまたアミロマルターゼを産生する微生物であることが知られている。コリネバクテリウム・グルタミカムは、L-グルタミン酸を培地中に排出する微生物として1957年に日本で分離された微生物であり、ミコール酸含有放線菌群に属し、胞子形成能を持たない、非運動性、好気性のグラム陽性細菌である。現在、全世界で200万トン以上のL-グルタミン酸ナトリウム(うま味成分)が当該細菌を用いた発酵法によって製造されている。また、コリネバクテリウム・グルタミカムは、グルタミン酸以外にも、リジンなどのアミノ酸や核酸、有機酸といった多数の有用物質の生産に利用されている。しかし、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼを食用澱粉または食品中の澱粉に作用させた場合の効果については知見がない。また、ストレプトマイセス属細菌(例えば、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・シンナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)またはストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)など)由来のアミロマルターゼが食品添加物として使用できることは知られている。ストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼとコリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼとは、アミノ酸の同一性が比較的高いことが知られており(約40%)、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼと同様の酵素特性を有すると考えられる。しかしながら、ストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを、食用澱粉または食品中の澱粉に作用させた場合の効果についても知見はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5715346号公報
【特許文献2】特許第4475276号公報
【特許文献3】特許第5944839号公報
【特許文献4】特許第4187305号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nguyen DH. et al.,(2014) Modification of rice grain starch for lump-free cooked rice using thermostable disproportionating enzymes. Food Research International 63: 55-61.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
食品の改質を目的として製造工程で耐熱性酵素を使用するとき、耐熱性酵素の温度特性が課題となることがある。例えば、耐熱性酵素は、食品中の澱粉が糊化した後においてもその活性を残しているため、糊化した澱粉をも改質してしまい、焦げ付き等の問題を生ずることがある(酵素を未糊化澱粉だけに作用させることが難しい)。また、多くの耐熱性酵素は、食品製造プロセス上の保存、混合、成型過程で多く用いられる温度帯(冷蔵~室温)において活性が低く、これらのプロセス上で作用させる場合、効果が低くなり、その結果多量の酵素添加が必要となる。さらには、酵素の耐熱性が高いと食品製造プロセス上で失活させるために高温、長時間の工程が必要となり、食品成分への影響が大きいことが予想される。また、食品の種類によっては、加熱強度が足りず酵素を失活させきれないこともある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、CgAMが、(1)食品中の澱粉が加熱糊化する前に失活するため未糊化澱粉だけに作用すること、(2)食品製造プロセス上で多く用いられる温度帯(冷蔵~室温)における活性がTtAMより高いこと、および、(3)加熱失活が容易であることなどを見出した。また、これらに加えて、驚くべきことに、(4)CgAMは澱粉本来の物性を維持したまま老化による硬化を抑制できること、(5)CgAMを添加した米飯は粘りが向上し、且つ、その粘りを維持したまま食感の経時劣化を抑制することができること、(6)CgAMを添加した米飯は炊飯時のコゲつきの発生を顕著に低減させること、(7)CgAMで改質したショ糖や澱粉を喫食したラットの喫食後2時間における△血糖値AUCの値は、TtAMで改質したショ糖や澱粉を喫食したラットの喫食後2時間における△血糖値AUCよりも低いこと等、TtAMとは全く異なる作用を呈することを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1]原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法。
[2]放線菌がコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属である、[1]記載の製造方法。
[3]放線菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・シンナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)、及び、ストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)からなる群から選択される、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、[1]~[3]のいずれか記載の製造方法。
[5]澱粉含有食品が、ショ糖を含有していることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか記載の製造方法。
[6]原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法であって、アミロマルターゼが、配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼである、製造方法。
[7]原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の物性改質方法。
[8]放線菌がコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属である、[7]記載の方法。
[9]放線菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・シンナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)、及び、ストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)からなる群から選択される、[7]又は[8]記載の方法。
[10]澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、[7]~[9]のいずれか記載の方法。
[11]澱粉含有食品が、ショ糖を含有していることを特徴とする、[7]~[10]のいずれか記載の方法。
[12]原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の物性改質方法であって、アミロマルターゼが、配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼである、方法。
[13]放線菌由来のアミロマルターゼを含む、澱粉含有食品の物性改質剤。
[14]放線菌がコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属である、[13]記載の剤。
[15]放線菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・シンナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)、及び、ストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)からなる群から選択される、[13]又は[14]記載の剤。
[16]澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、[13]~[15]のいずれか記載の剤。
[17]澱粉含有食品が、ショ糖を含有していることを特徴とする、[13]~[16]のいずれか記載の剤。
[18]配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼを含む、澱粉含有食品の物性改質剤。
【0011】
また、本発明の一態様において、本発明は以下の通りである。
[1A]原料中の澱粉にコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法。
[2A]澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した精製澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、[1A]記載の製造方法。
[3A]アミロマルターゼが、配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼである、[1A]または[2A]記載の製造方法。
[4A]原料中の澱粉にコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の物性改質方法。
[5A]澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した精製澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、[4A]記載の方法。
[6A]アミロマルターゼが、配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼである、[4A]または[5A]記載の方法。
[7A]コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを含む、澱粉含有食品の物性改質剤。
[8A]澱粉含有食品が、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した精製澱粉の1種以上を含む加工食品からなる群から選択される、[7A]記載の剤。
[9A]アミロマルターゼが、配列番号1、3、4、5、または6に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノマルターゼである、[7A]または[8A]記載の剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、既存の糖改質酵素とは質の異なる好ましい食感および経時的な劣化が起きにくく、さらに喫食後の血糖値を上昇させ難い澱粉含有食品を製造することができ、一部調理形態においては既存の耐熱性アミロマルターゼ特有の課題(例:調理器具への焦げ付き)を生ずることなく上記特性を備えた澱粉含有食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、各微生物由来のアミロマルターゼを添加した場合の、10%澱粉ゲルのゲル強度の経時的な変化を示す図である。
図2図2は、各微生物由来のアミロマルターゼを添加した場合の、炊飯米のコゲの発生量を示す図である。
図3図3は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼとストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼが、澱粉ゲルの物性改質において同様の効果を有することを示すグラフである。
図4図4は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼとストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼは、アミロース分解において同様の作用を有することを示すグラフである。
図5図5は、サーマス・サーモフィルス由来のアミロマルターゼと、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼの糖鎖転移作用の違いを示す図である。
図6図6は、ラットを用いた、血糖値測定試験の日程を示す図である。
図7図7は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼを用いてデキストリン及びショ糖を改質することにより、該成分の喫食後のラットの血糖値上昇が抑制されることを示す図(上図:△血糖値上昇曲線、下図:△血糖値AUC)である。
図8図8は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼを用いてαうるち米澱粉を改質することにより、該成分の喫食後のラットの血糖値上昇が抑制されることを示す図(上図:△血糖値上昇曲線、下図:△血糖値AUC)である。
図9図9は、サーマス・サーモフィルス由来のアミロマルターゼを用いてαうるち米澱粉を改質しても、該成分の喫食後のラットの血糖値上昇は抑制されないことを示す図(上図:△血糖値上昇曲線、下図:△血糖値AUC)である。
図10図10は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼを添加して米飯を調理することにより、該米飯の喫食後のラットの血糖値上昇が抑制されることを示す図(上図:△血糖値上昇曲線、下図:△血糖値AUC)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
1.澱粉含有食品の製造方法
本発明は、原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することがある)を提供する。
【0016】
アミロマルターゼ(EC番号:2.4.1.25)は、1,4-α-グルカン鎖の一部分を、グルコースまたは別のα-グルカンの4-OH基に転移させる化学反応を触媒する酵素である。基質が十分に大きい場合、アミロマルターゼは分子内転移を生じさせ、生成物は環状構造となる。
【0017】
本明細書において、「α-グルカン」とは、α-1,4-グルカン(マルトースを構成二糖単位とする鎖状構造の多糖類)、またはα-1,6-分岐構造を有するα-1,4-グルカンである。「α-グルカン」には、アミロース、アミロペクチン、澱粉およびグリコーゲンの他、ワキシースターチ、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉加水分解産物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書において、「環状グルカン」とは、α-1,4-グルコシド結合のみを有する環状α-1,4-グルカン、ならびにα-1,4-グルコシド結合およびα-1,6-グルコシド結合の両方を有する分岐型環状グルカンを含む。「分岐型」とは、少なくとも1つのα-1,4-結合以外のグルコシド結合を有することをいう。分岐型環状グルカンの例としては、α-1,6-結合を有する分岐構造を環状構造内部に含む内分岐型環状グルカン、および環状構造に加えてさらに非環状構造部分を有する外分岐型環状グルカンなどが挙げられる。
【0019】
本発明において用いられるアミロマルターゼは、コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼまたはその変異体であり得る。本明細書において「コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼ」とは、コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属に分類される細菌(野生型または変異株のいずれであってもよい)が生産するアミロマルターゼ、或いはコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属に分類される細菌(野生型または変異株のいずれであってもよい)のアミロマルターゼ遺伝子を利用して遺伝子工学的手法により取得したアミロマルターゼであることを意味する。従って、コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属に分類される細菌より取得したアミロマルターゼ遺伝子(野生型または変異体のいずれであってもよい)で形質転換または形質導入した宿主により発現させた組換えアミロマルターゼタンパク質もまた、「コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼ」に該当する。
【0020】
本発明の製造方法において好適に用いられるアミロマルターゼの由来としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム、ストレプトマイセス・アベルミティリス、ストレプトマイセス・シンナモネウス、ストレプトマイセス・グリゼウス、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス、およびストレプトマイセス・バイオラセオルバーが例示されるが、これらに限定されない。コリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼとしては、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアミロマルターゼが挙げられる。ストレプトマイセス・アベルミティリス由来のアミロマルターゼとしては、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するアミロマルターゼが挙げられる。ストレプトマイセス・シンナモネウス由来のアミロマルターゼとしては、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するアミロマルターゼが挙げられる。ストレプトマイセス・グリゼウス由来のアミロマルターゼとしては、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するアミロマルターゼが挙げられる。ストレプトマイセス・バイオラセオルバー由来のアミロマルターゼとしては、配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するアミロマルターゼが挙げられる。またそれらの変異体としては、配列番号1、3、4、5、または6で示されるアミノ酸配列に対して、1または複数のアミノ酸が、付加、欠失、挿入または置換されたアミノ酸配列を有するアミロマルターゼが挙げられる。1以上の変異を有するアミロマルターゼは、コリネバクテリウム・グルタミカム、ストレプトマイセス・アベルミティリス、ストレプトマイセス・シンナモネウス、ストレプトマイセス・グリゼウス、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス、またはストレプトマイセス・バイオラセオルバー由来の野生型のアミロマルターゼと同等(またはそれ以上)の酵素学的特性を有している限り、いかなる変異または修飾が含まれていてもよい。配列番号1、3、4、5、または6で示されるアミノ酸配列に対して1以上の変異を有するアミロマルターゼは、配列番号1、3、4、5、または6のアミノ酸配列に対して通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、なおさらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、各々対応する野生型アミロマルターゼと同等(またはそれ以上)のアミロマルターゼ活性を有する。なお、本明細書において、アミノ酸配列や塩基配列の「同一性」とは、2つの配列間で同一のアミノ酸(塩基配列を比較する場合は塩基)の出現する程度を言う。配列の「同一性」は、当業者であれば自体公知の方法により容易に決定することができる。
【0021】
上記した配列番号1、3、4、5、または6で示されるアミノ酸配列を有するアミロマルターゼまたは配列番号1、3、4、5、または6で示されるアミノ酸配列に対して1以上の変異を有する変異型アミロマルターゼは、自体公知の方法により製造することができる。一例としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアミロマルターゼをコードする塩基配列(配列番号2)を適切な遺伝子発現ベクターに挿入し、大腸菌などの自体公知のタンパク質大量発現系において発現させ、これを適切な手段を用いて精製することにより、アミロマルターゼを調製することができる。また、変異型のアミロマルターゼであれば、まず、部位特異的変異導入などの遺伝子工学的手法を用いて配列番号2で示される塩基配列の一部を改変し、これを遺伝子発現ベクターに挿入して、大腸菌などの自体公知のタンパク質大量発現系において発現させ、精製することにより調製することができる。
【0022】
本明細書において、アミロマルターゼの活性は次の通り測定され、且つ定義される。すなわち、0.05%馬鈴薯澱粉および0.05%マルトースを含む30mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)にアミロマルターゼ溶液を加え、30℃~70℃(アミロマルターゼの種類によって異なり得る)の水浴中で一定時間反応させた後、96℃で5分間加熱し反応を停止させる。この反応液0.1mlとヨウ素溶液(0.02%ヨウ素、0.2%ヨウ化カリウム)1mlを混合し600nmの吸光度を測定する。酵素液の代わりにミリQ水を混合したブランクの吸光度から酵素添加時の吸光度を減じた値を活性値とし、600nmにおける吸光度を1分間に1減ずる酵素量を1ユニット(U)とした。
【0023】
本発明の製造方法に用いられるコリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼの至適温度は30℃~38℃である。また、本発明の製造方法に用いられるストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼの至適温度は45℃~55℃(例、50℃)である。なお、本明細書において「至適温度」とは、30mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中で、0.05%の馬鈴薯澱粉および0.05%のマルトースが存在する条件下、各温度において10分間アミロマルターゼを作用させた際に最も活性が高い温度を意味する。尚、サーマス・サーモフィルス属由来のアミロマルターゼの至適温度は約70℃である。
【0024】
また、本発明の製造方法に用いられるコリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼの至適pHは、6~7である。また、本発明の製造方法に用いられるストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼの至適pHは4~9(例えば、7)である。なお、本明細書において「至適pH」とは、30mM酢酸緩衝液(pH3~5.5)もしくは30mMリン酸緩衝液(pH6~7)もしくは30mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5~10)中で、0.1%の馬鈴薯澱粉および0.05%のマルトースが存在する条件下、各pHにおいて37℃で10分間アミロマルターゼを作用させた際に最も活性が高いpHを意味する。
【0025】
また、本発明の製造方法に用いられるコリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼの耐熱性に関し、該酵素は40℃以下で安定である。また、本発明の製造方法に用いられるストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼの耐熱性は、50℃以下で安定である。なお、本明細書において「耐熱性」とは、アミロマルターゼが、30mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中において、10分間の間、活性を失わないことを意味する。
【0026】
また、本発明の製造方法に用いられるコリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼのpH安定性は、6~8である。また、本発明の製造方法に用いられるストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼのpH安定性は4~9である。なお、本明細書において「pH安定性」とは、アミロマルターゼが、緩衝液(25℃)中において、約18時間の間、活性を失わないことを意味する。
【0027】
本発明の製造方法において用いられるコリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼまたはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼの添加量は、所望の効果を得られる限り特に限定されないが、原料中の澱粉1g当たり、通常0.00001~10000U、好ましくは0.0001~1000U、より好ましくは0.001~100U、更に好ましくは0.01~10U、特に好ましくは0.1~1Uであり得る。一例として、本発明の製造方法により製造される澱粉含有食品が炊飯米である場合は、炊飯前の乾燥米1gに対して、通常0.00001~10000U、好ましくは0.0001~1000U、より好ましくは0.001~100U、更に好ましくは0.01~10U、特に好ましくは0.1~1Uのアミロマルターゼが添加され得る。
【0028】
また、コリネバクテリウムまたはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼの添加時期は、所望の効果を得られる限り特に限定されない。酵素の添加時期は、製造する食品の種類およびその調理手順、使用する澱粉原料の種類、消費者の嗜好などを考慮して適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。従って、酵素は澱粉含有食品の調理前、調理中、調理後、または喫食時前のいずれの時期においても添加し得るが、一態様として、原材料にアミロマルターゼを添加・混合して食品の製造や加工を行うか、製造や加工中の食品にアミロマルターゼを添加・混合することによって酵素を原材料中の澱粉に作用させる態様が好ましい。具体例として、炊飯米を製造する場合であれば、乾燥米を水で洗米し、洗米した米に水とコリネバクテリウムまたはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを混合して室温(10℃~30℃)で一定時間(例えば、0.5~2時間)静置し、その後、通常の方法で炊飯を行うことにより、本発明の所望の効果を有する炊飯米を調製することができる。
【0029】
本発明の製造方法において、コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを原料中の澱粉に作用させる温度または時間は、所望の効果を得られる限り特に限定されない。酵素の作用温度は、使用する酵素の量、製造する食品の種類およびその調理手順、使用する澱粉原料の種類、消費者の嗜好などを考慮して適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。ただし、コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼは耐熱性細菌由来のアミロマルターゼと比較して至適温度が低い点は考慮されるべきである。従って、一態様においては、酵素添加時の食品の温度は、通常1~100℃、好ましくは、5~50℃、より好ましくは10~45℃、更に好ましくは20~40℃、特に好ましくは30~37℃であり得る。また、酵素の作用時間も、特に制限されないが、通常0.1~48時間、好ましくは、0.2~36時間、より好ましくは0.5~24時間、更に好ましくは0.8~20時間、特に好ましくは1~18時間であり得る。なお、乾燥米1gに対して0.1~1Uのアミロマルターゼを添加して炊飯米を製造する場合を例示すると、洗米した米に水とコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを加え、4~40℃で0.1~18時間、好ましくは、10~38℃で0.25~6時間、より好ましくは20~37℃で0.5~1時間、酵素で米を改質した後に、通常の方法で炊飯を行うことにより、本発明の所望の効果を有する炊飯米を調製することができる。
【0030】
本発明の製造方法において、原材料の澱粉にコリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼを作用させる際のpH環境は、上述した通り当該酵素の至適pHやpH安定性を考慮して、必要に応じて、食品に添加可能なpH調整剤を用いて、例えば、pH6~pH7に予め調製される。
【0031】
本発明の製造方法により製造される澱粉含有食品には、澱粉を含有するあらゆる食品が含まれる。澱粉含有食品に含まれる澱粉の由来は特に限定されず、米澱粉、麦澱粉(小麦、大麦、ライ麦等を含む)、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、トウモロコシ澱粉、大豆澱粉、およびタピオカ澱粉からなる群から選択される1以上であってよい。また、澱粉含有食品の具体例としては、例えば、米加工食品、小麦加工食品、ジャガイモ加工食品、トウモロコシ加工食品、タピオカ加工食品、および米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した精製澱粉の1種以上を含む加工食品が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書において、米加工食品としては、炊飯米類またはその加工品(赤飯、ピラフ、炊き込みご飯、粥、リゾット、おにぎり、寿司、餅、または餅菓子等)、米麺またはその加工品等が含まれるが、これらに限定されない。また、小麦加工食品としては、パスタ、ラーメン、うどん等の麺類、パン類、ピザ、ナン等のパン類生地、およびクッキー、ケーキ等の菓子類等が含まれるがこれらに限定されない。また、ジャガイモ加工食品としては、ポテトサラダ、フライドポテト、ボイルドポテト、マッシュポテト、およびポテトチップス等のポテトスナック類等が含まれるがこれらに限定されない。また、トウロモコシ加工食品としては、タコス、トルティーヤ、アレパ、またはその生地等が含まれるがこれらに限定されない。また、タピオカ加工食品としては、タピオカ入り蒸し団子、およびタピオカ入りプリン等が含まれるが、これらに限定されない。また、米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、またはタピオカから抽出した精製澱粉の1種以上を含む加工食品としては、カマボコ、カニカマ、ソーセージ、およびハンバーグ等が含まれるがこれらに限定されない。
【0032】
2.澱粉含有食品の物性改質方法
本発明はまた、原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の物性改質方法(以下、「本発明の方法」と称することがある)を提供する。
【0033】
本発明の方法に用いられる放線菌のアミロマルターゼ、その添加量、添加時期、反応温度、反応pH、調製方法等、あるいは、澱粉含有食品の種類等は、いずれも「1.澱粉含有食品の製造方法」において説明したものと同様である。
【0034】
3.澱粉含有食品の物性改質剤
本発明はまた、放線菌由来のアミロマルターゼを含む、澱粉含有食品の物性改質剤(以下、「本発明の剤」と称することがある)を提供する。
【0035】
本発明の剤に含まれる放線菌由来のアミロマルターゼ(例、コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼ)の配合量としては、特に限定されないが、原料中の澱粉1g当たり、通常0.00001~10000U、好ましくは0.0001~1000U、より好ましくは0.001~100U、更に好ましくは0.01~10U、特に好ましくは0.1~1Uの割合で添加できるような配合量であれば、いかなる配合量であってもよい。
【0036】
本発明の剤には、コリネバクテリウム属またはストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼ以外の成分が含まれていてもよい。かかる成分としては、例えば、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤および調味料等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の剤の剤型は、特に限定されず、粉末状または顆粒状等の固形状、液体状、ペースト状で有りうる。
【0038】
その他、本発明の剤の使用条件等は、「1.澱粉含有食品の製造方法」において説明した条件を参照すれば、当業者であれば適宜設定可能である。
【0039】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0040】
[実施例1]澱粉ゲルの物性への影響
米澱粉の10%懸濁液にコリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼまたはサーマス・サーモフィルス由来のアミロマルターゼ(以下、「CgAM」または「TtAM」など称することがある)を、50U/g澱粉で添加し、撹拌しながら37℃で1時間反応させた。次いで、98℃で10分間加熱し、その後50℃まで冷却した後に、冷却後の澱粉ゲルをプラスチック製円筒形チューブを用いて直径5mm、高さ20mmの円柱状に成型し、5℃で1~7日間保存することでゲル化させた。得られた澱粉ゲルをチューブから取り出し、カミソリの刃を用いて直径5mm、高さ5mmの円柱状に成型した後、テクスチャーアナライザー(TA-XT Plus)を用いて圧縮試験に供し、1日目、3日目および7日目のゲル強度を測定した。結果を図1に示す。
【0041】
図1に示されるように、アミロマルターゼを添加しなかった場合(Control)、澱粉ゲルは、澱粉の老化に伴い冷蔵保存中に徐々に硬化した。また、TtAMを添加した場合、澱粉の粘度が著しく下がり、ゲル形成に時間がかかった。また、ゲル化後は急速に硬化した。CgAMを添加した場合、酵素無添加の澱粉ゲルと近い物性を有するゲルが形成された。さらに、当該ゲルは、その後日数を経ても、ほとんど硬化しなかった。
【0042】
[実施例2]炊飯米の食感改質
乾燥米150gを洗米し、水と各微生物由来のアミロマルターゼ(1.0U/g乾燥米)を添加して325gに調整し、室温(20℃)で1時間静置した。次いでこれを、炊飯器SR-13GP(Panasonic)を用いて炊飯した。得られた炊飯米を炊飯器から取り出し、プラスチック製蓋つき容器に移し室温で1時間静置した後に専門パネル4名により官能評価を行った。
【0043】
官能評価は「やわらかさ」、「粒立ち」、「粘り」の3項目について行った。なお、本明細書においては「やわらかさ」とは、炊飯米を咀嚼するとき感じる抵抗力が小さいことを、「粒立ち」は、咀嚼時に粒が壊れず強く残っていることを、また、「粘り」は、米粒どうしが付着していることをそれぞれ意味する。評価基準は次の通りである。酵素無添加の条件で調製した炊飯米の「やわらかさ」、「粒立ち」、「粘り」を基準(0点)とし、各項目における程度の強さを-2点~+2点(0.5点刻み)で評価した。基準品(酵素無添加)以外の試料はブラインドで提示した。スコアは、4人の専門パネルの評点の平均値とした。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示される通り、TtAMを添加して調製した炊飯米とは異なり、CgAMを添加して調製した炊飯米は、柔らかく粘りの高い食感に変化した。
【0046】
[実施例3]炊飯米の経時劣化抑制
【0047】
実施例2と同様の条件で炊飯米を調製した。これを20℃に設定した恒温槽内に18時間静置した後に、官能評価に供した。官能評価の条件および方法は、実施例2で用いたものと同じである。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示される通り、酵素無添加の炊飯米は20℃、18時間の保存によってやわらかさが減少し、粘りは低下した。TtAMを添加した場合は、炊飯直後の時点でやわらかさおよび粘りは低下しており、20℃、18時間の保存後の物性変化は小さかった。一方で、CgAMを添加した場合は、炊飯直後の時点でやわらかさおよび粘りは増加しており、20℃、18時間の保存後では、若干のやわらかさの減少および粘りの低下は見られるものの、TtAMと比較すると、全体的に酵素無添加で調製した炊飯米の炊飯当日の物性に近い物性を維持していた。
【0050】
[実施例4]焦げつきの抑制
実施例2と同様の条件において炊飯米を調製し、その焦げつきの発生量を検討した。尚、焦げ発生量とは、炊飯完了直後に米飯の入った内釜を炊飯器から取り出し、逆さにして米飯を落下させた際に内釜に張り付いて残った部分の重量を示す。結果を表3および図2に示す。なお、表3に示される値は、3回の試験で得られた値より算出した平均値である。
【0051】
【表3】
【0052】
表3および図2に示される通り、TtAMを添加すると釜底に飴状の焦げが発生するが、CgAMではほとんど焦げは発生しなかった。
【0053】
[実施例5]小麦澱粉含有食品の経時劣化抑制
CgAMの小麦澱粉含有食品の経時劣化抑制効果を確認する目的で、CgAMを配合した食パンを調製し、調製後一定期間保存後の食パンの食感の劣化の度合いを検証した。具体的には、まずホームベーカリー(エムケー精工、HBK-100)付属の金属容器内に水を計量し、所定量のCgAM(試験区1:無添加、試験区2:0.01U/g小麦粉、試験区3:0.1U/g小麦粉、試験区4:1.0U/g小麦粉)を添加した。次いでこの上に強力粉、砂糖、スキムミルク、及び食塩を予備混合した混合物を加えた。水さらにその上にドライイーストとショートニングを加え、既定のプログラム(食パン、焼き色:普通)にて混捏、焼成することで食パン調製した。各成分の実際の配合量は以下の表4に示す。焼成完了後、室温で1.5時間静置することにより放冷し、次いで2cm厚さにスライスし、チャック付きビニール袋に封入して、温度10℃、湿度50%で2日間保存した。
【0054】
【表4】
【0055】
上述の条件下で保存した食パンの食感(「パサつき」)を、専門パネル3名による官能試験により評価した。官能試験において用いた評価基準は次の通りである。
【0056】
×:強くパサついている
△:パサついている
○:少しパサついている
◎:しっとりしている
【0057】
結果を以下の表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示される通り、CgAMを配合した食パンにおいては、焼成後2日間を経過しても、食パンのパサつきが抑えられていた。
【0060】
[実施例6]馬鈴薯澱粉の物性への影響
ポテトフレーク(「じゃがいもフレーク」、株式会社大望)を計量し(1試験区40g)、120gの市水と混合した。これにCgAMを添加して、均一になるまでスパチュラで撹拌した。得られた混合物を室温で30分間静置した。30分間の静置後、混合物を50gずつ3パックに小分けし、真空シーラーにより密封した。密封されたパックを沸騰水で30分間湯煎し、次いで流水で約25℃まで冷却した。パックを開け、中身を24穴マイクロプレートに分注した。これを冷蔵(5℃)保存し、分注日当日、1日後、1週間後、2週間後の時点でテクスチャーアナライザーを用いて圧縮試験に供し、ペーストの硬さを測定した。
【0061】
尚、本実施例において使用したCgAMの使用量は、乾燥ポテトフレーク1gあたり0.1U又は1.0Uとした。
【0062】
また、物性測定に用いたテクスチャーアナライザーの測定条件は次の通りである。
装置:テクスチャーアナライザー(「TA-XT Plus」(英弘精機株式会社)) 直径5mmステンレス製球状プランジャー
測定条件:圧縮速度 1mm/秒、プレートに充填されたモデルポテトサラダの中心部を50%圧縮(突き刺し)し、最大応力を記録(N=3)。
【0063】
結果を以下の表6(圧縮応力)に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
表6に示される通り、CgAMはモデルポテトサラダの経時的な硬化を抑制することが示された。
【0066】
[実施例7]ストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼの澱粉改質特性1
ストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼとコリネバクテリウム・グルタミカム由来のアミロマルターゼとは、アミノ酸の同一性が比較的高いことが知られており、それらの機能は類似すると予想される。これを実証する目的で、以下の実験を行った。
【0067】
10mMリン酸緩衝液(pH7)に10%懸濁液となるように米澱粉(SIGMA)を加え、さらにCgAM、TtAMまたはストレプトマイセス・アベルミティリス由来のアミロマルターゼ(以下、「SaAM」と称することがある)を、50U/g澱粉となるように添加し、これを撹拌しながら37℃で1時間反応させた。次いで、98℃で10分間加熱して酵素を失活させ、その後50℃まで冷却した後に、冷却後の澱粉ゲルを、直径5mmの円筒形チューブに分注し、5℃で1~7日間保存することでゲル化させた。得られた澱粉ゲルを、澱粉糊液の調製日を0日として、1日後、3日後および7日後の時点で冷蔵庫から取り出し、カミソリの刃を用いて直径5mm、高さ5mmの円柱状に成型した後、切断面が上下となるようにテクスチャーアナライザー(TA-XT Plus)のステージに乗せ圧縮試験を行い、ゲル強度を測定した。
【0068】
尚、物性測定に用いたテクスチャーアナライザー及び測定条件は次の通りである。
装置:テクスチャーアナライザー(「TA-XT Plus」(英弘精機株式会社)) 直径15mmアクリル製円柱プランジャー、ステンレス製ステージ。
測定条件:圧縮速度 0.5mm/秒、澱粉ゲル片を90%圧縮した際に得られる最大応力(g)を記録(N=6~9)。
【0069】
結果を図3に示す。図3に示されるように、SaAMで処理した澱粉ゲルの物性およびその経時変化はCgAMで処理した澱粉ゲルのそれらとほぼ同等であった。即ち、ストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼとCgAMは、澱粉改質において同様の効果を奏する可能性が高いことが示された。
【0070】
[実施例8]ストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼの澱粉改質特性2
ジメチルスルホキシドにアミロース(BAR-5K-1、GLICO NUTRITION CO., LTD.)を加え10%溶液とし、次いでこれをミリQ水で希釈し1%アミロース溶液を調製した。次に、調製した1%アミロース溶液500μlに1U/mLに調整した各アミロマルターゼ溶液(SaAM、CgAM、又はTtAM)を50μL添加した。SaAM:50℃、CgAM:37℃、TtAM:70℃にて60分間反応させた。次いで、各反応液を100℃、10分間加熱して酵素を失活させ、室温まで冷却した。冷却後の各反応液を、アミロース濃度が0.1%となるようにミリQ水で希釈し、イオンクロマトグラフィ(Dionex)を用いて、希釈後の反応液中に含まれるアミロース分解物の糖鎖長の分布を分析した。ピーク面積の総和に対する各糖鎖のピーク面積の相対値を算出した。結果を図4に示す。
【0071】
図4に示される通り、CgAMでアミロースを処理して得られる糖鎖長分布と、SaAMでアミロースを処理して得られる糖鎖長分布は極めて類似していた。本結果においても、ストレプトマイセス属由来のアミロマルターゼが有する澱粉改質特性は、CgAMのそれに類似することが示された。
【0072】
[実施例9]CgAMとTtAMの糖鎖転移性の検討
28.5mlの50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に米各澱粉(1.5g)を添加し、5%の澱粉懸濁液を調製した。得られた澱粉懸濁液をスタンディングパウチに入れ、100℃、15分間加熱することで澱粉を糊化させた(糊化澱粉溶液1)。また、28.5mlの50mMリン酸緩衝液(pH6.0)にグルコース(「G1」と称することがある)又はショ糖(「suc」と称することがある)を1.5g添加し、5%のG1溶液又はsuc溶液を調製し、これを1.5mLチューブに分注した。次いで、糊化澱粉溶液1(500μL)と、G1溶液又はSuc溶液又はミリQ水(500μL)を混合し、混合溶液(1mL)を得た。
【0073】
次に、2.5U/mLのCgAM溶液及び2.5U/mLのTtAM溶液を調製した。得られた酵素溶液100μLを上述のように調整した混合溶液(1mL)にそれぞれ添加した(澱粉1g当たり酵素100U)。酵素溶液の添加後、CgAMを添加した反応液は30℃で、TtAMを添加した反応液は50℃まで加温した。尚、酵素液の代わりにミリQ水を添加したコントロールは30℃に加温した。24時間後に100℃、10分間加熱することで、反応液中の各酵素を失活させた。後日、各反応液はTLC分析に供した。
【0074】
TLC分析は次のように行った。スタンダードとしては0.5%の3種類の糖液を2μLスポットした。尚、スタンダードとして用いた3種類の糖液は、それぞれ次の通りである。
糖液1:グルコース(G1)、マルトース(G2)、マルトトリオース(G3)、マルトテトラオース(G4)、マルトペンタオース(G5)、マルトヘキサオース(G6)及びマルトヘプタオース(G7)混合液
糖液2:ショ糖溶液(suc)
糖液3:αシクロデキストリン(αCD)及びβシクロデキストリン(βCD)混合液
【0075】
酵素失活後の反応液はミリQ水で5倍希釈することで米澱粉、G1、又はSucが0.5%となるように調整した後、2μLをスポットした。
【0076】
1回展開とし、展開用の溶媒の組成は、nブタノール:ピリジン:ミリQ水(MQ)=6:4:1とした。検出は、20%硫酸/EtOHを担体に噴霧し、次いでこれを110℃で約10分間加熱することで発色させた。結果を図5に示す。尚、図5中、「(-)」は、糊化澱粉溶液1(500μL)と50mMリン酸緩衝液(pH6.0)(500μL)を混合し、酵素液の代わりにミリQ水を添加して30℃24時間加温したサンプルをスポットしたレーンを示す。
【0077】
図5に示される通り、TtAMはグルコース(G1)に糖鎖を転移し、オリゴ糖を生成しているが、ショ糖(suc)には糖鎖を転移させなかった。一方で、CgAMは、グルコース(G1)及びショ糖(suc)のいずれにも糖鎖を転移させており、両AMでショ糖に対する反応特性が異なることが示された。
【0078】
[実施例10]CgAMによるショ糖含有デキストリンの物性改質
(被験物質の調製)
デキストリン(松谷化学工業株式会社 パインデックス#100)をミリQ水で溶解し5%溶液とした。ショ糖(純正化学試薬特級)も同様にミリQ水で溶解し5%溶液とした。これらを1:1の量比で混合し、ここにCgAM溶液をデキストリン1gあたり100Uとなるよう添加した。コントロールにはミリQ水を同量添加した。この混合液を30℃のウォーターバスで24時間静置し、酵素反応させた。その後、100℃の湯浴で10分間加熱し、酵素を失活させた。酵素反応後のデキストリン-ショ糖溶液は-80℃のフリーザーで保存した。
【0079】
(動物試験)
以下の方法で、ラットを用いて、澱粉投与後の血糖値を測定し、血糖値上昇抑制効果を評価した。被験物質は血糖値測定試験当日に流水解凍して試験に供した。下記の血糖値の測定方法及び図6の試験日程に従って、空腹時、投与15分後、30分後、60分後、120分後の血糖値を測定した。被験物質投与は、被験物質の全糖量が1g/20mL/kgの量で、経口投与で行った。尚、被験物質の全糖質量分析は一般財団法人日本食品分析センターに委託し、フェノール硫酸法を用いて測定した。
【0080】
(血糖値の測定方法)
ラットへの糖負荷試験は種々行われているが、本試験では特開2005-328776号公報において開示されている糖負荷試験を改変し実施した。
【0081】
[動物]
動物種及び系統:ラット、Slc:Wistar(SPF)
生産者:日本エスエルシー(株)
性別:雄性
入荷時週齢:6週齢
検疫・馴化:動物は入荷から群分けまで馴化する。ただし、入荷日を0日として7日までの期間は検疫を行う。一般状態観察は毎日行う。
【0082】
[飼育環境]
温度:22±3℃
湿度:50±20%
照明時間:12時間/日
【0083】
[飼料]
種類:ラボMRストック固形飼料(日本農産工業(株))もしくはCRF-1(オリエンタル酵母工業(株))
給餌法:絶食期間を除き自由に与える。
【0084】
[飲料水]
種類:水道水
給水法:試験期間を通じ自由に与える。
【0085】
[動物の選択及び群分け]
検疫・馴化期間中において、一般状態観察に異常のみられなかった動物より試験に使用する動物を選択する。動物は7週齢で使用する。検疫・馴化終了日に体重を測定し,得られた体重を指標として、層別連続無作為化法を用いて6~10匹/群に割り付ける。
【0086】
[絶食処置]
糖負荷試験実施日の前日夕方より一晩絶食を開始する。
【0087】
[血糖値の測定]
尾の先端の静脈を無麻酔下でメス刃を用いて切開する。切開面より漏出する血液を用いて検査(血糖値)を実施する。自己検査用グルコース測定器「アキュチェック」(ロシュ・ダイアグノスティクス)または「グルテストNeo」(三和化学研究所)を用いて測定し、測定器に表示された血糖値を記録する。これを空腹時血糖値とする。なお、同一日の試験には同じグルコース測定器を用いた。
【0088】
評価項目の算出は以下のように行った。
空腹時血糖値を0分の血糖値とした。
各測定時間の血糖値から、0分の血糖値を除した値を、「△血糖値(mg/dL)」とした。
各測時間の△血糖値の中でもっとも高い値を各個体の「△Cmax(mg/dL)」とした。
△血糖値上昇曲線の下面積を算出した値を「△血糖値AUC(mg/dL・min)」とした。算出方法は日本Glycemic index研究会の方法に準じた。
対照群の△血糖値AUCを100とした時の被験物質投与群の△血糖値AUCの値から、血糖値上昇抑制効果を評価した。
【0089】
試験結果を図7に示す。試験結果より、CgAMをショ糖とデキストリンの混合物に作用させることで投与後2時間における△血糖値AUCの値が低く抑えられ、血糖値の上昇が抑制されていることが示された。これは実施例9で認められた、ショ糖に糖鎖を付加するCgAMの効果によってショ糖が高分子化し、消化されにくくなったためであると考えられる。
【0090】
[実施例11]CgAM処理による澱粉の物性改質
(被験物質の調製)
αうるち米澱粉(マイアルファーK:上越スターチ株式会社)を10g秤量し、80gのミリQ水を添加した。スタンディングパウチ(ラミジップスタンドタイプ:株式会社生産日本社)に移し替え、ヒートシーラーで密閉した後、恒温槽にて100℃で15分加温し、澱粉を完全に糊化させた。途中、澱粉がダマにならないように撹拌した。澱粉糊液を、コントロール及びCgAM用のものは37℃、TtAM用のものは50℃に戻した後、各AM添加量が澱粉1gに対し1Uとなるよう調製したCgAM溶液またはTtAM溶液を10mL添加した。コントロールにはミリQ水10mLを添加した。その後、直ちにシーラーで密閉し、恒温槽に入れ、コントロール及びCgAM添加区は37℃、TtAM添加区は50℃で60分間静置し酵素反応させた。酵素反応後、恒温槽にて100℃で15分加温し、酵素を失活させた。酵素処理澱粉は室温に戻した後-80℃で凍結した。
【0091】
(動物試験)
実施例10の方法に準じた。
【0092】
(血糖値の測定方法)
実施例10の方法に準じた。
【0093】
試験結果を図8及び9に示す。試験結果より、CgAM処理澱粉を投与した群は、対照群及びTtAM処理澱粉投与群に比べ、投与後2時間における△血糖値AUCの値が低く抑えられ、血糖値の上昇が抑制されていることが示された。
【0094】
[実施例12]CgAM処理による米飯の物性改質
(被験物質の調製)
原料として宮城県産ひとめぼれを使用した。玄米は一つの生産元で同一日に収穫されたものを確保し、同一日に精米したものを、脱酸素剤を入れた遮光真空パックに入れ、試験まで5℃にて冷蔵保存した。
【0095】
精白米は、炊飯当日の秤量30分前までに室温に戻した。電子天秤(US6002S、メトラー・トレド株式会社)を使用し、精白米を秤量した。ザルに入れた精白米を、ボウルに溜めた水道水中にてやさしく時計回りに10回かき混ぜた。水道水を取り換え、同じ作業を5回繰り返した。洗米後、米をザルに取り上げ、炊飯釜に移した後、電子天秤上で150%の加水率になるように水道水を添加し、さらにCgAMを生米1gあたり1Uの量で添加した。室温で1時間浸漬した後、炊飯器(SR-03GP:パナソニック株式会社)に釜をセットして炊飯した。炊飯直後、バット上に炊飯釜を転倒させ、米飯を取り出した。釜壁に近い米飯は取り除き、スパチュラでバットの端によけた。スパチュラで米飯を平らに均し、軽く隙間を開けてラップをした後、室温で15分粗熱をとった。米飯はユニパック(生産日本株式会社)に入れて厚さ2cm程度にならし、-80℃のフリーザーで凍結した。翌日、凍結乾燥機(FDU-2100:東京理化機器株式会社)を使用して凍結乾燥した。凍結乾燥が確認できた後、ミキサーミル(MM301:Verder Scientific Co. Ltd.)を用いて粉砕した。粉砕サンプルは、スタンディングパウチに分注してシールで密閉し、室温で保管した。
【0096】
(動物試験)
実施例10の方法に準じた。ただし、被験物質はミリQ水で懸濁し試験に供した。
【0097】
(血糖値の測定方法)
実施例10の方法に準じた。なお、被験物質投与は、被験物質の全糖量が2g/20mL/kgの量で、経口投与で行った。
【0098】
試験結果を図10に示す。CgAM処理米飯を投与した群は対照群に比べ、投与後2時間における△血糖値AUCの値が低く抑えられ、血糖値の上昇が抑制されていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、好ましい食感および経時的な劣化が起きにくく、さらに血糖値を上昇させ難い澱粉含有食品を、既存の耐熱性アミロマルターゼが持つ課題を生ずることなく製造することができるため、食品製造業において非常に有益である。
【0100】
本出願は、日本で出願された特願2018-058931(出願日:2018年3月26日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2024024016000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-01-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料中の澱粉に放線菌由来のアミロマルターゼを作用させることを含む、澱粉含有食品の製造方法。