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特開2024-24088染色された生体高分子及びその物品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024088
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】染色された生体高分子及びその物品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20240214BHJP
   C12P 19/04 20060101ALN20240214BHJP
   C12P 17/16 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C12P21/00 C
C12P19/04
C12P17/16
【審査請求】有
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001180
(22)【出願日】2024-01-09
(62)【分割の表示】P 2019074065の分割
【原出願日】2019-04-09
(31)【優先権主張番号】18166269.3
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】エジェ セネル
(72)【発明者】
【氏名】ネジディヤ ギュネシュ
(72)【発明者】
【氏名】ゼイネプ カルデス
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
(57)【要約】
【課題】 染色された生体高分子を製造する方法を提供する。
【解決手段】 該方法は、少なくとも1の生体高分子生成微生物を提供する工程、少なくとも1の染料生成微生物を提供する工程、前記少なくとも1の生体高分子生成微生物を培養して、少なくとも1の生体高分子を生成する工程、及び前記染料生成微生物を培養して、前記生体高分子の少なくとも一部を染色するに適した少なくとも1の染料を生成する工程を含んでなり、これによって、染色された生体高分子を得ることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色された生体高分子(4)から本質的になる又は染色された生体高分子(4)からなる染色された物品を製造する方法であって、該方法は、下記の工程:
少なくとも1の生体高分子生成微生物(2)を提供する工程、
少なくとも1の染料生成微生物(3)を提供する工程、
前記少なくとも1の生体高分子生成微生物(2)を培養して、少なくとも1の生体高分子(4)を生成する工程、
前記染料生成微生物(3)を培養し、ここで、前記染料生成微生物は、前記生体高分子(4)の少なくとも一部を染色するに適した少なくとも1の染料を生成し、これにより、染色された生体高分子を得る工程、及び
前記染色された生体高分子を加工して、前記染色された生体高分子から本質的になる又は前記染色された生体高分子からなる物品を得る工程
を含んでなり、前記物品は、装飾、アクセサリー、包装物品、及び織物から選ばれるものであり、前記生体高分子生成微生物(2)及び/又は前記染料生成微生物(3)が、細菌、藻類、酵母、真菌類、及びそれらの混合物から選ばれる方法。
【請求項2】
少なくとも1の生体高分子生成微生物(2)及び少なくとも1の染料生成微生物(3)を一緒に培養して、これにより、染色された生体高分子(4)を得る請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1の生体高分子生成微生物(2)を培養して、生体高分子(4)を生成し、少なくとも1の染料生成微生物(3)を前記生体高分子(4)に提供し及び培養して、前記生体高分子(4)の少なくとも一部を染色する少なくとも1の染料を生成し、これにより、染色された生体高分子(4)を得る請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の方法によって得られた染色された生体高分子から本質的になる又は請求項1~3のいずれかに記載の方法によって得られた染色された生体高分子からなる物品であって、装飾、アクセサリー、包装物品、及び織物から選ばれるものである物品。
【請求項5】
染色された生体高分子の少なくとも1の層を含んでなる染色された複合物品を製造する方法であって、該方法は、下記の工程:
a)少なくとも1の支持体材料(1)を提供する工程;
b1)支持体材料(1)の少なくとも一部に、少なくとも1の生体高分子生成微生物(2)を提供し、ここで、前記微生物は、支持体材料(1)の少なくとも一部で、少なくとも1の生体高分子の層(4)を生成する工程;及び
b2)支持体材料(1)の少なくとも一部に、少なくとも1の染料生成微生物(3)を提供し、ここで、前記微生物は、前記生体高分子の層(4)の少なくとも一部を染色するに好適な少なくとも1の染料を生成し、これにより、染色された複合物品を得る工程
を含んでなり、前記生体高分子生成微生物(2)及び/又は前記染料生成微生物(3)が、細菌、藻類、酵母、真菌類、及びそれらの混合物から選ばれる方法。
【請求項6】
少なくとも1の生体高分子生成微生物(2)及び少なくとも1の染料生成微生物(3)を、支持体材料(1)の少なくとも一部に、一緒に又は別々に提供する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
支持体材料(1)の少なくとも一部を、少なくとも1の生体高分子生成微生物(2)を含んでなる微生物の少なくとも1の培養物、及び少なくとも1の染料生成微生物(3)を含んでなる微生物の少なくとも1の培養物と接触させる工程;及び
前記生体高分子生成微生物(2)及び前記染料生成微生物(3)を一緒に培養する工程
を含んでなる請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
支持体材料(1)の少なくとも一部を、少なくとも1の生体高分子生成微生物(2)を含んでなる微生物の少なくとも1の培養物と接触させ、及び前記生体高分子生成微生物(2)を培養して、支持体材料(1)に、少なくとも1の生体高分子の層(4)を提供する工程;
続いて、前記生体高分子の層(4)を含む前記支持体材料の少なくとも一部を、少なくとも1の染料生成微生物(3)を含んでなる微生物の少なくとも1の培養物と接触させ、及び前記染料生成微生物(3)を培養して、前記生体高分子層(4)の少なくとも一部に、少なくとも1の染料を提供する工程
を含んでなる請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
染料生成微生物(3)と、生体高分子生成微生物(2)との細胞数比が、1:1~1:10の範囲内である請求項5~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
染料生成微生物(3)と、生体高分子生成微生物(2)との細胞数比が、1:4~1:5の範囲内である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程b1)及び/又はb2)を1回以上行う請求項5~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
生体高分子が、糖系の生体高分子及びアミノ酸系の生体高分子、又はそれらの混合物から選ばれる請求項5~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
糖系の生体高分子が微生物セルロースであり、及びアミノ酸系の生体高分子が微生物コラーゲンである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
染料が、インジゴ染料、インジゴイド染料、及びピグメント染料及びそれらの混合物から選ばれる請求項5~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
インジゴイド染料が、6,6’-ジブロモインジゴ、5-ブロモインジゴ、5,5’-ジブロモインジゴ、5,7,5’,7’-テトラブロモインジゴ、4,5,7,4’,5’-ペンタブロモインジゴ、4,5,6,4’,5’,6’-ヘキサブロモインジゴ、7,7’-ジメチルインジゴ、4,5,4’,5’-テトラクロロインジゴ、及びそれらの混合物から選ばれ、ピグメント染料が、メラニン、アントラキノン、キサントモナジン(xanthomonadin)、インジゴイジン(indigoidine)、アスタキサンチン、カンタキサンチン、シクロプロジギオシン、グラナダエン(granadaene)、ヘプチル-プロジギオシン、プロジギオシン、ピオシアニン、ルブロロン、スキトネミン、スタフィロキサンチン、トリプタトリン(tryptathrin)、ウンデシルプロジギオシン、ヴィオラセイン、ゼアキサンチン、アンカフラビン、リコピン、モナスコルブラミン、ナフトキノン、リボフラビン、ルブロパンクタチン(rubropunctatin)、β-カロチン、トルラロジン、及びそれらの混合物から選ばれる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
支持体材料(1)が、紙、ボール紙、木材、ガラス、プラスチック、及び織物製物品から選ばれものである請求項5~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
支持体材料(1)が織物製物品である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
織物製物品が、繊維、糸、布、織物、デニム布及び前記布のいずれかを含んでなる衣服から選ばれる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
織物は、一緒に織られた縦糸及び横糸を含んでなり、フロントサイド及びバックサイドを有するものであり、ここで、前記縦糸及び少なくとも複数の横糸は、前記織物のベース層を形成し、複数の縦糸及び/又は少なくとも複数の横糸は、前記織物のサイドの少なくとも一方におけるループ部分、又は糸のアンダーポーション又は糸のオーバーポーションの追加の層を形成する請求項18に記載の方法。
【請求項20】
生体高分子生成微生物(2)及び/又は染料生成微生物(3)が、遺伝子組換えされていない微生物であるか、又は遺伝子組み換え微生物である請求項5~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
生体高分子生成微生物(2)は、生体高分子生成細菌、生体高分子生成藻類、及びそれらの混合物から選ばれる請求項5~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
生体高分子生成細菌は、グルコンアセトバクター属菌、アエロバクター属菌、アセトバクター属菌、アクロモバクター属菌、アグロバクテリウム属菌、アゾトバクター属菌、サルモネラ属菌、アルカリゲネス属菌、シュードモナス属菌、リゾビウム属菌、サルシナ属菌及び連鎖状球菌、バチルス属菌、遺伝子組み換え大腸菌、及びそれらの混合物から選ばれ、及び生体高分子生成藻類は、褐藻類、紅藻類、黄金色植物、及びそれらの混合物から選ばれる請求項21に記載の方法。
【請求項23】
染料生成微生物(3)は、染料生成細菌、染料生成真菌類、及びそれらの混合物から選ばれる請求項5~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
染料生成細菌は、クロモバクテリウム・ビオラセウム、セラチア・マルセセンス、クリセオバクテリウム属菌株、黄色ブドウ球菌、ストレプトマイセス属菌株、ビブリオ属菌株、コリネバクテリウム属菌、遺伝子組み換え大腸菌、及びそれらの混合物から選ばれ、染料生成真菌類は、ペニシリウム属、タラロミセス属、フサリウム属、スキタリジウム属、ホウロクタケ属、キサントモナス属、ストレプトミセス属、アスペルギルス属、及びそれらの混合物から選ばれる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
さらに、工程b1)及び/又はb2)後に得られた染色された複合物品を洗浄して、生体高分子生成微生物(2)及び/又は染料生成微生物(3)を除去する工程c)を含んでなる請求項5~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
請求項5に記載の方法により得られる、染色された生体高分子(4)及び支持体材料(1)を含んでなる染色された複合物品。
【請求項27】
支持体材料(1)が、紙、ボール紙、木材、ガラス、プラスチック、及び織物製物品から選ばれる請求項26に記載の染色された複合物品。
【請求項28】
支持体材料(1)が織物製物品である請求項27に記載の染色された物品。
【請求項29】
織物製物品が繊維、糸、布、及び衣服から選ばれる請求項28に記載の染色された複合物品。
【請求項30】
家庭の装飾用の物品、アクセサリー、包装物品、及び織物製物品から選ばれる請求項26~29のいずれかに記載の染色された複合物品。
【請求項31】
織物製物品である請求項30に記載の染色された複合物品。
【請求項32】
織物製物品が衣服である請求項31に記載の染色された複合物品。
【請求項33】
衣服が、ジーンズ、シャツ、デニム布を使用する衣服、スポーツ用衣服及びカジュアル衣料から選ばれる請求項32に記載の染色された複合物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子の分野、特に、染色された生体高分子の分野に関する。具体的には、本発明は、染色された生体高分子及び当該染色された生体高分子を含んでなる物品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の商業的成功は、特に、装飾、アクセサリー、包装の分野及び織物の分野においては、その審美的外観に広く依存する。
【0003】
例えば、デニム産業における成功は、布、及びこのように、当該布にて製造された衣類の明瞭な外観に広く依存する。ユニークな外観を有する布は、特に、それらが、標準化されておらず、このように、容易に区別可能な審美的様相を有するため、非常に人気のあるものとなっている。
【0004】
布の外観は、異なった染色及び/又は仕上げ技術を使用することによって変更される。
【0005】
例えば、布の「使用済み」又は「年代物」又は「着古した」様相は、布を、一般的に、衣服について又は布について行われる仕上げ加工にて処理することによって達成される。知られた仕上げ加工は、特殊な化学剤、又は機械摩耗を使用するものであり、例えば、ストーンウォッシュ、酸洗浄、レーザー処理及びサンドブラストを使用する方法である。
【0006】
しかし、知られている仕上げ処理によって得られる目に見える効果及び外観は限定される。それ故、異なる製造者によって作製される衣服は、しばしば、相互に類似したものとなり、製品の商業的な好ましさ、及び製品を他の製造者の製品から区別する可能性を低減させている。
【0007】
従来のストーンウォッシュの更なる欠点は、石が布にダメージを与えることである。
【0008】
特許文献1は、特許文献2と同様に、マルチシェード及びユニークな効果を有する加工布を製造する方法を開示しており(ともに、本願の出願人の名義である)、該方法は、布の少なくとも一方の側に、1の生体高分子層を設けて、複合布を提供する工程、複合布の少なくとも一部を染色する工程、及び最後に、染色された生体高分子層の少なくとも一部を除去する工程を含んでなり、これにより、複数の色のシェードにて染色された布を得ることを特徴とする。特許文献1の方法において使用される生体高分子層は、複数の色のシェードを有し、布のダメージから保護された布の製造を可能にする。しかし、特許文献1の方法は、複合布に、審美的な視覚効果(例えば、マルチシェード効果及びユニークな効果)を付与するには適していない。
【0009】
実際、特許文献1の方法では、生体高分子層の少なくとも一部の除去は必須ではない。さらに、特許文献1の方法では、布及び生体高分子層は、当分野において公知の一般的な方法(これ自体、複合布にマルチシェード効果を提供しない)によって染色される。
【0010】
特許文献3は、微生物を使用して布を染色する方法が開示されており、該方法により、染料含有微生物の織物への吸着が、閾値濃度を越える炭素源を使用することによって改善される。微生物内に含有される染料分子は、熱処理工程を使用して、微生物から放出され、直接的かつ局部的に織物に固定される。前記熱処理は、また、キャリヤー微生物を脱活性化させる。微生物が染料を生成する前、生成する間、又は生成した後、ただし、染料放出熱処理工程前に、好適な合成染料を添加することもできる。
【0011】
非特許文献1は、一般的に、インジゴを生成できる遺伝子組み換え大腸菌(E.coli)、及び微生物産生染料を有する衣服を提供するための、前記衣服における前記微生物の生育を開示している。
【0012】
特許文献4は、セルロース繊維を、チロシナーゼ酵素及びメラニン前駆体を含有する水溶液にて処理する染色技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際特許出願第PCT/EP2017/059471号(国際公開第2017/186583号)
【特許文献2】ヨーロッパ特許公開第3239373号
【特許文献3】英国特許公開第2537144号
【特許文献4】特開平09-87977号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】AVIVA RUTKINによるドキュメント、「顔料形成微生物は、望ましくない合成染料を置換できた/New sientist」,NEW SCIENTIST,2016年1月6日(2016-01-06)XP055418782,GB ISSN:0262-4079
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、物品、例えば、織物製物品の製造における使用に適する染色された生体高分子の製法を提供することにある。染色された生体高分子は、マルチシェードの外観、すなわち、複数の色のシェードを含んでなる独特の外観(複数の色のシェードは、非標準的な、すなわち、ランダムの分布に従って生体高分子の至る所で分布して、異なる製品、すなわち、2つの異なった複合布において、同様にして再現されたシェードの同じ分布が得られることを防止する)を有する。
【0016】
本発明の他の目的は、染色された生体高分子及び不均質、すなわち、不均一に染色された生体高分子を含んでなる染色された物品の製法を提供することにある。
【0017】
さらに、本発明の目的は、染色された生体高分子及びそれを含んでなる、商業的に望ましく、見てそれとわかり、他の製品とは容易に区別される染色された物品の製法を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、特に、織物の分野において、公知の製法及び染色法について、不快な化学物質の使用を実質的に回避又は低減するとともに、公知の方法の環境コストを実質的に回避又は低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これらの及び他の目的は、請求項1による方法によって達成され、該方法は、請求項4による染色された生体高分子の製造を提供する。
【0020】
本発明は、請求項5による、染色された生体高分子を含んでなる染色された複合物品の製法にも関する。
【0021】
染色された生体高分子は、請求項22による染色された物品の製法において使用される。
【0022】
従属する請求項は、本発明の好適な具体例に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1A及び1Bは、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物が、一緒に、すなわち、同時に又は実質的に同時に提供される本発明の方法の具体例を概略的に示す図である。
図2図2A、2B、及び2Cは、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物が、別々に、すなわち、順次に、支持体材料に提供される本発明の方法の具体例を概略的に示す図である。
図3図3A及び3Bは、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を一緒に培養して、染色された生体高分子を得る本発明の方法の具体例を概略的に示す図である。
図4図4A、4B、及び4Cは、生体高分子生成微生物を順次に培養して、染色された生体高分子を得る本発明の方法の具体例を概略的に示す図である。
図5図5Aは、公知の方法に従って染色された生体高分子を含んでなる染色された複合物品、特に、染色された複合糸を示す図であり、図5Bは、本発明に従って染色された生体高分子を含んでなる染色された複合糸を示す図である。
図6図6は、本発明による例示の染色された生体高分子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、染色された生体高分子を製造する方法に関し、該方法は、下記の工程:
少なくとも1の生体高分子生成微生物を提供する工程、
少なくとも1の染料生成微生物を提供する工程、
前記少なくとも1の生体高分子生成微生物を培養して、少なくとも1の生体高分子を生成する工程、及び
前記染料生成微生物を培養して、前記生体高分子の少なくとも一部を染色するに適した少なくとも1の染料を生成する工程であって、これにより、染色された生体高分子を得る工程
を含んでなる。
【0025】
驚くべきことには、本発明の方法により、その表面上に、不均一、すなわち、ランダム及び/又は不均質な染料の分布を有する染色された生体高分子を得ることができることが知見された。この染料のランダム、不均質な分布により、生体高分子層の少なくとも一部の至る所で、同一には再現されないユニークな分布に従って分布された複数の色のシェードが生ずる。換言すれば、本発明の方法を介して、少なくとも部分的に染色され、連続する生体高分子では同一には再現されない審美的外観を有する生体高分子を得ることができる。
【0026】
特別な科学的説明につながるものではないが、可能な説明は、生存する微生物によって産生された生体高分子は、仮に同一の微生物によって、及び同一の条件下において生産されたとしても、他の生体高分子層とは、必ずしも構造的に同一であるというわけではない。同様に、生存する微生物によって産生される染料分子は、同一の微生物によって、かつ同一の条件下で生産されたとしても、量及び分布において、必ずしも同一ではない。
【0027】
有利には、本発明の方法は、多くの分野、例えば、装飾(例えば、家庭の装飾)、アクセサリー、包装のような多くの技術分野において、及び織物の分野において望ましい複数の色のシェード、すなわち、マルチシェードからなる特色のある外観を有する、染色された生体高分子の生成を可能にする。
【0028】
具体例によれば、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を一緒に培養し、これによって、染色された生体高分子が得られる。
【0029】
換言すれば、染色された生体高分子を提供するために、少なくとも1の生体高分子生成微生物及び少なくとも1の染料産生微生物を、一緒に、提供及び培養して(すなわち、同時培養)、生体高分子及び染料を同時に(又は同時に連続して)生成する。
【0030】
本発明のこの具体例によれば、方法は、生体高分子及び染料、すなわち、染料分子の生成が、単一の培養工程(例えば、単一インキュベーション)の間に生ずる「同時」法として定義される。この場合、有利には、本発明による染色された生体高分子は、1つの培養工程法に従って得られる。
【0031】
本発明の具体例によれば、少なくとも1の染料生成微生物を、前記生体高分子に提供し、培養して、少なくとも1の染料を生成し、前記生体高分子層を染色して、染色された生体高分子を得る。
【0032】
換言すれば、生体高分子を提供するために、生体高分子生成微生物を培養することができる。続いて、生体高分子の少なくとも一部を染色するために、少なくとも1の染料生成微生物を生体高分子に提供し、培養して、染料を生成する。
【0033】
本発明のこの具体例によれば、方法は、生体高分子の製造及び染料、すなわち、染料分子の製造が、実質的に連続して行われる「連続」法として定義される。この場合、有利には、生体高分子における染料生成微生物の分配の仕方を決定できる。
【0034】
好ましくは、生体高分子生成微生物は、染料生成微生物を提供する前では、生体高分子から除去されない。この場合、有利には、染料生成微生物の培養物が、染色されていない生体高分子に提供され、培養される際には、培養培地中及び/又は生体高分子中に、生体高分子生成微生物がなお存在するため、生体高分子層の厚さは増大する。換言すれば、染料生成微生物を添加した後も、染料及び生体高分子の両方の生成は続く。有利には、特別な科学的説明につながるものではないが、この場合、染料分子が、生体高分子内に、容易に捕捉されることが観察された。
【0035】
本発明は、本発明による方法で得られる染色された生体高分子にも関する。
【0036】
上述のように、本発明の染色された生体高分子は、同一には再現されず、公知の方法を使用しては得られないマルチシェードの外観を有する。
【0037】
本発明の染色された生体高分子は、有利には、いくつかの技術分野、例えば、装飾(例えば、家庭の装飾)、アクセサリー、包装の分野において、及び織物の分野において、物品の製造のために使用される。
【0038】
具体例によれば、本発明の染色された生体高分子は、物品(例えば、物)に加工されて、本質的に、本発明の染色された生体高分子からなる物品が得られる。
【0039】
例えば、本発明の染色された生体高分子は、衣服に加工される。本質的に、染色された生体高分子からなる他の例示的な物品は、イヤリング、ネックレス、バッグ、及びファッションアクセサリーである。
【0040】
本発明によれば、物品が、「本質的に、染色された生体高分子からなる」と定義される場合、物品の必須構造が染色された生体高分子によって形成されるが、物品の他の要素が、他の材料で形成されていることを意味する。例えば、イヤリングは、本発明の生体高分子からなる装飾部分及び使用者の耳にイヤリングを固着する金属クリップを有することができる。
【0041】
具体例によれば、本発明の染色された生体高分子は、支持体材料、例えば、織物製物品上に製造される。
1態様によれば、本発明は、少なくとも本発明による染色された生体高分子層を含んでなる染色された複合物品を製造する方法にも関し、該方法は、下記の工程:
a)少なくとも1の支持体材料を提供する工程;
b1)支持体材料の少なくとも一部に、少なくとも1の生体高分子生成微生物を提供する工程(ここで、前記微生物は、支持体材料の少なくとも一部で、少なくとも1の生体高分子層を生成する);及び
b2)支持体材料の少なくとも一部に、少なくとも1の染料生成微生物を提供する工程(ここで、前記微生物は、前記生体高分子層の少なくとも一部を染色するに好適な少なくとも1の染料を生成する)であって、これにより、染色された複合物品を得る工程
を含んでなる。
【0042】
上述のように、驚くべきことには、本発明の方法により、染色された複合物品、例えば、布が得られ、ここで、染色された複合物品は、その表面上に、不均一、すなわち、ランダム又は不均質な染料の分布を有する染色された生体高分子を得ることができることが知見された。上述のように、この染料のランダム、不均質な分布により、同一には再現されないユニークな分布に従って、生体高分子層の至る所で、すなわち、生体高分子層の少なくとも一部の至る所で分布する複数の色のシェードが生ずる。換言すれば、本発明の方法を介して、その少なくとも一部が、1の複合物品から他の物品間で、同一には再現又はコピーされない色のシェードの分布に従って染色されている生体高分子層を含んでなる染色された複合物品が得られる。
【0043】
上述のように、特別な科学的説明につながるものではないが、可能な説明は、生存する微生物によって産生される本発明による生体高分子層は、仮に同一の微生物によって、かつ同一の条件下において生産されたとしても、他の生体高分子層とは、必ずしも構造的に同一であるというわけではないということである。同様に、生存する微生物によって産生される本発明の染料分子は、同一の微生物によって、かつ同一の条件下で生産されたとしても、量及び分布において、必ずしも同一ではない。
【0044】
支持体材料、例えば、織物製物品の少なくとも一部に、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を提供し、前記微生物を培養することによって、染色された生体高分子層を含んでなる染色された複合物品(ここで、有利には、生体高分子層は、不均質に染色されており、すなわち、生体高分子層において、染料が不均一に分布している)が得られることが観察された。
【0045】
例えば、支持体材料が、織物製物品である場合、有利には、本発明の方法を介して得られる染色された複合織物製物品は、同一には再現されない、すなわち、1つの織物製物品から他の物品にコピーされないユニークなマルチシェード効果を示す。換言すれば、本発明の方法は、染色された繊維を提供するものであり、繊維では、染料のシェードのパターンが、布の異なる区域において異なり、2つの異なる衣類において異なっている。
【0046】
色の分布及び色の均一性は、それ自体、当分野において公知の方法に従って、分光光度計によって測定される。染色された生体高分子のサンプルにおける色の均一性を測定するための好適な分光光度計は、HunterLAB分光光度計である。色の分布を測定するために使用される好適な基準的テスト法は、「Marks&Spencer C41.繊維の機械的色測定」である。この方法を介して、染色された生体高分子又は染色された複合物品における色の分布(例えば、色の非均一分布)が測定される。
【0047】
可能な測定法では、10×10cmの布サンプルにおいて、サンプルの複数の区域(例えば、2以上の区域)で色彩強度が測定される。色彩強度の測定は、1cm離れたサンプルの異なる区域(すなわち、部位)で行われる。サンプルが、裸眼により視覚的には同一であると認識される異なった色彩強度を有する区域を示すと、このような区域において、例えば、最高及び最低の色彩強度を示した区域において、測定が良好に実施されたことになる。サンプルの2つの部位間における色彩強度の値の差が、20%以下、好ましくは、10%以下、最も好ましくは、1%以下である場合、HunterLAB分光光度計に従って、サンプルにおける色の分布は、均質及び均一とみなされる。本発明の方法に従って得られた布は、典型的には、サンプルの2つの部位間における色彩強度の差20未満を示す。特に、本発明による染色された生物高分子(又は染色された複合物品)は、その間における色彩強度の差が20%より大、好ましくは、30%より大である少なくとも2つの区域を有する。
【0048】
さらに、有利なことには、染料は、生体高分子の少なくとも一部及び支持体材料、例えば、織物製物品の少なくとも一部の両方に提供されて、さらに、審美的効果が提供される。
【0049】
具体例によれば、支持体材料は、染色された支持体材料である。換言すれば、支持体材料は、生体高分子生成微生物及び/又は染料生成微生物が提供される前に、着色される。この場合、有利には、様々な審美的効果が得られる。
【0050】
有利には、本発明の1態様によれば、本発明による染色された複合物品(支持体材料及び染色された生体高分子層を含んでなる)は、各種の技術分野における製品の製造に使用される。
【0051】
具体例によれば、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を、一緒に、すなわち、同時に(又は実質的に同時に)、又は別々に、すなわち、連続して、支持体材料に提供できる。
【0052】
換言すれば、具体例によれば、本発明の染色された複合物品の製法の工程b1)及び工程b2)は、一緒に又は別々に実施される。
【0053】
有利には、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物が、一緒に、すなわち、同時に、支持体材料に提供される場合、微生物を一緒に培養して、支持体材料に染色された生体高分子層を提供する。
【0054】
有利には、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物が、別々に、すなわち、連続して、支持体材料に提供される場合、初めに、生体高分子生成微生物を培養して、支持体材料に染色されていない生体高分子層を提供する。続いて、染料生成微生物を支持体材料に提供し、培養し、生体高分子層の少なくとも一部に染料を提供して、染色された生体高分子層を含む複合物品を得る。
【0055】
具体例によれば、工程b1)及び/又は工程b2)は、支持体材料(例えば、織物製物品)の少なくとも一部を、少なくとも1の生体高分子生成微生物を含んでなる少なくとも1の微生物培養物及び少なくとも1の染料生成微生物を含んでなる少なくとも1の微生物培養物と接触させ、及び生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を、前記支持体材料の上で培養する工程を含んでなる。
【0056】
具体例によれば、支持体材料、例えば、布を、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物と接触させ、続いて、微生物を同時培養として生育して、支持体材料に、染色された生体高分子を、通常、層として提供する。
【0057】
ここで使用するように、用語「接触させる」及び「接触」は、少なくとも1の微生物を含んでなる1以上の培養物を、基材に提供又は適用する行為を言う。例えば、基材は、未染色又は染色された支持体材料、又は未染色又は染色された生体高分子である。本発明によれば、微生物を含んでなる培養物を、公知の技術、例えば、スプレー法又は注入法に従って、基材に提供又は適用する。
【0058】
具体例によれば、生体高分子生成微生物を含んでなる第1の培養物及び染料生成微生物を含んでなる第2の培養物を、同時に、支持体材料に提供できる。
【0059】
具体例によれば、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物の両方を含んでなる培養物を、支持体材料に提供できる。換言すれば、具体例によれば、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を、単一の培養物として、支持体材料(例えば、織物製物品)に提供し、支持体材料上において、単一の培養培地中で培養できる。
【0060】
ここで使用するように、用語「同時培養」は、少なくとも2の異なる微生物を、任意に、支持体材料に対して、実質的に同時に培養することを言う。
【0061】
本発明のこの具体例によれば、方法は、生体高分子及び染料、すなわち、染料分子の製造が、単一の培養工程(単一インキュベーション)の間に生ずる「同時」法として定義される。このようにして、有利には、具体例によれば、染色された生体高分子層が、支持体材料に提供されて、1工程法に従って、染色された複合物品が得られる。
【0062】
例えば、支持体材料、例えば、織物製物品を、生体高分子生成微生物を含んでなる第1の微生物培養物と、及び染料生成微生物を含んでなる第2の培養物と、実質的に同時に、接触させることができる。支持体材料を2つの培養物と接触させた後、微生物を培養して、支持体材料上において、直接、生体高分子及び染料(染料分子)を生成し、このようにして、支持体材料に、染色された生体高分子層を提供する。従って、染色された複合物品、例えば、染色された複合布が得られる。
【0063】
具体例によれば、工程b1)は、支持体材料の少なくとも一部を、少なくとも生体高分子生成微生物を含んでなる少なくとも1の培養物と接触させる工程、及び前記生体高分子生成微生物を培養して、少なくとも生体高分子層を提供する工程を含んでなり、及び工程b2)は、前記生体高分子層の少なくとも一部を、染料生成微生物を含んでなる少なくとも1の微生物培養物と接触させる工程、及び前記染料生成微生物を培養して、前記生体高分子層の少なくとも一部に、少なくとも1の染料を提供する工程を含んでなる。
【0064】
有利には、本発明の具体例によれば、支持体材料、例えば、布を、少なくとも2つの微生物培養物と、例えば、生体高分子生成微生物を含んでなる第1の培養物と、続いて、染料生成微生物を含んでなる第2の培養物と接触させることができる。換言すれば、支持体材料、例えば、布を、連続して、少なくとも2つの異なる微生物培養物と、例えば、それぞれ異なる微生物を含んでなる2つの培養物と接触させることができる。例えば、支持体材料を、生体高分子生成微生物を含んでなる第1の培養物と、続いて、染料生成微生物を含んでなる第2の培養物と接触させることができる。
【0065】
本発明のこの具体例によれば、方法は、生体高分子の製造及び染料、すなわち、染料分子の製造が、実質的に連続して生ずる「連続法」として定義される。
【0066】
例えば、生体高分子生成微生物を培養することによって、任意に、支持体材料に生体高分子層を提供でき、続いて、前記生体高分子層の少なくとも一部に染料を提供して、2工程法に従って染色された物品を得ることができる。支持体材料を使用する場合は、染色された複合物品が得られる。
【0067】
例えば、支持体材料、例えば、布を、生体高分子生成微生物を含んでなる微生物培養物と接触させることができ、支持体材料を、生体高分子生成微生物を含んでなる培養物と接触させた後、生体高分子生成微生物を培養して、支持体材料上に、直接、生体高分子層を生成することができ、このようにして、非染色複合物品、すなわち、染色されていない、すなわち、染料分子フリーの生体高分子層を含んでなる複合物品を提供できる。
【0068】
続いて、上記の非染色複合物品の生体高分子層の少なくとも一部を、染料生成微生物を含んでなる微生物培養物と接触させることができる。生体高分子層を、染料生成微生物を含んでなる培養物と接触させた後、染料生成微生物を培養して、非染色複合物品の上で、すなわち、非染色複合物品の生体高分子層の上で、直接、染料分子を生成し、このようにして、生体高分子層の少なくとも一部に染料を提供できる。従って、染色された複合物品、例えば、染色された複合布が得られる。
【0069】
具体例によれば、染色されていない生体高分子層を、染料生成微生物を含んでなる培養物と接触させる前に、生体高分子生成微生物を、染色されていない生体高分子から、又は非染色複合物品から除去する。
【0070】
この場合、生体高分子層の厚さは、染料生成微生物も培養の間、すなわち、インキュベーションの間では増大しない。
【0071】
具体例によれば、染色されていない生体高分子層を、染料生成微生物を含んでなる培養物と接触させる前に、染色されていない生体高分子から、又は非染色複合物品から、生体高分子生成微生物を除去しない。
【0072】
この場合、染料生成微生物の培養物を、染色されていない生体高分子層に対して提供し、培養する際には、生体高分子生成微生物がなお存在するため、生体高分子層の厚さは増大する。また、有利には、特別な科学的説明につながるものではないが、この場合、染料分子が、生体高分子内に容易にブロックされることが観察された。
【0073】
本発明の有利な態様によれば、生体高分子生成微生物及び/又は染料生成微生物のインキュベーション時間は、所定の色のシェードとともに、所定の厚さを有する生体高分子(例えば、生体高分子層)が得られるように選択される。
【0074】
例えば、生体高分子生成微生物のインキュベーションの時間が長ければ長いほど、任意に、支持体材料上に、より厚い生体高分子層が得られる。
【0075】
具体例によれば、染料生成微生物及び生体高分子生成微生物は、細胞数比1:1~1:10、好ましくは1:4~1:5の範囲で提供される。
【0076】
具体例によれば、染料生成微生物及び生体高分子生成微生物は、細胞数比1:1~1:10、好ましくは1:4~1:5の範囲で支持体材料に提供される。
【0077】
ここで使用するように、用語「細胞数比」は、任意に、支持体材料に対して提供される染料生成微生物の数と、生体高分子生成微生物の数との間の比を言う。培地における細胞の数、すなわち、微生物の数は、公知の方法によって測定される。
【0078】
例えば、細胞の数は、スプレッドプレート法によって測定される。この方法は、細胞数を見積もるための微生物学において公知の方法である。各細菌を、その培地に播種し、いくつかの段階希釈法に従って希釈し、適切な培地に播種する。平板をインキュベートし、インキュベーション後、細菌コロニーをカウントし、細胞数を、下記に式によって算定する:
CFU/ml=(コロニーの数×希釈ファクター)/培養プレートの容積
【0079】
CFU(コロニー形成単位)は、サンプル中において生存能力のある細菌又は真菌の細胞数を見積もるために使用される測定法の公知の単位である。生存能力のあるとは、制御された条件下で、二分裂を介して増殖する可能性として定義される。
【0080】
有利には、生体高分子生成微生物と染料生成微生物との間の比、すなわち、細胞数比を変えることによって、多様な染色された物品及び/又は染色された複合物品が得られ、それぞれ、異なった審美的態様、すなわち、生体高分子層の至る所で異なった染料分子の分布を有する。
【0081】
具体例によれば、本発明の方法の工程b1)及びb2)は、1回以上実施される。
【0082】
具体例によれば、例えば、支持体材料は、1回以上、少なくとも生体高分子生成微生物及び染料生成微生物の両方を含んでなる1以上の培養物と接触される。換言すれば、支持体材料を、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物の両方を含んでなる培養物と接触させ、前記微生物を同時培養することによって、染色された複合物品を得た後、染色された複合物品を、さらに、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物の両方を含んでなる培養物と接触させて、さらに染色された生体高分子層を有する染色された複合物品を提供することができる。
【0083】
同様に、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を培養して、第1の染色された生体高分子を得た後、染色された生体高分子を、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物の両方を含んでなる培養物と接触させて、第1の染色された生体高分子に対して、第2の染色された生体高分子を提供できる。
【0084】
有利には、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物の両方を含んでなる培養物は、同一であるか、又は相互に異なっていてもよく(例えば、培養物は、同一の微生物を、同じ比又は異なる比で含んでなることができる)、任意に物品の支持体材料に対して、同じ条件下又は異なる条件下において培養できる。
【0085】
具体例によれば、支持体材料を、生体高分子生成微生物を含んでなる第1の培養物を接触させて、生体高分子層を有する支持体材料を提供し、前記生体高分子層を、染料生成微生物を含んでなる第1の培養物と接触させることによって、前記生体高分子層の少なくとも一部を染色することができる。得られた染色された複合物品を、生体高分子生成微生物を含んでなる第1の培養物と接触させて、染色されていない更なる生体高分子層を提供し、これ自体を、染料生成微生物を含んでなる第2の培養物と接触させて、更なる染色された生体高分子層を得ることができる。
【0086】
具体例によれば、生体高分子生成微生物を含んでなる第1の培養物を培養して、第1の染色されていない生体高分子を得る。第1の染色されていない生体高分子を、染料生成微生物を含んでなる第2の培養物と接触させて、前記生体高分子の少なくとも一部を染色する。得られた染色された生体高分子を、生体高分子生成微生物を含んでなる第2の培養物と接触させて、染色されていない更なる生体高分子を提供でき、これ自体を、染料生成微生物を含んでなる第2の培養物と接触させて、更なる染色された生体高分子を得ることができる。
【0087】
有利には、染料生成微生物を含んでなる第1及び第2の培養物とともに、生体高分子生成微生物を含んでなる第1及び第2の培養物は、同一又は異なる微生物を含んでなることができ、微生物を、任意に、物品の支持体材料に対して、同じ又は異なる条件下において培養できる。
【0088】
具体例によれば、支持体材料に対して、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を同時培養することによって、支持体材料に、第1の染色された生体高分子層を提供でき、ついで、第1の生体高分子生成微生物を培養し、続いて、染料生成微生物を培養して、第2の染色された生体高分子層を得ることによって、第2の染色された生体高分子層を提供できる。
【0089】
具体例によれば、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を培養することによって、第1の染色された生体高分子を得る。得られた染色された生体高分子を、生体高分子生成微生物を含んでなる第2の培養物と接触させて、染色されていない更なる生体高分子を提供でき、これ自体を、染料生成微生物を含んでなる第2の培養物と接触させて、更なる染色された生体高分子を得ることができる。
【0090】
具体例によれば、初めに、支持体材料に対して、生体高分子生成微生物を培養することによって、支持体材料に、第1の染色された生体高分子を提供し、続いて、前記生体高分子層に対して、染料生成微生物を培養することによって、第1の染色された生体高分子層を得て、これにより、支持体材料に、第1の染色された生体高分子層を提供できる。
【0091】
具体例によれば、初めに、生体高分子生成微生物を培養することによって、染色されていない生体高分子を提供し、続いて、前記生体高分子に対して、染料生成微生物を培養することによって、第1の染色された生体高分子を得て、これにより、第1の染色された生体高分子を得ることができる。続いて、前記第1の染色された生体高分子層に対して、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を同時培養することによって、第2の染色された生体高分子層を提供できる。
【0092】
具体例によれば、支持体材料に対して、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を同時培養することによって、支持体材料に第1の染色された生体高分子層を提供し、ついで、生体高分子生成微生物を培及び染料生成微生物を同時培養する第2工程によって、支持体材料に第2の染色された生体高分子層を提供できる。
【0093】
具体例によれば、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を同時培養することによって、第1の染色された生体高分子層を提供できる。得られた染色された生体高分子を、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物の第2の同時培養物と接触させることによって、更なる染色された生体高分子層を提供できる。
【0094】
具体例によれば、初めに、支持体材料に対して、生体高分子生成微生物を培養することによって、支持体材料に生体高分子層を提供し、続いて、前記生体高分子層に対して、染料生成微生物を培養することによって、第1の染色された生体高分子層を得て、これにより、支持体材料に、第1の染色された生体高分子層を提供できる。続いて、初めに、生体高分子生成微生物を培養することによって、第2の生体高分子層を得て、ついで、染料生成微生物を培養することによって、第2の生体高分子層を染色することによって、第2の染色された生体高分子層を提供できる。
【0095】
具体例によれば、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を、順次に又は同時に培養することによって、第1の染色された生体高分子を得ることができる。第1の生体高分子上で、好適な量の生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を培養することによって、前記の第1の生体高分子に対して、第2の染色された生体高分子を提供できる。生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を、第1の生体高分子の上で、順次に又は同時に培養できる。
【0096】
ここで使用するように、用語「生体高分子層」とは、任意に、支持体材料上で、本明細書において定義されるように、微生物によって生成された特定量の少なくとも1の生体高分子を言う。例えば、その繊維を含む織物製物品は、生体高分子のための支持体として作用できる。特定量の生体高分子は、物品の支持体材料上に、多くの異なった様式で存在できる。すなわち、生体高分子は、必ずしも、支持体材料の外表面の全体を被覆する連続層として存在する必要はない。生体高分子は、支持体材料内で部分的に伸長し及び支持体材料の表面を部分的に覆う特定量の生体高分子であってもよい。例えば、生体高分子層は、織物製物品の繊維において部分的に伸長し及び物品の表面を部分的に覆う特定量の生体高分子であってもよい。下記の図面における層は、本発明の範囲を限定しない概略的な表示である。
【0097】
ここで使用するように、用語「生体高分子」は、微生物によって生成される高分子、すなわち、「微生物高分子」を言う。
【0098】
ここで使用するように、用語「微生物の」は、微生物の特性に関する又は特性である事項を言う。例えば、用語「微生物生体高分子」は、微生物によって生成される生体高分子を言う。
【0099】
ここで使用するように、用語「微生物」は、小さい単細胞、又は裸眼によって見るには小さすぎるが、顕微鏡下では見ることが可能な単細胞生物を言い、細菌、酵母、真菌類、ウイルス、及び藻類を含む。ここで使用するように、用語「微生物」は、遺伝子組み換えされていない(すなわち、野生型)微生物及びさらに遺伝子組み換えされた微生物を含む。
【0100】
例えば、遺伝子組み換えされていない場合(すなわち、野生型微生物である場合)には、当該微生物によって生成されない生体高分子又は染料分子を生成するように、微生物を遺伝組み換えすることができる。
【0101】
具体例によれば、生体高分子及び染料分子を生成するために、微生物を遺伝子組み換えできる。
【0102】
具体例によれば、生体高分子は、糖系の生体高分子、好ましくは、微生物セルロース、及びアミノ酸系の生体高分子、好ましくは、微生物コラーゲン、又はそれらの混合物から選ばれる。
【0103】
本明細書において使用するように、用語「糖系の生体高分子」は、直鎖状及び分枝状の多糖類、その変異体及び誘導体を含む。本発明による例示的な糖系の生体高分子は、微生物セルロースである。
【0104】
本明細書において使用するように、用語「アミノ酸系の生体高分子」は、直鎖状及び分枝状のポリペプチド、その変異体及び誘導体を含む。本発明による例示的なアミノ酸系の生体高分子は、微生物コラーゲンである。
【0105】
本発明の具体例によれば、生体高分子、すなわち、微生物生体高分子は、微生物セルロース、微生物セルロース/キチンコポリマー、微生物シルク、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。これらの生体高分子は、それ自体、当該分野で知られている。
【0106】
従って、ここで定義されるように、生体高分子及び/又は生体高分子層は、微生物セルロース、微生物セルロース/キチンコポリマー、微生物シルク、及びそれらの混合物から選ばれる1以上の微生物生体高分子を含んでなることができる。
【0107】
例えば、微生物セルロースは、アセトバクター属菌(Acetobacter)の菌株、例えば、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)の菌株を培養することによって、及び/又はグルコンアセトバクター属菌(Gluconacetobacter)の菌株を培養することによって、例えば、グルコンアセトバクター・ハンセニー(Gluconacetobacter hansenii)の菌株を培養することによって生成される。
【0108】
例えば、微生物コラーゲンは、桿菌(Bacillus)、シュードモナス属菌(Pseudomonas)、連鎖状球菌(Streptococcus)の菌株、又はコラーゲンを生成する変異菌株を得るように遺伝子組み換えした菌株を培養することによって生成される。
【0109】
有利には、細菌コラーゲンは、人工皮革様材料、例えば、「人工皮革」又は「人工皮膚」を提供するために生成され、ここで、「皮革」及び「皮膚」の主な構造成分は、強い小繊維の形のコラーゲン、特に、I型コラーゲンである。
【0110】
例えば、微生物セルロース/キチンコポリマーは、細菌セルロース/キチンコポリマーを生成する変異菌株を得るために遺伝子組み換えされたアセトバクター・キシリナムの菌株を培養することによって、生成される。
【0111】
本発明の具体例によれば、生体高分子生成微生物は、野生型及び遺伝子組み換えされた微生物の混合物である。
【0112】
具体例によれば、生体高分子、すなわち、微生物生体高分子は、微生物セルロース(例えば、細菌セルロース)、微生物コラーゲン、又はそれらの混合物から選ばれる。
【0113】
具体例によれば、染料、すなわち、染料生成微生物によって生成された染料は、インジゴ染料、インジゴイド染料、及びピグメント染料及びそれらの混合物から選ばれる。
【0114】
好ましくは、染料はインジゴであり、インジゴを生成できる微生物によって生成される。
【0115】
ここで使用するように、用語「インジゴイド」は、インジゴ誘導体である染料分子を言う。
【0116】
ここで使用するように、用語「ピグメント染料」は、インジゴ誘導体ではない染料分子を言う。
【0117】
具体例によれば、インジゴイド染料は、例えば、6,6’-ジブロモインジゴ、5-ブロモインジゴ、5,5’-ジブロモインジゴ、5,7,5’,7’-テトラブロモインジゴ、4,5,7,4’,5’-ペンタブロモインジゴ、4,5,6,4’,5’,6’-ヘキサブロモインジゴ、7,7’-ジメチルインジゴ、4,5,4’,5’-テトラクロロインジゴ、及びそれらの混合物のような各種のインジゴイド染料から選ばれる。
【0118】
上述のインジゴイド染料は、本発明における使用に好適であるインジゴイド染料の非限定的な例として考えられなければならない。
【0119】
具体例によれば、ピグメント染料は、メラニン、アントラキノン、xanthomonadin、indigoidine、アスタキサンチン、カンタキサンチン、シクロプロジギオシン、granadaene、ヘプチル-プロジギオシン、プロジギオシン、ピオシアニン、ルブロロン、スキトネミン、スタフィロキサンチン、tryptathrin、ウンデシルプロジギオシン、ヴィオラセイン、ゼアキサンチン、アンカフラビン、リコピン、モナスコルブラミン、ナフトキノン、リボフラビン、rubropunctatin、β-カロチン、トルラロジン、及びそれらの混合物から選ばれる。
【0120】
上述のピグメント染料は、本発明における使用に好適であるピグメント染料の非限定的な例として考えられなければならない。
【0121】
上記のように、染料は、好ましくは、インジゴ染料である。
【0122】
具体例によれば、支持体材料は、紙、ボール紙、木材、ガラス、プラスチック、及び織物製物品から選ばれる。具体例によれば、支持体材料は、織物製物品である。
【0123】
具体例によれば、織物製物品は、繊維、糸、布及び衣服から選ばれる。具体例によれば、織物製物品は、親水性の繊維及び/又は親水性の糸を含んでなる。
【0124】
有利には、織物製物品が親水性の繊維を含んでなる場合、織物製物品に対して提供される微生物の培養培地は、織物製物品によって吸収され、このようにして、微生物に栄養及び生体高分子層及び染料を合成するための成分を、直接、織物製物品上に提供する。
【0125】
本発明の具体例によれば、親水性の繊維は天然繊維である。例えば、天然繊維は、綿、羊毛、亜麻、ケナフ、ラミー、麻、及びそれらの混合物を含んでなる。
【0126】
本発明の具体例によれば、親水性の繊維は合成繊維である。例えば、合成繊維は、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、ライクラ、及びそれらの混合物を含んでなる。
【0127】
具体例では、合成繊維又は親水性を有する合成繊維を提供するために、合成繊維又は合成糸を加工できる。
【0128】
本発明の例示的な具体例によれば、合成繊維及び糸は、エラストマー繊維及び糸である。
【0129】
好適なエラストマー繊維は、エラストマー繊維を含有する糸である。「エラストマー繊維」は、連続フィラメント又はクリンプとは無関係に、破壊伸び率少なくとも100%を有する複数のフィラメントからなる繊維である。破壊伸び率は、例えば、ASTM D2256/D2256M-10(2015)に従って測定される。「エラストマー繊維」は、その長さを2倍に伸ばし、その長さに1分間維持した後、解放後1分以内に元の長さの1.5倍未満に戻る繊維である。好適な具体例によれば、織物製物品は、布、好ましくは、織物、さらに好ましくは、デニム布である。
【0130】
具体例によれば、織物製物品が織物である場合、縦糸及び/又は横糸は、118.2~5.91テックス(5/1~100/1Ne)、好ましくは、19.7~8.44テックス(30/1~70/1Ne)の線密度を有し、さらに好ましくは、縦糸の線密度は、13.13~10.754テックス(45/1~55/1Ne)であり、ここで、「テックス」は、織物の分野において使用される知られた番手の単位であり、織物用糸及びスレッドの単位長さ当たりの質量を言い(1テックス=10-6kg・m-1)、「Ne」は、織物の分野において使用される知られた番手単位である英式綿番手である。
【0131】
好適な具体例によれば、本発明での使用に適する織物は、一緒に織られた縦糸及び横糸を含んでなり、フロントサイド及びバックサイドを有し、ここで、前記縦糸及び少なくとも1の複数の横糸は、前記織物のベース層を形成し、及びここで、複数の縦糸及び/又は少なくとも1の複数の横糸は、前記織物のサイドの少なくとも一方において、ループ部分、例えば、垂れ下がったループ部分の追加の層、又は糸のアンダーポーション又はオバーポーションを形成する。
【0132】
本発明の具体例によれば、織物製物品は、布、好ましくは、織物である。布の少なくとも一部には、少なくとも1の微生物セルロース生成微生物が提供されており、布の少なくとも一部に、微生物セルロース層が提供され、及びインジゴ染料生成微生物が提供されており、微生物セルロース層の少なくとも一部にインジゴ染料が提供される。従って、微生物セルロース層(ここで、微生物セルロース層の少なくとも一部はインジゴで染色されている)を含んでなる染色された複合布が得られる。
【0133】
本発明の具体例によれば、支持体材料の少なくとも一部には、少なくとも1の微生物セルロース生成微生物が提供されており、支持体材料の少なくとも一部に、微生物セルロース層が提供され、及び少なくともインジゴ染料生成微生物が提供されており、微生物セルロース層の少なくとも一部にインジゴ染料が提供される。
【0134】
具体例によれば、本発明による染色された複合物品は、支持体材料及び微生物セルロース層を含んでなり、ここで、微生物セルロース層の少なくとも一部はインジゴで染色されている。
【0135】
本発明の具体例によれば、布、例えば、織物を、少なくとも1の微生物セルロース生成微生物及び少なくとも1のインジゴ染料生成微生物を含んでなる培養物と接触させ、これにより、微生物セルロース及びインジゴ染料を、直接、布の表面上で生成することができる。
【0136】
本発明の具体例によれば、支持体材料を、少なくとも1の微生物セルロース生成微生物及び少なくとも1のインジゴ染料生成微生物を含んでなる培養物と接触させ、これにより、微生物セルロース及びインジゴ染料を、直接、支持体材料の表面上で生成することができる。
【0137】
具体例によれば、布を、微生物セルロース生成微生物を含んでなる培養物と接触させて、微生物セルロース層を提供し、すなわち、微生物セルロース層を含んでなる複合布を得る。続いて、複合布の微生物セルロース層の少なくとも一部を、インジゴ染料生成微生物を含んでなる培養物と接触させて、微生物セルロース層の少なくとも一部を、インジゴ染料で、染色することができる。
【0138】
具体例によれば、支持体材料を、微生物セルロース生成微生物を含んでなる培養物と接触させて、微生物セルロース層を提供し、すなわち、微生物セルロース層を含んでなる染色されていない複合物品を得る。続いて、複合物品の微生物セルロース層の少なくとも一部を、インジゴ染料生成微生物を含んでなる培養物と接触させて、微生物セルロース層の少なくとも一部を、インジゴ染料で染色することができる。
【0139】
具体例によれば、生体高分子生成微生物及び/又は染料生成微生物は、細菌、藻類、酵母、真菌類、及びそれらの混合物から選ばれる。
【0140】
具体例によれば、生体高分子生成微生物及び/又は染料生成微生物は、遺伝子組み換えされていない微生物又は遺伝子組み換えされた微生物である。
【0141】
具体例によれば、生体高分子生成微生物は、生体高分子生成細菌、生体高分子生成藻類、及びそれらの混合物から選ばれ、ここで、生体高分子生成細菌は、グルコンアセトバクター属菌、アエロバクター属菌(Aerobacter)、アセトバクター属菌、アクロモバクター属菌(Achromobacter)、アグロバクテリウム属菌(Agrobacterium)、アゾトバクター属菌(Azotobacter)、サルモネラ属菌(Salmonella)、アルカリゲネス属菌(Alcaligenes)、シュードモナス属菌、リゾビウム属菌(Rhizobium)、サルシナ属菌(Sarcina)及び連鎖状球菌、バチルス属菌、遺伝子組み換え大腸菌(Eschericia coli)、及びそれらの混合物から選ばれ、及びここで、生体高分子生成藻類は、褐藻類(Phaeophyta)、紅藻類(Rhodophyta)、黄金色植物(Chrysophyta)、及びそれらの混合物から選ばれる。
【0142】
上述の生体高分子生成細菌及び生体高分子生成藻類は、本発明における使用に適する生体高分子生成細菌及び生体高分子生成藻類の非限定的な例として考えられなければならない。
【0143】
例えば、生体高分子生成細菌は、グルコンアセトバクター・ハンセニー、アセトバクター・キシリナム又はそれらの混合物でもよい。
【0144】
具体例によれば、染料生成微生物は、染料生成細菌、染料生成真菌類、及びそれらの混合物から選ばれる。好ましくは、染料生成細菌は、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、クリセオバクテリウム属菌株(Chriseobacteium sp.)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ストレプトマイセス属菌株(Streptomyces sp.)、ビブリオ属菌株(Vibrio sp.)、コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium genus)、遺伝子組み換え大腸菌、及びそれらの混合物から選ばれる。好ましくは、染料生成真菌類は、ペニシリウム属(Penicillium)、タラロミセス属(Talaromyces)、フサリウム属(Fusarium)、スキタリジウム属(Scytallidium)、ホウロクタケ属(Trametes)、キサントモナス属(Xanthomonas)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、アスペルギルス属(Aspergillus)、及びそれらの混合物から選ばれる。
【0145】
上述の染料生成細菌及び染料生成真菌類は、本発明における使用に適する染料生成細菌及び染料生成真菌類の非限定的な例として考えられなければならない。
【0146】
例えば、インジゴ生成遺伝子組み換え大腸菌、すなわち、組み換え大腸菌は、米国特許第4,520,103号、米国特許第5,834,297号から、及び科学論文「fmo遺伝子を秘蔵する遺伝子組み換え大腸菌によるバイオインジゴ製造の最適化」,GH,Hanra(2008)、Enzyme and Microbial Technology,42:617-623、及び「クローンロドコッカス(Rhodococcus)遺伝子を含有する大腸菌によって生成されたインジゴ関連ピグメントの同定」,Hart,S.,K.R.Koch,及びD.R.Woods,1992,J.Gen.Micobiol.138:211-216から知られている。
【0147】
具体例によれば、本発明の染色された生体高分子の製法は、さらに、染色された生体高分子を洗浄して、生体高分子生成微生物、及び/又は染料生成微生物を除去する工程を含んでなる。
【0148】
具体例によれば、本発明の染色された生体高分子の製法は、さらに、染色された生体高分子を染色する工程を含んでなる。
【0149】
具体例によれば、本発明の方法は、さらに、前記工程b1)及び/又は工程b2)の後に得られた染色された複合物品を洗浄して、前記生体高分子生成微生物及び/又は前記染料生成微生物を除去する工程c)を含んでなる。
【0150】
具体例によれば、本発明の方法は、さらに、前記工程b1)及び/又は工程b2)及び/又は前記洗浄工程c)の後に得られた染色された複合物品を染色する工程を含んでなる。
【0151】
本発明は、また、本発明に従って染色された生体高分子を含んでなる染色された物品にも関する。
【0152】
具体例によれば、染色された物品は、必須的に、本発明の染色された生体高分子からなるか、又は本発明の染色された生体高分子からなる。
【0153】
この場合、支持体材料は使用されない。
【0154】
具体例によれば、必須的に、本発明の染色された生体高分子からなるか、又は本発明の染色された生体高分子からなる染色された物品は、家庭の装飾、アクセサリー、包装物品、及び織物製物品用の物品から選ばれる。
【0155】
例えば、衣服は、必須的に、本発明の染色された生体高分子からなるか、又は本発明の染色された生体高分子からなる。
【0156】
例えば、バッグは、必須的に、本発明の染色された生体高分子からなるか、又は本発明の染色された生体高分子からなる。
【0157】
具体例によれば、染色された物品は、さらに、支持体材料を含んでなる。換言すれば、具体例によれば、染色された物品は、染色された複合物品、すなわち、本発明に従って支持体材料及び染色された生体高分子(例えば、染色された生体高分子層)を含んでなる物品であってもよい。
【0158】
具体例によれば、支持体材料は、紙、ボール紙、木材、ガラス、プラスチック、及び織物製物品から選ばれる。
【0159】
具体例によれば、支持体材料は織物製物品である。支持体材料が織物製物品である場合、染色された織物製物品が得られる。
【0160】
具体例によれば、支持体材料が織物製物品である場合、好ましくは、繊維、糸、布及び衣服から選ばれる。この場合、本発明の方法を介して、染色された複合織物製物品が得られる。すなわち、染色された複合織物製物品は、染色された複合繊維、染色された複合糸、染色された複合布、又は染色された複合衣服である。
【0161】
本発明による染色された複合繊維は、染色された複合糸の製造において使用される。染色された複合糸は、染色された複合布の製造において使用され、及び染色された複合布は、染色された複合衣服の製造において使用される。
【0162】
好ましくは、染色された複合布は、本発明の方法を介して得られる。
【0163】
具体例によれば、本発明に従って染色された生体高分子を含んでなる染色された物品は、家庭の装飾、ヒト用アクセサリー、包装物品、又は織物製物品のための物品である。
【0164】
具体例によれば、本発明に従って染色された生体高分子を含んでなる染色された物品は、イヤリング、ネックレス、バッグ、又はファッションアクセサリーであってもよい。このような物品は、任意に、支持体材料を含む。換言すれば、このような物品は、染色された複合物品であってもよい。
【0165】
例えば、本発明の染色された物品は、包装物品でもよい。例えば、支持体材料は、紙、ボール紙、又はそれらの混合物である。例えば、紙又はボール紙の支持体層は、本発明に従って、染色された生体高分子層を備えることができる。得られた染色された複合紙又はボール紙は、包装用物品、例えば、箱(ここで、染色された生体高分子層は、箱の外側の目視可能な表面である)を製造するために使用される。
【0166】
具体例によれば、本発明による染色された生体高分子を含んでなる染色された物品は、染色された織物製物品、好ましくは、衣服、さらに好ましくは、ジーンズ、シャツ、デニム布を使用する衣服、スポーツ用衣類及びカジュアル衣料から選ばれる衣服である。
【0167】
具体例によれば、染色された物品は、支持体材料を含む染色された複合織物製物品であり、染色された複合物品は、ジーンズ、シャツ、デニム布を使用する衣服、スポーツ用衣類及びカジュアル衣料から選ばれる。
【0168】
具体例によれば、本発明の方法によって得られる染色された複合布は、衣服内に含まれて、少なくとも一部において、本発明の方法を介して得られるような染色された複合布を含んでなる衣服を提供することに適している。
【0169】
次に、図面を参照して、本発明の例示的な具体例を検討する。このような図面は、本発明の例示的かつ非限定的な具体例の概略的説明として考えられなければならない。
【0170】
特に、図1A~1B及び図2A~2Cは、本発明による染色された複合物品の製法の具体例を示し、この図では、支持体材料として布を参照する。しかし、上述のとおり、布とは異なる織物製物品とともに、異なる支持体材料、例えば、紙、ボール紙、木材、ガラス、プラスチックを使用できる。
【0171】
図1A及び1Bは、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3が、一緒に、すなわち、実質的に同時に、支持体材料に提供される本発明の染色された複合物品の製法の具体例を概略的に示す。
【0172】
これらの図1A~1B及び2A~2Cでは、例示的な支持体材料1は、織物製物品、特に、布1である。
【0173】
好ましくは、生体高分子生成微生物2は、生体セルロースを生成するグルコンアセトバクター属細菌である。
【0174】
好ましくは、染料生成微生物3は、組み換え大腸菌、すなわち、遺伝子組み換えされた大腸菌である。組み換え大腸菌は、インジゴ及び/又はインジゴイド、例えば、チリアンパープル(すなわち、6,6’-ジブロモインジゴ)を生成できる。染料生成大腸菌は、当分野では知られている。
【0175】
図1Aにおいて、支持体材料1は、織物製物品、特に布1、好ましくは、織物である。布1(断面図により示す)を、生体高分子生成微生物2、好ましくは、グルコンアセトバクター属細菌及び染料生成微生物3、好ましくは、染料生成組み換え大腸菌の両方と接触させる。
【0176】
図1Aに示す具体例によれば、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3を、布1の第1のサイド1a上に、一緒に提供する。
【0177】
具体例によれば、生体高分子生成微生物2を含んでなる第1の培養物及び染料生成微生物3を含んでなる第2の培養物を、布1の第1のサイド1aに、実質的に同時に提供できる。生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3を順次に培養して、染色された生体高分子層を布に提供できる。
【0178】
具体例によれば、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3を、微生物の培養物として、すなわち、同一の培養培地中に生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3の両方を含んでなるシングル培養物として提供することができる。この場合、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3の両方を含んでなるシングル培養物は、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物の両方のための必要な栄養を含んでなる。例えば、前記シングル培養物の培養培地は、2つの微生物の成長及び生産のために使用される2つの培地の混合物として得られる。
【0179】
微生物を含んでなる培養物を、一般的方法、例えば、噴霧又は注加によって、布1の第1のサイド1aに提供できる。
【0180】
生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3の両方を、布1の第1のサイド1aに提供した後、好ましくは、20~40℃の温度で、布をインキュベートして、布1の第1のサイド1aにおいて、直接、生体高分子及び染料の生成を行う。
【0181】
好ましくは、生体高分子は細菌セルロースである。
【0182】
好ましくは、染料はインジゴである。
【0183】
例えば、細菌セルロースは、アセトバクター属菌の菌株、例えば、アセトバクター・キシリナムの菌株を培養することによって及び/又はグルコンアセトバクター属菌の菌株、例えば、グルコンアセトバクター・ハンセニーの菌株を培養することによって生成される。
【0184】
例えば、インジゴは、遺伝子組み換え大腸菌によって生成される。
【0185】
具体例によれば、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3は、インジゴで染色された細菌セルロース層を提供するように選択される。
【0186】
インキュベーションの終了時、染色された複合物品、すなわち、染色された複合布(図1Bに示す)が提供される。
【0187】
染色された複合物品を、続いて、任意に洗浄して、残留する微生物を除去し、乾燥する。
【0188】
図1Bは、その第1のサイド1a上に染色された生体高分子層、すなわち、染料分子5を含む生体高分子層4が提供された支持体材料、すなわち、布1を示す。例えば、布1は、染色された、好ましくは、インジゴにて染色された細菌セルロースを含んでなる生体高分子層4が提供された織物、例えば、デニム布である。
【0189】
換言すれば、支持体材料、すなわち、布1には、染色された生体高分子層、好ましくは、インジゴにて染色された細菌セルロース層が提供される。
【0190】
本発明の他の具体例を、図2A、2B、及び2Cに概略して示すが、これらの図面は、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3が、支持体材料1に、別々に、すなわち、順次に提供される本発明の方法の具体例を示す。
【0191】
図2A~2Cにおいて、例示的な支持体材料1は、織物製物品であり、特に、布1である。
【0192】
上述のように、生体高分子生成微生物2は、好ましくは、細菌セルロースを生成するグルコンアセトバクター属菌であり、染料生成微生物3は、好ましくは、組み換え大腸菌である。
【0193】
本発明のこの具体例によれば、方法は、連続法として定義され、生体高分子4及び染料分子5の生成が、実質的に順次に生ずる。生体高分子層4が、布1の第1のサイド1aに提供され、続いて、染料、すなわち、染料分子5が、前記生体高分子層4に提供されて、2工程法に従って、染色された複合布が得られる。
【0194】
図1A~1Bにおけるように、図2A~2Cの織物製物品は、布1、好ましくは、織物である(断面図により示す)。
【0195】
この具体例によれば、図2Aに示すように、布1を、生体高分子生成微生物2、すなわち、生体高分子生成微生物2を含んでなる培養物と接触させる。
【0196】
生体高分子生成微生物2を含んでなる培養物を、一般的な方法、例えば、噴霧又は注加によって、布1の第1のサイド1aに提供する。
【0197】
続いて、20~30℃の範囲、好ましくは、25~28℃の範囲の温度で、布をインキュベートして、これにより、生体高分子の層を、直接、布1の第1のサイド1a上に形成する。好ましくは、インキュベーションを28℃で行う。インキュベーションの終了時、布1及び生体高分子層4を含んでなる複合布が得られる。
【0198】
続いて、図2Bに示すように、染色されていない生体高分子層4の少なくとも一部を、染料生成微生物3を含んでなる培養物と接触させる。例えば、染料生成微生物3を含んでなる培養物を、一般的な方法、例えば、噴霧又は注加によって、染色されていない生体高分子層4に提供又は適用する。ついで、好ましくは、20~40℃の範囲の温度で、2次インキュベーションを行って、染料生成微生物3によって、直接、染色されていない生体高分子層4上に染料分子を生成し、このようにして、生体高分子層4の少なくとも一部に染料、すなわち、染料分子5を提供する。従って、図2Cに示すように、染色された複合物品、すなわち、染色された複合布が得られ、布1には、その第1のサイド1a上に、染料分子5を含む生体高分子層4が提供されている。
【0199】
続いて、染色された複合物品を、任意に、洗浄して、残留する微生物を除去し、乾燥する。
【0200】
具体例によれば、染色されていない生体高分子層4を、染料生成微生物3を含んでなる培養物と接触させるには、必ずしも、インキュベーションの終了を待つ必要はない。例えば、第1の部分的なインキュベーションを行って、生体高分子層4を、薄層として、布1に提供する。続いて、染料生成微生物3を含んでなる培養物を、薄い部分的な生体高分子層に播種し、インキュベートして、染料分子を生成する。この場合、生体高分子層4の生成を続けて、生体高分子層4の生成を、染料分子の生成と実質的に同時に完了させる。上述のように、図1A~1B及び2A~2Cでは、支持体材料として、布を参照している。しかし、他の支持体材料、例えば、紙、ボール紙、木材、ガラス、プラスチック、及び布とは異なる織物製物品を使用できる。
【0201】
例えば、支持体材料として、紙及び/又はボール紙を使用する場合、得られる染色された複合紙及び/又は染色された複合ボール紙は、包装用の物品、例えば、箱を製造するために使用され、ここで、染色された生体高分子層は、物品、すなわち、箱の外側の目で見える表面である。
【0202】
図3A~3B及び4A~4Cは、本発明による染色された生体高分子の製法の具体例を概略的に示す。特に、図3A~3B及び4A~4Cは、本発明による、染色された生体高分子の製法(支持体材料を使用しない)の具体例を概略的に示す。
【0203】
図3Aは、培養培地7を収容する容器6を示している。
【0204】
図3A及び3Bに示す具体例では、培養培地7は、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3のための必要な栄養を含んでなる。例えば、前記のシングル培養物の培養培地は、2つの微生物の成長及び生成のために使用される2つの培地の混合物、例えば、Hestrin-Schraman(HS)及びTerrific Broth(TB)培地の混合物として得られる。
【0205】
例えば、生体高分子生成微生物2は、細菌セルロースを生成するグルコンアセトバクター属菌であり、染料生成微生物3は、インジゴを生成するために使用される組み換え大腸菌である。
【0206】
図3Aは、容器6を概略的に示しており、容器内において、同一の培養培地7中に、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3の両方が存在している。
【0207】
生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3は、一緒に、すなわち、同時培養され、染料分子5を含む生体高分子4が生成される。
【0208】
同時培養は、生体高分子生成微生物2及び染料生成微生物3を、好ましくは、20~40℃の範囲の温度において、インキュベートすることによって行われ、生体高分子及び染料を生成する。
【0209】
図3Bは、空気と培養培地7との界面で形成された染色された生体高分子、すなわち、染料分子5を含む生体高分子4を収容する図3Aの容器6を示す。
【0210】
有利には、容器の形状を変えることによって、生体高分子の形状は変えられる。
【0211】
続いて、染色された生体高分子を容器から取り出し、任意に、洗浄して、残留する微生物を除去し、乾燥する。
【0212】
図4A~4Cは、本発明による、染色された生体高分子の製法(支持体材料を使用しない)の具体例を概略的に示す。
【0213】
図4Aは、好適な培養培地7中に含まれる生体高分子生成微生物2を収容する容器6を示している。
【0214】
例えば、生体高分子生成微生物2として、細菌グルコンアセトバクター・ハンセニーを使用できる。グルコンアセトバクター・ハンセニーは、Hestrin-Schraman(HS)培地を使用することによって培養される。グルコンアセトバクター・ハンセニーは、培養されて、細菌セルロースを生成する。
【0215】
生体高分子4(例えば、生体高分子層4)を得るために、生体高分子生成微生物を培養する。
【0216】
生体高分子生成微生物は、好ましくは、20~30℃の範囲、より好ましくは、25~28℃の範囲の温度においてインキュベートすることによって培養されて、生体高分子4の層が、空気と培養培地7との界面において形成される。
【0217】
図4Bは、生体高分子生成微生物のインキュベーションの後の図4Aの容器6を示す。容器6は、空気と培養培地7との界面で形成された染色されていない、すなわち、染料分子を含まない生体高分子を収容する。図4Bでは、生体高分子4を、染料生成微生物3と接触させている。
【0218】
ついで、このような染料生成微生物3を培養して、生体高分子4に、染料、すなわち、染料分子5を提供する(図4Cに示すように)。
【0219】
例えば、染料生成微生物は組み換え大腸菌である。生成された染料はインジゴである。
【0220】
染料生成微生物3は、好ましくは、20~40℃の範囲の温度でのインキュベーションによって培養され、これにより、染料分子5が、直接、染色されていない生体高分子層4上で生成されて生体高分子層4の少なくとも一部に染料を提供する。
【0221】
図4Cは、方法の終了時、染色された生体高分子、すなわち、空気と培養培地7との界面で形成された、染料分子5を含む生体高分子4を収容する、図4A及び4Bの容器6を示す。
【0222】
上述のように、異なる形状の容器を使用することによって、異なった形状を有する生体高分子が得られる。
【0223】
続いて、染色された生体高分子を容器から取り出し、任意に、洗浄して、残留する微生物を除去し、乾燥する。
【0224】
図5A及び5Bは、公知の方法を介して得られた、染色された複合物品、特に染色された複合糸(図5A)と、本発明の方法を介して得られた染色された複合糸(図5B)との対比を示す。
【0225】
図5Aは、公知の技術による、生体高分子にて提供され、インジゴで染色された糸を示す。観察されるように、図5Aの染色された複合糸は、均質一な染料分布及び均一な色分布を有する。
【0226】
これに対して、図5Bは、本発明の方法による、生体高分子にて提供され、インジゴで染色された糸を示している。図5Bによる染色された複合糸を得るため、支持体材料として糸を使用しており、糸には、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物を含んでなる培養物が提供されている。例えば、このような培養物は、同時に(又は実質的に同時に)、糸に提供され、これにより、生体高分子生成微生物及び染料生成微生物が一緒に培養される。他の実施例では、上記培養物を、順次に、糸に提供する。初めに、生体高分子生成微生物を含んでなる培養物を提供して、糸に生体高分子を提供し、続いて、染料生成微生物を含んでなる培養物を提供して、染料を生成し、生体高分子の少なくとも一部を染色することができる。
【0227】
具体例によれば、含浸によって、又は糸への連続した又は不連続の培養物の分配によって、微生物を含んでなる培養物を糸に提供できる。微生物を含んでなる培養物の糸への連続した又は不連続の分配は、例えば、同一出願人に係る国際出願PCT/EP2018/065506号(発明の名称:微生物を含んでなる培養物を糸に提供する方法)に開示されている。
【0228】
観察されるように、図5Bの染色された複合糸は、不均質及び不均一な染料分布を示し、複数の色のシェードを示す(すなわち、多重シェードの外観を有する)。
【0229】
図5Bの染色された複合糸は、有利には、布、衣服、及び他の織物製物品の製造に使用される。有利には、本発明による染色された複合糸を使用することにより、布、衣服又は他の製品に、異なった視覚的意匠を提供する。
【0230】
具体例によれば、本発明による染色された複合糸は、有利には、織物における縦糸及び/又は横糸として使用される。
【0231】
図6は、本発明による例示的な染色された生体高分子を示す。
【0232】
観察されるように、図6の染色された生体高分子は、不均一及び不均質な染料分布を有する。
【0233】
具体例によれば、本発明の染色された生体高分子(例えば、図6の例示的な染色された生体高分子)は、多数の物品において機能できる。例示的な物品としては、家庭の装飾、ファッション及び家庭のアクセサリー、包装物品、及び織物製物品がある。
【0234】
具体例によれば、本発明の染色された生体高分子は、生成、すなわち、支持体材料上で生育されて、少なくとも染色された生体高分子層において、不均一及び不均質な染料分布を有する染色された複合物品が得られる。
【0235】
有利には、本発明の方法を介して、前記生体高分子を含んでなる染色された複合物品とともに、染色された生体高分子が得られ、ここで、生体高分子層の少なくとも一部は、再現不可能な、すなわち、1つの織物製物品から他に再現されない多重シェード効果を有する。
[実施例]
【0236】
1)同時法(同時培養)-染色された複合物品
「同時法」のこの実施例では、生体高分子生成微生物、例えば、細菌セルロースを生成する細菌(例えば、アセトバクター属の菌株又はグルコンアセトバクター属の菌株)及び染料生成微生物、例えば、染料分子を生成する細菌(例えば、組み換え大腸菌)の両方を、一緒に生育して、支持体材料、特に、織物製物品、例えば、布又は糸の上に、直接、染色された細菌セルロース層を生成する。
この実施例では、細菌セルロースを生成するために、生体高分子生成微生物として、グルコンアセトバクター・ハンセニーを、及び染料生成微生物として、組み換え大腸菌を使用する。
初めに、各細菌について培養物を調製し、各細菌の培養物をインキュベートして、下記に記載するように、それらの最適条件下において、細菌を別々に生育する。
グルコンアセトバクター属菌の培養:グルコンアセトバクター・ハンセニーを、初めに、グルコール、Bacto-peptone、酵母エキス、リン酸二ナトリウム及びクエン酸を含むHestrin-Schraman(HS)培地において生育する。培養物を、細胞数が約3×10細胞/mlとなるまで、培養物を、26~28℃においてインキュベートする。
大腸菌の培養:組み換え大腸菌のコロニーを、トリプトン、酵母エキス、グリセリン、及びリン酸塩を含む抗生物質含有Terrific Broth(TB)において生育する。細胞数が約8×10細胞/mlとなるまで、培養物を、37℃において培養する。
連続法のためのインキュベーション:同時法のために、培養、すなわち、インキュベーションの間における生体高分子及び染料分子の製造に関する微生物の要件に関して、TB及び/又はHS培地を使用できる。細菌セルロース及び染料分子の両方の生成を容易にするため、同一の培地にて各生成物を得るために、組み換え大腸菌を使用でき、すなわち、生体高分子及び染料を得るために組み換え大腸菌の異なる菌株を使用できる。
グルコンアセトバクター属菌及び組み換え大腸菌の培養物を、織物製物品の表面、例えば、布の第1のサイドの上に播種する。組み換え大腸菌と、グルコンアセトバクター属菌との間の最終細胞数比を、好ましくは、播種のために調整する(例えば、1:1~1:10、しかし、それぞれ、1:4及び1:5が好ましい)。数時間(14~24時間)後、培地に、アラビノース又はIPTG(イソブチルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)を添加して、組み換え大腸菌が染料分子を生成することを促す。グルコンアセトバクター属菌及び組み換え大腸菌の培養物を播種した織物製物品を、25~30℃において、少なくとも1週間インキュベートして、織物製物品の上で、細菌セルロース及び染料分子を生成させる。
染色された細菌セルロースで被覆された織物製物品を、NaOHにて洗浄して、残留する全ての細菌及び生育培地の不純物を除去し、乾燥する。
【0237】
2)連続法‐染色された複合物品
「連続法」では、生体高分子生成微生物、例えば、細菌セルロースを生成する細菌(アセトバクター属の菌株又はグルコンアセトバクター属の菌株)及び染料生成微生物、例えば、染料分子を生成する細菌(例えば、組み換え大腸菌)を、それらの最適条件下において、別々に生育する。
この実施例では、細菌セルロースを生成するために、生体高分子生成微生物として、グルコンアセトバクター属菌、及び染料生成微生物として、組み換え大腸菌を使用する。
この実施例では、支持体材料として、織物製物品を使用する。
初めに、グルコンアセトバクター属菌を、支持体材料、例えば、布又は糸上において、直接生育させて、細菌セルロースを生成し(細菌セルロース層を有する織物製物品を生成する)、ついで、組み換え大腸菌を添加して、染料分子を生成する。
グルコンアセトバクター属菌の培養:グルコンアセトバクター・ハンセニーを、初めに、グルコール、Bacto-peptone、酵母エキス、リン酸二ナトリウム及びクエン酸を含むHestrin-Schraman(HS)培地において生育する。
大腸菌の培養:組み換え大腸菌のコロニーを、トリプトン、酵母エキス、グリセリン、及びリン酸塩を含む抗生物質含有Terrific Broth(TB)において生育させる。
細菌セルロースの生成のため、グルコンアセトバクター属菌を織物製物品に添加し、織物製物品上で、26~28℃、好ましくは、28℃において、数日間(例えば、1~5日)インキュベートする。
大腸菌培養物を、35~40℃、好ましくは、37℃において、数時間(14~24時間)インキュベートし、ついで、IPTG(イソブチルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)又はアラビノースを添加して、細胞が染料分子を生成することを促す。ついで、培養物を、織物製物品上の細菌セルロース層の上に添加し、25~30℃において、所定の厚さとともに、所定の色のシェードを有する生体高分子層が得られるように選択された時間インキュベートする。従って、インキュベーションの時間が長ければ長いほど、得られる細菌セルロース層の厚さは、より厚くなる。
この場合、生体高分子層の厚さは、染料を生成する大腸菌が、織物製物品上の細菌セルロース層上に添加される際、グルコンアセトバクター属菌が、織物製物品上になお存在するため、増大する。
織物製物品上の細菌セルロース層に、染料を生成する大腸菌の培養物を提供した後、インキュベーションを行い、大腸菌及びグルコンアセトバクター属菌の両方が生育する。
細菌セルロース層上及び/又は内で、染料分子が生成される。
織物製物品上でのグルコンアセトバクター属菌及び/又は大腸菌の両方の生育を、1回以上繰り返して、染色された細菌セルロース(すなわち、バイオ染色された細菌セルロース)の異なった層(例えば、積み重ね)を生成し、追加の異なった視覚的効果を得る。
染色された細菌セルロースで被覆された物品をNaOHにて洗浄して、残留する全ての微生物を除去し、乾燥する。
【0238】
3)同時法(同時培養)-染色された生体高分子
「同時法」のこの実施例では、生体高分子生成微生物、例えば、細菌セルロースを生成する細菌(例えば、アセトバクター属の菌株又はグルコンアセトバクター属の菌株)及び染料生成微生物、例えば、染料分子を生成する細菌(組み換え大腸菌)の両方を、一緒に生育して、染色された細菌セルロースを生成する。
この実施例では、細菌セルロースを生成するために、使用する生体高分子生成微生物は、グルコンアセトバクター・ハンセニーであり、染料、例えば、インジゴを生成するために使用する染料生成微生物は、組み換え大腸菌である。
各細菌、すなわち、グルコンアセトバクター・ハンセニー及び大腸菌の培養物を調製する。各細菌の培養物をインキュベートして、これにより、下記のように、細菌を、それらの最適条件下において、別々に生育する。
グルコンアセトバクター属菌の培養:グルコンアセトバクター・ハンセニーを、グルコール、Bacto-peptone、酵母エキス、リン酸二ナトリウム及びクエン酸を含むHestrin-Schraman(HS)培地において生育する。細胞数が約3×10細胞/mlとなるまで、培養物を、26~28℃においてインキュベートする。
大腸菌の培養:組み換え大腸菌のコロニーを、トリプトン、酵母エキス、グリセリン、及びリン酸塩を含む抗生物質含有Terrific Broth(TB)において生育する。細胞数が約8×10細胞/mlとなるまで、培養物を、37℃において培養する。
連続法のための播種:上述のように、同時法のために、培養、すなわち、インキュベーションの間に、生体高分子及び染料の製造のための微生物の要件について、TB及び/又はHS培地を使用できる。例えば、細菌セルロース及び染料分子の両方の製造のため、組み換え大腸菌の異なった菌株を成長させるために、単一培地を使用できる。
この実施例では、グルコンアセトバクター属菌の培養物及び組み換え大腸菌の培養物を一緒に混合し、好ましくは、組み換え大腸菌と、グルコンアセトバクター属菌との間の最終細胞数比が、1:1~1:10、好ましくは、1:4及び1:5となるように選択する。数時間(14~24時間)後、培地に、アラビノース又はIPTG(イソブチルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)を添加して、組み換え大腸菌が染料分子を生成することを促す。グルコンアセトバクター属菌及び組み換え大腸菌の培養物を、25~30℃において、少なくとも1週間インキュベートして、同時培養を行い、これによって、細菌セルロース及び染料分子を生成させて、染色された細菌セルロース、例えば、インジゴで染色された細菌セルロースを提供する。
染色された細菌セルロースを、生育した容器から取り出し、NaOHにて洗浄して、残留する全ての細菌及び生育培地の不純物を除去し、乾燥する。
【0239】
4)連続法‐染色された生体高分子
「連続法」のこの実施例では、生体高分子生成微生物、例えば、細菌セルロースを生成する細菌(例えば、アセトバクター属の菌株又はグルコンアセトバクター属の菌株)及び染料生成微生物、例えば、染料分子を生成する細菌(組み換え大腸菌)の両方を、別々にかつ連続して、それらの最適条件下において生育する。
この実施例では、細菌セルロースを生成するために、生体高分子生成微生物として、及び染料生成微生物として、それぞれ、グルコンアセトバクター属菌及び組み換え大腸菌を使用する。
この例示的な「同時法」の具体例によれば、初めに、細菌セルロースを生成するために、グルコンアセトバクター属菌を培養する。続いて、染料分子を生成するために、大腸菌を添加する。
グルコンアセトバクター属菌の培養:グルコンアセトバクター・ハンセニーを、グルコール、Bacto-peptone、酵母エキス、リン酸二ナトリウム及びクエン酸を含むHestrin-Schraman(HS)培地において生育する。
大腸菌の培養:組み換え大腸菌のコロニーを、トリプトン、酵母エキス、グリセリン、及びリン酸塩を含む抗生物質含有Terrific Broth(TB)において生育する。
グルコンアセトバクター属菌の培養物を、26~28℃、好ましくは、28℃において、数日間(例えば、1~5日)インキュベートする。インキュベーションの終了時、空気と培地との界面において、細菌セルロースが得られる。
大腸菌の培養物を、35~40℃、好ましくは、37℃において、数時間(14~24時間)インキュベートし、ついで、IPTG(イソブチルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)又はアラビノースを添加して、細胞が染料分子を生成することを促す。IPTGでのインキュベーション後、大腸菌の培養物を、細菌セルロース層上に添加する。大腸菌の培養物が提供された細菌セルロース層を、25~30℃において、所定の厚さとともに、所定の色のシェードを有する生体高分子層が得られるように選択された時間インキュベートする。従って、インキュベーションの時間が長ければ長いほど、得られる細菌セルロース層の厚さは、より厚くなる。
この場合、生体高分子層の厚さは、細菌セルロース層が洗浄されず、染料を生成する大腸菌の培養物が、細菌セルロース層上に添加される際、グルコンアセトバクター属菌がなお存在するため、増大する。細菌セルロース層に、染料を生成する大腸菌の培養物を提供した後、インキュベーションを行い、大腸菌及びグルコンアセトバクター属菌の両方が生育する。
細菌セルロース層上及び/又は内で、染料分子が生成される。
グルコンアセトバクター属菌及び/又は大腸菌の両方の生育を、1回以上繰り返して、染色された細菌セルロース(すなわち、バイオ染色された細菌セルロース)の異なった層(例えば、積み重ね)を生成し、追加の異なった視覚的効果を得る。
染色された細菌セルロースをNaOHにて洗浄して、残留する全ての細菌及び生育培地の不純物を除去し、乾燥する。
【符号の説明】
【0240】
1 支持体材料(布)
2 生体高分子生成微生物
3 染料生成微生物
4 生体高分子(層)
5 染料分子
6 容器
7 培養培地
図1
図2
図3
図4
図5
図6