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特開2024-241パッシブレーダ装置および信号処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000241
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】パッシブレーダ装置および信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20231225BHJP
   H01Q 3/30 20060101ALI20231225BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20231225BHJP
   H01Q 3/04 20060101ALI20231225BHJP
   G01S 13/46 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
G01S7/02 216
H01Q3/30
H01Q21/06
H01Q3/04
G01S13/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098917
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 正一郎
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021AA11
5J021CA06
5J021DA02
5J021DA04
5J021DA05
5J021DB03
5J021GA02
5J021HA04
5J021JA07
5J070AA02
5J070AC12
5J070AC13
5J070AD06
5J070AD07
5J070AD09
5J070AD10
5J070AF01
5J070AH04
5J070AH12
(57)【要約】
【課題】周波数割り当ての制限を満たし、省サイズ化を図ったパッシブレーダ装置を提供すること。
【解決手段】実施形態によれば、パッシブレーダ装置は、静止軌道上の人工衛星から放射された電波の直接波を受信して参照信号を出力する参照波アンテナと、パッシブフェーズドアレイアンテナ、受信処理部、および信号処理部を具備する。パッシブフェーズドアレイアンテナは、目標で反射された電波の間接波を捕捉してそれぞれ素子信号を出力する複数の素子アンテナを有する。受信処理部は、参照信号をデジタル変換して参照信号データを生成し、素子信号をデジタル変換して素子アンテナごとの素子信号データを生成する。信号処理部は、参照信号データと素子信号データとに基づいて目標を検出する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止軌道上の人工衛星から放射された電波の直接波を受信して参照信号を出力する参照波アンテナと、
目標で反射された前記電波の間接波を捕捉してそれぞれ素子信号を出力する複数の素子アンテナを有するパッシブフェーズドアレイアンテナと、
前記参照信号をデジタル変換して参照信号データを生成し、前記素子信号をデジタル変換して前記素子アンテナごとの素子信号データを生成する受信処理部と、
前記参照信号データと前記素子信号データとに基づいて前記目標を検出する信号処理部とを具備し、
前記パッシブフェーズドアレイアンテナは、
鉛直長手方向に配列される複数の前記素子アンテナを有して短手方向に配設される複数のサブアレイアンテナを備え、
前記信号処理部は、
前記サブアレイアンテナごとにビーム形成して前記目標への仰角の測角を行う機能と、
前記短手方向に並ぶ複数の素子アンテナを含む群ごとのビーム面により前記目標への方位角の測角を行う機能とを備える、パッシブレーダ装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、モノパルス測角方式により前記目標への仰角の測角を行う、請求項1に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、電波到来方向推定方式により前記目標への方位角の測角を行う、請求項1に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項4】
前記パッシブフェーズドアレイアンテナの開口を方位方向に回転駆動させる駆動機構をさらに具備する、請求項1に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記間接波に生じるマイクロドップラ周波数シフトを検出して前記目標の速度を算出する、請求項1に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記素子信号データに基づいてデジタル領域でビーム形成を行う、請求項1に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項7】
さらに、前記目標の検出情報に基づいて、カルマンフィルタによる位置予測を用いたTWS(Track while scan)を行う制御部をさらに具備する、請求項1に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項8】
参照波アンテナにより、静止軌道上の人工衛星から放射された電波の直接波を受信して参照信号を出力する過程と、
パッシブフェーズドアレイアンテナにより、目標で反射された前記電波の間接波を、複数の素子アンテナを有する複数のサブアレイアンテナで捕捉してそれぞれ素子信号を出力する過程と、
前記参照信号をデジタル変換して参照信号データを生成し、前記素子信号をデジタル変換して前記素子アンテナごとの素子信号データを生成する過程と、
コンピュータにより、前記サブアレイアンテナごとにビーム形成して前記目標への仰角の測角を行う過程と、
コンピュータにより、前記サブアレイアンテナの配設方向に並ぶ複数の素子アンテナを含む群ごとのビーム面により前記目標への方位角の測角を行う過程とを具備する、信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、パッシブレーダ装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自身が電波を放射するアクティブレーダは、近距離の目標を捜索する用途においてはコストが高くなりやすい。また、近年ではセルラフォンシステムへの周波数拡張などの影響もあり、レーダシステムの使用できる帯域が限られつつある。このような背景から、BS(Broadcasting Satellite)放送波、あるいはCS(Communication Satellite)通信波を用いたパッシブレーダが検討され始めている。
【0003】
一般に、レーダの測角精度はアンテナ開口サイズに依存する。つまり大開口のアンテナを用いれば高い精度を得られるが、当然ながらコストが嵩む。既存のフェーズドアレイアンテナは、電子走査のため素子毎に移送器を備えることから益々コストがかかる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】吉田 孝 監修 「改訂レーダ技術」 電子情報通信学会、平成8年10月1日(初版)
【非特許文献2】Malanowski,’Signal Processing For Passive Bistatic Radar’ARTEC- HOUSE,sec.2.4.1The Ambiguity Function of a Noise Signal(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存のフェーズドアレイアンテナは、素子毎に設けられた移送器を電子的に制御してビームを電子走査し、探知した目標の位置を位相モノパルス測角方式で測角するものであった。このため所望の精度を得るためにはサイズが大きく、コストが高くなりやすい。放送波、通信波(以下、放送波に統一する)を用いた測角の用途に供するため、省サイズ化を可能とする技術革新が要望されている。
そこで、目的は、周波数割り当ての制限を満たし、省サイズ化を図ったパッシブレーダ装置および信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、パッシブレーダ装置は、静止軌道上の人工衛星から放射された電波の直接波を受信して参照信号を出力する参照波アンテナと、パッシブフェーズドアレイアンテナ、受信処理部、および信号処理部を具備する。パッシブフェーズドアレイアンテナは、目標で反射された電波の間接波を捕捉してそれぞれ素子信号を出力する複数の素子アンテナを有する。受信処理部は、参照信号をデジタル変換して参照信号データを生成し、素子信号をデジタル変換して素子アンテナごとの素子信号データを生成する。信号処理部は、参照信号データと素子信号データとに基づいて目標を検出する。
パッシブフェーズドアレイアンテナは、鉛直長手方向に配列される複数の素子アンテナを有する複数のサブアレイアンテナを備える。各サブアレイアンテナは、短手方向に互いにその開口面をずらして配設される。信号処理部は、サブアレイアンテナごとにビーム形成して目標への仰角の測角を行う機能と、短手方向に並ぶ複数の素子アンテナを含む群ごとのビーム面により目標への方位角の測角を行う機能とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係わるパッシブレーダ装置の運用形態の一例を示す図である。
図2図2は、捜索アンテナ202のフェーズドアレイ形状および素子配列の一例を示す図である。
図3図3は、図1に示されるパッシブレーダ装置の一例を示す系統図である。
図4図4は、図3の信号処理部6およびレーダ制御部7の一例を示す機能ブロック図である。
図5図5は、サブアレイ#1~#Nごとのビーム形成処理について説明するための図である。
図6図6は、図5のサブアレイビーム形成演算処理について説明するための図である。
図7図7は、サブアレイ形成の一例について説明するための図である。
図8図8は、実施形態でのエレベーション測角およびアジマス測角について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
多くの地域において、衛星放送波は12~18ギガヘルツ帯のKuバンドで送信されている。この帯域の波長は十分に短いので、既存のフェーズドアレイ技術を適用できる。例えば、日本におけるBS放送波の1チャンネルの帯域幅は約35MHzであり、連続波をそのまま受信処理すると距離データ量が膨大になる。そこで実施形態では、近距離レンジでの、比較的RCSが小さく、速度が遅い目標の捜索を想定する。この種の目標としては、例えばAI(Artificial Intelligence)ドローンなどを挙げることができる。
【0009】
<構成>
図1は、実施形態に係わるパッシブレーダ装置の運用形態の一例を示す図である。図1において、静止軌道上の放送衛星(BS)100からダウンリンクで放射される放送波は、地上のパッシブレーダ装置で捕捉される。放送衛星100から直接届く直接波(参照信号)と、放送波が目標で反射されて届く間接波(受信信号)との双方を受信し、両信号の相関に基づいて目標400を検出することができる。
【0010】
パッシブレーダ装置は、参照波アンテナ201と、捜索アンテナ202とを備える。参照波アンテナ201は、例えばパラボラアンテナであり、その開口を放送衛星100に向けて固定される。例えば、市販のBSテレビジョンアンテナを参照波アンテナ201として流用することが可能である。
【0011】
捜索アンテナ202は、複数の素子アンテナを有するサブアレイを複数備える、パッシブフェーズドアレイアンテナである。捜索アンテナ202は、モータ等の駆動機構301により、アジマス方向(方位方向)に回転可能に、架台300により支持される。
【0012】
コンピュータ500は、プロセッサおよびメモリを有する。コンピュータ500は、参照波アンテナ201から出力される参照信号と、捜索アンテナ202から出力される受信信号との相関処理によりアンビギューティ関数を求め、目標の速度と位置を検出する。特に、目標の速度は、受信信号に生じるマイクロドップラ(周波数シフト)を検出して算出される。
【0013】
捜索アンテナ202は、複数の素子アンテナを有する、例えばサブアレイ方式のフェーズドアレイアンテナである。素子アンテナは、目標400からの間接波を捕捉してそれぞれ素子信号を出力する。捜索アンテナ202は、方位方向に機械回転しながら、サブアレイ毎に、仰角方向に複数本のビームを形成する。
【0014】
図2は、捜索アンテナ202のフェーズドアレイ形状および素子配列の一例を示す図である。図2(a)の正面図に示されるように、捜索アンテナ202はN本の複数のサブアレイアンテナ(Nアレイ)を備える。各サブアレイアンテナは、鉛直長手方向に配列される、例えばM個の素子アンテナ(M素子)を有する。実施形態では、各サブアレイアンテナが、いわゆるパッシブフェーズドアレイ方式のDBF(Digital Beam Forming)アンテナである。
【0015】
各サブアレイアンテナは、長手方向と交差する短手方向に配設される。全てのサブアレイアンテナの素子アンテナを同一平面上に配列して、プラナーアレイを構成しても良い。あるいは、例えば図2(b)の上面図に示されるように、互いの開口面を少しずつずらして各サブアレイアンテナを配設してもよい。駆動機構301(図1)は、回転軸を中心に捜索アンテナ202の開口面をアジマス方向に回転させる。
【0016】
各サブアレイアンテナの長手方向の長さをLとし、全サブアレイアンテナの横幅の合計をLとする。つまり捜索アンテナ202の開口のサイズは、縦×横でL×Lである。素子アンテナの横方向の間隔を例えば0.4λとすることで、グレーティングローブを最小化することができる。サブアレイアンテナごとにの素子アンテナの間隔は、λを波長としてλ/4である。上記構成において、縦のサブアレイアンテナを横に複数配列することにより、開口のサイズ(素子数)を可能な限り小さくすることができる。
【0017】
図3は、図1に示されるパッシブレーダ装置の一例を示す系統図である。図3において、参照波アンテナ1は放送波を直接的に受信するように、放送衛星100の方向に向けて固定される。参照波アンテナ1に到来した直接波は参照波受信部3で周波数変換し、ベースバンドの参照信号として出力される。
【0018】
N本のサブアレイアンテナ4#1~Nは、素子数Mに対応する受信信号#1~#Mをそれぞれ独立に出力する。各受信信号は周波数変換(ダウンコンバート)されたベースバンド信号である。参照信号および各素子信号(サブアレイN×素子数M本)は、受信処理部5に入力される。
【0019】
受信処理部5は、参照信号および各素子信号(サブアレイN×素子数M本)を同時にアナログ/デジタル(A/D)変換し、さらにI/Q検波を施す。これにより、デジタルの参照信号I/Q(参照信号データ)と、M×N本(素子アンテナ数M、サブアレイアンテナ数Nに対応)の受信I/Q(素子信号データ)が生成される。参照信号I/Q、および各受信I/Q(M×N本)は、信号処理部6に入力される。
【0020】
信号処理部6は、入力された参照信号I/Qと、各受信I/Q(M×N本)から、目標検出情報、および、Σ/Δビームとを生成し、レーダ制御部77に出力する。
【0021】
レーダ制御部7は、目標検出情報、および、Σ/Δビームから目標情報(距離R,方位θ,仰角φ、振幅値など)を生成し、表示部8に出力する。また、予め決めた捜索スケジュールに従い信号処理部6に制御信号(タイミング制御など)を出力する。
【0022】
図4は、図3の信号処理部6およびレーダ制御部7の一例を示す機能ブロック図である。信号処理部6は、ビーム形成処理61により、各受信I/Qからディジタルビーム形成(DBF)を行う。これにより形成されたΣ(和)ビームは、クラッタ抑圧処理62に渡され、参照信号I/Qを用いて適応フィルタによるクラッタ抑圧処理が実施される。クラッタ抑圧後のΣビームは、相関処理63に渡されて、参照信号I/Qとの相関演算処理によりアンビギューティ関数が作成される。このアンビギューティ関数に対し、遅延方向とドップラ方向にCFAR処理を行い、目標が検出される(検出および推定処理64)。
【0023】
デジタル領域におけるアンビギューティ関数は、式(1)で表される。
【数1】
【0024】
一般的なパルス圧縮と同様に、FFT(Fast Fourier Transform)を使用すると、式(2)が得られる。
【数2】
【0025】
次に、レーダ制御部7は、入力されるΣ/Δビーム、目標検出情報、および方位機械角に基づいて測角処理71を行い、目標の方位角、仰角を算出する。ここで、方位機械角は、捜索アンテナ202の開口面の指向する向きの角度であり、ポテンシオメータなどにより駆動機構301から取得される。
【0026】
次に、レーダ制御部7は、目標検出情報、および測角情報に基づいて、目標位置測定処理72により目標位置測定を行い、目標の位置を直交座標に変換する。さらに、レーダ制御部7は、直交座標に変換された目標位置から、拡張カルマンフィルタなどの予測フィルタに従い、TWS(トラックワイルスキャン)を行う。これらの目標位置、およびTWS結果は、目標情報として出力される。
【0027】
<作用>
図5は、サブアレイ#1~#Nごとのビーム形成処理について説明するための図である。図5に示されるように、サブアレイ毎に、受信I/Q#1~#Mに基づくサブアレイビーム形成演算処理(S1~SN)により、仰角ビームが同時にL本形成される。つまり、同時にN×L本(サブアレイ数N×仰角ビーム数L)のビームが形成される。
【0028】
図6は、図5のサブアレイビーム形成演算処理について説明するための図である。図6において、受信I/Q_#1~#Mに対し、ビーム形成すべき仰角方向に応じたビーム形成ウェイトWをLセット、設定する。例えばEL0°方向ビームウェイトを(W11~WM1)、EL5°方向のビームウェイトを(W12~WM2),・・・・・・,ELφ°方向ビームウェイトを(W1L~WML)とし、サブアレイ形成処理C1~CLにより、各受信I/Q_#1~#Mと複素乗算する。このとき、例えばテーラ、またはチェビシェフなどのビームテーパ係数を併せて乗算しても良い。その後、ビーム形成処理9を経て、複数(1~L)の仰角ごとにΣビームとΔビームが形成される。
【0029】
図7に、サブアレイ形成の一例について説明するための図である。図7では、例えばEL0°方向のウェイトを乗算した信号について説明する。サブアレイの各信号(M素子)に対応した受信I/Qが偶数であるとすると、これらをM/2に分けて(1~M/2とM+1/2~M)、それぞれ加算器91,92で合算する。その出力を再度、加算器93で加算してΣビームが得られ、減算器94で減算してΔビームが得られる。
【0030】
図8は、実施形態でのエレベーション測角(仰角の測角)およびアジマス測角(方位角の測角)について説明するための図である。図8において、サブアレイ#1~#Nごとにビーム形成した仰角のΣビームとΔビームから、モノパルス測角方式により仰角を測角し、ビーム毎に仰角値を算出する。つまり、サブアレイ数N×ビーム数Lの仰角の測角値が算出される。
【0031】
アジマス方向については、各サブアレイ#1~#Nの同一仰角方向のビームを使用し、方位角測角演算を行う。つまり、各サブアレイ#1~#Nの短手方向に並ぶ複数の素子アンテナを含む群(図2の素子アンテナ群)ごとのビーム面により、方位角の測角が実施される。実施形態では、電波到来方向推定方式により、ビーム1~ビームLの方位測角値を算出する。
【0032】
すなわち、実施形態では、仰角の測角はDBF演算に基づくモノパルス測角を行い、方位角の測角はサブアレイ毎の仰角ビームを用いた電波到来方向推定を実施する。このようにすることで、サブアレイ内の移送器を不要とし、これにより捜索アンテナ202の開口を小さくするとともに受信系統数を少なくして小型化を促すことができる。さらに、検出情報から目標の距離(遅延)が既知であるので、1目標ごとの処理(目標分離)を実施でき、例えば、MUSIC法を適用する場合でも、固有値の数が既知となるため測角が容易に可能となる。
【0033】
<構成および作用のまとめ>
実施形態における構成および作用のまとめを、以下に記載する。
(1) Az(方位)方向は、捜索アンテナ202を機械回転させる。
(2) EL(仰角)方向は、エレメントDBFにより多数のビームを同時に形成する。
(3) (1)と同時に、電波到来方向推定方式によりヌルビーム形成する。
(4) (2)の処理の途中結果から、方位サブアレイ合成毎の受信チャンネルの信号処理を先に行い、(3)のビーム形成を実施する。
【0034】
以上から、目標検出はDBFの和ビーム信号にて行う。測角は、仰角についてはDBFの差ビーム信号と、DBFの和ビームによる電波到来推定処理によるヌルビーム形成にて行う。コンピュータ500による演算処理により、信号処理の処理チャンネル数の増加や、ビーム形成処理の増加によるコスト上昇を最小限にすることも可能である。
【0035】
<効果>
以上説明したように、実施形態によれば、地上設置のパッシブレーダにおいて、方位方向はサブアレイによる到来方向推定と機械角検出による測角を実施し、仰角方向はエレメントDBFによる位相モノパルス測角を実施する。これにより、方位方向のアンテナ開口を小さくでき、受信チャンネルも減らすことができる。また、到来方向推定の測角精度は受信チャンネル毎のS/Nを高くする必要があるため、従来はビーム形成を行ってから、信号処理を実施していたが、先に受信チャンネル毎に信号処理を行い、後からビーム形成するものである。
【0036】
上述したように、実施形態での放送波を用いたパッシブレーダ装置は、既存のシステムに比べて安価なフェーズドアレイアンテナを用い、例えばドローン等の小型目標を全周捜索し、高精度な測角を行うことができる。
【0037】
単純に移送器を排除するには、全素子の受信信号を使用したアンテナ開口全体でのエレメントDBFを実施すれば良いが、そのためには膨大な数の受信チャネルが必要となり、小型化への貢献は大きくない。しかも大量のデータを処理しなくてはならないので、それに見合った多大なコンピュータリソースが必要となる。
【0038】
これに対し実施形態によれば、放送波を目標の捜索に利用できるとともに、アンテナの開口を小さくしても十分な精度を得ることができる。これらのことから、実施形態によれば、周波数割り当ての制限を満たし、省サイズ化を図ったパッシブレーダ装置および信号処理方法を提供することが可能となる。
【0039】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、BS放送波を例として説明したが、CS波や、他の衛星から放射される電波を使用しても構わない。また、目標はドローンを例として説明したが、例えば船のような、緩やかな揺動を持つ目標でも構わない。
また、電波到来方向推定方式としてはMUSIC法に限らず、最小ノルム法でも、あるいはESPRIT法でも構わない。
【0040】
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1…参照波アンテナ、3…参照波受信部、4…サブアレイアンテナ、5…受信処理部、6…信号処理部、7…レーダ制御部、8…表示部、9…ビーム形成処理、61…ビーム形成処理、62…クラッタ抑圧処理、63…相関処理、71…測角処理、72…目標位置測定処理、77…レーダ制御部、91,92,93…加算器、94…減算器、100…放送衛星、201…参照波アンテナ、202…捜索アンテナ、300…架台、301…駆動機構、400…目標、500…コンピュータ、C1~CL…サブアレイ形成処理。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8