(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024108
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】引戸
(51)【国際特許分類】
E06B 5/16 20060101AFI20240214BHJP
E05D 15/06 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
E06B5/16
E05D15/06 119
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002281
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2019193716の分割
【原出願日】2019-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】307038540
【氏名又は名称】三和シヤッター工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391008582
【氏名又は名称】昭和フロント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100145838
【弁理士】
【氏名又は名称】畑添 隆人
(72)【発明者】
【氏名】森藤 広喜
(72)【発明者】
【氏名】吹澤 正祥
(72)【発明者】
【氏名】今井 章
(72)【発明者】
【氏名】小山 優貴
(72)【発明者】
【氏名】塩田 容子
(57)【要約】
【課題】引戸の扉体が全閉姿勢にある時に、扉体の戸先側に防火上不利な隙間が形成されることを防止する。
【解決手段】
吊り車ユニット8がレール7を走行することで開口部を開閉する扉体を備え、開口部全閉時には、扉体6の戸先側部位が凹部11内に納まるようになっている引戸において、吊り車ユニット8は、少なくとも1つのローラ80と、扉体下がり量規制部9と、を備え、ローラ80がレール70と接触している通常状態において、扉体下がり量規制部9はレール部材7の部分から上方に所定距離Dだけ離間して位置しており、ローラ70が火災時の熱によって溶解ないし変形して、扉体6が所定距離だけ下がると、扉体下がり量規制部9がレール部材7の部分に当接することで、扉体6の下がりを規制し、開口部全閉時における扉体6の過度の傾きを規制することで、正面視において扉体6の戸先側に隙間が形成されることを防止する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部に設けた吊り車ユニットがレールを走行することで開口部を開閉する扉体を備え、開口部全閉時には、前記扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って呑み込み部を形成するように納まっている、引戸において、
前記呑み込み部は、前記扉体の戸先側部位が戸先側縦枠に形成された凹部内に高さ方向に亘って納まること、あるいは、前記扉体の戸先側部位に高さ方向に亘って形成された凹部内に戸先側縦枠に形成された凸部が納まることで形成されており、
前記吊り車ユニットは、少なくとも1つのローラを含む戸先側の吊り車ユニットと、少なくとも1つのローラを含む戸尻側の吊り車ユニットと、からなり、
いずれか一方あるいは両方の吊り車ユニットは、扉体下がり量規制部を備え、
前記扉体下がり量規制部は、当該扉体下がり量規制部を備えた吊り車ユニットの前記ローラが前記レールと接触している通常状態において、不動部材の部分から上方に所定距離だけ離間して位置しており、前記ローラが火災時の熱によって溶解ないし変形して、前記吊り車ユニットが所定距離だけ下がると、前記不動部材の前記部分に当接することで、前記扉体の下がり量を規制し、
前記扉体下がり量規制部は、火災時に、全閉姿勢にある扉体の戸先側の高さと戸尻側の高さに差が出るような場合に、前記扉体の下がり量を規制して開口部全閉時における当該扉体の過度の傾きを規制することで、高さ方向に亘って前記呑み込み部を維持し、正面視において扉体の戸先側に隙間が形成されることを防止する、
引戸。
【請求項2】
前記不動部材の前記部分は、ローラが載るレールを除く要素である、請求項1に記載の引戸。
【請求項3】
前記扉体下がり量規制部は、ローラを除く要素である、請求項1、2いずれか1項に記載の引戸。
【請求項4】
前記扉体下がり量規制部は、前記戸先側の吊り車ユニット、前記戸尻側の吊り車ユニットの両方に設けてある、
請求項1~3いずれか1項に記載の引戸。
【請求項5】
開口部全閉時に、前記扉体の前記戸先側部位あるいは前記凸部が呑み込み寸法Lで前記凹部内に納まっている場合に、扉体下がり量規制部は不動部材の部分から上方に距離Dだけ離間して位置しているとすると、
高さ寸法Cで、扉幅方向に間隔Aで離間する第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットを備えた扉体において、呑み込み寸法L及び距離Dは、L>(C/A)×Dを満たすように設定される、
請求項1~4いずれか1項に記載の引戸。
【請求項6】
前記引戸は、第1扉体と第2扉体からなる引き分け戸であって、
前記呑み込み部は、前記扉体の戸先側部位と前記戸先側縦枠から形成されることに代えて、前記第1扉体の戸先側部位と前記第2扉体の戸先側部位から形成されており、前記第1扉体の戸先側部位に形成された凸部が、前記第2扉体の戸先側部位に形成された凹部内に高さ方向に亘って納まることで形成されており、
開口部全閉時には、前記第1扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って前記凹部内に納まることで前記呑み込み部が形成されており、
前記扉体下がり量規制部が前記不動部材の前記部分に当接して前記第1扉体および/あるいは前記第2扉体の下がりを規制し、前記第1扉体の前記戸先側部位が高さ方向に亘って前記凹部内に納まることで前記呑み込み部が維持される、
請求項1~4いずれか1項に記載の引戸。
【請求項7】
開口部全閉時に、前記第1扉体の戸先側部位に形成された前記凸部が呑み込み寸法Lで前記第2扉体の戸先側部位に形成された前記凹部内に納まっている場合に、第1扉体、第2扉体の扉体下がり量規制部が不動部材の部分から上方に距離Dだけ離間して位置しているとすると、
第1扉体、第2扉体が、高さ寸法Cで、扉幅方向に間隔Aで離間する第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットを備えている場合に、呑み込み寸法L及び距離Dは、L>(C/A)×D×2を満たすように設定される、
請求項6に記載の引戸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引戸に係り、詳しくは、防火設備としての性能を備えた引戸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動ドアに代表される引戸は、扉体の上端部に設けた左右の吊り車ユニットのローラがレールを走行することで左右方向にスライド移動して開口部を開閉する。扉体の走行時の静音性の観点から、樹脂製のローラを採用する場合が多いが、開口部全閉時において、火災等の熱の影響でローラの樹脂が溶解すると、樹脂ローラの高さが低くなって扉体が下がることになる。この時、樹脂製のローラの溶解の態様によっては(例えば、戸先側の吊り車ユニットの樹脂ローラの高さが戸尻側の吊り車ユニットの樹脂ローラの高さよりも低くなると)、全閉姿勢にある扉体が傾いて扉体の戸先側(例えば、戸先側の下端部位)に隙間が生じるおそれがある。全閉姿勢にある扉体の戸先側に隙間が生じると、扉体によって区画された屋内外空間の貫通部が形成されることになり、防火設備としての性能が維持できなくなる。
【0003】
火災時の扉体の下がりを防止するためには、吊り車ユニットのローラを鋼製ローラとすることも考えられるが、通常の開閉時の走行静音性の確保が困難である。
【0004】
特許文献1、特許文献2には、引戸において、ローラがレールから脱落することを防止する脱落防止手段が記載されている。これらの文献は、ローラがレールから脱落することを防止することによって、扉体が正規位置から離脱することを防止するものである。
【特許文献1】特許第3084619号
【特許文献2】特許第4105330号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、引戸の扉体が全閉姿勢にある時に、扉体の戸先側に防火上不利な隙間が形成されることを防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が採用した技術手段は、上端部に設けた吊り車ユニットがレールを走行することで開口部を開閉する扉体を備え、開口部全閉時には、前記扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って呑み込み部を形成するように納まっている、引戸において、
前記吊り車ユニットは、少なくとも1つのローラと、扉体下がり量規制部と、を備え、
前記ローラが前記レールと接触している通常状態において、前記扉体下がり量規制部は不動部材の部分から上方に所定距離だけ離間して位置しており、
前記ローラが火災時の熱によって溶解ないし変形して、前記扉体が所定距離だけ下がると、前記扉体下がり量規制部が前記不動部材の前記部分に当接することで、前記扉体の下がりを規制し、
前記扉体の下がりを規制して開口部全閉時における当該扉体の過度の傾きを規制することで、高さ方向に亘って前記呑み込み部を維持し、正面視において扉体の戸先側に隙間が形成されることを防止する、引戸。
1つの態様では、前記呑み込み部は、前記扉体の戸先側部位、開口部全閉時に前記戸先側部位が納まる部位(例えば、引戸枠の縦枠や引き分け引戸における戸先側縦框)のいずれか一方に凹部が形成されており、他方が前記凹部に納まることで形成される。
1つの態様では、開口部全閉時には、前記扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って凹部内に納まることで前記呑み込み部が形成されており、
前記扉体下がり量規制部が前記不動部材の前記部分に当接して前記扉体の下がりを規制し、前記扉体の前記戸先側部位が高さ方向に亘って前記凹部内に納まることで前記呑み込み部が維持される。
1つの態様では、前記扉体の戸先側部位には高さ方向に亘って凹部が形成されており、開口部全閉時には、前記扉体の前記凹部内に高さ方向に亘って凸部(例えば、引戸枠の縦枠や引き分け引戸における戸先側縦框に設けられる)が納まることで前記呑み込み部が形成されており、
前記扉体下がり量規制部が前記不動部材の前記部分に当接して前記扉体の下がりを規制し、前記扉体の前記凹部内に高さ方向に亘って前記凸部が納まることで前記呑み込み部が維持される。
【0007】
典型的な態様では、前記引戸は自動ドアである。
典型的な態様では、前記ローラは樹脂製である。
典型的な態様では、前記扉体下がり量規制部は金属製(例えば鋼製)である。
上記の「過度の傾き」とは、正面視において扉体の戸先側に隙間が形成されるような傾きを意味する。
より具体的には、前記呑み込み部における呑み込み寸法をLとし(例えば、開口部全閉時に、扉体の戸先側部位が呑み込み寸法Lで凹部内に納まっている)、扉体下がり量規制部は不動部材の部分から上方に距離Dだけ離間して位置しているとする。ここで、距離Dは扉体の最大下がり量である。呑み込み寸法Lと距離Dは、前記扉体が下がることによる当該扉体の最大傾き時であっても、高さ方向に亘って前記呑み込み部を維持し(前記扉体の前記戸先側部位が高さ方向に亘って前記凹部内に納まっている)、正面視において隙間が形成されないような寸法に設定されている。
高さ寸法Cで、扉幅方向に間隔Aで離間する第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットを備えた扉体が片引き引戸を構成する場合に、扉体の最大下がり量Dとすると、呑み込み寸法Lは、L>(C/A)×Dを満たすように設定される。
寸法(C/A)×Dは、扉体の最大傾き時(具体的には、第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットの一方のみが最大量下がった時)の扉体の戸先側下端あるいは戸先側上端の水平方向の移動量を表している。
式L>(C/A)×Dから明らかなように、距離Dを小さく設定することで、呑み込み寸法Lを小さくすることができる。
【0008】
引戸の構成部材(例えば、レールを形成するレール部材)が不動部材を兼用してもよい。
1つの態様では、前記不動部材は、前記レールを形成ないし支持するレール部材である。すなわち、前記ローラの溶解時や変形時には、前記扉体下がり量規制部は、レール部材の部分に当接することになる。レール部材の部分は前記レールであってもよい。
なお、不動部材は、例えば、レール部材とは別部材で用意され、前記レール部材に固定された部材、あるいは、上ケースに支持された不動部材であってもよい。
【0009】
1つの態様では、前記吊り車ユニットは、前記扉体の戸先側に位置する第1吊り車ユニットと、前記扉体の戸尻側に位置する第2吊り車ユニットと、を含み、
前記扉体下がり量規制部は、前記第1吊り車ユニット、前記第2吊り車ユニットのいずれか一方あるいは両方に設けてある。
後述する実施形態では、前記第1吊り車ユニット、前記第2吊り車ユニットの両方に前記扉体下がり量規制部が設けてある。
引戸の設置場所等の条件によっては、一方の吊り車ユニットのみに前記扉体下がり量規制部を設けたものでもよい。例えば、扉体の戸先側の下がり量のみを規制すれば十分であるような場合には、戸先側の吊り車ユニットのみに前記扉体下がり量規制部を設けてもよい。
【0010】
1つの態様では、前記吊り車ユニットは、開口幅方向に離間した2つのローラを備え、前記2つのローラを回転自在に支持するアームは、長さ方向の中間部位で上下方向に回動自在に支持されており、前記扉体下がり量規制部は、前記アームの長さ方向の中間部位に設けてある。
上記の「上下方向の回動」は、アームの一端の上動・下動時に、他端が下動・上動するような回動を意味する。
1つの態様では、前記扉体下がり量規制部は、前記アームの回動軸を利用して前記アームに固定されており、前記アームの回動(揺動)と共に回動(揺動)する。
【0011】
1つの態様では、前記呑み込み部は、前記扉体の前記戸先側部位と引戸枠を構成する縦枠とから形成されている。
1つの態様では、前記凹部は、引戸枠を構成する縦枠に設けられている。
前記凹部は、前記縦枠と別部材で用意したものを前記縦枠の見込面に固定したものでも、縦枠の見込面自体に凹み部を設けることで縦枠と一体形成したものでもよい。
【0012】
前記引戸は、第1扉体と第2扉体からなる引き分け戸であって、
前記第2扉体の戸先側部位には凹部が設けてあり、開口部全閉時には、前記第1扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って前記凹部内に納まることで前記呑み込み部が形成されており、
前記扉体下がり量規制部が前記不動部材の前記部分に当接して前記第1扉体および/あるいは前記第2扉体の下がりを規制し、前記第1扉体の前記戸先側部位が高さ方向に亘って前記凹部内に納まることで前記呑み込み部が維持される。
前記凹部は、前記第2扉体の戸先側部位と別部材で用意したものを前記第2扉体の戸先側見込面に固定したものでも、前記第2扉体の戸先側見込面自体に凹み部を設けて前記第2扉体の戸先側部位と一体形成したものでもよい。
引き分け戸を構成する第1扉体、第2扉体が、高さ寸法Cで、扉幅方向に間隔Aで離間する第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットを備えている場合に、第1扉体、第2扉体の最大下がり量Dとすると、呑み込み寸法Lは、L>(C/A)×D×2を満たすように設定される。
寸法(C/A)×D×2は、扉体の最大傾き時(具体的には、第1扉体と第2扉体が、戸先側の上端同士あるいは下端同士が互いに離間する方向に最も傾いた時)の第1扉体と第2扉体の戸先側下端同士あるいは戸先側上端同士の水平方向の離間量を表している。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、火災時等において、扉体下がり量規制部によって扉体の下がり量を規制して開口部全閉時における当該扉体の過度の傾きを規制することで、前記扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って凹部内に納まることを維持し、正面視において扉体の戸先側に防火上不利な隙間が形成されることを防止する。したがって、本発明に係る引戸は、火災時において、防火設備としての性能を維持する。
本発明に係る扉体下がり量規制部は、例えば、所定形状・寸法の金属プレート等のシンプルな部材として用意することができ、通常の吊り車ユニットに上記金属プレートを付加することで扉体下がり量規制部を得ることができ、吊り車ユニットの部品の共通化を図ることができる。
本発明では、扉体下がり量規制部によって扉体の下がり量を制限したことにより、開口部全閉時における当該扉体の過度の傾きを規制することができるため、凹部に対する扉体の戸先側部位の呑み込み寸法を小さくすることができ、したがって、呑み込み寸法を大きく確保するために凹部の深さ寸法を大きくする必要がない。本発明において、呑み込み寸法を十分に確保するために凹部を深くすることを妨げないが、凹部を深く設計することが選択できないような場合には、凹部に対する扉体の戸先側部位の呑み込み寸法を小さくすることができることは有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る片引き引戸(開口部全閉時)を屋外側から見た正面図である。
【
図2】本実施形態に係る引戸の横断面図であり、上側が屋外側、下側が屋内側である。
【
図3】本実施形態に係る引戸の縦断面図であり、左側が屋外側、右側が屋内側である。
【
図4】本実施形態に係る引戸の駆動機構を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る引戸の扉体の上端部位及び吊り車ユニットを示す図である。
【
図6】本実施形態に係る引戸の吊り車ユニットを示す図であり、上図は屋外側から見た正面図、中間図は平面図、下図は屋内側から見た正面図である。
【
図7】本実施形態に係る引き分け引戸(開口部全閉時)を屋外側から見た正面図である。
【
図8】本実施形態に係る引戸の横断面図であり、上側が屋外側、下側が屋内側である。
【
図9】扉体の最大下がり量と扉体の戸先側部位の呑み込み寸法との関係を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る引戸(開口部全閉時)を屋外側から見た正面図、
図2は、 本実施形態に係る引戸の横断面図であり、上側が屋外側、下側が屋内側であり、
図3は、本実施形態に係る引戸の縦断面図であり、左側が屋外側、右側が屋内側である。本実施形態に係る引戸は、上吊式引戸からなる自動ドアである。
【0016】
引戸は、戸先側縦枠1と、戸尻側縦枠2と、上ケース3と、下枠4と、から形成された引戸枠を備えている。引戸枠の幅方向戸尻側半部には縦長方形状の固定パネル5が設けてあり、幅方向戸先側半部(引戸枠の戸先側縦枠1と固定パネル5の戸先側縦框50との間)に建物開口部が形成されている。固定パネル5の面部はガラスパネルGから形成されている。本実施形態では、引戸枠の戸先側縦枠1と戸尻側縦枠2は、上ケース3を越えて上方に延出しており、戸先側縦枠1と戸尻側縦枠2の上端間は上枠3´によって連結されている。上枠3´と上ケース3の間の空間にはガラスパネルGが嵌め込まれている。
【0017】
引戸は、縦長方形状の扉体6を備えており、扉体6が左右にスライド移動することで建物開口部を開閉するようになっている。扉体6は、戸先側縦框60と、戸尻側縦框61と、上框62と、下框63と、を備え、戸先側縦框60と、戸尻側縦框61と、上框62と、下框63とで囲まれた縦長方形状の領域にはガラスパネルGが嵌め込まれており、ガラスパネルGが面部を形成している。
【0018】
上ケース3は、全体として開口幅方向に延びる箱状体であり、内部空間には、上ケース3の略全幅に亘ってレール部材7が設けてあり、レール部材7の部分が開口幅方向に延びるレール70を形成している。レール部材7は、前後方向(屋内外方向)に延びる所定幅、及び、開口幅方向に延びる所定長を備えた長尺部材であり、かつ、上ケース3内に固定された不動部材である。本実施形態に係るレール部材7は水平辺71と垂直辺72から断面視略L形状を備えている。
【0019】
より具体的には、
図5に示すように、レール部材7は、前後方向の一端にレール70が形成されている水平辺71と、水平辺71の前後方向の他端から立ち上がる垂直辺72と、を備えている。本実施形態では、レール部材7の垂直辺72は、上ケース3の屋外側見付面30の内側に位置しており、水平辺71の屋外側部位が垂直辺72の下端に一体形成されており、水平辺71の屋内側端部にレール70が一体形成されている。本実施形態に係る水平辺71は、レール70が形成された第1部分710と、垂直辺72の下端側の第2部分711と、からなり、第1部分710は第2部分711よりも高い位置にある。
図5に示すレール部材7は例示であって、レール部材7の形状は図示のものに限定されない。例えば、図示の態様では、レール70はレール部材7に一体形成されているが、レールを別部材で用意して、レール部材によって支持するようにしてもよい。図示の態様では、レール70は凸部であるが、例えば、凹部から溝状のレールを形成してもよい。
【0020】
扉体6の上端部、すなわち上框62の上面には、吊り車ユニット8が設けてある。本実施形態では、吊り車ユニット8は、扉体6の上端部の戸先側に寄った位置に設けた第1吊り車ユニット(戸先側吊り車ユニット)8Aと、扉体6の上端部の戸尻側に寄った位置に設けた第2吊り車ユニット(戸尻側吊り車ユニット)8Bと、からなる(
図4参照)。本明細書において、第1吊り車ユニット8A、第2吊り車ユニット8Bを代表して吊り車ユニット8で表し、2つの吊り車ユニットを識別して説明する時に、第1吊り車ユニット8A、第2吊り車ユニット8Bという用語を用いる。
【0021】
吊り車ユニット8は、開口幅方向(扉体6の幅方向ないしレール部材7の長さ方向)に離間して設けた2つの樹脂製ローラ80を備えており、2つの樹脂製ローラ80は、開口幅方向(扉体6の幅方向ないしレール部材7の長さ方向)に延びるアーム81によって回転自在に支持されている。アーム81の一端には一方の樹脂製ローラ80が回転自在に軸支されており、アーム81の他端には他方の樹脂製ローラ80が回転自在に軸支されており、アーム81は、2つの軸支部の中間地点において、支持部82に回転自在に支持されている。吊り車ユニット8は、さらに、垂直ベース83と垂直ベース83の下端に一体形成された水平ベース84とからなる側面視L形状のベースを備え、アーム81が回転自在に支持された支持部82は、垂直ベース83に固定されている。吊り車ユニット8は、水平ベース84を介して扉体6の上端部に固定されている。
【0022】
扉体6は、吊り車ユニット8の樹脂製ローラ80が、レール部材7のレール70上を転動することで、開口幅方向(左右方向)にスライド移動可能となっている。
図3に示すように、扉体6の下端部、すなわち下框63の下面には、振れ止め用突起630が形成されており、扉体6のスライド移動時には、下端の振れ止め用突起630が下枠4に形成されたガイド溝40に沿って移動するようになっている。
【0023】
アーム81は長さ方向中間点を回動支点として上下方向に回動自在に支持されている。より具体的には、アーム81は、アーム81の一端の上動・下動時に、他端が下動・上動するように回動(揺動)可能となっている。扉体6の走行時に、アーム81の長さ方向端部(すなわち、樹脂製ローラ80)が必要に応じて適宜上下微動可能となっており、扉体6の滑らかなスライド移動を可能としている。
【0024】
吊り車ユニット8の水平ベース84には、アーム81の長さ方向中間部位(アームの回動支点)の下方に位置して、滑り性の良い摺接部85が設けてある。本実施形態に係る摺接部85は樹脂製であり、ベースの垂直ベース83に固定した支持部850に支持されている。吊り車ユニット8は、摺接部85がレール部材7のレール70の下面に近接しており、レール70の上面に接触する2つの樹脂製ローラ80と相俟って、吊り車ユニット8の樹脂ローラ80がレール70から外れることを防止している。本実施形態に係る吊り車ユニット8の構成要素において、樹脂製ローラ80、摺接部85を除く全ての構成要素は金属製(鋼製)である。
【0025】
本実施形態に係る引戸は自動ドアであって、引戸枠の上ケース3内には、駆動機構が設けてある。駆動機構は、モータ32と、駆動側スプロケット33と、従動側スプロケット34と、駆動側スプロケット33と従動側スプロケット34間に巻き掛けされたタイミングベルト35と、を備え、タイミングベルト35の移動に伴って吊り車ユニット8をレール70上で移動させる。例えば、第1吊り車ユニット8A、第2吊り車ユニット8Bの一方が駆動側吊り車ユニットであり、他方が従動側吊り車ユニットである。自動ドアの駆動機構は公知なので、さらなる詳細な説明は省略する。上ケース3の屋内側見付面31は、点検カバーを形成しており、点検カバーを取り外すことで、上ケース3の内部空間を露出させ、駆動機構のメンテナンスが可能となっている。
【0026】
上ケース3の屋外側見付面30、屋内側見付面31には、建物開口部の上方に位置して、起動センサS1が設けてあり、起動センサS1によって建物開口部の手前に位置する人を検知することで、モータ30が駆動して全閉姿勢にある扉体6を開放可能となっている。扉体6の戸先側縦框60の屋外側見付面600、屋内側見付面601には、タッチセンサS2が設けてあり、タッチセンサS2をタッチすることで、モータ30が駆動して全閉姿勢にある扉体6を開放可能となっている。起動センサS1とタッチセンサS2は、自動ドアの設置場所等に応じて、いずれかを用いるようにすればよい。
【0027】
吊り車ユニット8は、扉体下がり量規制部9を有している。本実施形態に係る扉体下がり量規制部9は、金属プレートからなる。より具体的には、
図6に示すように、扉体下がり量規制部9は、略方形状の金属プレートであり、下端縁が下方に膨出する湾曲縁90となっている。扉体下がり量規制部9は、幅方向中央部位を、アーム81の回動軸部810に固定することでアーム81に対して取り付けられている。扉体下がり量規制部9の湾曲縁90の最下点は、アーム81の回動支点の直下に位置している。
図6の中央図に示すように、アーム81の長さ方向中央部位は凹状となっており、金属プレートからなる扉体下がり量規制部9は、この凹状部に取り付けられている。
図5に示すように、本実施形態に係る扉体下がり量規制部9は、吊り車ユニット8において、樹脂ローラ80に対して偏倚した位置(本実施形態では、屋外側に偏倚した位置)に設けてあり、扉体6が下がった時に、レール70に当接するのではなく、レール70を支持するレール部材7の部分(具体的には、水平辺71の第1部分710)に当接するようになっている。
【0028】
扉体6の通常の開閉時及び全閉時、具体的には、吊り車ユニット8の樹脂製ローラ80がレール70に載った状態において、扉体下がり量規制部9の湾曲縁90の最下点は、レール部材7の水平辺71の第1部分710の上面に対して、距離Dだけ離間している。吊り車ユニット8の扉体下がり量規制部9の湾曲縁90の下端は、レール部材7の水平辺71の第1部分710の上面から距離D離間しているので、扉体6の吊り車ユニット8の樹脂製ローラ80がレール70上を走行する時に、扉体下がり量規制部9がレール部材7に接触するようなことがない。扉体下がり量規制部9は、アーム81に固定されており、アーム81と一体で回動(揺動)するが、扉体下がり量規制部9の湾曲縁90の最下点は、アーム81の回動支点の直下に位置しているので、扉体下がり量規制部9の湾曲縁90の最下点の高さ位置は一定であり、扉体6の走行時及び全閉停止時に、アーム81(扉体下がり量規制部9)の姿勢にかかわらず、扉体下がり量規制部9がレール部材7に接触するようなことがない。本実施形態に係る吊り車ユニット8は、通常の吊り車ユニットに金属プレートからなる扉下がり量規制部9を付加することで得ることができ、吊り車ユニットの部品の共通化を図ることができる。なお、扉体下がり量規制部9は、金属プレートに限定されるものではなく、レール部材7等の不動部材に当接する当接部を備えるものであれば、形状等は限定されない。
【0029】
開口部全閉時において、火災時の熱によって吊り車ユニット8の樹脂製ローラ80が溶解ないし変形すると、樹脂製ローラ80の高さ寸法が低くなる場合がある。この時、樹脂製ローラ80の高さが低くなった分だけ扉体6が下がることになるが、扉体6が垂直方向にDだけ下がった時に、扉体下がり量規制部9の湾曲縁90の最下点がレール部材7の水平辺71の第1部分710の上面に当接することで、扉体6の下がり量が制限される。すなわち、距離Dは扉体6の最大下がり量を規定している。
【0030】
本実施形態に係る引戸は防火設備として用いられ得るものであり、開口部全閉時には、扉体6の戸先側及び戸尻側に屋内外を貫通する隙間が形成されないようになっている。扉体6の戸尻側において、扉体6の戸尻側縦框61が固定パネル5の戸先側縦框50に重なっており、かつ、戸尻側縦框61に形成した第1辺61aと、戸先側縦框50に形成した第2辺50aと、からあいじゃくり構造が形成されている。
【0031】
扉体6の戸先側において、扉体6の戸先側部位(戸先側縦框60の戸先側部位)が引戸枠の戸先側縦枠1に形成された凹部11内に納まることで呑み込み部を形成するようになっている。本実施形態では、凹部は、
図2に示すように、引戸枠の戸先側縦枠1の見込面10に高さ方向に亘って設けた断面視凹状の部材11´によって形成されている。部材11´は、屋外側辺110´と屋内側辺111´と底辺112´とから断面視凹形状を備え、底辺112´が戸先側縦枠1の見込面に固定されており、屋外側辺と屋内側辺と底辺で囲まれた領域から凹部11が形成されている。扉体6の戸先側縦框60の戸先側端面には凸部602が高さ方向に亘って形成されており、開口部全閉時には、扉体6の戸先側縦框60の凸部602が、戸先側縦枠1の見込面10に形成された凹部11内に呑み込み寸法Lで納まるようになっている。
【0032】
開口部全閉時に、樹脂製ローラ80が火災時の熱によって溶解ないし変形して、扉体6が下がると、距離Dだけ下がった時に、扉体下がり量規制部9がレール部材7の水平辺71の第1部分710の上面に当接することで、さらに扉体6が下がることを規制する。ここで、第1吊り車ユニット8Aと第2吊り車ユニット8Bの樹脂製ローラ80の溶解や変形の程度に差がある場合には、全閉姿勢にある扉体6の戸先側の高さと戸尻側の高さに差が出て、扉体6が傾く可能性がある。
【0033】
本実施形態では、扉体下がり量規制部9によって、扉体6の下がり量を規制することで、全閉姿勢にある扉体6の戸先側の高さと戸尻側の高さに差が出るような場合であっても、開口部全閉時における扉体6の過度の傾き(正面視において扉体6の戸先側に隙間が形成されるような傾き)を規制することができ、扉体6の戸先側部位の凸部602が高さ方向に亘って凹部11内に納まることを維持し、正面視において扉体6の戸先側に屋内外を貫通する隙間が形成されることを防止する。
【0034】
具体的に説明すると、開口部全閉時には、扉体6の戸先側部位の凸部602が呑み込み寸法Lで凹部11内に納まっており、扉体下がり量規制部9はレール部材7の水平辺71の第1部分710の上面から上方に距離Dだけ離間して位置しているとする。ここで、距離Dは扉体の最大下がり量である。呑み込み寸法Lと距離Dは、扉体6が下がることによる扉体6の最大傾き時であっても、扉体6の戸先側部位の凸部602が高さ方向に亘って凹部11内に納まり、正面視において隙間が形成されないような寸法に設定されている。実際には距離Dを小さく設定することで、呑み込み寸法Lを小さくすることができる。全閉姿勢時の扉体6の下がり量を制限したことにより、凹部11に対する扉体6の戸先側部位(凸部602)の呑み込み寸法Lを小さくすることができ、したがって凹部11の深さ寸法を大きくする必要がない。なお、凹部11の深さ寸法を十分にとるようにしてもよいが、凹部11を深く設計することが難しいような場合には、凹部11に対する扉体6の戸先側部位の呑み込み寸法を小さくすることができることは有用である。本実施形態では、開口部全閉時に、扉体5の戸先側端部が引戸枠の戸先側縦枠1の凹部に納まることで呑み込み部が形成されているが、扉体5の戸先側端面に高さ方向に亘って凹部ないし凹溝を形成し、引戸枠の戸先側縦枠1の見込面に高さ方向に亘って凸部を形成し、開口部全閉時に、扉体5の戸先側端部の凹部に引戸枠の戸先側縦枠1の凸部が納まることで呑み込み部が形成するようにしてもよい。
【0035】
図7、
図8を参照しつつ、本発明の他の実施形態について説明する。
図7は、本実施形態に係る引戸(開口部全閉時)を屋外側から見た正面図、
図2は、 本実施形態に係る引戸の横断面図であり、上側が屋外側、下側が屋内側である。本実施形態に係る引戸は、上吊式の引き分け引戸からなる自動ドアである。
【0036】
引戸は、第1縦枠1´と、第2縦枠2´と、上ケース3と、下枠4と、から形成された引戸枠を備えている。引戸枠の幅方向両側には、第1固定パネル5A、第2固定パネル5Bが設けてあり、第1固定パネル5Aの戸先側縦框50Aと第2固定パネル5Bの戸先側縦框50Bとの間に建物開口部が形成されている。第1固定パネル5A、第2固定パネル5Bの面部は、ガラスパネルGから形成されている。本実施形態では、引戸枠の戸先側縦枠1´と戸尻側縦枠2´は、上ケース3を越えて上方に延出しており、戸先側縦枠1´と戸尻側縦枠2´の上端間は上枠3´によって連結されている。上枠3´と上ケース3の間の空間にはガラスパネルGが嵌め込まれている。
【0037】
引戸は、縦長方形状の第1扉体6A、第2扉体6Bを備えており、第1扉体6A、第2扉体6Bがスライド移動することで建物開口部を開閉するようになっている。第1扉体6Aは、戸先側縦框60Aと、戸尻側縦框61Aと、上框62Aと、下框63Aと、を備え、戸先側縦框60Aと、戸尻側縦框61Aと、上框62Aと、下框63Aとで囲まれた縦長方形状の領域にはガラスパネルGが嵌め込まれており、ガラスパネルGが面部を形成している。第2扉体6Bは、戸先側縦框60Bと、戸尻側縦框61Bと、上框62Bと、下框63Bと、を備え、戸先側縦框60Bと、戸尻側縦框61Bと、上框62Bと、下框63Bとで囲まれた縦長方形状の領域にはガラスパネルGが嵌め込まれており、ガラスパネルGが面部を形成している。
【0038】
上ケース3の屋外側見付面30、屋内側見付面31には、建物開口部の上方に位置して、起動センサS1が設けてあり、起動センサS1によって建物開口部の手前に位置する人を検知することで、モータ30が駆動して全閉姿勢にある第1扉体6A、第2扉体6Bを引き分け開放可能となっている。第1扉体6A、第2扉体6Bの扉体6の戸先側縦框60A、60Bの見付面には、タッチセンサS2が設けてあり、タッチセンサS2をタッチすることで、モータ30が駆動して全閉姿勢にある第1扉体6A、第2扉体Bを開放可能となっている。いずれか一方のタッチセンサS2をタッチすることで、第1扉体6A、第2扉体Bの両方が引分け開放するようになっている。起動センサS1とタッチセンサS2は、自動ドアの設置場所等に応じて、いずれかを用いるようにすればよい。
【0039】
第1扉体6A、第2扉体6Bは、扉体下がり量規制部9を備えた吊り車ユニット8を備えており、レール部材7、扉体下がり量規制部9を備えた吊り車ユニット8の構成については、既述の記載を援用することができる。また、引き分け式で上吊式引戸からなる自動ドア自体は公知であり、駆動機構についての説明は省略する。
【0040】
本実施形態に係る引戸は防火設備として用いられ得るものであり、開口部全閉時には、第1扉体6A、第2扉体6Bの戸先側及び戸尻側に屋内側を貫通する隙間が形成されないようになっている。第1扉体6Aの戸尻側において、第1扉体6Aの戸尻側縦框61Aが固定パネル5Aの戸先側縦框50Aに重なっており、かつ、戸尻側縦框61Aと戸先側縦框50Aとの隙間にはあいじゃくり構造(
図2、
図8参照)が形成されている。第2扉体6Bの戸尻側において、第2扉体6Bの戸尻側縦框61Bが固定パネル5Bの戸先側縦框50Bに重なっており、かつ、戸尻側縦框61Bと戸先側縦框50Bの隙間にはあいじゃくり構造(
図2、
図8参照)が形成されている。
【0041】
本実施形態では、
図8に示すように、第1扉体6Aの戸先側部位と第2扉体6Bの戸先側部位から召し合わせ部が形成されており、召し合わせ部が呑み込み部となっている。より具体的には、第1扉体6Aの戸先側縦框60Aには高さ方向に亘って凸部600Aが形成されており、第2扉体6Bの戸先側縦框60Bには高さ方向に亘って凹部600Bが形成されており、開口部全閉時には、第1扉体6Aの戸先側縦框60Aの凸部602が、第2扉体6Bの戸先側縦框60Bに形成された凹部600B内に呑み込み寸法Lで納まるようになっている。
【0042】
本実施形態では、扉体下がり量規制部9によって、第1扉体6A、第2扉体6Bの下がり量を規制することで、全閉姿勢にある第1扉体6Aの戸先側の高さと戸尻側の高さに差が出るような場合、および/あるいは、全閉姿勢にある第2扉体6Bの戸先側の高さと戸尻側の高さに差が出るような場合であっても、開口部全閉時における第1扉体6Aおよび/あるいは第2扉体6Bの過度の傾き(正面視において第1扉体6Aの凸部600Aと第2扉体6Bの凹部600Bから形成される召し合わせ部に隙間が形成されるような傾き)を規制することができ、第1扉体6Aの戸先側部位の凸部600Aが高さ方向に亘って第2扉体6Bの戸先側部位の凹部600B内に納まることを維持し、正面視において第1扉体6Aの凸部600Aと第2扉体6Bの凹部600Bから形成される召し合わせ部に屋内外を貫通する隙間が形成されることを防止する。
【0043】
図9は、扉体の最大下がり量と扉体の戸先側部位の呑み込み寸法との関係を説明する模式図である。
図9において、第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットの間隔をA、戸先側の第1吊り車ユニットから扉体の戸先側端縁までの距離をB、扉体の高さ寸法をC、扉体の最大下がり量をD、扉体の最大傾き時における扉体の下端の移動幅をSとする。本実施形態(
図1~
図4に示す片引きタイプの引戸、及び、
図7、
図8に示す引き分けタイプの引戸)では、第1吊り車ユニットおよび第2吊り車ユニットは共に2つのローラを備えているが、第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットの間隔Aとしては、例えば、第1吊り車ユニットのアームの回動中心と第2吊り車ユニットのアームの回動中心間の距離を用いることができる。
【0044】
(ア)
図9左図において、式(1)に示すように、移動幅Sは、S=X+Yである。
(イ)
図9の右図より、点αと点βの間隔=Eとすると、式(2)に示すように、X=(A+B)-Eである。
(ウ)
図9の右図において、斜辺A+B、短辺{(A+B)/A}×D、長辺Eからなる直角三角形について考えると、間隔Eは、式(3)のように表すことができる。
(エ)
図9左図の2つの直角三角形から、式(4)に示すように、Y=(C/A)×Dである。
(オ)Xは、A+Bに対してDが十分に小さい時には、X≒0とみなすことができ、実際、DはA+Bに対して十分に小さい。
(カ)よって、式(5)に示すように、S≒(C/A)×Dである。
【0045】
例えば、第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットの間隔A=750mm、戸先側の第1吊り車ユニットから扉体の戸先側端縁までの距離B=150mm、扉体の高さ寸法C=2000mm、扉体の最大下がり量D=5mmとすると、X=0.02mm、 Y=13.33mm、となり、扉体の下端の移動幅S=13.35mmとなる。X≒0とみなすと、扉体の下端の移動幅S≒13.33mmである。扉体の最大下がり量D=2mmとすると、X≒0、Y=5.33mmとなり、扉体の下端の移動幅S≒5.33mmである。
【0046】
呑み込み寸法Lと最大下がり量Dは、扉体が下がることによる当該扉体の最大傾き時であっても、前記呑み込み部が高さ方向に亘って維持される(例えば、扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って凹部内に納まる)ような寸法に設定されている。
【0047】
片引き引戸において、
図9左図のように扉体が最も傾く場合は、戸先側の第1吊り車ユニットがDだけ下がって、戸尻側の第2吊り車ユニットの高さが変わらない場合である。また、逆の場合、具体的には、戸尻側の第2吊り車ユニットがDだけ下がって、戸先側の第1吊り車ユニットの高さが変わらない場合も、傾き角度(向きは異なる)は実質的に同じである。高さ寸法Cで、扉幅方向に間隔Aで離間する第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットを備えた扉体が片引き引戸を構成する場合には、呑み込み寸法Lは、L>(C/A)×Dを満たすように設定される。よって、片引き引戸の場合は、DとLは、L>S≒(C/A)×Dを満たすように設計すれば、扉体が下がることによる扉体の最大傾き時であっても、扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って凹部内に納まり、正面視において隙間が形成されることがない。上記例でD=2mmの場合には、L>5.33mmである。
【0048】
引分け引戸においては、第1扉体と第2扉体がそれぞれ逆方向に最も傾いた場合について考える必要がある。具体的には、第1扉体の戸先側の第1吊り車ユニットがDだけ下がって、戸尻側の第2吊り車ユニットの高さが変わらない場合と、第2扉体の戸先側の第1吊り車ユニットがDだけ下がって、戸尻側の第2吊り車ユニットの高さが変わらない場合の組み合わせについて考える必要がある。第1扉体の戸尻側の第2吊り車ユニットがDだけ下がって、戸先側の第1吊り車ユニットの高さが変わらない場合と、第2扉体の戸尻側の第2吊り車ユニットがDだけ下がって、戸先側の第1吊り車ユニットの高さが変わらない場合の組み合わせも同様である。よって、第1扉体と第2扉体の下端(あるいは、上端)がそれぞれ離間するようにSだけ移動した場合について考える必要があり、高さ寸法Cで、扉幅方向に間隔Aで離間する第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットを備えた第1扉体、第2扉体を構成する場合には、呑み込み寸法Lは、L>(C/A)×D×2を満たすように設定される。よって引分け引戸の場合は、DとLは、L>2S≒(C/A)×D×2満たすように設計すれば、第1扉体の戸先側部位と第2扉体の戸先側部位で形成される召し合わせ部において、正面視で隙間が形成されることがない。上記例でD=2mmの場合には、L>10.66mmである。
【0049】
上記実施形態は自動ドアに係るものであるが、本発明を、手動の引戸に適用することも可能である。上記実施形態では、1枚の扉体6を備えた片引き引戸を示したが、本発明を、いわゆる二重片引き引戸に適用することも可能である。上記実施形態では、2枚の扉体6A、6Bを備えた引き分け引戸を示したが、本発明を、いわゆる二重引き分け引戸に適用することも可能である。
[付記]
[概念1]
上端部に設けた吊り車ユニットがレールを走行することで開口部を開閉する扉体を備え、開口部全閉時には、前記扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って呑み込み部を形成するように納まっている、引戸において、
前記呑み込み部は、前記扉体の戸先側部位が戸先側縦枠に形成された凹部内に高さ方向に亘って納まること、あるいは、前記扉体の戸先側部位に高さ方向に亘って形成された凹部内に戸先側縦枠に形成された凸部が納まることで形成されており、
前記吊り車ユニットは、少なくとも1つのローラと、扉体下がり量規制部と、を備え、
前記ローラが前記レールと接触している通常状態において、前記扉体下がり量規制部は不動部材の部分から上方に所定距離だけ離間して位置しており、
前記ローラが火災時の熱によって溶解ないし変形して、前記扉体が所定距離だけ下がると、前記扉体下がり量規制部が前記不動部材の前記部分に当接することで、前記扉体の下がりを規制し、
前記扉体下がり量規制部は、前記扉体の下がり量を規制して開口部全閉時における当該扉体の過度の傾きを規制する扉体傾き規制手段を形成することで、高さ方向に亘って前記呑み込み部を維持し、正面視において扉体の戸先側に隙間が形成されることを防止する、
引戸。
[概念2]
前記扉体下がり量規制部は、ローラを除く要素であり、
前記不動部材は、前記レールを形成ないし支持するレール部材である、概念1に記載の引戸。
[概念3]
前記吊り車ユニットは、前記扉体の戸先側に位置する第1吊り車ユニットと、前記扉体の戸尻側に位置する第2吊り車ユニットと、を含み、
前記扉体下がり量規制部は、前記第1吊り車ユニット、前記第2吊り車ユニットのいずれか一方あるいは両方に設けてある、
概念1、2いずれか1項に記載の引戸。
[概念4]
前記吊り車ユニットは、開口幅方向に離間した2つのローラを備え、前記2つのローラを回転自在に支持するアームは、長さ方向の中間部位で上下方向に回動自在に支持されており、前記扉体下がり量規制部は、前記アームの長さ方向の中間部位に設けてある、
概念1~3いずれか1項に記載の引戸。
[概念5]
開口部全閉時に、前記扉体の前記戸先側部位あるいは前記凸部が呑み込み寸法Lで前記凹部内に納まっている場合に、扉体下がり量規制部は不動部材の部分から上方に距離Dだけ離間して位置しているとすると、
高さ寸法Cで、扉幅方向に間隔Aで離間する第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットを備えた扉体において、呑み込み寸法L及び距離Dは、L>(C/A)×Dを満たすように設定される、
概念1~4いずれか1項に記載の引戸。
[概念6]
前記引戸は、第1扉体と第2扉体からなる引き分け戸であって、
前記呑み込み部は、前記扉体の戸先側部位と前記戸先側縦枠から形成されることに代えて、前記第1扉体の戸先側部位と前記第2扉体の戸先側部位から形成されており、前記第1扉体の戸先側部位に形成された凸部が、前記第2扉体の戸先側部位に形成された凹部内に高さ方向に亘って納まることで形成されており、
開口部全閉時には、前記第1扉体の戸先側部位が高さ方向に亘って前記凹部内に納まることで前記呑み込み部が形成されており、
前記扉体下がり量規制部が前記不動部材の前記部分に当接して前記第1扉体および/あるいは前記第2扉体の下がりを規制し、前記第1扉体の前記戸先側部位が高さ方向に亘って前記凹部内に納まることで前記呑み込み部が維持される、
概念1~4いずれか1項に記載の引戸。
[概念7]
開口部全閉時に、前記第1扉体の戸先側部位に形成された前記凸部が呑み込み寸法Lで前記第2扉体の戸先側部位に形成された前記凹部内に納まっている場合に、第1扉体、第2扉体の扉体下がり量規制部が不動部材の部分から上方に距離Dだけ離間して位置しているとすると、
第1扉体、第2扉体が、高さ寸法Cで、扉幅方向に間隔Aで離間する第1吊り車ユニットと第2吊り車ユニットを備えている場合に、呑み込み寸法L及び距離Dは、L>(C/A)×D×2を満たすように設定される、
概念6に記載の引戸。
【符号の説明】
【0050】
1 戸先側縦枠
6 扉体
7 レール部材
70 レール
8 吊り車ユニット
80 樹脂製ローラ
81 アーム
9 扉体下がり量規制部
90 湾曲縁
D 最大下がり量
L 呑み込み寸法