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特開2024-24110膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024110
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/18 20150101AFI20240214BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20240214BHJP
   G03B 17/55 20210101ALI20240214BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20240214BHJP
   G03B 17/02 20210101ALI20240214BHJP
【FI】
G02B1/18
G02B1/115
G03B17/55
G02B7/02 D
G03B17/02
G02B7/02 E
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002454
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2019157769の分割
【原出願日】2019-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 章
(72)【発明者】
【氏名】馬場 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】杉目 孝行
(72)【発明者】
【氏名】篠原 秀樹
(57)【要約】
【課題】レンズを暖めるヒータの熱によってレンズ表面上の反射防止膜が悪影響を受けないようにする膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールを提供する。
【解決手段】本発明のレンズユニット11は、鏡筒12の物体側の端部に設けられるとともに、表面に反射防止膜30が形成されてなる膜付きレンズ13を有する。反射防止膜30は、第1の屈折率を有する第1の材料から形成される第1の膜と、第1の屈折率よりも高い第2の屈折率を有する第2の材料から形成される第2の膜とを交互に積層して成り、第1の材料および第2の材料はその耐熱衝撃性が500℃以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群と、このレンズ群が収納される鏡筒とを備えるレンズユニットであって、
前記鏡筒に収納された前記レンズ群の最も物体側の第1のレンズが膜付きレンズであり、
前記第1のレンズの像側に面する表面と前記第1のレンズにその像側で隣接する第2のレンズの物体側に面する表面との間にヒータが介挿され、
前記第1のレンズの物体側に面する表面には、親水膜が形成されていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記第1のレンズの表面には、第1の屈折率を有する第1の材料から形成される第1の膜と、第1の屈折率よりも高い第2の屈折率を有する第2の材料から形成される第2の膜とを交互に積層して成る反射防止膜が形成されることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記第1の材料がSiO2を主成分とし、前記第2の材料がSi3N4を主成分とすることを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記第1のレンズの物体側に面する表面上の前記反射防止膜上に親水膜が設けられることを特徴とする請求項2または3に記載のレンズユニット。
【請求項5】
請求項1~4に記載のレンズユニットを備えるとともに、前記レンズユニットにより形成される像を受光する位置に撮像素子が配置されていることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールに関し、特に、自動車等の車両に搭載される車載カメラに設けられ得る膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラのカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記構成のレンズユニット(カメラモジュール)は、車載カメラに限らず、様々な光学機器で使用され得るが、とりわけ、寒冷地で外部環境に晒される場合には、レンズの凍結やレンズへの着雪が想定し得るため、一般に融雪機能等を備えるようになっている。具体的には、例えば、図5に示されるように、鏡筒120内に収容保持されたレンズ群Lのうち最も物体側に位置されて鏡筒120から露出される(外部環境に晒される)第1のレンズ101を暖めるべく、第1のレンズ101の像側に面する表面101aと第1のレンズ101に隣接する第2のレンズ102の物体側に面する表面102aとの間にヒータ130、例えばPTC(positive temperature coefficient)ヒータを介挿するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-231993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなヒータ130を備えるレンズユニットでは、ヒータ130から発せられる熱がレンズ表面上の反射防止膜に悪影響を及ぼす場合がある。すなわち、第1の屈折率を有する蒸着材料から形成される第1の膜と、第1の屈折率よりも高い第2の屈折率を有する蒸着材料から形成される第2の膜とを交互に積層して成る一般的な反射防止膜では、多くの場合、セラミック材料(SiOやAlなど)やチタン系材料(TiOなど)が用いられ、例えば、第1の膜がSiOを主成分とする材料から成り、第2の膜がAlやTiOを主成分とする材料から成るが、そのような反射膜が特にヒータの熱を直接に受ける第1のレンズ101の表面に設けられる場合には、反射防止膜がヒータから熱を繰り返し受け続ける結果、膜構造の劣化を引き起こし、損傷を受け易くなる。
【0006】
特にセラミック材料は、比較的低い温度差であっても、長期間にわたって熱衝撃を繰り返し受けると、熱衝撃疲労により材質が劣化して亀裂等の損傷を生じることが知られており、そのため、ヒータ130によって第1のレンズ101の温度が一般に120℃程度にまでしか至らないとはいえ、そのような温度の熱を長期間にわたって繰り返し受ける反射防止膜のセラミック材料は、耐熱衝撃性が高いSiOは別として、この温度を上回る耐熱衝撃性を有するAlなどにおいてさえ、表面にクラック等が発生することが避けられなくなる。そのようなクラックは、レンズユニットの光学特性に悪影響を及ぼし得るため、確実に防止されなければならない。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、レンズを暖めるヒータの熱によってレンズ表面上の反射防止膜が悪影響を受けないようにする膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、鏡筒の物体側の端部に設けられるとともに、表面に反射防止膜が形成されてなる膜付きレンズであって、
前記反射防止膜は、第1の屈折率を有する第1の材料から形成される第1の膜と、第1の屈折率よりも高い第2の屈折率を有する第2の材料から形成される第2の膜とを交互に積層して成り、
前記第1の材料および前記第2の材料は、その耐熱衝撃性が500℃以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明者らは、長期間にわたって繰り返しレンズを加温する融雪用ヒータがレンズ上の反射防止膜に悪影響を与える原因として、反射防止膜を形成する材料の耐熱衝撃性が大きく関与していることを突き止め、様々な実験を繰り返した結果、特に例えば120℃程度までレンズを加温する融雪用ヒータにおいては、特に、反射防止膜が、第1の屈折率を有する第1の材料から形成される第1の膜と、第1の屈折率よりも高い第2の屈折率を有する第2の材料から形成される第2の膜とを交互に積層して成る場合に、第1および第2の材料の耐熱衝撃性が500℃以上であれば、反射防止膜がヒータの熱によって経時的劣化を引き起こして損傷に至ることを防止でき、膜強度を所望の強度に維持できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の上記構成によれば、反射防止膜を形成する第1および第2の材料の耐熱衝撃性が500℃以上であるため、この反射防止膜を伴う上記膜付きレンズがヒータ(特に120℃程度までレンズを加温する融雪用ヒータ)と共に使用されてヒータからの熱を長期間にわたって繰り返し受けても、反射防止膜に悪影響が及ぶことを防止できる。これは、特に、比較的低い温度差であっても、長期間にわたって熱衝撃を繰り返し受けると、熱衝撃疲労により材質が劣化して亀裂等の損傷を生じ得るセラミック材料を第1および第2の材料として使用する場合に有益となり得る。
【0011】
なお、上記構成において、材料の耐熱衝撃性は、JIS R1648:2002に規定される「ファインセラミックスの熱衝撃試験方法」に準じて評価測定されるものとする。また、上記構成において、反射防止膜は、膜付きレンズの少なくとも物体側に面する表面に設けられるが、膜付きレンズの像側に面する表面に設けられても構わない。さらに、上記構成において、膜付きレンズは、ガラス製であってもよく、あるいは、樹脂製であっても構わない。
【0012】
また、本発明の上記構成において、第1および第2の材料としてセラミック材料が使用される場合には、第1の材料がSiOを主成分とし、第2の材料がSiを主成分とすることが好ましい。これによれば、特に熱伝導率が良好なSiの使用により、ヒータの熱を効率良く伝えることができ、例えばヒータにより膜付きレンズの表面の雪を融かす場合には、その融雪時間を短くすることが可能となる。
【0013】
また、本発明の上記構成では、反射防止膜上に親水膜が設けられることが好ましい。このように、反射防止膜上に撥水膜ではなく親水膜を設けると、特に膜付きレンズが融雪用ヒータと共に使用されて該ヒータにより膜付きレンズの表面の雪を融かす場合において、親水膜の親水作用に起因して、撥水膜と比べ、融雪時間を短くできるとともに、膜付きレンズの視認性も高めることができる。すなわち、反射防止膜上に撥水膜を設けると、撥水作用下において水滴の球状化が促されるため、面積が小さい水滴をヒータにより加熱することとなって、伝熱面積が制限されて加熱効率が下がり、融雪時間が長くなるが、反射防止膜上に親水膜を設けると、親水作用下においてレンズ面に付着する細かい水滴が表面自由エネルギーの高い親水膜上にわたって拡がって薄い水膜となるため、面積が大きい水膜をヒータにより加熱することとなって、伝熱面積が拡大して加熱効率が上がり、融雪時間を短くすることができる。また、親水膜によれば、視認性を低下させる水滴を膜状に広げるため、視認性を高めることもできる。
【0014】
なお、親水膜は、例えば、テーピングによるマスキングを伴ってまたは伴うことなく、蒸着、塗布、スプレー、ディッピング法等によって形成することもできるが、膜の密着強度を高めるという観点では、親水膜を蒸着によって形成することが好ましい。特に、反射防止膜上に親水膜を蒸着によって設けると、とりわけ、レンズがガラスレンズである場合に、そのレンズ表面に対する親水膜の密着性改善に寄与し得る。すなわち、一般に、レンズ面上に直接に親水膜を形成する場合には、レンズ面と親水膜との密着性を高めるために、親水膜全体の組成をレンズのそれに適合させる必要があり、手間がかかるとともに、コストもかかるが、本発明の上記構成のようにレンズ表面上に反射防止膜を介して親水膜を形成する場合には、反射防止膜の一般的な成分であるSiOが反射防止膜と親水膜との界面に介在することとなるため、親水膜と反射防止膜との密着性に関する相性が良好となり、したがって、反射防止膜とガラス面との間の界面でのみ密着性向上のための組成改質等を行なうだけで済む。そのため、大きな手間やコストがかからず、親水膜を常に同じ仕様のまま使用して、同じ密着力を安定して実現できる。
【0015】
また、上記構成において、親水膜とは、親水性を有する薄膜のことであり、親水膜に対する水滴の接触角が40度以下となるものをいう。これに対し、撥水膜とは、撥水性を有する薄膜のことであり、撥水膜に対する水滴の接触角が90度以上となるものをいい、この点で親水膜と区別される。この場合、接触角の測定は、静滴法(A・half-angle・Method)を用いるものとし、膜の形成されたレンズ面に、レンズ面の影響を受けにくいように2.5マイクロリットルの水滴を滴下し、液滴の左右端点を結ぶ曲面は直線と見做して、水滴の接触角を測定するものとする。
【0016】
また、本発明は、複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群と、このレンズ群が収納される鏡筒とを備えるレンズユニットであって、
前記鏡筒の物体側の開口部に上記構成の膜付きレンズが設けられ、この膜付きレンズの像側に面する表面と前記膜付きレンズに隣接するレンズの物体側に面する表面との間にヒータが介挿されていることを特徴とする。
【0017】
このように、上記構成の膜付きレンズは、ヒータと共に使用される場合に、その本来の特徴を発揮し、前述した優れた作用効果を奏することができる。
なお、本発明の上記構成において、「ヒータ」としては、例えば、PTC(positive temperature coefficient)ヒータを挙げることができる。また、上記構成では、ヒータと隣接接触する膜付きレンズがガラスレンズの場合、その像側に面する表面に、遮光、ゴースト防止のための墨塗り処理が施されてもよい。
【0018】
また、本発明は、前記レンズユニットを備えるカメラモジュールも提供する。このようなカメラモジュールも前述の膜付きレンズおよびレンズユニットと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反射防止膜を形成する第1および第2の材料の耐熱衝撃性が500℃以上であるため、この反射防止膜を伴う膜付きレンズがヒータと共に使用されてヒータからの熱を長期間にわたって繰り返し受けても、反射防止膜に悪影響が及ぶことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ヒータを備える本発明の一実施の形態に係るレンズユニットの概略断面図である。
図2図1のレンズユニットの膜付きレンズの反射防止膜の積層構造を模式的に示す概略図である。
図3】(a)は、反射防止膜上に撥水膜が設けられた場合におけるヒータ熱の伝わり方を模式的に示す概略図、(b)は、反射防止膜上に親水膜が設けられた場合におけるヒータ熱の伝わり方を模式的に示す概略図である。
図4図1のレンズユニットを備えるカメラモジュールの概略断面図である。
図5】ヒータを備える従来のレンズユニットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、図1図5において複数のレンズについては第1のレンズを除きハッチングを省略している。
【0022】
図1は、ヒータを備える本発明の一実施の形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施の形態のレンズユニット11は、例えば金属製の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側から、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、および、第4のレンズ16から成る4つのレンズと、絞り部材22とを備えている。絞り部材22は、本実施の形態では、第3のレンズ15と第4のレンズ16との間に介挿されており、透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0023】
鏡筒12の内側収容空間S内に組み込まれて収容保持される複数のレンズ13,14,15,16は、それぞれの光軸を一致させた状態で積み重ねられて配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。特に、本実施の形態では、第1のレンズ13が球面ガラスレンズであり、第2のレンズ14、第3のレンズ15、および、第4のレンズ16がそれぞれ樹脂製のレンズであるが、これに限定されない。例えば第2~第4のレンズがガラス製のレンズであってもよく、第1のレンズおよび鏡筒12が樹脂によって形成されてもよい。なお、鏡筒12の物体側の端部(開口部)に設けられる第1のレンズ13は、後述するように、反射防止膜および親水膜を伴う膜付きレンズとなっている。したがって、以下では、第1のレンズ13を膜付きレンズと称する場合もある。なお、第2のレンズ14、第3のレンズ15、および、第4のレンズ16にも反射防止膜は設けられている。
【0024】
鏡筒12の物体側の端部(図1において上端部)にはキャップ23が螺着されており、このキャップ23によってレンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ13が鏡筒12の物体側の端部に固定されている。無論、鏡筒12が樹脂により形成されている場合には、鏡筒12の物体側の端部を径方向内側にカシメることによって第1のレンズ13が鏡筒12の物体側の端部に固定されてもよい。
【0025】
また、鏡筒12の像側の端部(図1において下端部)には、第4のレンズ16よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24と前記キャップ23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15,16と絞り部材22とが光軸方向で保持固定されている。
【0026】
最も物体側に位置される第1のレンズ13の像側に面する表面13bの外周環状部位と鏡筒12との間にはシール部材としてのOリング26が設けられ、これらの間を鏡筒12の物体側端部で封止した状態となっている。これにより、レンズユニット11の物体側の端部から鏡筒12内に水や塵埃等の微粒子が浸入するのを防止している。なお、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鏡筒12の外周面に鍔状に設けられている。
【0027】
また、本実施の形態では、鏡筒12から露出される(外部環境に晒される)第1のレンズ13を必要に応じて(融雪等を目的として)暖めるべく、第1のレンズ13の像側に面する表面13bと第1のレンズ13に隣接する第2のレンズ14の物体側に面する表面14aとの間に環状のヒータ40が介挿されている。特に、本実施の形態では、ヒータ40がPTC(positive temperature coefficient)ヒータとして形成され、例えば120℃程度まで第1のレンズ13を加温する。なお、ヒータ40は導線73を介して図示しない電源から給電される。
【0028】
また、本実施の形態では、ガラス製の第1のレンズ13の物体側に面する表面13aおよび像側に面する表面13bの凹面部位にそれぞれ反射防止膜30が設けられている。これらの反射防止膜30は、第1のレンズ13の少なくとも有効径の範囲にわたって設けられる。また、物体側に面するレンズ表面13aに設けられる反射防止膜30上にはさらに親水膜32が設けられる。なお、明確に図示しないが、ヒータ40と隣接接触する第1のレンズ13の像側に面する表面13bの部位には、遮光、ゴースト防止のための墨塗り処理が施されている。
【0029】
図2に明確に示されるように、膜付きレンズとしての第1のレンズ13の表面13a,13b上に設けられる反射防止膜30(図2には、表面13a上に設けられる反射防止膜30が親水膜32と共に描かれている)は、第1の屈折率を有する第1の材料としてのSiOから形成される或いはSiOを主成分とする第1の材料から形成される第1の膜30bと、第1の屈折率よりも高い第2の屈折率を有する第2の材料としてのSiから形成される或いはSiを主成分とする第2の材料から形成される第2の膜30aとを交互に積層して成り、第1のレンズ13の表面13a,13b上に例えば蒸着によって形成される。ここで、例えば、第1の材料は屈折率1.46の低屈折率材料であり、第2の材料は屈折率2.02の高屈折率材料である。この場合、第1の材料であるSiOは、1000℃を超える耐熱衝撃性を有しており、また、第2の材料であるSiは、600~650℃の耐熱衝撃性を有している。また、各膜30a,30bの膜厚はそれぞれ、SiO層(第1の膜30b)が5nm~150nm、Si層(第2の膜30a)が5nm~100nmとなっている。特に、本実施の形態の反射防止膜30は、全体として6つの層が積層されて成り、全厚が240nmに設定されている。
なお、図2では、レンズ13の表面13aの次に第2の膜30a、その次に第1の膜30bの順番で積層されているが、第2の膜30aと第1の膜30bとが入れ替わっても構わない。具体的には、レンズ表面13a/第1の膜30b/第2の膜30a/第1の膜30b/第2の膜30a/・・・として最適な厚さとして構成しても構わない。
【0030】
また、図4は、フィルタ100が装着された以上のような構成を成すレンズユニット11を有する本実施の形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0031】
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、外側フランジ部25上に載置された状態で上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12aとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0032】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態によれば、反射防止膜30を形成する第1および第2の材料(SiO,Si)の耐熱衝撃性が500℃以上であるため、この反射防止膜30を伴う膜付きレンズ13がヒータ40からの熱を長期間にわたって繰り返し受けても、反射防止膜30に悪影響が及ぶことを防止できる。これは、特に、本実施の形態のように、比較的低い温度差であっても、長期間にわたって熱衝撃を繰り返し受けると、熱衝撃疲労により材質が劣化して亀裂等の損傷を生じ得るセラミック材料を第1および第2の材料として使用する場合に有益となり得る。
【0034】
また、本実施の形態では、反射防止膜30の第2の材料として熱伝導率が良好なSiを使用しているため、ヒータ40の熱を効率良く伝えることができ、ヒータ40により膜付きレンズ13の表面の雪を融かす場合には、その融雪時間を短くすることが可能となる。
【0035】
また、本実施の形態では、反射防止膜30上に撥水膜ではなく親水膜32が設けられているため、親水膜32の親水作用に起因して、撥水膜と比べ、融雪時間を短くできるとともに、膜付きレンズ13の視認性も高めることができる。すなわち、図3の(a)に示されるように反射防止膜30上に撥水膜150を設けると、撥水作用下において水滴80の球状化が促されるため、面積が小さい水滴80をヒータ40により加熱する(図3には、熱の伝わり方向が矢印で示される)こととなって、伝熱面積が制限されて加熱効率が下がり、融雪時間が長くなるが、図3の(b)に示されるように反射防止膜30上に親水膜32を設けると、親水作用下においてレンズ13の表面に付着する細かい水滴が表面自由エネルギーの高い親水膜上にわたって拡がって薄い水膜82となるため、面積が大きい水膜82をヒータ40により加熱することとなって、伝熱面積が拡大して加熱効率が上がり、融雪時間を短くすることができる。また、親水膜32によれば、視認性を低下させる水滴80を膜状に広げるため、視認性を高めることもできる。
【0036】
以上、特定の実施の形態に関連して本発明を説明してきたが、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、鏡筒などの形状、反射防止膜、ヒータの形成形態は、前述した実施の形態に限定されない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0037】
11 レンズユニット
12 鏡筒
13 第1のレンズ
14 第2のレンズ
30 反射防止膜
32 親水膜
40 ヒータ
300 カメラモジュール
L レンズ群
O 光軸
図1
図2
図3
図4
図5