(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024114
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】RETを結合するヒト抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240214BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240214BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240214BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240214BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240214BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240214BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240214BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240214BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240214BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240214BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28
C07K16/18
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P25/04
A61P35/00
A61P11/02
A61P11/00
A61P17/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K47/68
C12P21/08 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024002528
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2021559435の分割
【原出願日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】62/832,218
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ダリー
(72)【発明者】
【氏名】ギャビン サーストン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス パパドプロス
(57)【要約】
【課題】RETを結合するヒト抗体およびその使用方法の提供。
【解決手段】本発明は、RET受容体チロシンキナーゼに結合する完全ヒト抗体、抗体を含む組成物および使用方法を提供する。本発明の抗体は、がん性状態およびがんに関連する疼痛を含む、RET受容体チロシンキナーゼ遺伝子もしくはその再配列された形態の発現、活性化、もしくはシグナル伝達に関連する疾患、障害、もしくは状態を処置するために、またはRETの発現、活性化、もしくはシグナル伝達に少なくとも部分的に起因する他の状態に関連する疼痛を軽減するために有用である。RETに特異的な抗体は、腫瘍細胞成長または腫瘍細胞増殖を遅らせるために、ならびにがんおよび他の状態に関連する疼痛を軽減するためにも有用であり得る。抗体はまた、RET活性化またはシグナル伝達に関連する疾患、障害、または状態の診断にとっても有用であり得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RET(トランスフェクション中の再配列;rearranged during transfection)受容体チロシンキナーゼに特異的に結合するヒト抗体およびヒト抗体の抗原結合性断片、ならびにこれらの抗体を含む組成物、ならびにこれらの抗体を使用する治療方法に関する。
【0002】
配列表
配列表の公式コピーは、ファイル名10582WO01_SeqList_ST25.TXT、作成日2020年4月9日、およびサイズ約168キロバイトのASCIIフォーマット配列表として、本明細書と同時にEFS-Webを介して電子提出されている。このASCIIフォーマット文書に含有される配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
RET(トランスフェクション中の再配列)受容体チロシンキナーゼは、末梢および中枢神経系ならびに腎臓を含む多様な組織において発生の間に発現される(Arighi, E. et al, (2005), Cytokine Growth Factor Rev 16:441-467; Borrello, MG, et
al, (2013), Expert Opin. Ther. Targets, 17(4):403-419; Golden, JP, et
al. (1998), J. Comp. Neurol. 398:139-150; Golden, JP, et al. (1999),
Exp. Neurol. 158:504-528)。これはまた、神経堤由来細胞においても発現され、細胞の増殖、遊走、および生存を調節する(Coulpier, M. et al, (2002), J Biol Chem, 277:1991-1999; Golden, JP, et al. (1998), J. Comp. Neurol. 398:139-150; Golden, JP, et al. (1999), Exp. Neurol. 158:504-528)。RETノ
ックアウトマウスは、腎無形成を示し、消化管における腸ニューロンを欠如する。GFRα1およびGDNFノックアウトマウスでは共に非常に類似の表現型が観察され、発生の間のRETシグナル伝達の活性化におけるGDNF/GFRα1の主要な役割を確認する。
【0004】
RETは、GDNF、アルテミン、ニュールツリン、およびパーセフィンを含むグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)ファミリーのリガンドのシグナル伝達受容体である。GDNFファミリーリガンドは、GDNFファミリーα受容体GFRα(1-4)として公知の4つのGPI連結共受容体の1つの存在下に限ってRETと相互作用し、これを活性化する(Baloh, RH, et al. (2000), Curr Opin Neurobiol 10:103-110; Borrello, MG, et al (2013), Expert Opin. Ther. Targets, 17(4):403-419)。
共受容体GFRα1、GFRα2、GFRα3、およびGFRα4の主なリガンドはそれぞれ、GDNF、ニュールツリン(NRTN)、アルテミン(ARTN)、およびパーセフィン(PSPN)であるが、リガンドおよび共受容体との間のクロストークがin vitroで観察されている。
【0005】
腫瘍形成のドライバーとしてのRETの役割は、多発性内分泌腫瘍症候群MEN2AおよびMEN2Bならびに家族性甲状腺髄様がんにおいてしばしば観察される活性化変異によって確立されている(Mulligan, LM, et al, (1994), Nat. Genet. 6:70-74)
。さらに、散発性甲状腺髄様がんの大きいパーセンテージが、RETにおいて体細胞活性化変異を含有する(Fusco, A. et al, (1987), Nature 328:170-172; Grieco, M. et al, (1990), Cell 60:557-563)。これらの変異は、キナーゼドメインまたは
細胞外ドメインで起こり得、リガンド非依存的RET二量体化および活性化を促進すると考えられる不対システインをもたらす。このように、ヒトにおけるRETの腫瘍形成能は、遺伝子研究を介して明白に確立されている。
【0006】
内分泌がんにおけるその役割に加えて、最近の研究から、RETは、乳がんにおける潜在的治療標的として同定された。RETおよびGFRα1は、乳がん細胞株および一次ヒト乳がん試料において発現される。興味深いことに、RETおよびGFRα1の発現は、in vitroでエストロゲンによって誘導することができる。この知見と一貫して、RETおよびGFRα1は、乳がんのエストロゲン受容体陽性サブセットにおいて優先的に発現される。さらに、GDNF誘導RETシグナル伝達は、エストロゲン受容体陽性乳がん細胞の足場非依存性成長を促進し、これらの細胞の成長および生存に対するエストロゲンの効果を増強し、これらの2つの経路間の機能的な協調を示す。このように、RETシグナル伝達は、乳がん細胞における発癌性の表現型の重要なドライバーであるように思われる(Wang, C. et al (2012), Breast Cancer Res Treat 133(2):487-500;
Stine, ZE, et al, (2011), Human Molecular Genetics 20(19):3746-3756)
。
【0007】
RETの活性化は、GDNFのGFRα1に対する結合によって開始される。次いで、GDNF/GFRα1複合体はRETに結合し、受容体の二量体化および活性化をもたらす。甲状腺髄様がん患者において活性を示す薬剤(バンデタニブ)を含む、RETを阻害する能力を有するいくつかの低分子が存在する(Wells, SA et al, (2012), J Clin Oncol 30:134-141; Leboulleux, S. et al, (2012), Lancet Oncol 13:897-905を参照されたい)。RETに結合し、RETシグナル伝達を阻害する他の低分子が同
定されている(Borrello, MG, et al, (2013), Expert Opin. Ther. Targets, 17(4):403-419)。残念なことに、特異性の欠如のために、これらの化合物のいくつかは
臨床試験において有害事象を示し、さらなる開発ができなかった。
【0008】
今日まで、RETを発現する腫瘍を処置するための臨床状況における使用のための治療的抗RETモノクローナル抗体に関する報告はなかった。本明細書に報告される研究は、RETに結合し、RETの、その対応する共受容体と複合体を形成した1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーとの相互作用を防止する完全ヒトモノクローナル抗体の生成について記載する。
【0009】
RET細胞外領域のドメイン構造を
図1に示し、これは4つのカドヘリン様ドメイン、その後に続くシステインリッチドメインからなる(Borrello, MG, et al (2013), Expert Opin. Ther. Targets, 17(4):403-419を参照されたい)。活性なRETシグナル伝達複合体の構造は解明されていないが、GDNF/GFRα1複合体は、第4のカドヘリン様ドメインおよびシステインリッチドメインを含む複数の部位でRET細胞外ドメインと接触するように思われる。このため、RETの複数のドメインを対象とする抗体は、潜在的にシグナル伝達を阻害することができるであろう。RETに対する抗体は、US6861509およびUS2009/0136502に記載されており、見出され得る。
しかし、RETが腫瘍細胞の成長および増殖において果たす役割を考慮すると、およびこの分子を標的とするために承認された薬剤がほとんどないという事実を考慮すると、RETの阻害剤、例えば非常に強力で、臨床での使用の承認を妨げる有害効果を生じないRETに特異的に結合するヒト抗体が依然として必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6861509号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0136502号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、RETに特異的に結合し、RETの、その対応する共受容体(それぞれ、GFRα1、GFRα2、GFRα3、およびGFRα4)と複合体を形成した1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーリガンド(GDNF、ニュールツリン、アルテミン、およびパーセフィン)との結合または相互作用を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)またはその抗原結合性断片を提供する。一実施形態では、本明細書に記載されるヒト抗RET抗体は、RETの、GDNF/GFRα1複合体との相互作用を防止する。関連する実施形態では、本明細書に記載されるヒト抗RET抗体は、RETの、アルテミン/GFRα3複合体との相互作用を防止する。関連する実施形態では、本明細書に記載されるヒト抗RET抗体は、RETの、ニュールツリン/GFRα2複合体、またはパーセフィン/GFRα4複合体との相互作用を防止する。
【0012】
本明細書に記載される研究は、これらの抗体がリガンド依存的RETシグナル伝達をモジュレートすることが可能であることを実証している。ある特定の実施形態では、リガンド依存的RETシグナル伝達に拮抗する抗体が同定されている。
【0013】
RETが多発性内分泌腫瘍症候群の発生ならびに他のがんにおいて果たす役割を考慮すると、RETのシグナル伝達活性に拮抗する/それを阻害する本発明の抗体を、腫瘍細胞の成長/増殖を阻害するためにこれらの腫瘍症候群およびがんの処置において使用することができる。本発明のRETアンタゴニスト抗体を使用して処置され得るがん性状態の例としては、甲状腺腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、皮膚がん、乳がん、および白血病が挙げられるがこれらに限定されない。本発明のアンタゴニスト抗RET抗体を使用して処置可能であり得る甲状腺腫瘍は、甲状腺乳頭癌(PTC)または甲状腺髄様癌(MTC)を含み得る。本発明のアンタゴニスト抗RET抗体を使用して処置可能であり得る甲状腺髄様癌は、MEN2A、MEN2B、および家族性甲状腺髄様癌(FMTC)症候群からなる群より選択される遺伝性MTCを含み得るか、または甲状腺髄様癌は散発性MTCであり得る。本発明の抗体はまた、これらのがん性状態に関連する疼痛、ならびにRET活性またはシグナル伝達が役割を果たし得る他の疾患、障害、または状態に関連する疼痛を処置するためにも使用され得る。
【0014】
抗体は、独立した治療として使用され得るか、またはRET発現に関連する疾患もしくは障害を処置するために有用な第2の薬剤と併せて使用され得る。ある特定の実施形態では、抗体は、疾患もしくは障害を処置するために、または疾患もしくは障害に関連する少なくとも1つの症状を改善するために、第2の薬剤と併せて治療的に与えられ得る。抗体がRET活性またはシグナル伝達を阻害し、例えばがん性状態を処置するための使用が検討中である場合、第2の薬剤は化学療法剤もしくは骨髄回復剤であり得るか、または腫瘍を処置するための放射線療法であり得る。抗体がRET活性またはシグナル伝達を阻害し、ある特定の状態に関連する疼痛を処置するために検討中である場合、および処置が第2の鎮痛剤の使用を認めている場合、第2の薬剤は、その状態に関連する疼痛を軽減するためにも有用である任意の薬剤、例えばアスピリンもしくは別のNSAID、モルヒネ、ステロイド(例えば、プレドニゾン)、神経成長因子(NGF)阻害剤(例えば、低分子NGFアンタゴニストもしくは抗NGF抗体)、抗Nav1.7抗体もしくはNav1.7の低分子阻害剤、Nav1.8アンタゴニスト(例えば、抗Nav1.8抗体もしくはNav1.8の低分子阻害剤)、Nav1.9アンタゴニスト(例えば、抗Nav1.9抗体もしくはNav1.9の低分子阻害剤)、サイトカイン阻害剤(例えば、インターロイキン-1(IL-1)阻害剤(例えば、リロナセプト(「IL-1 trap」)もしくはアナキンラ(KINERET(登録商標))、低分子IL-1アンタゴニストもしくは抗IL-1抗体;IL-18阻害剤(例えば、低分子IL-18アンタゴニストもしくは抗IL-18抗体);IL-6もしくはIL-6R阻害剤(例えば、低分子IL-6アンタゴニスト、抗IL-6抗体、もしくは抗IL-6受容体抗体)、カスパーゼ-1の阻害剤、p38、IKK1/2、CTLA-4Ig、またはオピオイドであり得る。
【0015】
本発明の抗体は、全長(例えば、IgG1またはIgG4抗体)であり得るか、または抗原結合性部分(例えば、Fab、F(ab’)2、またはscFv断片)のみを含んでもよく、機能性に影響を及ぼすように、例えば残存エフェクター機能を排除するように改変してもよい(Reddy et al., (2000), J. Immunol. 164:1925-1933)。
【0016】
したがって、第1の態様では、本発明は、RET(トランスフェクション中の再配列)受容体チロシンキナーゼに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片であって、抗体が、以下の特徴:
(a)完全ヒト抗体であること;
(b)表面プラズモン共鳴によって測定した場合に約1.0×10-7M~約1.0×10-12Mの範囲のKDを示すこと;
(c)RETの、その対応する共受容体(それぞれGFRα1、GFRα2、GFRα3、およびGFRα4)と複合体を形成した1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーリガンド(GDNF、ニュールツリン、アルテミン、およびパーセフィン)との結合または相互作用を阻害または遮断すること;
(d)GDNF、ニュールツリン、アルテミン、およびパーセフィンから選択される1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーリガンドによって媒介されるRETシグナル伝達を阻害すること;
(e)RET受容体に対する抗体の結合後のRET内部移行/分解を増強すること;
(f)配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)を含むこと;または(g)配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含むこと
のうちの1つまたは複数を有する、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0017】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの結合を約100pM~約7.0nMの範囲のIC50値で遮断する。
【0018】
関連する実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの結合を約250pM~約5.2nMの範囲のIC50値で遮断する。
【0019】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの結合を約40%~約100%遮断する。
【0020】
関連する実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの結合を約57%~約97%遮断する。
【0021】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、GDNF媒介RETシグナル伝達を約50pM~100nMより大きい値の範囲のIC50値で阻害する。
【0022】
関連する実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、GDNF媒介RETシグナル伝達を約143pM~100nMより大きい値の範囲のIC50値で阻害する。
【0023】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、GDNF媒介RETシグナル伝達を約40%~約100%阻害する。
【0024】
関連する実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、GDNF媒介RETシグナル伝達を約60%~約100%阻害する。
【0025】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、アルテミン媒介RETシグナル伝達を約100pM~約500nMの範囲のIC50値で阻害する。
【0026】
関連する実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、アルテミン媒介RETシグナル伝達を約250pM~約341nMの範囲のIC50値で阻害する。
【0027】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、アルテミン媒介RETシグナル伝達を約57%~約100%阻害する。
【0028】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)を含む。
【0029】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む。
【0030】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR);ならびに配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む。
【0031】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、および290/298からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0032】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択されるHCVRアミノ酸配列内に含有される3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)を含むHCVR;ならびに配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるLCVRアミノ酸配列内に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含むLCVRを含む。
【0033】
HCVRおよびLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法および技術は当技術分野で周知であり、本明細書に開示される明記されたHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するために使用することができる。CDRの境界を同定するために使用することができる例示的な慣例としては、例えば、Kabatの定義、Chothiaの定義、およびAbMの定義が挙げられる。一般的に、Kabatの定義は、配列の可変性に基づき、Chothiaの定義は、構造ループ領域の位置に基づき、AbMの定義はKabatとChothiaのアプローチの間の妥協案である。例えば、Kabat, "Sequences of Proteins of Immunological Interest," National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991); Al-Lazikani et al., (1997), J. Mol. Biol. 273:927-948;およびMartin et al., (1989), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:9268-9272を参照されたい。公共のデータベースもまた、抗体内のCDR配
列を同定するために利用可能である。
【0034】
一実施形態では、RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は:
(a)配列番号4、20、36、52、68、84、100、116、132、148、164、180、196、212、228、244、260、276、および292からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b)配列番号6、22、38、54、70、86、102、118、134、150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c)配列番号8、24、40、56、72、88、104、120、136、152、168、184、200、216、232、248、264、280、および296からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d)配列番号12、28、44、60、76、92、108、124、140、156、172、188、204、220、236、252、268、284、および300からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e)配列番号14、30、46、62、78、94、110、126、142、158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;ならびに
(f)配列番号16、32、48、64、80、96、112、128、144、160、176、192、208、224、240、256、272、288、および304からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメイン
を含む。
【0035】
一実施形態では、本発明は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、および290/298からなる群より選択される重鎖および軽鎖配列対を含む抗体または抗原結合性断片と、RETに対する特異的結合に関して競合する、RETに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0036】
一実施形態では、本発明は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、および290/298からなる群より選択される重鎖および軽鎖配列対を含む抗体によって認識されるRET上の同じエピトープを結合する、RETに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0037】
一実施形態では、本発明は、RETに特異的に結合する完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片であって、以下の特徴:(i)配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有するHCVRを含むこと;(ii)配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有するLCVRを含むこと;(iii)配列番号8、24、40、56、72、88、104、120、136、152、168、184、200、216、232、248、264、280、および296からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有するHCDR3ドメイン;ならびに配列番号16、32、48、64、80、96、112、128、144、160、176、192、208、224、240、256、272、288、および304からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有するLCDR3ドメインを含むこと;(iv)配列番号4、20、36、52、68、84、100、116、132、148、164、180、196、212、228、244、260、276、および292からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有するHCDR1ドメインを含むこと;(v)配列番号6、22、38、54、70、86、102、118、134、150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有するHCDR2ドメイン;(vi)配列番号12、28、44、60、76、92、108、124、140、156、172、188、204、220、236、252、268、284、および300からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有するLCDR1ドメイン;(vii)ならびに配列番号14、30、46、62、78、94、110、126、142、158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有するLCDR2ドメイン;(viii)約1×10-7M~約1×10-12Mの範囲のKDを示すこと;(ix)GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの結合を約5.2nM未満のIC50値で遮断することが可能であること;または(x)リガンド依存的RETシグナル伝達を約143pM~100nMより大きい値の範囲のIC50値で約60~100%阻害する能力を実証することのうちの1つまたは複数を示す、完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0038】
第2の態様では、本発明は、RETに特異的に結合する抗体またはその断片をコードする核酸分子を提供する。本発明の核酸を有する組換え発現ベクター、およびそのようなベクターが導入されている宿主細胞もまた、抗体の産生を可能にする条件下で宿主細胞を培養すること、および産生された抗体を回収することによって抗体を産生する方法と同様に本発明によって包含される。
【0039】
一実施形態では、本発明は、配列番号1、17、33、49、65、81、97、113、129、145、161、177、193、209、225、241、257、273、および289からなる群より選択される核酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するその実質的に同一の配列によってコードされるHCVRを含む抗体またはその断片を提供する。
【0040】
一実施形態では、抗体またはその断片は、配列番号9、25、41、57、73、89、105、121、137、153、169、185、201、217、233、249、265、281、および297からなる群より選択される核酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するその実質的に同一の配列によってコードされるLCVRをさらに含む。
【0041】
一実施形態では、本発明はまた、配列番号7、23、39、55、71、87、103、119、135、151、167、183、199、215、231、247、263、279、および295からなる群より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列によってコードされるHCDR3ドメイン;ならびに配列番号15、31、47、63、79、95、111、127、143、159、175、191、207、223、239、255、271、287、および303からなる群より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列によってコードされるLCDR3ドメインを含む抗体または抗体の抗原結合性断片も提供する。
【0042】
一実施形態では、本発明は、配列番号3、19、35、51、67、83、99、115、131、147、163、179、195、211、227、243、259、275、および291からなる群より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列によってコードされるHCDR1ドメイン;配列番号5、21、37、53、69、85、101、117、133、149、165、181、197、213、229、245、261、277、および293からなる群より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列によってコードされるHCDR2ドメイン;配列番号11、27、43、59、75、91、107、123、139、155、171、187、203、219、235、251、267、283、および299からなる群より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列によってコードされるLCDR1ドメイン;ならびに配列番号13、29、45、61、77、93、109、125、141、157、173、189、205、221、237、253、269、285、および301からなる群より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列によってコードされるLCDR2ドメインをさらに含む抗体またはその断片を提供する。
【0043】
第3の態様では、本発明は、VH、DH、およびJH生殖系列配列に由来するヌクレオチド配列セグメントによってコードされるHCVR、ならびにVKおよびJK生殖系列配列に由来するヌクレオチド配列セグメントによってコードされるLCVRを含む、RETに特異的なヒト抗体または抗原結合性断片を特色とする。
【0044】
本発明は、改変されたグリコシル化パターンを有する抗体を包含する。一部の適用では、望ましくないグリコシル化部位を除去する改変、または例えば抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増加させるためのフコース部分の除去は、有用であり得る(Shield et al. (2002) JBC 277:26733を参照されたい)。他の適用では、補体依存性細胞傷害(
CDC)を改変するためにガラクトシル化の改変を行うことができる。
【0045】
第4の態様では、本発明は、RETに結合する少なくとも1つの単離された完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片、および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。一実施形態では、本発明は、RET上の同じエピトープに結合するかまたは2つの異なるエピトープに結合する2つの完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片、および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。本明細書に記載される抗体の任意の組合せを、そのような治療を必要とする患者集団において所望の結果を達成するために医薬組成物において使用してもよいと理解されたい。例えば、RETを認識および/または結合する2つの抗体を組成物において使用してもよい。
【0046】
一実施形態では、組成物は、RETを結合し、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、および290/298からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を有する抗体を含む。
【0047】
一実施形態では、医薬組成物は、RETを結合する少なくとも1つの抗体を含み、抗体は、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)アミノ酸配列のいずれか1つ内に含有される3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3);ならびに配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列のいずれか1つ内に含有される3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む。
【0048】
一実施形態では、本発明の抗体または本発明の1つもしくは複数の抗体を含有する組成物を使用して、細胞上に発現されるRETに関連する少なくとも1つの活性または機能を阻害することができる。一実施形態では、細胞は腫瘍細胞であり得る。一実施形態では、活性は細胞のシグナル伝達であり得る。
【0049】
一実施形態では、本発明は、本発明の抗体または抗体の抗原結合性断片と第2の治療剤との組合せである組成物を特色とする。
【0050】
第2の治療剤は、低分子薬、タンパク質/ポリペプチド、抗体、核酸分子、例えばアンチセンス分子、またはsiRNAであり得る。第2の治療剤は合成または天然由来であり得る。
【0051】
第2の治療剤は、本発明の抗体またはその断片と有利に組み合わせられる任意の薬剤であり得、例えば抗RET抗体ががん性状態を処置するために使用されるRETの阻害剤である場合、第2の薬剤は、化学療法剤、放射性核種、RETに特異的なsiRNA、RETに特異的な第2の抗体、低分子RET阻害剤、および骨髄回復剤、例えばG-CSF、GM-CSF、もしくはM-CSF、またはコロニー刺激もしくは骨髄回復活性を有する生物学的薬剤から選択され得る。ある特定の実施形態では、第2の治療剤は、本発明の抗体または抗体の抗原結合性断片に関連する副作用が起こり得る場合、そのような任意の起こり得る副作用を相殺または低減するために役立つ薬剤であり得る。ある特定の実施形態では、第2の治療剤は、疼痛および/または炎症によって特徴付けられるある特定の状態に関連する疼痛を減少させるために有用な薬剤であり得る。そのような第2の薬剤は、神経成長因子(NGF)阻害剤(例えば、低分子NGFアンタゴニストもしくは抗NGF抗体)、アスピリンもしくは別のNSAID、モルヒネ、ステロイド(例えば、プレドニゾン)、抗Nav1.7抗体もしくはNav1.7の低分子阻害剤、Nav1.8アンタゴニスト(例えば、抗Nav1.8抗体もしくはNav1.8の低分子阻害剤)、Nav1.9アンタゴニスト(例えば、抗Nav1.9抗体もしくはNav1.9の低分子阻害剤)、サイトカイン阻害剤(例えば、インターロイキン-1(IL-1)阻害剤(例えば、リロナセプト(「IL-1 trap」);Regeneron)、もしくはアナキンラ(KINERET(登録商標)、Amgen)、低分子IL-1アンタゴニストもしくは抗IL-1抗体;IL-18阻害剤(例えば、低分子IL-18アンタゴニストもしくは抗IL-18抗体);IL-6もしくはIL-6R阻害剤(例えば、低分子IL-6アンタゴニスト、抗IL-6抗体、もしくは抗IL-6受容体抗体)、カスパーゼ-1の阻害剤、p38、IKK1/2、CTLA-4Ig、またはオピオイドを含み得る。
【0052】
同様に、本発明の抗体および薬学的に許容される組成物は、併用治療において用いられ得る、すなわち抗体および薬学的に許容される組成物を、1つまたは複数の他の望ましい治療薬または医学的手順と同時に、その前に、またはその後に投与することができると認識される。併用レジメンにおいて用いるための治療(治療薬または手順)の特定の組合せは、所望の治療薬および/または手順の適合性、ならびに達成される所望の治療効果を考慮に入れる。同様に、用いられる治療は、同じ障害に関して所望の効果を達成し得る(例えば、抗体は、同じ障害を処置するために使用される別の薬剤と同時に投与され得る)か、またはそれらは異なる効果を達成し得る(例えば、任意の有害効果の制御)と認識される。本明細書で使用される場合、特定の疾患または状態を処置または防止するために通常投与される追加の治療剤は、処置される疾患または状態にとって適切である。
【0053】
低分子RET阻害剤が本発明の抗体と組み合わせられることが企図される場合、低分子RET阻害剤は、バンデタニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、カボザンチニブ、モテサニブ、RPI-1、PP-1およびNVP-AST478、セディラニブ、(AZD2171)、ゲフィチニブ、エルロチニブ、SU14813、バタラニブ、(BAY43-9006)、XL-647、XL-999、AG-013736、BIBF1120、TSU68、GW786034、AEE788、CP-547632、KRN951、CHIR258、CEP-7055、OSI-930、ABT-869、E7080、ZK-304709、BAY57-9352、L-21649、BMS582664、XL-880、XL-184、XL-820、RPI-1、PP-1、およびNVP-AST478からなる群より選択され得る。
【0054】
複数の治療薬を同時投与する場合、投薬量は、関連する技術分野で認識されるように、それに従って調整され得る。
【0055】
本発明の第5の態様は、RET受容体チロシンキナーゼ遺伝子またはその再配列された形態の発現、活性化、またはシグナル伝達に関連する障害もしくは状態、または障害もしくは状態に関連する疼痛を処置するための方法であって、それを必要とする患者に、薬学的に許容される担体または希釈剤と共に本明細書に記載の抗RET抗体のいずれかの抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含む方法を提供する。
【0056】
一実施形態では、障害または状態は、甲状腺がん、肺がん、膵臓がん、皮膚がん、乳がん、および血液由来のがんからなる群より選択されるがんである。一実施形態では、RET受容体チロシンキナーゼ遺伝子またはその再配列された形態の発現、活性化、またはシグナル伝達に関連する障害または状態は、急性疼痛、慢性疼痛、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、関節炎、変形性関節症、片頭痛、群発性頭痛、三叉神経痛、ヘルペス性神経痛(herpetic neuralgia)、全身性神経痛、神経変性障害、神経内分泌障害、内臓痛、急性痛風
、ヘルペス後神経痛、糖尿病性ニューロパチー、坐骨神経痛、背部痛、頭頸部痛、重度または難治性疼痛、突出痛(breakthrough pain)、術後痛、歯痛、鼻炎、がん疼痛、または膀胱障害からなる群より選択される。
【0057】
関連する態様では、本発明は、腫瘍の成長または腫瘍細胞の増殖を阻害するための方法であって、腫瘍または腫瘍細胞がRETまたはその再配列された形態を発現し、方法がそれを必要とする患者に本発明の抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含む、方法を提供する。
【0058】
一実施形態では、腫瘍は固形腫瘍または血液由来の腫瘍である。
【0059】
一実施形態では、固形腫瘍は、甲状腺腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、皮膚腫瘍、および乳房腫瘍からなる群より選択される。
【0060】
一実施形態では、甲状腺腫瘍は、甲状腺乳頭癌(PTC)または甲状腺髄様癌(MTC)である。
【0061】
一実施形態では、甲状腺髄様癌は、MEN2A、MEN2B、および家族性甲状腺髄様癌(FMTC)症候群からなる群より選択される遺伝性MTCであるか、または甲状腺髄様癌は散発性MTCである。
【0062】
一実施形態では、肺腫瘍は肺腺癌である。
【0063】
一実施形態では、肺腫瘍は非小細胞肺がん(NSCLC)である。
【0064】
一実施形態では、皮膚腫瘍は黒色腫である。
【0065】
一実施形態では、血液由来の腫瘍は白血病である。
【0066】
一実施形態では、白血病は、慢性骨髄単球性白血病である。
【0067】
関連する態様では、本発明は、RET発現および/または機能を下方調節する方法であって、本発明の抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含む方法を提供する。
【0068】
一実施形態では、RET発現および/または機能を下方調節することは、RAS/RAF/ERKおよびPI3K経路からなる群より選択される下流のシグナル伝達経路の下方調節をもたらす。ある特定の実施形態では、RET発現および/または機能を下方調節することは、PKC、SRC、およびSTAT3経路からなる群より選択されるシグナル伝達経路の下方調節をもたらす。
【0069】
一実施形態では、本発明の抗RET抗体は、RETと、その対応する共受容体(それぞれ、GFRα1、GFRα2、GFRα3、およびGFRα4)と複合体を形成した1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーリガンド(GDNF、ニュールツリン、アルテミン、およびパーセフィン)との間の相互作用を妨害または防止し得る。一実施形態では、本明細書に記載されるヒト抗RET抗体は、RETの、GDNF/GFRα1複合体との相互作用を妨害または防止し得る。関連する実施形態では、本明細書に記載されるヒト抗RET抗体は、RETの、アルテミン/GFRα3複合体との相互作用を妨害または防止し得る。他の関連する実施形態では、本明細書に記載されるヒト抗RET抗体は、RETの、ニュールツリン/GFRα2またはパーセフィン/GFRα4複合体との相互作用を妨害または防止し得る。
【0070】
一度活性化されると、RETは、生物応答を媒介する多様なシグナル伝達分子を動員する。RETは、様々なシグナル伝達経路、例えばRAS/RAF/ERK(細胞外シグナル調節キナーゼ)、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)/AKT、PKC、およびSRCを活性化することができる。これらのシグナル伝達経路は、それら自体のキナーゼ活性によってリン酸化されたRETの細胞内チロシン残基に対するアダプタータンパク質の結合を介して活性化される。
【0071】
したがって、本発明のある特定の態様では、本発明の抗RET抗体は、RETによる他のシグナル伝達経路の活性化に少なくとも部分的に起因する生物応答を遮断し得る。ある特定の実施形態では、本発明の抗RET抗体は、RETおよびRASを含む経路を通してのシグナルトランスダクションを妨害し得る。ある特定の実施形態では、抗RET抗体は、細胞の増殖、遊走、もしくは浸潤、またはERK1/2(細胞外シグナル調節キナーゼ1/2)のリン酸化を妨害し得る。一部の実施形態では、抗RET抗体は、RETおよびPI3K(ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ)を含む経路を通してのシグナルトランスダクションを妨害し得る。ある特定の実施形態では、抗RET抗体は、細胞の増殖、遊走、もしくは浸潤、またはAkt(タンパク質キナーゼB)のリン酸化を妨害し得る。
【0072】
抗体または抗原結合性断片は、疾患、障害、または状態を処置するために適した第2の治療剤と組み合わせて患者に投与され得る。抗RET抗体によって処置される疾患または状態ががん性状態である場合、第2の治療剤は、化学療法剤、放射性核種(単独で、または薬物標的化レジメンの一部として)、抗体-薬物コンジュゲート、低分子RET阻害剤、抗腫瘍剤、RETに特異的なsiRNA、およびRETに特異的な第2の抗体からなる群より選択され得る。抗RET抗体が、がん性状態に関連する疼痛を処置するために、またはRET活性化もしくはシグナル伝達に少なくとも部分的に起因し得る他の状態に関連する疼痛を処置するために想定される場合、第2の治療剤は、以下:神経成長因子(NGF)阻害剤(例えば、低分子NGFアンタゴニストもしくは抗NGF抗体)、アスピリンもしくは別のNSAID、モルヒネ、ステロイド(例えば、プレドニゾン)、抗Nav1.7抗体もしくはNav1.7の低分子阻害剤、Nav1.8アンタゴニスト(例えば、抗Nav1.8抗体もしくはNav1.8の低分子阻害剤)、Nav1.9アンタゴニスト(例えば、抗Nav1.9抗体もしくはNav1.9の低分子阻害剤)、サイトカイン阻害剤(例えば、インターロイキン-1(IL-1)阻害剤(例えば、リロナセプト(「IL-1 trap」);Regeneron)、もしくはアナキンラ(KINERET(登録商標)、Amgen)、低分子IL-1アンタゴニストもしくは抗IL-1抗体;IL-18阻害剤(例えば、低分子IL-18アンタゴニストもしくは抗IL-18抗体);IL-6もしくはIL-6R阻害剤(例えば、低分子IL-6アンタゴニスト、抗IL-6抗体、もしくは抗IL-6受容体抗体)、カスパーゼ-1の阻害剤、p38、IKK1/2、CTLA-4Ig、またはオピオイドのいずれかの1つまたは複数から選択され得る。
【0073】
他の実施形態は、以下の詳細な説明の概要から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【発明を実施するための形態】
【0075】
本発明を説明する前に、本発明は、方法および条件が変化し得ることから、記載の特定の方法および実験条件に限定されないと理解されたい。同様に、本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態のみを記載する目的のためであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されることから、制限することを意図しないと理解されたい。
【0076】
それ以外であると定義していない限り、本明細書で使用した全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、特定の列挙された数値に関連して使用する場合の用語「約」は、列挙された値から値が1%以下変化し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現は、99および101、ならびにその間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4等)を含む。
【0077】
本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実践または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及する全ての刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
定義
「トランスフェクション中の再配列」は、「RET」とも呼ばれ、末梢および中枢神経系ならびに腎臓を含む多様な組織において発生の間に発現される受容体チロシンキナーゼである。RETがん遺伝子は、1985年にTakahashiらによって同定され、彼らはヒトリンパ腫DNAをトランスフェクトしたNIH/3T3細胞においてトランスフォーム活性を有する新規遺伝子再配列を報告した(Takahashi, M., et al., (1985)
Cell, 42:581-588を参照されたい)。RETは後に、がん遺伝子であることが確認さ
れ、甲状腺乳頭癌(PTC)患者のDNAにおいて体細胞再配列されており、後にRET/PTCと呼ばれた(Fusco, A. et al., (1987), Nature, 328:170-172; Grieco, M. et al., (1990), Cell, 60:557-63)。RETタンパク質は、3つのドメイン:細胞外リガンド結合ドメイン、疎水性膜貫通ドメイン、およびチロシンキナーゼドメインが27アミノ酸の挿入によって分割されている細胞質部分で構成される(
図1を参照されたい)。選択的スプライシングによって生成されたRETの2つの主なアイソフォームが存在する。短いおよび長いRETアイソフォームは、9個および51個の無関係なC末端アミノ酸によって異なり、それぞれRET9およびRET51と呼ばれる。それらは広範囲の種にわたって高度に保存されている(Carter, MT, et al. (2001), Cytogenet Cell Genet, 95:169-76)。いずれのアイソフォームもフォーカス形成アッセイによってトランスフォーム活性を示す(Rossel, M. et al. (1997), Oncogene, 14:265-75)。
【0079】
RETのアイソフォームAの(RET51としても公知)のcDNA配列およびアミノ酸配列はそれぞれ、GenBankにおいて受託番号NM_020975.4およびNP_066124.1として提供され、本明細書においてそれぞれ、配列番号309および310として提供される。
【0080】
RETのアイソフォームC(RET9としても公知)cDNA配列およびアミノ酸配列はそれぞれ、GenBankにおいて受託番号NM_020630.4およびNP_065681.1として提供され、本明細書においてそれぞれ、配列番号311および312として提供される。RETまたはその免疫原性断片は、RETに特異的なヒトモノクローナル抗体を調製するために使用され得る。RETタンパク質またはその断片は、当技術分野で公知の標準的な方法を使用して組み換えによって産生され得る。RETのエクトドメインを含有する例示的な融合タンパク質を、配列番号305、306、307、および309として示す。これらの融合タンパク質は免疫原として使用され得るか、またはRETを発現する細胞もしくは組織に治療剤を標的化するために使用され得る。
【0081】
RETは、GDNF(GenBank受託番号NP_000505.1を参照されたい)、アルテミン(GenBank受託番号Q5T4W7を参照されたい)、ニュールツリン(GenBank受託番号NM_004558を参照されたい)、およびパーセフィン(GenBank受託番号AF040962を参照されたい)を含む「グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)ファミリー」のリガンドのシグナル伝達受容体である。GDNFファミリーリガンドは、GDNFファミリーα受容体GFRα1(GenBank受託番号NP_005255.1を参照されたい)、GFRα2(GenBank受託番号NM_001495.4を参照されたい)、GFRα3(GenBank受託番号NP_001487.2を参照されたい)、およびGFRα4(GFRα4aに関してGenBank受託番号NM_022139、およびGFRα4bに関してNM_145762.2を参照されたい)(Baloh, RH, et al. (2000), Curr Opin Neurobiol 10:103-110; Borrello, MG, et al (2013), Expert Opin. Ther. Targets, 17(4):403-419)として公知の4つのGPI連結「共受容体」のうちの1つの存在下またはそれと複合
体を形成した場合に限ってRETと相互作用し、これを活性化する。共受容体GFRα1、GFRα2、GFRα3、およびGFRα4の主なリガンドはそれぞれ、GDNF、ニュールツリン(NRTN)、アルテミン(ARTN)、およびパーセフィン(PSPN)である。
【0082】
用語「IC50」は、「半最大阻害濃度」を指し、この値は生物学的または生化学的有用性に対する化合物(例えば抗RET抗体)阻害の有効性を測定する。この定量的尺度は、特定の阻害剤が所与の生物プロセスを半分阻害するために必要な量を示す。
【0083】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」、「処置」および「処置すること」は、対象における細胞または組織におけるRET発現に部分的に起因するまたは関連する疾患、障害、または状態の進行の低減、例えば、本発明のアンタゴニスト/阻害性抗体を投与した場合にRETを発現する腫瘍を有する患者における腫瘍細胞の増殖速度を遅らせること、またはがん性状態に関連する疼痛、もしくはRET発現によって少なくとも部分的に引き起こされる他の任意の疾患もしくは状態に関連する疼痛の低減を指す。
【0084】
本明細書で使用される場合、用語「防止する」、「防止すること」、および「防止」は、対象の細胞または組織におけるRET発現に部分的に起因するもしくは関連する疾患、障害、もしくは状態、例えばある特定のがんの発生もしくは発症の阻害、または傷害後に患者に起こる組織損傷の阻害、またはRET発現に部分的に起因する疾患もしくは状態に関連する疼痛の阻害もしくは改善を指す。
【0085】
用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖(すなわち、「完全な抗体分子」)で構成される免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えばIgM)またはその抗原結合性断片を指すと意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「VH」)および重鎖定常領域(ドメインCH1、CH2、およびCH3で構成される)で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVRまたは「VL」)および軽鎖定常領域(CL)で構成される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRで構成され、これらはアミノ末端からカルボキシ末端に以下の順:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置する。本発明のある特定の実施形態では、抗体(またはその抗原結合性断片)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか、または天然もしくは合成により改変され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つまたはそれより多くのCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0086】
1つもしくは複数のCDR残基の置換または1つもしくは複数のCDRの省略もまた可能である。結合に関して1つまたは2つのCDRをなしで済ませることができる抗体が科学論文に記載されている。Padlanら(1995 FASEB J. 9:133-139)は、公開された結晶構造に基づいて抗体とその抗原との間の接触領域を分析し、実際に抗原と接触しているのはCDR残基の約5分の1から3分の1に過ぎないと結論付けた。Padlanはまた、1つまたは2つのCDRが抗原と接触するアミノ酸を有しない多くの抗体も見出した(Vajdos et al. 2002 J Mol Biol 320:415-428もまた参照されたい)。
【0087】
抗原と接触していないCDR残基は、以前の研究に基づいて分子モデリングによっておよび/または経験的に、Chothia CDRの外側に存在するKabat CDRの領域から同定することができる(例えば、CDRH2における残基H60~H65は、必要ではない場合が多い)。CDRまたはその残基が省略している場合、これを通常、別のヒト抗体配列またはそのような配列のコンセンサスにおける対応する位置を占めるアミノ酸によって置換する。CDR内の置換の位置および置換するアミノ酸もまた経験的に選択することができる。経験的な置換は、保存的または非保存的置換であり得る。
【0088】
本明細書に開示される完全ヒトモノクローナル抗体は、対応する生殖系列配列と比較して重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域において1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含み得る。そのような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば公共の抗体配列データベースから利用可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認することができる。本発明は、1つまたは複数のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸が、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基に、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基に、または対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換へと変異する(そのような配列変化は、本明細書において集合的に「生殖系列変異」と呼ばれる)、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合性断片を含む。当業者は、本明細書に開示される重鎖および軽鎖可変領域配列から開始して、1つまたは複数の個々の生殖系列変異またはその組合せを含む多数の抗体および抗原結合性断片を容易に産生することができる。ある特定の実施形態では、VHおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基の全てが、抗体が由来する元の生殖系列配列において見出される残基へと復帰変異する。他の実施形態では、ある特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8アミノ酸内、もしくはFR4の最後の8アミノ酸内で見出される変異残基のみ、またはCDR1、CDR2、もしくはCDR3内で見出される変異残基のみが元の生殖系列配列に復帰変異する。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基の1つまたは複数が、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が当初由来する生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基に変異する。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つまたはそれより多くの生殖系列変異の任意の組合せを含有し得、例えばある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異するが、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は維持されるか、または異なる生殖系列配列の対応する残基に変異する。得られた後、1つまたは複数の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合性断片を、1つまたは複数の所望の特性、例えば結合特異性の改善、結合親和性の増加、アンタゴニストもしくはアゴニスト生物特性(場合により)の改善もしくは増強、免疫原性の低減等に関して容易に試験することができる。この一般的方法で得られた抗体および抗原結合性断片は、本発明に包含される。
【0089】
本発明はまた、1つまたは複数の保存的置換を有する本明細書に開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む完全なモノクローナル抗体も含む。例えば、本発明は、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して例えば10個またはそれ未満、8個またはそれ未満、6個またはそれ未満、4個またはそれ未満等の保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗体を含む。
【0090】
用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含むと意図される。本発明のヒトmAbは、例えばCDR、特にCDR3において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によって、またはin vivoでの体細胞変異によって導入された変異)を含み得る。しかし、用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用される場合、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトFR配列にグラフトされているmAbを含むことを意図しない。
【0091】
用語「特異的に結合する」または「~に特異的に結合する」等は、抗体またはその抗原結合性断片が生理的条件下で比較的安定である抗原と複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-6Mまたはそれ未満の平衡解離定数(例えば、より小さいKDは、より強固な結合を示す)によって特徴付けることができる。2つの分子が特異的に結合するか否かを決定するための方法は当技術分野で周知であり、例えば平衡透析、表面プラズモン共鳴等を含む。本明細書で記載されるように、RETに特異的に結合する抗体は、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)によって同定されている。その上、RETタンパク質および1つもしくは複数の追加の抗原に結合する多特異性抗体、またはRETの2つの異なる領域に結合する二特異性抗体は、それにもかかわらず、本明細書で使用される場合「特異的に結合する」抗体であると考えられる。
【0092】
用語「高親和性」抗体は、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)または溶液親和性ELISAによって測定した場合に、少なくとも10-7M、少なくとも10-8M;好ましくは10-9M;より好ましくは10-10M、より好ましくは10-11M、より好ましくは10-12MのKDとして表記されるRETに対する結合親和性を有するmAbを指す。
【0093】
用語「遅いオフレート」、「Koff」または「kd」は、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)によって決定した場合に1×10-3s-1またはそれ未満、好ましくは1×10-4s-1またはそれ未満の速度定数でRETから解離する抗体を意味する。
【0094】
用語、抗体の「抗原結合性部分」、抗体の「抗原結合性断片」等は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素により得ることができる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。用語、抗体の「抗原結合性部分」または「抗体断片」は、本明細書で使用される場合、RETに結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数の断片を指す。
【0095】
具体的な実施形態では、本発明の抗体または抗体断片は、治療部分、例えば低分子RET阻害剤、抗腫瘍剤、放射性核種、増殖因子、骨髄回復剤、またはコロニー刺激因子、またはがんなどのRET発現に関連する疾患、障害、もしくは状態、または損傷した組織を処置するために有用な他の任意の治療部分にコンジュゲートされ得る(「イムノコンジュゲート」または「抗体-薬物コンジュゲート」)。
【0096】
「単離された抗体」は、本明細書で使用される場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)を実質的に含まない抗体を指すと意図される(例えば、RETまたはその断片を特異的に結合する単離された抗体は、RET以外の抗原を特異的に結合するAbを実質的に含まない)。
【0097】
「遮断抗体」または「中和抗体」(または「RET活性を中和する抗体」)は、本明細書で使用される場合、RETに対するその結合がRETの少なくとも1つの生物活性、例えば細胞シグナル伝達の阻害をもたらす抗体を指すと意図される。例えば、本発明の抗体は、RETのそのリガンドまたはGFRα共受容体の1つに対する結合の遮断を助け得るか、またはRET発現に関連する疾患を防止もしくは処置し得る。あるいは、本発明の抗体は、RET発現に関連する疾患または状態の少なくとも1つの症状を改善する能力を実証し得る。RETの生物活性のこの阻害は、いくつかの標準的なin vitroアッセイ(例えば、本明細書に記載のアッセイのいずれか)、または本明細書に記載の抗体の1つまたは複数の投与後の当技術分野で公知のin vivoアッセイ(例えば、in vivoで腫瘍細胞成長の阻害を調べる動物モデル)のうちの1つまたは複数によってRET生物活性の1つまたは複数の指標を測定することによって評価することができる。
【0098】
用語「表面プラズモン共鳴」は、本明細書で使用される場合、例えばBIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB、Uppsala、Sweden、およびPiscataway、N.J.)を使用してバイオセンサーマトリクス内のタンパク質濃度の変化の検出によってリアルタイム生体分子相互作用の分析を可能にする光学現象を指す。
【0099】
用語「KD」は、本明細書で使用される場合、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すと意図される。
【0100】
用語「エピトープ」は、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原性決定基を指す。単一抗原が1つより多いエピトープを有し得る。このように、異なる抗体は、抗原上の異なるエリアに結合し得、異なる生物効果を有し得る。用語「エピトープ」はまた、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位も指す。これはまた、抗体が結合する抗原の領域も指す。エピトープは、構造的または機能的として定義され得る。機能的エピトープは、一般的に構造的エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接寄与するそれらの残基を有する。エピトープはまた、非線形のアミノ酸で構成されるコンフォメーション性であり得る。ある特定の実施形態では、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基などの分子の化学的に活性な表面群である決定基を含み得、ある特定の実施形態では、特異的な三次元構造特徴、および/または特異的電荷特徴を有し得る。
【0101】
用語「実質的な同一性」、または「実質的に同一」は、核酸またはその断片を指す場合、適切なヌクレオチド挿入または欠失と共に別の核酸(またはその相補鎖)と最適に整列させた場合、配列同一性の任意の周知のアルゴリズム、例えば以下に考察されるFASTA、BLAST、またはGAPによって測定した場合に、ヌクレオチド塩基の少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%においてヌクレオチド配列同一性が存在することを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、ある特定の例では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし得る。
【0102】
ポリペプチドに適用する場合、用語「実質的な類似性」または「実質的に類似の」は、2つのペプチド配列が、プログラムGAPまたはBESTFITなどによってデフォルトギャップ加重を使用して最適に整列させた場合に、少なくとも90%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%、98%、または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似の化学特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されている置換である。一般的に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つまたはそれより多くのアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、類似性のパーセントまたは程度は置換の保存的性質を修正するために上方に調整され得る。この調整を行うための手段は当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Pearson (1994) Methods Mol. Biol. 24: 307-331を参照されたい。類似の化
学特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例としては、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン;2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびスレオニン;3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン;5)塩基性側鎖:リシン、アルギニン、およびヒスチジン;6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに7)イオウ含有側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置き換えは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al. (1992) Science 256: 1443 45に開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中等度に保存的な」置き換えは、PAM250対数尤度行列において負でない値を有する任意の変化である。
【0103】
ポリペプチドの配列類似性は、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失、および他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似の配列をマッチさせる。例えば、GCGソフトウェアは、GAPおよびBESTFITなどのプログラムを含有し、これをデフォルトパラメーターと共に使用して、近縁のポリペプチド、例えば異なる生物種からの相同なポリペプチド間、または野生型タンパク質とその変異タンパク質との間の配列相同性または配列同一性を決定することができる。例えば、GCGバージョン6.1を参照されたい。ポリペプチド配列はまた、デフォルトまたは推奨されるパラメーターと共にGCGバージョン6.1のプログラムであるFASTAを使用して比較することができる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、クエリ配列および検索配列の間の最善の重複領域の整列化およびパーセント配列同一性を提供する(Pearson (2000)上記)。本発明の配列を異なる生物からの多数の配列を含有するデータベースと比較す
る場合の別の好ましいアルゴリズムは、コンピュータプログラムBLAST、特にデフォルトパラメーターを使用するBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、その各々が参照により本明細書に組み込まれる、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol.
215: 403-410および(1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402を参照されたい。
【0104】
具体的な実施形態では、本発明の方法における使用のための抗体または抗体断片は、単特異性、二特異性、または多特異性であり得る。多特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であり得るか、または1つより多くの標的ポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合ドメインを含有し得る。本発明の状況において使用することができる例示的な二特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)CH3ドメインおよび第2のIg CH3ドメインの使用を必要とし、第1および第2のIg CH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸によって互いに異なり、少なくとも1つのアミノ酸の差は、アミノ酸の差を欠如する二特異性抗体と比較してプロテインAに対する二特異性抗体の結合を低減させる。一実施形態では、第1のIg CH3ドメインはプロテインAを結合し、第2のIg CH3ドメインは、H95R改変(IMGTエクソンナンバリングによる;EUナンバリングによる場合はH435R)などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含有する。第2のCH3は、Y96F改変(IMGTによる;EUによる場合はY436F)をさらに含み得る。第2のCH3内で見出され得るさらなる改変としては:IgG1 mAbの場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる;EUによる場合はD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I);IgG2 mAbの場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGT;EUによる場合はN384S、K392N、およびV422I);ならびにIgG4 mAbの場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる;EUによる場合はQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が挙げられる。上記の二特異性抗体フォーマット上の変化は、本発明の範囲内であると企図される。
【0105】
語句「治療有効量」は、投与される所望の効果を生じる量を意味する。正確な量は、処置の目的に依存し、公知の技術を使用して当業者によって確認することができる(例えば、Lloyd (1999) The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照されたい)。
【0106】
全般的説明
「トランスフェクション中の再配列」は、「RET」とも呼ばれ、末梢および中枢神経系ならびに腎臓を含む多様な組織において発生の間に発現される受容体チロシンキナーゼである(Arighi, E. et al. (2005), Cytokine Growth Factor Rev 16:441-67;
Borrello, MG, et al., (2013), Expert Opin. Ther. Targets, 17(4): 403-419)。RETがん遺伝子は、1985年にTakahashiらによって同定され、彼らはヒトリンパ腫DNAをトランスフェクトしたNIH/3T3細胞においてトランスフォーム活性を有する新規遺伝子再配列を報告した(Takahashi, M., et al., (1985)
Cell, 42:581-588を参照されたい)。RETは後に、がん遺伝子であることが確認さ
れ、甲状腺乳頭癌(PTC)患者のDNAにおいて体細胞再配列されており、後にRET/PTCと呼ばれた(Fusco, A. et al., (1987), Nature, 328:170-172; Grieco, M. et al., (1990), Cell, 60:557-63)。RETタンパク質は、3つのドメイン:細胞外リガンド結合ドメイン、疎水性膜貫通ドメイン、およびチロシンキナーゼドメインが27アミノ酸の挿入によって分割されている細胞質部分で構成される(
図1を参照されたい)。選択的スプライシングによって生成されたRETの2つの主なアイソフォームが存在する。短いおよび長いRETアイソフォームは、9個および51個の無関係なC末端アミノ酸によって異なり、それぞれRET9およびRET51と呼ばれる。それらは広範囲の種にわたって高度に保存されている(Carter, MT, et al. (2001), Cytogenet Cell Genet, 95:169-76)。いずれのアイソフォームもフォーカス形成アッセイによってトランスフォーム活性を示す(Rossel, M. et al. (1997), Oncogene, 14:265-75)。
【0107】
RETの遺伝子改変は、甲状腺がんの病因に関係することが示されており、より最近のデータはRETが肺腺癌にも関係することを示唆している(Viglietto, G. et al. (1995), Oncogene, 11:1207-10; Fischer, AH, et al., (1998), Am J Pathol.
153:1443-50)。他の研究は、RETが乳房、膵臓、白血病、および黒色腫を含むさら
なる腫瘍に関係し得ることを示唆している(Ballerini, P. et al, (2012), Leukemia, 26:2384-9; Sawai, H. et al. (2005), 65(24):11536-44; Narita, N. et
al., (2009), Oncogene, 28:3058-68)。
【0108】
バンデタニブ(ZD6474、CAPRELSA(登録商標)、Astra Zeneca)は、経口で利用可能なアミノキナゾリン化合物であり、当初VEGFR2阻害剤として開発されたが、後にRET、VEGFR3、EGFR、およびPDGFRに対して活性であることが見出された。バンデタニブは現在、FDAおよびEMAによって進行および転移性の甲状腺髄様癌(MTC)に関して承認されている(Wells, SA, et al.,(2012), J. Clin. Oncol. 30:134-41)。
【0109】
ソラフェニブ(BAY43-9006、NEXAVAR(登録商標)、Bayer Pharmaceuticals)は、当初セリン/スレオニンキナーゼBRAFを標的とするように開発されたビスアリールウレア化合物であるが、その後Flt-3、VEGFR1-3、PDGFR、c-kit、およびRETに対して強力な薬剤であることが見出された(Wilhelm, S. et al., (2006), Nat Rev Drug Discov, 5:835-44)。ソラフェニブは、FDAによって進行肝臓がんおよび腎臓がんに関して承認された。
【0110】
スニチニブ(SU11248、SUTENT(登録商標)、Pfizer)は、主にVEGFR2、PDGFR、c-kit、FLT3、およびRETキナーゼを標的とするインドリノン化合物である((Chow, LQ, et al., (2007), J. Clin. Oncol. 25:884-96)。スニチニブは、FDAによってイマチニブ耐性GIST患者に関してならびに
進行膵臓内分泌腫瘍および腎細胞がんに関して承認された。
【0111】
カボザンチニブ(Cometriq、以前はXL-184として知られる、Exelixis)は、MET、VEGFR2、およびRETを標的とする低分子マルチキナーゼ阻害剤である。これは現在、甲状腺髄様がん、前立腺がん、卵巣がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、肝細胞がん、腎細胞および乳がん、ならびに黒色腫および膠芽腫を含む多数の腫瘍タイプにおいて臨床試験中である((Zhang, Y. et al., (2010), IDrugs 13:112-21)。
【0112】
臨床開発中の別のRET標的化剤は、モテサニブ(AMG-706、Amgen)であり、これはVEGFR1-3、Flt3、Kit、PDGFR、およびRETを標的とするマルチキナーゼ阻害剤である。
【0113】
前臨床開発中の他のRET阻害剤は、インドリン化合物であるRPI-1である;PP-1は、RETおよびSrcに対して活性なピラゾロピリミジン化合物であり、NVP-AST478は、in vitroおよびin vivoで強力な抗RETキナーゼ活性を有するビフェニル-ウレア化合物である(Cuccuru, G. et al. (2004), J Natl
Cancer Inst 96:1006-14)。
【0114】
しかし、上記のRET阻害剤の1つの問題のある局面は、それらがRETに特異的ではないということ、すなわちそれらは複数の機構を通して作用するように思われ、そのためin vivoで他の有害な効果を潜在的に発揮し得ることである。例えば、上記のある特定の阻害剤は、高血圧症およびQTc延長などの有害事象を誘導する。このため、これらの薬剤の非選択的プロファイルは治療ウィンドウを制限し得る。RETに選択的に結合する抗RET抗体などの薬剤を同定することは有用であり、より好ましい安全性プロファイルを有する優れた臨床有効性をもたらし得る。
【0115】
したがって、RET駆動性の腫瘍に対する有効な治療が依然として必要であり、さらに上記の薬剤に関連する有害な副作用を有することなく、RET発現に関連する他の疾患、障害、または状態を防止および処置するためにRETに特異的な薬剤を同定する必要がある。そのような特異性および有効性は、本明細書に記載される抗体などの抗RET抗体の使用を通して達成され得る。
【0116】
ある特定の実施形態では、本発明の抗体は、一次免疫原、例えばヒトRETタンパク質全体で、またはタンパク質の組換え型もしくはその断片で、またはヒトRETの細胞外/エクトドメインを含有する融合タンパク質(GenBank受託番号NP_066124.1(配列番号310)またはGenBank受託番号NP_065681.1(配列番号312)を参照されたい)、または組み換えによって産生されたRET融合タンパク質(配列番号305、306、307、および313を参照されたい)で免疫した後、二次免疫原(精製ヒトRETタンパク質)でまたはRETタンパク質の免疫原的に活性な断片、例えばRETのエクトドメインで免疫したマウスから得られる。
【0117】
免疫原は、ヒトRETタンパク質(アイソフォームAに関してGenBank受託番号NM_020975.4および配列番号309;またはアイソフォームCに関してGenBank受託番号NM_020630.4および配列番号311を参照されたい)、またはその活性断片をコードするDNAであり得る。
【0118】
免疫原は、配列番号305、307、310、312、および313(シグナル配列を含む)のいずれかのアミノ酸残基1~635に及ぶRETタンパク質の細胞外ドメイン;配列番号306(シグナル配列を含む)のアミノ酸残基1~636に由来し得る。免疫原は、RETタンパク質の上記の領域のいずれかの断片に由来し得る。
【0119】
RET51の全長のアミノ酸配列は配列番号310として示され、GenBank受託番号NP_066124.1としても示される。RET9の全長のアミノ酸配列は、配列番号312として示され、GenBank受託番号NP_065681.1としても示される。例示的な免疫原は、配列番号307または313に示される組換え構築物であり得る。
【0120】
ある特定の実施形態では、RETに特異的に結合する抗体は、上記の領域の断片、または本明細書に記載の領域のNまたはC末端端部のいずれかまたは両方から指定の領域を超えて約5~約20アミノ酸残基伸張するペプチドを使用して調製され得る。ある特定の実施形態では、上記の領域またはその断片の任意の組合せを、RET特異的抗体の調製において使用してもよい。ある特定の実施形態では、RETの上記の領域またはその断片のいずれか1つまたは複数を単特異性、二特異性、または多特異性抗体を調製するために使用してもよい。
【0121】
抗体の抗原結合性断片
特にそれ以外であると示していない限り、用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、2つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖を含む抗体分子(すなわち、「完全な抗体分子」)ならびにその抗原結合性断片を包含すると理解されるものとする。用語、抗体の「抗原結合性部分」、抗体の「抗原結合性断片」等は、本明細書で使用される場合、特異的に抗原に結合して複合体を形成する任意の天然に存在する、酵素により得ることができる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。用語、抗体の「抗原結合性部分」または「抗体断片」は、本明細書で使用される場合、RETに特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数の断片を指す。抗体断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片、dAb断片、CDRを含有する断片、または単離されたCDRを含み得る。抗体の抗原結合性断片は、例えば任意の適した標準的な技術、例えばタンパク質分解消化、または抗体可変および(必要に応じて)定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組換え遺伝子操作技術を使用して完全な抗体分子から導出され得る。そのようなDNAは公知であるかおよび/または例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAを、化学的にまたは分子生物学技術を使用することによってシーケンシングおよび操作して、例えば1つもしくは複数の可変および/もしくは定常ドメインを適した構成に配置すること、またはコドンを導入し、システイン残基を創出し、アミノ酸を改変、付加、もしくは欠失すること等ができる。
【0122】
抗原結合性断片の非制限的な例としては:(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;および(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR)、例えばCDR3ペプチド)を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位、または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドが挙げられる。他の操作された分子、例えばドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、ミニボディ(minibody)、ナノボディ(nanobody)(例えば、一価のナノボディ、二価のナノボディ等)、小モジュラー免疫医薬品(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインもまた、本明細書で使用される表現「抗原結合性断片」内に包含される。
【0123】
抗体の抗原結合性断片は、典型的に少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成のドメインであり得、一般的に1つまたは複数のフレームワーク配列に隣接するまたはそれとインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインに会合したVHドメインを有する抗原結合性断片において、VHおよびVLドメインは、互いに対して任意の適した配置で位置し得る。例えば、可変領域は二量体型であり、VH-VH、VH-VL、またはVL-VL二量体を含有し得る。あるいは、抗体の抗原結合性断片は、単量体のVHまたはVLドメインを含有し得る。
【0124】
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合性断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合により連結された少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本発明の抗体の抗原結合性断片内で見出され得る可変および定常ドメインの非制限的な例示的な構成としては:(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CLが挙げられる。上記の例示的な構成のいずれかを含む可変および定常ドメインの任意の構成において、可変および定常ドメインは、互いに直接連結されてもよく、または完全なもしくは部分的ヒンジもしくはリンカー領域によって連結されてもよい。ヒンジ領域は、少なくとも2(例えば、5、10、15、20、40、60、またはそれより多くの)アミノ酸からなり得、これによって隣接する可変および/または定常ドメインの間の可撓性または半可撓性の連結が単一のポリペプチド分子においてもたらされる。その上、本発明の抗体の抗原結合性断片は、互いとのおよび/または1つもしくは複数の単量体のVHもしくはVLドメインとの非共有結合による会合で(例えば、ジスルフィド結合によって)上記の可変および定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
【0125】
完全な抗体分子と同様に、抗原結合性断片は、単特異性または多特異性(例えば、二特異性)であり得る。抗体の多特異性抗原結合性断片は、典型的に少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、各可変ドメインは、別々の抗原に、または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することが可能である。本明細書に開示の例示的な二特異性抗体フォーマットを含む任意の多特異性抗体フォーマットを、当技術分野で利用可能なルーチンの技術を使用して本発明の抗体の抗原結合性断片の状況における使用のために適合させてもよい。
【0126】
ヒト抗体の調製
トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を生成するための方法は当技術分野で公知である。任意のそのような公知の方法を、本発明の状況において使用して、RETに特異的に結合するヒト抗体を作製することができる。
【0127】
VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541を参照されたい、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標))、またはモノクローナル抗体を生成するための他の任意の公知の方法を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有するRETに対する高親和性キメラ抗体を最初に単離する。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが、抗原刺激に応答してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内因性のマウス定常領域座に作動可能に連結されたヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの生成を伴う。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に連結させる。次いで、DNAを完全ヒト抗体を発現することが可能な細胞において発現させる。
【0128】
一般的に、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに、目的の抗原をチャレンジし、抗体を発現するマウスからリンパ細胞(例えば、B細胞)を回収する。リンパ細胞を骨髄腫細胞株に融合させて、不死ハイブリドーマ細胞株を調製してもよく、そのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、選択して目的の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域に連結させてもよい。そのような抗体タンパク質は、CHO細胞などの細胞において産生され得る。あるいは、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAを抗原特異的リンパ球から直接単離してもよい。
【0129】
最初に、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する高親和性キメラ抗体を単離する。以下の実験の節と同様に、抗体を特徴付けし、親和性、選択性、エピトープ等を含む望ましい特徴に関して選択する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域と置き換えて、本発明の完全ヒト抗体、例えば野生型または改変IgG1もしくはIgG4を生成する。選択した定常領域は具体的な使用に応じて多様であり得るが、高親和性の抗原結合および標的特異性特徴は可変領域に存在する。
【0130】
ある特定の実施形態では、本発明の抗体は、固相に固定したまたは溶液相中のいずれかの抗原に対する結合によって測定した場合に、約1.0×10-7M~約1.0×10-12Mの範囲の親和性(KD)を有する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域と置き換えて、本発明の完全ヒト抗体を生成する。選択した定常領域は具体的な使用に応じて多様であり得るが、高親和性の抗原結合および標的特異性特徴は可変領域に存在する。
【0131】
生物学的同等物
本発明の抗RET抗体および抗体断片は、記載の抗体の配列とは異なるがRETを結合する能力を保持するアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。そのようなバリアント抗体および抗体断片は、親配列と比較した場合にアミノ酸の1つまたは複数の付加、欠失、または置換を含むが、記載の抗体のそれと本質的に同等である生物活性を示す。同様に、本発明の抗体コードDNA配列は、本開示の配列と比較した場合にヌクレオチドの1つまたは複数の付加、欠失、または置換を含むが、本発明の抗体または抗体断片と本質的に生物学的に同等である抗体または抗体断片をコードする配列を包含する。
【0132】
2つの抗原結合タンパク質または抗体は、例えばそれらが単回用量または複数回用量のいずれかで類似の実験条件下で同じモル用量を投与した場合に、その吸収の速度および程度が有意差を示さない薬学的同等物または薬学的代替物である場合に、生物学的に同等であると考えられる。一部の抗体は、それらの吸収の程度が同等であるが吸収速度が同等ではない場合に、同等物または薬学的代替物であると考えられ、吸収速度のそのような差は意図的であり、標識化に反映され、例えば慢性使用に対して有効な体薬物濃度の達成にとって必須ではなく、研究する特定の薬物産物に関して医学的に有意ではないと考えられることからなおも生物学的に同等であると考えられ得る。
【0133】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、その安全性、純度、および強度に臨床学的に意味のある差がない場合、生物学的に同等である。
【0134】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、免疫原性の臨床的に有意な変化または有効性の減少を含む有害効果のリスクの増加が予想されることなく、患者を参照製品と生物学的製品の間で1回または複数回切り替えることができる場合、そのような切り替えのない継続した治療と比較して、生物学的に同等である。
【0135】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、それらがいずれも、使用条件(単数または複数)に関して共通の機構または作用機序によって作用する場合、そのような機構が公知である程度に、生物学的に同等である。
【0136】
生物学的同等性は、in vivoおよび/またはin vitro方法によって実証され得る。生物学的同等性の測定は、例えば、(a)抗体またはその代謝物の濃度が血液、血漿、血清、または他の体液中で時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳動物におけるin vivo試験;(b)ヒトin vivo生物学的利用能データと相関しており、合理的に予測するin vitro試験;(c)抗体(またはその標的)の適切な急性の薬理学的効果が時間の関数として測定されるヒトまたは他の哺乳動物におけるin vivo試験;および(d)抗体の安全性、有効性、または生物学的利用能もしくは生物学的同等性を確立する、良好にコントロールされた臨床試験を含む。
【0137】
本発明の抗体の生物学的に同等なバリアントは、例えば残基もしくは配列の様々な置換を作製すること、または生物活性にとって必要ではない末端もしくは内部の残基もしくは配列を欠失させることによって構築され得る。例えば、生物活性にとって必須ではないシステイン残基を欠失させるか、または他のアミノ酸と置き換えて、復元時の不要なまたは不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止することができる。他の状況では、生物学的に同等な抗体は、抗体のグリコシル化特徴を改変するアミノ酸変化、例えばグリコシル化を排除または除去する変異を含む抗体バリアントを含み得る。
【0138】
Fcバリアントを含む抗RET抗体
本発明のある特定の実施形態によれば、例えば中性pHと比較して酸性pHでFcRn受容体に対する抗体の結合を増強または減少させる1つまたは複数の変異を含むFcドメインを含む抗RET抗体が提供される。例えば、本発明は、FcドメインのCH2またはCH3領域で変異を含む抗RET抗体であって、変異が、酸性環境(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲であるエンドソームにおいて)においてFcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる、抗RET抗体を含む。そのような変異は、動物に投与した場合に抗体の血清中半減期の増加をもたらし得る。そのようなFc改変の非制限的な例としては、例えば、250位(例えば、EまたはQ);250および428位(例えば、LまたはF);252位(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254位(例えば、SまたはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)での改変;または428および/もしくは433位(例えば、H/L/R/S/P/QまたはK)、および/もしくは434位(例えば、H/FまたはY)での改変;または250および/もしくは428位での改変;または307もしくは308位(例えば、308F、V308F)、および434位での改変が挙げられる。一実施形態では、改変は、428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)改変;428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)改変;433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)改変;252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)改変;250Qおよび428L改変(例えば、T250QおよびM428L);ならびに307および/または308改変(例えば、308Fまたは308P)を含む。
【0139】
例えば、本発明は、250Qおよび248L(例えば、T250QおよびM248L);252Y、254Tおよび256E(例えば、M252Y、S254TおよびT256E);428Lおよび434S(例えば、M428LおよびN434S);ならびに433Kおよび434F(例えば、H433KおよびN434F)からなる群より選択される変異の1つまたは複数の対または群を含むFcドメインを含む抗RET抗体を含む。前述のFcドメイン変異および本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の他の変異の全ての可能な組合せが本発明の範囲内であると企図される。
【0140】
抗体の生物学的特徴
一般的に、本発明の抗体は、RETに結合する、ならびにそうすることでRET活性化および/またはシグナル伝達を遮断または防止するように作用することによって機能し得る。本発明の抗体はまた、RETに結合する、およびそうすることでRETの、その対応する共受容体と複合体を形成した1つまたは複数のGDNFファミリーメンバー、例えばGDNF/GFRα1、ニュールツリン/GFRα2、アルテミン/GFRα3、またはパーセフィン/GFRα4との相互作用または結合を妨害または防止することによって機能し得る。RETの腫瘍形成能がヒトにおいて確立されているという事実に基づき、RETに特異的に結合するアンタゴニスト抗体は、がん性状態に罹患している患者における腫瘍細胞成長を阻害することにおいて有益な効果を有することが証明され得る。
【0141】
ある特定の実施形態では、本発明の抗体は、そのアミノ酸配列が配列番号310(RET51)に示され、GenBank受託番号NP_066124.1としても示され、および配列番号312(RET9)に示され、GenBank受託番号NP_065681.1としても示される、全長のタンパク質の任意の領域または断片に結合することによってRET活性を遮断または阻害することによって機能し得る。抗体はまた、配列番号310もしくは312において見出される任意の領域、または配列番号310もしくは312内で見出される断片に結合し得る。
【0142】
一実施形態では、本発明は、RETタンパク質に結合する完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片であって、以下の特徴:
(a)完全ヒト抗体であること;
(b)表面プラズモン共鳴によって測定した場合に約1.0×10-7M~約1.0×10-12Mの範囲のKDを示すこと;
(c)RETの、その対応する共受容体(それぞれGFRα1、GFRα2、GFRα3、およびGFRα4)と複合体を形成した1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーリガンド(GDNF、ニュールツリン、アルテミン、およびパーセフィン)との結合または相互作用を阻害または遮断すること;
(d)GDNF、ニュールツリン、アルテミン、およびパーセフィンから選択される1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーリガンドによって媒介されるRETシグナル伝達を阻害すること;
(e)RET受容体に対する抗体の結合後のRET内部移行/分解を増強すること;
(f)配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)を含むこと;または(g)配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含むこと
のうちの1つまたは複数を示す完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0143】
本発明のある特定の抗RET抗体は、RETタンパク質に結合し、RETに関連する活性化および/またはシグナル伝達を阻害することができる。そうすることで、抗体は、成長がRETシグナル伝達の活性化に依存する腫瘍の成長を阻害するように機能し得る。そのようなアンタゴニスト抗RET抗体を単独で使用してがん性状態を処置してもよく、または他の任意の抗がん剤、例えば化学療法低分子、もしくは放射線療法、もしくは骨髄回復剤との補助治療として使用してもよい。
【0144】
ある特定の実施形態では、抗RET抗体は、RAS/RAF経路を含む複数のシグナル伝達経路を阻害することが可能であり得、これによりマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)ERK1およびERK2(Trupp, M. et al., (1999), J Biol.
Chem. 274:20885-94; Santoro, M. et al., (1994), Mol. Cell Biol. 14:663-75; van Weering, DHJ, et al. (1995), 11:2207-14; Worby, CA, et al., (1996), J Biol Chem, 271:23619-22)、ホスファチジルイノシトール3-キナー
ゼ(PI3K)の活性化が生じ、結果的にセリン/スレオニンキナーゼAktの活性化が起こる(Trupp, M. et al., (1999), J Biol. Chem. 274:20885-94; van Weering, DHJ, (1997), J Biol Chem 272:249-54; Segouffin-Cariou, C., et al,
(2000), 275:3568-76; Maeda, K. et al, (2004), 323: 345-54)。
【0145】
本発明の抗RET抗体がRETのGFRα1/GDNF共複合体に対する結合を遮断する能力を測定するための非制限的な例示的なin vitroアッセイ、およびRETシグナル伝達、活性化、または内部移行に対する抗体の効果を測定するためのin vitroアッセイをそれぞれ、実施例4および5に例証する。実施例3では、ヒト抗RET抗体の結合親和性および速度定数を、表面プラズモン共鳴によって決定し、測定をBiacore4000またはT200機器において実施した。実施例4では、抗体がRETのGFRα1/GDNF共複合体に対する結合を遮断する能力を、競合サンドイッチELISAアッセイを使用して試験した。実施例5は、血清応答因子(SRE)-ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいて本発明の抗体がリガンド依存的RETシグナル伝達を阻害する能力を実証する。より詳しくは、実施例5に提示するデータは、本発明の抗RET抗体がグリアファミリーリガンドであるGDNFおよびアルテミンの存在下でRETシグナル伝達に対して広範囲の阻害活性を示すことを示している。
【0146】
エピトープマッピングおよび関連技術
当業者に公知の様々な技術を使用して、抗体がポリペプチドまたはタンパク質内の「1つまたは複数のアミノ酸と相互作用する」か否かを決定することができる。例示的な技術としては、例えばAntibodies, Harlow and Lane (Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harb., NY)に記載されるアッセイなどのルーチンの交差遮断アッセイが挙げられ、実行することができる。他の方法としては、アラニンスキャン変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke (2004) Methods Mol Biol 248:443-63)、ペプチド切断
分析結晶学的研究、およびNMR分析が挙げられる。加えて、抗原のエピトープ切除、エピトープ抽出、および化学改変などの方法を用いることができる(Tomer (2000) Protein Science 9: 487-496)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析法によって検出される水素/重水素交換である。一般的に、水素/重水素交換法は、目的のタンパク質の重水素標識化、その後抗体の重水素標識タンパク質への結合を伴う。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移すと、抗体複合体によって保護されたアミノ酸内の交換可能なプロトンは、界面の一部ではないアミノ酸内の交換可能なプロトンよりも遅い速度で重水素から水素への逆交換を受ける。その結果、タンパク質/抗体界面の一部を形成するアミノ酸は重水素を保持し、したがって界面に含まれないアミノ酸と比較して相対的に大きい質量を示し得る。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断および質量分析法による分析に供し、それによって抗体が相互作用する特異的アミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えばEhring (1999) Analytical Biochemistry 267(2):252-259; Engen and Smith (2001) Anal. Chem. 73:256A-265Aを参照されたい。
【0147】
用語「エピトープ」は、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、連続アミノ酸またはタンパク質の三次元フォールディングによって並置される不連続アミノ酸の両方から形成することができる。連続アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒に曝露されても保持されるが、三次元フォールディングによって形成されたエピトープは、典型的には変性溶媒による処置によって失われる。エピトープは典型的には、ユニークな空間的コンフォメーションにおいて少なくとも3、より通常少なくとも5または8~10アミノ酸を含む。
【0148】
抗原構造に基づく抗体プロファイリング(ASAP)としても公知の、改変支援プロファイリング(MAP)は、化学的または酵素により改変された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性に従って同じ抗原を対象とする多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(その全体が参照により本明細書に具体的に組み込まれる、US2004/0101920)。各カテゴリーは、別のカテゴリーによって表されるエピトープとは明白に異なるまたは部分的に重複するユニークなエピトープを反映し得る。この技術は、特徴付けが遺伝的に異なる抗体に焦点を当てることができるように、遺伝的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にする。ハイブリドーマスクリーニングに適用すると、MAPは、所望の特徴を有するmAbを産生するまれなハイブリドーマクローンの同定を容易にし得る。MAPを使用して、本発明の抗体を、異なるエピトープを結合する抗体の群へと選別してもよい。
【0149】
本発明は、本明細書において表1に記載の具体的な例示的な抗体のいずれかと同じエピトープに結合する抗RET抗体を含む。同様に、本発明はまた、本明細書において表1に記載の具体的な例示的な抗体のいずれかと、RETまたはその断片に対する結合に関して競合する抗RET抗体も含む。
【0150】
当技術分野で公知のルーチンの方法を使用することによって、抗体が参照の抗RET抗体と同じエピトープに結合するか、またはそれとの結合に関して競合するかを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照のRET抗体と同じエピトープに結合するか否かを決定するために、参照抗体を飽和条件下でRETタンパク質またはペプチドに結合させる。次に、試験抗体がRET分子に結合する能力を評価する。試験抗体が、参照の抗RET抗体による飽和結合後にRETに結合することができれば、試験抗体は参照の抗RET抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。一方、試験抗体が、参照の抗RET抗体による飽和結合後にRET分子に結合することができなければ、試験抗体は本発明の参照の抗RET抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合し得る。
【0151】
抗体が参照の抗RET抗体との結合に関して競合するか否かを決定するために、上記の結合方法論を2つの方向で実施する;第1の方向では、参照抗体を、飽和条件下でRET分子に結合させた後、RET分子に対する試験抗体の結合を評価する。第2の方向では、試験抗体を飽和条件下でRET分子に結合させた後、RET分子に対する参照抗体の結合を評価する。いずれの方向においても第1の(飽和)抗体のみがRET分子に結合することが可能であれば、試験抗体および参照抗体はRETに対する結合に関して競合すると結論付けられる。当業者によって認識されるように、参照抗体と結合に関して競合する抗体は参照抗体と同一のエピトープに必ずしも結合する必要はないが、重複するまたは隣接するエピトープを結合することによって参照抗体の結合を立体的に遮断し得る。
【0152】
2つの抗体は各々が抗原に対する他方の結合を競合的に阻害する(遮断する)場合、同じまたは重複するエピトープに結合する。すなわち、競合的結合アッセイにおいて測定した場合に、1倍、5倍、10倍、20倍、または100倍過剰の一方の抗体が他方の結合を少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%、もしくはさらに99%阻害する(例えば、Junghans et al., Cancer Res. 1990 50:1495-1502を参照されたい)。あるいは、一方の抗体の結合を低減または排除する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減または排除する一部のアミノ酸変異が他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は重複するエピトープを有する。
【0153】
次いで、追加のルーチンの実験(例えばペプチドの変異および結合分析)を実施して、試験抗体の結合の観察された欠如が実際に、参照抗体と同じエピトープに対する結合によるものであるか、または立体的遮断(または別の現象)が観察された結合の欠如の原因であるかを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当技術分野で利用可能な他の任意の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを使用して実施することができる。
【0154】
イムノコンジュゲート
本発明は、腫瘍細胞の増殖を阻害することが可能なまたはがん性状態などのRET関連状態に関連する少なくとも1つの症状を改善するための薬剤などの治療部分にコンジュゲートされたヒトRETモノクローナル抗体(「イムノコンジュゲート」)を包含する。そのような薬剤は、RETに対する第2の異なる抗体もしくは抗腫瘍化学療法剤であり得るか、またはRETを発現する腫瘍細胞に標的化した場合に、腫瘍細胞を殺滅するように作用する放射性核種であり得る。抗RET抗体にコンジュゲートされ得る治療部分のタイプは、処置される状態および達成される所望の治療効果を考慮に入れる。あるいは、所望の治療効果が、ある特定の組織によるRETの発現に関連する続発症もしくは症状、またはRET発現に起因する他の任意の状態、例えば、これに限定されないががんを処置することである場合、状態の続発症もしくは症状を処置するために、または本発明の抗体の任意の副作用を軽減するために適切な薬剤をコンジュゲートすることが有利であり得る。イムノコンジュゲートを形成するために適した薬剤の例は、当技術分野で公知であり、例えばWO05/103081号を参照されたい。
【0155】
多特異性抗体
本発明の抗体は、単特異性、二特異性、または多特異性であり得る。多特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であり得るか、または1つより多くの標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有し得る。例えば、Tutt et
al., 1991, J. Immunol. 147:60-69; Kufer et al., 2004, Trends Biotechnol. 22:238-244を参照されたい。本発明の抗体は、別の機能的分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質に連結させるかまたはそれと同時発現させることができる。例えば、抗体またはその断片を、1つまたは複数の他の分子実体、例えば別の抗体または抗体断片に機能的に連結させて(例えば、化学カップリング、遺伝子融合、非共有結合による会合またはその他の方法)、第2の結合特異性を有する二特異性または多特異性抗体を産生することができる。
【0156】
本発明の状況において使用することができる例示的な二特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)CH3ドメインおよび第2のIg CH3ドメインの使用を伴い、第1および第2のIg CH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸によって互いに異なり、少なくとも1つのアミノ酸の差は、アミノ酸の差を欠如する二特異性抗体と比較してプロテインAに対する二特異性抗体の結合を低減させる。一実施形態では、第1のIg CH3ドメインはプロテインAを結合し、第2のIg CH3ドメインは、H95R改変(IMGTエクソンナンバリングによる;EUナンバリングによる場合はH435R)などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含有する。第2のCH3は、Y96F改変(IMGTによる;EUによる場合はY436F)をさらに含み得る。第2のCH3内で見出され得るさらなる改変としては:IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる;EUによる場合はD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I);IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGT;EUによる場合は、N384S、K392N、およびV422I);ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる;EUによる場合は、Q355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が挙げられる。上記の二特異性抗体フォーマット上のバリエーションは、本発明の範囲内であると企図される。
【0157】
治療投与および製剤
本発明は、本発明の抗RET抗体またはその抗原結合性断片を含む治療組成物を提供する。本発明に従う治療組成物の投与は、適した担体、賦形剤、および製剤に取り込まれて移入、送達、認容性の改善等を提供する他の薬剤と共に投与される。数多くの適切な製剤が、全ての薬剤師に公知の処方集で見出され得る:Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, PA。これらの製剤は、例えば粉末、パス
タ、軟膏、ゼリー、ろう、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小胞(例えば、LIPOFECTIN(商標))、DNAコンジュゲート、無水吸収性パスタ、水中油型および油中水型乳剤、乳剤カーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、およびカーボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。同様にPowell et al. "Compendium of excipients for parenteral formulations" PDA (1998) J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0158】
本発明の抗体の各々の用量は、投与される対象の年齢および大きさ、標的疾患、状態、投与経路等に応じて異なり得る。本発明の抗体を、患者におけるRET関連疾患もしくは状態を処置するために、または患者におけるRET活性化もしくはシグナル伝達に依存する状態、例えばRETを発現するある特定の腫瘍に関連する1つもしくは複数の症状を処置するために、または疾患の重症度を低下させるために使用する場合、本発明の抗体の各々を通常、約0.01~約30mg/kg体重、より好ましくは約0.1~約20mg/kg体重、または約0.1~約15mg/kg体重、または約0.02~約7mg/kg体重、約0.03~約5mg/kg体重、または約0.05~約3mg/kg体重、または約1mg/kg体重、または約3.0mg/kg体重、または約10mg/kg体重、または約20mg/kg体重の単回用量で静脈内または皮下投与することが有利である。必要に応じて複数回用量を投与してもよい。状態の重症度に応じて、処置の頻度および期間を調整することができる。ある特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合性断片を、少なくとも約0.1mg~約800mg、約1~約600mg、約5~約300mg、または約10~約150mg、~約100mg、または~約50mgの初回用量として投与することができる。ある特定の実施形態では、初回用量の後に、初回用量の量とほぼ同じかまたはそれより少ない用量であり得る量で、抗体またはその抗原結合性断片の第2のまたは複数のその後の用量を投与してもよく、その後の用量は、少なくとも1日~3日;少なくとも1週間、少なくとも2週間;少なくとも3週間;少なくとも4週間;少なくとも5週間;少なくとも6週間;少なくとも7週間;少なくとも8週間;少なくとも9週間;少なくとも10週間;少なくとも12週間;または少なくとも14週間隔てられる。
【0159】
様々な送達系、例えばリポソームへの封入、微粒子、マイクロカプセル、変異体ウイルスを発現することが可能な組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシスが公知であり、これを使用して本発明の医薬組成物を投与することができる(例えば、Wu et al. (1987) J. Biol. Chem. 262:4429-4432を参照されたい)。導入方法としては、これらに限定されないが、皮内、経皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口経路が挙げられる。組成物は任意の簡便な経路によって、例えば注入またはボーラス注射によって、上皮または粘膜内層(例えば、経口粘膜、鼻粘膜、直腸および腸粘膜等)を通した吸収によって投与してもよく、他の生物活性剤と共に投与してもよい。投与は全身または局所であり得る。これはエアロゾル化製剤として送達され得る(US2011/0311515およびUS2012/0128669を参照されたい)。吸入によって呼吸器疾患を処置するために有用な薬剤の送達は、より広く容認されるようになりつつある(A. J. BitontiおよびJ. A. Dumont, (2006), Adv. Drug Deliv. Rev, 58:1106-1118を参照されたい)。局所肺疾患を処置するために有効であることに加えて、そのよ
うな送達機構はまた、抗体の全身送達にとっても有用であり得る(Maillet et al. (2008), Pharmaceutical Research, Vol. 25, No. 6, 2008を参照されたい)。
【0160】
医薬組成物はまた、小胞、特にリポソーム中で送達することもできる(例えば、Langer
(1990) Science 249:1527-1533を参照されたい)。
【0161】
ある特定の状況では、医薬組成物は、制御放出系で送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用してもよい。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。さらに別の実施形態では、制御放出系を組成物の標的の近位に配置することができ、このため全身用量のごく一部しか必要としない。
【0162】
注射可能調製物は、静脈内、皮下、皮内、および筋肉内の注射、点滴注入等のための剤形を含み得る。これらの注射可能調製物は、公知となった方法によって調製され得る。例えば、注射可能調製物は、例えば上記の抗体またはその塩を注射のために通常使用される滅菌水性媒体または油性媒体に溶解する、懸濁する、または乳化することによって調製され得る。注射のための水性媒体として、例えば生理食塩水、グルコースおよび他の補助剤等を含有する等張溶液が存在し、これらを、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加物)]等の適切な溶解剤と組み合わせて使用してもよい。油性媒体として、例えばゴマ油、ダイズ油等が用いられ、これを、例えば安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解剤と組み合わせて使用してもよい。このようにして調製された注射剤は、好ましくは適切なアンプルに充填される。
【0163】
本発明の医薬組成物は、標準的な針およびシリンジによって皮下または静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関して、ペン送達デバイスは手軽に本発明の医薬組成物の送達における適用を有する。そのようなペン送達デバイスは、再利用可能、または使い捨てであり得る。再利用可能なペン送達デバイスは一般的に、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内の医薬組成物の全てが投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジを容易に廃棄し、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと交換することができる。次いで、ペン送達デバイスを再利用することができる。使い捨てのペン送達デバイスでは、交換可能なカートリッジはない。むしろ、使い捨てのペン送達デバイスは、デバイス内のリザーバー内に保持される医薬組成物が予め充填されている。リザーバーの医薬組成物が空になると、デバイス全体を廃棄する。
【0164】
多数の再利用可能なペンおよびオートインジェクター送達デバイスが、本発明の医薬組成物の皮下送達における適用を有する。例としては、ほんの数例を挙げればAUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Burghdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、II、およびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis、Frankfurt、Germany)が挙げられるが、確実にこれらに限定されない。本発明の医薬組成物の皮下送達において適用を有する使い捨てのペン送達デバイスの例としては、ほんの数例を挙げればSOLOSTAR(商標)ペン(sanofi-aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)オートインジェクター(Amgen、Thousands Oaks、CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey、L.P.)、およびHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs、Abbott Park、IL)が挙げられるが、確実にこれらに限定されない。
【0165】
有利には、上記の経口または非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に適合に適した単位用量での剤形に調製される。単位用量中のそのような剤形は、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤等を含む。含有される上記の抗体の量は、一般的に単位用量中に剤形あたり約5~約500mgであり、特に注射剤の形態では、上記の抗体は約5~約100mgで、他の剤形では約10~約250mgで含有されることが好ましい。
【0166】
投与レジメン
本発明のある特定の実施形態によれば、RETに対する抗体の複数回用量を、決められた時間経過にわたって対象に投与してもよい。本発明のこの態様による方法は、RETに対する抗体の複数回用量を対象に逐次的に投与することを含む。本明細書で使用される場合、「逐次的に投与すること」は、RETに対する抗体の各用量が異なる時点で、例えば既定の間隔(例えば、数時間、数日、数週間、または数ヶ月)を隔てて異なる日に対象に投与されることを意味する。本発明は、RETに対する抗体の単一の初回用量の後、RETに対する抗体の1つまたは複数の二次用量および必要に応じてRETに対する抗体の1つまたは複数の三次用量を患者に逐次的に投与することを含む方法を含む。
【0167】
用語「初回用量」、「二次用量」、および「三次用量」は、RETに対する抗体の投与の時間的順序を指す。このため、「初回用量」は、処置レジメンの初めに投与される用量であり(「ベースライン用量」とも呼ばれる);「二次用量」は、初回用量後に投与される用量であり;「三次用量」は、二次用量後に投与される用量である。初回、二次、および三次用量は全て同じ量のRETに対する抗体を含有してもよいが、一般的には投与頻度に関して互いに異なり得る。しかし、ある特定の実施形態では、初回、二次、および/または三次用量に含有されるRETに対する抗体の量は、処置の過程において互いに異なる(例えば、必要に応じて上方または下方に調整される)。ある特定の実施形態では、2つまたはそれより多く(例えば、2、3、4、または5つ)の用量を処置レジメンの始めに「負荷用量」として投与した後、より少ない頻度で投与される後続の用量が続く(例えば、「維持用量」)。
【0168】
本発明の例示的な一実施形態では、各二次および/または三次用量は、直前の用量の1~26週間(例えば、1、11/2、2、21/2、3、31/2、4、41/2、5、51/2、6、61/2、7、71/2、8、81/2、9、91/2、10、101/2、11、111/2、12、121/2、13、131/2、14、141/2、15、151/2、16、161/2、17、171/2、18、181/2、19、191/2、20、201/2、21、211/2、22、221/2、23、231/2、24、241/2、25、251/2、26、261/2、またはそれより長い期間)後に投与される。語句「直前の用量」は、本明細書で使用される場合、ある順序の複数投与において、用量が介在することなく、その順序におけるまさに次の用量の投与前に患者に投与されるRETに対する抗体の用量を意味する。
【0169】
本発明のこの態様による方法は、RETに対する抗体の任意の数の二次および/または三次用量を患者に投与することを含み得る。例えば、ある特定の実施形態では、単一の二次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2つまたはそれより多く(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれより多く)の二次用量が患者に投与される。同様にある特定の実施形態では、単一の三次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2つまたはそれより多く(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれより多く)の三次用量が患者に投与される。
【0170】
複数の二次用量を伴う実施形態では、各二次用量は、他の二次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各二次用量は、直前の用量の1~2週間後に患者に投与され得る。同様に、複数の三次用量を伴う実施形態では、各三次用量は他の三次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各三次用量は、直前の用量の2~4週間後に患者に投与され得る。あるいは、二次および/または三次用量が患者に投与される頻度は、処置レジメンの経過にわたって異なり得る。投与頻度はまた、臨床検査後の個々の患者の必要に応じて医師が処置の過程の間に調整してもよい。
【0171】
抗体の治療的使用
ある特定の細胞および組織において発現されるRETタンパク質との結合/相互作用により、本抗体は、RETタンパク質の、1つまたは複数のリガンド/共受容体複合体、例えばGDNF/GFRα1、アルテミン/GFRα3、ニュールツリン/GFRα2、またはパーセフィン/GFRα4との相互作用を防止するために有用である。本発明の抗RET抗体がこの相互作用を防止または阻害する能力を考慮すると、本発明のアンタゴニスト抗体は、腫瘍細胞の成長がRETシグナル伝達に依存する場合に腫瘍細胞成長の阻害にとって有用であることを証明し得るか、またはがん性状態に関連する疼痛ならびにRET活性化もしくはシグナル伝達が役割を果たす他の疾患もしくは障害に関連する疼痛を阻害するために有用であることを証明し得る。本発明の抗体は、単独でもしくは別の抗腫瘍剤もしくは治療レジメンと併せて、または状態に関連する疼痛をさらに改善するために使用される1つもしくは複数の薬剤と共に投与される場合、RET発現腫瘍を有する対象における腫瘍の成長および/もしくは転移を遅らせるために、またはがん性状態に関連する疼痛を処置するために使用され得る。あるいは、本発明の抗体は、がん性状態に関連する少なくとも1つの症状を改善するために有用であり得る。
【0172】
本発明の抗体は、RET関連疾患もしくは状態を処置するために、またはRET関連疾患もしくは状態に関連する少なくとも1つの症状もしくは合併症を軽減するために、単独でまたは第2の薬剤、または第3の薬剤と併せて使用され得ると企図される。「RET関連疾患または状態」は、RETが疾患もしくは状態に罹患している細胞もしくは組織において発現されることが公知であり、RETの活性化および/もしくはシグナル伝達を阻害することが公知である低分子治療薬による処置に好ましく応答するか、または本発明の抗RET抗体による処置に好ましく応答する任意の疾患または状態である。第2または第3の薬剤は本発明の抗体と同時に送達され得るか、またはそれらは本発明の抗体の前もしくは後に別個に投与され得る。第2および第3の薬剤は、有機低分子または生物学的薬剤、例えばタンパク質またはポリペプチドであり得る。第2または第3の薬剤は、合成または天然に由来し得る。第2または第3の薬剤は、抗腫瘍剤、例えば化学療法薬または放射線療法、または骨髄回復剤、または発熱もしくは疼痛を低減する他の薬剤、RETを特異的に結合する別の第2のしかし異なる抗体、RETリガンド、例えばGDNF、ニュールツリン、アルテミン、もしくはパーセフィンに結合する、もしくはRETの共受容体、例えばGFRα1、GFRα2、GFRα3、もしくはGFRα4に結合する薬剤(例えば、抗体)、またはRET分子に特異的なsiRNAであり得る。
【0173】
本発明のなおさらなる実施形態では、本抗体は、RET関連疾患または状態に罹患している患者を処置するための医薬組成物の調製のために使用される。本発明のなお別の実施形態では、本抗体は、腫瘍細胞の増殖を低減する、または成長がRETシグナル伝達に依存する腫瘍を有する患者における腫瘍負荷を低減するための医薬組成物の調製のために使用される。本発明のさらなる実施形態では、本抗体は、化学療法剤、放射線療法、骨髄回復剤、第2のRET抗体、またはRET抗原に特異的な他の任意の抗体、またはGDNFもしくはGFRα1に特異的な抗体、または当業者に公知の他の任意の緩和治療を含む、RET関連疾患または状態を処置するために有用な他の任意の薬剤との補助治療として使用される。
【0174】
本発明の抗体は、RET活性に関連する任意の疾患、障害、もしくは状態の処置、防止、および/もしくは改善のために、または疾患、障害、もしくは状態に関連する少なくとも1つの症状を改善するために、またはそのような疾患、障害、もしくは状態に関連する疼痛を軽減するために有用である。本発明の抗RET抗体によって処置することができる例示的な状態、疾患、および/もしくは障害、ならびに/またはそのような状態、疾患、もしくは障害に関連する疼痛としては、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、関節炎、片頭痛、群発性頭痛、三叉神経痛、ヘルペス性神経痛、全身性神経痛、過敏性腸症候群、炎症性腸症候群、腹痛を含む内臓痛、変形性関節症痛、痛風、ヘルペス後神経痛、糖尿病性ニューロパチー、神経根痛、坐骨神経痛、背部痛、頭頸部痛、突出痛、術後痛、骨痛、がん疼痛を含むがこれらに限定されない急性または慢性疼痛が挙げられる。本発明の抗体および治療方法によって処置可能な他の状態としては、甲状腺がん、家族性甲状腺髄様癌(FMTC)症候群、散発性髄様癌(MTC)、多発性内分泌腫瘍症候群MEN2AおよびMEN2B、前立腺がん、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、または膀胱がん、ならびにこれらの状態に関連する疼痛が挙げられる。本発明の抗体によって処置可能ながんは、固形腫瘍であり得るか、またはそれらは白血病などの血液由来の腫瘍であり得る。本発明の抗体またはその抗原結合性断片はまた、以下の状態:非悪性の急性、慢性、もしくは骨折による骨痛;リウマチ性関節炎、脊柱管狭窄症;神経障害性腰痛;筋筋膜性疼痛症候群;線維筋痛症;顎関節痛;膵臓痛;慢性頭痛;緊張性頭痛;HIV関連ニューロパチー;シャルコーマリートゥースニューロパチー;遺伝性感覚ニューロパチー;末梢神経傷害;有痛性神経腫;異所性近位および遠位発火(ectopic proximal and distal discharge);神経根障害;化学療法誘発性神経障害性疼痛;放射線療法誘発性神経障害性疼痛;乳房切除後疼痛;中枢痛;脊髄損傷疼痛;卒中後疼痛;視床痛;複合性局所疼痛症候群;幻肢痛;難治性疼痛;筋骨格痛(musculoskeletal pain);関節痛;急性痛風痛;機械的な腰痛;首痛;腱炎;傷害/運動痛;腎盂腎炎;虫垂炎;胆嚢炎;腸閉塞;ヘルニア;心臓痛を含む胸痛;骨盤痛、腎疝痛、陣痛を含む急性分娩痛(obstetric pain);帝王切開疼痛;火傷および外傷疼痛;子宮内膜症;帯状疱疹疼痛;鎌状赤血球貧血;急性膵炎;副鼻腔炎痛、歯痛を含む口腔顔面痛;多発性硬化症疼痛;ハンセン病疼痛;ベーチェット病疼痛;有痛性脂肪症;静脈炎疼痛;ギランバレー疼痛;痛む脚と動く足趾;ハグルンド症候群;ファブリー病疼痛;膀胱および泌尿生殖器疾患;過活動膀胱;有痛性膀胱症候群;間質性膀胱炎;または前立腺炎を処置するためにも使用され得る。
【0175】
併用治療
上記のように、本発明の方法は、ある特定の実施形態によれば、RETに対する抗体と組み合わせて1つまたは複数の追加の治療剤を対象に投与することを含む。本明細書で使用される場合、表現「と組み合わせて」は、追加の治療剤が、抗RET抗体を含む医薬組成物の前、後、または同時に投与されることを意味する。用語「と組み合わせて」はまた、抗RET抗体と第2の治療剤の逐次的なまたは同時の投与も含む。
【0176】
例えば、抗RET抗体を含む医薬組成物の「前に」投与される場合、追加の治療剤は、抗RET抗体を含む医薬組成物の投与の約72時間、約60時間、約48時間、約36時間、約24時間、約12時間、約10時間、約8時間、約6時間、約4時間、約2時間、約1時間、約30分、約15分、または約10分前に投与され得る。抗RET抗体を含む医薬組成物の「後に」投与される場合、追加の治療剤は、抗RET抗体を含む医薬組成物の投与の約10分、約15分、約30分、約1時間、約2時間、約4時間、約6時間、約8時間、約10時間、約12時間、約24時間、約36時間、約48時間、約60時間、または約72時間後に投与され得る。抗RET抗体を含む医薬組成物と「同時の」またはそれと共の投与は、追加の治療剤が抗RET抗体を含む医薬組成物の投与の5分未満以内(前、後、または同時)に別個の剤形で対象に投与されるか、または追加の治療剤および抗RET抗体の両方を含む単一の併用投薬製剤として対象に投与されることを意味する。
【0177】
併用治療は、本発明の抗RET抗体および本発明の抗体または本発明の抗体の生物活性断片と有利に組み合わせられ得る任意の追加の治療剤を含み得る。例えば、第2のまたは第3の治療剤、例えば対象における腫瘍細胞の増殖を阻害するために有用な化学療法剤または放射線療法を、患者における腫瘍負荷の低減を助けるために用いてもよい。あるいは、抗体を腫瘍の外科的除去後の補助治療として使用してもよく、単独でまたは化学療法剤、放射線療法、または骨髄回復剤と併せて使用してもよい。抗体はまた、上記のようにRETに特異的な第2の抗体もしくはRETリガンドに特異的な抗体を含む他の治療、またはGFRα1(配列番号308を参照されたい)を結合する抗体もしくは融合分子と併せて使用してもよい。
【0178】
抗体の診断的使用
また本発明の抗RET抗体を使用して、例えば診断目的のために試料中のRETを検出および/または測定してもよい。RETに関連すると考えられる疾患または状態の確認は、例えばRETシグナル伝達を通しての成長に依存する腫瘍からの生検試料(すなわち、腫瘍細胞)中のRETの存在を測定することによって行われ得ると想定される。例示的なRETの診断アッセイは、例えば患者から得た試料を本発明の抗RET抗体と接触させることを含み得、抗RET抗体は検出可能な標識もしくはレポーター分子によって標識されるか、または患者試料からRETタンパク質を発現する細胞を選択的に単離するための捕捉リガンドとして使用される。あるいは、標識されていない抗RET抗体を、それ自体検出可能に標識される二次抗体と組み合わせて診断適用に使用することができる。検出可能な標識またはレポーター分子は、3H、14C、32P、35S、もしくは125Iなどの放射性同位体;フルオレセインイソチオシアネートもしくはローダミンなどの蛍光もしくは化学発光部分;またはアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼなどの酵素であり得る。試料中のFタンパク質を含有するRETを検出または測定するために使用することができる具体的な例示的なアッセイとしては、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化細胞選別法(FACS)が挙げられる。
【0179】
本発明によるRET診断アッセイにおいて使用することができる試料は、正常なまたは病的条件下で検出可能な量のRETタンパク質またはその断片を含有する患者から得ることが可能な任意の組織または体液試料を含む。一般的に、健康な患者(例えば、RETの存在に関連する疾患または状態に罹患していない患者)から得た特定の試料中のRETのレベルを測定して、RETタンパク質のベースラインまたは標準レベルを最初に確立する。次いで、RETのこのベースラインレベルを、RETに関連する疾患もしくは状態、またはそのような状態に関連する症状を有することが疑われる個体から得た試料中で測定されたRETのレベルと比較することができる。
【実施例0180】
以下の実施例は、当業者に、本発明の方法および組成物をどのように作製および使用するかの完全な開示および説明を提供するために記載され、本発明者らが本発明とみなす範囲を制限することを意図しない。使用した数値(例えば、量、温度等)に関しては精度を確保するように努力しているが、何らかの実験誤差および偏差を考慮に入れるべきである。特に示していない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度はセ氏での温度であり、気圧は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0181】
(実施例1 RETタンパク質に対するヒト抗体の生成)
以下のいずれか1つを含む免疫原を使用してRETに対する抗体を生成することができる。ある特定の実施形態では、本発明の抗体は、全長のRETタンパク質などの一次免疫原によって免疫したマウスから得られる(例えば、いずれも残基番号1~28からのシグナル配列を有する、ヒトRET51アイソフォームに関して、ATCC受託番号NP_066124.1においても見出される配列番号310;およびヒトRET9アイソフォームに関して、ATCC受託番号NP_065681.1においても見出される配列番号312を参照されたい)。マウスに、同じ分子を含有する1つもしくは複数の追加免疫注射を行ってもよく、またはその免疫原性断片、例えばアミノ酸残基1~28の範囲のシグナル配列を有する、ATCC受託番号NP_066124.1においても見出される配列番号313のアミノ酸1~635の範囲のヒトRET細胞外ドメインを追加免疫してもよい。ある特定の実施形態では、マウスに全長のRETタンパク質を注射した後、配列番号305、306、307、および313として示される構築物のいずれかまたは組み換えによって調製した分子を追加免疫する。
【0182】
ある特定の実施形態では、本発明の抗体は、生物活性RET分子またはRETタンパク質の免疫原性断片、または全長のタンパク質もしくはその活性な断片をコードするDNAなどの一次免疫原によって免疫したマウスから得られる。免疫原を、筋肉内、皮下、静脈内、または鼻腔内を含むがこれらに限定されない任意の経路を介して動物に送達してもよい。
【0183】
ある特定の実施形態では、全長のRETタンパク質またはその断片を、単特異性、二特異性、または多特異性抗体を調製するために使用してもよい。
【0184】
上記のように免疫原として使用される全長のタンパク質またはその断片を、免疫応答を刺激するためのアジュバントと共に、ヒト免疫グロブリン重鎖およびカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスに直接投与した。抗体免疫応答を、RETイムノアッセイによってモニターした。所望の免疫応答が達成されると、脾細胞を回収し、マウス骨髄腫細胞と融合させてその生存能を保ち、ハイブリドーマ細胞株を形成した。ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングおよび選択してRET特異的抗体を産生する細胞株を同定した。この技術および上記の様々な免疫原を使用して、いくつかのキメラ抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびマウス定常ドメインを保有する抗体)を得た;このようにして生成されたある特定の例示的な抗体を、例えばH2M7086Nと名付けた。
【0185】
抗RET抗体はまた、その全体が参照により本明細書に具体的に組み込まれるUS2007/0280945A1に記載されるように骨髄腫細胞に融合することなく抗原陽性B細胞からも直接単離した。この方法を使用して、いくつかの完全ヒト抗RET抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびヒト定常ドメインを保有する抗体)を得た;このようにして生成された例示的な抗体を以下のように名付けた:H4H8044P、H4H8045P、H4H8046P、H4H8048P、H4H8056P、H4H8058P、H4H8060P、H4H8062P、H4H8066P、H4H8067P、H4H8071P、H4H8076P、H4H8079P、H4H8080P、H4H8083P、H4H8084P、H4H8085P、およびH4H8087P。
【0186】
本実施例の方法に従って生成された例示的な抗体の生物特性を以下の実施例に詳細に説明する。
【0187】
(実施例2 重鎖および軽鎖可変領域アミノ酸配列)
表1は、RETタンパク質に特異的な選択された抗体の重鎖および軽鎖可変領域アミノ酸配列対およびその対応する抗体識別子を記載する。抗体は典型的には、本明細書において以下の命名法に従って呼ばれる:Fc接頭辞(例えば、「H4H」、「H1M」、「H2M」)の後に続く数値識別子(例えば、表1に示すように「7086」)、その後に続く「P」または「N」接尾辞。このように、この命名法によれば、抗体は、例えば「H2M7086N」と呼ばれ得る。本明細書で使用される抗体の名称におけるH4H、H1M、およびH2M接頭辞は、抗体の特定のFc領域を示す。例えば、「H2M」抗体はマウスIgG2 Fcを有するが、「H4H」抗体はヒトIgG4 Fcを有する。当業者によって認識されるように、H1MまたはH2M抗体をH4H抗体に変換することができ、その逆も同じであるが、いずれにせよ表1に示す数値識別子によって示される可変ドメイン(CDRを含む)は同じままである。同じ数値での抗体名称を有するが接尾辞の文字N、B、またはPが異なる抗体は、同一のCDR配列を有するが、CDR配列に入らない領域(すなわち、フレームワーク領域)に配列バリエーションを有する重鎖および軽鎖を有する抗体を指す。このように、特定の抗体のN、B、およびPバリアントは、その重鎖および軽鎖可変領域内に同一のCDR配列を有するが、そのフレームワーク領域内が互いに異なる。
【表1-1】
【表1-2】
【0188】
(実施例3 ヒトモノクローナル抗RET抗体の表面プラズモン共鳴由来結合親和性および速度定数)
ヒト抗RET抗体の結合親和性および速度定数を表面プラズモン共鳴(Biacore
T200)によって25℃および37℃で決定した(表2~3)。ヒトIgG4 Fc(すなわち、「H4H」名称)として発現させた抗体を抗ヒトFcセンサー表面(mAb-捕捉フォーマット)上で捕捉し、可溶性単量体の(hRET.mmh;配列番号305、macaca fascicularis(mf)RET.mmh;配列番号306)または二量体の(hRET.mFc;配列番号307)RETタンパク質をセンサー表面上に注入した。結合平衡解離定数(KD)、および解離半減期(t1/2)を運動速度定数から:KD[M]=kd/ka;およびt1/2(分)=(ln2/(60*kd)として計算した。計算は、BiacoreT200評価ソフトウェアv1.0を使用して実施した。
【0189】
本発明のいくつかの抗体は、ヒトおよびサルRETタンパク質に対してナノモル濃度以下の親和性を示した(表2~3)。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表3-1】
【表3-2】
【0190】
(実施例4 抗RET抗体は、GFRα1/GDNF共複合体に対するヒトRETの結合を強力に遮断する)
抗RET抗体が予め複合体を形成したプレート結合GDNF:GFRα1に対するヒトRETの結合を遮断する能力を、競合サンドイッチELISAを使用して評価した。RET抗体の大部分は、プレート結合GDNF/GFRα1共複合体に対するRETの結合を強力に遮断した(表4)。IC50値は、5.2nM~アッセイの理論最低値(250pM)より下の値の範囲であり、最大の遮断は72~96%の範囲であった。
【0191】
詳細な方法
組換えヒト二量体GDNF(R&D systems)、およびヒトGFRα1.mFc(配列番号308)を、PBS中で1:1のモル比で混合して、約2.0μg/mlの最終共複合体濃度を得た。GDNF-GFRα1共複合体を室温(RT)で1時間インキュベートした後、96ウェルマイクロタイタープレートを4℃で一晩コーティングした。非特異的結合部位をBSAによって遮断した。
【0192】
別個に、1nMのビオチン化単量体RETタンパク質(biot-hRET.mmh;配列番号:305)を、0~120nMの間の範囲の様々な量の連続希釈した抗体によって滴定した。抗体-RET混合物をRTで1時間インキュベートし、次いで、hGDNF/hGFRα1共複合体を予めコーティングしたマイクロタイタープレートに移した。結合をRTで1時間進行させた後、十分に洗浄した。プレート結合biot-hRET.mmhを、HRPコンジュゲートストレプトアビジンによって検出し、TMBによって顕色した。プレートを450nmで読み取り、データ分析はPrism(商標)ソフトウェア内のシグモイドの用量反応モデルを使用した。
【0193】
hGDNF/hGFRα1に対するhRETの結合を50%遮断するために必要な抗体の濃度として計算したIC
50値を遮断効力の指標とした。最大の遮断値は、ベースラインと比較して抗RET抗体がhRET結合を遮断する能力を表す。ベースライン値は、用量曲線における一定量のhRETで測定された吸光度(0%遮断)、およびhRETを添加せずに測定した吸光度(100%遮断)として計算した。各抗体の最高濃度を含有するウェルの吸光度の値を使用して、試験した抗体の最高濃度での遮断パーセントを決定した。IC
50および最大遮断パーセントの要約を表4に示す。
【表4】
【0194】
(実施例5 抗RET抗体はSRE-ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいてリガンド依存的RETシグナル伝達を阻害し、強い内部移行を示す)
この実施例では、RETシグナル伝達および内部移行に対する抗RET抗体の効果を、MCF7およびhRET操作レポーター細胞株を使用して調べた。
【0195】
グリアファミリーリガンドであるGDNFおよびアルテミンはそれぞれ、GFRα1または3との高親和性共複合体の形成を通してRETの活性化を誘発し、2つのRET分子を一緒にし、特異的チロシン残基のリン酸化を開始する。RETのトランスリン酸化は、いくつかの下流の細胞内カスケードを活性化し、RETシグナル伝達の上方調節は、がんを含むいくつかの疾患の病理学に関係している(Borrello, MG, et al., (2013), Expert. Opin. Ther. Targets 17(4): 403-419)。
【0196】
RET抗体がGDNF媒介シグナル伝達を遮断する能力を試験するために、RETおよびGFRα1を発現するヒト乳腺癌細胞株MCF7に、血清応答因子(SRE)調節ルシフェラーゼレポーター遺伝子を形質導入して、MCF7/SRE-Luc株を創出した。本発明の抗体は、GDNF刺激RETシグナル伝達の強力な阻害を示し、IC50値は143pM~>100nMの範囲であった(表5)。阻害のパーセントは60~100%の範囲であった。いくつかの非遮断抗体もまた同定された;H4H8085Pは、ルシフェラーゼ活性を、GDNFによって観察されたレベルの50%まで刺激したが、H4H8044P、H4H8076P、およびH4H8046Pは、ルシフェラーゼ応答のより弱い活性化因子であった(2~5%の活性化)。
【0197】
GDNF媒介RETシグナル伝達を遮断した抗体がまた、アルテミン誘発活性に対しても有効であるか否かを決定するために、操作されたHEK293/hGFRa3/hRET SRELuc細胞株を構築した。RETシグナル伝達のほとんどのGDNF依存的遮断剤もまた、この細胞株におけるアルテミン依存的シグナル伝達活性の遮断剤であった(表5;列5~6)。興味深いことに、H4H8048Pは、GDNF依存的シグナル伝達と比較してアルテミン依存的シグナル伝達に対するより強力な遮断剤であると同定され、おそらくRET受容体上のGDNF-GFRα1およびアルテミン-GFRα3共複合体が結合するエピトープが異なることを反映している。
【0198】
最後に、観察された遮断活性が抗体結合時のRET受容体の分解により得るものであるか否かも理解するために、いくつかの抗体を内部移行アッセイにおいて試験した(表6)。試験した7つの抗体の中で、H4H8087Pは、最も強く内部移行するものとして同定され、H4H8079PおよびH4H7086Pもまた強力な内部移行を示した。
【0199】
結論として、この実施例は、本発明の抗RET抗体が、グリアファミリーリガンドであるGDNFおよびアルテミンの存在下でRETシグナル伝達に対して広範囲の活性化および阻害活性を示すことを例示する。
【表5】
【表6】
【0200】
詳細な方法
MCF7/SRE-ルシフェラーゼ安定細胞株の生成
MCF7細胞は、RETおよびGFRα1を天然に発現する。MCF7/SRELuc細胞の産生は、Cignal Lenti SREレポーターキット(SABiosciences)によるMCF7の形質導入およびピューロマイシンでの2週間の選択を介して生成された安定に組み込まれたSRE-ルシフェラーゼを利用した。レンチウイルスは、最小CMVプロモーターおよび血清応答エレメント(SRE)のタンデムリピートの制御下でホタルルシフェラーゼ遺伝子を発現する。
【0201】
HEk293/hGFRa1(または3)/hRET/SRE-ルシフェラーゼ安定細胞株の生成
ヒトGFRα(1または3)およびhRETを、リポフェクタミン2000媒介トランスフェクションの逐次ラウンドを介してHEK293細胞に安定に導入し、500μg/ml G418(hGFRa1または3)および100μg/mlハイグロマイシンB(hRET)中で少なくとも2週間選択した。次いで、hGFRa1/hRETまたはhGFRa3/hRETを発現するHEK293二重安定株を、上記のようにCignal Lenti SREレポーターキットによって形質導入して、HEK293/hGFRa1/hRET/SRE-Luc細胞株およびアルテミン応答性HEK293/GFRa3/hRET/SRE-Luc細胞株を生成した。
【0202】
MCF7/SRE-ルシフェラーゼ操作細胞株におけるGDNF刺激ルシフェラーゼ活性の阻害
MCF7-SRE-luc細胞20000個をPDLコーティング96ウェルプレートにOptimem+0.5%FBS中で播種し、37℃、5%CO2で一晩成長させた。阻害曲線のために、細胞を、1.6pM~1μMの範囲の連続希釈した抗hRET mAbと共に1時間インキュベートした。次いで、一定用量のヒトGDNF(4~10pM)を添加し、細胞をさらに6時間インキュベートした。
【0203】
抗RET mAbの活性化特性を評価するために、MCF7-SRE-Luc細胞をリガンドの非存在下で1.6pM~1μMの範囲の連続希釈した抗hRET mAbと共に6時間インキュベートした。
【0204】
GDNFの用量反応曲線を、0.05pM~10nMの範囲の連続希釈したGDNFを使用して測定し、抗体なしでウェルに添加し、37℃で6時間インキュベートした。ルシフェラーゼ活性を、ONE GLO(商標)試薬(Promega)によって測定し、相対光単位(RLU)を、Victorルミノメーター(Perkin Elmer)において測定した。
【0205】
HEK293/hGFRa3/hRET操作細胞株におけるアルテミン刺激ルシフェラーゼ活性の阻害
HEK293/hGFRa3/hRET/SRE-Luc細胞株におけるアルテミン刺激ルシフェラーゼ活性の阻害を、MCF7/SRE-Luc細胞に関して記載した方法を介して抗RET抗体を使用して評価した。阻害曲線を生成するために、細胞を、1.6pM~1μMの範囲の連続希釈した抗hRET抗体と共に1時間インキュベートした。次いで、細胞を一定用量のhアルテミン(100pM)によって6時間刺激した。アルテミンの用量反応曲線は、連続希釈したhアルテミン(0.17pM~10nM)を、抗体を添加せずに細胞に37℃で6時間添加することによって生成した。ルシフェラーゼ活性測定およびカーブフィッティングを、GDNF刺激ルシフェラーゼ活性に関して記載したとおりに実施した。
【0206】
EC50/IC50値の計算
EC50/IC50値を、GraphPad Prismを使用して12ポイント応答曲線に対して4パラメーターロジスティック方程式から決定した。遮断パーセントは、最高の抗体用量に関して報告し、データを平均値±標準偏差(SD)として報告する。
【0207】
抗RET抗体の内部移行特性の定量的分析
抗hRET mAbを内部移行に関して試験するために、HEK293/hGFRa1/hRET/SRE-Luc細胞を、抗体(10μg/ml)と共に氷上で30分間インキュベートした後、1回洗浄した。次いで細胞を、alexa488コンジュゲート抗hFc Fab二次抗体と共に30分間インキュベートした後、2回目の洗浄を行った。抗体を37℃で4時間内部移行させたか、または内部移行を防止するために4℃で維持した。細胞を4%ホルムアルデヒド中で固定し、細胞表面のalexa488を、抗alexa488クエンチ抗体との4℃で1時間のインキュベーションによってクエンチした。核をヘキスト染料によって染色し、画像をImageXpress micro XL(Molecular Devices)において獲得した。
【0208】
クエンチした試料中の37℃での細胞内小胞における総alexa488強度を、Columbus画像分析ソフトウェア(Perkin Elmer)を介して定量した。総内部移行mAb強度を、最も強く内部移行するmAbのパーセンテージとして表現する。
【0209】
(実施例6 二特異性抗体の生成)
様々な二特異性抗体を、本発明の方法の実践における使用のために生成する。例えば、RET特異的抗体を、RETタンパク質の別個のドメインに結合する可変領域が単一の結合分子内で二重のドメイン特異性を付与するように共に連結される二特異的フォーマット(「二特異性抗体(bi-specific)」)で生成する。適切に設計された二特異性抗体は、特異性および結合アビディティの両方を増加させることを通して全体的なRET中和有効性を増強し得る。個々のドメインに関して特異性を有する可変領域を、構造的足場上で対を形成させ、それによって各領域を別個のエピトープまたは1つのドメイン内の異なる領域に同時に結合させる。二特異性抗体の一例では、1つのドメインに関して特異性を有する結合剤からの重鎖可変領域(VH)を、第2のドメインに対して特異性を有する一連の結合剤からの軽鎖可変領域(VL)と組み換えて、そのVHに対する元の特異性に支障をきたすことなく、元のVHと対を形成することができる非同族のVLパートナーを同定する。このようにして、単一のVLセグメント(例えば、VL1)を2つの異なるVHドメイン(例えば、VH1およびVH2)と組み合わせて、2つの結合「アーム」(VH1-VL1、およびVH2-VL1)で構成される二特異性抗体を生成することができる。単一のVLセグメントの使用は、システムの複雑度を低減させ、それによって二特異性抗体を生成するために使用されるクローニング、発現、および精製プロセスを単純化し、その効率を増加させる(例えば、USSN13/022759およびUS2010/0331527を参照されたい)。
【0210】
あるいは、RETおよび例えば腫瘍抗原などの、しかしこれに限定されない第2の標的を結合する抗体を、本明細書に記載の技術または当業者に公知の他の技術を使用して二特異的フォーマットで調製してもよい。別個の領域に結合する抗体可変領域を、例えば異なる抗原上の関連する部位に結合する可変領域と共に連結させて、単一の結合分子内で二重の抗原特異性を付与してもよい。この性質の適切に設計された二特異性抗体は、二重の機能を果たす。例えば、すなわちRETおよびそのリガンドの1つを結合する二特異性抗体の場合、2つの別個の抗体を含有する組成物の投与の必要なしで、腫瘍細胞成長をよりよく阻害することができる可能性がある。RETに対して特異性を有する可変領域を、そのリガンドの1つに対して特異性を有する可変領域と組み合わせ、構造的足場上で対を形成させることにより、各可変領域を別個の抗原に結合させることが可能である。
【0211】
二特異性結合剤を、抗体に関して上記のアッセイのいずれかにおいて、標的抗原、例えばRETの結合および機能的遮断に関して試験する。例えば、可溶性タンパク質結合を測定するための標準的な方法、例えばBiacore、ELISA、サイズ排除クロマトグラフィー、多角度レーザー光散乱、直接走査型熱量測定、および他の方法を使用して二特異性相互作用を評価する。RETおよびそのリガンドの1つの両方に対する二特異性抗体の結合は、異なる抗原を表す合成ペプチドがマイクロタイタープレートのウェルにコーティングされているELISA結合アッセイの使用を通して、および二特異性抗体の結合は、二次検出抗体の使用を通して決定される。結合実験はまた、表面プラズモン共鳴実験を使用しても実施することができ、ここではペプチドの抗体に対するリアルタイム結合相互作用を、二特異性抗体またはペプチドがそれぞれ捕捉されるセンサー表面全体にペプチドまたは二特異性抗体を流すことによって測定する。二特異性抗体によるRETおよびそのリガンドの1つの両方の機能的なin vitro遮断は、本明細書に記載のアッセイなどの任意のバイオアッセイを使用して、または担腫瘍動物モデルなどの適切な動物モデルにおけるin vivo保護研究によって決定される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
RET(トランスフェクション中の再配列)受容体チロシンキナーゼに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片であって、前記抗体が、以下の特徴:
(a)完全ヒト抗体であること;
(b)表面プラズモン共鳴によって測定した場合に約1.0×10-7M~約1.0×10-12Mの範囲のKDを示すこと;
(c)RETの、その対応する共受容体(それぞれGFRα1、GFRα2、GFRα3、およびGFRα4)と複合体を形成した1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーリガンド(GDNF、ニュールツリン、アルテミン、およびパーセフィン)との結合または相互作用を阻害または遮断すること;
(d)GDNF、ニュールツリン、アルテミン、およびパーセフィンから選択される1つまたは複数のGDNFファミリーメンバーリガンドによって媒介されるRETシグナル伝達を阻害すること;
(e)前記RET受容体に対する前記抗体の結合後のRET内部移行/分解を増強すること;
(f)配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)を含むこと;または(g)配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含むこと
のうちの1つまたは複数を有する、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目2)
前記抗体が、GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの結合を約100pM~約7.0nMの範囲のIC50値で遮断する、項目1に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目3)
前記抗体が、前記GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの結合を約250pM~約5.2nMの範囲のIC50値で遮断する、項目2に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目4)
前記GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの遮断パーセントが、約40%~100%の範囲である、項目3に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目5)
前記GDNF:GFRα1共複合体に対するヒトRETの遮断パーセントが、約57%~約97%の範囲である、項目4に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目6)
GDNF媒介RETシグナル伝達が、約50pM~100nMより大きい値の範囲のIC50値で阻害される、項目1に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目7)
GDNF媒介RETシグナル伝達が、約143pM~100nMより大きい値の範囲のIC50値で阻害される、項目6に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目8)
GDNF媒介RETシグナル伝達が、約40%~約100%阻害される、項目6に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目9)
GDNF媒介RETシグナル伝達が、約60%~約100%阻害される、項目7に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目10)
アルテミン媒介RETシグナル伝達が、約100pM~約500nMの範囲のIC50値で阻害される、項目1に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目11)
アルテミン媒介RETシグナル伝達が、約250pM~約341nMの範囲のIC50値で阻害される、項目10に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目12)
アルテミン媒介RETシグナル伝達が、約57%~約100%阻害される、項目11に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目13)
配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、および290/298からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、項目1に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目14)
RETに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片であって、前記抗体が、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、および290からなる群より選択されるHCVRアミノ酸配列内に含有される3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)を含むHCVR;ならびに配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるLCVRアミノ酸配列内に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含むLCVRを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
(項目15)
(a)配列番号4、20、36、52、68、84、100、116、132、148、164、180、196、212、228、244、260、276、および292からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b)配列番号6、22、38、54、70、86、102、118、134、150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c)配列番号8、24、40、56、72、88、104、120、136、152、168、184、200、216、232、248、264、280、および296からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d)配列番号12、28、44、60、76、92、108、124、140、156、172、188、204、220、236、252、268、284、および300からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e)配列番号14、30、46、62、78、94、110、126、142、158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;ならびに
(f)配列番号16、32、48、64、80、96、112、128、144、160、176、192、208、224、240、256、272、288、および304からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメイン
を含む、項目14に記載の単離されたヒトモノクローナル抗体または抗原結合性断片。
(項目16)
配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、および290/298からなる群より選択される重鎖および軽鎖配列対を含む抗体または抗原結合性断片と、RETに対する特異的結合に関して競合する、単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目17)
配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、および290/298からなる群より選択される重鎖および軽鎖配列対を含む抗体によって認識されるRET上の同じエピトープを結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目18)
項目1~17のいずれかに記載の抗体または抗原結合性断片をコードする単離された核酸分子。
(項目19)
項目18に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
(項目20)
項目1~17のいずれかに記載のRETを特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片のいずれか1つまたは複数、および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物。
(項目21)
RET受容体チロシンキナーゼ遺伝子またはその再配列された形態の発現、活性化、またはシグナル伝達に関連する障害もしくは状態、または前記障害もしくは状態に関連する疼痛を処置する方法であって、それを必要とする患者に、項目1~17のいずれかに記載の1つもしくは複数の抗体もしくはその抗原結合性断片、または項目1~17のいずれかに記載の1つもしくは複数の抗体を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
(項目22)
RET受容体チロシンキナーゼ遺伝子またはその再配列された形態の発現、活性化、またはシグナル伝達に関連する前記障害または状態ががんであり、前記がんが甲状腺がん、肺がん、膵臓がん、皮膚がん、乳がん、および血液由来のがんからなる群より選択される、項目21に記載の方法。
(項目23)
RET受容体チロシンキナーゼ遺伝子またはその再配列された形態の発現、活性化、またはシグナル伝達に関連する前記障害または状態が、急性疼痛、慢性疼痛、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、関節炎、変形性関節症、片頭痛、群発性頭痛、三叉神経痛、ヘルペス性神経痛、全身性神経痛、神経変性障害、神経内分泌障害、内臓痛、急性痛風、ヘルペス後神経痛、糖尿病性ニューロパチー、坐骨神経痛、背部痛、頭頸部痛、重度または難治性疼痛、突出痛、術後痛、歯痛、鼻炎、がん疼痛、または膀胱障害からなる群より選択される、項目21に記載の方法。
(項目24)
腫瘍の成長または腫瘍細胞の増殖を阻害するための方法であって、前記腫瘍または腫瘍細胞がRETまたはその再配列された形態を発現し、前記方法がそれを必要とする患者に項目1~17のいずれかに記載の1つもしくは複数の抗体もしくはその抗原結合性断片、または項目1~17のいずれかに記載の1つもしくは複数の抗体を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
(項目25)
前記腫瘍が固形腫瘍または血液由来の腫瘍である、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記固形腫瘍が、甲状腺腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、皮膚腫瘍、および乳房腫瘍からなる群より選択される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記甲状腺腫瘍が、甲状腺乳頭癌(PTC)または甲状腺髄様癌(MTC)である、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記甲状腺髄様癌が、多発性内分泌腫瘍症2型または3型(MEN2A、MEN2B)、および家族性甲状腺髄様癌(FMTC)症候群からなる群より選択される遺伝性MTCであるか、または前記甲状腺髄様癌が散発性MTCである、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記肺腫瘍が肺腺癌である、項目26に記載の方法。
(項目30)
前記肺腫瘍が非小細胞肺がん(NSCLC)である、項目26に記載の方法。
(項目31)
前記皮膚腫瘍が黒色腫である、項目26に記載の方法。
(項目32)
前記血液由来の腫瘍が白血病である、項目25に記載の方法。
(項目33)
前記白血病が慢性骨髄単球性白血病である、項目32に記載の方法。
(項目34)
RET発現および/または機能を下方調節する方法であって、それを必要とする患者に、項目1~17のいずれかに記載の1つもしくは複数の抗体もしくはその抗原結合性断片、または項目1~17のいずれかに記載の1つもしくは複数の抗体を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
(項目35)
前記RET発現および/または機能を下方調節することが、RAS/RAF経路およびPI3K経路からなる群より選択される下流のシグナル伝達経路の下方調節をもたらす、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記抗体または抗原結合性断片が、第2の治療剤と組み合わせて前記患者に投与される、項目21~35のいずれかに記載の方法。
(項目37)
前記第2の治療剤が、低分子チロシンキナーゼ阻害剤、抗腫瘍剤、RETに特異的なsiRNA、RETに特異的な第2の抗体、および鎮痛剤からなる群より選択される、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記低分子チロシンキナーゼ阻害剤が、バンデタニブ、セディラニブ、(AZD2171)、ゲフィチニブ、エルロチニブ、SU14813、バタラニブ、ソラフェニブ、ソラフェニブ(BAY43-9006)、スニチニブ、カボザンチニブ、モテサニブ、XL-647、XL-999、AG-013736、BIBF1120、TSU68、GW786034、AEE788、CP-547632、KRN951、CHIR258、CEP-7055、OSI-930、ABT-869、E7080、ZK-304709、BAY57-9352、L-21649、BMS582664、XL-880、XL-184、XL-820、RPI-1、PP-1、およびNVP-AST478からなる群より選択される、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記抗腫瘍剤が、化学療法剤、放射性核種、および抗体-薬物コンジュゲートからなる群より選択される、項目37に記載の方法。
(項目40)
前記鎮痛剤が、神経成長因子(NGF)阻害剤(例えば、低分子NGFアンタゴニストもしくは抗NGF抗体)、アスピリンもしくは別のNSAID、モルヒネ、ステロイド(例えば、プレドニゾン)、抗Nav1.7抗体もしくはNav1.7の低分子阻害剤、Nav1.8アンタゴニスト(例えば、抗Nav1.8抗体もしくはNav1.8の低分子阻害剤)、Nav1.9アンタゴニスト(例えば、抗Nav1.9抗体もしくはNav1.9の低分子阻害剤)、サイトカイン阻害剤(例えば、インターロイキン-1(IL-1)阻害剤(例えば、リロナセプト(「IL-1 trap」);Regeneron)もしくはアナキンラ(KINERET(登録商標)、Amgen)、低分子IL-1アンタゴニストもしくは抗IL-1抗体;IL-18阻害剤(例えば、低分子IL-18アンタゴニストもしくは抗IL-18抗体);IL-6もしくはIL-6R阻害剤(例えば、低分子IL-6アンタゴニスト、抗IL-6抗体、もしくは抗IL-6受容体抗体)、カスパーゼ-1の阻害剤、p38、IKK1/2、CTLA-4Ig、またはオピオイドからなる群より選択される、項目37に記載の方法。