(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024191
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】ハット形鋼矢板の製造方法及びハット形鋼矢板の製造設備
(51)【国際特許分類】
B21B 1/082 20060101AFI20240215BHJP
B21B 45/02 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B21B1/082
B21B45/02 320P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126842
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】吉村 隆
(72)【発明者】
【氏名】駒城 倫哉
(72)【発明者】
【氏名】杉田 和範
(72)【発明者】
【氏名】後藤 寛人
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 拓弥
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AC05
4E002BD07
4E002CA11
4E002CA15
(57)【要約】
【課題】「ラッパ変形」、「逆ラッパ変形」という2つの形態の端部変形が抑止可能で、長手端部の全幅形状が良好となるハット形鋼矢板の製造方法と製造設備を提供する。
【解決手段】ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板の熱間圧延において、圧延実績から予測される、圧延対象材の仕上圧延後の長手方向端部の全幅と長手方向端部以外の予め設定される位置における全幅との差である全幅差ΔW、もしくは、圧延実績から予測される、圧延対象材の仕上圧延後の継手部とフランジ部との温度差ΔTに基づいて、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御する。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板の熱間圧延において、圧延実績から予測される、圧延対象材の仕上圧延後の長手方向端部の全幅と長手方向端部以外の予め設定される位置における全幅との差である全幅差ΔWに基づいて、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御することを特徴とするハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項2】
ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板の熱間圧延において、圧延実績から予測される、圧延対象材の仕上圧延後の前記継手部と前記フランジ部との温度差ΔTに基づいて、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御することを特徴とするハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項3】
前記噴射位置の制御は、冷媒を噴射する噴射装置について、前記圧延対象材の全幅方向に沿って移動すること、及び前記冷媒の噴射方向を変えることのうちの少なくともひとつの方法により行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項4】
前記噴射位置の制御は、冷媒を噴射する噴射装置を、前記フランジ部から前記継手部にかけて複数設置し、複数の噴射装置から何れか1または2以上の噴射装置が選択されることにより行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項5】
ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板を熱間圧延により該ハット形鋼矢板の形状に造形する熱間圧延機と、該熱間圧延により得られたハット形鋼矢板を幅方向に切断する鋸断装置とを有するハット形鋼矢板の製造設備において、
前記熱間圧延時の仕上圧延機に付帯するガイド内に前記継手部およびフランジ部の冷却が選択可能な冷却装置を備え、
圧延実績から、圧延対象材の仕上圧延後の長手方向端部の全幅と端部から長手方向端部以外の予め設定される位置における全幅との差である全幅差ΔWを予測する演算装置を備え、
予測した全幅差ΔWに基づき、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御する手段を備えたことを特徴とするハット形鋼矢板の製造設備。
【請求項6】
ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板を熱間圧延により該ハット形鋼矢板の形状に造形する熱間圧延機と、該熱間圧延により得られたハット形鋼矢板を幅方向に切断する鋸断装置とを有するハット形鋼矢板の製造設備において、
前記熱間圧延時の仕上圧延機に付帯するガイド内に前記継手部およびフランジ部の冷却が選択可能な冷却装置を備え、
圧延実績から、圧延対象材の仕上圧延後の前記継手部と前記フランジ部との温度差ΔTを予測する演算装置を備え、
予測した温度差ΔTに基づき、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御する手段を備えたことを特徴とするハット形鋼矢板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブ部、フランジ部、継手部に加え、腕部を有するハット形鋼矢板の製造方法とその製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、土木工事の土留め部材等に用いられるハット形鋼矢板は一般に孔型圧延法により製造される。この孔型圧延法の一般的な工程としては、先ず加熱炉において所定の温度に加熱した鋼素材(矩形材)を、孔型を備えた粗圧延機、中間圧延機および仕上圧延機によって順に熱間圧延することが知られている。なお、粗圧延機、中間圧延機および仕上圧延機による熱間圧延をそれぞれ粗圧延、中間圧延および仕上圧延ともいい、これらの熱間圧延を総称して造形圧延ともいう。
【0003】
このようにして熱間圧延されたハット形鋼矢板1は
図1に示すような断面形状を有し、ウェブ部11、左右で一対となるフランジ部12、左右で一対となる腕部13、左右で一対となりその断面形状が左右でほぼ点対称である継手部14から成る。なお、フランジ部12と腕部13との接合部は、肘部15と呼ばれることもある。
【0004】
このように、熱間圧延によって製造されるハット形鋼矢板は、断面各部の厚み差や冷却条件差により断面内の温度分布が不均一となることによって、冷却後に継手の反りや曲がりといった形状不良が生じる場合がある。また、熱間圧延後、熱間鋸断される場合は、温度差により断面内に生じる残留応力が熱間鋸断部で開放されることで、後述する「ラッパ変形」や「逆ラッパ変形」といった製品長手端部の変形が発生する場合がある。
【0005】
ところで、鋼矢板の長手方向端部に変形が生じた場合は、鋸断後において端部形状の矯正作業が必要となる。鋼矢板の製造で一般的に行われているレベラー矯正は、本製造プロセス中のオンライン工程で実施可能であるが、レベラー矯正では長手方向の端部には圧下を加えることができないため、端部形状の矯正は困難である。一方、オフラインで実施されるプレス矯正では、端部形状の矯正が可能であるが、生産効率が低下する。
【0006】
そこで、ハット形鋼矢板の端部形状を制御する方法として、特許文献1では、熱間圧延を終了後、ウェブ部が500℃まで温度降下するまでの間の同一時点における、フランジ部の最低温度Tfと継手部ないし腕部の最高温度Tgとの差を温度差ΔT(=Tg-Tf)とし、該温度差ΔTと熱間鋸断後の切断面端部の曲がり量との関係を定めておき、この関係に基づき前記曲がり量を許容値内とできるΔTの範囲が得られるように仕上圧延機の最終孔型での熱間圧延において前記継手部の冷却を行うことを特徴とするハット形鋼矢板の製造方法が開示されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の技術には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
【0009】
上記特許文献1に例示されるハット形鋼矢板の製造方法は、熱間圧延後の端部の全幅が定常部よりも広くなる「ラッパ変形」に対してのみ、有効な技術であった。すなわち、仕上圧延で継手部の冷却を行わない条件においても、熱間圧延後の端部の全幅が定常部よりも狭くなる「逆ラッパ変形」となる場合には、適正な継手冷却条件ないし適正な温度条件とすることができず、「逆ラッパ変形」を抑制できない、という問題があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ハット形鋼矢板の「ラッパ変形」、「逆ラッパ変形」という2つの形態の端部変形が抑止可能で、長手端部の全幅形状が良好なハット形鋼矢板の製造方法と製造設備を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板の熱間圧延において、圧延実績から予測される、圧延対象材の仕上圧延後の長手方向端部の全幅と長手方向端部以外の予め設定される位置における全幅との差である全幅差ΔWに基づいて、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御することを特徴とするハット形鋼矢板の製造方法。
[2]ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板の熱間圧延において、圧延実績から予測される、圧延対象材の仕上圧延後の前記継手部と前記フランジ部との温度差ΔTに基づいて、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御することを特徴とするハット形鋼矢板の製造方法。
[3]前記噴射位置の制御は、冷媒を噴射する噴射装置について、前記圧延対象材の全幅方向に沿って移動すること、及び前記冷媒の噴射方向を変えることのうちの少なくともひとつの方法により行われることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
[4]前記噴射位置の制御は、冷媒を噴射する噴射装置を、前記フランジ部から前記継手部にかけて複数設置し、複数の噴射装置から何れか1または2以上の噴射装置が選択されることにより行われることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
[5]ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板を熱間圧延により該ハット形鋼矢板の形状に造形する熱間圧延機と、該熱間圧延により得られたハット形鋼矢板を幅方向に切断する鋸断装置とを有するハット形鋼矢板の製造設備において、
前記熱間圧延時の仕上圧延機に付帯するガイド内に前記継手部およびフランジ部の冷却が選択可能な冷却装置を備え、
圧延実績から、圧延対象材の仕上圧延後の長手方向端部の全幅と長手方向端部以外の位置における全幅との差である全幅差ΔWを予測する演算装置を備え、
予測した全幅差ΔWに基づき、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御する手段を備えたことを特徴とするハット形鋼矢板の製造設備。
[6]ウェブ部、フランジ部、腕部及び継手部を有するハット形鋼矢板を熱間圧延により該ハット形鋼矢板の形状に造形する熱間圧延機と、該熱間圧延により得られたハット形鋼矢板を幅方向に切断する鋸断装置とを有するハット形鋼矢板の製造設備において、
前記熱間圧延時の仕上圧延機に付帯するガイド内に前記継手部およびフランジ部の冷却が選択可能な冷却装置を備え、
圧延実績から、圧延対象材の仕上圧延後の前記継手部と前記フランジ部との温度差ΔTを予測する演算装置を備え、
予測した温度差ΔTに基づき、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置を前記フランジ部乃至前記継手部の間で制御する手段を備えたことを特徴とするハット形鋼矢板の製造設備。
【0012】
なお、ここでいう「圧延実績から予測される、圧延対象材の仕上圧延後の長手方向端部の全幅と長手方向端部以外の予め設定される位置における全幅との差である全幅差ΔW」として、以下の値をとることができる。
【0013】
形鋼の圧延製造では、同一の孔型セットを用いた同一鋼種材の熱間圧延が複数素材で繰り返される。これら複数の素材の圧延条件は、素材間で大きくは変わらないのが通常である。したがって、これまでに同一の孔型セットを用いて熱間圧延された同一鋼種材の全幅差の実績を、当該材の熱間圧延後の全幅差の予測値とすることができる。あるいは、これまでの圧延条件および冷却条件と全幅差の実績に基づき、圧延条件および冷却条件から全幅差を予測するモデルを作成し、このモデルを用いて、当該材で行う圧延条件から当該材の熱間圧延後の全幅差の予測値を算出してもよい。
【0014】
また、ここでいう「圧延実績から予測される圧延対象材の仕上圧延後の前記フランジ部と前記継手部の温度差ΔT」についても、以下の値をとることができる。
【0015】
すなわち、これまでに同一の孔型セットを用いて熱間圧延された同一鋼種材の温度差の実績を、当該材の熱間圧延後の温度差の予測値とすることができる。あるいは、これまでの圧延条件および冷却条件と温度差の実績に基づき、圧延条件および冷却条件から温度差を予測するモデルを作成し、このモデルを用いて、当該材で行う圧延条件から当該材の熱間圧延後の温度差の予測値を算出してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従えば、「ラッパ変形」、「逆ラッパ変形」という2つの形態の端部変形とも抑止可能であり、長手端部の全幅形状が良好なハット形鋼矢板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ハット形鋼矢板の断面形状を示す模式図である。
【
図2】鋼矢板の圧延製造に用いる設備の配列例を示す模式図である。
【
図3】ハット形鋼矢板の熱間圧延に用いるロールの孔型形状の例を示す模式図であり、(a)は粗圧延の孔型、(b)は中間圧延の孔型、(c)は仕上圧延の孔型を示している。
【
図4】ハット形鋼矢板の長手方向端部の形状不良を示す模式図であり、(a)はラッパ変形を、(b)は逆ラッパ変形を示している。
【
図5A】本発明に従う、噴射位置を可変する冷却方法を示す模式図である。
【
図5B】本発明に従う、噴射位置を選択する冷却方法を示す模式図である。
【
図5C】本発明に従う、フランジの内面側からハット形鋼矢板を冷却する方法を示す模式図である。
【
図6】本発明に従う冷却制御装置の構成例を示す模式図である。
【
図7】ハット形鋼矢板の仕上圧延後の温度分布を示すグラフである。
【
図8】ハット形鋼矢板の温度差と全幅差との関係を示すグラフである。
【
図9】冷却箇所ごとのハット形鋼矢板の温度差を示すグラフである。
【
図10】噴射装置の左右移動量とハット形鋼矢板の全幅差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本実施の形態においてハット形形状の圧延材は、ウェブ部がフランジ部より上方に位置する姿勢(いわゆる逆U姿勢、あるいは、ハット姿勢)で圧延されるものとして説明するが、当然本発明の適用範囲はその他の姿勢(例えばU姿勢)での圧延にも及ぶ。
【0019】
<ハット形鋼矢板>
図1にハット形鋼矢板の断面形状を示す。ハット形鋼矢板1は、全幅方向中央にウェブ部11があり、その両側に左右で一対となるフランジ部12、さらにその両側に左右で一対となる腕部13、及び、左右で一対となりその断面形状が左右でほぼ点対称である継手部14を有する。また、フランジ部12と腕部13との接合部は肘部15とも呼ぶ。
【0020】
<圧延ライン>
次に、ハット形鋼矢板を製造する製造設備2として基本的な構成である圧延ラインLの概略について説明する。
図2はハット形鋼矢板の圧延設備の配列図である。
図2において、圧延ラインLの圧延進行方向、つまり、被圧延材の搬送方向は矢印で示す方向である。加熱炉3で加熱された素材である鋼スラブ等は、熱間圧延機として、粗圧延機4、中間圧延機5および仕上圧延機6で順次圧延される。
また、粗圧延機4、中間圧延機5及び仕上圧延機6による熱間圧延をそれぞれ、粗圧延、中間圧延、仕上圧延ともいい、これらの熱間圧延を総称して造形圧延ともいう。仕上圧延機6にはガイドが付帯しており、このガイド内に、
図5A、B、C等を参照しながら後述する噴射装置21が設置される。
【0021】
仕上圧延機6の下流側には造形圧延された製品を所定の長さに切断する鋸断装置7を備える。さらに、仕上圧延機6の下流側(仕上圧延機6と鋸断装置7の間)にはハット形鋼矢板の表面温度を測定するための温度計8が設けられる。鋸段装置7の下流側にはハット形鋼矢板の全幅形状を計測する形状計9が設けられる。
【0022】
鋼矢板の表面温度を測温する温度計8は特に制限されることなく、例えば二次元放射温度計を用いて、ハット形鋼矢板の幅方向の温度分布を測定すればよい。また、ある線上の温度分布が測定できる一次元ラインスキャンタイプの温度計を使用して、ハット形鋼矢板の幅方向の温度分布を測定してもよい。あるいは、これらの温度計の代わりに、一点の測定が可能なスポット放射温度計を、ハット形鋼矢板の幅方向に複数台並べて、幅方向各点の温度を測定できるようにしてもよい。
【0023】
また、冷却後の全幅形状を測定する形状計9は特に制限されることはない。例えば、ノギスのように左右の継手部の外縁部を左右から挟み込むことで、長手方向端部と、長手方向端部から一定の距離だけ離れた位置での全幅を接触式で測定する測定方法や、ハット形鋼矢板を上方から撮影し、画像処理により継手部の長手方向の輪郭線を抽出し、この輪郭線形状から全幅形状を算出してもよい。また、全幅形状に加えて、長手方向に沿った「曲がり」、「反り」形状を合わせて測定してもよい。
【0024】
<粗圧延>
図3(a)に粗圧延におけるロール孔型の例を示す。この例では、素材として矩形断面のスラブを用いて、まずBox孔型でスラブの幅圧下を行い、次いでK8孔型でスラブをハット形の形状へ曲げる成型圧延を行う。そして次にK7孔型で所定の厚みまで減厚する圧延を行い、粗圧延後の素材、すなわち粗形鋼片を造形する。
【0025】
<中間圧延>
図3(b)は中間圧延機5a(
図2再参照)における孔型の例であり、上下で1組のロールに2つの孔型、K6孔型とK3孔型が刻設されている。また、
図3では示していないもう一方の中間圧延機5b(
図2再参照)にも2つの孔型、K5孔型とK4孔型が刻設されている。
【0026】
この例では、中間圧延の1パス目にK6孔型で圧延を行い(K5圧延はダミーで圧下なし)、1パス目とは逆方向の圧延となる2パス目には、K6孔型とK5孔型でのタンデム圧延を行う。さらに3パス目には、K4孔型とK3孔型でタンデム圧延を行う。
【0027】
<仕上圧延>
中間圧延を終えた素材は仕上圧延機へ搬送され、仕上圧延が行われる。
図3(c)は仕上圧延における孔型の例である。この例では、仕上圧延の1パス目にK2孔型で最終的な厚みを仕上げる圧延を行い、逆方向の圧延となる2パス目にK1孔型で爪曲げ成型を行う。3パス目はK1孔型を通す正方向の圧延であるが、圧下や爪曲げを行わないダミー圧延としている。
【0028】
この仕上圧延では、2パス目をダミー圧延として、3パス目にK1孔型で爪曲げを行っても構わない。また、K1で2パスの圧延を行ってもよい。
【0029】
<全幅不良(ラッパ、逆ラッパ)の説明>
図4はハット形鋼矢板1の端部に生じる変形の模式図である。
図4(a)は左右の継手部14が長手端部で外側に曲がるように広がっている、いわゆる「ラッパ変形」を示している。
図4(b)は、逆に左右の継手部14が長手端部で内側に狭まるように曲がっている「逆ラッパ変形」を示している。また、場合によっては、左右の継手部14の一方が「ラッパ変形」、他方が「逆ラッパ変形」という形状に変形する場合もある。
【0030】
なお、本明細書中では、前記ハット形鋼矢板1の長手端部の全幅をW、長手端部より長手方向に1mの位置の全幅をW’とし、全幅差ΔWを式(1)のように定義する。
【0031】
ΔW=W-W’ ‥‥(1)
ΔWの符号が正のときラッパ変形、負のとき逆ラッパ変形である。
【0032】
本実施形態ではW’として端部から長手方向に1mの位置の全幅としたが、全幅Wと比較する対象は端部から1mの位置に限られるものではなく、長手方向端部以外であれば、どの位置であっても予め設定してよい。例えば全幅Wの0.5倍~5倍となる端部からの長さ位置とすることができる。
【0033】
なお、鋼矢板は、隣り合う鋼矢板の継手同士を嵌合させて使用するため、通常、全幅差ΔWには管理範囲が設けられる。例えば、W’として端部から1mの位置の全幅とし、全幅差ΔWとして-4mm~+4mmという管理範囲を設ける場合がある。全幅差ΔWがこの管理範囲から外れる場合には、オフラインでプレス矯正を行い、プレス矯正後も全幅差ΔWが管理範囲に入らなければ、その製品は不合格となる。
【0034】
<冷却方法(ノズル設置)>
図5Aは、前記K1孔型の前面に設置された前面ガイド20と、前面ガイド20内に設置された冷却装置を示す模式図の一例であり、圧延方向から見た正面図である。前面ガイド20は、ハット形鋼矢板のウェブ部11、フランジ部12、及び腕部13を案内する上ガイド20aと下ガイド20bとを有する。上ガイド20a内には、冷却装置を構成する装置として、冷媒を噴射する噴射装置21a、21bが配置される。この噴射装置21a、21bは、冷却ヘッダー22a、22bと冷却ノズル23a、23bとで構成される。
【0035】
図5Aのハット形鋼矢板の全幅方向に対して一方の片側に示した噴射装置21aは、ハット形鋼矢板の全幅方向(以下、本明細書では左右方向とも記載する)に移動可能であり、左右方向の位置を調整することによって、ハット形鋼矢板の継手部からフランジ部までの任意の箇所に冷媒を噴射することができる。左右方向の位置調整機構としては例えば、電動スライダを利用する方法がある。
【0036】
冷却に用いる冷媒としては、水や高圧空気が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
図5Aのハット形鋼矢板の全幅方向に対して、もう一方の片側に示した噴射装置21bは、その取り付け角度を変更し冷媒の噴射方向を変更することで、ハット形鋼矢板のフランジ部から継手部までの任意の位置に冷媒を噴射することが可能である。取り付け角度の調整機構としては、例えば、ステッピングモータで回転角を設定する方法がある。
【0038】
また、
図5Bのように、噴射したい位置に予め噴射装置を複数個設置して、バルブ24c、24d、24e、24f、24g、24hの開閉によって噴射位置を1つもしくは複数個選択する方法がある。
【0039】
この
図5A、
図5Bでは上ガイド20aに噴射装置21が配置され、上方から(フランジの外面側から)フランジ部12、継手部14、肘部15の冷却を行っているが、
図5Cに模式を示すように、下ガイド20bに噴射装置21i、21j、21k、21l、21m、21nを配置し、下方から(フランジの内面側から)フランジ部12、継手部14、肘部15を冷却してもよい。上方から冷却する場合には、冷媒がフランジ部12から肘部15や腕部13へ流下し、意図しない部位の温度低下を招く恐れがあるが、下方から冷却する場合は、この恐れが少なくなる。また、冷却量を増加する目的などで、K1孔型の後面側のガイドやK2孔型の前後面側のガイドにも噴射装置21を設けてもよい。
【0040】
【0041】
なお、継手部からフランジ部までを冷却する噴射装置に加えて、ウェブ部を冷却する噴射装置を備えていてもよい。
【0042】
<冷却条件の設定項目>
図6に本発明に従う、冷却装置(噴射装置21a、21b)、温度計8、およびそれらの制御や形状計9の制御を行う演算装置25を加えた設備構成の一例を示す。この例では、仕上圧延の最終孔型であるK1カリバーの前後面に冷却装置が設置されている。仕上圧延機の下流側には、K1孔型で最終成形圧延が行われた、材料であるハット形鋼矢板の全幅方向の温度分布を測定する、温度計8が設置されている。またその下流側には鋸断装置7と形状計9が設置されている(
図2再参照)。
【0043】
温度計で測定した温度データは、演算装置25に伝送され、演算装置25で例えば次材以降のハット形鋼矢板の冷却条件(例えば、フランジ部と継手部のどちらをどれくらい冷却するのか)を演算し、制御手段(制御する手段(図示せず))を介して冷却装置にその指令を与えることができる。
【0044】
冷却条件を設定・変更する方法としては、
(1)継手部乃至フランジ部の冷却を選択するための噴射装置21a、21bの位置変更
(2)バルブ24の開閉選択による使用する噴射装置の変更
(3)各噴射装置へ供給する冷媒の流量を調整するバルブ24の開度調整もしくは冷却ポンプ27による冷媒の供給圧力調整
(4)圧延ロールを駆動する主機モータ26とテーブルローラ28の回転数調整によるハット形鋼矢板の冷却時の搬送速度の調整
などがあげられる。
【0045】
<冷却条件を決定する方法>
温度計8により測定した全幅方向の温度分布に基づいて、フランジ部乃至継手部の冷却条件を決める方法としては、以下の例がある。
【0046】
<フランジ部と継手部の代表温度と温度差ΔTの求め方>
図7はハット形鋼矢板の1シリーズである45H(ウェブ部の厚さが15mmで、
図1に示した有効高さHが368mm)について、温度計8で測定した仕上圧延後の幅方向の温度分布を示す例である。この温度分布から継手部の代表温度Tgとフランジ部の代表温度Tfを求め、その温度差ΔT(=Tg-Tf)を求める。
【0047】
フランジ部および継手の代表温度の決め方は、特に規定があるものではないが、例えば、フランジ部となる範囲の温度の平均値をフランジ部の代表温度とし、継手部となる範囲の温度の平均値を継手の代表温度とする方法や、或いは、フランジ部となる範囲の温度の最低値をフランジ部の代表温度とし、継手部となる範囲の温度の最高値を継手の代表温度とする方法などがある。
【0048】
<全幅差が変化するメカニズム>
ここで、継手部とフランジ部との温度差ΔTにより全幅差ΔWが変化するメカニズムについて、定性的に説明する。仕上圧延時に継手部の温度がフランジ部の温度よりも高い場合、常温まで冷却された時の長手方向の熱収縮量は、フランジ部よりも継手部で大きくなる。実際には継手部とフランジ部は腕部を介して互いに接合しており、変形に影響を及ぼしあうため、継手部の温度がフランジ部の温度よりも高くなっていくと、結果としては長手端部の継手部が幅方向に広がる方向に曲がる、いわゆる「ラッパ変形」の傾向が強くなる。逆に、継手部の温度がフランジ部の温度よりも低くなっていくと、長手端部の継手部が幅方向に狭まる方向に曲がる「逆ラッパ変形」の傾向となる。なお、ここで説明した傾向は定性的なものであり、全幅偏差が抑制できる適正な温度差については、ハット形鋼矢板の仕上圧延条件や、鋼種によって違ってくる。
【0049】
図8は、ハット形鋼矢板の1シリーズである45Hで調査した温度差ΔTと全幅差ΔWとの関係の調査した一例である。このデータは、K1孔型の圧延において、圧延機の前面側に設置した冷却装置を用いて、フランジ部および継手部の冷却条件を種々変更し求めたデータである。
【0050】
図8において、継手部の温度Tgについては、ドライブサイド側(
図7でのDS側)は、幅方向位置で0~7%となる区間の最高温度、ワークサイド側(WS側)は、幅方向位置で93~100%となる区間の最高温度としており、また、フランジ部の温度Tfについては、DS側は幅方向位置で20~30%となる区間の平均温度、WS側は幅方向位置で70~80%となる区間の平均温度としている。またここでは、温度差ΔTとして、ハット形鋼矢板の左側部と右側部の平均値を用いている。
【0051】
また、
図8においては、常温での降伏応力が295MPa以上のクラスとなるSYW295鋼種を〇で、常温での降伏応力が390MPa以上のクラスとなるSYW390鋼種を△でプロットしている。
図8の例では、SYW295鋼種については、全幅差ΔWが0mmとなる適正な温度差ΔTは約-15℃である。これに対し、SYW390鋼種では、全幅差ΔWが0mmとなる適正な温度差ΔTは約-35℃となっている。したがってこの例では、SYW295鋼種については、ΔTが-15℃に近づくような冷却条件を設定し、SYW390鋼種については、ΔTが-35℃に近づくような冷却条件を設定することが好ましい。
【0052】
図9はハット形鋼矢板45Hについて、
図5Bの全幅方向に対して一方の片側に示した冷却装置で、継手部冷却(24cを開)、フランジ部と腕部の接合部である肘部を冷却(24dを開)、フランジ部冷却(24eを開)を、それぞれ単独で行った場合の温度差ΔTを調査した結果である。この時、材料の搬送速度を3m/秒とし、冷却水量は300リットル/分、冷却は圧延機(K1孔型)の前面側で行っている。
図9から、SYW295鋼については、フランジ部を冷却する条件が好適であり、SYW390鋼については、継手部を冷却する条件が好適であることがわかる。
【0053】
45Hのこの例では、仕上圧延後の温度分布に関して、継手部の温度がフランジ部の温度よりも全体的に低温となっているが、この傾向はハット形鋼矢板のサイズや鋼種によって異なる場合もある。例えば45Hよりも高さが低く各部の厚みも薄い10Hでは、継手部がフランジ部に対して高温となる場合が多い。温度分布の違いは断面各寸法の違いや各圧延機でのパス数の違いに由来すると考えられるが、いずれにせよ、仕上圧延後の温度差ΔTの目標や実績に応じて、冷却条件を適切に設定あるいは変更することで、ハット形鋼矢板の全幅差を改善していくことが可能である。
【0054】
<冷却位置の選択のバリエーション>
上述のとおり、ΔTが適切となるように、継手部乃至フランジ部の冷却位置を選択して、冷却することができる。また、選択した位置について、その冷媒の流量を調整することもできる。
【0055】
ここで、噴射装置がK1孔型の前面側と後面側の両方に設置されている場合や、K2孔型の入側や出側にも設置されている場合、各噴射装置による冷却箇所は、同じ箇所であってもよいし別の箇所であってもよい。例えばフランジ部と継手部の温度が従来の好適な条件よりも全体的に高く、特にフランジ部の温度が高い場合には、K1入側では継手部とフランジ部の双方ともを冷却し、K1出側ではフランジ部を集中的に冷却することで、全体的な温度を低下させるとともに、ΔTを好適な範囲へと制御するといったことも選択可能である。
【0056】
また、フランジ部と継手部の冷却条件をハット形鋼矢板の左右それぞれで個別に設定することもできる。
【0057】
以上のようにして、演算装置25が、圧延実績から、圧延対象材の仕上圧延後の前記継手部と前記フランジ部との温度差ΔTを予測し、制御手段(制御する手段)が、予測した温度差ΔTに基づき、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置をフランジ部乃至継手部の間で制御することが可能になる。よって、冷却装置(噴射装置)による冷媒の噴射位置を調整することができ、「ラッパ変形」、「逆ラッパ変形」という2つの形態の端部変形とも抑止可能になる。
【0058】
<全幅差から冷却条件の決定又は変更をする方法>
温度実測の代わりに、仕上圧延後に所定の長さに鋸断されたハット形鋼矢板製品の、長手端部の全幅Wと端部から所定の長手方向位置での全幅W’を形状計9により実測し、これに基づき、仕上圧延でのフランジ部~継手部の冷却条件を変更することもできる。
【0059】
図10は、ウェブ部の厚さが17mmで有効高さHが370mmであるハット形鋼矢板50Hについて、
図5Aのハット形鋼矢板の全幅方向に対して一方の片側に示した噴射装置を全幅方向に移動させる方式の冷却装置21を用いて、噴射装置の左右位置P(mm)を変更していき、圧延後の全幅差との関係を調査した結果を示す図である。
図10において、左右位置P=0mmのとき冷媒の冷却芯が継手の中心位置となり、P=210mmのとき冷媒の冷却芯がフランジ部の中心位置となる。また、
図10における冷却条件として、材料の搬送速度3m/秒、冷却水量300リットル/分としており、冷却は圧延機(K1孔型)の前面側で行っている。
【0060】
図10より、左右位置Pが大きくなると、全幅差ΔWが大きくなる傾向があることがわかる。
図10では、左右位置Pと全幅差ΔWとの関係を直線近似したときの傾きをKとしている。この調査データでは、全幅差が0mmとなる最適な左右位置Pは、〇でプロットしたSYW295鋼ではP=175mm程度、△でプロットしたSYW390鋼ではP=65mm程度となっている。このデータから、例えば、50HのSYW295鋼であれば、圧延チャンス開始時の噴射装置の左右位置P=175mm、SYW390鋼ではP=65mmと設定しておくことができる。あるいはさらに、当該圧延チャンスの全幅差ΔWの実績に応じて、当該圧延チャンスの次材以降について、順次、噴射装置の左右位置をΔW/K(mm)に比例するように修正していく、という制御を行うこともできる。
【0061】
以上のようにして、演算装置25が、圧延実績から、圧延対象材の仕上圧延後の長手方向端部の全幅と端部から長手方向端部以外の予め設定される位置における全幅との差である全幅差ΔWを予測し、制御手段(制御する手段)が、予測した全幅差ΔWに基づき、仕上圧延時における前記圧延対象材に対する冷媒の噴射位置をフランジ部乃至継手部の間で制御することが可能になる。よって、冷却装置(噴射装置)による冷媒の噴射位置を調整することができ、「ラッパ変形」、「逆ラッパ変形」という2つの形態の端部変形とも抑止可能になる。
【0062】
本冷却制御をさらに進めた方式として次のような方法もある。
図2に示すように温度計8による温度実測は鋸断前に行われるのに対して、形状計9による全幅差の測定は鋸断後に行われるため、温度計8による温度実測に基づいて冷却条件を変更していき、さらに、その後の形状計9による全幅差の測定に基づいて冷却条件を調整することとしてもよい。これにより継手部を主とした製品長手端部形状の改善がさらに進められる。
【実施例0063】
<実施例1 45H、
図5B、温度差に応じバルブ開度調整>
図2、
図3、
図5Bおよび
図6に示したハット形鋼矢板の圧延製造ラインと製造設備にて、基準の全幅が936mm、ウェブ部の厚さが15mm、有効高さが368mmとなるハット形鋼矢板45Hの製造を実施した。冷却装置は
図5Bのハット形鋼矢板の全幅方向に対して一方の片側に示したように、継手部を冷却する噴射装置21c、フランジ部と腕部との接合部である肘部を冷却する噴射装置21d、フランジ部を冷却する噴射装置21eと、それらのバルブ24c、24d、24eを有する。なお、本実施例での冷却を行う冷媒は水である。また、仕上圧延後の温度分布を測定する温度計8としては、一次元ラインスキャンタイプの温度計を使用した。
【0064】
本実施例においては、素材9本の圧延を行った。圧延1~6本目までは常温での降伏応力が295MPa以上のクラスとなるSYW295鋼種の圧延であり、7~9本目は常温での降伏応力が390MPa以上のクラスとなるSYW390鋼種の圧延である。圧延1~3本目はK1孔型での仕上圧延で冷却を行っていない。これら1~3本目までの圧延は、比較のために行った比較例である。これに対し、4~9本目については、
図7、
図8に示したデータに基づき、K1孔型での仕上圧延において、圧延の前面側でフランジ部から肘部について冷却を行った適合例である。なお、これらすべての素材におけるK1孔型での圧延速度は3m/秒である。
【0065】
4本目はフランジ部の冷却水量を300リットル/分、肘部の冷却水量なし、としたが、圧延後の実績温度差ΔT(ΔTはハット形鋼矢板の左部と右部の平均値)が目標よりやや高かったため、5本目、6本目については、前材の温度差実績に応じて肘部を冷却する水量とフランジ部を冷却する水量のバランスを修正し、フランジ部の冷却水量を200リットル/分、肘部の冷却水量を100リットル/分とした。
【0066】
次いで、7~9本目は、SYW390鋼種について、
図7、
図8に示したデータに基づき、K1孔型での仕上圧延において、圧延の前面側で300リットル/分の冷却水量で継手部を冷却した適合例である。
【0067】
これらの冷却条件と温度差、全幅差の結果をまとめて表1に示す。なお、製品端部の全幅形状を測定する形状計9は、製品の長手方向端部と、端部から1m位置での全幅について、継手部の外縁部を左右からノギスのように挟み込み測定するタイプのものである。
【0068】
【0069】
45HのSYW295鋼について、継手水冷なしの条件(1~3本目)では、全幅差を目標とする-4mm~+4mmの範囲に収めることができていない。これに対し、本願の適合例については、SYW295鋼、SYW390鋼とも、全幅差を目標とする-4mm~+4mmの範囲に収めることができている。特に、4本目の温度実績に基づき冷却条件を修正した圧延5本目、6本目は全幅差の絶対値が非常に小さい、長手端部の全幅形状が特に良好な製品を得ることができた。
【0070】
<実施例2 50H、
図5A、全幅差に応じスライド位置調整>
図2、
図3、
図5Aおよび
図6に示したハット形鋼矢板の圧延製造ラインと製造設備にて、基準の全幅が938mm、ウェブ部の厚さが17mm、有効高さが370mmとなるハット形鋼矢板50Hの製造を実施した。冷却装置は
図5Aのハット形鋼矢板の全幅方向に対して一方の片側に示したように、冷却ヘッダー22aと冷却ノズル23aおよびバルブ24aからなる噴射装置が左右方向に移動するものである。なお、本実施例での冷却を行う冷媒は水である。なお、製品端部の全幅形状を測定する形状計9は、製品の長手方向端部と、端部から1m位置での全幅を左右からノギスのように挟み込み測定するタイプのものである。
【0071】
本実施例においては、素材10本の圧延を行った。圧延1~6本目までは常温での降伏応力が295MPa以上のクラスとなるSYW295鋼種の圧延であり、7~10本目は常温での降伏応力が390MPa以上のクラスとなるSYW390鋼種の圧延である。圧延1、2本目は、K1孔型での仕上圧延で冷却を行っていない。この1、2本目の圧延は、比較のために行った比較例である。これに対し、3~10本目については、K1孔型での仕上圧延における圧延の前面側の冷却について、
図10に示したデータに基づき、噴射装置の左右位置Pを適宜設定および修正してき冷却を行った適合例である。なお、これらすべての素材におけるK1孔型での圧延速度は3m/秒である。
【0072】
3本目は噴射装置の左右位置Pを175mmとしたが、圧延後に実測した全幅差ΔWが-3mmであり、目標の範囲内ではあるがやや小さかった。そこで4本目以降については、前材のΔWの実績に基づき、噴射装置の左右位置Pを順次変更していった。この変更量ΔPは式(2)から算出している。
【0073】
ΔP=-α・ΔW/K ‥‥(2)
式(2)において、αは制御を行う際の感度係数であり、ここではその値を0.5とした。また、K=0.057である。
【0074】
次いで、7本目のSYW390鋼種については、噴射装置の左右位置Pを65mmとしたが、圧延後に実測した全幅差ΔWが+3mmであり、目標の範囲内ではあるがやや大きかった。そこで8本目以降については、前材のΔWの実績に基づき、噴射装置の左右位置Pを順次変更していった。このときの変更量の計算については、
図10に示したデータの傾きがSYW390鋼種とSYW295鋼種でほぼ同じなのでSYW295鋼と同様に(2)式を使用した。
【0075】
これらの冷却条件(噴射装置の左右位置)と全幅差の結果をまとめて表2に示す。
【0076】
【0077】
50HのSYW295鋼について、継手水冷なしの条件(1,2本目)では、全幅差を目標とする-4mm~+4mmの範囲に収めることができていない。これに対し、本願の適合例については、SYW295鋼、SYW390鋼とも、全幅差を目標とする-4mm~+4mmの範囲に収めることができている。特に、3本目の全幅差実績に基づき噴射装置の左右位置を修正した圧延4~6本目および、7本目の全幅差実績に基づき噴射装置の左右位置を修正した圧延8~10本目で順次、全幅差が理想とする0mmに近づいていったことがわかる。かくして、本発明により、長手端部の全幅形状が特に良好な製品を得ることができた。
【0078】
このように、本発明に従えば、継手部~フランジ部の適切な位置を適切な条件で冷却することができるので、鋼種や圧延条件の変化によらず、全幅差が小さく長手端部の全幅形状が良好なハット形鋼矢板を得ることができるのである。