(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024225
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】異常検知装置、及び機械加工システム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20240215BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
G05B19/18 X
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126897
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 牧生
(72)【発明者】
【氏名】沖野 祐介
【テーマコード(参考)】
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C029EE01
3C269AB07
3C269BB12
3C269MN36
3C269MN44
3C269MN50
3C269PP02
(57)【要約】
【課題】異常検知精度の低下を抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】異常検知装置13は、複数のワークWに対する研削加工処理を連続的に行う。異常検知装置13は、研削加工装置2の音を集音する集音マイク10と、集音マイク10の出力が与えられる処理装置4と、を備える。処理装置4は、前記出力から得られる音データに基づいて複数のワークWのうちの1つのワークWの研削加工処理期間を特定する期間特定処理14aと、前記音データのうち、研削加工処理期間における部分音データに基づいて、異常の有無を判定する異常判定処理14bと、を実行する処理部14を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワークに対する機械加工処理を連続的に行う機械加工装置用の異常検知装置であって、
前記機械加工装置の音を集音する集音部と、
前記集音部の出力が与えられる処理装置と、を備え、
前記処理装置は、
前記出力から得られる音データに基づいて前記複数のワークのうちの1つのワークの機械加工処理期間を特定する期間特定処理と、
前記音データのうち、前記機械加工処理期間における部分音データに基づいて、異常の有無を判定する異常判定処理と、を実行する処理部を備える
異常検知装置。
【請求項2】
前記1つのワークの機械加工処理期間は、前記機械加工装置の工具が前記1つのワークに接触している実加工期間と、前記工具が前記1つのワークに接触していない非加工期間と、を含む
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記音データは音圧であり、
前記期間特定処理は、
所定のサンプリング間隔で前記音データを複数のデータブロックに分割するサンプリング処理と、
前記複数のデータブロックそれぞれの音圧を示す評価値を求め、前記評価値と所定の閾値とを比較した判定結果を2値で出力する判定処理と、
前記判定結果に基づいて前記機械加工処理期間を特定する加工処理期間特定処理と、を含む
請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記期間特定処理は、
前記複数のデータブロックに対応する複数の前記判定結果に対してメディアンフィルタ処理を行うフィルタ処理をさらに含む
請求項3に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記機械加工装置は、研削加工装置である
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の異常検知装置。
【請求項6】
複数のワークに対する機械加工処理を連続的に行う機械加工装置と、
請求項1に記載の異常検知装置と、を備える機械加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置、及び機械加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工装置用の異常検知装置には、機械加工による作業期間のうち、工具がワークに接触し実際に機械加工が行われる期間(実加工期間)におけるモータの状態や加工音等の状態データに基づいて異常の有無を検出するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の異常検知装置では、実加工期間の状態データを取得するために、作業期間に含まれる実加工期間を特定するための処理を行う必要がある。
作業時間に含まれる実加工期間を特定するために、作業時の音を録音し、録音した音データに基づいて実加工期間を特定することが考えられる。
【0005】
しかし、音データによって実加工期間を特定する場合、ワークや工具を回転させるモータの動作音や冷却液の供給音等の影響によって必要な音の取得が困難な場合がある。
このため、音データによって作業時間に含まれる実加工期間を特定する際の精度はそれほど高くなく、結果として異常を検知する際の精度が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)実施形態である異常検知装置は、複数のワークに対する機械加工処理を連続的に行う機械加工装置用の異常検知装置である。異常検知装置は、前記機械加工装置の音を集音する集音部と、前記集音部の出力が与えられる処理装置と、を備える。前記処理装置は、前記出力から得られる音データに基づいて前記複数のワークのうちの1つのワークの機械加工処理期間を特定する期間特定処理と、前記音データのうち、前記機械加工処理期間における部分音データに基づいて、異常の有無を判定する異常判定処理と、を実行する処理部を備える。
【0007】
(6)また、他の観点から見た本実施形態は、機械加工システムである。この機械加工システムは、複数のワークに対する機械加工処理を連続的に行う機械加工装置と、上記(1)に記載の異常検知装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、異常検知精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る機械加工システムの外観図である。
【
図2】
図2は、ベッド上に配置される機器を示す図である。
【
図3】
図3は、1つのワークを研削加工する際の工程の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、処理部が行う期間特定処理の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、フィルタ処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、処理部が行う異常判定処理の一例を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、複数のワークに対して研削加工を行ったときに取得された音データの一例を示す図、
図9(b)は、
図9(a)における部分音データ(研削加工処理期間)の1つを拡大した図、
図9(c)は、他の研削加工処理期間を拡大した図である。
【
図10】
図10は、研削加工処理期間前後の搬入出期間における音データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に実施形態の内容を列記して説明する。
[実施形態の概要]
(1)実施形態である異常検知装置は、複数のワークに対する機械加工処理を連続的に行う機械加工装置用の異常検知装置である。異常検知装置は、前記機械加工装置の音を集音する集音部と、前記集音部の出力が与えられる処理装置と、を備える。前記処理装置は、前記出力から得られる音データに基づいて前記複数のワークのうちの1つのワークの機械加工処理期間を特定する期間特定処理と、前記音データのうち、前記機械加工処理期間における部分音データに基づいて、異常の有無を判定する異常判定処理と、を実行する処理部を備える。
【0011】
(2)上記異常検知装置において、前記1つのワークの機械加工処理期間に、前記機械加工装置の工具が前記1つのワークに接触している実加工期間と、前記工具が前記1つのワークに接触していない非加工期間と、が含まれる場合、実加工期間と非加工期間とを区別することなく、1つのワークの異常の有無を判定することができる。
つまり、精度よく特定するのが困難な実加工期間の特定を行うことなく1つのワークの異常の有無を判定するので、異常を検知する際の精度が低下するのを抑制することができる。
【0012】
(3)上記異常検知装置において、前記音データが音圧である場合、前記期間特定処理は、所定のサンプリング間隔で前記音データを複数のデータブロックに分割するサンプリング処理と、前記複数のデータブロックそれぞれの音圧を示す評価値を求め、前記評価値と所定の閾値とを比較した判定結果を2値で出力する判定処理と、前記判定結果に基づいて前記機械加工処理期間を特定する加工処理期間特定処理と、を含むことが好ましい。
1つのワークの機械加工処理期間においては、一定レベル以上の音圧が継続する。このため、データブロックの音圧を示す評価値と閾値との判定結果を2値で出力することで、一定以上の音圧が継続しているか否かの判定が容易となる。この結果、機械加工処理期間を特定する際の精度が向上する。
【0013】
(4)上記異常検知装置において、前記期間特定処理は、前記複数のデータブロックに対応する複数の前記判定結果に対してメディアンフィルタ処理を行うフィルタ処理をさらに含んでいてもよい。
この場合、機械加工装置のカバーの開閉音や、位置出し作業等、機械加工処理以外の瞬時的な作業音をノイズとして除去することができる。
【0014】
(5) 研削加工では、工具がワークに接触したときの音量が切削等よりも小さいため、実加工期間と非加工期間との区別がより困難である。このため、前記機械加工装置は、研削加工装置であることが好ましい。
この場合、異常検知精度の低下をより好適に抑制することができる。
【0015】
(6)また、他の観点から見た本実施形態は、機械加工システムである。この機械加工システムは、複数のワークに対する機械加工処理を連続的に行う機械加工装置と、上記(1)に記載の異常検知装置と、を備える。
【0016】
[実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔全体構成について〕
図1は、実施形態に係る機械加工システムの外観図である。
実施形態に係る機械加工システム1は、研削加工装置2と、ワーク搬送装置3と、処理装置4とを含む。
機械加工装置である研削加工装置2は、ベッド2aと、カバー2bとを含む。ベッド2aの上面には、後に説明する主軸台や砥石等が配置される。カバー2bは、ベッド2aの上面に配置される主軸台や砥石等を内部に収容する。カバー2bは、加工時の冷却液(クーラント)が外部へ飛散するのを防止する。
ワーク搬送装置3は、カバー2bの上方に配置されている。ワーク搬送装置3は、研削加工装置2のカバー2b内のワークWを把持し搬送するアームを有する。ワーク搬送装置3は、前記アームによって、加工後のワークWを研削加工装置2から取り出し、加工前の新たなワークWを研削加工装置2へ供給する機能を有する。
カバー2bは、開閉可能なシャッタを上面に有する。カバー2bのシャッタを開放することで、ワーク搬送装置3はベッド2a上のワークWにアクセス可能となる。
処理装置4は、例えば、コンピュータである。処理装置4は、研削加工時に生じる異常の有無を判定する処理を実行する機能を有する。
【0017】
図2は、ベッド2a上に配置される機器を示す図である。
研削加工装置2は、テーブル5と、主軸台6と、砥石7と、心押台8とをさらに含む。
主軸台6は、主軸6a及びチャック6bを回転可能に支持する。チャック6bは、ワークWの一端を把持する。チャック6bは、アクチュエータ等によって開閉制御可能である。心押台8はワークWの他端を保持する。主軸6a、チャック6b、及びチャック6bに把持されたワークWは主軸台6が有するモータによって回転する。砥石7は、図示しない砥石台に支持されている。砥石7は、砥石台が有するモータによって回転可能である。また、砥石7は、アクチュエータ等によって移動可能である。
主軸台6及び心押台8は、テーブル5上に設けられている。テーブル5は、アクチュエータ等によって長手方向(紙面左右方向)に移動可能である。テーブル5は、主軸台6、心押台8、及びこれらに保持されるワークWを砥石7に対して相対移動させる。これにより、ワークWの軸方向における必要な箇所を砥石7によって研磨することができる。
また、研削加工装置2は、ワークWと砥石7とが接触する箇所に冷却液を供給するためのノズル9を有する。
【0018】
心押台8には、集音マイク10(集音部)が固定されている。集音マイク10は、超音波マイクである。集音マイク10は、固定台11によって、心押台8に固定されている。集音マイク10は、カバー2b内に配置される。よって、集音マイク10に冷却液が降りかかるのを防止するために、集音マイク10には防水カバー12が装着されている。
集音マイク10は、カバー2b内に配置され、カバー2b内における音を集音する。
集音マイク10は、処理装置4に接続されている。集音マイク10の出力は、処理装置4へ与えられる。
【0019】
研削加工装置2は、さらに、各部を制御する制御部(図示せず)有する。制御部は、主軸6aを回転させるモータや、砥石7を回転させるモータを制御する。また、制御部は、チャック6bの開閉や、テーブル5及び砥石7の移動、カバー2bのシャッタの開閉等のためのアクチュエータを制御する。さらに、制御部は、冷却液の供給を制御する。この制御部は、予め設定された手順に従って各部を動作させ、ワーク搬送装置3から供給されるワークWの研削加工を行う機能を有する。
【0020】
機械加工システム1は、複数のワークWを連続的に研削加工する機能を有する。
図3は、1つのワークWを研削加工する際の工程の一例を示す図である。
まず、ワーク搬送装置3が加工前のワークWをカバー2b内へ搬入し、研削加工装置2へ供給すると、研削加工装置2は、供給されたワークWをチャック6b及び心押台8で保持し(
図3中、ステップS100)、カバー2bのシャッタを閉鎖する。
その後、研削加工装置2は、ワークW(主軸6a)及び砥石7の回転を開始するとともに、冷却液の供給を開始する(
図3中、ステップS101)。
【0021】
次いで、研削加工装置2は、ワークW及び砥石7を移動させ、ワークWに対して研削加工を行う(
図3中、ステップS102)。
予め設定された手順に沿った加工動作を終えると、研削加工装置2は、冷却液の供給及びワークW及び砥石7の回転を停止する(
図3中、ステップS103)。
その後、研削加工装置2は、カバー2bのシャッタを開放するとともに、ワークWを開放する。開放されたワークWは、ワーク搬送装置3によって把持されてカバー2bの外側へ搬出される(
図3中、ステップS104)。
【0022】
加工を終えたワークWを搬出した後、ワーク搬送装置3は、再度加工前のワークWをカバー2b内へ搬入し、研削加工装置2へ供給する(
図3中、ステップS100)。
機械加工システム1は、これら動作を繰り返すことで、複数のワークWを連続的に研削加工する。
また、本実施形態では、ワークWの回転及び冷却液の供給の開始(
図3中、ステップS101)から、ワークWの回転及び冷却液の供給の停止(
図3中、ステップS103)までを、1つのワークWに対する研削加工処理(機械加工処理)という。
【0023】
図4は、処理装置4の構成例を示すブロック図である。
本実施形態において、処理装置4及び集音マイク10は、研削加工装置2用の異常検知装置13を構成する。つまり、異常検知装置13は、処理装置4と、集音マイク10とを含む。
図4に示すように、処理装置4は、は、プロセッサ等からなる処理部14と、メモリやハードディスクからなる記憶部16とを備える。
【0024】
記憶部16には、処理部14に実行させるためのコンピュータプログラムや、必要な情報等が記憶されている。
処理部14は、記憶部16のようなコンピュータ読み取り可能な非一過性の記録媒体に記憶されたコンピュータプログラムを実行することで、処理部14が有する各種処理機能を実現する。
また、記憶部16には、後述する学習済みモデル16a、及び音データ16bが記憶されている。
【0025】
処理部14は、上述のコンピュータプログラムを実行することで、期間特定処理14a、及び異常判定処理14bを実行することができる。これら処理については、後に説明する。
【0026】
〔期間特定処理について〕
図5は、処理部14が行う期間特定処理14aの一例を示す図である。
期間特定処理14aは、集音マイク10の出力から得られる音データに基づいて複数のワークWのうちの1つのワークWの研削加工処理期間を特定する処理である。
図5に示すように、期間特定処理は、サンプリング処理S1、判定処理S2、フィルタ処理S3、及び加工処理期間特定処理S4を含む。処理部14は、これら各処理を並列的に実行する。
【0027】
サンプリング処理S1は、集音マイク10からの出力に基づいて音データを取得し、音データを複数のデータブロックBnに分割する処理である。
判定処理S2は、複数のデータブロックBnに基づいて、判定結果値Rnを出力する処理である。
フィルタ処理S3は、判定結果値Rnに対してメディアンフィルタ処理を行い、フィルタ結果値FRnを出力する処理である。
加工処理期間特定処理S4は、フィルタ結果値FRnに基づいて研削加工処理期間(機械加工処理期間)を特定する処理である。
研削加工処理期間とは、1つのワークWに対する研削加工処理の開始から終了までの期間をいう。つまり、ワークWの回転及び冷却液の供給の開始(
図3中、ステップS101)から、ワークWの回転及び冷却液の供給の停止(
図3中、ステップS103)までの期間をいう。
【0028】
サンプリング処理S1において、処理部14は、集音マイク10からの出力に基づいて、音データとして音圧を得る。処理部14は、集音マイク10の出力を所定のサンプリングレート(例えば、192kHz)で経時的に取得する。処理部14が取得する音データは、時系列に並ぶ音圧の離散値群である。取得した音データは記憶部16に記憶される。
処理部14は、取得した音データを所定のサンプリング間隔で複数のデータブロックBnに分割する。なお、nはブロック番号である。ブロック番号nは、0以上の整数であり、データブロックBnの分割された順番を示している。所定のサンプリング間隔は、例えば、0.1秒である。各データブロックBnは、サンプリング間隔内に含まれる音圧の離散値を含む。
処理部14は、集音マイク10から出力が与えられると、出力の供給が停止されるのを待たずに連続的にサンプリング処理S1を行う。よって、処理部14は、連続的にデータブロックBnを生成する。
サンプリング処理S1により生成されたデータブロックBnは、判定処理S2へ与えられる。
【0029】
図6は、判定処理S2の一例を示すフローチャートである。
判定処理S2において、処理部14は、まず、サンプリング処理S1から判定処理S2へデータブロックBnが与えられたか否かを判定する(
図6中、ステップS21)。
処理部14は、データブロックBnが与えられたと判定するまで、ステップS21を繰り返す。
【0030】
データブロックBnが与えられたと判定すると、処理部14は、データブロックBnの音圧を示す評価値として音圧のRMS(音量)(Root Mean Square:二乗平均の平方根)を求める。処理部14は、データブロックBnに含まれる音圧の離散値についてRMSを求める。
処理部14は、求めたデータブロックBnのRMSが閾値Lより大きいか否かを判定する(
図6中、ステップS22)。
処理部14は、データブロックBnのRMSが閾値Lより大きいと判定する場合、判定結果値Rnを1とする(
図6中、ステップS23)。一方、処理部14は、データブロックBnのRMSが閾値Lより大きくない(閾値L以下)と判定する場合、判定結果値Rnを0とする(
図6中、ステップS24)。
なお、判定結果値Rnは、データブロックBnのRMSと閾値Lとを比較した判定結果を示す値であり、1又は0の2値で出力される。判定結果値Rnのnは、判定対象のデータブロックBnのブロック番号である。
なお、閾値Lは、音圧の大きさに応じて、研削加工処理期間における音圧か否かの判定が可能な値に適宜設定される。
【0031】
図6中、ステップS23又はステップS24の後、処理部14は、ステップS25へ進み、判定結果値Rnをフィルタ処理S3へ与える(
図6中、ステップS25)。
処理部14は、データブロックBnが与えられるごとに順次判定結果値Rnを出力し、判定結果値Rnをフィルタ処理S3へ与え、ステップS21へ戻る。
【0032】
図7は、フィルタ処理S3の一例を示すフローチャートである。
フィルタ処理S3において、処理部14は、まず、判定処理S2からフィルタ処理S3へ判定結果値Rnが与えられたか否かを判定する(
図7中、ステップS31)。
処理部14は、判定結果値Rnが与えられたと判定するまで、ステップS31を繰り返す。
判定結果値Rnが与えられたと判定すると、処理部14は、判定結果値Rnに対してメディアンフィルタ処理を行う(
図7中、ステップS32)。
ブロック番号n=Nの判定結果値Rnが与えられた場合、処理部14は、ブロック番号nがN-t~N+tまでの2t+1個の判定結果値Rnの範囲で、ブロック番号n=Nの判定結果値Rnに対するメディアンフィルタ処理を行い、フィルタ結果値FRnを出力する。
【0033】
なお、tは、メディアンフィルタ処理において処理対象の判定結果値Rnの近傍領域を設定するための領域設定値である。領域設定値tは、研削加工処理期間のおおよその時間に基づいて、ノイズが除去可能な値に適宜設定される。本実施形態において領域設定値tは、例えば、7程度に設定される。
また、フィルタ結果値FRnのnは、フィルタ処理対象の判定結果値Rnのn(ブロック番号)である。
【0034】
判定結果値Rnは0又は1の2値であるため、2t+1個の判定結果値Rnのうち、値が0である判定結果値Rnがt+1個以上であれば、中央値は0となる。この場合、n=Nのフィルタ結果値FRnは0となる。また、15個の判定結果値Rnのうち、値が1である判定結果値Rnがt+1個以上であれば、中央値は1となる。この場合、n=Nのフィルタ結果値FRnは1となる。
よって、瞬時的に音圧が上昇することでn=Nの判定結果値Rnが1に設定されたとしても、その前後の判定結果値Rnの過半数が0であれば、n=Nのフィルタ結果値FRnは0に設定される。これにより、判定結果値Rnに現れる瞬時的なノイズを除去することができる。
【0035】
ステップS32において判定結果値Rnに対するメディアンフィルタ処理を終えると、処理部14は、ステップS33へ進み、フィルタ結果値FRnを加工処理期間特定処理S4へ与える(
図7中、ステップS33)。
処理部14は、判定結果値Rnが与えられるごとに順次フィルタ結果値FRnを出力し、フィルタ結果値FRnをフィルタ処理S3へ与え、ステップS31へ戻る。
【0036】
図2中、加工処理期間特定処理S4において、処理部14は、順次与えられるフィルタ結果値FRnに基づいて、研削加工処理期間を特定する。
処理部14は、経時的に並ぶ複数のフィルタ結果値FRnを参照し、1であるフィルタ結果値FRnが連続ずる期間を特定する。
処理部14は、1であるフィルタ結果値FRnが連続する期間が予め設定された閾値以上である場合、この期間を研削加工処理期間と特定する。
処理部14は、研削加工処理期間をブロック番号nで出力する。つまり、研削加工処理期間は、連続する複数のブロック番号nによって表される。
【0037】
複数のワークWに対する研削加工処理が連続的に行われた場合、そのときの音データは複数のワークWの研削加工処理期間において取得されたデータを含む。処理部14は、上述の期間特定処理14aを実行することで、複数のワークWの研削加工処理期間のデータを含む音データに基づいて1つのワークWの研削加工処理期間を特定することができる。
【0038】
〔異常判定処理について〕
図8は、処理部14が行う異常判定処理14bの一例を示す図である。
異常判定処理14bは、研削加工処理期間における部分音データに基づいて、研削加工時における異常の有無を判定する処理である。
処理部14は、期間特定処理14aによって研削加工処理期間が特定されたか否かを判定する(
図8中、ステップS51)。
処理部14は、研削加工処理期間が特定されたと判定するまで、ステップS51を繰り返す。
【0039】
研削加工処理期間が特定されたと判定すると、処理部14は、部分音データを取得する(
図8中、ステップS52)。
部分音データとは、サンプリング処理S1によって取得される音データのうち、研削加工処理期間に含まれる音データである。
処理部14は、期間特定処理14aによって特定された研削加工処理期間を示す複数のブロック番号nに対応する部分の音データ(部分音データ)を、記憶部16に記憶されている音データ16b(
図4)から取得する。
【0040】
次いで、処理部14は、部分音データに基づいて異常判定を行う(
図8中、ステップS53)。
処理部14は、記憶部16に記憶されている学習済みモデル16a(
図4)を用いて研削加工における異常の有無を判定する。
【0041】
学習済みモデル16aは、正常な研削加工において取得された部分音データを用い予め機械学習させることで得られたモデルである。
本実施形態において、機械学習のアルゴリズムとしてオートエンコーダを用い、正常な研削加工において取得された部分音データのみを用いることで、教師なし学習によって学習済みモデル16aを得た。しかし、これに限定されるわけではなく、教師あり学習によってモデルを得てもよいし、他のアルゴリズムも採用することができる。
【0042】
処理部14は、ステップS52で取得した部分音データを学習済みモデル16aに与え、異常の有無を判定する(
図8中、ステップS53)。
異常の有無を判定すると、処理部14は、その判定結果を外部へ出力し(ステップS54)、再度、ステップS51へ戻る。
【0043】
〔音データについて〕
図9(a)は、複数のワークWに対して研削加工を行ったときに取得された音データの一例を示す図である。
図9(a)において横軸は時間、縦軸は音圧を示す。
図9(a)中の濃色の部分が音圧を示すグラフである。上下が濃色の部分に囲まれている淡色の部分がRMS(音量)を示すグラフである。
図9(a)に示すように、研削加工処理期間においては、それ以外の期間よりも音圧が高く現れる。互いに隣り合う研削加工処理期間同士の間の期間は、ワークWの搬入出が行われる搬入出期間である。
研削加工処理期間における音データが処理部14によって部分音データとして取得される。
【0044】
図9(b)は、
図9(a)における部分音データ(研削加工処理期間)の1つを拡大した図である。
研削加工処理期間では、冷却液が供給されるとともにワークW及び砥石7が回転している。よって、冷却液の供給音及びワークWや、砥石7、モータ等の回転音が部分音データの全域に亘って含まれている。
また、
図9(b)中、研削加工処理期間には、砥石7のドレッシングが行われる期間(
図9(b)中の「ドレス」)が含まれる。
また、研削加工処理期間には、エアパージ(前回加工のワークがエアーで搬出されること)がなされる期間(
図9(b)中の「エアパージ」)が含まれる。
さらに、研削加工処理期間には、砥石7(工具)がワークWに接触している実加工期間APが含まれる。
【0045】
図9(b)では、6つの実加工期間AP1~AP6が含まれている。本実施形態では、1つのワークWに対して3つの加工箇所に研削加工を行う。実加工期間AP1~AP3は、3つの加工箇所に砥石7を接触させて粗加工が行われた期間である。実加工期間AP4~AP6は、3つの加工箇所に砥石7を接触させて仕上げ加工が行われた期間である。
なお、研削加工処理期間において、実加工期間AP1~AP6以外の期間は、砥石7がワークWに接触していない非加工期間である。
非加工期間には、他の作業が行われている期間や、3つの加工箇所のうちの1つの加工箇所から他の加工箇所へワークWを移動させる期間等が含まれる。
図9(b)を見ると、実加工期間AP2~AP6それぞれの間に位置する非加工期間では、実加工期間AP2~AP6に対して若干音圧の低下が見られる。よって、音圧の変化から、実加工期間AP2~AP6それぞれの間に位置する非加工期間を認識することができる。
このように、研削加工処理期間には、実加工期間AP1~AP6と、非加工期間とが含まれる。
【0046】
図9(c)は、他の研削加工処理期間を拡大した図である。
図9(c)の研削加工処理期間に含まれる部分音データは、エアパージがなされる期間と、それ以外の期間とが、音圧の差によって判別可能となっている。
しかし、
図9(c)の部分音データにおいては、エアパージがなされる期間以外に実加工期間APや非加工期間を認識することはできない。
このように、同じように取得された部分音データであっても、加工時の状況が異なると、大きく異なることがある。
このため、音圧等から実加工期間を精度よく特定することは困難である。
【0047】
この点、本実施形態では、本実施形態では、実加工期間と非加工期間とを区別することなく、1つのワークWの研削加工処理期間を特定し、この期間における部分音データを用いて異常判定を行うので、1つのワークWの異常の有無を判定することができる。
つまり、精度よく特定するのが困難な実加工期間の特定を行うことなく1つのワークの異常の有無を判定するので、異常を検知する際の精度が低下するのを抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態では、実加工期間と非加工期間とを含む研削加工処理期間における部分音データを用いて異常判定を行うので、部分音データにおいて多少変動が生じたとしてもその変動が異常判定に及ぼす影響が抑制される。
また、実加工期間単位で異常判定を行う場合、1つのワークWに対する研削加工処理全体として見たときに生じる異常を検出することはできない。
しかし、本実施形態では、1つのワークW単位で異常判定を行うので、1つのワークWに対する研削加工処理全体として見たときに生じる異常を検出することができる。
【0049】
また、
図9(a)~(c)に示したように、1つのワークWの研削加工処理期間(部分音データ)においては、一定レベル以上の音圧が継続する。
これに対して、本実施形態では、判定処理S2(
図5、
図6)によって、データブロックBnのRMSと閾値Lとの判定結果を2値で出力するので、一定以上の音圧が継続しているか否かの判定が容易となる。この結果、研削加工処理期間を特定する際の精度が向上する。
【0050】
図10は、研削加工処理期間前後の搬入出期間における音データの一例を示す図である。
図10中、研削加工処理期間の前側の搬入出期間において音圧が部分音データよりも大きく現れている部分P1は、ワーク搬送装置3がワークWをカバー2b内へ搬入した後、カバー2b(のシャッタ)を閉鎖したときの閉鎖音である。
また、部分P1と、部分音データとの間において音圧が上昇している部分P2は、ワークWの位置決め作業によって生じた作業音である。
また、研削加工処理期間の後側の搬入出期間において音圧が部分音データよりも大きく現れている部分P3は、カバー2b(のシャッタ)を開放したときの開放音である。
【0051】
部分P2のような比較的低い音圧の音は、判定処理S2における閾値Lよりも音圧が低ければ、研削加工処理期間として特定されることはない。
さらに、部分P1、S3のようなカバー2bの開閉音は、瞬時的に音圧が上昇するので、フィルタ処理S3(
図5、
図7)によって、ノイズとして除去することができる。
このように、本実施形態では、判定処理S2及びフィルタ処理S3によって、研削加工処理期間を精度良く特定することができる。
【0052】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
上記実施形態では、機械加工システム1が機械加工装置として研削加工装置2を備える構成とした。しかし、機械加工システム1は、旋盤や、フライス盤等の切削加工を行う装置を備える構成としてもよい。但し、研削加工では、工具がワークに接触したときの音量が切削等よりも小さいため、実加工期間と非加工期間との区別がより困難である。このため、機械加工システム1は、機械加工装置として研削加工装置を備えることが好ましい。
【0053】
また、本実施形態では、集音マイク10からの出力から音データとして音圧を取得した場合を例示したが、音データとして音の周波数スペクトルを取得し、これを用いてもよい。
また、本実施形態では、データブロックBnの音圧を示す評価値として音圧のRMSを用いた場合を例示したが、データブロックBnに含まれる音圧の離散値のうちの最大値をデータブロックBnの音圧を示す評価値として用いてもよい。
【0054】
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1 機械加工システム
2 研削加工装置
4 処理装置
10 集音マイク
13 異常検知装置
14 処理部
14a 期間特定処理
14b 異常判定処理
S1 サンプリング処理
S2 判定処理
S3 フィルタ処理
S4 加工処理期間特定処理
W ワーク