(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024270
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】送受信装置および双方向通信システム
(51)【国際特許分類】
H04L 5/14 20060101AFI20240215BHJP
H04B 3/06 20060101ALI20240215BHJP
H04L 5/06 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H04L5/14
H04B3/06
H04L5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126992
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】399011195
【氏名又は名称】ザインエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 秋平
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊一
【テーマコード(参考)】
5K046
【Fターム(参考)】
5K046PP08
(57)【要約】
【課題】周波数分割方式を採用した双方向通信において第1信号および第2信号それぞれのデータレート等を容易に設定することができる送受信装置および双方向通信システムを提供する。
【解決手段】双方向通信システム1は、伝送路30を介して双方向通信を行う送受信装置10および送受信装置20を備える。送受信装置20は、ドライバ21、フィルタ22、レシーバ23および制御部24を備える。レシーバ23は、フィルタ22を通過して出力されたトレーニングパターンに対して周波数ロックを行ってクロックをリカバリし、そのリカバリクロックを制御部24へ出力する。制御部24は、レシーバ23から出力されたリカバリクロックを入力し、このリカバリクロックの周波数情報に基づいて、フィルタ22のカットオフ周波数を制御するとともに、ドライバ21の動作を制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路を介した相手方送受信装置との間の双方向通信により、前記相手方送受信装置から送出されて入出力端に到達した第1信号を受信し、前記第1信号のデータレートより低いデータレートを有する第2信号を前記入出力端から前記相手方送受信装置へ送出する送受信装置であって、
前記入出力端と接続され、前記第1信号および前記第2信号のうち前記第1信号を選択的に通過させて出力し、前記第2信号を選択的に減衰させるフィルタと、
前記フィルタを通過して出力された前記第1信号を入力し、この第1信号に基づいてデータおよびクロックをリカバリして出力するレシーバと、
前記第2信号を前記入出力端から前記相手方送受信装置へ送出するドライバと、
前記レシーバによりリカバリされて出力されたクロックの周波数に基づいて、前記フィルタのカットオフ周波数、および、前記ドライバが出力する前記第2信号のデータレートを制御する制御部と、
を備える送受信装置。
【請求項2】
前記レシーバは、前記相手方送受信装置からの前記第1信号の受信開始前に、前記相手方送受信装置からトレーニングパターンを受信し、このトレーニングパターンに対して周波数ロックを行って、前記第1信号のデータレートに一致した周波数を有するリカバリクロックを出力する、
請求項1に記載の送受信装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記リカバリクロックの周波数が低いほど前記フィルタのカットオフ周波数を低く制御し、前記リカバリクロックの周波数が高いほど前記フィルタのカットオフ周波数を高く制御する、
請求項2に記載の送受信装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記リカバリクロックの周波数が低いほど前記第2信号のデータレートを低く制御し、前記リカバリクロックの周波数が高いほど前記第2信号のデータレートを高く制御する、
請求項2に記載の送受信装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記リカバリクロックの周波数が低いほど前記第2信号の波形のスルーレートを低く制御し、前記リカバリクロックの周波数が高いほど前記第2信号の波形のスルーレートを高く制御する、
請求項2に記載の送受信装置。
【請求項6】
前記ドライバは、前記レシーバが前記トレーニングパターンに対する周波数ロックを終了した旨を前記相手方送受信装置へ通知する、
請求項2に記載の送受信装置。
【請求項7】
前記レシーバは、周波数ロックを終了した旨を前記ドライバが前記相手方送受信装置へ通知した後に、前記相手方送受信装置からの前記第1信号の受信を開始する、
請求項6に記載の送受信装置。
【請求項8】
前記フィルタは、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタを含む、
請求項1に記載の送受信装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の送受信装置と、この送受信装置との間で伝送路を介して双方向通信を行う相手方送受信装置と、を備える双方向通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送受信装置および双方向通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1送受信装置と第2送受信装置との間の双方向通信の方式として、空間分割方式、時間分割方式、コモン変調方式、エコーキャンセル方式および周波数分割方式が知られている。以下では、第1送受信装置から第2送受信装置へ伝送される信号を「第1信号」といい、第2送受信装置から第1送受信装置へ伝送される信号を「第2信号」という。
【0003】
空間分割方式では、第1信号を伝送するための伝送路と、第2信号を伝送するための伝送路とが、別個に設けられる。この方式では、全二重通信が可能であるものの、伝送路やコネクタが多く、重量やコストの増大の問題がある。
【0004】
時間分割方式では、第1信号を伝送するための伝送路と、第2信号を伝送するための伝送路とが、共通に設けられる。第1信号を伝送する期間においては第2信号の伝送を停止する。逆に、第2信号を伝送する期間においては第1信号の伝送を停止する。この方式では、一方の信号の伝送期間においては他方の信号の伝送が不可能であるので、レイテンシが長くなるという問題がある。
【0005】
コモン変調方式(特許文献1)では、第1信号を伝送するための伝送路と、第2信号を伝送するための伝送路とが、共通に設けられる。特許文献1に記載の伝送路は2対の線路であり、第1信号は差動信号として伝送され、第2信号はコモンモードを使って伝送される。差動信号とは、2対の線路に対して信号が互いに反転している信号であり、例えば一方が0.5Vであれば他方は-0.5Vである。コモンモードは、2対の信号が互いに同一である信号であり、例えば一方が0.5Vであれば他方も0.5Vである。この方式では、差動信号は、互いの信号が反転しているため、伝送線路に流れる電流は2対で反転する関係であり、電流が流れることで発生する磁界はキャンセルされる。一方、コモンモードは、同相で電流が流れるため、電流が流れることで発生する磁界はキャンセルすることができず、EMI(Electro Magnetic Interference)放射の問題がある。
【0006】
エコーキャンセル方式(特許文献2)では、第2送受信装置において第1信号を受信すべきレシーバにおいて第2信号をエコーキャンセルすることで、全二重通信を可能とする。第1送受信装置においても同様である。この方式では、第2信号のデータレートが高くなると、伝送路の負荷等の使用環境に起因して、必要なキャンセル特性が変化するので、完全なキャンセルは困難である。完全にキャンセルしようとすると、AD変換器およびDSPベースの高度なデジタル処理が必要になるので、回路面積が大きくなり、消費電力も大きくなる。使用環境の影響を受けない程度に第2信号のデータレートを低く抑えたとしても、第1信号を受信すべきレシーバの前段に、電気的隔離用の高速バッファを追加するとともに、重畳信号とキャンセル信号とを加算する高速バッファを追加することが必要となり、消費電力が大きくなる。
【0007】
周波数分割方式(特許文献3)では、第1信号を伝送するための伝送路と、第2信号を伝送するための伝送路とが、共通に設けられる。第1信号および第2信号それぞれの周波数帯域は互いに異なり、第1,2受信機それぞれの前段に信号選択の為のフィルタが設けられる。第1,2受信機それぞれのフィルタの遮断周波数は互いに異なる。このフィルタにより、第2送受信装置において第1信号を受信すべきレシーバには、第2信号が入力されないようにする。第1送受信装置においても同様である。
【0008】
重量、コスト、レイテンシ、EMIおよび消費電力の観点で、上記の五つの方式を比較すると、周波数分割方式が最も好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-145436号公報
【特許文献2】特許第5638095号公報
【特許文献3】米国特許第7177288号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、第1送受信装置と第2送受信装置との間の双方向通信の方式として周波数分割方式を採用した場合、次のような問題点があることを見出した。
【0011】
ここで一例として、ホスト装置とペリフェラル装置との間で双方向通信を行うシステムを考える。ホスト装置側に第1送受信装置が設けられ、ペリフェラル装置側に第2送受信装置が設けられるとする。ホスト装置は、コンピュータを含み、様々な点で処理能力が優れている。これに対して、ペリフェラル装置は、タッチパネル式のディスプレイを主たる構成要素として含むものとする。ペリフェラル装置は、ホスト装置から送られて来た第1信号に基づいて映像をディスプレイに表示し、タッチパネルに対する人の指による操作により入力された情報を第2信号としてホスト装置へ送る。このようなシステムの具体例として、車載ディスプレイのシステムや、ゲーム機などのアミューズメント機器のシステム、等が挙げられる。
【0012】
このような場合、一般には、情報量が多い映像情報を伝送するための第1信号のデータレートは高いのに対して、情報量が少ないタッチパネル操作情報を伝送するための第2信号のデータレートは低い。
【0013】
上記のようなシステムにおいて、ペリフェラル装置側のディスプレイの規格は様々であり、また、アプリケーションによって要求される仕様も様々である。
【0014】
例えば、ペリフェラル装置側のディスプレイは、解像度がHD(High Definition)からFHD(Full High Definition)へ移行しつつあり、更に高解像度化が進んでいくことが予想される。また、ペリフェラル装置側のディスプレイの高解像度化に応じて、ホスト装置からペリフェラル装置へ送られる第1信号のデータレートは高速化が求められる。一方で、アプリケーションによっては、第1信号のデータレートを必要最小限にすることで、伝送路として安価なケーブルを用いて長距離伝送を行いたいという要求や、可能な限り消費電力を低減したいという要求もある。ここで、伝送路とは、2対の差動信号を伝送する線路、または、1対のシングル信号を伝送する線路である。
【0015】
また、ペリフェラル装置側におけるタッチパネルに対する操作は、一本の指による単なるタッチ操作だけでなく、複数本の指による同時操作も可能となってきており、ペリフェラル装置からホスト装置へ送られる第2信号の情報量も増加しつつある。ペリフェラル装置側におけるタッチパネルの操作者にとっては、操作により入力した情報が迅速にホスト装置に送られ、さらに、その操作情報に応じた映像が迅速にディスプレイに表示されることが要求される。したがって、ペリフェラル装置からホスト装置へ送られる第2信号のデータレートも可能な限り高速化が求められる。
【0016】
しかしながら、従来の周波数分割方式を採用した双方向通信システムでは、アプリケーションに応じて第1信号および第2信号それぞれのデータレート等を柔軟に設定することが困難である。特に、ペリフェラル装置は機能が限定されている場合が多く、ペリフェラル装置側の送受信装置が所望の第1信号および第2信号それぞれのデータレートに応じた動作をするよう設定することが困難である。
【0017】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、周波数分割方式を採用した双方向通信において第1信号および第2信号それぞれのデータレート等を容易に設定することができる送受信装置および双方向通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の送受信装置は、伝送路を介した相手方送受信装置との間の双方向通信により、相手方送受信装置から送出されて入出力端に到達した第1信号を受信し、第1信号のデータレートより低いデータレートを有する第2信号を入出力端から相手方送受信装置へ送出する送受信装置である。
【0019】
本発明の送受信装置の第1態様は、(1) 入出力端と接続され、第1信号および第2信号のうち第1信号を選択的に通過させて出力し、第2信号を選択的に減衰させるフィルタと、(2) フィルタを通過して出力された第1信号を入力し、この第1信号に基づいてデータおよびクロックをリカバリして出力するレシーバと、(3) 第2信号を入出力端から相手方送受信装置へ送出するドライバと、(4) レシーバによりリカバリされて出力されたクロックの周波数に基づいて、フィルタのカットオフ周波数、および、ドライバが出力する第2信号のデータレートを制御する制御部と、を備える。
【0020】
本発明の送受信装置は、次のような態様としてもよい。
第2態様では、第1態様に加えて、レシーバは、相手方送受信装置からの第1信号の受信開始前に、相手方送受信装置からトレーニングパターンを受信し、このトレーニングパターンに対して周波数ロックを行って、第1信号のデータレートに一致した周波数を有するリカバリクロックを出力する。
【0021】
第3態様では、第2態様に加えて、制御部は、リカバリクロックの周波数が低いほどフィルタのカットオフ周波数を低く制御し、リカバリクロックの周波数が高いほどフィルタのカットオフ周波数を高く制御する。
【0022】
第4態様では、第2態様または第3態様に加えて、制御部は、リカバリクロックの周波数が低いほど第2信号のデータレートを低く制御し、リカバリクロックの周波数が高いほど第2信号のデータレートを高く制御する。
【0023】
第5態様では、第2~第4の態様の何れかに加えて、制御部は、リカバリクロックの周波数が低いほど第2信号の波形のスルーレートを低く制御し、リカバリクロックの周波数が高いほど第2信号の波形のスルーレートを高く制御する。
【0024】
第6態様では、第2~第5の態様の何れかに加えて、ドライバは、レシーバがトレーニングパターンに対する周波数ロックを終了した旨を、第2信号を用いて相手方送受信装置へ通知する。
【0025】
第7態様では、第6態様に加えて、レシーバは、周波数ロックを終了した旨をドライバが相手方送受信装置へ通知した後に、相手方送受信装置からの第1信号の受信を開始する。
【0026】
第8態様では、第1~第7の態様の何れかに加えて、フィルタは、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタを含む。
【0027】
本発明の双方向通信システムは、上記の本発明の送受信装置と、この送受信装置との間で伝送路を介して双方向通信を行う相手方送受信装置と、を備える。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、周波数分割方式を採用した双方向通信システムにおいて、第1信号および第2信号それぞれのデータレート等を容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、双方向通信システム1Aの構成を示す図である。
【
図2】
図2(a),(b)は、第1信号および第2信号それぞれの周波数帯域ならびにフィルタ22の周波数特性を模式的に示す図である。
【
図3】
図3(a),(b)は、第2信号の波形および周波数帯域を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、双方向通信システム1の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、双方向通信システム1の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0031】
図1は、双方向通信システム1Aの構成を示す図である。双方向通信システム1Aは、送受信装置10Aおよび送受信装置20Aを備える。送受信装置10Aおよび送受信装置20Aは、共通の伝送路30を介して双方向通信を行う。送受信装置10Aはホスト装置側に設けられ、送受信装置20Aはペリフェラル装置側に設けられる。送受信装置10Aから伝送路30を経て送受信装置20Aへ伝送される第1信号のデータレートは、送受信装置20Aから伝送路30を経て送受信装置10Aへ伝送される第2信号のデータレートより高い。送受信装置10Aの入出力端19と送受信装置20Aの入出力端29とは、伝送路30により互いに接続されている。
【0032】
送受信装置10Aは、ドライバ11、フィルタ12およびレシーバ13を備える。フィルタ12はレシーバ13の一部であってもよい。ドライバ11の出力端およびフィルタ12の入力端は入出力端19と接続されている。ドライバ11は、ホスト装置から出力された第1信号をシリアルデータとして入力し、その第1信号を、入出力端19および伝送路30を経て送受信装置20Aへ送出する。
【0033】
フィルタ12は、送受信装置20Aから伝送路30を経て入出力端19に到達した第2信号をシリアルデータとして入力する。また、フィルタ12には、ドライバ11から出力された第1信号も入力される。フィルタ12は、第1信号および第2信号のうち、第2信号を選択的に通過させてレシーバ13へ出力し、第1信号を選択的に減衰させる。フィルタ12は、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタを含んで構成され得る。レシーバ13は、フィルタ12を通過して出力された第2信号を入力し、この第2信号に基づいてデータおよびクロックをリカバリして、そのリカバリデータおよびリカバリクロックをホスト装置へ出力する。
【0034】
送受信装置20Aは、ドライバ21、フィルタ22およびレシーバ23を備える。フィルタ22はレシーバ23の一部であってもよい。ドライバ21の出力端およびフィルタ22の入力端は入出力端29と接続されている。ドライバ21は、ペリフェラル装置から出力された第2信号をシリアルデータとして入力し、その第2信号を、入出力端29および伝送路30を経て送受信装置10Aへ送出する。
【0035】
フィルタ22は、送受信装置10Aから伝送路30を経て入出力端29に到達した第1信号をシリアルデータとして入力する。また、フィルタ22には、ドライバ21から出力された第2信号も入力される。フィルタ22は、第1信号および第2信号のうち、第1信号を選択的に通過させてレシーバ23へ出力し、第2信号を選択的に減衰させる。フィルタ22は、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタを含んで構成され得る。レシーバ23は、フィルタ22を通過して出力された第1信号を入力し、この第1信号に基づいてデータおよびクロックをリカバリして、そのリカバリデータおよびリカバリクロックをペリフェラル装置へ出力する。
【0036】
図2は、第1信号および第2信号それぞれの周波数帯域ならびにフィルタ22の周波数特性を模式的に示す図である。この図では、フィルタ22がハイパスフィルタ(High Pass Filter、HPF)であるとして、そのHPFの周波数特性が示されている。周波数分割方式で双方向通信を行う為には、第1信号の周波数帯域はフィルタ22の通過帯域内に存在することが必要であり、第2信号の周波数帯域はフィルタ22の遮断帯域内に存在することが必要である。したがって、第1信号および第2信号それぞれの周波数帯域ならびにフィルタ22のカットオフ周波数は、相互に関連付けて設定されることが必要である。
【0037】
図2(a)は、第1信号の周波数帯域が比較的低い場合を示している。
図2(b)は、第1信号の周波数帯域が比較的高い場合を示している。
図2(a)に示されるように、第1信号の周波数帯域が低い場合には、それに応じて、フィルタ22のカットオフ周波数も低く設定し、第2信号の周波数帯域も低く設定する。一方、
図2(b)に示されるように、第1信号の周波数帯域が高い場合には、それに応じて、フィルタ22のカットオフ周波数も高く設定し、第2信号の周波数帯域も高く設定することができる。すなわち、アプリケーションに応じて要求される第1信号のデータレートに応じて、フィルタ22のカットオフ周波数を設定するとともに、第2信号のデータレートをも設定する。第2信号のデータレートを可能な限り高速化したいという要求があれば、フィルタ22の遮断帯域内において第2信号のデータレートを可能な限り高く設定する。
【0038】
なお、フィルタ12の周波数特性についても同様のことが要求される。すなわち、周波数分割方式で双方向通信を行う為には、第2信号の周波数帯域はフィルタ12の通過帯域内に存在することが必要であり、第1信号の周波数帯域はフィルタ12の遮断帯域内に存在することが必要である。
【0039】
第2信号のデータレートを高くするほど、第2信号の周期が短くなり、伝送の際の減衰によって第2信号の振幅が小さくなって、1UI(Unit Interval)の間に第2信号の振幅が所定の電圧に達しない事態が生じる。その結果、符号間干渉(Intersymbol Interference、ISI)が発生して、レシーバ13は第2信号を正常受信することができなくなる。したがって、第2信号のデータレートを高くする場合には、第2信号の振幅を十分な大きさとしてISIが発生しないようにするために、第2信号の波形のスルーレートを高くすることが重要となる場合がある。また、スルーレートを高くすると第2信号の高調波が大きくなり第1信号に干渉するため、スルーレートを高くするのは好適ではない。そのため、スルーレートは、ISIを発生しないようにしながら第1信号への干渉を抑えるように適切に調整する必要がある。なお、スルーレートは信号波形の変化の速さを表す指標である。
【0040】
図3は、第2信号の波形および周波数帯域を模式的に示す図である。
図3(a)は、第2信号の波形のスルーレートが比較的低い場合を示している。
図3(b)は、第2信号の波形のスルーレートが比較的高い場合を示している。スルーレートが高いほど、すなわち、
図3(a)の場合と比べて
図3(b)の場合には、第2信号のデータレートの整数倍の周波数の付近に高調波成分が大きく現れる。この高調波成分がフィルタ22の通過帯域内にあって大きい場合には、この高調波成分もレシーバ23により受信されることになるので、レシーバ23は第1信号を正常受信することができなくなる。したがって、第2信号のデータレートだけでなく第2信号の波形のスルーレートも、レシーバ23が第1信号を正常受信することができるように設定することが重要である。
【0041】
以上のことから、アプリケーションに応じて要求される第1信号のデータレートに応じて、その第1信号を通過させることができるフィルタ22の最大のカットオフ周波数を設定し、そのフィルタ22により高調波成分を十分に減衰させることができる第2信号の波形の最大のスルーレートを設定し、そのスルーレートでドライバ21が出力することができる第2信号の最大のデータレートを設定するのが好ましい。
【0042】
しかし、ペリフェラル装置は機能が限定されている場合が多く、ペリフェラル装置側の送受信装置20Aの各種動作条件を設定する為の設定情報をペリフェラル装置において入力することは困難である。この問題点を解消するため、特許文献2に記載された技術では、第1信号および第2信号を伝送する為の伝送路とは別に設けた伝送路により、ホスト装置において入力された設定情報を送受信装置10Aから送受信装置20Aへ伝送して、その設定情報に基づいて送受信装置20Aの各種動作条件を設定する。しかし、この技術は、伝送路やコネクタが多く、重量やコストの増大の問題がある。
【0043】
図4は、双方向通信システム1の構成を示す図である。この双方向通信システム1(
図4)は、双方向通信システム1A(
図1)が有する上記問題点を解消し得るものである。双方向通信システム1は、伝送路やコネクタを増やすことなく、アプリケーションに応じて要求される第1信号のデータレートに応じて、フィルタ22のカットオフ周波数、第2信号の波形のスルーレートおよび第2信号のデータレートを適切に設定することができる。
【0044】
双方向通信システム1は、送受信装置10および送受信装置20を備える。送受信装置10および送受信装置20は、共通の伝送路30を介して双方向通信を行う。送受信装置10はホスト装置側に設けられ、送受信装置20はペリフェラル装置側に設けられる。送受信装置10から伝送路30を経て送受信装置20へ伝送される第1信号のデータレートは、送受信装置20から伝送路30を経て送受信装置10へ伝送される第2信号のデータレートより高い。送受信装置10の入出力端19と送受信装置20の入出力端29とは、伝送路30により互いに接続されている。
【0045】
送受信装置10は、
図1中の送受信装置10Aの構成に加えて、制御部14、トレーニングパターン生成部15および選択部16を備える。トレーニングパターン生成部15は、レシーバ23が周波数ロックを行う際に用いるトレーニングパターンを生成して出力する。トレーニングパターンは、例えば一定周期でハイレベルとローレベルとが交互に現れるクロックであってよい。選択部16は、ホスト装置から出力された第1信号をシリアルデータとして入力するとともに、トレーニングパターン生成部15から出力されたトレーニングパターンを入力して、これら第1信号およびトレーニングパターンのうちの何れかを選択してドライバ11へ出力する。ドライバ11は、選択部16から出力された第1信号またはトレーニングパターンを、入出力端19および伝送路30を経て送受信装置20Aへ送出する。
【0046】
レシーバ13は、フィルタ12を通過して出力された第2信号を入力し、この第2信号に基づいてデータおよびクロックをリカバリして、そのリカバリデータおよびリカバリクロックをホスト装置および制御部14へ出力する。そのリカバリデータおよびリカバリクロックを入力した制御部14は、トレーニングパターン生成部15によるトレーニングパターンの生成の動作を制御するとともに、選択部16による第1信号およびトレーニングパターンのうちから何れかを選択する動作を制御する。
【0047】
送受信装置20は、
図1中の送受信装置20Aの構成に加えて、制御部24を備える。レシーバ23は、フィルタ22を通過して出力された第1信号またはトレーニングパターンに対して周波数ロックを行ってデータおよびクロックをリカバリし、そのリカバリデータおよびリカバリクロックをペリフェラル装置へ出力するとともに、リカバリクロックを制御部24へ出力する。このリカバリクロックの周波数は、第1信号のデータレートに一致している。制御部24は、レシーバ23から出力されたリカバリクロックを入力し、このリカバリクロックの周波数情報を得る。制御部24は、この周波数情報に基づいて、フィルタ22のカットオフ周波数を制御するとともに、ドライバ21の動作を制御する。制御部24による制御の詳細は次のとおりである。
【0048】
制御部24は、リカバリクロックの周波数情報に基づいて、第1信号を通過させることができるフィルタ22のカットオフ周波数を決定する。制御部24は、リカバリクロックの周波数が低いほどフィルタ22のカットオフ周波数を低く制御し、リカバリクロックの周波数が高いほどフィルタ22のカットオフ周波数を高く制御する。制御部24は、第1信号を通過させることができるフィルタ22の最大のカットオフ周波数を決定することができる。
【0049】
制御部24は、フィルタ22により高調波成分を十分に減衰させることができる第2信号の波形のスルーレートを決定する。制御部24は、リカバリクロックの周波数が低いほど第2信号の波形のスルーレートを低く制御し、リカバリクロックの周波数が高いほど第2信号の波形のスルーレートを高く制御する。制御部24は、フィルタ22により高調波成分を十分に減衰させることができる第2信号の波形の最大のスルーレートを決定することができる。
【0050】
制御部24は、上記スルーレートでドライバ21が出力することができる第2信号のデータレートを決定する。制御部24は、リカバリクロックの周波数が低いほど第2信号のデータレートを低く制御し、リカバリクロックの周波数が高いほど第2信号のデータレートを高く制御する。制御部24は、上記スルーレートでドライバ21が出力することができる第2信号の最大のデータレートを決定することができる。
【0051】
制御部24は、これらの決定に基づいて、フィルタ22のカットオフ周波数を制御し、ドライバ21の動作を制御する。
【0052】
制御部24は、フィルタ22のカットオフ周波数、ならびに、ドライバ21が出力する第2信号の波形のスルーレートおよびデータレートを、第1信号を受信したレシーバ23から出力されるリカバリクロックの周波数情報に基づいて決定してもよいが、第1信号の受信に先立ってトレーニングパターンを受信したレシーバ23から出力されるリカバリクロックの周波数情報に基づいて決定するのが好適である。
図5は、後者の場合の双方向通信システム1の動作例を示すフローチャートである。
【0053】
双方向通信システム1のパワーダウン状態が解除されると(ステップS1)、送受信装置10において、制御部14は、トレーニングパターン生成部15からトレーニングパターンを出力させ、選択部16が該トレーニングパターンを選択して出力するように制御して、ドライバ11からトレーニングパターンを出力させる(ステップS2)。
【0054】
送受信装置20において、レシーバ23は、相手方送受信装置である送受信装置10から出力され伝送路30を経た後にフィルタ22を通過したトレーニングパターンを受信し、このトレーニングパターンに対して周波数ロックを行って、第1信号のデータレートに一致した周波数を有するリカバリクロックを制御部24へ出力する(ステップS3)。このとき、ドライバ21は停止しているのが好適である。或いは、フィルタ22のカットオフ周波数が最低に設定されて、ドライバ21はデータレートおよびスルーレートが最低に設定されて動作していてもよい。
【0055】
レシーバ23から出力されたリカバリクロックを入力した制御部24は、第1信号を通過させることができるフィルタ22の最大のカットオフ周波数を決定し、この決定に基づいてフィルタ22のカットオフ周波数を制御する(ステップS4)。また、制御部24は、フィルタ22により高調波成分を十分に減衰させることができる第2信号の波形の最大のスルーレートを決定するとともに、上記スルーレートでドライバ21が出力することができる第2信号の最大のデータレートを決定して、これらの決定に基づいて、ドライバ21の動作を制御する(ステップS5)。これらの制御により、フィルタ22のカットオフ周波数、ならびに、ドライバ21が出力する第2信号の波形のスルーレートおよびデータレートは、最適な値に設定される。
【0056】
これらの設定が終了すると、制御部24は、ドライバ21を制御して、レシーバ23によるトレーニングパターンに対する周波数ロックが終了した旨を、相手方送受信装置である送受信装置10へ通知させる(ステップS6)。このとき、ドライバ21から出力される周波数ロック終了通知信号は、ステップS5で設定されたスルーレートおよびデータレートで、伝送路30を経て送受信装置10へ送られる。
【0057】
送受信装置10において、レシーバ13は、送受信装置20から伝送路30を経て送られてきてフィルタ12を通過した周波数ロック終了通知信号を受信すると、その旨を制御部14へ通知する。その通知を受けた制御部14は、トレーニングパターン生成部15によるトレーニングパターンの生成および出力を停止させ、選択部16が第1信号を選択して出力するように制御して、ドライバ11から第1信号を出力させる(ステップS7)。送受信装置20において、レシーバ23は、ドライバ21が周波数ロック終了通知信号を送受信装置10へ送った後に、送受信装置10から伝送路30を経てフィルタ22を通過した第1信号の受信を開始する。
【0058】
このとき、フィルタ22のカットオフ周波数はステップS4で既に最適に設定され、また、ドライバ21が出力する第2信号の波形のスルーレートおよびデータレートはステップS5で既に最適に設定されている。したがって、フィルタ22は、第1信号を通過させることができる一方で、第2信号を遮断することができ、また、第2信号の高調波をも遮断することができる。
【0059】
以上のとおり、本実施形態では、周波数分割方式を採用した双方向通信システム1において、送受信装置20は、送受信装置10から伝送路30を経て送られた来た第1信号またはトレーニングパターンに基づいて、アプリケーションに応じた所望の第1信号のデータレートに対して、フィルタ22のカットオフ周波数を最適に設定することができ、また、ドライバ21が出力する第2信号の波形のスルーレートおよびデータレートを最適に設定することができる。また、送受信装置20において設定が終了した旨を送受信装置10へ通知する信号は、第1信号および第2信号を伝送する伝送路30により伝送される。本実施形態では、送受信装置20の各種動作条件を設定する為の伝送路として、第1信号および第2信号を伝送する伝送路30を用いる。したがって、本実施形態では、伝送路やコネクタが増えることがなく、重量やコストの増大の問題がない。また、本実施形態では、周波数分割方式を採用しているので、双方向通信の他の方式と比較すると、重量、コスト、レイテンシ、EMIおよび消費電力等の諸点で優位である。
【符号の説明】
【0060】
1,1A…双方向通信システム、10,10A…送受信装置、11…ドライバ、12…フィルタ、13…レシーバ、14…制御部、15…トレーニングパターン生成部、16…選択部、20,20A…送受信装置、21…ドライバ、22…フィルタ、23…レシーバ、24…制御部、30…伝送路。