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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024289
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】被覆基材
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
C25D15/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127034
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 朋来
(57)【要約】
【課題】工業的生産に適した新規な被覆基材を提供する。
【解決手段】被覆基材1は、セラミックス粒子8を複数含有する皮膜3によって基材5が被覆されてなる。皮膜3の主成分は、セラミックス粒子8である。セラミックス粒子8と基材5とは、金属元素を含む結合部10により結合されている。結合部10に含まれる金属元素は、セラミックス粒子8に含まれない元素である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粒子を複数含有する皮膜によって基材が被覆されてなる被覆基材であって、
前記皮膜の主成分は、前記セラミックス粒子であり、
前記セラミックス粒子と前記基材とは、金属元素を含む結合部を介して結合されており、
前記結合部に含まれる前記金属元素は、前記セラミックス粒子に含まれない元素である、被覆基材。
【請求項2】
前記基材で前記皮膜が形成されている部位は、導電性を有する、請求項1に記載の被覆基材。
【請求項3】
前記結合部には、前記金属元素の濃度が1atm%以上である層が存在し、
前記層の厚みは、前記セラミックス粒子の平均粒径未満である、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
【請求項4】
前記皮膜の表面を蛍光X線分析法で測定した際に、C(炭素)の元素百分率が0.5mass%以上10mass%未満である、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
【請求項5】
前記金属元素は、Al(アルミニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上である、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
【請求項6】
下記条件(1)及び下記条件(2)の少なくとも一つを満たす、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
条件(1):前記基材の表面の縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記表面の前記縁部領域よりも内側の内側領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも大きい。
条件(2):前記基材の前記表面の凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記表面の凸状部非存在領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも大きい。
【請求項7】
前記条件(1)において、前記縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記内側領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも10%以上大きい、請求項6に記載の被覆基材。
【請求項8】
前記条件(2)において、前記凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記凸状部非存在領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも10%以上大きい、請求項6に記載の被覆基材。
【請求項9】
前記条件(1)において、前記皮膜の厚みは、前記縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みの部位から前記内側領域に向かうにつれて減少している、請求項6に記載の被覆基材。
【請求項10】
前記条件(2)において、前記皮膜の厚みは、前記凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みの部位から前記凸状部非存在領域に向かうにつれて減少している、請求項6に記載の被覆基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆基材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ジルコニア薄膜の製造方法が開示されている。具体的には、この文献では、ケトンとヨウ素を用いたセラミックスの電気泳動技術が記載されている。電気泳動技術は、バインダーを含まない成膜方法であり、バインダーが不要というメリットから主にセラミックス膜の前駆体を形成するために研究されてきた。
他方、この電気泳動技術では、バインダーを含まないために以下の課題を有していた。すなわち、この技術で得られたセラミックス粒子はファンデルワールス力のみで基材に密着していると推測され、乾燥後にはセラミックス粒子が基材から剥離し易い。そのため、被覆基材のハンドリング性があまり良好でなく、工業的生産への適用を妨げていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-144092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、工業的生産に適した新規な被覆基材を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]
セラミックス粒子を複数含有する皮膜によって基材が被覆されてなる被覆基材であって、
前記皮膜の主成分は、前記セラミックス粒子であり、
前記セラミックス粒子と前記基材とは、金属元素を含む結合部を介して結合されており、
前記結合部に含まれる前記金属元素は、前記セラミックス粒子に含まれない元素である、被覆基材。
[2]
前記基材で前記皮膜が形成されている部位は、導電性を有する、[1]に記載の被覆基材。
[3]
前記結合部には、前記金属元素の濃度が1atm%以上である層が存在し、
前記層の厚みは、前記セラミックス粒子の平均粒径未満である、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[4]
前記皮膜の表面を蛍光X線分析法で測定した際に、C(炭素)の元素百分率が0.5mass%以上10mass%未満である、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[5]
前記金属元素は、Al(アルミニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上である、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[6]
下記条件(1)及び下記条件(2)の少なくとも一つを満たす、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
条件(1):前記基材の表面の縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記表面の前記縁部領域よりも内側の内側領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも大きい。
条件(2):前記基材の前記表面の凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記表面の凸状部非存在領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも大きい。
[7]
前記条件(1)において、前記縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記内側領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも10%以上大きい、[6]に記載の被覆基材。
[8]
前記条件(2)において、前記凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記凸状部非存在領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも10%以上大きい、[6]に記載の被覆基材。
[9]
前記条件(1)において、前記皮膜の厚みは、前記縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みの部位から前記内側領域に向かうにつれて減少している、[6]に記載の被覆基材。
[10]
前記条件(2)において、前記皮膜の厚みは、前記凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みの部位から前記凸状部非存在領域に向かうにつれて減少している、[6]に記載の被覆基材。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、セラミックス粒子と基材が強固に固定された新規な被覆基材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】被覆基材の断面の模式図である。
図2図1の部分拡大図である。
図3】被覆基材の断面の模式図である。
図4】被覆基材の断面の模式図である。
図5】成膜装置の模式図である。
図6】被覆基材の断面の反射電子像である。
図7】被覆基材の断面のAl元素のマッピング画像である。
図8図6図7とを重ね合わせた図である。
図9】EPMAに付属されたWDSによりライン分析したときの元素の含有率と分析ラインの距離との関係を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0009】
1.被覆基材1
被覆基材1は、セラミックス粒子8を複数含有する皮膜3によって基材5が被覆されてなる。皮膜3の主成分は、セラミックス粒子8である。皮膜3の厚みTは、特に限定されないが、0.1μm以上1000μm未満が好ましい。セラミックス粒子8と基材5とは、金属元素を含む結合部10により結合されている。結合部10に含まれる金属元素は、セラミックス粒子8に含まれない元素である。
【0010】
図1は、被覆基材1の一例の断面の模式図を示している。この図1では、基材5の一面側に皮膜3が形成された例を示すが、両面に皮膜3が形成されていてもよい。図1では、セラミックス粒子8と基材5とは、金属元素を含む結合部10で結合されている様子が示されている。
【0011】
(1)セラミックス粒子8
セラミックス粒子8は、特に限定されない。セラミックス粒子8は、無機酸化物、無機窒化物、及び無機フッ化物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を含んで構成されることが好ましい。
無機酸化物として、アルミナ(酸化アルミニウム(Al))、チタニア(酸化チタン(TiO))、一酸化マンガン(MnO)、及びマンガンコバルトスピネル(例えばMnCo)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上が好適に例示される。
無機窒化物として、窒化アルミニウム(AlN)、窒化チタン(TiN)、及び窒化ホウ素(BN)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上が好適に例示される。
無機フッ化物として、三フッ化テルビウム(TbF)、三フッ化ジスプロシウム(DyF)、及び3フッ化アルミニウム(AlF)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上が好適に例示される。
尚、セラミックス粒子8の形状、粒径は特に限定されない。
【0012】
(2)皮膜3
(2.1)厚みT
皮膜3の厚みTは、皮膜3の表面上の点から、基材5の表面Sまでの最短距離である。皮膜3の厚みTは、皮膜3の材質に応じた機能を発現させ、かつ皮膜3中に発生する応力に耐えて、基材5との密着性を担保する観点から、0.1μm以上1000μm未満が好ましく、1μm以上100μm以下がより好ましく、5μm以上20μm以下が更に好ましい。
尚、皮膜3の厚みTが一定でない場合には、皮膜3の少なくとも一部の厚みTが上述の範囲であれば、厚みTの要件を充足する。皮膜3の厚みTはSEM観察によって求めることができる。
【0013】
(2.1.1)皮膜3の厚みTに関する好ましい条件(1)
皮膜3の厚みTは、条件(1)を満たすことが好ましい(図3参照)。
条件(1)は、基材5の表面Sの縁部領域S1上に形成された皮膜3の最大厚みT1maxは、表面Sの縁部領域S1よりも内側の内側領域S2上に形成された皮膜3の厚みT2よりも大きいという条件である。縁部領域S1上に形成された皮膜3の最大厚みT1maxは、縁部領域S1上に形成された皮膜3の厚みT1の最大値である。
縁部領域S1は、表面Sの縁部であれば特に限定されない。縁部領域S1は、例えば、断面図において、基材5の表面Sの端部SEを中心として半径5mm以内の領域である。図3の例では、縁部領域S1は、一点鎖線で囲まれた領域である。図3の例では、最大厚みT1maxは、端部SEにおける厚みT1である。
最大厚みT1maxは、特に限定されない。最大厚みT1maxは、例えば0.2μm以上1000μm以下が好ましく、2μm以上100μm以下がより好ましく、8μm以上20μm以下が更に好ましい。
厚みT2は、最大厚みT1maxよりも小さければ特に限定されない。厚みT2は、例えば0.1μm以上800μm以下が好ましく、1μm以上80μm以下がより好ましく、5μm以上15μm以下が更に好ましい。
条件(1)において、縁部領域S1上に形成された皮膜3の最大厚みT1maxは、被覆基材1の機能性を高める観点から、内側領域S2上に形成された皮膜3の厚みT2よりも10%以上大きいことが好ましく、20%以上大きいことがより好ましく、30%以上大きいことが更に好ましい。厚みT2が均一でない場合には、内側領域S2上の少なくとも一部における厚みT2の値を用いて、最大厚みT1maxが厚みT2よりも所定の10%以上大きくなっていれば、この関係を満たしていることになる。最大厚みT1maxの厚みT2に対する比率の上限値は限定されないが、条件(1)において、最大厚みT1maxは、厚みT2の400%以下であることが好ましい。
条件(1)において、皮膜3の厚みTは、縁部領域S1上に形成された皮膜3の最大厚みT1maxの部位から内側領域S2に向かうにつれて減少していることが好ましい。尚、最大厚みT1maxの10%以下の凹凸は考慮しないものとする。この構造によって、基材5の界面に生じる残留応力の影響を広域で緩和できる。
尚、皮膜3の厚みTに関する条件(1)は、被覆基材1について、基材5の表面Sに対して垂直な方向の断面をSEM観察することで行う。
【0014】
(2.1.2)皮膜3の厚みTに関する好ましい条件(2)
皮膜3の厚みTは、条件(2)を満たすことが好ましい(図4参照)。
条件(2)は、基材5の表面Sの凸状部存在領域S3上に形成された皮膜3の最大厚みT3maxは、表面Sの凸状部非存在領域S4上に形成された皮膜3の厚みT4よりも大きいという条件である(図4参照)。凸状部存在領域S3上に形成された皮膜3の最大厚みT3maxは、凸状部存在領域S3上に形成された皮膜3の厚みT3の最大値である。凸状部12の形状、大きさ、個数は特に限定されない。尚、凸状部12が複数存在する場合には、1つの凸状部12に関わる凸状部存在領域S3上に形成された皮膜3と、これに隣接する凸状部非存在領域S4上に形成された皮膜3において条件(2)が満たされていれば、皮膜3の厚みTに関する条件(2)は満たされることになる。凸状部12は、例えば、山形、突状、針状、柱状であってもよい。凸状部12の最大高さhは、特に限定されないが、例えば0.1mm以上10mm以下が好ましく、0.5mm以上5mm以下がより好ましく、1mm以上3mm以下が更に好ましい。凸状部12の最大高さhは、凸状部非存在領域S4における基材5の表面Sを基準とした高さを意味する。基材5の垂直上方から視たときの凸状部12の占有面積は、特に限定されないが、例えば0.05mm以上500mm以下が好ましく、1mm以上100mm以下がより好ましく、5mm以上15mm以下が更に好ましい。
最大厚みT3maxは、特に限定されない。最大厚みT3maxは、例えば0.2μm以上1000μm以下が好ましく、2μm以上100μm以下がより好ましく、8μm以上20m以下が更に好ましい。
厚みT4は、最大厚みT3maxよりも小さければ特に限定されない。厚みT4は、例えば0.1μm以上800μm以下が好ましく、1μm以上80μm以下がより好ましく、5μm以上15μm以下が更に好ましい。
条件(2)において、凸状部存在領域S3上に形成された皮膜3の最大厚みT3maxは、被覆基材1の機能性を高める観点から、凸状部非存在領域S4上に形成された皮膜3の厚みT4よりも10%以上大きいことが好ましく、20%以上大きいことがより好ましく、30%以上大きいことが更に好ましい。厚みT4が均一でない場合には、凸状部非存在領域S4上の少なくとも一部における厚みT4の値を用いて、最大厚みT3maxが厚みT4よりも所定の10%以上大きくなっていれば、この関係を満たしていることになる。最大厚みT3maxの厚みT4に対する比率の上限値は限定されないが、条件(2)において、最大厚みT3maxは、厚みT4の400%以下であることが好ましい。
条件(2)において、皮膜3の厚みTは、凸状部存在領域S3上に形成された皮膜3の最大厚みT3maxの部位から凸状部非存在領域S4に向かうにつれて減少していることが好ましい。尚、最大厚みT3maxの10%以下の凹凸は考慮しないものとする。この構造によって、基材5の界面に生じる残留応力の影響を広域で緩和できる。
尚、皮膜3の厚みTに関する条件(2)は、被覆基材1について、基材5の表面Sに対して垂直な方向の断面をSEM観察することで行う。
【0015】
(2.1.3)C(炭素)の元素百分率
皮膜3表面を蛍光X線分析法で測定した際のC(炭素)の元素百分率は、皮膜3における結晶粒成長を抑制し、皮膜3の性質を安定化する観点から、0.5mass%以上が好ましく、1mass%以上がより好ましく、1.5mass%以上が更に好ましい。他方、皮膜3を無機皮膜として十分に機能させる観点から、10mass%未満が好ましく、8mass%以下がより好ましく、5mass%以下が更に好ましい。これらの観点から、C(炭素)の元素百分率は、0.5mass%以上10mass%未満が好ましく、1mass%以上8mass%以下がより好ましく、1.5mass%以上5mass%以下が更に好ましい。尚、皮膜3の組成が一定でない場合には、皮膜3の少なくとも一部の組成が上述の範囲であれば、C(炭素)の元素百分率の要件を充足する。尚、「mass%」は「質量%」と同義である。
蛍光X線分析法による組成分析は、蛍光X線光電子分光分析装置を用いて行うことができる。測定条件として、X線源をアルミニウム金属のKアルファ線、ビーム径を100μm、分析する面に対するX線入射角度を45°とし、表面を走査することによって測定することができる。
【0016】
(2.2)皮膜3の構成
皮膜3は、セラミックス粒子8を複数含有する。皮膜3の主成分は、セラミックス粒子8である。
主成分とは、含有率(質量%)が80質量%以上の物質をいう。セラミックス粒子8の含有率は、皮膜3にセラミックス粒子8の特性を十分に発現させる観点から、90質量%以上99.99質量%以下が好ましく、95質量%以上99.9質量%以下がより好ましい。また、セラミックス粒子が複数の成分で構成される場合は、合算の上80質量%を超えた際、ともに主成分とみなす。尚、主成分の特定方法としては、XRF分析により含有元素を定量化した後、XRD解析を行うことで粒子の結晶構造を解析し、特定できる。
含有率の算出方法としては、XRFで膜成分を分析した際に検出された元素量に対し、主成分が占める割合を計算し、求める事ができる。
【0017】
基材5とセラミックス粒子8とは、特定の金属元素(以下、「特定金属元素」ともいう)を含む結合部10により結合されている。セラミックス粒子8の少なくとも一部が結合部10によって、基材5に結合されていれば足りる。結合部10によってセラミックス粒子8同士も強固に固定できる。結合部10に含まれる特定金属元素は、結合性確保の観点から、セラミックス粒子8に含まれない元素である。
尚、セラミックス粒子8に含まれない元素とは、1質量%未満の元素を指す。セラミックス粒子8に含まれない元素の測定方法は下記の通りである。皮膜3からセラミックス粒子8を取り出して蛍光X線分析を行い、1質量%未満の元素であるか否かを判断する。検出された元素のうち、1質量%以上の元素は、セラミックス粒子8に含まれる元素とみなす。蛍光X線分析における検出下限は、0.001質量%である。
特定金属元素は、特に限定されない。特定金属元素は、皮膜3とセラミックス粒子8を強固に固定する観点から、Al(アルミニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。
ここで、上述のセラミックス粒子8と、好ましい特定金属元素の組合せを例示する。
(i)
セラミックス粒子8:三フッ化テルビウム(TbF
特定金属元素:Al(アルミニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上
(ii)
セラミックス粒子8:アルミナ(酸化アルミニウム(Al))
特定金属元素:Ti(チタン)
(iii)
セラミックス粒子8:チタニア(酸化チタン(TiO))
特定金属元素:Al(アルミニウム)
結合部10には、皮膜3と基材5との固定を強固にする観点から、特定金属元素の濃度が1atm%以上である層10Aが存在することが好ましい。特定金属元素の濃度は、1atm%以上10atm%以下が好ましく、2atm%以上7atm%以下がより好ましく、3atm%以上5atm%以下がより好ましい。
結合部10には、特定金属元素の濃度が1atm%未満である層が存在していてもよい。
層10Aの厚みは、特に限定されない。層10Aの厚みは、セラミックス粒子の機能性を妨げない観点から、セラミックス粒子8の平均粒径未満であることが好ましい。
尚、セラミックス粒子8の平均粒径は以下のように求める。試験片の断面を鏡面研磨した後に、SEMを用いて断面を観察し、線インターセプト法を用いてセラミックス粒子8の平均粒径を求める。具体的には、基材5の表面と並行になるように直線を引き、この直線が横切る対象となるセラミックス粒子8の個々の線分上の長さを測定する。これを、任意の3視野以上について行い、合計で100個以上のセラミックス粒子8についての長さを測定する。長さの平均値に対してπ/2の積を平均粒径とする。
【0018】
(3)基材5
基材5は、特に限定されない。皮膜3の基材5への密着性を高めるために、基材5の少なくとも皮膜3によって被覆される部位(領域)は、導電性を有して負極7(陰極)となり得る材質で構成されることが好ましい。基材5の皮膜3によって被覆される部位が導電性を有して負極7(陰極)となることで、この部位に、後述の製造方法によって、皮膜3を容易に形成できる。
基材5の表面部が、導電性を有して負極7となり得る材質で構成されてもよい。基材5全体が負極7となり得る材質から構成されてもよい。負極7となり得る材質として、例えば、鉄系合金、カーボンが好適に用いられる。鉄系合金は、例えば、Fe-Ni-Cr系合金(ステンレス)、Fe-Ni系合金(パーマロイ)、Fe-Si系合金(ケイ素鉄)、Fe-Si-Al系合金(センダスト)、Fe-Ni-Mo(スーパーマロイ)、Fe-Co系合金(パーメンジュール)、及びFe-C-B系合金(アモルファス)から選択される1種又は2種以上が好適に例示される。
【0019】
2.被覆基材1の製造方法
本開示の被覆基材1の製造方法は、特に限定されない。
以下、好ましい製造方法について説明する(図5参照)。好ましい製造方法は、有機溶剤を溶媒とした浴液2を用いた被覆基材1の製造方法である。浴液2は、少なくとも1種類以上の金属元素、少なくとも1種類以上のハロゲン元素、及び少なくとも1種類以上のセラミックス粒子8を含有する。基材5を浴液中に浸漬した状態で、電圧印加することで負極7側(陰極側)の基材5上に金属元素及びセラミックス粒子8を含む皮膜3を形成する。本開示の製造方法では、負極7側に電析することで正極6側(陽極側)に電析するよりも基材5の酸化を抑制できる。
【0020】
(1)浴液2
浴液2は、有機溶剤を溶媒としている。
(1.1)水分含有率
皮膜3の均質性を担保し、基材5の酸化を抑制する観点から、浴液2の水分含有率は、10質量%未満が好ましい。水分含有率は、5質量%未満がより好ましく、1質量%未満が更に好ましい。水分含有率は、0質量%であってもよい。浴液2の水分含有率はGC-MS分析によって求めることができる。
【0021】
(1.2)金属元素
浴液2は、少なくとも1種類以上の金属元素を含有している。金属元素は、特に限定されない。セラミックス粒子8と基材5を強固に結合させる観点から、金属元素は、Al(アルミニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。本開示の製造方法では、浴液2中の金属元素に依存した皮膜3である酸化物膜が形成される。
浴液2に、含有される金属元素は、正極6(陽極)の溶出により浴液2中に供給されていてもよい。金属元素が正極6から浴液2中に溶出する場合には、成膜速度の管理が容易となる他、複数の基材5への連続かつ安定した成膜が可能となる。正極6の溶出により金属元素を浴液2に供給する場合には、正極6はAlの電極、及びTiの電極より選ばれた少なくとも1種以上の電極が用いられることが好ましい。
浴液2中の金属元素は、金属アルコキシド及び/又は無機金属化合物から供給されてもよい。金属元素が金属アルコキシド及び/又は無機金属化合物の溶解により供給される場合には、正極6(陽極)を溶出させて供給することが困難な元素にも対応できる。また、この場合には、複数の金属元素を複合して組成比率を制御した皮膜形成が可能となる。
金属アルコキシドとしては、例えば、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド等が例示される。
アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムトリアルコキシドが挙げられる。アルミニウムトリアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムトリプロポキシド(例えば、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリn-プロポキシド)、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリブトキシド(例えば、アルミニウムトリsec-ブトキシド、アルミニウムトリn-ブトキシド)等が挙げられる。
チタンアルコキシドとしては、例えば、チタントリアルコキシド、チタンテトラアルコキシドなどが挙げられ、好ましくは、チタンテトラアルコキシドが挙げられる。チタンテトラアルコキシドとしては、例えば、チタンテトラプロポキシド(例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-プロポキシドなど)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラブトキシド(例えば、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラn-ブトキシドなど)、チタンテトラペントキシド、チタンテトラヘキソキシド、チタンテトラ(2-エチルヘキソキシド)等が挙げられる。
無機金属化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化チタン等が例示される。
浴液2中の金属元素が、金属アルコキシド及び/又は無機金属化合物から供給される場合には、浴液2における金属元素の濃度は、特に限定されない。この場合には、浴液2における金属元素の濃度は、良好な皮膜3を形成する観点から、1ppm以上100ppm以下であることが好ましく、3ppm以上10ppm以下がより好ましく、4ppm以上6ppm以下が更に好ましい。尚、「ppm」は、「百万分率」であり、「mg/L」である。また、浴液2に複数の金属元素を含む場合には、上記金属元素の濃度は、複数の金属元素の合計濃度を意味する。浴液2における金属元素の濃度は、ICP-MS分析により測定することができる。
【0022】
(1.3)ハロゲン元素
浴液2は、少なくとも1種類以上のハロゲン元素を含有している。浴液2にハロゲン元素を含有することで、皮膜形成が実用的な速度で行われ、しかも皮膜3が均質になりやすい。ハロゲン元素は、特に限定されない。有機電気化学反応を速やかに進行させ、皮膜3を基材5の良質な保護膜として機能させる観点から、ハロゲン元素は、Cl(塩素)、Br(臭素)、及びI(ヨウ素)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。
浴液2におけるハロゲン元素の濃度は、特に限定されない。ハロゲン元素の濃度は、反応速度を適度に抑制するとともに、皮膜3の均質性や厚みTの制御に優位で、皮膜3の剥離を抑制する観点から、1ppm以上20000ppm以下であることが好ましく、5ppm以上2000ppm以下がより好ましく、10ppm以上100ppm以下が更に好ましい。尚、「ppm」は、「百万分率」であり、「mg/L」である。浴液2におけるハロゲン元素の濃度は、建浴時のハロゲン元素添加量、もしくは浴液2のICP-MS分析により求めることができる。
【0023】
(1.4)有機溶剤
浴液2の溶媒を有機溶剤とすることで、皮膜形成中のガスの発生や基材5自体の酸化が抑制される。皮膜3が良好に形成されるという観点から、溶媒は、ケトン、及びニトリルからなる群より選ばれた少なくとも1種以上を含むことが好ましい。溶媒にケトン、ニトリルを含むことで、縮合反応が電極表面(陰極表面)で起こり電析が可能となると推測される。また、溶媒にケトンを含むことで、ハロゲンの存在下でケトエノール互変異性が生じ、浴液2の反応性が向上すると考えられる。
【0024】
(1.4.1)ケトン
ケトンは、エステル結合以外のカルボニル基(-C(=O)-)を有する有機溶剤であれば、特に限定されない。
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、1-ヘキサノン、2-ヘキサノン、4-ヘプタノン、2-ヘプタノン(メチルアミルケトン)、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、フェニルアセトン、アセトフェノン、メチルナフチルケトン、シクロヘキサノン(CHN)、メチルシクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、皮膜3が特に良好に形成されるという観点から、ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトンが好ましい。
【0025】
(1.4.2)ニトリル
ニトリルは、構造中にニトリル基(-CN)を含む有機溶剤である。ニトリルとしては、例えば、アセトニトリル、プロピオ二トリル、バレロニトリル、ブチロ二トリル等が挙げられる。これらの中でも、皮膜3が特に良好に形成されるという観点から、ニトリルとしては、アセトニトリルが好ましい。
【0026】
(1.5)セラミックス粒子8
セラミックス粒子8は、特に限定されない。セラミックス粒子8は、無機酸化物、無機窒化物、及び無機フッ化物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を含んで構成されることが好ましい。
無機酸化物として、アルミナ(酸化アルミニウム(Al))、チタニア(酸化チタン(TiO))、一酸化マンガン(MnO)、及びマンガンコバルトスピネル(例えばMnCo)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上が好適に例示される。
無機窒化物として、窒化アルミニウム(AlN)、窒化チタン(TiN)、及び窒化ホウ素(BN)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上が好適に例示される。
無機フッ化物として、三フッ化テルビウム(TbF)、三フッ化ジスプロシウム(DyF)、及び3フッ化アルミニウム(AlF)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上が好適に例示される。
尚、セラミックス粒子8の形状、粒径は特に限定されない。
浴液2におけるセラミックス粒子8の濃度は特に限定されない。成膜効率の観点から、セラミックス粒子8の濃度は、0.01g/L以上100g/L以下が好ましく、0.1g/L以上20g/L以下がより好ましく、1g/L以上10g/L以下が更に好ましい。
【0027】
(2)基材5
「基材5」については、上記の「1.被覆基材1」における「(3)基材5」の欄の説明をそのまま適用する。
【0028】
(3)電圧印加
基材5を浴液中に浸漬した状態で、電圧印加することで負極側の基材5上に皮膜3を形成する。具体的には、浴液2に正極6と負極7(基材5)とを浸漬し、両電極間に電位勾配を発生させる。
正極6としては、公知の導電性基板のいずれも使用できる。浴液2中の金属元素が、正極6の溶出によって供給される場合には、正極6は、Alの電極、及びTiの電極からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の電極が好ましい。正極6の形状、厚さ、大きさ等は、特に限定されない。正極6は、例えば、箔状、板状、発泡状、不織布状、メッシュ状、フェルト状、エキスパンデッド状であってもよい。
正極6と負極7は、対向して配置されることが好ましい。
正極6と負極7は、直流電源に接続され、直流電源によって正極6と負極間に電位勾配を発生させることができる。
正極6と負極7間に電位勾配を発生するためには、浴液2に正極6と負極7とを浸漬した状態で、正極6と負極7に接続されている電源によって、両電極に電圧(例えば定電圧)を印加する。
両電極間に発生させる電位勾配は、皮膜形成を実用的な速度で行う観点から、定電圧の場合には、10V以上300V以下が好ましく、20V以上100V以下がより好ましく、60V以上80V以下が更に好ましい。
電圧を印加する印加時間は、特に限定されない。印加時間は、例えば、10秒以上300秒以下が好ましく、30秒以上240秒以下がより好ましく、60秒以上180秒以下が更に好ましい。
尚、電圧は、定電圧ではなく、大きさを変化させてもよい。
【0029】
(4)皮膜形成後の処理工程
皮膜3の形成後に、熱処理によって皮膜3中のカーボン量を減少させてもよい。熱処理によって皮膜3中のカーボン量を減少させることで、無機酸化膜としての純度を制御できる。
熱処理の処理温度は、特に限定されない。カーボン量を効率的に減少させる観点から、100℃以上1000℃以下が好ましく、300℃以上800℃以下がより好ましく、500℃以上600℃以下が更に好ましい。
熱処理の処理時間は、特に限定されない。カーボン量を効率的に減少させる観点から、1分以上60分以下が好ましく、5分以上45分以下がより好ましく、10分以上30分以下が更に好ましい。
尚、皮膜3中のカーボン量の減少はXPS分析によって確認することができる。
【0030】
3.本実施形態の被覆基材1の作用効果
本実施形態の被覆基材1は、セラミックス粒子8と基材5とが、金属元素を含む結合部10により結合されている。これにより、被覆基材1のハンドリング性が良好となり、工業的生産に適する。
本実施形態によれば、種々の分野に適用可能で、量産可能な新規な被覆基材1が提供される。
本実施形態の被覆基材1は、高価な原料を用いることなく、又は高価な原料の使用量をごく少量にして作製できるため、コスト的に有利である。
また、本実施形態の被覆基材1は、熱処理や光照射等の後処理を必ずしも行う必要なく、皮膜3が形成されるから、基材5の材質や基材5の形状の選択肢を広げることができる。
【実施例0031】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。
【0032】
1.被覆基材1の作製
(1)実施例1(セラミックス粒子:三フッ化テルビウム(TbF)、溶媒:アセトン、正極6:アルミニウム)
図5に示す成膜装置11を用いた。正極6としてアルミニウムワイヤを用いた。負極7として基材5(ニッケルメッキしたステンレス板)を用いた。負極7は、表面に皮膜3を形成する基材5である。浴液2の溶媒には、アセトンを用いた。浴液2には、ハロゲンとしてのヨウ素を600ppm溶解させた。その後、正極6と負極7を浸漬した状態で80V10分の電圧印加を行い、浴液中に陽極のアルミニウムワイヤを溶出させた。
浴液2に三フッ化テルビウムの粉末を攪拌し、浴液2に正極6と負極7を浸漬した状態で、正極6と負極7間に80Vを2分間印加し成膜を行った。
その後、基材5を浴液2から取り出して乾燥させた。乾燥後において、皮膜3からセラミックス粒子8が脱落していなかった。また、セラミックス粒子8と基材5は、良好に結合していた。
【0033】
(2)実施例2(セラミックス粒子:アルミナ(Al))、溶媒:アセトン、正極6:チタン)
図5に示す成膜装置11を用いた。正極6としてチタンワイヤを用いた。負極7として基材5(ニッケルメッキしたステンレス板)を用いた。負極7は、表面に皮膜3を形成する基材5である。浴液2の溶媒には、アセトンを用いた。浴液2には、ハロゲンとしてのヨウ素を600ppm溶解させた。その後、正極6と負極7を浸漬した状態で80V10分の電圧印加を行い、浴液中に陽極のチタンワイヤを溶出させた。
浴液2にアルミナの粉末を攪拌し、浴液2に正極6と負極7を浸漬した状態で、正極6と負極7間に80Vを2分間印加し成膜を行った。
その後、基材5を浴液2から取り出して乾燥させた。乾燥後において、皮膜3からセラミックス粒子8が脱落していなかった。また、セラミックス粒子8と基材5は、良好に結合していた。
【0034】
(3)実施例3(セラミックス粒子:チタニア(TiO)、溶媒:アセトン、正極6:アルミニウム)
図5に示す成膜装置11を用いた。正極6としてアルミニウムワイヤを用いた。負極7として基材5(ニッケルメッキしたステンレス板)を用いた。負極7は、表面に皮膜3を形成する基材5である。浴液2の溶媒には、アセトンを用いた。浴液2には、ハロゲンとしてのヨウ素を600ppm溶解させた。その後、正極6と負極7を浸漬した状態で80V10分の電圧印加を行い、浴液中に陽極のアルミニウムワイヤを溶出させた。
浴液2にチタニアの粉末を攪拌し、浴液2に正極6と負極7を浸漬した状態で、正極6と負極7間に80Vを2分間印加し成膜を行った。
その後、基材5を浴液2から取り出して乾燥させた。乾燥後において、皮膜3からセラミックス粒子8が脱落していなかった。また、セラミックス粒子8と基材5は、良好に結合していた。
【0035】
2.被覆基材1の分析
2.1 分析方法
皮膜3の成分分析には、以下のライン分析を採用した。観察部位をエポキシ樹脂で硬化させた後、被覆基材1の表面に直交するように被覆基材1を切断し、切断面を鏡面仕上げして研磨面とした。この研磨面において、皮膜3の積層方向に(皮膜3の外表面から内部に向かう方向に)分析ラインを設定し、この分析ラインに沿ってEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)に付属されたWDS(WDS:Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)により特性X線を測定し、ライン分析プロファイルを得た。ライン分析箇所である線分の両端のうち、一端をライン分析の基準たる0μmとし、基準からの距離をμm単位で表すようにした。ライン分析プロファイルとしては、Alのライン分析プロファイルPF Al、Niのライン分析プロファイルPF Ni、Tbのライン分析プロファイルPF Tb、Fのライン分析プロファイルPF F、Oのライン分析プロファイルPF Oを得た。尚、得られたライン分析プロファイルは、ノイズ除去のために波長1μm未満の微小な特性X線強度の変動成分をフィルタリングにより除去した。
【0036】
2.2 分析結果
(1)実施例1
図6には、実施例1の被覆基材1の断面の反射電子像を示す。この反射電子像の縦方向に延びる分析ラインを設定してライン分析をした。基材5にはニッケルメッキ層21が形成され、ニッケルメッキ層21の上にセラミックス粒子8(三フッ化テルビウム)が主成分の皮膜3が形成されている様子が確認できる。尚、符号23は、分析サンプル作製の際、包埋用の樹脂の収縮により生じた空隙である。被覆基材1には、この空隙は、元々存在してない。
図7には、図6と同様の分析サンプルを用いて測定した被覆基材1の断面のAl元素のマッピング画像が示されている。マッピング画像の原画像は、カラー画像として得られている。図7は、カラー画像をAl元素が存在する部分が白色となるように加工したものである。このマッピング画像には、図6と同様に、縦方向に延びる分析ラインが示されている。基材5にはニッケルメッキ層21が形成され、ニッケルメッキ層21の上にセラミックス粒子8を主成分とする皮膜3が形成されている様子が確認できる。尚、符号23は、分析サンプル作製の際、包埋用の樹脂の収縮により生じた空隙である。被覆基材1には、この空隙は、元々存在してない。
図6図7を重ね合わせたものが図8に示されている。図8においてセラミックス粒子8と基材5が、Al元素を含んだ結合部10(10A)によって結合されている様子が確認できる。
図9には、実施例1のライン分析の結果が示されている。横軸は、皮膜3の厚み方向を示している。図9において、Tb元素及びF元素が同時に検出されている深さには、セラミックス粒子8(三フッ化テルビウム)が存在していることが分かる。その後、深くなるにつれて(横軸の右方向に向かうにつれて)、Tb元素及びF元素の含有量が減少するとともに、ニッケルメッキ層21のニッケルの含有量が増えている様子が確認できる。
図9において、深さ約7μmから約9μmの領域はTb元素及びF元素が同時に検出されているので、この部分には上述のようにセラミックス粒子8(三フッ化テルビウム)が存在している。同時にこの領域には、Al元素が検出されている。よって、この領域には、Al元素を含む結合部10が存在していると考えられる。この領域におけるAl元素(金属元素)の平均濃度は、3atm%であった。この領域以外のAl元素の平均濃度は、0.9atm%であった。この結果から、Al元素が濃化され、Al元素(特定金属元素)の濃度が1atm%以上である層10Aが形成されていることが確認された。
また、Al元素(特定金属元素)の濃度が1atm%以上である層10Aの厚みは、488nmであり、セラミックス粒子8の平均粒径未満であった。セラミックス粒子8の平均粒径は、既述の方法により求めたところ、1050nmであった。
また、皮膜3の表面を蛍光X線分析法で測定したところ、C(炭素)の元素百分率が2.08mass%であった。
【0037】
(2)実施例2
実施例2においても実施例1に準じて分析をしたところ、チタン元素(特定金属元素)の濃度が1atm%以上である層が存在していた。
【0038】
(3)実施例3
実施例3においても実施例1に準じて分析をしたところ、アルミニウム元素(特定金属元素)の濃度が1atm%以上である層が存在していた。
【0039】
3.皮膜3の断面SEM観察
実施例1-3の皮膜3の断面をSEM観察した。実施例1-3のいずれにおいても、基材5の表面Sの縁部領域S1上に形成された皮膜3の最大厚みT1maxは、表面Sの縁部領域S1よりも内側の内側領域S2上に形成された皮膜3の厚みT2よりも大きかった。
また、実施例1-3のいずれにおいても、縁部領域S1上に形成された皮膜3の最大厚みT1maxは、内側領域S2上に形成された皮膜3の厚みT2よりも10%以上大きかった。
また、実施例1-3のいずれにおいても、皮膜3の厚みTは、縁部領域S1上に形成された皮膜3の最大厚みT1maxの部位から内側領域S2に向かうにつれて減少していた。
【0040】
4.セラミックス粒子8の固定状態
実施例1-3のいずれにおいても、セラミックス粒子8は基材5から容易には脱離しなかった。
【0041】
5.実施例の効果
本実施例によれば、セラミックス粒子8が強固に固定された新規な被覆基材1が提供される。
本実施例によれば、セラミックス粒子8の種類によらずに安定した皮膜3を形成できる。
本実施例によれば、セラミックス粒子8の種類毎に浴液2の水分量を調整することなく、安定した皮膜3を形成できる。
これらの本実施例の効果は、金属錯体が泳動して皮膜3が形成されることに基づく作用効果と推測される。
【0042】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【0043】
(付記)
本明細書には以下の発明が含まれる。
[1]
セラミックス粒子を複数含有する皮膜によって基材が被覆されてなる被覆基材であって、
前記皮膜の主成分は、前記セラミックス粒子であり、
前記セラミックス粒子と前記基材とは、金属元素を含む結合部を介して結合されており、
前記結合部に含まれる前記金属元素は、前記セラミックス粒子に含まれない元素である、被覆基材。
[2]
前記基材で前記皮膜が形成されている部位は、導電性を有する、[1]に記載の被覆基材。
[3]
前記結合部には、前記金属元素の濃度が1atm%以上である層が存在し、
前記層の厚みは、前記セラミックス粒子の平均粒径未満である、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[4]
前記皮膜の表面を蛍光X線分析法で測定した際に、C(炭素)の元素百分率が0.5mass%以上10mass%未満である、[1]から[3]のいずれか1項に記載の被覆基材。
[5]
前記金属元素は、Al(アルミニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上である、[1]から[4]のいずれか1項に記載の被覆基材。
[6]
下記条件(1)及び下記条件(2)の少なくとも一つを満たす、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
条件(1):前記基材の表面の縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記表面の前記縁部領域よりも内側の内側領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも大きい。
条件(2):前記基材の前記表面の凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記表面の凸状部非存在領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも大きい。
[7]
前記条件(1)において、前記縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記内側領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも10%以上大きい、[6]に記載の被覆基材。
[8]
前記条件(2)において、前記凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みは、前記凸状部非存在領域上に形成された前記皮膜の厚みよりも10%以上大きい、[6]に記載の被覆基材。
[9]
前記条件(1)において、前記皮膜の厚みは、前記縁部領域上に形成された前記皮膜の最大厚みの部位から前記内側領域に向かうにつれて減少している、[6]に記載の被覆基材。
[10]
前記条件(2)において、前記皮膜の厚みは、前記凸状部存在領域上に形成された前記皮膜の最大厚みの部位から前記凸状部非存在領域に向かうにつれて減少している、[6]に記載の被覆基材。
【符号の説明】
【0044】
1 …被覆基材
2 …浴液
3 …皮膜
5 …基材
6 …正極
7 …負極
8 …セラミックス粒子
10 …結合部
10A …特定金属元素の濃度が1atm%以上である層
11 …成膜装置
12 …凸状部
21 …ニッケルメッキ層
S …表面
S1 …縁部領域
S2 …内側領域
S3 …凸状部存在領域
S4 …凸状部非存在領域
SE …端部
T …厚み
T1 …厚み
T1max…最大厚み
T2 …厚み
T3 …厚み
T3max…最大厚み
T4 …厚み
h …最大高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9