IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本無線株式会社の特許一覧

特開2024-24301遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラム
<>
  • 特開-遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラム 図1
  • 特開-遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラム 図2
  • 特開-遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラム 図3
  • 特開-遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラム 図4
  • 特開-遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラム 図5
  • 特開-遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024301
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/22 20060101AFI20240215BHJP
   B63H 25/02 20060101ALI20240215BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B63H21/22 B
B63H25/02 Z
H04Q9/00 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127055
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 修久
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 達也
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 勇
(72)【発明者】
【氏名】荒平 賢志
【テーマコード(参考)】
5K048
【Fターム(参考)】
5K048AA05
5K048BA44
5K048DB01
5K048DC01
5K048EB02
5K048EB15
5K048FB15
5K048GB04
5K048HA01
5K048HA02
5K048HA21
(57)【要約】
【課題】船舶の遠隔操船を仮想空間であるメタバース操舵室を構築して行う遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラムを提供する。
【解決手段】遠隔操船システム1は、遠隔操船者Rc1~Rc3の遠隔操船装置2A~2Cであるゴーグル2A2~2C2に操船対象の船舶のメタバース操舵室を表示する。遠隔操船者Rc1~Rc3は、コントローラ2A3~2C3を用いてメタバース操舵室内の操船機器を操作することで遠隔操船を行う。操船機器の配置を変更することができ、遠隔操船者の操作性向上に資する。また、複数の遠隔操船者が協働で操船を行う場合でも、お互いの視認が容易で、意思疎通も図り易くする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔操船が可能な複数の船舶を遠隔操船するための遠隔操船システムであって、
選択された前記船舶の操舵室をメタバース操舵室として表示するメタバース操舵室表示手段と、
操船に使用される操船機器を前記メタバース操舵室内に表示するメタバース操船機器表示手段と、
選択された前記船舶の操舵室、あるいは操舵室に相当する位置からの風景を前記メタバース操舵室内の風景画像表示部分に表示する操舵室風景画像表示手段を備える、
ことを特徴とする遠隔操船システム
【請求項2】
請求項1に記載の遠隔操船システムにおいて、
前記メタバース操船機器表示手段は、操船に用いられるECDIS(電子海図情報表示装置)、AIS表示器(自動船舶識別装置)、レーダ指示器(以下、表示器等)を遠隔操船者の選択に応じて表示するとともに、当該表示器等の配置変更を可能とし、さらに現運用同様にバックアップとして仮想紙海図を表示する機能を有する、
ことを特徴とする遠隔操船システム
【請求項3】
請求項2に記載の遠隔操船システムにおいて、
前記複数の表示器等の配置をパターンとして複数記憶する機能を有するとともに、遠隔操船者が当該パターンを選択できる機能を有する、
ことを特徴とする遠隔操船システム
【請求項4】
請求項1に記載の遠隔操船システムにおいて、1隻の遠隔操船に対して複数の遠隔操船者がいる場合には、前記メタバース操舵室内に複数の前記遠隔操船者のアバターを表示する遠隔操船者アバター表示手段を備える、
ことを特徴とする遠隔操船システム
【請求項5】
請求項4に記載の遠隔操船システムにおいて、
複数のアバター間で意思疎通が可能な機能を備える、
ことを特徴とする遠隔操船システム。
【請求項6】
請求項1に記載の遠隔操船システムにおいて、
前記船舶に取り付けられた1つ以上の撮影装置の画像を取得し、前記メタバース操舵室に選択された画像を表示する撮影画像表示手段を備える
ことを特徴とする遠隔操船システム
【請求項7】
請求項1に記載の遠隔操船システムにおいて、
他の船舶に取り付けられた1つ以上の撮影装置の画像を取得し、前記メタバース操舵室に選択された画像を表示する他船撮影画像表示手段を備える
ことを特徴とする遠隔操船システム
【請求項8】
遠隔操船が可能な複数の船舶を遠隔操船するための遠隔操船プログラムであって、
コンピュータを、
選択された前記船舶の操舵室をメタバース操舵室として表示するメタバース操舵室表示手段と、操船に使用される操船機器を前記メタバース操舵室内に表示するメタバース操船機器表示手段と、選択された前記船舶の操舵室、あるいは操舵室に相当する位置からの風景を前記メタバース操舵室内の風景画像表示部に表示する操舵室風景画像表示手段、
として機能させることを特徴とする遠隔操船プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を遠隔操船するための遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に乗船せずに離れた地点から遠隔操船を行なうことができる遠隔制御システムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。さらには、舶用電子機器の故障に関する情報を遠隔で通信により収集し、故障した舶用電子機器の効率的なトラブルシューティングを可能にする技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-35433号公報
【特許文献2】特開2022-71825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の船舶の遠隔制御システムでは、1隻の船舶を対象にするとともに専用の装置を用意して遠隔操作をするもので、複数の船舶であったりその船舶に応じた操船機器を使ったりするものではなく必ずしも自由度は高くないと言える。
【0005】
また、舶用電子機器を通信により遠隔で監視する技術も公開されているが、故障検出を目的とするもので、操船に係るものではない。
【0006】
そこで本発明は、異なる複数の船舶を、メタバース操舵室を構築することにより遠隔操船することが可能な遠隔操船システムおよび遠隔操船プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、遠隔操船が可能な複数の船舶を遠隔操船するための遠隔操船システムであって、選択された前記船舶の操舵室をメタバース操舵室として表示するメタバース操舵室表示手段と、操船に使用される操船機器を前記メタバース操舵室内に表示するメタバース操船機器表示手段と、選択された前記船舶の操舵室、あるいは操舵室に相当する位置からの風景を前記メタバース操舵室内の風景画像表示部分に表示する操舵室風景画像表示手段を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の遠隔操船システムにおいて、前記メタバース操船機器表示手段は、操船に用いられるECDIS(電子海図情報表示装置)、AIS表示器(自動船舶識別装置)、レーダ指示器(以下、表示器等)を遠隔操船者の選択に応じて表示するとともに、当該表示器等の配置変更を可能とし、さらに現運用同様にバックアップとして仮想紙海図を表示する機能を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の遠隔操船システムにおいて、前記複数の表示器等の配置をパターンとして複数記憶する機能を有するとともに、遠隔操船者が当該パターンを選択できる機能を有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の遠隔操船システムにおいて、1隻の遠隔操船に対して複数の遠隔操船者がいる場合には、前記メタバース操舵室内に複数の前記操船者のアバターを表示する遠隔操船者アバター表示手段を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の遠隔操船システムにおいて、複数のアバター間で意思疎通が可能な機能を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の遠隔操船システムにおいて、前記船舶に取り付けられた1つ以上の撮影装置の画像を取得し、前記メタバース操舵室に選択された画像を表示する撮影画像表示手段を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の遠隔操船システムにおいて、他の船舶に取り付けられた1つ以上の撮影装置の画像を取得し、前記メタバース操舵室に選択された画像を表示する他船撮影画像表示手段を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、遠隔操船が可能な複数の船舶を遠隔操船するための遠隔操船プログラムであって、コンピュータを、選択された前記船舶の操舵室をメタバース操舵室として表示するメタバース操舵室表示手段と、操船に使用される操船機器を前記メタバース操舵室内に表示するメタバース操船機器表示手段と、選択された前記船舶の操舵室あるいは操舵室に相当する位置からの風景を前記メタバース操舵室内の風景画像表示部に表示する操舵室風景画像表示手段として機能させることを特徴とする遠隔操船プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1および8に記載の発明によれば、遠隔操船が可能な船舶に対して遠隔で操船をすることができる。したがって陸上から遠隔操船をしたり、さらには、当該船舶に乗船している場合にも、操舵室にいなくても操船をしたりすることが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、操船に必要な表示器類や無線装置をメタバースで表示することで実機が不要となる。また、状況に応じて必要な表示器のみを表示できるので操船に集中できるとともに、配置も変更可能であり操船者が慣れた機器を好きな配置で使用でき、操船のし易さが向上する。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、操船者の嗜好にあった操船機器の選択と配置を瞬時に構築できる。例えば、遠隔操船が運航中に遠隔操船者が交代する場合でも、すぐに当該操船者用の操船機器レイアウトを構築でき、さらに、複数の操船者が同時に協働で、同一メタバース操舵室内で操船作業をする場合であっても、操船者ごとに操船機器レイアウトを構築可能である。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、1隻の遠隔操船に対して複数の遠隔操船者がいる場合にはメタバース操舵室内にアバターを表示するので、お互いに遠隔操船者の確認が容易になる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、1隻の遠隔操船に対して複数の操船者がいる場合には操船者の協働作業となるので当然意思の疎通が必要になるが、本発明によりスムーズな連携が可能となる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、遠隔操船対象として選択された船舶に取り付けられた撮影装置から得られる1以上の画像をメタバース操舵室内で選択しながら表示、確認をすることができる。これにより、特に離着桟や輻輳海域の操船時に有利となる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、遠隔操船対象として選択された船舶の周囲に存在する船舶に取り付けられた撮影装置から得られる1以上の画像をメタバース操舵室内で選択しながら表示、確認をすることができる。これにより、さらに離着桟や輻輳海域の操船時に有利となるとともに、これから航行する進路上の風景も確認することができ、より安全な航行に資する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の実施の形態に係る遠隔操船システムの概略構成図である。
図2図1に示す遠隔操船装置の構成を示す機能ブロック図である。
図3】メタバース操舵室の状態を示す図である。
図4】操船機器レイアウトが記憶部に記録されている状態を示す図である。
図5】メタバース操舵室に遠隔操船者のアバターが表示された図である。
図6】他船の撮影装置から得られた画像をメタバース操舵室に表示する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、具体的な構成は、下記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0024】
図1は、この発明の実施の形態に係る遠隔操船システム1によって運航管理・遠隔操船が行なわれる複数の船舶S1、S2およびS3と、1以上の遠隔操船者Rc1~Rc3と、これらを無線通信で結ぶ通信網NWを示す概略構成図である。
【0025】
船舶S1~S3は、それぞれ船上操船装置S1a、S2aおよびS3aが搭載された航船である。船上操船装置S1a~S3aは、基本的には、船舶S1~S3の主機、舵などを自律制御し、設定された航路およびスケジュールにしたがって船舶S1~S3を自律運航する。船上操船装置S1a~S3aは、衛星通信などを利用した通信網NWを介して本発明の遠隔操船システム1と通信が可能なように接続されている。もっとも、自律運航船に限らず、遠隔操船指示を受け付ける船上操船装置を有すれば常時遠隔操船される船舶であっても、この発明は実施可能であり、本発明の実施範囲に含まれるものとする。
【0026】
船上操船装置S1a~S3aは、主機、舵などを自律制御して自律操船を行なう自律操船モードと、離れた場所からの遠隔操船指示に応じて主機、舵などを制御する遠隔操船モードとを備えている。船舶S1~S3は、通常時は船上操船装置S1a~S3aにより自律運航し、その運航状況は遠隔操船システム1を監視する図示しない運行管理システムによって管理されている。そして、例えば荒天や走錨が発生した緊急の場合や、通航量の多い海域を航行する場合には、船上操船装置S1a~S3aは、自律操船モードから遠隔操船モードに切り替えられ、遠隔操船される。なお、運航管理などが行なわれる船舶は、船舶S1~S3に限定されず、1隻あるいは複数の船舶について同時に管理することが可能である。
【0027】
遠隔操船システム1は、船舶S1~S3を遠隔操船する遠隔操船者Rc1、Rc2およびRc3によって操作される遠隔操船装置2A、2Bおよび2Cを備えている。
【0028】
例えば陸上にいる遠隔操船者Rc1~Rc3は、海技士免許を有する船舶の操船経験者である。遠隔操船者Rc1~Rc3は、遠隔操船装置2A~2Cを操作することによって船上操船装置S1a~S3aを制御し、船舶S1~S3を遠隔操船する。遠隔操船者Rc1~Rc3は、遠隔操船装置2A~2Cが通信網NWに接続できる場所であれば、国内あるいは海外であっても船舶S1~S3を遠隔操船することができる。なお、遠隔操船者および遠隔操船装置は、遠隔操船者Rc1~Rc3および遠隔操船装置2A~2Cに限定されず、さらに多くの遠隔操船者および遠隔操船装置、あるいは1台の遠隔操船装置と複数の遠隔操船者などが連携してもよい。
【0029】
遠隔操船装置2Aは通信網NWに通信可能に接続されるとともに、有線または無線により通信可能に接続された制御ユニット2A1と、遠隔操船者Rc1の頭部に装着されるゴーグル2A2と、遠隔操船者Rc1の両手でそれぞれ保持される2つのコントローラ2A3とを備えている。なお、遠隔操船装置2Aとして、制御ユニット2A1とゴーグル2A2を別の構成としているが、ゴーグル2A2の中に制御ユニット2A1の機能が統合される形態であってもよい。この場合は、ゴーグル2A2が遠隔操船装置2Aとして、通信網NWに通信可能に接続される。
【0030】
制御ユニット2A1は、詳しくは図示しないが、CPUなどの中央演算処理部と、プログラムや各種データを記憶する記憶部と、中央演算処理部により各種処理を実行する際に生成される情報・データを一時的に記憶などするためのメモリと、各種の入出力インターフェースなどを備えたコンピュータ装置である。制御ユニット2A1は、図示しない遠隔操船プログラムに基づいて中央演算処理部が動作することにより、メタバース操舵室表示部(メタバース操舵室表示手段)2A4、メタバース操船機器表示部(メタバース操船機器表示手段)2A5、操舵室風景画像表示部(操舵室風景画像表示手段)2A6、撮影画像表示部(撮影画像表示手段)2A7、他船撮影画像表示部(他船撮影画像表示手段)2A8および操船情報送信部2A9として機能する。
【0031】
メタバース操舵室表示部2A4は、船舶S1~S3に関する船舶情報に基づいて、ゴーグル2A2に標準的なメタバース操舵室を表示させる。ここで船舶情報とは、船舶S1~S3それぞれの船種、船舶の大きさなどのことであり、一般的な操舵室の広さ、操舵室が位置する船舶上の高さが推定され、メタバース操舵室を形成する場合のパラメータとなる。
メタバース操船機器表示部2A5は、船舶S1~S3に関する船舶情報に基づいてメタバース操舵室内に、操船に必要な機器を表示する。例えば、航行に必要な情報を表示するパネルや針路を検知するためのジャイロコンパス、手動操作用の舵輪(ハンドル)を組み込んだ操作卓や、ECDIS(電子海図情報表示装置)、AIS(自動船舶識別装置)表示器、遠隔操船の対象となる船舶周囲の他船舶や島などを捉える船舶レーダによるレーダ指示器、さらには、現運用同様にECDIS故障時のバックアップ手段となる紙海図も、仮想紙海図として表示するテーブル型のタッチパネル装置なども挙げることができる。あるいはさらには、主機の出力やプロペラの回転数など船の推進力の制御を操作するための装置や無線通信を行う機器を組み込んだ操作卓も含まれる。そしてメタバース操船機器表示部2A5には、操作卓に載せる要素を選択変更できる機能を有する。
【0032】
操舵室風景画像表示部2A6は、操舵室(船橋)からの外観をメタバース操舵室内の正面表示部に表示する。これは船舶S1~S3の操舵室に取り付けられた撮影装置による実際の風景画像である。
【0033】
撮影画像表示部2A7は、遠隔操船対象船である例えば船舶S1に取り付けられた1つ以上の撮影装置の画像を、通信網NMを介して取得し、メタバース操舵室内の表示部に表示する。
【0034】
他船撮影画像表示部2A8は、遠隔操船対象船がS1である場合に、例えば船舶S2に取り付けられた1つ以上の撮影装置の画像を、通信網NMを介して取得し、メタバース操舵室の表示部に表示する。
【0035】
操船情報送信部2A9は、メタバース操舵室内で行なわれた遠隔操船者Rc1による操船操作に基づいて操船情報を生成し、通信網NWに送信する。操船情報は、通信網NWを介して、船舶S1~S3の自律操船装置S1a~S3aに送信される。自律操船装置S1a~S3aは、受信した操船情報に基づいて船舶S1~S3を操船する。
【0036】
ゴーグル2A2は、いわゆるHMD(Head Mounted Display)であり、視差を有する右目用画像および左目用画像を表示することにより、立体感のあるメタバース操舵室を表示する。また、ゴーグル2A2は、遠隔操船者Rc1の頭部の動きを検出するヘッドトラッキング機能と、遠隔操船者Rc1の位置や姿勢の変化を検出するポジショントラッキング機能と、遠隔操船者Rc1の視線の動きを検出するアイトラッキング機能などを備えている。さらに、ゴーグル2A2は、マイクおよびスピーカを備えており、遠隔操船者Rc1が遠隔操船者Rc2など他の船舶S2、S3を遠隔操船している者とも通話できるようになっている。
【0037】
コントローラ2A3は、遠隔操船者Rc1の右手および左手の動きをそれぞれ検出するモーショントラッキング機能と、各種操作スイッチ(操作ボタン、操作レバー、操作ダイヤル)などを備えている。各種操作スイッチは、メタバース操舵室内の仮想的な物体(メタバースオブジェクト)を掴んだり、離したりする際に操作される。
【0038】
メタバース操舵室表示部2A4は、制御ユニット2A1から出力された操舵室内の右目用画像および左目用画像に基づいてメタバース操舵室をゴーグル2A2に表示する。図3に示すように、メタバース操舵室4には、メタバース操船機器表示部2A5により、メタバースオブジェクトである操舵ハンドル411やレーダ指示器412、船速計413および舵角計414などが設けられた操作卓41と、仮想紙海図を表示するテーブル型のタッチパネル装置416、操舵室風景画像表示部2A6により船舶に搭載した撮影装置によって撮影された船舶の操舵室からの風景画像42が表示される。操舵ハンドル411、操作卓上の操作パネルのボタン415、タッチパネル装置416などは、コントローラ2A3により操作することが可能なメタバースオブジェクトとして、メタバース操舵室4に表示される。
【0039】
操作卓41は、コンピュータグラフィックスにより生成されたCG画像が用いられる。また、風景画像42は、実際の操舵室の窓から見える周囲画像を表示してもよいし、撮影画像表示部2A7により、撮影装置によって取得された画像を切り替えて、あるいは並べて表示してもよい。
【0040】
ゴーグル2A2は、遠隔操船者Rc1の頭部の動き、位置や姿勢の変化、および視線の動きを検出し、その検出結果を制御ユニット2A1へ送信する。メタバース操舵室表示部2A4は、遠隔操船者Rc1の頭部の動き、位置や姿勢の変化、および視線の動きに応じて、ゴーグル2A2に表示されているメタバース操舵室を変化させる。すなわち、遠隔操船者が見ている方向が表示されるようにメタバース操舵室を変化させる。
【0041】
コントローラ2A3は、遠隔操船者Rc1によるメタバース操舵室4内での操船操作、例えば、操舵ハンドル411などの操作を検出し、その操作方向および操作量を制御ユニット2A1へ送信する。メタバース操舵室表示部2A4は、コントローラ2A3の検出結果に応じて、ゴーグル2A2に表示されているメタバース操舵室を変化させる。また、操船情報送信部2A9は、コントローラ2A3の検出結果に基づいて操船情報を生成し、生成した操船情報を、通信網NMを介して船上操船装置S1aへと送信する。
つまり、船舶に設置されたレーダや各種センサーが取得した信号の処理データ、撮影装置の動画静止画のデータを、通信網NWを介して得てメタバース操舵室内の各所に表示するとともに、遠隔操作者Rc1などによるコントローラ2A3を介した操船情報が通信網NWを介して船上操船装置S1a~S3aに届き、船舶S1~S3の遠隔操船が実行される。なお、遠隔操船装置2B、2Cは、遠隔操船装置2Aと同様の構成および機能を備えているため、詳しい説明は省略する。
【0042】
メタバース操船機器表示部2A5は、遠隔操船装置2Aが起動し、遠隔操船対象の船舶が決まった際には、図4に示す操船機器の配置パターンを遠隔操船者Rc1に選択させる画面をゴーグル2A2に表示する。メタバース操船機器表示部2A5は船種毎に標準的な操船機器(操作卓やその上に並べる各種表示機器)の配置パターンが複数記憶されている。これを読み込むことで、遠隔操船者Rc1は操船に必要な操船機器を瞬時に揃えることができる。また、記憶されている配置パターンは船種毎ではなく、船舶毎であってもよい。
さらには、操作卓に並べる操舵ハンドル、表示器等、無線通信機器のレイアウトを遠隔操船者Rc1が過去に自己の趣向に合わせて配置した場合には、それらをパターンとして保存記憶する機能を有している。このカスタマイズしたパターンを読み込むことで、遠隔操船者Rc1が慣れた環境で操船作業を行うことが出来る。
【0043】
上述したように、図3に示すメタバース操舵室4に操作卓41と操舵室からの風景画像42が表示される。操作卓41には、操舵ハンドル411、レーダ指示器412、船速計413および舵角計414などが並ぶが、これらの配置も随時、遠隔操船者Rc1によって変更であり、その変更した配置パターンも適宜メタバース操船機器表示部2A5の記憶部に記録され、後で読み出し可能となっている。
【0044】
これまでは遠隔操船を、遠隔操船者一人が行う場合を説明してきたが、1隻の遠隔操船に対して複数の遠隔操船者が協働して行う場合も想定される。その場合には互いに遠隔操船者同士の作業状況を把握する必要がある。そのための方法として、図5に示すように、メタバース操舵室4内に遠隔操船者Rc1のアバター51および、各遠隔操船者Rc2のアバター52を表示する。特に、操船時には該当する操作卓41の前に位置し、当該遠隔操船者がどの装置を担当、操作していることが分かるようにする。これにより、互いの操船作業状況が容易に認識できる。
【0045】
さらに、複数の遠隔操船ごとに複数の遠隔操船者が同時に行い、遠隔操船S1とS2が近距離範囲内に存在する場合には特に互いに意思疎通ができる必要がある。複数の遠隔操船者は、実際は離れた場所で遠隔操船をしているが、意思疎通の方法として、例えばゴーグル2A2に取り付けられたマイクといった音声入力手段により取得された音声データを、通信網NWを介して他社のゴーグル2B2へ送信し、ゴーグル2B2に取り付けられたスピーカにより聴取してもよい。別の形態として、音声データを音声認識して文字に変換し、ゴーグル2B2に表示してもよい。前記のように1隻の遠隔操船に対して複数の遠隔操船者がいてアバター表示をする際には、そのアバターの傍にチャット表示してもよい。これにより、遠隔操船者間でスムーズな意思疎通を図ることができるとともに、遠隔操船中の操船指示の記録を残すことが出来る。
【0046】
メタバース操舵室4には、操舵室風景画像表示部2A6により操舵室(船橋)からの風景や、撮影画像表示部2A7により自船の周囲の画像が正面表示部に表示されるが、さらに、図6に示すように、他船撮影画像表示部2A8により遠隔操船の他船の撮影装置によって撮影された周囲画像43をメタバース操舵室4内に表示してもよい。つまり、複数の遠隔操船の撮影装置で撮影された周辺画像を、通信網NWを介して共有することができる。これにより、例えば近い位置にいる他船から、自船が映っている周囲画像43を取得してメタバース操舵室4に表示することにより、自船の航行状態を客観的に観察することができる。また、入港予定地にいる他船の周囲画像を取得してメタバース操舵室4に表示することにより、入港予定地を確認して準備をすることが可能となる。
【0047】
以上で説明したように、本実施の形態に係る遠隔操船システム1によれば、陸上にいる遠隔操船者Rc1~Rc3が選択した船舶S1~S3のメタバース操舵室4をそのゴーグル2A2~2C2表示することができるので、実際に船舶S1~S3に乗船しているような感覚で遠隔操船を行なうことが可能である。
【0048】
さらに、本実施の形態に係る遠隔操船システム1は、実際に乗船している遠隔操船者Rc1~Rc3がその船舶を操船する場合でも適用可能である。つまり、その船舶の操舵室以外の場所の船舶上でも操船することができる。複数の遠隔操船者が協働で操船する場合、遠隔操船者Rc1~Rc3の場所は問わない。一部の者が陸上にいても可能である。これにより、操舵室に集合する前に緊急で操船対応をしなければならない場合や、乗船している操船者と遠隔操船者が協働して操船した方が良い場合にも本発明を実施できる。
【符号の説明】
【0049】
1 遠隔操船システム
2A~2C 遠隔操船装置
2A1~2C1 制御ユニット
4 メタバース操舵室
41 操作卓
411 操舵ハンドル
412 レーダ指示器
51 Rc1のアバター
52 Rc2のアバター
S1~S3 船舶
S1a~S3a 自律操船装置
Rc1~Rc3 遠隔操船者
図1
図2
図3
図4
図5
図6