(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024304
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】操船訓練システムおよび操船訓練プログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 9/06 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
G09B9/06 A
G09B9/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127062
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 修久
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 達也
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 勇
(72)【発明者】
【氏名】荒平 賢志
(57)【要約】
【課題】物理的な操船模擬装置や映像装置を不要にし、最新の操船機器、もしくは訓練が必要な操船機器で、操船訓練を行うことができる環境をつくる。
【解決手段】メタバース空間にて操船訓練環境を構築して遠隔地でも操船訓練ができ、指導教官の端末においてもメタバース空間にて訓練者の操船状況を確認できることとしたので、訓練が必要な装置や環境を容易に構築でき、訓練シナリオの作成変更が瞬時に可能で、多くの複数の訓練者の指導を効率よく行うことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操船操作を訓練するための操船訓練システムであって、
操船の訓練者によって操作される少なくとも1台の操船訓練者端末装置と、
操船訓練状況を管理する訓練管理者によって操作される訓練管理者端末装置と、
前記訓練管理者によって選択された船種の操舵室を仮想空間で表示するメタバース操舵室表示手段と、
操舵室内で使用される機器を表示するメタバース操船機器表示手段と、
操舵室からの風景を表示する操舵室風景画像表示手段と、
前記訓練管理者端末装置の操作に応じて、前記訓練者による船舶の操船状況を仮想空間で表示するメタバース訓練船運航状況表示手段と、を備え、
前記訓練管理者端末装置は、前記訓練者に船舶を割り当てる船舶割当手段と、
訓練を行うためのシナリオを作成し変更する訓練シナリオ作成変更手段をさらに備える、
ことを特徴とする操船訓練システム
【請求項2】
請求項1に記載の操船訓練システムにおいて、
前記メタバース操船機器表示手段は、操船に用いられるECDIS(電子海図情報表示装置)、AIS表示器(自動船舶識別装置)、レーダ指示器を使用する際に前記訓練管理者または前記訓練者の選択に応じて表示するとともに、前記複数の表示器、操舵機の配置を変更可能な機能を有し、また現運用同様にバックアップとして仮想紙海図を表示する機能を有する、
ことを特徴とする操船訓練システム
【請求項3】
請求項2に記載の操船訓練システムにおいて、
前記メタバース操船機器表示手段は、前記複数の表示器の配置をパターンとして複数記憶する機能を有するとともに、前記訓練管理者または前記訓練者が当該パターンを選択できる機能を有する、
ことを特徴とする操船訓練システム
【請求項4】
請求項1に記載の操船訓練システムにおいて、
前記メタバース操舵室表示手段は、前記メタバース操舵室内に前記訓練管理者のアバターおよび、複数の前記訓練者のアバターを表示する訓練者アバター表示手段を備える、
ことを特徴とする操船訓練システム
【請求項5】
操船操作を訓練するための操船訓練プログラムであって、
コンピュータを、
船舶の訓練者によって操作される少なくとも1台の操船訓練者端末、
操船訓練状況を管理する訓練管理者によって操作される訓練管理者端末、
として機能させ、
前記操船訓練端末は選択された船種の操舵室を仮想空間で表示するメタバース操舵室表示手段として機能し、
前記管理者端末は、
前記訓練者による船舶の操船状況を仮想空間で表示するメタバース訓練船運航状況表示手段、
前記訓練者に船舶を割り当てる船舶割当手段、
訓練を行うためのシナリオを作成し変更する訓練シナリオ作成変更手段として機能する、
ことを特徴とする操船訓練プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の操縦を訓練するに際し、特定の場所に限定されず任意の場所において実施でき、訓練の管理がし易い、操船訓練システムおよび操船訓練プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の操縦を訓練する装置に関しては各種発明がなされ、例えば、模擬船橋の視界に映し出される波映像と同期させて模擬船橋を動揺させるシステムが(特許文献1参照)、操船訓練シナリオの作成に関しては、実際のデータに基づいて対象海域、船舶、時期の設定の自由度を上げ効率的に行うことができる操船訓練システムが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06-301329公報
【特許文献2】特開2013-205470公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの操船訓練装置や操船シミュレータは、陸上に設置した操船模擬装置や想定される船橋からの風景をモニター投影しながら行う形態がほとんどであった。これでは、訓練装置として物理的な空間を必要とし、同時に指導を受ける訓練者の数についても装置の数の制約を受けていた。
【0005】
そこで本発明は、メタバース空間にて操船訓練環境を構築して物理的な操船模擬装置や映像装置を不要とし、軽装備で遠隔地においても操船訓練ができるシステム及び、指導教官の端末においてもメタバース空間にて訓練者の訓練状況を確認可能なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、操船操作を訓練するための操船訓練システムであって、操船の訓練者によって操作される少なくとも1台の操船訓練者端末装置と、操船訓練状況を管理する訓練管理者によって操作される訓練管理者端末装置と、前記訓練管理者によって選択された船種の操舵室を仮想空間で表示するメタバース操舵室表示手段と、操舵室内で使用される機器を表示するメタバース操船機器表示手段と、操舵室からの風景を表示する操舵室風景画像表示手段と、前記訓練管理者端末装置の操作に応じて、前記訓練者による船舶の操船状況を仮想空間で表示するメタバース訓練船運航状況表示手段と、を備え、前記訓練管理者端末装置は、前記訓練者に船舶を割り当てる船舶割当手段と、訓練を行うためのシナリオを作成し変更する訓練シナリオ作成変更手段をさらに備える、ことを特徴とする操船訓練システムである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の操船訓練システムにおいて、前記メタバース操船機器表示手段は、操船に用いられるECDIS(電子海図情報表示装置)、AIS表示器(自動船舶識別装置)、レーダ指示器を使用する際に前記訓練管理者または前記訓練者の選択に応じて表示するとともに、前記複数の表示器、操舵機の配置を変更可能な機能を有し、また現運用同様にバックアップとして仮想紙海図を表示する機能を有することを特徴とする操船訓練システムである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の操船訓練システムにおいて、前記メタバース操船機器表示手段は、前記複数の表示器の配置をパターンとして複数記憶する機能を有するとともに、前記訓練管理者または前記訓練者が当該パターンを選択できる機能を有することを特徴とする操船訓練システムである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の操船訓練システムにおいて、前記メタバース操舵室表示手段は、前記メタバース操舵室内に前記訓練管理者のアバターおよび、複数の前記訓練者のアバターを表示する訓練者アバター表示手段を備えることを特徴とする操船訓練システムである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、操船操作を訓練するための操船訓練プログラムであって、コンピュータを、船舶の訓練者によって操作される少なくとも1台の操船訓練者端末、操船訓練状況を管理する訓練管理者によって操作される訓練管理者端末、として機能させ、前記操船訓練端末は選択された船種の操舵室を仮想空間で表示するメタバース操舵室表示手段として機能し、前記管理者端末は、前記訓練者による船舶の操船状況を仮想空間で表示するメタバース訓練船運航状況表示手段、前記訓練者に船舶を割り当てる船舶割当手段、訓練を行うためのシナリオを作成し変更する訓練シナリオ作成変更手段として機能することを特徴とする操船訓練プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1および5に記載の発明によれば、操船訓練管理者が選択した種類の船舶の操舵室を仮想空間でメタバース操舵室として訓練者の端末に表示させ、訓練者は当該メタバース操舵室内で操船訓練を行って操船技術の習得を行うことができる。訓練管理者端末では、1以上の訓練者による船舶の操船の状況を監視するため、メタバース訓練船運航状況表示手段によって訓練船運航状況を同じく仮想空間で確認できる。さらに、訓練の実施状況に応じて、訓練者の船舶を自由に変更ができるとともに、訓練シナリオも作成変更が可能である。特に訓練シナリオについては、船舶の自律航行を陸上から支援する技術が展開され、緊急時などでは遠隔操船が行われることもある。このような遠隔操船での状況をデータとして記録し、訓練シナリオに使用することも考えられる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、メタバース操舵室内に操船に必要な表示器類や無線装置をメタバース内に表示することで実機の模擬装置が不要となる。操船に係る機器の進歩は早く、操船訓練でも最新の機器で訓練を行いたいというニーズにも対応できる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、メタバース操舵室内の操船機器について訓練者毎に選択と配置を変更できる。例えば、訓練者のレベルや属性に応じて扱う機器が異なる場合にも当該操船者用の操船機器レイアウトを構築できる。さらに、複数の操船者が同時に共同で、同一メタバース操舵室内で操船訓練をする場合であっても、訓練者ごとに操船機器レイアウトを構築可能である。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、メタバース操舵室内に訓練管理者のアバターを表示し、1隻の遠隔操船に対して複数の遠隔操船者がいる場合にもメタバース操舵室内にアバターを表示するので、訓練管理者から機器の操作についての指示を受けやすくなり、また、訓練者間の連携を確認し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態に係る操船訓練システムの概略構成図である。
【
図2】
図1に示す操船訓練者端末装置と訓練管理者端末装置の制御ユニットの構成を示す機能ブロック図である。メタバース操舵室例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、具体的な構成は、下記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に係る操船訓練システムを示す概略構成図である。1以上の訓練者Rc1、Rc2およびRc3とその端末装置、そして訓練状況を管理し指導を行う訓練管理者とその端末装置が含まれている。
【0018】
訓練者Rc1、Rc2およびRc3は、例えばこれから海技士の免許を取得しようとする操船訓練者である。操船訓練者端末装置2A、2Bおよび2Cを用いて操船作業を行い、訓練管理者Kcから指導を受ける。訓練者Rc1~Rc3は、操船訓練者端末装置2A~2Cが通信網NWに接続できる場所であれば、訓練者それぞれは遠隔地にいても良く、一定の場所に集合して訓練をしても良い。訓練管理者Kcも同様に、訓練管理者端末装置KAが通信網NWに接続できる場所であれば、訓練者とは離れた場所にいても良く、または訓練者の近くにいても良い。
【0019】
訓練者Rc1~Rc3には、操船訓練者端末装置2A~2Cにより船舶の操舵室を仮想現実空間によって表現したメタバース操舵室が提供される。これにより、訓練者Rc1~Rc3は、実際に船舶に乗船しているような状態で操船作業を行なうことができる。
【0020】
訓練の管理指導を行う管理者Kcは、訓練管理者端末装置KAにより各訓練者がいるメタバース操舵室にそれぞれ移動することができるとともに、管理者Kcにはメタバースによって表現したメタバース運航状況画面が提供される。メタバース運航状況画面には、訓練者によって操船されている船舶に関する船舶情報が統合表示される。これにより、管理者Kcは、各訓練者に対して指導が実施できるととも、訓練者全体の状況を把握できる。
【0021】
なお、訓練者および訓練管理者は、訓練者Rc1~Rc3および訓練管理者Kcに限定されず、さらに多くの訓練者および複数の訓練管理者が通信網NWにつながり連携してもよい。
【0022】
操船訓練者端末装置2Aは、通信網NWを介して通信が可能なように接続された制御ユニット2A1と、遠隔操船者Rc1の頭部に装着されるゴーグル2A2と、訓練者Rc1の両手でそれぞれ保持される2つのコントローラ2A3とを備えている。制御ユニット2A1と、ゴーグル2A2およびコントローラ2A3とは、有線または無線によって接続されている。なお、操船訓練者端末装置2Aとして、ユニット2A1とゴーグル2A2を別の構成としているが、ゴーグル2A2の中に制御ユニット2A1の機能が統合される形態であってもよい。この場合は、ゴーグル2A2が操船訓練者端末装置2Aとして、通信網NWに通信が可能なように接続される。
【0023】
制御ユニット2A1は、詳しくは図示しないが、CPUなどの中央演算処理部と、プログラムや各種データを記憶する記憶部と、中央演算処理部により各種処理を実行する際に生成される情報・データを一時的に記憶などするためのメモリと、各種の入出力インターフェースと、通信部などを備えたコンピュータ装置である。制御ユニット2A1は、図示しない操船プログラムに基づいて中央演算処理部が動作することにより、メタバース操舵室表示部(メタバース操舵室表示手段)2A4、メタバース操船機器表示部(メタバース操船機器表示手段)2A5、操舵室風景画像表示部(操舵室風景画像表示手段)2A6、および操船情報送信部2A7として機能する。
【0024】
ゴーグル2A2は、いわゆるHMD(Head Mounted Display)であり、視差を有する右目用画像および左目用画像を表示することにより、立体感のあるメタバース操舵室を表示する。また、ゴーグル2A2は、訓練者Rc1の頭部の動きを検出するヘッドトラッキング機能と、訓練者Rc1の位置や姿勢の変化を検出するポジショントラッキング機能と、訓練者Rc1の視線の動きを検出するアイトラッキング機能などを備えている。さらに、ゴーグル2A2は、マイクおよびスピーカを備えており、訓練者Rc1が訓練管理者Kcのほか、別の訓練者Rc2などとも通話できるようになっている。
【0025】
コントローラ2A3は、訓練者Rc1の右手および左手の動きをそれぞれ検出するモーショントラッキング機能と、各種操作スイッチ(操作ボタン、操作レバー、操作ダイヤル)などを備えている。各種操作スイッチは、メタバース操舵室内の仮想的な物体(メタバースオブジェクト)を掴んだり、離したりする際に操作される。
【0026】
メタバース操舵室表示部2A4は、訓練管理者Kcが訓練者Rc1~Rc3に訓練させようと選択した船舶の種類に応じた標準的なメタバース操舵室を表示させる。ここで標準的なとは、船舶の大きさや用途から推測される一般的な操舵室の広さであり、さらに操舵室が位置する船舶上の高さも推定されメタバース操舵室からの風景を表示する操舵室風景画像表示部2A6のパラメータとなる。
【0027】
メタバース操船機器表示部2A5は、メタバース操舵室内に、操船に必要な機器を表示する。例えば、周囲の船舶や島などをとらえるレーダ指示器、電子海図を表示する装置ECDIS(電子海図情報表示装置)、AIS表示器(自動船舶識別装置)などの他、針路を検知するためのジャイロコンパス、手動操作用の舵輪(ハンドル)を組み込んだ操作卓を表示する。さらには、主機の出力やプロペラの回転数など船の推進力の制御を操作するための装置や無線通信を行う機器を組み込んだ操作卓も含まれる。また、現運用同様にバックアップとして仮想紙海図表示装置をメタバース操舵室に表示する機能もあってもよい。
【0028】
操舵室風景画像表示部2A6は、操舵室(船橋)からの外観をメタバース操舵室内の正面表示部に表示する。メタバース操舵室から推測される風景をコンピュータグラフィックスにより生成されたCG画像で表示する。もしくは、自律運航船を遠隔支援した場合の実画像を用いてもよいし、データから再現したデジタルツイン映像でもよい。
【0029】
操船情報送信部2A7は、メタバース操舵室内で行なわれた訓練者Rc1による操船結果を通信網NWに送信する。通信網NWを介して、他の訓練者の操船結果が共有されて、訓練者Rc1自身の操舵室からの外観も変化する。また、訓練管理者Kcのメタバース運航状況画面にも反映されるとともに、操船結果に関して訓練管理者Kcと訓練者の間で指導などの伝達が通信網NWを介して行われる。
【0030】
メタバース操舵室4内の例を
図3に示す。コンピュータグラフィックスで生成されたCG画像で、操舵ハンドル411やレーダ指示器412、船速計413および舵角計414、操作ボタン415などが設けられた操作卓41と、仮想紙海図を表示するテーブル型のタッチパネル装置416が表示されている。さらに、メタバース操舵室から推測される風景をコンピュータグラフィックスにより生成されたCG画像や実画像42などで表示されている。
【0031】
コントローラ2A3は、訓練者Rc1によるメタバース操舵室4内での操船操作、例えば、操舵ハンドル411などの操作を検出し、その操作方向および操作量を制御ユニット2A1へ送信する。メタバース操舵室表示部2A4は、コントローラ2A3の検出結果に応じて、ゴーグル2A2に表示されているメタバース操舵室を変化させる。また、操船情報送信部2A7は、コントローラ2A3の検出結果に基づいて操船情報を生成し、生成した操船情報を通信網NWへ送信する。なお、操船訓練者端末装置2B、2Cは、操船訓練者端末装置2Aと同様の構成および機能を備えているため、詳しい説明は省略する。
【0032】
メタバース操船機器表示部2A5は、操船訓練者端末装置2Aが起動し、訓練対象の船舶が決まった際に、
図4に示す操船機器の配置パターンを訓練者Rc1に選択させる画面をゴーグル2A2に表示する。メタバース操船機器表示部2A5は船種毎に標準的な操船機器(操作卓やその上に並べる各種表示機器)の配置パターンが複数記憶されている。これを読み込むことで、遠隔操船者Rc1は操船に必要な操船機器を瞬時に揃えることができる。また、記憶されている配置パターンは船種毎ではなく、船舶毎であってもよい。
【0033】
訓練管理者Kcが使用する訓練管理者端末装置KAを構成するゴーグルKA2とコントローラKA3は、訓練者Rc1のゴーグル2A2とコントローラ2A3と同じ機能を有している。一方、制御ユニットKA1の構成については、制御ユニット2A1とは異なり、メタバース訓練管理者室表示部(メタバース訓練管理者室表示手段)KA4、メタバース訓練船運航状況表示部(メタバース訓練船運航状況表示手段)KA5、訓練シナリオ作成変更部(訓練シナリオ作成変更手段)KA6、および訓練指導情報送信部KA7がある。
【0034】
メタバース訓練管理者室5内の例を
図5に示す。コンピュータグラフィックスで生成されたCG画像で、メタバース訓練管理者室5内でメタバース訓練船運航状況画面51が表示される。メタバース運航状況画面には、訓練者によって操船されている船舶に関する船舶情報が統合表示される。例えば、特定の海域における船舶の航行ルートや錨泊している船舶などが俯瞰して分かる画面511であったり、船速の一覧表示画面512であったりである。さらには、船舶が直面する風向風速やエンジン回転数などのトレンドグラフ画面も表示画面として挙げられる。メタバース訓練管理者室内での追加の機能として、例えば、各訓練者がいるメタバース操舵室への移動機能や、各訓練者への音声や文字によるメッセージを送信できる機能が準備されている。これらにより、管理者Kcは訓練者全体の状況を把握できるとともに、各訓練者に対してリアルタイムで直接指導ができる。
【0035】
操船訓練は、訓練者一人が1隻の船舶について行う場合もあるが、1隻の船舶ついて複数の訓練者が協働して操船訓練を行う場合も想定される。その場合には、訓練者間で互いの操船作業状況を認識する必要がある。そのための方法として、
図6に示すように、メタバース操舵室4内に例えば、訓練者Rc1のアバター61および、訓練者Rc2のアバター62を表示する。操作している操作卓41の前に位置し、当該訓練者がどの装置を担当、操作していることが分かるようにする。これにより、互いの操船作業状況が容易に認識できる。
【0036】
さらに、操船を複数の訓練者が協働して行う場合、互いに意思疎通ができる必要がある。複数の訓練者は、実際は離れた場所で操船訓練をしているが、意思疎通の方法として、例えばゴーグル2A2に取り付けられたマイクといった音声入力手段により取得された音声データを、通信網NWを介して他者のゴーグル2B2へ送信し、ゴーグル2B2に取り付けられたスピーカにより聴取してもよい。別の形態として、音声データを音声認識して文字に変換し、ゴーグル2B2にて表示される遠隔操船者Rc1のアバターの傍にチャット表示してもよい。これにより、遠隔操船者間でスムーズな意思疎通を図ることができるとともに、遠隔操船中の操船指示の記録を残すことが出来る。
【0037】
メタバース操舵室4内にアバターを表示する形態として、訓練管理者Kcのアバターを表示させる機能をメタバース操舵室表示部2A4が有していても良い。これは前述の教育訓練者Kcによるメタバース操舵室への移動機能によるものである。これにより、表示器の操作方法などを訓練管理者Kc自らがアバターの行為を使って教えることができる。
【0038】
訓練シナリオ作成変更部KA6は、訓練管理者Kcが訓練シナリオを作成するのを支援するものである。船舶の自律運航が行われるようになり、航行時の操舵室からの画像データの他、船舶に設置された複数のセンサデータが集積されつつあり、訓練シナリオ作成部KA6にはこのようなデータが保存されている。訓練を行いたい船舶に応じて、それらのデータを訓練シナリオに用いることでより現実感のある映像と環境を作り出すことができ、実際の状況に近い操船訓練が出来るようになる。
例えば、平常時には自律運航であるが、港で自船の周囲に複数の船舶が存在する場合や気象条件が厳しい場合には陸上から遠隔操船が行われることがある。より具体的には、気象条件や港の状況に応じて、予定の港には寄港せず次への港へ向かう抜港といった航路変更が行われることも実際にあるが、このような事例を訓練シナリオとして抜き出したり、リアルタイムで訓練管理者Kcがシナリオを変更したりでき、効率的な訓練ができる。
【0039】
以上で説明したように、本実施の形態に係る操船訓練システム1によれば、通信網と端末があれば実機に近い操船装置で訓練ができるので、実際に操船業務関わる時には機器をすぐに扱うことができる。また、操船訓練プログラムの更新により、これまで扱ったことのない機器を事前に経験することができる。
【0040】
また、本実施形態では複数の訓練管理者の同時に参加できるので、訓練者に対する評価が客観的に行われることが期待できる。
【0041】
以上の説明では、操船訓練者端末装置と管理者端末装置は別のハードウェアのように記述したが、プログラムの切替によって、相互に役割を代替することができる。訓練者であっても複数の船舶の運航状況を把握する練習に使っても良く、通信網につながっている一定の範囲で訓練者、訓練管理者の設定を任意に変更できる。これにより、より柔軟に操船訓練の形態を構成できる。
【符号の説明】
【0042】
1 操船訓練システム
2A~2C 操船訓練者端末装置
2A1~2C1 制御ユニット
4 メタバース操舵室
411 操舵ハンドル
412 レーダ指示器
416 仮想紙海図表示装置
61 Rc1のアバター
62 Rc2のアバター
Rc1 ~Rc3 訓練者
Kc 管理者
KA 訓練管理者端末装置