(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024315
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】新規化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/547 20060101AFI20240215BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240215BHJP
C07D 405/12 20060101ALI20240215BHJP
C07D 303/22 20060101ALI20240215BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
G01N33/547
G01N33/53 Y
G01N33/53 D
C07D405/12
C07D303/22
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127075
(22)【出願日】2022-08-09
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 知宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐士
(72)【発明者】
【氏名】大江 洋平
(72)【発明者】
【氏名】前田 希
(72)【発明者】
【氏名】堀 琴和
(72)【発明者】
【氏名】川岸 由弥
(72)【発明者】
【氏名】足立 龍成
(72)【発明者】
【氏名】野村 峻平
【テーマコード(参考)】
4C063
4H045
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB09
4C063CC71
4C063DD12
4C063EE10
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA61
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】組織中の対象タンパク質又はペプチドの局所的な絶対濃度の決定を可能とする新規化合物を提供する。
【解決手段】下記化学式からなる新規化合物である。この新規化合物はタンパク質の固定化基材として使用される。測定対象である組織と既知濃度の抗原タンパク質を包含する免疫染色測定用のブロックを作製する。検量線を作製して組織中の対象タンパク質の局所的な絶対濃度を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)からなる新規化合物
【化1】
(ここで、下記の記号は三次元網目構造を有する可逆性凝固物であり、
【化2】
Aは、
化学結合、O、-NR
1-、-N(R
1)CO-、-CON(R
1)-、若しくは、-N(R
1)CON(R
1)-(ここで、R
1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)であり、
Lは、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基であり、
Rは、
化学結合、N、O若しくはSからなるヘテロ原子、SO
2、カルボニル基、C1~6のアルキル基若しくはC2~6のアルケニル基であり、
Yは、
ホルミル基、
N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、
酸ハロゲン化物基、
酸無水物基、
アミノカルボキシメチル基、
1若しくは独立した複数個の置換基を有しても良いヘテロ環であり、
このYの置換基は、
低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、ハロゲン原子、-CHF
2、-CF
3、-OCF
3、
直接に、もしくは分岐可能な低級アルキレン、低級アルケニレンを介してもよい以下の官能基類を有するものであり、その官能基類は
-OH、-O-低級アルキル、
-NH
2、-NH(低級アルキル)、-N(低級アルキル)
2、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-(H,もしくは低級アルキル)、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-O-低級アルキル、
-CO-O-(H,もしくは低級アルキル)、-CN、-NO
2、
-SH、-S-低級アルキル、-SO
2-低級アルキル、
-CO-N(H,もしくは低級アルキル)
2、-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-CO-N(H,もしくは低級アルキル)
2、-O-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-低級アルキレン-OH、-低級アルキレン-O-低級アルキル、
5~8員環状アミン、-CO-5~8員環状アミン、-COO-低級アルキレン-アリール、
アミノカルボキシメチル基、ハロゲン基、5乃至6員ヘテロ環、-低級アルキレン-5乃至6員ヘテロ環である。)。
【請求項2】
前記可逆性凝固物は、アガロース、ゼラチン、卵白、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム及びヒアルロン酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の新規化合物。
【請求項3】
前記ヘテロ環は、
フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、イソオキサゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール若しくはイソチアゾールからなる5員環、
ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジンからなる芳香族6員環、
モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、キヌクリジン、アゼチジン、オキセタン、アゼチジン-2-オン、アジリジン、トロパン若しくはホモピペラジンからなる飽和ヘテロ環、
インドール、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、プテリジン、クマリン、クロモン、1,4-ベンゾジアゼピン、ベンズイミダゾール、ベンゾフラン、プリン、アクリジン、フェノキサジン、フェノチアジン若しくはイミダゾピリジンからなる二環性芳香環もしくは縮合環であることを特徴とする請求項1又は2に記載の新規化合物。
【請求項4】
下記化学式(II)からなることを特徴とする請求項1に記載の新規化合物
【化3】
(ここで、下記の記号はアガロースであり、
【化4】
R
1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、
Lは、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基である。)。
【請求項5】
下記化学式(III)からなる請求項1に記載の新規化合物
【化5】
(ここで、下記の記号はアガロースである。)。
【化6】
【請求項6】
下記化学式(IV)からなる請求項1に記載の新規化合物
【化7】
(ここで、下記の記号はアガロースである。)。
【化8】
【請求項7】
下記化学式(V)からなる新規化合物
【化9】
(ここで、
Aは、
化学結合、O、-NR
1-、-N(R
1)CO-、-CON(R
1)-、若しくは、-N(R
1)CON(R
1)-(ここで、R
1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)であり、
Lは、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基であり、
Rは、
化学結合、N、O若しくはSからなるヘテロ原子、SO
2、カルボニル基、C1~6のアルキル基若しくはC2~6のアルケニル基であり、
Yは、
ホルミル基、
N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、
酸ハロゲン化物基、
酸無水物基、
アミノカルボキシメチル基、
1若しくは独立した複数個の置換基を有しても良いヘテロ環であり、
このYの置換基は、
低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、ハロゲン原子、-CHF
2、-CF
3、-OCF
3、
直接に、もしくは分岐可能な低級アルキレン、低級アルケニレンを介してもよい以下の官能基類を有するものであり、その官能基類は
-OH、-O-低級アルキル、
-NH
2、-NH(低級アルキル)、-N(低級アルキル)
2、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-(H,もしくは低級アルキル)、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-O-低級アルキル、
-CO-O-(H,もしくは低級アルキル)、-CN、-NO
2、
-SH、-S-低級アルキル、-SO
2-低級アルキル、
-CO-N(H,もしくは低級アルキル)
2、-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-CO-N(H,もしくは低級アルキル)
2、-O-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-低級アルキレン-OH、-低級アルキレン-O-低級アルキル、
5~8員環状アミン、-CO-5~8員環状アミン、-COO-低級アルキレン-アリール、
アミノカルボキシメチル基、ハロゲン基、5乃至6員ヘテロ環、-低級アルキレン-5乃至6員ヘテロ環である。)。
【請求項8】
下記化学式(IV)からなる請求項7に記載の新規化合物
【化10】
(ここで、
R
1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、
Lは、
化学結合、
N、O若しくはSからなるヘテロ原子、
-N(R
1)CO-、-CON(R
1)-、若しくは、-N(R
1)CON(R
1)-(ここで、R
1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)、
SO
2、カルボニル基、若しくは、カルボキシル基、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~6アルキル基若しくはC2~6アルケニル基である。)。
【請求項9】
下記化学式(VII)からなる請求項7に記載の新規化合物。
【化11】
【請求項10】
下記化学式(VIII)からなる請求項7に記載の新規化合物
【化12】
(ここで、
Lは、
化学結合、
N、O若しくはSからなるヘテロ原子、
-N(R
1)CO-、-CON(R
1)-、若しくは、-N(R
1)CON(R
1)-(ここで、R
1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)、
SO
2、カルボニル基、若しくは、カルボキシル基、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~6アルキル基若しくはC2~6アルケニル基である。)。
【請求項11】
下記化学式(IX)からなる請求項7に記載の新規化合物。
【化13】
【請求項12】
タンパク質、ペプチド、DNA若しくはRNA断片、レセプター、ビタミン類、又は、蛍光物質から選択される生理活性物質の固定化基材として使用されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の新規化合物。
【請求項13】
メルカプト基(SH基)を有する生理活性物質の固定化基材として使用されることを特徴とする請求項4又は5に記載の新規化合物。
【請求項14】
アミノ基(NH2基)を有する生理活性物質の固定化基材として使用されることを特徴とする請求項6に記載の新規化合物。
【請求項15】
対象組織中のタンパク質又はペプチドの絶対濃度を測定するため、
測定対象である組織と、既知濃度の抗原タンパク質又はペプチドを包含する基材と、をともに含有する免疫染色測定用のブロックの作成に用いられることを特徴とする請求項12に記載の新規化合物。
【請求項16】
下記合成ルートからなることを特徴とする請求項9に記載の新規化合物の製造方法。
【化14】
【請求項17】
下記合成ルートからなることを特徴とする請求項5に記載の新規化合物の製造方法。
【化15】
【請求項18】
下記合成ルートからなることを特徴とする請求項11に記載の新規化合物の製造方法。
【化16】
【請求項19】
下記合成ルートからなることを特徴とする請求項6に記載の新規化合物の製造方法。
【化17】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質又はペプチド等を結合または解離できる基材であり、それらの結合を保持したまま任意にゲル化またはゾル化できる基材として使用される新規化合物、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病 (Alzheimer’s disease;AD)の病理学的特徴の一つに、過剰リン酸化されたtauタンパク質が重合し神経細胞内に封入体を形成した神経原線維変化がある。ADのような神経原線維変化が見られる神経変性疾患をタウオパチーと呼ぶ(非特許文献1)。
【0003】
tauは脳の発生から生涯にわたり神経系に発現するタンパク質で、微小管に結合し、その安定化に寄与していると考えられている。正常脳のtauタンパク質は主に神経細胞の軸索に分布している。近年、正常tauの組織解析が可能になり、組織中のtauの局在について解析できることとなった(非特許文献2)。
【0004】
一方で、tau封入体は変性神経細胞の細胞体や樹状突起に蓄積することから、神経細胞内におけるtauのダイナミックな局所濃度変化がAD発症のカギと考えられる(非特許文献3,4)。また、生体分子の機能および毒性はその局所濃度に大きく依存する。そのためtauの生理的機能及び発症機序解明のためtauの局所濃度の決定手法が要請される。
【0005】
組織中のタンパク質の解析法として生化学的手法と組織学的手法がある。生化学的手法は、摘出した組織をホモジナイズ(均一化)した後に分画し、ウエスタンブロット法等により対象のタンパク質を解析する。これは、採取した組織全体の平均濃度は求められるが、組織構造は破壊されるため任意の組織・細胞領域における局所濃度を求めることは不可能である。
【0006】
一方、組織学的手法では組織構造を保持したままの標本を作製し、染色を行う。そのため、抗体反応を反映したシグナルの濃淡でタンパク質の局在と相対的な量(比較定量)は求められるが、局所的な絶対濃度を求めることはできない。
【0007】
したがって現状では、例えば脳神経細胞におけるtau等のタンパク質について、細胞体、樹状突起、軸索、シナプスといった局所における正確な存在濃度(即ち、スパイン内にタンパク質Xが何μM有るか」といった局所的な絶対濃度)を調べることはできない。
【0008】
例えばtubulinは神経系に広く分布するのに対し、tauは一部の軸索に偏在しているが(非特許文献2,4)、細胞体や軸索、樹状突起等それぞれ局所におけるtau/tubulin存在比を生化学的に求めることはできない。
【0009】
細胞体や樹状突起等へのtauの異常局在と蓄積が、アルツハイマー病等の神経変性を引き越す可能性については報告されているが(非特許文献4)、局所的なtubulinに対するtauの過剰が神経変性の鍵と考えられている(非特許文献5,6,7)。
【0010】
この病態形成機構の解明には、神経細胞内のtau、tubulinの局所領域における絶対量変化を正確に求める必要がある。このように生体を構成する因子の生理機能及びその病態形成機構の解明には、本来その因子の組織細胞中の局所的な絶対濃度の決定が必要不可欠である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】宮坂知宏. 神経化学 (2006) 45, 27
【非特許文献2】Kubo A, et al. J Comp Neurol (2019) 527, 985
【非特許文献3】Dening T and Thomas A. Oxford Textbook of Old Age Psychiatry (2 ed.) (2013) 87
【非特許文献4】Kubo A, et al. J Neuroscience (2019) 39, 6781
【非特許文献5】Miyasaka T, et al. Neurobiol Ageing (2016) 39, 69
【非特許文献6】Miyasaka T, et al. Frontiers in Neuroscience (2018) 12, 415
【非特許文献7】Fujiwara H, et al. Biochem Biophys Res Commun (2020) 521, 779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、対象組織中のタンパク質又はペプチド等の局所的な絶対濃度を測定するため、タンパク質又はペプチドの固定化基材等として使用される新規化合物、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる新規化合物は、下記化学式(I)からなる。
【0014】
【0015】
ここで、下記の記号は三次元網目構造を有する可逆性凝固物である。
【0016】
【0017】
Aは、
化学結合、O、-NR1-、-N(R1)CO-、-CON(R1)-、若しくは、-N(R1)CON(R1)-(ここで、R1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)である。
【0018】
Lは、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能なC1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基である。
【0019】
Rは、
化学結合、N、O若しくはSからなるヘテロ原子、SO2、カルボニル基、炭素数1から6のアルキル基若しくはC2~6のアルケニル基である。
【0020】
Yは、
ホルミル基、
N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、
酸ハロゲン化物基、
酸無水物基、
アミノカルボキシメチル基、
1若しくは独立した複数個の置換基を有しても良いヘテロ環であり、
このYの置換基は、
低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、ハロゲン原子、-CHF2、-CF3、-OCF3、
直接に、もしくは分岐可能な低級アルキレン、低級アルケニレンを介してもよい以下の官能基類を有するものであり、その官能基類は
-OH、-O-低級アルキル、
-NH2、-NH(低級アルキル)、-N(低級アルキル)2、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-(H,もしくは低級アルキル)、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-O-低級アルキル、
-CO-O-(H,もしくは低級アルキル)、-CN、-NO2、
-SH、-S-低級アルキル、-SO2-低級アルキル、
-CO-N(H,もしくは低級アルキル)2、-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-CO-N(H,もしくは低級アルキル)2、-O-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-低級アルキレン-OH、-低級アルキレン-O-低級アルキル、
5~8員環状アミン、-CO-5~8員環状アミン、-COO-低級アルキレン-アリール、
アミノカルボキシメチル基、ハロゲン基、5乃至6員ヘテロ環、-低級アルキレン-5乃至6員ヘテロ環である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可逆性凝固物とジスルフィド結合とを繋ぐリンカー部を記載の構造にすることによりタンパク質又はペプチド等を結合または解離できる基材であり、それらの結合を保持したまま任意にゲル化又はゾル化できるようになる。
【0022】
本発明の新規化合物を使用することで、可逆性凝固物に固定化されたタンパク質又はペプチド等の量を正確に把握することが可能になり、ひいては組織中の局所的な絶対濃度の正確な定量が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】異なる濃度のタンパク質を包含する新規合成アガロースと組織(マウス脳)について抗体染色を行った状態を説明する図である。
【
図2】検量線ブロックの作製工程を説明する図である。
【
図3】本発明にかかる新規合成アガロースを使用し、対象組織中のタンパク質の絶対濃度を測定する手法の概略を説明する図である。
【
図5】横軸をタンパク質濃度とし縦軸を蛍光輝度とする検量線の具体例を説明する図である。
【
図6】検量線作成による組織中のtauタンパク質の定量工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0025】
(1)新規化合物
本発明にかかる新規化合物は、例えば、対象組織中のタンパク質又はペプチド等の局所的な絶対濃度を測定するため、タンパク質又はペプチドの固定化基材等として使用されるものであり、それは下記化学式(I)からなる。
【0026】
【0027】
ここで、下記の記号は三次元網目構造を有する可逆性凝固物である。
【0028】
【0029】
Aは、
化学結合、O、-NR1-、-N(R1)CO-、-CON(R1)-、若しくは、-N(R1)CON(R1)-(ここで、R1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)である。
【0030】
Lは、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基である。
【0031】
Rは、
化学結合、N、O若しくはSからなるヘテロ原子、SO2、カルボニル基、C1~6のアルキル基若しくはC2~6のアルケニル基である。
【0032】
Yは、
ホルミル基、
N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、
酸ハロゲン化物基、
酸無水物基、
アミノカルボキシメチル基、
1若しくは独立した複数個の置換基を有しても良いヘテロ環であり、
このYの置換基は、
低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、ハロゲン原子、-CHF2、-CF3、-OCF3、
直接に、もしくは分岐可能な低級アルキレン、低級アルケニレンを介してもよい以下の官能基類を有するものであり、その官能基類は
-OH、-O-低級アルキル、
-NH2、-NH(低級アルキル)、-N(低級アルキル)2、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-(H,もしくは低級アルキル)、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-O-低級アルキル、
-CO-O-(H,もしくは低級アルキル)、-CN、-NO2、
-SH、-S-低級アルキル、-SO2-低級アルキル、
-CO-N(H,もしくは低級アルキル)2、-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-CO-N(H,もしくは低級アルキル)2、-O-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-低級アルキレン-OH、-低級アルキレン-O-低級アルキル、
5~8員環状アミン、-CO-5~8員環状アミン、-COO-低級アルキレン-アリール、
アミノカルボキシメチル基、ハロゲン基、5乃至6員ヘテロ環、-低級アルキレン-5乃至6員ヘテロ環である。
【0033】
N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)活性エステル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)活性エステル基等である。
【0034】
酸ハロゲン化物基は、例えば酸塩化物基である。
【0035】
酸無水物基は、例えば、無水マレイン酸基、無水コハク酸基、無水グルタル酸基、無水アジピン酸基及び無水シトラコン酸基等のカルボン酸無水物基である。
【0036】
可逆性凝固物は、アガロース、寒天、ゼラチン、卵白、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム及びヒアルロン酸からなる群から選択され、好ましくは、アガロースである。なお可逆性凝固物とは、加熱により溶解して水溶液となりこれを冷却すると凝固するが、加熱により再溶解する熱可塑性の性質を有する物をいう。
【0037】
アガロースは、下記化学式で示されるように、1,3位で結合されたβ-D-ガラクトースと1,4位で結合された3,6-アンヒドロ-α-L-ガラクトースとの交互結合からなり、分子中に多数の遊離水酸基を有し、ゲルを生成し易い中性多糖類である。ここでnは例えば100~10000の整数である。
【0038】
【0039】
寒天は、テングサを乾燥して熱湯で浸出し冷却凝固した、いわゆる「ところてん」を凍結乾燥したものであり、主成分はD-ガラクトースと3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースのα1,3結合及びβ1,4結合の繰り返し単位からなるが、一部に、β1,3結合及びα1,4結合の繰返し単位やD-ガラクトースにピルビン酸がアセタール結合した単位や硫酸エステル化ガラクタン単位を含むものである。
【0040】
前述のヘテロ環は、(i)フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、イソオキサゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール若しくはイソチアゾールからなる5員環、(ii)ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジンからなる芳香族6員環、(iii)モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、キヌクリジン、アゼチジン、オキセタン、アゼチジン-2-オン、アジリジン、トロパン若しくはホモピペラジンからなる飽和ヘテロ環、(iv)インドール、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、プテリジン、クマリン、クロモン、1,4-ベンゾジアゼピン、ベンズイミダゾール、ベンゾフラン、プリン、アクリジン、フェノキサジン、フェノチアジン若しくはイミダゾピリジンからなる二環性芳香環もしくは縮合環である。
【0041】
本発明にかかる新規化合物は、好ましくは下記化学式(II)からなる。
【0042】
【0043】
ここで、下記の記号はアガロースである。
【0044】
【0045】
R1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である。
【0046】
Lは、官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基である。
【0047】
本発明にかかる新規化合物は、より好ましくは下記化学式(III)からなる。なお下記化学式(III)からなる化合物をAga-epo1と記載することがある。
【0048】
【0049】
ここで、下記の記号はアガロースである。
【0050】
【0051】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式(IV)からなる。なお下記化学式(IV)からなる化合物をAga-epo2と記載することがある。
【0052】
【0053】
また本発明にかかる新規化合物は下記化学式(IV-1),(IV-2),(IV-3),(IV-4)からなる。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
Xはハロゲンである。
【0058】
【0059】
RはC1~6のアルキル基若しくはC2~6のアルケニル基である。
【0060】
ここで、下記の記号はアガロースである。
【0061】
【0062】
本発明にかかる新規化合物は、タンパク質又はペプチドの固定化基材等として使用される化合物の中間体となるものであり、それは下記化学式(V)からなる。
【0063】
【0064】
ここで、Aは、
化学結合、O、-NR1-、-N(R1)CO-、-CON(R1)-、若しくは、-N(R1)CON(R1)-(ここで、R1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)である。
【0065】
Lは、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基である。
【0066】
Rは、
化学結合、N、O若しくはSからなるヘテロ原子、SO2、カルボニル基、C1~6のアルキル基若しくはC2~6のアルケニル基である。
【0067】
Yは、
ホルミル基、
N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、
酸ハロゲン化物基、
酸無水物基、
アミノカルボキシメチル基、
1若しくは独立した複数個の置換基を有しても良いヘテロ環であり、
このYの置換基は、
低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、ハロゲン原子、-CHF2、-CF3、-OCF3、
直接に、もしくは分岐可能な低級アルキレン、低級アルケニレンを介してもよい以下の官能基類を有するものであり、その官能基類は
-OH、-O-低級アルキル、
-NH2、-NH(低級アルキル)、-N(低級アルキル)2、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-(H,もしくは低級アルキル)、
-N(H,もしくは低級アルキル)-CO-O-低級アルキル、
-CO-O-(H,もしくは低級アルキル)、-CN、-NO2、
-SH、-S-低級アルキル、-SO2-低級アルキル、
-CO-N(H,もしくは低級アルキル)2、-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-CO-N(H,もしくは低級アルキル)2、-O-CO-NH-(低級アルキル)、
-O-低級アルキレン-OH、-低級アルキレン-O-低級アルキル、
5~8員環状アミン、-CO-5~8員環状アミン、-COO-低級アルキレン-アリール、
アミノカルボキシメチル基、ハロゲン基、5乃至6員ヘテロ環、-低級アルキレン-5乃至6員ヘテロ環である。
【0068】
N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)活性エステル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)活性エステル基等である。
【0069】
酸ハロゲン化物基は、例えば酸塩化物基である。
【0070】
酸無水物基は、例えば、無水マレイン酸基、無水コハク酸基、無水グルタル酸基、無水アジピン酸基及び無水シトラコン酸基等のカルボン酸無水物基である。
【0071】
本発明にかかる中間体としての新規化合物は、好ましくは下記化学式(VI)からなる。
【0072】
【0073】
ここで、R1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である。
【0074】
Lは、
化学結合、
N、O若しくはSからなるヘテロ原子、
-N(R1)CO-、-CON(R1)-、若しくは、-N(R1)CON(R1)-(ここで、R1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)、
SO2、カルボニル基、若しくは、カルボキシル基、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~6アルキル基若しくはC2~6アルケニル基である。
【0075】
本発明にかかる中間体としての新規化合物は、更に好ましくは下記化学式(VII)からなる。
【0076】
【0077】
また本発明にかかる中間体としての新規化合物は、好ましくは下記化学式(VIII)からなる。
【0078】
【0079】
Lは、
化学結合、
N、O若しくはSからなるヘテロ原子、
-N(R1)CO-、-CON(R1)-、若しくは、-N(R1)CON(R1)-(ここで、R1は、水素、C1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基である)、
SO2、カルボニル基、若しくは、カルボキシル基、
官能基(この官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~6アルキル基若しくはC2~6アルケニル基である。
【0080】
本発明にかかる中間体としての新規化合物は、更に好ましくは下記化学式(IX)からなる。
【0081】
【0082】
また本発明にかかる新規化合物は下記化学式(IX-1),(IX-2),(IX-3),(IX-4)からなる。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
Xはハロゲンである。
【0087】
【0088】
RはC1~6のアルキル基若しくはC2~6のアルケニル基である。
【0089】
(2)新規化合物の合成方法
下記に本発明にかかる新規化合物Aga-epo1の合成スキームを記載する。
【0090】
即ち2,2’-dipyridyl disulfide (2) のMeOH溶液に、2-amino-1-ethanethiol (1) のMeOH溶液を加え、室温で一晩攪拌する。その後、MeOHを減圧留去し、残渣を精製することで黄色液体を得る(3)。その後、(3)のIPA溶液にEpichlorohydrin (4) を加え、室温で一晩攪拌する。その後、epichlorohydrin (4)を減圧留去することで得られた生成物にアガロースを加えることで新規化合物Aga-epo1が得られる。
【0091】
【0092】
下記に本発明にかかる新規化合物Aga-epo2の合成スキームを記載する。
【0093】
即ち2-メルカプトエタノールに過酸化水素を加え、その後に酸化試薬DMPを加え、得られた酸化物にEpichlorohydrinを添加する。その後、epichlorohydrinを減圧留去することで得られた生成物にアガロースを加えることで新規化合物Aga-epo2が得られる。
【0094】
【0095】
(3)新規化合物の用途
本発明にかかる新規化合物は、種々の物質と結合可能であり、好ましくは生理活性物質、例えば、タンパク質、ペプチド、DNA若しくはRNA破片、レセプター、ビタミン類(ビオチン等)、又は、蛍光物質(フルオロセイン等)の固定化基材として使用される。タンパク質は、特に限定されるものではなく、例えば、tau、MAP2、αシヌクレイン、アミロイドβ等が挙げられる。
【0096】
本発明の新規化合物はタンパク質等の固定化基材として使用できるため、ドラッグデリバリーシステムを構築することができる。
【0097】
特定のタンパク質等と結合する性質をもつアガロースゲル電気泳動装置に利用できる。これにより結合する物質のみ泳動が遅くなる(或いはトラップされる)ため、精製や解析に使える。
【0098】
また本発明の新規化合物は、抗体精製に用いるゲル単体としても使用できる。
【0099】
Aga-epo1はメルカプト基(SH基)を有する生理活性物質の固定に好適である。Aga-epo1は分子内にジスルフィド構造を有し且つそのジスルフィド構造に隣接する官能基が脱離しやすいからである。下記にAga-epo1とSH基を有する例えばタンパク質との結合によるAga-epo1への固定を示す式を記載する。
【0100】
【0101】
なお例えばSH基を有しないDNA等であっても3'末端や5'末端に核酸合成でSH基を導入することは可能なのであらゆるDNA等に対してAga-epo1への固定は可能である。
【0102】
次にAga-epo1への固定化されたタンパク質等の切り出しを示す式を記載する。即ち例えば2-メルカプトエタノールを添加することで結合の解離が可能となる。
【0103】
【0104】
一般的なタンパク質又はペプチド等を考えると、NH2基やCOOH基に比べてSH基の量は少ないので、Aga-epo1を用いることで、Aga-epo1に固定後の形を揃えることができるので、Aga-epo1が好適に用いられる。
【0105】
Aga-epo2はアミノ基(NH2基)を有する生理活性物質の固定に好適である。Aga-epo2は分子末端にホルミル基を有するからである。下記にAga-epo2とNH2基を有する例えばタンパク質との結合によるAga-epo2への固定を示す式を記載する。
【0106】
【0107】
なおAga-epo1と同様にNHz基を有しない場合でも合成で導入することでAga-epo2への固定は可能である。
【0108】
次にAga-epo2への固定化されたタンパク質等の切り出しを示す式を記載する。即ち例えば2-アミノエタンチオールを添加することで結合の解離が可能となる。
【0109】
【0110】
また本発明にかかる新規化合物は、例えば、対象組織中のタンパク質又はペプチドの絶対濃度を測定するため、測定対象である組織と、既知濃度の抗原タンパク質又はペプチドを包含する基材と、をともに含有する免疫染色測定用のブロックの作成に用いられる。
【0111】
本発明にかかる新規合成アガロースを使用し、対象組織中のタンパク質の絶対濃度を測定する手法を下記に記載する。
【0112】
(3-1)検量線ブロックの作製
測定対象である濃度標準タンパク質を適宜希釈し、異なる濃度のタンパク質を準備する。本発明にかかる新規合成アガロースを所定量計り取り、例えば
図1に示すように準備した異なる濃度のタンパク質にそれぞれ加える。その後攪拌し、新規合成アガロースと濃度標準タンパク質を共有結合させる(
図2(a))。
【0113】
上清を取り除き、所定時間攪拌し、共有結合以外の相互作用により付着した濃度標準タンパク質を除去する(
図2(b))。
【0114】
その後、タンパク質を共有結合させた新規合成アガロースの一部を取り、共有結合切断試薬を添加し、新規合成アガロースとタンパク質との共有結合を切断する(
図2(c))。
【0115】
そしてwestern blottingを行い得られたバンド強度をもとに、新規合成アガロースへ結合したタンパク質の結合量を算定する(
図3(a))。上記の方法で、標準タンパク質の新規合成アガロース内の濃度が正確に把握できる。
【0116】
そして、内部の標準タンパク質の濃度が正確に決定された新規合成アガロースを加熱し、ゾル状態時に十分攪拌したのちにブロック型に成型する。冷却後、ブロック型にした既知濃度の標準タンパク質含包新規合成アガロースを検量線ブロックと呼ぶ。
【0117】
(3-2)組織の固定
野生型(+/+)、ヘテロtauノックアウトマウス(+/-)、及び、ホモtauノックアウトマウス(-/-)について、全身の脱血を確認した後、4% パラホルムアルデヒドを含むPBSで灌流固定する。さらに4%パラホルムアルデヒドを含むPBS中で組織を固定し、脳を摘出する(
図3(b))。
【0118】
(3-3)共包埋パラフィン切片の作製
検量線ブロック及び組織をパラフィンに包埋し(
図3(c)、4)、ミクロトームを用いて薄切りする。得られたパラフィン切片はスライドガラスに貼付し、乾燥させる。これを共包埋パラフィン切片とする。
【0119】
(3-4)検量線作成による組織中tauタンパク質の定量
共包埋パラフィン切片を例えばモノクローナル抗体を用いた免疫染色により、タンパク質の蛍光処理を行う。顕微鏡を用いて観察し、検量線ブロックの蛍光強度を測定する(
図3(d))。
【0120】
新規合成アガロースと結合したタンパク質の質量情報から、例えば
図5に示すような横軸をタンパク質濃度(mg/cm
3)とし縦軸を蛍光輝度とする検量線を作製する。
【0121】
作製した検量線を使用することで、例えば、野生型(+/+)、ヘテロtauノックアウトマウス(+/-)、及び、ホモtauノックアウトマウス(-/-)の3種の特定領域における1ピクセル単位のタンパク質濃度の絶対定量が可能となる。
【0122】
このようにして、本発明による新規合成アガロースを使用することで、組織中タンパク質の絶対濃度の定量が可能となる(
図3(e))。
【0123】
即ち、組織細胞中の絶対濃度の定量にあたり、既知の濃度の抗原を結合させた基材を作成し、組織と同様の方法で切片を作成、抗体染色する必要がある。そのためには、抗原となるタンパク質やペプチドを結合できること、結合させたタンパク質やペプチドを再解離、遊離させてその結合量を正確に測定できること、抗原結合後の基材について均一化及び自在に成型できること、さらには一般的な組織切片作製法(パラフィン包埋切片を含む)への利用が可能であることが挙げられるが、本発明にかかる新規合成アガロースはこれらを全て可能とする。
【実施例0124】
1.本実施例にかかる新規化合物の合成
下記ルートにて合成を行った。
【0125】
【0126】
1-1.2-(2-Pyridinyldithio)ethanamine (3) の合成
500 mL-ナス型フラスコ中に2,2’-dipyridyl disulfide (2) (16.5 g, 75.1 mmol) のMeOH (90 mL) 溶液を加え、その溶液に滴下漏斗を用いて2-amino-1-ethanethiol (1) (2.41 g, 31.3 mmol) のMeOH (65 mL) 溶液を滴下し、室温で一晩攪拌した。その後、MeOHを減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc → EtOAc/MeOH/triethylamine = 20/5/0.1)により精製することで黄色液体を得た(収量 3.85 g, 収率 66%)。
【0127】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 8.46 (dd, J = 1.6 Hz, J = 0.8 Hz, 1H), 7.64 (m, 2H), 7.10 (m, 1H), 3.00 (m, 2H), 2.87 (m, 1H), 2.76 (t, J = 6.4 Hz, 1H) ppm.
【0128】
1-2.N-(2-oxiranylmethyl)-2-(2-Pyridinyldithio)ethanamine (5)の合成
50 mL-ナス型フラスコに(3) (1.66 g, 8.9 mmol) のIPA (18 mL) 溶液を加え、0℃に冷却した。Epichlorohydrin (4) (0.7 mL, 9 mmol) を加え、室温で一晩攪拌した。その後、溶媒及び過剰のepichlorohydrin (4)を減圧留去することで、本実施例にかかる新規化合物であるN-(2-oxiranylmethyl)-2-(2-Pyridinyldithio)ethanamine (5)を黄色液体として得た(収量 2.35 g, 収率 >99%)。
【0129】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 8.48 (m, 1H), 7.64 (m, 2H), 7.16 (m, 1H), 3.88 (m, 1H), 3.57 (dd, J= 5.2 Hz, J = 2.8 Hz, 2H), 2.99 (m, 5H), 2.85 (m, 3H), 2.74 (m, 3H) ppm.
【0130】
1-3.Aga-epo1の合成
30 mL-ナス型フラスコに、アガロース (0.15 g, 0.5 mmol) と蒸留水 (2 mL) を加え、アガロース膨潤させた。続いて、Cs2CO3(0.074 g, 0.22 mmol) の水溶液 (2 mL) 及び(5) (0.16 g, 0.66 mmol) のMeOH (2 mL) 溶液を調製し、これらをナス型フラスコに加え、 60℃で3時間攪拌した。反応終了後、アガロース粉末をグラスフィルターに移し、1,4-dioxane及び蒸留水で洗浄した。湿潤したアガロース粉末を4%ゲル化した後、蒸留水、0.1 M Tris-HCl buffer (pH 7.4)、MeOH及びacetoneで十分に洗浄することで未反応の(5)を除去し、その後、真空乾燥することで本実施例にかかる新規合成アガロースであるAga-epo1(化学式(III))を白色粉末固体として得た。
【0131】
【0132】
2.共包埋パラフィン切片の作製
2-1.検量線ブロックの作製
新規合成アガロースAga-epo1(化学式(III))を1.5mLチューブに50mgずつ計り取り、適宜希釈した濃度標準tauタンパク質を含んだ500μLのBinding buffer(tau(任意の濃度))、0.1M Tris HCl,0.5M NaCl,0.1% SDS)をそれぞれ加えた。その後、Rotatorを用いて12時間攪拌し、新規合成アガロースと濃度標準tauタンパク質を共有結合させた(
図2(a))。
【0133】
結合後、上清を取り除き、500μLのWash buffer(0.1M Tris HCl,0.5M NaCl,0.1% SDS)を加え、Rotatorを用いて1時間攪拌した。この洗浄を2回行い、共有結合以外の相互作用により付着した濃度標準tauタンパク質を除去した(
図2(b))。
【0134】
その後、濃度標準tauタンパク質を結合させた新規合成アガロースの一部を分取し、新規合成アガロースAga-epo1(化学式(III))とタンパク質との共有結合を切断するためWash bufferに0.05M 2-メルカプトエタノールを添加した500μLのElution bufferを加えて、1時間攪拌した。この溶出を2回行い、新規合成アガロースに共有結合させたtauタンパク質を解離させた(
図2(c))。そして濃度標準tauタンパク質を用いた検量線と、解離して得られたtauタンパク質についてSodium Dodecyl Sulfate-Poly Acrylamide Gel Electrophoresis(SDS-PAGE)を行った。その後、抗tau抗体(tau5)を用いてwestern blottingを行った。得られたバンド強度をもとに、新規合成アガロースへ結合したタンパク質の結合量及びゲルブロック中の標準タンパク質濃度を算定した(
図2)。
【0135】
上記の方法で正確な標準タンパク質ゲル内濃度が決定された新規アガロースを加熱(100℃,1min)し、ゾル状態時にブロック型に成型した。冷却後、ブロック型にした標準タンパク質含包新規合成アガロースを検量線ブロックと呼ぶ。
【0136】
以下、次のようにして、検量線ブロックとマウスの脳組織から以下の通り共包埋パラフィン切片を作製した。
【0137】
2-2.マウス脳組織の固定
野生型(+/+)、ヘテロtauノックアウトマウス(+/-)、及び、ホモtauノックアウトマウス(-/-)について、三種混合麻酔下において背位固定、開胸し、左心室よりPBSを10mL灌流、右心房より放血させた。全身の脱血を確認した後、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS 25mLを同じく左心室より灌流した。頭部を摘出し、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS中で2日間固定した。脳を摘出し、0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS中で冷蔵保存した。
【0138】
2-3.共包埋パラフィン切片の作成
検量線ブロック及び脳組織について、室温で70%エタノールに1.5時間×2回浸漬させた。更に、70%エタノールに24時間浸漬した。翌日、70%エタノールに置換された検量線ブロックと脳組織をそれぞれ80%、90%、100%エタノールに1.5時間室温で浸漬させ、再び100%エタノールで24時間浸漬させた。検量線ブロックと脳組織の中の水分が十分100%エタノールに置換された後、100%キシレンに10分浸漬させ、これを3回繰り返した。続いて、約65℃に熱したパラフィンの中に1.5時間×2回浸し、3回目に24時間浸漬した。検量線ブロックと脳組織をパラフィンに包埋し(
図4)、ミクロトームを用いて6μmの厚さに薄切りした。得られたパラフィン切片はスライドガラスに貼付し、一晩50℃で乾燥させた。これを共包埋パラフィン切片とした。
【0139】
3.検量線作成による組織中tauタンパク質の定量
共包埋パラフィン切片をRTM38を用いた免疫染色により、tauタンパク質の蛍光を行った。染色した切片は共焦点顕微鏡(LSM700,ZEISS)を用いて観察した。
【0140】
共包埋パラフィン切片を100%キシレン中に5分×3回浸漬後、100%エタノール中に5分×3回浸漬した。5分間の水洗後、PBS(50mM Tris HClpH7.6, 152mM NaCl)で洗浄した。PAPPEN(大同産業)で切片をマークし、10%Goat serum in PBSで1時間ブロッキングした。ブロッキング後、1%BSA in PBSで希釈した一次抗体(RTM38)を、2時間反応させた。その後PBS-T(PBS,0.1%Tween20)で5分×3回、PBSで5分×1回洗浄し、1% BSA in PBSで希釈した二次抗体(anti-Rat IgG-Alexa488)で2時間反応させた。反応後、PBS-Tで5分×3回、PBSで5分洗浄し、必要に応じて自家蛍光低減処理を行った後にProLong(登録商標) Diamond Antifade Mountant (Thermo Fisher Scientific)で封入した。染色後の切片は蛍光実体顕微鏡(SZX16, Olympus)あるいは共焦点顕微鏡(LSM700,ZEISS)を用いて観察した。
【0141】
検量線ブロックの蛍光強度を測定した。結合したtauタンパク質量の情報から下記の結果となった。
tau濃度0(mg/cm3)で輝度0
tau濃度0.101(mg/cm3)で輝度18.33
tau濃度0.228(mg/cm3)で輝度38.32
tau濃度0.38(mg/cm3)で輝度62.25
【0142】
これらのデータから横軸をtau濃度(mg/cm
3)とし縦軸を輝度とする検量線を作製した(
図6)。
【0143】
同様に脳の神経細胞の軸索束であるMossy fiberの蛍光強度を測定し、検量線を基に野生型(+/+)、ヘテロtauノックアウトマウス(+/-)、及び、ホモtauノックアウトマウス(-/-)の3種の特定領域(Mossy fiber)における1ピクセル単位の濃度の絶対定量を行った。
【0144】
結果として、野生型(+/+)は0.083 mg/cm
2、ヘテロtauノックアウトマウス(+/-)は0.035 mg/cm
2、ホモtauノックアウトマウス(-/-)は0 mg/cm
2と算出された(
図6)。
【0145】
以上より、本発明による方法で、組織中タンパク質の絶対濃度の定量が可能であることが確認された。