(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024316
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】二層構造紡績糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/36 20060101AFI20240215BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20240215BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20240215BHJP
D03D 15/41 20210101ALI20240215BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20240215BHJP
D03D 15/44 20210101ALI20240215BHJP
D03D 15/208 20210101ALI20240215BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240215BHJP
【FI】
D02G3/36
D04B1/14
D04B21/00 B
D03D15/41
D03D15/47
D03D15/44
D03D15/208
D03D15/283
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127076
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599089332
【氏名又は名称】ユニチカテキスタイル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】折原 桂介
(72)【発明者】
【氏名】瀧 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 皓介
(72)【発明者】
【氏名】武田 大輔
【テーマコード(参考)】
4L002
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AA07
4L002AB01
4L002AB04
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA00
4L002EA03
4L002FA01
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA09
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4L036PA03
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4L036UA01
4L048AA07
4L048AA08
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4L048AA34
4L048AA42
4L048AA43
4L048AA54
4L048AB01
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB17
4L048AB18
4L048AB19
4L048AC00
4L048AC15
4L048BA01
4L048CA00
4L048CA07
4L048CA15
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】洗濯を繰り返した後にも膨らみ感を維持することができ、それにより、布帛のカサカサ感やゴワゴワ感を抑えることができる紡績糸を提供する。
【解決手段】糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有し、芯部にポリ乳酸短繊維を、鞘部にセルロース短繊維を配してなる二層構造紡績糸であって、二層構造紡績糸中にポリ乳酸短繊維を10~70質量%、セルロース短繊維を90~30質量%含有し、かつポリ乳酸短繊維を構成するポリ乳酸樹脂の結晶化度が4~47%、数平均分子量が45000~115000であり、撚係数が2.5~5.0である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有し、芯部にポリ乳酸短繊維を、鞘部にセルロース短繊維を配してなる二層構造紡績糸であって、二層構造紡績糸中にポリ乳酸短繊維を10~70質量%、セルロース短繊維を90~30質量%含有し、かつポリ乳酸短繊維を構成するポリ乳酸樹脂の結晶化度が4~47%、数平均分子量が45000~115000であり、撚係数が2.5~5.0であることを特徴とする二層構造紡績糸。
【請求項2】
請求項1に記載の二層構造紡績糸を含有する織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸短繊維とセルロース短繊維とを用いた二層構造紡績糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、洗濯後における布帛(織編物、不織布)のカサカサ感やゴワゴワ感などの改善が求められている。布帛を繰り返し洗濯すると、洗濯水流により布帛を構成する糸が捩れ、毛羽が発生する。この状態でさらに水流が加わると、毛羽を巻き込みながら糸が捩れるため、糸の膨らみ感が失われる。これにより、カサカサ感やゴワゴワ感が増すとされている。
このような課題を解決する方法として、例えばタオル地のようなループパイルを備える生地では、隣接するパイルに高低差を設けることで、パイル同士が触れ合うことにより生じる毛羽の発生や糸の捩れを抑える方法が開示されている(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、上記のような糸同士の接触を減らす方法はパイルで構成されるタオル地などでは一定の効果が期待できるが、タオル地以外の一般的な衣料用途に用いられる織物や編物においては、依然として繰り返し洗濯後の毛羽の発生や糸の捩れによるカサカサ感やゴワゴワ感の発生に課題が残る。
【0004】
上記の課題を解決するためには、布帛の組織構成を特定のものとするのではなく、糸自体を洗濯を繰り返した後にも膨らみ感を維持することが可能なものとすることが考えられる。しかしながら、毛羽の発生や糸の捩れを抑えるために洗濯水流に耐えうる程度に糸の撚りを過度に強くしたり、繊維間を融着固定して繊維同士を強固に結束させた場合には、得られる糸は非常に剛直なものとなり、得られる織物や編物は衣料用途に適した風合いに劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-79912号公報
【特許文献2】実用新案登録第3170003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では上記課題を解決し、洗濯を繰り返した後にも膨らみ感を維持することができ、それにより、洗濯後におけるカサカサ感やゴワゴワ感を抑えることができ、衣料用途に適した風合いを有する織編物を得ることができる紡績糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、水流による毛羽の発生と巻き込みや糸の捩れは少なからず生じることを前提としながらも、洗濯の度に糸自体から僅かながらポリ乳酸樹脂が溶出すれば、溶出した部分に空隙ができ、その結果、糸の膨らみ感が維持できると考えた。具体的にはポリ乳酸繊維とセルロース繊維を用いた二層構造紡績糸とし、洗濯を行う毎に紡績糸の芯部からポリ乳酸樹脂が一部溶出することにより、糸の膨らみ感を維持することができ、織編物の膨らみ感をも維持することが可能となることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、第一に、糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有し、芯部にポリ乳酸短繊維を、鞘部にセルロース短繊維を配してなる二層構造紡績糸であって、二層構造紡績糸中にポリ乳酸短繊維を10~70質量%、セルロース短繊維を90~30質量%含有し、かつポリ乳酸短繊維を構成するポリ乳酸樹脂の結晶化度が4~47%、数平均分子量が45000~115000であり、撚係数が2.5~5.0である二層構造紡績糸を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の結晶化度および分子量を有するポリ乳酸樹脂からなるポリ乳酸短繊維を芯部に用い、セルロース繊維を鞘部に用いた二層構造紡績糸で、ポリ乳酸短繊維とセルロース繊維が特定の割合で含有し、また特定の撚係数を有するものとすることにより、洗濯時に芯部を構成するポリ乳酸短繊維からわずかにポリ乳酸樹脂を溶出させることが可能となる。その結果、洗濯を繰り返した場合にも膨らみ感を維持できる紡績糸となるため、得られる織編物は洗濯によるカサカサ感やゴワゴワ感の発生が少ないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の二層構造紡績糸(以下、「紡績糸」と称することがある。)は、タオル地を含め一般的な衣料用織編物に好適なものである。本発明の二層構造紡績糸は、糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有する。
【0012】
本発明において、二層構造紡績糸の鞘部は得られる織編物の風合いを向上させる観点からセルロース短繊維で構成される。セルロース短繊維としては、綿、麻、キュプラ、リヨセル、レーヨンなどの短繊維があげられる。本発明では糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有するものとし、鞘部にセルロース短繊維を配置することで、本発明紡績糸を用いて織物や編物とし、染色を施した場合にも発色性がよく、外観に優れたものとすることができる。
【0013】
セルロース短繊維は、繊維長が20~80mmであることが好ましく、単繊維繊度としては、0.5~6.0dtexの範囲が好ましく、0.8~5.0dtexがより好ましい。
【0014】
一方、芯部はポリ乳酸短繊維で構成される。本発明では、洗濯時に芯部を構成するポリ乳酸短繊維からわずかにポリ乳酸樹脂を溶出させることで紡績糸内部に適度な空隙が形成され、その結果、洗濯を繰り返した場合にも膨らみ感が維持される。そして後述するように、本発明におけるポリ乳酸短繊維は、特定のポリ乳酸樹脂から構成されるものであるため、洗濯の度にポリ乳酸樹脂を適度かつほんの僅かだけ溶出させることができる。
本発明においては、特定の結晶化度および分子量を有するポリ乳酸樹脂からなるポリ乳酸短繊維を芯部に用いた二層構造紡績糸とすることで、洗濯水流による毛羽の発生や巻き込み、糸の捩れが生じたとしても、糸の膨らみ感が維持できるものとなる。
【0015】
本発明ではポリ乳酸短繊維を芯部に配置させることが必要である。空隙を形成する糸として、空隙を糸外層に多く形成するものと糸内層に多く形成するものとを比較すると、糸外層に多く形成するものは外力を受けることにより空隙がつぶれ易い傾向がある。一方、空隙を糸内層に多く形成する糸は、外力を受けた場合にも糸外層が壁となることで空隙がつぶれることを抑制できる。そのため、本発明では繊維を構成する樹脂の一部が溶出し、空隙を形成するポリ乳酸短繊維を二層構造紡績糸の芯部に配置させる。
【0016】
また、本発明では、洗濯の度にポリ乳酸短繊維を適度かつほんの僅かだけ溶出させる観点から、ポリ乳酸短繊維の単糸繊度を所定範囲にすることが好ましい。一般に同じ繊度(総繊度)の糸を得る際に、単糸繊度が太くなると構成する繊維の数は減少するため、繊維の総表面積が小さくなる一方、単糸繊度が細くなると構成する繊維の数は増加するため、繊維の総表面積が大きくなる。そのため本発明においても、洗濯時のポリ乳酸樹脂の溶出量は芯部を構成するポリ乳酸短繊維の総表面積により変動するものと推測され、所望の溶出量とするために、ポリ乳酸短繊維の単糸繊度を後述する範囲とすることが好ましい。
【0017】
芯部に使用されるポリ乳酸短繊維の単糸繊度は、具体的には0.9~2.5dtexとすることが好ましく、1.1~2.3dtexがより好ましく、1.3~2.1dtexがさらに好ましい。単糸繊度が0.9dtex未満であると、ポリ乳酸樹脂の溶出量が過度に増えて、紡績糸内部に形成される空隙が大きくなりすぎてしまい、洗濯を繰り返すことで空隙が潰れやすくなり、得られる織編物の膨らみ感が逆に劣るものとなる恐れがある。一方、2.5dtexを超えると、ポリ乳酸樹脂の溶出量が過度に減るため、洗濯をした際に紡績糸中に空隙が形成されず、得られる織編物は膨らみ感に劣るものとなることがある。
【0018】
本発明では、芯部に用いるポリ乳酸繊維としてポリ乳酸短繊維を用いる。一般に、布帛が洗濯水流を受けると糸が捩れるため、糸を構成する繊維は収束する傾向にある。そのため、洗濯を繰り返して繊維が収束すればするほど糸中の空隙は減ることになる。この点、短繊維形状であれば繊維の長さが短く、繊維が収束したとしても各繊維端付近に空隙が形成されるため、洗濯を繰り返した場合にも空隙を維持することが可能となる。これに対し、長繊維形状の場合は、長手方向に連続した形状をなしているから、短繊維のような繊維端付近の空隙の形成がほとんどなく、また、繊維形状が連続していることにより水流の影響を受け易く、短繊維の場合と比べ繊維が強く収束する傾向にあるため、本発明においては好ましくないものである。
【0019】
芯部に使用されるポリ乳酸短繊維の繊維長としては、23~53mmが好ましく、30~46mmがより好ましい。繊維長が上記範囲であれば、繊維端付近に空隙が形成され易くなり、また、洗濯を繰り返した際にも、ポリ乳酸樹脂の溶出により紡績糸内部に適度な空隙が生じ、得られる織編物は、繰り返し洗濯後も膨らみ感に優れるものとできる。
【0020】
本発明において、二層構造紡績糸中のポリ乳酸短繊維とセルロース短繊維の混率は、ポリ乳酸短繊維が10~70質量%、セルロース短繊維が90~30質量%とする必要があり、ポリ乳酸短繊維が20~60質量%、セルロース短繊維が80~40質量%であることがより好ましく、ポリ乳酸短繊維が20~40質量%、セルロース短繊維が80~60質量%であることがさらに好ましい。上記範囲であれば、二層構造紡績糸の糸内部でのポリ乳酸短繊維からのポリ乳酸樹脂の溶出による空隙の量が過剰や過少とならず、適度に形成させることできるため、得られる織編物は膨らみ感を維持することができる。また、芯部の短繊維を鞘部の短繊維で良好にカバリングすることができる。
【0021】
二層構造紡績糸の撚係数は2.5~5.0とする必要があり、3.0~4.6が好ましく、3.4~4.2がより好ましい。撚係数が5.0を超えると、繊維同士が強く収束する傾向があるため、洗濯を行ってポリ乳酸樹脂を溶出させても、糸の膨らみ感を十分維持できる程度の空隙が形成されない恐れがある。一方、2.5未満になると、繊維の収束を抑える点では有効であるものの、繊維が素抜けし易くなり、紡績糸としての形状が保ちにくいものとなる。なお、撚係数Kは、以下の式により算出する。
K=T/√N
T:撚数(回/2.54cm)、
N:英式綿番手
【0022】
本発明の二層構造紡績糸は、タオル地やユニフォーム衣料、シャツ地衣料、ビジネス向け衣料、フォーマル衣料、スポーツ衣料、レジャー向け衣料、ファッション衣料、インナー衣料などの衣料用途に好適なものであるため、英式綿番手が10~200番手であることが好ましく、中でも20~60番手であることが好ましい。
【0023】
次に、ポリ乳酸短繊維を構成するポリ乳酸樹脂について説明する。
本発明の二層構造紡績糸は、洗濯時に芯部を構成するポリ乳酸繊維からわずかにポリ乳酸樹脂が溶出するものである。
ここで本発明は、本発明の二層構造紡績糸を用いたタオル地や衣料などの織編物を家庭洗濯した際にポリ乳酸短繊維中からポリ乳酸樹脂が溶出することを想定するものである。一般的な家庭洗濯での洗濯水溶液は、粉末洗剤を使用した場合pH8.5~10.0前後、液体洗剤を使用した場合pH7.6~8.4前後となり、本発明ではこれら中性~弱アルカリ性領域での洗濯に対して効果を奏するものである。
【0024】
本発明では、中性~弱アルカリ性領域での洗濯時にポリ乳酸短繊維中からポリ乳酸樹脂が適量溶出することを可能とするために、ポリ乳酸樹脂が後述する特定の結晶化度および数平均分子量を有することが重要である。
【0025】
本発明におけるポリ乳酸樹脂は結晶化度が4~47%であり、6~42%が好ましく、8~38%がより好ましい。洗濯時の中性~弱アルカリ性領域の水浴中でのポリ乳酸繊維の溶出は繊維内部の非晶領域の化学的変化により生じるものと推定される。そのため、結晶化度が4%未満であると繊維内部の非晶領域が多すぎるため、ポリ乳酸樹脂が過度に溶出する恐れがある。一方、47%を超えると繊維内部の結晶領域が多すぎるものとなりポリ乳酸樹脂の溶出が困難となる傾向にある。
【0026】
ポリ乳酸樹脂の結晶化度を上記範囲とするための方法としては、例えば、ポリ乳酸樹脂に結晶核剤を含有させる方法や、繊維を溶融紡糸する際に高速で引き取る方法などが挙げられる。該結晶核剤としては、例えば、タルク、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタンなどが挙げられる。結晶核剤の含有量としては特に限定されないが、例えば0.1~3.0質量%の範囲が好ましい。
【0027】
本発明におけるポリ乳酸樹脂は数平均分子量45000~115000であり、55000~105000が好ましく、65000~95000がより好ましい。
数平均分子量が95000を超えると分子間の相互作用が大きくなり洗濯時のポリ乳酸短繊維の溶解性が下がるため好ましくない。一方、45000よりも小さいとポリ乳酸樹脂の溶出量が過剰となったり、ポリ乳酸短繊維が強度や耐熱性に劣るものとなるため好ましくない。数平均分子量を上記範囲とするには、重合開始剤の量や重合反応時間などを調整すればよい。
【0028】
ポリ乳酸樹脂の重合方法としては、一例として、まず、原料たるとうもろこしなどの澱粉を発酵し、乳酸を得る。そして、乳酸を直接脱水縮合するか環状二量体とした後、触媒の存在下で開環重合する方法などがあげられる。乳酸には光学異性体が存在し、L乳酸とD乳酸があるが、本発明では何れも使用可能である。
【0029】
このように、本発明の二層構造紡績糸は、上記ポリ乳酸短繊維を芯部に配し、セルロース短繊維を鞘部に配した構成を有するが、本発明の効果を損なわない範囲で、二層構造紡績糸にポリ乳酸短繊維とセルロース短繊維以外の任意の繊維を含有させてもよい。
【0030】
次に、本発明の織編物は、本発明の二層構造紡績糸を少なくとも一部に含有する織物または編物である。本発明の織編物中に含まれる本発明の二層構造紡績糸の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、中でも80質量%以上であることが好ましい。
本発明の織編物は、特に組織など限定されない。織物としては、織、綾織(ツイル)、朱子織、ドビー織、二重織などが挙げられる。本発明の編物においても、編物の組織も特に限定されず、天竺、スムース、フライス、ピケ等の丸編、シングルトリコット、ハーフトリコット等の経編等が挙げられる。
【0031】
本発明の二層構造紡績糸の製造方法としては、従来公知の製造方法を採用すればよい。具体的には、セルロース短繊維からなる粗糸と、上記特定のポリ乳酸短繊維からなる粗糸とを用意し、前者を鞘部に後者を芯部に各々配しながら精紡するか、又はセルロース短繊維からなるスライバーと、上記特定のポリ乳酸短繊維からなるスライバーとを用意し、前者を鞘部に後者を芯部に各々配しながら粗紡することで複合粗糸を得、しかる後に複合粗糸を精紡すればよい。本発明では、カバリング性向上の観点から後者の方法が好適である。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
実施例中の各種の特性値及び評価は以下の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂の結晶化度
芯部のポリ乳酸短繊維を粉末化して、Al試料枠(20×18×1.5mm)に充填したうえで水平方向に保持したサンプルについて、Cu-Kα線で集中法により測定した。受光側には、湾曲グラファイトモノクロメータを用いた。そのうえで、2θ=5~140°の範囲で走査を行い、Ruland法により質量百分率として結晶化度を求めた。
(2)ポリ乳酸樹脂の数平均分子量
芯部のポリ乳酸短繊維を用いて、クロロホルムを溶媒とし、分子量標準品としてポリスチレンを使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、屈折率計を使用して測定した。
(3)ポリ乳酸短繊維の繊維長
芯部用のスライバーに使用するポリ乳酸短繊維を用いて、JIS L1015 8.4.1 直接法(C法)に従って測定した。
(4)ポリ乳酸短繊維の単糸繊度
芯部用のスライバーに使用するポリ乳酸短繊維を用いて、JIS L1015 8.5.1 正量繊度 に規定されている、A法に従って測定した。
(5)二層構造紡績糸の英式番手
得られた二層構造紡績糸を用いて、JISのL-1095 9.4.1に従って測定した。
(6)二層構造紡績糸の撚係数K
得られた二層構造紡績糸を用いて、JISのL-1095 9.15.1のB法に従って測定した。
(7)二層構造紡績糸中の繊維の混率
得られた二層構造紡績糸を用いて、JIS-L1030-2の混用率試験法(溶解法)に従って測定した。
(8)膨らみ感
得られた綾織物を「JIS L1930 繊維製品の家庭洗濯試験方法」(C4M試験)に基づき洗濯した。洗剤は「花王アタック高活性バイオパワー」(粉末洗剤)を使用した。洗濯液のpHは、市販のpHメーターを用いて測定したところ9.0であった。
洗濯試験の回数は、10洗、50洗、100洗とし、洗濯が全て終わった後、JIS L1930A法(吊干し乾燥)に従って綾織物を乾燥した。
その後、10人のパネラーにより綾織物の膨らみ感およびゴワゴワ感を下記4段階で官能評価した。
◎:試験に供する前と比較し、膨らみ感にほとんど変化が見られず、ゴワゴワ感もなかった。
〇:試験に供する前と比較し、膨らみ感が僅かに低減したが、ゴワゴワ感はほとんどなかった。
△:試験に供する前と比較し、膨らみ感が少し低減し、ゴワゴワ感が少しあった。
×:試験に供する前と比較し、膨らみ感が大きく低減し、ゴワゴワ感があった。
【0033】
(実施例1)
芯部用のスライバーと鞘部用のスライバーとして、下記を準備した。
芯部用スライバーS1;ポリ乳酸短繊維(日本エステル社製「テラマック」)からなり、ポリ乳酸短繊維の単糸繊度1.7dtex、繊維長38mm、ポリ乳酸樹脂の結晶化度13%、数平均分子量80000
鞘部用スライバーS2;綿短繊維からなり、単糸繊度1.1dtex、有効繊維長35mm
【0034】
図1(概略断面図)及び
図2(概略断面図)に示す構造の粗紡機を用いて、芯部用のスライバーS1と鞘部用のスライバーS2を供給し、延伸後の各スライバーの質量比をS1:S2=30:70となるようにし、
図2におけるドラフト方向に対する芯部用のスライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60°として、粗糸質量200gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)、撚数を1.06回/2.54cmとした粗糸を得た。
この粗糸を精紡機のトランペット(ガイド)に通し、バックローラ、エプロン、フロントローラの順を経て、43.2倍の延伸を行った後、撚係数3.8(撚数26.9回/2.54cm)となる様、Z方向に撚りをかけ、50番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
得られた二層構造紡績糸のみを経糸および緯糸に用いて、経糸密度145本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの綾織物の生機を製織した。得られた生機 に対して、染色・仕上処理(精練・漂白、染色(分散染料と反応染料)、乾燥、ファイナルセット)を行い、加工上り生地を得た。
【0035】
(実施例2)
鞘部用のスライバーとして、下記を使用した以外は、実施例1と同様にして50番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
鞘部用スライバーS2;リヨセル短繊維(レンチング社製「テンセル」)からなり、リヨセル短繊維の単糸繊度0.9dtex、繊維長34mm
得られた二層構造紡績糸を用いて実施例1と同様にして綾織物の生機を製織した。得られた生機に対して、染色・仕上処理(精練、染色(分散染料と反応染料)、乾燥、ファイナルセット)を行い、加工上り生地を得た。
【0036】
(比較例1)
実施例1の芯部用スライバーS1を鞘部に供給し、実施例1の鞘部用スライバーS2を芯部に供給し、延伸後の各スライバーの質量比をS1(鞘部):S2(芯部)=30:70となるようにした以外は実施例1と同様にして50番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
得られた二層構造紡績糸を用いて実施例1と同様にして綾織物の生機を得て、さらに実施例1と同様に染色・仕上処理を行い、加工上り生地を得た。
【0037】
(比較例2)
芯部用のスライバーとして、下記を使用した以外は実施例1と同様にして50番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
芯部用スライバーS1;ポリエステル短繊維からなり、ポリエステル短繊維の単糸繊度1.3dtex、繊維長38mm
得られた二層構造紡績糸を用いて実施例1と同様にして綾織物の生機を得て、さらに実施例1と同様に染色・仕上処理を行い、加工上り生地を得た。
【0038】
(実施例3~8、比較例3~6)
ポリ乳酸樹脂の結晶化度、数平均分子量が表1に記載の値である以外は実施例1と同じである芯部用スライバーS1を供給糸として使用し、その他の条件は実施例1と同様にして50番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
得られた二層構造紡績糸を用いて実施例1と同様にして綾織物の生機を得て、さらに実施例1と同様に染色・仕上処理を行い、加工上り生地を得た。
【0039】
(実施例9~12)
ポリ乳酸短繊維の単糸繊度が表1に記載の値である以外は実施例1と同じである芯部用スライバーS1を供給糸として使用し、その他の条件は実施例1と同様にして50番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
得られた二層構造紡績糸を用いて実施例1と同様にして綾織物の生機を得て、さらに実施例1と同様に染色・仕上処理を行い、加工上り生地を得た。
【0040】
(実施例13~16、比較例7~8)
撚係数が表1に記載の値となる様、Z方向に撚りをかけた以外は実施例1と同様にして、50番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
得られた二層構造紡績糸を用いて実施例1と同様にして綾織物の生機を得て、さらに実施例1と同様に染色・仕上処理を行い、加工上り生地を得た。
【0041】
(実施例17~18、比較例9~10)
延伸後の各スライバーの質量比、および得られる二層構造紡績糸の英式綿番手を表1に記載の値となるようにした以外は実施例1と同様にして二層構造紡績糸を得た。
得られた二層構造紡績糸を用いて、経糸および緯糸密度を各々120本/2.54cm、75本/2.54cmに変更する以外は実施例1と同様にして綾織物の生機を得て、さらに実施例1と同様に染色・仕上処理を行い、加工上り生地を得た。
比較例10では、ポリ乳酸短繊維の量が多すぎたため、ポリ乳酸樹脂の溶出による空隙が大きくなり、繰り返し洗濯後に膨らみ感に逆に劣るものとなったことに加え、鞘部のセルロース短繊維が少なすぎたため、芯部の短繊維のカバリング性に劣り、染色後の発色性や外観が実用に不十分なものであった。
【0042】
実施例1~18、比較例1~10で得られた二層構造紡績糸と二層構造紡績糸に含有するポリ乳酸短繊維、および加工上り生地の評価結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
表1から明らかなように、実施例1~18で得られた二層構造紡績糸は、本発明で規定する特性値を満足するものであったため、得られた織物は洗濯を繰り返した後にも膨らみ感に優れ、ゴワゴワ感が少ないものであった。