(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024327
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】細胞の投与液
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240215BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240215BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240215BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240215BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240215BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240215BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240215BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20240215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240215BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240215BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240215BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240215BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20240215BHJP
【FI】
A61K35/28
A61L27/38 300
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/26
A61K47/18
A61K35/51
A61P43/00 111
A61K9/10
A61K9/19
A61K9/20
A61P43/00 105
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127097
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】511082263
【氏名又は名称】株式会社グランソール免疫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海谷 啓之
(72)【発明者】
【氏名】松尾 良信
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼村 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】辻村 敦史
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BD22
4B065BD33
4B065BD36
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4C076AA12
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4C076AA36
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4C081AB11
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4C081EA02
4C087AA01
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4C087MA60
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4C087MA66
4C087NA05
4C087NA12
4C087ZB21
4C087ZC02
(57)【要約】
【課題】調整してから投与まで時間が経過したとしても細胞の生存率の著しい低下を防止することができる細胞投与液を提供する。
【解決手段】第1輸液と第2輸液とを有し、第2輸液/第1輸液は0.1~5.0重量%比である。第1輸液は塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコン酸カルシウム水和物、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物及びブドウ糖を有する。第2輸液はL‐ロイシン、L‐イソロイシン、L‐バリン、L‐リシン、L‐トレオニン、L‐トリプトファン、L‐メチオニン、L‐システイン、L‐フェニルアラニン、L‐チロシン、L‐アルギニン、L‐ヒスチジン、L‐アラニン、L‐プロリン、L‐セリン、グリシン、L‐アスパラギン酸及びL‐グルタミン酸を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1輸液と第2輸液とを有し、細胞に作用させて投与する投与液であって、
前記第1輸液と前記第2輸液との重量%比は、(第2輸液/第1輸液)が0.1~5.0重量%であり、
前記第1輸液は下記成分を含有し、
・塩化ナトリウム
・塩化カリウム
・グルコン酸カルシウム水和物
・塩化マグネシウム
・無水酢酸ナトリウム
・クエン酸ナトリウム水和物
・ブドウ糖
前記第2輸液は下記成分を含有し、
・L‐ロイシン
・L‐イソロイシン
・L‐バリン
・L‐リシン
・L‐トレオニン
・L‐トリプトファン
・L‐メチオニン
・L‐システイン
・L‐フェニルアラニン
・L‐チロシン
・L‐アルギニン
・L‐ヒスチジン
・L‐アラニン
・L‐プロリン
・L‐セリン
・グリシン
・L‐アスパラギン酸
・L‐グルタミン酸
細胞の生存率、接着(生着)率を保つことができることを特徴とする細胞の投与液。
【請求項2】
前記細胞に作用は、前記細胞を前記投与液に懸濁・浮遊させることであることを特徴とする請求項1に記載の投与液。
【請求項3】
前記細胞に作用は、前記投与液で前記細胞を洗浄することであることを特徴とする請求項1に記載の投与液。
【請求項4】
前記細胞は間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の投与液。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞が、脂肪由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、末梢血由来間葉系幹細胞又は臍帯血由来間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項4に記載の投与液。
【請求項6】
前記細胞の生存率は60%以上であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の投与液。
【請求項7】
前記細胞は凍結保存後に解凍させた細胞であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の投与液。
【請求項8】
前記第1輸液にはグルコースが含有されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の投与液。
【請求項9】
前記第1輸液におけるグルコースの濃度は1~5重量%であることを特徴とする請求項8に記載の投与液。
【請求項10】
前記第1輸液は250mL中に下記成分を含有し、
・塩化ナトリウム1.593g
・塩化カリウム0.075g
・グルコン酸カルシウム水和物0.168g
・塩化マグネシウム0.051g
・無水酢酸ナトリウム0.513g
・クエン酸ナトリウム水和物0.147g
・ブドウ糖2.500g
前記第2輸液は200mL中に下記成分を包含することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の投与液。
・L‐ロイシン2.80g
・L‐イソロイシン1.60g
・L‐バリン1.60g
・L‐リシン2.10g
・L‐トレオニン1.14g
・L‐トリプトファン0.40g
・L‐メチオニン0.78g
・L‐システイン0.20g
・L‐フェニルアラニン1.40g
・L‐チロシン0.10g
・L‐アルギニン2.10g
・L‐ヒスチジン1.00g
・L‐アラニン1.60g
・L‐プロリン1.00g
・L‐セリン0.60g
・グリシン1.18g
・L‐アスパラギン酸0.20g
・L‐グルタミン酸0.20g
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の生存率を高く維持できる細胞の投与液に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)の移植は、例えば血液疾患(各種白血病や再生不良性貧血など)の治療として広く普及しつつある。現在のところ幹細胞のソースとしては、例えば骨髄、末梢血、臍帯血の3つがある。通常、様々な条件や制約等を総合的に考慮し、最適な移植術が決定される。臍帯血移植は他の二つの移植に比して実績は少ないものの、骨髄移植と比べ提供者の負担が少ない、凍結保存されているためにすぐ移植できる、移植片対宿主病(GVHD)が少ない等の利点があるため、施行件数が増加している(非特許文献1,2)。
【0003】
脂肪組織由来間葉系幹細胞(AD-MSC)は骨細胞、軟骨細胞、心筋細胞等、様々な細胞への分化能を有し、組織の再建や様々な疾患の治療への適用が検討されている。
【0004】
MSCは間葉に由来する体性幹細胞の1つで、骨髄、脂肪組織、胎盤、臍帯ならびに歯髄等広範な組織に存在する。フラスコで培養すると、底面に付着して紡錘形を呈し、培養条件によって骨芽細胞、脂肪細胞あるいは軟骨細胞等さまざまな系統へ分化し得る(非特許文献3)。
【0005】
骨髄内でMSCは間質を構成し、造血幹細胞の維持、自己複製、増殖ならびに分化等を支持する微小環境を形成している。また、種々のサイトカインや液性因子を産生し、T細胞、B細胞、NK(natural killer)細胞、単球ならびに樹状細胞等の免疫担当細胞に対して抑制的に、制御性T細胞に対して促進的に作用する。さらに、炎症部位や組織傷害部位に集積しやすい性質もある。
【0006】
MSCはHLA(human leukocyte antigen)分子を発現しているものの、その発現レベルは低く、共刺激分子であるCD80、CD86、CD40等を発現していないため、非自己T細胞を刺激しない。この性質により、HLAの異なるMSCを患者に投与してもT細胞による攻撃から免れることができると考えられている。さらに樹立及び培養が容易であり、増殖能が高く、凍結保存することが可能である。そのためHLAの一致・不一致を問わず、他家由来のMSCを患者に投与する治療が可能となる(非特許文献4)。
【0007】
日本国内では、造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)を適応とする再生医療等製品として、2015年に他家骨髄由来MSC(テムセル(登録商標),JCRファーマ株式会社)が製造販売承認されている。また2018年には外傷性脊髄損傷に対する再生医療等製品として、自家骨髄由来MSC(ステミラック(登録商標),ニプロ株式会社)が製造販売承認されている(非特許文献5,6)。
【0008】
間葉系幹細胞は、液体窒素の入った専用カートにより、凍結された状態で移植施設に運搬されてくる。恒温槽を用いて使用前に解凍し、解凍した間葉系幹細胞を投与液に浮遊して投与する。細胞投与液は生理食塩水あるいは生理食塩水にアルブミン等の細胞保護蛋白等を添加した溶液である。その細胞投与液に浮遊させた細胞は24時間以内に患者に投与される例がほとんどである(非特許文献7,8)。
【0009】
しかしながら、浮遊させた細胞を調整してから投与まで48時間ほどの時間が経過する場合がある。細胞投与液は細胞保存液とは異なり、細胞の保存には適していない。そのため投与液に浮遊した細胞は時間経過とともに生存率の低下が認められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Zannettino AC, Paton S, Arthur A, et al: Multipotential human adipose-derived stromal stem cells exhibit a perivascular phenotype in vitro and in vivo. J CellPhysiol, 214: 413-421, 2008
【非特許文献2】Anderson P, Souza-Moreira L, Morell M, et al: Adipose derived mesenchymal stromal cells induce immune modulatory macrophages which protect from experimental colitis and sepsis. Gut, Epub ahead of print, 2012
【非特許文献3】Traktuev DO, Merfeld-Clauss S, Li J, et al: A population of multipotent CD 34-positive adipose stromal cells share pericyte and mesenchymal surface markers, reside in a periendothelial location, and stabilize endothelial networks. Circ Res, 102: 77-85, 2008
【非特許文献4】Kondo K, Shintani S, Shibata R, et al: Implantation of adipose-derived regenerative cells enhances ischemia induced angiogenesis. Arterioscler Thromb Vasc Biol,29: 61-66, 2009
【非特許文献5】Bhang SH, Cho SW, Lim JM, et al: Locally delivered growth factor enhances the angiogenic efficacy of adipose-derived stromal cells transplanted to ischemic limbs. Stem Cells, 27: 1976-1986, 2009
【非特許文献6】Cai L, Johnstone BH, Cook TG, et al: IFATS collection:Human adipose tissue-derived stem cells induce angiogenesis and nerve sprouting following myocardial infarction, in conjunction with potent preservation of cardiac function. Stem Cells, 27: 230-237, 2009
【非特許文献7】Kim JH, Park DJ, Yun JC, et al: Human adipose tissue derived mesenchymal stem cells protect kidneys from cisplatin nephrotoxicity in rats. Am J Physiol Renal Physiol, 302: F1141-1150, 2012
【非特許文献8】Nishiwaki S, Nakayama T, Saito S, et al: Efficacy and safety of human adipose tissue-derived mesenchymal stem cells for supporting hematopoiesis. Int J Hematol, 96: 295-300, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、浮遊させた細胞を調整してから投与まで時間が経過したとしても細胞生存率の著しい低下を防止することができる細胞投与液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1輸液と第2輸液とを有し、細胞に作用させて投与する投与液であって、前記第1輸液と前記第2輸液との重量%比は、(第2輸液/第1輸液)が0.1~5.0重量%であり、
前記第1輸液は下記成分を含有し、
・塩化ナトリウム
・塩化カリウム
・グルコン酸カルシウム水和物
・塩化マグネシウム
・無水酢酸ナトリウム
・クエン酸ナトリウム水和物
・ブドウ糖
前記第2輸液は下記成分を含有し、
・L‐ロイシン
・L‐イソロイシン
・L‐バリン
・L‐リシン
・L‐トレオニン
・L‐トリプトファン
・L‐メチオニン
・L‐システイン
・L‐フェニルアラニン
・L‐チロシン
・L‐アルギニン
・L‐ヒスチジン
・L‐アラニン
・L‐プロリン
・L‐セリン
・グリシン
・L‐アスパラギン酸
・L‐グルタミン酸
細胞の生存率を保つことができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、浮遊させた細胞を調整してから投与まで時間が経過したとしても細胞生存率の著しい低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hAD-MSC)を培養後、培地をフィジオ輸液に1重量%又は5重量%のグルコースを含有させ、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が10重量%比の混合液に交換して、18時間経過させた状態の写真図。
【
図2】hAD-MSCを培養後、培地をフィジオ輸液(既存で1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5、1.5、5、25、及び、50重量%比の混合液に交換して、24時間経過させた状態の写真図。
【
図3】hAD-MSCを培養後、培地をフィジオ輸液に5重量%のグルコースを含有させ、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5、1.5、5、25、及び、50重量%比の混合液に交換して、24時間経過させた状態の写真図。
【
図4】hAD-MSCを培養後、培地をフィジオ輸液(既存で1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0、0.1、0.5、1.5、及び、5重量%比の混合液に交換して、24時間経過させた状態の写真図。
【
図5】hAD-MSCを培養後、培地をフィジオ輸液に5重量%のグルコースを含有させ、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0、0.1、0.5、1.5、及び、5重量%比の混合液に交換して、24時間経過させた状態の写真図。
【
図6】凍結hAD-MSCを融解させた後、RPMI1640で2回洗浄後、フィジオ輸液(1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5重量%比の混合液で細胞を1回洗浄し、本混合液に細胞を浮遊させ、冷蔵庫内(2℃)に保存して17時間~122時間経過した細胞の生存率を示す図。
【
図7】凍結hAD-MSCを融解させた後、RPMI1640で2回洗浄後、フィジオ輸液(1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5重量%比の混合液で細胞を1回洗浄し、1%ヒトアルブミン含有あるいはアルブミン不含の本混合液に細胞を浮遊させ、冷蔵庫内(2℃)に保存して122時間経過した細胞を培養プレートに播種し、24時間および2週間培養した後の細胞の培養プレート底面への接着(生着)能を確認した写真図。培養液はロート製薬製R:Stemを用い、ヒト血清は不含、あるいは1%または5%含有させた培養液を調整して培養した。
【
図8】培養したhAD-MSCをトリプシン処理にて培養フラスコから剥離した後、PRMI1640で2回洗浄後、フィジオ輸液(既存で1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5重量%比の混合液で1回洗浄し、ヒトアルブミン不含の本混合液に細胞を浮遊させ、冷蔵庫内(2℃)に24時間~96時間保存した時の細胞生存率を示す図。
【
図9】培養したhAD-MSCをトリプシン処理にて培養フラスコから剥離した後、PRMI1640で2回洗浄後、フィジオ輸液(既存で1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5重量%比の混合液で1回洗浄し、ヒトアルブミン不含の本混合液に細胞を浮遊させ、冷蔵庫内(2℃)に24時間~108時間保存した時の細胞の培養プレート底面への接着(生着)能を確認した写真図。培養液はKMB ADSC-4を用い、ヒト血清は不含あるいは2%含有させた培養液を調整して培養した。
【
図10】凍結hAD-MSCを融解させた後、RPMI1640で2回洗浄後、フィジオ輸液(既存で1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5重量%比の混合液で細胞を1回洗浄し、含有ヒトアルブミン濃度を0, 0.1, 0.3, 1.0%に変えた本混合液に細胞を浮遊させた後、冷蔵庫内(2℃)に15時間~155時間保存した時の細胞生存率を示す図。
【
図11】凍結hAD-MSCを融解させた後、RPMI1640で2回洗浄後、フィジオ輸液(既存で1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5重量%比の混合液で細胞を1回洗浄し、含有ヒトアルブミン濃度を0, 0.1, 0.3, 1.0%に変えた本混合液に細胞を浮遊させた後、冷蔵庫内(2℃)に15時間~155時間保存した時の、細胞の培養プレート底面への接着(生着)能を確認した写真図。特に本図は、15時間、23時間、39時間冷蔵庫内で保存した細胞を、ヒト血清不含あるいは2%ヒト血清含有培養液(ADSC-4)で16時間~33時間培養した時の写真図。
【
図12】凍結hAD-MSCを融解させた後、RPMI1640で2回洗浄後、フィジオ輸液(1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5重量%比の混合液で細胞を1回洗浄し、含有ヒトアルブミン濃度を0, 0.1, 0.3, 1.0%に変えた本混合液に細胞を浮遊させた後、冷蔵庫内(2℃)に15時間~155時間保存した時の、細胞の培養プレート底面への接着(生着)能を確認した写真図。特に本図は、15時間、23時間、39時間冷蔵庫内で保存した細胞を、ヒト血清不含あるいは2%ヒト血清含有培養液(ADSC-4)で74時間~82時間培養した時の写真図(
図11の培養継続による細胞の様子)。
【
図13】凍結hAD-MSCを融解させた後、RPMI1640で2回洗浄後、フィジオ輸液(既存で1重量%のグルコースを含有)に、(アミパレン輸液/フィジオ輸液)が0.5重量%比の混合液で細胞を1回洗浄し、含有ヒトアルブミン濃度を0, 0.1, 0.3, 1.0%に変えた本混合液に細胞を浮遊させた後、冷蔵庫内(2℃)に15時間~155時間保存した時の、細胞の培養プレート底面への接着(生着)能を確認した写真図。特に本図は、47時間、63時間、87.5時間冷蔵庫内で保存した細胞を、ヒト血清不含あるいは2%ヒト血清含有培養液(ADSC-4)で10時間~49時間培養した時の写真図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態のみではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
本発明にかかる細胞の投与液は、第1輸液と第2輸液の混合液であり、細胞に作用させて投与する投与液である。
【0017】
なお、本明細書において、第1輸液と第2輸液とを有することから投与液を混合液と称することがある。
【0018】
投与液を細胞に作用させるとは、例えば、細胞を本発明の投与液に懸濁・浮遊させることである。
【0019】
第1輸液と第2輸液との比率は、(第2輸液/第1輸液)が0.1~5.0重量%比である。
【0020】
第1輸液は下記成分を含有する。
・塩化ナトリウム
・塩化カリウム
・グルコン酸カルシウム水和物
・塩化マグネシウム
・無水酢酸ナトリウム
・クエン酸ナトリウム水和物
・ブドウ糖
【0021】
第1輸液は、例えば、大塚製薬株式会社のフィジオ輸液を使用することができる。なおフィジオ輸液は、通常は、循環血液量及び組織間液の減少時における細胞外液の補給・補正、代謝性アシドーシスの補正に使用される。
【0022】
第2輸液は下記成分を含有する。
・L‐ロイシン
・L‐イソロイシン
・L‐バリン
・L‐リシン
・L‐トレオニン
・L‐トリプトファン
・L‐メチオニン
・L‐システイン
・L‐フェニルアラニン
・L‐チロシン
・L‐アルギニン
・L‐ヒスチジン
・L‐アラニン
・L‐プロリン
・L‐セリン
・グリシン
・L‐アスパラギン酸
・L‐グルタミン酸
【0023】
第2輸液は、例えば、大塚製薬株式会社のアミパレン輸液を使用することができる。なおアミパレン輸液は、通常は、低蛋白血症、低栄養状態、手術前後の状態時のアミノ酸補給に使用される。
【0024】
本発明の投与液は、例えば、臨床において間葉系幹細胞(MSC)を患者に投与する際、適量のヒトアルブミン等(重量比1~2.5%)を添加し、細胞を浮遊させて使用する場合が多い。既存の細胞の投与液は、生理食塩水あるいは生理食塩水にアルブミン等の細胞保護蛋白等を添加した投与液である。投与液に浮遊させた細胞は24時間以内に投与される例がほとんどである。しかしながら48時間ほどの時間が経過してから患者に投与される場合がある。従来の生理食塩水からなる投与液では時間の経過とともに細胞生存率が著しく低下する問題点がある。本発明においては、投与液に浮遊させて48時間ほどの時間が経過しても細胞生存率の低下を著しく抑制できる優れた効果を有する。
【0025】
本発明の投与液は、例えば、臨床においてMSCを患者に投与する際、細胞を培養いた後、本発明にかかる投与液で細胞を洗浄・馴化後、本発明にかかる投与液にアルブミン等の細胞保護蛋白等を添加した投与液に細胞を浮遊させて投与する。
【0026】
本発明の投与液で細胞を洗浄すると、生理食塩水で洗浄することと比べて、細胞生存率の低下を抑制できる優れた効果を有する。
【0027】
本発明の投与液に浮遊される細胞は生体より採取された細胞であってもよく、また、体外でこれらの細胞を培養して得られた細胞や細胞株が使用されてもよい。細胞は、適宜、凍結保存および融解を繰り返した細胞であってもよい。また、細胞の由来種も特に問わない。異種由来細胞であっても同種由来細胞であってもよい。
【0028】
本発明の投与液は、任意の動物種由来の細胞に適用できる。例えば、細胞製剤が投与される任意の生物に由来していてもよい。このような生物としては例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯目動物、ウサギ等が例示される。また、本発明の投与液を用いる細胞製剤の細胞は、自己由来細胞(自家細胞ともいう)であってもよく、または非自己由来細胞(他家細胞ともいう)であってもよい。
【0029】
本発明の投与液に適用される細胞は、例えば、種々組織から得られるMSCであってもよい。例えば、骨髄由来、臍帯由来、臍帯血由来、子宮内膜由来、胎盤由来、羊膜由来、絨毛膜由来、脱落膜由来、真皮由来、歯小嚢由来、歯根膜由来、歯髄由来、歯胚由来、脂肪組織由来、血管(周囲)由来、骨格筋由来、または滑膜由来等の間葉系幹細胞が挙げられ得る。本発明の細胞は、造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、骨格筋幹細胞、上皮幹細胞、表皮幹細胞、網膜幹細胞、または脂肪幹細胞等であってもよい。
【0030】
本発明の投与液に適用される細胞は、例えば、MSCから分化能を有する細胞として分離されるMuse細胞、生体より採取した体性幹細胞や成熟細胞をリプログラミングやゲノム編集、活性化等により編集した細胞、例えば線維芽細胞に遺伝子を導入して肝細胞へ誘導したiHep細胞、成熟肝細胞に低分子化合物を添加することで増殖可能な肝前駆細胞へリプログラミングしたClip等、であってもよい。
【0031】
本発明の投与液は、種々の疾患治療に有用であり、例えば、病気やけがで損なわれた臓器を修復する再生医療、細胞補充療法、心・血管再生医療、がん免疫療法および細胞療法、神経再生療法、T細胞輸注療法、例えば任意には遺伝子導入された細胞の細胞輸注療法等に利用され得る。本発明の投与液を用いた細胞製剤により処置され得る疾患としては、限定されずに、例えば、神経障害、皮膚欠損、表皮融解性魚鱗症、脳梗塞を含む脳血管障害、小脳疾患、低酸素性虚血性脳症、脊髄損傷、脳外傷、中枢神経疾患、パーキンソン病、角膜障害、スティーブンスジョンソン症候群、眼類天疱瘡、角膜化学傷・熱傷、瘢痕性角結膜上皮症、水疱性角膜症、感染性角膜炎、例えば顆粒状角膜ジストロフィ等の角膜ジストロフィ、例えば加齢黄斑変性、網膜色素変性、緑内障等の網膜視神経障害、角膜上皮幹細胞疲弊症、歯周炎、肝障害、高アンモニア血症、虚血性心疾患、突発性拡張型心筋症、心不全、血小板減少症、閉塞性動脈硬化症、火傷、創傷、軟骨損傷、骨髄移植の際の合併症、再生不良貧血移植片対宿主病、難治性ウイルス感染症、腎不全、代謝性肝疾患、大腸炎、閉塞性動脈硬化症、虚血、末梢動脈疾患、非動脈硬化症、骨系統疾患、変形性関節症、骨腫瘍、骨壊死、下肢虚血疾患、ガン、リウマチ、骨粗しょう症、または筋ジストロフィー等が挙げられ、例えば、心筋障害部位への移植、心筋再生、骨形成、軟骨形成、新生血管の形成、白質再建、中耳鼓膜再生、神経再生療法、神経軸索の伸長の促進、末梢有髄神経・中枢神経の再生、視機能再生、神経回路の機能的な再生、毛包や表皮の再生、または毛包周囲組織の再生、腸疾患粘膜再生、代謝性臓器の創出等に利用され得る。したがって、本発明の投与液は、上記に例示される疾患の治療および/または予防用、または、細胞もしくは組織の再生用である製剤である。
【0032】
本発明の投与液は、薬学的に許容可能な担体、例えば緩衝液に高分子および糖類を溶解させ、上記に例示される細胞を懸濁させて製造することができる。この際、製剤化は、常法を用いて適宜行われ得る。また、製剤の剤型としては、溶液剤、懸濁剤等の液剤、この液剤を凍結乾燥した粉末、当該粉末を成型した錠剤等の固形剤とすることができる。
【0033】
本発明で使用される薬学的に許容可能な担体は、細胞を生存可能な状態で保持するための固体または液体であって、その浸透圧やpHを、細胞が生存可能な組成、濃度に調製したものをいう。
【0034】
薬学的に許容可能な担体は、緩衝剤、安定剤および等張化剤から選ばれる少なくとも1種以上が望ましい。
【0035】
例えば、本発明の薬学的に許容可能な担体は、緩衝剤を含む緩衝液であってもよい。緩衝液は、例えば水性のpH緩衝塩類溶液であり、所定のpH範囲内になるようにpH調整されている。
【0036】
好ましくは、本発明の薬学的に許容可能な担体は、等張化剤および緩衝剤を含む。
【0037】
使用され得る緩衝剤は、所定のpH範囲内になるようにpH調整する。pHの範囲としては、医薬上、薬理学的および/または生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、例えばpHは、pH5.5~8.0程度、好ましくはpH6.0~7.6程度、さらに好ましくはpH6.5~7.5である。
【0038】
緩衝剤の例としては、炭酸水素ナトリウム等の重炭酸塩緩衝剤、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム等が挙げられ、また、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、リンゲル液、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、HBSS(Hanks' Balanced Salt Solution)、MOPS(3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸)、TES(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、TRIS (トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、TEST(TES/TRISの組み合わせ)、等が用いられてもよい。
【0039】
等張化剤としては、無機塩類または糖アルコールを使用でき、無機塩類としては、ナトリウム塩、ナトリウム塩またはカルシウム塩から選ばれる少なくとも1種、糖アルコールとしては、ソルビトールまたはマンニトールから選ばれる、少なくとも1種が挙げられる。ナトリウム塩としては、塩化ナトリウムを使用できる。塩化ナトリウムとしては生理食塩水を使用できる。
【0040】
本願発明の投与液を使用する細胞の投与方法としては、典型的には組織への直接的な適用が挙げられるが特に制限はされない。投与経路としては、例えば、血管内投与、特には静脈内投与、または、筋肉内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、腸管内投与、経直腸投与、経腟投与、眼内投与、脳内投与、皮下投与、経鼻投与、舌下投与、経口投与、吸入、経皮投与、インプラント、臓器表面への噴霧およびシート等の貼付による直接(患部に局所的な)投与等が挙げられる。
【0041】
投与は例えば、細胞のシリンジでの注入やカテーテルによる挿入、または細胞の外科移植等によって行われてもよい。また、例えば、本発明の細胞製剤が細胞シート等の形態の場合は、組織に適用する際、細胞製剤を対象の組織に縫合糸やステープル等の係止手段により固定してもよい。対象の負担の軽減の観点から、静脈内投与が好ましい場合もある。また、対象や施術者の負担の軽減のため、注射剤とすることが望ましい場合もある。
【0042】
細胞の投与量としては、疾患の種類や、その症状の度合い、投与対象(例えば患者)の状態(例えば体重、年齢、症状、体調等)、および剤形等によって異なり得るが、十分な治療効果を得るために十分でありつつ、副作用の発現は抑制され得る量であることが好ましい。例えば、投与量は、細胞数として1x10~1x1012個/回、好ましくは1x103~1x1011個/回程度である。投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。すなわち、上述のような用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与してもよい。また、継続的に投与してもよい。また、1または2以上の他の薬剤と共に投与してもよい。
【実施例0043】
1. 実施例1 輸液を混合させることの有効性の検討
細胞は、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hAD-MSC)を使用し、6wellプレートにそれぞれに5×104個/wellで播種した。培地はコージンバイオ株式会社のKBM ADSC-4(無血清培地)を使用し、3日間培養した。
【0044】
3日目に培地を第1輸液と第2輸液との混合液に交換し、24時間37℃で培養した。第1輸液は大塚製薬株式会社のフィジオ(登録商標)輸液、第2輸液は大塚製薬株式会社のアミパレン(登録商標)輸液であった。
【0045】
フィジオ輸液は250mL中に下記成分を包含するものであった。
塩化ナトリウム1.593g
塩化カリウム0.075g
グルコン酸カルシウム水和物0.168g
塩化マグネシウム0.051g
無水酢酸ナトリウム0.513g
クエン酸ナトリウム水和物0.147g
ブドウ糖2.500g
【0046】
アミパレン輸液は200mL中に下記成分を包含するものであった。
L‐ロイシン2.80g
L‐イソロイシン1.60g
L‐バリン1.60g
L‐リシン2.10g
L‐トレオニン1.14g
L‐トリプトファン0.40g
L‐メチオニン0.78g
L‐システイン0.20g
L‐フェニルアラニン1.40g
L‐チロシン0.10g
L‐アルギニン2.10g
L‐ヒスチジン1.00g
L‐アラニン1.60g
L‐プロリン1.00g
L‐セリン0.60g
グリシン1.18g
L‐アスパラギン酸0.20g
L‐グルタミン酸0.20g
【0047】
第1輸液と第2輸液との比率は、(第2輸液/第1輸液)が10重量%比であった。第1輸液には1重量%(既存)または5重量%のグルコースを含有させた。
【0048】
KBM ADSC-4培地で3日間培養後、培地を(第2輸液/第1輸液)が10重量%比の混合液に交換し、18時間経過させた状態を観察した。結果を
図1に示す。
【0049】
18時間経過後、1重量%(既存)または5重量%のグルコースを含有させた双方において、KBM ADSC-4培地で3日間培養後、混合液に交換した直後と比べ、hAD-MSCの状態はあまり変わらず、生理食塩水で培養したときよりも見かけの生存率が高かった。しかしながら、5重量%のグルコースを含有させた混合液中の細胞は光沢のある細胞が多く、それらは状態のよくない死細胞であると考えられた。1重量%(既存)グルコースを含有させた混合液ではそのような光沢のある細胞はほとんど観察されなかった。
【0050】
この結果から、第1輸液と第2輸液との混合液は生理食塩水よりも細胞の生存率の向上に寄与する可能性があることが示唆された。
【0051】
2. 実施例2 混合液の第2輸液混合比の検討 その1
細胞は、培養hAD-MSCを使用し、6wellプレートにそれぞれに5×104個/wellで播種した。培地はコージンバイオ株式会社のKBM ADSC-4(無血清培地)を使用し、3日間培養した。
【0052】
3日目に培地を第1輸液と第2輸液との混合液に交換し、24時間37℃で経過させた。第1輸液は大塚製薬株式会社のフィジオ(登録商標)輸液であり、第1輸液には1重量%のグルコースが含有されている(既存)。第2輸液は大塚製薬株式会社のアミパレン(登録商標)輸液であった。
【0053】
第1輸液2mLに対し第2輸液10 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は0.5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液100 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液300 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は1.5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液500 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は25重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液1000 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は50重量%比
【0054】
KBM ADSC-4培地で3日間培養後、上記それぞれの混合比の混合液に培地を交換し、24時間経過させた状態を観察した。結果を
図2に示す。24時間後の細胞の様子ならびにトリプシンで細胞を剥がして回収した後の細胞生存率を顕微鏡ならびに0.4%トリパンブルー染色法にて観察した。アミパレン輸液の混合比が高くなるにつれて、光沢のある細胞が増えているように観察された。
【0055】
第1輸液(1重量%のグルコースを含有)においては、(第2輸液/第1輸液)が5重量%比の場合に細胞生存率が最も高かった(82%)。
【0056】
3. 実施例3 混合液の第2輸液混合比の検討 その2
細胞は、培養hAD-MSCを使用し、6wellプレートにそれぞれに5×104個/wellで播種した。培地はコージンバイオ株式会社のKBM ADSC-4(無血清培地)を使用し3日間培養した。
【0057】
3日目に培地を第1輸液と第2輸液との混合液に交換し、24時間37℃で経過させた。第1輸液は大塚製薬株式会社のフィジオ(登録商標)輸液であった。第1輸液には5重量%のグルコースを含有させた。第2輸液は大塚製薬株式会社のアミパレン(登録商標)輸液であった。
【0058】
第1輸液2mLに対し第2輸液10 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は0.5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液100 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液300 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は1.5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液500 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は25重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液1000 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は50重量%比
【0059】
KBM ADSC-4培地で3日間培養後、上記それぞれの混合比の混合液に交換し24時間経過させた状態を観察した。結果を
図3に示す。24時間後の細胞の様子ならびにトリプシンで細胞を剥がして回収した後の細胞生存率を顕微鏡ならびに0.4%トリパンブルーで染色法にて観察した。アミパレン輸液の混合比が高くなるにつれて、光沢のある細胞が増えているように見えた。さらに、アミパレン輸液の混合比が0.5重量%比の場合でも光沢のある細胞がすでに多く存在していた。
【0060】
第1輸液に5重量%のグルコースを含有させた場合においては、(第2輸液/第1輸液)が5重量%比の場合に細胞生存率が最も高かった(90%)。なお第1輸液(1重量%のグルコースを含有)よりも5重量%のグルコースを含有させた場合の方が、光沢のある細胞(おそらく死細胞)がより多く観察された。
【0061】
4. 実施例4 混合液の第2輸液混合比の検討 その3
細胞は、培養hAD-MSCを使用し、6wellプレートにそれぞれに6×104個/wellで播種した。培地はコージンバイオ株式会社のKBM ADSC-4(無血清培地)を使用し、2日間培養した。
【0062】
2日目に培地を第1輸液と第2輸液との混合液に交換し、24時間37℃で経過させた。第1輸液は大塚製薬株式会社のフィジオ(登録商標)輸液であった。第1輸液は1重量%のグルコースを含む(既存)。第2輸液は大塚製薬株式会社のアミパレン(登録商標)輸液であった。
【0063】
第1輸液2mLに対し第2輸液0 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は0重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液2 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は0.1重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液10 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は0.5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液30 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は1.5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液100 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は5重量%比
【0064】
KBM ADSC-4培地で2日間培養後、上記それぞれの混合比の混合液に培地を交換し、24時間経過させた状態を観察した。結果を
図4に示す。24時間後の細胞の様子ならびにトリプシンで細胞を剥がして回収した後の細胞生存率を顕微鏡ならびに0.4%トリパンブルー染色法にて観察した。
【0065】
全体的に光沢のある細胞はほとんど認められなかった。第1輸液(既存で1重量%のグルコースを含有)においては、(第2輸液/第1輸液)が0.5重量%比の場合に細胞生存率が最も高かった(95%)。
【0066】
5. 実施例5 混合液の第2輸液混合比の検討 その4
細胞は、培養hAD-MSCを使用し、6wellプレートそれぞれに6×104個/wellで播種した。培地はコージンバイオ株式会社のKBM ADSC-4(無血清培地)を使用し、2日間培養した。
【0067】
2日目に培地を第1輸液と第2輸液との混合液に交換し、24時間37℃で経過させた。第1輸液は大塚製薬株式会社のフィジオ(登録商標)輸液であった。第1輸液には5重量%のグルコースを含有させた。第2輸液は大塚製薬株式会社のアミパレン(登録商標)輸液であった。
【0068】
第1輸液2mLに対し第2輸液0 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は0重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液2 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は0.1重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液10 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は0.5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液30 μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は1.5重量%比
第1輸液2mLに対し第2輸液100μLを混合→(第2輸液/第1輸液)は5重量%比
【0069】
KBM ADSC-4培地で2日間培養後、上記それぞれの混合比の混合液に培地を交換し、24時間経過させた状態を観察した。結果を
図5に示す。24時間後の細胞の様子ならびにトリプシンで細胞を剥がして回収した後の細胞生存率を顕微鏡観察ならびに0.4%トリパンブルー染色法にて観察した。
【0070】
全体的に光沢のある細胞が見受けられた。第1輸液に5重量%のグルコースを含有させた場合においては、(第2輸液/第1輸液)が0.1重量%比の場合に細胞生存率が最も高かった(96%)。
【0071】
以上、上述の実施例2~実施例5から、(第2輸液/第1輸液)が0.1~5.0重量%比の場合に細胞の生存率が高いことが判明した。
【0072】
6. 実施例6 細胞の接着(生着)率の検討 その1
本実施例では細胞生存率に加え、細胞の接着(生着)率の検討を行った。
【0073】
細胞は、凍結細胞を融解させたhAD-MSCを使用した。細胞総数はチューブあたり1.04×107個であった。
【0074】
凍結細胞は融解後RPMI1640で2回洗浄後、第1輸液と第2輸液との混合液((第2輸液/第1輸液)は0.5重量%比)で1回洗浄した。第1輸液は大塚製薬株式会社のフィジオ(登録商標)輸液であった。第1輸液には1重量%のグルコースが含有している。第2輸液は大塚製薬株式会社のアミパレン(登録商標)輸液であった。
【0075】
洗浄後、1%ヒトアルブミン含有混合液と、アルブミン不含混合液とに細胞をそれぞれ懸濁・浮遊させて冷蔵庫内(2℃)に保存した。
【0076】
その後、経過時間毎の細胞生存率を確認した(
図6)。本実施例にかかる投与液で細胞を保存した場合、アルブミン不含の投与液に122時間(約5日間)保存していても21%の細胞が生存していることが確認できた。また、投与液に1%ヒトアルブミンを含有させることで、不含のものと比べると、細胞の生存率を著しく高めること(122時間保存で36%生存し、不含より15%高い)が確認された。
【0077】
また、前述の混合液で冷蔵庫内に122時間保存したhAD-MSCを6 wellプレートに播種し、hAD-MSCの培養プレート底面への接着(生着)能を確認した。アルブミン含有混合液で冷蔵庫内に保存後24時間を経過したhAD-MSCにおいて、ヒト血清を1%または5%含む区分で細胞の良好な接着(生着)が観察された一方、血清を含まない区分では細胞の接着は認めらなかった(
図7、上段)。
【0078】
そのまま14日間(2週間)培養を続けると、特に血清を含有した培養区分では細胞の増殖に伴い、培養プレート底面が細胞に覆われていることが確認でき、混合液で生存している細胞は接着(生着)能ならびに増殖能を有していることが確認された(
図7、下段)。
【0079】
即ち、本実施例にかかる投与液で細胞を保存した場合、投与液に1%のヒトアルブミンを含有させることで、不含のものと比べると、細胞の生存率を高め、その生存している細胞は接着(生着)能および増殖能を有することが確認された。
【0080】
7. 実施例7 細胞の接着(生着)率の検討 その2
本実施例では細胞の接着(生着)率の検討を異なる条件で行った。
【0081】
細胞は、実施例6の凍結細胞使用とは異なり、培養フラスコにて培養したhAD-MSCをトリプシン処理にて剥離した後に使用した。
【0082】
剥離した細胞をRPMI1640で2回洗浄後、第1輸液と第2輸液との混合液((第2輸液/第1輸液)は0.5重量%比)で1回洗浄した。第1輸液は大塚製薬株式会社のフィジオ(登録商標)輸液であった。第1輸液には1重量%のグルコースを含有させた。第2輸液は大塚製薬株式会社のアミパレン(登録商標)輸液であった。
【0083】
洗浄後、アルブミン不含の混合液に細胞を懸濁・浮遊させて冷蔵庫内(2℃)に保存した。
【0084】
その後、経過時間毎の細胞生存率を確認した(
図8)。本実施例にかかる混合液で細胞を96時間(4日間)保存した場合、細胞が72%生存していることが確認された。
【0085】
また、前述の混合液にhAD-MSCを懸濁し、冷蔵庫内に24時間、34時間、48時間、60.5時間、84時間、108時間保存した後に、懸濁・浮遊している細胞が培養プレート底面に接着(生着)するかを確認した(
図9)。
【0086】
播種した細胞が時間経過(8~69時間)に伴い、生着していく様子が観察された。混合液にて108時間保存した細胞は、培養プレートに播種後9.5時間で観察したところ、生着が確認された。細胞の培養は2%ヒト血清含有または血清不含の条件で行ったが、2%ヒト血清含有の条件では、より高い細胞接着(生着)の様子が観察された(
図9)。
【0087】
即ち、本実施例にかかる混合液でトリプシン処理にて剥離した後の細胞を保存した場合、96時間(4日)後でも72%生存率を示し、また良好な接着(生着)能が認められ、また細胞は少なくとも108時間(約4.5日)良好な接着(生着)能を示した。
【0088】
8. 実施例8 細胞の接着(生着)率の検討 その3
本実施例では混合液中のアルブミン濃度を変化させて懸濁・浮遊させた際の細胞の生存率および細胞の接着(生着)能の検討を行った。
【0089】
細胞は、実施例6と同様に凍結細胞を融解させたhAD-MSCを使用した。
【0090】
凍結細胞を融解後、ただちにRPMI1640で2回洗浄後、第1輸液と第2輸液との混合液((第2輸液/第1輸液)は0.5重量%比)で1回洗浄した。第1輸液は大塚製薬株式会社のフィジオ(登録商標)輸液であった。第1輸液には1重量%のグルコースを含有させた(既存)。第2輸液は大塚製薬株式会社のアミパレン(登録商標)輸液であった。
【0091】
洗浄後、アルブミン含有量0.1%、0.3%、1%の混合液と、アルブミン不含混合液に細胞をそれぞれ懸濁・浮遊させて冷蔵庫内(2℃)にて保存した。
【0092】
その後、経過時間毎の細胞生存率と接着(生着)率を確認した。本実施例にかかる混合液で細胞を保存した場合、アルブミン不含の混合液による保存で47時間(2日間)では53%の生存率が確認され(
図10)、その生存細胞は接着(生着)能が維持されていると考えられた(
図13左、最上段)。一方、1%アルブミン含有の混合液では96%の生存率が確認され(
図10)、その生存細胞は接着(生着)能が維持されていると考えられた(
図13左、最下段)。また、投与液に86時間(約4日間)保存していた場合、アルブミン不含の混合液では51%の生存率が、1%アルブミン含有の混合液では84%の生存率が確認され(
図10)、その生存細胞は接着(生着)能が維持されていることが細胞播種49時間後および10時間後に確認された(
図13右、最上段および最下段)。特に2%ヒト血清を含む培養条件での生着率が良好であった。
【0093】
即ち、検討したアルブミン濃度の上昇に依存して細胞生存率が高くなり、接着(生着)能が高くなることが判明した。1%アルブミン含有混合液で87.5時間保存した細胞(生存率は66%)で接着(生着)能を維持していることが確認された。
【0094】
また細胞の接着(生着)率および増殖は2%ヒト血清を含有した区分の方が血清不含の区分と比べて、より良好であることが示唆された(
図11、12、13)。