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特開2024-243351,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有する尿路感染症予防・治療剤
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  • 特開-1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有する尿路感染症予防・治療剤 図1
  • 特開-1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有する尿路感染症予防・治療剤 図2
  • 特開-1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有する尿路感染症予防・治療剤 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024335
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有する尿路感染症予防・治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/351 20060101AFI20240215BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K31/351
A61P13/02 105
A61P31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127107
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】390015004
【氏名又は名称】株式会社サナス
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100217869
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 邦久
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一浩
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB32
(57)【要約】
【課題】本発明は、ヒトに対して安全に投与でき、効果の高い尿路感染症の予防・治療剤を提供する。
【解決手段】1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有することを特徴とする尿路感染症予防・治療剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有することを特徴とする尿路感染症予防・治療剤。
【請求項2】
摂取後のヒトの尿中に1-デオキシマンノースが検出される請求項1に記載の尿路感染症予防・治療剤。
【請求項3】
摂取後の尿中1-デオキシマンノース濃度は、マンノース摂取後の尿中マンノース濃度よりも高い請求項1または2に記載の尿路感染症予防・治療剤。
【請求項4】
摂取後の尿量は、マンノース摂取後の尿量よりも多い請求項1または2に記載の尿路感染症予防・治療剤。
【請求項5】
経口投与により摂取される請求項1または2に記載の尿路感染症予防・治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有することを特徴とする尿路感染症予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
尿路感染症は、腎盂、尿管、尿道、膀胱などの尿路に病原微生物が感染することによって生じる疾病であり、感染の場所によって膀胱炎と腎盂腎炎に分類される。尿路感染症の原因となる病原微生物の多くは細菌であり、そのほとんどは尿路病原性大腸菌(UPEC)とされている。尿路感染症の治療には一般に抗生物質が投与されるが、その抗生物質が抗生物質耐性菌の出現を引き起こしている。また、サプリメントとしてマンノースを摂取することも知られている。
【0003】
UPECによる尿路感染症は、尿路上皮細胞から突き出た糖鎖末端のマンノース残基にUPECのFim Hレクチンが結合することで感染する。Fim Hレクチンはマンノースとも結合するため、遊離のマンノースが尿中に存在するとUPECがマンノースと結合する割合が増え、尿路上皮細胞に結合するUPECが減少し、尿路感染症を抑制することができる。また、尿路に結合していないUPECは尿とともに体外に排出される。
【0004】
マンノースについては、経口投与でのヒト臨床試験の結果が報告されており、植物のヘミセルロース由来のマンノースを含有する尿路感染症の予防改善剤や、マンノースとクランベリー果実成分を含有する尿路感染症の予防改善剤が報告されている(特許文献1,2)。また、マンノースの膀胱炎症例に対する予防効果について報告されている(非特許文献1)。一方、尿路に到達するマンノースは経口摂取したマンノースの0.1%程度との報告があり(非特許文献2)、尿路感染症の予防・治療効果は限定的である。
【0005】
マンノースよりも強い接着阻害活性を示す物質の発見を目的として、多くのマンノース誘導体が開発されている。(非特許文献3)。しかし、マンノース誘導体はマンノースを化学修飾した物質であることから、ヒトへ経口投与された際の小腸での吸収率はマンノースよりさらに低くなり、尿路へも到達し難いと推定される。また、これらのマンノース誘導体は、ヒトへの経口投与による臨床試験で、尿路への到達率や尿路感染症の予防・治療効果が評価されておらず、その効果は懐疑的である。
また、尿路感染症は再発率が高いため、より効果的な予防方法や治療方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-219469号公報
【特許文献2】特開2012-171899号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Antibiotics 2021,10,373.
【非特許文献2】ルミナコイド研究、Vol22、No.2(2018)
【非特許文献3】Molecules 2018,23,1641
【非特許文献4】J Appl. Glycosci., Vol. 46, No. 4, p. 439―444 (1999)
【非特許文献5】IUCrJ (2017) 4, 7-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、マンノースやマンノース誘導体などFim Hレクチンと結合する物質はいくつも報告がある。しかしながら、これらのヒトに対する効果の評価はなされていないか不十分である。従って、ヒトに対して安全に投与でき、尿路にUPEC接着阻害活性を示す有効な濃度で到達できる尿路感染症の予防・治療剤が求められている。
本発明の課題は、ヒトに対して安全に投与でき、効果の高い尿路感染症の予防・治療剤を提供することにある。発明者はこれらの要因を満足する素材を探索したところ、1,5-アンヒドロ-D-フルクトース(1,5-AF)をヒトへ投与すると、高い割合で1-デオキシマンノースが尿中に排泄されることを発見し本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有することを特徴とする尿路感染症予防・治療剤が提供される。
【0010】
前記尿路感染症予防・治療剤は、摂取後のヒトの尿中に1-デオキシマンノースが検出されることが好ましい。
【0011】
前記尿路感染症予防・治療剤は、摂取後の尿中1-デオキシマンノース濃度は、マンノース摂取後の尿中マンノース濃度よりも高いことが好ましい。
【0012】
前記尿路感染症予防・治療剤は、摂取後の尿量は、マンノース摂取後の尿量よりも多いことが好ましい。
【0013】
前記尿路感染症予防・治療剤は、経口投与により摂取されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の尿路感染症予防・治療剤は、1,5-アンヒドロ-D-フルクトースを含有し、1-デオキシマンノースが尿路にUPEC接着阻害活性を示す有効な濃度で到達することができ、尿路感染症の予防・治療効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】各糖経口摂取後の尿中濃度を示すグラフである。
図2】各糖経口摂取後の尿量を示すグラフである。
図3】大腸菌による糖の資化性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1,5-アンヒドロ-D-フルクトース(1,5-AF)はでん粉などのα-1,4-グルカンにα-1,4-グルカンリアーゼを作用させることで製造することができる糖である。本発明において使用される1,5-AFは、上記の方法によっても調製可能であるし、市販の1,5-AFを用いてもよい。
【0017】
1-デオキシマンノースはマンノースの1位のヒドロキシ基から酸素原子が取れたデオキシ体であり、1,5-アンヒドロ-D-マンニトールとも呼ばれる。1-デオキシマンノースは1,5-アンヒドロ-D-フルクトース(1,5-AF)の代謝産物として知られている。1-デオキシマンノースの化学構造式を下記に示す。1-デオキシマンノースの検出および定量には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いることができる。
【0018】
【化1】
【0019】
本発明においては、1,5-AFおよびマンノースをそれぞれ同量摂取した場合、1-デオキシマンノース摂取後の尿中1-デオキシマンノース濃度は、マンノース摂取後の尿中マンノース濃度よりも高いことが好ましい。
【0020】
さらに、1,5-AFおよびマンノースをそれぞれ同量摂取した場合、1-デオキシマンノース摂取後の尿量は、マンノース摂取後の尿量よりも多いことが好ましい。
【0021】
投与方法としては、例えば、経口投与あるいは、注射や点滴などの方法によって静脈内や皮下、腹腔内など直接体内に投与する方法や外用とすることができるが、患者が簡便に摂取可能な経口投与が好ましい。
【0022】
予防・治療剤の形態としては、例えば、錠剤、粉末、カプセル剤、点滴製剤、散剤、顆粒剤、注射剤等が挙げられるが、特に制限されない。また製剤を調製する上で必要な成分例えば、製剤担体や賦形剤、安定剤等を含有することもできる。
【0023】
さらに、本発明の予防・治療剤は、他の尿路感染症の予防・治療剤(クランベリー、乳酸菌、アスコルビン酸、ポリフェノールなど)、その他の薬理成分またはブドウ糖などの栄養成分を含むことも可能である。
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。本発明はかかる実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例0025】
<試料の調製>
実施例に用いる1,5-AFは非特許文献4に記載の方法により作成した。即ち、ワキシーコーンスターチに紅藻由来のα-1,4-グルカンリアーゼを作用させて1,5-AFを生成させ、その後エタノールを加え未反応の分子を沈殿させる。その沈殿を除いて上澄みを減圧濃縮したのち、イオン交換樹脂で脱塩し、ゲルろ過カラムに供し、1,5-AF画分を回収し凍結乾燥して、1,5-AF試料を得た。前記1,5-AF試料はHPLCで98%以上の純度を確認した。前記1,5-AF試料を試験用試料とした。
また、比較例に用いるマンノース試料は、NOW FOODS社製のD-Mannose(pure powder)を用いた。前記マンノース試料はHPLCで99%以上の純度を確認した。前記マンノース試料を試験用試料とした。
実施例のHPLC分析の検量線作成に用いる1-デオキシマンノースの合成方法は次の通りである。1,5-AF水溶液をラネーニッケル触媒の存在下で水素添加し、得られた1,5-AFの還元体を含む溶液を濃縮し、結晶化させることで1-デオキシマンノース試料を得た。得られた試料はHPLCで99%以上の純度を確認した。前記1-デオキシマンノース試料を分析用標準試料とした。
【0026】
<HPLC分析条件>
HPLC装置:日本分光株式会社製、品番:PU2089 plus、AS2055 plus、RI2031plus、 ジーエルサイエンス株式会社製 MODEL 556
分析カラム:MITSUBISHI MCI GEL CK 08S 2本連結
オーブン温度:60℃
溶離液:水
検出器:示差屈折計
流速:1ml/分
注入量:100μL
【0027】
1-デオキシマンノースの定量は、上記の1-デオキシマンノースを用いて作成した検量線により行った。また、マンノースの定量は、試薬特級のマンノースを用いて作成した検量線により行った。
【0028】
<1-デオキシマンノースの安全性評価>
1,5-AFをヒトが経口摂取した際の尿中の代謝物を測定した。その結果、摂取した1,5-AFの5%程度を1-デオキシマンノースとして尿中に回収できた。経口摂取した1,5-AFは体内で還元され、生成物として1-デオキシマンノースを生成したと考えられた。従って、1,5-AFの投与試験は、代謝物である1-デオキシマンノースの安全性評価試験になっているといえる。
【0029】
<実施例1>
1gの1,5-AFを水に溶解させ20%w/w溶液として、経口摂取用の試料を作製した。6名のヒトを被験者として、試料の摂取前に尿を採取した。試料全量を経口摂取し、1、2、3、4、6、8時間経過後にそれぞれ尿を全量回収した。回収した尿の尿量を測定後、細孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過した後、尿中の1-デオキシマンノース濃度をHPLC分析により測定し、尿量についても測定した。
【0030】
<比較例1>
1,5-AFをマンノースにした以外は、実施例1と同様に経口投与および尿の回収を行った。
【0031】
<尿中1-デオキシマンノース濃度>
実施例1の1,5-AFを含有する試料摂取後の各時間における尿中の1-デオキシマンノース濃度および比較例1のマンノースを含有する試料摂取後の各時間における尿中のマンノース濃度の測定結果を図1に示した。なお、各時間における尿中の各濃度は、当該各時間における被験者6名の尿中の各濃度を単純平均した値である。
摂取後1時間から摂取後8時間までのすべての尿で1-デオキシマンノースが検出された。摂取後2時間が最も1-デオキシマンノース濃度が高くなり、その濃度は0.252mg/mlであった。これに対して、マンノースについては、いずれの被験者からも検出されなかった。これは、HPLCの検出限界である0.1mg/mlを下回っていたためであると考えられる。なお当該尿については、遠心分離(10,000g、5分間)後に上澄みを回収し、D-MANNOSE/D-FRUCOTOSE/D-GLUCOSE KIT(MEGAZAYME社、検出限界:10μg/ml以下)を用いて尿中のマンノース含量を測定したが、検出されなかった。従って、1-デオキシマンノースはマンノースよりも高い濃度で尿路に到達し、マンノースに比べてはるかに高いUPEC感染阻害活性があることが解った。
また、1-デオキシマンノースのFim Hレクチンとの解離定数(K)は1125nM(185ng/ml)であることが報告されているが(非特許文献5)、上記摂取後2時間における尿中の1-デオキシマンノースの最高濃度は、1-デオキシマンノースのK値の約1360倍であり、経口摂取した1,5-AFは体内で1-デオキシマンノースに変換され尿路に到達し、そこで高い大腸菌接着阻害活性を示すことが明らかになった。
【0032】
<尿量>
実施例1の1,5-AFを含有する試料摂取後の各時間における尿量および比較例1のマンノースを含有する試料摂取後の各時間における尿量の測定結果を図2に示した。なお、図2の縦軸は比較例1で行ったマンノース摂取後の各時間における尿量を100%としたときの、実施例1での1,5-AF摂取後の各時間における尿量の割合である。
この結果、摂取後6時間を除くすべての時間において1,5-AF投与群の方がマンノース投与群より尿量が多くなった。摂取後4時間ではマンノースの142%であった。UPECは尿とともに体外に排出されるため、尿量が多ければ多いほどUPECの感染リスクは低減するといえる。即ち、1,5-AFの摂取により、尿中に1-デオキシマンノースが排出されUPECの感染を阻害するだけでなく、尿量が多くなることで効果的にUPECが体外に排出されると考えられる。
【0033】
<尿中1-デオキシマンノース回収量>
回収した尿量と尿中の1-デオキシマンノース濃度から、回収した1-デオキシマンノース量を求めた。尿中1-デオキシマンノース回収量は以下の式で表される。
尿中回収量[mg]=(V×C)+(V×C)+(V×C)+(V×C)+(V×C)+(V×C
:摂取後n時間における尿量[ml]
:摂取後n時間における尿中の1-デオキシマンノース濃度[mg/ml]
上記より計算すると、摂取後8時間までの尿中1-デオキシマンノース回収量は56.7±16.6mgとなり、非常に高い回収量であった。
【0034】
<実施例2、比較例2~3>
糖尿病患者などで尿糖が発生した場合には、その糖が細菌のエネルギー源となるため、尿路に尿糖が存在しない状態に比べて、尿路に尿糖が存在する方が、細菌がより増殖しやすい可能性があることが報告されている。従って、糖を尿路感染症の予防目的で摂取するには、その糖が尿路に到達した場合に、細菌により資化され難い糖であることが望ましい。
従って、大腸菌(NBRC 3301)による1-デオキシマンノースの資化性を評価する目的で以下の実験を実施した。
2mlの1%グルコースを含むM9最小培地(DifcoTM M9 MinimalSaltにMgSOおよびCaClを添加した培地)を用いて、大腸菌(NBRC 3301)を37℃で17時間振とうし、培養液を得た。前記培養液10μLを1%の各糖(1-デオキシマンノース、マンノース、グルコース)を含む2mlのM9最小培地にそれぞれ加え、37℃で振とう培養した。培養中、経時的に100μLを抜き取り、光路長1cmのセルを用いて濁度(600nm)を測定し、濁度の増加量から大腸菌の増殖の程度を調べた。測定結果を図3に示す。ここで、1-デオキシマンノース、マンノース、グルコースを含む前記培養液をそれぞれ実施例2および比較例2~3とした。
【0035】
マンノース、グルコースを加えた培養液に対して、1-デオキシマンノースを加えた培養液では濃度の増加を認めなかった。濃度の増加が大きいほど、大腸菌が増殖しているといえるため、1-デオキシマンノースは、グルコースおよびマンノースと比較して大腸菌(NBRC 3301)に資化され難いことが明らかとなった。上記の通り、1,5-AFを経口摂取すると尿中に1-デオキシマンノースが排泄されていることから、1,5-AFは尿路感染症予防・治療剤に適した糖であるといえる。
図1
図2
図3