(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024381
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】減速機、及び、回転機器
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127174
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100145481
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 昌邦
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】紀平 誠人
(72)【発明者】
【氏名】松林 将寛
(72)【発明者】
【氏名】林 照太
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA04
3J027FA37
3J027FB32
3J027FB40
3J027FC12
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC24
3J027GC26
3J027GC29
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE11
(57)【要約】
【課題】ピン溝の軸方向での深さのバラつきを小さくできるようにし、内歯ピンとピン溝の接触を安定させることができる減速機、及び、回転機器を提供する。
【解決手段】減速機は、筒状のケース11と、内歯ピン20と、複数の揺動歯車と、キャリアと、を備えている。ケース11は、内周面に軸方向に沿う複数のピン溝18を有する。内歯ピン20は、各ピン溝18に回転可能に収容される。揺動歯車は、ピン溝18の周方向の配置数よりも少ない歯数の外歯を有し、ケース11の内周に軸方向に並んで配置されるとともに、回転動力を受けて外歯で内歯ピン20と噛み合いつつ揺動回転する。キャリアは、ケース11に相対回転可能に組付けられるとともに、複数の揺動歯車に相対回転不能に組付けられる。ケース11のピン溝18が形成される部位は、当該ピン溝18を軸方向で分割する複数の分割ブロックによって構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に軸方向に沿う複数のピン溝を有する筒状のケースと、
各前記ピン溝に回転可能に収容される内歯ピンと、
前記ピン溝の周方向の配置数よりも少ない歯数の外歯を有し、前記ケースの内周に軸方向に並んで配置されるとともに、回転動力を受けて前記外歯で前記内歯ピンと噛み合いつつ揺動回転する複数の揺動歯車と、
前記ケースに相対回転可能に組付けられるとともに、複数の前記揺動歯車に相対回転不能に組付けられるキャリアと、を備え、
前記ケースの前記ピン溝が形成される部位は、当該ピン溝を軸方向で分割する複数の分割ブロックによって構成されている、減速機。
【請求項2】
各前記内歯ピンは、前記分割ブロックの各前記ピン溝に収容される複数の分割ピンによって構成されている、請求項1に記載の減速機。
【請求項3】
複数の前記分割ブロックは、前記ピン溝を軸方向で等長に二分割するように分割された第1分割ブロックと、第2分割ブロックと、から成る、請求項1または2に記載の減速機。
【請求項4】
軸方向で対向する二つの前記分割ブロックの端面の間には、内周側に開口する環状溝が設けられている請求項1または2に記載の減速機。
【請求項5】
前記複数の分割ブロックは、周方向に等角度離間した位置において、複数の締結部材によって連結されている請求項1または2に記載の減速機。
【請求項6】
回転動力を出力する回転駆動源と、
前記回転駆動源の回転を減速する減速機と、を備え、
前記減速機は、
内周面に軸方向に沿う複数のピン溝を有する筒状のケースと、
各前記ピン溝に回転可能に収容される内歯ピンと、
前記ピン溝の周方向の配置数よりも少ない歯数の外歯を有し、前記ケースの内周に軸方向に並んで配置されるとともに、回転動力を受けて前記外歯で前記内歯ピンと噛み合いつつ揺動回転する複数の揺動歯車と、
前記ケースに相対回転可能に組付けられるとともに、複数の前記揺動歯車に相対回転不能に組付けられるキャリアと、を備え、
前記ケースの前記ピン溝が形成される部位は、当該ピン溝を軸方向で分割する複数の分割ブロックによって構成されている、回転機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機、及び、回転機器に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボット等で用いられる回転機器では、モータ等の回転駆動源の回転を減速するために減速機が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記の減速機として、筒状のケースと、ケース内に回転可能に保持されたキャリアと、キャリアに回転可能に支持されたクランクシャフトと、クランクシャフトの偏心部の回転を受けてケース内で旋回回転する揺動歯車と、ケースの内周面に回転可能に保持された複数の内歯ピンと、を備えたものがある。
この減速機の場合、クランクシャフトには、回転駆動源の回転が入力される。また、ケースの内周面には、複数の内歯ピンを回転可能に保持するためのピン溝が形成されている。ピン溝は、ケースの軸方向に沿うようにケースの内周面に等間隔に形成されている。揺動歯車の外周面には、複数の内歯ピンと噛み合う外歯が形成されている。外歯の歯数は、内歯ピンの個数よりも一つ分少ない数に設定されている。このため、揺動歯車は、クランクシャフトの回転を受けて旋回回転すると、内歯ピンと噛み合いつつ所定減速比に減速されて旋回方向と逆向きに自転する。揺動歯車の自転成分は、クランクシャフトや別の出力ピンを通してキャリアに伝達される。キャリアは、使用する回転機器の回転対象部に接続され、減速された回転駆動源の動力を回転対象部に伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大型の回転機器では、大トルクを回転対象部に伝達するために、減速機を大型化する必要がある。この場合、キャリアをケースに回転可能に支持させる高価な主軸受の設置数を抑制しようとすると、ケースの軸長を延ばし、かつ、揺動歯車を軸方向に複数併設することになる。この場合、ケースの内周面に形成するピン溝は、揺動歯車の併設数等に応じて軸方向に長くなる。
【0006】
しかし、ケースの内周面に形成するピン溝の長さが軸方向に長くなると、ピン溝を切削工具によって軸方向に連続的に切削する際に、ピン溝の深さが軸方向の一端側と他端側でバラつき易くなる。そして、ピン溝の軸方向の一端側と他端側の溝深さの差が大きくなると、内歯ピンとピン溝の接触が不安定になり、装置の耐久面において不利となる。
【0007】
本発明は、ピン溝の軸方向での深さのバラつきを小さくできるようにし、内歯ピンとピン溝の接触を安定させることができる減速機、及び、回転機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る減速機は、内周面に軸方向に沿う複数のピン溝を有する筒状のケースと、各前記ピン溝に回転可能に収容される内歯ピンと、前記ピン溝の周方向の配置数よりも少ない歯数の外歯を有し、前記ケースの内周に軸方向に並んで配置されるとともに、回転動力を受けて前記外歯で前記内歯ピンと噛み合いつつ揺動回転する複数の揺動歯車と、前記ケースに相対回転可能に組付けられるとともに、複数の前記揺動歯車に相対回転不能に組付けられるキャリアと、を備え、前記ケースの前記ピン溝が形成される部位は、当該ピン溝を軸方向で分割する複数の分割ブロックによって構成されている。
【0009】
本構成の減速機では、ケースのピン溝が複数の分割ブロックに分割されるため、ピン溝を分割ブロック毎に分けて切削加工することができる。このため、ピン溝全体での深さのバラつき(深さの差)を小さくすることが可能になる。
【0010】
各前記内歯ピンは、前記分割ブロックの各前記ピン溝に収容される複数の分割ピンによって構成されるようにしても良い。
【0011】
この場合、分割ブロックの各ピン溝に個別に分割ピンが収容されるため、複数の揺動歯車が揺動回転する際に、内歯ピンに不要な応力がより作用しにくくなる。このため、本構成を採用した場合には、内歯ピン(分割ピン)とピン溝の接触をより安定させ、減速機の耐久性を高めることができる。
【0012】
複数の前記分割ブロックは、前記ピン溝を軸方向で等長に二分割するように分割された第1分割ブロックと、第2分割ブロックと、から成るようにしても良い。
【0013】
この場合、ケースの構造の複雑化を抑制しつつ、ピン溝の軸方向での深さのバラつきを効率良く抑制することが可能になる。
【0014】
軸方向で対向する二つの前記分割ブロックの端面の間には、内周側に開口する環状溝が設けられるようにしても良い。
【0015】
この場合、分割ブロック間に形成される環状溝にケース内の潤滑剤を滞留させ、ケース内の動作部の潤滑性を高めることが可能になる。
【0016】
前記複数の分割ブロックは、周方向に等角度離間した位置において、複数の締結部材によって連結されるようにしても良い。
【0017】
この場合、複数の分割ブロックが周方向でバランス良く締結されることになり、隣接する分割ブロック間に隙間が生じにくくなる。
【0018】
本発明の一態様に係る回転機器は、回転動力を出力する回転駆動源と、前記回転駆動源の回転を減速する減速機と、を備え、前記減速機は、内周面に軸方向に沿う複数のピン溝を有する筒状のケースと、各前記ピン溝に回転可能に収容される内歯ピンと、前記ピン溝の周方向の配置数よりも少ない歯数の外歯を有し、前記ケースの内周に軸方向に並んで配置されるとともに、回転動力を受けて前記外歯で前記内歯ピンと噛み合いつつ揺動回転する複数の揺動歯車と、前記ケースに相対回転可能に組付けられるとともに、複数の前記揺動歯車に相対回転不能に組付けられるキャリアと、を備え、前記ケースの前記ピン溝が形成される部位は、当該ピン溝を軸方向で分割する複数の分割ブロックによって構成されている。
【発明の効果】
【0019】
上述の減速機は、ケースのピン溝が形成される部位が、当該ピン溝を軸方向で分割する複数の分割ブロックによって構成されているため、各分割ブロック毎にピン溝を個別に切削加工することができる。このため、ピン溝の軸方向での深さのバラつきを小さくすることができる。したがって、上述の減速機を採用した場合には、作動時における内歯ピンの傾きを小さくし、内歯ピンとピン溝の接触を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態の減速機の部分断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、減速機10を入力側から見た部分断面正面図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う断面図である。
図2に示すように、減速機10は、回転駆動源であるモータ50とともに回転機器100を構成している。回転機器100は、減速機10によって減速されたモータ50(
図2参照)の駆動力を受けて図示しない回転対象部を回転させる。回転機器100は、例えば、産業用ロボットの回転アームや、物品搬送装置の回転テーブル等である。モータ50の回転軸50aは、図示しない動力伝達機構を介して減速機10の後述するクランクシャフト14に接続されている。減速機10のクランクシャフト14は、モータ50の駆動力を受けて回転する。
【0023】
減速機10は、略円筒状のケース11と、ケース11の内周側に相対回転可能に組付けられた第1キャリアブロック13A、及び、第2キャリアブロック13Bと、第1キャリアブロック13A、及び、第2キャリアブロック13Bに回転可能に支持された複数(例えば、三つ)のクランクシャフト14と、各クランクシャフト14の二つの偏心領域14bとともに旋回回転する第1揺動歯車15A、及び、第2揺動歯車15Bと、を備えている。
本実施形態では、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bがキャリアを構成している。また、第1揺動歯車15A、及び、第2揺動歯車15Bは、本実施形態における複数の揺動歯車を構成している。
【0024】
第1キャリアブロック13Aは、孔空き円板状の基板部13Aaと、当該基板部13Aaの端面から第2キャリアブロック13Bの方向に向かって延びる複数の支柱部13Abと、を有する。第2キャリアブロック13Bは、孔空き円板状に形成されている。第1キャリアブロック13Aは、支柱部13Abの端面が第2キャリアブロック13Bの端面に突き合わされ、各支柱部13Abが第2キャリアブロック13Bにボルト16によって締結固定されている。なお、図中の符号17は、ボルト16による締結前に第2キャリアブロック13Bを各支柱部13Abに位置決めするための位置決めピンである。
【0025】
第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaと第2キャリアブロック13Bとの間には、軸方向の隙間が確保されている。この隙間には、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが配置されている。
なお、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bには、第1キャリアブロック13Aの各支柱部13Abが貫通する逃げ孔19が形成されている。逃げ孔19は、各支柱部13Abが第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの旋回動作を妨げないように、支柱部13Abの外面形状よりも充分に大きく形成されている。
【0026】
ケース11は、軸方向の端面で相互に突き合わされた第1分割ブロック11A、及び、第2分割ブロック11Bと、を備えている。ケース11は、軸方向の略中央位置で第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bとに分割されている。第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bは、軸方向の端面を相互に突き合せた状態において、複数(例えば、三つ)のボルト45(締結部材)によって連結されている。複数のボルト45は、後述する回転中心軸線c1周りに等角度離間して配置された。
第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bは、本実施形態における複数の分割ブロックを構成している。
【0027】
また、第1分割ブロック11Aの内側の端面11Ae(第2分割ブロック11Bと対向する側の端面)には、環状のシール溝46が設けられている。シール溝46には、環状のシール部材47が収容されている。シール部材47は、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bがボルト45によって締結されるときに、互いの端面11Ae,11Beの間を密閉する。
【0028】
第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bが連結された筒状のケース11は、第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaの外周面と、第2キャリアブロック13Bの外周面とに跨って配置されている。ケース11の軸方向の両側端縁には、第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaと、第2キャリアブロック13Bとが主軸受12を介して回転可能に支持されている。また、ケース11の軸方向の中央領域(第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの外周面に対向する領域)の内周面には、第1,第2キャリアブロック13A,13Bの回転中心軸線c1と平行に延びる複数のピン溝18が形成されている。
【0029】
各ピン溝18には、内歯ピン20が回転可能に収容されている。内歯ピン20は、略円柱状の第1分割ピン20Aと第2分割ピン20Bとから成る。第1分割ピン20Aと第2分割ピン20Bは、同形状、同サイズの別体のピン部材である。第1分割ピン20Aは、ピン溝18のうちの、第1分割ブロック11Aの内周面に形成された領域に収容される。第2分割ピン20Bは、ピン溝18のうちの、第2分割ブロック11Bの内周面に形成された領域に収容される。第1分割ブロック11Aのピン溝18に収容された第1分割ピン20Aは、第1揺動歯車15Aの外周面に対向し、第2分割ブロック11Bのピン溝18に収容された第2分割ピン20Bは、第2揺動歯車15Bの外周面に対向している。
【0030】
第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bは、ケース11(第1分割ブロック11A、及び、第2分割ブロック11B)の内径よりも若干小さい外径に形成されている。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面には、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの各内周部(ピン溝18)に配置された第1分割ピン20Aと第2分割ピン20Bに噛み合い状態で接触する外歯15Aa,15Baが形成されている。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面に形成された外歯15Aa,15Baの歯数は、第1分割ピン20A、及び、第2分割ピン20Bの各数(ピン溝18の数)よりも僅かに少なく(例えば、一つ少なく)設定されている。
【0031】
複数のクランクシャフト14は、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの回転中心軸線c1を中心とした同一円周上に配置されている。各クランクシャフト14は、軸受21を介して第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bとに回転自在に支持されている。各クランクシャフト14は、軸方向に離間して一対の軸支持領域14aが配置され、一対の軸支持領域14aの間に二つの偏心領域14bが配置されている。クランクシャフト14の軸方向の一方の端部には、軸支持領域14aに隣接して歯車取付部14cが形成されている。また、各軸支持領域14aは、第1キャリアブロック13A(基板部13Aa)に形成された軸支持孔13Aa-1と、第2キャリアブロック13Bに形成された軸支持孔13Ba-1に挿通され、これらに軸受21を介して回転自在に支持されている。
【0032】
クランクシャフト14の二つの偏心領域14bは、これらの各中心軸線が軸支持領域14aの中心軸線に対して偏心している。また、二つの偏心領域14bは、軸支持領域14aの中心軸周りに位相が180°ずれるように偏心している。
【0033】
また、クランクシャフト14の各偏心領域14bは、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bを夫々貫通している。各偏心領域14bは、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bに夫々形成された支持孔22に偏心部軸受23(円筒ころ軸受)を介して回転自在に係合されている。
なお、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bは、回転中心軸線c1周りに配置された複数のクランクシャフト14を介して、第1揺動歯車15A、及び、第2揺動歯車15Bと相対回転不能に連結されている。つまり、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが一方向に自転すると、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bは、これらの自転に同期して回転する。
【0034】
本実施形態の減速機10は、複数のクランクシャフト14が外力を受けて一方向に回転すると、クランクシャフト14の各偏心領域14bが所定の半径で同方向に旋回し、それに伴って第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが同じ半径で同方向に旋回(揺動)する。このとき、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外歯15Aa,15Baは、ケース11(第1分割ブロック11A、及び、第2分割ブロック11B)の内周に保持された複数の内歯ピン20(第1分割ピン20A、及び、第2分割ピン20B)と噛み合うように接触する。
【0035】
各クランクシャフト14の歯車取付部14cは、第2キャリアブロック13Bの軸支持孔13Ba-1を貫通して第2キャリアブロック13Bの軸方向外側に突出している。第2キャリアブロック13Bから突出した歯車取付部14cには、クランクシャフト歯車28が取り付けられている。各クランクシャフト歯車28は、図示しない入力歯車に噛み合っている。入力歯車は回転駆動源であるモータ50の駆動力を受けて回転する。
【0036】
本実施形態の減速機10では、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外歯15Aa,15Baの歯数が、ケース11側の内歯ピン20(第1分割ピン20A、及び、第2分割ピン20B)の数よりも僅かに少なく設定されている。このため、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが一旋回する間に、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bがケース11側の内歯ピン20から回転方向の反力を受ける。これにより、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bは、旋回方向と逆向きに所定のピッチ分だけ自転する。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bにクランクシャフト14を介して組付けらた第1,第2キャリアブロック13A,13Bは、第1,第2揺動歯車15A,15Bとともに同方向に同ピッチで回転する。この結果、クランクシャフト14の回転は、減速されて第1,第2キャリアブロック13A,13Bの回転として出力される。
【0037】
本実施形態では、ケース11がモータ50とともに図示しない支持構造体に固定され、第1キャリアブロック13Aが回転機器100の図示しない回転対象物に連結されている。このため、モータ50の回転動力は、減速機10で所定の減速比に減速された後に、第1キャリアブロック13Aを介して回転対象物を回転させる。
ただし、第1キャリアブロック13Aや第2キャリアブロック13Bを支持構造体に固定し、ケース11を回転対象物に連結して用いることも可能である。
【0038】
図3は、
図2の第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの連結部を拡大して示した断面図である。
第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bは、互いの内周面のピン溝18が軸方向で直線状に整列するように、図示しない複数の位置決めピンによって位置決めされ、その状態でボルト45によって相互に連結されている。なお、複数の位置決めピンは、ボルト45と同様に回転中心軸線c1周りに等角度離間して配置されている。
【0039】
ここで、ケース11を構成する第1分割ブロック11Aと第2分割ブロックは、ケース11の内周面のピン溝18を軸方向で等長に二分割するように分割されている。
図3に示すように、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの内側の端面11Ae,11Beの内周縁部には、端面11Ae,11Be側と径方向内側に開口する切欠き部30が環状に形成されている。第1分割ブロック11A側の切欠き部30と第2ブロック側の切欠き部30は、両分割ブロック11A,11Bが連結されたときに、内周側に開口する環状溝を構成する。こうして構成される環状溝は、ケース11内に充填される図示しない潤滑剤を内部に安定して滞留させることができる。
【0040】
つづいて、減速機10のケース11の製造方法について説明する。
最初に、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの概略形状を鋳造等によって造形する。
この後に、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの各内周面に、切削工具による切削によってピン溝18を形成する。このとき、各分割ブロック11A,11Bでは、軸方向の一端側から他端側に向かって切削を行う。
このとき、切削に際してピン溝18の軸方向の一端側から他端側に向かってピン溝18の深さが変化することがあるが、各分割ブロック11A,11Bのピン溝18の軸方向長さは、ケース11全体のピン溝18の長さの約半分であるため、ピン溝18の深さのバラつきは小さくなる。
【0041】
図3中の符号w1は、ケース11を第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bによって構成したときのピン溝18の深さのバラつきであり、符号w2fは、ケース11を一体ブロックによって構成したときのピン溝18の深さのバラつきである。
図3に示すように、ケース11を第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bによって構成した場合には、ケース11を一体ブロックによって構成した場合に比較して、ピン溝18の深さのバラつきを約半分に抑えることができる。
【0042】
以上のように、本実施形態の減速機10は、ケース11のピン溝18が形成される部位が、当該ピン溝18を軸方向で分割する複数の分割ブロック(第1分割ブロック11A、及び、第2分割ブロック11B)によって構成されている。このため、各分割ブロック毎にピン溝18を個別に切削加工することができる。したがって、ピン溝18の軸方向での深さのバラつきをより小さくすることができる。
よって、本実施形態の減速機10を採用した場合には、減速機10の作動時における内歯ピン20の傾きを小さくし、内歯ピン20とピン溝18の接触を安定させることができる。
なお、本実施形態では、ケース11が第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bによって構成されているが、ケース11の軸方向での分割数は二分割に限定されない。三分割やそれ以上であっても良い。
【0043】
また、本実施形態の減速機10は、内歯ピン20が、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの各ピン溝18に収容される第1分割ピン20Aと第2分割ピン20Bによって構成されている。この場合、分割ブロック(第1分割ブロック11A、及び、第2分割ブロック11B)の各ピン溝18に個別に分割ピン(第1分割ピン20A、及び、第2分割ピン20B)が収容されるため、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが揺動回転する際に、内歯ピン20に不要な応力がより作用しにくくなる。このため、本構成を採用した場合には、減速機10の作動時における内歯ピン20(第1分割ピン20A、及び、第2分割ピン20B)とピン溝18の接触をより安定させ、減速機10の耐久性が高めることができる。
ただし、本実施形態では、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの各ピン溝18に、独立した第1分割ピン20Aと第2分割ピン20Bが夫々個別に収容されているが、各ブロックのピン溝18に連続した長さの単一の内歯ピンを収容することも可能である。
【0044】
また、本実施形態の減速機10は、ケース11が、ピン溝18を軸方向で等長に二分割するように分割された第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bによって構成されている。このため、本実施形態の減速機10の構成を採用した場合には、ケース11の構造が複雑化するのを抑制しつつ、ピン溝18の軸方向での深さのバラつきを効率良く抑制することができる。
【0045】
さらに、本実施形態の減速機10は、軸方向で対向する第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの端面11Ae,11Beの間に、切欠き部30による内周側に開口する環状溝が設けられている。このため、本構成を採用した場合には、両端面11Ae,11Be間に形成される環状溝にケース11内の潤滑剤を滞留させ、ケース11内の動作部の潤滑性をより高めることができる。
【0046】
また、本実施形態の減速機10は、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bが、周方向に等角度離間した位置において、複数のボルト45(締結部材)によって連結されている。このため、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bを周方向でバランス良く締結し、第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bの端面11Ae,11Be間に隙間をできにくくすることができる。
【0047】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、ピン溝18を軸方向で等長に二分割するように第1分割ブロック11Aと第2分割ブロック11Bが構成されているが、ピン溝を軸方向で不等長に分割するように複数の分割ブロックを構成することも可能である。
また、上記の実施形態では、減速機10とともに回転機器100を構成する回転駆動源としてモータ50を採用しているが、回転駆動源は回転動力を伝達し得るものであれば、電動式のモータに限定されない。例えば、直動式のアクチュエータの動きを回転方向の動きに変化するものであっても良い。
【0048】
また、本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていれば良い。
【符号の説明】
【0049】
10…減速機、11…ケース、11A…第1分割ブロック(分割ブロック)、11B…第2分割ブロック(分割ブロック)、13A…第1キャリアブロック(キャリア)、13B…第2キャリアブロック(キャリア)、15A…第1揺動歯車(揺動歯車)、15B…第2揺動歯車(揺動歯車)、18…ピン溝、20…内歯ピン、20A…第1分割ピン、20B…第2分割ピン、30…切欠き部(環状溝)、45…ボルト(締結部材)、50…モータ(回転駆動源)、100…回転機器。