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特開2024-24408繊維強化複合材及び繊維強化複合材の製造方法
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  • 特開-繊維強化複合材及び繊維強化複合材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024408
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】繊維強化複合材及び繊維強化複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/14 20060101AFI20240215BHJP
   D02G 3/40 20060101ALI20240215BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
B29B15/14
D02G3/40
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127214
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中塚 和希
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼比良 剛
【テーマコード(参考)】
4F072
4L036
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB15
4F072AB22
4F072AC04
4F072AC10
4F072AD04
4F072AE08
4F072AF02
4F072AH06
4F072AH18
4F072AH49
4F072AL01
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA17
4L036PA26
4L036UA07
4L036UA25
(57)【要約】
【課題】性能の均一性を高めることができる繊維強化複合材を提供する。
【解決手段】本発明に係る繊維強化複合材は、繊維束と、樹脂と、フィラーとを含み、前記樹脂が、前記繊維束の内部及び前記繊維束の外部に存在しており、前記フィラーが、前記繊維束の内部に存在している第1のフィラーと、前記繊維束の外部に存在しておりかつ前記繊維束と接触していない第2のフィラーとを含み、繊維強化複合材の断面を観察したときに、前記第1のフィラーの分散度が30%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束と、樹脂と、フィラーとを含み、
前記樹脂が、前記繊維束の内部及び前記繊維束の外部に存在しており、
前記フィラーが、前記繊維束の内部に存在している第1のフィラーと、前記繊維束の外部に存在しておりかつ前記繊維束と接触していない第2のフィラーとを含み、
繊維強化複合材の断面を観察したときに、前記第1のフィラーの分散度が30%以上である、繊維強化複合材。
【請求項2】
繊維強化複合材の断面を観察したときに、前記第1のフィラーの分散度が、前記第2のフィラーの分散度よりも小さい、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項3】
前記フィラーの平均粒子径が0.5μm以上25μm以下である、請求項1又は2に記載の繊維強化複合材。
【請求項4】
フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束と、樹脂及びフィラーを含む含浸材料とを用いて、前記開繊繊維束の内部に、前記含浸材料を含浸させる工程を備える、繊維強化複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーを含む繊維強化複合材に関する。また、本発明は、フィラーを含む繊維強化複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス樹脂が、炭素繊維等の強化繊維によって強化された繊維強化複合材が知られている。繊維強化複合材は、軽量でありながら、強度、剛性及び寸法安定性に優れるという利点を有する。そのため、繊維強化複合材は、自動車及び航空機等の車両、事務機器、ICトレイ、ノートパソコンの筐体、止水板、並びに風車翼等の様々な用途に用いられており、その需要は年々増加しつつある。
【0003】
また、フィラーを含む繊維強化複合材も知られている。例えば、下記の特許文献1には、導電性を有するフィラーを含む繊維強化複合材が記載されており、下記の特許文献2には、磁性を有するフィラーを含む繊維強化複合材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-167282号公報
【特許文献2】特開2019-006960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記フィラーは、繊維強化複合材を製造する際に、樹脂を繊維束の内部に良好に含浸させるために用いられたり、上記フィラーが有する性能(例えば、導電性及び磁性等)を、繊維強化複合材に付与するために用いられたりしている。
【0006】
従来、フィラーを含む繊維強化複合材は、繊維束に樹脂とフィラーとの混合物を含浸させる方法、又はフィラーによって開繊された開繊繊維束に樹脂を含浸させる方法により製造されている。
【0007】
しかしながら、繊維束に樹脂とフィラーとの混合物を含浸させる従来の製造方法では、繊維束の内部にフィラーが分散し難い。また、開繊繊維束に樹脂を含浸させる従来の製造方法では、繊維束の外部にフィラーが分散し難い。そのため、従来の製造方法では、繊維束の内部及び外部にフィラーが良好に分散した繊維強化複合材を得ることは困難である。
【0008】
繊維束の内部及び外部にフィラーが良好に分散していない場合には、繊維強化複合材の性能にばらつきが生じることがある。
【0009】
本発明の目的は、性能の均一性を高めることができる繊維強化複合材を提供することである。また、本発明は、得られる繊維強化複合材において、性能の均一性を高めることができる繊維強化複合材の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の広い局面によれば、繊維束と、樹脂と、フィラーとを含み、前記樹脂が、前記繊維束の内部及び前記繊維束の外部に存在しており、前記フィラーが、前記繊維束の内部に存在している第1のフィラーと、前記繊維束の外部に存在しておりかつ前記繊維束と接触していない第2のフィラーとを含み、繊維強化複合材の断面を観察したときに、前記第1のフィラーの分散度が30%以上である、繊維強化複合材が提供される。
【0011】
本発明に係る繊維強化複合材のある特定の局面では、繊維強化複合材の断面を観察したときに、前記第1のフィラーの分散度が、前記第2のフィラーの分散度よりも小さい。
【0012】
本発明に係る繊維強化複合材のある特定の局面では、前記フィラーの平均粒子径が0.5μm以上25μm以下である。
【0013】
本発明の広い局面によれば、フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束と、樹脂及びフィラーを含む含浸材料とを用いて、前記開繊繊維束の内部に、前記含浸材料を含浸させる工程を備える、繊維強化複合材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る繊維強化複合材は、繊維束と、樹脂と、フィラーとを含み、上記樹脂が、上記繊維束の内部及び上記繊維束の外部に存在しており、上記フィラーが、上記繊維束の内部に存在している第1のフィラーと、上記繊維束の外部に存在しておりかつ上記繊維束と接触していない第2のフィラーとを含む。本発明に係る繊維強化複合材では、繊維強化複合材の断面を観察したときに、上記第1のフィラーの分散度が30%以上である。本発明に係る繊維強化複合材では、上記の構成が備えられているので、性能の均一性を高めることができる。
【0015】
本発明に係る繊維強化複合材の製造方法は、フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束と、樹脂及びフィラーを含む含浸材料とを用いて、上記開繊繊維束の内部に、上記含浸材料を含浸させる工程を備える。本発明に係る繊維強化複合材の製造方法では、上記の構成が備えられているので、得られる繊維強化複合材において、性能の均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材の断面を模式的に示す図である。
図2図2は、第1のフィラーの分散度の算出方法を説明するための図である。
図3図3は、実施例1で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
(繊維強化複合材)
本発明に係る繊維強化複合材は、繊維束と、樹脂と、フィラーとを含み、上記樹脂が、上記繊維束の内部及び上記繊維束の外部に存在しており、上記フィラーが、上記繊維束の内部に存在している第1のフィラーと、上記繊維束の外部に存在しておりかつ上記繊維束と接触していない第2のフィラーとを含む。本発明に係る繊維強化複合材では、繊維強化複合材の断面を観察したときに、上記第1のフィラーの分散度が30%以上である。
【0019】
本発明に係る繊維強化複合材では、上記の構成が備えられているので、性能の均一性を高めることができる。本発明に係る繊維強化複合材では、フィラーの種類に応じた性能を繊維強化複合材が発揮することができ、かつ、繊維強化複合材の位置による性能のばらつきが生じ難い。
【0020】
本明細書において、繊維束の内部及び繊維束の外部はそれぞれ、以下のようにして求められる領域である。
【0021】
繊維束の繊維の径方向に沿う繊維強化複合材の断面を電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)により撮影する。電子顕微鏡写真において、繊維束の最外周に配置されている繊維のうち、隣り合う2本の繊維の共通接線を求める。電子顕微鏡写真において、共通接線と、繊維束の最外周に配置されている繊維の外周面とにより構成される線を、繊維束の外縁とする。上記繊維束の内部とは、上記繊維束の外縁よりも内側の領域である。上記繊維束の外部とは、上記繊維束の外縁よりも外側の領域である。
【0022】
上記第1のフィラーは、フィラー全体が上記繊維束の内部に存在しているフィラーである。上記第2のフィラーは、フィラー全体が上記繊維束の外部に存在しているフィラーである。上記繊維束の外縁にまたがって存在しているフィラー及び上記繊維束の外部に存在しているものの上記繊維束と接触しているフィラーは、第1,第2のフィラーに該当しないフィラー(第3のフィラー)である。
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明する。なお、以下の図において、図示の便宜上、各構成要素の大きさは、実際の大きさと異なる場合がある。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材の断面を模式的に示す図である。図1では、繊維強化複合材に含まれる繊維束の繊維の径方向に沿う断面図が示されている。また、図1では、点線で囲んだ部分の拡大図も示されている。
【0025】
図1に示す繊維強化複合材5は、繊維束1と、樹脂2と、フィラーとを含む。繊維束1は、複数の繊維11を含む。図1では、繊維束1の外縁1aが、略円形に示されている。繊維束1の外縁1aよりも繊維束1の内側の領域が、繊維束1の内部R1である。繊維束1の外縁1aよりも繊維束1の外側の領域が、繊維束1の外部R2である。
【0026】
樹脂2は、繊維束1の内部R1及び繊維束1の外部R2に存在している。フィラーは、繊維束1の内部R1に存在している第1のフィラー31と、繊維束1の外部R2に存在しておりかつ繊維束1と接触していない第2のフィラー32とを含む。繊維束1の内部R1には、樹脂2と、複数の第1のフィラー31が存在している。繊維束1の外部R2には、樹脂2と、複数の第2のフィラー32が存在している。
【0027】
繊維強化複合材5の断面を観察したときに、第1のフィラー31の分散度は30%以上である。
【0028】
上記繊維強化複合材の断面を観察したときに、上記第1のフィラーの分散度は、30%以上であり、好ましくは32%以上、より好ましくは35%以上、更に好ましくは37%以上、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、更に好ましくは60%以下である。上記第1のフィラーの分散度が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0029】
上記第1のフィラーの分散度は、上記第2のフィラーの分散度よりも大きくてもよく、小さくてもよい。上記第1のフィラーの分散度と上記第2のフィラーの分散度とは、同じであってもよい。
【0030】
なお、通常、上記第1のフィラーの分散度は、上記第2のフィラーの分散度よりも小さい。
【0031】
上記第1のフィラーの分散度と上記第2のフィラーの分散度との差の絶対値は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下である。上記差の絶対値が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。上記第1のフィラーの分散度と上記第2のフィラーの分散度との差の絶対値は、1%以上であってもよく、5%以上であってもよい。
【0032】
上記第1のフィラーの分散度、及び上記差の絶対値を上記の好ましい範囲に制御する方法としては、例えば、後述の「繊維強化複合材の製造方法」の欄に記載の方法により、繊維強化複合材を製造する方法が挙げられる。
【0033】
上記第1のフィラーの分散度及び上記第2のフィラーの分散度は、具体的には、以下のようにして測定される。
【0034】
(1)電子顕微鏡による撮影:
繊維強化複合材を切削し、上記繊維強化複合材の断面Xを露出させたサンプルXを作製する。サンプルXの断面Xは、上記繊維束の繊維の径方向に沿う上記繊維強化複合材の断面であることが好ましい。繊維強化複合材を切削せずに、断面が露出するように、繊維強化複合材を切断してもよい。なお、サンプルXの断面Xは、表面研磨されていてもよい。
【0035】
上記繊維束の形態が綾織である場合など、上記繊維束が、例えば、第1の方向に配向した第1の繊維と第2の方向に配向した第2の繊維とを含む場合には、上記断面Xとして、上記第2の繊維が存在しない位置の断面又は上記第2の繊維の本数が少ない位置の断面を選択することが好ましい。この場合には、画像解析を容易にすることができる。画像解析を容易にする観点から、上記断面Xにおける上記第1の繊維以外の繊維の本数は少ないほど好ましい。
【0036】
電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)を用いて、上記断面Xにおける繊維束の内部及び繊維束の外部をそれぞれ撮影する。繊維束の内部の撮影では、電子顕微鏡写真に存在する繊維の本数が100本~500本程度となる倍率とすることが好ましい。繊維束の内部と繊維束の外部とは、同じ倍率で撮影されることが好ましい。上記電子顕微鏡の倍率は、例えば、100倍とすることができる。電子顕微鏡の倍率を100倍とすることにより、繊維束の内部の電子顕微鏡写真に存在する繊維の本数を100本~500本程度とすることができ、画像解析を容易にすることができる。なお、上記電子顕微鏡の倍率は、100倍以上であってもよい。
【0037】
なお、断面Xにおいて、樹脂が含浸していない領域(例えばボイド)が存在することがある。この場合には、樹脂が含浸していない領域が存在しない領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0038】
(2)繊維束の繊維の平均繊維径(Df)の算出:
上記断面Xで観察される繊維の繊維径をそれぞれ算出し、平均繊維径(Df)を算出する。上記平均繊維径(Df)は、数平均繊維径であり、上記断面Xで観察される繊維の繊維径の相加平均値である。上記繊維径とは、上記断面Xで観察される繊維の形状が円の場合は、該円の直径を意味し、上記断面Xで観察される繊維の形状が楕円の場合は、該楕円の長径を意味する。また、上記断面Xで観察される繊維の形状が円及び楕円以外の形状の場合は、上記繊維径とは、円相当径の直径を意味する。
【0039】
上記平均繊維径(Df)は、400本以上の繊維から求められることが好ましい。得られた電子顕微鏡写真に400本以上の繊維が存在しない場合には、繊維の本数が400本以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0040】
(3)第1のフィラーの分散度の算出:
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、繊維束の内側の領域を、画像解析に用いる領域(X)として選択する。なお、繊維束の最外周に配置されている繊維が不明瞭である場合には、繊維束の内部であることが明らかである領域から第1のフィラーを選択してもよい。画像解析を容易にする観点から、上記領域(X)は長方形の領域であることが好ましく、繊維束の最外周に配置されている繊維を含まない長方形の領域であることがより好ましい。上記第1のフィラーの分散度は、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記領域(X)を、1辺の長さが繊維束の繊維の平均繊維径(Df)である複数の正方形の領域(UX)に分割したときに、下記式(P1)にて算出される。上記領域(X)の1つの角を起点に、該領域(X)の縦方向及び横方向に、上記正方形の領域(UX)を順に付与する。例えば、上記平均繊維径(Df)が10μmである場合には、上記領域(X)を、縦10μm×横10μmの正方形の領域に分割する。上記領域(X)に上記正方形の領域(UX)を付与可能な位置まで、該領域を付与する。
【0041】
第1のフィラーの分散度(%)=P1A/P1B×100 ・・・(P1)
【0042】
1A:領域(X)における第1のフィラーが含まれる正方形の領域(UX)の数
1B:領域(X)における正方形の領域(UX)の総数
【0043】
上記第1のフィラーは、400本以上の繊維が存在する上記領域(X)から求められることが好ましい。上記領域(X)に400本以上の繊維が存在しない場合には、繊維の本数が400本以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0044】
図2を参照しつつ、上記第1のフィラーの分散度の算出方法についてより詳細に説明する。なお、図示の都合上、図2では、上記領域(X)中の9個の正方形の領域(UX)が示されており、また、上記領域(X)で観察される第1のフィラーのうち、4個の第1のフィラー31A,31B,31C,31Dが示されている。また、図2では、樹脂及び繊維は図示されていない。
【0045】
図2では、上記正方形の領域(UX)(1辺の長さが平均繊維径(Df)である正方形の領域)として、領域U1~U9が示されている。第1のフィラー31Aは領域U2に存在する。第1のフィラー31Bは領域U4に存在する。第1のフィラー31Cは領域U9に存在する。第1のフィラー31Dは領域U8,U9をまたいで存在する。なお、第1のフィラー31Dのように1つのフィラーが複数の領域をまたいで存在する場合には、該フィラーがまたいで存在するそれぞれの領域に、該フィラーが存在するものとする。したがって、第1のフィラー31Dは、領域U8と領域U9とに存在するとみなす。
【0046】
実際の電子顕微鏡写真では、領域(X)を多数の上記正方形の領域(UX)に分割することができるが、図2の9個の正方形の領域(UX)及び4個の第1のフィラーから、上記第1のフィラーの分散度を算出すると仮定すると、P1Aは、領域U2,U4,U8,U9の数である「4」であり、P1Bは、領域U1~U9の数である「9」である。したがって、図2の場合には、上記第1のフィラーの分散度は、44.4%(=4/9×100)として求められる。
【0047】
(4)第2のフィラーの分散度の算出:
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、繊維束の外側の領域であって、第2のフィラー以外のフィラーが存在しない領域を、画像解析に用いる領域(Y)として選択する。なお、繊維束の最外周に配置されている繊維が不明瞭である場合には、繊維束の外部であることが明らかである領域から第2のフィラーを選択してもよい。画像解析を容易にする観点から、上記領域(Y)は長方形の領域であることが好ましい。上記第2のフィラーの分散度は、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記領域(Y)を、1辺の長さが繊維束の繊維の平均繊維径(Df)である複数の正方形の領域(UY)に分割したときに、下記式(P2)にて算出される。上記領域(Y)の1つの角を起点に、該領域(Y)の縦方向及び横方向に、上記正方形の領域(UY)を順に付与する。例えば、上記平均繊維径(Df)が10μmである場合には、上記領域(Y)を、縦10μm×横10μmの正方形の領域に分割する。上記領域(Y)に上記正方形の領域(UY)を付与可能な位置まで、該領域を付与する。
【0048】
第2のフィラーの分散度(%)=P2A/P2B×100 ・・・(P2)
【0049】
2A:領域(Y)における第2のフィラーが含まれる正方形の領域(UY)の数
2B:領域(Y)における正方形の領域(UY)の総数
【0050】
なお、第2のフィラーの分散度も、図2を参照して説明した上記第1のフィラーの分散度と同様の考え方に基づいて求められる。
【0051】
以下、本発明に係る繊維強化複合材について更に説明する。
【0052】
<繊維束>
上記繊維強化複合材は、繊維束を含む。上記繊維強化複合材は、1つの繊維束のみを含んでいてもよく、複数の繊維束を含んでいてもよい。上記繊維束は、複数の繊維により形成されている。上記繊維束は、第1の方向に配向した第1の繊維を含むことが好ましい。上記繊維束の繊維は、第1の繊維を含むことが好ましい。上記第1の繊維は、上記第1の方向に引き揃えられていることが好ましい。上記繊維束は、上記第1の方向とは異なる方向に配向した繊維を含んでいてもよい。上記繊維束は、上記第1の繊維と、上記第2の方向(上記第1の方向とは直交する方向)に配向した第2の繊維とを含んでいてもよい。上記繊維束は、上記第1の繊維と、上記第2の繊維とを含んでいてもよい。上記第1の繊維と上記第2の繊維とを含む上記繊維束は、例えば、綾織の繊維束である。上記繊維束の繊維は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記繊維束は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
上記繊維束に含まれる繊維の本数は、好ましくは1000本以上、より好ましくは3000本以上、好ましくは50000本以下、より好ましくは30000本以下である。
【0054】
上記繊維束の繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維、セラミック繊維及び金属繊維等の化成繊維、並びに、竹繊維、麻繊維、綿繊維及びバサルト繊維等の天然繊維等が挙げられる。
【0055】
上記炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維;石油タール又は石油ピッチ等を原料とするピッチ系炭素繊維;ビスコースレーヨン又は酢酸セルロース等を原料とするセルロース系炭素繊維;炭化水素等を原料とする気相成長系炭素繊維;これらの黒鉛化繊維等が挙げられる。強度と弾性率とのバランスに優れるため、上記炭素繊維としてPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0056】
上記ガラス繊維としては、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、及びTガラス繊維(高強度、高弾性率)等が挙げられる。
【0057】
上記アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維等が挙げられる。上記パラ系アラミド繊維は、強度及び弾性率に優れる繊維である。上記メタ系アラミド繊維は、難燃性及び長期耐熱性に優れる繊維である。上記パラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維及びコポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維等が挙げられる。上記メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維等が挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率が高いため、パラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0058】
上記金属繊維としては、鉄繊維、金繊維、銀繊維、銅繊維、アルミニウム繊維、黄銅繊維及びステンレス繊維等が挙げられる。
【0059】
上記バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した繊維であり、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物である。
【0060】
繊維強化複合材の機械的強度を高める観点からは、上記繊維束の繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、又はアラミド繊維を含むことが好ましい。
【0061】
繊維強化複合材の軽量化の観点からは、上記繊維束の繊維は、炭素繊維、又はアラミド繊維であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。
【0062】
繊維強化複合材の製造コストを抑える観点からは、上記繊維束の繊維は、ガラス繊維であることが好ましい。
【0063】
上記繊維束の繊維は、連続繊維であることが好ましい。上記連続繊維は、例えば、一方向連続繊維(UD;Uni Direction繊維)及び織物等に含まれる繊維であり、断面方向に連続的に存在する。なお、本発明における繊維形態は特に限定されず、例えば、上記繊維は長繊維として、チョップドマット及び不織布等に含まれていてもよい。
【0064】
上記繊維束の繊維の平均繊維長は、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上、更に好ましくは40mm以上、好ましくは200mm以下、より好ましくは150mm以下、更に好ましくは100mm以下である。上記平均繊維長が上記下限以上であると、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。上記平均繊維長が上記上限以下であると、繊維強化複合材の機械的強度のばらつきを抑えることができる。
【0065】
上記繊維束の繊維の平均繊維長は、数平均繊維長であり、ランダムに選択した100本の繊維の繊維長の相加平均値である。上記繊維長とは、繊維の一方の端部から他方の端部までの長さである。
【0066】
上記繊維束の繊維の平均繊維径(Df)は、好ましくは5μm以上、より好ましくは6μm以上、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0067】
上記平均繊維径(Df)は、上述した方法に従って求められる。
【0068】
上記繊維束の目付は、好ましくは20g/m以上、より好ましくは100g/m以上、更に好ましくは150g/m以上、好ましくは1000g/m以下、より好ましくは800g/m以下、更に好ましくは500g/m以下である。上記目付が上記下限以上であると、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。上記目付が上記上限以下であると、樹脂の含浸性をより一層高めることができ、従って、繊維強化複合材の曲げ強度及び圧縮強度をより一層高めることができる。
【0069】
上記繊維束の形態としては、UD(Uni Direction)、織物、編物、及び不織布等が挙げられる。
【0070】
繊維強化複合材の強度をより一層高める観点からは、上記繊維束の形態は、一方向連続繊維又は織物であることが好ましく、織物であることがより好ましい。上記繊維束は、複数の繊維束が厚み方向に積層された繊維束であってもよい。
【0071】
上記繊維束は、繊維束本体と、繊維の外表面に配置されたバインダ剤部とを備えていてもよい。上記バインダ剤部は、バインダ剤により形成された部分である。上記バインダ剤を用いることにより、上記繊維束と上記樹脂とを良好に接着させることができ、また、上記繊維束と上記フィラーとを良好に接着させることができる。
【0072】
上記バインダ剤としては、ポリアルキレングリコール、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン、ビニルエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。上記バインダ剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、バインダ剤には、水分散させるための界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0073】
上記繊維束100重量%中、上記バインダ剤の含有量(繊維束本体に付着しているバインダ剤の量)は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは1.0重量%以上、好ましくは7.0重量%以下、より好ましくは5.0重量%以下、更に好ましくは3.0重量%以下である。
【0074】
上記繊維束本体と上記バインダ剤部とを備える繊維束として、市販されているバインダ剤付きの繊維束をそのまま用いてもよい。また、バインダ剤が付着していない繊維束(繊維束本体)に別途バインダ剤を付与して、上記繊維束本体と上記バインダ剤部とを備える繊維束を得てもよい。
【0075】
上記繊維強化複合材100体積%中、上記繊維束の含有量は、好ましくは30体積%以上、より好ましくは40体積%以上、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下である。上記繊維束の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。
【0076】
<樹脂>
上記繊維強化複合材は、樹脂(マトリックス樹脂)を含む。上記繊維強化複合材は、樹脂により構成された樹脂部を含む。上記樹脂は、上記繊維束の内部及び上記繊維束の外部に存在している。上記樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0077】
上記樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン樹脂(PAEK)、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES)、ポリエーテルケトンケトン樹脂(PEKK)、熱可塑性ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリフタルアミド樹脂(PPA)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、これらの樹脂の共重合体、及びこれらの樹脂の変性体等が挙げられる。耐衝撃性を高める観点から、上記樹脂は、エラストマー又はゴム成分に由来する骨格を有していてもよい。
【0078】
上記樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、又はポリエーテルサルフォン樹脂であることがより好ましく、ポリプロピレン樹脂であることが更に好ましい。この場合には、成形加工性、リサイクル性及び連続生産性を高めることができる。
【0079】
上記繊維強化複合材100体積%中、上記樹脂の含有量は、好ましくは40体積%以上、より好ましくは50体積%以上、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下である。上記樹脂の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。
【0080】
<フィラー>
上記繊維強化複合材は、フィラーを含む。上記フィラーは、上記繊維束の内部に存在している第1のフィラーと、上記繊維束の外部に存在しておりかつ上記繊維束と接触していない第2のフィラーとを含む。上記第1のフィラーは、上記繊維束の繊維の外周面上に配置されていることが好ましい。上記フィラー、上記第1のフィラー及び上記第2のフィラーはそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0081】
上記フィラーは、有機粒子(有機フィラー)であってもよく、無機粒子(無機フィラー)であってもよい。
【0082】
上記有機粒子としては、熱可塑性樹脂粒子、弾性体粒子、及び熱硬化性樹脂粒子等が挙げられる。
【0083】
上記熱可塑性樹脂粒子としては、アクリル系樹脂粒子、アクリル-スチレン系樹脂粒子、メラミン系樹脂粒子、ベンゾグアナミン系樹脂粒子、及び軟質塩化ビニル樹脂粒子等が挙げられる。
【0084】
上記弾性体粒子としては、エラストマー粒子、及びゴム粒子等が挙げられる。上記エラストマー粒子としては、熱可塑性エラストマー粒子等が挙げられる。
【0085】
上記エラストマー粒子としては、スチレン系熱可塑性エラストマー粒子、オレフィン系熱可塑性エラストマー粒子、PVC系熱可塑性エラストマー粒子、EVA系熱可塑性エラストマー粒子、ウレタン系熱可塑性エラストマー粒子、及びポリエステル系熱可塑性エラストマー粒子等が挙げられる。上記ゴム粒子としては、天然ゴム粒子、イソプレンゴム粒子、ブタジエンゴム粒子、スチレンブタジエンゴム粒子、クロロプレンゴム粒子、ニトリルゴム粒子、ブチルゴム粒子、エチレンプロピレンゴム粒子、クロロスルホン化ゴム粒子、ポリエチレン粒子、アクリルゴム粒子、フッ素ゴム粒子、エピクロロヒドリンゴム粒子、ウレタンゴム粒子、及びシリコーンゴム粒子等が挙げられる。
【0086】
上記無機粒子としては、シリカ粒子、タルク粒子、セラミック粒子、短繊維粒子、金属粒子、炭素粒子、及び炭酸カルシウム粒子等が挙げられる。
【0087】
上記短繊維粒子とは、繊維長が10mm以下の繊維粒子である。上記短繊維粒子としては、ガラス繊維粒子、及び炭素繊維粒子等が挙げられる。上記金属粒子としては、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、チタン粒子、チタン酸バリウム粒子、珪酸アルミニウム粒子、珪酸マグネシウム粒子、マイカ粒子、ジルコニア粒子、ステンレス粒子、フェライト粒子、鉄粒子、及び銅粒子等が挙げられる。上記炭素粒子としては、アモルファスカーボン粒子、及びグラファイト粒子等が挙げられる。
【0088】
上記フィラーは、弾性体粒子又は無機粒子であることが好ましい。この場合には、繊維強化複合材において、上記フィラーが有する性能を効果的に発揮することができる。
【0089】
上記フィラーは、弾性体粒子であることが好ましい。この場合には、繊維強化複合材に耐衝撃性能を付与することができる。弾性体粒子を含む上記繊維強化複合材では、耐衝撃性能を高めることができ、かつ、耐衝撃性能の均一性を高めることができる。
【0090】
上記フィラーは、酸化チタン粒子であることが好ましい。この場合には、繊維強化複合材に圧電性能を付与することができる。酸化チタン粒子を含む上記繊維強化複合材では、圧電性能を高めることができ、かつ、圧電性能の均一性を高めることができる。酸化チタン粒子を含む上記繊維強化複合材では、衝撃に対して微弱電流を発生させることができるので、上記繊維強化複合材の欠陥及び劣化を効果的に診断することができる。
【0091】
上記フィラーは、シリカ粒子、タルク粒子、短繊維粒子又はアルミナ粒子であることが好ましい。シリカ粒子、タルク粒子、短繊維粒子又はアルミナ粒子を含む上記繊維強化複合材では、機械的強度を高めることができ、かつ、機械的強度の均一性を高めることができる。
【0092】
上記フィラーは、炭酸カルシウム粒子であることが好ましい。炭酸カルシウム粒子を含む上記繊維強化複合材では、難燃性能を高めることができ、かつ、難燃性能の均一性を高めることができる。
【0093】
上記フィラーは、金属粒子であることが好ましい。金属粒子を含む上記繊維強化複合材では、放熱性能及び導電性能を高めることができ、かつ、放熱性能及び導電性能の均一性を高めることができる。
【0094】
上記フィラーの形状は特に限定されない。上記フィラーの形状は、球状であってもよく、扁平状、鱗片状及び立方体状等の球状以外の形状であってもよい。
【0095】
上記繊維束の内部のフィラー(第1のフィラー)の分散度をより一層高める観点からは、上記フィラーの形状は、球状であることが好ましい。
【0096】
熱の伝搬性又は電気の伝搬性を高める観点からは、上記フィラーの形状は、球状以外の形状であることが好ましい。熱の伝搬性又は電気の伝搬性を高める観点からは、上記フィラーの平均アスペクト比は、好ましくは1以上、より好ましくは30以上、好ましくは50以下である。
【0097】
上記フィラーの平均アスペクト比は、各フィラーの長径/短径の平均値を算出することにより求められる。
【0098】
上記フィラーの平均アスペクト比は、上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用いて求められる。
【0099】
上記フィラーの平均アスペクト比は、100個以上のフィラーから求められることが好ましく、50個以上の第1のフィラーと50個以上の第2のフィラーとから求められることがより好ましい。得られた電子顕微鏡写真に100個以上のフィラーが存在しない場合には、フィラーの個数が100個以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0100】
上記フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上、特に好ましくは2μm以上、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下である。上記平均粒子径が上記下限以上であると、繊維束の開繊状態が良好に維持されるのでマトリックス樹脂の含浸性をより一層高めることができ、従って、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。上記平均粒子径が上記上限以下であると、上記繊維束の内部のフィラー(第1のフィラー)の分散度をより一層高めることができる。
【0101】
上記フィラーの平均粒子径は、上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用いて求められる。
【0102】
上記フィラーの平均粒子径は、数平均粒子径であり、上記断面Xで観察されるフィラーの粒子径の相加平均値である。上記粒子径とは、上記断面Xで観察されるフィラーの形状が円の場合は、該円の直径を意味し、上記断面Xで観察されるフィラーの形状が楕円の場合は、該楕円の長径を意味する。また、上記断面Xで観察されるフィラーの形状が円及び楕円以外の形状の場合は、上記粒子径とは、円相当径の直径を意味する。
【0103】
上記フィラーの平均粒子径は、100個以上のフィラーから求められることが好ましく、50個以上の第1のフィラーと50個以上の第2のフィラーとから求められることがより好ましい。得られた電子顕微鏡写真に100個以上のフィラーが存在しない場合には、フィラーの個数が100個以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0104】
上記繊維束100重量部に対して、上記フィラーの含有量は、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。上記フィラーの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、繊維束の開繊状態が良好に維持されるのでマトリックス樹脂の含浸性をより一層高めることができ、従って、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。上記フィラーの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記第1のフィラー及び上記第2のフィラーの含有量を適度に多くすることができるので、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0105】
<他の成分>
上記繊維強化複合材は、上述した成分(繊維束、樹脂及びフィラー)以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、界面活性剤等が挙げられる。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0106】
<繊維強化複合材の他の詳細>
上記繊維強化複合材の体積抵抗率は、10-5Ω・cm以上であってもよく、10Ω・cm以下であってもよい。
【0107】
上記繊維強化複合材の体積抵抗率は、厚み方向(Z方向)の体積抵抗率であり、以下のようにして測定することができる。
【0108】
試験片である繊維強化複合材(1層のプリプレグ)と、金メッキを施した2枚の電極(縦20mm×縦20mm)とを用意する。これら2枚の電極間に試験片を挟み、電極間に0.75MPaの荷重をかけた状態で、抵抗計(例えば、HIOKI社製「RM3548」)を用いて、試験片のZ方向の電気抵抗値を測定する。下記式により試験片の体積抵抗率を算出する。10枚の試験片のそれぞれについて体積抵抗率を算出し、その平均値を繊維強化複合材の体積抵抗率とする。
【0109】
ρ=RA/d
【0110】
ρ:試験片の体積抵抗率(Ω・cm)
R:試験片の電気抵抗値(Ω)
d:試験片の厚さ(m)
A:試験片の断面積(m
【0111】
(繊維強化複合材の製造方法)
本発明に係る繊維強化複合材の製造方法は、フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束と、樹脂及びフィラーを含む含浸材料とを用いて、上記開繊繊維束の内部に、上記含浸材料を含浸させる工程(A)を備える。本発明に係る繊維強化複合材の製造方法は、フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束を得る工程(B)を備えることが好ましい。上記繊維強化複合材の製造方法では、工程(B)を行わずに、フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束(作製済の開繊繊維束)を用意してもよい。本発明に係る繊維強化複合材の製造方法は、樹脂とフィラーとを含む含浸材料を得る工程(C)を備えることが好ましい。上記繊維強化複合材の製造方法では、工程(C)を行わずに、樹脂とフィラーとを含む含浸材料(作製済の含浸材料)を用意してもよい。
【0112】
本発明に係る繊維強化複合材の製造方法では、上記の構成が備えられているので、得られる繊維強化複合材において、性能の均一性を高めることができる。本発明に係る繊維強化複合材の製造方法では、上述した繊維強化複合材を製造することができる。
【0113】
工程(B)及び工程(C)が行われる場合に、上記繊維強化複合材の製造方法は、工程(B)、工程(C)及び工程(A)の順に行われてもよく、工程(C)、工程(B)及び工程(A)の順に行われてもよく、工程(B)と工程(C)とが同時に行われてもよい。工程(B)が行われ、工程(C)が行われない場合に、上記繊維強化複合材の製造方法は、工程(B)及び工程(A)の順に行われる。工程(C)が行われ、工程(B)が行われない場合に、上記繊維強化複合材の製造方法は、工程(C)及び工程(A)の順に行われる。
【0114】
<フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束、及び、開繊繊維束を得る工程(工程(B))(工程(1)ともいう)>
工程(B)では、繊維束をフィラーによって開繊し、フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束を得る。上記開繊繊維束を得る方法としては、複数のフィラーを含む開繊液を、繊維束に接触させて、繊維束の繊維の外表面にフィラーを接着する方法等が挙げられる。
【0115】
なお、上記開繊液と繊維束との接触方法としては、スプレー、塗布、及び浸漬等の方法が挙げられる。
【0116】
フィラーと接触した繊維束を回転又は振動させたり、ローラー等を用いたりすることにより、上記開繊液が繊維表面に濡れ拡がり、フィラーが繊維間部分に入り込み、開繊繊維束を得ることができる。
【0117】
上記開繊液の繊維表面への濡れ拡がり性を高める観点から、上記開繊液は、有機溶媒を含むことが好ましい。上記有機溶媒としては特に限定されない。作業性の観点からは、上記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、又はアセトンを含むことが好ましい。上記有機溶媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0118】
上記開繊液は、水を含んでいてもよい。また、上記開繊液は、フィラー、有機溶媒及び水のこれら3種以外の成分を含んでいてもよい。
【0119】
上記開繊液100体積%中、上記フィラーの含有量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。上記フィラーの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記第1のフィラーの分散度をより一層大きくすることができる。
【0120】
なお、溶媒(有機溶媒及び水等)を除去するために、上記開繊繊維束を得る工程では、上記開繊液と繊維束とを接触させた後、加熱又は乾燥して、上記開繊繊維束を得ることが好ましい。
【0121】
<樹脂とフィラーとを含む含浸材料、及び、含浸材料を得る工程(工程(C))(工程(2)ともいう)>
上記工程(C)では、樹脂とフィラーとを配合し、樹脂とフィラーとを含む含浸材料を得る。上記含浸材料は、樹脂とフィラーとを混合することにより得ることができる。上記含浸材料は、樹脂及びフィラーの双方とは異なる成分を含んでいてもよい。
【0122】
上記含浸材料100体積%中、上記フィラーの含有量は、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1.0体積%以上、好ましくは50体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。上記フィラーの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記第2のフィラーの分散度をより一層大きくすることができる。
【0123】
<含浸材料を含浸させる工程(工程(A))(工程(3)ともいう)>
上記開繊繊維束の内部に上記含浸材料を含浸させる方法は特に限定されない。例えば、上記フィラーと溶融した樹脂を含む含浸材料を、シートダイ等を用いてフィルム状に押し出し、上記開繊繊維束上に積層した後、加熱しながら圧縮することにより含浸材料を開繊繊維束の内部(繊維間部分)に含浸させる方法等が挙げられる。上記工程(A)では、加熱及び加圧しながら、上記含浸材料を繊維束の内部(繊維間部分)に含浸させることが好ましい。
【0124】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0125】
以下の材料を用意した。
【0126】
(繊維束)
炭素繊維束(東レ社製「T700-60E」)
【0127】
(樹脂)
ポリプロピレン樹脂(下記の作製方法により作製、表では「PP」と記載)
【0128】
<ポリプロピレン樹脂の作製方法>
ホモポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製「J108M」)100重量部と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三洋化成工業社製「ユーメックス1010」)10重量部とを、押出機にて溶融混練した後、フィルム状に押出した。このようにして、フィルム状のポリプロピレン樹脂を得た。
【0129】
(フィラー)
酸化チタン粒子(TiO粒子、テイカ社製「JR-301」)
鉄粒子(Fe粒子、高純度化学社製「FEE16PB」)
フェライト粒子(戸田工業社製「BSN-125」)
【0130】
(その他)
1,5-ジヒドロキシナフタレン(アルドリッチ社製)
40重量%メチルアミン水溶液(富士フイルム和光純薬社製)
ホルマリン(富士フイルム和光純薬社製)
【0131】
(実施例1)
開繊繊維束を得る工程:
10重量部の1,5-ジヒドロキシナフタレンと、4重量部の40重量%メチルアミン水溶液と、8重量部のホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37重量%)と、600重量部のエタノール水(エタノールの含有量:50重量%)とを混合して、モノマー溶液を得た。得られたモノマー溶液に6重量部の酸化チタン粒子を添加し、開繊液を得た。なお、開繊液100体積%中のフィラーの含有量は1.2体積%である。得られた開繊液中に炭素繊維束を浸漬した。次いで、炭素繊維束を取り出し、ローラーで余分な液を除去しながら、均一に押し拡げた。次いで、290℃で3分間加熱して揮発成分(エタノール及び水等)を除去し、開繊繊維束を得た。
【0132】
含浸材料を得る工程:
100重量部のポリプロピレン樹脂と15重量部のフィラー(酸化チタン粒子)とを混合して含浸材料を得た。なお、含浸材料100体積%中のフィラーの含有量は3体積%である。
【0133】
含浸材料を含浸させる工程:
溶融した含浸材料をフィルム状に押し出して、得られた開繊繊維束上に積層した。次いで、200℃(含浸温度)に加熱しながら4MPaの圧力で10分間圧縮することにより、含浸材料を開繊繊維束の内部に含浸させた。このようにして、縦200mm×横200mm×厚み0.5mmの板状の繊維強化複合材を作製した。
【0134】
(実施例2~4)
フィラーの種類及び含浸材料100体積%中のフィラーの含有量を表1に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維強化複合材を作製した。
【0135】
(比較例1~3)
開繊されていない繊維束を用いたこと、フィラーの種類及び含浸材料100体積%中のフィラーの含有量を表2に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維強化複合材を作製した。
【0136】
(評価)
(1)電子顕微鏡による撮影
得られた繊維強化複合材を切削し、上記繊維束の繊維の径方向に沿う上記繊維強化複合材の断面Xを露出させたサンプルX(縦11mm×横9mm×厚み5mm)を作製した。なお、断面Xは、繊維強化複合材の厚み方向の中央の位置における断面である。
【0137】
日本電子社製「クロスセクションポリッシャ」を用いて、サンプルXの断面Xの表面研磨を行った。次いで、走査型電子顕微鏡(日本電子社製「JCM-7000 NeoScope」、測定倍率100倍)を用いて、得られたサンプルXにおける上記断面Xを撮影した。
【0138】
(2)フィラーの平均粒子径
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記フィラーの粒子径をそれぞれ算出し、フィラーの平均粒子径を求めた。なお、フィラーの平均粒子径は、100個以上のフィラーから算出した。
【0139】
(3)繊維束の繊維の平均繊維径(Df)
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記繊維の繊維径をそれぞれ算出し、繊維束の繊維の平均繊維径(Df)を求めた。なお、平均繊維径(Df)は、400本以上の繊維から算出した。その結果、平均繊維径(Df)は、7μmであった。
【0140】
(4)第1のフィラーの分散度
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、繊維束の内側の領域を、画像解析に用いる領域(X)として選択した。なお、上記領域(X)は繊維束の最外周に配置されている繊維を含まない長方形の領域である。画像解析ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記領域(X)を、1辺の長さが上記平均繊維径(Df)である複数の正方形の領域(UX)に分割した。上記平均繊維径(Df)は7μmであるため、上記正方形の領域(UX)は、「縦:7μm及び横:7μmの領域」である。第1のフィラーの分散度を下記式(P1)にて算出した。なお、上記第1のフィラーの分散度は、400本以上の繊維が存在する断面Xから算出した。
【0141】
第1のフィラーの分散度(%)=P1A/P1B×100 ・・・(P1)
【0142】
1A:領域(X)における第1のフィラーが含まれる正方形の領域(UX)の数
1B:領域(X)における正方形の領域(UX)の総数
【0143】
(5)第2のフィラーの分散度
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、繊維束の外側の領域であって、第2のフィラー以外のフィラーが存在しない領域を、画像解析に用いる領域(Y)として選択した。なお、上記領域(Y)は長方形の領域である。画像解析ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記領域(Y)を、1辺の長さが繊維束の繊維の平均繊維径(Df)である複数の正方形の領域(UY)に分割した。上記平均繊維径(Df)は7μmであるため、上記正方形の領域(UY)は、「縦:7μm及び横:7μmの領域」である。第2のフィラーの分散度を下記式(P2)にて算出した。
【0144】
第2のフィラーの分散度(%)=P2A/P2B×100 ・・・(P2)
【0145】
2A:領域(Y)における第2のフィラーが含まれる正方形の領域(UY)の数
2B:領域(Y)における正方形の領域(UY)の総数
【0146】
(6)繊維強化複合材の性能の均一性
第1のフィラーの分散度から、繊維強化部材の性能の均一性を下記の基準により評価した。
【0147】
<繊維強化複合材の性能の均一性の判定基準>
○○:第1のフィラーの分散度が40%以上
○:第1のフィラーの分散度が30%以上40%未満
×:第1のフィラーの分散度が30%未満
【0148】
(7)繊維強化複合材の体積抵抗率
実施例2で得られた繊維強化複合材と、比較例3で得られた繊維強化複合材とについて、体積抵抗率を以下のようにして測定した。
【0149】
試験片である繊維強化複合材(1層のプリプレグ)と、金メッキを施した2枚の電極(縦20mm×縦20mm)とを用意した。これら2枚の電極間に試験片を挟み、電極間に0.75MPaの荷重をかけた状態で、抵抗計(HIOKI社製「RM3548」)を用いて、試験片のZ方向の電気抵抗値を測定した。下記式により試験片の体積抵抗率を算出した。10枚の試験片のそれぞれについて体積抵抗率を算出し、その平均値を繊維強化複合材の体積抵抗率とした。
【0150】
ρ=RA/d
【0151】
ρ:試験片の体積抵抗率(Ω・cm)
R:試験片の電気抵抗値(Ω)
d:試験片の厚さ(m)
A:試験片の断面積(m
【0152】
構成及び結果を下記の表1,2に示す。図3は、実施例1で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
【0153】
繊維強化複合材の体積抵抗率の結果からは、第1のフィラーの分散度が向上したことにより、繊維の配向方法とは直交する方向の体積抵抗率(繊維強化複合材の厚み方向の体積抵抗率)が小さくなっていることが理解できる。実施例2で得られた繊維強化複合材では、比較例3で得られた繊維強化複合材と比べて、繊維束の内部にもフィラーが均一に存在するため、繊維と繊維とをつなぐような導電パスが形成されやすくなり、繊維強化複合材の厚み方向に対しても、導電性が良好に付与される。
【0154】
【表1】
【0155】
【表2】
【符号の説明】
【0156】
1…繊維束
1a…繊維束の外縁
2…樹脂
5…繊維強化複合材
11…繊維
31,31A,31B,31C,31D…第1のフィラー
32…第2のフィラー
R1…繊維束の内部
R2…繊維束の外部
U1,U2,U3,U4,U5,U6,U7,U8,U9…領域(縦:Dfμm及び横:Dfμmの領域)
図1
図2
図3