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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024425
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】水性化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/02 20060101AFI20240215BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240215BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/73
A61Q19/00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127236
(22)【出願日】2022-08-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢ヶ崎 莉菜
(72)【発明者】
【氏名】四戸 大介
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 幸司
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA112
4C083AA122
4C083AC022
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC422
4C083AC482
4C083AC712
4C083AD211
4C083AD212
4C083CC03
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD41
4C083DD42
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
(57)【要約】
【課題】配合成分である寒天の物性が改良されて、使用感に影響を与える離水および摩擦が少なく、べたつきが少なく、対象部位へのなじみ感、すべり感、および使用後のさらさら感といった使用感に優れて、且つ、寒天由来の着色および臭気が防止された水性化粧料を提供する。
【解決手段】本発明に係る水性化粧料は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある寒天を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、
85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、
硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある寒天を含有すること
を特徴とする水性化粧料。
【請求項2】
前記寒天が、水性化粧料100質量%の0.025質量%以上1質量%以下の範囲で含有すること
を特徴とする請求項1記載の水性化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水性化粧料において、物性調整剤として寒天が配合されている。物性調整剤としての寒天は、一般に、水性化粧料に増粘性等を付与する。また、寒天の物性によって、皮膚、毛髪等の対象部位における水性化粧料の使用感(使用時の使用感だけでなく、使用後の使用感を含む)等も改良することができる。
【0003】
一例として、特許文献1(特開平6-56625号公報)には、寒天の分子が短く切断され、ゼリー強度が1.5%寒天濃度で250g/cm以下の範囲の低強度寒天を含有する化粧料が記載されている。当該化粧料用寒天は、従来、食品等に用いられてきた通常の寒天よりもゲル強度を下げた低強度寒天で、化粧料用に流動性を向上させたものである。
【0004】
また、特許文献2(特開2001-342451号公報)には、ゲル化能を有する親水性化合物としての寒天を、水または水性成分に溶解した後、放置冷却してゲルを形成し、次いで該ゲルを粉砕した平均粒径0.1μm~1,000μmのミクロゲルを含有する化粧料が記載されている。当該ミクロゲルには、上限が1,000g/cm、下限が30g/cm程度の比較的広範囲のゲル強度の寒天が適用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-56625号公報
【特許文献2】特開2001-342451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に例示される従来の水性化粧料用寒天は、ゲル強度等の一部の物性を比較的緩やかに(広範囲に)規定したものである。そのため、ゲル強度およびそれ以外の物性について、それらの相互作用や配合バランスを考慮した物性改良はなられておらず、こうした水性化粧料用寒天の総合的な物性改良による水性化粧料のさらなる使用感の向上が望まれる。
【0007】
また、寒天の成分の一つであるアガロペクチンは部分的に硫酸基(-OSO )を含んでいることから、寒天を含有する水性化粧料は、これを原因として黄色味を帯びたり不快臭が生じたりすることがあるが、従来、このような寒天を含有する水性化粧料特有の着色および臭気について改善されてこなかった。そこで、本発明では、寒天を含有する水性化粧料の使用感等の向上、さらには、着色および臭気の防止を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、配合成分である寒天の物性が改良されて、使用感に影響を与える離水および摩擦が少なく、べたつきが少なく、対象部位へのなじみ感、すべり感、および使用後のさらさら感といった使用感に優れて、且つ、寒天由来の着色および臭気が防止された水性化粧料を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
本発明に係る水性化粧料は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある寒天を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、配合成分である寒天の物性が改良されて、使用感に影響を与える離水および摩擦が少なく、べたつきが少なく、対象部位へのなじみ感、すべり感、および使用後のさらさら感といった使用感に優れて、且つ、寒天由来の着色および臭気が防止された水性化粧料が実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
本願でいう「水性化粧料」とは、水を化粧料全体の50質量%以上含有する化粧料を意味し、水を主溶媒および/または主分散媒として、配合成分が溶解および/または分散している態様、例えば水中油型乳化化粧料(O/W型の化粧料)を含む。本実施形態では、少なくとも寒天が溶解または分散している。「水性化粧料」は、具体的には、化粧水、美容液、乳液、クリーム状化粧料、ゲル状化粧料等の形態、また、これらが織布、不織布等のシート状の基材に含浸または塗布されたシート状化粧料等の形態で流通される化粧料であって、皮膚(肌)、毛髪、爪等を対象部位とする外用剤として使用されるものである。以下、本実施形態では、一例として、肌へ塗布する使用態様で説明する。
【0014】
本実施形態に係る水性化粧料は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある寒天を含有することを特徴とする。
【0015】
これによれば、当該寒天の適度なゲル形成能により肌へのなじみがよく、離水が少なく摩擦が弱いことで肌へのすべりがよく、適度な粘度により付着性が抑えられてべたつかず、被膜を形成して塗布後の肌に十分なさらさら感を得ることができ、さらには、寒天由来の黄色味が抑えられて透明性が高く、寒天由来の臭気も抑えられた水性化粧料が実現できる。ただし、こうした水性化粧料の各特性(効果)と、寒天の各特性(改良された各物性)とは、必ずしも一対一に対応しておらず、ゲル強度と、ゾル粘度と、硫酸根含量とが、本発明に規定する範囲内にバランスよく設定されることで、上記のそれぞれの優れた特性(効果)が発揮される。なお、本願でいう「離水(syneresis)」とは、水性化粧料におけるゲル部分(寒天成分)と水部分とが分離してしまうことをいい、離水量が多いとき、水性化粧料の摩擦が強くなって塗布時の肌へのすべりが悪くなったり、保湿性が低下したりする。したがって、離水量が多いと商品価値が低下する。
【0016】
本実施形態に係る「20℃における1.5%水溶液のゲル強度」は、以下に規定される。測定対象の寒天を精製水に加え沸騰溶解して1.5%溶液を調製し、20℃で15時間放置後、凝固せしめたゲルについて、テクスチャーアナライザ(例えば、実施例ではStable Micro Systems社製の装置)を用い、円柱状の断面積1cmのプランジャをゲルに侵入させ(侵入速度20mm/分)、ゲルが破断したときの応力[g/cm]を、「20℃における1.5%水溶液のゲル強度」とする。なお、参考として、本発明のゲル強度範囲(日寒水式で測定可能なゲル強度100g/cm以上の範囲)では、本願で規定するゲル強度測定値と日寒水式のゲル強度測定値とは、ほぼ同一になる(実施例参照)。
【0017】
本実施形態に係る20℃における1.5%水溶液のゲル強度は、10g/cm~600g/cmの範囲に設定される。20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm未満の場合には、ゲル形成能が弱いために塗布時に肌にはじかれ、肌へのなじみが悪くなる。600g/cmを超える場合には、ゲル形成能が強いために塗布時に肌上でゲルが崩れず、肌へのなじみが悪くなる。また、ゲル形成能が強いと、例えば比較的小さな吐出用穴(例えば、直径3mm程度の吐出用穴)を有する容器等から水性化粧料が吐出しにくくなって取扱い性も悪くなる。20℃における1.5%水溶液のゲル強度は、10g/cm~220g/cmの範囲にあるとより好ましく、10g/cm~200g/cmの範囲にあるとさらに好ましく、10g/cm~150g/cmの範囲にあるとさらに好ましい。
【0018】
また、本実施形態に係る「85℃における1.5%水溶液のゾル粘度」は、以下に規定される。測定対象の寒天を精製水に加え沸騰溶解して1.5%溶液を調製し、液温85℃にしたゾルを、300mLトールビーカーに300mL収容する。B型回転粘度計(例えば、実施例ではBrookfield社製の装置)を用い、ロータ(サイズNo.1、回転数60rpm)を回転させて粘度測定開始後40秒時点での粘度[mPa・s]を「85℃における1.5%水溶液のゾル粘度」とする。
【0019】
本実施形態に係る85℃における1.5%水溶液のゾル粘度は、7mPa・s~30mPa・sの範囲に設定される。85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s未満の場合には、被膜が形成されにくいために塗布後の肌にさらさら感が得られなくなる。30mPa・sを超える場合には、付着性が強くなるために水性化粧料がべたついて使用感および取扱い性が悪くなる。85℃における1.5%水溶液のゾル粘度は、7mPa・s~20mPa・sの範囲にあるとより好ましく、7mPa・s~15mPa・sの範囲にあるとさらに好ましく、10mPa・s~15mPa・sの範囲にあるとさらに好ましい。
【0020】
また、本実施形態に係る硫酸根含量は、0.5質量%~4.0質量%の範囲に設定される。硫酸根とは、硫酸イオン(SO 2-)を指す。測定対象の寒天の「硫酸根含量[質量%]」は、重量法により定量することができる。すなわち、測定対象の寒天溶液(当該寒天を精製水に加え沸騰溶解した溶液)に塩酸または過酸化水素水を加え寒天を加水分解し、この溶液に塩化バリウム溶液を加え硫酸塩として硫酸バリウムを沈殿させ、当該硫酸バリウムの質量から硫酸根の質量を算出する。これにより、測定対象の寒天中の硫酸根含量[質量%]を算出することができる。
【0021】
寒天の硫酸根は、寒天の成分の一つであるアガロペクチンが部分的に含んでいる硫酸基(-OSO )に由来するものであり、寒天の硫酸根含量は、硫酸根自体の物性として寒天の着色および臭気に影響を及ぼすだけでなく、アガロペクチンの含有率等にも関わって寒天の離水性等の物性に影響を及ぼす。硫酸根含量が0.5質量%未満の場合には、離水量が多くなるために摩擦が強くなり塗布時のすべり感が悪くなる。4.0質量%を超える場合には、黄色味が目立ち、寒天臭気も強くなって、化粧品として許容されにくくなる。硫酸根含量は、1.0質量%~3.5質量%の範囲にあるとより好ましく、1.5質量%~3.5質量%の範囲にあるとさらに好ましい。
【0022】
以上の特性で規定される本実施形態に係る寒天は、海藻原料を比較的低温でアルカリ水溶液に浸漬してアルカリ処理を行った後、より低いpH域で熱水抽出を行うことで製造することができる。あるいは、海藻原料の種類に応じた抽出条件によっては、アルカリ処理を行なわずに熱水抽出を行うことでも製造できる。熱水抽出した抽出液を濾過し、得られた濾液をゲル化させる。さらに、脱水、乾燥、粉砕することによって、粉末状の寒天が得られる。粉末状の寒天は、水性化粧料成分として直ちに配合できて取扱い性に優れるが、乾燥状態にまでしておいて用時粉砕するようにしてもよい。
【0023】
使用し得る海藻原料としては、例えば、テングサ(南アフリカ産)、テングサ(チリ産)、オゴノリ(ブラジル産)、オゴノリ(チリ産)、およびオゴノリ(日本産)等が挙げられる。アルカリ処理について、アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、消石灰、生石灰、または水酸化アンモニウムの0.1質量%~10.0質量%程度の水溶液を用いることができる。アルカリ処理温度としては、60℃以下が好ましく、30℃~60℃がより好ましく、40℃~50℃がさらに好ましい。アルカリ処理時間としては、3.0時間以内が好ましく、0.1時間~1.0時間がより好ましい。具体的な処理条件は、海藻原料の種類に応じて適宜設定することができる。
【0024】
例えば、海藻原料としてテングサ(南アフリカ産)を用いる場合には、30℃~60℃で0.1時間~3.0時間、アルカリ水溶液に浸漬してアルカリ処理を行った後、より低いpH域(pH5.0~pH7.0程度)で熱水処理を行うことで本実施形態に係る寒天成分を抽出できる。あるいは、アルカリ処理を行わずに、pH4.5~pH6.8程度で熱水処理を行うことでも当該寒天成分を抽出できる。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させる。さらに、脱水、乾燥、粉砕することによって、粉末状の寒天が得られる。ただし、この処理条件は、一例であって、これに外れる温度範囲、浸漬時間、pH範囲であっても本実施形態に係る寒天成分が抽出できる場合がある。
【0025】
例えば、海藻原料としてテングサ(チリ産)を用いる場合には、30℃~60℃で0.1時間~3.0時間、アルカリ水溶液に浸漬してアルカリ処理を行った後、より低いpH域(pH5.0~pH7.0程度)で熱水処理を行うことで本実施形態に係る寒天成分を抽出できる。あるいは、アルカリ処理を行わずに、pH4.5~pH6.8程度で熱水処理を行うことでも当該寒天成分を抽出できる。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させる。さらに、脱水、乾燥、粉砕することによって、粉末状の寒天が得られる。ただし、この処理条件は、一例であって、これに外れる温度範囲、浸漬時間、pH範囲であっても本実施形態に係る寒天成分が抽出できる場合がある。
【0026】
例えば、海藻原料としてオゴノリ(ブラジル産)を用いる場合には、40℃~60℃で0.1時間~3.0時間、アルカリ水溶液に浸漬してアルカリ処理を行った後、より低いpH域(pH5.0~pH7.0程度)で熱水処理を行うことで本実施形態に係る寒天成分を抽出できる。あるいは、アルカリ処理を行わずに、pH4.5~pH6.8程度で熱水処理を行うことでも当該寒天成分を抽出できる。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させる。さらに、脱水、乾燥、粉砕することによって、粉末状の寒天が得られる。ただし、この処理条件は、一例であって、これに外れる温度範囲、浸漬時間、pH範囲であっても本実施形態に係る寒天成分が抽出できる場合がある。
【0027】
例えば、海藻原料としてオゴノリ(チリ産)を用いる場合には、40℃~60℃で0.1時間~3.0時間、アルカリ水溶液に浸漬してアルカリ処理を行った後、より低いpH域(pH5.0~pH6.8程度)で熱水処理を行うことで本実施形態に係る寒天成分を抽出できる。あるいは、アルカリ処理を行わずに、pH4.5~pH6.8程度で熱水処理を行うことでも当該寒天成分を抽出できる。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させる。さらに、脱水、乾燥、粉砕することによって、粉末状の寒天が得られる。ただし、この処理条件は、一例であって、これに外れる温度範囲、浸漬時間、pH範囲であっても本実施形態に係る寒天成分が抽出できる場合がある。
【0028】
このようにして、本実施形態に係る寒天、すなわち、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある寒天が得られる。本実施形態に係る寒天を、製造する水性化粧料の種類に応じた配合成分と共に配合して、公知の水性化粧料の製造方法によって、本実施形態に係る水性化粧料を製造することができる。寒天以外の配合成分は特に限定されない。
【0029】
本実施形態に係る水性化粧料は、本実施形態に係る寒天の適度なゲル形成能により肌へのなじみがよく、離水が少なく摩擦が弱いことで肌へのすべりがよく、適度な粘度により付着性が抑えられてべたつかず、被膜を形成して塗布後の肌に十分なさらさら感が得られ、さらには、寒天由来の黄色味が抑えられて透明性が高く、寒天由来の臭気も抑えられる。本実施形態に係る寒天によれば、これをそのまま液体成分に添加して加熱溶解して水性化粧料に含有させるだけで、きわめて簡易な方法で、このように優れた特性を水性化粧料に付与することができ、例えば当該作用効果を得るために寒天をミクロゲル等に加工する必要はない。ただし、本実施形態に係る寒天が、例えばミクロゲル等に加工された状態で、水性化粧料に含有していてもよい。
【実施例0030】
試料として、下記に示す寒天を準備した。
寒天1:粉末寒天「ZH」(伊那食品工業(株)製)を寒天1とした。
寒天2:テングサ(南アフリカ産)を、アルカリ処理せずに、pH5.5で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天2の粉末を取得した。
寒天3:テングサ(南アフリカ産)を、アルカリ処理(80℃、1.0時間)した後、pH7.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天3の粉末を取得した。
寒天4:オゴノリ(ブラジル産)を、アルカリ処理(80℃、1.0時間)した後、pH5.5で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天4の粉末を取得した。
寒天5:オゴノリ(ブラジル産)を、アルカリ処理(60℃、0.5時間)した後、pH7.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天5の粉末を取得した。
寒天6:オゴノリ(チリ産)を、アルカリ処理(60℃、0.5時間)した後、pH6.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天6の粉末を取得した。
寒天7:テングサ(チリ産)を、アルカリ処理せずに、pH6.2で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天7の粉末を取得した。
寒天8:テングサ(南アフリカ産)を、アルカリ処理(40℃、1.0時間)した後、pH5.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天8の粉末を取得した。
寒天9:オゴノリ(ブラジル産)を、アルカリ処理(40℃、1.0時間)した後、pH5.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天9の粉末を取得した。
寒天10:オゴノリ(チリ産)を、アルカリ処理せずに、pH5.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天10の粉末を取得した。
寒天11:オゴノリ(ブラジル産)を、アルカリ処理(30℃、0.5時間)した後、pH7.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天11の粉末を取得した。
寒天12:オゴノリ(ブラジル産)を、アルカリ処理(80℃、1.0時間)した後、pH4.5で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天12の粉末を取得した。
寒天13:テングサ(南アフリカ産)を、アルカリ処理せずに、pH5.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天13の粉末を取得した。
寒天14:オゴノリ(チリ産)を、アルカリ処理(30℃、4.0時間)した後、pH6.2で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天14の粉末を取得した。
寒天15:オゴノリ(ブラジル産)を、アルカリ処理(50℃、2.5時間)した後、pH5.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天15の粉末を取得した。
寒天16:オゴノリ(チリ産)を、アルカリ処理(50℃、1.0時間)した後、pH6.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天16の粉末を取得した。
寒天17:オゴノリ(チリ産)を、アルカリ処理(40℃、1.0時間)した後、pH7.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天17の粉末を取得した。
寒天18:オゴノリ(チリ産)を、アルカリ処理せずに、pH7.0で熱水抽出した。得られた抽出液を濾過し、濾液をゲル化させた後、脱水、乾燥、粉砕することにより寒天18の粉末を取得した。
【0031】
続いて、寒天1-寒天18について、20℃における1.5%水溶液のゲル強度(以下、単に「ゲル強度」または「JS」と表記する場合がある)、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度(以下、単に「ゾル粘度」または「VIS」と表記する場合がある)、および硫酸根含量(以下、「SO 2-」と表記する場合がある)を、本願で規定する通りに測定した。なお、ゲル強度におけるテクスチャーアナライザには、Stable Micro Systems社製の装置、ゾル粘度におけるB型回転粘度計には、Brookfield社製の装置を使用した。また、参考として、ゲル強度は、日寒水式(日本寒天製造水産組合が採用した日寒水式ゼリー強度測定器を用いる方法)でも測定し、本願で規定するゲル強度測定値と日寒水式のゲル強度測定値とは、ほぼ同一になることが確認された。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
続いて、表2-表6に示す配合(計100質量%)で、寒天1-寒天18をそれぞれ配合した水性化粧料(寒天含有水性化粧料)を製造し、その特性を評価した。また、コントロールとして、寒天の配合[質量%]を精製水で置換した、寒天を配合しない水性化粧料(寒天非含有水性化粧料)もあわせて製造した。製造方法は、表2-表6に示す配合で、精製水に全ての液体成分を混合すると共に、寒天を含む全ての固体成分を分散させて加熱溶解した後、冷却して水性化粧料を得た。
【0034】
水性化粧料の寒天以外の配合成分は、以下の通りである。
・保湿剤として、ベタイン(トリメチルグリシン)(旭化成ファインケム(株)製)
・保湿剤として、グリセリン(阪本薬品工業(株)製)
・溶媒(分散媒)および防腐補助剤として、エタノール(日本アルコール販売(株)製)
・pH調整剤として、クエン酸(結晶)(磐田化学工業(株)製)
・pH調整剤として、クエン酸ナトリウム(結晶)(磐田化学工業(株)製)
・防腐剤として、メチルパラベン(パラオキシ安息香酸メチル)(富士フィルム和光純薬(株)製)
・主溶媒(主分散媒)として、精製水(ヤマト科学(株)製の純水製造装置を用いて作製)
【0035】
評価方法(基準)は、以下の通りである。
【0036】
<摩擦係数μ>
回転型レオメータ(Discovery Hybrid Rheometer HR10(TAInstruments社製))を用いて、摺動形態をプレートオンプレートに、プレート温度を35℃に設定した。次いで、荷重が1Nで一定になるように設定し、プレートの回転速度が0.1mm/sから100mm/sまでの範囲で各水性化粧料500μLの摩擦係数を測定した。人が肌に化粧料を塗る際の手の速度に近い10mm/s時の寒天含有水性化粧料の測定値(摩擦係数μ01)を基に、10mm/s時の寒天非含有水性化粧料をコントロールとし、当該寒天非含有水性化粧料の測定値を1としたときの寒天含有水性化粧料の摩擦係数μ02を、以下の基準で評価した。
◎:0.2未満
○:0.2以上0.4未満
△:0.4以上0.6未満
×:0.6以上
(式)摩擦係数μ02= (回転速度10mm/s時の寒天含有水性化粧料の摩擦係数μ01) / (回転速度10mm/s時の寒天非含有水性化粧料の摩擦係数)
回転速度10mm/s時の寒天非含有水性化粧料の摩擦係数は、0.00676であった。全ての摩擦係数μ02の算出に当該係数を用いた。
摩擦係数の評価は、「△以上」が好ましく、「〇」であることがより好ましく、「◎」であることがさらに好ましい。
【0037】
<離水量s>
各水性化粧料300μLをろ紙上に載せて1分静置した後、ろ紙上の残留物を取り除いてろ紙の重量[g]を測定し、当該重量[g]から予め測定しておいたろ紙の重量[g]を減算して、水性化粧料の離水量[g]として算出した。この寒天含有水性化粧料の離水量s01を基に、寒天非含有水性化粧料をコントロールとし、当該寒天非含有水性化粧料の離水量を1としたときの寒天含有水性化粧料の離水量s02を、以下の基準で評価した。
◎:0.90未満
○:0.90以上0.95未満
△:0.95以上1.00未満
×:1.00以上
(式)離水量s02= (寒天含有水性化粧料の離水量s01) / (寒天非含有水性化粧料の離水量)
寒天非含有水性化粧料の離水量は、0.274gであった。全ての離水量s02の算出に当該離水量を用いた。
離水量の評価は、「△以上」が好ましく、「〇」であることがより好ましく、「◎」であることがさらに好ましい。
【0038】
<着色(黄色味)>
寒天含有水性化粧料の黄色味として、400nmの吸光度を測定して、以下の基準で評価した。
◎:0.10未満
○:0.10以上0.15未満
△:0.15以上0.20未満
×:0.20以上
着色(黄色味)の評価は、「△以上」が好ましく、「〇」であることがより好ましく、「◎」であることがさらに好ましい。
【0039】
<臭い>
パネラー10名に寒天含有水性化粧料1mLを手の平に取ってもらって、臭いが気になるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「気にならない」と回答
B:5名~7名が「気にならない」と回答
C:3名~4名が「気にならない」と回答
D:2名以下が「気にならない」と回答
臭いの評価は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0040】
<塗布時の肌へのなじみ感>
パネラー10名に水性化粧料20μLを前腕の内側に直径3cmの円を描くように塗布してもらって、寒天含有水性化粧料が、寒天非含有水性化粧料と比較して、肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感があるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感がある」と回答
B:5名~7名が「肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感がある」と回答
C:3名~4名が「肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感がある」と回答
D:2名以下が「肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感がある」と回答
塗布時の肌へのなじみ感は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0041】
<塗布時の付着性>
パネラー10名に水性化粧料20μLを前腕の内側に直径3cmの円を描くように塗布してもらって、寒天含有水性化粧料が、寒天非含有水性化粧料と比較して、肌に塗布する際の付着性(べたつき)があるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「肌に塗布する際の付着性(べたつき)がない」と回答
B:5名~7名が「肌に塗布する際の付着性(べたつき)がない」と回答
C:3名~4名が「肌に塗布する際の付着性(べたつき)がない」と回答
D:2名以下が「肌に塗布する際の付着性(べたつき)がない」と回答
塗布時の付着性は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0042】
<塗布時の肌へのすべり感>
パネラー10名に水性化粧料20μLを前腕の内側に直径3cmの円を描くように塗布してもらって、寒天含有水性化粧料が、寒天非含有水性化粧料と比較して、良好な肌へのすべり感があるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「良好な肌へのすべり感がある」と回答
B:5名~7名が「良好な肌へのすべり感がある」と回答
C:3名~4名が「良好な肌へのすべり感がある」と回答
D:2名以下が「良好な肌へのすべり感がある」と回答
塗布時の肌へのすべり感は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0043】
<塗布後の肌のさらさら感>
パネラー10名に水性化粧料20μLを前腕の内側に直径3cmの円を描くように塗布してもらって、寒天含有水性化粧料が、寒天非含有水性化粧料と比較して、塗布後の肌にさらさら感があるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「塗布後の肌にさらさら感がある」と回答
B:5名~7名が「塗布後の肌にさらさら感がある」と回答
C:3名~4名が「塗布後の肌にさらさら感がある」と回答
D:2名以下が「塗布後の肌にさらさら感がある」と回答
塗布後の肌のさらさら感は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0044】
以上の全評価項目が「△以上」または「C以上」である場合、本願の目的を達する特性を備えた水性化粧料と評価される。すなわち、本願の課題は、総合的に、使用感、取扱い性、外観および臭気において一定以上の水準を有する水性化粧料を実現することであるため、例えば評価項目の一部については実施例で比較例よりも劣る場合があっても、当該実施例が全評価項目において「△」または「C」よりも劣る項目がない場合、本願の目的を達する特性を備えた水性化粧料と評価される。表2-表6に配合と共に評価結果を示す。表中においては、一の実施例を複数回掲載する場合がある。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すように、寒天2は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある。寒天2を含有する水性化粧料(実施例1)は、離水および摩擦が少なく肌へのすべり感が良好で、塗布時の付着性が少なく、肌へのなじみ感および塗布後のさらさら感が良好で、着色および臭いも少ない、本願の目的を達する特性が得られた。一方、従来から一般的に使用されている寒天1は、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にあるが、ゲル強度が600g/cmを超えて(680g/cm)、さらにゾル粘度が7mPa・s未満(6.1mPa・s)である。このため、寒天1を含有する水性化粧料(比較例1)は、肌へのなじみ感が不良で、塗布後のさらさら感が殆ど得られず、本願が目的とする特性が得られなかった。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示すように、寒天2および寒天5-寒天10は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある。寒天2および寒天5-寒天10を含有する水性化粧料(実施例1-実施例7)は、いずれも、離水および摩擦が少なく肌へのすべり感が良好で、塗布時の付着性が少なく、肌へのなじみ感および塗布後のさらさら感が良好で、着色および臭いも少ない、本願の目的を達する特性が得られた。ゲル強度が10g/cm~570g/cmの範囲にある実施例1-実施例7では肌へのなじみ感が良好であったのに対して、ゲル強度が600g/cmを超える比較例2(930g/cm)および比較例3(660g/cm)では、肌へのなじみ感が不良であった。肌へのなじみ感に着目すると、ゲル強度は、10g/cm~220g/cmの範囲にあるとより好ましく、10g/cm~200g/cmの範囲にあるとさらに好ましく、10g/cm~150g/cmの範囲にあるとさらに好ましいことが分かる。なお、ゲル強度が10g/cm未満の寒天は製造が困難であったことから、評価は得られなかった。
【0049】
【表4】
【0050】
表4に示すように、寒天2、寒天6-寒天9および寒天13は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある。寒天2、寒天6-寒天9および寒天13を含有する水性化粧料(実施例1、実施例3-実施例6および実施例8)は、いずれも、離水および摩擦が少なく肌へのすべり感が良好で、塗布時の付着性が少なく、肌へのなじみ感および塗布後のさらさら感が良好で、着色および臭いも少ない、本願の目的を達する特性が得られた。ゾル粘度が7.4mPa・s~29.6mPa・sの範囲にある実施例1、実施例3-実施例6および実施例8では塗布時の付着性および塗布後のさらさら感が良好であったのに対して、ゾル粘度が30mPa・sを超える比較例4(36.8mPa・s)では塗布時の付着性が不良で、ゾル粘度が7mPa・s未満の比較例5(3.9mPa・s)では塗布後のさらさら感が不良であった。塗布時の付着性および塗布後のさらさら感に着目すると、ゾル粘度は、7mPa・s~20mPa・sの範囲にあるとより好ましく、7mPa・s~15mPa・sの範囲にあるとさらに好ましく、10mPa・s~15mPa・sの範囲にあるとさらに好ましいことが分かる。
【0051】
【表5】
【0052】
表5に示すように、寒天2、寒天8-寒天9および寒天15-寒天16は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある。寒天2、寒天8-寒天9および寒天15-寒天16を含有する水性化粧料(実施例1、実施例5-実施例6および実施例9-実施例10)は、いずれも、離水および摩擦が少なく肌へのすべり感が良好で、塗布時の付着性が少なく、肌へのなじみ感および塗布後のさらさら感が良好で、着色および臭いも少ない、本願の目的を達する特性が得られた。硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある実施例1、実施例5-実施例6および実施例9-実施例10では、離水および摩擦が少なくて肌へのすべり感が良好で、着色および臭いも少なかったのに対して、硫酸根含量が4.0質量%を超える比較例7(4.5質量%)および比較例8(6.2質量%)では着色および臭いが強く表れ、硫酸根含量が0.5質量%未満の比較例6(0.2質量%)では離水および摩擦が多く肌へのすべり感が不良であった。離水量、摩擦係数および肌へのすべり感、ならびに、着色および臭いに着目すると、硫酸根含量は、1.0質量%~3.5質量%の範囲にあるとより好ましく、1.5質量%~3.5質量%の範囲にあるとさらに好ましいことが分かる。
【0053】
【表6】
【0054】
表6に示すように、ここでは、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある寒天2の含有量を、水性化粧料100質量%の0.025質量%~1質量%まで変化させた10種類の寒天含有水性化粧料(実施例1および実施例11-実施例19)の特性を比較した。その結果、いずれも、離水および摩擦が少なく肌へのすべり感が良好で、塗布時の付着性が少なく、肌へのなじみ感および塗布後のさらさら感が良好で、着色および臭いも少ない、本願の目的を達する特性が得られた。寒天の含有量が1質量%になると(実施例19)、それよりも含有量の少ないものと比較して黄色味が少し強く表れるようになるため(評価:△)、寒天の含有量が0.025質量%以上0.5質量%未満であるとより好ましい(実施例1および実施例11-実施例18)。さらに、表6の評価結果から、寒天の含有量が0.1質量%以上0.2質量%以下であるとより好ましく(実施例1および実施例14-実施例17)、寒天の含有量が0.125質量%以上0.2質量%以下であるとさらに好ましいことが分かる(実施例1および実施例15-実施例17)。
【0055】
続いて、表7に示す配合(計100質量%)で、寒天2、寒天8、寒天14をそれぞれ配合した水性化粧料(寒天含有水性化粧料)として水中油型乳化化粧料(以下、単に「乳化化粧料」と表記する)を製造し、その特性を評価した。製造方法は、表7に示す配合で、水相部と、乳化剤を含む油相部とをそれぞれ加熱した後、水相部に油相部を加えて混合、撹拌し、冷却して乳化化粧料を得た。
【0056】
乳化化粧料の寒天以外の配合成分は、以下の通りである。
・油性基剤として、ホホバ油(日光ケミカルズ(株)製)
・油性基剤として、スクワラン(日光ケミカルズ(株)製)
・乳化剤として、ミリスチン酸ポリグリセリル-10(太陽化学(株)製)
・保湿剤および防腐補助剤として、ブチレングリコール((株)ダイセル製)
・防腐剤として、フェノキシエタノール(四日市合成(株)製)
・保湿剤として、グリセリン(阪本薬品工業(株)製)
・主溶媒(主分散媒)として、精製水(ヤマト科学(株)製の純水製造装置を用いて作製)
【0057】
乳液形態の水性化粧料(乳化化粧料)では、コントロールに適した、寒天を配合しない乳化化粧料(寒天非含有乳化化粧料)を製造することが不可能であるという事情や、表2-表6に示す配合で製造した化粧水形態の水性化粧料とは元々の質感が相違するという事情から、乳化化粧料に応じた評価方法(基準)を、以下の通りに設定した。
【0058】
<摩擦係数μ>
回転型レオメータ(Discovery Hybrid Rheometer HR10(TAInstruments社製))を用いて、摺動形態をプレートオンプレートに、プレート温度を35℃に設定した。次いで、荷重が1Nで一定になるように設定し、プレートの回転速度が0.1mm/sから100mm/sまでの範囲で各乳化化粧料300μLの摩擦係数を測定した。このうち、人が肌に化粧料を塗る際の手の速度に近い10mm/s時の乳化化粧料の測定値(摩擦係数μ)を、以下の基準で評価した。
◎:0.14未満
○:0.14以上0.17未満
△:0.17以上0.20未満
×:0.20以上
摩擦係数の評価は、「△以上」が好ましく、「〇」であることがより好ましく、「◎」であることがさらに好ましい。
【0059】
<離水量s>
各乳化化粧料の300μLをろ紙上に載せて1分静置した後、ろ紙上の残留物を取り除いてろ紙の重量[g]を測定し、当該重量[g]から予め測定しておいたろ紙の重量[g]を減算して、乳化化粧料の離水量[g]として算出し、この離水量sを以下の基準で評価した。
◎:0.10未満
○:0.10以上0.11未満
△:0.11以上0.12未満
×:0.12以上
離水量の評価は、「△以上」が好ましく、「〇」であることがより好ましく、「◎」であることがさらに好ましい。
【0060】
<着色(黄色味)>
乳化化粧料の黄色味として、400nmの吸光度を測定して、以下の基準で評価した。
◎:3.3未満
○:3.3以上3.4未満
△:3.4以上3.5未満
×:3.5以上
着色(黄色味)の評価は、「△以上」が好ましく、「〇」であることがより好ましく、「◎」であることがさらに好ましい。
【0061】
<臭い>
普段乳液を使用することがあるパネラー10名に乳化化粧料1mLを手の平に取ってもらって、臭いが気になるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「気にならない」と回答
B:5名~7名が「気にならない」と回答
C:3名~4名が「気にならない」と回答
D:2名以下が「気にならない」と回答
臭いの評価は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0062】
<塗布時の肌へのなじみ感>
普段乳液を使用することがあるパネラー10名に乳化化粧料20μLを前腕の内側に直径3cmの円を描くように塗布してもらって、肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感があるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感がある」と回答
B:5名~7名が「肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感がある」と回答
C:3名~4名が「肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感がある」と回答
D:2名以下が「肌にはじかれず且つ肌上で崩れるような良好な肌へのなじみ感がある」と回答
塗布時の肌へのなじみ感は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0063】
<塗布時の付着性>
普段乳液を使用することがあるパネラー10名に乳化化粧料20μLを前腕の内側に直径3cmの円を描くように塗布してもらって、肌に塗布する際の付着性(べたつき)があるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「肌に塗布する際の付着性(べたつき)がない」と回答
B:5名~7名が「肌に塗布する際の付着性(べたつき)がない」と回答
C:3名~4名が「肌に塗布する際の付着性(べたつき)がない」と回答
D:2名以下が「肌に塗布する際の付着性(べたつき)がない」と回答
塗布時の付着性は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0064】
<塗布時の肌へのすべり感>
普段乳液を使用することがあるパネラー10名に乳化化粧料20μLを前腕の内側に直径3cmの円を描くように塗布してもらって、良好な肌へのすべり感があるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「良好な肌へのすべり感がある」と回答
B:5名~7名が「良好な肌へのすべり感がある」と回答
C:3名~4名が「良好な肌へのすべり感がある」と回答
D:2名以下が「良好な肌へのすべり感がある」と回答
塗布時の肌へのすべり感は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0065】
<塗布後の肌のさらさら感>
普段乳液を使用することがあるパネラー10名に乳化化粧料20μLを前腕の内側に直径3cmの円を描くように塗布してもらって、塗布後の肌にさらさら感があるかどうかを評価してもらい、その結果を基に、以下の基準で評価した。
A:8名以上が「塗布後の肌にさらさら感がある」と回答
B:5名~7名が「塗布後の肌にさらさら感がある」と回答
C:3名~4名が「塗布後の肌にさらさら感がある」と回答
D:2名以下が「塗布後の肌にさらさら感がある」と回答
塗布後の肌のさらさら感は、「C以上」が好ましく、「B」であることがより好ましく、「A」であることがさらに好ましい。
【0066】
以上の全評価項目が「△以上」または「C以上」である場合、本願の目的を達する特性を備えた水性化粧料である乳化化粧料と評価される。すなわち、本願の課題は、総合的に、使用感、取扱い性、外観および臭気において一定以上の水準を有する水性化粧料を実現することであるため、例えば評価項目の一部については実施例で比較例よりも劣る場合があっても、当該実施例が全評価項目において「△」または「C」よりも劣る項目がない場合、本願の目的を達する特性を備えた水性化粧料である乳化化粧料と評価される。表7に配合と共に評価結果を示す。
【0067】
【表7】
【0068】
表7に示すように、寒天2および寒天8は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm~600g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある。この寒天によれば、乳化化粧料においても、離水および摩擦が少なく肌へのすべり感が良好で、塗布時の付着性が少なく、肌へのなじみ感および塗布後のさらさら感が良好で、着色および臭いも少ない、本願の目的を達する特性が得られた(実施例20、21)。
【0069】
なお、本発明はその技術的思想を逸脱しない範囲において種々変更可能である。本願では、化粧料用途(化粧品)として具体的に示したが、同様な手順で作製される医薬部外品や医薬品等にも適用できる。化粧品と、医薬部外品および医薬品とは適用範囲(効能)が異なるのみで、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状等の形態、また、これらが織布、不織布等のシート状の基材に含浸または塗布されたシート状等の形態については同一である。したがって、このような形態の医薬部外品や医薬品等についても、本発明によれば、配合成分である寒天の物性が改良されて、使用感に影響を与える離水および摩擦が少なく、べたつきが少なく、対象部位へのなじみ感、すべり感、および使用後のさらさら感といった使用感に優れて、且つ、寒天由来の着色および臭気が防止された製剤(製品)が実現できる。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm220g/cmの範囲にあり、且つ、
85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、
硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある寒天を含有すること
を特徴とする水性化粧料。
【請求項2】
前記寒天が、水性化粧料100質量%の0.025質量%以上1質量%以下の範囲で含有すること
を特徴とする請求項1記載の水性化粧料。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明に係る水性化粧料は、20℃における1.5%水溶液のゲル強度が10g/cm220g/cmの範囲にあり、且つ、85℃における1.5%水溶液のゾル粘度が7mPa・s~30mPa・sの範囲にあり、且つ、硫酸根含量が0.5質量%~4.0質量%の範囲にある寒天を含有することを特徴とする。