(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002443
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】溶接支援装置、溶接支援方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20231228BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20231228BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B23K31/00 N
G05B23/02 T
B23K9/095 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101615
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】保田 将之
(72)【発明者】
【氏名】錦 尚志
(72)【発明者】
【氏名】永尾 剣一
(72)【発明者】
【氏名】中島 佳之
(72)【発明者】
【氏名】松原 敬信
(72)【発明者】
【氏名】山科 勇輔
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF35
3C223FF42
3C223GG01
3C223HH08
3C223HH15
3C223HH16
(57)【要約】
【課題】溶接士が実施する溶接作業において、溶接品質の安定化や欠陥の発生を抑制することができる溶接支援装置を提供する。
【解決手段】溶接支援装置は、溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データを取得する取得部と、溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データを学習して構築された学習モデルと、前記取得部が取得した前記溶接データとに基づいて、前記溶接データの異常度を算出する判定部と、前記溶接データに基づいて、前記学習モデルの前記正常データの一部を最適条件範囲として抽出する抽出部と、前記最適条件範囲に基づいて、前記溶接データに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定する設定部と、前記推奨範囲を含む支援情報を出力する出力部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データを取得する取得部と、
溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データを学習して構築された学習モデルと、前記取得部が取得した前記溶接データとに基づいて、前記溶接データの異常度を算出する判定部と、
前記溶接データに基づいて、前記学習モデルの前記正常データの一部を最適条件範囲として抽出する抽出部と、
前記最適条件範囲に基づいて、前記溶接データに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定する設定部と、
前記推奨範囲を含む支援情報を出力する出力部と、
を備える溶接支援装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記学習モデルの前記正常データのうち、前記溶接データに近い方からk1番目となる正常データを選択し、選択した前記正常データと前記溶接データとの距離を、前記溶接データの異常度として算出し、
前記抽出部は、前記判定部が選択した正常データよりも前記溶接データから遠いk2番目からk3番目までの正常データを前記最適条件範囲として抽出する、
請求項1に記載の溶接支援装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記最適条件範囲における前記パラメータの最小値から最大値までの範囲を前記推奨範囲として設定する、
請求項1または2に記載の溶接支援装置。
【請求項4】
前記出力部は、前記パラメータの値が前記推奨範囲に含まれない場合に、前記パラメータの改善提案を含む前記支援情報を出力する、
請求項1または2に記載の溶接支援装置。
【請求項5】
前記異常度が所定の閾値未満であるときに、前記溶接データを前記正常データに追加して、前記学習モデルを更新する学習部をさらに備える、
請求項1または2に記載の溶接支援装置。
【請求項6】
溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データを取得するステップと、
溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データを学習して構築された学習モデルと、取得した前記溶接データとに基づいて、前記溶接データの異常度を算出するステップと、
前記溶接データに基づいて、前記学習モデルの前記正常データの一部を最適条件範囲として抽出するステップと、
前記最適条件範囲に基づいて、前記溶接データに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定するステップと、
前記推奨範囲を含む支援情報を出力するステップと、
を有する溶接支援方法。
【請求項7】
溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データを取得するステップと、
溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データを学習して構築された学習モデルと、取得した前記溶接データとに基づいて、前記溶接データの異常度を算出するステップと、
前記溶接データに基づいて、前記学習モデルの前記正常データの一部を最適条件範囲として抽出するステップと、
前記最適条件範囲に基づいて、前記溶接データに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定するステップと、
前記推奨範囲を含む支援情報を出力するステップと、
を溶接支援装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接支援装置、溶接支援方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接品質を向上するための技術として、例えば、特許文献1には、溶接ビードの外観などのアーク溶接に関する物理量と、溶接速度や突き出し長などのアーク溶接条件とを機械学習して、撮像データから得られる物理量に基づいて、アーク溶接条件を調整して自動溶接を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、自動溶接ロボットを対象としているため、溶接士による溶接作業には適用が難しい。このため、溶接士が実施する溶接作業を支援することにより、溶接品質の安定化や、欠陥の発生を抑制する方法が求められている。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであって、溶接士が実施する溶接作業において、溶接品質の安定化や欠陥の発生を抑制することができる溶接支援装置、溶接支援方法、およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、溶接支援装置は、溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データを取得する取得部と、溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データを学習して構築された学習モデルと、前記取得部が取得した前記溶接データとに基づいて、前記溶接データの異常度を算出する判定部と、前記溶接データに基づいて、前記学習モデルの前記正常データの一部を最適条件範囲として抽出する抽出部と、前記最適条件範囲に基づいて、前記溶接データに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定する設定部と、前記推奨範囲を含む支援情報を出力する出力部と、を備える。
【0007】
本開示の一態様によれば、溶接支援方法は、溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データを取得するステップと、溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データを学習して構築された学習モデルと、取得した前記溶接データとに基づいて、前記溶接データの異常度を算出するステップと、前記溶接データに基づいて、前記学習モデルの前記正常データの一部を最適条件範囲として抽出するステップと、前記最適条件範囲に基づいて、前記溶接データに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定するステップと、前記推奨範囲を含む支援情報を出力するステップと、を有する。
【0008】
本開示の一態様によれば、プログラムは、溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データを取得するステップと、溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データを学習して構築された学習モデルと、取得した前記溶接データとに基づいて、前記溶接データの異常度を算出するステップと、前記溶接データに基づいて、前記学習モデルの前記正常データの一部を最適条件範囲として抽出するステップと、前記最適条件範囲に基づいて、前記溶接データに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定するステップと、前記推奨範囲を含む支援情報を出力するステップと、を溶接支援装置に実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る溶接支援装置、溶接支援方法、およびプログラムによれば、溶接士が実施する溶接作業において、溶接品質の安定化や欠陥の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の処理の一例を示す第1のフローチャートである。
【
図3】本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の機能を説明するための第1の図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の機能を説明するための第2の図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の機能を説明するための第3の図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の処理の一例を示す第2のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態に係る溶接支援システム1および溶接支援装置10について、
図1~
図6を参照しながら説明する。
【0012】
(溶接支援システムの全体構成)
図1は、本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の機能構成を示すブロック図である。
本実施形態に係る溶接支援システム1は、
図1に示すように、溶接支援装置10と、溶接装置20と、データロガー30と、表示装置40とを備える。
【0013】
溶接装置20は、溶接状態に影響を与える各種パラメータを調整するためのスイッチ、レバーなどの機器や、計器類が設けられた操作パネルを備える。溶接士は、溶接装置の操作パネルで各パラメータを調整しながら溶接作業を実施する。これらパラメータは、例えば、溶接電流、溶接電圧、電極の突き出し長などである。溶接状態は、例えば、溶接データに基づいて推定される異常度などである。
【0014】
データロガー30は、溶接装置20および溶接部位付近などの各部に設けられたセンサ(不図示)が計測した複数のパラメータからなる溶接データを取得する。
【0015】
溶接支援装置10は、データロガー30が取得した溶接データに基づいて溶接状態を監視し、現在の溶接状態や各パラメータの値の推奨範囲を表示装置40に表示して、溶接士の溶接作業を支援する。
【0016】
(溶接支援装置の機能構成)
溶接支援装置10は、プロセッサ11と、メモリ12と、ストレージ13と、通信インタフェース14とを備える。
【0017】
プロセッサ11は、所定のプログラムに従って動作することにより、取得部110、判定部111、抽出部112、設定部113、出力部114、および学習部115としての機能を発揮する。
【0018】
取得部110は、データロガー30から溶接データを取得する。
【0019】
判定部111は、溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データを学習して構築された学習モデルMと、取得部110が取得した溶接データとに基づいて、溶接データの異常度を算出する。
【0020】
抽出部112は、取得部110が取得した溶接データに基づいて、学習モデルMの正常データの一部を最適条件範囲として抽出する。
【0021】
設定部113は、抽出部112が抽出した最適条件範囲に基づいて、溶接データに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定する。
【0022】
出力部114は、設定部113が設定した推奨範囲を含む支援情報を出力する。支援情報は、表示装置40に表示される。
【0023】
学習部115は、データロガー30から収集した溶接データに基づいて、学習モデルMを学習、更新する。
【0024】
メモリ12は、プロセッサ11の動作に必要なメモリ領域を有する。
【0025】
ストレージ13は、いわゆる補助記憶装置であって、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等である。ストレージ13には、データロガー30から収集した溶接データや、学習済みの学習モデルMなどが記録される。
【0026】
通信インタフェース14は、外部装置(データロガー30、表示装置40など)との間で各種情報(信号)の送受信を行うためのインタフェースである。
【0027】
(溶接支援装置による溶接支援処理について)
図2は、本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の処理の一例を示す第1のフローチャートである。
ここでは、
図2を参照しながら、溶接支援装置10による溶接支援処理の流れについて説明する。
【0028】
まず、取得部110は、データロガー30から溶接データXを取得する(ステップS10)。
【0029】
判定部111は、取得した溶接データXと、学習済みの学習モデルMとに基づいて、溶接データXの異常度を算出し、溶接状態が正常であるか異常であるか判定する(ステップS11)。
【0030】
図3は、本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の機能を説明するための第1の図である。
図3に示す学習モデルMは、溶接状態が正常である過去の期間に収集された溶接データ(正常データP)について教師なし学習を行い、溶接データの正常な範囲(正常空間)を定めた評価モデルである。例えば、正常データPが2個のパラメータからなる場合、正常データPは
図3の例のように2次元空間上の点として表される。なお、実際には、正常データPはより多数のn個のパラメータからなるデータであり、学習モデルMはn次元空間上における正常空間を定めた評価モデルである。なお、学習モデルMは、溶接支援処理を実施する前に、学習部115により構築済みであるとする。
【0031】
判定部111は、学習モデルMに含まれる正常データPのうち、現在の溶接データXからk1番目(例えば、10番目)に近い正常データPk1を選択し、このk1番目の正常データPk1と溶接データXとの距離Dを算出する。距離Dは、溶接データXの異常度を表す。距離Dは、例えば、溶接データXおよび正常データPk1の各パラメータ間の差分を合計したユークリッド距離であってもよいし、マハラノビス距離、マンハッタン距離などであってもよい。判定部111は、距離Dが所定の閾値を超える場合に、溶接状態が異常(欠陥の予兆あり)であると判定する。一方、判定部111は、距離Dが閾値未満である場合に、溶接状態が正常であると判定する。
【0032】
また、抽出部112は、学習モデルMおよび溶接データXに基づいて、最適条件範囲を抽出する(ステップS12)。
【0033】
図4は、本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の機能を説明するための第2の図である。
図4に示す学習モデルMは、
図3の学習モデルMと同じものである。最適条件範囲Rは、正常データPで構成される正常空間の一部であって、より溶接品質が安定して欠陥が生じにくい範囲を定めたものである。具体的には、抽出部112は、現在の溶接データXからk2番目~k3番目(例えば、9000~10000番目)の正常データPが含まれる範囲を、最適条件範囲Rとして抽出する。つまり、抽出部112は、溶接データXを取得する度に、取得した溶接データXに応じた異なる最適条件範囲Rを抽出する。
【0034】
なお、抽出部112は、異常度の算出に用いる正常データPk1よりも、溶接データXから遠い正常データPk2~Pk3を最適条件範囲Rとして抽出する。つまり、k2,k3の値は、k1よりも大きい値に設定される。これにより、抽出部112は、正常データPで構成される正常空間のうち、異常度の算出に使う正常データPk1周辺よりも、正常データPの密度が高い(溶接品質が安定している)範囲を最適条件範囲Rとして抽出することができる。また、k1,k2,k3の値は、シミュレーション結果や、実際に溶接支援装置10を使用して溶接作業を行った際の溶接品質などを考慮して任意に変更してもよい。
【0035】
次に、設定部113は、抽出部112が抽出した最適条件範囲Rに基づいて、溶接データXに含まれるパラメータの値の推奨範囲を設定する(ステップS13)。具体的には、設定部113は、最適条件範囲R内の正常データPk2~Pk3に含まれる各パラメータの最小値から最大値までの範囲を、各パラメータの値の推奨範囲として設定する。
【0036】
図5は、本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の機能を説明するための第3の図である。
図5の例のように、溶接データXには、溶接士が溶接装置20の操作パネルを介して調整可能なパラメータとして、溶接電流[A]、溶接電圧[V]、突き出し長[mm]などのパラメータが含まれていたとする。また、最適条件範囲R内の正常データPk2~Pk3に含まれる溶接電流の最小値が575[A]、最大値が634[A]であった場合、設定部113は、溶接電流の値の推奨範囲を575~634[A]に設定する。設定部113は、他のパラメータについても同様に推奨範囲を設定する。
【0037】
次に、出力部114は、設定部113が設定した各パラメータの推奨範囲を含む支援情報41(
図5)を生成して表示装置40に出力(表示)する(ステップS14)。
【0038】
図5に示すように、支援情報41は、各パラメータの推奨範囲412と、実測値413と、判定結果414を含む。出力部114は、各パラメータの実測値413が推奨範囲412以内である場合、判定結果414を「OK(問題なし)」にする。また、出力部114は、実測値413が推奨範囲412を超えている場合、判定結果414を「NG(問題あり)」にする。また、出力部114は、判定結果414が「NG」である場合に、このパラメータを枠や背景色、文字色などで強調して改善を促す改善提案表示415を追加してもよい。さらに、出力部114は、支援情報41に判定部111が算出した異常度411や、溶接状態の判定結果を含めてもよい。
【0039】
溶接士は、表示装置40に表示される支援情報41を参照し、各パラメータの実測値413が推奨範囲412以内に収まるように、溶接装置20を操作して溶接条件の変更や維持などを行う。また、溶接士は、各パラメータの実測値413が推奨範囲412を超えた場合には、速やかに推奨範囲412内の値となるように、溶接条件の変更を行う。これにより、溶接士の熟練度合いに関わらず、溶接品質を安定化し、欠陥の発生を抑制することができる。
【0040】
(溶接支援装置による学習モデルの更新処理について)
図6は、本開示の一実施形態に係る溶接支援装置の処理の一例を示す第2のフローチャートである。
図6に示すように、学習部115は、学習モデルMを構築後、溶接支援処理を実施しながら収集した溶接データに基づいて、学習モデルMを更新(再学習)してもよい。ここでは、
図6を参照しながら、溶接支援装置10による学習モデルMの更新処理の流れについて説明する。
【0041】
学習部115は、
図2のステップS10で取得した溶接データX、およびステップS11で算出した異常度に基づいて、この溶接データXを学習に用いるか判定する。具体的には、学習部115は、溶接データXの異常度が所定の閾値未満であるか判定する(ステップS20)。
【0042】
溶接データXの異常度が閾値以上である場合(ステップS20;NO)、溶接状態が正常ではないので、この溶接データXは学習には用いることができない。このため、学習部115は処理を終了する。
【0043】
一方、溶接データXの異常度が閾値未満である場合(ステップS20;YES)、溶接状態は正常であるので、学習部115は、この溶接データXを新たな正常データPとして追加する(ステップS21)。なお、正常データPは、ストレージ13に記録されて蓄積される。
【0044】
次に、学習部115は、学習モデルMの更新タイミングであるか判断する(ステップS22)。例えば、学習部115は、新たに追加された正常データPが所定量以上となった場合、または、前回の学習モデルMの更新から所定時間が経過した場合、更新タイミングであると判断する(ステップS22;YES)。この場合、学習部115は、過去に蓄積した正常データPと、新たに追加された正常データPとの両方に基づいて、学習モデルMを再学習して更新する(ステップS23)。学習部115は、更新した学習モデルMをストレージ13に記録して処理を終了する。
【0045】
また、学習部115は、更新タイミングではない場合(ステップS22;NO)、処理を終了する。学習部115は、新たな溶接データXを取得する度に、
図6の一連の処理を実行して、新たな正常データPの追加および学習モデルMの更新を行う。
【0046】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る溶接支援装置10は、溶接データXを取得する取得部110と、異常度の算出に用いる学習モデルMに含まれる正常データPから溶接データXに対応する最適条件範囲Rを抽出する抽出部112と、最適条件範囲Rに基づいて溶接データに含まれるパラメータの値の推奨範囲412を設定する設定部113と、推奨範囲412を含む支援情報41を出力する出力部114と、を備える。
【0047】
このようにすることで、溶接支援装置10は、各パラメータについて、溶接品質を安定化する適切な値を溶接士に提案することができる。これにより、溶接支援装置10は、溶接士の熟練度合いに関わらず、溶接品質を安定化して欠陥の発生を抑制することができる。また、溶接支援装置10は、異常度の算出と、最適条件範囲Rの抽出とで同じ学習モデルMを利用することにより、判定部111および抽出部112における処理時間を短縮し、溶接士への推奨範囲のフィードバックを迅速に行うことができる。
【0048】
また、判定部111は、学習モデルMに含まれる正常データPのうち、溶接データXからk1番目となる正常データPk1を選択し、選択した正常データPk1と溶接データXとの距離を異常度として算出する。抽出部112は、正常データPk1よりも溶接データXから遠い、k2番目からk3番目までの正常データPk2~Pk3を最適条件範囲Rとして抽出する。
【0049】
このようにすることで、溶接支援装置10は、異常度の算出においては、溶接データXに比較的近い正常データPk1を用いることにより、過度に異常であると判断されるような異常度が算出されることを抑制することができる。一方で、溶接支援装置10は、最適条件範囲Rの抽出においては、正常データPの密度が高い(より安定的な溶接状態を表す)正常データPの範囲を適切に抽出することができる。これにより、溶接支援装置10は、最適条件範囲Rに基づき各パラメータの推奨値を適切に設定することができるので、溶接品質をより安定化することができる。
【0050】
また、設定部113は、最適条件範囲Rにおける各パラメータの最小値から最大値までの範囲を推奨範囲として設定する。
【0051】
従来の技術では、溶接士は、溶接部位を視認して、溶接状態が適切となるようにパラメータの調整量を自ら判断するという高度かつ熟練した技術が要求された。これに対し、本実施形態に係る溶接支援装置10は、各パラメータの最小値および最大値からなる推奨範囲を明確に提案することにより、溶接士が熟練度合いに関わらずパラメータ調整を適切に行えるようにすることができる。これにより、溶接士によって溶接品質にばらつきが生じることを抑制することができる。
【0052】
また、出力部114は、パラメータの値が推奨範囲に含まれない場合に、このパラメータの改善提案表示415を含む支援情報41を出力する。
【0053】
このようにすることで、溶接支援装置10は、溶接士に対し、パラメータの改善が必要であるか否かを容易且つ迅速に認識させることができる。これにより、欠陥の発生を未然に抑制することが可能となる。
【0054】
また、学習部115は、異常度が所定値未満(すなわち、溶接状態が正常)であるときに取得した溶接データXを、正常データPに追加して学習モデルMを更新する。
【0055】
このように、溶接支援装置10は、溶接作業を行いながら多数の正常データPを蓄積して学習モデルMを更新することにより、溶接装置20の特性や経年劣化などの影響を学習することができるので、溶接装置20に適したパラメータの提案を行うことが可能となる。
【0056】
上述の実施形態においては、溶接支援装置10の各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0057】
上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0058】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0059】
<付記>
上述の実施形態に記載の溶接支援装置、溶接支援方法、およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0060】
(1)本開示の第1の態様によれば、溶接支援装置10は、溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データXを取得する取得部110と、溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データPを学習して構築された学習モデルMと、取得部110が取得した溶接データXとに基づいて、溶接データXの異常度を算出する判定部111と、溶接データXに基づいて、学習モデルMの正常データPの一部を最適条件範囲Rとして抽出する抽出部112と、最適条件範囲Rに基づいて、溶接データXに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定する設定部113と、推奨範囲を含む支援情報を出力する出力部114と、を備える。
【0061】
このようにすることで、溶接支援装置10は、各パラメータについて、溶接品質を安定化する適切な値を溶接士に提案することができる。これにより、溶接支援装置10は、溶接士の熟練度合いに関わらず、溶接品質を安定化して欠陥の発生を抑制することができる。また、溶接支援装置10は、異常度の算出と、最適条件範囲Rの抽出とで同じ学習モデルMを利用することにより、判定部111および抽出部112における処理時間を短縮し、溶接士への推奨範囲のフィードバックを迅速に行うことができる。
【0062】
(2)本開示の第2の態様によれば、第1の態様に係る溶接支援装置10において、判定部111は、学習モデルMの正常データPのうち、溶接データXに近い方からk1番目となる正常データPk1を選択し、選択した正常データPk1と溶接データXとの距離を、溶接データXの異常度として算出し、抽出部112は、判定部111が選択した正常データPk1よりも溶接データXから遠いk2番目からk3番目までの正常データPk2~Pk3を最適条件範囲Rとして抽出する。
【0063】
このようにすることで、溶接支援装置10は、異常度の算出においては、溶接データXに比較的近い正常データPk1を用いることにより、過度に異常であると判断されるような異常度が算出されることを抑制することができる。一方で、溶接支援装置10は、最適条件範囲Rの抽出においては、正常データPの密度が高い(より安定的な溶接状態を表す)正常データPの範囲を適切に抽出することができる。これにより、溶接支援装置10は、最適条件範囲Rに基づき各パラメータの推奨値を適切に設定することができるので、溶接品質をより安定化することができる。
【0064】
(3)本開示の第3の態様によれば、第1または第2の態様に係る溶接支援装置10において、設定部113は、最適条件範囲におけるパラメータの最小値から最大値までの範囲を推奨範囲として設定する。
【0065】
このようにすることで、溶接支援装置10は、各パラメータの最小値および最大値からなる推奨範囲を明確に提案することにより、溶接士が熟練度合いに関わらずパラメータ調整を適切に行えるようにすることができる。これにより、溶接士によって溶接品質にばらつきが生じることを抑制することができる。
【0066】
(4)本開示の第4の態様によれば、第1から第3の何れか一の態様に係る溶接支援装置10において、出力部114は、パラメータの値が推奨範囲に含まれない場合に、パラメータの改善提案を含む支援情報を出力する。
【0067】
このようにすることで、溶接支援装置10は、溶接士に対し、パラメータの改善が必要であるか否かを容易且つ迅速に認識させることができる。これにより、欠陥の発生を未然に抑制することが可能となる。
【0068】
(5)本開示の第5の態様によれば、第1から第4の何れか一の態様に係る溶接支援装置10において、異常度が所定の閾値未満であるときに、溶接データXを正常データPに追加して、学習モデルMを更新する学習部115をさらに備える。
【0069】
このように、溶接支援装置10は、溶接作業を行いながら多数の正常データPを蓄積して学習モデルMを更新することにより、溶接装置20の特性や経年劣化などの影響を学習することができるので、溶接装置20に適したパラメータの提案を行うことが可能となる。
【0070】
(6)本開示の第6の態様によれば、溶接支援方法は、溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データXを取得するステップと、溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データPを学習して構築された学習モデルMと、取得した溶接データXとに基づいて、溶接データXの異常度を算出するステップと、溶接データXに基づいて、学習モデルMの正常データPの一部を最適条件範囲Rとして抽出するステップと、最適条件範囲Rに基づいて、溶接データXに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定するステップと、推奨範囲を含む支援情報を出力するステップと、を有する。
【0071】
(7)本開示の第7の態様によれば、プログラムは、溶接状態を表す複数のパラメータからなる溶接データXを取得するステップと、溶接状態が正常である期間に収集された溶接データからなる正常データPを学習して構築された学習モデルMと、取得した溶接データXとに基づいて、溶接データXの異常度を算出するステップと、溶接データXに基づいて、学習モデルMの正常データPの一部を最適条件範囲Rとして抽出するステップと、最適条件範囲Rに基づいて、溶接データXに含まれる少なくとも1つのパラメータの値の推奨範囲を設定するステップと、推奨範囲を含む支援情報を出力するステップと、を溶接支援装置10に実行させる。
【符号の説明】
【0072】
1 溶接支援システム
10 溶接支援装置
11 プロセッサ
110 取得部
111 判定部
112 抽出部
113 設定部
114 出力部
115 学習部
12 メモリ
13 ストレージ
14 通信インタフェース
20 溶接装置
30 データロガー
40 表示装置