IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社シグマの特許一覧

<>
  • 特開-レンズ鏡筒 図1
  • 特開-レンズ鏡筒 図2
  • 特開-レンズ鏡筒 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024447
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】レンズ鏡筒
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20240215BHJP
【FI】
G02B7/02 C
G02B7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127275
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000131326
【氏名又は名称】株式会社シグマ
(72)【発明者】
【氏名】田内 久真
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AC01
2H044AJ04
(57)【要約】
【課題】シフト調芯とティルト調芯の調芯作業とレンズ間隔の調整作業とを両立させると共に配置を工夫することで調芯作業や調整作業における作業性が優れ、かつ製品外径の増大を抑えたレンズ鏡筒を提供すること
【解決手段】レンズを保持するレンズ保持部材と、前記レンズ保持部材を固定するベース部材と、前記レンズ保持部材と前記ベース部材との位置関係を調整する調整部材と、
を有するレンズ鏡筒であって、前記調整部材は、前記レンズの光軸と直交する方向に調整可能な第1調整部と、前記光軸に沿った方向に調整可能な第2調整部と、を有することを特徴とするレンズ鏡筒
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを保持するレンズ保持部材と、
前記レンズ保持部材を固定するベース部材と、
前記レンズ保持部材と前記ベース部材との位置関係を調整する調整部材と、
を有するレンズ鏡筒であって、
前記調整部材は、
前記レンズの光軸と直交する方向に調整可能な第1調整部と、
前記光軸に沿った方向に調整可能な第2調整部と、
を有することを特徴とするレンズ鏡筒
【請求項2】
前記第1調整部は偏芯コロであり、
前記第2調整部は調整ワッシャーであることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒
【請求項3】
前記調整部材は、
前記ベース部材の外周上に少なくとも3箇所設けられていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒
【請求項4】
前記第1調整部と前記第2調整部を調整する際、前記光軸と直交する方向から治具が挿入可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレンズ鏡筒
【請求項5】
前記ベース部材は、
前記偏芯コロが挿通される嵌合部を有し、
前記嵌合部は前記偏芯コロの偏芯量と前記調整ワッシャー量とを合わせた長孔形状であることを特徴とする請求項2に記載のレンズ鏡筒
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレンズから構成されるレンズ鏡筒について、光学性能を調整する調芯機構を有するレンズ鏡筒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像装置は高性能化、小型化が要求されている。一例として、撮像装置にはより高解像な画像が得られる撮像素子が採用されるようになった。その結果、このような撮像素子と組み合わせて用いられるレンズ鏡筒に要求される光学性能も撮像素子の性能に併せて高くなってきている。
【0003】
レンズ鏡筒は、1枚乃至複数枚のレンズからなるレンズ鏡室を複数有している。このようなレンズ鏡筒を組み立てるに際して、レンズ鏡室をレンズ鏡筒へ組み付けるだけでは、組み上がったレンズ鏡筒は、設計値通りの光学性能を得ることができない。なぜなら、レンズ鏡室などレンズ鏡筒を構成する各部材の製造時に誤差が生じることにより、各レンズ鏡室間の位置関係にずれが生じ、結果として解像に悪影響が及んでいる。
【0004】
そこで、レンズ鏡筒の製造工程には、レンズ鏡筒の製造上の誤差による光学性能の低下を抑制するための調整工程が設けられている。
【0005】
調整工程では、MTF測定器にレンズ鏡筒を取り付け、レンズを介した結像を観察しながらレンズ鏡筒内に保持されるレンズ鏡室の位置を調整し、レンズ性能を発揮するのに最適なレンズ鏡室の位置となったところで、レンズ鏡筒とレンズ鏡室の係合部に接着剤などを塗布などして固定する。
【0006】
特許文献1には、レンズを光軸に垂直な面上を移動させるシフト調芯と光軸に垂直な面を物体側又は像側へ移動させるティルト調芯させるレンズ鏡筒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4817876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のレンズ鏡筒は、シフト調芯とティルト調芯と共にレンズ群又はレンズ群内でのレンズ間隔を調整するレンズ間隔調整を行うことが出来ないという課題を有する。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、シフト調芯とティルト調芯の調芯作業とレンズ間隔の調整作業とを両立させると共に配置を工夫することで調芯作業や調整作業における作業性が優れ、かつ製品外径の増大を抑えたレンズ鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段である第1の発明は、レンズを保持するレンズ保持部材と、前記レンズ保持部材を固定するベース部材と、前記レンズ保持部材と前記ベース部材との位置関係を調整する調整部材と、を有するレンズ鏡筒であって、前記調整部材は、前記レンズの光軸と直交する方向に調整可能な第1調整部と、前記光軸に沿った方向に調整可能な第2調整部と、を有することを特徴とするレンズ鏡筒
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シフト調芯とティルト調芯の調芯作業とレンズ間隔の調整作業とを両立させると共に配置を工夫することで調芯作業や調整作業における作業性が優れ、かつ製品外径の増大を抑えたレンズ鏡筒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例に係るレンズ鏡筒の調整機構の要部を示す斜視図
図2】本発明の実施例に係るレンズ鏡筒の調整機構の分解斜視図
図3】本発明の実施例に係るレンズ鏡筒の第1レンズ群の断面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面に従って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。また、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレンズ鏡筒の要部を示す斜視図である。尚、図1は、本発明のレンズ鏡筒のシフト調芯とティルト調芯とレンズ間隔調整を行う調整工程の説明するために調整機構の要部のみに簡略化されている。図2は、図1の調整機構付近を拡大した分解斜視図である。図3は、レンズ鏡筒の第1レンズ群の断面斜視図である。尚、本実施例中では、レンズ鏡筒の光軸つまり、レンズ鏡筒を構成する第1レンズ群の光軸を基に光軸に沿った方向をスラスト方向、光軸と直交する方向をラジアル方向とする。また、全ての図面においてスラスト方向左側を物体側、右側を像側とし、ラジアル方向光軸側が内周、反対側が外周となる。
【0015】
各図面に示すように、本願発明のレンズ鏡筒は調整部材である調整機構を有し、調整機構はベース部材110の嵌合部111、レンズ鏡室120のスペーサー軸係合部122、偏芯コロ130、調整ワッシャー140、スペーサー軸150を備える。ベース部材110とレンズ鏡室120は、レンズ鏡筒を構成するレンズ群のうち、最も物体側に位置する第1レンズ群に該当する。従って、本願実施例のレンズ鏡筒は第1レンズ群がシフト調芯・ティルト調芯・レンズ間隔調整の調整対象である調整群である。また、第1レンズ群のラジアル方向の外径側にはフロントリング、スラスト方向の物体側にはネームリングや遮光部材などが、スラスト方向の像側には第2・第3レンズ群や撮像装置と接続されるマウントなどがそれぞれ配置される。
【0016】
さらに、第1レンズ群の構成を詳しく説明する。第1レンズ群はレンズ鏡室120が保持するレンズの他にスラスト方向の像側に不図示である第2レンズと第3レンズを有する。
【0017】
ベース部材110は、レンズ鏡筒を構成する固定筒である。図1右下にあるビス穴112に不図示のビスにてフロントリングに固定される。尚、本願実施例では固定筒としたが、ベース部材110へカム溝を形成し、ベース部材110を光軸に沿って移動する直進筒としても問題ない。また、ベース部材110には偏芯コロ130が嵌合するための長孔形状である嵌合部111を有する。
【0018】
レンズ鏡室120は、不図示のガラス硝材を保持している部材であり、レンズ保持部材に該当する。ティルト調芯は、レンズ鏡室120を光軸に対する倒れ具合を調整することで行われる。シフト調芯は、レンズ鏡室120を光軸と直交する平面上を移動させることで行われる。また、レンズ鏡室120には、べ-ス部材110の嵌合部111に嵌合される偏芯コロ130が嵌合する嵌合穴121が設けられている。さらに、スペーサー軸150が嵌合するスペーサー軸係合部122が設けられている。スペーサー軸係合部122は、ラジアル方向の外周側が開放された凹形状である。
【0019】
偏芯コロ130は、ベース部材110の嵌合部111に嵌合し、レンズ鏡室120の嵌合穴121に嵌合する。偏芯コロ130を調整治具にて回転させることでレンズ鏡室120が光軸と直交する面上を移動することでシフト調芯が行われる。
【0020】
調整ワッシャー140は、レンズ鏡室120のスペーサー軸係合部122とベース部材110との間に位置し、スペーサー軸150によってレンズ鏡室120と共にベース部材110へ固定される。調整ワッシャー140の枚数及び厚さを変更することでレンズ鏡室120とベース部材110の光軸に沿った方向の位置関係が変更される。つまりレンズ間隔調整が可能となる。また、調整ワッシャー140は、開放された貫通穴を有する形状である。その結果、スペーサー軸150のビス部分へラジアル方向外周側から調整治具にて調整ワッシャー140の挿脱が可能となる。尚、本実施例ではワッシャーとしたがベース部材110とレンズ鏡室120との間隔を保持する機能を有し、挿脱可能な形状であればスペーサーなどでも問題ない。
【0021】
スペーサー軸150は、ビスとスペーサーから構成される。スペーサーがレンズ鏡室120のスペーサー軸係合部122と係合し、スペーサー軸150をベース部材110へ固定させることでベース部材110とレンズ鏡室120のスラスト方向の位置関係が固定される。具体的には、図2のスペーサー軸150が、ビス先端部から伸びる点線の先にあるベース部材110上の穴に嵌合することで固定される。
【0022】
図2は、本願発明のレンズ鏡筒の調整機構付近を拡大した分解斜視図である。図2を用いて調整工程を説明する。
【0023】
調整工程では、MTF測定器などの調整治具にレンズ鏡筒を装着し、レンズ鏡筒を通過した光による結像の解像性能を観察しながら調整群を調整する。本願発明のレンズ鏡筒は、レンズ鏡室120の保持する不図示のガラス硝材を調整工程にてティルト調芯、シフト調芯、レンズ間隔調整を行うことで、レンズ鏡筒は設計値通りの光学性能を得ることとする。
【0024】
ティルト調芯を行うには、ベース部材110とレンズ鏡室120の外周部に3箇所設けられているスペーサー軸係合部122とベース部材110との間に挿入する調整ワッシャー140の枚数及び厚みをそれぞれに変更する。調整ワッシャー140の枚数及び厚みを変更することでレンズ鏡室の保持されたガラス硝材は、光軸に対する傾きの調整が可能となることでティルト調芯が可能となる。
【0025】
また、外周部に設けられている全てのスペーサー軸係合部122とベース部材110との間に挿入する調整ワッシャー140を同じように調整することで、ベース部材110とレンズ鏡室120との間隔を調整することが可能となる。つまり、ガラス硝材を光軸に対する傾きを変更することなくスラスト方向の移動が可能であることから、ガラス硝材であるレンズの間隔調整が可能となる。
【0026】
最後に、シフト調芯を行うには、嵌合部111と嵌合穴121に嵌合する偏芯コロ130を調整治具にて回転操作することで、偏芯コロ130が嵌合穴121を介してレンズ鏡室120を光軸と直交する平面上を移動させるので、外周部に3箇所設けられている偏芯コロ130をそれぞれ調整することで、レンズ鏡室120に保持されるレンズ硝材も光軸と直交する平面上を移動させることが可能である。つまり、ガラス硝材のシフト調芯が可能となる。尚、調整後は、ベース部材110とレンズ鏡室120のラジアル方向の位置関係が固定される。
【0027】
MTF測定器を用いた調整工程では、前述したように解像性能を観察しながら行うことが一般的である。従って、調芯・間隔の調整を行う為の偏芯コロ130の回転操作や調整ワッシャー140の挿脱は、ラジアル方向から治具の挿入が可能であることが望ましい。ラジアル方向から治具の挿入が可能であることにより、解像性能の観察を妨げることなく治具の操作が可能となることで、本願発明は優れた作業性を有する。
【0028】
さらには、ラジアル方向から治具の挿入によりが調整可能であることから、図1及び図2に記載の調整群である第1レンズ群内にさらに調整可能な第2レンズと第3レンズを有する図3に図示するようなレンズ鏡筒の構成とすることが可能となる。以下、図3を用いて具体的な説明を行う。
【0029】
尚、第2レンズ鏡室220と第3レンズ鏡室320とを調整するための第2調整機構は、図3中には1箇所しか図示されていないが、第1レンズ鏡室を調整する調整機構と同様に調整するレンズ鏡室の外周部に120°間隔で配置されていることは言うまでもない。
【0030】
図3は、本願発明のレンズ鏡筒の第1レンズ群をスラスト方向に切断した断面斜視図である。第1レンズ群は前述したように第2レンズと第3レンズを有し、第2レンズ鏡室220と第3レンズ鏡室320がそれぞれのガラス硝材を保持する。また、レンズ鏡室120は嵌合部111と同様の長孔形状である第2嵌合部123を有し、偏芯コロ230、調整ワッシャー240、スペーサー軸250は、それぞれ偏芯コロ130、調整ワッシャー140、スペーサー軸150と同じ役割を果たす。これら第2レンズと第3レンズを調整するための調整部材を第2調整機構とする。
【0031】
各レンズ鏡室の関係を説明する。スペーサー軸150とスペーサー軸係合部122との係合関係と同様に、スペーサー軸250のスペーサー部分と第3レンズ鏡室320とが係合し、スペーサー軸250は第2レンズ鏡室220へ固定されている。また、第2レンズ鏡室220と第3レンズ鏡室320の間には調整ワッシャー240が位置することから、調整ワッシャー240の枚数及び厚みを調整することで、第2レンズと第3レンズの間隔調整及び第3レンズのティルト調芯が可能であり、第3レンズ鏡室320は第2レンズ鏡室220へ固定されている。次に、偏芯コロ230は、レンズ鏡室120の第2嵌合部123に嵌合し、第2レンズ鏡室220と嵌合している。つまり、レンズ鏡室120は、第2レンズ鏡室220を保持し、偏芯コロ230を調整治具にて回転させることで第2レンズ鏡室220が光軸と直交する面上を移動する。従って、第2レンズはシフト調芯が可能である。
【0032】
尚、図2に示す嵌合部111と図3に示す第2嵌合部123は、スラスト方向に長孔形状であり、この長孔の長さは偏芯コロの偏芯量とシフト調芯とレンズ間隔調整を行う際、挿入が想定される調整ワッシャーの最大厚み分との合計とする。
【0033】
以上のことから、図3に記載のレンズ鏡筒は、第2レンズがシフト調芯、第3レンズがティルト調芯、第2レンズと第3レンズの間隔調整がそれぞれ可能となることで第1レンズ群が有する第1レンズから第3レンズとの間で芯出し調整が可能となる。次に、芯出し調整した第1レンズ群は、図2を用いて説明したように調整工程を第1レンズに行うことで、レンズ鏡筒は設計値通りの光学性能を得ることが可能となる。
【0034】
また、本願発明の調整機構は、ベース部材110の外周上に120°間隔で3箇所配置されている。シフト調芯とティルト調芯と間隔調整を行うための調整機構であるベース部材110の嵌合部111、レンズ鏡室120のスペーサー軸係合部122、偏芯コロ130、調整ワッシャー140、スペーサー軸150がベース部材110の外周上にまとめて配置される。第2調整機構も同様に第2レンズ鏡室220と第3レンズ鏡室320の外周上にまとめて配置されることで、ベース部材110のラジアル方向外周側への製品外径の増大を抑えることが可能となっている。
【0035】
次に、第1レンズを調整するための調整機構はベース部材110の外周上に120°間隔で配置されているので、図3に記載のように第2レンズと第3レンズを調整するための第2調整機構は第1レンズ群を調整する調整機構と位相をずらして配置し、第2調整機構へ調整治具がラジアル方向からアクセス可能とするためにベース部材110の該当箇所へ調整治具がアクセスするための溝部を形成することで、レンズ鏡筒は2つの調整機構を有することが可能となる。その結果、前述したようにより精度の高い調芯調整とレンズ間隔調整を行うことが可能となり、光学性能の優れたレンズ鏡筒の製造が可能となる。
【0036】
また、各調整機構内の偏芯コロと調整ワッシャーは隣り合うように連なって配置されることが望ましい。調整時の移動量を少なくすることで優れた作業性とし、第2調整機構のように外周側にベース部材110が位置するため、治具を挿入するための溝部を設ける際、溝部を小さくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
110 固定筒
111 嵌合部
112 ビス穴
120 レンズ鏡室
121 嵌合穴
122 スペーサー軸係合部
123 第2嵌合部
130 偏芯コロ
140 調整ワッシャー
150 スペーサー軸
220 第2レンズ鏡室
230 偏芯コロ
240 調整ワッシャー
250 スペーサー軸
320 第3レンズ鏡室
図1
図2
図3