IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

特開2024-24452炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
<>
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図1
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図2A
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図2B
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図3
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図4
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図5
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図6
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図7
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図8
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図9
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図10
  • 特開-炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024452
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240215BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240215BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H01L29/78 652M
H01L29/78 652T
H01L29/78 652Q
H01L29/78 658F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127281
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇
(57)【要約】
【課題】AlSi電極を備えた炭化珪素半導体装置において、歩留まりを向上させることができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】炭化珪素からなる半導体基板の表面に、スパッタリングにより、シリコンを含むアルミニウム合金からなるAlSi電極が設けられている。AlSi電極中には、デンドライト構造のSiノジュールが析出している。AlSi電極中のSiノジュールの高さは、デンドライト構造および角柱構造のいずれのSiノジュールにおいても2μm以下である。AlSi電極中のデンドライト構造のSiノジュールの高さは、好ましくは1μm以下である。AlSi電極のシリコン固溶度は、0.3wt%以上1.59wt%以下である。AlSi電極のスパッタリング温度は430℃以上577℃以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる半導体基板と、
前記半導体基板の表面に設けられた、シリコンを含むアルミニウム合金からなる表面電極と、
を備え、
前記表面電極の内部にシリコンノジュールが析出しており、
前記表面電極の内部に析出した前記シリコンノジュールの少なくとも一部がデンドライト構造であり、
すべての前記シリコンノジュールの高さが2μm以下であることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
デンドライト構造の前記シリコンノジュールの高さは、1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記表面電極のシリコン固溶度は、0.3wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記表面電極のシリコン濃度は、前記表面電極のシリコン固溶度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記表面電極の表面にボンディングワイヤが接合されており、
前記ボンディングワイヤの直径は、100μm以上400μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記ボンディングワイヤの直径は、300μm以上であることを特徴とする請求項5に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
炭化珪素からなる半導体基板と、前記半導体基板の表面に設けられた、シリコンを含むアルミニウム合金からなる表面電極と、を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
炭化珪素からなる前記半導体基板の表面に、スパッタリングにより、シリコンを含むアルミニウム合金からなる前記表面電極を堆積する堆積工程を含み、
前記堆積工程では、
前記表面電極のシリコン濃度を前記表面電極のシリコン固溶度よりも高くし、
前記半導体基板の温度もしくは前記表面電極の形成領域周辺の温度、またはその両方の温度を430℃以上577℃以下とすることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記堆積工程では、前記表面電極のシリコン固溶度を0.3wt%以上にすることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板のおもて面の表(ひょう)面電極の電極材料として、シリコン(Si)を含むアルミニウム(Al)が用いられている。半導体基板のおもて面の表(ひょう)面電極は層間絶縁膜のコンタクトホールに埋め込むよう形成される。このため、シリコンを含むアルミニウムを電極材料とする表面電極(以下、AlSi電極とする)の埋め込み性を向上させる方法として、スパッタリングにより堆積(形成)しながら熱処理(リフロー)により軟化させて埋め込むリフロースパッタリングなどが提案されている。
【0003】
シリコン(Si)を半導体材料とした場合、半導体基板とAlSi電極とが接触した状態で高温に晒されると、半導体基板中のシリコン原子とAlSi電極中のアルミニウム原子との相互拡散が起きやすい。AlSi電極中から半導体基板中に拡散したアルミニウム原子は半導体基板中のシリコン原子と合金化され、AlSi電極から半導体基板中に局所的に突出した突出部(アロイスパイク)となる。アロイスパイクが半導体基板の内部のpn接合まで進行すると、特性劣化による素子不良が懸念される。
【0004】
半導体基板中からAlSi電極中に拡散したシリコン原子はAlSi電極の半導体基板との界面付近にシリコン(Si)ノジュールとして析出し、半導体基板とAlSi電極との界面での電気抵抗が高くなる。AlSi電極のスパッタリング時の半導体基板の温度(以下、スパッタリング温度とする)を比較的低温度(300℃未満)にすることで、半導体基板中のシリコン原子とAlSi電極中のアルミニウム原子との相互拡散が抑制され、アロイスパイクの進行およびSiノジュールの析出が抑制されることが知られている。
【0005】
また、層間絶縁膜のコンタクトホールのアスペクト比が大きい場合などには、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を用いて、層間絶縁膜のコンタクトホールに、アルミニウムよりも埋め込み性の高いタングステン(W)を埋め込む方法が用いられる。層間絶縁膜のコンタクトホール内に埋め込まれたタングステンプラグ(Wプラグ)上にAlSi電極を堆積することで、AlSi電極と半導体基板とが直接接触しないため、アロイスパイクの発生が抑制される。
【0006】
一方、炭化珪素(SiC)を半導体材料とした場合、AlSi電極のスパッタリング温度を300℃以上としたとしてもアロイスパイクが生じにくい。その理由は、炭化珪素自体の拡散係数が小さい(炭化珪素の炭素原子とシリコン原子との結合エネルギーが大きい)ことに加えて、半導体基板とAlSi電極との間に半導体基板とのオーミック接触のためのシリサイド膜が形成されることで、半導体基板中のシリコン原子とAlSi電極中のアルミニウム原子との相互拡散が抑制されるからである。
【0007】
シリコンを半導体材料とした従来のシリコン半導体装置の製造方法として、AlSi電極のスパッタリング温度をAlSi電極の金属材料の再結晶温度に近い温度以下に設定することで、Siノジュールの析出を抑制する方法が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。下記特許文献1では、AlSi電極のスパッタリング温度を、AlSi電極中に拡散したシリコン原子が粒状になりにくい170℃以下とすることで、AlSi電極中のSiノジュールの析出をほぼ0%にしている。
【0008】
また、従来のシリコン半導体装置の別の製造方法として、半導体基板の温度を、150℃の低温度とした状態と、350℃の高温度とした状態と、で連続してスパッタリングを行ってAlSi電極を堆積する方法が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。下記特許文献2では、低温度で堆積したAlSi電極中のSiノジュールが高温度で堆積したAlSi電極中のSiノジュールに吸収されて成長するので、AlSi電極の総厚さの中間の深さにSiノジュールが析出して、下層のバリアメタルから離間される。
【0009】
また、従来のシリコン半導体装置の別の製造方法において、スパッタリングにより堆積したAlSi電極中に析出した粗大なシリコン析出物(Si析出物)が、AlSi電極にボンディングワイヤを圧着する際に半導体基板に強く押し込まれ、Si析出物が押し込まれた箇所から半導体基板に達するクラックを生じさせることが報告されている(例えば、下記非特許文献1参照。)。下記非特許文献1には、Si析出物が原因で発生したクラックにより素子破壊を引き起こし、歩留りを低下させる虞があることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3083301号公報
【特許文献2】特開2000-164593号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】後藤裕史、外4名、Si-IGBT向け高強度アルミニウム合金電極材料、R&D 神戸製鋼技報(Research and Development KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS)、神戸製鋼所、2005年9月、第65巻、第2号、p.58-61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、炭化珪素を半導体材料とした場合、CVD法によるWプラグの埋め込み等を用いることなく、スパッタリングのみを用いてAlSi電極の埋め込み性を向上させることができる。しかしながら、発明者らが鋭意研究を重ねた結果、AlSi電極のスパッタリング温度を300℃以上とすると、AlSi電極中に析出するSiノジュールがAlSi電極の結晶表面と直交する厚さ方向(半導体基板の表面に直交して半導体基板の表面から離れる方向)に角柱状に結晶粒成長して拡大することが判明した。
【0013】
AlSi電極中のSiノジュールが拡大すると、ワイヤボンディング工程においてAlSi電極に加わる荷重や超音波振動等によるダメージがAlSi電極中のSiノジュールを介して半導体基板までに伝わり、Siノジュール付近に半導体基板の内部まで達するクラックが生じたり、半導体基板からボンディングワイヤが剥離することが判明した。このSiノジュールによって半導体基板にクラックが生じる問題については、シリコンを半導体材料とした場合においても同様に生じることが上記非特許文献1で報告されている。
【0014】
また、AlSi電極中にSiノジュールが析出した場合、AlSi電極をパターニングして所定箇所へ残すにあたって、AlSi電極をウェットエッチングで除去した後、バリアメタル上に残るSiノジュールをドライエッチングで除去する必要がある。しかしながら、AlSi電極の厚さ方向に角柱状に結晶粒成長して拡大し高さを増したSiノジュールをドライエッチングで除去するには、ドライエッチング時間を長くする必要があり、AlSi電極の下層のバリアメタルの信頼性に悪影響が生じる。
【0015】
また、ワイヤボンディング時にボンディングワイヤを押し付けた部分でAlSi電極の一部が剥がれ取れてしまうことが発明者によって確認されている。図10は、従来の炭化珪素半導体装置のゲートパッドの一部を半導体基板のおもて面側から見た状態を模式的に示す平面図である。図10には、ゲートパッド104の剥離箇所を示す。図11は、図10の切断線AA-AA’における断面構造を示す断面図である。図11には、図10のゲートパッド104の下層の積層構造および剥離箇所の状態を示す。
【0016】
図10に示すように、炭化珪素(SiC)からなる半導体基板101のおもて面上に、フィールド酸化膜111、ポリシリコン(pliy-Si)層112、層間絶縁膜102、バリアメタル103およびゲートパッド104がこの順に積層されている。フィールド酸化膜111は、初期酸化(SiO2)膜および高温熱酸化(HTO:High Temperature Oxide)膜をこの順に積層してなる。ポリシリコン層112は、ゲートランナーを構成するゲート配線層である。
【0017】
層間絶縁膜102は、例えばNSG(Non doped Silicate Glass)およびBPSG(Boro Phospho Silicate Glass)をこの順に積層してなる。バリアメタル103は、例えば、タングステン(W)や、チタン(Ti)膜もしくは窒化チタン(TiN)膜、またはこれらの積層金属膜である。ゲートパッド104は、Si含有率1wt%のAlSi電極である。ゲートパッド104の厚さt101は、3μm~5μm程度の範囲内であり、例えば5μm程度である。
【0018】
ゲートパッド104の表面104aにボンディングワイヤを押し付けたときに、ポリシリコン層112とフィールド酸化膜111との界面123(HTOの上面)から上層が部分的に剥離して当該界面123に沿って横滑りする。これに伴って、当該剥離箇所付近で、バリアメタル103と層間絶縁膜102との界面121(BPSGの上面)や、層間絶縁膜102とポリシリコン層112との界面122(ポリシリコン層112の上面)でも上層が部分的に剥離し、これらの剥離箇所でそれぞれ上層が剥がれ取れて捲れ上がる。
【0019】
ゲートパッド104が剥がれ取れた部分や捲れ上がった部分104bで、下層の層間絶縁膜102、ポリシリコン層112およびフィールド酸化膜111がそれぞれ部分的に露出される。ボンディングワイヤの接触箇所でAlSi電極(ゲートパッド104)が剥がれ取れるため、ボンディングワイヤを接合することができない。このようにAlSi電極の一部が剥がれ取れるのは、AlSi電極中のアルミニウムよりも硬いSiノジュールがボンディングワイヤによって押し付けられることで下層にダメージが生じるからである。
【0020】
また、AlSi電極のスパッタリング温度を狙いの低温度(300℃未満)としても、スパッタリング温度を当該狙いの低温度で維持できず、スパッタリング温度が200℃~350℃の範囲内で変動してしまう。このため、スパッタリング温度が300℃以上に変動したときにAlSi電極中のSiノジュールが厚さ方向に角柱状に結晶粒成長してしまい、上述したようにワイヤボンディング時にAlSi電極やその下層の一部が剥がれ取れてボンディングワイヤが剥離することが発明者により確認されている。
【0021】
また、枚葉式での低温スパッタリングでAlSi電極を堆積すると、半導体ウエハの連続処理枚数が増えるほど炉内温度が上昇してスパッタリング温度が上昇する。このため、連続処理の後半に処理された半導体ウエハほど、ワイヤボンディング時にAlSi電極の一部が剥がれ取れる確率が高くなることが発明者により確認されている。また、ワイヤ径(直径)が300μm以上のボンディングワイヤを用いた場合に上述したようにAlSi電極の一部が剥がれ取れる確率が高いことが発明者により確認されている。
【0022】
上記特許文献1では、AlSi電極のスパッタリング温度が170℃以下と低いことで、AlSi電極の埋め込み性が悪いという問題がある。上記特許文献2では、低温度でのスパッタリングと、高温度でのスパッタリングと、を連続して行ってAlSi電極を堆積しているが、スパッタリング中の温度制御は困難である。また、パワーデバイスに用いられるAlSi電極の厚さが4μm~6μm程度と厚く、上記特許文献2を適用してAlSi電極を堆積しても、その効果を得にくい。
【0023】
この発明は、上述した従来技術による課題を解消するため、AlSi電極を備えた炭化珪素半導体装置において、歩留まりを向上させることができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素からなる半導体基板と、前記半導体基板の表面に設けられた、シリコンを含むアルミニウム合金からなる表面電極と、を備える。前記表面電極の内部に、シリコンノジュールが析出している。前記表面電極の内部に析出した前記シリコンノジュールの少なくとも一部がデンドライト構造である。すべての前記シリコンノジュールの高さが2μm以下である。
【0025】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、デンドライト構造の前記シリコンノジュールの高さは、1μm以下であることを特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記表面電極のシリコン固溶度は、0.3wt%以上であることを特徴とする。
【0027】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記表面電極のシリコン濃度は、前記表面電極のシリコン固溶度よりも高いことを特徴とする。
【0028】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記表面電極の表面にボンディングワイヤが接合されている。前記ボンディングワイヤの直径は、100μm以上400μm以下であることを特徴とする。
【0029】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記ボンディングワイヤの直径は、300μm以上であることを特徴とする。
【0030】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素からなる半導体基板と、前記半導体基板の表面に設けられた、シリコンを含むアルミニウム合金からなる表面電極と、を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法であって、次の特徴を有する。炭化珪素からなる前記半導体基板の表面に、スパッタリングにより、シリコンを含むアルミニウム合金からなる前記表面電極を堆積する堆積工程を含む。前記堆積工程では、前記表面電極のシリコン濃度を前記表面電極のシリコン固溶度よりも高くし、前記半導体基板の温度もしくは前記表面電極の形成領域周辺の温度、またはその両方の温度を430℃以上577℃以下とすることを特徴とする。
【0031】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記堆積工程では、前記表面電極のシリコン固溶度を0.3wt%以上にすることを特徴とする。
【0032】
上述した発明によれば、AlSi電極(表面電極)中のシリコンノジュールがボンディングワイヤによってAlSi電極の下層や半導体基板に押し込まれることがない。また、ボンディングワイヤから受ける荷重や超音波振動がAlSi電極から下層に広い面積で伝えられるため、AlSi電極の下層に局所的に応力集中しない。このため、ワイヤボンディング時にAlSi電極およびその下層での剥離やクラックの発生を抑制することができ、ワイヤボンディング時のボンディングワイヤの剥離を抑制することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、AlSi電極を備えた炭化珪素半導体装置において、歩留まりを向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す断面図である。
図2A図1の切断線A-A’における断面構造を示す断面図である。
図2B図1の切断線B-B’における断面構造を示す断面図である。
図3】AlSi電極のスパッタリング温度とAlSi電極の結晶構造との関係を模式的に示す説明図である。
図4】実験例1のAlSi電極のスパッタリング温度とAlSi電極中のSiノジュールの高さとの関係を示す特性図である。
図5図4の試料A~DのSiノジュールを半導体基板のおもて面側から見た状態を模式的に示す平面図である。
図6】実験例1のAlSi電極のスパッタリング温度とAlSi電極中のSiノジュールの面積比率との関係を示す図表である。
図7】実験例2のAlSi電極のボンディングワイヤとの接合部を模式的に示す断面図である。
図8】AlSi合金の平衡状態図を示す特性図である。
図9】実験例4のワイヤボンディング時のAlSi電極の剥離確率を示す特性図である。
図10】従来の炭化珪素半導体装置のゲートパッドの一部を半導体基板のおもて面側から見た状態を模式的に示す平面図である。
図11図10の切断線AA-AA’における断面構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0036】
(実施の形態)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す断面図である。図1には、炭化珪素半導体装置10の実装後の状態を示す。図1には、パッシベーション膜5の開口部5a,5bを破線で示し、はんだ層12および実装基板13を図示省略する。図2A,2Bは、それぞれ図1の切断線A-A’および切断線B-B’における断面構造を示す断面図である。図2A、2Bでは、炭化珪素半導体装置10の素子構造(半導体基板1の内部の各部)を図示省略する。
【0037】
図1,2A,2Bに示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10は、炭化珪素(SiC)からなる半導体基板(半導体チップ)1の主面に、シリコン(Si)を含むアルミニウム(Al)合金を電極材料とする表(ひょう)面電極(以下、AlSi電極とする)4を備える。図1,2A,2Bには、炭化珪素半導体装置10として半導体基板1のおもて面にAlSi電極4を備えた縦型半導体装置を示すが、半導体基板1の少なくとも一方の主面に少なくとも1つのAlSi電極4を備えていればよく、その他の構成は種々変更可能である。
【0038】
半導体基板1は、半導体インゴット(半導体単結晶棒)から切り出されてチップ状に個片化されたバルク基板であってもよいし、バルク基板(出発基板)上に所定導電型のエピタキシャル層を成長させたエピタキシャル基板であってもよい。半導体基板1には、活性領域21と、活性領域21の周囲を囲むエッジ終端領域22と、が設けられている。活性領域21は、炭化珪素半導体装置10のオン時に主電流(ドリフト電流)が流れる領域である。活性領域21は、例えば、半導体基板1の略中央に設けられている。
【0039】
エッジ終端領域22は、活性領域21と半導体基板1の端部との間の領域であり、半導体基板1のおもて面側の電界を緩和して耐圧を保持する機能を有する。耐圧とは、炭化珪素半導体装置10が誤動作や破壊を起こさない限界の電圧である。エッジ終端領域22には、フィールドリミッティングリング(FLR:Field Limiting Ring)や接合終端拡張(JTE:Junction Termination Extension)構造等の耐圧構造(不図示)が配置されている。
【0040】
活性領域21において半導体基板1のおもて面に、1つ以上(ここでは2つ)のAlSi電極4が設けられている。図1には、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10をMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)とし、ソース電極4aとして機能するAlSi電極4と、ゲートパッド4bとして機能するAlSi電極4と、を配置した場合を示す。AlSi電極4の構成については後述する。
【0041】
半導体基板1のおもて面側には、炭化珪素半導体装置10の素子構造として、一般的なトレンチゲート構造(不図示)が設けられている。半導体基板1のおもて面の全面にわたって層間絶縁膜2が設けられている。層間絶縁膜2は、例えばNSGおよびBPSGをこの順に積層してなる。層間絶縁膜2には、AlSi電極4と半導体基板1とのコンタクト(電気的接触部)となるコンタクトホールが選択的に設けられている。図2では、層間絶縁膜2に1つのコンタクトホールを示す。層間絶縁膜2の表面および層間絶縁膜2のコンタクトホールに露出する半導体基板1のおもて面と、AlSi電極4と、の間にバリアメタル3が設けられてもよい。
【0042】
バリアメタル3は、半導体基板1側への金属原子の拡散や、バリアメタル3を挟んで隣り合う各部間での相互反応を防止する。バリアメタル3により、AlSi電極4から層間絶縁膜2へのアルミニウム原子の拡散が抑制される。バリアメタル3は、例えばチタン(Ti)膜もしくは窒化チタン(TiN)膜、またはこの順に積層した積層金属膜である。バリアメタル3(バリアメタル3を設けない場合はAlSi電極4)と半導体基板1との間に、半導体基板1にオーミック接触するシリサイド膜6が設けられていてもよい。
【0043】
ソース電極4aは、バリアメタル3およびシリサイド膜6を介して、またはシリサイド膜6のみを介して半導体基板1のおもて面に電気的に接続されることで、半導体基板1のおもて面に露出されたn+型ソース領域およびp++型コンタクト領域に電気的に接続されている。ソース電極4aは、活性領域21のうち、ゲートパッド4bが配置された領域を除く領域のほぼ全面を覆う。ソース電極4aのうち、後述するパッシベーション膜5の開口部5aに露出された部分がソースパッド(電極パッド)として機能する。
【0044】
ゲートパッド(電極パッド)4bは、例えばソース電極4aと同時に形成され、ソース電極4aと同一階層に、ソース電極4aと離れて配置されている。ゲートパッド4bは、活性領域21における半導体基板1のおもて面上に層間絶縁膜2を介して設けられ、層間絶縁膜2によってソース電極4aと電気的に絶縁されている。ゲートパッド4bには、ポリシリコン(poly-Si)層からなるゲートランナー15を介して、MOSFETのすべてのゲート電極(不図示)が電気的に接続されている。
【0045】
ゲートランナー15は、エッジ終端領域22に配置され、活性領域21の周囲を囲む。ゲートランナー15は、半導体基板1のおもて面上にフィールド酸化膜14を介して設けられている。ゲートランナー15は、層間絶縁膜2で覆われている。フィールド酸化膜14は、エッジ終端領域22の全域にわたって半導体基板1のおもて面と層間絶縁膜2との間に設けられている。フィールド酸化膜14は、例えば、初期酸化(SiO2)膜および高温熱酸化(HTO)膜をこの順に積層してなる。
【0046】
フィールド酸化膜14およびゲートランナー15は、エッジ終端領域22からゲートパッド4bの直下における半導体基板1のおもて面と層間絶縁膜2との間に延在している。すなわち、ゲートパッド4bの形成領域において半導体基板1のおもて面上に、フィールド酸化膜14、ゲートランナー15、層間絶縁膜2、バリアメタル3およびゲートパッド4bがこの順に積層されている(図2B参照)。ゲートパッド4bは、パッシベーション膜5の開口部5bに露出されている。
【0047】
半導体基板1のおもて面は、パッシベーション膜5でおおわれている。パッシベーション膜5の各開口部5a,5bには、それぞれ異なるAlSi電極4(ソース電極4aおよびゲートパッド4b)が露出されている。パッシベーション膜5の開口部5a,5bは、自身に露出されるAlSi電極4よりも表面積が小さい。パッシベーション膜5の各開口部5a,5bに露出されたAlSi電極4には、それぞれ異なるボンディングワイヤ11(図1にはゲートパッド4bのボンディングワイヤ11を不図示)が接合されている。
【0048】
ボンディングワイヤ11の一端はAlSi電極4に接合され、他端はリードフレーム(後述する実装基板13)のリード(不図示)に接合されている。ボンディングワイヤ11は超音波接合によりAlSi電極4の表面に圧着され、AlSi電極4との接合部11aで押し潰されている。AlSi電極4はボンディングワイヤ11により押し潰され、ボンディングワイヤ11との接合部4cでの残り厚さt2がAlSi電極4の他の部分の厚さ(堆積時またはパターニング(加工)後の厚さ)t1よりも薄くなっている。
【0049】
ボンディングワイヤ11は、MOSFETに流れる電流を外部に取り出すための金属配線である。ボンディングワイヤ11は、アルミニウムを材料とし、一般的なワイヤ径(直径、例えば100μm以上400μm以下程度)を有する。ボンディングワイヤ11のワイヤ径は、MOSFETの電流能力やAlSi電極4の表面積に応じて適宜設定され、例えば300μm以上程度である。ボンディングワイヤ11とAlSi電極4との接合は、アルミニウム原子の未結合手同士の金属結合である。
【0050】
半導体基板1の裏面の全面にわたって、ドレイン電極として機能する表(ひょう)面電極7が設けられている。表面電極7がはんだ層12を介して例えばリードフレームである実装基板13のダイパッド上に接合されることで、炭化珪素半導体装置10が実装基板13のおもて面上に実装される。実装基板13は、例えば、セラミックス基板の両面それぞれに例えば銅(Cu)箔等の導電性板による回路パターンが形成されたDCB(Direct Copper Bond)基板であってもよい。
【0051】
ボンディングワイヤ11の一端が接合された半導体基板1を実装する実装基板13と、ボンディングワイヤ11の他端が接合されたリード(不図示)と、の間には、半導体基板1およびボンディングワイヤ11を覆うようにエポキシ樹脂などの熱硬化性の樹脂が設けられている。実装基板13の周縁に樹脂ケース(不図示)が接着されている場合、樹脂ケースと実装基板13との間に半導体基板1およびボンディングワイヤ11を覆うように、エポキシ樹脂などの封止材が充填されている。
【0052】
次に、AlSi電極4の構成について説明する。図3は、AlSi電極のスパッタリング温度とAlSi電極の結晶構造との関係を模式的に示す説明図である。AlSi電極4は、半導体基板1の温度もしくはAlSi電極4の形成領域周辺の温度、またはその両方の温度(以下、スパッタリング温度とする)を430℃以上程度でかつ577℃(AlSi電極4の電極材料の固相線温度)以下程度の高温度とした状態で、スパッタリングによりバリアメタル3上に堆積されるAlSi固溶体である。
【0053】
図3に示すAlSi電極4のスパッタリング時の半導体基板1の温度(基板温度)は、AlSi電極4の狙いのスパッタリング温度である。スパッタリング温度を350℃以下とした試料は、枚葉式での低温スパッタリングでAlSi電極4を堆積した場合に、半導体ウエハの連続処理枚数が増えるほどスパッタリング温度が上昇する現象を想定している。スパッタリング温度を200℃および350℃とした各試料がそれぞれ連続処理の1枚目および6枚目の半導体ウエハを想定している(図4~6,8,9においても同様)。
【0054】
AlSi電極4のスパッタリング温度を高くすることで、AlSi電極4の埋め込み性が向上する。また、AlSi電極4のスパッタリング温度を高くするほど、AlSi電極4のシリコン固溶度(AlSi固溶体のシリコン固溶限界濃度)を高くすることができる。このため、AlSi電極4のシリコン固溶度を超えてAlSi電極4中に溶融したシリコンがAlSi電極4の冷却に伴って後述するSiノジュールとなってAlSi電極4中に析出する量を少なくすることができる。
【0055】
AlSi電極4のスパッタリング温度が577℃を超えると、スパッタリング時にAlSi電極4の一部(Si初晶+液相、Al初晶+液相)または全部(液相)が液相化してしまい(後述する図8参照)、その後、常温になるまで冷却したときに固相(固体)化しない。また、AlSi電極4のスパッタリング温度が高くなりすぎると(例えば600℃以上)、スパッタリング装置にダメージが生じる。AlSi電極4のスパッタリング温度が430℃未満であると、その後のワイヤボンディング時にAlSi電極4に加わる荷重や超音波振動等によってAlSi電極4の一部が剥離してしまう。
【0056】
AlSi電極4のシリコン固溶度は、スパッタリング温度に応じて決まる。例えば、AlSi電極4のシリコン固溶度は、アルミニウム濃度およびシリコン濃度の総和を100wt%とすると、スパッタリング温度が430℃である場合に0.3wt%程度であり、スパッタリング温度が577℃である場合に1.59wt%程度である(後述する図8参照)。本実施の形態においては430℃以上577℃以下程度の範囲のスパッタリング温度でAlSi電極4を堆積するため、AlSi電極4のシリコン固溶度は0.3wt%以上1.59wt%以下程度である。
【0057】
AlSi電極4にシリコンが含まれることで、半導体基板1中のシリコン原子とAlSi電極4中のアルミニウム原子との相互拡散が抑制され、アロイスパイクの進行が抑制される。また、AlSi電極4のシリコン濃度が高くなるほど、AlSi電極4の強度が向上する。AlSi電極4は、さらにアルミニウムに対して銅(Cu)を0.1wt%以上5wt%以下程度で含有していてもよい。AlSi電極4に銅が含まれることで、AlSi電極4の強度が向上する。より好ましくは、AlSi電極4のアルミニウムに対する銅の含有率は0.5wt%以上2wt%以下程度であってもよい。
【0058】
AlSi電極4のターゲット組成(狙いのアルミニウムとシリコンとの濃度比率)は適宜設定可能である。AlSi電極4のアルミニウム濃度が高くなるほど、AlSi電極4の抵抗値(導通抵抗)が高くなる。AlSi電極4のターゲット組成のシリコン濃度をAlSi電極4のシリコン固溶度よりも高くすることで、AlSi電極4中にSiノジュールが析出される。すなわち、AlSi電極4は、ターゲット組成のシリコン濃度からシリコン固溶度を減算したシリコン濃度分のシリコン(Si)ノジュールを含む。Siノジュールは、AlSi電極4のシリコン固溶度を超えて析出(再結晶化)したシリコン原子を核として結晶粒成長したシリコン析出物(Si結晶)である。Siノジュールは、AlSi電極4の内部のバリアメタル3との界面付近に、AlSi電極4の面内にわたって略均一に析出する。
【0059】
例えば、AlSi電極4のターゲット組成をアルミニウム濃度99wt%に対してシリコン濃度1wt%とし、スパッタリング温度を430℃とする。この場合、AlSi電極4は、シリコン固溶度が0.3wt%程度であるため、ターゲット組成のシリコン濃度1wt%から0.3wt%程度を減算した残りの0.7wt%程度のシリコン濃度分のSiノジュールを含有する。AlSi電極4は、スパッタリング温度を577℃とするとシリコン固溶度が1.59wt%程度であるため、ターゲット組成のシリコン濃度1.59wt%超にすることができる。
【0060】
AlSi電極4は、デンドライト構造(dendrite:樹枝状結晶)のSiノジュールを含む。一般に、結晶成長では、結晶面の欠陥部分に優先して原子を取り込みやすい。結晶成長速度が比較的緩やかである場合には、結晶面に凹凸がなく下層と同じ規則正しい配列をした結晶構造となる。それに対して、過冷却状態または過飽和状態の液体から固体が析出した場合にはデンドライトが生じやすい。その理由は、核(結晶の種となる核)となるシリコン原子の周囲に過冷却状態または過飽和状態の液体が存在する場合、固相線温度以下の温度において結晶表(ひょう)面への原子の吸着(再結晶化)が急激に進むからである。
【0061】
固相線温度以下の温度では固相が安定相であり、液相から固相へ変化しやすい状態にある。このため、液相中の原子は、核結晶の欠陥部分を埋めるだけでなく、結晶表面の状態によらず結晶表面のさまざまな箇所に吸着する。確率的に結晶表面の凸部の先端(頂点)に原子が吸着しやすいため、結晶表面の凸部が結晶表面に略直交して真っすぐに長く伸びる。この結晶表面の凸部は、ちょっとしたきっかけで先端が枝分かれし、雪の結晶成長のように状態変化して一定の規則性をもったデンドライト構造となる。AlSi電極4中にデンドライト構造のSiノジュールとデンドライト構造以外のSiノジュールとが混在してもよい。
【0062】
すなわち、デンドライト構造のSiノジュールとは、液相から固相へ変化する過程において結晶表面への原子の吸着が急激に進むことで生じ、AlSi電極4の結晶表面と直交する厚さ方向(半導体基板1の表面に直交して半導体基板1の表面から離れる方向)と略直交する方向に樹枝を伸ばすように樹枝状に結晶粒成長したシリコン(Si)結晶である。デンドライト構造以外のSiノジュールとは、AlSi電極4の厚さ方向に角柱状に結晶粒成長した角柱構造のSiノジュールである。AlSi電極4中にデンドライト構造のSiノジュールを析出させるには、AlSi電極4のスパッタリング温度を430℃以上とすればよい(図3の矩形枠30で囲むSi結晶)。
【0063】
例えば、シリコンを半導体材料とした場合、上述したようにAlSi電極のスパッタリング温度を300℃未満とするため、AlSi電極中のSiノジュールはほぼすべて角柱構造となる(図3の矩形枠130で囲むSi結晶)。また、例えば、AlSi電極のスパッタリング温度が400℃以下である場合、AlSi電極中のSiノジュールはほぼすべて角柱構造となる。このときの角柱構造のSiノジュールの高さは、AlSi電極4の厚さ方向に最大で5μm程度まで達する。
【0064】
一方、AlSi電極4のスパッタリング温度が400℃を超えると、AlSi電極4中のSiノジュールの析出形態が角柱構造からデンドライト構造に変化する。本実施の形態のようにAlSi電極4のスパッタリング温度を430℃以上とすることで、デンドライト構造のSiノジュールの結晶成長し、角柱構造のSiノジュールが成長しにくくなる。また、AlSi電極4のスパッタリング温度を577℃以下とすることで、AlSi電極4のスパッタリング時にSiノジュールが液相化することを防止することができる。
【0065】
また、AlSi電極4のスパッタリング温度を高くするほど、AlSi電極4中のデンドライト構造のSiノジュールの個数(面積比率)が増えて、AlSi電極4中の角柱構造のSiノジュールの個数が減少する(図6参照)。また、AlSi電極4のスパッタリング温度を高くするほど、Siノジュールが狭い間隔で細かく枝分かれして結晶表面に平行な横方向に成長するため、個々のSiノジュールの面積は大きくなるが、AlSi電極4のスパッタリング温度を高くするほど、Siノジュールの個数が少なくなるため、Siノジュールの総面積は小さくなる。
【0066】
AlSi電極4のデンドライト構造のSiノジュールの面積比率は、例えば、少なくともボンディングワイヤ11との接合部4cにおいて当該接合部4cでのSiノジュールの総面積の10%以上であることがよい。AlSi電極4中のデンドライト構造のSiノジュールを上記面積比率で析出させるには、AlSi電極4のスパッタリング温度を430℃以上とすればよいことが本発明者らの鋭意研究により確認されている(図6参照)。Siノジュールの面積とは、半導体基板1のおもて面側から見たSiノジュールの平面形状の面積(表面積)である。
【0067】
AlSi電極4中のSiノジュールの高さ(AlSi電極4の厚さ方向の高さ)は、デンドライト構造および角柱構造のいずれのSiノジュールにおいても、AlSi電極4の残り厚さt2よりも低く、2μm以下程度である(図4~6参照)。その理由は、上述したようにAlSi電極4のスパッタリング中にSiノジュールが角柱構造からデンドライト構造に変化することで、角柱構造のSiノジュールが成長しにくいことに加えて、デンドライト構造のSiノジュールは結晶表面に平行な横方向に成長し、厚さ方向に成長しにくいからである。
【0068】
AlSi電極4のスパッタリング温度が高くなるほど、デンドライト構造のSiノジュールの結晶成長が支配的となり、角柱構造のSiノジュールが2μmを超えて成長しない。また、AlSi電極4のスパッタリング温度が高くなるほど、Siノジュールが狭い間隔で細かく枝分かれして結晶表面に平行な横方向に成長するため、デンドライト構造のSiノジュールの高さはさらに低く例えば1μm以下となる。したがって、AlSi電極4中のSiノジュールの高さは、デンドライト構造および角柱構造のいずれのSiノジュールにおいても2μm以下程度となる。
【0069】
AlSi電極4の厚さt1の上限値は、スパッタリング装置の積層精度またはドライエッチング装置の加工能力による限界の厚さであり、例えば5μm程度である。AlSi電極4の厚さt1は可能な限り厚いことが好ましく、AlSi電極4の厚さt1を厚くするほど、導通損失を低減させることができる。上述したようにAlSi電極4にボンディングワイヤ11が圧着されることで、AlSi電極4の、ボンディングワイヤ11との接合部4cでの残り厚さt2は、最も薄い部分で例えば2.1μm程度である(図7参照)。
【0070】
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10の製造方法について、図1,2A,2Bを参照して説明する。まず、炭化珪素からなる半導体ウエハの、ダイシング(切断)後に半導体チップ(半導体基板1)となる領域のおもて面側に所定の素子構造(不図示)を形成する。例えば、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10がnチャネル型の縦型MOSFETである場合、所定の素子構造は、p型ベース領域、n+型ソース領域、p++型コンタクト領域、ゲート絶縁膜およびゲート電極からなる絶縁ゲート構造である。
【0071】
次に、半導体ウエハのおもて面にフィールド酸化膜14を形成し、フィールド酸化膜14上にゲートランナー15となるポリシリコン層を形成する。ゲートランナー15は、絶縁ゲート構造を構成するゲート電極と同時に形成されてもよい。次に、半導体ウエハのおもて面の全体に層間絶縁膜2を形成して、層間絶縁膜2でゲート電極およびゲートランナー15を覆う(図2A,2B参照)。次に、層間絶縁膜2を選択的に除去することで、層間絶縁膜2の所定箇所にコンタクトホールを形成する。
【0072】
次に、半導体ウエハのおもて面の、層間絶縁膜2のコンタクトホールに露出する部分(活性領域21のn+型ソース領域およびp++型コンタクト領域)にオーミック接触するシリサイド膜6を形成する。次に、層間絶縁膜2の表面およびシリサイド膜6の表面にバリアメタル3を形成する。バリアメタル3が積層金属膜である場合、シリサイド膜6の形成前に、バリアメタル3の下層の金属膜(例えばTiN膜)で層間絶縁膜2の表面のみを覆って保護した状態でシリサイド膜6を形成してもよい。
【0073】
次に、一般的なスパッタリング装置(不図示)のステージ上に、裏面をステージ側にして半導体ウエハを載置し、例えば静電チャック(ESC:Electric Static Chuck)等によってステージ上に保持する。次に、例えばヒーター等の加熱手段によってスパッタリング装置のチャンバー(処理炉)内またはステージを加熱することで、半導体ウエハの温度またはAlSi電極4の形成領域周辺の温度(すなわちスパッタリング温度)を上昇させて430℃以上577℃以下程度の範囲内で上昇させる。この温度範囲内であれば、AlSi電極4のスパッタリング温度が変動してもよい。
【0074】
このスパッタリング温度でのスパッタリングによりバリアメタル3上にAlSi電極4を堆積(形成)する(堆積工程)。上述したようにAlSi電極4にはターゲット組成のシリコン濃度からスパッタリング温度に依存するシリコン固溶度を減算したシリコン濃度分のSiノジュールが析出されるため、AlSi電極4のターゲット組成はスパッタリング温度に応じて適宜設定する。次に、半導体ウエハを常温(例えば25℃程度)まで冷却(例えばAl+1wt%Siでは冷却速度50℃/秒~300℃/秒で降温、Al+0.5wt%Siでは冷却速度50℃/秒~200℃/秒で降温、Al+1.5wt%Siまたはそれ以上のSi含有量では冷却速度50℃/秒~500℃/秒で降温)する。このように急速に冷却することによって、過冷却時の結晶成長で急激に再結晶化してデンドライトとなる現象を利用して、デンドライト構造のSiノジュールを含むAlSi電極4を形成する。なお、Al+n[wt%]Si(ただしnは整数)とは、Si含有率n[wt%]のAlSi電極4であることを意味する。
【0075】
また、AlSi電極4中において、デンドライト構造および角柱構造のいずれにおいてもSiノジュールの高さが2μm以下程度となり、かつデンドライト構造のSiノジュールが上記面積比率となる。次に、一般的なドライエッチング装置を用いてAlSi電極4をエッチング(パターニング)することで所定箇所に残す。このパターニング後に所定箇所に残るAlSi電極4がソース電極4aおよびゲートパッド4bに相当する。次に、半導体ウエハの裏面側に素子構造を形成し、半導体ウエハの裏面に表面電極7を形成する。
【0076】
次に、半導体ウエハをダイシングして個々のチップ(半導体基板1)状に個片化することで、図1,2A,2Bの実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10が完成する。次に、半導体基板1の表面電極7をはんだ層12を介して例えばリードフレームである実装基板13のダイパッドまたはリードとなる配線層上に接合することで、炭化珪素半導体装置10を実装基板13のおもて面上に実装する。次に、一般的なワイヤボンディング工程により、半導体基板1のAlSi電極4にボンディングワイヤ11を圧着して接合する。
【0077】
一般的なワイヤボンディング工程においては、ボンディングワイヤ11を超音波によって振動させながらAlSi電極4に押し付けることにより、ボンディングワイヤ11の接合箇所においてAlSi電極4の表面の自然酸化膜を除去して、AlSi電極4の活性状態の表面(アルミニウム原子の未結合手)を露出させる。そして、ボンディングワイヤ11とAlSi電極4とのアルミニウム原子の未結合手同士を金属結合させることで、AlSi電極4の表面にボンディングワイヤ11を接合する。
【0078】
このとき、AlSi電極4のボンディングワイヤ11との接合部4cでの残り厚さt2がAlSi電極4の他の部分の厚さt1よりも薄くなり、例えば2.1μm程度になるが、ワイヤボンディング時のAlSi電極4の剥離は生じない。その理由は、AlSi電極4中に上記条件(高さ、面積比率)でデンドライト構造のSiノジュールを含むことで、AlSi電極4にボンディングワイヤ11が押し付けられても、AlSi電極4中のSiノジュールが下層にダメージを与えないからである。このようにして、炭化珪素半導体装置10を実装した半導体パッケージが完成する。
【0079】
(実験例1)
AlSi電極4のスパッタリング温度とSiノジュールの高さおよび面積比率との関係について検証した。図4は、実験例1のAlSi電極のスパッタリング温度とAlSi電極中のSiノジュールの高さとの関係を示す特性図である。図5は、図4の試料A~DのSiノジュールを半導体基板のおもて面側から見た状態を模式的に示す平面図である。図6は、実験例1のAlSi電極のスパッタリング温度とAlSi電極中のSiノジュールの面積比率との関係を示す図表である。
【0080】
炭化珪素からなる半導体基板(半導体チップ)上にスパッタリングにより5μmの厚さでAlSi電極を堆積した複数の試料を用意した(以下、実験例1とする)。これらの試料は、AlSi電極のスパッタリング温度を種々変更しスパッタリング温度ごとに複数個ずつ作製した。すべての試料のAlSi電極中のSiノジュールをリン酸(H3PO4)、硝酸(HNO3)および酢酸(CH3COOH)の混合液を用いてウェットエッチングすることで露出させて、半導体基板のおもて面側から見たSiノジュールの寸法と、Siノジュールの高さ(AlSi電極の厚さ方向の高さ)と、を測定した。
【0081】
実験例1のAlSi電極のスパッタリング温度とAlSi電極中のSiノジュールの高さとの関係を図4に示す。実験例1のAlSi電極のスパッタリング温度を200℃、350℃、400℃および470℃とした各試料A~DのAlSi電極中のSiノジュールを、半導体基板のおもて面側から走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって観察した状態をそれぞれ図5の(a)~(d)に模式的に示す。
【0082】
実験例1のAlSi電極のSiノジュールの面積比率を算出した結果を図6に示す。図6には、AlSi電極のスパッタリング温度(AlSi電極堆積時の半導体基板の温度)、AlSi電極中のSiノジュールの析出形態(角柱、デンドライト)、AlSi電極中の角柱構造のSiノジュールの面積比率および高さ(図6には、それぞれ角柱比率および角柱高さと図示)、AlSi電極中のデンドライト構造のSiノジュールの面積比率および高さ(図6には、それぞれデンドライト比率およびデンドライト高さと図示)、およびボンディングワイヤの剥離の有無(発生、なし)を示す。
【0083】
図4~6に示す結果から、AlSi電極のスパッタリング温度が400℃以下である場合、AlSi電極中のSiノジュールはすべて角柱構造となることが確認された(図4の枠41で囲む部分。角柱比率100%、図5の(a)~(c)参照)。また、AlSi電極のスパッタリング温度が350℃以上400℃以下である場合、AlSi電極に接合したボンディングワイヤが剥離する(図6のボンディングワイヤの剥離「発生」)ことが確認された。このときの、角柱構造のSiノジュールの高さは最大で5μmに達することが確認された(図5の(b),(c)参照)。
【0084】
AlSi電極のスパッタリング温度が400℃を超えると、AlSi電極中に角柱構造およびデンドライト構造のSiノジュールが混在するが、AlSi電極のスパッタリング温度が430℃未満である場合、ワイヤボンディング時にボンディングワイヤとの接触部でAlSi電極が剥がれ取れてボンディングワイヤが剥離する(ボンディングワイヤを接合できない)ことが確認された。このときのAlSi電極中のデンドライト構造のSiノジュールの面積比率(デンドライト比率)は10%未満であり、角柱構造のSiノジュールの高さ(角柱高さ)は2μmを超えることが確認された(図6参照)。
【0085】
AlSi電極のスパッタリング温度が300℃未満である場合、AlSi電極中のSiノジュールはすべて角柱構造であったが、角柱構造のSiノジュールの高さは1μm以下であることが確認された(図4,5(a)参照。図6には不図示)。AlSi電極に接合したボンディングワイヤの剥離は発生しなかったが、層間絶縁膜のコンタクトホールのアスペクト比が大きい場合、AlSi電極をスパッタリングによりコンタクトホールに埋め込むことができないことが確認された。
【0086】
一方、AlSi電極のスパッタリング温度が430℃以上である場合(図4の枠42で囲む部分)、AlSi電極に接合したボンディングワイヤが剥離しない(図6のボンディングワイヤの剥離「なし」)ことが確認された。このときのAlSi電極中のデンドライト構造のSiノジュールの面積比率(デンドライト比率)および高さ(デンドライト高さ)はそれぞれ10%以上および1μm以下であり、角柱構造のSiノジュールの高さ(角柱高さ)は最大で2μmであることが確認された。
【0087】
すなわち、図6のAlSi電極のスパッタリング温度が430℃以上程度とした試料のAlSi電極が本実施の形態のAlSi電極4に相当する。図6には、Siノジュールの面積比率として、角柱構造(角柱比率)およびデンドライト構造(デンドライト比率)ともに、AlSi電極の表面全体の面積(表面積)に対するSiノジュールの総面積の比率を示すが、AlSi電極の一部(例えばボンディングワイヤとの接合部)の面積でのSiノジュールの面積比率とした場合においても同様の結果が得られる。
【0088】
また、AlSi電極のスパッタリング温度を430℃以上とすることで、層間絶縁膜のコンタクトホールのアスペクト比が大きくても、AlSi電極をスパッタリングによりコンタクトホールに埋め込むことができることが確認された。したがって、AlSi電極のスパッタリング温度を430℃以上とすることで、スパッタリングによるAlSi電極の埋め込み性が向上するとともに、ボンディングワイヤの剥離を防止することができることが確認された。
【0089】
(実験例2)
AlSi電極4の、ボンディングワイヤ11との接合部4cでの残り厚さt2について検証した。図7は、実験例2のAlSi電極のボンディングワイヤとの接合部を模式的に示す断面図である。上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10の製造方法にしたがって、スパッタリングにより半導体基板1上に5μmの厚さt1でAlSi電極4を堆積し、ワイヤボンディングによりAlSi電極4にアルミニウムからなるボンディングワイヤ11を接合した試料(以下、実験例2とする)を用意した。
【0090】
この試料のAlSi電極4(ハッチング部分)の、ボンディングワイヤ11との接合部4cを半導体基板1のおもて面に平行な方向からSEMによって観察した状態を図7に模式的に示す。図7に示す結果より、AlSi電極4はボンディングワイヤ11により押し潰され、ボンディングワイヤ11との接合部4cでの残り厚さt2が最も薄い部分でAlSi電極4の他の部分の厚さ(堆積時またはパターニング(加工)後の厚さ)t1の半分程度の2.1μm程度の厚さt2’まで薄くなっていることが確認された。
【0091】
(実験例3)
AlSi電極4のスパッタリング温度とシリコン濃度との関係について説明する。図8は、AlSi合金の平衡状態図を示す特性図である。図8(a)には、図8(b)のシリコン濃度0.0wt%~2.0wt%の範囲を拡大して示す。図8(b)には、AlSi電極4の材料であるAlSi合金の平衡状態図を示す。図8(b)の横軸は、左端がアルミニウム濃度100.0wt%およびシリコン濃度0.0wt%であり、右端へ向かうほどアルミニウム濃度およびシリコン濃度がそれぞれ減少および増加し、右端でアルミニウム濃度0.0wt%およびシリコン濃度100.0wt%である。図8(b)の縦軸は、スパッタリング温度に相当する。
【0092】
図8(b)に示すように、AlSi合金の平衡状態図は、シリコン濃度12.6wt%で固相線温度577℃に共晶点を有し、液相からAlSi固溶体(Al相)+Si相となる固相(固体)に変化する共晶凝固を行う。AlSi固溶体(ハッチング部分)のシリコン固溶度は温度上昇とともに増加し、例えば430℃の温度で0.3wt%となり、固相線温度で最大値(最大シリコン固溶)の1.59wt%を示す。したがって、図8の平衡状態図から、AlSi電極4のスパッタリング温度を430℃以上577℃以下程度することで、AlSi電極4のシリコン固溶度は0.3wt%以上1.59wt%以下になることが想定される。
【0093】
また、図8(b)に示すように、シリコンにはアルミニウムはほとんど固溶せず、AlSi合金のターゲット組成のシリコン濃度がAlSi固溶体のシリコン固溶度を超える場合に、Si相(Siノジュール)が析出する。例えば、図8(a)に示す試料1~3は、スパッタリング温度220℃、350℃および470℃でAlSi電極4を形成する場合のAlSi固溶体のシリコン固溶度およびSi相のシリコン濃度をそれぞれ両矢印で示している。試料1では、AlSi固溶体のシリコン固溶度(ハッチング内に両矢印で示す範囲)が0.08wt%であり、Si相のシリコン濃度(固相線とターゲット組成のシリコン濃度を示す縦破線との間の両矢印で示す範囲)が0.92wt%である。
【0094】
試料2では、AlSi固溶体のシリコン固溶度が0.2wt%であり、Si相のシリコン濃度が0.8wt%である。試料3では、AlSi固溶体のシリコン固溶度が0.5wt%であり、Si相のシリコン濃度が0.5wt%である。すなわと、ターゲット組成のシリコン濃度(=1.0wt%)からAlSi固溶体のシリコン固溶度を減算したシリコン濃度分のSi相が析出する。したがって、図8の平衡状態図から、AlSi電極4は、スパッタリング温度に依存するシリコン固溶度を有するAlSi固溶体であり、ターゲット組成のシリコン濃度からシリコン固溶度を減算したシリコン濃度分のSiノジュールを含むと想定される。
【0095】
(実験例4)
AlSi電極4のスパッタリング温度とワイヤボンディング時のAlSi電極4の剥離確率との関係について検証した。図9は、実験例4のワイヤボンディング時のAlSi電極の剥離確率を示す特性図である。図9の横軸は、ボンディングワイヤ11からAlSi電極4が受ける超音波振動の振幅であり、右側に向かうほどAlSi電極4が受ける超音波振動が大きいことを意味する。図9の縦軸は、ワイヤボンディング時のAlSi電極4の剥離確率であり、ボンディングワイヤ11とAlSi電極4との接触部でAlSi電極4の一部が剥離する(以下、AlSi電極4の剥離とする)が生じるまでに検証した半導体チップ(半導体基板1)の総数の逆数である。
【0096】
上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法にしたがって、AlSi電極4の狙いのスパッタリング温度を300℃および470℃とした各試料を作製した。これら各試料についてそれぞれ、組み立て工程のワイヤボンディング時にAlSi電極4の剥離が生じるまでの半導体チップの枚数から、ワイヤボンディング時のAlSi電極4の剥離確率の近似直線を取得した結果を図9に示す。AlSi電極4の狙いのスパッタリング温度を300℃および470℃とした各試料にともに、ワイヤボンディング時のAlSi電極4の剥離確率の近似直線51,52の傾きは同じであると仮定した。
【0097】
AlSi電極4の狙いのスパッタリング温度を300℃とした試料(図9の▲印)は、スパッタリング温度が200℃~350℃の範囲内で変動する試料であり、図8の試料1,2に相当する。試料1,2の各測定点のうち、ワイヤボンディング時の超音波振動を所定振幅Fとした測定点は、1600枚の半導体チップでAlSi電極4の剥離が生じないことを確認し、1601枚目の半導体チップでAlSi電極4が剥離したと仮定している。すなわち、当該測定点でのAlSi電極4の剥離確率は0.0625%(=1/1061)である。
【0098】
AlSi電極4の剥離確率が0.0625%であるとは、組み立て工程において半導体チップのAlSi電極4へのワイヤボンディングによってモジュールが不良品となる確率が2%である(すなわち1/50個の確率で不良品が発生する)ことを意味する。試料1,2のワイヤボンディング時の超音波振動の振幅が異なる他の測定点についても同様に、AlSi電極4の剥離が生じない半導体チップの枚数を確認して、AlSi電極4の剥離確率を算出した。これら試料1,2の複数の測定点から、試料1,2のワイヤボンディング時のAlSi電極4の剥離確率の近似直線51を算出した。
【0099】
AlSi電極4の狙いのスパッタリング温度を470℃とした試料(図9の●印)は、スパッタリング温度を470℃で維持した図8の試料3に相当する。試料3の当該測定点は、192枚の半導体チップでAlSi電極4の剥離が生じないことを確認し、193枚目の半導体チップでAlSi電極4が剥離したと仮定している。すなわち、当該測定点でのAlSi電極4の剥離確率は0.52%(=1/193)である。試料3の当該測定点通り、試料1,2のAlSi電極4の剥離確率の近似直線51に平行な直線を、試料3のAlSi電極4の剥離確率の近似直線52とした。
【0100】
試料3のAlSi電極4の剥離確率の近似直線52に基づいて算出したワイヤボンディング時の超音波振動を所定振幅FとしたときのAlSi電極4の剥離確率は、0.0074%であった。AlSi電極4の剥離確率が0.0074%であるとは、組み立て工程において半導体チップのAlSi電極4へのワイヤボンディングによってモジュールが不良品となる確率が0.24%である(すなわち1/420個の確率で不良品が発生する)ことを意味する。したがって、AlSi電極4の狙いのスパッタリング温度の高くするほど、AlSi電極4の剥離確率の近似直線を、AlSi電極4の剥離確率を小さくする方向(図9の矢印の方向)に近づけることができることが確認された。
【0101】
以上、説明したように、実施の形態によれば、AlSi電極のスパッタリング温度を430℃以上577℃以下程度とすることで、AlSi電極中のSiノジュールの析出形態を角柱構造からデンドライト構造に変化させることができ、角柱構造のSiノジュールが成長しにくくなる。また、AlSi電極のスパッタリング温度を高くするほど、Siノジュールを狭い間隔で細かく枝分かれさせて結晶表面に平行な横方向に成長させることができる。これによって、AlSi電極中のSiノジュールの高さを、AlSi電極のボンディングワイヤにより押し潰されて薄くなる部分(AlSi電極のボンディングワイヤとの接合部)の厚さよりも低い2μm以下にすることができる。
【0102】
AlSi電極中のSiノジュールの高さが2μm以下になることで、AlSi電極中のSiノジュールがボンディングワイヤによってAlSi電極の下層や半導体基板に押し込まれることがない。また、AlSi電極中にデンドライト構造のSiノジュールが結晶表面に平行な横方向に樹枝状に成長することで、ボンディングワイヤから受ける荷重や超音波振動がAlSi電極から下層に広い面積で伝えられるため、AlSi電極の下層に局所的に応力集中しない。したがって、ワイヤボンディング時にAlSi電極およびその下層での剥離やクラックの発生を抑制することができ、ワイヤボンディング時のボンディングワイヤの剥離を抑制することができる。したがって、歩留まりを向上させることができる。
【0103】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用であり、特に表(ひょう)面電極にワイヤ径(直径)が300μm以上のボンディングワイヤを超音波接合する場合に適している。
【符号の説明】
【0105】
1 半導体基板
2 層間絶縁膜
3 バリアメタル
4 AlSi電極
4a ソース電極
4b ゲートパッド
4c AlSi電極の接合部
5 パッシベーション膜
5a,5b パッシベーション膜の開口部
6 シリサイド膜
7 表面電極
10 炭化珪素半導体装置
11 ボンディングワイヤ
11a ボンディングワイヤの接合部
12 はんだ層
13 実装基板
21 活性領域
22 エッジ終端領域
t1,t2 AlSi電極の厚さ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11