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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002447
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】調湿材および装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20231228BHJP
   F24F 3/14 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B01D53/28
F24F3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101625
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】596049164
【氏名又は名称】公益財団法人豊田理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】池上 周司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 達弥
【テーマコード(参考)】
3L053
4D052
【Fターム(参考)】
3L053BC03
3L053BC04
4D052AA08
4D052CF00
4D052GA04
4D052GB00
4D052GB12
4D052HA49
4D052HB01
(57)【要約】
【課題】 吸湿性に顕著に優れた調湿材および調湿材を含む装置を提供する。
【解決手段】
式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。式(N1)中、RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。五員環を構成する窒素原子に置換するRN1およびRN2の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。
【化1】
(式(N1)中、RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、互いに異なっていても同一であってもよい。五員環を構成する窒素原子に置換するRN1およびRN2の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。)
【請求項2】
前記リン酸エステルアニオンが下記式(N3)で表されるアニオンである請求項1に記載の調湿材。
【化2】
(式(N3)中、R21は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。R22は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。)
【請求項3】
前記ピラゾリウムカチオン(N1)が、下記式(1)~(4)のいずれかで表される請求項1に記載の調湿材。
【化3】
【請求項4】
前記リン酸エステルアニオンが下記式(17)または(18)で表される請求項1に記載の調湿材。
【化4】
【請求項5】
前記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液の粘度が25℃で50mPa・s以下である請求項1に記載の調湿材。
【請求項6】
前記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液と接触する雰囲気の25℃での平衡水蒸気圧が100hPa以下であり、50℃での平衡水蒸気圧が50hPa以上である、請求項1に記載の調湿材。
【請求項7】
前記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液と接触する雰囲気の50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP50-25)が40hPa以上である、請求項1に記載の調湿材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の調湿材を含む装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空調機や吸収冷凍機に用いられる調湿材、および、空調機や吸収冷凍機等の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デシカント式の空調機においては、空気中の水蒸気を吸収する特性をもつ液体状の調湿材が使用される。非特許文献1~2には、塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、トリエチレングリコールを用いた液体状の調湿材が開示されている。特許文献1~4および非特許文献3~7には、イオン液体を用いた液体状の調湿材が開示され、上記イオン液体として、臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート、リン酸ジメチル陰イオン、メチル硫酸陰イオンと、イミダゾリウムカチオン、アルキルホスホニウムカチオン、第4級アンモニウムカチオン、コリニウムカチオンとの塩が開示されている。非特許文献8、9にはリン酸ジメチル陰イオンとコリニウムカチオン、ジカチオン性および環状第4級アンモニウムカチオンとの塩が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014-505586号公報
【特許文献2】特開2017-221940号公報
【特許文献3】特開2017-154076号公報
【特許文献4】特開2016-052614号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L. Mei, Y. I. Dai, A technical review on use of liquid-desiccant dehumidification for air-conditioning application, Renewable and Sustainable Energy Reviews, 2008,12,662-689.
【非特許文献2】R. 0. Singh, V. K. Mishra, R. K. Das, Desiccant materials for air condition in applications: A review, lop Conference Series. Materials Science and Engineering, 404 (2018),012005.
【非特許文献3】L. E. Ficke, J. F. Brennecke, Interactions of Ionic Liquids and Water, J. Phy. Chem. B 114 (2010) 10496-10501.
【非特許文献4】L. Jing, Z. Danxing, F. Lihua, W. Xianghong, D. Li, Vapor Pressure Measurement of the Ternary Systems H20 + LiBr + [Dmim]Cl, H20 + LiBr + [Dmim]BF4, H20 + LiCl + [Dmim]Cl, and H20 + LiCl + [Dmim]BF4, J. Chem. Eng. Data 56 (2011) 97-101.
【非特許文献5】Y. Luo, S. Shao, H. Xu, C. Tian, Dehumidification performance of [EMIM]BF4, Appl. Thermal Eng. 31 (2011) 2722-2777.
【非特許文献6】Y. Luo, S. Shao, F. Qin, C. Tian, H. Yang, Investigation on feasibility of ionic liquids used in solar liquid desiccant air conditioning system, Solar Energy 86 (2012) 2718-2724.
【非特許文献7】Watanabe, H. ; Komura, T.; Matsumoto, R.; Ito, K.; Nakayama, H.; Nokami, T.; Itoh, T. Design of Ionic Liquids as Liquid Desiccant for an Air Conditioning System, Green Energy & Environment, 4 (2019), 139-145.
【非特許文献8】Maekawa, S.; Matsumoto, R.; Ito, K.; Nokami, T.; Li, J-X.; Nakayama, H.; Itoh, T.* Design of Quaternary Ammonium Type-Ionic Liquids as Desiccants for an Air-Conditioning System, Green Chemical Engineering, 1 (2020), 109-116.
【非特許文献9】Dicationic Type Quaternary Ammonium Salts as Candidates of Desiccants for an Air-Conditioning System, Itoh, T.; Hiramatsu, M.; Kamada, K.; Nokami, T.; Nakayama, H.; Yagi, K.; Yan, F.; Kim, H-J. ACS Sustainable Chem. Eng., 9 (2021), 14502-14514.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1~2に開示される塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液は、安定して低湿度の空気を得ることができるという利点がある。しかしながら、一般に、これらハロゲン化物イオンのアルカリ金属の水溶液およびアルカリ土類金属の水溶液は、金属腐食性を有している。そのため、これらの物質を調湿材に適用した場合には、空調機や吸収冷凍機等の装置における調湿材が接する部分に、チタン等の耐食性の高い材料を用いなければならないという問題がある。
また、特許文献1~5および非特許文献4~5に開表される調湿材は、イミダゾリウムカチオンからなるイオン液体と構成アニオンとして、臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート陰イオンが用いられている。臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート陰イオンは、金属腐食性を有している点に加えて、取り扱いが難しいという問題もある。
特許文献1ではコリニウムカチオンと乳酸アニオンからなるイオン液体の吸湿性が高いことが報告されているが、乳酸アニオンは不安定で長期の使用に耐えない。非特許文献3ではイミダゾリウム塩イオン液体の吸湿性は主としてアニオンに依存することが報告されており、アセタートアニオンの吸水性が良いことも報告している。しかし、カチオンはイミダゾリウムカチオンしか検討されておらず、イミダゾリウムイオン液体の水溶液は銅などの金属腐食性が大きい(非特許文献7)。また、アセタートアニオンのイオン液体は不安定で長期の使用に耐えないことがわかっている(非特許文献7)。このような問題を解決するために、非特許文献7から9ではアニオンをジメチルリン酸やメチル硫酸に注目してイオン液体の選択が行われ、非特許文献7ではホスホニウムカチオンとジメチルリン酸アニオンの組み合わせからなるイオン液体が優れた吸湿性を示すことを明らかにしており、非特許文献8ではコリニウムカチオンとジメチルリン酸アニオンの組み合わせからなるイオン液体水溶液は吸湿性が大きく、金属腐食性が低いことを報告している。さらに非特許文献9では第4級アンモニウム=ジメチルリン酸塩、なかでもジカチオン性アンモニウムが極めて高い吸湿性を示すことが報告されている。ジカチオン性アンモニウム=リン酸ジメチルは従来報告されている調湿材をすべて凌駕する吸湿性を示すものの、ジカチオン性アンモニウム=ジメチルリン酸塩の水溶液は粘性が比較的高いことがわかった(非特許文献9)。
【0006】
特に、上述の通り、多数の調湿材が検討されているが、近年、さらに、良好な吸湿性(吸湿能、水蒸気交換能)を有する、新たな調湿材が求められている。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、吸湿性に顕著に優れた調湿材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、本発明者らが検討を行った結果、特定の構造を有するピラゾリウムカチオンと、リン酸エステルアニオンから構成される塩を含む調湿材を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>下記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。
【化1】
(式(N1)中、RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、互いに異なっていても同一であってもよい。五員環を構成する窒素原子に置換するRN1およびRN2の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。)
<2>前記リン酸エステルアニオンが下記式(N3)で表されるアニオンである<1>に記載の調湿材。
【化2】
(式(N3)中、R21は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。R22は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。)
<3>前記ピラゾリウムカチオン(N1)が、下記式(1)~(4)のいずれかで表される<1>または<2>に記載の調湿材。
【化3】
<4>前記リン酸エステルアニオンが下記式(17)または(18)で表される<1>~<3>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化4】
<5>前記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液の粘度が25℃で50mPa・s以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の調湿材。
<6>前記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液と接触する雰囲気の25℃での平衡水蒸気圧が100hPa以下であり、50℃での平衡水蒸気圧が50hPa以上である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の調湿材。
<7>前記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液と接触する雰囲気の50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP50-25)が40hPa以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の調湿材。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の調湿材を含む装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、吸湿性が高い調湿材が提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例における特定塩(8)の水蒸気吸収能の測定結果を示すグラフである。
図2図2(a)は、実施例における特定塩(8)の80質量%水溶液の平衡水蒸気圧測定試験の結果を示すグラフであり、図2(b)は、実施例における特定塩(9)の80質量%水溶液の平衡水蒸気圧測定試験の結果を示すグラフであり、図2(c)は、実施例における特定塩(10)の80質量%水溶液の平衡水蒸気圧測定試験の結果を示すグラフである。
図3図3は、特定塩(8)、(9)、(10)ならびに比較例である[DETMC6][DMPO4]2、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム=リン酸ジメチル(Bmim-DMPO4)の70質量%水溶液の温度可変粘性測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0011】
本実施形態の調湿材は、下記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩(以下、特定塩と記載する。)を含有することを特徴とする。
前記特定塩を用いることにより、良好な吸湿性(吸湿能、水蒸気交換能)を有する調湿材が得られる。さらに、本実施形態の調湿材は、低粘性を示すものとすることができる。加えて、本実施形態の調湿材は、金属腐食性の低いものとすることができる。
【0012】
<式(N1)で表されるピラゾリウムカチオン>
本発明の調湿材は、下記式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する。
【化5】
(式(N1)中、RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、互いに異なっていても同一であってもよい。五員環を構成する窒素原子に置換するRN1およびRN2の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。)
【0013】
式(N1)中、RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、ヒドロキシ基は有さない方が好ましい。前記炭素数1~12のアルキル基は、炭素数1以上がより好ましく、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上であってもよく、また、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、3以下であってもよい。炭素数を大きくすることにより、吸湿性がより向上する傾向にある。また、炭素数を小さくすることにより、より粘度が低くなる傾向にある。
N1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、互いに異なっていても同一であってもよい。五員環を構成する窒素原子に置換する1つ以上のRN1、RN2は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。また、炭素数1~12のアルキル基に含まれてもよい酸素原子の数は0~8が好ましく、0~4がより好ましく、0~2がさらに好まし。本実施形態においては、炭素数1~12のアルキル基に酸素原子は含まれていない方が好ましい。
N1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、性能を大きく悪化させるものでなければ、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、スルファニル基(チオール基)等)を有していてもよい。あるいは、性能を大きく悪化させない範囲で、ピラゾール母核の炭素原子に上記置換基や特定アルキル基等を有していてもよい。しかしながら、本実施形態においては、置換基を有さない方が好ましい。
本実施形態で用いられるRN1およびRN2の一例は、RN1およびRN2の一方が、水素原子または炭素数1~5(好ましくは炭素数1~3、より好ましくは炭素数1~2、さらに好ましくは炭素数1)のアルキル基であり、他方が、炭素数1~12(好ましくは炭素数2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上、一層好ましくは6以上、また、好ましくは11以下)のアルキル基である。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
また、本実施形態で用いられるRN1およびRN2は、RN1が有するアルキル基の炭素数と、RN2が有するアルキル基の炭素数の差が1以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。上限としては、例えば、10以下である。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0014】
<式1-1で表されるピラゾリウムカチオン>
上記の式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンは、下記式(1-1)で表されるピラゾリウムカチオンであることが好ましい。
【化6】
式(1ー1)において、RN1およびRN2は、前記式(N1)と同義である。
【0015】
本実施形態で用いられるピラゾリウムカチオンの分子量は、110~500であることが好ましい。
以下に本実施形態で用いられるピラゾリウムカチオンの具体例(1)~(4)を示すが、本発明はこれらに限定されるものでは無いことは言うまでもない。
【化7】
【0016】
<リン酸エステルアニオン>
本実施形態で用いるリン酸エステルアニオンは、特定のピラゾリウムカチオンと塩が形成できる限り、その種類等特に定めるものではないが、中でも式(N3)で表されるリン酸エステルアニオンであることが好ましい。
このようなリン酸エステルアニオンを用いることにより、式(N1)で表されるピラゾリウムカチオンと安定な塩を構成し、臭気の発生を効果的に抑制できる。なお、本発明においてリン酸エステルアニオンの語は、リン酸エステルのアニオンに加え、ホスホン酸(亜リン酸)エステルのアニオンあるいはホスフィン酸(次亜リン酸)エステルのアニオンも含む意味である。
【化8】
式(N3)中、R21は、水素原子、水酸基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニル基、炭素数10以下(好ましくは3~8)のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルチオ基、または、炭素数10以下(好ましくは3~8)のポリ(アルキレンチオ)基である。
22は、水素原子、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニル基、炭素数10以下(好ましくは3~8)のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルチオ基、または、炭素数10以下(好ましくは3~8)のポリ(アルキレンチオ)基である。
21およびR22は中でも、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル基、および、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルコキシ基であることがさらに好ましく、メトキシ基およびエトキシ基が一層好ましい。
【0017】
本実施形態で用いるリン酸エステルの分子量は、64~650であることが好ましい。
【0018】
以下に、本実施形態で用いられるリン酸エステルアニオンの具体例を示す。ただし、本実施形態におけるリン酸エステルアニオンがこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【化9】
【化10】
【0019】
<ピラゾリウムカチオン塩>
特定塩であるピラゾリウム=リン酸アルキル塩の具体例は下記式(N4)で表され、さらに具体的には下記式(7)、(8)、(9)および(10)で表される塩であることが好ましい。
【0020】
【化11】
式(N4)中のRN1~RN5は式(N1)のものと同義である。式(N4)中のR21およびR22は式(N3)のものと同義の基である。
【0021】
例えば、前記式(1-1)で表されるピラゾリウムカチオンとリン酸ジメチルアニオンとから構成される塩の典型的な例は下記に示した化学式(7)から(10)である。
【化12】
【0022】
式(N1)記載のピラゾリウムカチオンからRN1、RN2のいずれか一つが省かれた構造のピラゾールに、RN1、RN2のいずれかのアルコキシ基を持つトリアルキルリン酸エステルを作用させてオニウム化することにより、特定塩を合成できる。この合成プロセスは、容易に反応が進むため、極めて簡易に特定塩を合成できる。また、メタル交換反応やイオン交換樹脂を用いるアニオン交換を必要としないため、腐食の原因となるハロゲンの混入を抑制できる。
なお、特定塩は、常温で固体であってもよいし、液体(所謂、常温溶融塩(イオン液体))であってもよい。
【0023】
<調湿材>
調湿材は、1種の特定塩を含有するものであってもよいし、上記カチオンおよび上記アニオンの一方または両方が異なる2種以上の特定塩を含有するものであってもよい。
調湿材は、本実施形態の効果を阻害しない範囲内において、通常、調湿材に用いられるその他成分をさらに含有してもよい。
【0024】
調湿材は、水溶液であってもよい。この場合、特定塩は、上記カチオンおよび上記アニオンの状態で含有される。
本実施形態の調湿材は、例えば、デシカント式の空調機、吸収冷凍機に適用できる。なお、本実施形態の調湿材は、開放系および密閉系のいずれの態様でも使用可能であるが、開放系の態様で使用する場合、臭気が抑制されている観点から、特定塩を構成するアニオンが上記リン酸アニオンである調湿材が特に適している。
【0025】
また、別の実施形態では、前記塩は、イオン液体であることが好ましい。イオン液体とは、1気圧で100℃以下の融点を持つものを意味する。特に、本実施形態の調湿材は、少なくとも、0~5℃の範囲で液体であることが好ましい。
本実施形態の調湿材は、上記のとおり、水溶液であってもよく、水溶液であることが好ましい。この場合、先にも述べた通り、特定塩は、上記カチオンおよび上記アニオンの状態で含有される。水の量は、前記塩(イオン液体)と水の合計量に対し10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、水の量が95質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
さらに、本実施形態の調湿材は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、通常、調湿材に用いられるその他成分をさらに含有してもよい。
【0026】
本実施形態の調湿材は、空調機や吸収冷凍機等の装置に用いることができる。このような装置の例としては、特開2006-142121号公報、特開2018-144029号公報、特開2020-30004号公報等の記載を参酌できる。特に、臭気の発生が抑制されるため、デシカント式の空調機等の開放系の用途に特に適している。
本実施形態の調湿材は、例えば、デシカント式の空調機、吸収冷凍機に好ましく適用できる。なお、本実施形態の調湿材は、開放系および密閉系のいずれの態様でも使用可能であるが、開放系の態様で使用する場合、臭気が抑制されている観点から、特定塩を構成するアニオンが上記リン酸エステルアニオンである調湿材が特に適している。
【0027】
本実施形態の調湿材を構成するピラゾリウムリン酸塩溶液は低粘性であることが好ましい。その水溶液の粘度(例えば、70質量%の水溶液)は25℃の粘度でいうと、50mPa・s以下であることが好ましく、40mPa・s以下であることがより好ましく、30mPa・s以下であることがさらに好ましく、25mPa・s以下であることが一層好ましく、20mPa・s以下であることがより一層好ましい。ピラゾリウムリン酸塩の粘度が低いことで、調湿材水溶液の移送効率が向上すると共に、外気との接触による水蒸気交換効率が向上すると期待される。下限値は、例えば、25℃で、5mPa・s以上である。
また、本実施形態の水溶液(例えば、70質量%の水溶液)は、20℃における粘度と50℃の粘度の差が、40mPa・s以下であることが好ましく、20mPa・s以下であることがより好ましい。ピラゾリウムカチオンが有するアルキル基の鎖を短くすることによって、20℃と50℃の粘度の差を小さくすることができる。
前記粘度の差の下限値は0mPa・s超であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の調湿材は、亜鉛、銅、アルミニウム、ステンレス等の種々の金属に対して腐食性の低い調湿材となる。本実施形態では、ピラゾリウム塩を用いるため、Nに挟まれたポジションの水素の酸性度が高くならず、金属腐食をより効果的に抑制できる傾向にある。
【0029】
上記構成によれば、吸湿率の高い調湿材が得られる。また、臭気の発生が抑制されるため、デシカント式の空調機等の開放系の用途に特に適している。
【実施例0030】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。また、以下に示す構造式中のEtはエチル基であり、Meはメチル基である。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
本実施例は、特に述べない限り、23℃、相対湿度40%の環境下で行った。
【0031】
<ピラゾリウム特定塩の合成>
【0032】
実施例1:1-エチル-2-メチルピラゾリウム=リン酸ジメチル(8)の合成
【化13】
【0033】
ジムロートコンデンサーと100mL円筒型滴下ロートを装着した500mL三口ナスフラスコに水素化ナトリウム(NaH)(12.4g、 ca.60% in Mineral oil、310mmolをはかり取り、アルゴン置換したのち、室温でdryヘキサンを加えて上澄みを取り除き(2回)、鉱物油成分を除いた。ついでdryテトラヒドロフラン(THF)100mLを室温で加えて懸濁液とし、このフラスコを氷浴に浸け、ピラゾール(21)(20.42g、300mL)のdryTHF(100mL)溶液を0℃で滴下した。この時、水素ガスが発生するため、発生した水素ガスを逃がしながら1時間かけて滴下してナトリウム塩(23)を生成させた。滴下修了後に室温で1時間攪拌し、ついでヨウ化エチル(51.47g、330mmol)のdryTHF(100mL)溶液を室温で30分かけて滴下し、滴下終了後70℃で19時間環流させた。放冷後に0℃で氷片5.58g(310mmol)を加え、室温で30分撹拌した。析出したヨウ化ナトリウムをセライト濾過して除き、内容物を500mL一口ナスフラスコに移し、ロータリーエバポレータで減圧濃縮し、溶媒であるTHFを概ね留去させたのち、viglue管を装着して減圧条件でクライゼン蒸留を行い、1-エチルピラゾール(24)(bp 72-75℃/22hPa、21.17g、220mmol)を収率73%で得た。
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3) δ1.47 (3H, t, J=7.2 Hz), 4.17 (2H, q, J=7.2Hz), 6.22 (1H, t, J=2.4 Hz), 7.37 (1H, d, J=4.0 Hz), 7.48 (1H, d, J= 2.4 Hz); 13C NMR (20 MHz, ppm, CDCl3) δ15.6, 45.8, 105.2, 128.1, 139.0 ppm.
【0034】
ジムロートコンデンサーを装着した200mL二口ナスフラスコに1-エチルピラゾール(24)(20.60g、214mmol)をとり、側管からリン酸トリメチル(33.1g、236 mmol)を室温で加え、アルゴンガスでフラッシュして反応系内をアルゴンガスで置換したのち120℃で72時間攪拌した。室温まで放冷後に純水100mLを加えて水溶液として、水層をエーテルで3回洗浄したのち、凍結乾燥、ついで50℃、7.1hPaで7時間乾燥したところ半融解状無色油状物としてピラゾリウム塩(8)(49.29g、209mmol)を収率97%で得た。
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3) δ1.60 (3H, t, J=7.2 Hz), 3.56 (3H, s), 3.71 (3H, s), 4.42(2H, q, J=7.2Hz), 6.80 (1H, t, J=2.4 Hz), 8.16 (2H, t, J= 3.2 Hz); 13C NMR ((20 MHz, ppm, CDCl3) δ13.1, 36.5, 45.3, 53.0, 53.2, 107.3, 137.1, 139.6 ppm. HRMS (ESI) C6H11N2 +111.09227;found 111.0922;HRMS(ESI)calcd for C2H6O4P125.000382;found 124.9995.
【0035】
同様の手法で合成した特定塩であるピラゾリウム塩の構造と化学式番号は前述の特定塩(9)および(10)で表される。
【0036】
実施例2:1-メチルピラゾリウム=リン酸ジメチル(7)の合成
【0037】
【化14】
ピラゾール(21)(0.68g、10.0mmol)にトリメチルリン酸エステル(1.54g、11mmol)を室温で加えてアルゴンガス雰囲気中、85℃で24時間反応させたのち、室温まで放冷し、残渣をヘキサン、ジエチルエーテルで洗浄したのち、ロータリーエバポレータ、ついで真空ポンプで55℃(8.5hPa)3時間減圧して乾燥し、特定塩(7)を無色油状物として収率81%(1.69g,8.12mmol)で得た。この特定塩(7)の水溶液は酸性(pH3.4)を示したため、吸湿能力のみ調査した。なお、トリメチルリン酸エステルを2当量以上加えてもジメチルピラゾリウム塩は生成しなかった。
1H NMR (80 MHz, ppm, CDCl3) δ3.57 (3H, s), 3.76 (3H, s), 4.33 (3H, s), 6.73 (1H, t, J=3.2 Hz), 8.47 (1H, d, J=2.4 Hz), 10.55 (2H, s); 13C NMR ((20 MHz, ppm, CDCl3) δ37.0, 53.1, 53.3, 107.3, 138.3 ppm.
【0038】
<吸湿試験、実施例3>
実施例1の特定塩(8)1.0038gを分注したシャーレを、湿度計(株式会社T&D製 照度・紫外線・温度・湿度データロガー TR-74Ui)と共にチャック付き内容量1110cmのポリ袋(旭化成ホームプロダクツ株式会社製 ジップロック(登録商標)、273mm×268mm)に入れて、ポリ袋を封止した。これを30℃の恒温槽に入れて静置し、ポリ袋内の湿度が平衡状態に達するまでのポリ袋内の湿度変化を測定した。その結果をグラフ図1に示す。図1に示すように、時間経過とともに湿度が低下しており、特定塩(8)は、吸湿性を有していることが分かる。
【0039】
同様の方法で特定塩(7)、(9)、(10)について真空乾燥後の1.000gをシャーレに取り、特定塩(8)と同様の吸湿試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0040】
非特許文献9に記載の従来最高の吸湿性能を示した[DETMC6][DMPO4]2、および現在除湿剤に使用されている塩化カルシウムの吸湿性能比較
【表1】
【0041】
特定塩(7)~特定塩(10)は現在広く乾燥剤に使用されている表1に示した乾燥用塩化カルシウムを用いた比較例4-1、乾燥用シリカゲルを用いた比較例4-2と比較して、はるかに高い吸湿率を示した。また、一般的なイオン液体であるBmim-DMPO4(比較例4-4)にくらべてはるかに高い吸湿性を示し、今回合成した特定塩でもっとも吸湿性能が低い特定塩(7)においてもBmim-DMPO4と比較するとモルあたりで1.5倍(DC(mol)、モノカチオンのピラゾリウム塩で最も高い吸湿性を示した特定塩(10)においてはモル比で比較して3.5倍の吸湿性能(DC(mol)を示した。特定塩(7)~(10)のモル当たり吸湿性は(10)>(9)>(8>(7)の順番であり、グラム当たり吸湿性は(10)>(9)>(8)>(7)の順になった。
【0042】
[DETMC6][DEPO4]2は論文公表時に世界最高水準の吸湿性の化合物であり、特定塩(10)の吸湿性能は、従来報告のあるすべての調湿材を凌駕していると考えられる。
【0043】
イオン液体の吸湿性はカチオン部分が小さい方が高いという報告があるが(非特許文献3)、ピラゾリウム塩イオン液体である特定塩(7)~(10)に関してはこのルールで予測できないことがわかった。
【0044】
<平衡水蒸気圧測定、実施例4>
実施例1で合成した特定塩(8)、(9)、および(10)の80質量%水溶液を調製し、20℃から60℃まで、各温度における平衡水蒸気圧を測定した。その結果を図2に示す。
【0045】
同様の方法で特定塩(8)、(9)、(10)、および[DETMC6][DEPO4]2の80質量%水溶液、塩化リチウムの30質量%水溶液を調製し、25℃と50℃における平衡水蒸気圧を測定した。平衡水蒸気圧を表2に示す。
【0046】
特定塩(8)~(10)、[DETMC6][DEPO4]2、および塩化リチウムの25℃と50℃における平衡水蒸気圧
【表2】
【0047】
表2の実施例5-1~実施例5-3で示したように、特定塩(8)~(10)の80質量%水溶液の平衡水蒸気圧は25℃で19hPaと非常に低い値を示し、表2の比較例5-2で示した30質量%塩化リチウム水溶液より幾分低いことがわかった。
【0048】
液式デシカント空調機用の調湿材は接触させる外気との間で円滑に水蒸気を吸放出させることが必要であり、このためには低温で平衡水蒸気圧が低く、高温で平衡水蒸気圧が高いことが望ましい。かかる観点から、25℃での平衡水蒸気圧は100hPa以下であることが好ましく、70hPa以下であることがより好ましく、50hPa以下であることがさらに好ましく、20hPa以下であることが一層好ましい。下限値は特にないが5hPa以上であることが実際的である。50℃での平衡水蒸気圧は50hPa以上であることが好ましく、80hPa以上であることがより好ましく、100hPa以上が特に好ましい。上限値は特にないが800hPa以下が実際的である。
50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP50-25)は、20hPa以上であることが好ましく、30hPa以上であることがより好ましく、40hPa以上であることがさらに好ましく、75hPa以上であることが一層好ましく、100hPa以上であることがより一層好ましい。上限は特にないが、ΔVP50-25は200hPa以下であることが実際的である。
【0049】
表2の実施例5-1で示した結果は、特定塩(8)の調湿材としての機能は、80質量%水溶液では30質量%塩化リチウム水溶液と同等であることを示しており、外気との接触で円滑に水蒸気交換ができることを示している。
【0050】
表2の実施例5-2、5-3で示した実験結果は特定塩(9)ならびに特定塩(10)の80質量%水溶液の調湿材としての機能は低温に於いては30質量%塩化リチウム水溶液よりも優れていることを示している。ただし、50℃における平衡水蒸気圧も低く、外気との接触による水蒸気交換については30質量%塩化リチウムに較べて平衡水蒸気圧が低く、水蒸気交換の性能が低いことがわかった。
【0051】
<粘度試験、実施例5>
液式デシカント空調機用の調湿材はなるべく粘性が低いことが望まれる。本発明の特定塩は、図3に示す通り、粘度が低いことが分かった。図3において、温度(Temp.)20℃における粘度(Viscosity)が高いものから順に、[DETMC6][DMPO4]2、特定塩(10)、特定塩(9)、特定塩(8)、Bmim-DMPO4を示している。
図3に示すように、特定塩(8)~特定塩(10)の70質量%水溶液のうち、特定塩(10)の粘性が高いことがわかったが、Bmim-DMPO4の吸湿性能は低く([表1]比較例4-4)、モル比で特定塩(8)の40%程度しかなかった。また、いずれの温度においても、特定塩(8)~特定塩(10)の70質量%水溶液の粘性は比較例である[DETMC6][DMPO4]([表1]比較例4-3)の70質量%水溶液によりも遙かに低いことがわかった。液式デシカント空調機においては、外気と調湿材水溶液を接触させて外気の調湿と空調温度制御を行う。従って、調湿材水溶液の配管中の抵抗を減らし、外気との接触効率を向上させるためには調湿材水溶液の粘性が低いことが好ましい。特定塩(8)~特定塩(10)の70質量%水溶液の各温度における粘性は低く、外気と接触で効率的な調湿が可能になる。
なお、粘度の測定は、ISO 23581:2020に準拠して行った。
図1
図2
図3