(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024472
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物及び筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20240215BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127318
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 聡
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
4J039AB02
4J039BC19
4J039BC35
4J039BE01
4J039CA06
4J039EA42
4J039GA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】擦過によって消去可能な数μmの大きさの熱変色性のマイクロカプセル顔料などの色材を含む中綿式サインペンなどの筆記具に好適な筆記具用水性インク組成物において、経時上下濃度差、耐振動性及びノンドライ性を高度に両立した筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具を提供する。
【解決手段】本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、着色樹脂粒子と、凝集剤と、有機酸及びそのアルカリ金属塩の少なくとも1種0.5質量%超過15質量%以下とを含有することを特徴とする。また、本発明の筆記具10は、上記構成の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着色樹脂粒子と、凝集剤と、有機酸及びそのアルカリ金属塩の少なくとも1種0.5質量%超過15質量%以下とを含有することを特徴とする、筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
前記の有機酸アルカリ金属塩が臨界相対湿度65%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項3】
前記の有機酸及びそのアルカリ金属塩が25℃、湿度65%環境下にて、インク組成物の密度AをJIS K 0061:2022に従い、並びに、色材の密度BをJIS Z 8807:2012に従い、100mlゲイ・リュサック形比重瓶、0.0001gの有効桁まで測定できる電子天秤を用いてピクノメーター法により測定した際、式(I):(A-B)×100の値が-4.0~6.0の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とす筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擦過によって消去可能な着色樹脂粒子などの色材を含む中綿式サインペンなどの筆記具に好適な筆記具用水性インク組成物及び筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、擦過によって消去可能な数μmの大きさの熱変色性のマイクロカプセル顔料などの着色樹脂粒子を含む中綿式のサインペン、マーキングペンなどの筆記具に好適な筆記具用水性インク組成物においては、凝集剤で色材をゆるくつなぎ合わせることによりインク吸蔵体やペン先内の毛管部に色材を定着させ、浮上や沈降による色材の偏在を軽減している。更に、比重調整剤などを添加してインクを色材の比重に近づけることによって、耐浮上沈降性をより強化することによって耐振動性を強めることが行われている。
【0003】
このような筆記具用水性インク組成物としては、例えば、
1)熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル顔料と、水と、陽イオンが一価である無機塩とを含んでなり、前記マイクロカプセル顔料Aと前記無機塩BとがA/Bにおいて2~7の範囲であるとともに、回転粘度計による20rpm時の粘度が1~20mPa・s(20℃)の範囲にある熱変色性筆記具インク組成物(例えば、特許文献1参照)、
2)(a)電子供与性呈色性有機化合物と、(b)電子受容性化合物と、(c)前記(a)成分および(b)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体とを含んでなる可逆熱変色性組成物を内包してなる可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、水と、90~185の原子量を有する6族元素の酸素酸およびその塩からなる群から選択される比重調整剤とを含んでなるビヒクルとを含んでなる可逆熱変色性インク組成物、前記比重調整剤の含有量が、前記インク組成物全量に対して2質量%~20質量%であること、また、20℃において、水を基準物質とした場合の前記マイクロカプセル顔料の比重が1.05~1.20であり、前記ビヒクルの比重が1.00~1.30であり、かつ前記ビヒクルの比重が前記マイクロカプセル顔料の比重に対して0.90~1.20である可逆熱変色性インク組成物(例えば、特許文献2参照)、
3) 可逆熱変色性インキ組成物に、比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料を含有した際にも、特定のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩をビヒクルに含有することにより、低粘度インキにおいてもマイクロカプセル顔料が浮遊したり、沈降したりすることなく、安定的に分散を維持できること、さらに、筆記具に用いた際に撹拌子などの再撹拌機構を用いることなく、安定的にマイクロカプセル顔料を分散した状態を維持できるため、各種筆記具に用いることができ、また、筆記具に用いた際に、顔料が浮遊したり、沈降したりすることがないため、筆跡に斑が生じることがなく、均一に分散していることと保湿効果を有しているため、筆跡がかすれることがなく、安定した筆記性能が得られるなど、優れた効果を奏する可逆熱変色性インク組成物(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~3の各筆記具用水性インク組成物は、大粒径の熱変色性の色材が含まれ、さらに比重調整剤が加わって固形分が多く、且つ凝集剤などによって粘度も大きめのインク組成物となっているため、ノンドライ性能があまり良くない点に課題があり、上記筆記具用水性インク組成物に求められる経時上下濃度差、耐振動性及びノンドライ性を高度に両立した筆記具用水性インク組成物などが得られていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-70741号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】国際公開2019/082722号(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2020-97659号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、擦過によって消去可能な熱変色性の着色樹脂粒子などの色材を含む中綿式サインペン、マーキングペンなどの筆記具に好適な筆記具用水性インク組成物等において、経時上下濃度差、耐振動性及びノンドライ性を高度に両立した筆記具用水性インク組成物及び筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、着色樹脂粒子と、凝集剤と、有機酸及びそのアルカリ金属塩の少なくとも1種を所定量の範囲で含有せしめることなどにより、上記目的の筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、着色樹脂粒子と、凝集剤と、有機酸及びそのアルカリ金属塩の少なくとも1種0.5質量%超過15質量%以下とを含有することを特徴とする。
前記の有機酸アルカリ金属塩は臨界相対湿度65%以下であることが好ましい。
前記の有機酸及びそのアルカリ金属塩が25℃、湿度65%環境下にて、インク組成物の密度AをJIS K 0061:2022に従い、並びに、色材の密度BをJIS Z8807:2012に従い、100mlゲイ・リュサック形比重瓶、0.0001gの有効桁まで測定できる電子天秤を用いてピクノメーター法により測定した際、式(I):(A-B)×100の値が-4.0~6.0の範囲であることが好ましい。
本発明の筆記具は、上記構成の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、擦過によって消去可能な熱変色性の着色樹脂粒子などの色材を含む中綿式サインペン、マーキングペンなどに好適な筆記具用水性インク組成物において、経時上下濃度差、耐振動性及びノンドライ性を高度に両立した筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の筆記具の一例となるサインペンタイプの筆記具の図面であり、(a)は、正面図、(b)は、縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明において、数値範囲として「△△~○○」は、「△△以上○○以下」を意味する。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、着色樹脂粒子と、凝集剤と、有機酸及びそのアルカリ金属塩の少なくとも1種(各単独又は2種以上、以下同様)0.5質量%超過15質量%以下とを含有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明に用いる色材となる着色樹脂粒子は、着色された樹脂粒子から構成されるものであれば特に限定されず、例えば、1)樹脂粒子中にカーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料等の有機顔料などの顔料からなる着色剤が分散された着色樹脂粒子、2)樹脂粒子の表面が上記顔料からなる着色剤で被覆された着色樹脂粒子、3)樹脂粒子に直接染料、酸性染料、塩基性染料、食料染料、蛍光染料などの染料からなる着色剤が染着された着色樹脂粒子、4)ポリマーで構成されているマトリックス、OH基を有する樹脂、及び水不溶性染料を有するマイクロスフェア、5)ロイコ色素等を用いて熱変色性とした着色樹脂粒子、6)光変色性色素となるフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素等を用いて光変色性とした着色樹脂粒子などが挙げられる。
【0013】
上記1)~3)の着色樹脂粒子の樹脂成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、ブタジエン等の重合体もしくはこれらの共重合体、ベンゾグアナミン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等から選択される少なくとも1種が挙げられ、必要に応じて架橋などの処理を行ったものであってもよい。これらの樹脂への着色方法としては、従来公知の懸濁重合、分散重合などの手法が用いられる。
【0014】
上記4)のマイクロスフェアは、ポリマーで構成されているマトリックス、OH基を有する樹脂、及び水不溶性染料を有するものである。
マトリックスを構成するポリマーとしては、例えば、エポキシポリマー、メラミンポリマー、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、若しくはウレアポリマー、又はこれらの組合せであることができる。
OH基を有する樹脂は、マトリックス中に含有されている。OH基を有する樹脂としては、例えば、テルペンフェノール樹脂、ロジンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリオール変性キシレン樹脂、エチレンオキシド変性キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、水酸基変性アクリル樹脂水酸基変性スチレンアクリル樹脂、カルボキシル変性アクリル樹脂、カルボキシル変性スチレンアクリル樹脂等が挙げられる。
水不溶性染料は、常温において水に不溶の染料であり、例えば、アゾ系、金属錯塩アゾ系、アンスラキノン系及び金属フタロシアニン系の化学構造を有する染料などの造塩染料、分散染料、油溶性染料等を用いることができるが、発色性の観点から、造塩染料を用いることが好ましい。
【0015】
マイクロスフェアは、例えば、以下の作成工程(乳化重合法、相分離法)により製造することができる。
乳化重合法によるマイクロスフェア作成工程は、油相を作製すること、水相を作製すること、及び油相と水相とを混合させて油相の成分を乳化した後に重合させる工程からなる。
油相は、フェニルグリコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノベンジルエーテル、酢酸エチル等の有機溶剤、上記水不溶性染料、上記OH基を有する樹脂、及びモノマー又はプレポリマーを含有している。この有機溶剤は、複数種含有されていてもよい。
この油相は、有機溶剤を所定の温度に加温しながら、水不溶性染料及びOH基を有する樹脂を加えて撹拌し、次いで、ポリマーを構成するメラミンモノマー又はプレポリマー、エポキシモノマー又はプレポリマー、アクリルモノマー又はプレポリマー、イソシアネートモノマー又はプレポリマーなどのモノマー又はプレポリマーを加え、更に随意に他の有機溶剤を加えることにより、作製することができる。
水相は、水及び分散剤を混合させることにより作製することができる。分散剤としては、例えばポリビニルアルコールを用いることができるが、これに限定されない。
【0016】
乳化及び重合工程は、まず、油相の成分を乳化し、さらに重合させる工程は、水相に油相を投入し、ホモジナイザー等を用いて所定の温度に加温しながら乳化混合することにより行うことができる。
マイクロスフェア作成工程は、他の工程、例えばマイクロスフェアを分級する工程を含んでいてもよい。
【0017】
相分離法によるマイクロスフェア作成工程は、染料含有溶液を作製すること、保護コロイド剤含有溶液を作製すること、モノマー又はプレポリマーを重合させることからなる。
染料含有溶液は、水不溶性染料及びOH基を有する樹脂を有機溶剤に加熱溶解することにより作製することができる。水不溶性染料、OH基を有する樹脂及び有機溶剤としては、乳化重合によるマイクロスフェア作成工程に関して挙げたものを用いることができる。
保護コロイド剤含有溶液は、保護コロイド剤を水に溶解させることにより、作製することができる。保護コロイド剤としては、例えば、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体等を用いることができる。
モノマー又はプレポリマーの重合は、染料含有溶液を、所定の温度に加温した保護コロイド剤含有溶液に添加して油滴状に分散させ、ここに上記モノマー又はプレポリマーを添加し、温度を維持して撹拌することにより、行うことができる。これによれば、モノマー又はプレポリマーを重合して得られたポリマーに、水不溶性染料及びOH基を有する樹脂が内包されることとなる。
【0018】
得られるマイクロスフェアにおいて、マイクロスフェア全量中の、OH基を有する樹脂の含有率は、好ましくは、1質量%以上40質量%以下であることが望ましく、また、水不溶性染料の含有率は、好ましくは、10質量%以上45質量%以下であることが望ましい。マイクロスフェアの平均粒子径は、0.2μm以上3.0μm以下が好ましい。
本発明(後述する実施例等含む)において、「平均粒子径」とは、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)〕にて、測定したD50の値若しくは濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子社製)を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径の値である。
【0019】
上記5)の熱変色性の着色樹脂粒子としては、電子供与性染料であって、発色剤としての機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.2~3μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性の着色樹脂粒子などを挙げることができる。
マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱撹拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、壁膜がウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂等となる樹脂原料を使用、例えば、アミノ樹脂溶液、具体的には、メチロールメラミン水溶液、尿素溶液、ベンゾグアナミン溶液などの各液を徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより熱変色性のマイクロカプセル顔料からなる熱変色性の着色樹脂粒子を製造することができる。この熱変色性の着色樹脂粒子では、ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度、消色温度を好適な温度に設定することができる。
【0020】
上記6)の光変色性の着色樹脂粒子としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性の着色樹脂粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.2~3μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性の着色樹脂粒子などを挙げることができる。マイクロカプセル化法としては、上述の熱変色性の樹脂粒子の製造と同様に調製することができる。
この光変色性の着色樹脂粒子は、フォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などを好適に用いることにより、例えば、室内照明環境(室内での白熱灯、蛍光灯、ランプ、白色LEDなどから選ばれる照明器具)において無色であり、紫外線照射環境(200~400nm波長の照射、紫外線を含む太陽光での照射環境)で発色する性質を有するものとすることができる。
【0021】
上記1)~6)の各着色樹脂粒子は、蛍光顔料、熱変色性顔料や光変色性顔料のマイクロカプセル顔料、マイクロスフェアなど(色材)として使用することができる。また、上記1)~6)の各着色樹脂粒子は、各製造法により製造した各樹脂粒子を使用することができ、市販品があれば、それらを使用してもよいものである。
また、本発明では、色材として擦過によって消去可能な熱変色性の着色樹脂粒子などを用いた場合に、本発明の効果をより発揮することとなる。
【0022】
これらの着色樹脂粒子の含有量は、着色樹脂粒子を色材として単独で使用する場合や、着色樹脂粒子以外の色材(無機顔料、有機顔料、染料など)と併用したりする場合など、目的に応じてその量は変動する。
用いる着色樹脂粒子(固形分量)の含有量は、筆記性能や描線品位を良好にする点から、インク組成物全量に対して、5~40質量%であり、好ましくは、5~30質量%とすることが望ましい。
この樹脂粒子含有量が5%未満では、筆記性能や描線品位が劣ることとなり、一方、40%超過では初筆性の低下が認められ、好ましくない。
また、これらの着色樹脂粒子の平均粒子径は、筆記具種、用途などにより変動するが、好ましくは、0.1~10.0μm、更に好ましくは、0.2~3.0μmであることが望ましい。
【0023】
本発明に用いる凝集剤は、インク組成物中で、上記色材となる熱変色性などの着色樹脂粒子を当該凝集剤を介してゆるやかな凝集体となるように形成せしめ、インク吸蔵体やペン先内の毛管部に色材粒子を定着させ、浮上や沈降による色材粒子の偏在を軽減させるために用いるものである。
用いることができる凝集剤としては、例えば、水溶性セルロース及びその誘導体、水溶性多糖類、ポリビニルピロリドンなどから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
水溶性セルロース及びその誘導体としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、ヒドロキシエチルセルロースが望ましい。
これらの凝集剤の含有量は、上記浮上や沈降による色材粒子の偏在等を効果的に軽減させる点などから、インク組成物全量に対して、0.05~3質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.1~1質量%であることが望ましい。
【0024】
本発明に用いる有機酸としては、例えば、カルボキシ基(-COOH)を持つカルボン酸と、スルホ基を持つスルホン酸の少なくとも1種が挙げられる。カルボキ基を持つカルボン酸としては、例えば、酢酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸等が挙げられる。また、スルホ基をもつスルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸等が挙げられる。
また、本発明に用いる有機酸のアルカリ金属塩は、上記の各有機酸(上記カルボキシ基を持つカルボン酸やスルホ基を持つスルホン酸の各々)のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられ、各有機酸のナトリウム塩が好ましい。アルカリ金属塩とするのは、析出物が発生しにくく、インク組成物中でのトラブル発生リスクも小さいからである。好ましい有機酸のアルカリ金属塩としては、イセチオン酸のアルカリ金属塩、乳酸のアルカリ金属塩、酢酸のアルカリ金属塩などが望ましい。
【0025】
用いる有機酸のアルカリ金属塩は、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、更に好ましくは、25℃における臨界相対湿度が65%以下となるものが望ましい。25℃における臨界相対湿度が65%超過となる、有機酸の金属塩、例えば、メタスルホン酸ナトリウムなどの使用であっても本発明の効果を発揮せしめるものであるが、25℃における臨界相対湿度が65%以下となる有機酸の金属塩の方が本発明の効果を更に相乗的にすることができるからである。
ここで、「臨界相対湿度(critical relative humidity:CRH)」とは、吸湿性を表す周知の指標であり、相対湿度を上げていった場合に、試料における吸湿量の急激な増加が見られるときの相対湿度をいう。
この臨界相対湿度は、例えば、水分吸着測定装置を用いて、25℃で10~95%の相対湿度における試料の重量変化を測定することにより確認することができる。本発明における「25℃における臨界相対湿度が65%以下」とは、25℃における相対湿度が少なくとも65%以上で吸湿量が急激に大きくなることを言う。また、CRHが認められる2種類の試料を混合することにより、そのCRHが個々の試料のCRHと比較して低くなることがあることもエルダーの仮説として知られている。
25℃、65%環境下に少量の粉体状態または小さな固体状態で数日以上静置させて、吸湿して水溶液化すれば、CRHが65%以下であり、水溶液化しなければ65%以上であると判別することができる(本件での臨界相対湿度が65%以下、以上の定義)。
【0026】
本発明に用いる有機酸及びそのアルカリ金属塩は、後述する所定量の範囲で少なくとも1種をインク組成物中に含有せしめることにより、比重調節機能を有すると共に、吸湿性を有し、筆記具用水性インク組成物中に含有されても、筆記性能などの筆記具用のインクに要求される各性能を損なうことなく、本発明の効果を発揮せしめる成分となるものであり、経時上下濃度差、耐振動性及びノンドライ性を高度に両立することができるものとなる。
【0027】
これらの有機酸及びそのアルカリ金属塩の少なくとも1種の含有量は、耐浮上沈降抑制の点、本発明の効果を発揮せしめる点から、インク組成物全量に対して、0.5質量%超過15質量%以下であり、好ましくは、3質量%以上8質量%以下とすることが望ましい。
この有機酸及びそのアルカリ金属塩の含有量が0.5質量%以下では、比重調整効果が不十分で、経時上下濃度差が発生となり、一方、15質量%超過ではインクの粘度が大きくなり過ぎたり、色材の凝集が強くなり過ぎたりして、インクの流出性が悪化となり、好ましくない。
【0028】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記熱変色性着色樹脂粒子などの着色樹脂粒子(色材)と、凝集剤と、上記所定量の有機酸及びそのアルカリ金属塩の他に、水溶性溶剤、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)を含むことが好ましく、更に、本発明の効果を損なわない範囲で、筆記具の用途(ボールペン用、マーキングペン等)により、分散剤、pH調整剤、防腐剤もしくは防菌剤、マルトデキストリンなどのノンドライ剤などを適宜含有することができる。
【0029】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、インク組成物全量に対して、5~40%とすることが望ましい。
【0030】
本発明に用いることができる分散剤は、水溶性高分子分散剤や界面活性剤などを適宜選択して、配合することが必要である。
水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、マレイン酸樹脂等が挙げられ、具体的には、アクリル樹脂、スチレンアクリル酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂等の樹脂を塩の形にして水溶性にしたものを用いる。塩を形成するアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムが代表的であり、アミンとしてはモノ、ジ又はトリメチルアミン等の脂肪族第1から第3級アミン、モノ、ジ又はトリプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルコールアミンその他、アンモニア、モルホリン及びN-メチルホリン等が代表的である。
【0031】
分散剤となる界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン系界面活性剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸部分エステル、糖の高級脂肪酸エステルなどが挙げられ、具体的には、グリセリンの脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物などが挙げられる。
また、アニオン系界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸アミドのアルキル化スルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられ、具体的には、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルメチルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
これらの分散剤は、顔料の分散性を更に向上せしめるものであれば特に限定されず、夫々単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0032】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、チアゾリン系化合物、ピリジン系化合物、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
上記分散剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、ノンドライ剤などの各成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
【0033】
また、本発明の筆記具用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0034】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、E型粘度計(東機産業社製TV20)による20rpm、剪断速度76.6sec-1における粘度が25℃で25mPa・sec以下であることが好ましく、更に好ましくは、3~20mPa・secの範囲が望ましい。
この粘度が25mPa・sを越えて粘度が高くなると、インク流量が低下し、筆感が重くなり、滑らかに書きづらくなり、一方、3mPa・sec以上とすることにより、筆跡の滲みや裏抜け抑制効果が発揮されやすくなる。
【0035】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、好ましくは、25℃、湿度65%環境下にて、インク組成物の密度AをJIS K 0061:2022に従い、並びに、色材の密度BをJIS Z8807:2012に従い、100mlゲイ・リュサック型比重瓶、0.0001gの有効桁まで測定できる電子天秤を用いてピクノメーター法により測定した際、下記式(I)で表される:(A-B)×100の値が-4.0~6.0の範囲であることが望ましい。
上記式(I)で表される密度の差の値が-4.0~6.0の範囲内であると、色材の耐浮上、耐沈降性を更に高めることとなり、本発明の効果を更に発揮せしめることができることとなる。さらに好ましくは、-2.0~4.0とすることが望ましい。
【0036】
上記インク組成物の密度A、並びに、色材の密度Bの具体的な各密度測定は、25℃、湿度65%環境下にて、インク組成物はJIS K 0061:2022、並びに、色材の密度測定はJIS Z 8807:2012に従い、100mlゲイ・リュサック型比重瓶、0.0001gの桁まで測定できる電子天秤を用いてピクノメーター法で求めた。
インク組成物の密度Aは、以下のように求めた(後述する実施例等においても同様)。
A=[(W2-W0)/(W1-W0)]×(0.9970-0.0012)-0.0012
A:インク組成物の密度(g/cm3)
見掛け質量:はかりで空気中で測って得た値(g)
W0:比重瓶の見掛け質量(g)
W1:比重瓶を水で満たしたときの見掛け質量(g)
W2:比重瓶をインク組成物で満たしたときの見掛け質量(g)
0.9970:測定時温度25℃における水の密度(g/cm3)
0.0012:測定中の25℃湿度65%の空気の密度(g/cm3)
また、色材密度Bは、以下のように求めた。
標準液としては水を用いた。
B:測定時温度t℃における色材の密度(g/cm3)
Wa:比重瓶の見掛け質量(g)
Wb:比重瓶に色材を入れたときの見掛け質量(g)
Wc:比重瓶に色材と標準液を入れたときの見掛け質量(g)
Wd:比重瓶に標準液だけを入れたときの見掛け質量(g)
ρs:測定時温度25℃における標準液の密度=0.9970(g/cm3)
ρair:測定中の25℃湿度65%の空気の密度=0.0012(g/cm3)
色材密度B=ρair+(ρs-ρair)×(Wb-Wa)/(Wb-Wa-Wc+Wd)
【0037】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、他の水性インク組成物の製造方法と比べて特に変わるところはなく製造することができる。
すなわち、本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、色材となる着色樹脂粒子と、有機酸及びそのアルカリ金属塩の少なくとも1種0.5質量%超過15質量%以下の他に、水溶性溶剤、凝集剤、残部として溶媒である水、その他の各成分を筆記具用(マーキングペン用、サインペン用、ボールペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ミキサー等、更に、例えば、強力な剪断を加えることができるビーズミル、ホモミキサー、ホモジナイザー等を用いて撹拌条件を好適な条件に設定等して混合撹拌することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって筆記具用水性インク組成物を製造することができる。
【0038】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン先部を備え、上記組成の筆記具用水性インク組成物を吸蔵した中綿式のマーキングペン、サインペン等に好適に搭載される。マーキングペン、サインペンなどの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の筆記具用水性インク組成物を直に充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液色のマーキングペンなどであってもよいものである。
特には、キャップ式、中綿式、マーキングペン、ペン先:繊維束芯(チゼル、丸芯)、プラ芯などの低粘度の筆記具用水性インク組成物に好適に用いることができる。
【0039】
図1は、本発明の上記構成の筆記具用水性インク組成物を搭載した筆記具の一例となるサインペンタイプの筆記具10であり、(a)は、正面図、(b)は、縦断面図である。
この筆記具10は、軸筒11内に収容されるインク吸蔵体となる中綿15を有し、先端側には、ポリアセタール(POM)製プラスチック芯からなるペン先20を保持する先軸12を一体に備え、この先軸12内にはペン先20の先端側を保持する保持体13が固着されている。図示符号14は軸筒11の後端側開口部を封鎖する尾栓である。また、筆記具本体となる軸筒10の先端側には、着脱自在となるペン先20を保護するキャップ50が取り付けられている。キャップ50には、クリップ部51、内キャップ52、外キャップ53を有している。
このタイプの筆記具10では、インク吸蔵体となる中綿15に本発明の筆記具用水性インク組成物が吸蔵されており、インク吸蔵体となる中綿15やペン20先内の毛管部に色材を定着させ、浮上や沈降による色材の偏在もなく、また、有機酸及びそのアルカリ金属塩が有する比重調節機能により、耐浮上沈降性をより強化することによって耐振動性も良好となるものである。
【0040】
このように構成される本発明にあっては、少なくとも、着色樹脂粒子と、凝集剤と、有機酸及びそのアルカリ金属塩の少なくとも1種0.5質量%超過15質量%以下の範囲とすることで、擦過によって消去可能な熱変色性の着色樹脂粒子などの色材を含む中綿式サインペン、マーキングペンなどに好適な筆記具用水性インク組成物において、経時上下濃度差、耐振動性及びノンドライ性を高度に両立した筆記具用水性インク組成物及びこれを搭載した筆記具が得られることとなる。
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物及び筆記具が、何故、上記特有の作用を発揮するものとなるのは、色材となる熱変色性などの着色樹脂粒子を当該凝集剤を介してゆるやかな凝集体となるように形成せしめ、インク吸蔵体やペン先内の毛管部に色材粒子を定着させ、浮上や沈降による色材粒子の偏在を軽減させるために経時的な上下濃度差が緩和され、さらに比重調整剤によってさらに色材の耐浮上、耐沈降性が強化され、耐振動性が改善されるためと推測される。
本発明の筆記具用水性インク組成物及びこれを搭載した筆記具では、本発明の上述の作用効果を発揮せしめる持続効果が極めて優れており、しかも、その効果の発現期間・持続時間も長く、更に水性であるために経時的な安定性にも優れたものとなる。
【実施例0041】
次に、筆記具用水性インク組成物及びこれを搭載した筆記具の実施例1~7及び比較例1~4により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1~7及び比較例1~4〕
下記表1に示す、色材(着色樹脂粒子:下記製造例1~3により得られる青色マイクロカプセル顔料、黒色マイクロカプセル顔料、赤色ウレタン系着色樹脂粒子)、有機酸及びそのアルカリ金属塩(各臨界相対湿度(CRH)値)、凝集剤、水溶性溶剤などの配合処方にしたがって、常法により各筆記具用水性インク組成物を調製した。
得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)について、下記各方法により、pH(25℃)、20rpm、剪断速度76.6sec-1(25℃)における粘度(mPa・s)の測定、上述の算出法等で色材密度:A、インク密度:B、式(I):(A-B)×100の値を算出した。また、得られた各筆記具用水性インク組成物について、下記構成の筆記具を用いて、下記評価方法により、静置経時濃度安定性、耐振動性、ノンドライ性の各評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0043】
製造例1(青色マイクロカプセル顔料の製造)
ロイコ色素として、メチル-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン1部、顕色剤として、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン2部、及び変色性温度調整剤として、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物27部を得た。上記で得た組成物27部の均一な熱溶液にカプセル膜剤として、イソシアネート10部及びポリオール10部を加えて攪拌混合した。次いで、保護コロイドとして12%ポリビニルアルコール水溶液60部を用いて、25℃で乳化して分散液を調製した。次いで、5%の多価アミン5部を用いて、80℃で60分間処理してマイクロカプセルを得た。以上の手順により得たマイクロカプセル化した水分散体をスプレードライすることでパウダー状にして熱変色性マイクロカプセル顔料を製造した。この熱変色性マイクロカプセル顔料は室温下で青色で、60℃以上で無色(消色)するものであった。平均粒子径は、3.0μmであった。
【0044】
製造例2(黒色マイクロカプセル顔料の製造)
ロイコ色素として、ETAC(山田化学工業社製)1部、顕色剤として、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン2部、及び変色性温度調整剤として、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物27部を得た。上記で得た組成物27部の均一な熱溶液にカプセル膜剤として、イソシアネート10部及びポリオール10部を加えて攪拌混合した。次いで、保護コロイドとして12%ポリビニルアルコール水溶液60部を用いて、25℃で乳化して分散液を調製した。次いで、5%の多価アミン5部を用いて、80℃で60分間処理してマイクロカプセルを得た。以上の手順により得たマイクロカプセル化した水分散体をスプレードライすることでパウダー状にして熱変色性マイクロカプセル顔料を製造した。この熱変色性マイクロカプセル顔料は室温下で黒色で、60℃以上で無色(消色)するものであった。平均粒子径は、2.5μmであった。
【0045】
製造例3(ウレタン系着色樹脂粒子の製造)
有機溶剤としてのエチレングリコールモノベンジルエーテル11.5質量部を60℃に加温しながら、ここに水不溶性染料(Valifast Red 1355、オリヱント化学工業社製)2.8質量部、プレポリマーとしてのジフェニルメタンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D-109、三井化学社製)7.2質量部を加えて、油相溶液を作製した。一方、蒸留水200質量部を60℃に加温しながら、ここに分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社製)15質量部を溶解して、水相溶液を作製した。60℃の水相溶液に油相溶液を投入し、ホモジナイザーで6時間撹拌することにより乳化混合して重合を完了した。得られた分散体を遠心処理することでウレタン系着色粒子(赤色粒子)を得た。この着色樹脂粒子の平均粒子径は、3.2μmであった。
【0046】
〔筆記具の構成〕
図1に準拠する筆記具(サインペン)を用いた。
中綿(インク吸蔵体)15:繊維束体、気孔率:90%、φ6.5mm×80mm
ペン先(筆記芯)20の構成:
直径φ2.0mm、長さ30mm、のポリアセタール(POM)製プラスチック芯から構成。先細状に加工処理した。
中綿15、ペン先20以外の筆記具部材の構成
軸体11、尾栓14、キャップ50などはPP製
【0047】
〔25℃におけるpHの測定方法〕
得られた各筆記具用水性インク組成物について、堀場製作所社製pHメーターを用いて、測定温度25℃の条件下にて、インクpHを測定した。
〔粘度の測定方法〕
得られた各筆記具用水性インク組成物について、E型粘度計(東機産業社製TV20)を用いて20rpm、剪断速度76.6sec-1(25℃)における粘度(mPa・s)を測定した。
【0048】
〔静置経時濃度安定性の評価方法〕
得られた各筆記具用水性インク組成物を、前記中綿へ適量を充填し
図1の筆記具(サインペン)に収容して各筆記具を得た。これらの筆記具を25℃で、3カ月、上下向きに配置した後、筆記用紙に直径1~2cmの大きさで1行あたり15丸の「らせん筆記」を5行筆記した。上下向きの描線の濃度の差を比較し、下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:変化なし。
B:一部若干の上下濃度差が認められる。
C:一部明らかな上下濃度差が認められる。
D:全体的に顕著な上下濃度差が認められる。
【0049】
〔耐振動性の評価方法〕
上記で得た各筆記具(サインペン)により筆記した後、キャップ50を嵌めた筆記具を振盪機(有限会社旭製作所製、小型振動発生装置 BigWave)に垂直上下向きにそれぞれ2本ずつセットし、ファンクションジェネレーターから振盪機に信号を送ることによって変位量15mm4Hzの垂直方向の正弦振動を10秒間その後に50静止させることを交互に24時間繰り返した。
その後、筆記用紙に直径1~2cmの大きさで1行あたり15丸の「らせん筆記」を5行筆記して得られた描線状態を次の基準で評価した。初期描線と比較した場合について行って得られた描線状態を次の基準で評価した。
評価基準:
A:変化なし。
B:若干の上下濃度差が認められる。
C:明らかな上下濃度差が認められる。
D:顕著な上下濃度差が認められる。
【0050】
(ノンドライ試験方法)
上記で得た各筆記具(サインペン)について、25℃で、湿度65%の環境下にて、キャップを外したペン体を水平横向きの状態で2時間放置した後、筆記用紙に直径1~2cmの大きさで「らせん筆記」を行い、得られた描線状態を下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:3周以内に正常な筆記可能。
B:5周以内に正常な筆記可能。
C:15周以内に正常な筆記可能。
D:正常な筆記となるまでに15周より多い「らせん筆記」を要する。
【0051】
【0052】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1~7の筆記具用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1~4の筆記具用水性インク組成物に較べ、経時上下濃度差、耐振動性及びノンドライ性を高度に両立した筆記具用水性インク組成物及び筆記具が得られることが判った。