(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024525
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】炭化水素の製造方法、還元炉の操業方法および銑鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/50 20170101AFI20240215BHJP
C21B 5/00 20060101ALI20240215BHJP
C22B 5/12 20060101ALI20240215BHJP
C10L 3/08 20060101ALI20240215BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C01B32/50
C21B5/00 321
C22B5/12
C10L3/08
B01D53/14 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127424
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】吉川 晃平
(72)【発明者】
【氏名】紫垣 伸行
(72)【発明者】
【氏名】茂木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】細原 聖司
【テーマコード(参考)】
4D020
4G146
4K001
4K012
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020AA04
4D020BA19
4D020BB04
4D020BC01
4D020CB08
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC21
4G146JC28
4G146JD05
4K001DA05
4K001HA11
4K012BF02
4K012BF05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】硫黄化合物濃度の低いCO
2を炭化水素に効率よく変換する方途を提供する。
【解決手段】CO
2と硫黄を含む副生ガスから、硫黄化合物濃度の低いCO
2ガスを分離するガス分離工程と、前記ガス分離工程からの前記CO
2ガスに含まれるCO
2を触媒により変換して炭化水素を製造するCO
2変換工程と、を有する。ガス分離工程は、吸収塔の内部に供給したメタノール吸収液と吸収塔に導入する副生ガスとを接触させて副生ガスの成分を吸収させ、吸収塔の下段にてCO
2リッチ・Sリッチ吸収液を抜き出し、かつ吸収塔の中段にてCO
2リッチ吸収液を抜き出す吸収塔抜出工程を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO2と硫黄を含む副生ガスから、硫黄化合物濃度の低いCO2ガスを分離するガス分離工程と、
前記ガス分離工程からの前記CO2ガスに含まれるCO2を触媒により変換して炭化水素を製造するCO2変換工程と、を有し、
前記ガス分離工程は、
吸収塔の内部に供給したメタノール吸収液と前記吸収塔に導入する前記副生ガスとを接触させて前記メタノール吸収液に前記副生ガスの成分を吸収させ、前記吸収塔の下段にてCO2および硫黄化合物の吸収量の多いCO2リッチ・Sリッチ吸収液を抜き出し、かつ前記吸収塔の中段にてCO2吸収量の多いCO2リッチ吸収液を抜き出す吸収塔抜出工程と、
前記CO2リッチ・Sリッチ吸収液をCO2脱離塔の中段に導入し、前記CO2リッチ・Sリッチ吸収液を加熱してCO2・硫黄化合物含有ガスを分離し、該CO2・硫黄化合物含有ガスを前記CO2脱離塔の上段に導入する前記CO2リッチ吸収液に接触させ、前記硫黄化合物を吸収させて前記硫黄化合物濃度の低いCO2ガスを抽出し、前記硫黄化合物を吸収させた液を前記CO2リッチ・Sリッチ吸収液と合流させて加熱し、硫黄化合物吸収量の多いSリッチ吸収液を得る、CO2脱離工程と、
前記CO2脱離工程により得られる前記硫黄化合物吸収量の多いSリッチ吸収液を、前記CO2脱離塔下段にて抜き出す脱離塔抜出工程と、
を有する炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記CO2脱離塔の下段から抜き出されたSリッチ吸収液を、S脱離塔に導入して前記Sリッチ吸収液から硫黄化合物を脱離させる硫黄化合物脱離工程、
をさらに有する請求項1に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記硫黄化合物脱離工程において、空気から分離したN2ガスを前記S脱離塔に吹き込む請求項2に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項4】
前記N2ガスは、空気の深冷分離によるものであり、空気から分離したN2およびO2の一方または両方と、前記ガス分離工程における各種吸収液および各種ガスの一方または両方との間で熱交換を行う請求項3に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記CO2変換工程において、前記CO2脱離工程からのCO2ガスにH2ガスを混合させて炭化水素(CH4)に変換する請求項1から4のいずれか1項に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項6】
前記CO2脱離工程において、前記CO2脱離塔にH2ガスを導入する請求項1から4のいずれか1項に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項7】
前記H2ガスは液化H2の気化により得られ、かつ前記液化H2と前記硫黄化合物脱離工程から排出される吸収液との間で熱交換を行う請求項5に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項8】
前記CO2脱離工程に、前記CO2変換工程にて得られた炭化水素を導入する請求項1から4のいずれか1項に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか1項に記載の炭化水素の製造方法によって得られた炭化水素を、CO2由来還元剤として還元炉に吹き込む還元炉の操業方法。
【請求項10】
請求項9に記載の還元炉の操業方法において、前記還元炉は高炉であって、請求項9に記載の還元炉の操業方法によって銑鉄を製造する、銑鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高炉や転炉の炉頂ガスなどの副生ガス、特にCO2とH2SおよびCOSなどの硫黄化合物とを含有する副生ガスから、CO2の他の不純物を除去した高純度CO2を分離回収して炭化水素を製造する方法、この方法によって製造される炭化水素を使用する還元炉の操業方法およびこの操業方法によって銑鉄を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止のために二酸化炭素(CO2)の排出量削減が求められており、大規模排出源である製鉄所、特に高炉においてCO2排出量抑制は重要な課題である。一般的な高炉では、羽口から送風ガスとして高温の空気を吹き込み、コークスや微粉炭などの還元剤と反応させて一酸化炭素や水素を得て、鉄鉱石を還元している。本過程においてCO2が発生する。CO2排出量削減に向けては、高炉ガス中のCO2を回収し、貯留もしくは再利用することが必要となる。
【0003】
製鉄所にてCO2を再利用する方法としては、触媒を用いてCO2とH2を反応させてメタン(CH4)などの炭化水素に変換し、炉における還元剤として再利用する方法が知られている。例えば、特許文献1には熱風炉などの燃焼炉排ガスのCO2を分離した後にCH4に変換し、高炉にて還元剤として再利用する方法が記載されている。
【0004】
また、副生ガス処理の関連技術として、特許文献2には、酸化鉄を用いた乾式脱硫剤による脱硫プロセスが開示されている。同様に、特許文献3には、アミン系吸収液を用いたCO2分離プロセスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-5510号公報
【特許文献2】特公平6-31350号公報
【特許文献3】特開2014-156379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明は、製鉄所ガス中のCO2を分離し、触媒などによりCH4へ変換する構成としている。製鉄所ガスは、原料として用いる石炭に由来して、硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)、硫黄酸化物(SOx)などの硫黄化合物も含有する。ここで、CH4変換触媒としてはNi系触媒が知られている。このNi系触媒は、硫黄化合物の流通により性能が劣化することが知られている。従って、分離したCO2中にこれら硫黄化合物が混入されている場合には、頻繁な触媒交換を必要とするだけでなく、操業の不安定化が問題となる。さらに、Ni系触媒はCO雰囲気下にて炭素析出による触媒劣化も発生しやすいことから、脱硫に加えCOの除去も必要となる。
【0007】
一方、特許文献2では、酸化鉄を用いた乾式脱硫剤による脱硫プロセスが示されているが、脱硫に併せてCOを除くことは難しくCOを十分に除去できないところに問題を残していた。
【0008】
同様に、特許文献3に記載の、アミン系吸収液を用いたCO2分離プロセスは、H2SやCOSを除去してCO2分離を行うことが難しく、これら不純物を十分に除去できないところに問題を残していた。
【0009】
そこで、本発明は、前記課題を解決し、硫黄化合物濃度の低いCO2を炭化水素に効率よく変換する方途について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.CO2と硫黄を含む副生ガスから、硫黄化合物濃度の低いCO2ガスを分離するガス分離工程と、
前記ガス分離工程からの前記CO2ガスに含まれるCO2を触媒により変換して炭化水素を製造するCO2変換工程と、を有し、
前記ガス分離工程は、
吸収塔の内部に供給したメタノール吸収液と前記吸収塔に導入する前記副生ガスとを接触させて前記メタノール吸収液に前記副生ガスの成分を吸収させ、前記吸収塔の下段にてCO2および硫黄化合物の吸収量の多いCO2リッチ・Sリッチ吸収液を抜き出し、かつ前記吸収塔の中段にてCO2吸収量の多いCO2リッチ吸収液を抜き出す吸収塔抜出工程と、
前記CO2リッチ・Sリッチ吸収液をCO2脱離塔の中段に導入し、前記CO2リッチ・Sリッチ吸収液を加熱してCO2・硫黄化合物含有ガスを分離し、該CO2・硫黄化合物含有ガスを前記CO2脱離塔の上段に導入する前記CO2リッチ吸収液に接触させ、前記硫黄化合物を吸収させて前記硫黄化合物濃度の低いCO2ガスを抽出し、前記硫黄化合物を吸収させた液を前記CO2リッチ・Sリッチ吸収液と合流させて加熱し、硫黄化合物吸収量の多いSリッチ吸収液を得る、CO2脱離工程と、
前記CO2脱離工程により得られる前記硫黄化合物吸収量の多いSリッチ吸収液を、前記CO2脱離塔下段にて抜き出す脱離塔抜出工程と、
を有する炭化水素の製造方法。
【0011】
2.前記CO2脱離塔の下段から抜き出されたSリッチ吸収液を、S脱離塔に導入して前記Sリッチ吸収液から硫黄化合物を脱離させる硫黄化合物脱離工程、
をさらに有する前記1に記載の炭化水素の製造方法。
【0012】
3.前記硫黄化合物脱離工程において、空気から分離したN2ガスを前記S脱離塔に吹き込む前記2に記載の炭化水素の製造方法。
【0013】
4.前記N2ガスは、空気の深冷分離によるものであり、空気から分離したN2およびO2の一方または両方と、前記ガス分離工程における各種吸収液および各種ガスの一方または両方との間で熱交換を行う前記3に記載の炭化水素の製造方法。
【0014】
5.前記CO2変換工程において、前記CO2脱離工程からのCO2ガスにH2ガスを混合させて炭化水素(CH4)に変換する前記1から4のいずれか1項に記載の炭化水素の製造方法。
【0015】
6.前記CO2脱離工程において、前記CO2脱離塔にH2ガスを導入する前記1から5のいずれか1項に記載の炭化水素の製造方法。
【0016】
7.前記H2ガスは液化H2の気化により得られ、かつ前記液化H2と前記硫黄化合物脱離工程から排出される吸収液との間で熱交換を行う前記5または6に記載の炭化水素の製造方法。
【0017】
8.前記CO2脱離工程に、前記CO2変換工程にて得られた炭化水素を導入する前記1から7のいずれか1項に記載の炭化水素の製造方法。
【0018】
9.前記1から8のいずれか1項に記載の方法によって得られた炭化水素を、CO2由来還元剤として還元炉に吹き込む還元炉の操業方法。
【0019】
10.前記9に記載の還元炉の操業方法において、前記還元炉は高炉であって、前記9に記載の還元炉の操業方法によって銑鉄を製造する、銑鉄の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、副生ガス、例えば高炉ガス中のCO2を回収し、再利用する構成において、CO2変換設備への硫黄化合物の流入を抑制でき、操業の安定化および触媒の交換頻度を低減することが可能である。さらに、得られた高純度CO2を回収、変換して炭化水素を製造し、これをCO2由来還元剤として還元炉にて再利用することによって、CO2排出量を低減する製鉄所等の操業が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態を示すフロー図である。
【
図2】本発明の第2実施形態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の炭化水素の製造方法について、
図1を参照して詳しく説明する。
[第1実施形態]
図1に、高炉や転炉などの還元炉からの副生ガスから高純度のCO
2ガスを分離、回収するまでのフロー図を示す。
図1に示すように、還元炉A08より排出される、CO、CO
2、H
2SおよびCOSを含む副生ガス(以下、原料ガスと示す)G01は、圧縮機A01にて加圧されたのち、凝縮器A02にてガス中の水分を除去され、吸収塔A03に導入される。
【0023】
吸収塔A03では、吸収液としてH2SおよびCOSがともに吸収されやすいメタノールを用い、このメタノール吸収液(図示せず)を吸収塔A03上部より予め導入している。このメタノール吸収液を用いることによって、吸収塔A03内において、導入した原料ガスG01とメタノール吸収液とが接触し、メタノール吸収液に原料ガスG01に含まれるH2SおよびCOS等が効率的に吸収される結果、H2SおよびCOS等の除去を可能としている。
【0024】
吸収塔A03に原料ガスG01を導入し該ガスがメタノール吸収液と接触すると、吸収塔A03の下段において、主にガスG01中の硫黄化合物がメタノールへ吸収され、同中段から上段において、主にCO2がメタノールへ吸収される。その結果、吸収塔A03の塔頂部では、CO2および硫黄化合物が除去されたガスG02を得ることになる。このガスG02は、COおよびH2を多く含むため、燃焼などにより熱を得ること、火力発電に用いて電力を得ることおよび、触媒を用いて変換し有価物を得ること、などの用途として使用することができる。
【0025】
H2SおよびCOSはCO2よりもメタノールに吸収されやすいため、吸収塔A03の底部に溜まる吸収液はCO2・H2S・COS吸収量の多いCO2リッチ・Sリッチ吸収液となる。一方、吸収塔A03の中段~上段では、ここを通るガス中にH2S・COSはほぼ含まれていないためH2S・COS吸収量が少なく、CO2吸収量の多いCO2リッチ吸収液となる。これら2種の吸収液は、そこに含まれるCO2を脱離して高純度のCO2ガスを得るために、吸収塔A03から抜き出してCO2脱離塔A04に供給し、このCO2脱離塔A04でCO2とH2S・COSとを分離する必要がある。
【0026】
ここで、吸収塔A03における下段、中段および上段とは、例えば中段が塔の高さ方向の0.3~0.7の領域を指し、該領域の下方が下段および上方が上段である。
【0027】
CO2脱離塔A04は、塔底部にて吸収液を加熱するリボイラーなどの加熱機器A04-02を備えている。吸収塔A03の中段から抜き出したCO2リッチ吸収液はCO2脱離塔A04の上部に、吸収塔A03の底部から抜き出したCO2リッチ・Sリッチ吸収液はCO2脱離塔A04の中段に輸送される。すなわち、CO2リッチ吸収液は、後述の脱離硫黄化合物ガスの吸収に用いるため、温度は低い方が好ましいが、脱離塔底部における加熱によりメタノール蒸気が発生して当該蒸気は塔上方に移動し、結果として塔上部を加熱することになる。この加熱を緩和するために、CO2リッチ・Sリッチ吸収液をCO2脱離塔A04の中段から導入することによりメタノール蒸気と接触させ、この蒸気の冷却によりメタノールを再度液化させることが好ましい。
【0028】
CO2脱離塔A04において、CO2リッチ・Sリッチ吸収液とCO2リッチ吸収液とはCO2およびSのガスを吸収もしくは脱離する反応を繰り返しながら合流し、合流した吸収液はすべて加熱機器A04-02に向かってここで加熱される。この加熱工程において、合流後の吸収液から主にCO2および一部の硫黄化合物が脱離する。脱離処理後のCO2ガスおよび硫黄化合物ガスはCO2脱離塔A04に戻されて塔内を上昇する。この上昇過程において、硫黄化合物ガスは、CO2脱離塔A04上部から導入されるCO2リッチ吸収液に吸収され、この吸収液は塔A04下方に向かって落下し、塔A04中段にてCO2リッチ・Sリッチ吸収液と合流して再び加熱機器A04-02に導入される。以上の工程がCO2脱離塔A04および加熱機器A04-02において繰り返されることによって、吸収液からのCO2の脱離が進行し塔A04の上方にCO2リッチガスが生成し、一方で吸収液に硫黄化合物が再吸収されて加熱機器A04-02側に硫黄化合物濃度の高いSリッチ吸収液が生成される。
【0029】
上記のとおり、CO2リッチガスは、CO2脱離塔A04の上段において、吸収塔A03の中段からのCO2リッチ吸収液と接触し、該吸収液に硫黄化合物が再度吸収される。ここで、吸収塔A03の中段からのCO2リッチ吸収液は、H2SおよびCOSの含有が極めて少ない分、H2SおよびCOSを吸収することが可能である。そこで、CO2脱離塔A04の下段から上昇してくる(CO2リッチとはいえH2SおよびCOSが未だ含まれている)CO2ガスおよび硫黄化合物ガスとCO2リッチ吸収液とを接触させれば、H2SおよびCOSを選択的に吸収し、脱離処理後のCO2リッチガス中のH2SおよびCOSの除去に利用することができる。
【0030】
そこで、上述したとおり、吸収塔A03では吸収塔の中段並びに下段に、吸収液を抜出可能な構造を設けることにより、中段ではCO2リッチ吸収液を、塔底部(下段)ではCO2リッチ・Sリッチ吸収液を抜き出せるようにした。なお、吸収塔の中段からの抜出位置は、H2S・COSの吸収の程度に合わせ適宜変更すればよい。
【0031】
かようにCO2脱離塔A04の下段から発生するCO2リッチガスとCO2リッチ吸収液とを塔上段において接触させことによって、CO2脱離塔A04の塔頂部から排出されるCO2リッチガスG03中の硫黄化合物濃度を十分に低減することができる。
【0032】
硫黄化合物濃度の低いCO2リッチガスG03は、CO2変換設備A11にてCH4を含む炭化水素リッチガスG09に変換して還元剤として還元炉A08に供給することが好ましい。具体的には、液化H2G07を気化器A10にて気化させたのち、CO2リッチガスG03と混合させ、CO2変換設備A11にてCH4を含む炭化水素リッチガスG09に変換し、CO2由来還元剤として還元炉A08に吹き込むことができる。還元炉A08が高炉の場合、上述のようにCO2由来還元剤を高炉に吹き込む操業方法によって、銑鉄を製造することができる。
【0033】
一方、CO2脱離塔A04の下段(加熱機器A04-02)において生成する硫黄化合物濃度の高いSリッチ吸収液は、S脱離塔A05の上段に輸送される。
【0034】
このS脱離塔A05は、塔下部からN2リッチガスG06を流通させる構成となっており、さらに図示例のように、塔底部にて吸収液を加熱するリボイラーなどの加熱機器A05-02を備えていてもよい。Sリッチ吸収液はS脱離塔A05の上部に輸送され、N2リッチガスG06との接触により硫黄化合物が脱離し、塔上部からはSリッチガスG04が排出されることになる。このSリッチガスG04は、希釈など環境負荷の低減処理後に大気へ放出、またはクラウスプロセスなどにより部分酸化して硫黄として回収すればよい。
【0035】
一方、S脱離塔A05の底部では、硫黄化合物の脱離したリーン吸収液が得られる。S脱離塔A05より排出されるリーン吸収液は、冷却器A06にて冷却され、再度吸収塔A03にてCO2および硫黄化合物を吸収するための吸収液として利用される。
【0036】
S脱離塔A05に流通させるN2リッチガスG06は、例えば空気分離機A07を用いて空気G05より精製したN2リッチガスG06を適用することができる。同時に精製されるO2リッチガスG07は、還元炉A08にて使用することができる。本構成により、還元炉A08の温度を上昇させて還元炉の運転を安定化するほか、還元炉A08から排出されるCO2含有ガス中のN2濃度が低減し、CO2濃度を高めることができる。
【0037】
なお、上記の吸収塔A03内の圧力としては、0.1MPa以上、5MPa以下が好ましく、より好ましくは0.3MPa以上、0.99MPa以下である。本圧力範囲とすることで、CO2および硫黄化合物の吸収を促進しつつ、COなどの不純物の吸収を抑制することができる。
【0038】
また、上記CO2脱離塔A04は、背圧弁などの圧力調整機構を有することが好ましい。また、CO2脱離塔A04内部の圧力としては、0.01MPa以上、0.99MPa以下が好ましく、より好ましくは0.1MPa以上、0.5MPa以下が好ましい。本圧力範囲とすることで、吸収液の蒸散を抑制しつつ、CO2を脱離させることが可能である。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態について、
図2を参照して詳しく説明する。
[第2実施形態]
図2に、
図1に示した実施形態とは別の実施形態について、還元炉からの原料ガスから高純度のCO
2ガスを分離、回収するまでのフロー図を示す。なお、
図1に示した構成要素と同じ構成要素については、同じ符号を付して説明を省略する。
すなわち、第2実施形態では、
図1に示した第1実施形態での構成に加え、空気分離器A07を深冷分離によるものとし、空気分離器A07から排出するN
2との熱交換を行うN
2熱交換器A09、液化H
2G08の気化器A10、CO
2変換設備A11、液化H
2G08との熱交換を行う液化H
2熱交換器A12を有している。
【0040】
ここで、N2熱交換器A09および液化H2熱交換器A12は、図示を省略している接続系統によりS脱離塔A05から排出されたリーン吸収液との熱交換を、例えば冷却器A06の入側にて行うことができる。すなわち、第2実施形態では、深冷分離にて得たN2の冷熱(N2熱交換器A09介在下)および液化H2G08から得た冷熱(液化H2熱交換器A12介在下)によりリーン吸収液を冷却可能であり、冷却器A06の負荷を低減可能である。
【0041】
さらに、CO2脱離塔A04では、CO2変換設備A11から排出された炭化水素リッチガスG09の一部およびH2を導入する構成となっており、CO2脱離塔A04内部のCO2分圧を低減しCO2脱離を促進することができる。
【0042】
CO2脱離塔A04から排出されるCO2リッチガスG03は、CO2変換設備A11に流通し、炭化水素などに変換されて炭化水素リッチガスG09を排出する。本ガスG09は、CO2およびH2のみの混合ガスを用いる場合と比較して比熱が大きくなるため、CO2変換設備A11におけるCO2変換に伴う昇温を抑制する効果がある。
【0043】
炭化水素リッチガスG09の一部は、再度CO2脱離塔に導入され、残りの一部は還元炉A08にて使用される。本構成では回収CO2を用いることにより全体のCO2排出量を低減することが可能である。
【0044】
なお、上記した第1実施形態および第2実施形態に加え、吸収塔A03より排出された液を減圧して吸収ガスを脱離させるフラッシュ設備、および脱離したガスを再度吸収塔A03に流通させるための圧縮機を有してもよい。本構成によれば、COなどの不純物濃度をさらに低減することが可能である。
【実施例0045】
図1および
図2に示したところに従って、次の組成になる原料ガスから炭化水素を製造した。本発明方法では、特に吸収塔A03の中段における吸収液の抜出に特徴があることから、まずは、この吸収液の吸収塔中段からの抜出の効果を調べるため次の計算を行った。
【0046】
すなわち、原料ガスG01の組成は、体積濃度にてH2:31.0%、CO:45.0%、CO2:23.0%、N2:1.0%、H2S:11ppm、COS:12ppmである。操業条件は、原料ガスG01の流量を430000Nm3/h、圧縮機A01の出口圧量を0.8MPa、吸収液としてメタノールを使用し、3840ton/hの流量にて吸収塔A03上部に導入する。吸収塔中段における液の抜出は、0から80%の範囲とし、CO2脱離塔リボイラーA04-02の温度を90℃、S脱離塔リボイラーA05-02の温度を95℃、冷却器A06の出口の液温度を-40℃とした。
【0047】
表1に、吸収塔A03中段における液抜出量と、CO2リッチガスG03中のCO濃度、H2S濃度、COS濃度の相関を示す。表1に示すように、いずれの液抜出量においてもCO濃度は1%まで低減し、原料ガス中のCO濃度の1/40以下となっている。したがって、本発明に従って得られるCO2リッチガスG03を用いる場合は、CO2変換設備A11におけるCOによる触媒の劣化は十分に抑制できるものと推測される。
【0048】
一方、抜出量を0%、すなわち抜出のない比較例1ではH2S濃度、COS濃度ともに原料ガスよりも高くなり、後段のCO2変換設備に設置する触媒は早急に劣化するものと推察される。これに対し、吸収液の塔中段抜出を実施した発明例1、2,3,4では、いずれもH2S濃度、COS濃度ともに0.1ppm以下まで低減しており、触媒劣化を十分に抑制できるものとなっていた。
【0049】
【0050】
(比較例2)
前記原料ガスG1に対し、アミンによる化学吸収を適用してCO2分離を行った場合について、このCO2分離により得られるガスの成分を上記と同様に調査した結果を表2に示す。同表に示すように、CO2分離により得られるガスはCO2濃度を99.9%以上とし、CO濃度を0.1%以下とすることが可能である。しかしながら、CO2とともにH2SおよびCOSが濃縮されるため、ガス中硫黄濃度が高く下流のCO2変換設備における触媒を劣化させることは回避できない。
【0051】
(比較例3)
前記原料ガスG1に対し、酸化鉄および酸化銅による乾式脱硫を適用してCO2分離を行った場合について、このCO2分離により得られるガスの成分を上記と同様に調査した結果を表2に示す。同表に示すように、H2SおよびCOS濃度を0.01ppm以下に低減可能である。しかしながら、本方式ではCO濃度は低減されないため、下流のCO2変換設備における触媒を劣化させることは回避できない。
【0052】