(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024531
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】シランカップリング剤の反応量測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/08 20060101AFI20240215BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240215BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240215BHJP
C08K 3/011 20180101ALI20240215BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20240215BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20240215BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240215BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240215BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
G01N24/08 510P
C08L21/00
C08K5/54
C08K3/011
C08K5/5415
C08K5/548
C08K3/36
B60C1/00 Z
C08J3/22 CEQ
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127433
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福地 将志
(72)【発明者】
【氏名】北浦 健大
【テーマコード(参考)】
3D131
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131LA21
4F070AA08
4F070AC05
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4J002AC001
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4J002FD019
4J002FD070
4J002FD147
4J002FD158
4J002FD206
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量を測定する方法を提供すること。
【解決手段】ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を測定する方法であって、シリカを添加せずに、ゴム成分、シランカップリング剤、加硫剤、および加硫促進剤を混練し、未加硫または加硫ゴム組成物を得る工程;得られたゴム組成物に対し、前記ゴム成分が溶解しない溶媒を用いて抽出処理を行うことにより、前記ゴム組成物中に含まれる未反応の前記シランカップリング剤を抽出する抽出工程;抽出後のゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた固体13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記シランカップリング剤の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積との比から、前記反応量を定量する定量工程を含む測定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を測定する方法であって、
シリカを添加せずに、ゴム成分、シランカップリング剤、加硫剤、および加硫促進剤を混練し、未加硫または加硫ゴム組成物を得る工程;
得られたゴム組成物に対し、前記ゴム成分が溶解しない溶媒を用いて抽出処理を行うことにより、前記ゴム組成物中に含まれる未反応の前記シランカップリング剤を抽出する抽出工程;
抽出後のゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた固体13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記シランカップリング剤の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積との比から、前記反応量を定量する定量工程を含む測定方法。
【請求項2】
前記ゴム成分の特定の炭素原子が、二重結合を形成する炭素原子である、請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤の特定の炭素原子が、アルコキシシリル部分を構成する炭素原子以外の炭素原子である、請求項2記載の測定方法。
【請求項4】
前記シランカップリング剤の特定の炭素原子が、ケイ素原子と硫黄原子との間に介在するいずれかの炭素原子である、請求項2記載の測定方法。
【請求項5】
固体13C-NMRの測定条件が、測定モードDD/MAS、待ち時間1~30秒、積算回数1000回以上、共鳴周波数400MHzでのMAS回転周波数4kHz以上である、請求項1記載の測定方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の測定方法により測定された反応量を3.0×10-5mоl/g以上とすることによる、ゴム組成物中のシリカの分散性を向上させる方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の測定方法により測定された反応量が3.0×10-5mоl/g以上である前記未加硫ゴム組成物にシリカを添加して混合する工程を含む、ゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法により製造されたゴム組成物を用いたタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤は、シリカとともにゴム成分に対して添加し、混合することで、シリカ表面のシラノール基と反応するとともに、ゴム成分のポリマーと反応することで、両者の間を連結して、シリカの分散性を向上させる。シリカの分散性を向上するためには、かかるシランカップリング剤の反応量を高める必要がある。
【0003】
特許文献1には、シリカ配合におけるシランカップリング剤の反応量測定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、シリカ配合のゴム組成物においては、シランカップリング剤を介したシリカ-シランカップリング剤-ポリマー間の結合を詳細に分析し評価することが重要と考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、シリカ-シランカップリング剤間の反応量しか測定できず、シランカップリング剤-ポリマー間の反応量は評価できない。
【0006】
他方、タイヤ用ゴム組成物の製造プロセスにおいて、混練の回数と、シリカ分散に起因する低燃費性能との間に関連があることが知られているが、そのプロセスの有効性を判断するには、ゴム組成物を加硫し粘弾性を測定する必要があった。
【0007】
ここで、未加硫ゴム組成物の段階で、シリカの分散性やその他の物性を予測する手法を開発できれば、シリカの性能を充分に引き出す好適な製造条件を見出すために、有用な手法となり得る。
【0008】
本発明は、ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鋭意検討した結果、シリカを添加せずに、ゴム成分、シランカップリング剤、加硫剤、および加硫促進剤を混練して未加硫または加硫ゴム組成物を調製し、未反応のシランカップリング剤を抽出後に該ゴム組成物の固体13C-NMRを測定することにより、前記課題を解決できることが見出された。
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を測定する方法であって、シリカを添加せずに、ゴム成分、シランカップリング剤、加硫剤、および加硫促進剤を混練し、未加硫または加硫ゴム組成物を得る工程;得られたゴム組成物に対し、前記ゴム成分が溶解しない溶媒を用いて抽出処理を行うことにより、前記ゴム組成物中に含まれる未反応の前記シランカップリング剤を抽出する抽出工程;抽出後のゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた固体13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記シランカップリング剤の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積との比から、前記反応量を定量する定量工程を含む測定方法、
〔2〕前記ゴム成分の特定の炭素原子が、二重結合を形成する炭素原子である、上記〔1〕記載の測定方法、
〔3〕前記シランカップリング剤の特定の炭素原子が、アルコキシシリル部分を構成する炭素原子以外の炭素原子である、上記〔1〕または〔2〕記載の測定方法、
〔4〕前記シランカップリング剤の特定の炭素原子が、ケイ素原子と硫黄原子との間に介在するいずれかの炭素原子である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の測定方法、
〔5〕固体13C-NMRの測定条件が、測定モードDD/MAS、待ち時間1~30秒、積算回数1000回以上、共鳴周波数400MHzでのMAS回転周波数4kHz以上である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の測定方法、
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の測定方法により測定された反応量を3.0×10-5mоl/g以上とすることによる、ゴム組成物中のシリカの分散性を向上させる方法、
〔7〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の測定方法により測定された反応量が3.0×10-5mоl/g以上である前記未加硫ゴム組成物にシリカを添加して混合する工程を含む、ゴム組成物の製造方法、
〔8〕上記〔7〕記載の製造方法により製造されたゴム組成物を用いたタイヤの製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を測定することができ、未加硫ゴム組成物の段階で、シリカの分散性やその他の物性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】未加硫ゴム組成物の固体
13C-NMRスペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を測定する方法は、シリカを添加せずに、ゴム成分、シランカップリング剤、加硫剤、および加硫促進剤を混練し、未加硫または加硫ゴム組成物を得る工程;得られたゴム組成物に対し、前記ゴム成分が溶解しない溶媒を用いて抽出処理を行うことにより、前記ゴム組成物中に含まれる未反応の前記シランカップリング剤を抽出する抽出工程;抽出後のゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた固体13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記シランカップリング剤の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積との比から、前記反応量を定量する定量工程を含む。
【0014】
本発明の他の実施形態は、前記の方法により測定されたシランカップリング剤とゴム成分との反応量を3.0×10-5mоl/g以上とし、ゴム組成物中のシリカの分散性を向上させることである。
【0015】
本発明の他の実施形態は、ゴム組成物の製造方法であって、前記の方法により測定されたシランカップリング剤とゴム成分との反応量が3.0×10-5mоl/g以上である前記未加硫ゴム組成物にシリカを添加して混合する工程を含むものである。
【0016】
本発明の他の実施形態は、前記の製造方法により製造されたゴム組成物を用いてタイヤを製造することである。
【0017】
本発明の一実施形態である、ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を測定する方法について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0018】
本実施形態において使用可能なゴム成分としては特に制限されず、ゴム工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。なかでも、炭素-炭素二重結合を含むゴム成分を含むことが好ましく、ジエン系ゴムを含むゴム成分であることがより好ましく、ブタジエン系ゴムを含むゴム成分であることがさらに好ましい。ブタジエン系ゴムとしては、ブタジエン骨格を有するポリマーであれば特に制限されない。これらのゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
本実施形態に係るシリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性の観点から、90m2/g以上が好ましく、120m2/g以上がより好ましく、150m2/g以上がさらに好ましく、170m2/g以上が特に好ましい。また、発熱性および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0021】
シリカの平均一次粒子径は、22nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、18nm以下がさらに好ましい。該平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が前期の範囲であることによって、シリカの分散性をより改善でき、補強性、破壊特性、耐摩耗性等をさらに改善できる。なお、シリカの平均一次粒子径は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたシリカの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。
【0022】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は特に限定されず、配合の目的に応じて、例えば、1~150質量部、5~120質量部、10~100質量部とすることができる。
【0023】
本実施形態に係るシランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、モメンティブ社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト系シランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤;等が挙げられる。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤および/またはメルカプト系シランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
シランカップリング剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0025】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0026】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0027】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0028】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0029】
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられる。
【0030】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0032】
本実施形態に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等のシリカ以外の補強用充填剤、樹脂成分、液状ポリマー、オイル、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を適宜含有することができる。
【0033】
<ゴム組成物の調製>
本実施形態に係る測定方法は、シリカを添加せずに、ゴム成分、シランカップリング剤、加硫剤、および加硫促進剤を混練し、得られたゴム組成物を固体13C-NMR測定に付することを特徴とする。固体13C-NMRの測定は、加硫ゴム組成物、未加硫ゴム組成物のいずれで行なってもよい。また、前記ゴム組成物は、ゴム成分、シランカップリング剤、加硫剤、および加硫促進剤以外の前記配合剤を含有していてもよい。
【0034】
固体13C-NMR測定に付する未加硫ゴム組成物は、シリカを添加しないこと以外は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0035】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りする仕上げ練り工程とを含んでなる。混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、仕上げ練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。
【0036】
得られた未加硫ゴム組成物を加硫することにより、加硫ゴム組成物を得ることができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、120~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0037】
<抽出工程>
得られた未加硫または加硫ゴム組成物に対し、溶媒を用いて抽出処理を行う。これにより、ゴム組成物中に含まれる未反応のシランカップリング剤を抽出し、未反応と反応済みのシランカップリング剤を分離することができる。すなわち、液体である未反応のシランカップリング剤は溶媒によって抽出液中に流れ出るが、固体である反応済みのシランカップリング剤はゴム組成物中にとどまり、これにより両者が分離される。
【0038】
上記溶媒としては、ゴム成分のポリマーは溶解しないが、未反応のシランカップリング剤を含む薬品が溶解する有機溶媒であれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトニトリル等が挙げられ、アセトンが好ましい。
【0039】
上記抽出処理方法としては、未反応のシランカップリング剤を抽出することができるものであれば特に限定されないが、ゴム組成物から効率的に抽出を行うことができるという観点から、ソックスレー抽出によることが好ましい。
【0040】
<定量工程>
抽出後のゴム組成物を乾燥した後、固体13C-NMR測定を行う。乾燥方法としては特に限定されないが、例えば、60℃真空で1時間以上乾燥させる方法が挙げられる。また、固体13C-NMRの測定条件は、例えば、以下のように設定できる。
(固体13C-NMR測定条件)
装置 Bruker社製Avance400
使用プローブ Bruker社製7mm MAS BB WB WVTプローブ
共鳴周波数 400MHz
MAS回転周波数 5kHz(±1Hz)
測定モード DD/MAS
パルス列 プロトンデカップル付きハーンエコー法
90°パルス幅 4.5μ秒
待ち時間 6秒
積算回数 12000回
観測温度 333K
外部基準物質 アダマンタン(化学シフト値は29.5ppm)
【0041】
MAS回転周波数は、ゴムのピークのスピニングサイドバンドと>CH-CH2-O-結合由来のピークが重ならないようにするため、共鳴周波数400MHzの場合、4kHz以上が好ましく、5kHz以上がより好ましい。また、待ち時間は、13C T1緩和時間の5倍以上であるという理由から、1~30秒が好ましく、5~30秒がより好ましい。また、積算回数は、シランカップリング剤の特定の炭素原子に由来するピークを定量的に議論できるようにするため、1000回以上が好ましく、3000回以上がより好ましい。
【0042】
得られた固体13C-NMRスペクトルから、ゴム成分の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、シランカップリング剤の特定の炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比に基づいて、シランカップリング剤とゴム成分との反応量を定量することができる。
【0043】
ピーク面積を求めるゴム成分由来の炭素原子としては、特に限定されないが、ゴム成分の二重結合を形成する炭素原子が好ましく、例えば、ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子、ゴム成分の1,2-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子、ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子等が挙げられる。なお、1,4-ブタジエン結合単位および1,4-イソプレン結合単位には、シス-1,4結合とトランス-1,4結合が存在するが、本実施形態ではその両方を含むものとする。
【0044】
ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークは、123~134ppmで観測される。
【0045】
ゴム成分の1,2-ブタジエン結合単位に含まれるビニル基の末端炭素原子に由来する炭素ピークは、113~116ppmで観測される。
【0046】
ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうちメチル基と結合した四級炭素原子に由来する炭素ピークは、134~136ppmで観測される。
【0047】
ピーク面積を求めるシランカップリング剤由来の炭素原子としては、検出されるピークが、ゴム分子と重複しないものであれば特に限定されないが、加水分解による脱離の影響を小さくするため、該シランカップリング剤のアルコキシシリル部分を構成する炭素原子以外の炭素原子であることが好ましい。以下に、例として、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドの化学構造を示す。
【0048】
【0049】
上記の化合物の場合、アルコキシシリル部分を構成する炭素原子とは、ケイ素原子に結合したエトキシ基を構成する炭素原子である。ピーク面積を求めるシランカップリング剤由来の炭素原子としては、好ましくは、ケイ素原子と硫黄原子との間に介在するいずれかの炭素原子であり、より好ましくは、ケイ素原子と硫黄原子との間に介在し、かつケイ素原子のβ位にある炭素原子(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドでは、矢印で示される炭素原子)である。ケイ素原子と硫黄原子との間に介在し、かつケイ素原子のβ位にある炭素原子に由来する炭素ピークは、22.5~23.5ppmで観測される。
【0050】
本実施形態に係るゴム組成物は、例えば、ゴム成分の1,2-ブタジエン結合単位に含まれるビニル基の末端炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積を100としたとき、シランカップリング剤のケイ素原子と硫黄原子との間に介在するいずれかの炭素原子(好ましくは、ケイ素原子と硫黄原子との間に介在し、かつケイ素原子のβ位にある炭素原子)のピーク面積が0.50以上であることが好ましく、0.60以上であることがより好ましく、0.70以上であることがさらに好ましい。かかるピーク面積比を前記の範囲とすることにより、シランカップリング剤とゴム成分との反応量が増大し、シリカの分散性がより向上する傾向がある。
【0051】
本実施形態では、上述の方法により、ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との反応量を定量することができ、これにより、上記シランカップリング剤を効率よく反応させる配合、練り、加硫条件の最適化に必要な情報を得ることができる。
【0052】
シランカップリング剤とゴム成分との反応量は、シリカの分散をより良好にする観点から、3.0×10-5mоl/g以上が好ましく、3.1×10-5mоl/g以上がより好ましく、3.3×10-5mоl/g以上がさらに好ましく、3.5×10-5mоl/g以上が特に好ましい。シランカップリング剤とゴム成分との反応量を前記の範囲とすることにより、前記未加硫ゴム組成物に加硫促進剤および加硫剤を添加して得られるゴム組成物の発熱特性(低燃費性能)が良好となる傾向がある。シランカップリング剤とゴム成分との反応量は、例えば、下記実施例に記載の方法により求められる。また、該反応量は、リミルの回数、混練温度等により適宜調節することができる。
【0053】
測定に付した未加硫ゴム組成物に、シリカ、および必要に応じて他の配合剤を添加し、定法に従い混練りすることで、シリカを含有する未加硫ゴム組成物を得ることができる。この未加硫ゴム組成物を定法に従い加熱加圧することにより、シリカを含有する加硫ゴム組成物を得ることができる。
【0054】
シリカを含有する未加硫ゴム組成物を、タイヤの所定の部材の形状に押し出し成形し、これを、タイヤ成形機上で、他の部材と貼り合わせて未加硫タイヤとする。そして、該未加硫タイヤを、定法に従い加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを得ることができる。
【0055】
本実施形態に係る加硫ゴム組成物の用途は特に限定されないが、トレッド、サイドウォール、インナーライナー、ウイング等のタイヤ部材として好適に使用される。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
以下、実施例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR:日本ゼオン(株)製のNipol NS616(未変性S-SBR)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S
ワックス:オゾエース0355(日本精蝋(株)製)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
【0058】
<未加硫ゴム組成物の調製>
(参考例1)
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、排出温度170℃になるまで5分間混練りし、参考例1の未加硫ゴム組成物を得た。
【0059】
(実施例1)
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、実施例1の未加硫ゴム組成物を得た。
【0060】
<シランカップリング剤-ポリマー間の結合量測定>
得られた各未加硫ゴム組成物について、下記の条件で固体13C-NMRを測定し、固体13C-NMRスペクトルを得た。得られた固体13C-NMRスペクトルから、ゴム成分の1,2-ブタジエン結合単位に含まれるビニル基の末端炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積を100とし、ゴム成分の1,2-ブタジエン結合単位に含まれるビニル基の末端炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドの矢印で示す炭素原子に由来するピークのピーク面積との比に基づいて、下記式によりシランカップリング剤とゴム成分との反応量(mol/g)を求めた。なお、各未加硫ゴム組成物は、アセトンで12時間ソックスレー抽出を行った後、60℃真空で1時間以上乾燥させてから測定を行った。ゴム成分の1,2-ブタジエン結合単位に含まれるビニル基の末端炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積を100としたときの、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドの矢印で示す炭素原子に由来するピークのピーク面積は、参考例1は0.61、実施例1は0.71であった。
(反応量(mol/g))=(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドの矢印で示す炭素原子に由来するピークのピーク面積)/2/(SBRのスチレン部の100molあたりのゴムの重量(g/mol)+SBRの1,2-ブタジエン結合単位の100molあたりのゴムの重量(g/mol)+SBRの1,4-ブタジエン結合単位の100molあたりのゴムの重量(g/mol))
【0061】
【0062】
(固体13C-NMR測定条件)
装置 Bruker社製Avance400
使用プローブ Bruker社製7mm MAS BB WB WVTプローブ
共鳴周波数 400MHz
MAS回転周波数 5kHz(±1Hz)
測定モード DD/MAS
パルス列 プロトンデカップル付きハーンエコー法
90°パルス幅 4.5μ秒
待ち時間 6秒
積算回数 12000回
観測温度 333K
外部基準物質 アダマンタン(化学シフト値は29.5ppm)
【0063】
【0064】
表1の結果に示されるように、未加硫ゴム組成物において、加硫剤および/または加硫促進剤の有無にかかわらず、同程度の反応量を算出することができた。
【0065】
本実施形態に係るシランカップリング剤の結合量測定方法によれば、未加硫ゴム組成物の段階で、シリカの分散性やその他の物性を予測することができるので、シリカの性能を充分に引き出す好適な製造条件を見出すために、有用な手法となり得る。