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  • 特開-段ボールパレット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024536
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】段ボールパレット
(51)【国際特許分類】
   B65D 19/34 20060101AFI20240215BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B65D19/34 A
B32B29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127441
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】522162738
【氏名又は名称】エムテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107607
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 実
(72)【発明者】
【氏名】財津 正美
(72)【発明者】
【氏名】大畑 翔
【テーマコード(参考)】
3E063
4F100
【Fターム(参考)】
3E063AA03
3E063BA13
3E063CA03
3E063CA08
3E063CA13
3E063CA18
3E063EE03
3E063GG10
4F100AH02B
4F100AH03B
4F100AK51B
4F100AK80B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG10A
4F100EH61B
4F100JK04
(57)【要約】
【課題】軽量で環境に優しい段ボールパレットの利点を生かしつつ、その性能を一段と改善することでパレットとしての用途や適用範囲を拡大すること。
【解決手段】物品を載置する段ボールパレットであって、板状部と脚部とを接合してなり、表面にポリウレアのコーティング層を備えた、強度及び/又は追従性に優れた段ボールパレット。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を載置する段ボールパレットであって、板状部と脚部とを接合してなり、表面にポリウレアのコーティング層を備えた、強度及び/又は追従性に優れた段ボールパレット。
【請求項2】
ポリウレアのコーティング層が、イソシアネートを主成分とする第1液とポリアミンを主成分とする第2液とを混合吐出して、板状部と脚部とを接合してなる段ボールパレットの表面に噴霧することで形成された、請求項1に記載の段ボールパレット。
【請求項3】
コーティング層を備えない段ボールパレットと比べて曲げ強度が1.2倍以上である、請求項1又は2に記載の段ボールパレット。
【請求項4】
コーティング層を備えない段ボールパレットと比べて最大荷重時の変位の増加が8%以上である、請求項1又は2に記載の段ボールパレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された段ボールパレットに関する。
【背景技術】
【0002】
物品を載置するパレットを紙製とすることが以前から知られている。紙製パレットの性能を改善するために、脚部の補強等、構造上の工夫(例えば、特許文献1)の他に、合成樹脂による強化も提案されている(特許文献2~5)。
【0003】
特許文献2及び3では、段ボールパレットの表面を合成樹脂加工することで耐水性、強度性、耐候性、耐油性、耐摩擦力等が改善されるとしているが、合成樹脂の具体的な内容の説明や例示はない。特許文献4及び5では、段ボール製パレットの組立て用部材を予めポリスチレン、ポリウレタン等の合成樹脂混合溶液中で含浸処理することで耐水、防水、強化、剛性等の機能を付与できるとしているが、ポリスチレン、ポリウレタン以外の合成樹脂の利用について具体的な示唆はない。
【0004】
合成樹脂の一種であるポリウレアについては、コンクリート等の補修材としての使用が報告されている(例えば、特許文献6)。さらに、発泡合成樹脂製のパレットをポリウレアでコーティングすることも提案されている(特許文献7)。
【0005】
特許文献7では、パレットの発泡合成樹脂の基材にポリウレアのコーティング層を設けることで軽量かつ高強度のパレットが提供できるとしているが、パレットの部材として発泡合成樹脂以外を利用する可能性の示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平05-054265号公報
【特許文献2】実全昭60-123332号公報
【特許文献3】実全昭60-150924号公報
【特許文献4】特開平06-321241号公報
【特許文献5】特開平06-345093号公報
【特許文献6】特開2019-163662号公報
【特許文献7】国際公開2017/056341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
軽量で環境に優しい段ボールパレットの利点を生かしつつ、その性能を一段と改善することでパレットとしての用途や適用範囲を拡大することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、物品を載置する段ボールパレットであって、板状部と脚部とを接合してなり、表面にポリウレアのコーティング層を備えた、強度及び/又は追従性に優れた段ボールパレットを提供する。
【0009】
本発明の段ボールパレットにおいては、表面全体にポリウレアのコーティング層を備えることが好ましい。
【0010】
本発明の段ボールパレットにおいては、ポリウレアのコーティング層が、イソシアネートを主成分とする第1液とポリアミンを主成分とする第2液とを混合吐出して、板状部と脚部とを接合してなる段ボールパレットの表面に噴霧することで形成されることが好ましい。
【0011】
本発明の段ボールパレットにおいては、コーティング層を備えない段ボールパレットと比べて、曲げ強度が好ましくは1.2倍以上である。
【0012】
本発明の段ボールパレットにおいては、コーティング層を備えない段ボールパレットと比べて、最大荷重時の変位の増加が好ましくは8%以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の段ボールパレットは、軽量で環境に優しいエコ素材である段ボール製品としての利点を保持しつつ、その強度及び追従性の少なくとも一方、好ましくは両方の性能が格段に向上しているため、物品載置用パレットとしての用途や適用範囲の拡大が期待できる。また、作業現場の過酷な環境での繰り返し使用に耐え、長期間にわたって利用できるため、廃棄パレットの削減により環境負荷を低減できると共に、利用者のコスト負担の軽減にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態である段ボールパレットの形状を示す。(a)は裏面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[段ボールパレットの構造について]
本発明の段ボールパレットは、板状部と脚部とを接合して形成される。物品の載置用に利用できるものであれば具体的な構造に制限はない。板状部は平板状であり、脚部は通常複数個が用意される。板状部と脚部との接合には接着剤を用いることが好ましいが、嵌め込み等の他の手段を用いてもよい。
【0016】
板状部及び脚部を構成する段ボール素材としては、環境配慮の観点から、古紙を配合した再生段ボールを用いることが好ましい。板状部の厚さは、利用目的に応じて適宜設定できる。また、脚部を構成する段ボールの厚さは、利用目的及び脚部の具体的な構造に応じて適宜設定できる。
【0017】
一般に、板状部の厚さは、素材自体による強度確保の観点から8mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。また、コストや作業効率の観点から60mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましい。例えば、厚さ10mmの段ボール複数枚を重ねて相互に面接着することで、所望の厚みとすることができる。
【0018】
[ポリウレアのコーティング層について]
本発明の段ボールパレットは、表面にポリウレアのコーティング層を備えることにより、コーティング層を備えない以外は同一の段ボールパレット(コーティング無しの対照品)と比べて、強度及び/又は追従性が格段に向上している。所望の性能に応じてポリウレアの配合の調整等をすることで、特に硬度の高いコーティング層や、特に伸縮性に優れたコーティング層を得ることができる。
【0019】
ポリウレアのコーティング層は、防水に加えて、病害虫等防止の観点から、表面全体に備えることが好ましい。防疫処理や検疫を不要とすることで、一層のコスト削減が見込まれる。
【0020】
コーティング層の厚さは、ポリウレアの作用を十分に発揮させる観点から0.8mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましい。コーティング層の厚さは、コストや作業効率の観点から3.0mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましい。コーティング層の厚さの均一性は、膜厚測定器を用いて複数点で厚さを測定することで確認できる。
【0021】
本発明に用いられるポリウレアは、イソシアネートを主成分とする第1剤と、ポリアミンを主成分とする第2剤との重合反応によって得られる合成樹脂である。イソシアネートとしては、芳香族系のイソシアネートが好ましい。
【0022】
ポリアミンを主成分とする第2剤は、少量のポリオールを含むものであってもよい。強度向上作用を十分に発揮させる観点から、ポリアミンとポリオールとの合計に対する重量比で、ポリアミンが80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明においては、ポリウレアのコーティング層によって耐摩耗性が付与され、段ボール表面の引っ掻き傷や擦れ等による損傷を防ぐことができる点でも、段ボールパレットの耐久性能が向上する。また、繰り返しの使用によりコーティング層の一部が薄くなった場合には、ポリウレアを上塗りする再コーティングも可能であり、一層の長寿命化を実現できる。
【0024】
本発明においては、ポリウレアのコーティング層によって、防水性、耐薬品性といった特性も付与されるため、屋外での作業や、薬剤との接触が生じうる環境でも安心して、段ボールパレットを長期間にわたって利用できる。また、ポリウレアに難燃剤等の機能性添加剤を混合することで、段ボールパレットに更なる機能を付与することもできる。
【0025】
[ポリウレアのコーティング操作について]
本発明においては、ポリウレアのコーティング層を形成するために、イソシアネートを主成分とする第1液とポリアミンを主成分とする第2液とを混合吐出して、段ボールパレットの表面に噴霧することが好ましい。このようなやり方とすることで、出来るだけ均一なコーティング層を形成しやすいからである。もっとも、イソシアネートを主成分とする第1液とポリアミンを主成分とする第2液との混合液に含浸させるなど、他の塗布操作の条件を用いることもできる。
【0026】
操作手順としては、板状部と脚部とを接合して段ボールパレットを構成した後に、その表面にポリウレアを噴霧してコーティング層を形成することが、作業効率の観点で好ましい。もっとも、接合する前の板状部と脚部との表面にそれぞれポリウレアを噴霧してコーティング層を形成した後に、両者を接合して段ボールパレットとする等、他の手順を採用することもできる。
【0027】
ポリウレアを噴霧する前の段ボールパレット又はその部材に格別の前処理は必要ないが、段ボール素材が十分に乾燥していることが好ましい。そのため、ポリウレアを噴霧する前に一定の日数、段ボールパレット又はその部材を低湿度条件に保たれた乾燥室に保管しておくことが好ましい。
【0028】
ポリウレアを噴霧する際は、イソシアネートを主成分とする第1液とポリアミンを主成分とする第2液とを混合吐出することのできる公知の装置を利用できる。
【0029】
ポリウレアは速乾性であるため、コーティング層の表面は直ちに硬化するが、コーティング層の内部ではさらに硬化がゆっくりと進行する。そのため、噴霧した後の段ボールパレット又はその部材は養生することが好ましい。養生する期間は、強度を最大化させる観点から5日以上が好ましく、7日以上がより好ましい。また、養生する期間は、作業効率の観点から30日以下が好ましく、25日以下がより好ましい。
【0030】
[段ボールパレットの性能について]
既述のとおり、本発明の段ボールパレットは、ポリウレアのコーティング層の作用によって強度及び/又は追従性が格段に向上している。
【0031】
具体的には、本発明の段ボールパレットは、コーティング無しの対照品と比べて、曲げ強度試験によって評価される最大荷重時の値すなわち曲げ強度が、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.4倍以上、より好ましくは1.6倍以上、さらに好ましくは1.8倍以上である。
【0032】
また、本発明の段ボールパレットは、コーティング無しの対照品と比べて、曲げ強度試験によって評価される最大荷重時の変位の増加が、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。最大荷重時の変位の増加により、様々な使用環境、様々な積荷に追従しうることで、破壊に耐え、長期間の使用を可能とする。
【0033】
曲げ強度試験はJISZ0602の条件に準じて実施される。
【0034】
本発明の段ボールパレットは、他の評価指標、例えば脚部圧縮試験によって評価される圧縮強度、及び落下試験によって評価される落下強度においても優れたものであり、作業現場の過酷な環境で発生しうる様々な外力やストレスに耐え、長期間にわたる安定的な使用を可能とする。
【実施例0035】
以下、本発明の実施形態である段ボールパレットの製造と評価を例示する。
【0036】
[実施例1及び比較例1]
図1に示す形状の段ボールパレットを作成した。このパレットは、1枚の板状部(天板)に9個の脚部を、接着剤によって接合して構成した。天板の寸法は縦横が1100mm×1100mm、厚さが10mmである。各脚部は同一形状であり、寸法は縦横が210mm×200mm、高さが90mmである。脚部は天板に対して縦横方向を揃えた状態で、天板の四隅と中心部、及び四辺の中央部に配置した。
【0037】
作成した段ボールパレットにポリウレアのコーティング層を形成したものを実施例1、コーティング無しのものを比較例1とした。
【0038】
ポリウレアのコーティング層は、イソシアネートを主成分とする第1液とポリアミンを主成分とする第2液とを混合吐出して、段ボールパレットの表面に噴霧することで形成した。使用したポリウレアはNUKOTE ST(販売元:金森藤平商事株式会社)である。専用の塗布機を用いた加温吹付け操作により、段ボールパレット全体に厚さ2.0mmのコーティング層を形成した。養生を1週間として、コーティング層を備えた段ボールパレットの完成品(実施例1)とした。
【0039】
[実施例2及び比較例2]
天板の厚さを30mmとした以外は、実施例1及び比較例1と同様に段ボールパレットを作成した。厚さ30mmの天板は、厚さ10mmの段ボールを3枚重ねとして相互に面接着することで準備した。3枚重ねとする際は、互いに接する段ボールの中芯の筋の方向が直交するようにした。
【0040】
実施例1と同様に段ボールパレットに全体に厚さ2.0mmのコーティング層を形成した後、養生を1週間としたものを実施例2、コーティング無しのものを比較例2とした。
【0041】
[曲げ強度試験による評価]
各実施例及び比較例の段ボールパレットについて、JISZ0602(平パレット試験方法)における曲げ試験用の装置によって荷重を加え、最大荷重時の荷重と変位を測定した。なお変位とは、天板の高さ(厚さ)方向で測定される、無荷重時を0mmとしたときの、たわみ量である。結果を以下に示す。
【表1】
【0042】
実施例で使用したポリウレアは特に硬化後の伸縮性に優れたタイプである。表から明らかなように、ポリウレアのコーティング層を備えた実施例の段ボールパレットでは、コーティングを有しない以外は同じものである比較例の段ボールパレットと比べて、最大荷重時の変位が約10%ないし約40%増加している点で、追従性の改善が確認された。また、天板厚さ10mmの場合、コーティング層を備えることで、最大荷重時の値すなわち曲げ強度が1.3倍になるという改善も確認された。
【符号の説明】
【0043】
1 段ボールパレット
2 板状部
3 脚部
図1