(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024568
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】嗅覚増強薬
(51)【国際特許分類】
A61K 33/30 20060101AFI20240215BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20240215BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240215BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240215BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K33/30
A61K9/12
A61K9/08
A61P11/02
A61K47/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127492
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】594121888
【氏名又は名称】有限会社石丸研究所
(72)【発明者】
【氏名】石丸 正
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA25
4C076BB25
4C076CC10
4C076FF52
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA03
4C086HA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA59
4C086NA14
4C086ZA34
(57)【要約】
【課題】嗅覚増強薬液
【解決手段】極微量の亜鉛イオンを嗅粘膜上に投与すると、においに対する嗅電図の応答が増大することを実験で確認したので、点鼻液やスプレーなど嗅粘膜に到達する液に極微量の亜鉛イオンを添加して、嗅覚の感度を増強する薬液を考案した。望ましい亜鉛イオン濃度は1フェムトモル/リットルから1ピコモル/リットルであり、100ピコモル/リットル未満でなくてはならない。本発明の嗅覚増強薬液は、他の薬剤との合剤であってもよく、香料を含んでいてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1フェムトモル/リットルから100ピコモル/リットル未満の亜鉛イオンを含んだ嗅覚増強薬液
【請求項2】
他剤との合剤である請求項1の嗅覚増強薬液
【請求項3】
点鼻液または噴霧剤である請求項1または請求項2の嗅覚増強薬液
【請求項4】
香料を含有する請求項1~3の嗅覚増強薬液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ごく微量の亜鉛イオンを溶液に添加して、その液を点鼻や噴霧により嗅粘膜に到達させ、人や動物の嗅覚を増強、改善するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、嗅覚が低下した患者の治療には、ステロイドの点鼻が行われてきた。また、特許文献1のようにインスリンの点鼻が知られている。
【0003】
既知の方法であるステロイドの点鼻では、いわゆる鼻閉の状態である気導性嗅覚障害には有効であるが、嗅神経性の障害では効果が薄かった。また、特許文献1のインスリンの点鼻では即効性が無かった。
【0004】
また、亜鉛のナノ粒子を嗅粘膜に投与すると嗅覚が増強することが非特許文献2に知られているが、金属ナノ粒子であり、亜鉛イオンと異なり、特殊な物であり、値段的にも高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-155816(P2016-155816A)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N. Viswaprakash, J.C. Dennis, L. Globa, O. Pustovyy, E.M. Josephson, P. Kanju, E.E. Morrison, V. Vodyanoy, Enhancement of odorant-induced response in olfactory receptor neurons by zinc nanoparticles, Chem Senses. 34 (2009) 547-557.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の方法では、嗅覚の感度を増強したり、低下した嗅覚の感度を即効性をもって改善したりする方法が無かったが、ごく微量の亜鉛イオンを嗅粘膜表面に与えると、嗅覚応答が増強する現象を発見したので、点鼻液など溶液に亜鉛イオンを添加した嗅覚増強薬を考案した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
微量亜鉛添加の溶液は、鼻粘膜、とりわけ嗅粘膜に無害なものでなくてはならず、生理食塩水単独や生理食塩水に抗生剤やステロイドを溶かしたものが想定されるが、医薬品として点鼻剤として使用可能な物であれば、リンゲル液など他の薬剤でもよい。また、点鼻薬の安定性を維持するための防腐剤などの薬物が共存してもよい。極微量の亜鉛イオンを加えられた薬液が本発明であり、その望ましい亜鉛イオン濃度は1リットル当たり1フェムトモルから1ピコモルである。
【0009】
上記の亜鉛イオンは、硫酸亜鉛や塩化亜鉛など、極微量であれば無害なものが望ましく、そのような物であれば、他の亜鉛イオンを含む薬剤でも良いが、1リットル当たり100ピコモル未満とする。
【発明の効果】
【0010】
図面1は、1フェムトモルおよび10フェムトモル/リットルの硫酸亜鉛をリンゲル液に添加した際に、20μモル/リットルの濃度のn-アミルアセテートで2秒刺激した際の嗅電図の振幅が大きくなることを、動物(カエル)で確認したものである。この亜鉛イオン添加リンゲル液は、嗅粘膜表面にだけ投与し、粘膜下組織には投与していない。
【0011】
図面2は、同様に1フェムトモルの硫酸亜鉛をリンゲル液に添加した場合と無添加における20μモル/リットルの濃度のn-アミルアセテートの2秒刺激に対する嗅電図の振幅を示したものである。1フェムトモル/リットルの亜鉛イオンを添加した時と添加しない時を、5例で比較すると統計学的に有意差(t-test、p<0.05)をもって亜鉛イオン添加時の嗅電図振幅の増大が確認された。
【0012】
脊椎動物の嗅細胞のメカニズムは、ほとんど同じであるから、人を含む哺乳類においても、同様な微量亜鉛イオンによる嗅覚増強効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】1フェムトモル/リットルの亜鉛イオンによる嗅電図振幅の変化
【実施例0014】
本発明の嗅覚増強薬は、直接嗅粘膜に投与される場合は、有効成分の亜鉛イオンのみからなるものでは、浸透圧が低すぎるため生理食塩水など嗅粘膜に無害な溶液に添加する形になるが、有効成分とは異なるその他の成分を含有するものであってもよい。その他の成分としては、例えば、これまでに当業者に知られている点鼻剤一般に用いられる添加物を挙げることができ、具体的には保存剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、p H 調整剤、増粘剤、懸濁化剤などを挙げることができるが、亜鉛イオンを含んだり、亜鉛イオンをキレートしたりするものは除外する。
【0015】
本発明の嗅覚増強薬は、既知の点鼻薬でとの合剤であってもよい。例えば、抗生剤、ステロイド、インスリン、ビタミン剤などがあげられるが、医療目的で点鼻されるすべての薬剤が合剤の候補になるが、亜鉛イオンを含んだり、亜鉛イオンをキレートしたりするものは除外する。
【0016】
本発明の亜鉛は、イオンでなくてはならず、金属亜鉛やそのナノ粒子は除外する。
【0017】
いま本発明たる溶液の点鼻液のヒトにおける使用例を述べると、前鼻孔経由で、本点鼻液を嗅裂部の嗅粘膜に滴下するか、スプレーするか、シリンジを用いて流し込むなどの方法がある。他の方法であっても、嗅粘膜上に投与されればよく、前鼻孔経由でなく後鼻孔経由であってもよいが、嗅粘膜上に投与されなくてはならず、嗅粘膜下に注射されてはならない。
【0018】
この他の、本薬液の投与方法としては、ネブライザーやスプレーとして一旦空気中に霧状に噴霧されたものを吸い込む形で、嗅粘膜に到達される方法でもよい。
【0019】
本発明の薬液には、主成分たる微量の亜鉛イオンの他、生体に無害な香料を含んでいてもよい。
【0020】
これらに述べた実施法は、直接本発明の薬液を嗅粘膜に投与することを想定したものであるが、室内環境の空気中にスプレーする香料に本発明の嗅覚増強薬を混合する場合など、直接投与しない場合は、生体体液と等張でなくてもよい。