(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024579
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】浮体式洋上風力発電システム
(51)【国際特許分類】
F03D 13/25 20160101AFI20240215BHJP
F03D 1/02 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
F03D13/25
F03D1/02
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080231
(22)【出願日】2023-05-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2022119419
(32)【優先日】2022-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】597118061
【氏名又は名称】株式会社 セテック
(74)【代理人】
【識別番号】100106954
【弁理士】
【氏名又は名称】岩城 全紀
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 耀二
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178AA53
3H178BB73
3H178DD27X
3H178DD47X
3H178DD61X
(57)【要約】 (修正有)
【課題】風力発電装置の大規模化を考慮し、海深度50~100m以上の海域に適した浮体式洋上風力発電システムを提供する。
【解決手段】1基の多角形浮上体10に、風力発電装置1を2台搭載し、その多角形浮上体10の多角形頂点のうち1箇所は海底のアンカーから固定されている固定端浮上部とし、他の頂点は自由端である可動端浮上部4として風下側に追従するものとする。固定端浮上部には電力連係設備を設置する。風力発電装置支持用の支持柱2には垂直隔壁板を設置して風力発電用プロペラ11の後流の乱れの干渉を低減し、さらに隣接するプロペラ11を正逆回転させてプロペラ後流の乱れを抑制する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮力を備える浮上体(10)を具備し、
該浮上体(10)に、風力発電装置支持用の支持柱(2)を搭載し、該支持柱(2)は左右方向へ延出する一対の片持支持部(21A,21B)を備え、これらの一対の片持支持部(21A,21B)の端部に風力発電装置(1,1)を各1台(計2台)毎設置するとともに、
前記支持柱(2)と片持支持部(21A,21B)との間に、前記風力発電装置(1,1)の垂直荷重を負担する風力発電装置引張索(22,22)を左右一対設置して固縛することを特徴とする洋上風力発電システム。
【請求項2】
前記浮上体(10)は平面視多角形に形成され、その頂点となる位置に、浮力を備えた複数の浮上部を有し、
前記複数の浮上部のうち、頂点の一点である固定端浮上部(3)は、固定端アンカー連結鎖(34)及び固定端アンカー海底錨アンカー部(35)を介して海上の所定位置に保持され、他の頂点を可動端浮上部(4)とすることにより、前記固定端浮上部(3)を風上側へ位置させる一方、該可動端浮上部(4)を風下側へ自由端として追従させて、風力発電装置(1,1)個別の風向制御を不要としたことを特徴とする請求項1に記載の洋上風力発電システム。
【請求項3】
前記支持柱(2)に垂直隔壁板(23)を取り付け、該垂直隔壁板(23)により、隣接する2台の前記風力発電装置(1,1)の風力発電用プロペラ(11,11)の後流乱れによる干渉の回避機能、並びに固定端浮上部(3)を風上側へ位置させて風に対し前記風力発電装置(1,1)の風力発電用プロペラ(11,11)を正対させる風向追従性の向上機能を付与し、
同時に前記風力発電装置(1,1)における風力発電用プロペラ(11,11)は、各々正逆回転制御して隣接プロペラ(11,11)への後流乱れの干渉を抑制し、
前記固定端浮上部(3)に、前記風力発電装置(1,1)によって発電された電力を外部に送電するための電力連係設備(36)を設置したことを特徴とする請求項2に記載の洋上風力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は洋上風力発電に適用される浮体式の発電装置に関する。具体的には、風力発電装置2台を、浮上体1基に対し、その両端に釣り合う様に搭載して(いわゆる弥次郎兵衛形式)、装置の軽量化と海中深度50~100m程度の海域に適するように構成した浮体式洋上発電システムである。
【背景技術】
【0002】
従来、わが国の電力需要は水力、火力、原子力発電などの大容量電源に依存してきたが、我が国の水力電源は自然地勢により立地適地は開発済みであり、原子力発電は社会的合意性に問題があり、地球環境大気圏のCO2濃度の低減には自然エネルギーの活用が重要課題となってきている。
自然エネルギーの開発における大容量電源として、洋上風力発電が期待される。しかし、発電コストは火力発電の2~3倍になることより、そのコスト低減は緊急課題となっている。
【0003】
我が国、日本列島沿岸部の大陸棚深度200m以浅の領海は455,000km2、日本国土面積377,900km2の1.2倍であるが、排他的経済水域(EEZ)4,480,000km2は11.9倍であり、浮体式洋上風力発電装置が期待される。しかしながら日本列島沿海域は、大陸棚浅海域が少なく海底着床式風力発電の大規模開発は困難であり、浮体式洋上発電装置は浅海部の海底着床式柱状タワー型に比較してコスト高になる。
【0004】
海外では深度20~40mの浅海部での着床式風力発電装置が普及しているが、日本列島周辺沿岸部は浅海部が少なく、海深度50m以上の海域で設置される着床式風力発電はコスト高となることから、海洋浮体式の風力発電装置のコスト低減が求められる。浮体式の洋上風力発電装置に関する先行技術としては、以下の特許文献に記載された発明が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-216273号公報
【特許文献2】特開2017-8807号公報
【特許文献3】特表2005-5042057号公報
【特許文献4】特開2004-2511397号公報
【特許文献5】特表2017-5215977号公報
【0006】
前述した先行技術文献のうち、各特許文献に記載されている発明の特徴を以下に記す。
(特許文献1)
特許文献1記載の発明は、「浮体式洋上風力発電装置の基礎構造」に関し、風力発電装置1台を洋上設置するために、洋上に浮かぶ円筒型浮体を基礎構造とし、円筒型浮体を中心としてその外周部に補助的円筒浮体を配置・連結して搖動対策とする方式である。
一方、本願に係る洋上風力発電システムでは、浮上体1組に発電装置を2台設置する方式であることから、構成が基本的に相異する。
(特許文献2)
特許文献2記載の発明は、「浮体式洋上風力発電装置」に関するもので、洋上発電装置を支持する発電装置用浮体部を、洋上に固定された繋留浮体部に連結して洋上設置する方式である。
一方、本願に係る洋上風力発電システムでは、発電装置用の浮上体と繋留浮体部とは一体構造であるため、その構造は基本的に相異する。
(特許文献3)
特許文献3記載の発明は、「浮体式洋上風力発電設備」に関するもので、同発明では風力発電装置を支持する浮体、1点係留機構等を有し、当該浮体に3つの半潜水型カラム部材を相互に連結して、それらの頂点が三角形をなすよう平面上に配置され、カラム部材の1つが前記の1点係留機構に係留される構成である。
これに対し、本願に係る洋上風力発電システムは、浮上体の形状は問わない構成であり、仮に浮上体の形状を平面視多角形とした場合は、浮上体の頂点の1点を固定端浮上部とし、浮上体を構成する他の頂点は、風下側の自由端となる可動端浮上部として一体化した構造で、且つ当該浮上体1組に風力発電装置2台を搭載した方式であり、基本的な構造が相異している。
(特許文献4)
特許文献4記載の発明は、「浮楊式水上風力発電装置」に関するが、当該方式は環状浮体の中心部に風力発電装置1台を搭載し、環状中心を固定点として風向制御したもので、垂直尾翼を風向追従性に利用している。
一方、本願に係る洋上風力発電システムでは、浮上体の形状は限定しておらず、仮に浮上体として多角形浮上体を採用した場合、三角形又は四角形などの多角形外周部の頂点の1点を風上側の固定端浮上部としたものである。また、垂直尾翼は風向追従性としての機能に加え、プロペラ後流域の乱れから隣接プロペラへの干渉を避ける隔壁板としての機能を備え、文献4記載の発明と技術的な構成が相異している。
(特許文献5)
特許文献5記載の発明は、「風力発電・回転半潜水型風力発電用ラフト及びその建設方法」についてのもので、当該方式は三角形ラフトの各頂点に3台の風力発電装置を搭載したものである。
一方、本願に係る洋上風力発電システムでは平面視三角形などからなる浮上体に風力発電装置用の支持柱(タワー部)を立設して、この支持柱に風力発電装置2台を設置しており、基本構造が相異する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
洋上風力発電装置では、風力発電用のプロペラ、発電機、ハブなどの発電機器に基本的な差異はないが、当該機器の洋上設置には次の課題を有する。
(課題1)
洋上の風力発電は海深30~40m以内であれば海底に風力発電装置の柱状タワー底部を着床し、柱状タワー部を海面上に突出させタワー頂部に設置する方式は海外にて普及しているが、海深30~40m以上になると海底着床式はコスト高になる課題を有する。
【0008】
(課題2)
浮体式洋上発電方式は強風時に浮上体の搖動防止が課題となる。搖動対策として浮上体を単一円筒の半潜水浮体方式(スパー型)とした場合、潜水部の重錘を海中深部に設置することで搖動復元力を大きくし得るが、その際は、柱状タワーの重錘部深度は発電装置の海面上高さに対し、海面からの深度は1.3~1.5倍になり、例えば5MW級の発電装置を1台設置する場合は、海深度120m程度になる。
【0009】
本願発明は風力発電装置の大規模化を考慮し、海深度50~100m以上の海域に適した浮体式洋上風力発電システムを提供する。なお、用語末尾の符号は後述する説明全体の共通符号であり参考のため付記する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、前述の課題の解決策として洋上の風力発電装置2台を1組の浮上体に設置するとともに、利用可能な浮上体は単一円筒型(スパー型)、TLP型、バージ型など、あらゆるタイプに適用可能であり、浮上体の浮上面積と海深度を考慮した搖動対策と、コスト低減とを同時に達成し得る浮体式洋上風力発電システムに関する。
請求項1記載の発明は、浮力を備える浮上体(10)を具備し、
該浮上体(10)に、風力発電装置支持用の支持柱(2)を搭載し、該支持柱(2)は左右方向へ延出する一対の片持支持部(21A,21B)を備え、これらの一対の片持支持部(21A,21B)の端部に風力発電装置(1,1)を各1台(計2台)毎設置するとともに、
前記支持柱(2)と片持支持部(21A,21B)との間に、前記風力発電装置(1,1)の垂直荷重を負担する風力発電装置引張索(22,22)を左右一対設置して固縛することを特徴としている。
【0011】
請求項2記載の発明は、上記1項において、前記浮上体(10)は平面視多角形に形成され、その頂点となる位置に、浮力を備えた複数の浮上部を有し、
前記複数の浮上部のうち、頂点の一点である固定端浮上部(3)は、固定端アンカー連結鎖(34)及び固定端アンカー海底錨アンカー部(35)を介して海上の所定位置に保持され、他の頂点を可動端浮上部(4)とすることにより、前記固定端浮上部(3)を風上側へ位置させる一方、該可動端浮上部(4)を風下側へ自由端として追従させて、風力発電装置(1,1)個別の風向制御を不要としたことを特徴としている。
【0012】
請求項3記載の発明は、上記2項において、前記支持柱(2)に垂直隔壁板(23)を取り付け、該垂直隔壁板(23)により、隣接する2台の前記風力発電装置(1,1)の風力発電用プロペラ(11,11)の後流乱れによる干渉の回避機能、並びに固定端浮上部(3)を風上側へ位置させて風に対し前記風力発電装置(1,1)の風力発電用プロペラ(11,11)を正対させる風向追従性の向上機能を付与し、
同時に前記風力発電装置(1,1)における風力発電用プロペラ(11,11)は、各々正逆回転制御して隣接プロペラ(11,11)への後流乱れの干渉を抑制し、
前記固定端浮上部(3)に、前記風力発電装置(1,1)によって発電された電力を外部に送電するための電力連係設備(36)を設置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本願の請求項1に記載の発明によれば、浮体式洋上風力発電において1組の浮上体(10)に2台の風力発電装置を、いわゆる玩具の弥次郎兵衛のように、釣り合う様に搭載することが可能であることから、海深度50~100m以上においても適用可能であり、力学的バランスに優れ、洋上での安定性向上を図ることができる。
また、請求項2及び3に記載の発明によれば、浮上体(10)の海底からの錨アンカーにより設置されている頂点の1点である固定端浮上部(3)を、電力ケーブル引込部とし、且つ、洋上からの陸上部への送電端として風力発電装置2台分の電力連係設備(変圧器・開閉器)を設置することができる。
さらに、請求項2及び3に記載の発明によれば、風力発電装置それぞれ毎の風向制御設備は不要となり、イニシャルコスト及びランニングコストの低減に寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明に係る洋上風力発電システムの第一の実施例を示した図で、風向に対して直角方向から視た立面図である。
【
図2】同じく、本願発明に係る洋上風力発電システムの第一の実施例を示す図で、風向に対して平行に視た立面図である。
【
図3】同じく、本願発明に係る洋上風力発電システムの第一の実施例を示す図で、その平面図である。
【
図4】同じく、本願発明に係る洋上風力発電システムにおける第一の実施例の要部を示す図で、固定端浮上部が、海中に設置されている状態を示す断面図である。
【
図5】同じく、本願発明に係る洋上風力発電システムにおける第一の実施例の要部を示す図で、
図4における洋上風力発電システムのX―X´線に沿った矢視断面図である。
【
図6】同じく、本願発明に係る洋上風力発電システムにおける第一の実施例の要部を示す図で、可動端浮上部の平面図である。
【
図7】本願発明に係る洋上風力発電システムの第二の実施例を示した図で、風向に対して直角方向から視た立面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面にしたがって本願発明に係る洋上風力発電システムについて、詳細に説明する。
(第一の実施例)
第一の実施例に係る洋上風力発電システムにおける特徴は、「浮上体」として平面視多角形の多角形浮上体10を用い、当該多角形浮上体10に風力発電装置2台を搭載するとともに、当該多角形浮上体10の頂点のうち、一点は固定端アンカー連結鎖(34)及び固定端アンカー海底錨アンカー部(35)を介して海底に連結することにより、海上の略所定位置に保持される固定端浮上部3とし、他の頂点は風向により風下側に追従する自由端となる可動端浮上部4,4として構成したことである。
【0016】
図1は、第一の実施例の洋上風力発電システムについて、風向に対して直角方向から視た立面図、
図2は風向きに対して平行な方向から視た立面図、
図3は平面図である。これらの図に示されるように、本実施例の洋上風力発電システムは、それぞれ浮力を備えた固定端浮上部3,可動端浮上部4,4を備えるとともに、これらの浮上部3,4,4との間を、連結部材5,5,5によって接続されることにより、
図3に示されるように、平面視三角形状の多角形浮上体10を構成している。
【0017】
なお、本実施例における連結部材5,5,5は、水中沈下型の部材を使用しているが、これに限らず水上に浮かぶ浮体型の部材を使用することも可能である。可動端浮上部4,4には、その下方位置に浮体水中部51及び浮体水中重錘部52が設けられ、可動端浮上部4,4の安定性を向上させることによって波浪などの影響を少なくしている。
【0018】
図1~
図3に示されるように、固定端浮上部3,可動端浮上部4,4、連結部材5,5,5を具備して構成される多角形浮上体10には、風力発電装置を支持する十字型の塔体である支持柱2が搭載・立設されている。この風力発電装置支持柱2は、トラス部材を組み合わせてなるタワー状の支持柱であり、中央の鉛直方向の柱状部2Aには、左右方向へ延出する一対の片持支持部(風力発電装置支持梁)21A,21Bが設けられている。これらの一対の片持支持部21A,21Bの端部に、発電量が同出力の風力発電装置1,1を各1台ずつ設置することで釣り合いを図り、いわゆる玩具の弥次郎兵衛(ヤジロベエ)の原理を適用する結果となって、安定性の向上に寄与している。
【0019】
また、風力発電装置1,1が支持されている部分と、柱状部2Aの上端との間には、安定化部材としての風力発電装置引張索22,22を張設して固縛しており、2台の風力発電装置1,1の設置部分を補強しつつ、重量バランスをくずすことなく設置することが可能になっている。即ち、安定化部材である風力発電装置引張索22,22は、風力発電装置1,1の垂直荷重の一部を負担するため、系全体の力学的なバランスを向上させる機能を備えている。
【0020】
本実施例では風に対する抵抗を少なくするという点を考慮し、金属製のワイヤロープを風力発電装置引張索22,22に用いているが、他の適用可能な部材として、張力が調節可能なターンバックルを備えた棒鋼など、海上での使用を考慮した耐食性・耐風力性を備えた鋼材を用いることも可能である。
【0021】
さらに、
図2及び
図3にも示されるように、タワー状に形成された支持柱2の脚部は、各下端が多角形浮上体10の固定端浮上部3、及び可動端浮上部4,4上に設置支持されている。これによって支持柱2は、多角形浮上体10と一体化されて堅牢性・剛性が向上した構造となり、耐波性、耐風力性が確保される。
【0022】
風力発電装置1,1における、各々の風力発電用プロペラ11,11は、発電時に正逆回転させるように制御し、隣接するプロペラ11,11への後流乱れの干渉を抑制するようになっている。
【0023】
図4は、海中における固定端浮上部3の設置状態を示す断面図、
図5は固定端浮上部3の平面断面図である。
図4に示されるように、固定端浮上部3は、浮力を備える固定端回転浮上部31、固定端静止浮上部32を具備し、固定端静止浮上部32の側面には固定端アンカー連結鎖34の上端部が取り付けられ、その下端部が海底に設置された固定端アンカー海底固定部35と接続され、これにより固定端浮上部3は洋上の一定位置に保持されている。
図5にも示されるように、固定端静止浮上部32の上部には、固定端回転浮上部31が、固定端回転軸ベアリング33を介して上方より嵌合した形で、固定端静止浮上部32に対し相対的に回転可能に設けられている。
【0024】
さらに、
図4において固定端浮上部3における固定端静止浮上部32の内部には、可捻電線62が上下方向に挿通され、その下端の電力ケーブルヘッド61を介して電力ケーブル6と接続されている。電力ケーブル6は、風力発電装置によって発電された電力の送電線となって陸上の送電施設と接続されている。
また、固定端浮上部3には、風力発電装置2台の出力を一括して外部に送電するための電力連係設備36が設置されている。
【0025】
風向により可捻電線62は捻れを生じるが、捻じれ解消のため、
図6に示されるように、連結部材5,5が接続されている可動端浮上部4の一つに設置した、捻じれ復元用水中推進スクリュー41により、固定端浮上部3、可動端浮上部4,4を、電力ケーブル62の捻じれ方向の反対方向に回転移動させて、その捻じれを解消させる。つまり、捻じれ復元用水中推進スクリュー41は正逆回転し得るものとし、運用時に固定端浮上部3、可動端浮上部4,4からなる多角形浮上体10を、電力ケーブル62の捻れ方向と逆回転させることによって捩れを復元させる。
【0026】
このように構成した浮体式の洋上風力発電システムの実施設計例を示す。以下の設計例は2.5MW×2台=5MW級の浮体式洋上発電装置を利用している。
洋上発電設備
・定格出力 2.5MW×2台=5MW
・浮体構成 多角形浮上体:円形浮体(固定端及び可動端浮上部~三角形配置
連結部材:辺長50m、水中トラス構造
・柱状塔体部(風力発電装置支持柱)
上部:浮体部鋼製中空円筒構造、十字構成による水平梁両端部に発電装置設置 下部:鋼製トラス構造、垂直隔壁板設置
・定格風速 12m/秒
・カットイン風速 3.5m/秒、カットアウト風速25m/秒
・ロ-タ直径 90m
・プロペラブレード 3枚
・プロペラ配置 ダウンウインド(発電機風下側設置)
・発電機駆動方式 ダイレクトドライブ(プロペラ軸直結)
・発電機型式 横軸永久磁石励磁同期発電機
・海底固定部 三角形浮上体の固定端アンカー部6箇所
【0027】
(第二の実施例)
本願発明に係る洋上風力発電システムの第二の実施例は以下のように構成されている。第二の実施例に係る洋上風力発電システムは、「浮上体」として、単一円筒型(スパー型)浮上体7を用いている点が、第一の実施例と相違する。
以下の説明にて前述した第一の実施例と同様な部材には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0028】
図7は第二の実施例の洋上風力発電システムを示した図で、風向に対して直角方向から視た立面図である。
同図に示される洋上風力発電システムでは、単一円筒型浮上体7及び、該単一円筒型浮上体7に立設して支持される十字型の風力発電装置支持柱2を備え、これらの浮上体7及び風力発電装置支持柱2は2基の風力発電装置1,1を支えるための強度を備えている。
また、単一円筒型浮上体7は、その下方位置に浮体水中部71及び浮体水中重錘部72が設けられている。
スパー型の浮上体は、構造がシンプルで製造が容易でコスト的に安価である一方、浅い海域での設置にやや不向きであるという面があるが、システムの設計に際しては設置される海域や発電出力などを考慮して最適な浮上体を選択する。
【0029】
なお、本発明が適用される第一及び第二の実施例では、2基の風力発電装置1,1を使用していることから、例えば5MW級の発電装置とするには2.5MW級の装置を2台設置する形になる。これに対し、大型の発電装置を1台設置する場合は、風車が大型化してブレードのロータ直径が大きくなるとともに重量が増加し、発電装置の発電機主軸と連結されるプロペラ支持構造は片持のため、当該発電機主軸に強度上の課題を惹起するが、2台の発電装置を用いることで小型化を図ることができることから、装置本体の過度な大型化を回避することが可能になる。
【0030】
以上、説明したように、本願発明の洋上風力発電システムによれば、浮上体はTLP型、セミサブ型、バージ型の浮上体など、様々な形態の洋上風力発電へ対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願発明の浮体式の洋上風力発電システムでは、浮上体1基に対して風力発電装置を2台、いわゆる弥次郎兵衛形の配置として重量バランスを取り、中深海部における搖動対策を図ると同時にコスト削減が達成される。本願発明は電力事業分野に利用可能性を有する。また、本願発明は洋上における浮上体の形状は問わないので、様々な型式の洋上風力発電システムに対応することができる。
【符号の説明】
【0032】
洋上風力発電装置群を構成する部材番号の説明
1 :風力発電装置
10:多角形浮上体
11:風力発電用プロペラ
2 :風力発電装置支持柱
21A,21B:片持支持部(風力発電装置支持梁)
22:風力発電装置引張索(安定化部材)
23:支持柱取付け垂直隔壁板
3 :固定端浮上部
31:固定端回転浮上部
32:固定端静止浮上部
33:固定端回転軸ベアリング
34:固定端アンカー連結鎖
35:固定端アンカー海底錨アンカー部
36:電力連係設備
4 :可動端浮上部
41:捻じれ復元用水中推進スクリュー
5 :連結部材
51:浮体水中部
52:浮体水中重錘部
6 :電力ケーブル
61:電力ケーブルヘッド
62:可捻電線
7 :単一円筒型浮上体
71:浮体水中部
72:浮体水中重錘部
【手続補正書】
【提出日】2023-11-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上における平面視多角形の頂点となる位置に、浮力を備える複数の浮上部を設けるとともに、これらの各浮上部との間を、それぞれ連結部材によって接続することにより多角形浮上体を形成し、
前記多角形浮上体に、タワー状の塔体として形成された支持柱の脚部を接続することにより、該支持柱を該多角形浮上体に搭載・立設して、該支持柱と該多角形浮上体とを一体化し、
前記支持柱の上部に、風力発電装置支持用の柱状部を設け、該柱状部は左右方向へ延出する一対の片持支持部を備え、これらの一対の片持支持部に風力発電装置を各1台(計2台)設置するとともに、
前記支持柱と片持支持部との間に、前記風力発電装置の垂直荷重を負担する風力発電装置引張索を左右一対設置して固縛し、
前記複数の浮上部のうち、頂点の一点である固定端浮上部は海上の略所定位置に保持され、他の頂点を可動端浮上部とすることにより、前記固定端浮上部を風上側へ位置させる一方、該可動端浮上部を風下側へ自由端として追従する構成として、風力発電装置個別の風向制御を不要としたことを特徴とする洋上風力発電システム。
【請求項2】
前記風力発電装置支持用の支持柱に垂直隔壁板を取り付け、該垂直隔壁板により、隣接する2台の前記風力発電装置の風力発電用プロペラの後流乱れによる干渉の回避機能を付与するとともに、並びに固定端浮上部を風上側へ位置させて風に対し前記風力発電装置の風力発電用プロペラを正対させる風向追従性の向上機能を付与し、
同時に前記風力発電装置における風力発電用プロペラは、各々正逆回転制御して隣接プロペラへの後流乱れの干渉を抑制したことを特徴とする請求項1に記載の洋上風力発電システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本願発明は、前述の課題の解決策として洋上の風力発電装置2台を1組の浮上体に設置して、浮上体の浮上面積と海深度を考慮した搖動対策と、コスト低減とを同時に達成し得る浮体式洋上風力発電システムに関する。
請求項1記載の発明は、洋上における平面視多角形の頂点となる位置に、浮力を備える複数の浮上部(3,4,4)を設けるとともに、これらの各浮上部(3,4,4)との間を、それぞれ連結部材(5)によって接続することにより多角形浮上体(10)を形成し、
前記多角形浮上体(10)に、タワー状の塔体として形成された支持柱(2)の脚部を接続することにより、該支持柱(2)を該多角形浮上体(10)に搭載・立設して、該支持柱(2)と該多角形浮上体(10)とを一体化し、
前記支持柱(2)の上部に、風力発電装置(1,1)支持用の柱状部を設け、該柱状部は左右方向へ延出する一対の片持支持部(21A,21B)を備え、これらの一対の片持支持部(21A,21B)に風力発電装置(1,1)を各1台(計2台)設置するとともに、
前記支持柱(2)と片持支持部(21A,21B)との間に、前記風力発電装置(1,1)の垂直荷重を負担する風力発電装置引張索(22,22)を左右一対設置して固縛し、
前記複数の浮上部(3,4,4)のうち、頂点の一点である固定端浮上部(3)は海上の略所定位置に保持され、他の頂点を可動端浮上部(4,4)とすることにより、前記固定端浮上部(3)を風上側へ位置させる一方、該可動端浮上部(4,4)を風下側へ自由端として追従する構成として、風力発電装置(1,1)個別の風向制御を不要とすることを特徴としている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
請求項2記載の発明は、上記1項において、前記風力発電装置(1,1)支持用の支持柱(2)に垂直隔壁板(23)を取り付け、該垂直隔壁板(23)により、隣接する2台の前記風力発電装置(1,1)の風力発電用プロペラ(11,11)の後流乱れによる干渉の回避機能を付与するとともに、並びに固定端浮上部(3)を風上側へ位置させて風に対し前記風力発電装置(1,1)の風力発電用プロペラ(11,11)を正対させる風向追従性の向上機能を付与し、
同時に前記風力発電装置(1,1)における風力発電用プロペラ(11,11)は、各々正逆回転制御して隣接プロペラ(11,11)への後流乱れの干渉を抑制したこと特徴としている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
図1~
図3に示されるように、固定端浮上部3,可動端浮上部4,4、連結部材5,5,5を具備して構成される多角形浮上体10には、風力発電装置を支持する十字型の塔体である支持柱2が搭載・立設されている。この風力発電装置支持柱2は、トラス部材を組み合わせてなるタワー状の支持柱であり、中央の鉛直方向の
柱状部には、左右方向へ延出する一対の片持支持部(風力発電装置支持梁)21A,21Bが設けられている。これらの一対の片持支持部21A,21Bの端部に、発電量が同出力の風力発電装置1,1を各1台ずつ設置することで釣り合いを図り、いわゆる玩具の弥次郎兵衛(ヤジロベエ)の原理を適用する結果となって、安定性の向上に寄与している。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
また、風力発電装置1,1が支持されている部分と、柱状部の上端との間には、安定化部材としての風力発電装置引張索22,22を張設して固縛しており、2台の風力発電装置1,1の設置部分を補強しつつ、重量バランスをくずすことなく設置することが可能になっている。即ち、安定化部材である風力発電装置引張索22,22は、風力発電装置1,1の垂直荷重の一部を負担するため、系全体の力学的なバランスを向上させる機能を備えている。