(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024600
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】光選択カット光学部材、樹脂組成物およびフタロシアニン系化合物
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240215BHJP
C09B 47/04 20060101ALI20240215BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20240215BHJP
C09B 55/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
G02B5/22
C09B47/04
C09B57/00 X
C09B55/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121041
(22)【出願日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2022127293
(32)【優先日】2022-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 美輝
(72)【発明者】
【氏名】青木 正矩
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA12
2H148CA13
2H148CA14
2H148CA17
2H148CA27
2H148CA29
(57)【要約】
【課題】透過領域の透過スペクトルのリップルの発生を抑えることができる光選択カット光学部材を提供する。
【解決手段】基材と吸収層と誘電体膜とを有する光選択カット光学部材であって、吸収層が水溶性樹脂と水溶性色素を含有する樹脂組成物から形成されている光選択カット光学部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と吸収層と誘電体膜とを有する光選択カット光学部材であって、
前記吸収層は、水溶性樹脂と水溶性色素を含有する樹脂組成物から形成されていることを特徴とする光選択カット光学部材。
【請求項2】
前記水溶性色素は、近赤外線吸収色素および紫外線吸収色素から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の光選択カット光学部材。
【請求項3】
前記水溶性色素は、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、シアニン系化合物、ジピロメンテン系化合物、ジイモニウム系化合物、金属ジチオール錯体化合物、および金属ジアミン錯体化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素である請求項1に記載の光選択カット光学部材。
【請求項4】
前記水溶性色素は、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、アクリレート系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、アゾメチン系化合物、アゾキシ系化合物、シアノビフェニル系化合物、シアノフェニルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル系化合物、シアノフェニルシクロヘキサン系化合物、フェニルピリミジン系化合物、フェニルジオキサン系化合物、シナメート系化合物、およびトラン系化合物から選ばれる少なくとも1種の紫外線吸収色素である請求項1に記載の光選択カット光学部材。
【請求項5】
前記水溶性樹脂は、アミノ基、カルボニル基、エーテル基またはスルホニル基を有する請求項1に記載の光選択カット光学部材。
【請求項6】
前記基材はガラス基板であり、前記吸収層がガラス基板上に形成されている請求項1に記載の光選択カット光学部材。
【請求項7】
前記水溶性樹脂と前記基材との屈折率差は0.30以下である請求項1に記載の光選択カット光学部材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光選択カット光学部材を有することを特徴とする撮像素子。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光選択カット光学部材の吸収層を形成するための樹脂組成物であって、
水溶性樹脂と水溶性色素を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項10】
下記式(1)で表されることを特徴とするフタロシアニン系化合物。
【化1】
[式(1)中、
Mは、金属原子、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表し、
R
1~R
16はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、-OR
17または-SR
18を表し、
R
17とR
18はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、または置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R
1~R
16のうち5つ以上が-OR
17または-SR
18であり、当該R
17およびR
18は、カルボキシ基またはその塩を有するアリール基、またはカルボキシ基またはその塩を有するアラルキル基である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光選択カット光学部材、当該光選択カット光学部材の吸収層を形成するための樹脂組成物、および当該光選択カット光学部材の吸収層に含まれる色素として好適に用いることができるフタロシアニン系化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、ビデオカメラ、表示素子(LED等)等の撮像装置には、被写体の光を電気信号等に変換して出力する撮像素子が通常使用されている。このような撮像素子は、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の検出素子(センサー)およびレンズを備えるとともに、高性能化のため、画像処理等の妨げとなる光学ノイズ(例えばゴーストやフレア)を除去するための近赤外線カットフィルターを備える場合がある。このような近赤外線カットフィルターには通常、酸化チタン等の高屈折率材料層や酸化ケイ素等の低屈折率材料層から構成された誘電体膜が設けられており、高屈折率材料層と低屈折率材料層の各層の厚みや層数を調整することにより、入射光のうち所定の波長域の光を反射して、カットすることができる。
【0003】
誘電体膜によって所定の波長域の光の入射をカットする場合、誘電体膜は入射角によってカット波長域あるいは透過波長域が変化する。例えば、入射角が垂直方向から斜め方向に変化すると、カット波長域あるいは透過波長域が短波長側にシフトする。そのため誘電体膜では、斜め方向の入射光に対しては、意図した波長域の光を十分にカットできなかったり、あるいは意図しない波長域の光もカットする事態が生じうる。このような入射角依存性を低減するために、色素を含有する吸収層を設けることがなされている。誘電体膜に加え、色素を含有する吸収層を設けることにより、吸収層に含まれる色素が誘電体膜のカット波長域と透過波長域の境界付近の波長域の光を吸収して、光学特性の入射角依存性を低減することができる。例えば、特許文献1,2には、ガラス基板と近赤外線吸収色素を含有する吸収層と誘電体膜とを備えた近赤外線カットフィルター(光選択カット光学部材)が開示されている。一方、色素として水溶性色素が知られており、例えば特許文献3,4にはそのような水溶性色素が開示されているが、水溶性色素を近赤外線カットフィルターなどの光選択カット光学部材に適用することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-126642号公報
【特許文献2】特開2012-008532号公報
【特許文献3】特開2005-220060号公報
【特許文献4】特許第5066417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近赤外線カットフィルターでは、誘電体膜と吸収層によって入射光のうち近赤外線領域の光が選択的にカットされ、可視光領域の光が透過光として近赤外線カットフィルターを透過する。この場合、透過領域の光が色素固有の透過スペクトルに近い透過スペクトルを示すことが望ましく、これにより近赤外線カットフィルターの光学設計が容易になる。しかしながら、従来の近赤外線カットフィルターなどの光選択カット光学部材では、透過領域の透過スペクトルにリップルが生じて透過スペクトルが波うち、色素固有の透過スペクトルに対してずれが生じることがあった。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、透過領域の透過スペクトルのリップルの発生を抑えることができる光選択カット光学部材を提供することにある。本発明はまた、本発明の光選択カット光学部材を備えた撮像素子、当該光選択カット光学部材の吸収層を形成するための樹脂組成物、および当該光選択カット光学部材の吸収層に含まれる色素として好適に用いることができるフタロシアニン化合物も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の光選択カット光学部材、撮像素子、樹脂組成物およびフタロシアニン系化合物を含む。
[1] 基材と吸収層と誘電体膜とを有する光選択カット光学部材であって、前記吸収層は、水溶性樹脂と水溶性色素を含有する樹脂組成物から形成されていることを特徴とする光選択カット光学部材。
[2] 前記水溶性色素は、近赤外線吸収色素および紫外線吸収色素から選ばれる少なくとも1種である[1]に記載の光選択カット光学部材。
[3] 前記水溶性色素は、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、シアニン系化合物、ジピロメンテン系化合物、ジイモニウム系化合物、金属ジチオール錯体化合物、および金属ジアミン錯体化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素である[1]または[2]に記載の光選択カット光学部材。
[4] 前記水溶性色素は、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、アクリレート系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、アゾメチン系化合物、アゾキシ系化合物、シアノビフェニル系化合物、シアノフェニルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル系化合物、シアノフェニルシクロヘキサン系化合物、フェニルピリミジン系化合物、フェニルジオキサン系化合物、シナメート系化合物、およびトラン系化合物から選ばれる少なくとも1種の紫外線吸収色素である[1]~[3]のいずれかに記載の光選択カット光学部材。
[5] 前記水溶性樹脂は、アミノ基、カルボニル基、エーテル基またはスルホニル基を有する[1]~[4]のいずれかに記載の光選択カット光学部材。
[6] 前記基材はガラス基板であり、前記吸収層がガラス基板上に形成されている[1]~[5]のいずれかに記載の光選択カット光学部材。
[7] 前記水溶性樹脂と前記基材との屈折率差は0.30以下である[1]~[6]のいずれかに記載の光選択カット光学部材。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の光選択カット光学部材を有することを特徴とする撮像素子。
[9] [1]~[7]のいずれかに記載の光選択カット光学部材の吸収層を形成するための樹脂組成物であって、水溶性樹脂と水溶性色素を含有することを特徴とする樹脂組成物。
[10] 下記式(1)で表されることを特徴とするフタロシアニン系化合物。
【化1】
[式(1)中、
Mは、金属原子、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表し、
R
1~R
16はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、-OR
17または-SR
18を表し、
R
17とR
18はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、または置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R
1~R
16のうち5つ以上が-OR
17または-SR
18であり、当該R
17およびR
18は、カルボキシ基またはその塩を有するアリール基、またはカルボキシ基またはその塩を有するアラルキル基である。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の光選択カット光学部材によれば、光選択カット光学部材を透過した光の透過スペクトル、すなわち透過領域の透過スペクトルのリップルを抑えることができる。そのため、光選択カット光学部材の光学設計が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で作製した光学部材のキュア前後の透過スペクトルを表す。
【
図2】実施例1で作製した光学部材の誘電体膜蒸着後の透過スペクトルを表す。
【
図3】実施例1で作製した光学部材の透過領域における透過スペクトルの拡大図を表す。
【
図4】比較例1で作製した光学部材の透過領域における透過スペクトルの拡大図を表す。
【
図5】比較例2で作製した光学部材の透過領域における透過スペクトルの拡大図を表す。
【
図6】比較例3で作製した光学部材の透過領域における透過スペクトルの拡大図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光選択カット光学部材は、基材と吸収層と誘電体膜とを有し、吸収層が、水溶性樹脂と水溶性色素(光選択吸収色素)を含有する樹脂組成物から形成されているものである。光選択カット光学部材は、誘電体膜と吸収層によって入射光のうち一部の波長域の光を選択的にカットすることができるが、入射光のうち、誘電体膜によって反射されず、吸収層にも吸収されなかった光は、透過光として光選択カット光学部材を透過する。例えば、光選択カット光学部材が、近赤外領域および/または紫外領域の光をカットするものである場合は、可視光領域の光が透過光となる。この場合、透過領域の光は、光選択吸収色素固有の透過スペクトルに近い透過スペクトルを示すことが望ましく、これにより光選択カット光学部材の光学設計が容易になる。しかし、水不溶性の樹脂や水不溶性の色素を用いて基材上に吸収層を形成した場合、透過領域の透過スペクトルにリップルが生じ、色素固有の透過スペクトルに対してずれが生じることがあった。具体的には、透過領域の透過スペクトルが波うち、一部の波長の光の透過率が色素固有の透過スペクトルより高くなったり、逆に他の一部の波長の光の透過率が色素固有の透過スペクトルより低くなることが生じていた。これに対して本発明の光選択カット光学部材は、吸収層が水溶性樹脂と水溶性色素を含有する樹脂組成物から形成されており、これにより、光選択カット光学部材を透過した光の透過スペクトルのリップルを抑えることができる。そのため、光選択カット光学部材の光学設計が容易になる。また、水溶性樹脂と水溶性色素を含有する樹脂組成物を用いることにより、有機溶媒ではなく水やアルコール等の水系溶媒を使用することが可能となり、光選択カット光学部材の製造の際の環境負荷を低減することができる。
【0011】
本発明において、光選択カット光学部材によってカットされる光は、近赤外領域の少なくとも一部の波長域の光であってもよく、紫外領域の少なくとも一部の波長域の光であってもよく、可視光領域の少なくとも一部の波長域の光であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。なお、光選択カット光学部材は、入射光のうち紫外領域から近赤外領域の少なくとも一部の波長域の光を透過させるものであることが好ましく、可視光領域の光を透過させるものであることがより好ましい。これにより、光選択カット光学部材をカメラ等の撮像素子(イメージセンサー)に好適に適用できる。
【0012】
光選択カット光学部材としては、所定の波長域の光を選択的にカットできるフィルターやレンズ等が挙げられる。フィルターとしては、例えば、近赤外線カットフィルター、紫外線カットフィルター、カラーフィルター等が挙げられる。レンズは、光選択カット光学部材の表面に所定パターンを賦形したり、光選択カット光学部材を所定形状に形成することにより、形成することができる。レンズも、光選択カット性能を有するものとなる。以下、本発明の光選択カット光学部材について詳しく説明する。
【0013】
光選択カット光学部材において、基材は、吸収層や誘電体膜の支持体として用いられる。基材は、透明で光透過性を有するものであれば、無着色であっても着色したものであってもよい。基材は、ガラスや樹脂等から構成することができる。
【0014】
基材の形状は特に限定されず、光選択カット光学部材の用途や設置箇所に応じて適宜設定することができる。基材の形状としては、板状、シート状、球状、楕円球状、レンズ状、立方体状、柱状、棒状、錐形状、塊状、粒状等が挙げられる。
【0015】
基材は、光選択カット光学部材の耐熱性や耐久性を高める点から、ガラスから構成されることが好ましい。ガラス基材を用いれば、例えば、半田リフローにより光選択カット光学部材を電子部品に実装することが可能となり、電子部品の小型化を図ることができる。またガラス基材は、高温にさらされても割れや反りが起こりにくいため、吸収層との密着性を確保しやすくなる。ガラス基材としては、板状のガラス、すなわちガラス基板を用いることが好ましい。
【0016】
ガラス基材は、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス等の公知のガラスから構成することができる。これらのガラスは、ケイ素原子、ホウ素原子またはリン原子が、酸素原子と網目構造を形成してガラスの主骨格を形成しており、ガラス中には、これらの原子以外にナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウム、鉄、銀、銅、コバルト、ニッケル、鉛、亜鉛、フッ素等の原子またはイオンが存在していてもよい。
【0017】
基材の厚みは、例えば、強度を確保する点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また薄型化の点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
【0018】
誘電体膜は、通常、高屈折率材料層と低屈折率材料層とが交互に積層した誘電体多層膜として構成されるが、高屈折率材料層と低屈折率材料層の一方のみから構成されてもよい。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.7以上2.5以下の材料が選択されることが好ましく、当該屈折率の範囲は1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。高屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;前記酸化物や前記窒化物の混合物やそれらにアルミニウムや銅等の金属や炭素を含有ドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7未満の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.2~1.6の材料が選択されることが好ましく、1.3~1.5の材料が選択されることがより好ましい。低屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ、SiOx(x=1~2))、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、高屈折率材料層は酸化チタンから構成されることが好ましく、低屈折率材料層は酸化ケイ素から構成されることが好ましい。
【0019】
高屈折率材料層と低屈折率材料層の各厚みは、遮断しようとする光の波長λ(nm)の0.1λ~0.5λの範囲に調整することが好ましく、0.2λ~0.3λの範囲に調整することがより好ましい。このように誘電体膜を形成することにより、所望の波長域の光を選択的に反射させることができ、誘電体膜によって、紫外線反射膜、近赤外線反射膜、反射防止膜(可視光反射防止膜)等を形成することができる。紫外線反射膜と近赤外線反射膜は、1つで紫外線反射機能と近赤外線反射機能を有するものであってもよい。
【0020】
誘電体膜の層数は1層以上であれば特に限定されないが、紫外線反射膜、近赤外線反射膜、反射防止膜等としての所望の光学性能を発揮させる観点から、例えば2層~80層であることが好ましい。誘電体膜の層数は、5層以上、10層以上または20層以上であってもよく、また70層以下または60層以下であってもよい。誘電体膜の厚みは特に限定されず、例えば0.01μm~10μmの範囲であればよいが、所望の波長域の光の入射を十分にカットする観点から、0.02μm以上が好ましく、0.03μm以上がさらに好ましく、また薄型化の観点から、5μm以下が好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
【0021】
誘電体膜は、蒸着膜として形成することができる。誘電体膜の蒸着は公知の方法により行えばよい。例えば、蒸発源の加熱手段としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱等の公知の加熱手段を用いることができる。なお蒸着としては、イオンアシスト蒸着を用いることが好ましく、これにより緻密かつ平滑性の高い誘電体膜を形成しやすくなり、所望の光学性能を付与させやすくなる。イオンアシストとしては、イオン銃、イオンプレーティング、プラズマ銃等を用いることができる。
【0022】
誘電体膜は、光選択カット光学部材のいずれかの層を構成するように設けられればよく、基材に隣接して設けられてもよく、吸収層に隣接して設けられてもよく、基材にも吸収層にも隣接せずに設けられてもよい。光選択カット光学部材は、例えば、基材の一方側に吸収層が設けられ、他方側に誘電体膜が設けられてもよく、基材の一方側に吸収層が設けられ、吸収層の基材とは反対側に誘電体膜が設けられてもよい。なお、誘電体膜は吸収層よりも入光側に設けられることが好ましい。
【0023】
吸収層は、水溶性樹脂と水溶性色素を含有する樹脂組成物から形成される。本発明の光選択カット光学部材は、このように吸収層が形成されることにより、透過領域における透過スペクトルのリップルが抑えられるものとなる。その結果、光選択カット光学部材を透過した光の透過スペクトルは色素固有の透過スペクトルに近いものとなり、光選択カット光学部材の光学設計が容易になる。このようにリップルの発生が抑えられる原因としては、例えば、水溶性樹脂を用いることにより吸収層と基材との親和性が高くなり、内部反射が抑制されることが考えられる。なお、透過スペクトルの透過領域とは、波長300nm~1000nmの範囲において相対的に透過率が高くなる波長範囲を意味し、例えば透過率が70%以上となる範囲を透過領域とすることができる。
【0024】
吸収層は基材上に設けられることが好ましく、すなわち基材に隣接して設けられることが好ましい。吸収層は、基材の主面の一方面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。
【0025】
水溶性樹脂は、水に溶解する樹脂であれば特に限定されず、公知の水溶性樹脂を用いることができる。水溶性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸およびその塩、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリスルホンアミドおよびその塩、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキサゾリン基含有水溶性樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性尿素樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。吸収層には、水溶性樹脂が1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。
【0026】
水溶性樹脂は、アミノ基、カルボニル基、エーテル基またはスルホニル基を有するものが好ましい。このような水溶性樹脂を用いれば、水への溶解性を確保しつつ、吸収層の耐熱性を高めることが容易になる。アミノ基を有する水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリスルホンアミドおよびその塩、水溶性ウレタン樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性尿素樹脂が挙げられる。カルボニル基を有する水溶性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸およびその塩、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、スチレン-無水マレイン酸共重合体、カルボキシメチルセルロール、水溶性ウレタン樹脂、水溶性尿素樹脂、アルキド樹脂が挙げられる。エーテル基を有する水溶性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸およびその塩、ポリビニルアセタール、ポリエチレングリコール、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキサゾリン基含有水溶性樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、アルキド樹脂が挙げられる。スルホニル基を有する水溶性樹脂としては、例えば、ポリスルホンアミドおよびその塩が挙げられる。水溶性樹脂は、アミノ基、カルボニル基、エーテル基、スルホニル基から選ばれる2種以上の基を有していてもよく、例えばアミド基、カルボキシ基、ウレタン基、スルホンアミド基等を有するものであってもよい。このような水溶性樹脂としては、ポリアクリル酸およびその塩、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリスルホンアミドおよびその塩、カルボキシメチルセルロース、水溶性ウレタン樹脂、水溶性尿素樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。水溶性樹脂は、水溶性フェノール樹脂のようなフェノール性水酸基を有するものであってもよい。一方、水溶性樹脂は、アルコール性水酸基を有しないものであってもよい。
【0027】
水溶性樹脂は、水への溶解度が0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上がさらにより好ましい。水溶性樹脂は、水への溶解度がさらに高くてもよく、10質量%以上、20質量%以上または30質量%以上であってもよい。一方、水溶性樹脂の水への溶解度の上限は特に限定されず、80質量%以下、60質量%以下または50質量%以下であってもよい。水溶性樹脂は、25℃で撹拌しながら水に加え、目視で不溶分の有無を確認することで、水に溶解したかどうかを判断することができる。例えば、樹脂を所定の濃度(例えば0.1質量%の濃度)で水に加え、不溶分が認められた場合は、溶解度が当該所定の濃度未満であると判断することができる。
【0028】
水溶性色素は、水に溶解する色素であれば特に限定されない。水溶性色素は、有機色素であっても、無機色素であっても、有機無機複合色素(例えば、金属原子またはイオンが配位した有機化合物)であっても、特に限定されない。吸収層には、色素が1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。
【0029】
水溶性色素は、水への溶解度が0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上がさらにより好ましい。水溶性色素は、水への溶解度がさらに高くてもよく、10質量%以上、20質量%以上または30質量%以上であってもよい。一方、水溶性色素の水への溶解度の上限は特に限定されず、80質量%以下、60質量%以下または50質量%以下であってもよい。水溶性色素は、25℃で撹拌しながら水に加え、目視で不溶分の有無を確認することで、水に溶解したかどうかを判断することができる。例えば、色素を所定の濃度(例えば0.1質量%の濃度)で水に加え、不溶分が認められた場合は、溶解度が当該所定の濃度未満であると判断することができる。
【0030】
水溶性色素は、可視光を吸収する色素であってもよく、可視光よりも長波長側の近赤外線を吸収する色素であってもよく、可視光よりも短波長側の紫外線を吸収する色素であってもよい。水溶性色素は、光選択カット光学部材としての用途を考慮すると、波長200nm~1100nmの範囲に吸収極大を有することが好ましい。
【0031】
水溶性色素が可視光吸収色素である場合は、水溶性色素は、可視光領域(例えば、波長420nm超680nm未満の範囲)に極大吸収を有するものであればよく、例えば視感度が高い波長500nm以上680nm未満の範囲に極大吸収を有するものであることが好ましい。水溶性色素が可視光吸収色素であれば、光選択カット光学部材を着色フィルターやブルーライト軽減フィルター等に適用することができる。
【0032】
水溶性色素が近赤外線吸収色素である場合は、水溶性色素は、例えば波長680nm以上1100nm以下の範囲に吸収極大を有するものが好ましい。水溶性色素が近赤外線吸収色素であれば、光選択カット光学部材を、赤色~近赤外領域の光をカットする近赤外線カット光学部材に適用することができる。
【0033】
近赤外線吸収色素は、波長200nm以上1100nm以下の範囲における吸収スペクトルにおいて、波長680nm以上1100nm以下の範囲に吸収極大を有するピークを有し、かつ当該吸収ピークの吸収極大が波長200nm以上1100nm以下の範囲で最大値をとることが好ましい。当該吸収極大波長は685nm以上がより好ましく、690nm以上がさらに好ましく、また1000nm以下がより好ましく、900nm以下がさらに好ましく、800nm以下がさらにより好ましい。
【0034】
水溶性色素が紫外線吸収色素である場合、水溶性色素は、例えば200nm以上420nm以下の範囲に吸収極大を有するものが好ましい。水溶性色素が紫外線吸収色素であれば、光選択カット光学部材を、紫外領域の光をカットする紫外線カット光学部材に適用することができる。さらに、樹脂組成物の保管の際や光学部材の製造・加工(例えば蒸着や実装など)の際に紫外光にさらされても、当該紫外光から樹脂成分や樹脂組成物中に含まれる他の成分を保護し、これらの成分の劣化を抑制することができる。
【0035】
紫外線吸収色素は、波長200nm以上1100nm以下の範囲における吸収スペクトルにおいて、波長200nm以上420nm以下の範囲に吸収極大を有するピークを有し、かつ当該吸収ピークの吸収極大が波長200nm以上1100nm以下の範囲で最大値をとることが好ましい。当該吸収極大波長は250nm以上がより好ましく、300nm以上がさらに好ましく、また400nm以下がより好ましい。
【0036】
水溶性色素は、近赤外線吸収色素および紫外線吸収色素から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これにより、光選択カット光学部材は、近赤外領域および/または紫外領域の光の透過を抑え可視光領域の光を優先的に透過するものとなり、近赤外線カット光学部材や紫外線カット光学部材に好適に適用することができる。吸収層は、水溶性色素として、近赤外線吸収色素と紫外線吸収色素を含むものであることが好ましく、可視光領域の光を透過させるものであることがより好ましい。これにより、光選択カット光学部材をカメラ等の撮像素子(イメージセンサー)に好適に適用できる。
【0037】
水溶性色素が近赤外線吸収色素である場合、水溶性色素としては、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、シアニン系化合物、ジピロメンテン系化合物、ジイモニウム系化合物、金属ジチオール錯体化合物、および金属ジアミン錯体化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの化合物は近赤外領域の光を好適に吸収することができるとともに、可視光領域の光の透過率を高めることが容易になる。
【0038】
近赤外領域に吸収領域を有する水溶性色素としては、例えばフタロシアニン系化合物を好適に用いることができる。水溶性のフタロシアニン系化合物は、フタロシアニン骨格、すなわち4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋された環状構造を有し、水溶性であれば、特に制限なく用いることができる。水溶性色素としてフタロシアニン系化合物を用いれば、近赤外領域の光の透過を選択的に吸収することができる。また、フタロシアニン系化合物は分解温度が高いため、耐熱性に優れた光選択カット光学部材を得ることが容易になる。
【0039】
フタロシアニン系化合物としては、下記式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。式(1)中、Mは、金属原子、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表し、R1~R16はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、-OR17または-SR18を表し、R17とR18はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、または置換基を有していてもよいアルキル基を表す。Mを構成する金属元素は、酸素やハロゲン等の他の元素と結合していても配位していてもよい。
【0040】
【0041】
式(1)中、Mを構成する金属元素としては、銅、亜鉛、インジウム、コバルト、バナジウム、鉄、ニッケル、錫、銀、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、鉛等が挙げられる。これらの金属元素の中でも、可視光透過性や耐光性の点から、銅、バナジウム、および亜鉛が好ましく、銅および亜鉛がより好ましい。銅フタロシアニン(フタロシアニンの銅錯体)は、光による劣化が少なく、優れた耐光性を有する。亜鉛フタロシアニン(フタロシアニンの亜鉛錯体)は、可視光透過性に優れる。
【0042】
式(1)中、R1~R16のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0043】
R1~R16が-OR17または-SR18を表す場合、R17とR18のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、インデニル基等が挙げられる。アリール基は置換基を有していてもよく、アリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、カルボキシ基またはその塩、スルホ基(スルホン酸基)またはその塩、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、6~20が好ましく、6~12がより好ましく、6~10がさらに好ましい。
【0044】
R1~R16が-OR17または-SR18を表す場合、R17とR18のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。アラルキル基は置換基を有していてもよく、アラルキル基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、カルボキシ基またはその塩、スルホ基またはその塩、シアノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、7~25が好ましく、7~15がより好ましく、7~11がさらに好ましい。
【0045】
R1~R16が-OR17または-SR18を表す場合、R17とR18のヘテロアリール基としては、例えば、チエニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラリジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、ピラニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、カルボキシ基またはその塩、スルホ基またはその塩、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~15が好ましく、3~10がより好ましく、4~8がさらに好ましい。
【0046】
R1~R16が-OR17または-SR18を表す場合、R17とR18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等の環状(脂環式)のアルキル基等が挙げられる。アルキル基は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、ハロゲノ基、水酸基、カルボキシ基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、シアノ基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。ハロゲノ基を有するアルキル基としては、モノハロゲノアルキル基、ジハロゲノアルキル基、トリハロメチル単位を有するアルキル基、パーハロゲノアルキル基等が挙げられる。ハロゲノ基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。アルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は1~20が好ましく、具体的には、直鎖状または分岐状のアルキル基であれば炭素数1~20が好ましく、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~5であり、環状のアルキル基であれば炭素数4~10が好ましく、5~8がより好ましい。
【0047】
式(1)で表されるフタロシアニン系化合物は、水への溶解性を高める点から、R1~R16のうち少なくとも1つが-OR17または-SR18であり、かつR17およびR18が、カルボキシ基またはその塩を有するアリール基、スルホ基またはその塩を有するアリール基、カルボキシ基またはその塩を有するアラルキル基、またはヘテロアリール基となるものが好ましい。これらのアリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、当該置換基としては、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲノ基、水酸基、アミノ基、ニトロ基が好ましく、ハロゲノ基がより好ましい。以下、当該-OR17または-SR18を、特定の-OR17または-SR18と称する。式(1)で表されるフタロシアニン系化合物は、R1~R16のうち4つ以上が特定の-OR17または-SR18であることがより好ましく、5つ以上が特定の-OR17または-SR18であることがさらに好ましく、6つ以上が特定の-OR17または-SR18であることがさらにより好ましい。また、R1~R4のうちの1つ以上、R5~R8のうちの1つ以上、R9~R12のうちの1つ以上、およびR13~R16のうちの1つ以上が、特定の-OR17または-SR18であることが好ましい。また、R17およびR18が、カルボキシ基またはその塩を有するアリール基、カルボキシ基またはその塩を有するアラルキル基、またはヘテロアリール基であることが好ましく、カルボキシ基またはその塩を有するアリール基、またはヘテロアリール基であることがより好ましい。
【0048】
式(1)で表されるフタロシアニン系化合物は、R1~R16のうち少なくとも1つがハロゲン原子であることも好ましい。これにより、フタロシアニン系化合物の吸収波長が長波長側にシフトし、近赤外領域の光の透過をカットしやすくなる。フタロシアニン系化合物は、R1~R16のうち4つ以上がハロゲン原子であることがより好ましく、6つ以上がハロゲン原子であることがさらに好ましい。また、R1~R4のうちの1つ以上、R5~R8のうちの1つ以上、R9~R12のうちの1つ以上、およびR13~R16のうちの1つ以上が、ハロゲン原子であることが好ましい。
【0049】
式(1)で表されるフタロシアニン系化合物は、特に好ましくは、R1~R4のうちの1つ以上、R5~R8のうちの1つ以上、R9~R12のうちの1つ以上、およびR13~R16のうちの1つ以上が、上記に説明した特定の-OR17または-SR18であり、かつ、R1~R4のうちの1つ以上、R5~R8のうちの1つ以上、R9~R12のうちの1つ以上、およびR13~R16のうちの1つ以上が、ハロゲン原子である。また、R17およびR18が、カルボキシ基またはその塩を有するアリール基、またはヘテロアリール基であることが好ましく、これらアリール基およびヘテロアリール基は置換基としてハロゲノ基を有していてもよい。このようなフタロシアニン系化合物として、下記式(1A)および(1B)に示される化合物が挙げられる。
【0050】
【0051】
【0052】
フタロシアニン系化合物は公知の方法を用いて合成すればよく、一般には、フタロニトリル誘導体を無溶媒または溶媒の存在下で加熱することで得ることができる。水溶性フタロシアニン系化合物の合成は、例えば、特開2005-220060号公報、特許第5066417号公報等を参考にすることができる。
【0053】
近赤外領域に吸収領域を有する水溶性のシアニン系色素としては、例えば、FEW Chemicals社製のS0524、S0316、S2146、S0121、S0456、S2433、S2163、S0837、S0306、S2161、S2180、S2493、東京化成工業社製のインドシアニングリーン(ICG)、ICGカルボン酸、IR754カルボン酸等を用いることができる。
【0054】
水溶性色素が紫外線吸収色素である場合、水溶性色素としては、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、アクリレート系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、アゾメチン系化合物、アゾキシ系化合物、シアノビフェニル系化合物、シアノフェニルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル系化合物、シアノフェニルシクロヘキサン系化合物、フェニルピリミジン系化合物、フェニルジオキサン系化合物、シナメート系化合物、およびトラン系化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの化合物は紫外領域の光を好適に吸収することができるとともに、可視光領域の光の透過率を高めることが容易になる。
【0055】
紫外領域に吸収領域を有する水溶性色素としては、シナメート系化合物として、下記式(2)で表されるシナメート構造を有する化合物を用いることが好ましい。式(2)で表される化合物を用いれば、紫外領域の光の透過を選択的に吸収することができ、例えば、波長350nm~395nmの範囲に吸収波長域を形成するとともに、当該吸収波長域の長波長側では、吸収波長域と透過波長域との境目をシャープに形成することができる。また、式(2)で表される化合物は分解温度が高いため、耐熱性に優れた光選択カット光学部材を得ることが容易になる。
【0056】
【0057】
上記式(2)において、R21は水素原子、有機基、またはカルボン酸塩を形成する金属カチオンまたはオニウムイオンを表し、R22は水素原子、水素原子、シアノ基、アシル基、スルホニル基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基、アミド基、炭化水素基、またはヘテロアリール基を表し、R23は水素原子またはアルキル基を表し、R24は水素原子、有機基または極性官能基を表し、複数のR24は互いに同一または異なっていてもよく、Xは硫黄原子、酸素原子またはイミノ基を表し、Lは2価以上の連結基を表し、aは2以上の整数を表し、Lに結合する複数の基は互いに同一または異なっていてもよい。なお、Lに結合する複数の基に含まれるR21のうち少なくとも1つは、カルボン酸塩を形成する金属カチオンまたはオニウムイオンである。式(2)中、-COOR21(またはR22)はR23に対して、シス位にあってもよく、トランス位にあってもよい。
【0058】
R21の有機基としては、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられる。これらのアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のR17とR18のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基に関する説明がそれぞれ参照される。
【0059】
R21のカルボン酸塩を形成する金属カチオンを与える金属元素としては、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族~第14族の金属元素が挙げられる。アルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。アルカリ土類金属元素としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。遷移金属元素には第3族から第11族の金属元素が含まれ、例えばチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、ジルコニウム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。第12族~第14族の金属元素としては、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、スズ、鉛等が挙げられる。なお、R21の金属カチオンが2価以上の金属カチオンである場合、同一分子内の2以上のR21が1つの金属カチオンを表してもよく、異なる分子に属する2以上のR21が1つの金属カチオンを表してもよい。これらの中でも、R21の金属カチオンを与える金属元素としては、第2周期から第5周期の元素が好ましく、第2周期から第4周期の元素がより好ましい。また、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族~第14族の金属元素が好ましく、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛がより好ましい。R21が金属カチオンであることにより、シナメート系化合物の水への溶解性をより高めることができる。
【0060】
R21のカルボン酸塩を形成するオニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン(例えば、テトラブチルアンモニウムイオン)、ホスホニウムイオン、有機ホスホニウムイオン、ホウ素カチオン等が挙げられる。R21がオニウムイオンであることにより、水に対する溶解性に加えて、有機溶媒への溶解性も確保しやすくなる。
【0061】
式(2)で表される化合物は、当該化合物に含まれるR21のうち少なくとも1つのR21が金属カチオンまたはオニウムイオンであればよく、半分以上のR21が金属カチオンまたはオニウムイオンであることが好ましく、全てのR21が金属カチオンまたはオニウムイオンであることがより好ましい。これにより、式(2)のシナメート系化合物の水への溶解性を高めることができる。また、このようなシナメート系化合物は、紫外領域のうち比較的短波長側のUVA領域(例えば、320nm~360nm程度)に最大吸収ピークを示すものとなり、比較的エネルギーの大きいUVAをカットすることができる。
【0062】
R22のアシル基(アルカノイル基)としては、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、ヘプタデカノイル基、オクタデカノイル基、ノナデカノイル基、エイコサノイル基等が挙げられる。アシル基は、水素原子の一部が、アリール基、アルコキシ基、ハロゲノ基、水酸基等で置換されていてもよい。前記アシル基中のアルキル基は、直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。アシル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~21が好ましく、より好ましくは2~11であり、さらに好ましくは2~6である。
【0063】
R22のカルボン酸エステル基としては、式:-C(=O)-O-Ra1で表され、Ra1がアルキル基、アリール基、アラルキル基であるものが挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基の具体例は、上記のR17とR18のこれらの基の説明が参照される。
【0064】
R22のアミド基としては、式:-C(=O)-NRa2Ra3で表され、Ra2が水素原子またはアルキル基であり、Ra3がアルキル基、アシル基、アリール基またはアラルキル基であるものが挙げられる。Ra2とRa3のアルキル基、アリール基、アラルキル基の具体例は、上記のR17とR18のこれらの基の説明が参照され、Ra3のアシル基の具体例は、上記のR22のアシル基の説明が参照される。
【0065】
R22の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基(アリール基)が挙げられる。脂肪族炭化水素基は、飽和と不飽和のいずれであってもよく、また直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。脂肪族飽和炭化水素基の具体例は、上記のR17とR18のアルキル基の説明が参照され、脂肪族不飽和炭化水素基の具体例は、上記に説明したR17とR18のアルキル基の炭素-炭素単結合の一部が二重結合または三重結合に置き換わったものが挙げられる。芳香族炭化水素基(アリール基)の具体例は、上記のR17とR18のアリール基の説明が参照される。
【0066】
R22のヘテロアリール基の具体例は、上記のR17とR18のヘテロアリール基の説明が参照される。なおヘテロアリール基は、炭素原子が式(2)のエチレン二重結合の炭素原子に結合していることが好ましく、ヘテロ原子に隣接する炭素原子が式(2)のエチレン二重結合の炭素原子に結合していることがより好ましく、これによりシナメート系化合物の合成が容易になる。
【0067】
式(2)のR23は水素原子またはアルキル基を表し、アルキル基の具体例は、上記のR17とR18のアルキル基に関する説明が参照される。R23のアルキル基は、好ましくは炭素数1~3であり、より好ましくは炭素数1~2である。R23としては水素原子が特に好ましい。
【0068】
式(2)のR24の有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基(カルボン酸基)、シアノ基等が挙げられる。式(2)のR24の極性官能基としては、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基(スルホン酸基)等が挙げられる。
【0069】
R24のアルキル基、およびアルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基に含まれるアルキル基の具体例は、上記のR17とR18のアルキル基の説明が参照される。R24のアリール基、およびアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基に含まれるアリール基の具体例は、上記のR17とR18のアリール基の説明が参照される。R24のアラルキル基とヘテロアリールの具体例は、上記のR17とR18のアラルキル基とヘテロアリール基の説明がそれぞれ参照される。R24のアミド基の具体例は、上記のR22のアミド基の説明が参照される。
【0070】
R24のアミノ基としては、式:-NRa4Ra5で表され、Ra4およびRa5がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるものが挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照され、アルケニル基とアルキニル基としては、上記に例示したアルキル基の炭素-炭素単結合の一部が二重結合または三重結合に置き換わった基が挙げられる。Ra4とRa5は互いに連結して環形成していてもよい。
【0071】
R24のスルホンアミド基としては、式:-NH-SO2-Ra6で表され、Ra6がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるものが挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
【0072】
R24のハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0073】
R24としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アラルキル基、アリールオキシ基およびアリールチオ基から選ばれる1種以上であることが好ましく、水素原子またはアルキル基であることが好ましい。当該アルキル基の炭素数は、1~4が好ましく、1~3がより好ましい。なかでも、式(2)のベンゼン環に結合する4つのR24のうち、2以上が水素原子であることが好ましく、3以上が水素原子であることがより好ましく、4つ全てが水素原子であることが特に好ましい。
【0074】
式(2)において、Xは硫黄原子、酸素原子またはイミノ基を表す。イミノ基は、式:-NR25-で表され、R25は水素原子または有機基を表す。R25の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基が好ましく挙げられ、これらの基の具体例は、上記のR24のアミノ基のRa4およびRa5の説明が参照される。Xは、COOR21、R22およびR23を含むエチレン構造部に対して、オルト位に結合していてもよく、メタ位に結合していてもよく、パラ位に結合していてもよい。なお、化合物の製造容易性の観点からは、Xはエチレン構造部に対してパラ位に結合していることが好ましい。Xは、硫黄原子またはイミノ基であることが好ましく、硫黄原子であることがより好ましい。
【0075】
式(2)において、Lは2価以上の連結基を表す。連結基Lは、2価、3価、4価、5価または6価である連結基用有機基の単独、またはこれら2価、3価、4価、5価または6価の連結基用有機基を結合することで構成されるn価の基であってもよい。
【0076】
2価の連結基用有機基には、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、-O-、-CO-、-S-、-SO-、SO2-、-NH-などが含まれる。アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基は、水酸基および/またはチオール基を有していてもよい。
【0077】
前記アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基などの炭素数が1~20、好ましくは炭素数が1~10、より好ましくは炭素数が1~4のアルキレン基が挙げられる。
【0078】
前記シクロアルキレン基としては、シクロプロパンジイル基、シクロブタンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサン-1,2-ジイル基、シクロヘキサン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ジイル基などの炭素数が3~20、好ましくは炭素数が4~10、より好ましくは炭素数が5~8のシクロアルキレン基が挙げられる。
【0079】
前記アリーレン基としては、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、1,3-ナフチレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、1,6-ナフチレン基、1,7-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、2,4-ナフチレン基、2,5-ナフチレン基、2,6-ナフチレンン基、2,7-ナフチレン基などの炭素数が3~20、好ましくは炭素数が4~10、より好ましくは炭素数が5~8のアリーレン基が挙げられる。
【0080】
前記ヘテロアリーレン基としては、フラン-2,3-ジイル基、フラン-2,4-ジイル基、フラン-2,5-ジイル基、フラン-3,4-ジイル基などの炭素数が3~20、好ましくは炭素数が3~10、より好ましくは炭素数が3~6のヘテロアリーレン基が挙げられる。
【0081】
2価の連結基用有機基としては、前記アルキレン基、前記シクロアルキレン基、前記アリーレン基などが好ましい。
【0082】
2価の連結基Lが、連結基用有機基を結合することで構成される2価の基であるときは、例えば、アルキレン基、-O-、アルキレン基の順に結合させた基;アルキレン基、-S-、アルキレン基の順に結合させた基;アルキレン基、-CO-、-O-、アルキレン基の順に結合させた基;アルキレン基、-CO-、-NH-、アルキレン基の順に結合させた基;アルキレン基、-O-、アルキレン基、-O-、アルキレン基の順に結合させた基;アリーレン基、アルキレン基、アリーレン基の順に結合させた基などが挙げられる。
【0083】
3価の連結基用有機基には、メチン基(-C<)、-N<、アルキル基を有していてもよい3価のベンゼン環、アルキル基を有していてもよい3価のナフタレン環などが含まれる。ベンゼン環またはナフタレン環が有していてもよいアルキル基としては、上記のR11~R18のアルキル基に関する説明が参照される。3価のベンゼン環としては、ベンゼン-1,2,3-トリイル基、ベンゼン-1,3,5-トリイル基などが挙げられる。3価のナフタレン環としては、ナフタレン-1,2,3-トリイル基、ナフタレン-1,3,6-トリイル基などが挙げられる。3価の連結基用有機基としては、3価のベンゼン環が好ましい。
【0084】
3価の連結基Lが連結基用有機基を結合することで構成される3価の基は、例えば、メチレン基、メチン基、メチレン基の順に結合させた基(n-プロパン-1,2,3-トリイル基)、エチレン基、メチン基、エチレン基の順に結合させた基(n-ヘキサン-1,3,6-トリイル基)などのC3-20アルカントリイル基;3つのメチン基を必要に応じて1つ以上のメチレン基と共に環状に結合することで構成される3価の基などのシクロC3-10アルカントリイル基;アルキル基を有する>C<と前記2価の連結基用有機基の3つとが結合した基、例えば、C1-4アルキル基を有する>C<と前記C2-4アルカン酸C1-4アルキルエステル残基(2価の基)の3つとが結合した基;などが挙げられる。
【0085】
4価の連結基用有機基には、>C<、アルキル基を有していてもよい4価のベンゼン環、アルキル基を有していてもよい4価のナフタレン環などが含まれる。ベンゼン環またはナフタレン環が有していてもよいアルキル基としては、上記のR11~R18のアルキル基に関する説明が参照される。4価のベンゼン環としては、ベンゼン-1,2,3,4-テトライル基、ベンゼン-1,2,4,5-テトライル基などが挙げられる。4価のナフタレン環としては、ナフタレン-1,2,3,4-テトライル基、ナフタレン-2,3,6,7-テトライル基、ナフタレン-1,4,5,6-テトライル基などが挙げられる。
【0086】
4価の連結基Lが連結基用有機基を結合することで構成される4価の基であるときは、例えば、メチレン基、メチン基、メチン基、メチレン基の順に結合させた基(n-ブタン-1,2,3,4-テトライル基)、エチレン基、メチン基、メチン基、エチレン基の順に結合させた基(n-ヘキサン-1,3,4,6-テトライル基)などのC4-20アルカンテトライル基;アルキル基を有する>C<と前記2価の連結基用有機基の4つとが結合した基、例えば、C1-4アルキル基を有する>C<と前記C2-4アルカン酸C1-4アルキルエステル残基(2価の基)の4つとが結合した基;などが挙げられる。
【0087】
5価の連結基用有機基には、アルキル基を有していてもよい5価のベンゼン環、アルキル基を有していてもよい5価のナフタレン環などが含まれる。ベンゼン環またはナフタレン環が有していてもよいアルキル基としては、上記のR11~R18のアルキル基に関する説明が参照される。5価のベンゼン環としては、ベンゼン-1,2,3,4,5-ペンタイル基などが挙げられる。5価のナフタレン環としては、ナフタレン-1,2,3,4,5-ペンタイル基、ナフタレン-1,2,3,5,6-ペンタイル基、ナフタレン-1,2,3,6,7-ペンタイル基などが挙げられる。
【0088】
6価の連結基用有機基には、6価のベンゼン環、6価のナフタレン環などが含まれる。6価のナフタレン環としては、ナフタレン-1,2,3,4,5,6-ヘキサイル基、ナフタレン-1,2,3,5,6,7-ヘキサイル基などが挙げられる。
【0089】
6価の連結基Lが連結基用有機基を結合することで構成される6価の基であるときは、例えば、前記C2-4アルカン酸C1-4アルキルエステル残基(2価の基)の3つが結合した>C<、メチレン基、-O-、メチレン基、前記C2-4アルカン酸C1-4アルキルエステル残基(2価の基)の3つが結合した>C<の順に結合させた基などの前記2価の連結基用有機基の3つが結合した>C<、アルキレン基、-O-、アルキレン基、前記2価の連結基用有機基の3つが結合した>C<の順に結合させた基などが挙げられる。
【0090】
2価、3価、4価、5価、または6価である連結基用有機基は、必要に応じて、ハロゲノ基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基などの置換基を有していてもよい。置換基を有する連結基用有機基としては、シアノ基を有する3~6価のベンゼン環、シアノ基を有する3~6価のナフタレン環などが好ましく、シアノ基を有する3~6価のベンゼン環がより好ましく、シアノ基を有する4価のベンゼン環がより好ましい。シアノ基を有する4価のベンゼン環としては、例えば、5,6-ジシアノベンゼン-1,2,3,4-テトライル基、3,6-ジシアノベンゼン-1,2,4,5-テトライル基などが挙げられる。
【0091】
式(2)の化合物の耐熱性を高める観点からは、連結基Lは、水素原子の一部が水酸基および/またはチオール基で置き換えられていてもよいアルキレン基、水素原子の一部が水酸基および/またはチオール基で置き換えられていてもよいシクロアルキレン基、水素原子の一部が水酸基および/またはチオール基で置き換えられていてもよいアリーレン基、-O-、-S-、およびこれらの基を組み合わせた連結基が好ましい(ただし、エーテル結合およびチオエーテル結合は連続しない)。アルキレン基の連続する炭素の数は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。シクロアルキレン基の炭素数は、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、また10以下が好ましく、8以下がより好ましい。アリーレン基の炭素数は、5以上が好ましく、6以上がより好ましく、また10以下が好ましく、8以下がより好ましい。
【0092】
シナメート系化合物としては、下記式(3)に示される化合物が特に好ましく示される。このようなシナメート系化合物は、例えば波長300nm~420nmの範囲に吸収極大を有するピークを有し、紫外(UVA)~紫色領域の光を効果的に吸収できるとともに、安定性に優れるものとなり、製造が容易になる。下記式(3)において、R21aとR21bの説明は上記のR21の説明が参照され、R22aとR22bの説明は上記のR22の説明が参照され、R23aとR23bの説明は上記のR23の説明が参照され、XaとXbの説明は上記のXの説明が参照される。
【0093】
【0094】
式(2)や式(3)で表される化合物は、国際公開第2019/009093号を参考に合成することができる。
【0095】
吸収層中の水溶性色素の含有量は、光選択カット光学部材の所望する光学性能に応じて適宜調整すればよいが、例えば吸収層100質量%中、色素の含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、また25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。このように吸収層中の色素含有量を調整することにより、所望の波長領域に吸収波長帯を十分広い範囲で有しやすくなるとともに、それ以外の波長領域での光線透過率を高めやすくなる。なお、ここで説明した吸収層中の色素の含有量は、吸収層を形成する際に用いる樹脂組成物においては、樹脂組成物の固形分(すなわち溶媒を除いた樹脂組成物)中の色素の含有量に当てはめることができる。後述する吸収層中の他の成分の含有量も同様に、樹脂組成物の固形分中の含有量に当てはめることができる。
【0096】
吸収層に含まれる水溶性色素が、可視光吸収色素と近赤外線吸収色素と紫外線吸収色素から選ばれる2種以上である場合、各色素の含有割合は、光選択カット光学部材の所望の光選択カット特性に応じて適宜調整すればよい。例えば、吸収層に含まれる全色素100質量%中、各色素の含有割合は5質量%~90質量%(好ましくは10質量%~80質量%)の範囲で適宜調整すればよい。一例として、光選択カット光学部材が近赤外領域と紫外領域の光をカットするものである場合、吸収層に含まれる近赤外線吸収色素と紫外線吸収色素の含有割合は、質量比(近赤外線吸収色素の含有量/紫外線吸収色素の含有量)で1/9~9/1が好ましく、2/8~8/2がより好ましい。
【0097】
吸収層に含まれる水溶性樹脂の屈折率は特に限定されないが、水溶性樹脂と基材との屈折率差は0.30以下が好ましく、0.25以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.15以下がさらにより好ましい。これにより、透過スペクトルのリップルを抑えやすくなる。なお、ここで説明した屈性率差は絶対値を表す。水溶性樹脂と基材との屈折率差の下限は特に限定されず0以上であればよいが、0.01以上であってもよい。
【0098】
吸収層を形成する樹脂組成物は、シランカップリング剤、シランカップリング剤の加水分解物、およびシランカップリング剤の加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。これにより、吸収層の基材への密着性を高めることができる。樹脂組成物は、シランカップリング剤の加水分解縮合物が含まれることがより好ましい。
【0099】
シランカップリング剤は、エポキシ基含有基、アミノ基含有基、メルカプト基含有基または重合性二重結合含有基を有することが好ましく、このような官能基とアルコキシシリル基を有する化合物を用いることが好ましい。シランカップリング剤には、上記の官能基が1つのみ含まれていてもよく、複数含まれていてもよく、またアルコキシシリル基が1つのみ含まれていてもよく、複数含まれていてもよい。
【0100】
シランカップリング剤がアルコキシシリル基を複数含むものである場合、当該シランカップリング剤としては、ポリマー型多官能シランカップリング剤を用いることができる。ポリマー型多官能シランカップリング剤は、有機ポリマー鎖に基とアルコキシシリル基含有基が結合した構造を有しており、1分子中にアルコキシシリル基を複数含むとともに、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、重合性二重結合基等の官能基も複数含むことができる。なお、ポリマー型多官能シランカップリング剤の有機鎖にはポリシロキサンは含まれない。ポリマー型多官能シランカップリング剤はこのように構成されることにより、樹脂や基材との反応点が多く形成され、吸収層の基材への密着性を高めることができる。
【0101】
シランカップリング剤の加水分解物は、当該シランカップリング剤に含まれるアルコキシシリル基を加水分解によりシラノール基に変換することで得ることができる。また、シランカップリング剤の加水分解縮合物は、当該シランカップリング剤の加水分解物に含まれるシラノール基を脱水縮合させてシロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成することにより得ることができる。通常シランカップリング剤を加水分解させると、シランカップリング剤の加水分解物が得られるとともに、当該加水分解物に含まれるシラノール基の脱水縮合反応も起こることにより、シランカップリング剤の加水分解縮合物も容易に得られる。シランカップリング剤の加水分解縮合物は、同種のシランカップリング剤の加水分解物の脱水縮合物であってもよく、異種のシランカップリング剤の加水分解物の脱水縮合物であってもよい。
【0102】
吸収層中の上記シランカップリング剤、シランカップリング剤の加水分解物、およびシランカップリング剤の加水分解縮合物の含有量は、吸収層100質量%中、0質量%以上であればよく、0.1質量%以上、0.5質量%以上、または1質量%以上であってもよく、また20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0103】
吸収層には、表面調整剤が含有されていてもよい。吸収層に表面調整剤が含まれることにより、樹脂組成物を硬化して吸収層を形成した際に、吸収層にストライエーションや凹み等の外観上の欠陥を生じることを抑制することができる。表面調整剤は、吸収層100質量%中、例えば0.01~1質量%含まれていればよい。
【0104】
表面調整剤の種類は特に限定されず、シロキサン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系レベリング剤などを用いることができる。中でも、表面調整剤としては、シロキサン系界面活性剤またはアクリル系レベリング剤を用いることが好ましく、シロキサン系界面活性剤を用いることがより好ましい。
【0105】
シロキサン系界面活性剤としては、シロキサン結合を有する界面活性剤であれば特に限定されず、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アルキル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。中でも、吸収層中における色素(特にスクアリリウム化合物やクロコニウム化合物)の分散性の観点から、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンは、親水基がポリアルキレンオキサイド(より好ましくはエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド)、疎水基がジメチルシロキサンで構成される非イオン系の界面活性剤であることが特に好ましい。
【0106】
吸収層には、上記以外の添加剤として、必要に応じて、可塑剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、比抵抗調整剤、pH調整剤、安定性向上剤、密着性向上剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0107】
吸収層は、水溶性樹脂と水溶性色素を含有する樹脂組成物から形成することができるが、当該樹脂組成物は、射出成形等の成形に用いることのできる熱可塑性樹脂組成物であってもよく、基材上に塗工できるよう塗料化された樹脂組成物であってもよい。なお本発明では、吸収層を形成する樹脂組成物は水溶性樹脂と水溶性色素を含有することから、樹脂組成物は水系溶媒により塗料化されたものであることが好ましい。樹脂組成物に含まれる樹脂成分は、重合が完結した樹脂のみならず、樹脂原料(樹脂の前駆体、当該前駆体の原料、樹脂を構成する単量体等を含む)であって、樹脂組成物を成形する際に重合反応または架橋反応して樹脂に組み込まれるものも用いることができる。樹脂成分としては、上記に説明した各水溶性樹脂を用いることができる。
【0108】
塗料化された樹脂組成物としては、溶媒を含む樹脂組成物が挙げられる。溶媒は、樹脂組成物に含まれる各成分を溶解するように機能するものであっても、分散媒として機能するものであってもよい。溶媒としては、水やアルコール等の水系溶媒を用いることが好ましく、アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数5以下(好ましくは炭素数4以下であり、より好ましくは炭素数3以下)のアルコールが好ましく用いられる。これにより、光選択カット光学部材の製造の際の環境負荷を低減することができる。溶媒としては、水を用いることが特に好ましい。
【0109】
溶媒の含有量は、塗料化された樹脂組成物100質量%中、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、また95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0110】
塗料化された樹脂組成物は、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等により塗工できる。この場合、液状の樹脂組成物を基材(例えば、樹脂板、フィルム、ガラス板等)上に塗工することで、基材上に、厚さ200μm以下のフィルム状や、厚さ200μm超のシート状の吸収層を形成することができる。
【0111】
吸収層の厚さは特に限定されないが、所望の光選択カット性能を確保する点から、例えば0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。吸収層の厚みの上限としては、例えば1mm以下であってもよく、500μm以下、200μm以下、あるいは50μm以下であってもよい。より薄い光選択カット光学部材を形成する観点からは、吸収層の厚みは20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下がさらにより好ましく、2μm以下が特に好ましい。
【0112】
光選択カット光学部材は、基材、吸収層、誘電体膜以外に、他の層(膜)を有していてもよい。他の層(膜)としては、防眩性を有する層、傷付き防止性能を有する層、金属膜等が挙げられる。
【0113】
光選択カット光学部材の厚みは、例えば、1mm以下であることが好ましい。これにより、例えば、撮像素子の小型化への要請に十分に応えることができる。光選択カット光学部材の厚みは、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは150μm以下であり、また30μm以上が好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
【0114】
本発明の光選択カット光学部材はセンサーとして好適に適用することができ、すなわちセンサー用の光選択カット光学部材とすることができる。センサーとしては、イメージセンサー、照度センサー、近接センサー等が挙げられる。イメージセンサーは、被写体の光を電気信号等に変換して出力する電子部品として用いられ、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等が挙げられる。イメージセンサーは、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等に用いることができる。
【0115】
本発明は、本発明の光選択カット光学部材の吸収層に含まれる色素として好適に用いることができるフタロシアニン化合物も提供する。本発明のフタロシアニン化合物は、下記式(1)で表されるものであり、下記式(1)中、MおよびR1~R16は上記に説明した通りである。ただし、R1~R16のうち5つ以上(好ましくは6つ以上)が-OR17または-SR18であり、当該R17およびR18は、カルボキシ基またはその塩を有するアリール基、またはカルボキシ基またはその塩を有するアラルキル基であり、好ましくはカルボキシ基またはその塩を有するアリール基である。これらのアリール基とアラルキル基は、カルボキシ基以外の置換基を有していてもよく、当該置換基としては、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲノ基、水酸基、アミノ基、ニトロ基が好ましく、ハロゲノ基がより好ましい。本発明のフタロシアニン化合物は、水への溶解性に優れるものとなる。
【0116】
【0117】
本発明のフタロシアニン系化合物は、上記式(1)において、R1~R4のうちの1つ以上、R5~R8のうちの1つ以上、R9~R12のうちの1つ以上、およびR13~R16のうちの1つ以上が、上記の-OR17または-SR18であることが好ましい。さらに、R1~R16のうち少なくとも1つがハロゲン原子であることが好ましく、4つ以上がハロゲン原子であることがより好ましく、6つ以上がハロゲン原子であることがさらに好ましく、また、R1~R4のうちの1つ以上、R5~R8のうちの1つ以上、R9~R12のうちの1つ以上、およびR13~R16のうちの1つ以上が、ハロゲン原子であることが好ましい。
【実施例0118】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0119】
(1)色素の合成
(1-1)合成例1:近赤外線吸収色素Aの合成
2000mLの四つ口セパラブルフラスコに、テトラフルオロフタロニトリル108g(0.54mol)、フッ化カリウム69.0g(1.18mol)、アセトン252gを仕込んだ。このフラスコに、3-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸メトキシエチルエステル254g(1.1mol)およびアセトン432gを仕込んだ滴下ロートを取り付け、氷冷下、攪拌しながら、滴下ロートより3-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸メトキシエチルエステル溶液を約2時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を続けた。その後、フラスコ内の反応液の温度を室温までゆっくりと上昇させ、一晩撹拌した。反応液をろ過し、ロータリーエバポレーターでろ液からアセトンを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥により、中間体(1)を217.4g(収率64.8%)得た。
【0120】
500mLの平底フラスコに、上記で得られた中間体(1)を150.0g(0.2414mol)、ヨウ化亜鉛(II)を19.26g(0.0603mol)、ベンゾニトリルを225.0g入れ、窒素流通下(10ml/min)、平板撹拌翼を用いて回転数200rpmで撹拌しながら、フラスコ内の反応液の温度を160℃に昇温し、同温度にてフタロシアニン化反応を行った。反応終了後、メチルセロソルブ470gを反応液に加え、メタノール3.8kgと水0.6kgの混合溶液に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。得られたケーキを再度、メタノール1.9kgと水0.3kgの混合溶液で撹拌洗浄し、吸引ろ過した。得られたケーキを、真空乾燥機を用いて90℃で24時間乾燥することにより、フタロシアニン系化合物の中間体(2)を137.0g(収率89.1%)得た。
【0121】
300mLの丸底フラスコに、上記で得られた中間体(2)を12.76g(0.005mol)、水酸化ナトリウムを1.60g(0.04mol)、2-メトキシエタノールを76.09g(1.0mol)入れ、窒素流通下(50ml/min)、回転子で撹拌しながら、フラスコ内の反応液の温度を100℃に昇温し、同温度にてケン化反応を行った。反応終了後、エバポレーターで反応液を濃縮後、80℃で一晩真空乾燥し、表1に示す水溶性の近赤外線吸収色素Aを得た(収率98.2%)。
【0122】
【0123】
(1-2)合成例2:近赤外線吸収色素Bの合成
特許第5066417号公報の実施例1に記載の方法に従い、表1に示す水溶性の近赤外線吸収色素Bを合成した。
【0124】
(1-3)合成例3:近赤外線吸収色素Dの合成
特開2016-74649号公報の実施例1-18に記載の方法に従い、表1に示す非水溶性の近赤外線吸収色素Dを合成した。
【0125】
(1-4)合成例4:近赤外線吸収色素Eの合成
特開2020-132699号公報の合成例2に従い、表1に示す非水溶性の近赤外線吸収色素Eを合成した。
【0126】
【0127】
(1-5)合成例5:紫外線吸収色素Bの合成
200mLの四つ口フラスコに、4-フルオロベンズアルデヒド4.98g(0.039mol)、エチレングリコールビス(2-メルカプトエチル)エーテル2.72g(0.020mol)、炭酸カリウム10.86g(0.079mol)、アセトニトリル74gを仕込み、窒素流通下(10mL/min)、撹拌羽を用いて撹拌しながら60℃で12時間反応させた。反応終了後、減圧ろ過によって不溶分をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた濃縮物を200mLの四つ口フラスコに入れ、そこにシアノ酢酸イソブチル5.19g(0.079mol)、ピペリジン3.32g(0.039mol)、メタノール68gを加え、還流温度条件下で、4時間反応させた。反応終了後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた濃縮物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)によって精製を行い、表2に示す非水溶性の紫外線吸収色素Bを4.6g(収率79.6%)得た。
【0128】
(1-6)合成例6:紫外線吸収色素Aの合成
500mLの四つ口フラスコに、合成例6で得られた紫外線吸収色素Bを5.24g(0.0082mol)、水酸化ナトリウムを0.66g(0.0164mol)、メタノール80gを加え、窒素流通下(10mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、湯浴を用いて60℃に加熱し、約5時間撹拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、さらにアセトン200gを加えて約30分間攪拌した。撹拌後、析出した結晶を減圧ろ過した。ろ別した結晶を、真空乾燥機を用いて60℃で12時間乾燥し、表2に示す水溶性の紫外線吸収色素Aを4.2g(収率87.5%)得た。
【0129】
【0130】
(2)樹脂の合成
(2-1)ポリアリレート樹脂の合成
撹拌翼を備えた容量2Lの反応容器に、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10.01g(0.044mol)、水酸化ナトリウム3.59g(0.090mol)、イオン交換水300gを仕込み、溶解させた後、そこにトリエチルアミン0.89g(0.009mol)を加えて溶解させた。テレフタル酸ジクロリド3.57g(0.021mol)とイソフタル酸ジクロリド3.57g(0.021mol)を500gの塩化メチレンに溶解させた溶液を滴下ロートに入れ、これを前記反応容器に取り付けた。反応容器中の溶液を20℃に保ちながら撹拌し、滴下ロートから塩化メチレン溶液を60分間かけて滴下した。さらにそこに、塩化ベンゾイル0.71g(0.005mol)を10gの塩化メチレンに溶解させた溶液を添加し、60分間撹拌した。得られた反応液に酢酸水溶液を加えて中和して、水相のpHを7にしてから分液ロートを用いて油相と水相を分離した。得られた油相を、撹拌下、メタノールに滴下してポリマーを再沈させ、沈殿をろ過により回収し、80℃オーブンで乾燥して白色固体のポリアリレート樹脂を得た。収量は11.5gであった。得られたポリアリレート樹脂の重量平均分子量(Mw)は33,780、数平均分子量(Mn)は8,130であった。ポリアリレート樹脂の重量平均分子量と数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により求めたポリスチレン換算の値である。
【0131】
(2-2)フッ素化芳香族樹脂の合成
温度計、冷却管、ガス導入管、撹拌翼を備えた反応器に、4,4’-ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル16.74g、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン10.5g、炭酸カリウム4.34g、ジメチルアセトアミド90gを仕込んだ。反応容器中の溶液を撹拌しながら80℃に加温し、8時間反応させた。反応終了後、反応液をブレンダーで激しく撹拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物をろ別し、蒸留水およびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、フッ素化芳香族樹脂を得た。フッ素化芳香族樹脂のガラス転移点温度(Tg)は242℃であり、数平均分子量(Mn)は70,770であった。フッ素化芳香族樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により求めたポリスチレン換算の値である。
【0132】
(3)シランカップリング剤の加水分解溶液の調製
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(ダウ・東レ社製、OFS-6040)24.7gと2-プロパノール32.1gと蒸留水3.4gとを配合し、25℃で均一に混合した。そこに、ギ酸1.54gを加えて90分間混合し、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解反応を進行させることにより、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物を調製した。
【0133】
(4)樹脂組成物の調製
(4-1)調製例1
ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K-90)100質量部にイオン交換水1800質量部を加え、そこに近赤外線吸収色素Aを5質量部加え、室温で均一に混合した。これを孔径0.45μmのフィルター(GLサイエンス社製、水系13A)でろ過して異物を取り除き、樹脂組成物1を得た。
【0134】
(4-2)調製例2
ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K-90)100質量部にイオン交換水2000質量部を加え、そこに近赤外線吸収色素Aを5質量部と紫外線吸収色素Aを11質量部加えて、室温で均一に混合し、樹脂組成物2を得た。
【0135】
(4-3)調製例3
ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K-90)60質量部と水溶性メラミン樹脂(三和ケミカル社製、ニカラック(登録商標)MX035)40質量部とイオン交換水1800質量部を配合し、そこに近赤外線吸収色素Aを5質量部加えて、室温で均一に混合し、樹脂組成物3を得た。
【0136】
(4-4)調製例4
調製例1において近赤外線吸収色素Aを近赤外線吸収色素Bに変更した以外は、調製例1と同様にして樹脂組成物4を得た。
【0137】
(4-5)調製例5
調製例1において近赤外線吸収色素Aを表1に示す近赤外線吸収色素C(FEW Chemicals社製、S2493)に変更した以外は、調製例1と同様にして樹脂組成物5を得た。
【0138】
(4-6)調製例6
ポリアリレート樹脂100質量部をトルエン350質量部とo-キシレン530質量部の混合溶媒に加え、さらにそこに近赤外線吸収色素Dを6.3質量部、近赤外線吸収色素Eを2.6質量部、紫外線吸収色素Bを11.2質量部、表面調整剤としてビックケミー社製BYK-310(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)0.3質量部、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)3.0質量部、シランカップリング剤の加水分解溶液を10質量部加え、均一に混合した。これを孔径0.1μmのフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過して異物を取り除き、樹脂組成物6を得た。
【0139】
(4-7)調製例7
ポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、HF77)100質量部にトルエン1800質量部を加え、そこに近赤外線吸収色素Eを2.6質量部、紫外線吸収色素Bを11.2質量部加え、均一に混合した。これを孔径0.1μmのフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過して異物を取り除き、樹脂組成物7を得た。
【0140】
(4-8)調製例8
調製例7においてポリスチレン樹脂をフッ素化芳香族樹脂に変更した以外は、調製例7と同様にして樹脂組成物8を得た。
【0141】
(5)光選択カット光学部材の作製
樹脂組成物1~8をガラス基板(Schott社製、D263Teco)上に2cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H-D7)を用い、0.2秒間かけて1900回転にし、20秒間その回転数で保持し、その後0.2秒間かけて0回転になるようにして、樹脂組成物をガラス基板上に成膜した。樹脂組成物を成膜したガラス基板を、精密恒温器(ヤマト科学社製、DH611)を用いて100℃で3分間初期乾燥した(キュア前)。その後、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて50℃で30分間窒素置換した。樹脂組成物1~6を用いた場合は、15分程度で180℃に昇温し、窒素雰囲気下で30分乾燥させることにより、ガラス基板上に吸収層(樹脂層)を形成した(キュア後)。樹脂組成物7,8を用いた場合は、15分程度で190℃に昇温し、窒素雰囲気下で1時間乾燥させることにより、ガラス基板上に吸収層(樹脂層)を形成した(キュア後)。ガラス基板上に形成した吸収層の厚みは約2μmであった。
【0142】
上記で得られた吸収層積層基板の吸収層の上に、高速IAD真空薄膜型形成装置(シンクロン社製、BIS-1300D)を用いて、イオンアシストを用いた電子ビーム蒸着により酸化ケイ素層を500nmの厚さで蒸着して誘電体膜を形成し(蒸着後)、光選択カット光学部材を得た。酸化ケイ素の蒸着に使用した蒸着源としては、MERCK社製のPatinal Evaporation MaterialsのItem No.1080441000を用いた。成膜時の真空圧は2×10-2Pa(絶対圧)とし、アシストパワーの加速電圧を1000V、加速電流を1200mAとした。IAD(イオン銃)には酸素ガスを60sccmの流量で導入し、基板ヒーター温度を90℃に設定した。樹脂組成物1~5を用いて作製した例をそれぞれ実施例1~5とし、樹脂組成物6~8を用いて作製した例をそれぞれ比較例1~3とした。
【0143】
(6)評価
(6-1)透過スペクトル測定
分光光度計(島津製作所社製、UV-1800)を用いて透過スペクトルを測定ピッチ1nmで測定し、波長300nm~1000nmにおける光の透過率を求めた。透過スペクトルは、キュア前、キュア後および蒸着後のそれぞれの光学部材について測定した。具体的な例として、実施例1のキュア前、キュア後および蒸着後のそれぞれの光学部材の透過スペクトルを
図1および
図2に示した。また、表3に、キュア前後の波長500nmにおける透過率変化の結果を示した。
【0144】
(6-2)リップルの評価
キュア後の光学部材について、透過領域(例えば波長450nm~550nmまたは450nm~600nmの範囲)における透過スペクトルを見て、リップルの発生の有無を確認した。具体的な例として、実施例1および比較例1~3のキュア後のそれぞれの光学部材の透過領域の透過スペクトルの拡大図を
図3~
図6に示した。また、リップルの発生度合いの指標として、波長500nm~520nmにおける最大透過率と最小透過率の差を求めた結果を、表3に示した。
【0145】
(6-3)耐熱性評価
キュア前後の光学部材について、波長500nmにおけるキュア前の透過率とキュア後の透過率の差を求め、その結果を表3に示した。この結果から、吸収層の耐熱性を評価した。
【0146】
(6-4)密着性評価
(6-4-1)初期耐剥離性試験
蒸着後の光学部材にカッター(エヌティー社製、A-300)で切り込みを入れ、縦列、横列にそれぞれ2mm間隔で10本のクロスカット線を設けることによって4mm2の四角を81マス作製し、評価用サンプル基板を作製した。このサンプル基板を、空気が入らないようにテープ(3M(スリーエム)社製、スコッチ(登録商標)透明粘着テープ透明美色(登録商標))を貼り付け、5秒間放置した。その後、サンプル基板からのテープの剥離を60°方向へ1秒以内に行い、下記基準で評価した。なお、いずれのマスにおいても剥離力が一定となるようにテープの剥離を行った。
A:作製した81マスの四角のうち、1マスも剥がれが発生しなかった
B:作製した81マスの四角のうち、1~9マスに剥がれが発生した
C:作製した81マスの四角のうち、10~81マスに剥がれが発生した
【0147】
(6-4-2)水煮沸後耐剥離性試験
蒸着後の光学部材にカッター(エヌティー社製、A-300)で切り込みを入れ、縦列、横列にそれぞれ2mm間隔で10本のクロスカット線を設けることによって4mm2の四角を81マス作製し、評価用サンプル基板を作製した。次に、このサンプル基板を、沸騰状態に加熱した超純水中に入れ、2時間煮沸した。続いて、室温にて、空気が入らないようにテープ(3M(スリーエム)社製、スコッチ(登録商標)透明粘着テープ透明美色(登録商標))を貼り付け、5秒間放置した。その後、サンプル基板からのテープの剥離を60°方向へ1秒以内に行い、下記基準で評価した。なお、いずれのマスにおいても剥離力が一定となるようにテープの剥離を行った。
A:作製した81マスの四角のうち、1マスも剥がれが発生しなかった
B:作製した81マスの四角のうち、1~9マスに剥がれが発生した
C:作製した81マスの四角のうち、10~81マスに剥がれが発生した
【0148】
【0149】
(7)結果
実施例1~5は、吸収層が水溶性樹脂と水溶性色素を含有するものであり、ガラス基板上に吸収層を形成した光学部材は、透過領域の透過スペクトルにリップルの発生が認められなかった。また、波長500nm~520nmにおける最大透過率と最小透過率の差も小さいものとなった。一方、比較例1~3は、吸収層が非水溶性樹脂と非水溶性色素を含有するものであり、ガラス基板上に吸収層を形成した光学部材は、透過領域の透過スペクトルにリップルの発生が確認された。また、波長500nm~520nmにおける最大透過率と最小透過率の差は、実施例よりも大きいものとなった。耐熱性については、実施例1~5も比較例1~3もいずれも、波長500nmにおけるキュア前後の透過率変化が小さく、十分な耐熱性を有していた。実施例1~5はまた、いずれも初期密着性と水煮沸後密着性の両方に優れるものとなった。
本発明の光選択カット光学部材は、表示素子や撮像素子等の光学デバイス等、種々の分野において用いることが可能である。例えば、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等の電子部品に使用できる。