(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024604
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】抗体依存性細胞障害活性の測定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240215BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240215BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20240215BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240215BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20240215BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20240215BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12N5/0783
C12N5/10
C12N5/09
C07K14/705
C12N9/02
C07K16/30
C07K19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125808
(22)【出願日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2022126770
(32)【優先日】2022-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年8月24日 雑誌Science Directのホームページ(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165242721001331)において、文書をもって発表。
(71)【出願人】
【識別番号】591281220
【氏名又は名称】日本全薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊賀瀬 雅也
(72)【発明者】
【氏名】武田 美穂
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA86
4H045DA89
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】イヌを投与対象とする抗体において、ばらつきが少なく、再現性が高い抗体依存性細胞障害活性の測定方法を提供する。
【解決手段】イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞に、抗体と、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞とを作用させる工程と、イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞の細胞死を検出する工程を含む、抗体依存性細胞障害活性の測定方法。さらに、当該ヒト由来のNK細胞がNK-92細胞である抗体依存性細胞障害活性の測定方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞に、抗体と、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞とを作用させる工程と、イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞の細胞死を検出する工程を含む、抗体依存性細胞障害活性の測定方法。
【請求項2】
ヒト由来のNK細胞がNK-92細胞である請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
イヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞が、標識物質を含むリンパ腫由来細胞である請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
イヌ腫瘍抗原がCD20である請求項1に記載の測定方法。
【請求項5】
標識物質がルシフェラーゼである請求項3に記載の測定方法。
【請求項6】
リンパ腫由来細胞がA20細胞又はEL-4細胞である請求項3に記載の測定方法。
【請求項7】
抗体がイヌ腫瘍抗原に対する抗体であって、かつ、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体である請求項1に記載の測定方法。
【請求項8】
抗体が抗イヌCD20抗体である請求項7に記載の測定方法。
【請求項9】
抗体依存性細胞障害活性を測定するための、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞。
【請求項10】
イヌCD16をコードする遺伝子及びイヌFcε受容体γ鎖をコードする遺伝子をヒト由来のNK細胞に導入する工程を含む、請求項9に記載の細胞を製造する方法。
【請求項11】
抗体依存性細胞障害活性を測定するための、イヌCD20と標識物質をリンパ腫由来細胞に発現させてなる細胞。
【請求項12】
イヌCD20をコードする遺伝子と標識物質をコードする遺伝子をリンパ腫由来細胞に導入する工程を含む、請求項11に記載の細胞を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体依存性細胞障害活性の測定方法に関する。さらに詳しくはイヌの腫瘍に対する抗体依存性細胞障害活性の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍の治療にあたり、様々な抗体医薬が開発されており、これらの機能の評価には、抗体依存性細胞障害(antibody-dependent cellular cytotoxicity (ADCC)、以下、単にADCCと示す場合がある)活性を測定することが不可欠となっている。
例えば、特許文献1では、癌患者に投与する治療剤として、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性および/または補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有する抗GPC3抗体を含むGPC3標的治療剤が開示されている。また、特許文献2では、癌を治療するための併用治療剤において、ADCCを誘導するネイティブのモノクローナル抗体が開示されている。
このように、ヒトを投与対象とする腫瘍の治療において、ADCC活性を測定し、十分に機能が確認された抗体医薬を得る技術は確立されているものの、ヒト以外の、例えば、イヌ等の動物を投与対象とする抗体医薬については十分な技術が確立されているとはいえなかった。
【0003】
抗体依存性細胞障害は、ナチュラルキラー細胞(以下、単にNK細胞と示す場合がある)上のCD16、FcγIIIa受容体による、抗体のFc領域の認識により誘導される。しかし、イヌのNK細胞については、ADCCが誘導されるとは必ずしもいえなかった。
そのためイヌを投与対象とする抗体医薬については、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)と呼ばれるイヌ初代末梢血単核細胞(PBMC細胞)や、インターロイキン-2(IL-2)で刺激されたPBMC細胞が、ADCC活性の測定に使用されてきた(例えば、非特許文献1~4等)。しかし、ADCC活性の測定のたびに、これらの細胞を準備する必要があるため、細胞の性質にばらつきがあり、再現性のある結果が得られないという問題があった。
そこで、本発明者らはイヌを投与対象とする抗体について、ばらつきが少なく、再現性の高い抗体依存性細胞障害活性の測定方法の提供を試みた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/170480号パンフレット
【特許文献2】特許第6748105号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kim, Y., Lee, S.H., Kim, C.J., Lee, J.J., Yu, D., Ahn, S., Shin, D.J., Kim, S.K., 2019. Canine non-B, non-T NK lymphocytes have a potential antibody-dependent cellular cytotoxicity function against antibody-coated tumor cells. BMC Vet. Res. 15, 339.
【非特許文献2】Mizuno, T., Kato, Y., Kaneko, M.K., Sakai, Y., Shiga, T., Kato, M., Tsukui, T., Takemoto, H., Tokimasa, A., Baba, K., Nemoto, Y., Sakai, O., Igase, M., 2020. Generation of a canine anti-canine CD20 antibody for canine lymphoma treatment. Sci. Rep. 10, 11476.
【非特許文献3】Oyamada, T., Okano, S., 2020. Cytotoxicity effect of trastuzumab on canine peripheral blood mononuclear cells. Iran J. Vet. Res. 21, 263-268.
【非特許文献4】Strietzel, C.J., Bergeron, L.M., Oliphant, T., Mutchler, V.T., Choromanski, L.J., Bainbridge, G., 2014. In vitro functional characterization of feline IgGs. Vet. Immunol. Immunopathol. 158, 214-223.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イヌを投与対象とする抗体について、ばらつきが少なく、再現性が高い抗体依存性細胞障害活性の測定方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞を作製した。そして、イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞に、抗体と、この細胞を作用させることにより、ばらつきが少なく、再現性が高い抗体依存性細胞障害活性の測定が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(12)に示される抗体依存性細胞障害活性の測定方法等に関する。
(1)イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞に、抗体と、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞とを作用させる工程と、イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞の細胞死を検出する工程を含む、抗体依存性細胞障害活性の測定方法。
(2)ヒト由来のNK細胞がNK-92細胞である上記(1)に記載の測定方法。
(3)イヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞が、標識物質を含むリンパ腫由来細胞である上記(1)又は(2)に記載の測定方法。
(4)イヌ腫瘍抗原がCD20である上記(1)~(3)のいずれかに記載の測定方法。
(5)標識物質がルシフェラーゼである上記(3)又は(4)に記載の測定方法。
(6)リンパ腫由来細胞がA20細胞又はEL-4細胞である上記(3)~(5)のいずれかに記載の測定方法。
(7)抗体がイヌ腫瘍抗原に対する抗体であって、かつ、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体である上記(1)~(6)のいずれかに記載の測定方法。
(8)抗体が抗イヌCD20抗体である上記(7)に記載の測定方法。
(9)抗体依存性細胞障害活性を測定するための、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞。
(10)イヌCD16をコードする遺伝子及びイヌFcε受容体γ鎖をコードする遺伝子をヒト由来のNK細胞に導入する工程を含む、上記(9)に記載の細胞を製造する方法。
(11)抗体依存性細胞障害活性を測定するための、イヌCD20と標識物質をリンパ腫由来細胞に発現させてなる細胞。
(12)イヌCD20をコードする遺伝子と標識物質をコードする遺伝子をリンパ腫由来細胞に導入する工程を含む、上記(11)に記載の細胞を製造する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、イヌを投与対象とする抗体においても、ばらつきが少なく、再現性の高い抗体依存性細胞障害活性の測定方法の提供が可能となった。さらに本発明の測定方法を用いることにより、イヌを投与対象とする腫瘍の治療において有用な抗体医薬の開発も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】イヌCD16とイヌFcε受容体γ鎖の融合タンパク質をコードするプラスミドの模式図を示したものである。
【
図2】pMx-luc-IHのベクターマップを示した図である(実施例2)。
【
図3】イヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞株を標識細胞とし、NK-92/cCD16γ細胞株をエフェクター細胞とした場合の細胞媒介性細胞障害活性を示した図である(実施例3)。
【
図4】A20/cCD20/luc細胞株を標的細胞とし、NK-92細胞株又はNK-92/cCD16γ細胞株をエフェクター細胞とした場合の細胞媒介性細胞障害活性を示した図である(実施例3)。
【
図5】A20/cCD20/luc細胞株を標的細胞とし、NK-92細胞株をエフェクター細胞株とした場合の抗体の濃度依存的な細胞媒介性細胞障害活性を示した図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「抗体依存性細胞障害活性の測定方法」とは、「イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞」に、「抗体」と、「イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞」とを作用させる工程を含み、かつ、「イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞」の細胞死を検出する工程を含む方法のことをいう。この「抗体依存性細胞障害活性の測定方法」は、これらの工程を含む方法であれば、抗体依存性細胞障害活性の測定に有用なその他の工程を含んでいてもよい。
【0012】
ここで、「イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞」とは、抗体の標的となる細胞のことを指す。「イヌ腫瘍由来の細胞」は、イヌの腫瘍から直接採取した細胞であってもよく、採取した細胞を培養したものであってもよい。
また、「イヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞」は、イヌ腫瘍抗原として知られるCD20、CD19、CD70等をコードする遺伝子を組み込み、リンパ腫等を由来とする細胞に発現させた細胞のことをいう。イヌ腫瘍抗原を発現させることができる細胞であれば、いずれの細胞であってもよく、ヒト、イヌ、マウス等のリンパ腫由来細胞が挙げられる。マウスのリンパ腫由来細胞としては、例えば、A20細胞やEL-4細胞等が挙げられる。
「イヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞」はさらに、イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞の細胞死を検出するための標識物質を含むことが好ましい。標識物質としては、ルシフェラーゼ、放射性同位元素等が挙げられる。
【0013】
また、「イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞」とは、本願発明の「抗体依存性細胞障害活性の測定方法」においてエフェクター細胞として働く細胞のことを指す。
「イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質」とは、イヌCD16の細胞外ドメインと細胞内ドメインとしてイヌFcε受容体γ鎖を含むタンパク質のことをいう。
イヌCD16の細胞外ドメインは配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものであればよい。なお、ここで数個とは、33個、32個、31個、30個、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
また、イヌFcε受容体γ鎖は配列表配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものであればよい。なお、ここで数個とは、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
【0014】
このような「イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質」は、
図1の模式図に示されるように、イヌCD16をコードする遺伝子(
図1、Canine CD16)と、イヌFcε受容体γ鎖(
図1、Canine Fcε R γ chain)をコードする遺伝子を含むプラスミドを、ヒト由来のNK細胞に導入することで発現させることができる。
また、ヒト由来のNK細胞は、本願発明の「抗体依存性細胞障害活性の測定方法」においてエフェクター細胞として働く細胞となり得る細胞であればいずれのものであってもよく、例えば、NK-92細胞、KAI3細胞、KYHG-1細胞等のヒトNK細胞が挙げられるが、特にNK-92細胞であることが好ましい。
【0015】
「抗体」は、本願発明の「抗体依存性細胞障害活性の測定方法」の使用対象となり得る抗体であればいずれのものであってもよいが、「イヌ腫瘍抗原に対する抗体」であることが好ましい。この「抗体」は「抗イヌCD20抗体」であることが特に好ましい。「抗体」は市販のものであっても良く、独自に作製したものであってもよい。抗体医薬として使用し得る「抗体」であることが特に好ましい。
「抗イヌCD20抗体」としては、例えば、参考文献1(特開2021-059499号公報)と同様の方法によって得られる、イヌIgG重鎖のうちIgG-Bの定常領域を有する4E1-7-B抗体、IgG-Cの定常領域を有する4E1-7-C抗体や、これらの脱フコシル化抗体である4E1-7-B_f抗体等が挙げられる。また、参考文献2(特開2019-026625号公報)と同様の方法によって得られる、4E1-7抗体であってもよい。さらに、「抗イヌCD20抗体」は、カイコ、タバコ等を用いて得た抗体等であってもよい。
【0016】
本発明の「抗体依存性細胞障害活性を測定するための、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞」とは、上述の「イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞」であって、抗体依存性細胞障害活性を測定するために用いられる細胞のことをいう。
この細胞は、「イヌCD16をコードする遺伝子及びイヌFcε受容体γ鎖をコードする遺伝子をヒト由来のNK細胞に導入する工程」を含む製造方法によって得ることができる。この製造方法は、当該細胞を製造するために有用なその他の工程を含む方法であってもよい。
本発明の「抗体依存性細胞障害活性を測定するための、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞」は、例えば、「イヌCD16をコードする遺伝子」と「イヌFcε受容体γ鎖をコードする遺伝子」をクローニングし、増幅した後、ウイルス発現プラスミドに組み込み、これを細胞に導入することで産生されたウイルスを、ヒト由来のNK細胞に添加することで製造することができる。
【0017】
ここで、「イヌCD16をコードする遺伝子」は、配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する、イヌCD16の細胞外ドメインを含むものをコードする遺伝子であればよい。なお、ここで数個とは、33個、32個、31個、30個、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
また、「イヌFcε受容体γ鎖をコードする遺伝子」は、配列表配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する、細胞内ドメインとしてイヌFcε受容体γ鎖を含むものをコードする遺伝子であればよい。なお、ここで数個とは、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
【0018】
また、本発明の「抗体依存性細胞障害活性を測定するための、イヌCD20と標識物質をリンパ腫由来細胞に発現させてなる細胞」とは、上述の「イヌCD20と標識物質をリンパ腫由来細胞に発現させてなる細胞」であって、抗体依存性細胞障害活性を測定するために用いられる細胞のことをいう。
この細胞は、「イヌCD20をコードする遺伝子と標識物質をコードする遺伝子をリンパ腫由来細胞に導入する工程」を含む製造方法によって得ることができる。この製造方法は、当該細胞を製造するために有用なその他の工程を含む方法であってもよい。
本発明の「抗体依存性細胞障害活性を測定するための、イヌCD20と標識物質をリンパ腫由来細胞に発現させてなる細胞」は、例えば、「イヌCD20をコードする遺伝子」をクローニングし、増幅した後、ウイルス発現プラスミドに組み込み、これを細胞に導入することで産生されたウイルスを得て、標識物質をコードする遺伝子を含むウイルス発現プラスミドを細胞に導入することで産生されたウイルスとともに、リンパ腫由来細胞に添加することで製造することができる。
【0019】
ここで、「イヌCD20をコードする遺伝子」は、配列表配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する、イヌCD20を含むものをコードする遺伝子であればよい。なお、ここで数個とは、60個、59個、58個、57個、56個、55個、54個、53個、52個、51個、50個、49個、48個、47個、46個、45個、44個、43個、42個、41個、40個、39個、38個、37個、36個、35個、34個、33個、32個、31個、30個、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
【0020】
以下に本発明の実施例等を示すが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例0021】
[実施例1]
イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞
1)細胞培養
ヒトNK細胞株 NK-92(ATCC社より分与)をR10完全培地(20%FBS及び1000 IU/mlヒトIL-2(Proleukin(登録商標)、Chiron Therapeutics社)含有))中で加湿インキュベーター(5%CO2、37℃)を用いて培養した。
【0022】
2)発現プラスミドの作製
表1に記載の各プライマーを用いてクローニング及び発現プラスミドの作製を行った。なお、本実施例において用いたプライマーはいずれも委託により得た。
イヌCD16は健康なイヌ(ビーグル犬)の白血球のCDNAに基づいてプライマーYTM39とYTM41を用いてPCRにより増幅し、イヌFcε受容体γ鎖は健康なイヌのリンパ節のCDNAに基づいてプライマーYTM117とYTM118を用いてPCRにより増幅し、それぞれpCR2.1(商標登録)-TOPO(商標登録)ベクター(Thermo Fisher Scientific社)にクローニングし、pCR-cCD16#18及びpCR-cγ#10を得た。
【0023】
増幅したイヌCD16をプライマーYTM41とM13(-20)を用いて再度PCRにより増幅した後、増幅されたフラグメントをpMx-IPのXhoI-SnaBI部位にクローニングし、pMx-IP-cCD16#1を得た。また、pCR-cγ#10をプライマーYTM1668とYTM1669を用いて再度PCRにより増幅し、次いでプライマーYTM1668とYTM838を用いてPCRにより増幅してFLAGタグ配列を加えた。このフラグメントと、pMx-IP-cCD16#1をプライマーYTM178とYTM1667を用いてPCRにより増幅した増幅生成物を、プライマーYTM178とYTM838を使用したオーバーラップPCRによって増幅した後、NotIで切断した。このフラグメントと、pMx-IPから切り出されたIRES-Puro遺伝子をコードするSnaBI-NheIフラグメントを、CSII-EF-MCS-IRES2-Venusベクター(理研バイオリソース研究センター)のNotI-XbaI部位にクローニングした。
これにより、レンチウイルス発現プラスミドとして、C末端にFLAGがタグ付けされたイヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をコードする遺伝子とピューロマイシン選択遺伝子を含むCSII-EF-cCD16γ-FL-IPを得た。
【0024】
【0025】
3)細胞株の樹立
PEI Max(Polysciences, Inc.)を用いてpCVSVG及びp8.9QVが導入されたHEK293T細胞に上記2)で作製したCSII-EF-cCD16γ-FL-IPを導入し、産生されたレンチウイルスをNK-92細胞に添加した。その後、0.5μg/mlピューロマイシンの存在下で選択してNK-92/cCD16γ細胞を得た。これを継代培養することでイヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞として、NK-92/cCD16γ細胞株を樹立した。
【0026】
4)ウェスタンブロッティング
上記3)において樹立された培養したNK-92/cCD16γ細胞株を1% NP40緩衝液中で溶解した。得られたタンパク質溶解物について定法によりSDS-PAGE及びウェスタンブロッティングを行った。一次抗体として抗Flag M2抗体(Sigma-Aldrich Japan社)、抗アクチンマウスモノクローナル抗体(Sigma-Aldrich Japan社)を用い、二次抗体としてHRP結合抗体(HRP結合抗ラットAb(Zymed社))又はヤギ抗マウスIgG-HRP(Biorad社)を用いた。反応後、膜をWestern Lightning Plus-ECL試薬(Perkin Elmer社)に浸漬し、Luminescent Image Analyzer LAS 3000 mini(FUJIFILM社)を用いて結果を確認した。その結果、予測されたイヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質の分子量に対応する明確なバンドが確認できた。
【0027】
[実施例2]
イヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞
1)A20/cCD20/luc細胞株
(1)細胞培養
マウスリンパ腫A20細胞株(医用細胞資源センター・細胞バンクより分与)をR10完全培地(10% FBS、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及び55μM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI1640培地)中で加湿インキュベーター(5%CO2、37℃)を用いて培養した。
【0028】
(2)発現プラスミドの作製
表2に記載の各プライマーを用いてクローニング及び発現プラスミドの作製を行った。なお、本実施例において用いたプライマーはいずれも委託により得た。
プライマーYTM912とYTM913を用いてルシフェラーゼ遺伝子をPCRにより増幅し、AgeIで切断してpGL4.50luc2のHindIII-AgeIフラグメントを有するpBluescript SK(-)(Promega KK社)のHindIII-EcoRV部位に連結しpBS-luc2を得た。このpBS-luc2のXhoIフラグメントおよびNotIフラグメントをpMX-IP(Kurzman博士(ウィスコンシン大学)より分与)のXhoI-NotI部位に挿入し、レトロウイルス発現プラスミドとしてpMX-luc-IPを得た。
ゼオシン耐性遺伝子は、pFUSE-hIgG2-Fc2(Invivogen社)をテンプレートとしてプライマーYTM1931とYTM1932を用いてPCRにより増幅した。この増幅生成物をSalIおよびNcoIで切断し、参考文献1(特開2021-059499号公報)と同様の方法によって次のように作製したpMx-IP-cCD20-flag#4のNcoI-SalI部位にクローニングして、レトロウイルス発現プラスミドとしてpMx-IZ-cCD20-flag#3を得た。
【0029】
<pMx-IP-cCD20-flag#4>
健康なビーグル犬の子宮頸部リンパ節を用いてイヌCD20(以下、単にCD20と示す場合がある)のクローニングを行った。具体的には、イヌCD20のヌクレオチド配列(NCBI登録番号:AB210085)を鋳型として、プライマーYTM19とYTM20を用いてPCRにより増幅した。
PCRはKOD DNAポリメラーゼ-Plus(TOYOBO社)を用いて、95℃で2分間の変性工程を経た後、95℃で30秒間、56℃で30秒間及び72℃で1~1.5分間を30サイクル繰り返すことで行った。その後Taq DNAポリメラーゼの存在下で、72℃で10分間インキュベートした。
増幅生成物をTOPO TAクローニングキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いてベクターに連結しpCR-cCD20を得た。このpCR-cCD20をプライマーYTM1233とYTM1234を用いてPCRにより増幅した後、プライマーYTM1233とYTM838を用いて次のPCRを行った。この増幅生成物をBamHIで切断し、pMXs-IPのBamHI-SnaBI部位に連結し、レトロウイルス発現プラスミドとしてpMx-IP-cCD20-flag#4を得た。
【0030】
【0031】
(3)細胞株の樹立
上記1)(2)で作製したpMX-luc-IPをPLAT-E細胞株(コスモバイオ社)に導入し、産生されたレトロウイルスをA20細胞に添加した。さらに、pMx-IZ-cCD20-flag#3をPLAT-E細胞株に導入し、産生されたレトロウイルスをこのA20細胞に添加した。この細胞を1.0μg/mlピューロマイシン(富士フイルムワコーケミカル社)及び300μg/mlゼオシン(Invivogen社)の存在下で選択してA20/cCD20/luc細胞を得た。この細胞はイヌCD20を発現している細胞であり、これを継代培養することでcCD20/luc発現リンパ腫由来細胞株として、A20/cCD20/luc細胞株を樹立した。
【0032】
2)EL-4/cCD20/luc細胞株
(1)細胞培養
マウスリンパ腫EL-4株(医用細胞資源センター・細胞バンクより分与)をR10完全培地中で加湿インキュベーター(5%CO2、37℃)を用いて培養した。
【0033】
(2)発現プラスミドの作製
pMx-luc-IHベクター(
図2)より切り出したluc-IRES-Hygromycinを、CSII-EF-MCS-IRES2-Venusベクター(理研バイオリソースセンター)のSpeI-EcoRI部位に挿入してCSII-EF-luc-IH#4を作製した。このSpeIフラグメントおよびEcoRIフラグメントをCSII-CMV-MCS-IRES2-Bsdベクター(理研バイオリソースセンター)のSpeI-EcoRI部位に挿入し、レトロウイルス発現プラスミドとしてCSII-EF-luc-IB#1を得た。また、上記1)(2)と同様の方法でpMx-IP-cCD20-flag#4を得た。
【0034】
(3)細胞株の樹立
上記2)(2)で作製したpMx-cCD20-Flag-IP#4をPLAT-E細胞株に導入し、産生されたレトロウイルスをEL-4細胞に添加した。さらに、CSII-EF-luc-IB#1をPLAT-E細胞株に導入し、産生されたレトロウイルスをこのEL-4細胞に添加した。この細胞を2.5μg/mlピューロマイシン及び5μg/mlブラストサイジンS(科研製薬社)の存在下で選択してEL-4/cCD20/luc細胞を得た。この細胞はイヌCD20を発現している細胞であり、これを継代培養することでcCD20/luc発現リンパ腫由来細胞株として、EL-4/cCD20/luc細胞株を樹立した。
【0035】
[実施例3]
ADCC活性の測定方法
イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞に、抗体と、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞とを作用させる工程を経ることにより、抗体依存性細胞障害活性を測定した。
【0036】
1.試料
1)細胞株
エフェクター細胞としてNK-92細胞株、又は上記実施例1で樹立したイヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞を用いた。また、標的細胞として上記実施例2で樹立したイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞株、及び参考文献1(特開2021-059499号公報)と同様の方法によって次のように樹立したCLBL-1/luc細胞株を用いた。
【0037】
<CLBL-1/luc細胞株>
上記実施例2において作製したpBS-luc2プラスミドのXhoI-NotIフラグメントを切り出し、pMX-IPのXhoI-NotI部位に挿入することで作製したpMX-luc-IP#9をPLAT-E細胞株に導入した。産生されたレトロウイルスをPG13細胞株(PG13/luc)に添加し、さらにこの細胞株により産生されたレトロウイルスをCLBL-1細胞に添加した。この細胞を0.5μg/mlのピューロマイシンの存在下で選択することでCLBL-1/luc細胞を得た。これをR10完全培地中で加湿インキュベーター(5%CO2、37℃)を用いて継代培養することでCLBL-1/luc細胞株を樹立した。
【0038】
2)抗体
(1)ラットIgG2a抗体(ebioscience社)
(2)イヌIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.社)
(3)4E1-7-B抗体
参考文献1(特開2021-059499号公報)と同様の方法によって、イヌCD20に対するモノクローナル抗体であって、イヌIgG重鎖のうちIgG-Bの定常領域を有する4E1-7-B抗体を得た。この4E1-7-B抗体は、次のA~Dのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域及び重鎖定常領域を有するイヌCD20に対するモノクローナル抗体であった。
【0039】
A.配列番号22に記載のアミノ酸配列或いは配列番号22のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる重鎖可変領域。
なお、ここで、数個とは、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
B.配列番号23に記載のアミノ酸配列或いは配列番号23のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域。
なお、ここで、数個とは、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
C.配列番号24に記載のアミノ酸配列又は配列番号24に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域。
なお、ここで、数個とは、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
D.配列番号25に記載のアミノ酸配列又は配列番号25に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる重鎖定常領域。
なお、ここで、数個とは、67個、66個、65個、64個、63個、62個、61個、60個、59個、58個、57個、56個、55個、54個、53個、52個、51個、50個、49個、48個、47個、46個、45個、44個、43個、42個、41個、40個、39個、38個、37個、36個、35個、34個、33個、32個、31個、30個、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
【0040】
2.ADCC活性の測定
標的細胞(A20/cCD20/luc細胞株、EL-4/cCD20/luc細胞株又はCLBL-1/luc細胞株)各5×103cells/wellを、抗体(ラットIgG2a抗体、イヌIgG抗体又は4E1-7-B抗体)を含有する96ウェルマイクロタイタープレートに播種した。これを氷上で20分間インキュベートした後、エフェクター細胞としてNK-92細胞又はNK-92/cCD16γ細胞株を10:1のエフェクター細胞/標的細胞比(E/T:10:1)で合計100μL添加した。
この培養物をさらに4時間インキュベートした後、ONE-Gloルシフェラーゼアッセイシステム(Promega KK社)を用いて細胞溶解し、ルシフェラーゼ活性をARVO X4システム(PerkinElmer社)によって検出した。
細胞媒介性細胞障害活性(溶解率)を次の式によって相対ルミノメーターユニット(RLU)データから計算した。溶解率は3つのウェルを平均して求めた。
【0041】
【0042】
3.結果
1)標的細胞としてCLBL-1/luc細胞株を使用した場合
NK-92細胞株をエフェクター細胞とした場合、抗体を使用しなくても、ラットIgG 2a抗体又は4E1-7-B抗体を使用しても、いずれの場合でも高い細胞媒介性細胞障害活性(溶解率)を示すことが確認できた。
NK-92/cCD16γ細胞株をエフェクター細胞とした場合、4E1-7-B抗体を使用すると、抗体を使用しない場合やラットIgG 2a抗体を使用した場合と比べて、若干、細胞媒介性細胞障害活性(溶解率)が高くなる傾向があったが、あまり差が見られなかった。
従って、CLBL-1/luc細胞株は標的細胞として感度が高すぎるため、NK-92細胞株やこの細胞株を由来とする細胞株を使用したADCC活性の測定には適さないことが示された。
【0043】
2)標的細胞としてイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞株を使用した場合
NK-92/cCD16γ細胞株をエフェクター細胞とした場合、抗体を使用しないか(
図3、-(none))、抗体としてイヌIgG抗体を使用した場合(
図3、dog IgG)には、いずれの標的細胞においても細胞媒介性細胞障害活性(溶解率)は多くても25%程度であったのに対して、イヌCD20に対するモノクローナル抗体である4E1-7-B抗体を使用した場合(
図3、4E1-7-B)には、50%以上の細胞媒介性細胞障害活性(溶解率)が確認できた。
【0044】
また、A20/cCD20/luc細胞株を標的細胞として、NK-92細胞株をエフェクター細胞株とした場合、抗体を使用しなくても(
図4、-(none))、イヌIgG抗体(
図4、dog IgG)又は4E1-7-B抗体(
図4、4E1-7-B)を使用しても、いずれの場合でも細胞媒介性細胞障害活性(溶解率)にあまり差は見られなかったが(
図4、NK92)、NK-92/cCD16γ細胞株をエフェクター細胞とした場合には、4E1-7-B抗体を使用した場合に、特に高い細胞媒介性細胞障害活性(溶解率)が確認できた(
図4、NK92/cCD16γ)。
【0045】
さらに、A20/cCD20/luc細胞株を標的細胞、NK-92細胞株をエフェクター細胞株として、4E1-7-B抗体の濃度依存的な効果を確認したところ、イヌIgG抗体(
図5、dog IgG)では濃度に関係なく細胞毒性効果を示したのに対して、4E1-7-B抗体では濃度依存的に細胞死を誘発することが確認できた(
図5、4E1-7-B)。
従って、これらの結果より、イヌ腫瘍由来の細胞又はイヌ腫瘍抗原を発現させてなる細胞を標的細胞とし、イヌCD16-イヌFcε受容体γ鎖融合タンパク質をヒト由来のNK細胞に発現させてなる細胞をエフェクター細胞とすることにより、ばらつきが少なく、再現性の高い抗体依存性細胞障害活性の測定方法が提供できることが示された。
また、イヌCD20に対するモノクローナル抗体である4E1-7-B抗体は、高い抗体依存性細胞障害活性を有する、抗体医薬として有用な抗体であることも確認できた。
【0046】
[実施例4]
抗イヌCD20抗体として次の抗体を用いた以外は、実施例3と同様の測定方法により、ADCC活性の測定を行った。なお、標的細胞はA20/cCD20/luc細胞株、エフェクター細胞はNK-92/cCD16γ細胞株を用いた。
また、抗イヌCD20抗体はいずれも4E1-7-B抗体と同様に、実施例3に示されるA~Dのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域及び重鎖定常領域を有するイヌCD20に対するモノクローナル抗体であった。
【0047】
<抗体>
1.4E1-7-B_f抗体
参考文献1(特開2021-059499号公報)と同様の方法によって、脱フコシル化された抗イヌCD20抗体を得た。
2.4E1-7-B_s_m抗体
フコース転移酵素を持たないカイコを用いて、脱フコシル化された抗イヌCD20抗体を得た。
3.タバコを用いて作製された抗犬CD20抗体
遺伝子改変にてフコース転移酵素を欠損させたタバコを用いてアグロバクテリウムにより遺伝子を導入し、脱フコシル化された抗イヌCD20抗体を得た。
【0048】
ADCC活性の測定
4E1-7-B_f抗体を用いて、種々のパラメータ(Cell濃度、投与量の範囲、インキュベーション時間、定量試薬等)を調整し、8回の独立した試験を実施した。その結果、これらの反復した試験間における相対ルミノメーターユニット(RLU)データから計算された細胞媒介性細胞障害活性(溶解率)の変動係数(CV値)は25%以下であった。従って、この結果より、本発明のADCC活性の測定方法はばらつきが少なく、再現性が高い、バイオアッセイとしての性能が高い方法であることが確認できた。
さらに、エフェクター細胞/標的細胞比(E/T:10:1)とした試験では、反復した試験間におけるCV値が10%以下であり、ADCC活性の測定方法として最適であることが確認できた。この試験では、ネガティブコントロールとして使用したイヌのIgGは反応を示さず、明確な特異性を有することも示された。
また、別ロットの4E1-7-B_f抗体(4E1-7-B_f No.2と呼ぶ。)、4E1-7-B_s_m抗体、及びタバコを用いて作製された抗犬CD20抗体を用いてADCC活性の測定を行った場合も、比較として用いた4E1-7-B_f抗体(4E1-7-B_f No.1と呼ぶ。)と同等のADCC活性が確認できた。
従ってこれらの結果より、本発明のADCC活性の測定方法は、様々な抗イヌCD20抗体の使用が可能な、ばらつきが少なく、再現性が高い、バイオアッセイとしての性能が高い方法であることが確認できた。
本発明によって、イヌを投与対象とする抗体においても、ばらつきが少なく、再現性の高い抗体依存性細胞障害活性の測定方法の提供が可能となった。さらに本発明の測定方法を用いることにより、イヌを投与対象とする腫瘍の治療において有用な抗体医薬の提供も容易となる。