(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024617
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】非晶質固体分散体、医薬組成物、非晶質固体分散体の製造方法、及び、安定化方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/10 20060101AFI20240215BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240215BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K47/22
A61K45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129609
(22)【出願日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2022127165
(32)【優先日】2022-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】柴谷 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】高田 岳
(72)【発明者】
【氏名】大礒 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】本庄 達哉
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076DD59
4C076FF36
4C076GG01
4C084AA17
(57)【要約】
【課題】非晶質固体分散体中の薬物の非晶質状態が長期間安定である非晶質固体分散体、当該非晶質固体分散体を含有する医薬組成物、当該非晶質固体分散体の製造方法、及び、当該非晶質固体分散体の安定化方法の提供。
【解決手段】非晶質状態の薬物が担体に分散した、非晶質固体分散体であって、前記薬物は、分子量が360以上の環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を含有し、前記担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する、非晶質固体分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質状態の薬物が担体に分散した、非晶質固体分散体であって、
前記薬物は、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を含有し、
前記担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する、非晶質固体分散体。
【請求項2】
前記環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物は、ピロリジン骨格、ピペリジン骨格、イミダゾリジン骨格、ピペラジン骨格、ピラゾール骨格、イミダゾール骨格、トリアゾール骨格、ピリミジン骨格、ピリジン骨格、ピリダジン骨格、ピラゾロピリミジン骨格、ピラゾロピリジン骨格、ピロロピリミジン骨格、ピロロピリジン骨格、ピリドピリミジン骨格、ベンゾイミダゾール骨格、及び、インドール骨格からなる群から選択される一種以上の骨格を有する化合物である、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項3】
前記薬物の含有量は、前記非晶質固体分散体100質量%に対して、25質量%以上である、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項4】
前記糖転移ヘスペリジンの含有量は、前記薬物100質量部に対して、350質量部以下である、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の非晶質固体分散体を含有する、医薬組成物。
【請求項6】
薬物と、担体とを混合して、非晶質状態の前記薬物が前記担体に分散した、非晶質固体分散体を得る工程を有し、
前記薬物は、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を含有し、
前記担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する、非晶質固体分散体の製造方法。
【請求項7】
非晶質状態の薬物が担体に分散した、非晶質固体分散体の安定化方法であって、
前記薬物は、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を用いて、
前記担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する担体を用いる、安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質固体分散体、医薬組成物、非晶質固体分散体の製造方法、及び、安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水への溶解性の低い薬物(難溶性薬物)が多く開発されており、薬物の溶解性改善が求められている。難溶性薬物は、優れた薬理学的性質を有していても、難水溶性であるため、投与後の吸収に時間を要し、薬効が発現するまで時間がかかるという問題がある。
【0003】
このような難溶性薬物の溶解性改善を目的として,様々な手法が研究されている。その中でも、薬物を担体中に分散させることにより、薬物の状態を結晶から非晶質へと変化させた非晶質固体分散体(amorphous solid dispersion;ASD)が広く注目されている。
【0004】
ASDとして、具体的には、特許文献1に、フェノフィブラートをポリビニルピロリドンとともに融解混合した後、固化させることによって調製した、フェノフィブラートを含む固体分散体が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載された固体分散体は、薬効を低下させずに小型化して服用し易いと開示されている。また、特許文献1に記載された固体分散体は、錠剤にした場合の溶出性に優れており、良好な生物学的利用能が期待できると開示されている。また、特許文献1に記載された固体分散体の製造方法によれば、フェノフィブラートを微粉化処理しなくてもフェノフィブラートの溶解性を高めることができるため、比較的簡便な方法でフェノフィブラート製剤を得ることが可能になると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているような担体として高分子化合物を用いた固体分散体は、薬物の種類によっては、薬物と高分子化合物とが、経時で相分離してしまい、ASD中の薬物が結晶化し、溶解性が低下して、バイオアベイラビリティが低下することがある。
非晶質状態を利用した製剤は、非晶質状態の分子運動性の高さに起因して、一般的な結晶製剤と比べて化学安定性が低い。そのため、より高いレベルの安定性を有する非晶質固体分散体が求められている。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、非晶質固体分散体中の薬物の非晶質状態が長期間安定である非晶質固体分散体、当該非晶質固体分散体を含有する医薬組成物、当該非晶質固体分散体の製造方法、及び、当該非晶質固体分散体の安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、薬物と担体との組み合わせについて鋭意検討を行った。その結果、特定の薬物と特定の担体とを組み合わせた場合、非晶質固体分散体中の薬物の非晶質状態の安定性が飛躍的に向上することを見出した。そして、薬物の非晶質状態の安定性が飛躍的に向上した組み合わせを分析した結果、特定の担体に、特定の分子量以上であり、かつ特定の構造を有する薬物を組み合わせた非晶質固体分散体が、安定性が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]非晶質状態の薬物が担体に分散した、非晶質固体分散体であって、前記薬物は、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を含有し、前記担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する、非晶質固体分散体。
[2]前記環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物は、ピロリジン骨格、ピペリジン骨格、イミダゾリジン骨格、ピペラジン骨格、ピラゾール骨格、イミダゾール骨格、トリアゾール骨格、ピリミジン骨格、ピリジン骨格、ピリダジン骨格、ピラゾロピリミジン骨格、ピラゾロピリジン骨格、ピロロピリミジン骨格、ピロロピリジン骨格、ピリドピリミジン骨格、ベンゾイミダゾール骨格、及び、インドール骨格からなる群から選択される一種以上の骨格を有する化合物である、[1]に記載の非晶質固体分散体。
[3]前記薬物の含有量は、前記非晶質固体分散体100質量%に対して、25質量%以上である、[1]又は[2]に記載の非晶質固体分散体。
[4]前記糖転移ヘスペリジンの含有量は、前記薬物100質量部に対して、350質量部以下である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の非晶質固体分散体。
【0011】
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載の非晶質固体分散体を含有する、医薬組成物。
【0012】
[6]薬物と、担体とを混合して、非晶質状態の前記薬物が前記担体に分散した、非晶質固体分散体を得る工程を有し、前記薬物は、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を含有し、前記担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する、非晶質固体分散体の製造方法。
【0013】
[7]非晶質状態の薬物が担体に分散した、非晶質固体分散体の安定化方法であって、
前記薬物は、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を用いて、
前記担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する担体を用いる、安定化方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非晶質固体分散体中の薬物の非晶質状態が長期間安定である非晶質固体分散体、当該非晶質固体分散体を含有する医薬組成物、当該非晶質固体分散体の製造方法、及び、当該非晶質固体分散体の安定化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例の非晶質固体分散体のX線回折測定にて得られた回折パターンである。
【
図2】実施例の非晶質固体分散体のX線回折測定にて得られた回折パターンである。
【
図3】比較例の非晶質固体分散体のX線回折測定にて得られた回折パターンである。
【
図4】実施例の非晶質固体分散体のX線回折測定にて得られた回折パターンである。
【
図5】実施例の非晶質固体分散体のX線回折測定にて得られた回折パターンである。
【
図6】実施例の非晶質固体分散体のX線回折測定にて得られた回折パターンである。
【
図7】実施例の非晶質固体分散体のX線回折測定にて得られた回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(非晶質固体分散体)
本明細書において、「非晶質固体分散体」とは、結晶構造を持たず、原子が不規則に配列した非晶質状態の薬物が担体に分散したものである。
薬物が非晶質状態であるかどうかは、後述のように、XRDにより判別することができる。
本実施形態の非晶質固体分散体は、薬物と、担体とを含有する。
【0017】
<薬物>
本実施形態の薬物は、水への溶解性の低い薬物である。
本実施形態の非晶質固体分散体における薬物は、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を含有する。
【0018】
≪環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物≫
本実施形態の非晶質固体分散体における環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物は、環構造中に窒素原子以外のヘテロ原子を有してもよい。該ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。
【0019】
本実施形態の非晶質固体分散体における環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物の分子量は、360以上であり、380以上であることが好ましく、450以上であることがより好ましく、530以上であることがさらに好ましく、620以上であることが特に好ましい。
一方で、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物の分子量は、1000以下であることが好ましく、980以下であることがより好ましく、950以下であることがさらに好ましく、900以下であることが特に好ましい。
例えば、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物の分子量は、360以上1000以下であることが好ましく、380以上980以下であることがより好ましく、450以上950以下であることがさらに好ましく、530以上900以下であることが特に好ましく、620以上900以下であることが最も好ましい。
【0020】
環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物の分子量が上記の好ましい範囲内であれば、後述する糖転移ヘスペリジンとの相溶性がより良好となり、該複素環式化合物と糖転移ヘスペリジンとを含有する本実施形態の非晶質固体分散体の安定性がより向上する。
【0021】
本実施形態の非晶質固体分散体における環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物として、具体的には、ピロリジン骨格、ピペリジン骨格、イミダゾリジン骨格、ピペラジン骨格、ピラゾール骨格、イミダゾール骨格、トリアゾール骨格、ピリミジン骨格、ピリジン骨格、ピリダジン骨格、ピラゾロピリミジン骨格、ピラゾロピリジン骨格、ピロロピリミジン骨格、ピロロピリジン骨格、ピリドピリミジン骨格、ベンゾイミダゾール骨格、及び、インドール骨格からなる群から選択される一種以上の骨格を有する化合物が挙げられる。
【0022】
本実施形態の非晶質固体分散体における環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物として、具体的には、下記一般式(m-1)で表される骨格を有する複素環式化合物(m1)(以下、「複素環式化合物(m1)」ともいう)、下記一般式(m-2)で表される骨格を有する複素環式化合物(m2)(以下、「複素環式化合物(m2)」ともいう)、下記一般式(m-3)で表される骨格を有する複素環式化合物(m3)(以下、「複素環式化合物(m3)」ともいう)、及び、縮合複素環式化合物(m4)等が挙げられる。該複素環式化合物(m2)~(m4)は、それらの互変異性体であってもよい。
【0023】
【化1】
[式中、X
1及びY
1は、それぞれ独立に、-NH-、又は、メチレン基(-CH
2-)である。但し、X
1及びY
1のうち、少なくとも一つは、-NH-である。nは、1又は2である。
X
2及びY
2は、それぞれ独立に、窒素原子、又は、-CH-である。Z
2は、-NH-、又は、メチレン基(-CH
2-)である。但し、X
2、Y
2及びZ
2のうち、少なくとも一つは、窒素原子又は-NH-である。
X
3、Y
3及びZ
3は、それぞれ独立に、窒素原子、又は、-CH-である。但し、X
3、Y
3及びZ
3のうち、少なくとも一つは、窒素原子である。]
【0024】
[複素環式化合物(m1)]
複素環式化合物(m1)は、上記一般式(m-1)で表される骨格を有する複素環式化合物である。
上記一般式(m-1)で表される骨格を有する複素環式化合物とは、上記一般式(m-1)で表される化合物が有する少なくとも1つの水素原子が、他の置換基で置換されている化合物を意味する。
【0025】
上記一般式(m-1)中、X1及びY1は、それぞれ独立に、-NH-、又は、メチレン基(-CH2-)である。但し、X1及びY1のうち、少なくとも一つは、-NH-である。nは、1又は2である。
【0026】
上記一般式(m-1)中のX1及びY1のうち、一方が-NH-であり、他方がメチレン基(-CH2-)であり、nが、1である場合、複素環式化合物(m1)は、ピロリジン骨格を有する複素環式化合物となる。
【0027】
上記一般式(m-1)中のX1及びY1のうち、一方が-NH-であり、他方がメチレン基(-CH2-)であり、nが、2である場合、複素環式化合物(m1)は、ピペリジン骨格を有する複素環式化合物となる。
【0028】
上記一般式(m-1)中のX1及びY1がいずれも-NH-であり、nが、1である場合、複素環式化合物(m1)は、イミダゾリジン骨格を有する複素環式化合物となる。
【0029】
上記一般式(m-1)中のX1及びY1がいずれも-NH-であり、nが、2である場合、複素環式化合物(m1)は、ピペラジン骨格を有する複素環式化合物となる。
【0030】
[複素環式化合物(m2)]
複素環式化合物(m2)は、上記一般式(m-2)で表される骨格を有する複素環式化合物である。
上記一般式(m-2)で表される骨格を有する複素環式化合物とは、上記一般式(m-2)で表される化合物が有する少なくとも1つの水素原子が、他の置換基で置換されている化合物を意味する。
【0031】
上記一般式(m-2)中、X2及びY2は、それぞれ独立に、窒素原子、又は、-CH-である。Z2は、-NH-、又は、メチレン基(-CH2-)である。但し、X2、Y2及びZ2のうち、少なくとも一つは、窒素原子又は-NH-である。
【0032】
上記一般式(m-2)中、X2が、-CH-であり、Y2が、窒素原子であり、Z2が、-NH-である場合、複素環式化合物(m2)は、ピラゾール骨格を有する複素環式化合物となる。
【0033】
上記一般式(m-2)中、X2が、窒素原子であり、Y2が、-CH-であり、Z2が、-NH-である場合、複素環式化合物(m2)は、イミダゾール骨格を有する複素環式化合物となる。
【0034】
上記一般式(m-2)中、X2及びY2が、いずれも窒素原子であり、Z2が、-NH-である場合、複素環式化合物(m2)は、トリアゾール骨格を有する複素環式化合物となる。
【0035】
[複素環式化合物(m3)]
複素環式化合物(m3)は、上記一般式(m-3)で表される骨格を有する複素環式化合物である。
上記一般式(m-3)で表される骨格を有する複素環式化合物とは、上記一般式(m-3)で表される化合物が有する少なくとも1つの水素原子が、他の置換基で置換されている化合物を意味する。
【0036】
上記一般式(m-3)中、X3、Y3及びZ3は、それぞれ独立に、窒素原子、又は、-CH-である。但し、X3、Y3及びZ3のうち、少なくとも一つは、窒素原子である。
【0037】
上記一般式(m-3)中、X3及びY3が、いずれも窒素原子であり、Z3が-CH-である場合、複素環式化合物(m3)は、ピリミジン骨格を有する複素環式化合物となる。
【0038】
上記一般式(m-3)中、X3、Y3及びZ3のうち、1つが窒素原子であり、残りの2つが-CH-である場合、複素環式化合物(m3)は、ピリジン骨格を有する複素環式化合物となる。
【0039】
上記一般式(m-3)中、X3及びZ3が窒素原子であり、Y3が-CH-である場合、場合、複素環式化合物(m3)は、ピリダジン骨格を有する複素環式化合物となる。
【0040】
[縮合複素環式化合物(m4)]
縮合複素環式化合物(m4)は、少なくとも1つの環構造中に窒素原子を有する複素環に他の環が縮合した骨格を有する化合物である。
少なくとも1つの環構造中に窒素原子を有する複素環に他の環が縮合した骨格を有する化合物とは、該複素環と他の環との縮合環が有する少なくとも1つの水素原子が、他の置換基で置換されている化合物を意味する。該他の環は、脂肪族環であっても、脂肪族複素環であっても、芳香環であっても、芳香族複素環であってもよい。
【0041】
縮合複素環式化合物(m4)として、具体的には、複数の環構造中に窒素原子を有する複素環が縮合した骨格を有する化合物;環構造中に窒素原子を有する複素環と芳香環とが縮合した骨格を有する化合物;複数の環構造中に窒素原子を有する複素環と脂肪族環と芳香環とが縮合した骨格を有する化合物等が挙げられる。
【0042】
縮合複素環式化合物(m4)として、より具体的には、ピラゾロピリミジン骨格を有する化合物、ピラゾロピリジン骨格を有する化合物、ピロロピリミジン骨格を有する化合物、ピロロピリジン骨格を有する化合物、ピリドピリミジン骨格を有する化合物、ベンゾイミダゾール骨格を有する化合物、及び、インドール骨格を有する化合物等が挙げられる。
【0043】
各骨格を有する化合物の具体例を以下に示す。
なお、例えば、テネリグリプチン臭化水素酸塩は、ピロリジン骨格、ピペラジン骨格、及びピラゾール骨格を有し、合計で3つの環構造中に窒素原子を有する複素環を有する。そのため、以下の分類において、重複して記載している。他の化合物においても同様である。
【0044】
ピロリジン骨格を有する化合物として、具体的には、テネリグリプチン臭化水素酸塩(分子量:628.8)、ラスクフロキサシン塩酸塩(分子量:475.8)、ビベグロン(分子量:444)、トスフロキサシントシル酸塩水和物(分子量:594.5)、ピブレンタスビル(分子量:1113)、及び、ウパダシチニブ水和物(分子量:389.3)等が挙げられる。
【0045】
ピペリジン骨格を有する化合物として、具体的には、アピキサバン(分子量:459.5)、フェキソフェナジン塩酸塩(分子量:538.1)、ドネペジル塩酸塩(分子量:415.9)、リスペリドン(分子量:410.4)、アログリプチン安息香酸塩(分子量:461.5)、リナグリプチン(分子量:472.54)、パリペリドンパルミチン酸エステル(分子量:664.8)、ルパタジンフマル酸塩(分子量:532)、トファシチニブクエン酸塩(分子量:504.4)、ビラスチン(分子量:463.6)、イリノテカン塩酸塩水和物(分子量:677.1)、セリチニブ(分子量:558.1)、ダコミチニブ水和物(分子量:487.95)、イブルチニブ(分子量:440)、ピブレンタスビル(分子量:1113)、及び、アレクチニブ塩酸塩(分子量:519)等が挙げられる。
【0046】
イミダゾリジン骨格を有する化合物として、具体的には、エンザルタミド(分子量:464.4)、及び、アパルタミド(分子量:477.4)等が挙げられる。
【0047】
ピペラジン骨格を有する化合物として、具体的には、ニンテダニブエタンスルホン酸塩(分子量:649.7)、パルボシクリブ(分子量:447)、ダサチニブ水和物(分子量:488.01)、オラパリブ(分子量:434)、ベネトクラクス(分子量:868)、ポサコナゾール(分子量:700)、テネリグリプチン臭化水素酸塩(分子量:628.8)、レボセチリジン塩酸塩(分子量:461.8)、ルラシドン塩酸塩(分子量:529.1)、エスゾピクロン(分子量:388.81)、エヌトレクチニブ(分子量:560.6)、ブレクスピプラゾール(分子量:433.57)、ポナチニブ塩酸塩(分子量:569.02)、アリピプラゾール(分子量:448.39)、レテルモビル(分子量:572.55)及び、オキサトミド(分子量:426.55)等が挙げられる。
【0048】
ピラゾール骨格を有する化合物として、具体的には、テネリグリプチン臭化水素酸塩(分子量:628.8)、セレコキシブ(分子量:381.3)、ロルラチニブ(分子量:406.4)、ルキソリチニブリン酸塩(分子量:404.36)、セフトロザン硫酸塩(分子量:764.77)、ダロルタミド(分子量:398.85)、及び、エンコラフェニブ(分子量:540.01)等が挙げられる。
【0049】
イミダゾール骨格を有する化合物として、具体的には、ニロチニブ塩酸塩水和物(分子量:583.9)、レジパスビル・アセトン付加物(分子量:947.08)、オルメサルタンメドキソミル(分子量:558.5)、及び、バラシクロビル塩酸塩(分子量:360.8)等が挙げられる。
【0050】
トリアゾール骨格を有する化合物として、具体的には、ポサコナゾール(分子量:700)、ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物(分子量:739.7)、及び、スボレキサント(分子量:450.9)等が挙げられる。
【0051】
ピリミジン骨格を有する化合物として、具体的には、ダサチニブ水和物(分子量:488.01)、セリチニブ(分子量:558.1)、ニロチニブ塩酸塩水和物(分子量:583.9)、マシテンタン(分子量:588.2)、エンコラフェニブ(分子量:540.01)、レンボレキサント(分子量:410.42)、オシメルチニブメシル酸塩(分子量:499.6)、リオシグアト(分子量:422.42)、ソホスブビル(分子量:529.45)、及び、パゾパニブ塩酸塩(分子量:473.98)等が挙げられる。
【0052】
ピリジン骨格を有する化合物として、具体的には、ロルラチニブ(分子量:406.4)、ニロチニブ塩酸塩水和物(分子量:583.9)、パルボシクリブ(分子量:447)、エスゾピクロン(分子量:388.81)、レゴラフェニブ水和物(分子量:500.8)、ピオグリタゾン塩酸塩(分子量:392.9)、アキシチニブ(分子量:386.47)、ルパタジンフマル酸塩(分子量:532)、ボノプラザンフマル酸塩(分子量:461.46)、エドキサバントシル酸塩水和物(分子量:738.27)、エソメプラゾールマグネシウム水和物(分子量:767.1)、アビラテロン酢酸エステル(分子量:391.55)、レンボレキサント(分子量:410.42)、及び、アパルタミド(分子量:477.4)等が挙げられる。
【0053】
ピリダジン骨格を有する化合物として、具体的には、レルゴリクス(分子量:623.6)等が挙げられる。
【0054】
ピラゾロピリミジン骨格を有する化合物として、具体的には、イブルチニブ(分子量:440)等が挙げられる。
【0055】
ピラゾロピリジン骨格を有する化合物として、具体的には、リオシグアト(分子量:422.42)及び、アピキサバン(分子量:459.5)等が挙げられる。
【0056】
ピロロピリミジン骨格を有する化合物として、具体的には、ルキソリチニブリン酸塩(分子量:404.36)、ビベグロン(分子量:444)、及び、トファシチニブクエン酸塩(分子量:504.4)等が挙げられる。
【0057】
ピロロピリジン骨格を有する化合物として、具体的には、ベネトクラクス(分子量:868)、及び、ペフィシチニブ臭化水素酸塩(分子量:407.3)等が挙げられる。
【0058】
ピリドピリミジン骨格を有する化合物として、具体的には、パルボシクリブ(分子量:447)等が挙げられる。
【0059】
ベンゾイミダゾール骨格を有する化合物として、具体的には、アジルサルタン(分子量:456.4)、エソメプラゾールマグネシウム水和物(分子量:767.1)、ベンダムスチン塩酸塩(分子量:412.7)、ビラスチン(分子量:463.6)、ピブレンタスビル(分子量:1113)、レジパスビル・アセトン付加物(分子量:947.08)、及び、ビニメチニブ(分子量:441.2)等が挙げられる。
【0060】
インドール骨格を有する化合物として、具体的には、ニンテダニブエタンスルホン酸塩(分子量:649.7)、及び、オシメルチニブメシル酸塩(分子量:499.6)等が挙げられる。
【0061】
本実施形態の非晶質固体分散体における環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物としては、上記の中でも、テネリグリプチン臭化水素酸塩、アピキサバン、フェキソフェナジン塩酸塩、エンザルタミド、ニンテダニブエタンスルホン酸塩、セレコキシブ、アジルサルタン、ニロチニブ塩酸塩水和物、アパルタミド、パルボシクリブ、オラパリブ、ポサコナゾール、及び、バラシクロビル塩酸塩が好ましく、テネリグリプチン臭化水素酸塩、バラシクロビル塩酸塩、ニンテダニブエタンスルホン酸塩、及び、アピキサバンがより好ましい。
【0062】
本実施形態の非晶質固体分散体における環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物は、1種単独であってもよいし、2種以上混合物であってもよい。
【0063】
本実施形態の非晶質固体分散体における薬物中の環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物の含有量は、薬物全量100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
本実施形態の非晶質固体分散体における薬物は、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物のみからなることが好ましい。
一実施形態として、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物からなる薬物以外の薬物を含有する非晶質固体分散体は除かれる。
【0064】
本実施形態の非晶質固体分散体における薬物の含有量は、非晶質固体分散体全量100質量%に対して、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましく、70質量%であってもよく、75質量%以上であってもよい。
【0065】
本実施形態の非晶質固体分散体は、上記薬物に最適な担体が組み合わされているため、上記のように比較的薬物の含有量が高くても、安定である。
【0066】
本実施形態の非晶質固体分散体における薬物の含有量の上限値は特に限定されず、例えば、非晶質固体分散体全量100質量%に対して、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよい。
例えば、本実施形態の非晶質固体分散体における薬物の含有量は、非晶質固体分散体全量100質量%に対して、10質量%以上95質量%以下が好ましく、20質量%以上95質量%以下がより好ましく、25質量%以上90質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上90質量%以下が特に好ましく、70質量%以上90質量%以下であってもよく、75質量%以上90質量%以下であってもよい。
【0067】
<担体>
本実施形態の非晶質固体分散体における担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する。
【0068】
≪糖転移ヘスペリジン≫
糖転移ヘスペリジンは、ビタミンPの主成分であるヘスペリジンのルチノース単位中のグルコース残基に、α1→4結合により1又は複数の糖残基が結合しているヘスペリジン誘導体である。
【0069】
糖転移ヘスペリジンに結合している糖残基の数については、1~20個が好ましく、1~4個がより好ましく、1個がさらに好ましい。
【0070】
糖転移ヘスペリジンに結合している糖残基の種類については、例えば、グルコース、アラビノース、ガラクトース、ルチノース、グルクロン酸等が挙げられ、グルコースが好ましい。
【0071】
糖転移ヘスペリジンとしては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。下記式(1)中のnは1以上の整数である。
【0072】
【0073】
糖転移ヘスペリジンとして、具体的には、ヘスペリジンモノグルコシド、ヘスペリジンジグルコシド、ヘスペリジントリグルコシド、ヘスペリジンテトラグルコシドが挙げられ、ヘスペリジンモノグルコシドが好ましい。
【0074】
糖転移ヘスペリジンとしては、市販品を用いてもよい。
糖転移ヘスペリジンの市販品としては、「αGヘスペリジンH」(グリコ栄養食品社製)、「αGヘスペリジンPA-T」(グリコ栄養食品社製)等が挙げられる。
【0075】
本実施形態の非晶質固体分散体における糖転移ヘスペリジン中のヘスペリジンモノグルコシドの含有量は、糖転移ヘスペリジン全量100質量%に対して、70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましい。
【0076】
糖転移ヘスペリジン中のヘスペリジンモノグルコシドの含有量が上記の好ましい値以上であれば、薬物の非晶質状態の安定性がより向上する。
【0077】
ヘスペリジンモノグルコシドの含有量が75質量%以上である糖転移ヘスペリジンの市販品としては、「αGヘスペリジンPA-T」(グリコ栄養食品社製)等が挙げられる。
【0078】
本実施形態の非晶質固体分散体における糖転移ヘスペリジンは、1種単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0079】
本実施形態の非晶質固体分散体における担体中の糖転移ヘスペリジンの含有量は、担体全量100質量%に対して、80質量%であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%以上であることが特に好ましい。
本実施形態の非晶質固体分散体における担体は、糖転移ヘスペリジンのみからなることが好ましい。
一実施形態として、糖転移ヘスペリジン以外の担体を含有する非晶質固体分散体は除かれる。
【0080】
本実施形態の非晶質固体分散体における担体の含有量は、非晶質固体分散体全量100質量%に対して、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましく、30質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよい。
また、本実施形態の非晶質固体分散体における担体の含有量は、非晶質固体分散体全量100質量%に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。
【0081】
本実施形態の非晶質固体分散体は、上述した薬物に最適な担体(糖転移ヘスペリジン)が組み合わされているため、上記のように比較的担体の含有量が低くても、安定である。
【0082】
例えば、本実施形態の非晶質固体分散体における担体の含有量は、非晶質固体分散体全量100質量%に対して、5質量%以上90質量%以下が好ましく、5質量%以上80質量%以下がより好ましく、10質量%以上75質量%以下がさらに好ましく、20質量%以上50質量%以下が特に好ましく、10質量%以上30質量%以下であってもよく、10質量%以上25質量%以下であってもよい。
【0083】
本実施形態の非晶質固体分散体における担体の含有量は、上述した薬物100質量部に対して、40質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、80質量部以上がさらに好ましい。
また、本実施形態の非晶質固体分散体における担体の含有量は、上述した薬物100質量部に対して、900質量部以下が好ましく、500質量部以下がより好ましく、350質量部以下がさらに好ましい。
【0084】
例えば、本実施形態の非晶質固体分散体における担体の含有量は、上述した薬物100質量部に対して、40質量部以上900質量部以下が好ましく、60質量部以上500質量部以下がより好ましく、80質量部以上350質量部以下がさらに好ましい。
【0085】
以上説明した本実施形態の非晶質固体分散体は、非晶質状態の薬物が担体に分散した、非晶質固体分散体であって、前記薬物は、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を含有し、前記担体は、糖転移ヘスペリジンを含有する。
分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を、糖転移ヘスペリジンに分散させると、該複素環式化合物と糖転移ヘスペリジンとの相互作用により、該複素環式化合物の非晶質状態の安定性が飛躍的に向上する。
【0086】
本発明の非晶質固体分散体は、以下の側面を有する。
「1」非晶質状態の、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物が、糖転移ヘスペリジンに分散した、非晶質固体分散体であり、
前記糖転移ヘスペリジンの含有量は、前記複素環式化合物100質量部に対して、好ましくは40質量部以上900質量部以下であり、より好ましくは60質量部以上500質量部以下であり、さらに好ましくは80質量部以上350質量部以下である、非晶質固体分散体。
「2」前記糖転移ヘスペリジンの含有量は、前記非晶質固体分散体全量100質量%に対して、好ましくは5質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上75質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以上50質量%以下である、「1」に記載の非晶質固体分散体。
「3」前記複素環式化合物の含有量は、前記非晶質固体分散体全量100質量%に対して、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上95質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以上90質量%以下であり、特に好ましくは50質量%以上90質量%以下である、「1」又は「2」に記載の非晶質固体分散体。
「4」前記非晶質状態の環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物は、上記一般式(m-1)で表される骨格を有する複素環式化合物(m1)、上記一般式(m-2)で表される骨格を有する複素環式化合物(m2)、及び、上記一般式(m-3)で表される骨格を有する複素環式化合物(m3)からなる群から選択される1種以上の化合物である、「1」~「3」のいずれか一項に記載の非晶質固体分散体。
「5」前記非晶質状態の環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物は、テネリグリプチン臭化水素酸塩、アピキサバン、フェキソフェナジン塩酸塩、エンザルタミド、ニンテダニブエタンスルホン酸塩、セレコキシブ、アジルサルタン、ニロチニブ塩酸塩水和物、アパルタミド、パルボシクリブ、オラパリブ、及び、ポサコナゾールからなる群から選択される1種以上の化合物である、「1」~「4」のいずれか一項に記載の非晶質固体分散体。
【0087】
(医薬組成物)
本実施形態の医薬組成物は、上述した非晶質固体分散体を含有する。
本実施形態の医薬組成物は、上述した非晶質固体分散体以外の薬学的に許容される任意成分を含有してもよい。薬学的に許容される任意成分としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、保湿剤、界面活性剤、増粘剤、溶剤、噴射剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、キレート剤、酸、アルカリ、無機塩、水、金属含有化合物、高分子添加剤、分散剤、緩衝剤、嬌味剤、香料、被膜剤等が挙げられる。
【0088】
本実施形態の医薬組成物の剤型としては、医薬品製剤として一般的に用いられる剤型とすることができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口的に投与する剤型;及び、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の非経口的に投与する剤型等が挙げられ、本実施形態の医薬組成物が含有する薬物によって適宜選択される。これらの剤型の医薬組成物は、定法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、製剤化することができる。
【0089】
本実施形態の医薬組成物の投与方法は、特に制限されず、医薬品の投与方法として一般的に用いられる方法で投与することができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等として経口投与してもよく、注射剤、輸液製剤等として、単独で、又はブドウ糖液、リンゲル液等の一般的な輸液と混合して、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内等に投与してもよく、坐剤として直腸内投与してもよく、皮膚外用剤として皮膚に塗布してもよく、本実施形態の医薬組成物が含有する薬物によって適宜選択される。
【0090】
本実施形態の医薬組成物の投与量は、治療的有効量とすることができる。治療的有効量は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに、本実施形態の医薬組成物が含有する薬物の種類、医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。
【0091】
本実施形態の医薬組成物の投与間隔は、患者の症状、体重、年齢、および性別等、並びに、本実施形態の医薬組成物が含有する薬物の種類、医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。
【0092】
(非晶質固体分散体の製造方法)
本実施形態の非晶質固体分散体の製造方法は、薬物と、担体とを混合して、非晶質状態の薬物が担体に分散した、非晶質固体分散体を得る工程を有する。
本実施形態の非晶質固体分散体の製造方法は、薬物として、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を用いて、前記担体として、糖転移ヘスペリジンを含有する担体を用いる。
【0093】
薬物と、担体とを混合する方法として、具体的には、溶融法、溶媒法、メカノケミカル法(混合粉砕法)等を用いことができる。
【0094】
<溶融法>
溶融法は、薬物と、担体と、必要に応じて任意成分とを加熱しながら、混合する方法である。
具体的に、溶融法としては、薬物と、担体と、必要に応じて任意成分とを、加熱装置を備えた押し出し機に投入し、混合する方法が挙げられる。加熱装置を備えた押し出し機として、具体的には、2軸のホットメルトエクストルーダー等が挙げられる。
加熱する温度としては、100~250℃が好ましい。
スクリュー回転数は、50~150rpmが好ましい。
【0095】
<溶媒法>
溶媒法は、薬物と、担体と、必要に応じて任意成分とを溶媒に溶解又は懸濁させ、その後、前記溶媒を除去して固体分散体を析出させるか、又は前記溶媒中、固体分散体を析出させる方法である。
溶媒としては、有機溶媒、水又はその混液等が挙げられる。
有機溶媒として、具体的には、炭素数1~5の1価アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0096】
溶媒を除去する方法としては、乾燥法、噴霧法、ろ過法、エバポレーション法、凍結乾燥法等の方法が挙げられる。
具体的に、溶媒法としては、薬物と、担体と、必要に応じて任意成分と、溶媒とを、公知の撹拌機で混合し、得られた溶液を真空乾燥機にて10~48時間乾燥させる方法が挙げられる。
【0097】
<メカノケミカル法>
メカノケミカル法は、固体物質に衝撃やせん断、摩擦などの機械的エネルギーを加えることで、その固体物質の熱力学的・結晶学的・化学的性質に変化を引き起こしながら、固体物質を混合する方法である。
具体的には、薬物と、担体と、必要に応じて任意成分とをボールミル、ハンマーミル等の混合機及び粉砕機に投入し、混合する方法が挙げられる。
【0098】
本実施形態の非晶質固体分散体の製造方法は、上述した溶融法又は溶媒法を用いることが好ましく、より具体的には、以下の製造方法を用いることが好ましい。
【0099】
溶融法を用いた顆粒の非晶質固体分散体の好適な製造方法は以下の通りである。
(ia)薬物と、担体と、必要に応じて任意成分とを公知の混合機で混合して、混合物を得る。
(iia)(ia)で得た混合物を2軸のホットメルトエクストルーダーに投入し、溶融混練する。
(iiia)(iia)で得た溶融物をホットメルトエクストルーダーから取り出して、室温で冷却する。
(iva)(iiia)で得た冷却された溶融物を、衝撃式粉砕機で粉砕する。
(va)(iva)で得た粉砕物を篩い分けして、整粒し、非晶質固体分散体を製造する。
【0100】
溶媒法を用いた顆粒の非晶質固体分散体の好適な製造方法は以下の通りである。
(ib)薬物と、溶媒とを公知の撹拌機で撹拌して、第1の混合溶液を得る。
(iib)(ib)で得た第1の混合溶液に、担体と、必要に応じて任意成分とを添加して、公知の撹拌機で撹拌し、第2の混合溶液を得る。
(iiib)(iib)で得た第2の混合溶液を真空乾燥機にて、好ましくは5~48時間、より好ましくは8~40時間、さらに好ましくは10~30時間乾燥させて、固形分を得る。
(ivb)(iiib)で得た固形分を衝撃式粉砕機で粉砕する。
(vb)(ivb)で得た粉砕物を篩い分けして、整粒し、非晶質固体分散体を製造する。
【0101】
(非晶質固体分散体の安定化方法)
本実施形態の非晶質固体分散体の安定化方法は、薬物として、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を用いて、前記担体として、糖転移ヘスペリジンを含有する担体を用いる。
薬物として、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物を用いて、前記担体として、糖転移ヘスペリジンを含有する担体を用いることにより、非晶質固体分散体を安定化させることができる。
より具体的には、分子量が360以上であり、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物用いて、前記担体として、糖転移ヘスペリジンを含有する担体を用いて、上述した製造方法により非晶質固体分散体を製造することで、非晶質固体分散体をより安定化させることができる。
【実施例0102】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0103】
<顆粒の非晶質固体分散体の製造方法>
≪溶媒法を用いた非晶質固体分散体の製造1≫
(実施例1)
ビーカーに水50gとテネリグリプチン臭化水素酸塩2gとを加えて、撹拌し、第1の混合溶液を得た。
第1の混合溶液に、糖転移ヘスペリジン αG-PA-T(商品名:αGヘスペリジンPA-T、グリコ栄養食品社製)2gを添加して、撹拌し、第2の混合溶液を得た。
第2の混合溶液を真空乾燥機(アズワン社製、製品名「ETTAS真空乾燥器」)にて、40℃で、12~24時間乾燥させ、固形分を得た。
得られた固形分を衝撃式粉砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ラボミルサー」)で粉砕した。
得られた粉砕物を30メッシュの篩で整粒し、実施例1の非晶質固体分散体を得た。
【0104】
(実施例2)
テネリグリプチン臭化水素酸塩の配合量を1gに変更し、糖転移ヘスペリジン αG-PA-T(商品名:αGヘスペリジンPA-T、グリコ栄養食品社製)2gを糖転移ヘスペリジン αG-H(商品名:αGヘスペリジンH、グリコ栄養食品社製)3gに変更したこと以外は、実施例1の非晶質固体分散体の製造方法と同様の方法で、実施例2の非晶質固体分散体を得た。
【0105】
(比較例1)
テネリグリプチン臭化水素酸塩2gを、ビルダグリプチン2gに変更したこと以外は、実施例1の非晶質固体分散体の製造方法と同様の方法で、比較例1の非晶質固体分散体を得た。
【0106】
<X線回折測定>
各例の固体分散体を、X線回折装置(D8 ADVANCE、Bruker社製)を用いて、以下の測定条件で結晶性の有無を評価した。X線回折結果が、ハローパターンの場合は非晶質、薬剤由来の明確なピークが見られる場合には結晶性があると判断した。
なお、薬物として、テネリグリプチン臭化水素酸塩を用いた場合は、測定条件1で測定を行い、薬物として、テネリグリプチン臭化水素酸塩以外を用いた場合は、測定条件2で測定を行った。
【0107】
≪測定条件1≫
陽極:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
ステップ幅:0.01°
走査軸:2θ
ステップあたりのサンプリング時間:192秒
走査範囲:4~8°
【0108】
≪測定条件1≫
陽極:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
ステップ幅:0.01°
走査軸:2θ
ステップあたりのサンプリング時間:96秒
走査範囲:5~40°
【0109】
上述した方法で製造した直後の各例の固体分散体の結晶性の有無を、表1に「非晶質化(Initial)」として示した。表1中の「A」は、非晶質であることを意味し、「B」は、結晶性があることを意味する。
【0110】
・安定性評価
また、表1に示した条件(25℃75%RH_open、40℃75%RH_close、60℃)で1ヶ月放置した各例の固体分散体の安定性も表1に示した。
なお、openとは開放状態で保存したものを意味し、closeとは密栓状態で保存したものを意味する。
【0111】
・回折パターン
実施例1の非晶質固体分散体のX線回折測定により得られた回折パターンを
図1に示した。
実施例2の非晶質固体分散体のX線回折測定により得られた回折パターンを
図2に示した。
比較例1の非晶質固体分散体のX線回折測定により得られた回折パターンを
図3に示した。
具体的には、各例の非晶質固体分散体のX線回折測定により得られた製造直後(initial)の回折パターン、安定性評価を行った後の回折パターン(25℃75%RH-1M、40℃75%RH-1M、60℃)をそれぞれ示した。
【0112】
【0113】
表1に示す通り、実施例1及び2の固体分散体は、製造直後も、長期間放置した場合であっても、各例の固体分散体中の薬物が非晶質状態を維持していた。
一方で、環構造中に窒素原子を有する複素環式化合物であるが、分子量が360未満であるビルダグリプチンを薬物として用いた比較例1の固体分散体は、製造直後は非晶質状態であったが、長期間放置した場合、薬物の結晶性が確認された。
【0114】
≪溶媒法を用いた非晶質固体分散体の製造2≫
(実施例3)
テネリグリプチン臭化水素酸塩2gを、バラシクロビル塩酸塩0.22gに変更したこと以外は、実施例1の非晶質固体分散体の製造方法と同様の方法で、実施例3の非晶質固体分散体を得た。
【0115】
(実施例4)
テネリグリプチン臭化水素酸塩2gを、ニンテダニブエタンスルホン酸塩1gに変更し、糖転移ヘスペリジン αG-PA-T(商品名:αGヘスペリジンPA-T、グリコ栄養食品社製)を2gから3gに変更したこと以外は、実施例1の非晶質固体分散体の製造方法と同様の方法で、実施例4の非晶質固体分散体を得た。
【0116】
≪溶融法を用いた非晶質固体分散体の製造≫
(実施例5)
アピキサバン20gと、糖転移ヘスペリジン αG-PA-T(商品名:αGヘスペリジンPA-T、グリコ栄養食品社製)20gとをビニール袋内で混合して、混合物を得た。
得られた混合物を2軸のホットメルトエクストルーダー(Threw Tec社製、製品名「エクストルーダ(ZE-9)」)に投入し、溶融温度230℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練した。
得られた溶融物を該ホットメルトエクストルーダーから取り出して、室温で冷却した。
冷却した溶融物を、衝撃式粉砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ラボミルサー」)で粉砕した。
得られた粉砕物を30メッシュの篩で整粒し、実施例5の非晶質固体分散体を得た。
【0117】
(実施例6)
糖転移ヘスペリジン20gを、60gに変更したこと以外は、実施例5の非晶質固体分散体の製造方法と同様の方法で、実施例6の非晶質固体分散体を得た。
【0118】
上述した方法で製造した直後の各例の固体分散体の結晶性の有無を、上述した方法で確認し、表2に「非晶質化(Initial)」として示した。表1中の「A」は、非晶質であることを意味し、「B」は、結晶性があることを意味する。
【0119】
また、表2に示した条件(25℃75%RH_open、40℃75%RH_close、60℃)で1ヶ月放置した各例の固体分散体の安定性も表2に示した。
なお、openとは開放状態で保存したものを意味し、closeとは密栓状態で保存したものを意味する。
【0120】
・回折パターン
実施例3の非晶質固体分散体のX線回折測定により得られた回折パターンを
図4に示した。
実施例4の非晶質固体分散体のX線回折測定により得られた回折パターンを
図5に示した。
実施例5の非晶質固体分散体のX線回折測定により得られた回折パターンを
図6に示した。
実施例6の非晶質固体分散体のX線回折測定により得られた回折パターンを
図7に示した。
【0121】
【0122】
表2に示す通り、実施例3~6の固体分散体は、製造直後も、長期間放置した場合であっても、各例の固体分散体中の薬物が非晶質状態を維持していた。