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特開2024-24624アルミニウム合金箔およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024624
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20240215BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20240215BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
C22C21/00 M
C22F1/04 A
C22F1/00 622
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 630K
C22F1/00 673
C22F1/00 676
C22F1/00 694B
C22F1/00 685Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130428
(22)【出願日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2022127145
(32)【優先日】2022-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】捫垣 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】安元 透
(57)【要約】
【課題】本発明は、伸びと成形性に優れたアルミニウム合金箔の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るアルミニウム合金箔は、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であり、表面についてEBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することを特徴とする。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であり、表面においてEBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することを特徴とするアルミニウム合金箔。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
【請求項2】
前記圧延方向に対する0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも15%以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項3】
Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔の製造方法であり、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であり、表面においてEBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法であり、
前記組成のアルミニウム合金の鋳塊に均質化処理、熱間圧延、冷間圧延を施した後、中間焼鈍を施すことなく箔圧延し、最終焼鈍することを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品やリチウムイオン電池等の包材に用いられるアルミニウム合金箔は、プレス成型等によって大きな変形が加えられて成形されるため、高い伸びを有していることが求められる。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、成形加工性に優れたアルミニウム箔の製造方法としてFeを0.7~2.0%含有したアルミニウム合金からなる箔の製造方法が開示されている。特許文献1に記載の技術では、熱間圧延後、冷間圧延の工程中において中間焼鈍を行わずに箔製品まで97%以上の加工率で強加工し、300~450℃で仕上げ焼鈍を施す技術について記載されている。
また、以下の特許文献2には、Feを0.7~1.4質量%含有したアルミニウム合金箔において、傾角が5゜を超える結晶粒の平均結晶粒径が3.5μm以下であるアルミニウム合金軟質箔が記載されている。特許文献2に記載の技術では、鋳塊に400~500℃で均質化処理した後、熱間圧延終了温度を300℃以上として熱間圧延後、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延し、220~275℃で最終焼鈍することにより、優れた強度を示す軟質箔を製造する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-080541号公報
【特許文献2】特開2017-160509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の包材用アルミニウム合金箔を製造する場合、必要な組成の合金溶湯から、鋳造により鋳塊を得、鋳塊に均質化処理を施した後、熱間圧延と冷間圧延を施し、最終焼鈍を施すことで目的の機械特性を有する包材を得ている。
このような工程を経て製造される包材について、前述の背景に鑑み、本発明者は電池用外装箔などの包材として好適なアルミニウム合金箔について、研究開発を行っている。
【0006】
この研究に基づき、本発明者は、高い成形性を有するアルミニウム合金箔を得るためには、変形時の表面の肌荒れを抑制できることが重要と考えている。
また、包材用アルミニウム合金箔について本発明者が研究した結果、変形時の表面の肌荒れに関し、包材の結晶粒組織において、方位差15゜未満の結晶粒の粒界比率を高くすることが重要であることを知見した。
【0007】
そこで本発明者は、包材用アルミニウム合金箔について製造方法の見直しと結晶組織の検討を行うことで、生産性を向上できるとともに成形性に優れるアルミニウム合金箔の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
「1」本形態のアルミニウム合金箔は、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であり、表面においてEBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することを特徴とする。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
【0009】
「2」本形態のアルミニウム合金箔において、前記圧延方向に対する0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも15%以上であることが好ましい。
「3」本形態のアルミニウム合金箔の製造方法は、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔の製造方法であり、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であり、表面においてEBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法であり、前記組成のアルミニウム合金の鋳塊に均質化処理、熱間圧延、冷間圧延を施した後、中間焼鈍を施すことなく箔圧延し、最終焼鈍することを特徴とする。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルミニウム合金箔によれば、加工性が良好であり、かつ高い成形性を有するアルミニウム合金箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るアルミニウム合金箔の第1実施形態を示す平面図である。
図2】本発明の実施例において限界成形高さ試験で用いる角型ポンチの平面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0013】
図1は、本発明に係るアルミニウム合金箔の一実施形態を示す平面図である。
図1に示すアルミニウム合金箔1は、鋳造法により得られた鋳造塊に熱間圧延と冷間圧延と箔圧延を経て得られた箔であり、図1では一定幅を有し長さ方向を左右に向けた帯状体として描かれている。
このアルミニウム合金箔1の圧延方向は図1に示す左右方向(帯状の箔の長さ方向)であり、便宜的に圧延方向に対し0°の方向は図1の左右方向を意味し、圧延方向に対し45°方向とは図1に示す45°と記載した矢印方向を意味し、圧延方向に対し90°方向とは図1に示す90°と記載した矢印方向を意味する。アルミニウム合金箔1において圧延方向に対し90°方向とは、換言すると帯状のアルミニウム合金箔1の幅方向(図1の紙面上下方向)を意味する。
【0014】
図1に示すアルミニウム合金箔1は、例えば、0.01mm~0.2mm程度の厚さに形成されている。アルミニウム合金箔1の厚さは箔として用いる一般的な厚さで差し支えない。例えば、0.04mm(40μm)程度の厚さに形成される。
このアルミニウム合金箔1は、一例として、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなる。
アルミニウム合金箔1は、一例として、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であり、平均結晶粒径が20μm未満であることが好ましい。また、伸びについては、15%以上がより好ましい。
【0015】
以下、アルミニウム合金箔1を構成するアルミニウム合金の組成限定理由と特性限定理由、組織限定理由について説明する。
・Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下
Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物として晶出し、それら化合物のサイズが適している場合は、焼鈍時に再結晶のサイトとなって再結晶粒を微細化する効果がある。
Fe含有量を0.8質量%未満にすると金属間化合物の分布密度が低くなり、結晶粒の微細化効果が低くなり、最終的な再結晶粒が粗大となり、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の粒界密度が低くなる。Fe含有量が2.0質量%を超えると結晶粒微細化の効果が飽和もしくは低下し、さらに鋳造時に生成されるAl-Fe系金属間化合物のサイズが非常に大きくなり、箔の伸びや成形性、生産性が低下する。Fe含有量において特に好ましい範囲は、1.2質量%以上、1.8質量%以下である。
・Si:0.20質量%以下
SiはFeと共に金属間化合物を形成するが、過剰に添加した場合には化合物のサイズの粗大化、及び分布密度の低下を招く。含有量が上限を超えると、粗大な晶出物による伸びや成形性の低下、さらには最終焼鈍後の再結晶粒サイズ分布の均一性が低下する懸念がある。これらの理由からSiの含有量を0.20質量%以下に定める。なお、同様の理由により、Si含有量の上限を0.04質量%とするのがより好ましい。
【0016】
本発明に係るアルミニウム合金箔を構成する成分の残部は、Alと不可避不純物からなる。この不可避不純物とは、アルミニウム合金箔の製造時に不可避的に混入した元素をいう。この不可避不純物は、本発明のアルミニウム合金箔の特性に影響を与えない範囲で含んでもよい。この不可避不純物としては、例えば、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等の元素があげられ、これらのうち、1種又は2種以上を各々500質量ppm以下含んでいてもよい。
【0017】
・圧延方向に対して0゜、45゜、90゜方向の伸びがいずれも10%以上
包材に用いられるアルミニウム合金箔1は、プレス成形によって3次元的な変形が加えられる。そのため、圧延方向の伸びのみではなく、種々の方向に対する良好な伸びを有することが求められる。上述の何れかの方向に対する伸びが10%未満である場合、その方向の伸びが律束となりアルミニウム合金箔1の成形性が低下する。
アルミニウム合金箔1の成形性を保つためには、圧延方向に対し全ての方向において伸びが10%以上であることを要する。本実施形態のアルミニウム合金箔1において、全ての方向の伸びが優れることの例示として、圧延方向に対し0°方向の伸び、45゜方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも優れることを意図する。
アルミニウム合金箔1において圧延方向に対し0°方向の伸び、45゜方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが最も好ましい。
【0018】
・箔の平均結晶粒径が20μm未満
本実施形態のアルミニウム合金箔1にあっては、その結晶粒を微細化することで変形した際の箔表面の肌荒れを抑制することができる。平均結晶粒は、アルミニウム合金箔1の表面について測定する。結晶粒を微細化すると、高い伸びとそれに伴う高い成形性を期待できる。箔の平均結晶粒径が20μm以上では、結晶粒が粗大なため、成形時に箔表面に肌荒れを生じ易く、成形性の低下をもたらす。平均結晶粒径については小さい方が望ましく、11μm以下がより好ましい。
【0019】
・方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5
アルミニウム合金箔1は、変形時における箔表面の肌荒れを抑制することで高い成形性を得ることができる。箔表面の肌荒れを抑制するためには、アルミニウム合金箔1の表面において、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の密度が高く存在していることが重要と考えられる。よって、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5の関係を(1)式として、この(1)式の関係を満足することが好ましい。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ≦0.5の関係となる場合、箔表面の肌荒れを生じ、限界成形高さが低くなるなど、成形性の低下をもたらす。
【0020】
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さとは、前処理としてアルミニウム合金箔の表面を電解研磨などの手法により鏡面加工する。電解研磨には過塩素酸:エタノール=1:4(体積比)の溶液を用い、電圧20Vで5秒程度処理することができる。
次に、SEM(走査電子顕微鏡)-EBSD(後方散乱電子回折)にて結晶方位解析を行って取得される、同一視野内で方位差2°以上15°未満の小角粒界(LAGB)の粒界長さの合計値を求める。同様にして結晶粒間の方位差が15°以上の大角粒界(HAGB)の粒界長さの合計値を求める。これら粒界長さ合計値の割り算により、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さを求めることができる。
SEMにて解析する場合、観察倍率:900倍、加速電圧15kV、試料傾斜角度70°、Step Size:0.3μmで連続的に複数の視野測定し、視野内のHAGBの長さとLAGBの長さを求め、これらの比を算出する。
解析条件は、解析ソフトとして、TSL Solutions社のOIM Analysis(Ver.8.0)を用い、面積は前述の900倍で測定した画像を連結させて合計面積40000μm以上とし、CI値(Confidence Index)として0.1以下を排除し、Minimum Grain Size[points]:2、Anti Grains:2として求めることができる。
【0021】
(粒界長さ)
粒界長さについては、EBSDのGrain-MAPにおいてBoundariesを規定することで、任意の方位差を持つ粒界について解析を実施することが出来る。
方位差2°未満の粒界についてはノイズを含む可能性があるため、排除して計算を行う必要がある。本願では方位差2゜以上15°未満(=LAGB)はmin:2°-max:15°とし、方位差15°以上(=HAGB)はmin:15°(-max:90°)と規定して解析を実施し、解析によって得た粒界長さを用いて前述のLAGB/HAGBを算出することとする。
【0022】
なお、限界成形高さとは、電池の包材などのように3次元形状に加工して使用する場合の加工性の目安として、図2に示す角型のポンチ2を用いてアルミニウム合金箔1に成形加工を施した場合にどの程度の変形が可能か否かで判断する。例えば、潤滑油を供給し、ポンチ2を用いて一定の速度でアルミニウム合金箔1を成形した場合、割れやピンホールを生じることなく成形できた場合の最大のポンチ高さを限界成形高さとすることができる。限界成形高さの値が大きいほど、優れた加工性を有するアルミニウム合金箔1であると判断できる。
【0023】
「アルミニウム合金箔の製造方法」
図1に示すアルミニウム合金箔1を製造するには、上述の組成を満足するアルミニウム合金溶湯を作製し、このアルミニウム合金溶湯を用いる鋳造法によりアルミニウム合金鋳造塊を得る。次に、このアルミニウム合金鋳造塊に対し均質化処理を施し、熱間圧延と冷間圧延と箔圧延により目的の厚さに加工し、最終焼鈍することでアルミニウム合金箔1を得ることができる。
【0024】
・均質化処理:480~540℃で6時間以上保持
鋳造により得られたアルミニウム合金鋳造塊に対し均質化処理を施すことが好ましい。均質化処理は、480℃~540℃の温度範囲で数時間、例えば520℃で8時間程度施すことができる。
均質化処理の温度を480℃以下にするとFe析出が少なく、また金属間化合物の成長が不十分となる。一方、均質化処理の温度を540℃以上にすると、金属間化合物の成長が著しく、粒子径0.1μm以上1μm未満の微細な金属間化合物の密度が大きく低下してしまう。このような500℃付近の均質化処理において、微細な金属間化合物を高密度に析出させるには長時間の熱処理が必要であり、均質化処理時間として最低6時間以上は確保する必要がある。6時間未満の均質化処理では析出が十分でなく、微細な金属間化合物の密度が低下してしまう。
【0025】
・熱間圧延:仕上がり温度240℃以上300℃未満
熱間圧延においては、仕上がり温度を300℃未満とし、再結晶を抑制することが望ましい。熱間圧延仕上がり温度を300℃未満とする事で、熱間圧延板は均一なファイバー組織となる。熱間圧延仕上がり温度が300℃を超えると熱間圧延板の一部で再結晶を生じ、ファイバー組織と再結晶粒組織が混在する組織になり、最終焼鈍時において再結晶粒径が不均一化するおそれがある。230℃未満で熱間圧延を仕上げるには、熱間圧延中の温度も極めて低温となる為、圧延板のサイドにクラックが発生し易くなり、生産性が大幅に低下する懸念がある。従って、熱間圧延の仕上がり温度は、240℃以上300℃未満の範囲であることが好ましい。
【0026】
・最終冷間圧延率:98%以上
熱間圧延後から最終箔厚みまでの冷間圧延率が高い程、材料に蓄積されるひずみ量が多くなり、最終焼鈍後の再結晶粒が微細化される。
必要な加工率で冷間圧延を必要回数行い、箔圧延を行うことで厚さ10μm~0.2mm程度、例えば厚さ40μmのアルミニウム合金箔1を得ることができる。
冷間圧延を必要回数行う場合、中間焼鈍を施すことなく最終の箔圧延を行い、最終焼鈍を施すことが好ましい。
また、冷間圧延後に最終焼鈍を行うにあたり最終焼鈍条件は、220℃~350℃に30分~20時間程度加熱後、徐冷する条件とすることが望ましい。
【0027】
得られたアルミニウム合金箔1において、Feを所定量含んでいるが、Feはアルミニウム合金の集合組織に影響して結晶粒径の微細化に寄与する。Feを0.8~2.0質量%含有しているアルミニウム合金であるが、冷間圧延の最終段階に中間焼鈍を施すことなく最終冷間圧延としての箔圧延を行い、最終焼鈍することで上述の範囲のFe含有量としても、良好な伸びを有することとなる。
なお、ここで用いるアルミニウム合金には、Feに加えてSiを0.2質量%以下程度含んでいても良い。本実施形態のアルミニウム合金箔1においてSiを上述の範囲含んでいても目的を達成できるアルミニウム合金箔が得られる。
【0028】
以上説明の製造方法により、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であり、平均結晶粒径が20μm未満のアルミニウム合金箔1を得ることができる。
以上説明のアルミニウム合金箔1であるならば、食品包装用、あるいは、リチウムイオン電池の成形包材用として好適であり、プレス成形によって大きな変形を施す用途、高い伸び、成形性が要求される用途に好適なアルミニウム合金箔を提供できる。また、冷間圧延後に中間焼鈍を施すことなく生産できるので、生産性に優れたアルミニウム合金箔1を得ることができる。
【0029】
・結晶粒における{111}面の合計面積割合
本実施形態のアルミニウム合金箔1において、結晶粒における{111}面の合計面積割合は50%以上(アルミニウム合金箔を圧延方向(RD)に対し垂直方向に切断した断面の観察において)であることが好ましい。例えば、60~75%の範囲である。
結晶粒における{111}面の合計面積割合が50%未満になると、充分な限界成形高さが得られなくなる。
【0030】
アルミニウム合金箔に対しCP(クロスセクションポリッシャー)を用いた断面加工方法にて圧延方向に垂直な断面を得た。得られた断面について、観察倍率:2000倍、加速電圧:15kV、試料傾斜角度:70°、Step Size:0.3μmの測定条件でEBSD測定を行い、得られた画像を連結させて合計面積40000μm以上を解析する。
解析手法として、Map解析におけるMap Propertiesにて以下の条件を設定することができる。
Color Coded⇒Crystal Direction⇒Edit
Crystal Direction: <uvw> <111> <hkl> <111>
Sample Direction:A1:1、A2:0、A3:0
Tolerance:min0°max:15°
以上説明の測定条件と解析方法により設定し算出されたTotal Fractionを百分率換算(100倍)して本願における{111}面の合計面積割合とすることができる。
【0031】
・集合組織
本実施形態のアルミニウム合金箔1は、XRD(X線回折)にて解析した際の方位密度としてCube方位と、Goss方位と、Brass方位と、S方位と、Cu方位の方位密度を測定できる。
これらの中でCube方位は{001}<100>、Cu方位は{112}<111>を代表方位とすることができる。それぞれの方位密度はX線回析法において、{200}{220}{111}の不完全極点図を測定し、その結果を用いて3次元方位分布関数(ODF:Orientation Distribution Function)を計算し評価することができる。
アルミニウム合金箔ではCu方位への集積が高いことで変形時における表面の荒れを抑制することで、変形能の向上が可能である。本実施形態のアルミニウム合金箔ではCu方位密度とCube方位密度の比が以下の式を満たすものが特に好ましい。
Cu方位密度/Cube方位密度≧8.0
【実施例0032】
表1に示す組成(残部がAlとその他不可避不純物)を有するアルミニウム合金の鋳塊を半連続鋳造法により作製した。その後、得られた鋳塊に対し、表1に示す均質化処理(温度と時間)と、熱間圧延仕上り温度と、熱間圧延仕上り厚みに従うように各処理を施して冷間圧延し、冷間圧延時に中間焼鈍を施すことなく最終の箔圧延を行い、最終焼鈍することによりアルミニウム合金箔を製造した。
最終焼鈍の条件は300℃×20時間とした。アルミニウム合金箔の最終厚さは40μmとした。実施例1~8と比較例1~4は冷間圧延最終段階において中間焼鈍を施すことなく最終冷間圧延として箔圧延し、この最終冷間圧延後に最終焼鈍を施している。
最終冷間圧延において中間焼鈍を実施した試料(比較例5~7)については、中間焼鈍を360℃×3時間の条件で実施した。表1では中間焼鈍を施していない例は中間焼鈍の欄に×を表示し、中間焼鈍を施した例は○印を記載している。
【0033】
得られたアルミニウム合金箔に対し、以下の測定および評価を行った。
・引張強度(MPa)、伸び(%)
いずれも引張試験にて測定した。引張試験は、JIS Z2241に準拠し、圧延方向に対して0゜、45゜、90°の各方向の伸びを測定できるように、JIS5号試験片をアルミニウム合金箔の試料から採取し、万能引張試験機(島津製作所社製 AGS-X 10kN)で引張り速度2mm/minにて引張試験を行った。
伸び率の算出について以下の通りである。まず、試験前に試験片長手中央に試験片垂直方向に2本の線を標点間距離である50mm間隔でマークする。試験後にアルミニウム合金箔の破断面をつき合わせてマーク間距離を測定し、そこから標点間距離(50mm)を引いた伸び量(mm)を、標点間距離(50mm)で除して伸び率(%)を求めた。
【0034】
・平均結晶粒径(μm)
アルミニウム合金箔の表面を電解研磨した後、SEM(走査電子顕微鏡)-EBSD(後方散乱電子回折)にて結晶方位解析を行い、傾角が5°を超える粒界で囲まれた結晶粒をArea法にて解析を行い、平均結晶粒径として算出した。
測定に先立ち、前処理としてアルミニウム合金箔の表面を電解研磨により鏡面加工する。電解研磨に過塩素酸:エタノール=1:4(体積比)の溶液を用い、電圧20Vで5秒処理した。
【0035】
・LAGB長/HAGB長
箔表面を電解研磨した後、SEM-EBSDにて結晶方位解析を行い、結晶粒間の方位差が15°以上の大角粒界(HAGB)と、方位差2°以上15°未満の小角粒界(LAGB)を観察した。
SEM-EBSDにて解析する場合、観察倍率:900倍、加速電圧15kV、試料傾斜角度70°、Step Size:0.3μmで特定の視野サイズを連続的に複数測定し、視野内のHAGBの長さとLAGBの長さを求め、これらの比を算出した。
解析条件は、解析ソフトとして、TSL Solutions社のOIM Analysis(Ver.8.0)を用い、面積倍率:900倍で測定した画像を連結させて合計面積50000μm以上とし、CI値(Confidence Index)として0.1以下を排除し、Minimum Grain Size[points]:2、Anti Grains:2として求めた。前述の方法で連続的に複数測定し、視野内のHAGB長さとLAGB長さを求め、これらの比を算出した。HAGBの長さとLAGBの長さの比は、「方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ」の値に相当する。
【0036】
粒界長さに関し、EBSDのGrain-MAPにおいてBoundariesを規定することで、任意の方位差を持つ粒界について解析を実施した。
なお、方位差2°未満の粒界についてはノイズを含む可能性があるため、排除して計算した。本願では方位差15°未満(=LAGB)はmin:2°-max:15°とし、方位差15°以上(=HAGB)はmin:15°(-max:90°)と規定して解析を実施し、解析によって得た粒界長さを用いてLAGB/HAGBを算出した。
結晶粒径の解析条件は、以下の通りとした。
Grain Tolerance Angle:5°
Minimum Grain Size[points]:2 Anti Grains:2
Minimum Confidence Index:0.1
Multiple rows required:全てOFF
Apply partition before calculation:OFF
Include grains at edges of scan in statistics:OFF
【0037】
上述の条件にて前述の測定領域内における結晶粒について、Area法(Average by Area Fraction Method)にて算出を行った。Area法では測定領域を結晶粒の個数で割ることで算出された面積を円に仮定した時の直径である。
より、詳細には、HAGBsで囲まれた結晶粒を特定した。ここで、結晶粒の輪郭が観察視野の枠に交差する結晶粒は除外した(Edge grain excluded in analysis)。1つの結晶粒内の測定点の数(ポイント数)から結晶粒の面積を算出した。観察視野内において1つの結晶粒が占有する面積率(area fraction)とその結晶粒の面積とを掛け合わせた値を算出した。観察された全ての結晶粒の面積率とその面積とを掛け合わせた値の合計を結晶粒の平均面積として算出した(Area法)。結晶粒の平均面積と同じ面積を有する円の直径(円相当径:equivalent circular area diameter)を平均結晶粒径として算出した。
【0038】
・限界成形高さ
限界成形高さは角筒成形試験にて評価した。試験は万能薄板成形試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)にて行い、厚さ40μmのアルミニウム箔を図2に示す形状を有する角型ポンチ2(一辺の長さD=37mm、角部の面取り径R=4.5mm)を用いて行った。
試験条件として、シワ抑え力は10kN、ポンチ2の上昇速度(成形速度)の目盛は1とし、そして箔の片面(ポンチ2が当たる面)に鉱物油を潤滑剤として塗布した。
アルミニウム箔に対し、試験装置の下部から上昇するポンチ2が当たり、箔が成形されるが、3回連続成形した際に割れやピンホールがなく成形できた最大のポンチ上昇高さをその材料の限界成形高さ(mm)と規定した。ポンチ上昇高さは0.1mm間隔で変化させた。本発明においては成形高さ10.0mm以上を合格とした。
【0039】
表1に示す合金組成と表1に示す製造工程のいずれかを採用し、実施例1~8、比較例1~7を作成した。実施例はいずれも前述した望ましい組成あるいは製造条件を満たす例である。比較例はいずれも前述した望ましい組成あるいは製造条件のいずれかを満たしていない例である。
実施例1~8と比較例1~7について、0°、45゜、90゜方向の伸び(%)と、0°、45゜、90°方向の耐力(MPa)と、0°、45゜、90°方向の引張強度(MPa)と、Cu方位密度、Cube方位密度及びCu方位密度/Cube方位密度の値と、平均結晶粒径(μm)、LAGBの長さ/HAGBの長さ値、限界成形高さ(mm)を求め、それらの測定結果と評価を表1、表2に記載した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
表1、表2に示す結果が示すように、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、平均結晶粒径が20μm未満、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒長さ/方位差15゜以上の結晶粒長さ>0.5の関係を有するアルミニウム合金箔は、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であった。
具体的に表2に示す実施例1~8では、平均結晶粒径6.1~10.8μmの範囲であり、0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びが11~29%の優れた値を示し、限界成形高さもいずれも10.2~12.3mmであった。特に、実施例3、4、6は、21~29%の優れた伸びを示し、平均結晶粒径が6.1~8.2μmと微細であり、「方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ」の値が0.52~0.75の優れた値を示した。
【0043】
これら実施例に対し、比較例1は、Fe含有量が上述の範囲より少ない試料であるが、平均結晶粒径が実施例試料より若干大きく、限界成形高さが低くなり、比較例2はFe含有量が上述の範囲より多い試料であるが、限界成形高さが低くなった。
比較例3、4はSi含有量が上述の範囲より多い試料であるが、限界成形高さが低くなった。
比較例5は中間焼鈍を施した試料であるが、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さの値が0.5より小さくなり、限界成形高さが低くなった。
【0044】
中間焼鈍を施した比較例試料のSEM-EBSD解析像(図示略)と、中間焼鈍を施していない実施例試料のSEM-EBSD解析像(図示略)を対比すると、実施例試料において方位差2゜以上15°未満の粒界(小径角粒界)が多いことが分かった。
このことから、実施例試料の方が方位差2°以上15°未満の小角粒の結晶粒界(LAGB)が長くなり、方位差2°以上15°未満の小角粒界(LAGB)の長さと結晶粒間の方位差が15°以上の大角粒界(HAGB)の長さの比であるLAGBの長さ/HAGGBの長さの値が0.5を超える値の試料が伸びと限界成形高さについて優れていると推定できる。
【0045】
0°方向の耐力と、15°方向の耐力と、90°方向の耐力の測定結果について、実施例試料と比較例試料を同じ方向で比較すると、実施例試料の引張強さは、比較例試料よりも優れていた。
0°方向の引張強さと、15°方向の引張強さと、90°方向の引張強さの測定結果について、実施例試料と比較例試料を同じ方向で比較すると、実施例試料の引張強さは、比較例試料よりも優れていた。
また、実施例試料は比較例試料に対し、優れた耐力と引張強度を示す上に、Cu/Cubeの比率が10~28であり、Cube方位密度に対するCu方位密度の比率がより高くなっていることが分かった。さらに、実施例試料において{111}面の合計面積割合は概ね50~70%の範囲、例えば53~68%の範囲であったが、比較例試料は52%以下であった。
【符号の説明】
【0046】
1…アルミニウム合金箔、2…ポンチ。
図1
図2