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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024647
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】金属部品
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/50 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
H01L23/50 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202508
(22)【出願日】2023-11-30
(62)【分割の表示】P 2021123496の分割
【原出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 公彦
(72)【発明者】
【氏名】古野 綾太
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高温環境下での半導体装置の信頼性を向上させる金属部品を提供する。
【解決手段】金属部品1は、半導体装置の製造に用いられる金属部品であって、導電性を有する基材2と、基材の表面2aの全面または一部に形成される貴金属めっき層3と、を備える。貴金属めっき層は、表面3aに凹凸形状を有し、凹凸形状における凸部3bのアスペクト比が0.3以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造に用いられる金属部品において、
導電性を有する基材と、
前記基材の表面の全面または一部に形成される貴金属めっき層と、
を備え、
前記貴金属めっき層は、表面に凹凸形状を有し、前記凹凸形状における凸部のアスペクト比が0.3以上である
金属部品。
【請求項2】
前記貴金属めっき層は、Agを主成分として含有する
請求項1に記載の金属部品。
【請求項3】
前記凸部のアスペクト比が0.5以上である
請求項1または2に記載の金属部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造に用いられるリードフレーム等の金属部品において、金属基材の表面の一部または全面に貴金属めっき層を形成する技術が知られている。中でも、Cuを主体とした金属基材の一部にAgめっき層を形成した金属部品は、高い放熱性と導電性から、信頼性が要求される半導体装置に広く採用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05-003277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体装置は、半導体素子や金属部品等を樹脂で封止しており、金属と樹脂との界面が存在している。金属と樹脂とでは熱膨張係数が大きく異なるため、実装時や駆動時の熱により、金属と樹脂との界面における応力が増加し、かかる封止樹脂とめっき層との間の接着強度が低下する場合がある。これにより、封止樹脂とめっき層との間に剥離が生じ、半導体装置の信頼性が低下してしまう恐れがあった。
【0005】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、高温環境下での半導体装置の信頼性を向上させることができる金属部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る金属部品は、半導体装置の製造に用いられる金属部品において、導電性を有する基材と、前記基材の表面の全面または一部に形成される貴金属めっき層と、を備える。また、前記貴金属めっき層は、表面に凹凸形状を有し、前記凹凸形状における凸部のアスペクト比が0.3以上である。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様によれば、高温環境下での半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るリードフレームの模式図および実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係るリードフレームの拡大断面図である。
図3図3は、シア強度試験の試験用サンプルについて説明するための図である。
図4図4は、比較例1、2および実施例1に係るリードフレームの室温環境下および高温環境下でのシア強度を示す図である。
図5図5は、比較例2および実施例2~6に係るリードフレームの高温環境下でのシア強度と、表面粗さRaとの関係を示す図、および比較例2および実施例2~6に係るリードフレームの高温環境下でのシア強度と、表面積増加率との関係を示す図である。
図6図6は、比較例2および実施例2~6に係るリードフレームの高温環境下でのシア強度と、アスペクト比との関係を示す図である。
図7図7は、実施形態に係るリードフレームにおけるアスペクト比と高温環境下でのシア強度との相関関係を示す図である。
図8図8は、比較例3に係るリードフレームに形成されためっき層の熱処理前および熱処理後の表面形態および断面形態を示す図である。
図9図9は、実施例2に係るリードフレームに形成されためっき層の熱処理前および熱処理後の表面形態および断面形態を示す図である。
図10図10は、実施例1に係るリードフレームの熱履歴によるシア強度の推移について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する半導体装置の製造に用いられる金属部品のうち、その一例としてリードフレームについて説明する。なお、以下に示す実施形態により本開示が限定されるものではない。
【0010】
また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。さらに、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0011】
従来、半導体装置の製造に用いられるリードフレーム等の金属部品において、金属基材の表面の一部または全面にAgめっき層などの貴金属めっき層を形成する技術が知られている。Agめっき層を金属基材の表面に形成することにより、金属基材と半導体素子およびボンディングワイヤとの間の接合強度を向上させることができることから、半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0012】
中でも、Cuを主体とした金属基材の表面の一部にAgめっき層を形成したリードフレームは、高い放熱性と導電性を有し、信頼性が要求される半導体装置に広く採用されている。
【0013】
半導体装置は、半導体素子や金属部品等を樹脂で封止しており、金属と樹脂との界面が存在している。金属と樹脂とでは熱膨張係数が大きく異なるため、実装時や駆動時の熱により、金属と樹脂との界面で応力が増加する。
【0014】
特に、実装時のはんだリフロー温度は樹脂のガラス転移温度よりも高く、かかる封止樹脂と金属部品との間の接着強度を極端に低下させてしまう。これにより、樹脂との接着強度が低い貴金属めっき層が応力に耐え切れず、封止樹脂との間に剥離が生じ、半導体装置の信頼性が低下してしまう恐れがあった。
【0015】
そこで、上述の問題点を克服し、高温環境下での半導体装置の信頼性を向上させることができる技術の実現が期待されている。
【0016】
<リードフレームおよび半導体装置>
最初に、図1を参照しながら、実施形態に係るリードフレーム1および半導体装置100について説明する。図1の(a)は、実施形態に係るリードフレーム1の模式図であり、図1の(b)は、実施形態に係る半導体装置100を示す断面図である。
【0017】
図1の(a)に示すリードフレーム1は、QFP(Quad Flat Package)タイプの半導体装置100の製造に用いられるリードフレームについて示している。なお、本開示の技術は、その他のタイプ、たとえばSOP(Small Outline Package)や半導体装置の裏面にリードが露出するQFN(Quad Flat Non-lead package)などの半導体装置の製造に用いられるリードフレームに適用してもよい。
【0018】
実施形態に係るリードフレーム1は、たとえば平面視で帯形状を有し、長手方向に沿って複数の単位リードフレーム10が並んで形成されている。かかる単位リードフレーム10は、リードフレーム1を用いて製造される半導体装置100の一つ一つに対応する部位である。なお、リードフレーム1の長手方向に沿ってだけでなく、幅方向にも沿って複数の単位リードフレーム10が並んで形成されていてもよい。
【0019】
図1の(a)に示すように、単位リードフレーム10は、ダイパッド11と、複数のリード12と、ダムバー13とを有する。なお、図1の(a)には図示していないが、リードフレーム1における長辺側の側面にパイロット孔が並んで設けられていてもよい。
【0020】
ダイパッド11は、たとえば、単位リードフレーム10の中央部分に設けられる。かかるダイパッド11のおもて面側には、図1の(b)に示すように、半導体素子101が搭載可能である。
【0021】
ダイパッド11は、ダイパッド支持部11aによって単位リードフレーム10の外縁部との間が連結され、単位リードフレーム10に支持される。かかるダイパッド支持部11aは、たとえば、ダイパッド11の四隅にそれぞれ設けられる。
【0022】
複数のリード12は、ダイパッド11の周囲に並んで配置されており、それぞれの先端部12aが単位リードフレーム10の外縁部からダイパッド11に向かって伸びている。かかるリード12は、図1の(b)に示すように、半導体装置100の接続端子として機能する。
【0023】
リード12は、先端部12aおよび基端部12bを有する。図1の(b)に示すように、半導体装置100において、リード12の先端部12aにはCuやCu合金、Au、Au合金などで構成されるボンディングワイヤ102が接続される。そのため、リードフレーム1には、ボンディングワイヤ102との高い接合特性が求められる。ダムバー13は、隣接するリード12同士の間を接続する。
【0024】
半導体装置100は、リードフレーム1、半導体素子101およびボンディングワイヤ102に加えて、封止樹脂103を有する。封止樹脂103は、たとえば、エポキシ樹脂などで構成され、モールド工程などにより所定の形状に成型される。封止樹脂103は、半導体素子101やボンディングワイヤ102、ダイパッド11の表面、リード12の先端部12aなどを封止する。
【0025】
また、リード12の基端部12bは、半導体装置100の外部端子(アウターリード)として機能し、基板にはんだ接合される。また、ダイパッド11の裏面が封止樹脂103から露出するタイプやヒートスラグを設けるタイプの半導体装置100においては、それらの裏面が基板にはんだ接合される。そのため、リードフレーム1には、はんだに対する高い濡れ性が求められる。
【0026】
なお、ダムバー13は、封止樹脂103を成型するモールド工程において、使用している樹脂が基端部12b(アウターリード)側に漏れ出さないためのダムの機能を有し、半導体装置100の製造工程において最終的に切断される。
【0027】
ここで、実施形態に係るリードフレーム1では、ダイパッド11およびリード12の先端部12aにめっき層3が形成される。かかるめっき層3は、貴金属めっき層の一例であり、たとえば、Ag(銀)を主成分として構成される。
【0028】
これにより、リードフレーム1とボンディングワイヤ102との間の接合強度を向上させることができる。さらに、リードフレーム1とはんだとの間の接合強度を向上させることができることから、リードフレーム1と半導体素子101との間の接合強度を向上させることができる。
【0029】
<リードフレームの詳細>
つづいて、実施形態に係るリードフレーム1の詳細について、図2を参照しながら説明する。図2は、実施形態に係るリードフレーム1の拡大断面図である。
【0030】
図2に示すように、実施形態に係るリードフレーム1は、基材2と、めっき層3とを備える。基材2は、導電性を有する材料(たとえば、銅や銅合金、鉄ニッケル合金などの金属材料)で構成される。
【0031】
めっき層3は、基材2の表面2aに形成され、実施形態ではAgを主成分とするめっき層である。さらに、めっき層3は、図2に示すように、表面3aに凹凸形状を有する。すなわち、めっき層3の表面3aは、複数の凸部3bを有する。
【0032】
なお、基材2とめっき層3との間に、金属拡散防止や耐熱性向上を目的として、Cu、Ni、Pd、Au、Ag等を主成分とするめっき層を、下地めっき層として少なくとも一層形成してもよい。また、Au、Pt、Pd、Ag等を主成分とするめっき層をめっき層3の表面に形成してもよい。
【0033】
ここで、実施形態では、めっき層3の表面3aに形成される凸部3bのアスペクト比(すなわち、凸部3bの幅に対する凸部3bの高さの割合)が0.3以上であるとよい。これにより、半導体装置100が高温環境下にさらされる際(たとえば、リフロー工程でプリント基板等に実装される際)に生じる、封止樹脂103とめっき層3との間における接着強度の低下を最小限に抑えることができる。
【0034】
したがって、実施形態によれば、高温環境下での半導体装置100の信頼性を向上させることができる。
【0035】
また、実施形態では、めっき層3の表面3aに形成される凸部3bのアスペクト比が0.5以上であるとさらによい。これにより、半導体装置100が高温環境下にさらされる際に生じる、封止樹脂103とめっき層3との間における接着強度の低下をさらに抑えることができる。
【0036】
したがって、実施形態によれば、高温環境下での半導体装置100の信頼性をさらに向上させることができる。
【0037】
なお、実施形態において、めっき層3の表面3aに形成される凸部3bのアスペクト比は、1.2以下であるとよい。これにより、表面3aに凹凸形状を有するめっき層3を簡便に形成することができることから、リードフレーム1の製造コストを低減することができる。
【0038】
また、実施形態では、基材2に形成されためっき層3を封止樹脂103で封止し、260(℃)に加熱した際のめっき層3と封止樹脂103との間のシア強度が、2(MPa)以上であるとよい。
【0039】
このように、半導体装置100が高温環境下にさらされる際の封止樹脂103とめっき層3との間の接着強度(すなわち、シア強度)を所定の値以上にすることにより、高温環境下での半導体装置100の信頼性をさらに向上させることができる。
【0040】
また、実施形態では、基材2に形成されためっき層3を封止樹脂103で封止し、260(℃)に加熱した際のめっき層3と封止樹脂103との間のシア強度が、加熱前のめっき層3と封止樹脂103との間のシア強度の10(%)以上であるとよい。
【0041】
このように、半導体装置100が高温環境下にさらされる際に生じる、封止樹脂103とめっき層3との間の接着強度(すなわち、シア強度)の残存率を所定の比率以上にすることにより、高温環境下での半導体装置100の信頼性をさらに向上させることができる。
【0042】
また、実施形態では、めっき層3に対するステッチプル強度試験において、プル強度が5.0(g)以上であるとよい。このように、めっき層3とボンディングワイヤ102との間の接合強度に関する試験であるステッチプル強度試験において、接合強度を所定の値以上にすることにより、半導体装置100の信頼性をさらに向上させることができる。
【実施例0043】
以下、実施例および比較例を参照しながら本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<評価1>
[実施例1]
最初に、銅を主成分とするリードフレームの基材を準備した。次に、基材の脱脂及び酸洗浄を行った後、電解めっき処理によって、基材の表面に、電解めっき処理でAgめっき層を形成した。
【0045】
この電解めっき処理におけるめっき浴は、硝酸塩や有機酸塩などの電導塩をベースとした浴に、K(AgCN):120(g/L)、粗化添加剤:80(ml/L)を添加して建浴した。そして、電解めっき処理の処理条件を、浴温:61(℃)、電流密度:70(A/dm)とし、Agめっき層を5μmの厚みで形成した。
【0046】
かかる条件で電解めっき処理を施すことにより、Agめっき層の表面が凹凸形状であるAgめっき層が形成された。また、かかる凹凸形状における凸部のアスペクト比は、0.55であった。これにより、実施例1のリードフレームを得た。
【0047】
なお、本開示において、表面に形成される凸部のアスペクト比は、株式会社キーエンス製の形状解析レーザ顕微鏡VK-X210を用い、室温環境下で測定した。また、かかるアスペクト比の値は、N=20の平均値を用いた。
【0048】
[実施例2~14]
上述の実施例1と同様な方法を用いて、表面に凹凸形状が形成されたAgめっき層を有する実施例2~14のリードフレームを得た。なお、実施例2~14では、Agめっき層に形成される凸部のアスペクト比がさまざまな値となるように、電解めっき処理の条件を適宜調整した。
【0049】
[比較例1]
最初に、銅を主成分とするリードフレームの基材を準備した。次に、基材の脱脂及び酸洗浄を行った。これにより、比較例1のリードフレームを得た。すなわち、比較例1のリードフレームは、表面にAgめっき層が形成されず、銅の基材がそのまま露出するリードフレームである。
【0050】
[比較例2]
最初に、銅を主成分とするリードフレームの基材を準備した。次に、基材の脱脂及び酸洗浄を行った後、電解めっき処理によって、基材の表面に、電解めっき処理でAgめっき層を形成した。
【0051】
この電解めっき処理におけるめっき浴は、硝酸塩や有機酸塩などの電導塩をベースとした浴に、K(AgCN):120(g/L)を添加して建浴した。そして、電解めっき処理の処理条件を、浴温:65(℃)、電流密度:70(A/dm)とし、Agめっき層を5μmの厚みで形成した。
【0052】
かかる条件で電解めっき処理を施すことにより、Agめっき層の表面が平滑なAgめっき層が形成された。すなわち、比較例2のAgめっき層では、凸部のアスペクト比がほぼゼロであった。これにより、比較例2のリードフレームを得た。
【0053】
つづいて、上記にて得られた実施例1~14および比較例1、2のリードフレームのシア強度を評価した。図3は、シア強度試験の試験用サンプルについて説明するための図である。まず、図3に示すように、実施例1~14および比較例1、2のリードフレームの表面に、エポキシ樹脂(EME-G631H)からなる樹脂カップを成形した。
【0054】
かかる樹脂カップの成形条件は、成形温度:180(℃)、成形時間:90(秒)、キュア温度:180(℃)、キュア時間:4(時間)であった。
【0055】
次に、SEMI標準規格G69-0996により規定される手順に従って、カップシア試験を実施した。具体的には、各試験用サンプルの樹脂カップに図示しないゲージを押しつけて、図3の矢印方向に移動させ、せん断強さを測定した。かかる測定の際のゲージの高さ(シア高さ)は100(μm)、ゲージの速度(シア速度)は100(μm/s)であった。
【0056】
図4の(a)は、比較例1、2および実施例1に係るリードフレームの室温環境下でのシア強度を示す図である。図4の(a)に示すように、平滑なAgめっき層が形成された比較例2と、凸部が0.3以上のアスペクト比を有するAgめっき層が形成された実施例1との比較により、実施例1のリードフレームは、室温環境下において、シア強度が増加していることがわかる。
【0057】
したがって、実施形態によれば、室温環境下での半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0058】
なお、銀と比べて銅は封止樹脂に対して良好な密着性を示すことから、図4の(a)に示すように、室温環境下では、比較例1のリードフレームのシア強度は良好な値を示している。
【0059】
図4の(b)は、比較例1、2および実施例1に係るリードフレームの高温環境下でのシア強度を示す図である。かかる測定結果は、260(℃)の環境下で実施したシア強度試験の結果である。
【0060】
図4の(b)に示すように、高温環境下では、比較例1、2のリードフレームは、シア強度が大きく低下しているのに対し、実施例1のリードフレームでは、シア強度の低下が最小限に押さえ込まれている。
【0061】
具体的には、比較例1のリードフレームは、室温環境下に対して高温環境下ではシア強度が約6(%)まで低下している。また、比較例2のリードフレームは、室温環境下に対して高温環境下ではシア強度が約5(%)まで低下している。一方で、実施例1のリードフレームは、室温環境下に対して高温環境下ではシア強度が約15(%)の低下に留まっている。
【0062】
このように、比較例1、2と実施例1との比較により、実施例1のリードフレームは、高温環境下において、封止樹脂とめっき層との間における接着強度の低下が最小限に抑えられている。したがって、実施形態によれば、高温環境下での半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0063】
つづいて、実施例2~6および比較例2のリードフレームの表面粗さRaおよび表面積増加率を評価した。かかるリードフレームの表面粗さRaおよび表面積増加率は、株式会社キーエンス製の形状解析レーザ顕微鏡VK-X210を用い、室温環境下で測定した。
【0064】
図5の(a)は、比較例2および実施例2~6に係るリードフレームの高温環境下(260℃)でのシア強度と、表面粗さRaとの関係を示す図である。図5の(a)に示す実施例2~6の比較により、めっき層の表面粗さRaが高いリードフレームであっても、高温環境下のシア強度は向上していないことがわかる。
【0065】
すなわち、実施形態において、めっき層の表面粗さRaと高温環境下のシア強度とは、相関性が低いことが明らかとなった。
【0066】
図5の(b)は、比較例2および実施例2~6に係るリードフレームの高温環境下(260℃)でのシア強度と、表面積増加率との関係を示す図である。図5の(b)に示す実施例2~6の比較により、めっき層の表面積増加率が高いリードフレームであっても、高温環境下のシア強度は向上していないことがわかる。
【0067】
すなわち、実施形態において、めっき層の表面積増加率と高温環境下のシア強度とは、相関性が低いことが明らかとなった。
【0068】
図6は、比較例2および実施例2~6に係るリードフレームの高温環境下でのシア強度と、アスペクト比との関係を示す図である。図6に示す実施例2~6の比較により、めっき層に形成される凸部のアスペクト比が高いリードフレームでは、高温環境下のシア強度が向上していることがわかる。
【0069】
すなわち、実施形態において、めっき層に形成される凸部のアスペクト比と高温環境下のシア強度とは、相関性が高いことが明らかとなった。
【0070】
図7は、実施形態に係るリードフレームにおけるアスペクト比と高温環境下でのシア強度との相関関係を示す図である。図7に示す結果から、めっき層に形成される凸部のアスペクト比と高温環境下のシア強度とは、高い相関性を有することが明らかとなった。
【0071】
ここまで説明したように、実施形態では、めっき層の表面粗さや表面積増加率ではなく、凸部のアスペクト比に着目してめっき層の表面形態を改質することとした。
【0072】
そして、実施形態では、凸部のアスペクト比が0.3以上であるめっき層をリードフレームに形成することにより、高温環境下のシア強度を増加させることができることから、高温環境下での半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0073】
<評価2>
[比較例3]
最初に、銅を主成分とするリードフレームの基材を準備した。次に、基材の脱脂及び酸洗浄を行った後、電解めっき処理によって、基材の表面に、電解めっき処理でAgめっき層を形成した。
【0074】
この電解めっき処理におけるめっき浴は、硝酸塩や有機酸塩などの電導塩をベースとした浴に、K(AgCN):120(g/L)を添加して建浴した。そして、電解めっき処理の処理条件を、浴温:65(℃)、電流密度:90(A/dm)とし、Agめっき層を5μmの厚みで形成した。
【0075】
かかる条件で電解めっき処理を施すことにより、Agめっき層の表面が粗化されている(無光沢である)Agめっき層が形成された。また、比較例3のAgめっき層では、凸部のアスペクト比が0.3未満であった。これにより、比較例3のリードフレームを得た。
【0076】
つづいて、上記にて得られた比較例3および実施例2のリードフレームに対して、市販の走査電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクフィールディング製、日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-4800)を用いて、表面形態および表面近傍の断面形態を評価した。
【0077】
なお、かかる表面形態および表面近傍の断面形態の評価は、熱処理前と、所定の熱処理(400(℃)、10分間)の後との両方で行った。
【0078】
図8は、比較例3に係るリードフレームに形成されためっき層の熱処理前および熱処理後の表面形態および断面形態を示す図である。図8に示すように、比較例3のリードフレームにおいて、熱処理後のめっき層では再結晶化が進むため、表面の形態が大きく変化していることがわかる。
【0079】
すなわち、比較例3のリードフレームを用いた半導体装置では、かかる表面形態の大きな変化に起因して、高温環境下においてめっき層と封止樹脂との剥離が生じる恐れがあるため、高温環境下での信頼性が悪化する恐れがある。
【0080】
図9は、実施例2に係るリードフレームに形成されためっき層の熱処理前および熱処理後の表面形態および断面形態を示す図である。図9に示すように、実施例2のリードフレームでは、熱処理後でも表面の形態はほとんど変化していないことがわかる。
【0081】
また、図9に示す実施例2のリードフレームでは、熱処理前のアスペクト比が0.54であったのに対し、熱処理後のアスペクト比が0.53であった。すなわち、変形例2のリードフレームでは、熱処理後でもアスペクト比はほとんど変化していないことがわかる。
【0082】
このように、実施例2のリードフレームは、熱履歴が加わった後でも表面形態が大きく変化せず、さらに凸部の高いアスペクト比が維持されていることから、封止樹脂とめっき層との間における接着強度の低下を最小限に抑えることができる。
【0083】
<評価3>
次に、測定温度が変化した場合のシア強度の推移(すなわち、リードフレームに加わる熱履歴が変化した場合のシア強度の推移)について評価した。具体的には、図3に示した樹脂カップが表面に形成された実施例1のリードフレームに対して、160(℃)~400(℃)の間の所定の温度で10分間保持した後のシア強度をそれぞれ測定した。結果を図10に示す。
【0084】
図10は、実施例1に係るリードフレームの熱履歴によるシア強度の推移について示す図である。図10に示すように、実施例1に係るリードフレームでは、160(℃)~400(℃)の範囲で熱履歴が加わった場合にも、熱環境下のシア強度が維持されていることがわかる。
【0085】
したがって、実施形態によれば、160(℃)~400(℃)の範囲で熱履歴が加わった場合にも、封止樹脂とめっき層との間における接着強度の低下を最小限に抑えることができる。
【0086】
<評価4>
次に、実施例1および比較例2のリードフレームを用いて半導体装置を組み立てた際の組立評価と、実施例1および比較例2のリードフレームを用いて組み立てられた半導体装置の信頼性評価とを実施した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、比較例2のリードフレームを用いた場合の組み立て評価と、実施例1のリードフレームを用いた場合の組み立て評価とは、いずれもすべての項目で良好な結果であった。
【0089】
さらに、凹凸形状を有する表面に対しては低い値になりやすいステッチプル強度試験のプル強度に関しては、平滑な表面を有する比較例2のリードフレームよりも、凹凸形状を有する実施例1のリードフレームの方が良好な結果(Min.5.5(g))であった。これにより、実施形態では、半導体装置をさらに安定的に組み立てることができる。
【0090】
なお、本開示におけるステッチプル強度試験は、以下のように評価した。まず、めっき層の表面にステッチ状にボンディングワイヤを接合した。次に、このステッチ状のボンディングワイヤにフックを引っ掛けて170μm/sの速度で引張試験を行い、かかる引張試験における引張強度をステッチプル強度試験の結果とした。
【0091】
また、表1に示すように、比較例2のリードフレームを用いた半導体装置の信頼性評価は良好な結果でなかったのに対し、実施例1のリードフレームを用いた半導体装置の信頼性評価は良好な結果であった。
【0092】
すなわち、実施形態では、表面に形成される凸部のアスペクト比が0.3以上であるめっき層を用いることにより、半導体装置に高い信頼性を付与することができる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、Agを主成分とするめっき層について示したが、本開示はかかる例に限られず、Ag以外の貴金属元素を主成分とするめっき層において、表面に形成される凸部のアスペクト比を0.3以上にしてもよい。
【0094】
以上のように、実施形態に係る金属部品(リードフレーム1)は、半導体装置の製造に用いられる金属部品において、基材2と、貴金属めっき層(めっき層3)と、を備える。基材2は、導電性を有する。貴金属めっき層(めっき層3)は、基材2の表面の全面または一部に形成される。また、貴金属めっき層(めっき層3)は、表面3aに凹凸形状を有し、凹凸形状における凸部3bのアスペクト比が0.3以上である。これにより、高温環境下での半導体装置100の信頼性を向上させることができる。
【0095】
また、実施形態に係る金属部品(リードフレーム1)において、貴金属めっき層(めっき層3)は、Agを主成分として含有する。これにより、リードフレーム1とボンディングワイヤ102との間の接合強度を向上させることができるとともに、リードフレーム1と半導体素子101との間の接合強度を向上させることができる。
【0096】
また、実施形態に係る金属部品(リードフレーム1)において、凸部3bのアスペクト比が0.5以上である。これにより、高温環境下での半導体装置100の信頼性をさらに向上させることができる。
【0097】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 リードフレーム(金属部品の一例)
2 基材
2a 表面
3 めっき層(貴金属めっき層の一例)
3a 表面
3b 凸部
100 半導体装置
101 半導体素子
102 ボンディングワイヤ
103 封止樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
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図10