(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024677
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20240215BHJP
B01D 59/02 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
G21F9/06 591
B01D59/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218423
(22)【出願日】2023-12-25
(62)【分割の表示】P 2021188640の分割
【原出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】500239568
【氏名又は名称】株式会社イメージワン
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100118681
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100144200
【弁理士】
【氏名又は名称】奥西 祐之
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
(57)【要約】
【課題】 本発明は、トリチウム水及び軽水を含む被処理水から、トリチウム濃度が低濃度であってもトリチウム水を、被処理水から効率よく分離する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、 重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、
ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること、を含む、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法を提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、
ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて、
前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設け、又は、前記被処理水の温度を経時振動させて温度差を設け、
前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であり、当該温度差が、3.0~7.0℃であり、
前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃である、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法。
【請求項2】
前記温度差を設けることにより、前記被処理水中のトリチウム水を、前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、当該重水ガスハイドレート基材よりトリチウム濃度の高いトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成することによって、トリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を分離する、請求項1に記載のトリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法。
【請求項3】
さらに、前記トリチウム水及び軽水を含む被処理水を、循環させ、前記ゲスト分子ガスの存在下で、前記重水ガスハイドレート基材に接触させること、を含む、請求項1又は2に記載のトリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法。
【請求項4】
重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、
ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて
前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設け、又は、前記被処理水の温度を経時振動させて温度差を設け、
前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であり、当該温度差が、3.0~7.0℃であり、
前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃であり、
前記温度差を設けることによって、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成する、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記被処理水中のトリチウム水を、形成されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、当該重水ガスハイドレート基材より高濃度のトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成させる、請求項4に記載のトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
東京電力株式会社福島第一原子力発電所内に貯留されている汚染水は、ALPS処理と鉄化合物の共沈によって殆どの放射性核種が除去されているため、公共水域に放出する場合の濃度制限を超える濃度で残留している放射性核種はトリチウムだけであり、トリチウム水(HTO)として存在しているとされている。このため、トリチウム水で汚染された軽水(以下、「汚染水」ともいう)を被処理水とし、当該被処理水からのトリチウム水の分離技術、言い換えると被処理水からトリチウム水と軽水とを作業的に及び濃度的に効率よく分離する技術が求められている。
【0003】
福島で発生している汚染水中のトリチウム濃度は、0.6~5×106Bq/Lといわれており、この汚染水自体は最大で400m3/日ずつ増加している。一方で、このトリチウム水汚染水を、少なくとも汚染水のトリチウム濃度を環境中に放出可能な6×104Bq/L以下(海水中のトリチウム濃度は1~3Bq/L)にまでできる、処理速度が400m3/日より速いトリチウム除去技術を開発することが求められている。
【0004】
トリチウム(T)の比放射能は、3.59×1014Bq/gであるから、汚染水中のトリチウム水の濃度は、1.11~9.29×10-8g/Lと極めて希薄であり、このごく希薄なトリチウム濃度の汚染水から、トリチウム水を約99%以上除去するという技術的に困難な技術が求められていることになる。
【0005】
また、トリチウムは、原子力発電所の原子炉の中でも形成されることも知られている。
また、トリチウムは、宇宙から地球に降り注ぐ放射線が空気中の窒素や酸素に接触することでも形成されるため、空気中の水蒸気、雨水、海水に含まれ、日本において一般的に1Bq/L含まれているといわれている。また、放射性鉱山及び放射性物質の精錬所からのトリチウムにて水が汚染される場合もある。このため、福島にて貯留されている汚染水のみならず、必要に応じて、トリチウム水及び軽水を含む被処理水から軽水とトリチウム水とを効率よく分離する技術が求められている。
【0006】
例えば、特許文献1には、トリチウム水と軽水を含む混合液に、重水を添加し、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であって且つ大部分の軽水の液体状態を維持する条件下で、トリチウム水と重水とを結晶構造中に含むガスハイドレートを形成し、該ガスハイドレートを軽水から除去することを特徴とする、トリチウム水で汚染された軽水からのトリチウム水の分離方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、トリチウム水及び軽水を含む被処理水から、被処理水中のトリチウム濃度が低濃度であっても、トリチウム水及び軽水を含む被処理水をより効率よく処理する技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法又はトリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法について鋭意検討しているときに、軽水ガスハイドレート及び重水ガスハイドレート、さらにいえばトリチウム水ガスハイドレートを含めて、これらは任意の割合で混合する完全固溶体を形成することを見出した。本発明者は、これらがガスハイドレート化する温度は、組成比によって連続的に変化することを見出し、この結果、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けることによって、トリチウム水で汚染された軽水(以下、「トリチウム水汚染水」又は「汚染水」ともいう)を含む被処理水をより効率よく処理すること、好適にはトリチウム水汚染水からトリチウム水をより簡便により効率よく分離でき、トリチウム水が低減された軽水を製造できることを見出した。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0010】
本発明は、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、
ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること、を含む、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法、又はトリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法を提供することができる。
また、本発明は、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、
ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けることによって、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成する、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の製造方法を提供することができる。
【0011】
また、前記温度差を設けるとは、前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設けることである、又は、前記被処理水の温度を経時振動させることであってもよい。
また、前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であり、当該温度差が2.0~8.0℃であってもよく、及び/又は、前記第二温度が、8.0~21.0℃であってもよい。
また、前記温度差を設けることにより、前記被処理水中のトリチウム水を、前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、当該重水ガスハイドレート基材よりトリチウム濃度の高いトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成することによって、トリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を分離してもよい。
また、さらに、前記ゲスト分子ガスの存在下で、前記トリチウム水及び軽水を含む被処理水を循環させ、前記重水ガスハイドレート基材に接触させること、を含んでもよい。
さらに、前記被処理水中のトリチウム水を、形成されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、当該重水ガスハイドレート基材より高濃度のトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、トリチウム水及び軽水を含む被処理水から、被処理水中のトリチウム濃度が低濃度であってもトリチウム水を、トリチウム水及び軽水を含む被処理水を効率よく処理する技術を提供することができる。なお、本発明は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1Aは、本実施形態において、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を用いる、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の形成工程又は形成方法を示すフロー図の1例である。
図1Bは、本実施形態において、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を用いる、汚染水からトリチウム水を分離する方法を示すフロー図の1例である。
【
図2】
図2は、本実施形態において、繰り返し汚染水からトリチウム水を分離する方法、及び/又は、重水ガスハイドレート基材の再利用による汚染水からトリチウム水を分離する方法を示すフロー図の1例である。
【
図3】
図3は、本実施形態において、汚染水の温度を経時振動させることを示す一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態におけるトリチウム水を含む重水ガスハイドレートが形成可能な、及び/又は、汚染水からトリチウム水を分離可能な、ガスハイドレート製造装置の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、圧力、温度、及びD
2O濃度軸を使用したHFC-134a+D
2O+H
2Oシステムの状態図の概略図である。矢印の付いた線は、ガスハイドレート結晶化の典型的な冷却プロセスを示す。Solidus lines:固相線、Liquidus Lines:液相線、Isobaric planes:等圧面、Absolute pressure /MPa:絶対圧/MPa、Temperature /K :温度/K、D
2O concentration /%:D
2O 濃度/%
【
図6】
図6(上)は、特定の定圧条件下でのT
2O、D
2O、及びH
2Oの端成分を含むシステムの概略状態図を示す。
図6(左下)は、T
2Oの端成分と処理される水(A)の組成を含む状態図の断面図を示す。
図6(右下)は、処理される水(A)の組成の端成分とH
2O(B)の0%ポイントを含む状態図の断面図を示す。Solidus :固相線、Liquidus :液相線、Temperature /K :温度/K、T
2O concentration /%:T
2O 濃度/%、H
2O concentration /%:H
2O 濃度/%
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。また、本明細書における各数値範囲(~)の上限値(以下)と下限値(以上)とは、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0015】
1.本実施形態に係るトリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法又はトリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法
本実施形態は、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること(以下、「前記被処理水に温度差を設けること」ともいう)、を含む、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法、又はトリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を分離する方法を提供することができる(例えば、
図1及び2参照)。
【0016】
これによって、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませる反応系(以下、「反応系」ともいう)を行うことができ、当該トリチウム水を取り込み含む重水ガスハイドレート基材を被処理水から分離すること又は反応系から液相(液体)を分離することで、トリチウム水汚染が軽減された被処理水又は軽水を得ることができる。
さらに、前記被処理水の液相(液体)を、前記反応系(例えば、反応圧力容器等)から出力し、循環用ポンプを備える流路(配管等)を利用して循環させ、前記反応系に入力させる、という前記被処理水の液相の液体循環を行うことで、被処理水中のトリチウム水が、反応系内を通過するたびごとに反応系内に存在する前記重水ガスハイドレート基材(被処理水の固相(スラリー状等))に接触させることができる(以下、「循環接触」ともいう)。このような前記被処理水の固相に対して前記被処理水の液相を循環接触させることにより、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材により効率よく取り込ませることができ、また、循環させる被処理水の液相の温度を所定の温度に調節することで、前記反応系内の前記重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水の反応温度を所定の温度に制御することもできる。
さらに、前記被処理水から分離されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材から、トリチウム水を回収することもでき、また、トリチウム水回収後の重水ガスハイドレート基材を、トリチウム水及び軽水を含む被処理水の処理に再利用することもできる。
【0017】
本実施形態では、「前記被処理水に温度差を設けること」等の「こと」を、「工程」又は「ステップ」としてもよいし、「工程」を「こと」又はステップとしてもよいし、「ステップ」を「こと」又は「工程」としてもよい。また、本実施形態では、「温度調節機構」等の「機構」は、装置又は部であってもよく、「装置」は、機構又は部であってもよく、「部」は、機構、装置又はシステム等に備えるための部又は装置であってもよい。
【0018】
本実施形態では、より好適には、「前記被処理水に温度差を設けること」と同時工程又は別の工程或いは前工程として、重水ガスハイドレート基材を形成すること、及び/又は、重水ガスハイドレート基材と汚染水とを混合させて、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水を形成すること等をさらに含んでもよいが、これらから選択される1種又は2種以上の工程に特に限定されない。
【0019】
本実施形態では、「前記被処理水に温度差を設けること」と同時工程又は別の工程或いは後工程として、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を回収すること、及び/又は、トリチウム水若しくは処理水を回収すること、及び/又は、汚染水からトリチウム水を分離又は除去した軽水若しくは被処理水を回収すること等をさらに含んでもよいが、これらから選択される1種又は2種以上の工程に特に限定されない。
【0020】
本実施形態に係るトリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法は、トリチウム水の分離方法、トリチウム水汚染水からトリチウム水を除去する方法等としても使用することができ、また、軽水の分離方法若しくはトリチウムの規制値以下にするための軽水の製造方法或いは軽水の除染方法に適用することもできる。
【0021】
また、本実施形態に用いる汚染水は、トリチウム水を少なくとも含む液体(好適には軽水)をいい、より具体的には、トリチウム水を含む軽水、トリチウム水を含む被処理水等が挙げられるが、これらに限定されない。また、本実施形態における「トリチウム水が除去された軽水」とは、汚染水中のトリチウム濃度が処理後に少なくとも低減された軽水をいい、より好ましくは世界保健機関(WHO)の飲料水に含まれるトリチウム濃度基準値(1リットル当たり1万ベクレル)以下の軽水である。
【0022】
また、本実施形態は、前記温度差を設けるとは、空間的な温度差及び/又は時間的変動による温度差を設けることが好適であり、より好適には、当該温度差は、第一温度と第二温度の温度差である。ここで「第一温度」とは、「第二温度」よりも高い温度であり、「第二温度」は、「第一温度」よりも低い温度をいう。
本実施形態のより好適な態様として、前記被処理水の上部温度(第一温度)と下部温度(第二温度)とで温度差を設けることである、又は、前記被処理水の温度を経時振動させること、このとき最高温度(第一温度)及び最低温度(第二温度)とで温度差を設けることが好適である。
また、本実施形態は、好適には、前記温度差が、2.0~8.0℃、及び/又は、前記第二温度が、ゲスト分子ガスのガス種によって異なるため、適宜設定することが好適であるが、当該第二温度が8.0~12.6℃であることが好適であるのはゲスト分子ガスは、HFC-134aであるときであり、当該第二温度が8.0~21.0℃であることが好適であるのはゲスト分子ガスが、HFC-32であるときであり、これらを考慮した場合、当該第二温度が8.0~21.0℃であることが好適である。
さらに、前記ゲスト分子ガスの存在下で、前記重水ガスハイドレート基材に対し、前記トリチウム水及び軽水を含む被処理水を循環接触させること、を含むことが好適である。
【0023】
本実施形態について、以下により詳述するが、本発明はこれに限定されない。
【0024】
<1-1.本実施形態に用いられる、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水>
本実施形態で用いられる被処理水は、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水であることが好適である。当該被処理水及びゲスト分子ガスを存在させる反応系内を特定の反応条件下にすることによって、重水ガスハイドレート基材が、トリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を優先的に取り込み、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材が形成される。さらに、当該形成されたトリチウム水を含むガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水、並びにゲスト分子ガスを存在させる反応系内を特定の反応条件下で維持することによって、さらに当該被処理水中からトリチウム水を優先的に取り込み、より高濃度のトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成することができる。さらに、本実施形態では、新たな汚染水を反応系内の被処理水にさらに導入しても、当該被処理水中のトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材は、当該被処理水からトリチウム水をさらに取り込むことができる。これにより、連続的に又は断続的に導入される汚染水が被処理水に添加されても、当該被処理水中からトリチウム水をより簡便により効率よく継続して分離できるという利点がある。
【0025】
本実施形態に用いられる汚染水にはトリチウム水が含まれていることが好適であり、トリチウム水(例えばTHO、TDO、T2O)の由来は特に限定されない。通常、低濃度のトリチウム水で汚染された軽水の場合、平衡反応(H2O+T2O⇔2THO)がTHO側にシフトし、ほとんどすべてがTHOとなっている。
また、本実施形態に用いられる「被処理水」は、原子炉(核分裂)関連、放射性鉱山及び精錬所関連等で発生するトリチウム水を含む汚染水であってもよい。また、前記被処理水又は汚染水には、トリチウム水及び重水以外の他の放射性核種(例えば、セシウム、ストロンチウム等)が含まれていてもよいが、効率的な分離の観点から、前処理工程として他の放射性核種を公知の方法で除去分離又は低減した汚染水を被処理水として用いることが好適である。
【0026】
反応系内(好適には反応圧力容器内)における前記被処理水中の重水ガスハイドレート基材及び/又はトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の含有量(質量/質量%)は、特に限定されないが、前記被処理水中、好適には20~80%、より好適には25~75%、さらに好適には30~70%である。被処理水は、通常、反応系内に供給排出されているので、仮に一時停止したときの、反応系内における、被処理水中に含まれる「重水ガスハイドレート基材及び/又はトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材」の含有量を、ここでいう「反応系内(好適には反応圧力容器内)における前記被処理水中の重水ガスハイドレート基材及び/又はトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の含有量(質量/質量%)」とする。
【0027】
反応系内(好適には反応圧力容器内)における前記被処理水中の軽水の含有量(質量/質量%)は、特に限定されないが、前記被処理水中、好適には20~80%、より好適には25~75%、さらに好適には30~70%である。被処理水は、通常、反応系内に供給排出されているので、仮に一時停止したときの、反応系内における、被処理水中に含まれる「軽水」の含有量を、ここでいう反応系内(好適には反応圧力容器内)における前記被処理水中の軽水の含有量(質量/質量%)とする。
なお、反応系内における、前記重水ガスハイドレート基材と軽水とを含む前記被処理水の質量を100%とすることができる。
【0028】
前記被処理水中のトリチウム濃度は、特に限定されない。本実施形態であれば、被処理水中のトリチウム濃度が高濃度であっても低濃度であっても、トリチウム水を効率よく分離することが可能である。
【0029】
前記被処理水中のトリチウム濃度は、その好適な下限値として、100Bq/L以上が好ましく、140Bq/L以上がより好ましく、200Bq/L以上がさらに好ましく、300Bq/L以上がよりさらに好ましく、400Bq/L以上がより好ましく、500Bq/L以上がより好ましく、より好ましくは0.001×106Bq/L以上、より好ましくは0.01×106Bq/L以上、より好ましくは0.05×106Bq/L以上、より好ましくは0.1×106Bq/L以上であり、また、その好適な上限値として、特に限定されず任意に設定することができるが、1000×106Bq/L以下が好ましく、より好ましくは50×106Bq/L以下、さらに好ましくは10×106Bq/L以下、さらにより好ましくは5×106Bq/L以下である。
また、本実施形態では、除去処理後のトリチウム濃度を、好適には100~1000Bq/L、より好適には140~500Bq/Lにすることも可能である。
【0030】
本実施形態によれば、前記被処理水中のトリチウム濃度が0.05×106Bq/L~5×106Bq/Lというごく低濃度であっても、被処理水中からトリチウム水をより簡便に効率よく分離することができるという利点を有する。なお、現時点の福島第一原子力発電所において公共水域に放出する場合の制限値は1500Bq/L以下となっており、各施設ごとや各国によって規制値は異なっている。しかし、本実施形態の場合、処理水(好適には軽水)を、例えばトリチウム濃度を、1000、700、500、200Bq/L以下にすることも可能であり、下限値1.5又は1.4×103Bq/Lにまですることも可能である。このため、WHO等が定めるトリチウム規制値以下の軽水を製造又は提供することもできる。また、トリチウム濃度は、液体シンチレーション法で測定することができる。
【0031】
また、本実施形態では、前記被処理水中に塩化ナトリウム等の塩類が含まれていても処理することが可能であり、当該被処理水は、トリチウム水に汚染された海水、汽水又はこれらを含む軽水であってもよい。また、当該塩化ナトリウム等の塩類の濃度は、特に限定されないが、海水の塩(約3.5質量%)濃度程度含んでいてもよく、本実施形態であれば、トリチウム水とガスハイドレート基材とが接触する際に、被処理水中に塩化ナトリウム等の塩類を10質量%程度まで含んでいてもよい。なお、塩化ナトリウム等の塩類は、さらに逆浸透膜や活性炭等のフィルター処理を行うことで除去することができる。
【0032】
前記被処理水は、前処理として、被処理水中に含まれる夾雑物や有機物を除去するために、フィルター処理することが好ましい。これにより、ガスハイドレート法を良好に行うことができる。また、接触後の被処理水に対しても後処理としてフィルター処理を行うことができる。前記フィルター処理として、特に限定されないが、例えば、活性炭処理、や精密ろ過膜(MF膜)処理、限界ろ過膜(UF)処理、ナノろ過膜(NF)処理、逆浸透膜(RO膜)処理の膜処理等が挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0033】
<1-1-1.汚染水(原水)>
前記被処理水に用いられる汚染水又は原水は、トリチウム水で汚染された軽水であれば特に限定されない。当該汚染水は、上述したような福島で貯留されているようなトリチウム水をごく低濃度で含有する軽水であってもよいし、上述したような原子力発電所の原子炉で形成されたトリチウム水や自然界(例えば放射性鉱山)のトリチウム水で汚染された軽水であってもよい。また、汚染水は、効率よく汚染水からトリチウム水を分離するために、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成又は製造するための反応形成系(例えば、具体的には反応圧力容器等)に、連続的に又は断続的に、導入させること又は供給することが、望ましい。
汚染水中のトリチウム濃度は特に限定されないが、例えば、福島原発事故から現在に至るまでで発生しているようなごく希薄な濃度の汚染水を本実施形態に分離対象として用いてもよく、また、汚染水(原水)と重水ガスハイドレート基材又はトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を混合させて所定のトリチウム濃度の被処理水を調製し、この調製された被処理水を本実施形態に用いてもよい。また、分離処理後の被処理水と汚染水とを混合させたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を含む被処理水であってもよい。
【0034】
<1-1-2.重水ガスハイドレート基材>
本実施形態に用いられる重水ガスハイドレート基材の由来は、特に限定されない。
本実施形態において、本実施形態に用いる「重水ガスハイドレート基材」は、特に言及しない場合には、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材の意味であり、より具体的には、トリチウム水を含まない重水ガスハイドレート基材(トリチウム水不含の重水ガスハイドレート基材ともいう)、及び、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材が含まれる意味である。
【0035】
本実施形態に用いられる重水ガスハイドレート基材は、重水又は重水を含む軽水から形成された重水ガスハイドレート基材;汚染水と重水とを含む混合液から形成された重水ガスハイドレート基材;トリチウム水回収後の再利用するための重水ガスハイドレート基材等が挙げられるが、これらに限定されず、また、これらを単独で又は2種以上で組み合わせて用いてもよい。
前記重水ガスハイドレート基材を用いることで、これをベースにして、トリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を簡便に効率よく分離することができる。また、反応系内に、汚染水を連続的に若しくは断続的に導入するときに、新たな重水ガスハイドレート基材を別の工程から追加しなくとも、反応系内に存在する前記重水ガスハイドレート基材をベースに、トリチウム水を取り込みトリチウム水を高濃度化しながらトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成することができると共に汚染水からトリチウム水を除去できる。このように、本実施形態は、容易な作業性、作業工数の低減、作業時間の低減等の作業効率が良いという利点がある。
【0036】
<1-1-2-1.重水ガスハイドレート基材の形成方法又は製造方法>
本実施形態に用いる原料としての重水ガスハイドレート基材は、公知の重水ガスハイドレート形成方法又は製造方法にて、形成、生成又は製造することができる。当該重水ガスハイドレート基材の形成工程は、本実施形態の前工程又は前処理工程として含ませる又は設けることができ、これにより簡便に効率よく被処理水からトリチウム水を分離することができる。
【0037】
より好適な重水ガスハイドレート基材の形成工程として、重水又は重水を含む軽水から、重水ガスハイドレート形成条件下において、ゲスト分子ガス存在下で、重水ガスハイドレート基材を形成又は晶出させたものであることが好適である。当該重水を含む軽水は、重水を含む混合液、重水を添加した汚染水、又は重水を含む被処理水のいずれであってもよく、重水が液体に含まれていれば特に限定されない。得られた重水ガスハイドレート基材をベースにして、汚染水からトリチウム水を効率よく分離することができる。
【0038】
前記重水ガスハイドレート基材の形成工程の好適な態様として、前記被処理水からトリチウム水を分離する際に用いる反応系内(例えば、反応圧力容器内)で、重水ガスハイドレートの結晶化可能な条件下で、分子ガス存在下における、重水、又は重水及び軽水を含む混合液から、重水ガスハイドレート基材を形成すること、が挙げられる。
【0039】
さらに具体的には、例えば、反応系内(例えば反応圧力容器内)に外部から重水を含む混合液を導入すること;当該混合液の温度を重水ガスハイドレート形成可能な温度に調整すること;反応系内に存在する当該混合液を撹拌し、反応系内(例えば圧力容器内)に略均一的に充填すること;重水ガスハイドレート基材が結晶化可能な反応条件下(好適には、温度及び圧力条件下)で重水ガスハイドレート基材を晶出させること;晶出後に反応圧力容器内の液相(重水等)を排出除去すること:液相を排出することにより、反応系内に、トリチウム水を取り込み可能な重水ガスハイドレート基材を回収する又は残存させること;等が挙げられる。
【0040】
前記反応系内(例えば反応圧力容器内)で、形成された重水ガスハイドレート基材を所定の相対密度で充填されていることが好適である。反応系内(好適には反応圧力容器内)の体積100%としたときに、形成された重水ガスハイドレート基材の相対密度は、特に限定されないが、好適には40%以上、より好適には45%以上、さらに好適には50%以上である。また、重水ガスハイドレート基材はシャーベット状で、特に孔径の大きい空隙が容器の長軸方向に連続するような構造を持たないように、反応圧力容器内に稠密かつ略均等に配置されるように晶出していることが好適である。
【0041】
重水のガスハイドレート化に用いる分子ガスは、特に限定されず、後述のゲスト分子ガスから適宜採用することができる。このうち、CH2F2(HFC-32)、CH2FCF3(HFC-134a)、CF3CFCH2(HFO-1234yf)、C3H8(プロパン)及びCO2(二酸化炭素)から選ばれる1種又は2種以上が好適であり、より好適にはフロン系であり、さらに好適にはCH2FCF3(HFC-134a)である。
重水のガスハイドレート化の温度は、特に限定されないが、重水がガスハイドレート化する圧力より高圧の圧力領域で、且つ、重水が氷にならない低温(3.8℃)までの温度領域が好適である。
重水のガスハイドレート化の圧力は、特に限定されないが、重水がガスハイドレート化する圧力から、これより0.95MPaの高圧までの圧力領域が好適である。なお、本明細書における圧力は、特記のない場合には大気圧との差圧を示すゲージ圧ではなく絶対圧を示している。
【0042】
前記重水ガスハイドレート基材を形成するために用いる、重水を含む混合液又は重水を含む軽水は、本実施形態の効果を損なわない範囲内で、重水の他、軽水やトリチウム水が含まれていてもよい。
【0043】
本実施形態に用いる重水ガスハイドレート基材を形成又は製造する際に、重水と共に使用できる液体は、特に限定されず、例えば、水道水や地下水、雨水、処理水等の通常の軽水、トリチウム水で汚染された軽水(汚染水)、本実施形態で用いる被処理水等から選択される1種又は2種以上の液体に、重水を添加して重水を含む混合液又は被処理水に調製してもよい。
【0044】
前記重水を含む混合液又は被処理水中の重水濃度は、特に限定されず、軽水ガスハイドレートの溶融分解が優勢とならない重水濃度10質量%程度以上が好ましい。さらに、当該重水濃度は、トリチウム分離能を発揮しやすい重水ガスハイドレート基材を得るためには重水が主成分以上であることが好ましく、トリチウム分離能発揮の観点から、より好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。また、重水の製造コスト的に、重水を含む混合液又は被処理水中の重水濃度が70~90質量%程度でもよい。なお、当該重水は、市販品又は公知の重水の製造方法にて工業的に製造されたものを用いることができ、重水を軽水に混合することで、重水濃度が調整された重水を含む混合液を得ることもできる。
【0045】
<1-2.本実施形態に用いられる、反応条件>
本実施形態では、特定の反応条件において、前記被処理水を使用してガスハイドレート化を行うことが好適であり、当該特定の反応条件として、「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下」が好適である。さらに、当該圧力条件下において、「ゲスト分子ガス存在下」における前記被処理水を用いてガスハイドレート化を行うことが好適である。さらに当該ガスハイドレート化は、前記被処理水に温度差を設けて行うことがより好適である。
【0046】
本実施形態におけるより好適な態様として、特定の反応条件において、ゲスト分子条件下における前記被処理水に、特定条件の温度差を設けることが好適であり、当該温度差を設けることで、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材が、当該被処理水からトリチウム水を取り込みながら形成することができる。これによって、当該被処理水からトリチウム水を簡便に効率よく分離することができる。
【0047】
<1-2-1.重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力条件下>
本実施形態における「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力条件下」は、特に限定されないが、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力にすることが好適である。
より好適な前記結晶化可能な圧力とは、結晶化の熱力学的平衡圧力よりも好適には0.01~0.5MPa高い圧力、より好適には0.01~0.3MPa高い圧力、さらに好適には0.01~0.3MPa高い圧力である。
より好適な前記結晶化可能な温度とは、絶対値(℃)として、好適には10.0~21.0℃、より好適には11.0~20.0℃、さらに好適には11.0~18.0℃である。
【0048】
なお、本実施形態では「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力条件下」と「圧力」を規定している。この規定された圧力とは、結晶化が生じる圧力範囲にある任意の圧力のことであり、単一の圧力のことではない。説明図においては圧力一定の場合を示しているが、結晶化が生じる圧力範囲内であれば、圧力が変動してもよい。圧力一定の場合について図示しているのは、トリチウム水、重水並びに軽水の組成を表現するのに2次元、これに温度と圧力を独立した変数として加えると、状態図は4次元空間で表現されることになる。4次元空間内の要素を数学的に表現することは可能であるが、これを3次元空間或いは2次元空間に投影した平面上の図で表現し、視覚的にとらえることは不可能である。そこで、圧力を一定とすることにより、4次元空間内の状態図を3次元空間に投影して説明を行っている。
【0049】
また、トリチウム水、重水、軽水の三元系で圧力を固定したとしても、液相と(液相+固相)の境界線は線ではなく本来は曲面であり、この曲面は液相面という用語で表すことになり、同様に固相の境界線は線ではなく固相面という用語で表すことになる。このため、本実施形態では「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力条件下」と「圧力」を規定しているが、本実施形態において、本実施形態で用いる圧力の概念の延長線上にある液相面及び固相面を含むことができる。そして、本実施形態において、圧力を変化させる場合には、4次元空間内にある特定条件を満たす座標の集合体であり、液相線は液相立体、固相線は固相立体となる。このように当該集合体から、数学的表現を使用して圧力以外の成分を把握することも可能である。
【0050】
また、トリチウム水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件はこれまでに決定されていない。これは、熱力学的平衡条件の決定には、純度の高いトリチウム水を使用した試験が必要となるが、トリチウムは放射性物質であり、純度が高い場合には放射線の遮蔽が困難であると同時にトリチウム自体が崩壊して濃度が時間的に変化するので、安全で安定な試験を行うことが著しく困難であるためである。そこで、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な温度及び圧力の設定、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件は、ガスハイドレートは氷にガスが取り込まれたものなので、氷の形成温度と同様の傾向を示すと考えられる。このため、これを考慮して、予め試験を行うことで、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件や結晶化可能な温度及びその近傍、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件を設定することができる。例えば、氷の融点については、重水:3.82℃(276.97K)[参考文献1]、トリチウム水:4.48℃(277.63K)[参考文献2]、となっており、温度差は0.66Kである。これより、ハイドレートの場合には重水よりトリチウム水の方が約0.5K程度高いと考えられている。 [参考文献1] Long, E. A.; Kemp, J. D., J. Am. Chem. Soc. 1936, 58 (10), 1829-1834.[参考文献2] Jones, W. M., J. Am. Chem. Soc. 1952, 74 (23), 6065-6066.
また、重水ガスハイドレートについては熱力学平衡条件がいくつかわかっており、ゲスト分子ガスがHFC-134aの場合13℃で0.438MPa、12.3℃で0.371MPa、11.6℃で0.316MPaである。軽水と比較すると同一圧力では2.9℃高温となる。HFC-32の場合は15.3℃で0.680MPa、15.8で0.718MPaとなる。軽水と比較すると同一圧力では1.9℃高温となる。なお、温度差の場合、絶対温度表示であるケルビン(K)で表示する場合もある。
【0051】
より好適な本実施形態の態様として、「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力条件下であり、かつ、軽水の液体状態を維持する条件下」で行うことである。このとき、大部分の軽水が液体状態を維持可能な条件であってもよい。当該「大部分の軽水の液体状態を維持可能な条件」とは、トリチウム濃度が低い環境下では少量の軽水がガスハイドレートに含まれることもあるので、少なくとも9割程度以上の軽水が液体状態維持する条件下がより好適である。例えば0.5×106Bq/L~5×106Bq/L程度の場合では最大で2質量%程度の軽水がガスハイドレートに含まれることもあるので、この場合の「大部分の軽水の液体状態を維持する条件下」では、98%以上の軽水が液体状態で維持されていること等が挙げられる。
【0052】
<1-2-2.ゲスト分子ガス>
本実施形態における「ゲスト分子ガス存在下」として、被処理水中にゲスト分子ガスが存在することが好適であり、より好適な状態として、反応系内の雰囲気にゲスト分子ガスを存在させ、さらに反応系内に存在する被処理水中にゲスト分子ガスが飽和溶解した状態又は過飽和状態であることが好適である。
さらに、被処理水中にゲスト分子ガスが存在するようにする工程として、例えば、ガスハイドレート化を行う反応系内(例えば反応圧力容器内)にゲスト分子ガスを導入すること、及び、反応系内にゲスト分子ガスを導入し被処理水中に存在するように調製すること等が挙げられ、このとき、圧力及び温度を制御してもよいし、ゲスト分子ガスと被処理水との接触(例えば混合、曝気等)を制御してもよい。
【0053】
ガスハイドレート化を始める前に目的ゲスト分子以外のガスの数を減少させるために、始める前の容器及び液体の中に含まれるガス(例えば、空気、酸素、炭酸ガス等)を除くことが好適である。ガス除去する液体として、例えば、被処理水、重水を含む混合液等が挙げられるが、ガスハイドレート化させる液体であれば特に限定されず、ガス除去を前処理として行うことが望ましい。
【0054】
当該ガス除去手段として、特に限定されないが、減圧ポンプ等が通常用いられる。その後、ゲスト分子と、ガスハイドレート化目的の液体(例えば、重水、被処理水等)とを混合する。当該混合手段として特に限定されないが、通常はガスバブリング法が用いられる。これらの処理をした上でガスハイドレート化を行う。
【0055】
本実施形態に用いるゲスト分子は、特に限定されず、一般的に用いられるものでよい。
例えば、CH2F2(HFC-32)、CH2FCF3(HFC-134a)、CF3CFCH2(HFO-1234yf)等のフッ化炭化水素;CH4、C2H4、C2H6、C3H6、C3H8、C4H10等の炭化水素;Ar、Kr、Xe等の希ガス;N2、O2、H2S、CO2等及びこれらの混合ガス等が挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることが可能である。
このガスのなかでも、CH2F2(HFC-32)、CH2FCF3(HFC-134a)、CF3CFCH2(HFO-1234yf)、C3H8(プロパン)及びCO2(二酸化炭素)が好ましい。さらに、取り扱い容易の観点から、CH2FCF3(HFC-134a)、CH2F2(Difluoromethane:HFC-32)、プロパンがより好ましく、さらにCH2FCF3(HFC-134a)がさらに好ましい。これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0056】
<1-2-3.前記被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること>
本実施形態における「重水ガスハイドレート結晶化温度帯」とは、軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲のことである。
本実施形態において、当該結晶化温度帯の温度範囲の決定方法は、以下のようにして求めることができる。
重水ガスハイドレートの熱力学的に平衡な結晶化温度の決定は、予備試験で大まかに決定した結晶化温度より高い温度から、降温速度をパラメータとして一定速度で徐冷していき結晶化が生じた温度を求める。得られた降温速度と結晶化温度の関係式において、外挿して得た降温速度が0の場合の温度を熱力学的に平衡な結晶化温度とするのが一般的である。この試験においては圧力は一定に保たれる必要がある。また、より正しくは、結晶化したガスハイドレート結晶を一定圧力下で、結晶化温度より低い温度から昇温速度をパラメータとして一定速度で加熱していき結晶が溶融した温度を求める。得られた昇温速度と溶融温度の関係式において、外挿して得た昇温速度が0の場合の温度を熱力学的に平衡な溶融温度とする。そして、前述の結晶化温度が溶融温度が十分な精度一致することを確認して、初めて熱力学的に平衡な結晶化温度が得られたことになる。或いは、温度をステップ状に下げて、結晶化が生じた温度を、結晶化温度とする方法がある。
【0057】
このようにして重水ガスハイドレートが結晶化する熱力学的に平衡な温度を求めることは可能であるが、本実施形態における処理は、反応圧力装置内に対して物質が連続的に流出入し、結晶化及び溶融反応が連続的に生じている熱力学的に非平衡な条件で行っているため、熱力学的平衡温度を一つの目安としてはいるが、熱力学的平衡温度では、処理を行うことは不可能である。
実際には、重水ガスハイドレートの熱力学的平衡温度では結晶化は生じず、これよりわずかに低温とすることにより結晶成長の起点が基材上に発現し、結晶成長が開始される。
どの程度低温にすれば、結晶化が生じるのかは不確実な要素が多く、組成の空間的な不均一性の影響もあり、-0.1~2℃の幅がある。一旦、結晶化が始まると温度を熱力学的平衡温度まで上昇させても結晶化は継続する。ガスハイドレートの結晶化反応はそれ自体発熱反応なので、結晶化によって温度上昇が生じこれを完全に抑制することは困難であるが、結晶化は継続して生じる。
従って、本実施形態において処理を行う結晶化温度は、単一の温度ではなく熱力学的な平衡温度に対して、-0.1~2℃の幅をもつ結晶化温度帯において行うことになる。
【0058】
「重水ガスハイドレート結晶化温度帯」は、「処理圧力における重水及び軽水及びトリチウム水のガスハイドレートの結晶化温度帯」或いは「処理圧力における重水をホスト成分として含む混合水ガスハイドレートの結晶化温度帯」或いは「処理圧力における重水をホスト成分として含むガスハイドレートの結晶化温度帯」ともいうことができる。この「処理圧力」の概念は、上記<1-2-1.>において説明した「圧力」に関する規定を参照することができる。
【0059】
そして、本発明者は、「軽水のみのガスハイドレートが結晶化する温度よりも高い温度」という条件では軽水と重水の混合したガスハイドレートが結晶化してしまうので、重水のみのガスハイドレートが結晶化する温度以上で処理しないといけないとい考えた。しかし、現実には重水ガスハイドレート基材の表面でも、わずかに軽水は存在するので、重水のみのガスハイドレートが結晶化する温度より少し低温でないと結晶化が生じない。一方で、トリチウム水もごくわずかに含まれることから、結晶化が開始される温度は、重水のみのガスハイドレートが結晶化する温度よりもわずかに高くなるはずと考えた。さらに、本発明者は、現実には軽水濃度の方がトリチウム水濃度よりはるかに高いので、重水のみのガスハイドレートが結晶化する温度よりわずかに低い温度で結晶化が起こることになる。これが、本発明における「重水ガスハイドレート結晶化温度帯の近傍」ということである。
【0060】
本実施形態における「重水ガスハイドレート結晶化温度帯の近傍」「第二温度」「第一温度」との関係について説明する。熱力学的に平衡な条件であれば、処理圧力における被処理水の組成を示す直線と液相面の交点が示す液相線温度で結晶化が開始されるが、非平衡な条件では実際にはこの温度より、-0.1~2℃高い温度において結晶化が観測される。このように平衡状態と非平衡状態における結晶化が観測される温度にはずれがあるので、実際の処理温度を「結晶化温度帯の近傍」としており、この温度を基準に「第二温度」を決定している。また、結晶化したガスハイドレートの組成は、被処理水の組成(
図6のC)ではなく、前述の液相線温度平面と処理温度における固相面の交点が示す組成(
図6ではトリチウム濃度はD、軽水濃度はEに対応する組成)となる。この組成と、被処理水の組成のずれが、1回の結晶化によるそれぞれトリチウム水の取り込み量及び軽水の離脱量に相当する。そこで、結晶化と溶融を繰り返して行う再結晶化を行えば、結晶組成中のトリチウム水濃度は、さらに高くなり、結晶組成中の軽水濃度は、さらに低くなる。この再結晶化を行うためには、結晶化した結晶を溶融することが必要であり、この溶融を行う温度が「第一温度」である。
【0061】
前記被処理水に重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けることにより、前記被処理水中のトリチウム水を、前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、当該重水ガスハイドレート基材よりトリチウム濃度の高いトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成することがより簡便により効率よく行うことができる。これによって、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理を行うことができ、例えば、トリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水をより簡便により効率よく分離することも可能である。
【0062】
また、「前記被処理水に温度差を設けること」は、空間的変動及び/又は時間的変動により、前記被処理水に温度差を設けることが好適であり、より好適な態様として、反応系内の被処理水の温度を変化させること、及び/又は、反応系に入出力して反応系を循環する被処理水の液相(液体)の温度を変化させることであり、さらにより好適な態様として、反応系内における前記被処理水の圧力容器上端の温度と圧力容器下端の温度との温度差、及び/又は、圧力容器温度の時間的変動の最高温度と最低温度との温度差である。また、より好適な態様として、さらに、反応系内を循環する被処理水の液相(液体)の温度を変化させることにより、間接的に前記重水ガスハイドレート基材の温度を変化させることによって、前記重水ガスハイドレート基材がトリチウム水を取り込みをより良好に制御することができる。
より好適な態様として、反応系内に存在するトリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材を含む被処理水の温度を変化させるか、又は、反応系内のトリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材に対して循環接触させる処理対象の汚染水を含む被処理水の温度を変化させることが好適である。
【0063】
また、本実施形態における「前記被処理水に温度差を設けること」とは、前記被処理水のZ軸方向(垂直方向)を少なくとも2以上の領域に分け、当該2以上の領域(好適には上部と下部の2領域)において、空間的に温度差を設けることである、又は、前記被処理水の温度を経時振動させて時間的に温度差を設けることであることが好適である。
【0064】
そして、本実施形態において、「前記被処理水に温度差を設けること」を一定期間行うことによって、前記被処理水中のトリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材に取り込ませること(以下、「取込工程」ともいう)ができる。当該取込工程は、上記振動工程と同時期に行うことができ、これら工程が同時期に行われることで、より簡便により効率的にトリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材に取り込むことができる。このときの取込工程での圧力や温度等の反応条件は、上記振動工程と同じ反応条件であることが好適である。
【0065】
このときの一定期間は、前記被処理水に温度差を設ける処理の合計時間であり、当該一定期間として、特に限定されないが、反応圧力容器内の容積によって随時設定することができる。一例として、連続的運転時間において、その好適な上限値として、時短による作業効率の観点から、好適には0.5時間以上、より好適には0.75時間以上、さらに好適には1時間以上であり、その好適な下限値として、連続運転してもトリチウム水を効率よく取り込むことができるので、特に限定されず、装置メンテナンス等の観点から、好適には2~3ヶ月以下、1ヶ月以下又は2週間以下であり、トリチウム水回収を早める観点から、1週間以下でもよく、この場合、反応系が直径1に対して高さ2~4の円筒型形状が好適であるが、他の形状でもよい。この一定期間の処理時間を設けることで、重水ガスハイドレート基材にトリチウム水が取り込まれ、軽水からトリチウム水が分離する又は除去されるようになる。当該一定期間が終了した後に新たに一定期間を開始してもよい。
【0066】
「前記被処理水に温度差を設けること」の好適な態様として、前記トリチウム水を及び軽水を含む被処理水(液相)を、循環させ、前記ゲスト分子ガスの存在下で、前記重水ガスハイドレート基材に接触させることが挙げられる。これにより、重水ガスハイドレート基材にトリチウム水が取り込まれ、軽水からトリチウム水が分離する又は除去されるようになり、また、被処理水を循環させる際に被処理水の温度調節をより簡便により効率よく行うことも可能であり、当該被処理水が反応系内に入出力することで反応系内の被処理水の温度調節をより簡便により効率よく行うことができる。
【0067】
さらに、「前記被処理水に温度差を設けること」のより好適な態様として、反応系内における、前記ゲスト分子ガスの存在下、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材(被処理水の固相)に対して、前記トリチウム水及び軽水を含む被処理水の液相(液体)を循環接触させることであり、この循環させるトリチウム水及び軽水を含む被処理水の液相(液体)の温度調節を行うことで、反応系内の被処理水に温度差を設けることも可能である。当該被処理水の液相(液体)には、前記重水ガスハイドレート基材が循環に支障のない程度であれば含まれていてもよい。
【0068】
前記被処理水を、被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませる反応系の外部に備えられた外部液体循環回路(配管等)を用いて、当該反応系の外で温度調節をしながら循環させることで、より簡便により効率よく反応系内の温度制御を行い易いという利点がある。さらに、循環接触により、前記重水ガスハイドレート基材と汚染水との接触頻度が高まるため、より簡便により効率よくトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込み易くなるという利点がある。
また、より好適には、循環させる被処理水の温度調節しつつ反応系内の被処理水の温度調節することにより、反応系内の被処理水の温度を経時振動させることである。
さらに、外部液体循環回路等を用いて循環させる被処理水の温度制御を行うことが好適であり、これにより、より簡便により効率よく反応系内の被処理水に温度差を設けることができる。
【0069】
また、本実施形態にて用いる温度差、第一温度(空間的変動の上端温度、時間的変動の最高温度)、第二温度(空間的変動の下端温度、時間的変動の最低温度)等の温度は、使用するゲスト分子ガスによって被処理水中の温度が変化するため、これに対応して、随時、各種温度を適宜することが望ましい。
本実施形態における第一温度及び第一温度とこれより低温の第二温度の温度差は、好適には0.5~12.0℃、より好適には、1.0~10.0℃、さらに好適には、2.0~8.0℃である。さらに、当該第二温度は、8.0~21.0℃が好適である。
また、本実施形態における第二温度は、好適にはゲスト分子ガスを含むガスハイドレートの処理圧力における熱力学的平衡結晶化温度の±3℃、より好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±2℃、さらに好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±1℃である。
例えば、ゲスト分子ガスとしてHFC-134aを用いる場合、第一温度及び第二温度の温度差が、2.0~8.0℃、及び/又は、当該第二温度が、8.0~12.6℃であることが好適である。
【0070】
また、本実施形態に用いられる温度制御装置は、現在の測定値(℃)と目標の設定値(℃)とを一致するように制御するように構成されており、例えば、加温及び/又は冷却の装置、温度センサ、温度調節機構等を備えることが好適である。当該温度制御装置は、フィードバック温度制御ができるように構成されていてもよい。当該温度制御のための動作制御は、公知の動作制御を用いてもよく、例えば、ON/OFF動作制御、P動作(比例動作)制御、PID動作制御が好適である。
【0071】
<1-2-3-1.前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設けること>
本実施形態における「記被処理水のZ軸方向(垂直方向)の2以上の領域で温度差を設けること」、より好適には「前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設けること」は、例えば、Z軸(垂直)方向に対して、前記被処理水に、当該被処理水の上部の温度と下部の温度とで温度差を設けることが好適である。このとき、当該温度差の範囲として、被処理水の上部(上方領域)の温度を上端温度(℃)(第一温度)とし、被処理水の下部(下方領域)の温度を下端温度(℃)(第二温度)とし、温度差のある上部の被処理水と下部の被処理水とに調製することができる。加熱対象は重水ガスハイドレート基材ではなくて被処理液であり、被処理水の上部と下部との境界は、特に限定されず連続的に温度は変化することになる。
【0072】
ここで、本実施形態は、「被処理液(前記被処理水)が結晶化温度帯を超える温度となる領域を反応圧力容器内に設ける」、或いは、「反応容器内の温度を結晶化温度帯を超える温度と結晶化温度帯に内包される温度の間で振動させる」ものである。このうち、前者の「被処理液(前記被処理水)が結晶化温度帯を超える温度となる領域を反応圧力容器内に設ける」場所は複数あってもよい。また、反応圧力容器の縦横比を大きくとり、「被処理液(前記被処理水)が結晶化温度帯を超える温度となる領域」と「結晶化温度帯に内包される温度となる領域」を縦方向に交互に積層した構造としてもよい。この場合、反応圧力容器は縦置きでも横置きでも良いが、被処理溶液(前記被処理水)が一方向に循環するようにポンプ等により圧送することが、トリチウム水の取込効率の観点から、好適である。「2以上の領域で温度差を設けること」として、空間的に1段である必要はなく、高温、低温、高温、低温・・・高温、低温のような「層」の繰り返しが空間的に繰り返されてもよい。この場合、逆流を防ぐための機構を設けることが好適であり、この場合、ポンプ等にて、一方向に強制循環させることが望ましい。このとき前記層を維持できるように循環させることが望ましく、例えば、層のXY軸方向(水平方向)の平面的部分よりも小さい循環用の出入口(面積比:例えば1/50以下)を設けて一方向に循環させること及び/又は循環の流速を前記層が維持できるように調節すること(例えばポンプの低速調整等)等が望ましい。
【0073】
本実施形態において、より好適には、被処理水の上部の温度を下部の温度よりも高温になるように、及び/又は、被処理水の下部の温度を上部の温度よりも低温になるように、温度制御することが好適であり、対流現象の発生を考慮した場合には、被処理水の上部の温度を下部の温度よりも高温になるように、温度制御することがさらに好適である。そして、温度差のある上部の被処理水及び下部の被処理水の状態で、一定期間処理を行うことが好適である。このとき圧力条件は、温度差を設けるときと同じ又は実質同じの圧力条件であることが好適である。一定期間として、特に限定されないが、処理時間のすべてにおいて当該温度制御を行ってもよいし、一部の処理時間において行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。この一定期間の処理時間を設けることで、重水ガスハイドレート基材にトリチウム水が取り込まれ、軽水からトリチウム水が分離する又は除去されるようになる。
【0074】
前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設ける際の温度差は、好適には0.5~12.0℃、より好適には、1.0~10.0℃、さらに好適には、2.0~8.0℃である。また、本実施形態における下端温度は、好適にはゲスト分子ガスを含むガスハイドレートの処理圧力における熱力学的平衡結晶化温度の±3℃、より好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±2℃、さらに好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±1℃である。
【0075】
なお、反応系内(好適には反応圧力容器内)に、前記被処理水の上端温度及び下端温度を測定するために温度センサを設ける場合には、少なくとも上端温度及び下端温度がそれぞれ測定できるように複数の温度センサを備えることが好適である。上端温度の測定ために設ける温度センサは、反応系内(例えば反応圧力容器内)の液体上面に近い場所かつ被処理水が存在する場所(液面より下等)に設けることが好適である。液体下端温度の測定のために用いる温度センサ(接触式又は非接触式温度計)は、反応系内(例えば反応圧力容器内)の底面に近い場所かつ被処理水が存在する場所(底面付近等)に設けることが好適である。
【0076】
接触式又は非接触式温度計にて反応系内(反応圧力容器内)の被処理水を測定する部分(又は設置場所)の位置は、特に限定されないが、反応系内(反応圧力)の内部のZ軸方向の高さ(上面から底面までの距離)を1としたときに、上面から及び/又は底面から1/4~1/50であることが好ましく、より好ましくは上面から及び/又は底面から1/6~1/30、より好ましくは上面から及び/又は底面から1/10~1/30である。
例えば、「上面から1/50」は、「上面から1/4」よりも、上面により近い位置になる。
【0077】
前記温度差を設けるための装置又は手段として、単数又は複数の温度調節機構(好適には温冷媒温調機構)を、反応系の上部及び下部にそれぞれ温度制御が独立可能なように設けることが好適である。反応系内の上部と、反応系内の下部にそれぞれ設けた温度調節機構にて、被処理水の上部の温度を制御する一方で被処理水の下部の温度を制御することで、上部の温度と下部の温度とで所定の温度差を設けることが好適である。この所定の温度差を設けることで、前記重水ガスハイドレート基材にトリチウム水が取り込まれ、軽水からトリチウム水が分離する又は除去されるようになる。
【0078】
反応系内における2以上の領域の前記被処理水の温度(上部における被処理水の温度と下部における被処理水の温度)に所定の温度差を設けた後、一定時間を経過させることで、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材が汚染水からトリチウム水をより良好により効率よく取り込み、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成することができる。
なお、上部温度と下部温度の温度差による生じることでの自然対流による混合が好適であるが、前期温度差が維持される範囲内で、反応系の外部からの被処理水の循環による混合操作、反応系内の対流装置(例えば、撹拌羽根等の撹拌式、液体噴射等の流体噴射式等)による混合操作等があってもよい。
【0079】
反応系内における前記被処理水の上部及び下部の温度差の場合、当該所定の温度差は、好適には0.5~12.0℃、より好適には1.0~10.0℃、さらに好適には2.0~8.0℃である。反応系内における下部の温度(下端温度)は、また、本実施形態における下端温度は、好適にはゲスト分子ガスを含むガスハイドレートの処理圧力における熱力学的平衡結晶化温度の±3℃、より好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±2℃、さらに好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±1℃である。なお、ゲスト分子ガスとしてHFC-134aを使用する場合の下端温度は5~14℃、HFC-32を使用する場合の下端温度は、7~21℃、CO2を使用する場合の下端温度は2~12℃である。
反応系内において前記被処理水の上部及び下部の温度差を行う際の一定期間(処理の合計時間)は、特に限定されないが、処理時間のすべてにおいて当該温度制御を行ってもよいし、一部の処理時間において行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。
この一定期間の処理時間を設けることで、重水ガスハイドレート基材にトリチウム水が取り込まれ、軽水からトリチウム水が分離する又は除去されるようになる。当該一定期間が終了した後に新たに一定期間を開始してもよい。
また、反応系内における上部及び下部の温度差を行う場合、当該反応系内の特定の圧力条件は、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件及び/又はその近傍であることが好適である。
【0080】
なお、<1-2-3-1.前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設けること>では、下記<1-2-3-2.前記被処理水の温度を経時振動させること>等の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができ、例えば、「最高温度」を「第一温度」として、「最低温度」を「第二温度」として、時間的変動を<1-2-3-1.前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設けること>の空間的変動に適宜当てはめてもよい。
【0081】
<1-2-3-2.前記被処理水の温度を経時振動させること>
本実施形態における前記被処理水の温度を経時振動させることは、例えば、前記被処理水中の温度を経時的に上下させること等が挙げられる。経時振動により、被処理水中においてトリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材に、トリチウム水がより簡便により効率よく取り込まれる。このときに形成されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を、被処理水から分離することで、軽水からトリチウム水がより簡便により効率よく分離される又は除去される。反応系内における前記被処理水のZ軸(垂直)方向で2以上の領域(上部及び下部)の被処理水を設定し、これら領域に温度差を設けなくともよいため、反応系(反応圧力容器等)の反応容量の大型化にも対応でき、また、反応系の形状(容器形状等)を縦長のタワーにしなくとも対応できるという反応系(容器)の容量及び形状の制約が軽減できるというメリットがある。
【0082】
前記経時振動としては、特に限定されないが、波状が好ましく、当該波状として、例えば、短形波、台形波状、三角波、ノコギリ波、正弦波状等から選択される1種又は2種以上があり、このうち、正弦波状が好適である(
図3参照)。
また、前記経時振動における温度設定について、上述した「上端温度」を「最高温度」と、「下端温度」を「最低温度」と、第一温度及び第二温度の温度設定に用いることができ、また、本実施形態における波状の1周期とは、最高温度→最低温度又は最低温度→最高温度を半周期(0.5周期)とし、半周期2回分(すなわち、最高温度→最低温度→最高温度、又は、最低温度→最高温度→最低温度)をいい、最高温度又は最低温度の何れかを反応開始温度及び反応開始時間と設定してもよい。また、反応中に、最高温度及び/又は最低温度の設定温度(温度軸)を適宜変更してもよく、1周期又は半周期の設定期間(時間軸)を適宜変更してもよい。また、経時振動の半周期の設定期間又は設定温度は、同一の経時振動であってもよいし、適宜変更して異なる周期が複数組み合わさった経時振動であってもよい。
【0083】
反応系内における前記被処理水の経時振動での最高温度と最低温度の温度差は、好適には0.5~12.0℃、より好適には、1.0~10.0℃、さらに好適には、2.0~8.0℃である。さらに、最低温度は、8.0~21.0℃が好適である。前記経時振動における最低温度として、好適にはゲスト分子ガスを含むガスハイドレートの処理圧力における熱力学的平衡結晶化温度の±3℃、より好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±2℃、さらに好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±1℃である。
なお、ゲスト分子ガスとしてHFC-134aを使用する場合の最低温度は5~14℃、HFC-32を使用する場合の最低温度は、7~21℃、CO2を使用する場合の最低温度は2~12℃である。
前記経時振動による反応時間(合計時間)は、特に限定されないが、処理時間のすべてにおいて当該温度制御を行ってもよいし、一部の処理時間において行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。
前記経時振動による半周期の時間は、一定又は不定であってもよいが、半周期の時間として、好適には1~60分間、より好適には1~30分間、さらに好適には5~15分間である。
また、経時振動を行う場合、当該反応系内の特定の圧力条件は、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件及び/又はその近傍であることが好適である。
【0084】
前記経時振動における「昇温速度(℃/時間)」として、好適には0.1~5℃/時間、より好適には0.5~4℃/時間、さらに好適には1~2℃/時間である。
前記経時振動における「降温速度(℃/時間)」として、好適には0.1~5℃/時間、より好適には0.5~4℃/時間、さらに好適には1~2℃/時間である。
【0085】
本実施形態において、より好適には、反応系内の前記被処理水の温度が経時振動になるように、反応系内の前記被処理水の温度を制御することが好適である。前記被処理水における温度の経時振動の状態で、一定期間処理を行うことが好適である。このとき圧力条件は、温度差を設けるときと同じ又は実質同じの圧力条件であることが好適である。一定期間は、前記被処理水に温度差を設ける処理の合計時間であり、処理時間のすべてにおいて当該温度制御を行ってもよいし、一部の処理時間において行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。当該一定期間は、特に限定されず、被処理水中のトリチウム濃度が所望の範囲になるまで行うことが望ましい。この一定期間の処理時間を設けることで、重水ガスハイドレート基材にトリチウム水が取り込まれ、軽水からトリチウム水が分離する又は除去されるようになる。当該一定期間が終了した後に新たに一定期間を開始してもよい。
【0086】
なお、<1-2-3-2.前記被処理水の温度を経時振動させること>では、上記<1-2-3-1.前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設けること>等の構成と重複する、被処理水、ゲスト分子ガス、温度差などの各構成などの説明については適宜省略するが、これらの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができ、例えば、「上端温度」を「第一温度」として、「下端温度」を「第二温度」として、空間的変動を、<1-2-3-2.前記被処理水の温度を経時振動させること>の時間的変動に適宜当てはめてもよい。
【0087】
<1-3.本実施形態の作用効果>
本実施形態によれば、トリチウム水及び軽水を含む被処理水から、当該被処理水中のトリチウム濃度が低濃度であっても、トリチウム水を当該被処理水から効率よく分離することができる。また、本実施形態により、トリチウム水を被処理水から効率よく分離し除去することができ、また、この分離されたトリチウム水を効率よく回収することもできる。
さらに、本実施形態において、被処理水を循環させることで、重水ガスハイドレート基材にトリチウム水が接触をすることができ、これによりトリチウム水を効率よく高濃度化することができ、この高濃度化されたトリチウム水を分離又は回収することができ、作業的にも濃度的にもよく、高純度化トリチウム水の生産効率若しくは回収効率がよい。
さらに、トリチウム水及び軽水を含む被処理水から、トリチウム水が効率よく分離され除去できるため、汚染除去された軽水、トリチウムの規制値以下の軽水、高純度化された軽水等を製造することができ、これら軽水を処理水として使用することも可能である。
【0088】
<1-4.トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の分離方法>
前記被処理水と、前記トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材とを分離することが好適である。前記被処理水からトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を分離すること、前記トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材から前記被処理水を分離することが挙げられる。当該分離又は除去する方法は、ガスハイドレート側であっても被処理水側であってもよく特に限定されない。本実施形態では、分離方法や分離装置の構成によって適宜分離手段を設定することができるという利点がある。当該分離手段として、例えば、固液分離、遠心分離等の公知の分離手段を用いることができるが、これに限定されない。
【0089】
本実施形態において、連続式及び/又はバッチ式にて行うことが好適である。公知の連続式又はバッチ式に準じて行うことができる。連続式及び/又はバッチ式として、被処理水の供給、重水ガスハイドレート基材との接触、被処理水の排水の手順で行うことが好適である。本実施形態では、循環式を行うことが好適である。循環式処理として、被処理水の供給、重水ガスハイドレート基材との接触、処理後の被処理水の排出、処理水を被処理水として供給等の手順で行うことが好適である。また、本実施形態では、前記重水ガスハイドレート基材をクラマトグラフィー担体と見立てて、反応系内を、前記重水ガスハイドレート基材を担体として備える流路(例えば、配管等)とし、当該流路に、被処理水を流入させ、処理水を排出させるように構成されている反応系(例えば、ワンパス処理等)であってもよく、流路の長さはカラムクロマトグラフィーのカラムの長さを設定するときの理論段相当高さHETP(height equivalent of one theoretical plate)を考慮した長い流路であってもよい。
【0090】
本実施形態における好適な態様として、前記重水ガスハイドレート基材で処理した後の1次処理以降の処理水を、再びトリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材に接触させることが好適であり、これによりトリチウム水がより低減された軽水を得ることができる。
また、本実施形態における好適な態様として、1次処理以降のトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材に、汚染水を接触させることが好適であり、これにより、当該重水ガスハイドレート基材中のトリチウム濃度がより高濃度化できるので好ましい。
【0091】
なお、1次処理以降とは、本実施形態の方法を最初に行った後の一次処理水に対して、さらに第2次処理以降の処理を本実施形態の方法を用いて行うことであり、循環式及び/又は直列式による処理が好適である。直列式として、複数の処理方法若しくは処理装置を直列式に配置して行うことができる。循環式として、一次処理水に原水等のトリチウム水を含む被処理水を混合するような構成が好ましく、この循環式のなかに、複数の処理方法等が、直列式に組み込まれてもよく、並列式に、又は、直列式及び並列式に、組み込まれていてもよい。
【0092】
<1-5.トリチウム水回収工程>
本実施形態は、さらにトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の一部を分離回収することが好適である。この分離回収により、トリチウム水を含む溶液を回収できるので、トリチウム水を効率よく回収することができる。
一部を分離回収する際に、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材で、トリチウム水を少なくとも含む部分を分離することが好適であり、トリチウム水が基材の表面に積層していることが好適である。
回収手段として、特に限定されないが、溶融、削り等が挙げられ、また氷塊の表面除去を行うような公知の方法をもちいてもよい。
また、回転羽根、ドラム回転等の表面削り可能なように構成されている機械的手段を行ってもよい。
【0093】
得られた溶融部分又は削り部分等の回収部分にトリチウム水が高濃度に存在するため、これによりトリチウムを効率よく高濃度に回収することができる。また、回収する際に温度制御することにより、トリチウム水を液体状態又は固体状態等で回収することも可能である。さらにトリチウム水の高濃縮、トリチウム水の膜除去、又はトリチウム水の貯留等のいずれの工程に移行することも可能である。
【0094】
また、前記トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材から、トリチウム水を分離した重水ガスハイドレート基材は、ガスハイドレート基材の状態を維持している場合には、本実施形態の重水ガスハイドレート基材として再利用することが好適であり、再度重水ガスハイドレートを形成させる工程を省略や短縮することができ、経済性及び作業効率の観点から遊離である。また、トリチウム水を分離した重水ガスハイドレート基材は、溶融させて、重水の液体又は重水を含む混合液の状態とすることができ、重水の回収を行うことも可能である。
【0095】
2.本実施形態に係るトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の製造方法又は形成方法
本実施形態に係るトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の製造方法では、上記「1.」や後述する「3.」~「6.」等の構成と重複する、被処理水、温度差などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」、「3.」~「6.」等の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0096】
本実施形態は、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること、を含む、重水ガスハイドレート基材の製造方法又は形成方法を提供することができる。これによって、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませることができ、さらに、これを一定期間行うことによって、ベースとなったトリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材よりも、より高濃度のトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成させることがより簡便により効率よくできる。さらに、形成されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレートを回収することで、トリチウム水が低減された被処理水又は処理水を得ることができる。回収されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を用いることで、基材表層等の所定の基材部分の溶融又は基材全部の溶融にて、トリチウム水を回収することができ、このとき本実施形態における方法(トリチウム水分離方法等)で再使用するための重水ガスハイドレート基材(固体)又は重水(液体)を回収することもできる。
【0097】
3.本実施形態に係るトリチウム水汚染水からのトリチウム規制値以下の軽水の製造方法 本実施形態に係るトリチウム水汚染水からのトリチウム規制値以下の軽水の製造方法
では、上記「1.」「2.」や後述する「4.」「5.」「6.」等の構成と重複する、被処理水、温度差などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」「2.」「4.」「5.」「6.」等の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
本実施形態は、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、
ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること、を含む、トリチウム水汚染水からのトリチウム規制値以下の軽水の製造方法を提供することができる。前記温度差を設けることによって、前記被処理水中のトリチウム水を取り込ませて含ませた重水ガスハイドレート基材を形成することができる。被処理水の循環式を採用することによって、被処理水を、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材に接触するように、繰り返し循環させることで、被処理水中のトリチウム濃度を低減することができる。
一定期間経過後、被処理水を反応系外に回収、分離、又は取出することによって、トリチウム規制値以下の軽水を得ることができる。又は、一定時間経過後、当該形成されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を回収、分離、又は除去することによって、トリチウム規制値以下の軽水を得ることができる。
【0098】
4.本実施形態の例
本実施形態の例として、第一実施形態(
図1A)、第二実施形態(
図1B)、第三実施形態(
図2)を挙げるが、本実施形態はこれらに限定されない。また、第一実施形態、第二実施形態、第三実施形態は、コンピュータ等や制御部等によって実行させることができる。
本実施形態の例では、上記「1.」「2.」「3.」や後述する「5.」「6.」等の構成と重複する、被処理水、温度差などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」「2.」「3.」、「5.」「6.」等の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0099】
<4-1.第一実施形態>
本第一実施形態として、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設ける工程を実施することができる。当該温度差を設ける工程によって、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成させる工程を実施することができる(ステップ1)。また、前記被処理水の液相を外部の液体循環回路を用いて反応系内に循環させてもよい。前記形成工程において、トリチウム水及び軽水の混合液を、前記温度差を設ける工程に導入してもよく、当該混合液の導入前又は導入後に、被処理水の液相を排出してもよい。当該形成工程後に、形成されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を回収する回収工程を実施することができる。
当該本第一実施形態は、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の製造方法であってもよく、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法であってもよい。前記温度を設ける工程の前工程として、重水ガスハイドレート基材を形成させる工程を設けてもよい。なお、本第一実施形態は、制御部が実行してもよい。
【0100】
<4-2.第二実施形態>
本第二実施形態として、ステップS11として、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設ける工程を実施することができる。このとき、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材が形成され、一方で被処理水中のトリチウム濃度はより低減する。前記温度を設ける工程の前工程として、重水ガスハイドレート基材を形成させる工程をさらに設けて実施してもよい。
ステップS12として、トリチウム濃度が低減された被処理水を、反応系の系外に排出する工程を実施することができ、これにより排出されたトリチウム水が低減された被処理水を回収することができる。又は、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を反応系の系外に取り出すことで、トリチウム濃度が低減された被処理水を回収する工程を実施してもよい。また、前記被処理水の液相を外部の循環液体回路を用いて反応系内に循環させてもよい。当該本第二実施形態は、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法、又はトリチウム水で汚染された軽水からであってもよい。前記温度を設ける工程の前工程として、重水ガスハイドレート基材を形成させる工程を設けてもよい。
これにより、当初の被処理水よりも、トリチウム濃度が低減された被処理水を得ることができる。なお、本第二実施形態は、制御部が実行してもよい。
【0101】
<4-3.第三実施形態>
本第三実施形態として、ステップS21として、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設ける工程を実施することができる。前記温度を設ける工程の前工程として、重水ガスハイドレート基材を形成させる工程を設けて、実施してもよい。
【0102】
ステップS22として、トリチウム濃度が低減された被処理水を、反応系の系外に排出する工程を実施し、これにより排出されたトリチウム水が低減された被処理水を回収することができる。これにより、当初の被処理水よりも、トリチウム濃度が低減された被処理水を得ることができる。
なお、軽水の回収の判断基準としては、トリチウム水が規制値以下等の設定値以下になっている場合に、軽水の回収工程を行うことができ、なっていない場合には、トリチウム水が規制値以下等の設定値になるまで、温度差を設ける工程を繰り返し行ってもよい。
【0103】
ステップS23として、トリチウム水で汚染された軽水(汚染水)を、導入するか否かを、使用者又は制御部が判断する。汚染水導入の判断基準としては、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を回収するかどうかで判断してもよい。ガスハイドレート基材を用いるため、汚染水からトリチウム水をガスハイドレート基材が取り込む能力は非常に高く連続的な汚染水処理は、可能である。
【0104】
汚染水を導入する場合(YES)には、ステップS21以降を実施する。汚染水を導入しない場合(NO)の場合には、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を回収する工程を実施する。トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材は、その表層付近にトリチウム水ガスハイドレートが存在するため、溶融又は削りを利用して、その表層付近のトリチウム水ガスハイドレート部分の固体又はトリチウム水の液体を回収することができ、これにより高濃度化されたトリチウム水を回収できる。また、トリチウム水ガスハイドレート部分が除去された重水ガスハイドレート基材を、前記温度差を設ける工程で用いる重水ガスハイドレート基材として、再利用することができる。
【0105】
ステップS25として、再利用可能な重水ガスハイドレート基材を前記温度差を設ける工程に使用する場合(YES)には、再生利用可能なガスハイドレート基材を、前記温度差を設ける工程に供給することができる。これにより、連続的にステップS21を実施することができる。
ステップS25として、再利用可能な重水ガスハイドレート基材を前記温度差を設ける工程に使用する場合(NO)には、本第三実施形態を終了することができる。なお、再利用可能な重水ガスハイドレート基材を回収する回収工程を実施することで、重水ガスハイドレート基材の固体又は重水の液体として貯留してもよい。
なお、本第三実施形態は、制御部が実行してもよい。
【0106】
<4-4.その他>
本実施形態における汚染水処理装置は、より具体的な好適な動作態様として、
重水ガスハイドレート基材を反応圧力容器内で晶出させること、
晶出後、液相の重水を反応圧力容器の下部より排出除去すること、
重水ガスハイドレート基材を重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件にわずかに高温かつ低圧になるような条件下で、反応圧力容器内に存在させて、液相(液体)循環にて混合すること、
当該温度及び圧力条件を保持しつつ、重水ガスハイドレート基材が存在する反応圧力容器内に、トリチウム水及び軽水を含む被処理水(汚染水)を導入すること、これにより、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水が反応圧力容器内に存在すること、
反応圧力容器内において、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件下にて、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水を混合すること、
反応圧力容器内において、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること、これにより、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませること、これから選択される1種又は2種以上を含み、実施することができる。これにより、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法、又は、トリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を分離する方法を実行することができる。
【0107】
また、本実施形態における汚染水処理装置は、より具体的な好適な動作態様として、
重水ガスハイドレート基材を反応圧力容器内で晶出させること、
晶出後、液相の重水を反応圧力容器の下部より排出除去すること、
重水ガスハイドレート基材を重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件にわずかに高温かつ低圧になるような条件下で、反応圧力容器内に存在させて、液相循環にて混合すること、
当該温度及び圧力条件を保持しつつ、重水ガスハイドレート基材が存在する反応圧力容器内に、トリチウム水及び軽水を含む被処理水(汚染水)を導入すること、
これにより、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水が反応圧力容器内に存在すること、
反応圧力容器内において、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件下にて、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水を混合すること、
反応圧力容器内において、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること、
これにより、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませること、から選択される1種又は2種以上を含み、実施することができる。これにより、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法、又は、トリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を分離する方法を実施することができる。
【0108】
5.本実施形態に係る本実施形態の方法を実行するための装置又はシステム、プログラム 本実施形態に係る本実施形態の方法を実行するための装置又はシステム、プログラムでは、上記「1.」~「4.」や後述する「6.」等の構成と重複する、被処理水、温度差などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」~「4.」、「6.」等の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0109】
本実施形態の方法を、上述した処理方法又は製造方法等の方法を管理するための装置(例えば、コンピュータ、PLC、サーバ、クラウドサービス等)におけるCPU等を含む制御部によって実現させることも可能である。また、本実施形態の方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリ等)、HDD、CD、DVD、ブルーレイ等)等を備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、前記制御部によって実現させることも可能である。当該記録媒体は、コンピュータ等が可読可能な記録媒体であることが好適である。
当該制御部によって、トリチウム水が分離されるように被処理水の温度を制御するトリチウム水分離システム等、当該制御部若しくは当該システムを備える装置を提供することも可能である。また、当該管理装置には、コンピュータ等の構成要素として、CPUを少なくとも備え、キーボード等の入力部、ネットワーク等の通信部、ディスプレイ等の表示部、HDD等の記憶部、ROMやRAM等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。このうちRAM、記憶部、表示部及び入力部を備えることが好適であり、選択されたそれぞれの構成要素は、例えばデータの伝送路としてのバスで接続されている。前記制御部によって、上述した処理方法又は処理システムなど、当該制御部もしくは当該システムを備える装置を提供することも可能である。また、当該装置には、タッチパネルやキーボードなどの入力部、ネットワークや内部もしくは外部アクセスなどの通信部、タッチパネルやディスプレイなどの表示部などを備えてもよい。
【0110】
6.本実施形態に係る、被処理水からのトリチウム水分離装置又はトリチウム水で汚染された汚染水の処理装置、トリチウム水汚染水からのトリチウム規制値以下の軽水の製造装置
本実施形態に係る被処理水からのトリチウム水分離装置又はトリチウム水で汚染された汚染水の処理装置、トリチウム水汚染水からのトリチウム規制値以下の軽水の製造装置では、上記「1.」~「5.」等の構成と重複する、被処理水、温度差などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」~「5.」等の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0111】
<6-1.本実施形態に係る装置>
本実施形態は、本実施形態に係る装置として、上記本実施形態の方法を実施できるように構成されている装置を提供することができる。本実施形態の装置として、例えば、被処理水からのトリチウム水分離装置又はトリチウム水で汚染された汚染水の処理装置、トリチウム水汚染水からのトリチウム規制値以下の軽水の製造装置等が挙げられるが、これらに限定されない。
本実施形態の装置は、上記本実施形態の方法を実行するための装置(例えば、コンピュータ等)又はシステム、上記本実施形態の方法を実行するためのプログラムをハードウェア資源に格納した装置又はシステム、或いは当該プログラムを格納した記憶媒体を備える若しくは当該記憶媒体にアクセス可能な装置又はシステムであってもよい。
【0112】
本実施形態に係る汚染水処理装置は、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材を形成可能な反応圧力容器と、被処理水を供給及び排出可能なように構成されている供給排出部と、を少なくとも備える、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理装置であることが好適である。当該被処理水の処理装置は、温度及び圧力の制御が可能な反応系装置(具体的には温度制御機構付き反応圧力容器)を少なくとも備えるものであってもよい(例えば、
図4参照)。また、本実施形態のトリチウム水汚染処理装置は、汚染水からのトリチウム水分離装置としても使用することができる。さらに、本実施形態は、前記反応圧力容器内の被処理水の温度制御が可能なように構成されている温度制御部、及び/又は、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材を形成する反応制御部とを、さらに備えるトリチウム水汚染処理装置、又は、アクセス可能な状態で外部に備える、トリチウム水汚染処理システムが、より好適である。
【0113】
本実施形態の汚染水処理装置は、被処理水を供給及び排出できるように構成されている供給排出部(手段)、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート基材が形成又は晶出ができるように構成されている形成・晶出部(手段)、当該形成又は晶出のための温度制御及び圧力制御ができるように構成されている反応制御部(手段)を備えるように構成されている汚染水処理装置が好適である。さらに、反応系内の被処理水が、系外に入出力して循環接触させるように構成されている外部液体循環回路(流路)を設けてもよく、当該回路(流路)に被処理水の温度調節可能なように構成されている温度調節機構を設けてもよい。
より具体的な汚染水処理装置の一例として、被処理水の供給口及び排出口を有し、被処理水及びガスハイドレート基材が接触反応可能な、ガスハイドレート形成用の温度制御機構付きの反応圧力容器を備える装置であることが好適であるが、これに限定されない。当該汚染水処理装置は、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材を形成することが可能である。また、当該汚染水処理装置として、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート結晶化が可能な公知の装置を利用してもよいが、例えば、反応圧力容器の外部に、頭部(上部)と底部(下部)とをつなぐ液体循環回路(配管等)を有し、この液体循環回路の中間部には、底部から上部方向に圧送するポンプを有することが好適である。
また、本実施形態の汚染水処理装置には、本実施形態に関する方法に従って、被処理水の処理量及びトリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材形成、ガスハイドレート形成するための温度及び圧力等を制御できる制御部を備えることが好適である。
【0114】
本実施形態の汚染水処理装置には、本実施形態の反応系を行う反応圧力容器(又は接触反応部)に、被処理水を供給(給水)する装置(供給手段)、接触反応後の被処理水を排出(取出)する装置(排出手段)等をさらに備えることが好適である。
【0115】
汚染水処理装置は、反応圧力容器の他、重水ガスハイドレート基材の供給部、加熱冷却部、分子ガス供給部、被処理水の給水部、接触反応後の被処理水の排出部等を適宜備え、これらの何れか又はこれらの組み合わせを適宜行うことができる。
当該加熱冷却部(例えば、ヒーター、冷凍機等)、分子ガス供給部(例えば、管、調節弁、ポンプ等)は、ガスハイドレート形成及び/又は溶融を行うための装置(手段)であってもよい。加熱冷却部及び分子ガス供給部は、それぞれ温度制御部(機構)および圧力制御部(機構)によって、制御されてもよい。
また、これら各部を制御し、形成反応を制御する反応制御部を、さらに備えることが好適である。当該形は、本実施形態の汚染水処理装置に配置されていてもよいし、又はアクセス可能は装置(サーバ等)内に配置してもよい。
【0116】
また、本実施形態の汚染水処理装置には、前記接触反応部に被処理水を供給(給水)する装置(供給手段)、接触反応後の被処理水を排出(排水)する装置(排出手段)等をさらに備えることが好適である。また、接触反応後の被処理水のトリチウム濃度を計測する計測装置及び当該被処理水が基準濃度以下か否かを判断する判断処理部を備えても良い。
当該判断処理部により、基準値以下の場合には、軽水タンクに流入させて貯留する又は外系に放流させることができる。基準値以上又は超えの場合には、前記接触反応部に再送することができる。
【0117】
また、本実施形態の汚染水処理装置には、前記温度差を設けることにより形成されたトリチウムを含む重水ガスハイドレート基材から、トリチウム水を回収するためのトリチウム水回収部をさらに備えてもよい。当該トリチウム水回収部は、上述の接触反応部の槽内にて行うことが可能であり、この場合の温度制御部及び圧力制御部によってこれらを制御することで、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材からトリチウム水を回収することができる。また、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を固液分離にて回収する固液分離部を備えてもよい。回収されたトリチウム水は、トリチウム水タンクにて貯留することができる。また、重水も溶融条件を調整することで、重水タンクに回収し貯留することができる。溶融させて発生したガスは、ガス供給部に再送することも可能である。
【0118】
本実施形態の汚染水処理装置には、当該接触反応部を制御する汚染水処理制御部を備えてもよく、当該制御部は、本発明の汚染水処理方法(接触反応、ガスハイドレート形成・溶融、回収等)を管理制御することができる。
【0119】
本実施形態の汚染水処理装置によれば、トリチウム水を含む被処理水の汚染水からトリチウム水を効率よく分離することができ、これにより処理水中のトリチウム水を除去又は低減できる。
【0120】
さらに、本実施形態の汚染水処理装置は、重水ガスハイドレート基材の形成又は製造装置をさらに備えることが好適である。当該重水ガスハイドレート基材の形成又は製造装置は、当該ガスハイドレート形成処理部を備えてもよく、さらにこれは汚染水処理制御部によって制御されてもよい。
前記重水ガスハイドレート基材供給部として、供給管、供給ポンプ(スラリーポンプ等)等が挙げられ、また、前記接触反応装置に供給前に、ハイドレートの粉砕装置を備えてもよい。
【0121】
<6-2.被処理水の処理装置100>
本実施形態におけるより好適な態様として、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理装置(以下「被処理水の処理装置」ともいう)の概要について説明する。
図4に示すように本被処理水の処理装置100は、ガスハイドレート形成可能で被処理水処理を行うように構成されている反応圧力容器1、反応圧力容器内の液相(液体)を循環させる外部液体循環回路2並びに当該循環回路2の液体を送液するための外部液体循環ポンプ3、反応圧力容器内への試料導入並びに排出を行うバルブ付きの入出力ポート(バルブ付き入力ポート4、バルブ付き上部出力ポート5及びバルブ付き下部出力ポート6)、反応圧力容器1の温度調節又は温度設定を行うジャケット式の温冷媒温調機構7並びに外部液体循環回路の温度設定又は温度設定を行うジャケット式の温冷媒温調機構8、及び反応圧力容器内の圧力並びに温度を計測するセンサ(圧力センサ9、上部温度センサ10、下部温度センサ11)並びに表示記録可能な制御装置(図示せず)からなる。外部液体循環回路に備えられたジャケット式の温冷媒温調機構8により、反応圧力容器1内の被処理水の温度を調節することもできる。
【0122】
反応圧力容器1は内容積150cm3の円筒型容器で、ヘッド部分の取り外しが可能な容器である。従って、容器内の固体はヘッドを取り外すことにより取り出すことが可能である。当該円筒型容器の直径は4cmであり、高さは12cmであり、直径1に対する高さは3である。その下限値及びその上限値は、処理の規模や処理能力を考慮して、検討することが望ましいが、例えば、直径1に対する高さ1以上であり、上限値は長いほど分離能等の処理能力が向上するので特に限定されないが、反応圧力容器のような場合には、その上限値として、例えば直径1に対する高さ5以下又は4以下が好適で、カラムクロマトグラフィー的な構造の場合には、理論段相当高さHETPの分離能と通過する時間(作業効率)を考慮して適宜設定することができ、例えば100以下、50以下、10以下等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0123】
反応圧力容器内の液相を循環させる外部液体循環回路2は、反応圧力容器上端と下端を接続するものである。中間部には送液速度及び送液方向が可変(順逆)の外部液体循環ポンプ3を設置してあり液相を強制的に循環させることができる。当該ポンプ3は、送液方向を順逆することにより、反応圧力容器の下方の液体を、温冷媒温調機構7部分を通過して、反応圧力容器の上方から液体を導入させたり、又は、反応圧力容器の上方の液体を、温冷媒温調機構7部分を通過して、反応圧力容器の下方から液体を導入させたりすることができる。
【0124】
反応圧力容器内への試料導入並びに排出を行うバルブ付きの入出力ポートのうち、入力ポート4には反応圧力容器内部の底面付近に達するパイプがバルブを介して接続されており、試料導入の入力は反応圧力容器の最下部(底面付近)から行われる。出力ポートは、反応圧力容器の上端(上面付近)と下端(底面付近)の2か所に設置されている。上端の上部出力ポート5は、当該容器内の上面付近から外部の上方にパイプが突出しており、バルブを使用して気相の排出が可能なように構成されており、主として気相の排出に使用されている。下端の下部出力ポート6は、当該容器内の底面付近から外部に下方にパイプが突出しており、バルブを介して液相の排出が可能なように構成されており、主として液相の排出に使用される。
【0125】
反応圧力容器に外側に備えられるジャケット式の温冷媒温調機構7は、反応圧力容器内の被処理水等の温度設定又は温度調節が個別に行える装置であり、並びに、外部液体循環回路2の外側に備えられるジャケット式の温冷媒温調機構8は、外部液体循環回路2内の液体の温度設定又は温度調節が個別に行える装置であり、それぞれ独立して配置されている。反応圧力容器用の温冷媒温調機構7及び外部液体循環回路用の温冷媒温調機構8は、それぞれ、温度設定を0.1℃単位で行うことが可能であり、熱力学的平衡状態であれば±0.1℃の精度で温度を安定化できる熱容量をもっている。反応圧力容器用の温冷媒温調機構7の温冷媒は、反応圧力容器全体に備えられたジャケットを循環することで、反応圧力容器内の被処理水等の温度コントロールを行っている。外部液体循環回路用の温冷媒温調機構8の温冷媒は、外部液体循環回路の反応圧力容器の上端側に設置されたジャケットを循環することで、反応圧力容器に導入する被処理水等の流体の温度コントロールを行うことができ、及び当該温度コントロールをした流体を反応圧力容器内に導入させることによる反応圧力容器内の液体等の温度コントロールを行うこともできる。温冷媒温調機構7,8のそれぞれの温冷媒は、温冷媒温調機構7,8のそれぞれに接続されている独立した単数又は複数の温度調節装置を含む制御装置(図示せず)によって温度又は流速等を制御されており、これにより、独立して又は共同して反応圧力容器内の液体の温度調節を行うことができる。なお、液体とは、被処理水、汚染水、ガスハイドレート基材を含む被処理水でもよく、液相排出後のガスハイドレート基材であってもよい。
【0126】
反応圧力容器内の圧力測定用の圧力センサ9は反応圧力容器1の上端に設置されている。反応圧力容器内の温度測定用の上部温度センサ10、下部温度センサ11は、それぞれ反応圧力容器内の上端温度及び下端温度が測定できるように構成されており、反応圧力容器内の高さ1としたときに上面及び底面からそれぞれ1/16付近に温度測定部分が設置されている。
本実施例でのトリチウム濃度は、液体シンチレーション法にて測定を行った。また、本実施例での温度は、℃にて測定を行った。
【実施例0127】
以下、実施例等に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例等は、本技術の代表的な実施例等の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0128】
被処理水の処理装置100を、実施例に用いた。被処理水の処理装置100の概要、構成及び動作については、上述した<6-2.被処理水の処理装置100>のとおりである。
図4に示すように本被処理水の処理装置100は、ガスハイドレート形成可能で被処理水処理を行うように構成されている反応圧力容器1、反応圧力容器内の液相(液体)を循環させる外部液体循環回路2並びに当該循環回路2の液体を送液するための外部液体循環ポンプ3、反応圧力容器内への試料導入並びに排出を行うバルブ付きの入出力ポート(バルブ付き入力ポート4、バルブ付き上部出力ポート5及びバルブ付き下部出力ポート6)、反応圧力容器1の温度調節又は温度設定を行うジャケット式の温冷媒温調機構7並びに外部液体循環回路の温度設定又は温度設定を行うジャケット式の温冷媒温調機構8、及び反応圧力容器内の圧力並びに温度を計測するセンサ(圧力センサ9、上部温度センサ10、下部温度センサ11)並びに表示記録可能な制御装置(図示せず)からなる。外部液体循環回路に備えられたジャケット式の温冷媒温調機構8により、反応圧力容器1内の被処理水の温度を調節することもできる。
【0129】
<実施例1>
試験用の汚染水として、超純水に、市販のトリチウム試薬を混合しトリチウム濃度がおおよそ5.00×105Bq/Lとなるように調製した。調製した汚染水の実際のトリチウム濃度を液体シンチレーション法により測定した。調製した汚染水はポリエチレン製広口ビンに入れ、さらに15℃の水浴中に入れ予冷し、これを試験用の汚染水とした。
【0130】
純度99.8%の市販の重水(酸化重水素)を真空ポンプで脱気した反応圧力容器1内に入力ポート4から導入し、反応圧力容器内の下部温度が15.0℃となるように温冷媒温調機構7,8にて調整した。反応圧力容器内に市販のHFC-134aガスを入力ポート4から導入し、絶対圧力が0.80MPaとなるように反応圧力容器1内の圧力を調整した。これにより、ゲスト分子ガスであるHFC-134aガスが過飽和状態となるまでゲスト分子ガスを重水に溶解させた。外部液体循環回路2により液相を強制循環させることにより反応圧力容器内を撹拌した。その後、反応圧力容器の下部温度が4.0℃になるまで温冷媒温調機構7,8にて降温し、温冷媒温調機構7にてそのまま反応溶液内の液体温度を保持することにより重水ガスハイドレートを晶出させた。反応圧力容器を開放して得られた重水ガスハイドレート基材は、反応圧力容器の内部全体に均等に晶出しており、実測した相対密度は約55%でシャーベット状のガスハイドレートが集合した多孔体であった。このとき、今回の試験に使用する、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化圧力条件及び結晶化温度を決定した。
【0131】
なお、ガスハイドレート形成温度は、ハイドレートは氷にガスが取り込まれたものなので、氷の形成温度と同様の傾向を示すと考えられる。氷の融点については、重水:3.82℃(276.97K)[参考文献1]、トリチウム水:4.48℃(277.63K)[参考文献2]、となっており、温度差は0.66Kである。これより、ハイドレートの場合には重水よりトリチウム水の方が約0.5K程度高いと考えられる。これを考慮して、今回の試験における、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件、結晶化可能な温度及びその近傍を設定した。[参考文献1] Long, E. A.; Kemp, J. D., J. Am. Chem. Soc. 1936, 58 (10), 1829-1834.[参考文献2] Jones, W. M., J. Am. Chem. Soc. 1952, 74 (23), 6065-6066.
【0132】
重水ガスハイドレートを晶出させた後、反応圧力容器内の液相の重水を下部出力ポートから排出除去した。その後、反応圧力容器の下部温度及び上部温度、並びに圧力を調整し、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件よりわずかに高温かつ低圧なるように反応圧力容器内を調整した(一例として、温度0.5℃、絶対圧0.03MPa)。反応圧力容器内は、外部液体循環回路2により液相を強制循環させることにより撹拌させた。具体的な条件は、下部及び上部温度が14.0℃、絶対圧力が0.4MPaであるが、これは一例にすぎない。この温度及び圧力条件では、重水ガスハイドレートは熱力学的に準安定な状態にあり、溶融分解することはない。この温度、圧力条件を保持しながら、上記調製した試験用の汚染水140mLを、ゆっくりと入力ポート4から、重水ガスハイドレート基材が存在する反応圧力容器内に導入し、汚染水処理後の反応圧力容器外への排出量は63mLであった。このとき導入した試験用の汚染水の量は、重水ガスハイドレート晶出後に排出除去した重水(63mL;液相)の体積の90%とした。
【0133】
反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度(上端温度)及び圧力を制御部が調整し、結晶析出時の発熱反応により温度上昇が起こらないように温度を調節しながら徐々に重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件とした(平均昇温速度0.02℃/min程度)。初期段階では反応圧力容器の下部温度並びに上部温度は同一になるようにした。具体的な条件は、温度12.3℃、絶対圧力0.37MPaであるが、これは一例にすぎない。反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水は、外部液体循環回路により液相(主に汚染水)を強制循環させることにより撹拌させた。その後、ゲスト分子ガスであるHFC-134aガスを所定圧になるまで加え、さらに所定圧を維持するように調整した。
【0134】
反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下部温度はそのままとし、反応圧力容器の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度が、下部温度より5.0℃高くなるように制御条件を変更した。
この反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度及び下部温度、並びに、当該容器内の絶対圧力を、反応条件と呼ぶ。この反応条件下の状態で、外部液体循環回路を用いて常に循環させて反応圧力容器内の被処理水に強制対流を起こしつつ、上部層と下部層があることによる温度差が壊れないように維持しながら前記重水ガスハイドレート基材に循環接触させ、循環接触を一定時間処理(1時間)を行った。循環接触後、液相(トリチウム水除去処理後の汚染水)を下部出力ポート6から、トリチウム水が低減された被処理水(処理水)として回収した。回収はゆっくりと行い、減圧による急激な温度降下が生じないようにして行った。回収した液相のトリチウム濃度を液体シンチレーション法により測定した。
【0135】
次に、反応条件の一部を変更して同様の試験を行った。反応圧力容器内の圧力と、反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度と下部温度の温度差は変更せず、当該被処理水の下部温度の設定のみを9.8℃、10.3℃、14.3℃或いは14.8℃に変更した。
なお、上端温度、下端温度は、それぞれ反応圧力容器内の上部(上端)の被処理水の測定温度値、下部(下端)の被処理水の測定温度値である。実際の処理では、ガスハイドレートが生成する温度よりも高い温度から処理を開始した。基材表面の組成と液相線がぶつかる温度まで温度が低下するとそこで結晶化が起こることになる。このとき温度の温度を液相線温度と呼ぶ。結晶化する組成は、液相の組成とは異なり、液相線温度と固相線がぶつかる点が示す組成となり、この組成の差によって特定の成分即ち、トリチウム水がガスハイドレートとして選択的に結晶化する。
【0136】
【0137】
表1に示したように、前記被処理水の下端温度が重水ガスハイドレートの晶出する熱力学的平衡温度から2.5℃高いと、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水中のトリチウムは除去されない。当該熱力学的平衡値は、平衡状態で測定した熱力学的平衡温度という意味であり、12.3℃を想定することができる。仮に、重水ガスハイドレートとトリチウム水ハイドレートが固溶体を形成しないとすれば、熱力学的平衡温度から0.4℃高い温度条件ではトリチウム水ハイドレートは晶出するはずである。従って、この試験結果は、重水ガスハイドレートとトリチウム水ハイドレートが固溶体を形成していることを示している。
一般的に、固溶体とは、2種類以上の相(金属元素、非金属元素、化合物の場合もある)が互いに溶け合い、全体が均一の固相となっているものをいうが、本実施例では、ベースとした重水ガスハイドレート基材の表層部分にて、重水ガスハイドレートとトリチウム水ハイドレートとが固溶体を形成していると考える。
【0138】
また、表1に示したように、前記被処理水の下端温度が熱力学的平衡温度から2.5℃低いと、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水からのトリチウム水除去率が大幅に低下する。このトリチウム水除去率の低下は、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水中の軽水がハイドレート化され、相対的にトリチウム水の除去率が低下したことに起因すると考えられる。仮に、重水ガスハイドレートと軽水ハイドレートとが固溶体を形成しないとすれば、この条件では軽水はガスハイドレート化しないはずであるから、このような現象は起こらない。
【0139】
以上より、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理条件は、軽水、重水及びトリチウム水のガスハイドレートが固溶体を形成することを前提として決定する必要がある。なお、固溶体を形成することにより、その固溶体組成に対応する結晶化温度が連続的に変化するので、端成分(この場合軽水ガスハイドレート)が結晶化しない条件で処理しても、固溶体として(軽水と重水の混合物として)結晶化が起こるので分離はできないと考える。
【0140】
<実施例2>
実施例1に示した試験の条件のうち、反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下端温度及び当該容器内の圧力は、熱力学的平衡条件のまま変更せず、反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下部温度と上部温度の温度差を変えて試験を行い、このとき実施例1と同様に循環接触を用いた。
具体的には、反応圧力容器内における重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下端温度12.3℃、当該容器内の絶対圧力0.37MPaとし、反応圧力容器内における重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度が、当該被処理水の下部温度より、0、3.0、5.0、7.0或いは9.0℃高く設定して実施例1と同様の試験を行った。
なお、下部温度と上部温度と温度差の設定をして温度勾配をつける理由は、一度結晶化したハイドレートを再溶融させるためのものである。結晶化するたびに少しずつ結晶中の軽水の含有量が減少し、同時にトリチウム水の含有率が増大していくと考える。一回の結晶化における含有率の増加は、液相線組成と固相線組成の差の分だけではあるが、これを溶解して再結晶させるときは、軽水分が減少し、トリチウム水が増大していると考え、これにより、より高温で液相線とぶつかり結晶化が起こると考える。これを繰り返すことにより、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材中に、トリチウム水の含有率が増加していくことになる。
【0141】
【0142】
反応圧力容器内のガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度を、当該被処理水の下部温度より9.0℃高く設定して試験を行うと、処理後に重水ガスハイドレート基材が部分的ではあるが、明らかに溶融していたので、上部温度が21.3℃に設定し処理した試験例は、検討対象から除外した。表2に示すように、被処理水の上部温度と下部温度の温度差が0℃(0K)の場合には、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水中のトリチウム水はほとんど除去されなかった。これは、ガスハイドレートの再結晶化と発汗現象が、汚染水からのトリチウム水の除去に大きく寄与していることを示している。反応圧力容器内における被処理水の上部温度を、被処理水の下部温度より5.0℃高く設定した場合に、トリチウム水の最大の除去率が得られていた。
【0143】
このように、反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水に空間的に温度勾配を設けることにより、ガスハイドレートの再結晶化と発汗現象が高頻度で発現し、汚染水から効率よくトリチウム水を除去できることが明らかになった。しかし、設備規模を拡大し実用運用する場合には、反応圧力容器内の容積を増大させる必要がある。反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水における上部温度と下部温度との差異(温度差)には限界があることから、スケールアップを考えた反応圧力容器における容積の増大に伴い単位距離当たりの温度勾配が小さくなり、大型化した装置では小型の試験装置と同様のガスハイドレートの再結晶化と発汗現象の発現頻度は得られない。そこで、大型装置でも実現が可能な、被処理水の上部温度と下部温度とを同一又は実質同一とし、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の温度を、経時的に又は周期的に変化させる条件で、空間的な温度差の効果と比較して、同様程度のトリチウム除去効果が得られるかどうか試験を行った。
なお、発汗現象は、ファンデルワールス力あるいは水素結合で分子が結合している分子性結晶において一般的に見られる現象で、温度の上昇によって不純物が結晶の外に結晶の粒界や欠陥に沿ってにじみ出てくる現象をいう。ガスハイドレートは水素結合によって結合されている分子性結合である。([参考文献3]久保田徳昭、晶析工学、東京電機大学出版局、(2016)、pp.179-180.)
【0144】
<実施例3>
実施例1に示した試験の条件のうち、実施例3の反応圧力容器内の圧力は、絶対圧力0.37MPaで同様とした。反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下部温度と上部温度との温度差は0℃(0K)とし、経時的に被処理水の温度を最高17.3℃(上端温度)、最低12.3℃(下端温度)の間で、正弦波状に振動させた。
当該正弦波状振動は、外部液体循環回路用の温冷媒温調機構8を通過する被処理水の液相を所望の温度になるように制御することにより、反応圧力容器1内の被処理水の温度を変化させて、行われた。液体循環させることにより、反応系の系内で、トリチウム水を含んでもよいガスハイドレート基材と、汚染水との循環接触が生じ易くなるため、より簡便により効率よく軽水中のトリチウム濃度をより低減でき、ガスハイドレート基材のトリチウム濃度をより高濃度化できる利点がある。
当該液相は、主にトリチウム水及び軽水を含む被処理水の液体であるが、循環に支障がない範囲内でガスハイドレート基材が含まれていてもよい。
振動周期(1周期)は10分とし、実施例1と同様の試験を行った。1周期は、「最高温度→最低温度→最高温度」又は「最低温度→最高温度→最低温度」と設定した。また、合計の反応時間は、1時間であった。
なお、前記経時振動は、反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材を含む被処理水の温度を反応圧力容器用の温冷媒温調機構7にて、変化させても可能である。外部液体循環回路用の温冷媒温調機構8にて変化させる場合の方が、外部液体循環により、トリチウム水を含んでもよいガスハイドレート基材と、汚染水との循環接触が生じ易いため、好適である。
【0145】
【0146】
表3に示すように、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水中の上部温度及び下部温度の温度差は一定で領域的な温度勾配を設定した場合と、領域的な温度勾配を設けず、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の温度を経時的に又は周期的に振動させた場合で、トリチウムの除去率に有意な差はなかった。よって、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の温度を経時的に又は周期的に振動させることによっても十分なトリチウム水除去率が得られることが示された。これにより、装置の大型化によって、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理をより大量に行うことができ、さらに波状での温度制御が可能であるのでより簡便に行うことができる。
【0147】
なお、本発明者は、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法について鋭意検討しているときに、軽水ガスハイドレート及び重水ガスハイドレート、さらにいえばトリチウム水ガスハイドレートを含めて、これらは任意の割合で混合する完全固溶体を形成することができることを見出した。これらがガスハイドレート化する温度は、組成比によって連続的に変化することを見出し、具体的には以下(A)~(D)のことが考えられた(
図5及び6参照)。
【0148】
(A)ある組成比をもつ液相が一定の圧力下において降温していった場合、結晶化が開始される温度は、液相線温度である。また晶出するガスハイドレートの組成は、液相線温度に対する固相線組成となる。従って、液相の組成とガスハイドレートの組成とが異なり、ガスハイドレート結晶中には、より高温で安定的な成分の濃度が増加し、より低温な成分の濃度は低下する。この濃度変化が重水ガスハイドレート基材上でトリチウム濃度が液相中より高く軽水濃度が低いガスハイドレートが析出する駆動力となる。
【0149】
(B)一方、オペレーション温度は、従来の重水ガスハイドレート(単味)は結晶化するが、軽水ガスハイドレート(単味)は結晶化しない温度では、重水と軽水の混合相のガスハイドレートは結晶化してしまうので、軽水の排除効果は小さいものになる。ただし、この温度領域においても、上述の原理に従い、ガスハイドレート結晶中の組成は液相の組成と比較して、高温成分である重水の濃度は高く、軽水の濃度は低くなる。
【0150】
(C)理想的なオペレーション温度に、ガスハイドレート(単味)が結晶化する温度よりわずかに高い温度となる。どれぐらいわずかということになると、元々液相に含まれるトリチウム濃度はごくわずかであるため、実用上として重水ガスハイドレート(単味)が結晶化する温度としても問題ない。
【0151】
(D)圧力の範囲においては、重水ガスハイドレート(単味)が結晶化可能な圧力とすれば、実用上も問題がない。広くとる場合には重水ガスハイドレート(単味)又はトリチウム水ガスハイドレート(単味)が結晶化可能な圧力にすればよい。
本技術によれば、トリチウム水で汚染された軽水中のトリチウム濃度をより簡便により効率よく低減することができ、これにより世界保健機関(WHO)の飲料水に含まれるトリチウム濃度基準値以下の軽水を得ることも可能である。また、本技術によれば、トリチウム濃度が高濃度化されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレートを形成でき、これによりトリチウム水をより簡便により効率よく回収することができる。また、本技術は、大規模プラントにも適用することが可能である。本技術は、トリチウム除染分野、水処理分野、トリチウム利用分野等のトリチウムに関連する分野に利用することができる。