(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000247
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】弾性波デバイスおよびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20231225BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20231225BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098931
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】浅田 稔
(72)【発明者】
【氏名】西澤 年雄
(72)【発明者】
【氏名】岡村 龍一
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB01
5J108BB07
5J108BB08
5J108CC04
5J108DD02
5J108DD06
5J108EE03
5J108FF03
5J108FF05
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM11
5J108MM14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】製造工程を削減する弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】圧電薄膜共振器は、基板10と、基板上に設けられた上部電極16と、基板と上部電極との間に設けられた圧電膜14と、圧電膜を挟み上部電極と重なる共振領域50を形成し、第1元素を主成分とする第1導電膜12aと、第2元素を主成分とし、第1導電膜と圧電膜との間に設けられた第2導電膜12bと、第1導電膜と第2導電膜との間に設けられた中間膜13と、を備える。中間膜1は、共振領域の中央を含む第1領域54に設けられ、第1領域の外周を囲み共振領域の外周を含む第2領域56に設けられておらず、第2領域における第1導電膜内の第2元素の濃度が、第1領域における第1導電膜内の第2元素の濃度より高い及び/又は第2領域における第2導電膜内の第1元素の濃度が第1領域における第2導電膜内の第1元素の濃度より高い下部電極とを、備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた上部電極と、
前記基板と前記上部電極との間に設けられた圧電膜と、
前記基板と前記圧電膜との間に設けられ、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み前記上部電極と重なる領域により定義される共振領域を形成し、
第1元素を主成分とする第1導電膜と、
前記第1元素と異なる第2元素を主成分とし、前記第1導電膜と前記圧電膜との間に設けられた第2導電膜と、
前記第1導電膜と前記第2導電膜との間に設けられた中間膜と、
を備え、
前記中間膜は、前記共振領域の中央を含む第1領域に設けられ、前記第1領域の外周の少なくとも一部を囲み前記共振領域の外周の少なくとも一部を含む第2領域に設けられておらず、
前記第2領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度は前記第1領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度より高い、および/または、前記第2領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度は前記第1領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度より高い、下部電極と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第2領域において前記第1導電膜と前記第2導電膜とは接触する請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記下部電極は、前記第2導電膜と前記圧電膜との間に設けられ、前記第2元素と異なる第3元素を主成分とする第3導電膜を備える請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第3導電膜の音響インピーダンスは前記第2導電膜の音響インピーダンスより高い請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第2領域における前記圧電膜の上面の表面粗さは前記第1領域における前記圧電膜の上面の表面粗さより大きい請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第2領域における前記圧電膜の結晶方位の配向性は前記第1領域における前記圧電膜の結晶方位の配向性より低い請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1導電膜の主成分の前記第1元素の抵抗率は、前記第2導電膜の主成分の前記第2元素の抵抗率より低い請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記第2領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度は前記第1領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度の2倍以上である、および/または、前記第2領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度は前記第1領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度の2倍以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記中間膜の厚さは、前記第1導電膜の厚さおよび前記第2導電膜の厚さのいずれよりも小さい請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記第1元素はアルミニウムであり、前記第2元素はクロムであり、前記中間膜の主成分はチタンまたは窒化チタンである請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項13】
基板上に、第1元素を主成分とする第1導電膜と、前記第1元素と異なる第2元素を主成分とし、前記第1導電膜上に設けられた第2導電膜と、前記第1導電膜と前記第2導電膜との間において、共振領域の中央を含む第1領域に設けられ、前記第1領域の外周の少なくとも一部を囲み共振領域の外周の少なくとも一部を含む第2領域に設けられていない中間膜と、を備える下部電極を形成する工程と、
前記下部電極を熱処理することで、前記第2領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度を前記第1領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度より高くする、および/または、前記第2領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度を前記第1領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度より高くする工程と、
前記下部電極上に圧電膜を形成する工程と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟み上部電極と前記下部電極とが重なる領域により定義される前記共振領域が形成されるように、前記圧電膜上に前記上部電極を形成する工程と、
を含む弾性波デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用に圧電薄膜共振器を有するフィルタやマルチプレクサが用いられている。圧電薄膜共振器は、下部電極、圧電膜および上部電極が積層された積層膜を有している。圧電膜の少なくとも一部を挟み下部電極と上部電極とが対向する領域は弾性波が励振される共振領域である。共振領域内の外周領域における圧電膜内に挿入膜を設け、共振領域の中央領域には挿入膜を設けないことが知られている(例えば特許文献1、2)。上面の表面粗さが大きい下地層上に圧電膜を設けることで、圧電膜の結晶性が低下することが知られている(例えば特許文献3~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-161001号公報
【特許文献2】特開2017-158161号公報
【特許文献3】特開2005-94735号公報
【特許文献4】特開2015-119249号公報
【特許文献5】特開2013-34130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2では、Q値等の特性を向上させることができる。しかしながら、下部圧電膜を成膜後、下部圧電膜上に挿入膜を形成し、挿入膜をパターニングし、下部圧電膜および挿入膜上に上部圧電膜を形成する。このため、製造工数が増大する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、製造工程を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた上部電極と、前記基板と前記上部電極との間に設けられた圧電膜と、前記基板と前記圧電膜との間に設けられ、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み前記上部電極と重なる領域により定義される共振領域を形成し、第1元素を主成分とする第1導電膜と、前記第1元素と異なる第2元素を主成分とし、前記第1導電膜と前記圧電膜との間に設けられた第2導電膜と、前記第1導電膜と前記第2導電膜との間に設けられた中間膜と、を備え、前記中間膜は、前記共振領域の中央を含む第1領域に設けられ、前記第1領域の外周の少なくとも一部を囲み前記共振領域の外周の少なくとも一部を含む第2領域に設けられておらず、前記第2領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度は前記第1領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度より高い、および/または、前記第2領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度は前記第1領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度より高い、下部電極と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記第2領域において前記第1導電膜と前記第2導電膜とは接触する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記下部電極は、前記第2導電膜と前記圧電膜との間に設けられ、前記第2元素と異なる第3元素を主成分とする第3導電膜を備える構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第3導電膜の音響インピーダンスは前記第2導電膜の音響インピーダンスより高い構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第2領域における前記圧電膜の上面の表面粗さは前記第1領域における前記圧電膜の上面の表面粗さより大きい構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2領域における前記圧電膜の結晶方位の配向性は前記第1領域における前記圧電膜の結晶方位の配向性より低い構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1導電膜の主成分の前記第1元素の抵抗率は、前記第2導電膜の主成分の前記第2元素の抵抗率より低い構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第2領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度は前記第1領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度の2倍以上である、および/または、前記第2領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度は前記第1領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度の2倍以上である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記中間膜の厚さは、前記第1導電膜の厚さおよび前記第2導電膜の厚さのいずれよりも小さい構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1元素はアルミニウムであり、前記第2元素はクロムであり、前記中間膜の主成分はチタンまたは窒化チタンである構成とすることができる。
【0016】
本発明は、上記弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0017】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【0018】
本発明は、基板上に、第1元素を主成分とする第1導電膜と、前記第1元素と異なる第2元素を主成分とし、前記第1導電膜上に設けられた第2導電膜と、前記第1導電膜と前記第2導電膜との間において、共振領域の中央を含む第1領域に設けられ、前記第1領域の外周の少なくとも一部を囲み共振領域の外周の少なくとも一部を含む第2領域に設けられていない中間膜と、を備える下部電極を形成する工程と、前記下部電極を熱処理することで、前記第2領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度を前記第1領域における前記第1導電膜内の前記第2元素の濃度より高くする、および/または、前記第2領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度を前記第1領域における前記第2導電膜内の前記第1元素の濃度より高くする工程と、前記下部電極上に圧電膜を形成する工程と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み上部電極と前記下部電極とが重なる領域により定義される前記共振領域が形成されるように、前記圧電膜上に前記上部電極を形成する工程と、を含む弾性波デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造工程を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(d)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図6】
図6は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図7】
図7は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、実験におけるそれぞれサンプルA~Cの断面図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、サンプルBにおけるEDXスペクトルを示す図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、サンプルCにおけるEDXスペクトルを示す図である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、実施例1の変形例2および3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図12】
図12は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図13】
図13(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図13(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0022】
実施例1は、弾性波デバイスとして圧電薄膜共振器の例である。
図1は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。理解しやすいように、
図2では
図1と各部材の寸法を変えている。基板10の法線方向をZ軸、共振領域50から下部電極12が引き出される方向をX方向、基板10の平面方向のうちX方向に直交する方向をY方向とする。
【0023】
図1および
図2に示すように、基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の上面には凹部が設けられ、凹部内に空隙30が設けられている。基板10および空隙30上に下部電極12が設けられている。下部電極12は、導電膜12a、12bおよび中間膜13を備えている。導電膜12aは基板10上に設けられ、導電膜12bは導電膜12a上に設けられている。中間膜13は導電膜12aと12bとの間に設けられている。下部電極12上に、圧電膜14が設けられている。圧電膜14上に上部電極16が設けられている。
【0024】
共振領域50は、圧電膜14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域により定義される。共振領域50内の下部電極12、圧電膜14および上部電極16は積層膜18を形成する。共振領域50における積層膜18には、厚み縦振動モードまたは厚みすべり振動等の弾性波が共振する。平面視において空隙30は共振領域50を含む。平面視において、空隙30の大きさは共振領域50と同じまたは共振領域50より大きい。共振領域50の平面形状は例えば楕円形状である。
【0025】
中間膜13は、第1領域54に設けられ、第2領域52に設けられていない。第1領域54は共振領域50の中央を含む領域である。第2領域52は、第1領域54の外周の少なくとも一部を囲みかつ共振領域50の外周の少なくとも一部を含む領域である。
図1のように、第2領域52は、第1領域54の外周を全て囲んでもよいが、第1領域54の外周の一部を囲み、第1領域54の外周の他の部分を囲まなくてもよい。第2領域52は、共振領域50の外周を全て含んでもよいが、共振領域50の外周の一部を含み、共振領域50の外周の他の部分を含まなくてもよい。
【0026】
下部電極12上に圧電膜14が設けられた領域のうち第1領域54以外の領域は領域55である。下部電極12が設けられておらず圧電膜14が設けられた領域は領域56である。第2領域52は領域55に含まれる。第1領域54および領域56における圧電膜14の部分15aは結晶性がよい。一方、第2領域52を含む領域55における圧電膜14の部分15bの結晶性は、部分15aの結晶性より悪い。また、部分15bの上面の表面粗さは部分15aの上面の表面粗さより大きい。また、第1領域54では、導電膜12bの主成分の元素は導電膜12aにほとんど拡散しておらず、導電膜12aの主成分の元素は導電膜12bにほとんど拡散していない。第2領域52では、導電膜12bの主成分の元素が導電膜12aに拡散している、および/または、導電膜12aの主成分の元素が導電膜12bに拡散している。
【0027】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等の絶縁基板または半導体基板である。導電膜12a、12bおよび上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等を主成分とする単層膜またはこれらの積層膜である。特に、導電膜12aは銅、アルミニウムまたは銀のように抵抗率の低い元素を主成分とする。導電膜12bは、ルテニウム、クロム、タングステンまたはタンタルのように音響インピーダンスの高い元素を主成分とする。中間膜13は、導電膜12aと12bとの間の元素の拡散を抑制するための拡散防止膜であり、例えばチタンまたは窒化チタンを主成分とする。中間膜13の主成分は、導電膜12aと12bの主成分を考慮し適宜選択される。
【0028】
圧電膜14は、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコニウム(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO3)タンタル酸リチウム(TaLiO3)、ニオブ酸リチウム(NbLiO3)または水晶である。圧電膜14は多結晶でもよく単結晶でもよい。圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル、ニオブ(Nb)またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、ボロン(B)を含んでもよい。
【0029】
[実施例1の製造方法]
図3(a)から
図5(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図3(a)に示すように、基板10の上面に凹部を形成する。基板10上に犠牲層38を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜する。犠牲層38は、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)または酸化シリコン(SiO
2)等である。その後、凹部以外の犠牲層38を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い除去することで、凹部内に犠牲層38を埋め込む。
【0030】
図3(b)に示すように、犠牲層38および基板10上に導電膜12aおよび中間膜13を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
図3(c)に示すように、中間膜13を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。中間膜13は、リフトオフ法により形成してもよい。これにより、第1領域54に中間膜13が形成される。
図3(d)に示すように、導電膜12bを導電膜12aおよび中間膜13上に例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVDを用い成膜する。
【0031】
図4(a)に示すように、導電膜12aおよび12bを、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。これにより、導電膜12a、12bおよび中間膜13により下部電極12が形成される。
【0032】
図4(b)に示すように、基板10および下部電極12上に例えばスパッタリング法を用い圧電膜14を形成する。このとき、スパッタリング工程は基板10を加熱して実行される。圧電膜14を形成する前に、下部電極12を加熱してもよい。下部電極12が加熱されると、領域55において、導電膜12a内の第1元素が導電膜12bに拡散する、および/または、導電膜12b内の第2元素が導電膜12aに拡散する。導電膜12aがアルミニウム膜であり、導電膜12bがクロム膜の場合、基板10を例えば300℃以上、好ましくは400℃以上に加熱する。
【0033】
第1領域54では、導電膜12aと12bとの間に中間膜13が設けられているため、導電膜12aと12bとの間の元素の拡散は抑制される。領域55における圧電膜14の結晶性は第1領域54および領域56における圧電膜14の結晶性より悪くなる。領域55における圧電膜14の結晶性が悪くなる理由は、例えば以下のように考えられる。導電膜12aと12bとの間を元素が拡散すると、導電膜12bの上面が粗くなると考えられる。これにより、領域55における下部電極12の上面は、第1領域54における下部電極12の上面より粗くなる。特許文献3~5に記載されているように、表面の粗い下地層上に圧電膜を成膜すると、圧電膜の結晶性が低下する。
【0034】
図5(a)に示すように、上部電極16を圧電膜14上に例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVDを用い成膜する。上部電極16を、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16はリフトオフ方法を用い形成してもよい。これにより、共振領域50が形成される。共振領域50における領域55は、第2領域52となる。
【0035】
図5(b)に示すように、圧電膜14を、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。これにより、共振領域50に下部電極12、圧電膜14および上部電極16を有する積層膜18が形成される。その後、エッチングする媒体(エッチング液)を用い犠牲層38を除去する。以上により、
図2に示した圧電薄膜共振器が製造される。
【0036】
図6は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図6に示すように、比較例1では、圧電膜14は、基板10および下部電極12上に設けられた圧電膜14aと圧電膜14a上に設けられた圧電膜14bとを備えている。圧電膜14aと14bとの間に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は、第2領域52に設けられ、第1領域54には設けられていない。下部電極12には、実施例1のように互いに元素が拡散しやすい導電膜12aおよび12bは設けられていない。このため、圧電膜14aは結晶性のよい部分15aである。挿入膜28の上面は粗くなっているため挿入膜28上の圧電膜14bの部分15bの結晶性は悪くなる。挿入膜28が設けられていない圧電膜14a上の圧電膜14bは結晶性のよい部分15aである。
【0037】
第2領域52では、第1領域54に比べ挿入膜28が設けられている。これにより、第1領域54における積層膜18に比べ、第2領域52における積層膜18には、挿入膜28分の質量が付加される。また、結晶性の悪い部分15bにおけるバルクの音速は結晶性のよい部分15aのバルクの音速と異なる。例えば、部分15bにおけるバルクの音速は部分15aのバルクの音速より遅い。これらにより、第2領域52における積層膜18内を伝搬する弾性波の音速は、第1領域54における積層膜18内を伝搬する弾性波の音速と異なる。よって、第1領域54から積層膜18内をX方向に伝搬する弾性波は、第2領域52において反射される。これにより、第1領域54から共振領域50の外に漏れる弾性波を抑制できる。よって、損失が抑制され、Q値が向上する。
【0038】
しかし、比較例1では、基板10および下部電極12上に圧電膜14aを形成し、圧電膜14a上に挿入膜28を形成し、挿入膜28をパターニングし、圧電膜14aと挿入膜28との上に圧電膜14bを形成する。このため、製造工程が増大しコストが高くなる。また、第2領域52では、圧電膜14aと14bとの結晶性が異なる。さらに、挿入膜28の段差により圧電膜14bにクラック等が生じる可能性がある。
【0039】
実施例1では、第1領域54における導電膜12aと12bとの間に中間膜13を設け、第2領域52おいて中間膜13を設けない。これにより、第2領域52における圧電膜14の部分15bの結晶性が第1領域54における圧電膜14の部分15aの結晶性より悪くなる。よって、第2領域52における積層膜18内を伝搬する弾性波の音速は第1領域54における積層膜18内を伝搬する弾性波の音速とは異なる。これにより、比較例1と同様に、第1領域54から積層膜18内をX方向に伝搬する弾性波は、第2領域52において反射される。これにより、第1領域54から共振領域50の外に漏れる弾性波を抑制できる。よって、損失が抑制され、Q値が向上する。また、比較例1のように、複雑な製造工程が不要なため、製造工程を削減し、コストを削減できる。さらに、第2領域52における圧電膜14の結晶性が比較例1より均一である。
【0040】
[実施例1の変形例1]
図7は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図7に示すように、下部電極12は、導電膜12bと圧電膜14との間に導電膜12cを備えている。圧電薄膜共振器の特性を向上させるため、圧電膜14に接する導電膜12cは、音響インピーダンスが大きいことが好ましい。導電膜12bは導電膜12aとの間で元素が拡散する材料が好ましい。導電膜12aは抵抗率の低い材料が好ましい。このような導電膜12a~12cとして、導電膜12aはアルミニウム膜、導電膜12bはクロム膜、導電膜12cはルテニウム膜である。また、中間膜13は窒化チタン膜である。
【0041】
[実験]
実施例1の変形例1を想定した構造を用い、実験を行った。
図8(a)から
図8(c)は、実験におけるそれぞれサンプルA~Cの断面図である。
図8(a)に示すように、サンプルAでは、下部電極12は、導電膜12bおよび12cを備え、導電膜12aおよび中間膜13を備えていない。
図8(b)に示すように、サンプルBでは、下部電極12は、導電膜12a~12cを備え、中間膜13を備えていない。
図8(c)に示すように、サンプルCでは、下部電極12は、導電膜12a~12cを備え、導電膜12aと12bとの間における全面に中間膜13を備えている。
【0042】
サンプルA~Cの作製条件は以下である。
基板10:シリコン基板
導電膜12a:厚さが80nmのアルミニウム膜
導電膜12b:厚さが60nmのクロム膜
導電膜12c:厚さが60nmのルテニウム膜
中間膜13:厚さが15nmの窒化チタン膜
圧電膜14:厚さが600nmの窒化アルミニウム膜
下部電極12上にスパッタリング法を用い圧電膜14を成膜した。成膜時の基板10の温度は約400℃である。
【0043】
表1は、実験におけるサンプルA~Cの圧電膜14の上面の算術平均粗さRaおよび圧電膜14の配向性を示す表である。
【表1】
【0044】
圧電膜14は、(002)方向を主軸とする多結晶窒化アルミニウムである。配向性は、X線回折評価における(002)面のロッキンクーブのピークの半値幅を示している。配向性(ロッキングカーブのピークの半値幅)の小さい圧電膜14は結晶方位の配向性が高く、結晶性がよい。表1に示すように、サンプルAおよびCではサンプルBに比べ、圧電膜14の上面の算術平均粗さRaが小さく、かつ圧電膜14の結晶方位の配向性が高い。
【0045】
図9(a)および
図9(b)は、サンプルBにおけるEDX(Energy dispersive X-ray spectroscopy)スペクトルを示す図である。
図10(a)および
図10(b)は、サンプルCにおけるEDXスペクトルを示す図である。
図9(a)および
図10(a)は、導電膜12bのEDXスペクトルを示し、
図9(b)および
図10(b)は、導電膜12aのEDXスペクトルを示す。縦直線はピークの位置を示し、Cr、Al、SiおよびCuはそれぞれクロム、アルミニウム、シリコンおよび銅のピークを示している。シリコンは、基板10由来であり、銅は、EDX分析するときにサンプルを載せる銅メッシュ由来である。少なくとも銅は導電膜12aおよび12bに含まれる元素ではない。
【0046】
図9(a)に示すように、サンプルBの導電膜12bでは、クロムのピーク(CrKa、CrKb、CrLaおよびCrL1)が観察される。範囲43のようにアルミニウムのピーク(AlKa)はCrKaのピークに比べ非常に小さい。これにより、導電膜12bの元素はほとんどクロムである。
図9(b)に示すように、サンプルBの導電膜12aでは、アルミニウムのピーク(AlKa)が最も大きいが、範囲44のように、クロムのピーク(CrKaおよびCrKb)も観察される。CrKaピークの高さはAlKaの高さの1/3である。これにより、導電膜12aにはアルミニウム以外にクロムも含まれていると考えられる。
【0047】
図10(a)に示すように、サンプルCの導電膜12bでは、クロムのピーク(CrKa、CrKb、CrLaおよびCrL1)が観察され、
図9(a)と同様に、範囲43のようにアルミニウムのピーク(AlKa)は非常に小さい。これにより、導電膜12bの元素はほとんどクロムである。
図10(b)に示すように、サンプルCの導電膜12aでは、アルミニウムのピーク(AlKa)が最も大きく、クロムのピークは観察されない。これにより、導電膜12aの元素はほとんどアルミニウムであり、クロムは検出限界以下である。
【0048】
以上の実験結果をまとめる。サンプルAでは、導電膜12bのクロムと導電膜12cのルテニウムとは、圧電膜14の成膜温度である400℃程度では拡散しない。表1のように、圧電膜14の上面の算術平均粗さRaは2.1nmである。下部電極12上に圧電膜14を成膜すると、圧電膜14の配向性は3.0°と良好である。
【0049】
サンプルBでは、導電膜12bと基板10との間に導電膜12aを設けている。
図9(b)のように、圧電膜14の成膜温度である400℃により、導電膜12a内に導電膜12bのクロムが拡散する。表1のように、圧電膜14の上面の算術平均粗さRaは4.2nmであり、サンプルAより大きくなる。圧電膜14の配向性は5.5°とサンプルAより大きくなる。このように、導電膜12a内に導電膜12bの元素が拡散することにより、圧電膜14の結晶性が劣化する。サンプルBにおいて圧電膜14の結晶性が劣化する原因としては、例えば、導電膜12a内に導電膜12bのクロムが拡散することで、下部電極12の上面が粗くなったためと考えられる。
【0050】
サンプルCでは、導電膜12aと12bとの間に中間膜13を設けている。
図10(a)および10(b)のように、中間膜13を設けることで、導電膜12a内へのクロムの拡散、導電膜12b内へのアルミニウムの拡散が抑制されている。表1のように、圧電膜14の上面の算術平均粗さRaは、サンプルBより小さくなりサンプルAと同程度となる。また、圧電膜14の配向性はサンプルBより高くサンプルAと同程度である。さらに、サンプルBおよびCでは、導電膜12aの抵抗率が低いため、損失を抑制できる。
【0051】
実施例1および変形例1によれば、下部電極12では、導電膜12a(第1導電膜)は、第1元素(例えばアルミニウム)を主成分とし、導電膜12b(第2導電膜)は、第1元素と異なる第2元素(例えばクロム)を主成分とする。中間膜13は、共振領域50の中央を含む第1領域54における導電膜12aと12bとの間に設けられ、第1領域54の外周を囲み共振領域50の外周を含む第2領域52に設けられていない。
図4(b)のように、圧電膜14を成膜するときに下部電極12を熱処理する。これにより、第2領域52における導電膜12a内の第2元素の濃度は第1領域54における導電膜12a内の第2元素の濃度より高くなる。第2領域52における圧電膜14の結晶性は第1領域54における圧電膜14の結晶性より低くなる。このため、第2領域52における積層膜18を伝搬する弾性波の音速は第1領域54における積層膜18を伝搬する弾性波の音速とは異なる。これにより、積層膜18内をXおよびY方向に伝搬する弾性波は第2領域52において反射される。よって、弾性波のエネルギーが共振領域50の外に漏れることが抑制でき、損失を抑制しQ値を向上できる。
【0052】
実験では、導電膜12bの主成分の第2元素が導電膜12aに拡散していたが、導電膜12aの主成分の第1元素が導電膜12bに拡散してもよいし、導電膜12bの主成分の第2元素が導電膜12aに拡散しかつ導電膜12aの主成分の第1元素が導電膜12bに拡散してもよい。すなわち、第2領域52における導電膜12a内の第2元素の濃度は第1領域54における導電膜12a内の第2元素の濃度より高い、および/または、第2領域52における導電膜12b内の第1元素の濃度は第1領域54における導電膜12b内の第1元素の濃度より高ければよい。
【0053】
図1では、第2領域52は、第1領域54の外周を囲み共振領域50の外周を含むが、第2領域52は、第1領域54の外周の少なくとも一部を囲み共振領域50の外周の少なくとも一部を含めばよい。第2領域52は、第1領域54の外周の1/2以上を囲むことが好ましく、2/3以上を囲むことがより好ましい。第2領域52は、共振領域50の外周の1/2以上を含むことが好ましく、2/3以上を含むことがより好ましい。共振領域50以外の下部電極12には、中間膜13が設けられていてもよいし設けられていなくてもよい。
【0054】
第2領域52における導電膜12a内の第2元素の濃度は第1領域54における導電膜12a内の第2元素の濃度の2倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、10倍以上がより好ましい。または、第2領域52における導電膜12b内の第1元素の濃度は第1領域54における導電膜12b内の第1元素の濃度の2倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、10倍以上がより好ましい。第2領域52における導電膜12a内の第2元素の濃度は、0.1原子%以上が好ましく、1原子%以上がより好ましい。または、第2領域52における導電膜12b内の第1元素の濃度は、0.1原子%以上が好ましく、1原子%以上がより好ましい。
【0055】
圧電膜14を成膜する前に下部電極12を熱処理し、その後、圧電膜14を成膜してもよい。第2領域52において、導電膜12aと12bとは接触する。これにより、導電膜12aと12bとの間の元素の拡散が生じる。
【0056】
実施例1の変形例1のように、下部電極12は、導電膜12bと圧電膜14との間に設けられ、第1元素および第2元素と異なる第3元素を主成分とする導電膜12c(第3導電膜)を備える。これにより、圧電膜14の接する導電膜12cには、圧電薄膜共振器の特性を向上させる材料を用い、導電膜12bには、導電膜12aとの間で元素が拡散する材料を選択できる。
【0057】
導電膜12cの音響インピーダンスは、導電膜12bの音響インピーダンスより高い。これにより、圧電薄膜共振器の特性を向上できる。例えば、圧電膜14を窒化アルミニウムとし、窒化アルミニウムの音響インピーダンスで規格化した音響インピーダンスは、ルテニウム、クロム、モリブデンおよびタングステンで、それぞれ5.47、1.97、3.35および7.83である。導電膜12cは、ルテニウム、モリブデンまたはタングステンを主成分とする。導電膜12bはクロムを主成分とする。これにより、圧電薄膜共振器の特性を向上できる。導電膜12cの音響インピーダンスは、導電膜12bの音響インピーダンスの1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上がより好ましい。導電膜12bは導電膜12aとの間で元素が拡散しやすい材料とする。
【0058】
表1のように、第2領域52における圧電膜14の上面の表面粗さは第1領域54における圧電膜14の上面の表面粗さより大きい。また、第2領域52における圧電膜14の結晶方位の配向性は第1領域54における圧電膜14の結晶方位の配向性より低い。これにより、第2領域52における圧電膜14の結晶性が第1領域54における圧電膜14の結晶性より悪くなり、第1領域54から共振領域50の外側に伝搬しようとする弾性波が第2領域52において反射される。よって、損失を抑制できる。第2領域52における圧電膜14の上面の表面粗さは第1領域54における圧電膜14の上面の表面粗さの1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。第2領域52における圧電膜14の結晶方位の配向性(ロッキングカーブのピークの半値幅)は第1領域54における圧電膜14の結晶方位の配向性の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。
【0059】
導電膜12aの主成分の第1元素の抵抗率は導電膜12bの主成分の第2元素の抵抗率より低い。なお、第1元素および第2元素の抵抗率とは、それぞれ第1元素および第2元素が100%のバルクにおける抵抗率である。これにより、下部電極12の抵抗を低くでき、損失等を抑制できる。例えばルテニウム、クロム、モリブデンおよびタングステンの抵抗率は、それぞれ7.1×10-8Ωm、12.9×10-8Ωm、5.0×10-8Ωmおよび5.29×10-8Ωmであり、銀、銅、金およびアルミニウムの抵抗率はそれぞれ1.59×10-8Ωm、1.68×10-8Ωm、2.44×10-8Ωmおよび2.65×10-8Ωmである。導電膜12aの抵抗率は、導電膜12bの抵抗率の1/2倍以下が好ましく、1/4倍以下がより好ましい。また、導電膜12aの音響インピーダンスは、導電膜12bの音響インピーダンスより低く、例えば導電膜12bの音響インピーダンスの1/2倍以下であり、1/5倍以下である。
【0060】
中間膜13が厚すぎると、導電膜12bが中間膜13を覆いにくくなる。この観点から、中間膜13の厚さは、導電膜12aの厚さおよび導電膜12bの厚さのいずれよりも小さいことが好ましく、導電膜12aの厚さおよび導電膜12bの厚さの1/2倍以下が好ましく、1/5倍以下がより好ましい。中間膜13は、導電膜12aと12bとの間の元素の拡散を抑制する膜であり、例えばチタン膜または窒化チタン膜である。
【0061】
特許文献1における挿入膜の幅の好ましい範囲からの類推により、第2領域52のXY平面における幅は、第1領域54における弾性波の波長λの2.5倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましく、0.8倍以下がさらに好ましい。第2領域52のXY平面における幅は、第1領域54における弾性波の波長λの0.3倍以上が好ましく、0.5倍以上がより好ましく、0.6倍以上がさらに好ましい。なお、第1領域54における弾性波の波長λは、第1領域54における積層膜18の厚さ(すなわち、下部電極12、圧電膜14および上部電極16の合計の厚さ)の約2倍である。
【0062】
導電膜12aの主成分である第1元素はアルミニウムであり、導電膜12bの主成分である第2元素はクロムであり、中間膜13の主成分はチタンまたは窒化チタンである。これにより、第2領域52における圧電膜14の結晶性を第1領域54における圧電膜14の結晶性より悪くできる。圧電膜14の主成分は窒化アルミニウムである。これにより、第2領域52における圧電膜14の結晶性を第1領域54における圧電膜14の結晶性より悪くできる。導電膜12cの主成分はルテニウムある。
【0063】
ある膜がある元素を主成分とするとは、ある膜が所望の機能を有する程度に、ある膜がある元素を含めばよく、ある膜が意図せずまたは意図してある元素以外の元素を含むことを許容する。例えば、ある膜内のある元素の濃度は50原子%以上であり、80原子%以上であり、90原子%以上である。ある膜が複数の元素を主成分とする場合、複数の元素の合計の濃度が50原子%以上であり、80原子%以上であり、90原子%以上である。ある膜が金属窒化物の場合、ある膜内の窒素の濃度は10原子%以上または20原子%以上であり、ある膜内の金属の濃度は10原子%以上または20原子%以上である。
【0064】
[実施例1の変形例2]
図11(a)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図11(a)に示すように、導電膜12aの上面に凹部が設けられ、中間膜13は凹部に埋め込まれている。これにより、導電膜12aと中間膜13との上面が平坦となり、下部電極12の上面も平坦となる。これにより、圧電膜14が薄くなったときに、下部電極12の上面の段差に起因して、圧電膜14にクラックが生じることを抑制できる。
【0065】
[実施例1の変形例3]
実施例1の変形例3は、空隙の構成を変えた例である。
図11(b)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図11(b)に示すように、基板10の上面は平坦であり、基板10と下部電極12との間にドーム状の空隙30が設けられている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。
【0066】
[実施例1の変形例4]
図12は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜32が形成されている。音響反射膜32は、音響インピーダンスの低い膜34と音響インピーダンスの高い膜36とが交互に設けられている。膜34および36の膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜34と膜36の積層数は任意に設定できる。音響反射膜32は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜32の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜32は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0067】
実施例1の変形例1および2において、実施例1の変形例3と同様の空隙30を形成してもよく、実施例1の変形例4と同様に空隙30の代わりに音響反射膜32を形成してもよい。
【0068】
実施例1およびその変形例1から3のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例4のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜32を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域50を含む音響反射層は、空隙30または音響反射膜32を含めばよい。
【0069】
共振領域50の平面形状として楕円形状を例に説明したが、共振領域50の平面形状は、四角形状または五角形状等の多角形状等の任意の形状でもよい。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。