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特開2024-24720塩化ビニル系樹脂組成物および塩化ビニル系樹脂製シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024720
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物および塩化ビニル系樹脂製シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20240216BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127551
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000010010
【氏名又は名称】ロンシール工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高野 知広
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亜由美
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC00
4J002BD041
4J002EV256
4J002FD020
4J002FD316
4J002GG00
4J002GL00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アニオン系界面活性剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物について、成形加工による変色が改善された塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために本発明が用いた手段は、塩化ビニル系樹脂にアニオン系界面活性剤溶液を添加した樹脂組成物を用いることであり、具体的には塩化ビニル系樹脂100重量部に対しアニオン系界面活性剤溶液を1~30重量部含有する塩化ビニル系樹脂組成物とすることである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、アニオン系界面活性剤溶液1~30重量部を含有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記アニオン系界面活性剤溶液が、アニオン系界面活性剤が有機溶媒に分散されていることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1,2のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物を用いて成形された塩化ビニル系樹脂製シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂組成物および塩化ビニル系樹脂製シートに関する。より詳しくは、成型加工時の着色を抑制する塩化ビニル系樹脂組成物および塩化ビニル系樹脂製シートに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、成形加工・二次加工性が優れていると共に、難燃性を有することから、建材、医療、農業用資材、家具類、日用品、包装用フィルム等広範な分野で使用されている。用途や要求される物性・性能により、塩化ビニル系樹脂に各種添加剤を添加した組成物が使用され、塩化ビニル系樹脂の添加剤として例えば各種界面活性剤がある。
【0003】
界面活性剤は塩化ビニル樹脂に帯電防止性や親水性など各種機能性を付与するため添加される。たとえば、特許文献1には、非イオン系界面活性剤ならびに陰イオン系界面活性剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物が開示されている。また特許文献2には、アニオン系界面活性剤からなる帯電防止剤を含有する塩化ビニル系樹脂組成物がロール加工工程を経て製膜された塩化ビニル系樹脂フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4349523号公報
【特許文献2】特開2013-170225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アニオン系界面活性剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物は、成形する際の加熱により熱劣化が進行しやすく、その結果、成形体が変色する場合があった。
そこで上記のような状況に鑑み、成形加工による変色が改善された塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するために本発明が用いた手段は、塩化ビニル系樹脂にアニオン系界面活性剤溶液を添加した樹脂組成物を用いることである。具体的には塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、アニオン系界面活性剤溶液を1~30重量部含有する塩化ビニル系樹脂組成物とすることである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物によれば、成形加工による変色が改善された塩化ビニル系樹脂組成物を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0009】
本発明において、アニオン系界面活性剤溶液とは、アニオン系界面活性剤を溶媒に溶解し、溶液としたものである。これにより、樹脂組成物中におけるアニオン系界面活性剤の分散性が向上すると考えられる。
【0010】
アニオン系界面活性剤溶液中のアニオン系界面活性剤としては、カルボン酸系化合物、スルホン酸系化合物、硫酸エステル系化合物、リン酸エステル系化合物等が挙げられる。
【0011】
カルボン酸系化合物としては、例えば高級脂肪酸塩(石けん)、アルキルエーテルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0012】
スルホン酸系化合物としては、例えば直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩(α-SF)、α-オレフィンスルホン酸塩(AOS)、アルカンスルホン酸塩(SAS)、ジアルキルスルホこはく酸塩、ナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0013】
硫酸エステル系化合物としては、例えばアルキル硫酸エステル塩(AS)、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩(AES)等が挙げられる。
【0014】
リン酸エステル系化合物としては、例えばアルキルリン酸エステル塩(MAP)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられる。
【0015】
アニオン系界面活性剤溶液の溶媒としては、塩化ビニル系樹脂との親和性の面から有機溶媒が好ましい。さらに、溶解性の面から極性溶媒が好ましく、中でも分子内にヒドロキシ基(-OH)をもつアルコール類およびグリコール類がより好ましい。
アルコール類およびグリコール類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0016】
塩化ビニル系樹脂に対するアニオン系界面活性剤溶液の添加量としては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し1~30重量部であり、好ましくは1~10重量部である。
アニオン系界面活性剤溶液が1重量部未満ではアニオン界面活性剤による各種機能性の付与効果が乏しくなる。上限については特に限定されないが加工性の面から30重量部以下が好ましい。
また、アニオン系界面活性剤溶液中のアニオン系界面活性剤の割合は、アニオン界面活性剤による各種機能性の付与効果や加工性の面から、40~70%であることが好ましい。
【0017】
塩化ビニル系樹脂としては、例えば塩化ビニル単独重合体(ポリ塩化ビニル樹脂)、塩化ビニルモノマーと塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体、共重合体を含む塩化ビニル以外の他のポリマーに塩化ビニルを共重合させたグラフト共重合体等が挙げられる。
なお、これら塩化ビニル系樹脂は単独で使用しても良いが、二種類以上を併用しても良い。さらに必要に応じ、塩化ビニル系樹脂を塩素化しても良い。
塩化ビニル系樹脂を塩素化する方法としては特に限定されないが、例えば光塩素化方法、熱塩素化方法等が挙げられる。
また、本発明に用いる塩化ビニル系樹脂の重合度としては、実質的に成形加工が可能であれば、特に制限されるものではないが、平均重合度500~2000の範囲が好ましく、平均重合度700~1300の範囲がさらに好ましい。平均重合度500未満では溶融時の粘度が低いため加工し難く、平均重合度2000を超える場合は溶融時の粘度が高いため加工し難くなる可能性がある。
【0018】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、各種可塑剤を添加することができる。可塑剤の種類としては特に制限はないが、例えばDOP(ジ‐2‐エチルヘキシルフタレート)、DINP(ジイソノニルフタレート)、DIDP(ジイソデシルフタレート)、DOTP(ジオクチルテレフタレート)などのフタル酸エステル系可塑剤や、DOA(ジ‐2‐エチルヘキシルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)などのアジピン酸エステル系可塑剤、DOS(ジ‐2‐エチルヘキシルセバケート)などのセバシン酸エステル系可塑剤、DOZ(ジ‐2‐エチルヘキシルアゼレート)などのアゼライン酸エステル系可塑剤といった脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)、リン酸トリス(ジクロロプロピル)などのリン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤などが使用できる。中でもポリエステル系可塑剤は低揮発性で、油および各種溶剤による抽出量が少なく、接触する各種樹脂への非移行性に優れていることから好ましく用いられる。
【0019】
可塑剤の添加量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し40重量部以下が好ましい。なお、可塑剤の添加量が少ない硬質または半硬質の塩化ビニル系樹脂組成物(可塑剤の添加量が20重量部以下)の方がアニオン系界面活性剤の添加による着色などの影響を受けやすいため、硬質または半硬質の塩化ビニル系樹脂組成物については本発明の効果がより大きい傾向がある。
【0020】
本発明において、塩化ビニル系樹脂に対し、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線遮蔽剤、帯電防止剤、難燃剤、蛍光剤、抗菌剤、防カビ剤、難燃剤、防炎剤などの各種添加剤を適宜添加してもよい。
【0021】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂とアニオン系界面活性剤溶液を混合する工程を用いることで、塩化ビニル系樹脂中のアニオン系界面活性剤の分散性を向上することができる。混合方法としては、機械撹拌力で混合する容器固定型と、容器を回転させ混合する容器回転型があるが界面活性剤の分散が良好な状態になるのであればどちらの方法を用いてもよい。容器固定型としてはヘンシェルミキサー等があり、容器回転型としてコンテナブレンダー等の公知の設備を用いることができる。
【0022】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂とアニオン系界面活性剤溶液を溶融混練する工程を用いることで塩化ビニル系樹脂中のアニオン系界面活性剤の分散性を向上することができる。溶融混練が可能であればいずれの装置でも良くバンバリーミキサー、ニーダー、二本ロール機、押出機等の公知の設備を用いることができる。溶融混合後、直ちに成形してもよいし、溶融混合した後、一旦ペレット化し、その後成形してもよい。
【0023】
本発明の塩化ビニル系樹脂製シートは、ロール成形装置、カレンダー成形装置、一軸又は二軸押出装置、インフレーション成形装置、インジェクション成形装置、熱成形装置、スラッシュモールド装置、ペーストコーター装置、ディッピング成形装置等の公知の設備で成形される。
【0024】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物の用途としては、特に限定されないが、例えばシート、床材、壁紙、フィルム、衣服用生地、容器、パイプ、玩具等が挙げられる。
【実施例0025】
本発明を実施例によって、さらに詳しく説明するが本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[塩化ビニル系樹脂組成物]
実施例および比較例に使用した各配合剤の具体的な物質名は以下の通りである。
塩化ビニル系樹脂1:ポリ塩化ビニル樹脂 平均重合度 700
塩化ビニル系樹脂2:ポリ塩化ビニル樹脂 平均重合度 1000
可塑剤1:ポリエステル系可塑剤 粘度 150mPa・s/25℃
可塑剤2:ポリエステル系可塑剤 粘度 450~750mPa・s/25℃
安定剤:金属石鹸
アニオン系界面活性剤溶液:アルキルベンゼンスルホン酸Na溶液 アニオン系界面活性剤の割合55%
(商品名;LA-0355、大協化成工業社製)
アニオン系界面活性剤:アルキルベンゼンスルホン酸Na 純度90%
(商品名;NANSA(登録商標) HS90/S、ハンツマン・ジャパン社製)
【0026】
<塩化ビニル系樹脂組成物および塩化ビニル系樹脂製シートの製造方法>
表1~表3に示した実施例及び比較例の配合物を180℃に設定した二本ロールにて10分間混練して塩化ビニル系樹脂組成物としたものを、厚さ0.2mmのシート状に成型し、塩化ビニル系樹脂製シートを作製した。各塩化ビニル系樹脂製シートについて加工性及び黄色度の評価を行った。
なお、表1は半硬質配合、表2は硬質配合、表3は軟質配合である。
【0027】
<加工性>
上記の製造方法により塩化ビニル系樹脂製シートの成型を行った際の加工性について評価した。
[評価基準]
○・・・ロールへの粘着がなく、加工性に優れる。
△・・・ロールへの粘着があるが、加工することができる。
×・・・ロールへの粘着が大きく、加工性に劣る。
【0028】
<黄色度(YI)>
スガ試験機製SMカラーコンピュータ(型番:SM-4-2)を用いて黄色度(YI)の測定を行った。実施例または比較例の成型後のシートをSMカラーコンピュータの測定開口部の上に置き、更にシートの上に白色校正標準板(セラミック製、三刺激値・・・X:77.25、Y:79.97、Z:92.71)を被せて黄色度(YI)の測定を行った。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
表1の実施例1と比較例2、表2の実施例4と比較例3、表3の実施例5と比較例4をそれぞれ比べると、本発明の範囲のアニオン系界面活性剤溶液を含有する塩化ビニル系樹脂組成物とすることで、加工による変色が軽減されていることがわかる。
さらに、可塑剤の添加量が少ない半硬質(表1)または硬質(表2)の配合では、軟質(表3)の配合と比較して変色の軽減効果がより大きいことがわかる。
また、表1の実施例1~3を比較すると、アニオン系界面活性剤溶液の添加量が増えても加工時に変色しにくいことがわかる。