(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024721
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】自動車運搬船のウェブフレーム取付構造
(51)【国際特許分類】
B63B 3/32 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
B63B3/32
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127557
(22)【出願日】2022-08-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池本 俊史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ウェブフレームの下端と船底上面板との接合部において応力集中を低減できるウェブフレーム取付構造を提供する。
【解決手段】船舶の船側板の内側に上下方向に延びるように取付けられるウェブフレーム3と、ウェブフレーム3の下端部を船底の船底上面板5にブラケット6を用いて接続している。ブラケット6は底辺と直立辺と斜辺とからなる略三角形の板材であり、直立辺はウェブフレーム3の下端部に固定され、底辺は船底上面板5に固定されており、斜辺の先端部において、その上縁が2カ所の円弧11,12で凹む湾曲凹部10が形成されている。2カ所の円弧のうち斜辺の最先端に形成される第1の円弧11は曲率半径が小さく、最先端より内側に形成される第2の円弧12は曲率半径が大きい。ブラケット6の湾曲凹部10において外力を吸収し応力集中を低減できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船側板の内側に上下方向に延びるように取付けられるウェブフレームと、
該ウェブフレームの下端部を船底の船底上面板にブラケットを用いて接続するウェブフレーム取付構造であって、
前記ブラケットは底辺と直立辺と斜辺とからなる略三角形の板材であり、
前記直立辺は前記ウェブフレームの下端部に固定され、
前記底辺は前記船底上面板に固定されており、
前記斜辺の先端部において、その上縁が2カ所の円弧で凹む湾曲凹部が形成されている
ことを特徴とする船舶のウェブフレーム取付構造。
【請求項2】
前記2カ所の円弧のうち斜辺の最先端に形成される第1の円弧は曲率半径が小さく、最先端より内側に形成される第2の円弧は曲率半径が大きい
ことを特徴とする請求項1記載の船舶のウェブフレーム取付構造。
【請求項3】
前記湾曲凹部は2カ所の円弧が連続した形状である
ことを特徴とする請求項1記載の船舶のウェブフレーム取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のウェブフレーム取付構造に関する。さらに詳しくは、本発明は、ウェブフレームの端部における応力低減を可能とする船舶のウェブフレーム取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の構造において、外板は船殻を形作るが主たる強度部材ではなく、船体を支えるのは構造材と呼ばれる骨組みである。構造材の配置形式には、横式構造(Transverse Framing System)、縦式構造(Longitudinal Framing System)、および縦横混合方式の3種類がある。
縦式構造では船首尾方向に走る多数の縦通材(Longitudinal)によって強度を確保する。横式構造では船首船尾方向に直交する向きに延びる構造材が使われる。この構造材には、左右の船側において上下方向に延びるように取付けられる左右のフレームと、左右のフレームを船体上部で連結するビームと、左右のフレームを船底で連結する内底板等の船底構造物からなる。
左右のフレームは船長方向において間隔をあけて多数本(船の大きさによるが数100本)が設けられ、各フレームの上端同士を連結するビームも同数設けられる。このフレームの強度を増すためフレームの一端縁にフランジを取付けたものが用いられており、この部材はウェブフレームといわれ、多くの船舶に用いられている。
この構造は貨物を積むのに適しているので、一般貨物船や自動車運搬船などに採用される。
【0003】
ところで、船舶の航行時には、波と船体の相対位置によって、ホギング(両端垂下の状態)とサギング(中央垂下の状態)を繰り返して、船底には交互に引張りと圧縮が生じる。これに加え、船体に対して横から波を受けた場合は、船体の断面がひし形に変形しようとするラッキング変形が発生する。
このラッキング変形は、横式構造のウェブフレームに大きな変形を生じさせる。
図4は、横式構造をとる自動車運搬船Sの断面を示している。
1,1は船側外板で垂直に立てられており、左右の船側外板1,1の下端同士は船底外板2で接続されている。
左右の船側外板1,1の内側には多数本のウェブフレーム3(
図4は断面図なので1本しか見えない)が垂直に立てられて、船側外板1に固定されている。船底外板2の上には二重構造や三重構造の船底構造物4が設けられている。
船底構造物4の上面板を、本明細書では船底上面板5といい、二重構造船底の内底板や三重構造船底のタンクトップが、これに含まれる。
そして、左右のウェブフレーム3,3は船底上面板5にブラケット6で取付けられている。
【0004】
前記ウェブフレーム3の具体的形状は、断面I形のウェブとこのウェブの一端縁にフランジが取付けられ、断面T形または断面逆L形となっている。
前記ブラケット6は、側面視で略三角形の板材であり、底辺と直立辺と斜辺とからなる。また、斜辺にはフランジが取付けられ、断面T形または断面逆L形となった高強度部材となっている。
そして、左右のウェブフレーム3,3は上端同士をビーム7で連結され、かつ上下方向に延びるウェブフレーム3,3の途中は複数本のデッキ8で接続されている。
【0005】
ところで、上記の船体構造において船体に横波を受けると、
図4に示す横向き外力Fが働いて、ウェブフレーム3,3と船底上面板5との間を接続するブラケット6を圧縮したり引張る力が加わる。
ブラケット6は側面視で略三角形の板材であるため、ブラケット6の先端部分に大きな応力が発生して変形が生じやすい。
【0006】
ブラケット6の変形を防止するため、略三角形の板材の斜辺に取付けられたフランジに加工を加える工夫も行われた。その一つは、フランジの先端部を先細りにすることであり、こうすることでブラケット6の先端部分の剛性を低下させ船底上面板5の変形に追従しやすくしたものである。
二つ目はフランジの先端部を先端に向け広げた形状(ガセットといわれる)にし、船底上面板5との接合強度を高めたものである。
この二つの工夫は、それなりの効果はあるが、ブラケット6自体の形状は略三角形を保ったままであったので、大きな応力低減効果は望めなかった。
【0007】
一方、ウェブフレーム自体の応力低減構造としては、特許文献1の従来技術がある。
この従来技術は、ウェブフレームの中間部分と船倉内のデッキとの間の接合部における応力集中を低減するもので、ウェブフレームの中間部分とデッキとの接合部において、ウェブフレームに開口と貫通孔を形成したものである。
しかるに、この従来技術では、ウェブフレームの中間部分とデッキとの間の接合部では応力集中を低減できるが、ウェブフレームの下端と船底上面板との接合部では応力集中を低減できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、ウェブフレームの下端と船底上面板との接合部において応力集中を低減できるウェブフレーム取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の船舶のウェブフレーム取付構造は、船舶の船側板の内側に上下方向に延びるように取付けられるウェブフレームと、該ウェブフレームの下端部を船底の船底上面板にブラケットを用いて接続するウェブフレーム取付構造であって、前記ブラケットは底辺と直立辺と斜辺とからなる略三角形の板材であり、前記直立辺は前記ウェブフレームの下端部に固定され、前記底辺は前記船底上面板に固定されており、前記斜辺の先端部において、その上縁が2カ所の円弧で凹む湾曲凹部が形成されていることを特徴とする。
第2発明の船舶のウェブフレーム取付構造は、第1発明において、前記2カ所の円弧のうち斜辺の最先端に形成される第1の円弧は曲率半径が小さく、最先端より内側に形成される第2の円弧は曲率半径が大きいことを特徴とする。
第3発明の船舶のウェブフレーム取付構造は、第1発明において、前記湾曲凹部は2カ所の円弧が連続した形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、ブラケットは斜辺の先端部において、上縁に2カ所の湾曲凹部が形成されているので、ブラケットの先端部における斜辺と船底上面板との間の高さが低くなり、強度的に柔構造とされている。このため、ウェブフレームに横向きの外力が加わったときブラケットの先端部は船底上面板との間で生ずる圧縮と引張りに追従しやすくなり、応力集中を低減できる。
第2発明によれば、斜辺の最先端に形成される曲率半径の小さい第1の円弧に続けて曲率半径の大きい第2の円弧を形成した場合は、第2の円弧における船底上面板に対する取り合い角を小さくできる。この結果、横方向外力作用時のブラケットに対する応力集中を低減できる。
第3発明によれば、湾曲凹部の2カ所の円弧が連続しているので、凹部の形状変化が滑らかとなり、2カ所の円弧の間で応力集中が生じにくい。このため応力低減効果が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るウェブフレーム3とブラケット6を示す船体断面図である。
【
図2】
図1に示すウェブフレーム3とブラケット6の斜視図である。
【
図3】
図2に示すブラケット6の先端部の拡大側面図である。
【
図4】自動車運搬船Sにおける船体の概略構成を示す船体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態のウェブフレーム取付構造は、
図1に示すように、船舶の船側外板1の内側に上下方向に延びるように取付けられるウェブフレーム3と、このウェブフレーム3の下端部を船底の船底上面板5にブラケット6を用いて接続する構成であって、その構成は
図4に示す従来技術と基本的に同一である。
【0014】
したがって、
図1に示すように、左右の船側外板1,1の内側には多数本のウェブフレーム3が垂直に立てられて、船側外板1に固定されている。そして、左右のウェブフレーム3,3は船底上面板5にブラケット6で取付けられている。また、ブラケット6は側面視で略三角形の板材である。
そして、ブラケット6の先端部には応力を低減するための湾曲凹部10が形成されており、それが従来技術にみられない特徴となっている。
【0015】
図2に示すように、ブラケット6は底辺と直立辺と斜辺とからなる略三角形の板材であり、垂直に立てられた板材本体6aと板材本体6aの斜辺(上縁でもある)に溶接等で取付けられたフランジ6fとからなる。
ブラケット6の直立辺は船側外板1に溶接等で固定され、ブラケット6の上端部分はウェブフレーム3の下端部に溶接等で固定されている。また、ブラケット6の底辺は船底上面板5に溶接等で固定されている。
【0016】
図2に示すように、ブラケット6の斜辺の先端部(船幅方向の内側に向いた端部、図では右側端部)における上縁には、2カ所の円弧11,12で形作られた湾曲凹部10が設けられている。
この湾曲凹部10の詳細を
図3に基づき説明する。
湾曲凹部10は第1の円弧11および第2の円弧12からなる2カ所の円弧が連続した形状である。
【0017】
そして、ブラケット6の斜辺の最先端に形成される第1の円弧11は曲率半径R1が小さくされている。また、第1の円弧11は板材本体6aに形成されており、この部分にフランジ6fは設けられていない。
ブラケット6において、第1の円弧11より基端側(図中左側)に形成される第2の円弧12は曲率半径R2が大きくされている。この部分にはフランジ6fが設けられており、フランジ6fの上面が凹むように湾曲する形態となっている。
【0018】
図3において、L6は第2の円弧12を形成しない場合のブラケット6の斜辺の延長線を示した想像線である。θ6は斜辺の延長線と船底上面板5の上面との間の取り合い角度を示し、θ12は第2の円弧12の上面と船底上面板5との間の取り合い角度を示している。
この図から分かるように、第2の円弧12を設けた場合の取り合い角度θ12は、これを設けない場合の取り合い角度θ6よりも小さくなっている。このことは、船底上面板5に対する変化の度合いが小さいことを意味し、応力集中の発生を防止できることを意味する。
【0019】
また、材料強度の面から説明すると、以下のとおりである。
ブラケット6における斜辺の最先端に形成される第1の円弧11は、幅方向領域D11が小さいのであるが、曲率半径R1を小さくすることで、先端部分の平均高さh11を低くしている。このため、先端部分の船底上面板5からみた形状変化を小さくして応力集中が発生しにくくなっている。また、ブラケット6の先端部の強度を適度に引き下げているので、幅方向領域D11が強度的に過大でない柔構造となっている。
【0020】
ブラケット6における最先端より基端側に形成される第2の円弧12は、幅方向領域D12が大きいのであるが、曲率半径R2を大きくすることで平均高さh12を比較的低くして強度的に過大でない柔構造となっている。
本実施形態では、第1の円弧11の幅方向領域D11と第2の円弧12の幅方向領域D12によって柔構造領域を大きく取るようにしており、このため横方向外力作用時の圧縮や引張りによる破損を低減できる。
【0021】
既述のごとく、ブラケット6の湾曲凹部10の2カ所の円弧11,12が連続しているので、凹部の形状変化が滑らかとなり、2カ所の円弧11,12の間で応力集中が生じにくくなる。この点からもブラケット6の応力低減効果が高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
上記実施形態は、自動車運搬船に適用したものであったが、一般貨物船、ばら積み貨物船、チップ船などを含む、様々な種類の船舶に本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 船側外板
3 ウェブフレーム
5 船底上面板
6 ブラケット
10 湾曲凹部
11 第1の円弧
12 第2の円弧
R1 曲率半径
R2 曲率半径
D11 幅方向領域
D12 幅方向領域
【手続補正書】
【提出日】2023-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車運搬船の船側外板の内側に上下方向に延びるように取付けられるウェブフレームと、
該ウェブフレームの下端部を船底の船底上面板にブラケットを用いて接続するウェブフレーム取付構造であって、
前記ブラケットは、底辺と直立辺と斜辺とからなる略三角形の板材本体と、該板材本体の斜辺に取付けられたフランジとからなり、
前記板材本体の上端部分は前記ウェブフレームの下端部に固定され、
前記底辺は前記船底上面板に固定されており、
前記斜辺は、その先端部において、上縁が連続する2カ所の円弧が連続して凹む湾曲凹部を備えており、
前記2カ所の円弧のうち斜辺の最先端に形成される第1の円弧は曲率半径が小さく、最先端より内側に形成される第2の円弧は曲率半径が大きく、
前記第2の円弧は前記フランジの上面が凹むように湾曲させた形態であり、前記第1の円弧はフランジが無く板材本体の上縁に形成されている
ことを特徴とする自動車運搬船のウェブフレーム取付構造。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車運搬船のウェブフレーム取付構造に関する。さらに詳しくは、本発明は、ウェブフレームの端部における応力低減を可能とする自動車運搬船のウェブフレーム取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の構造において、外板は船殻を形作るが主たる強度部材ではなく、船体を支えるのは構造材と呼ばれる骨組みである。構造材の配置形式には、横式構造(Transverse Framing System)、縦式構造(Longitudinal Framing System)、および縦横混合方式の3種類がある。
縦式構造では船首尾方向に走る多数の縦通材(Longitudinal)によって強度を確保する。横式構造では船首船尾方向に直交する向きに延びる構造材が使われる。この構造材には、左右の船側において上下方向に延びるように取付けられる左右のフレームと、左右のフレームを船体上部で連結するビームと、左右のフレームを船底で連結する内底板等の船底構造物からなる。
左右のフレームは船長方向において間隔をあけて多数本(船の大きさによるが数100本)が設けられ、各フレームの上端同士を連結するビームも同数設けられる。このフレームの強度を増すためフレームの一端縁にフランジを取付けたものが用いられており、この部材はウェブフレームといわれ、多くの船舶に用いられている。
この構造は貨物を積むのに適しているので、一般貨物船や自動車運搬船などに採用される。
【0003】
ところで、船舶の航行時には、波と船体の相対位置によって、ホギング(両端垂下の状態)とサギング(中央垂下の状態)を繰り返して、船底には交互に引張りと圧縮が生じる。これに加え、船体に対して横から波を受けた場合は、船体の断面がひし形に変形しようとするラッキング変形が発生する。
このラッキング変形は、横式構造のウェブフレームに大きな変形を生じさせる。
図4は、横式構造をとる自動車運搬船Sの断面を示している。
1,1は船側外板で垂直に立てられており、左右の船側外板1,1の下端同士は船底外板2で接続されている。
左右の船側外板1,1の内側には多数本のウェブフレーム3(
図4は断面図なので1本しか見えない)が垂直に立てられて、船側外板1に固定されている。船底外板2の上には二重構造や三重構造の船底構造物4が設けられている。
船底構造物4の上面板を、本明細書では船底上面板5といい、二重構造船底の内底板や三重構造船底のタンクトップが、これに含まれる。
そして、左右のウェブフレーム3,3は船底上面板5にブラケット6で取付けられている。
【0004】
前記ウェブフレーム3の具体的形状は、断面I形のウェブとこのウェブの一端縁にフランジが取付けられ、断面T形または断面逆L形となっている。
前記ブラケット6は、側面視で略三角形の板材であり、底辺と直立辺と斜辺とからなる。また、斜辺にはフランジが取付けられ、断面T形または断面逆L形となった高強度部材となっている。
そして、左右のウェブフレーム3,3は上端同士をビーム7で連結され、かつ上下方向に延びるウェブフレーム3,3の途中は複数本のデッキ8で接続されている。
【0005】
ところで、上記の船体構造において船体に横波を受けると、
図4に示す横向き外力Fが働いて、ウェブフレーム3,3と船底上面板5との間を接続するブラケット6を圧縮したり引張る力が加わる。
ブラケット6は側面視で略三角形の板材であるため、ブラケット6の先端部分に大きな応力が発生して変形が生じやすい。
【0006】
ブラケット6の変形を防止するため、略三角形の板材の斜辺に取付けられたフランジに加工を加える工夫も行われた。その一つは、フランジの先端部を先細りにすることであり、こうすることでブラケット6の先端部分の剛性を低下させ船底上面板5の変形に追従しやすくしたものである。
二つ目はフランジの先端部を先端に向け広げた形状(ガセットといわれる)にし、船底上面板5との接合強度を高めたものである。
この二つの工夫は、それなりの効果はあるが、ブラケット6自体の形状は略三角形を保ったままであったので、大きな応力低減効果は望めなかった。
【0007】
一方、ウェブフレーム自体の応力低減構造としては、特許文献1の従来技術がある。
この従来技術は、ウェブフレームの中間部分と船倉内のデッキとの間の接合部における応力集中を低減するもので、ウェブフレームの中間部分とデッキとの接合部において、ウェブフレームに開口と貫通孔を形成したものである。
しかるに、この従来技術では、ウェブフレームの中間部分とデッキとの間の接合部では応力集中を低減できるが、ウェブフレームの下端と船底上面板との接合部では応力集中を低減できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、ウェブフレームの下端と船底上面板との接合部において応力集中を低減できるウェブフレーム取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の自動車運搬船のウェブフレーム取付構造は、自動車運搬船の船側外板の内側に上下方向に延びるように取付けられるウェブフレームと、該ウェブフレームの下端部を船底の船底上面板にブラケットを用いて接続するウェブフレーム取付構造であって、前記ブラケットは、底辺と直立辺と斜辺とからなる略三角形の板材本体と、該板材本体の斜辺に取付けられたフランジとからなり、前記板材本体の上端部分は前記ウェブフレームの下端部に固定され、前記底辺は前記船底上面板に固定されており、前記斜辺は、その先端部において、上縁が連続する2カ所の円弧が連続して凹む湾曲凹部を備えており、前記2カ所の円弧のうち斜辺の最先端に形成される第1の円弧は曲率半径が小さく、最先端より内側に形成される第2の円弧は曲率半径が大きく、前記第2の円弧は前記フランジの上面が凹むように湾曲させた形態であり、前記第1の円弧はフランジが無く板材本体の上縁に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)ブラケットは斜辺の先端部において2カ所の湾曲凹部が形成されているので、ブラケットの先端部における斜辺と船底上面板との間の高さが低くなり、強度的に柔構造とされている。このため、ウェブフレームに横向きの外力が加わったときブラケットの先端部は船底上面板との間で生ずる圧縮と引張りに追従しやすくなり、応力集中を低減できる。
b)斜辺の最先端に形成される曲率半径の小さい第1の円弧に続けて曲率半径の大きい第2の円弧を形成した場合は、第2の円弧における船底上面板に対する取り合い角を小さくできる。この結果、横方向外力作用時のブラケットに対する応力集中を低減できる。
c)湾曲凹部の2カ所の円弧が連続しているので、凹部の形状変化が滑らかとなり、2カ所の円弧の間で応力集中が生じにくい。このため応力低減効果が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るウェブフレーム3とブラケット6を示す船体断面図である。
【
図2】
図1に示すウェブフレーム3とブラケット6の斜視図である。
【
図3】
図2に示すブラケット6の先端部の拡大側面図である。
【
図4】自動車運搬船Sにおける船体の概略構成を示す船体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態のウェブフレーム取付構造は、
図1に示すように、船舶の船側外板1の内側に上下方向に延びるように取付けられるウェブフレーム3と、このウェブフレーム3の下端部を船底の船底上面板5にブラケット6を用いて接続する構成であって、その構成は
図4に示す従来技術と基本的に同一である。
【0014】
したがって、
図1に示すように、左右の船側外板1,1の内側には多数本のウェブフレーム3が垂直に立てられて、船側外板1に固定されている。そして、左右のウェブフレーム3,3は船底上面板5にブラケット6で取付けられている。また、ブラケット6は側面視で略三角形の板材である。
そして、ブラケット6の先端部には応力を低減するための湾曲凹部10が形成されており、それが従来技術にみられない特徴となっている。
【0015】
図2に示すように、ブラケット6は底辺と直立辺と斜辺とからなる略三角形の板材であり、垂直に立てられた板材本体6aと板材本体6aの斜辺(上縁でもある)に溶接等で取付けられたフランジ6fとからなる。
ブラケット6の直立辺は船側外板1に溶接等で固定され、ブラケット6の上端部分はウェブフレーム3の下端部に溶接等で固定されている。また、ブラケット6の底辺は船底上面板5に溶接等で固定されている。
【0016】
図2に示すように、ブラケット6の斜辺の先端部(船幅方向の内側に向いた端部、図では右側端部)における上縁には、2カ所の円弧11,12で形作られた湾曲凹部10が設けられている。
この湾曲凹部10の詳細を
図3に基づき説明する。
湾曲凹部10は第1の円弧11および第2の円弧12からなる2カ所の円弧が連続した形状である。
【0017】
そして、ブラケット6の斜辺の最先端に形成される第1の円弧11は曲率半径R1が小さくされている。また、第1の円弧11は板材本体6aに形成されており、この部分にフランジ6fは設けられていない。
ブラケット6において、第1の円弧11より基端側(図中左側)に形成される第2の円弧12は曲率半径R2が大きくされている。この部分にはフランジ6fが設けられており、フランジ6fの上面が凹むように湾曲する形態となっている。
【0018】
図3において、L6は第2の円弧12を形成しない場合のブラケット6の斜辺の延長線を示した想像線である。θ6は斜辺の延長線と船底上面板5の上面との間の取り合い角度を示し、θ12は第2の円弧12の上面と船底上面板5との間の取り合い角度を示している。
この図から分かるように、第2の円弧12を設けた場合の取り合い角度θ12は、これを設けない場合の取り合い角度θ6よりも小さくなっている。このことは、船底上面板5に対する変化の度合いが小さいことを意味し、応力集中の発生を防止できることを意味する。
【0019】
また、材料強度の面から説明すると、以下のとおりである。
ブラケット6における斜辺の最先端に形成される第1の円弧11は、幅方向領域D11が小さいのであるが、曲率半径R1を小さくすることで、先端部分の平均高さh11を低くしている。このため、先端部分の船底上面板5からみた形状変化を小さくして応力集中が発生しにくくなっている。また、ブラケット6の先端部の強度を適度に引き下げているので、幅方向領域D11が強度的に過大でない柔構造となっている。
【0020】
ブラケット6における最先端より基端側に形成される第2の円弧12は、幅方向領域D12が大きいのであるが、曲率半径R2を大きくすることで平均高さh12を比較的低くして強度的に過大でない柔構造となっている。
本実施形態では、第1の円弧11の幅方向領域D11と第2の円弧12の幅方向領域D12によって柔構造領域を大きく取るようにしており、このため横方向外力作用時の圧縮や引張りによる破損を低減できる。
【0021】
既述のごとく、ブラケット6の湾曲凹部10の2カ所の円弧11,12が連続しているので、凹部の形状変化が滑らかとなり、2カ所の円弧11,12の間で応力集中が生じにくくなる。この点からもブラケット6の応力低減効果が高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
【符号の説明】
【0023】
1 船側外板
3 ウェブフレーム
5 船底上面板
6 ブラケット
10 湾曲凹部
11 第1の円弧
12 第2の円弧
R1 曲率半径
R2 曲率半径
D11 幅方向領域
D12 幅方向領域