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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024722
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】中空成形装置および中空成形方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/04 20060101AFI20240216BHJP
   B22D 17/20 20060101ALI20240216BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B22D18/04 B
B22D18/04 P
B22D18/04 Y
B22D17/20 Z
B22D17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127561
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(57)【要約】
【課題】射出部から金型キャビティ内に向けて溶湯を充填し、充填した溶湯の内部に中空部を形成するに際して、鋳造品の形状に制約を受けることなく、鋳造品外観が綺麗で軽量化効果が高く生産効率の良い安全な中空成形装置および中空成形方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金型キャビティに充填された溶湯の内部に、加湿調整した加湿媒体を注入する加湿媒体注入部と、加湿媒体を生成し貯蔵する加湿調整部と、加湿媒体の熱膨張で中空部を形成する中空部形成工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出部から金型キャビティ内に向けて溶湯を充填し、充填した前記溶湯の内部に中空部を形成する中空成形装置において、
前記金型キャビティに充填された前記溶湯の内部に、湿度調整された加湿媒体を注入する加湿媒体注入部、を備えることを特徴とする中空成形装置。
【請求項2】
前記加湿媒体は、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気であり、前記加湿空気を生成し貯蔵する加湿調整部を更に備える、請求項1に記載の中空成形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の中空成形装置を用いて行う中空成形方法において、
鋳造金型を型締して前記金型キャビティを形成する型締工程と、前記射出部から前記金型キャビティに向けて溶湯を充填する充填工程と、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯の密度を調整する増圧工程と、前記金型キャビティ内で前記溶湯を冷却凝固させる冷却工程、とからなる鋳造成形を行うに際して、
前記充填工程に続いて、前記金型キャビティに充填された前記溶湯の内部に前記加湿媒体注入部から湿度調整された加湿媒体を注入する媒体注入工程と、前記溶湯からの熱量を受けて前記加湿媒体が温度上昇して熱膨張する熱膨張工程と、前記熱膨張工程によって前記金型キャビティに充填された前記溶湯の内部に中空部を形成する中空部形成工程と、を備えることを特徴とする中空成形方法。
【請求項4】
前記金型キャビティに向けて溶湯を充填し、前記溶湯の充満部と未充満部が混在する未充満充填工程に続いて、前記充満部の溶湯に対して前記媒体注入工程と前記熱膨張工程を行い、前記熱膨張工程によって前記充満部の前記溶湯を前記未充満部に向けて流動させながら前記中空部形成工程を行う、請求項3に記載の中空成形方法。
【請求項5】
前記金型キャビティに連通する補助キャビティを備え、前記金型キャビティに向けて溶湯を充填し、前記金型キャビティを前記溶湯で充満させる充満充填工程に続いて、前記媒体注入工程と前記熱膨張工程を行い、前記熱膨張工程によって前記金型キャビティ内の前記溶湯を前記補助キャビティに向けて流動させながら前記中空部形成工程を行う、請求項3に記載の中空成形方法。
【請求項6】
前記充填工程に続いて、前記媒体注入工程と前記熱膨張工程を行い、前記熱膨張工程によって前記溶湯を前記射出部に向けて流動させながら前記中空部形成工程を行う、請求項3に記載の中空成形方法。
【請求項7】
前記加湿媒体は、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気であり、前記加湿調整部で前記加湿空気を生成し貯蔵する加湿空気製造工程を備える、請求項3から6のいずれか1項に記載の中空成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出部から金型キャビティ内に向けて溶湯を充填し、充填した前記溶湯の内部に中空部を形成する中空成形装置および中空成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金等の溶湯を金型キャビティ内に充填する鋳造成形は、設定された鋳造品の個数を製造するまで、以下に示す工程を繰り返す。先ず、鋳造金型を型締して金型キャビティを形成し(型締工程)、金型キャビティ内に溶湯を充填する(充填工程)。充填した溶湯の密度を調整して(増圧工程)、その状態で溶湯を冷却凝固させる(冷却工程)。続いて、鋳造金型を型開して(型開工程)、金型キャビティから冷却凝固した鋳造品を取り出す(取出し工程)。その後、金型キャビティの清掃や離型剤塗布等の準備工程を経て、次ショットの鋳造成形を行う。
【0003】
ここで、例えば、製品軽量化や製品剛性化、あるいは、温調媒体等の流体を循環させる流路の形成、断熱材や制振材等の機能性素材を装着するスペースの確保、等を目的として、鋳造品の内部に中空部を形成する手段について提案が多くなされている。例えば、特許文献1に示すような、金型キャビティの所定の位置に砂中子を配置して溶湯を充填し、冷却工程後の鋳造品から砂中子を排出して、中空部を形成する手段が提案されている。また、例えば、砂中子の代わりに中空部品を金型キャビティにインサートして鋳造成形を行うことで中空部を形成する別の手段も提案されている。また、特許文献2に示すような、金型キャビティ内に溶湯を充填した後、まだ冷却凝固していない溶湯を金型キャビティから排出して、中空部を形成する手段が提案されている。さらに、特許文献3に示すような、金型キャビティに溶湯を充填した後、溶湯の内部に高圧ガスを注入して、まだ冷却凝固していない溶湯を金型キャビティから積極的に排出して、中空部を形成する手段が提案されている。
【0004】
また、溶湯の代わりに溶融樹脂を用いて中空部を形成する手段として、例えば、特許文献4に示すように、金型キャビティ内に溶融樹脂を射出充填した後に、溶融樹脂の内部に水等の液体を注入して、溶融樹脂から熱量を受けて液体が水蒸気化し、水蒸気化する際の大きな膨張力を利用して中空部を形成する手段が提案されている。また、液体の代わりに、例えば、スチーム等の水分を多量に含む加熱流体を用いて中空部を形成する別の手段も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2―241643号公報
【特許文献2】特開平11-5150号公報
【特許文献3】特開2000-263212号公報
【特許文献4】特開平10-156856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1において、鋳造品から砂中子を排出する面倒な作業工程と、砂中子の造形および回収に要する設備と作業工程を必要とし、生産性の面で課題が残る。また、砂中子の一部が鋳造品の内部に残存すると鋳造品質を低下させることになる。さらに、金型キャビティに砂中子を支持する手段を必要とし、この支持する部位には溶湯が充填されず、鋳造品に大きな穴が開いた状態である。また、砂中子の強度により、例えば、細い形状の中空部や鋳造品全体に中空部を形成することは困難である。そのために、鋳造品および中空部の形状設計に大きな制約を受ける。砂中子の代わりに中空部品を用いた場合も、同様な技術課題が残る。
【0007】
これに対して、特許文献2は、砂中子や中空部品等を使用せず、鋳造成形と同時に中空部の形成を行う効率の良い手段である。金型キャビティと接触して急速に冷却凝固した層(凝固層という)に孔を開けて空気を導入し、この凝固層に囲まれた内部の溶湯を鉛直下方に配置した溶湯炉に向けて排出することで、中空部が形成される。そのため、例えば、鉛直上方に配列した金型キャビティでは、溶湯を排出することができず、中空部を形成することができない。また、金型キャビティの薄肉部では、凝固層が厚く形成され、薄肉部で溶湯の排出が停滞し、中空部が途切れてしまう。さらに、中空部の内部圧力が小さく、金型キャビティ形状を正確に転写することができないために、鋳造品の外観品質に課題が残る。
【0008】
そこで、特許文献3では、凝固層に孔を開けて高圧ガスを注入し、凝固層に囲まれた内部の溶湯を積極的に排出して中空部を形成する。注入した高圧ガスによって、中空部の内部圧力が高く、金型キャビティの形状を正確に転写した外観品質に優れた鋳造品を製造することができるとされている。なお、例えば、厚肉部と薄肉部を備える金型キャビティにおいては、凝固層が厚く形成された薄肉部によって、高圧ガスの注入が停滞し、金型キャビティから溶湯を連続的に排出することができず、中空部が偏析した鋳造品となり、高品質な鋳造品の安定製造に課題が残る。さらに、高圧ガスの供給設備を必要とし、高圧ガス取扱いに関する安全管理が課せられる。その結果、鋳造設備の大型化や操作の煩雑化を招く。
【0009】
また、特許文献4において、注入する液体の圧力は低くても良く、溶融樹脂からの熱量を受けて注入した液体が加熱され水蒸気化することで大きな膨張力を得て、効率の良い中空部の形成手段とされている。なお、この形成手段は、溶融樹脂を用いた中空成形に限定されるものであって、そのままの形態で溶湯を用いた中空成形に適用すると、水蒸気爆発が心配され極めて危険である。また、液体の代わりにスチーム等の水分を多量に含む加熱流体を用いるとしても、水分量が多いために水滴が生成しやすく、水滴を含む加熱流体となる。その結果、水滴が水蒸気爆発の起点となり、水分量を適切に調整していない加熱流体では、依然として危険性を伴い好ましくない。
【0010】
そこで本発明は、射出部から金型キャビティ内に向けて溶湯を充填し、充填した前記溶湯の内部に中空部を形成するに際して、鋳造品の形状に制約を受けることなく、鋳造品外観が綺麗で軽量化効果が高く生産効率の良い安全な中空成形装置および中空成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の中空成形装置は、
射出部から金型キャビティ内に向けて溶湯を充填し、充填した前記溶湯の内部に中空部を形成する中空成形装置において、
前記金型キャビティに充填された前記溶湯の内部に、湿度調整された加湿媒体を注入する加湿媒体注入部、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の中空成形装置において、
前記加湿媒体は、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気であり、前記加湿空気を生成し貯蔵する加湿調整部を更に備える、ことが好ましい。
【0013】
本発明の中空成形方法は、
請求項1に記載の中空成形装置を用いて行う中空成形方法において、
鋳造金型を型締して前記金型キャビティを形成する型締工程と、前記射出部から前記金型キャビティに向けて溶湯を充填する充填工程と、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯の密度を調整する増圧工程と、前記金型キャビティ内で前記溶湯を冷却凝固させる冷却工程、とからなる鋳造成形を行うに際して、
前記充填工程に続いて、前記金型キャビティに充填された前記溶湯の内部に前記加湿媒体注入部から湿度調整された加湿媒体を注入する媒体注入工程と、前記溶湯からの熱量を受けて前記加湿媒体が温度上昇して熱膨張する熱膨張工程と、前記熱膨張工程によって前記金型キャビティに充填された前記溶湯の内部に中空部を形成する中空部形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の中空成形方法において、
前記金型キャビティに向けて溶湯を充填し、前記溶湯の充満部と未充満部が混在する未充満充填工程に続いて、前記充満部の溶湯に対して前記媒体注入工程と前記熱膨張工程を行い、前記熱膨張工程によって前記充満部の前記溶湯を前記未充満部に向けて流動させながら前記中空部形成工程を行う、ことが好ましい。
【0015】
本発明の中空成形方法において、
前記金型キャビティに連通する補助キャビティを備え、前記金型キャビティに向けて溶湯を充填し、前記金型キャビティを前記溶湯で充満させる充満充填工程に続いて、前記媒体注入工程と前記熱膨張工程を行い、前記熱膨張工程によって前記金型キャビティ内の前記溶湯を前記補助キャビティに向けて流動させながら前記中空部形成工程を行う、ことが好ましい。
【0016】
また、本発明の中空成形方法において、
前記充填工程に続いて、前記媒体注入工程と前記熱膨張工程を行い、前記熱膨張工程によって前記溶湯を前記射出部に向けて流動させながら前記中空部形成工程を行う、ことが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の中空成形方法において、
前記加湿媒体は、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気であり、前記加湿調整部で前記加湿空気を生成し貯蔵する加湿空気製造工程を備える、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、射出部から金型キャビティ内に向けて溶湯を充填し、充填した前記溶湯の内部に中空部を形成するに際して、鋳造品の形状に制約を受けることなく、鋳造品外観が綺麗で軽量化効果が高く生産効率の良い安全な中空成形装置および中空成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る中空成形装置を示す概念図である。
図2図1に示す中空成形装置に用いる加湿媒体の特性を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る中空成形方法の前半部分を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る中空成形方法の後半部分を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る中空成形方法の前半部分を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る中空成形方法の後半部分を示す図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る中空成形方法の前半部分を示す図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る中空成形方法の後半部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0021】
(中空成形装置)
先ず、本発明の実施形態に係る、鋳造品の内部に中空部を形成する鋳造装置(中空成形装置という)について、図1を用いて説明する。図1に示す中空成形装置100は、鋳造金型10と、加湿媒体注入部20と、射出部30と、を備える。なお、図1において、射出部30と鋳造金型10を鉛直上下方向に配置した竪型の中空成形装置100としたが、これに限定されることなく、例えば、射出部30と鋳造金型10を水平方向に配置した横型の中空成形装置100であっても良い。
【0022】
鋳造金型10は、固定盤16に支持される固定金型14と、可動盤17に支持される可動金型15と、を備える。図示しない型締手段により固定金型14と可動金型15を型締して、金型キャビティ11およびゲート12(湯口ともいう)が形成される。また、中空成形の工程に基づいてゲート12の開閉動作を行うゲート開閉部13を設ける。また、固定金型14および可動金型15には、図示しない温度調整手段を設け、金型キャビティ11内に充填される溶湯Mに対して最適な温度状態に調整される。また、金型キャビティ11に離型剤等を塗布することが好ましい。
【0023】
なお、図1に示す鋳造金型10は、竪型の中空成形装置100の形態を示し、固定金型14と可動金型15を鉛直上下方向に配置し、鉛直上下方向に型開閉する。横型の中空成形装置100においては、固定金型14と可動金型15を水平方向に配置し、水平方向に型開閉する。また、金型キャビティ11の端部にゲート12を配置する形態としたが、例えば、金型キャビティ11の中央部にゲート12を配置するとしても良い。また、厚肉部と薄肉部を備える金型キャビティ11としても良い。
【0024】
射出部30は、内部に溶湯Mを貯蔵する密閉された溶湯保持炉31と、溶湯保持炉31内の溶湯Mとゲート12を接続する給湯管32と、溶湯保持炉31内の加圧空間部33に加圧ガスを供給する加圧ガス供給部34と、加圧ガス制御部35と、を備える。加圧ガス制御部35で加圧ガス供給部34を操作して、加圧空間部33に圧力と流量が調整された加圧ガスを供給すると、加圧空間部33内の圧力が上昇し、溶湯保持炉31内の溶湯Mが押圧される。押圧された溶湯Mは、給湯管32内を流動し、ゲート12を経由して金型キャビティ11内に充填される。溶湯保持炉31および給湯管32は、図示しない温度調整手段を設けており、溶湯Mの保温および流動に最適な温度状態に保持される。
【0025】
また、溶湯Mの酸化防止のために、溶湯保持炉31および給湯管32を窒素やアルゴン等の不活性ガスで充満させることが好ましい。同様に、加圧ガス供給部34も窒素やアルゴン等の不活性ガスを用いることが好ましく、例えば、分離膜等を備えた空気中から窒素ガスのみを抽出する窒素ガス抽出手段を加圧ガス供給部34に用いるとしても良い。また、溶湯保持炉31とは別に、図示しない溶湯製造手段を備え、この溶湯製造手段から定期的に溶湯保持炉31に溶湯Mを供給する形態であっても良い。
【0026】
なお、図1に示す射出部30は、加圧ガスを導入して溶湯Mを金型キャビティ11に充填する形態としたが、これに限定することなく、例えば、溶湯保持炉31内の溶湯Mに浸漬させたピストン式の加圧手段と給湯管32を連結し、ピストン操作により溶湯Mを押圧して、給湯管32を経由して充填する形態であっても良い。あるいは、電磁ポンプ等の輸送手段を用いて溶湯保持炉31から給湯管32を経由して充填する形態であっても良い。また、円筒状の射出スリーブ内に溶湯Mを供給して、射出スリーブ内で摺動するプランジャチップで溶湯Mを押圧して金型キャビティ11内に充填させる形態であっても良い。
【0027】
加湿媒体注入部20は、金型キャビティ11内に充填された溶湯Mの内部に向けて、湿度調整された加湿媒体を注入する注入ピン22と、注入ピン22を金型キャビティ11に対して進退させる注入ピン駆動部21と、注入ピン22へ加湿媒体を供給する媒体供給部23と、加湿媒体を生成し貯蔵する加湿調整部24と、注入制御部25と、を備える。注入制御部25で加湿調整部24を操作して、湿度調整された加湿媒体の生成と貯蔵を行い、また、加湿調整部24に貯蔵した加湿媒体を媒体供給部23に供給する。また、注入制御部25で注入ピン駆動部21を操作して、注入ピン22を金型キャビティ11に対して進退動作させる。金型キャビティ11内に注入ピン22が侵入した後に、注入制御部25で媒体供給部23を操作して、媒体供給部23から注入ピン22を経由して、金型キャビティ11内の溶湯Mに向けて所定量の加湿媒体を注入する。
【0028】
ここで、例えば、湿度調整された加湿媒体として加湿空気を用いるとして、図2を用いて加湿空気の特性を説明する。先ず、図2(a)に示すように、横軸を加湿媒体(加湿空気)の温度あるいは圧力とし、縦軸を加湿媒体(加湿空気)に含まれる水分量とした、温度あるいは圧力によって水分量が変化することを模式的に表現したグラフである。これによると、温度あるいは圧力に比例して加湿媒体(加湿空気)に含まれる水分量は増加する。例えば、1立方メートル当たりの加湿媒体(加湿空気)の飽和水蒸気量は、20℃(飽和水蒸気圧23.4hPa)で17.3gの水分量を含み、30℃(飽和水蒸気圧42.4hPa)で30.4gの水分量を含むとされている。そこで、加湿調整部24は、温度あるいは圧力を調整して、加湿媒体(加湿空気)に含まれる水分量を制御する。例えば、調整温度T1(調整圧力P1)に調整して、水分量W1に制御する。
【0029】
なお、図2(a)は、湿度調整された加湿空気を加湿媒体としたが、これに限定されることなく、例えば、射出部30の加圧ガスと同様に窒素等の不活性ガスを用い、この不活性ガスに水分量W1を混合して加湿媒体としても良い。なお、取り扱いの容易性や製造コストの面から、水分量W1に調整した加湿空気を加湿媒体とすることが好ましい。以後は、加湿空気を用いた中空成形装置100について説明する。
【0030】
次に、図2(b)に示すように、加湿空気に含まれる水分量を、加湿調整部24で湿度として調整する。図2(b)の横軸は湿度とし、縦軸に温度上昇した時の加湿空気の熱膨張量とする。ここで、加湿空気の熱膨張量との比較として、例えば、20℃の乾燥空気(湿度S1=0%)を、700℃に加熱調整された溶湯Mに注入した場合では、約10倍前後の低い熱膨張量B1を示すとされている。そのため、金型キャビティ11内の広い範囲に中空部を形成することは難しく、大容量あるいは高圧に調整した乾燥空気を必要とし、安全面や設備の大型化および煩雑化の技術課題が残る。これに対して、例えば、水滴を直接加熱して気化した時の熱膨張量は、1000倍以上とされている。つまり、水滴を含む加湿空気を用い、高温の溶湯Mの中に少量注入するだけで、大きな熱膨張量が発生し、金型キャビティ11の全範囲に中空部を形成することが容易にできると考えられる。
【0031】
なお、水滴を含む加湿空気を溶湯Mに注入することは、水蒸気爆発等の危険性を伴うので好ましい形態とはいえない。そこで、本発明において、湿度を調整した加湿空気を用いることを特徴とする。湿度とは、過飽和水蒸気を基準として水分量の大小を数値化したものであり、飽和水蒸気よりも高い水分量(湿度)では、水滴が生成するとされている。本発明に用いる加湿空気は、水滴の生成が生じない飽和水蒸気よりも低い湿度に調整することで、水蒸気爆発等の危険性を確実に回避できて、高い熱膨張量を安全に確保することができる。例えば、湿度S2(熱膨張量B2>B1)に調整した加湿空気を用いて中空成形を行う。なお、この湿度S2に調整した加湿空気では、設定された中空部の形成ができない場合、加湿空気の注入圧力を増大させることなく、湿度を調整して(S3>S2)、熱膨張量を増大させて(B3>B2)、中空成形を行うとする。これにより、設定された中空部を安全に効率よく形成することが可能となる。なお、安全な範囲で加湿空気の注入量を調整して熱膨張量を調整するとしても良い。
【0032】
このように、湿度調整された加湿媒体、より好ましくは、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を、金型キャビティ11に充填された溶湯Mの内部に注入することで、大きな熱膨張量を効率的に発生させることができる。これにより、中空率が高く軽量化効果の大きい中空成形品を効率的に製造する中空成形装置100を提供することができる。また、大きな熱膨張量によって、金型キャビティ11への溶湯Mの押圧力が高まり、溶湯Mの密度および金型キャビティ11の形状転写性が好適に調整された高品質な鋳造品の安定生産を可能とする。さらに、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を用いることにより、水蒸気爆発等の危険性を確実に回避できる安全な中空成形装置100を提供することができる。
【0033】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態に係る、湿度調整した加湿媒体を注入して、鋳造品の内部に中空部を形成する鋳造方法(中空成形方法という)について、図3および図4を用いて説明する。なお、図3および図4は、図1に示す鋳造金型10の金型キャビティ11を中心に、加圧媒体注入部20を配置した模式図である。
【0034】
ここで、湿度調整した加湿媒体として、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を用いる。この加湿空気は、取り扱いが容易で安価に生成することができる。また、低い圧力状態であっても、少量の注入であっても、大きな熱膨張量を効率的発生することができる。さらに、水蒸気爆発等の危険性を確実に回避できる安全な加湿媒体であり、鋳造品の内部に中空部を形成する中空成形に最も好適である。注入制御部25で加湿調整部24を操作して、図2に示すように、安全な範囲で圧力または温度を調整して必要とする熱膨張量を発生する加湿空気を生成し貯蔵する(加湿空気製造工程)。貯蔵した加湿空気は、注入制御部25で加湿調整部24を操作して、媒体供給部23に供給される。
【0035】
次に、図3(a)に示すように、図示しない型締手段を用いて、鋳造金型10の固定金型14と可動金型15を型締して金型キャビティ11とゲート12を形成する(型締工程)。型締工程と同時に、あるいは、型締工程に続いて、注入制御部25で注入ピン駆動部21を操作して、注入ピン22を金型キャビティ11内の所定の位置(媒体注入位置という)に配置させる。なお、ゲート12に近い金型キャビティ11に注入ピン22を配置したが、これに限定することなく、例えば、ゲート12から離れた位置に配置しても良く、金型キャビティ11の中心部に配置するとしても良い。注入ピン22の配置によって、中空部の形成の状態を調整することができる。
【0036】
続いて、図3(b)に示すように、ゲート開閉部13を操作してゲート12を開放とする。同時に、射出部30の加圧ガス制御部35で加圧ガス供給部34を操作して、加圧空間部33に圧力および流量が調整された加圧ガスを供給し、溶湯保持炉31内の溶湯Mを加圧ガスで押圧して、給湯管32およびゲート12を経由して金型キャビティ11内に溶湯Mを充填させる(充填工程)。なお、充填工程前に注入制御部25で注入ピン駆動部21を操作して注入ピン22を媒体注入位置に配置させるとしたが、充填工程と同時に注入ピン22を媒体注入位置に配置させるとしても良い。
【0037】
ここで、充填工程において、ゲート12およびゲート開閉部13から充填された溶湯Mは、矢印で示すように、金型キャビティ11内を流動していく。溶湯Mが充満した充満部MFと、充満部MFの流動方向に溶湯Mが充満されていない未充満部MSを備える状態で、射出部30の加圧ガス制御部35で加圧ガス供給部34を操作して、加圧ガスの供給を停止し、金型キャビティ11内への溶湯Mの充填を停止する。この状態の充填工程を未充満充填工程という。
【0038】
未充満充填工程に続いて、図4(c)に示すように、ゲート開閉部13を操作してゲート12を閉鎖する。同時に、注入制御部25で媒体供給部23を操作して、注入ピン22から金型キャビティ11の充満部MFの溶湯Mの内部に向けて、加湿媒体として加湿空気Gの注入を行う(媒体注入工程)。
【0039】
ここで、未充満充填工程において、充満部MFの金型キャビティ11と接触する溶湯Mは、急速に冷却され凝固し凝固層MCを形成する。媒体注入工程において、この凝固層MCで囲まれた内部の溶湯Mに向けて加湿空気Gが注入される。注入された加湿空気Gは、溶湯Mからの熱量を受けて急速加熱され熱膨張し(熱膨張工程)、溶湯Mを押圧して中空部GHを形成する(中空部形成工程)。中空部GHの形成に伴い、充満部MFの溶湯Mが未充満部MS側に流動し、未充満部MS内を溶湯Mで充満していく。
【0040】
続いて、図4(d)に示すように、熱膨張工程と溶湯Mの流動によって、中空部GHが成長し、凝固層MCで囲まれた中空部GHが金型キャビティ11の全範囲に形成される。この時、例えば、注入した加湿空気Gの熱膨張量が足りずに、中空部GHの形成が設定した範囲に到達しない場合では、加湿空気Gの湿度を高くする、あるいは、安全な範囲で加湿空気Gの注入量を増やす、等の加湿空気Gの微調整を行う。逆に、注入した加湿空気Gの熱膨張量が過剰で、中空部GHが凝固層MCを突き破る等の不具合が生じた場合には、加湿空気Gの湿度を下げる、あるいは、安全な範囲で加湿空気Gの注入量を減らす、等の加湿空気Gの微調整を行う。図4(d)に示すように、中空部GHの形成に伴う溶湯Mの流動によって、未充満部MSが無くなる状態が好ましく、加湿空気Gの湿度または注入量と溶湯Mの充填量のバランスの調整を行う。
【0041】
また、金型キャビティ11内に充填された溶湯Mの密度調整と、金型キャビティ11への溶湯Mの押圧による形状転写を行う増圧工程は、加湿空気の熱膨張を利用して行う。さらに、加湿空気の熱膨張による増圧工程と、金型キャビティ11内で溶湯Mを冷却凝固させる冷却工程を同時に行う。この増圧工程と冷却工程と同時に、射出部30は次ショットの準備工程を行うことができ、中空成形のサイクル短縮を可能とする。
【0042】
このように、金型キャビティ11内の溶湯Mの未充填工程に続いて、湿度調整された加湿媒体、より好ましくは、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を、金型キャビティ11の充満部MFの溶湯Mの内部に注入することで、大きな熱膨張量を効率的に発生させることができる。これにより、充満部MFの溶湯Mは、未充満部MS側に流動し、未充満部MS内を溶湯Mで充満していく。同時に、金型キャビティ11内を溶湯Mの凝固層MCで囲まれ内部に中空部GHを備える中空成形品を得る。その結果、中空率が高く軽量化効果の大きい中空成形品を効率的に製造する中空成形方法を提供することができる。また、大きな熱膨張量によって、金型キャビティ11への溶湯Mの押圧力が高まり、溶湯Mの密度および金型キャビティ11の形状転写性が好適に調整された高品質な鋳造品の安定生産とサイクル短縮を可能とする。さらに、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を用いることにより、水蒸気爆発等の危険性を確実に回避できる安全な中空成形方法を提供することができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る、湿度調整した加湿媒体を注入して、鋳造品の内部に中空部を形成する中空成形方法について、図5および図6を用いて説明する。なお、図5および図6は、第1実施形態と同様に、図1に示す鋳造金型10の金型キャビティ11を中心に、加湿媒体注入部20を配置した模式図である。また、注入制御部25で加湿調整部24を操作して、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を生成し貯蔵する加湿空気製造工程も第1実施形態と同じである。そのため、第1実施形態と重複する箇所については説明を省略する。
【0044】
先ず、図5(a)に示すように、図示しない型締手段を用いて、鋳造金型10の固定金型14と可動金型15を型締して金型キャビティ11とゲート12および補助キャビティ18を形成する(型締工程)。金型キャビティ11と補助キャビティ18は、溶湯Mが冷却凝固せずに流動できる範囲で狭くした絞り部19で連結される。また、型締工程と同時に、あるいは、型締工程に続いて、さらには充填工程と同時に、注入制御部25で注入ピン駆動部21を操作して、注入ピン22を媒体注入位置に配置させる。なお、ゲート12に近い金型キャビティ11に注入ピン22を配置したが、これに限定することなく、第1実施形態と同様に、例えば、ゲート12から離れた位置に配置しても良く、金型キャビティ11の中心部に配置するとしても良い。注入ピン22の配置によって、中空部の形成の状態を調整することができる。
【0045】
次に、図5(b)に示すように、ゲート開閉部13を操作してゲート12を開放とする。同時に、射出部30の加圧ガス制御部35で加圧ガス供給部34を操作して、加圧空間部33に圧力および流量が調整された加圧ガスを供給し、溶湯保持炉31内の溶湯Mを加圧ガスで押圧して、給湯管32およびゲート12を経由して金型キャビティ11内に溶湯Mを充填させる(充填工程)。
【0046】
ここで、充填工程において、ゲート12およびゲート開閉部13から充填された溶湯Mは、矢印で示すように、金型キャビティ11内を流動していく。金型キャビティ11を溶湯Mが充満し、補助キャビティ18には溶湯Mが流入していない状態で、射出部30の加圧ガス制御部35で加圧ガス供給部34を操作して、加圧ガスの供給を停止し、金型キャビティ11内への溶湯Mの充填を停止する。この状態の充填工程を充満充填工程という。
【0047】
充満充填工程に続いて、図6(c)に示すように、ゲート開閉部13を操作してゲート12を閉鎖する。同時に、注入制御部25で媒体供給部23を操作して、注入ピン22から金型キャビティ11に充填した溶湯Mの内部に向けて、加湿媒体として加湿空気Gの注入を行う(媒体注入工程)。
【0048】
ここで、充満充填工程において、金型キャビティ11と接触する溶湯Mは、急速に冷却され凝固し凝固層MCを形成する。媒体注入工程において、この凝固層MCで囲まれた内部の溶湯Mに向けて加湿空気Gが注入される。注入された加湿空気Gは、溶湯Mからの熱量を受けて急速加熱され熱膨張し(熱膨張工程)、溶湯Mを押圧して中空部GHを形成する(中空部形成工程)。中空部GHの形成に伴い、金型キャビティ11内の溶湯Mが絞り部19を通過して補助キャビティ18側に流動し、補助キャビティ18内を溶湯Mで充満していく。
【0049】
続いて、図6(d)に示すように、熱膨張工程と溶湯Mの流動によって、中空部GHが成長し、凝固層MCで囲まれた中空部GHが金型キャビティ11の全範囲に形成される。この時、例えば、注入した加湿空気Gの熱膨張量が足りずに、中空部GHの形成が設定した範囲に到達しない場合では、加湿空気Gの湿度を高くする、あるいは、安全な範囲で加湿空気Gの注入量を増やす、等の加湿空気Gの微調整を行う。逆に、注入した加湿空気Gの熱膨張量が過剰で、中空部GHが凝固層MCを突き破る等の不具合が生じた場合には、加湿空気Gの湿度を下げる、あるいは、安全な範囲で加湿空気Gの注入量を減らす、等の加湿空気Gの微調整を行う。図6(d)に示すように、中空部GHの形成に伴う溶湯Mの流動によって、補助キャビティ18の範囲内に溶湯Mの流動が収まる状態が好ましく、加湿空気Gの湿度または注入量と溶湯Mの充填量のバランスの調整を行う。
【0050】
また、第1実施形態と同様に、加湿空気の熱膨張を利用して増圧工程を行い、増圧工程と冷却工程と射出部30の準備工程を同時に行うことで、中空成形のサイクル短縮を可能とする。さらに、補助キャビティ18に流入した溶湯Mは、冷却工程後に補助キャビティ18から取り出して、図示しない溶解炉等で再溶解してリサイクル利用する。
【0051】
このように、金型キャビティ11内の溶湯Mの充満充填工程に続いて、湿度調整された加湿媒体、より好ましくは、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を、金型キャビティ11の溶湯Mの内部に注入することで、大きな熱膨張量を効率的に発生させることができる。これにより、金型キャビティ11の溶湯Mは、絞り部19を通過して補助キャビティ18側に流動し、補助キャビティ18内を溶湯Mで充満していく。同時に、金型キャビティ11内は、溶湯Mの凝固層MCで囲まれ内部に中空部GHを備える中空成形品を得る。その結果、中空率が高く軽量化効果の大きい中空成形品を効率的に製造する中空成形方法を提供することができる。また、大きな熱膨張量によって、金型キャビティ11への溶湯Mの押圧力が高まり、溶湯Mの密度および金型キャビティ11の形状転写性が好適に調整された高品質な鋳造品の安定生産とサイクル短縮を可能とする。さらに、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を用いることにより、水蒸気爆発等の危険性を確実に回避できる安全な中空成形方法を提供することができる。
【0052】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る、湿度調整した加湿媒体を注入して、鋳造品の内部に中空部を形成する中空成形方法について、図7および図8を用いて説明する。なお、図7および図8は、第1実施形態または第2実施形態と同様に、図1に示す鋳造金型10の金型キャビティ11を中心に、加湿媒体注入部20を配置した模式図である。また、注入制御部25で加湿調整部24を操作して、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を生成し貯蔵する加湿空気製造工程も第1実施形態または第2実施形態と同じである。そのため、第1実施形態または第2実施形態と重複する箇所については説明を省略する。
【0053】
先ず、図7(a)に示すように、図示しない型締手段を用いて、鋳造金型10の固定金型14と可動金型15を型締して金型キャビティ11とゲート12を形成する(型締工程)。また、型締工程と同時に、あるいは、型締工程に続いて、さらには充填工程と同時に、注入制御部25で注入ピン駆動部21を操作して、注入ピン22を媒体注入位置に配置させる。なお、ゲート12に離れた金型キャビティ11に注入ピン22を配置したが、これに限定することなく、第1実施形態または第2実施形態と同様に、例えば、ゲート12に近い位置に配置しても良く、金型キャビティ11の中心部に配置するとしても良い。注入ピン22の配置によって、中空部の形成の状態を調整することができる。
【0054】
次に、図7(b)に示すように、ゲート開閉部13を操作してゲート12を開放とする。同時に、射出部30の加圧ガス制御部35で加圧ガス供給部34を操作して、加圧空間部33に圧力および流量が調整された加圧ガスを供給し、溶湯保持炉31内の溶湯Mを加圧ガスで押圧して、給湯管32およびゲート12を経由して金型キャビティ11内に溶湯Mを充填させる(充填工程)。ゲート12およびゲート開閉部13から充填された溶湯Mは、矢印で示すように、金型キャビティ11内を流動して、溶湯Mで金型キャビティ11内を充満させる。
【0055】
充填工程に続いて、図8(c)に示すように、ゲート12を開放させた状態で、注入制御部25で媒体供給部23を操作して、注入ピン22から金型キャビティ11に充填した溶湯Mの内部に向けて、加湿媒体として加湿空気Gの注入を行う(媒体注入工程)。
【0056】
ここで、充填工程において、金型キャビティ11と接触する溶湯Mは、急速に冷却され凝固し凝固層MCを形成する。媒体注入工程において、この凝固層MCで囲まれた内部の溶湯Mに向けて加湿空気Gが注入される。注入された加湿空気Gは、溶湯Mからの熱量を受けて急速加熱され熱膨張し(熱膨張工程)、溶湯Mを押圧して中空部GHを形成する(中空部形成工程)。中空部GHの形成に伴い、金型キャビティ11の溶湯Mがゲート開閉部13およびゲート12に向かって流動し、給湯管32を経由して射出部30の溶湯保持炉31内に戻される。
【0057】
続いて、図8(d)に示すように、熱膨張工程と溶湯Mの流動によって、中空部GHが成長し、凝固層MCで囲まれた中空部GHが金型キャビティ11の全範囲に形成される。この時、第1実施形態または第2実施形態と同様に、中空部GHの形成状態に応じて、加湿空気Gの微調整と、溶湯Mの充填量とのバランス調整を行うことが好ましい。また、中空部GHの形成に伴う溶湯Mの流動によって、溶湯保持炉31に戻された溶湯Mは、溶湯保持炉31内に貯蔵される溶湯Mと混合して、次ショットの中空成形に利用される(溶湯回収という)。必要に応じて、溶湯Mの温度調整や組成調整および不純物の除去等の溶湯調整を行う。
【0058】
また、第1実施形態または第2実施形態と同様に、加湿空気の熱膨張を利用して増圧工程を行う。そのために、溶湯回収の任意のタイミングで、ゲート開閉部13を操作してゲート12を閉鎖し、溶湯回収を途中で停止し、金型キャビティ11内の溶湯Mを密閉状態とすることが好ましい。また、増圧工程と冷却工程と射出部30の準備工程を同時に行うことで、中空成形のサイクル短縮を可能とする。
【0059】
このように、金型キャビティ11内の溶湯Mの充満充填工程に続いて、湿度調整された加湿媒体、より好ましくは、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を、金型キャビティ11の溶湯Mの内部に注入することで、大きな熱膨張量を効率的に発生させることができる。これにより、金型キャビティ11の溶湯Mは、射出部30側に戻され溶湯回収が行われる。同時に、金型キャビティ11内は、溶湯Mの凝固層MCで囲まれ内部に中空部GHを備える中空成形品を得る。その結果、中空率が高く軽量化効果の大きい中空成形品を効率的に製造する中空成形方法を提供することができる。また、大きな熱膨張量によって、金型キャビティ11への溶湯Mの押圧力が高まり、溶湯Mの密度および金型キャビティ11の形状転写性が好適に調整された高品質な鋳造品の安定生産とサイクル短縮を可能とする。さらに、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を用いることにより、水蒸気爆発等の危険性を確実に回避できる安全な中空成形方法を提供することができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【0061】
例えば、金型キャビティ11内に射出充填した溶融樹脂の内部に向けて、飽和水蒸気よりも低い湿度に調整した加湿空気を注入する。注入した加湿空気は、溶融樹脂から熱量を受けて加熱され熱膨張し、溶融樹脂を押圧して中空部を形成する中空成形を行うことができる。なお、例えば、溶融樹脂を用いた中空成形の従来技術として、水を注入する手段、またはスチーム等の飽和水蒸気を注入する手段が開示されている。しかし、水では溶融樹脂が急速に冷却され、水を加熱して熱膨張するには好ましくない。また、飽和水蒸気では水分量が多いために、水と同様に溶融樹脂は急速に冷却される。これに対して、本発明の加湿空気は、水分量が少なく溶融樹脂を急速に冷却することを回避でき、加湿空気が十分に加熱されて熱膨張することができることから、溶融樹脂の内部に中空部を形成する中空成形においても好適な手段である。
【符号の説明】
【0062】
100 中空成形装置
10 鋳造金型
11 金型キャビティ
12 ゲート
13 ゲート開閉部
14 固定金型
15 可動金型
16 固定盤
17 可動盤
18 補助キャビティ
19 絞り部
20 加湿媒体注入部
21 注入ピン駆動部
22 注入ピン
23 媒体供給部
24 加湿調整部
25 注入制御部
30 射出部
31 溶湯保持炉
32 給湯管
33 加圧空間部
34 加圧ガス供給部
35 加圧ガス制御部
M 溶湯
MC 凝固層
T1 調整温度
P1 調整圧力
W1 水分量
S1~S3 湿度
B1~B3 熱膨張量
MF 充満部
MS 未充満部
G 加湿空気
GH 中空部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8