(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024723
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】自動車用ピットの構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/01 20060101AFI20240216BHJP
E02D 29/05 20060101ALI20240216BHJP
E04H 6/42 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E02D27/01
E02D29/05 C
E04H6/42 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127562
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000117467
【氏名又は名称】安全自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512058641
【氏名又は名称】株式会社 SHOWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神田 達也
(72)【発明者】
【氏名】横塚 哲也
【テーマコード(参考)】
2D046
2D147
【Fターム(参考)】
2D046BA00
2D147AA05
(57)【要約】
【課題】自動車用ピットの構築方法において、工期をさらに短縮可能にする。
【解決手段】ピット構築現場の床面下に形成され自動車を点検又は整備するための自動車用ピットの構築方法であって、一対の側部及び底部を有するとともに上部が開放されたコンクリート成形体を工場において製造する製造工程と、製造工程によって製造されたコンクリート成形体を工場からピット構築現場まで搬送する搬送工程と、床面を掘削してコンクリート成形体を載置可能な凹部を形成する掘削工程と、コンクリート成形体を凹部に載置する載置工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピット構築現場の床面下に形成され自動車を点検又は整備するための自動車用ピットの構築方法であって、
一対の側部及び底部を有するとともに上部が開放されたコンクリート成形体を工場において製造する製造工程と、
前記製造工程によって製造された前記コンクリート成形体を前記工場から前記ピット構築現場まで搬送する搬送工程と、
前記床面を掘削して前記コンクリート成形体を載置可能な凹部を形成する掘削工程と、
前記コンクリート成形体を前記凹部に載置する載置工程と、
を備える自動車用ピットの構築方法。
【請求項2】
前記コンクリート成形体と前記凹部を形成する壁面との間の少なくとも一部にグラウト材を注入するグラウト注入工程をさらに備える請求項1に記載の自動車用ピットの構築方法。
【請求項3】
前記グラウト注入工程は前記載置工程の後に行われ、
前記グラウト注入工程は、
前記コンクリート成形体の前記底部に貫通孔を形成する第1ステップと、
前記第1ステップの後で、前記貫通孔を通して前記底部と前記凹部を形成する底壁面との間に前記グラウト材を注入する第2ステップと、
を含む請求項2に記載の自動車用ピットの構築方法。
【請求項4】
前記載置工程は、前記コンクリート成形体の前記底部の少なくとも一部が前記底壁面に接地した状態で前記コンクリート成形体のレベリングを調整可能なように吊上げ装置によって前記コンクリート成形体を吊り上げるレベリングステップを含む、
請求項3に記載の自動車用ピットの構築方法。
【請求項5】
前記第2ステップは、前記レベリングステップと並行して実施される、
請求項4に記載の自動車用ピットの構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車用ピットの構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の整備工場では、自動車の底面部分を点検又は整備するために、床面を掘削してピットが構築され、このピットには車両を床面から上昇させるためのリフト装置や各種検査機器類が設置される。従来、自動車用ピットの構築方法は、まず、整備工場の床面を掘削して凹部を形成し、この凹部に型枠を組み立て、この型枠によって区画される空間に鉄筋などを配筋してコンクリートを打設し、打設したコンクリートを養生した後、型枠を取り除くという作業工程を行っている。
【0003】
このような従来の構築方法は、床面に形成された凹部にコンクリートの打設空間を形成するための型枠を製作する工事や、打設したコンクリートを養生させるために多くの期間を必要とする。そこで、特許文献1には、工期をもっと短縮可能なピット構築方法が提案されている。このピット構築方法は、ピットを構築する床面とは別の場所で型枠を製作する。この型枠は底部に足場を有し、凹部に載置されたとき、凹部の側面及び底面との間にコンクリートの打設空間を有するように配置される。従って、一度のコンクリート打設工程で、ピットの側部及び底部を含むピット全体を形成できると共に、コンクリートの養生期間中に、型枠の内側で機器類を設置する作業を行い、型枠はそのまま埋め殺すようにしているため、従来の構築方法と比べて、現場での型枠の組立作業及び撤去作業をなくすことができ、そのため、工期を短縮することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたピット構築方法は、依然として、工期中にコンクリートの養生期間を含むため、工期を画期的に短縮することはできず、さらなる工期の短縮が望まれている。
【0006】
本開示は、上述する事情に鑑みてなされたもので、自動車用ピットの構築方法において、工期をさらに短縮可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る自動車用ピットの構築方法の一態様は、ピット構築現場の床面下に形成され自動車を点検又は整備するための自動車用ピットの構築方法であって、一対の側部及び底部を有するとともに上部が開放されたコンクリート成形体を工場において製造する製造工程と、前記製造工程によって製造された前記コンクリート成形体を前記工場から前記ピット構築現場まで搬送する搬送工程と、前記床面を掘削して前記コンクリート成形体を載置可能な凹部を形成する掘削工程と、前記コンクリート成形体を前記凹部に載置する載置工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の自動車用ピットの構築方法の一態様によれば、自動車用ピットを構築する現場での工期を大幅に短縮できると共に、型枠を製造する工場で同じ型枠を使って複数のコンクリート成形体を製造できるため、コンクリート成形体の品質を統一でき、かつ製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る自動車用ピットの構築方法を示す工程図である。
【
図2】ピット構築方法のうちの一実施形態に係る掘削工程を示す工程図である。
【
図3】製造工程で製造されたコンクリート成形体の一例を示す斜視図である。
【
図4】掘削工程の墨出しステップにおいて、自動車用ピットが構築される床面に掘削する位置を規定するラインを引いた状態を示す平面視説明図である。
【
図5】載置工程によってコンクリート成形体を凹部に載置した状態を示す斜視図である。
【
図6】載置工程の後、コンクリート成形体と凹部との間に形成された隙間を埋めて、自動車用ピットの構築を完成させた状態を示す斜視図である。
【
図7】吊上げ装置により実施される一実施形態に係る載置工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1は、一実施形態に係る自動車用ピットの構築方法を示す工程図である。
図2は、ピット構築方法のうちの一実施形態に係る掘削工程を示す工程図である。
図1において、まず、自動車用ピットの形状を規定するコンクリート成形体を製造する(製造工程S10)。自動車用ピットは車両を点検又は整備する整備工場で例えば屋内の床面下に形成される。他方、コンクリート成形体は、ピットを構築する現場とは異なる場所で製造される。例えば、コンクリート成形体を製造するための工場で製造され、この工場は、自動車用ピットを構築する整備工場と離れた位置にあるか、又は該整備工場に隣接した位置にあってもよい。製造工場などで製造されたコンクリート成形体は、トラックなどの搬送手段でピット構築現場まで搬送される(搬送工程S11)。
【0012】
図3は、製造工程S10で製造されたコンクリート成形体10の一例を示す斜視図である。
図3に図示されるコンクリート成形体10は、基部12と、基部12の長手方向両端部で基部12に対して直交する方向に沿うように接続された一対の直交部14A及び14Bと、で構成され、全体としてコ字状に形成されている。基部12及び直交部14A、14Bは、基部12及び一対の直交部14A、14Bの各々は、夫々自動車用ピットの一対の側面を形成する一対の側部16a及び16bと、自動車用ピットの底面を形成する底部18と、を有している。一対の側部16a、16b及び底部18の内側に上部が開放された内側空間S1、S2又はS3を有している。これらの内側空間は床面下で自動車用ピットによって形成される空間を形成する。
【0013】
図3に図示されている実施形態では、コンクリート成形体10は、基部12と一対の直交部14A及び14Bとに3分割されて形成されている。
図3に図示されているコンクリート成形体10のように、大型でかつ複雑な形状をしている場合には、トラックなどで運搬しやすいように、通常、適宜な大きさに分割されて製造される。
【0014】
図3において、基部12及び直交部14A、14Bの各々の外形は、夫々直方体の形状を有している。基部12の長手方向両端部において、直交部14A及び14Bが当接する側壁には、基部12に形成された内側空間S1と直交部14A及び14Bの各々に形成された内側空間S2及びS3とを連通させるための開口O1が形成されている。他方、直交部14A及び14Bの各々の長手方向一端側の側壁には、凹部24に載置された後、基部12に形成された内側空間S1と直交部14A及び14Bに形成された内側空間S2及びS3とを連通させるための開口O2及びO3が形成されている。
【0015】
このように、コンクリート成形体10を分割して形成することで、専用工場で製造されたコンクリート成形体10を複数のトラックに分散させて運搬することができ、運搬が容易になる。また、ピット1を構築する現場でコンクリート成形体10を凹部24に載置するときも、吊上げ対象物を軽量化できる利点がある。さらに、基部12及び直交部14A、14Bの各々は、トラックの荷台の形状に合わせて直方体の形状に形成されているため、トラックの荷台に搬入しやすい。
【0016】
基部12に形成される内側空間S1の幅寸法W1、直交部14Aに形成される内側空間S2の幅寸法W2、及び直交部14Bに形成される内側空間S3の幅寸法W3は、点検又は整備される車両がピットの上方でこれら内側空間のひとつを覆うように配置できるように、車両のタイヤ間の間隔より小さい寸法となるように設定される。
図3に示されるコンクリート成形体10は一例にすぎず、コンクリート成形体はこの形状に限定されない。
【0017】
製造工程S10では、流動状態のコンクリートが打設される打設空間を形成する型枠が製作されるステップや、該打設空間に鉄筋を配置する配筋ステップや、打設空間にコンクリートを流し込む打設ステップや、打設空間に打設されたコンクリートが養生した後、養生後の固まったコンクリート成形体10を型枠から脱枠する脱枠ステップ等が適宜行われる。製造工場で、これらのステップを経て、コンクリート成形体10が製造される。
【0018】
製造工程S10とは別に、自動車用ピットを構築する現場で、床面を掘削して、コンクリート成形体10を載置可能な凹部を形成する掘削工程S12を行う。
図2は、一実施形態に係る掘削工程S12で行われる各ステップを示している。
【0019】
図2に図示されている掘削工程S12では、まず、ピットを構築する床面に掘削する位置を規定する掘削ラインを引く(墨出しステップS12a)。
図4は、墨出しステップS12aにおいて、自動車用ピットが構築される床面20に掘削する位置を規定する掘削ライン22を引いた状態を示す平面視説明図である。
次に、カッタ装置を用いて、掘削ライン22に沿って床面20を形成するコンクリート層を切断する(カッタ入れステップS12b)。その後、切断したコンクリート層を取り除くと共に、このコンクリート層の下方の土層を掘削してコンクリート成形体10を載置する凹部24を形成する(凹部形成ステップS12c)。
図4に示されるように、掘削ライン22の内側に、コンクリート成形体10が載置される凹部24が形成される。
【0020】
掘削工程S12で凹部24を形成した後、コンクリート成形体10を凹部24に載置する(載置工程S14)。例えば、コンクリート成形体10をトラックなどに積んで製造工場から自動車用ピットを構築する現場まで運搬する。そして、コンクリート成形体10をトラックから降し、ピットを構築する現場まで運んだ後凹部24に載置する。
【0021】
図5は、載置工程S14によってコンクリート成形体10を床面20に形成された凹部24に載置した状態を示す斜視図である。
図5では、コンクリート成形体10と凹部24を形成する壁面(側壁面24a及び底壁面24b)との間に隙間cが形成されている状態を示している。
図6は、コンクリート成形体10を凹部24に載置した後、コンクリート成形体10と凹部24との間に形成された隙間cを埋めて、自動車用ピット1の構築を完成した状態を示す斜視図である。
【0022】
本実施形態によれば、コンクリート成形体10は、ピット1を構築する現場とは別な場所、例えば、専用の製造工場などで予め製造することができるため、ピット1を構築する現場でのコンクリート養生期間をなくすことができる。また、コンクリート成形体10を別な場所で製造するため、ピット1を構築する現場でコンクリート打設空間を形成するために組み立てられる型枠の組立ても省略できる。そのため、ピット1を構築する現場での工期を大幅に短縮できる。さらに、コンクリート成形体10を製造する専用工場で1つの鋼製型枠を使い回して複数のコンクリート成形体10を製造できるため、コンクリート成形体10の品質を統一できると共に、コンクリート成形体10の個々の製造コストを低減できるという利点がある。加えて、従来、ピット1を構築する現場で使用していた木製の型枠などの建築廃棄物を大幅に削減できる利点がある。
【0023】
一実施形態では、載置工程S14で、コンクリート成形体10を凹部24に載置した後、コンクリート成形体10と凹部24を形成する壁面(例えば、
図5に示される側壁面24a及び底壁面24b)との間に形成される隙間c(
図5を参照)にグラウト材を注入して隙間cを埋めるようにする(
図1に示されるグラウト注入工程S16)。
図6において、符号30は、コンクリート成形体10と凹部24を形成する壁面との間に注入されたグラウト材を示す。グラウト材の材料として、例えば、セメント系材料、ガラス系材料、合成樹脂等が用いられる。
【0024】
このように、コンクリート成形体10を凹部24に載置する載置工程S14の後で、グラウト注入工程S16を行って、コンクリート成形体10と凹部24を形成する壁面との間にグラウト材30を注入することで、コンクリート成形体10とコンクリート成形体10を囲む凹部24を形成する壁面との間の付着性を高めることができ、これによって、これらの間に雨水などの水分が侵入するのを防止できる。また、グラウト材30は耐久性が良く、かつ収縮しないため、凹部24に載置されたコンクリート成形体10を安定支持でき、コンクリート成形体10の沈下などを防止できる。さらに、コンクリート成形体10の底部18の下面と凹部24を形成する底壁面24bとの間にグラウト材を注入する場合には、グラウト材の注入場所に応じて、グラウト材の注入量を調整することで、レベリング調整が可能になる。
【0025】
ここで「レベリング」とは、コンクリート成形体10が全体として傾かずに水平な姿勢となるように調整することを言う。
【0026】
図7は、吊上げ装置により実施される一実施形態に係る載置工程S14を示す斜視図である。一実施形態では、グラウト注入工程S16は載置工程S14の後に行われる。このグラウト注入工程S16は、
図7に示されるように、まず、凹部24に収納され載置されたコンクリート成形体10の底部18に貫通孔32を形成する(
図1に示される第1ステップS16a)。そして、第1ステップS16aの後で、貫通孔32を通して底部18と凹部24を形成する底壁26の表面(底壁面)との間にグラウト材30を注入する(
図1に示される第2ステップS16b)。
【0027】
本実施形態によれば、グラウト注入工程S16がコンクリート成形体10を凹部24に載置する載置工程S14の後で行われる場合であっても、コンクリート成形体10の底部18に形成された貫通孔32を通して、コンクリート成形体10の底部18と凹部24を形成する底壁26の表面との間にグラウト材30を注入することが可能になる。また、コンクリート成形体10が凹部24の底壁面に載置され、コンクリート成形体10が凹部24の底壁面に安定支持された後にグラウト注入工程S16を行うことができるため、ピット構築方法を構成する各行程の施工順序の自由度を広げることができる。
【0028】
一実施形態では、貫通孔32は、基部12及び直交部14A、14Bの各々において、基部12及び直交部14A、14Bの長手方向に沿って、これら部材の底部18に一定の間隔で複数形成される。他方、貫通孔32を形成する位置はこれに限定されない。
【0029】
一実施形態では、載置工程S14は、ピット1を構築する現場まで運んできたコンクリート成形体10を吊上げ装置40を用いて凹部24に載置する。この場合に、コンクリート成形体10の少なくとも底部18の一部が凹部24を形成する底壁26の表面(底壁面)に接地した状態でレベリングを行う(
図1に示されるレベリングステップS14a)。具体的に、コンクリート成形体10がレベリング調整されているかどうかを検査し確認する箇所は、例えば、コンクリート成形体10の底部18であり、底部18の下面が平坦である場合は、該下面である。
【0030】
このように、載置工程S14において、コンクリート成形体10を吊上げ装置40によって吊り上げながら、コンクリート成形体10の底部18の少なくとも一部、即ち、底部18の一部又は全部を凹部24の底壁26の表面に接地させ、吊上げ装置40に負荷されるコンクリート成形体10の重量を軽減した状態でレベリングを行うため、レベリング調整が容易になる。また、このレベリングステップS14aでは、凹部24の底壁26の表面に加わるコンクリート成形体10の重量が軽減されるため、グラウト材30の底壁面へのグラウト材30の注入が容易になる。
【0031】
図7に示される実施形態では、吊上げ装置40は、床面20で移動可能なように下端部に車輪46を有して立設される複数の支持脚44と、複数の支持脚44の上端部に架設されたフレーム42とを備える本体部を有している。一方、コンクリート成形体10の底部18の上面に接続環48が固着され、吊上げワイヤ50の一端が接続環48に接続され、吊上げワイヤ50の他端がフレーム42に接続される。コンクリート成形体10は、吊上げワイヤ50によって吊り上げられて凹部24に載置される。
【0032】
図7は、基部12及び直交部14Bと分割して製造された直交部14Aを凹部24に載置する場合を示している。直交部14Aの長手方向両端部に近い位置で底部18の上面に4つの接続環48が固着されている。4つの接続環48は、直交部14Aの長手方向両端部側に2つずつに配置され、両端部側の各々で底部18の幅方向で互いに端側に離れて配置されている。これによって、4本の吊上げワイヤ50で直交部14Aを吊り上げたとき、直交部14Aのぐらつきを極力抑えることができる。4本の吊上げワイヤ50が4個の接続環48の各々に接続され、レベリングステップS14aにおいて、コンクリート成形体10が水平な姿勢となるように、各吊上げワイヤ50の長さが調整される。各吊上げワイヤ50の長さ調整手段として、例えば、図示のように、ターンバックル52などの手段が用いられる。
基部12及び直交部14Bを凹部24に載置するときも、直交部14Aと同じ要領で行う。
【0033】
一実施形態では、グラウト注入工程S16における貫通孔32を形成する第1ステップS16aの後で、貫通孔32を通して底部18と凹部24を形成する底壁26の表面との間にグラウト材30を注入する第2ステップS16bと、レベリングステップS14aとを並行して実施する。
【0034】
本実施形態によれば、貫通孔32を形成してグラウト材30を注入する第2ステップS16bと、レベリングステップS14aとを並行して行うため、吊上げ装置40で吊り上げられたコンクリート成形体10を水平な姿勢に調整しつつ、水平な姿勢を維持したまま、かつコンクリート成形体10の少なくとも底部18の一部が凹部24を形成する底壁26の表面に接地し、吊上げ装置40に負荷されるコンクリート成形体10の重量を軽減した状態で、コンクリート成形体10の底部18と凹部24を形成する底壁26の表面との間にグラウト材30が注入される。このように、底壁26の表面に加わるコンクリート成形体10の重量が軽減された状態で底壁26の表面にグラウト材30が注入されるため、グラウト材30が注入しやすくなる。また、吊上げ装置40による吊り上げ状態が解除され、コンクリート成形体10が凹部24に載置された後でも、吊上げ中に調整されたレベリング状態を維持できるため、コンクリート成形体10を凹部24の底壁面上で正確に水平に保持できる。また、第2ステップS16bとレベリングステップS14aとが並行して実施されるため、これらのステップに要する作業時間を短縮できる。
【0035】
図7に図示されている実施形態では、掘削工程S12を行って凹部24を形成した後、凹部24の底面を形成する底壁26の表面に砕石を敷き詰めて砕石層54を形成する。その後、敷き詰めた砕石層54に転圧処理を施して砕石層54の密度を高めるようにする。さらに、砕石層54とコンクリート成形体10の底部18との間に上述の方法でグラウト材30を注入する。こうして、底壁26の表面に砕石層54を敷設したことによって、コンクリート成形体10をさらに安定して支持でき、コンクリート成形体10の沈下などを防止できる。
【0036】
さらに、
図7に図示されている実施形態では、コンクリート成形体10の底部18と砕石層54又は凹部24を形成する壁面との間にグラウト材30が充填され、かつ、コンクリート成形体10の側壁の上部と凹部24を形成する側壁面の上部との間にグラウト材30が充填されて、コンクリート成形体10と凹部24を形成する壁面との間の隙間cが埋められる。さらに、これら上部側グラウト材30と底部側グラウト材30との間の領域で、コンクリート成形体10の側壁と凹部24を形成する壁面との間に川砂56が充填される。これによって、コンクリート成形体10の外壁面とコンクリート成形体10を囲む凹部24を形成する壁面との間の付着性を高め、これらの間に雨水などの水分が侵入するのを防止できる。さらに、コンクリート成形体10の底部18が砕石層54及びグラウト材30によって安定支持されるため、コンクリート成形体10の沈下などを防止できる。
【0037】
一実施形態では、コンクリート成形体10を凹部24に載置する載置工程S14を行う前に、グラウト材30を凹部24を形成する底壁26の表面又は底壁26の表面に敷設された砕石層54の表面に配置するようにしてもよい。この実施形態によれば、コンクリート成形体10が凹部24に載置される前の開放された凹部24の底部18にグラウト層を形成するため、グラウト層を形成する作業性を高めることができる。
【0038】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0039】
1)一態様に係る自動車用ピットの構築方法は、ピット構築現場の床面(20)下に形成され自動車を点検又は整備するための自動車用ピットの構築方法であって、一対の側部(16a、16b)及び底部(18)を有するとともに上部が開放されたコンクリート成形体(10)を工場において製造する製造工程(S10)と、前記製造工程(S10)によって製造された前記コンクリート成形体(10)を前記工場から前記ピット構築現場まで搬送する搬送工程(S11)と、前記床面(20)を掘削して前記コンクリート成形体(10)を載置可能な凹部(24)を形成する掘削工程(S12)と、前記コンクリート成形体(10)を前記凹部(24)に載置する載置工程(S14)と、を備える。
【0040】
このような構成によれば、上記コンクリート成形体(10)は、ピット構築現場とは異なる場所にある工場で前もって製造することができるため、ピット(1)を構築する現場でのコンクリート養生期間をなくすことができる。また、コンクリート成形体(10)をピット構築現場と異なる場所で製造するため、ピット構築現場でコンクリート打設空間を形成するための型枠の製作も省略できる。そのため、ピット構築現場での工期の短縮が可能になる。さらに、専用の製造工場などで同じ型枠を使って複数のコンクリート成形体(10)を製造できるため、コンクリート成形体(10)の品質を統一できると共に、製造コストを低減できる。
【0041】
2)別な態様に係る自動車用ピットの構築方法は、1)に記載の自動車用ピットの構築方法において、前記コンクリート成形体(10)と前記凹部(24)を形成する壁面(24a、24b)との間の少なくとも一部にグラウト材(30)を注入するグラウト注入工程(S16)をさらに備える。
【0042】
このような構成によれば、コンクリート成形体(10)を凹部(24)に載置した後で、コンクリート成形体(10)と凹部(24)を形成する壁面(24a、24b)との間にグラウト材(30)を注入することで、コンクリート成形体(10)とコンクリート成形体(10)を囲む該壁面(24a、24b)との付着性を高め、これらの間に雨水などの水分が侵入するのを防止できる。また、グラウト材(30)は耐久性が良く、かつ収縮しないため、凹部(24)に載置されたコンクリート成形体(10)を安定支持でき、コンクリート成形体(10)の沈下などを防止できる。なお、コンクリート成形体(10)の底部(18)と凹部(24)を形成する底壁面(24b)との間にグラウト材(30)を注入する場合には、グラウト材(30)の注入場所に応じて、グラウト材(30)の注入量を調整することで、コンクリート成形体(10)のレベリング調節が可能になる。
【0043】
3)さらに別な態様に係る自動車用ピットの構築方法は、2)に記載の自動車用ピットの構築方法において、前記グラウト注入工程(S16)は前記載置工程(S14)の後に行われ、前記グラウト注入工程(S16)は、前記コンクリート成形体(10)の前記底部(18)に貫通孔(32)を形成する第1ステップ(S16a)と、前記第1ステップ(S16a)の後で、前記貫通孔(32)を通して前記底部(18)と前記凹部(24)を形成する底壁面(24b)との間に前記グラウト材(30)を注入する第2ステップ(S16b)と、を含む。
【0044】
このような構成によれば、グラウト注入工程(S16)がコンクリート成形体(10)を凹部(24)に載置する載置工程(S14)の後で行われる場合であっても、上記貫通孔(32)を通してコンクリート成形体(10)の底部(18)と凹部(24)を形成する底壁面(24b)との間にグラウト材(30)を注入することが可能になる。
【0045】
4)さらに別な態様に係る自動車用ピットの構築方法は、3)に記載の自動車用ピットの構築方法において、前記載置工程(S14)は、前記コンクリート成形体(10)の前記底部(18)の少なくとも一部が前記底壁面(24b)に接地した状態で前記コンクリート成形体(10)のレベリングを調整可能なように吊上げ装置(40)によって前記コンクリート成形体(10)を吊り上げるレベリングステップ(S14a)を含む。
【0046】
このような構成によれば、載置工程(S14)において、コンクリート成形体(10)を吊上げ装置(40)によって吊り上げながら、床面(20)に形成された凹部(24)にコンクリート成形体(10)を載置する場合に、コンクリート成形体(10)の底部(18)の少なくとも一部が凹部(24)の底壁面(24b)に接地し、吊上げ装置(40)に負荷されるコンクリート成形体(10)の重量を軽減した状態でレベリング調整を行うため、レベリング作業が容易になる。
【0047】
5)さらに別な態様に係る自動車用ピットの構築方法は、4)に記載の自動車用ピットの構築方法において、前記第2ステップ(S16b)は、前記レベリングステップ(S14a)と並行して実施される。
【0048】
このような構成によれば、上記第2ステップ(グラウト材注入ステップ)(S16b)がレベリングステップ(S14a)と並行して実施されるため、吊上げ装置(40)で吊り上げられたコンクリート成形体(10)を水平な姿勢に調整しつつ、水平な姿勢を維持した状態のまま、かつ吊上げ装置(40)に負荷されるコンクリート成形体(10)の重量を軽減した状態で、コンクリート成形体(10)の底部(18)と凹部(24)を形成する底壁面(24b)との間にグラウト材(30)が注入される。このように、吊上げ中にグラウト材(30)が注入されるため、グラウト材(30)を注入しやすくなる。また、吊上げ中にレベリングステップ(S14a)を行うため、吊上げ装置(40)による吊り上げ状態が解除され、コンクリート成形体(10)が凹部(24)に載置された後でも、吊上げ中に調整されたレベリング状態を維持できるため、コンクリート成形体(10)を凹部(24)の底壁面(24b)上で正確に水平に保持できる。さらに、第2ステップ(S16b)とレベリングステップ(S14a)とが並行して実施されるため、これらのステップに要する作業時間を短縮できる。
【符号の説明】
【0049】
1 自動車用ピット
10 コンクリート成形体
12 基部
14A、14B 直交部
16a、16b 側部
18 底部
20 床面
22 掘削ライン
24 凹部
24a 側壁面
24b 底壁面
26 底壁
30 グラウト材
32 貫通孔
40 吊上げ装置
42 フレーム
44 支持脚
46 車輪
48 接続環
50 吊上げワイヤ
52 ターンバックル
54 砕石層
56 川砂層
O1、O2、O3 開口
S1、S2、S3 内側空間
W1、W2、W3 幅寸法
c 隙間