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特開2024-24768ポリエチレンナフタレート樹脂組成物及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024768
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ポリエチレンナフタレート樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240216BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240216BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240216BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240216BHJP
【FI】
G02B5/22
C08L67/02
C08L79/08 B
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127637
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊與 直希
【テーマコード(参考)】
2H148
4J002
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA12
2H148CA14
2H148CA17
4J002CF063
4J002CF08W
4J002CM04X
4J002FD096
4J002FD097
4J002GN00
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】耐擦傷性および耐熱性に優れ、かつそれよりなる成形品が波長選択的な吸収特性を有するポリエチレンナフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリエチレンナフタレート樹脂(A成分)45~90重量部および(B)ポリエーテルイミド樹脂(B成分)55~10重量部の合計100重量部に対して、(C)色剤(C成分)を0.055~1.3重量部含有する樹脂組成物であって、400~700nmにおける厚さ1mmに成形した成形品の厚さ方向の光線透過率の平均値が1.5%以下、1050~1100nmにおける厚さ1mmに成形した成形品の厚さ方向の光線透過率の平均値が80%以上であり、かつポリカーボネート樹脂を含まないことを特徴とする、レーザー溶接用途を除く樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンナフタレート樹脂(A成分)45~90重量部および(B)ポリエーテルイミド樹脂(B成分)55~10重量部の合計100重量部に対して、(C)色剤(C成分)を0.055~1.3重量部含有する樹脂組成物であって、400~700nmにおける厚さ1mmに成形した成形品の厚さ方向の光線透過率の平均値が1.5%以下、1050~1100nmにおける厚さ1mmに成形した成形品の厚さ方向の光線透過率の平均値が80%以上であり、かつポリカーボネート樹脂を含まないことを特徴とする、レーザー溶接用途を除く樹脂組成物。
【請求項2】
A成分およびB成分の合計100重量部に対して、(D)ポリエチレンテレフタレート樹脂(D成分)を5~50重量部含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
C成分が、(C1)650nm未満に吸収極大を有する色剤(C1成分)および(C2)650~880nmに吸収極大を有する色剤(C2成分)を含む色剤である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
C2成分がアントラキノン系色剤、フタロシアニン系色剤、ペリレン系色剤および複素環系色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の色剤であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
C2成分がアントラキノン系色剤、ペリレン系色剤および複素環系色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の色剤であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項7】
赤外線センサーを覆うカバー材料である請求項6に記載の成形品。
【請求項8】
ドライバーを監視するドライバーモニタリングシステム並びに他の車両および建築物を検知するためのLiDARに使用される赤外線センサーを覆うカバー材料である請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐擦傷性および耐熱性に優れ、かつそれよりなる成形品が波長選択的な吸収特性を有するポリエチレンナフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転技術が急速な発展を遂げている。自動運転技術には、赤外線によるセンシングシステムが重要な役割を果たす。赤外線によるセンシングシステムとしては、例えば、ドライバーを監視するドライバーモニタリングシステムや他の車両や建築物を検知するためのLiDARが該当し、センシングには800~1100nm付近の近赤外線が一般的に使用される。但し、赤外線によるセンシングを行う際、可視光~近赤外線の光がノイズとなるため、センシングに用いる波長領域を透過させ、それ以下の波長領域の透過をカットするカバー材が必要となる。カバー材としては、ガラスや樹脂が用いられ、樹脂では透明材であるアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などが一般的に用いられている。一方で、これらの透明樹脂は耐擦傷性が低く、カバー材として外装に置かれた場合、使用に伴って表面が傷付き、外観や赤外線透過能が損なわれてしまうという問題があった。
【0003】
波長選択制御樹脂に関する検討は過去にも実施されている。それらは、吸収波長帯の異なる色剤を複数併用することで可視光領域~一部の近赤外領域をカットする技術である(特許文献1、2参照)。しかしながらこれらの樹脂組成物はポリカーボネート樹脂を主成分としており、カバー材として用いる上での耐擦傷性が不十分である。他の透明樹脂のひとつにポリエチレンナフタレート樹脂が挙げられる。ポリエチレンナフタレート樹脂はポリエチレンテレフタレート樹脂に比べ静置場での結晶化速度が遅いため、射出成形により容易に透明な成形品が得られる特徴があり、透明射出成形品用途に用いられている。しかしながら、ポリエチレンナフタレート樹脂はポリカーボネート樹脂と比べて耐熱性に劣るため、高温環境に曝される自動車内装用途への適用は困難であった。加えて、成形条件や成形品の形状によって透明性が低下する場合があり、安定した透明性の確保も課題であった。耐熱性を向上させる手段としては、ポリエステル樹脂と相溶性のあるポリエーテルイミド樹脂を添加する方法が開示されている(特許文献3、4参照)。しかしながら、これらの樹脂組成物の波長選択制御および耐擦傷性に関する検討はなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-9222号公報
【特許文献2】特許第6658942号公報
【特許文献3】特開2018-76430号公報
【特許文献4】特開平7-228761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐擦傷性および耐熱性に優れ、かつそれよりなる成形品が波長選択的な吸収特性を有するポリエチレンナフタレート樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成せんとして鋭意検討を重ねた結果、ポリエチレンナフタレート樹脂およびポリエーテルイミド樹脂を特定の比率で含む樹脂成分に対し、色剤を特定量添加することにより、耐擦傷性および耐熱性に優れ、かつそれよりなる成形品が波長選択的な吸収特性を有するポリエチレンナフタレート樹脂組成物を提供できることを見出し、上記課題を解決するに至った。すなわち、本発明者は、上記課題が下記のポリエチレンナフタレート樹脂組成物及びその成形品により達成されることを見出した。
【0007】
1.(A)ポリエチレンナフタレート樹脂(A成分)45~90重量部および(B)ポリエーテルイミド樹脂(B成分)55~10重量部の合計100重量部に対して、(C)色剤(C成分)を0.055~1.3重量部含有する樹脂組成物であって、400~700nmにおける厚さ1mmに成形した成形品の厚さ方向の光線透過率の平均値が1.5%以下、1050~1100nmにおける厚さ1mmに成形した成形品の厚さ方向の光線透過率の平均値が80%以上であり、かつポリカーボネート樹脂を含まないことを特徴とする、レーザー溶接用途を除く樹脂組成物。
2.A成分およびB成分の合計100重量部に対して、(D)ポリエチレンテレフタレート樹脂(D成分)を5~50重量部含有する前項1に記載の樹脂組成物。
3.C成分が、(C1)650nm未満に吸収極大を有する色剤(C1成分)および(C2)650~880nmに吸収極大を有する色剤(C2成分)を含む色剤である前項1または2に記載の樹脂組成物。
4.C2成分がアントラキノン系色剤、フタロシアニン系色剤、ペリレン系色剤および複素環系色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の色剤であることを特徴とする前項3に記載の樹脂組成物。
5.C2成分がアントラキノン系色剤、ペリレン系色剤および複素環系色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の色剤であることを特徴とする前項3に記載の樹脂組成物。
6.前項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
7.赤外線センサーを覆うカバー材料である前項6に記載の成形品。
8.ドライバーを監視するドライバーモニタリングシステム並びに他の車両および建築物を検知するためのLiDARに使用される赤外線センサーを覆うカバー材料である前項7に記載の成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は耐擦傷性および耐熱性に優れ、かつそれよりなる成形品が波長選択的な吸収特性を有するポリエチレンナフタレート樹脂組成物であるため、それよりなる成形品は、自動車、産業機械、家庭用電気機械、カメラ等に搭載される赤外線センサーを覆うカバー材料、その中でも、ドライバーを監視するドライバーモニタリングシステム並びに他の車両および建築物を検知するためのLiDARに使用される赤外線センサーを覆うカバー材料として有用であり、将来の安全な自動運転システムに貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、更に本発明の詳細について説明する。
【0010】
<A成分について>
本発明のA成分であるポリエチレンナフタレート樹脂は、ナフタレンジカルボン酸および/またはナフタレンジカルボン酸のエステル形成誘導体を主とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするグリコール成分を用いて製造することができる。A成分にポリエチレンナフタレート樹脂を用いることによって、高い耐擦傷性を付与することができる。
【0011】
ナフタレンジカルボン酸成分としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸を主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸を併用することができる。他のカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のカルボン酸の使用量は全酸成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。ナフタレンジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,7-ナフタレンジカルボン酸ジメチルを主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体を併用することができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体の使用量は、全ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。
【0012】
また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0013】
グリコール成分としてはエチレングリコールを主成分とするが、特性を損なわない範囲で他のグリコール成分を併用することができる。他のグリコール成分としては、例えば、1、4ブタンジオール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリ(オキシ)テトラメチレングリコール、ポリ(オキシ)メチレングリコール等のアルキレングリコールの1種若しくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。他のグリコール成分の使用量は、全グリコール成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。
【0014】
上記のポリエチレンナフタレート樹脂は、従来公知の製造方法によって製造することができる。すなわちジカルボン酸成分とジオール成分とを直接反応させて水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、またはジカルボン酸ジメチルエステルとジオール成分とを反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。更に極限粘度数を増大させるために固相重合を行うことができる。
【0015】
上記のエステル交換反応、エステル化反応および重縮合反応時には、触媒および安定剤を使用することが好ましい。エステル交換触媒としてはMg化合物、Mn化合物、Ca化合物、Zn化合物、Ti化合物などが使用され、例えばこれらの酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、および酸化物などが挙げられる。またエステル化反応は触媒を添加せずに、ジカルボン酸およびジオールのみで実施することが可能であるが、後述の重縮合触媒の存在下に実施することもできる。重縮合触媒としては、Ge化合物、Ti化合物、Sb化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムアルコラート、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、および蓚酸チタンなどが挙げられる。安定剤としてはリン化合物を用いることが好ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸およびそのエステル、亜リン酸およびそのエステル並びに次亜リン酸およびそのエステルなどが挙げられる。またエステル化反応時には、ジエチレングリコール副生を抑制するためにトリエチルアミンなどの第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウム、および炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加することもできる。また得られたポリエステル樹脂には、各種の安定剤および改質剤を配合することができる。
【0016】
A成分の固有粘度は0.5~1.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.55~0.95dl/gであり、さらに好ましくは0.6~0.85dl/gである。A成分の固有粘度が0.5dl/g未満では靭性に劣る場合があり、1.0dl/gを超えると射出成形時の流動性が不十分な場合がある。
【0017】
<B成分について>
本発明のB成分であるポリエーテルイミド樹脂は、環状イミド構造を含有する樹脂であり、本発明の目的に使用できるものであれば特に限定されないが、脂肪族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリエーテルイミド樹脂が好ましい。また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ポリイミドの主鎖に環状イミドおよびエーテル単位以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂肪族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されても良い。
【0018】
本発明で好ましく使用できるポリエーテルイミド樹脂の具体例としては、下記式(1)で示されるポリエーテルイミド樹脂を挙げることができる。
【0019】
【化1】
(式(1)中Rは、6~30個の炭素原子を含有する2価の芳香族または脂肪族基、Rは6~30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2~20個の炭素原子を有するアルキレン基、2~20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2~8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基であり、nは2以上の整数を表す。)
【0020】
上記R、Rとしては、例えば下記式(2)~(8)で示される芳香族残基およびアルキレン基を挙げることができる。
【化2】
(式(8)中、nは2以上の整数を表す。)
【0021】
なお本発明では、ポリエチレンナフタレート樹脂との相容性の観点から下記式(9)で示されるポリエーテルイミド樹脂がより好ましい。
【化3】
(式(9)中、nは2以上の整数を表す。)
【0022】
このポリエーテルイミド樹脂としては、SABICジャパン会社社製の“ULTEM1010”等が挙げられる。
【0023】
B成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部中、10~55重量部であり、好ましくは12~45重量部であり、より好ましくは15~40重量部である。B成分の含有量が10重量部未満の場合、耐熱性が不十分であり、かつ近赤外領域の光線透過率が低下する。一方、55重量部を超えると耐擦傷性が低下する。
【0024】
<C成分について>
本発明のC成分である色剤は、染料(有機、無機)、顔料(有機、無機)等から選択することができ、本発明が目的とする樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはなく、具体的には、本発明の樹脂組成物よりなる400~700nmにおける厚さ1mmに成形した成形品の厚さ方向の光線透過率の平均値が1.5%以下、1050~1100nmにおける厚さ1mmに成形した成形品の厚さ方向の光線透過率の平均値が80%以上となるように適宜選択できる。このような波長選択性を持たせるための実施形態の一つとして、650nm未満に吸収極大を有する色剤(C1成分)および650~880nmに吸収極大を有する色剤(C2成分)を含む色剤であることが好ましい。色剤としては、染料の方が粒子の表面での光乱反射がないため、染料を用いることが好ましい。染料系色剤としては、例えば、アントラキノン系色剤、ペリノン系色剤、ペリレン系色剤、メチン系色剤、アゾ系色剤、キノリン系色剤、フタロシアニン系色剤、スクアリリウム系色剤、複素環系色剤などが挙げられる。その中でも、耐熱性の高いアントラキノン系色剤、フタロシアニン系色剤、ペリレン系色剤及び複素環系色剤がより好ましく、アントラキノン系色剤、ペリレン系色剤および複素環系色剤が特に好ましい。
【0025】
C成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対して、0.055~1.3重量部であり、0.08~1.0重量部であることが好ましく、0.1~0.5重量部であることがより好ましい。C成分の含有量が0.055重量部未満の場合、400~700nmにおける十分なカット特性が得られない。一方、1.3重量部を超えると樹脂組成物の耐擦傷性が悪化する。
【0026】
<D成分について>
本発明はD成分としてポリエチレンテレフタレート樹脂を含有していることが好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸および/またはテレフタル酸のエステル形成誘導体を主とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするグリコール成分を用いて製造することができる。
【0027】
ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸を主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸を併用することができる。他のカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のカルボン酸の使用量は全酸成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸ジメチルを主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体を併用することができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体の使用量は、全ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。
【0028】
また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0029】
グリコール成分としてはエチレングリコールを主成分とするが、特性を損なわない範囲で他のグリコール成分を併用することができる。他のグリコール成分としては、例えば、1、4ブタンジオール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリ(オキシ)テトラメチレングリコール、ポリ(オキシ)メチレングリコール等のアルキレングリコールの1種若しくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。他のグリコール成分の使用量は、全グリコール成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。
【0030】
上記のポリエチレンテレフタレート樹脂は、従来公知の製造方法によって製造することができる。すなわちジカルボン酸成分とジオール成分とを直接反応させて水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、またはジカルボン酸ジメチルエステルとジオール成分とを反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。更に極限粘度数を増大させるために固相重合を行うことができる。
【0031】
上記のエステル交換反応、エステル化反応および重縮合反応時には、触媒および安定剤を使用することが好ましい。エステル交換触媒としてはMg化合物、Mn化合物、Ca化合物、Zn化合物、Ti化合物などが使用され、例えばこれらの酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、および酸化物などが挙げられる。またエステル化反応は触媒を添加せずに、ジカルボン酸およびジオールのみで実施することが可能であるが、後述の重縮合触媒の存在下に実施することもできる。重縮合触媒としては、Ge化合物、Ti化合物、Sb化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムアルコラート、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、および蓚酸チタンなどが挙げられる。安定剤としてはリン化合物を用いることが好ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸およびそのエステル、亜リン酸およびそのエステル並びに次亜リン酸およびそのエステルなどが挙げられる。またエステル化反応時には、ジエチレングリコール副生を抑制するためにトリエチルアミンなどの第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウム、および炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加することもできる。また得られたポリエステル樹脂には、各種の安定剤および改質剤を配合することができる。
【0032】
D成分の固有粘度は0.5~1.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.6~0.95dl/gであり、さらに好ましくは0.65~0.85dl/gである。D成分の固有粘度が0.5dl/g未満では靭性に劣る場合があり、1.0dl/gを超えると射出成形時の流動性が不十分な場合がある。
【0033】
D成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対して、5~50重量部が好ましく、より好ましくは7~40重量部であり、さらに好ましくは10~35重量部である。この範囲でD成分を含有することによって、耐擦傷性および耐衝撃性が向上する場合がある。
【0034】
(その他の成分について)
本発明における樹脂組成物は、実質的にポリカーボネート樹脂を含まない。ここで言うポリカーボネート樹脂とは、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものであって、主鎖中にカーボネート結合を有する高分子量体のことを指す。用いる二価フェノールは特に制限されず、代表的なものとしてはビスフェノールAが挙げられる。樹脂組成物中にポリカーボネート樹脂が含まれると、耐擦傷性が悪化し好ましくない。
なお、本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨に反しない範囲で、酸化防止剤、離型剤等の各添加剤を含むことが出来る。
【0035】
<酸化防止剤>
本発明の樹脂組成物は酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を含むことができる。酸化防止剤を配合することにより、成形加工時の色相や流動性が安定するだけでなく、耐加水分解性の向上にも効果がある。
【0036】
酸化防止剤の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対して、0.01~2重量部が好ましく、より好ましくは0.03~1重量部、さらに好ましくは0.05~0.5重量部である。酸化防止剤の含有量が0.01重量部より少ない場合は酸化防止効果が不足し、成形加工時の色相や流動性が不安定になるだけでなく、耐加水分解性も悪化する場合がある。また、かかる含有量が2重量部よりも多い場合、酸化防止剤由来の反応成分などがかえって耐加水分解性を悪化させてしまう場合がある。
【0037】
また、前記ヒンダードフェノール系化合物とホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、チオエーテル系化合物のいずれか2種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。ヒンダードフェノール系化合物とホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、チオエーテル系化合物のいずれか2種類以上を組み合わせて使用することで、安定剤としての相乗効果が発揮され、より成形加工時の色相、流動性の安定化、耐加水分解性の向上に効果がある。
【0038】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式ニ軸押出機が好ましい。他に、各成分、並びに任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることもできる。
【0039】
<成形体について>
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形体は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。押出成形においては、丸棒を押出成形しその後円盤状に切削加工することにより成形体を得る方法や、厚肉シートを押出成形しその後所定の形状に打ち抜き加工することにより成形体を得ることができる。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明を実施する形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、諸物性の評価は以下の方法により実施した。
【0041】
[樹脂組成物の評価]
(1)耐擦傷性
下記方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度305℃、金型温度80℃の条件にて射出成形を行い、厚み2mm、幅および長さが50mmの板状試験片を得た。この試験片に対して、往復動摩擦試験機(トライボギアTYPE-40、新東科学(株)製)を用いて荷重0.5kg、速度100mm/s、1500往復の条件で、表面を帆布で覆った直径10mmのSUS304製金属球を圧子として摺動試験を行った。試験後の摺動面について、摺動方向と直交する方向に対して表面粗さ形状測定機(SURFCOM NEX001 SD2-12、(株)東京精密製)を用いてJIS-01/13に従い算術平均粗さRaを求めた。試験は3回行い、それらの平均値をその組成物の耐擦傷性の指標とした。算術平均粗さが0.1μm以下であることが必要である。
【0042】
(2)光線透過率
下記方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度305℃、金型温度80℃の条件にて射出成形を行い、厚み1mm、幅50mm、長さ25mmの板状試験片を得た。この試験片について、紫外可視近赤外分光光度計(V-770、日本分光(株)製)を用い、300~2500nmの範囲の分光光線透過率を1nmピッチで測定した。得られた分光スペクトルより、400~700nmおよび1050~1100nmの光線透過率の平均値を算出した。
【0043】
(3)耐熱性
下記の方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度305℃、金型温度80℃にて試験片を作製し、ISO75-1および75-2に従い荷重たわみ温度を測定し耐熱性の指標とした。荷重たわみ温度は、1.8MPaの荷重条件にて95℃以上であることが必要である。
【0044】
(4)耐衝撃性
下記の方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度305℃、金型温度80℃にて試験片を作製し、ISO179に従いノッチなしシャルピー衝撃強さを測定し耐衝撃性の指標とした。なお、Nは破壊形式が未破壊であることを示す。
【0045】
[実施例1-12、比較例1-4、参考例1]
表1で示した含有量に従って、A成分およびC成分はタンブラーを用いて混合した上で、B成分およびD成分は別々に第1供給口より二軸押出機に供給し300℃の温度にて溶融混練押出してペレット化した。ここで第1供給口とは根元の供給口のことである。二軸押出機は、径30mmΦのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α-31.5BW-2V)を使用した。
【0046】
本発明の実施例および比較例には、以下の材料を使用した。
(A成分)
A-1:製造例Iで得られたポリエチレンナフタレート樹脂
<製造例I>
ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル100重量部およびエチレングリコール60重量部を酢酸コバルト四水和物0.010重量部(10ミリモル%)および酢酸マンガン四水和物0.030重量部(30ミリモル%)の存在下、常法によりエステル交換反応させ、メタノール溜出20分後に三酸化アンチモン0.012重量部(10ミリモル%)を添加し、エステル交換反応終了前に正リン酸0.020重量部(50ミリモル%)を添加し、次いで295℃、高真空下重縮合反応を行い固有粘度0.51dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂(a)を得た。得られたポリエチレンナフタレート樹脂(a)を、温度227℃、真空度0.5Torrの条件にて8時間固相重合を行い固有粘度が0.68dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂を得た。
A-2(参考例):ポリカーボネート樹脂:パンライトL-1225WX(帝人(株)製、粘度平均分子量:19,700)
【0047】
(B成分)
B-1:ULTEM1010(SABICジャパン合同会社製)
(C1成分)
C1-1:NUBIAN BLACK PC-5857(オリヱント化学工業(株)製、吸収極大波長599nm)
(C2成分)
C2-1:フタロシアニン系色剤FDR-004(山田化学工業(株)製、吸収極大波長720nm)
C2-2:アントラキノン系色剤SDO-7(有本化学工業(株)製、吸収極大波長676nm)
C2-3:アントラキノン系色剤SDO-11(有本化学工業(株)製、吸収極大波長761nm)
C2-4:複素環系色剤SDO-C33(有本化学工業(株)製、吸収極大波長847nm)
C2-5:ペリレン系色剤Lumogen IR-765(BASFジャパン(株)製、吸収極大波長769nm)
(D成分)
D-1:PET樹脂 TRN-8550FF(帝人(株)製、固有粘度:0.77)
【0048】
【表1】
【0049】
<実施例1~12>
本請求の範囲内にある組成物であるため、耐擦傷性および耐熱性に優れ、かつ波長選択的な吸収特性を有する成形体を得ることができた。
<比較例1>
C成分の含有量が下限未満のため、400~700nmでの光線透過率の平均値が高い結果であった。
<比較例2>
C成分の含有量が上限を上回るため、耐擦傷性に劣る結果であった。
<比較例3>
A成分の含有量が上限を上回るため、耐熱性に劣り、かつ1050~1100nmでの光線透過率の平均値が低い結果であった。
<比較例4>
A成分の含有量が下限未満のため、耐擦傷性に劣る結果であった。
<参考例1>
A成分がポリカーボネート樹脂であるため、耐擦傷性に劣る結果であった。