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特開2024-24769ポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024769
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/16 20060101AFI20240216BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240216BHJP
   C08G 64/02 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
C08G73/16
G02B1/04
C08G64/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127638
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 達也
(72)【発明者】
【氏名】布目 和徳
【テーマコード(参考)】
4J029
4J043
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB01
4J029AB07
4J029AC01
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD07
4J029AD10
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029AE04
4J029BF20
4J029BH01
4J029DA15
4J029HA01
4J029HC05A
4J029JC252
4J043PA04
4J043PA10
4J043QB66
4J043QB68
4J043RA25
4J043SA39
4J043SA46
4J043SA61
4J043SA71
4J043SB01
4J043SB03
4J043TA01
4J043TA31
4J043TB01
4J043UA131
4J043UA231
4J043UA341
4J043UA411
4J043UB401
4J043VA021
4J043XA02
4J043XA03
4J043XA08
4J043XB21
4J043XB27
4J043ZA05
4J043ZA08
4J043ZA12
4J043ZA18
4J043ZA31
4J043ZA51
4J043ZA52
4J043ZB11
4J043ZB21
4J043ZB47
4J043ZB51
4J043ZB53
(57)【要約】
【課題】優れた光学特性および耐熱性を有し、かつ、硬度の高いポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構成単位を含む、ポリカーボネート樹脂。
【化1】
(式中、Rは、置換されていてもよい脂環族基、または置換されていてもよい脂肪族基を示し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位を含む、ポリカーボネート樹脂。
【化1】
(式中、Rは、置換されていてもよい脂環族基、または置換されていてもよい脂肪族基を示し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【請求項2】
前記式(1)で表される構成単位が、前記ポリカーボネート樹脂を構成する全構成単位の5mol%~100mol%を占める、請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
前記式(1)において、Rがシクロヘキサン骨格を含む請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
前記式(1)で表される構成単位が、下記式(2)および下記式(3)で表される構成単位から選ばれる少なくとも一つの構成単位を有する請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【化2】
(LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【化3】
(LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【請求項5】
下記式(4)で表される構成単位をさらに含む請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【化4】
(式(4)中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素原子数1~10の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【請求項6】
ISO/TS 19278に準拠して測定された押し込み硬さが200~450(N/mm)である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項7】
屈折率が1.450~1.650である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項8】
アッベ数が20~65である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項9】
ガラス転移温度が120~180℃である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項10】
比粘度が0.12~0.45である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を射出成形してなる成形品。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を押出成形してなるシートまたはフィルム。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を射出成形してなる光学部材。
【請求項14】
光学レンズである請求項13に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性に優れていることから、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子機器の筐体、自動車内装・外装部品、建材、家具、楽器、雑貨類などの幅広い分野で使用されている。さらに、無機ガラスと比較し、比重が低く軽量化が可能であり、生産性に優れているため、自動車等の窓用途に使用されている。
【0003】
近年では、環境負荷低減の動きから、光学用樹脂等のあらゆる分野で、脂肪族成分の多い樹脂が検討されており、スピログリコールや特許文献1に記載のジオールのようなスピロ環構造を有するポリカーボネートが提案されている。
【0004】
しかしながら、脂肪族成分の多い樹脂は芳香族系樹脂に比べ、一般にガラス転移温度が低く耐熱性の面で課題があるとともに、屈折率が低下するなどの光学特性にも課題がある。また、芳香族系樹脂と比較すると硬度が低下する。そこで、従来の脂肪族系樹脂と比べてガラス転移温度が高く耐熱性を持ちながら、高屈折率で高硬度を実現する脂肪族成分の多い樹脂の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/188114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、優れた光学特性および耐熱性を有し、かつ、硬度の高いポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこの目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するポリカーボネート樹脂が前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0008】
≪態様1≫
下記式(1)で表される構成単位を含む、ポリカーボネート樹脂。
【化1】
(式中、Rは、置換されていてもよい脂環族基、または置換されていてもよい脂肪族基を示し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【0009】
≪態様2≫
前記式(1)で表される構成単位が、前記ポリカーボネート樹脂を構成する全構成単位の5mol%~100mol%を占める、態様1記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様3≫
前記式(1)において、Rがシクロヘキサン骨格を含む態様1または2に記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様4≫
前記式(1)で表される構成単位が、下記式(2)および下記式(3)で表される構成単位から選ばれる少なくとも一つの構成単位を有する態様1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【化2】
(LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【化3】
(LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【0010】
≪態様5≫
下記式(4)で表される構成単位をさらに含む態様1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【化4】
(式(4)中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素原子数1~10の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【0011】
≪態様6≫
ISO/TS 19278に準拠して測定された押し込み硬さが200~450(N/mm)である態様1~5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様7≫
屈折率が1.450~1.650である態様1~6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様8≫
アッベ数が20~65である態様1~7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様9≫
ガラス転移温度が120~180℃である態様1~8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様10≫
比粘度が0.12~0.45である態様1~9のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様11≫
態様1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を射出成形してなる成形品。
≪態様12≫
態様1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を押出成形してなるシートまたはフィルム。
≪態様13≫
態様1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を射出成形してなる光学部材。
≪態様14≫
光学レンズである態様13に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂は、イミド結合を有するポリカーボネート樹脂であって、有益な特性を有する新規なポリカーボネート樹脂を提供可能になった。
特に、脂肪族の繰り返し単位中にイミド結合を導入することに成功したことにより、屈折率等の光学特性、硬度および耐熱性を向上させることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】参考例1で得られた2,2’-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデカヒドロ-1H,1’H-[5,5’-ビイソインドール]-1,1’,3,3’(2H,2’H)-テトラオンのH NMRである。
図2】参考例2で得られた2,6-ビス(2-ヒドロキシエチル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-f]イソインドール-1,3,5,7(2H,6H)-テトラオンのH NMRである。
図3】実施例1で得られたポリカーボネート樹脂のH NMRである。
図4】実施例2で得られたポリカーボネート樹脂の H NMRである。
図5】実施例3で得られたポリカーボネート樹脂の H NMRである。
図6】実施例3及び比較例2~3のポリカーボネート樹脂の試験力―深さグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明をさらに詳しく説明する。
【0015】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表される構成単位を含む、ポリカーボネート樹脂である。
【0016】
【化5】
(式中、Rは、置換されていてもよい脂環族基、または置換されていてもよい脂肪族基を示し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【0017】
前記式(1)において、Rは置換されていてもよい脂環族基、または置換されていてもよい脂肪族基を示し、構造の例として、好ましくは、下記(1-a)で表されるものが挙げられ、R中の4つの結合位置は任意の位置で結合できる。
【0018】
【化6】
【0019】
これらのうち、安定性の観点からシクロヘキサン骨格を含む構成単位であることが好ましく、ビシクロヘキシル骨格を含む構成単位(下記式(2))およびシクロヘキサン骨格を含む構成単位(下記式(3))から選ばれる少なくとも1つの構成単位を有することがさらに好ましい。
【0020】
【化7】
(LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【化8】
(LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示す。)
【0021】
前記式(1)において、L、Lはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、炭素数2~12の直鎖状または分岐状のアルキレン基であることが好ましく、炭素数が2~4のアルキレン基(エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基)であることがより好ましく、エチレン基であるとさらに好ましい。L、Lの連結基の長さを調整することによって、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)を調整することができる。
【0022】
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物と、カーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。
【0023】
カーボネート前駆物質として例えば炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120~300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0024】
本発明のポリカーボネート樹脂は、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネートを含む。脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω-ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、およびイコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が好ましく挙げられる。これらのカルボン酸は、目的を阻害しない範囲で共重合してもよい。
【0025】
本発明における式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂において、ポリカーボネート樹脂を構成する全構成単位中、前記式(1)で表される構成単位を、5mоl%以上、10mol%以上、15mol%以上、20mol%以上で含んでいてもよく、100mol%以下、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、40mol%以下で含んでいてもよい。本発明のポリカーボネート樹脂において、前記式(1)で表される構成単位を、ポリカーボネート樹脂を構成する全構成単位中、好ましくは5mol%以上100mol%以下、より好ましくは10mol%以上80mol%以下、さらに好ましくは15mol%以上60mol%以下、特に好ましくは20mol%以上50mol%以下で含むことができる。前記式(1)で表される構成単位の割合が前記範囲であると光学特性、高硬度、耐熱性、成形性のバランスが優れるため好ましい。
【0026】
本発明のポリカーボネート樹脂において、さらに下記式(4)で表される構成単位を含むことができる。
【0027】
【化9】
(式(4)中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素原子数1~10の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【0028】
前記式(4)においてRおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基が好ましく、水素原子、メチル基、フェニル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましい。
【0029】
前記式(4)において、L、Lはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、炭素数1~12のアルキレン基であると好ましく、炭素数1~4のアルキレン基であるとより好ましく、エチレン基であるとさらに好ましい。L、Lの連結基の長さを調整することによって、樹脂のガラス転移温度(Tg)を調整することができる。
【0030】
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、必要に応じて熱安定剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤等の添加剤を配合することができる。
【0031】
<ポリカーボネート樹脂の物性>
本発明のポリカーボネート樹脂は、ISO/TS 19278に準拠して測定された押し込み硬さが200~450(N/mm)であることが好ましく、210~440(N/mm)であるとより好ましく、220~430(N/mm)であるとさらに好ましく、230~420(N/mm)であるとよりさらに好ましく、235~410(N/mm)であると特に好ましく、240~400(N/mm)であるともっとも好ましい。押し込み硬さが上記範囲であると成形体の耐傷付き性に優れる。
【0032】
本発明のポリカーボネート樹脂の屈折率は、温度:20℃、波長:587.56nmで測定した場合に、1.450以上、1.460以上、1.470以上、1.480以上、1.490以上、または1.500以上であってもよく、1.650以下、1.640以下、1.630以下、1.620以下、1.610以下または1.600以下であってもよい。
【0033】
本発明のポリカーボネート樹脂の屈折率は、1.450~1.650であることが好ましく、1.460~1.645であるとより好ましく、1.470~1.640であるとさらに好ましく、1.480~1.635であると特に好ましく、1.490~1.630であると最も好ましい。
【0034】
本発明のポリカーボネート樹脂のアッベ数は、20以上、21以上、22以上、23以上、24以上または25以上であってもよく、65以下、64以下、63以下、62以下、61以下、60以下または59以下であってもよい。アッベ数(νd)は、20~65であることが好ましく、22~60であることがより好ましく、23~50であるとさらに好ましい。
【0035】
ここで、アッベ数は、温度:20℃、波長:486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から、下記式を用いて算出する。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmにおける屈折率、
nF:波長486.13nmにおける屈折率、
nC:波長656.27nmにおける屈折率を意味する。
【0036】
本発明のポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度(Tg)は120℃以上、125℃以上、130℃以上、135℃以上、または140℃以上であってもよく、180℃以下、175℃以下、170℃以下、165℃以下、160℃以下であってもよい。120~180℃であることが好ましく、125~170℃であることがより好ましく、130~165℃であるとさらに好ましく、135~160℃であると特に好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であると、耐熱性と成形性のバランスに優れるため好ましい。
【0037】
本発明のポリカーボネート樹脂の比粘度は、0.12~0.45であることが好ましく、0.14~0.42であるとより好ましく、0.16~0.40であるとさらに好ましい。比粘度が上記範囲内であると成形性と機械強度のバランスに優れるため好ましい。
【0038】
比粘度の測定方法は、ポリカーボネート樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度(ηSP)を、オストワルド粘度計にて測定し、以下の式から算出する。
比粘度(ηSP )=(t-t )/t
[tは、塩化メチレンの落下秒数、tは、試料溶液の落下秒数]
【0039】
<ポリカーボネート樹脂の原料>
(式(1)のジオール成分)
式(1)の原料となるジオール成分は、主として下記式(a)で表されるジオール成分であり、単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
【化10】
【0041】
式(a)における、R、L及びLは、式(1)におけるR、L及びLと同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(a)で表されるジオールは、一般式:HN-L-OH(式中、Lは鎖状または分岐状の炭素数2~12のアルキレン基を示す)で表されるアミノアルコールと、下記式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を反応させることによって得られる。
【0042】
【化11】
(式(5)中、Rは置換されていてもよい脂環族基、または置換されていてもよい脂肪族基を示す。)
式(5)中Rとしては、前記式(1)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0043】
前記式(a)において、L、Lは前記式(a)を合成する際のアミノアルコール残基である。そのうちでも、L、Lは、一般式:HN-L-OH(式中、Lは直鎖状または分岐状の炭素数2~12のアルキレン基を示す)で表されるアミノアルコールの残基(すなわち炭素数2~12の直鎖状または分岐状のアルキレン基)であることが、ジオール化合物の合成の容易性、最終的に得られるジオール化合物の靭性および経済性などの点から好ましく、炭素数が2~4のアルキレン基(エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基)であることがより好ましい。
【0044】
(前記式(4)の成分)
本発明のポリカーボネート樹脂は、さらに前記式(4)の構成単位を有していてもよく、前記式(4)の原料となるジヒドロキシ化合物成分を以下に示す。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明の前記式(4)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン等が例示され、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
<製造方法>
(ポリカーボネート樹脂の製造方法)
本発明のポリカーボネート樹脂はそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とカーボネート前駆物質を溶融重合法によって反応させて得られる。ポリカーボネート樹脂を製造するに当たっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、酸化防止剤等を使用してもよい。
【0047】
(ポリエステルカーボネート樹脂の製造方法)
本発明のポリカーボネート樹脂がポリエステルカーボネート樹脂である場合は、ジヒドロキシ化合物成分およびジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、カーボネートエステルなどのカーボネート前駆物質とを反応させることにより製造することができる。重合方法は前記ポリカーボネート樹脂と同様の方法を用いることができる。
【0048】
<ポリカーボネート樹脂成形品、シートまたはフィルム>
本発明のポリカーボネート樹脂は、射出成形、射出圧縮成形、インジェクションブロー成形、二色成形、押出成形またはブロー成形などの方法により目的の成形品を得ることができる。
【0049】
本発明のポリカーボネート樹脂は、その製法には特に限定はなく、例えば、射出成形により各種形状の成形品を得ることができ、また溶融押出法、溶液キャスティング法(流延法)等などの方法によりシート状、フィルム状の成形品を得ることもできる。溶融押出法の具体的な方法は、例えば、ポリカーボネート樹脂を押出機に定量供給して、加熱溶融し、Tダイの先端部から溶融樹脂をシート状に鏡面ロール上に押出し、複数のロールにて冷却しながら引き取り、固化した時点で適当な大きさにカットするか巻き取る方式が用いられる。溶液キャスティング法の具体的な方法は、例えば、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解した溶液(濃度5%~40%)を鏡面研磨されたステンレス板上にTダイから流延し、段階的に温度制御されたオーブンを通過させながらシートを剥離し、溶媒を除去した後、冷却して巻き取る方式が用いられる。
【0050】
ポリカーボネート樹脂から押出形成されるシートやフィルムは、積層体とすることもできる。積層体の製法としては、任意の方法を用いればよく、特に熱圧着法または共押出法で行うことが好ましい。熱圧着法としては任意の方法が採用されるが、例えばポリカーボネート樹脂シートをラミネート機やプレス機で熱圧着する方法、押出し直後に熱圧着する方法が好ましく、特に押出し直後のポリカーボネート樹脂シートに連続して熱圧着する方法が工業的に有利である。
【0051】
また、本発明のポリカーボネート樹脂から押出形成されるシートやフィルムは、耐傷付き性、耐熱性および成形性に優れるため、コーティング処理を必要とせず、室内照明用ランプレンズ、表示用メーターカバー、メーター文字板、各種スイッチカバー、ディスプレイカバー、ヒートコントロールパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、センターパネル、ルームランプレンズ、ヘッドアップディスプレイ等の各種表示装置、保護部品、透光部品などの部品に利用できる。
【0052】
<光学部材>
本発明の光学部材は、上記のポリカーボネート樹脂から好ましくは射出成形により形成される。そのような光学部材としては、上記のポリカーボネート樹脂が有用となる光学用途であれば、特に限定されないが、光学レンズ、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、レンズ、プリズム、光学膜、基盤、光学フィルター、ハードコート膜等を挙げることができる。
【実施例0053】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0054】
≪評価方法≫
<イミド結合を有する化合物>
<NMR>
得られたジオール化合物を日本電子(株)製JNM-ECZ400Sを用いてH NMR測定することによって、構造を同定した。溶媒はDMSO-dを用いた。
【0055】
<純度>
アジレント・テクノロジー製シングル四重極GC/MS 5977Bを用い、下記測定条件で測定した。実施例中、特に断らない限り純度(%)はGC/MSにおける溶媒を除いて補正した面積百分率値である。
(GC)
カラム:DB-1(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
注入量:1μl
注入法:スプリット比40:1
注入口温度:280℃
オーブン:60℃-10℃/分-280℃(28分)
キャリアガス:He、線速度 36.6cm/s
(MS)
イオン源温度:230℃
イオン化モード:EI 70eV
測定範囲:m/z 33-700
【0056】
<ポリカーボネート樹脂>
<共重合比>
得られたポリカーボネート樹脂を日本電子(株)製JNM-ECZ400Sを用いてH NMR測定することによって、ポリカーボネート樹脂組成比を算出した。溶媒はCDClを用いた。
【0057】
<比粘度>
(比粘度(ηSP))
次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlに試料0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求めた。
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
【0058】
<硬度特性>
(押込み硬さ(Hit))
ISO/TS 19278に基づき、ダイナミック超微小硬度計(島津製作所、型式DUH-210S)を使用して、樹脂プレートの表面に対して、負荷と押しこみ深さの関係をリアルタイムに計測し、押し込み硬さ(N/mm)を測定した。
(測定条件)
測定圧子:バーコビッチ圧子(ダイヤモンド製)
試験力:500mN
最小試験力:4.9mN
負荷/除荷時間:30sec
負荷保持時間:40sec
除荷保持時間:0sec
試験回数:5
(押し込み硬さ算出方法)
押し込み硬さ(Hit)は、半永久的な変形あるいは損傷に関する抵抗を測定したものである。押し込み硬さは以下の式で算出される。
Hit = Fmax /Ap
max :最大試験力
Ap:圧子と試験片が接している投影面積
Ap=23.96×hc (三角錐圧子(115°)の場合)
hc=hmax -ε(hmax -hr)
ε=3/4(三角錐の場合)
hr:試験力―深さ曲線のFmaxにおける除荷曲線の接線が深さ軸と交わる切片
【0059】
<光学特性>
(屈折率)
ポリカーボネート樹脂の3mm厚試験片を圧縮成形にて作製し、研磨した後、島津製作所製のカルニュー精密屈折計KPR-2000を使用して、20℃における屈折率nd(587.56nm)を測定した。
(アッベ数)
アッベ数の測定波長は、486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈
折率から下記の式を用いて算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmでの屈折率、
nF:波長486.13nmでの屈折率、
nC:波長656.27nmでの屈折率を意味する。
【0060】
<熱特性>
(ガラス転移温度(Tg))
得られたポリカーボネート樹脂をTAインスツルメント製の示差熱・熱重量同時測定装置Discovery SDT650により、昇温速度20℃/minで測定した。試料は5mg程度で測定した。
【0061】
[参考例1]IM-1の合成
窒素雰囲気下、撹拌機、冷却器、温度計を備え付けたフラスコにジシクロヘキシル―3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物(以下、HBPDAと省略することがある)12.50g、DMF(超脱水)200mlを仕込み、窒素雰囲気下、90℃で撹拌し、HBPDAをDMFに完全溶解させた。その後、2-アミノエタノール5.98を滴下ロートに加え、30分かけて滴下した。滴下終了後、130℃に昇温し、130℃で8時間反応した。反応終了後、エバポレーターでDMFを留去した後、メタノールで再結晶し、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデカヒドロ-1H,1’H-[5,5’-ビイソインドール]-1,1’,3,3’(2H,2’H)-テトラオン(以下、IM―1と省略することがある)の結晶を4.44g得た(収率28%)。純度は99.53%だった。
【0062】
[参考例2]IM-2の合成
窒素雰囲気下、撹拌機、冷却器、温度計を備え付けたフラスコに1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下、HPMDAと省略することがある)5.00g、DMF(超脱水)50mlを仕込み、窒素雰囲気下、30℃で撹拌し、HPMDAをDMFに完全溶解させた。その後、2-アミノエタノール3.27を滴下ロートに加え、30分かけて滴下した。滴下終了後、110℃に昇温し、110℃で2時間反応した。反応終了後、エバポレーターでDMFを留去した後、良溶媒にアセトン、貧溶媒にヘキサンを用い再結晶し、2,6-ビス(2-ヒドロキシエチル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-f]イソインドール-1,3,5,7(2H,6H)-テトラオン(以下、IM-2と省略することがある)の結晶を6.55g得た(収率95%)。純度は99.42%だった。
【0063】
[実施例1]
参考例1で得られたIM-1を3.9質量部(20mоl%)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEFと省略することがある)17.54質量部(80mоl%)、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)10.82質量部(101mоl%)、および触媒として濃度100mmol/Lの濃度でテトラブトキシチタン8.51×10―4質量部(5.00×10―3mоl%)を加え、窒素雰囲気下200℃に加熱溶融させた。その後、5分間かけて減圧度を20kPaに調整した。60℃/hrの昇温速度で250℃まで昇温を行い、フェノールの流出量が70%になった後で60kPa/hrで減圧し、所定の電力に到達するまで重合反応を行い、反応終了後フラスコから樹脂を取り出した。得られたポリカーボネート樹脂を、H NMRにより分析し、IM-1成分が全モノマーに対して20mоl%、BPEF成分が全モノマー成分に対して80mоl%導入されていることを確認した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、押し込み硬さを評価し、結果を表1に示した。
【0064】
【化12】
【0065】
[実施例2]
IM-1の代わりに参考例2で得られたIM-2を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、押し込み硬さを評価し、結果を表1に示した。なお、IM-2は、以下の化学構造を有する。
【0066】
【化13】
【0067】
[比較例1]
IM-1の代わりにスピログリコール(以下、SPGと省略することがある)を使用したことと、触媒として濃度60mmol/Lの濃度で炭酸水素ナトリウムを4.20×10-4質量部(5.00×10-3mоl%)、濃度274mmol/Lの濃度でテトラメチルアンモニウムヒドロキシド2.72×10-3質量部(2.99×10-2mоl%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、押し込み硬さを評価し、結果を表1に示した。なお、SPGは、以下の構造を有する。
【0068】
【化14】
【0069】
[実施例3]
共重合比率を変更したこと以外は実施例2と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、押し込み硬さを評価し、結果を表1に示した。
【0070】
[比較例2]
共重合比率を変更したこと以外は比較例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、押し込み硬さを評価し、結果を表1に示した。
【0071】
[比較例3]
SPGの代わりに(3,12-ジエチル-1,5,10,14-テトラオキサジスピロ[5.2.59.26]ヘキサデカン-3,12-ジイル)ジメタノール(以下、DESMと省略することがある)を使用したこと以外は比較例2と同様にしてポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、押し込み硬さを評価し、結果を表1に示した。なお、DESMは、以下の構造を有する。
【0072】
【化15】
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1~2で得られたポリカーボネート樹脂は、従来の脂肪族ジオール化合物であるスピログリコールを用いた比較例1よりも、屈折率(nd)が高く、押し込み硬さが高いことから、光学特性だけでなく、耐傷付き性に優れることが分かる。また、Tgが140℃以上と高く、耐熱性にも優れることが分かる。
【0075】
実施例3で得られたポリカーボネート樹脂は、比較例2~3と比較して屈折率と押し込み硬さが高いことから、イミド結合を含むことで、従来の脂肪族ジオール化合物と比較して光学特性だけでなく、耐傷付き性に優れることが分かる。また、Tgが140℃以上と高く、耐熱性にも優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のポリカーボネート樹脂は、脂肪族成分が多いながらも高い屈折率を有し、かつ、耐熱性に優れることから、光学材料として好適に用いられ、具体的に光学レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材として用いることができ、特に光学レンズ材料として極めて有用である。
【0077】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、耐傷付き性、耐熱性および成形性に優れるため、コーティング処理を必要とせず、室内照明用ランプレンズ、表示用メーターカバー、メーター文字板、各種スイッチカバー、ディスプレイカバー、ヒートコントロールパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、センターパネル、ルームランプレンズ、ヘッドアップディスプレイ等の各種表示装置、保護部品、透光部品などの部品に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6